説明

ガラス繊維処理用樹脂エマルジョン

【課題】ホルムアルデヒドを放散するおそれがある化合物を使用することなく、ガラス繊維に耐熱性などを付与できる樹脂エマルジョンを提供する。
【解決手段】水酸基およびアミド基を有する重合性単量体(A)、反応性ケイ素基を有する重合性単量体(B)、多官能重合性単量体(C)を少なくとも含む単量体を重合して得られることを特徴とするガラス繊維処理用アクリル樹脂エマルジョンを用いてガラス繊維を処理することにより、ホルムアルデヒドを放散することなく高い耐熱性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒドを放散するおそれがある化合物を使用することなく、ガラス繊維に耐熱性などを付与できる樹脂エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、揮発性有機化合物による人体への悪影響が社会問題として取り上げられる中、建築基準法が改正され、ホルムアルデヒドを一定量以上放散する建材は使用が禁止されたり使用面積が制限されるようになっている。そこで、各種建材においては、ホルムアルデヒドを放散するおそれのある化合物は使用が避けられるようになっている。
【0003】
ガラス繊維は他の繊維と比較して燃えにくく、耐熱性も高いなどの理由から建材分野にも広く用いられているが、バインダーとして尿素、メラミン、フェノール、レゾルシノールとホルムアルデヒドを縮重合したホルムアルデヒド系樹脂や、架橋成分としてN−メチロールアクリルアミドを共重合した樹脂などが使用されているため、ホルムアルデヒドを含有しないタイプへ変更する試みがなされている。
【0004】
ホルムアルデヒドを含有しないバインダーに置き換える際、ガラス繊維の特徴の一つである耐熱性を維持していることが当然に要求されている。しかしながら、従来使用されていたホルムアルデヒドを含有する樹脂はいずれも熱架橋性およびガラスへの密着性に優れているため、これを用いることなく従来以上の耐熱性を有するバインダーを開発することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1には、ポリビニルアルコールを主成分とする硬化性水性組成物が開示されており、湿潤状態においても一定の保持率を有することが示されているが、耐熱性については開示されていない。特許文献2には、アクリル系樹脂エマルジョンからなる水性結合剤が開示されており、高温下においても一定の伸び性を有することが示されているが、耐熱強度については開示されていない。
【特許文献1】特表2008-542451号公報
【特許文献2】特表2009-503215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ホルムアルデヒドを放散するおそれがある化合物を使用することなく、ガラス繊維に耐熱性などを付与できる樹脂エマルジョンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、水酸基およびアミド基を有する重合性単量体と、反応性ケイ素基を有する重合性単量体を含む単量体を重合して得られた樹脂エマルジョンを用いてガラス繊維を処理すると、従来のホルムアルデヒドを含有する樹脂を用いた場合と同等以上の耐熱性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は水酸基およびアミド基を有する重合性単量体(A)、反応性ケイ素基を有する重合性単量体(B)を少なくとも含む単量体を重合して得られることを特徴とするガラス繊維処理用樹脂エマルジョンである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガラス繊維処理用樹脂エマルジョンは、ホルムアルデヒドを放散するおそれがある化合物を使用することなく、ガラス繊維に高い耐熱性を付与できる。したがって本発明の樹脂エマルジョンを使用して製造されたガラス繊維は、断熱材や樹脂成型化粧板の基材など、各種建材用途に特に適する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の樹脂エマルジョンは、水酸基およびアミド基を有する重合性単量体(A)、反応性ケイ素基を有する重合性単量体(B)を少なくとも含む単量体を重合して得られるものである。
【0010】
水酸基およびアミド基を有する重合性単量体(A)は、分子内に(メタ)アクリロイル基などの重合性基、水酸基およびアミド基を有する化合物であり、具体的にはヒドロキシエチルアクリルアミド、ヒドロキシプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。なお、水酸基がメチロール基であるN−メチロールアクリルアミドなどや、メチロール基をエーテル化したN−ブトキシメチルアクリルアミドなどはホルムアルデヒドを副生、放散するおそれがあるため、本願発明には適さない。
重合性単量体全量に対して、水酸基およびアミド基を有する重合性単量体(A)を0.5〜5重量%用いることが好ましく、1〜3重量%用いることがより好ましい。
【0011】
反応性ケイ素基を有する重合性単量体(B)は、分子内に(メタ)アクリロイル基などの重合性基、アルコキシシリル基などの反応性ケイ素基を有する化合物であり、具体的にはγ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。重合性単量体全量に対して、反応性ケイ素基を有する重合性単量体(B)を0.5〜5重量%用いることが好ましく、1〜3重量%用いることがより好ましい。
【0012】
