説明

ガラス

【課題】清澄剤であるSbの含有量を基準値以下に制限した場合でも、高い可視域透過率を維持することが可能なガラスを提供する。
【解決手段】質量%で、SiO 21%以上、Sb 0.1%未満の組成を含有し、屈折率ndが1.71未満であるガラスにおいて、800nmにおける透過率T800と360nmにおける透過率T360の差ΔTが15%以下であることを特徴とするガラス。ガラス中において、質量基準で、(Pt2+含有量)/(全Pt含有量)≦0.8であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視域における透過率に優れ、各種用途に好適なガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等のレンズとしては非球面形状のレンズが広く用いられている。これらのレンズ用ガラス素材には、可視域において高透過率かつ低分散(高アッベ数)の光学特性が要求される。例えば、カメラ等の薄型化を達成するために、屈折率ndが1.5〜1.9およびアッベ数νdが20〜60の光学特性が要求されている。
【0003】
これらのガラスは、一般に、原料バッチを溶融し、清澄工程を経て生産される。ここで、清澄工程で融液ガラス中に残存している微塵泡を浮上させる清澄剤としてSb、SnOおよびCeOなどが使用される(例えば、特許文献1または2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−176748号公報
【特許文献2】特開2007−169086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記清澄剤のうち、特にSbは環境負荷が大きいため、近年その使用が制限されつつある。しかしながら、Sbの含有量を低減すると、得られるガラスの可視域透過率が大きく低下するという問題がある。
【0006】
したがって、本発明は、清澄剤であるSbの含有量を基準値以下に制限した場合でも、高い可視域透過率を維持することが可能なガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、種々検討を行った結果、ガラス中のSb含有量を低減した際の可視域透過率の低下は、特に波長360nm付近の透過率の低下が原因であることを突き止めた。そこで、ガラスにおける波長800nmと波長360nmの各波長における透過率の差を特定の範囲以下に制限することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0008】
すなわち、本発明は、質量%で、SiO 21%以上、Sb 0.1%未満の組成を含有し、屈折率ndが1.71未満のガラスにおいて、800nmにおける透過率T800と360nmにおける透過率T360の差ΔTが15%以下であることを特徴とするガラス(以下、「第1の形態」という)に関する。
【0009】
本発明のガラスは、清澄剤であるSbの含有量が0.1%未満であるため、環境負荷が小さいとともに、800nmにおける透過率T800と360nmにおける透過率T360の差ΔTを15%以下に制限したことにより、可視域透過率が良好なものとなる。したがって、本発明のガラスは、特にレンズ用ガラス素材として好適である。
【0010】
なお、本発明において、透過率は厚さ10mmでの測定値をいう。
【0011】
第二に、本発明のガラスは、質量%で、SiO 21〜60%、B 1〜35%、CaO 0〜15%、BaO 0〜25%、SrO 0〜15%、LiO 2〜12%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、LiO+NaO+KO 3〜15%、ZrO 0〜10%、La 0〜20%、Gd 0〜15%、Sb 0.1%未満の組成を含有することが好ましい。
【0012】
第三に、本発明は、別の形態として、質量%で、SiO 21%未満(0%を含まない)、Sb 0.1%未満の組成を含有し、屈折率ndが1.71以上のガラスにおいて、800nmにおける透過率T800と360nmにおける透過率T360の差ΔTが20%以下であることを特徴とするガラス(以下、「第2の形態」という)に関する。
【0013】
第四に、本発明のガラスは、質量%で、SiO 3〜21%未満、B 8〜23%、ZnO 0〜40%、ZrO 2〜10%、La 20〜46%、Gd 0〜16%、Nb 0〜10%、Ta 0〜25%、Sb 0.1%未満の組成を含有することが好ましい。
【0014】
第五に、本発明のガラスは、質量基準で、Pt2+含有量/全Pt含有量≦0.8であることが好ましい。
【0015】
清澄剤であるSbの含有量を低減した際に、得られるガラスの可視域透過率が大きく低下する原因は、溶融器具等から溶出および混入するPtイオンやRhイオンのうち、Pt2+およびRh3+が原因であることが発明者等の調査により判明している。この点は、具体的に以下のように説明される。
【0016】
PtイオンおよびRhイオンは、溶液中に存在する他の元素によって、酸化状態または還元状態になり得る。PtイオンおよびRhイオンの酸化還元反応は下記式(1)によって表される。
【0017】
(A+n)+ + n/2O2− ⇔ MA+ + n/4O ・・・(1)
ここで、MはPtまたはRhを示す。また、A=2または3、n=1または2である。式中のM(A+n)+はMの酸化状態であり、MA+はMの還元状態を表す。PtおよびRhは、酸化状態と還元状態で吸収波長が異なる。したがって、PtおよびRhの酸化還元状態が、得られるガラスの透過率に影響を及ぼすこととなる。具体的には、酸化状態であるPt4+およびRh4+は、それぞれ紫外域に吸収を示し、可視域透過率には影響を与えない。一方、還元状態であるPt2+、Rh3+は可視域に吸収を示し、可視域透過率を低下させる。
【0018】
特に、ガラス溶融に用いられる溶融器具にはPtが含まれることが多いため、ガラス中のPt2+が問題となる場合が大半である。したがって、本発明では、質量基準で、(Pt2+含有量)/(全Pt含有量)≦0.8となるようにPt2+含有量の割合を制限することにより、可視域透過率に優れたガラスとすることが可能となる。
【0019】
第六に、本発明のガラスは、PtおよびRhの含有量が20ppm以下であることが好ましい。
【0020】
既述のように、可視域透過率の低下はPt2+およびRh3+が原因となって生じる。ここで、PtおよびRhの含有量を20ppm以下と少なくすれば、結果としてPt2+およびRh3+の含有量も低減でき、可視域透過率に優れたガラスを得ることが可能となる。
【0021】
第七に、本発明のガラスは、酸化剤として機能する金属酸化物を1〜200ppm含有することが好ましい。
【0022】
ガラス中のPtイオンおよびRhイオンの酸化還元性は、ガラス原料中に添加される酸化剤として機能する金属酸化物により大きく左右される場合がある。当該金属酸化物は、金属元素の価数変化により酸化剤として機能するとともに、金属元素の価数変化の際に自ら酸素を放出して清澄剤としての機能も果たす。例えば、SbはSbの価数が5価→3価に変化する際に酸素を放出し、FeはFeの価数が3価→2価に変化する際に酸素を放出する。本発明では、酸化剤として機能する金属酸化物の含有量を上記範囲で添加することにより、PtイオンおよびRhイオンを酸化状態であるPt4+およびRh4+に変化させ、可視域透過率を向上させることができるとともに、良好な清澄効果を確保することも可能となる。
【0023】
第八に、本発明のガラスは、質量基準で、酸化剤として機能する金属酸化物の総含有量がPtとRhの総含有量よりも多いことが好ましい。
【0024】
ガラス中において、酸化剤として機能する金属酸化物の含有量が多くなると、上記式(1)の平衡状態が左方向に偏り、酸化状態であるPt4+およびRh4+が多くなる。本発明者等が検討した結果、質量基準で、酸化剤として機能する金属酸化物の総含有量がPtとRhの総含有量よりも多い場合に、特に可視域透過率が良好なガラスが得られることがわかった。
【0025】
第九に、本発明のガラスにおいて、酸化剤として機能する金属酸化物がSbまたはFeであることが好ましい。
【0026】
第十に、本発明のガラスは、光学ガラスであることが好ましい。
【0027】
本発明のガラスを光学ガラスに適用することにより、本発明の効果を的確に享受することが可能となる。
【0028】
第十一に、本発明のガラスは、モールドプレス成形用途であることが好ましい。
【0029】
既述のように、Sbは環境負荷物質であるため、その含有量は制限される。また、モールドプレス成形用途の場合は、Sbはガラス表面の白濁の原因となることがわかっており、この点からも極力使用を制限することが好ましい。本発明では、Sbの含有量を上記範囲に制限しているため、モールドプレス成形用途に適したガラスである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例におけるガラス試料No.1〜4の透過率曲線を示すグラフである。
【図2】実施例におけるガラス試料No.5および6の透過率曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の第1の形態のガラスは、組成中にSiOを21質量%以上含有し、屈折率ndが1.71未満であることを特徴とする。一方、本発明の第2の形態のガラスは、組成中にSiOを21質量%未満(0%を含まない)含有し、屈折率ndが1.71以上であることを特徴とする。