必要に応じてさらに多官能重合性単量体(C)を用いることができ、耐熱性、耐水性、耐アルカリ性などを向上できる。具体例としてはジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジアリルフタレートなどが挙げられる。官能基数が高いものを用いたり、使用量が過剰であると重合時にゲル化してしまうため、重合性単量体全量に対して、多官能重合性単量体(C)を1重量%以下として用いることが好ましい。
【0013】
本発明の樹脂エマルジョンは前記単量体の他、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル系単量体、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル単量体、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等の芳香族ビニル系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の飽和脂肪酸ビニル系単量体、アクロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどのオレフィン系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのエチレン系カルボン酸、無水マレイン酸などのエチレン系カルボン酸無水物、モノブチルマレイン酸などのエチレン系ジカルボン酸のモノアルキルエステル、およびこれらのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩などのエチレン系カルボン酸塩類、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのエチレン系カルボン酸の酸アミド類、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシメタクリレートなどのエチレン系カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのエチレン系カルボン酸とアミノ基を有するアルコールとのエステル類などを単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとメチルメタクリレートやスチレンを組み合わせて用いることが好ましい。
【0014】
本発明の樹脂エマルジョンはこれらの単量体を界面活性剤の存在下で乳化重合することによって製造でき、この際重合開始剤として過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩、過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの水性ラジカル重合開始剤またはこれらの混合物を用いることができる。
重合開始剤の使用量は、重合性単量体全量に対して通常は0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
【0015】
また、還元剤の存在下で重合開始剤を用いることにより、レドックス系を形成することができる。
そのような還元剤としては亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩、L−アスコルビン酸、酒石酸などのカルボン酸類が挙げられる。なお、ナトリウムホルムアルデヒドスルホネート(ロンガリット)はホルムアルデヒドを副生するおそれがあるため、本発明においては使用しないことが好ましい。還元剤の使用量は重合性単量体全量に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
【0016】
なお、硫酸第一鉄、硫酸アンモニウム第一鉄、ナフテン酸第一銅などの鉄、銅、ニッケル、コバルト、クロム、モリブテン、バナジウム、セリウムのような遷移金属の塩なども還元剤として使用可能であるが、着色するおそれがあるため、着色が好ましくない用途への使用は適さない。
【0017】
乳化重合に用いられる界面活性剤としてアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
アニオン性界面活性剤の例としてはアルキルまたはアルキルアリル硫酸塩、アルキルまたはアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩などのアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
両性界面活性剤としてはベタイン、アミノ酸の誘導体などが挙げられる。
【0018】
これらの界面活性剤は単独または2種以上を組み合わせて用いることができ、使用量は重合性単量体全量に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部である。使用量が0.1重量部未満の場合は反応が不安定となり、凝集物が生成する場合がある。また、5重量部を超える場合は乾燥性、耐水性が悪くなる場合がある。
【0019】
乳化重合は、必要に応じてエチレンジアミン4酢酸ナトリウムなどのキレート剤、ポリカルボン酸塩などの分散剤、リン酸塩、炭酸塩などの無機塩、チオール化合物、ハロゲン化合物などの連鎖移動剤の存在下に行ってもよい。
重合は通常0〜100℃の温度で、単量体の添加率が99%以上に達するまで行なうのがよい。
水性エマルジョン中の微粒子の平均粒子径は、通常100〜400nm、好ましくは200〜350nmである。
微粒子の形状は特に限定されないが、球形、回転楕円体などが好ましい。