【0032】
これらの2つの形態において、Sbの含有量は0.1%未満に制限される。Sbの含有量が0.1%以上であると、環境面で好ましくなく、またモールドプレス成形用途に用いた場合にガラス表面の白濁の原因となりうる。Sbの含有量は、好ましくは0.01%(100ppm)以下、特に0.0005%(5ppm)未満である。一方、後述するように、SbはPtイオンおよびRhイオンを酸化状態に変化させる酸化剤としての機能と、清澄剤としての機能も有している。したがって、これらの機能を十分に発揮させることを目的とする場合は、Sbを1ppm以上、特に10ppm以上含有することが好ましい。
【0033】
本発明の第1の形態のガラスは、800nmにおける透過率T800と360nmにおける透過率T360の差ΔTが15%以下であることを特徴とする。ΔTが15%より大きくなると、可視域透過率に劣り、種々の光学レンズ用途に不適切になる。ΔTは10%以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明の第2の形態のガラスは、800nmにおける透過率T800と360nmにおける透過率T360の差ΔTが20%以下であることを特徴とする。ΔTが20%より大きくなると、可視域の透過率に劣り、種々の光学レンズ用途に不適切になる。ΔTは18%以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明の第2の形態のガラスは、屈折率を高めるためにSiOを21%未満に制限しており、NbやWOを含有させる場合がある。そのため、可視領域の透過率が低くなる傾向にある。このような可視領域で透過率が低いガラスは、Pt2+の吸収による透過率低下の影響を比較的受けにくい。しかし、例えばPt2+の吸収を抑制することにより、800nmにおける透過率T800と360nmにおける透過率T360の差ΔTを20%以下にすることができ、特にレンズ用ガラス素材として好適なガラスとすることができる。
【0036】
本発明において、質量基準で、(Pt2+含有量)/(全Pt含有量)の割合は0.8以下、0.5以下、特に0.3以下が好ましい。当該割合が0.8を超えると、可視光透過率が低下する傾向がある。
【0037】
本発明において、PtおよびRhの含有量は合量で20ppm以下、10ppm以下が好ましい。PtおよびRhの合量が20ppmを超えると、Pt2+およびRh3+の含有量が多くなり、可視域透過率が低下する傾向がある。下限は特に限定されるものではないが、特にPtおよびRhの合量が1ppm以上の場合に本発明の効果が享受しやすくなる。なお、既述のように、ガラス溶融に用いられる溶融器具にはPtが含まれることが多いため、Rhの含有量が無視できる場合は、Pt単独の含有量がこれらの範囲を満たすことが好ましい。
【0038】
本発明のガラスにおいて、PtイオンおよびRhイオンを酸化状態に変化させるため、酸化剤として機能する金属酸化物を添加することが好ましい。酸化剤として機能する金属酸化物としては、価数変化して酸化剤として機能する金属の酸化物が当てはまる。具体的には、Sb、Fe、Ce、Snなどの酸化物が挙げられる。
【0039】
酸化剤として機能する金属酸化物の含有量は、1〜200ppm未満、5〜100ppm、特に10〜50ppmであることが好ましい。酸化剤として機能する金属酸化物が1ppm未満であると、ガラス中におけるPt2+およびRh3+の含有量が多くなり、可視域透過率が低下する傾向がある。一方、酸化剤として機能する金属酸化物が200ppmを超えると、着色の原因となったり(Fe、CeO)、モールドプレス成形した場合にガラス表面の白濁の原因となる(Sb、SnO)おそれがある。
【0040】
酸化剤として機能する金属酸化物のなかでも、SbおよびFeはPtやRhに対する酸化力が強い。したがって、これらを添加することにより、Pt2+およびRh3+の含有量を効果的に低減し、可視域透過率を向上させることが可能となる。
【0041】
なお、FeはFe自体の吸収が300nm付近にあるため、含有量が多くなりすぎると可視域透過率の低下につながる。したがって、Feの含有量は100ppm以下、特に50ppm以下が好ましい。
【0042】
Pt2+およびRh3+の含有量を十分に低減する、特に、(Pt2+含有量)/(全Pt含有量)の割合を0.8以下にするためには、酸化剤として機能する金属酸化物の含有量をPtとRhの合量よりも多くすることが好ましい。具体的には、(酸化剤として機能する金属酸化物の量)/(PtとRhの合量)の割合が、1超、2以上、特に5以上であることが好ましい。
【0043】
なお、溶融温度やアニール温度によりPt2+およびRh3+の含有量を調整することも可能であるが、これらの方法ではPt2+およびRh3+の含有量を十分に低減することは困難である。また、溶融温度を変化させると失透や不均質が生じやすいため、量産性が低下するおそれがある。
【0044】
本発明のガラスがモールドプレス成形が採用可能な低軟化点ガラスであれば、Sb含有量が0.1%未満でも十分に清澄が可能となる。本発明において、低軟化点ガラスとは具体的に、ガラス転移点が650℃以下、特に630℃以下のガラスをいう。
【0045】
本発明のガラスの第1の形態のうち、特に好ましいものとして、質量%で、SiO 21〜60%、B 1〜35%、CaO 0〜15%、BaO 0〜25%、SrO 0〜15%、LiO 2〜12%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、LiO+NaO+KO 3〜15%、ZrO 0〜10%、La 0〜20%、Gd 0〜15%、Sb 0.1%未満の組成を含有するガラス(ガラス組成A)が挙げられる。当該組成によると、屈折率ndが1.55〜1.71未満、アッベ数νdが30以上の光学定数が達成しやすくなる。
【0046】
また、本発明のガラスの第2の形態のうち、特に好ましいものとして、質量%で、SiO 3〜21%未満、B 8〜23%、ZnO 0〜40%、ZrO 2〜10%、La 20〜46%、Gd 0〜16%、Nb 0〜10%、Ta 0〜25%、Sb 0.1%未満の組成を含有するガラス(ガラス組成B)が挙げられる。当該組成によると、屈折率ndが1.71〜1.90、アッベ数νdが20以上の光学定数を達成しやすくなる。
【0047】
以下に、各組成範囲を限定した理由を示す。以下の記載で、「%」は特に断りのない限り「質量%」を示す。なお、Sbの限定理由は既述の通りであり、以下の説明では割愛する。
【0048】
(ガラス組成A)
SiOはガラス骨格を構成する成分であり、Bに次いでアッベ数を高める効果の大きい成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。SiOの含有量は21〜60%、25〜60%、33〜55%、特に42〜55%が好ましい。SiOの含有量が21%より少ないと、耐候性や耐酸性が悪化する傾向がある。SiOの含有量が60%よりも多いと、屈折率が低下し、軟化点が高くなる傾向にある。
【0049】
はアッベ数を高める成分である。30以上のアッベ数を得るために、Bの含有量は1〜35%、3〜14%、特に3〜11%が好ましい。特に、55〜65のアッベ数を得るために、Bの含有量は12〜30%が好ましい。Bの含有量が35%より多いと、耐酸性が低下する傾向がある。
【0050】
CaOはアルカリ金属酸化物に次いで軟化点を下げる効果が大きく、アルカリ金属酸化物と置換することで耐候性や耐酸性を高めることができる成分である。また、屈折率を高める効果も有する。ただし、多量に含有すると、長期間にわたって高温多湿環境下に曝された場合、ガラス表面が変質しやすい。したがって、CaOの含有量は0〜15%、0〜10%、特に0.5〜10%が好ましい。
【0051】
BaOは耐候性を高め、屈折率を高めるとともに、液相温度を低下させて作業性を高める成分である。ただし、多量に含有すると、長期間にわたって高温多湿環境下に曝された場合ガラス表面が変質しやすい。したがって、BaOの含有量は0〜25%、3〜25%、特に3〜12%が好ましい。
【0052】
SrOはBaOと同様に、耐候性を高め、屈折率を高めるとともに、液相温度を低下させて作業性を向上させる成分である。ただし、多量に含有すると、長期間にわたって高温多湿環境下に曝された場合ガラス表面が変質しやすい。したがって、SrOの含有量は0〜15%、特に0.1〜10%が好ましい。
【0053】
LiOは溶融温度や軟化点を低下させ、作業性を高める効果があるため、必須成分として添加される。LiOの含有量は2〜12%、特に3〜10%が好ましい。LiOの含有量が2%より少ないと、溶融温度が高くなる傾向がある。一方、LiOの含有量が12%より多いと、分相性が強くなり、液相温度が高くなって作業性が低下する傾向がある。
【0054】
NaOはLiOと同様に、溶融温度や軟化点を低下させ、作業性を高める効果を有する。ただし、含有量が多すぎると、ガラス溶融時にB−NaOで形成される揮発物が多くなり、脈理の生成を助長する傾向がある。したがって、NaOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。