【0020】
本発明の樹脂エマルジョンでガラス繊維織布、ガラス繊維不織布、ガラス繊維マットなどを処理することにより、耐熱性などを付与できる。処理の方法としては紡織時、抄造時に内添したり、紡織後、抄造後にスプレー、コーティング、含浸などの方法が挙げられる。樹脂エマルジョンを作用させた後に熱処理を行うことにより、樹脂の架橋が進行して各種物性を向上させることができる。
【0021】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0022】
乳化モノマー液の調製
反応性界面活性剤であるアクアロンKH−10(第一工業製薬社製、商品名)1.5重量部を脱イオン水34.5重量部に溶解させ、スチレン42.2重量部、n−ブチルアクリレート33重量部、メチルメタクリレート20重量部、ジビニルベンゼン0.25重量部、ヒドロキシエチルアクリルアミド1重量部、KBM−503(γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業社製、商品名)3重量部およびイタコン酸0.5重量部からなる重合性単量体を加えてせん断力をかけながら混合することにより、乳化モノマー液を調製した。また、過硫酸カリウム0.2重量部を脱イオン水10重量部に溶解させ、重合開始剤溶液を調製した。さらに、重亜硫酸ソーダ0.19重量部を脱イオン水5.2重量部に溶解させ、還元剤溶液を調整した。
【0023】
樹脂エマルジョンの合成
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入口を備えた重合容器に、脱イオン水50重量部を仕込み、攪拌しながら60℃に加熱した後、窒素置換した。前記乳化モノマー液の3%を添加し、10分後に前記重合開始剤溶液および前記還元剤溶液のそれぞれ16%を添加し、発熱開始から20分間種重合を行った。次いで系中を60℃に保ちながら残りの前記乳化モノマー液、前記重合開始剤溶液および前記還元剤溶液をそれぞれ4時間かけて滴下し、滴下終了後さらに2時間60℃を維持して重合を終了させた。これを室温まで冷却した後に、12.5%アンモニア水を加えてpHを6に調整することにより、実施例1の樹脂エマルジョンを得た。固形分50.4%、BM型ブルックフィールド粘度900mPa・s(30rpm、25℃)、平均粒子径300nmであった。
【0024】
実施例1の樹脂エマルジョンの合成において、乳化モノマー液における界面活性剤と重合性単量体を表1記載のように変更した他は実施例1と同様に合成を行い、各樹脂エマルジョンを調製した。なお、界面活性剤として、反応性界面活性剤であるアクアロンBC−10(第一工業製薬社製、商品名)、アニオン性界面活性剤であるエマールO(花王社製、商品名)、ノニオン性界面活性剤であるDKS−NL450(第一工業製薬社製、商品名)を用いた。
【0025】
ガラス繊維紙の含浸
固形分が3.3%となるように脱イオン水で各樹脂エマルジョンを希釈して含浸液を調製し、バットに仕込んだ。ガラス繊維紙(ADVANTEC社製、商品名GA−55)を300×150mmに裁断し、繊維方向が見える面を上方にして1分間バットへ浸せきした。浸せき後、余剰の含浸液を2号ろ紙(ADVANTEC社製)で拭き取り、150℃雰囲気下で5分間乾燥した。含浸前の重量と含浸後の重量から含浸率を算出し、含浸率が17.5〜18.5%の範囲内であることを確認した後、強度試験を行った。
なお、含浸率(%)=(含浸後重量−含浸前重量)/含浸前重量×100で算出される。
【0026】
常態強度試験
含浸したガラス繊維紙を20×150mmに裁断し、200℃雰囲気下にて1分間加熱してキュアした。その後、ストログラフ(引張り試験機、東洋精機製作所社製、商品名)にてチャック間隔100mm、クロスヘッドスピード100mm/分にて引張りを行い、破断強度を測定した。
【0027】
熱間強度試験
含浸したガラス繊維紙を20×150mmに裁断し、試験雰囲気を220℃に調整したストログラフにセットし、1分間保持してキュアした後にチャック間隔100mm、クロスヘッドスピード5mm/分にて引張りを行い、破断強度を測定した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示されるように、各実施例の樹脂エマルジョンを含浸したガラス繊維紙は常態強度、熱間強度ともに優れており、N−メチロールアクリルアミドを用いた参考例1と同等以上であった。一方、各比較例の樹脂エマルジョンを用いた場合は常態強度、熱間強度ともに劣っていた。したがって、水酸基およびアミド基を有する重合性単量体と、反応性ケイ素基を有する重合性単量体を共重合させた樹脂エマルジョンを用いた場合のみ、優れた強度が得られることが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基およびアミド基を有する重合性単量体(A)、反応性ケイ素基を有する重合性単量体(B)を少なくとも含む単量体を重合して得られることを特徴とするガラス繊維処理用樹脂エマルジョン。
【請求項2】
さらに多官能重合性単量体(C)を含む単量体を重合して得られることを特徴とするガラス繊維処理用樹脂エマルジョン。

【公開番号】特開2011−190150(P2011−190150A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58656(P2010−58656)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【出願人】(592230542)ガンツ化成株式会社 (38)
【Fターム(参考)】