【0055】
OはLiOと同様に、溶融温度や軟化点を低下させ、作業性を高める効果を有する。ただし、含有量が多すぎると、ガラス溶融時にB−KOで形成される揮発物が多くなり、脈理の生成を助長する傾向がある。したがって、KOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。
【0056】
なお、LiO、NaOおよびKOの合量は3〜15%、好ましくは3〜12%である。これらの成分の合量が15%より多いと、洗浄工程においてガラス表面が変質しやすくなる。また、液相温度が上昇して作業温度範囲が狭くなり、量産性に悪影響を及ぼすおそれがある。一方、これらの成分の合量が3%より少ないと軟化点が高くなり、作業性が低下する傾向がある。
【0057】
ZrOは屈折率を高めるとともに、耐候性を向上させる成分である。ただし、過剰に含有すると、アッベ数が低下しやすくなるとともに、失透傾向も強くなり、均質なガラスが得られにくくなる。したがって、ZrOの含有量は0〜10%、特に0〜5が好ましい。
【0058】
Laはアッベ数を低下させることなく屈折率を高める効果がある。ただし、過剰に含有すると、失透傾向が強くなり、均質なガラスが得られにくくなる。したがって、Laの含有量は0〜20%、3〜20%、特に7.5〜15%が好ましい。なお、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、BaO、SrO)を合量で23%以上含有するガラスの場合、Laを添加すると失透傾向が強くなるため、Laの含有量の上限は2.5%とすることが好ましい。
【0059】
GdもLaと同様に、アッベ数を低下させることなく屈折率を高める効果がある。ただし、過剰に含有すると、失透傾向が強くなる。したがって、Gdの含有量は0〜15%、特に0.1〜10%が好ましい。
【0060】
ガラス組成Aでは、上記成分以外にも、光学定数の調整や耐候性の向上を目的として、Al、MgO、TiO、Nb等を添加することができる。
【0061】
AlはSiOとともにガラス骨格を構成する成分であり、耐候性を向上させる効果がある。また、Alを添加することにより、ガラス中のアルカリ成分が水に溶出することを効果的に抑制することができる。ただし、Alの含有量が多くなると、屈折率が低下したり、軟化点が高くなる傾向がある。したがって、Alの含有量は0〜10%、0〜8%、特に1〜5%が好ましい。
【0062】
MgOは耐候性を高めるとともに、屈折率を高める成分である。ただし、過剰に含有すると分相傾向が強くなり、また液相温度が上昇する傾向がある。したがって、MgOの含有量は0〜5%、0〜4%、特に0.1〜3%が好ましい。
【0063】
TiOは屈折率を高めるとともに、耐候性を向上させる成分である。ただし、過剰に含有すると、ガラスが着色しやすくなる。したがって、TiOの含有量は0〜1%、特に0.1〜0.4%が好ましい。
【0064】
Nbは屈折率を高めるために有効な成分であるが、一方でアッベ数の低下を著しく引き起こすという問題がある。したがって、Nbの含有量は0〜15%、特に0.1〜10%が好ましい。
【0065】
ガラス組成Aでは、さらにBiやPを適宜添加することができる。
【0066】
Biは屈折率を高める成分である。ただし、過剰に含有するとガラスが着色する傾向があるため、その含有量は5%以下であることが好ましい。
【0067】
は液相温度を低下させる成分である。ただし、過剰に含有するとガラスが分相しやすくなるとともに、洗浄工程で表面が白濁する傾向にあるため、その含有量は5%以下であることが好ましい。
【0068】
(ガラス組成B)
SiOはガラス骨格を構成する成分であり、失透を抑制するとともに耐候性を向上させる効果がある。また、アッベ数を高める効果がある。SiOの含有量は3〜21%未満、3〜20%、3.5〜16%、特に3.5〜10%が好ましい。SiOの含有量が3%より少ないと、ガラスが不安定になって耐失透性が悪化したり、分相するとともに耐酸性や耐水性等の耐候性が悪化する傾向がある。一方、SiOの含有量が21%以上であると、屈折率が低下したり、軟化点が高くなる傾向がある。
【0069】
は、ガラス骨格を構成する成分であり、アッベ数を最も高める成分でもある。Bの含有量は8〜23%、好ましくは8.5〜20%、さらに好ましくは9〜15%である。Bが8%より少ないと、高いアッベ数が得られにくくなる。一方、Bの含有量が23%より多いと、ガラス成形時にBとLaで形成される失透物が生成しやすくなり、屈折率が低下するとともに耐候性が悪化する傾向がある。
【0070】
ZnOは屈折率を高める成分であり、多量に添加することで高屈折率および低分散が達成することが可能となる。また、耐候性を向上させる効果もある。なお、ZnOはアルカリ土類金属成分ほど失透傾向が強くないため、多量に含有させても均質なガラスを得ることができる。さらに、ガラス粘度を低下させる効果があることから、ガラス転移点を低下でき、金型と融着しにくいガラスを得ることができる。ZnOの含有量は0〜40%、6〜40%、8.5〜30%、10〜25%、特に15〜21%が好ましい。ZnOの含有量が40%より多いと、逆に耐候性が悪化しやすくなる。
【0071】
ZrOはアッベ数を低下させることなく屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を改善したり、化学的耐久性を向上させる効果もある。ただし、ZrOの含有量が多くなるとガラス転移点が上昇し、モールドプレス成形性が悪化すると同時に、ZrOを主成分とする失透物が析出する傾向がある。したがって、ZrOの含有量は2〜10%、3〜8%、特に4〜8%が好ましい。
【0072】
Laはアッベ数を低下させることなく屈折率を高める成分である。Laの含有量は20〜46%、25〜45%、30〜45%、31〜42%、32〜40%、特に32〜37%が好ましい。Laの含有量が20%よりも少ないと、十分に高い屈折率が得られにくい。一方、Laの含有量が46%よりも多いと、ガラス成形時にBとLaで形成される失透物が生成しやすくなり、耐失透性が悪化する傾向がある。
【0073】
Gdは屈折率を高める成分である。また、耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を向上させる効果があり、作業温度範囲を拡大することができる成分である。一方で、多量に含有するとガラスの分相傾向が強くなり、均質なガラスが得られにくくなる。さらに、B、LaおよびTaを含む組成系では、B、LaおよびTaで形成される失透物がガラス表面に析出(表面失透)しやすくなる。したがって、Gdの含有量は0〜16%、4〜16%、特に5〜12%が好ましい。なお、Gdを添加するとアッベ数が低下する傾向があるが、他のアッベ数を低下させる成分(例えば、Ta、WO、TiO等)に比べると、アッベ数低下の割合は低いと言える。
【0074】
Nbはアッベ数の低下に対して屈折率の上昇の大きい成分であり、高屈折率および低分散の光学特性を得るために有効な成分である。また、Taを多量に含むガラスにおいては、耐失透性(La、TaおよびBで形成される失透物の抑制)を改善する働きがある。Nbの含有量は0〜10%、特に1〜10%が好ましい。Nbの含有量が10%より多くなると、表面失透しやすくなる。なお、Nbを1%以上含有させれば1.71以上の屈折率が得られやすくなる。
【0075】
Taは屈折率、化学的耐久性と耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を高める効果がある。また、アッベ数の低下に対して屈折率の上昇が大きい成分であり、高屈折、低分散の光学特性を得るために有効な成分である。Taの含有量は0〜25%、3〜22.5%、7〜18%、10〜18%が特に好ましい。Taの含有量が3%より少ないと、高屈折率、特に1.71以上の屈折率が得られにくくなる。一方、Taの含有量が25%より多いと、アッベ数が低下してしまい、所望の光学特性が得られにくくなる。また、La、Gd、TaおよびBで形成される失透物が析出し、液相温度が上昇しやすくなる。さらにコストも高くなるため、経済的観点からも好ましくない。
【0076】
ガラス組成Bでは、上記以外の成分として、例えば、WO、TiO、LiO等のアルカリ金属酸化物を適宜添加することができる。
【0077】
WOおよびTiOは屈折率を高める効果があるが、ZnO、Ta、Nbに比べるとアッベ数の低下に対する屈折率の上昇が小さい。したがって、多量に添加すると、高屈折率、低分散の維持が難しくなるため、他の成分とのバランスを十分に考慮して使用する必要がある。また、LiO等のアルカリ金属酸化物は軟化点を低下させるための成分である。
【0078】
WOは屈折率を高める効果を有するとともに、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、耐失透性を向上させる効果もある。WOの含有量は0〜10%、0〜5%、0〜3%、0〜2.5%、特に0.1〜1.5%が好ましい。WOが10%より多いと、アッベ数が低下してしまい、所望の光学特性が得られにくくなる。また、短波長域の透過率が低下するおそれがある。
【0079】
TiOは屈折率を高める効果を有するとともに、耐失透性を向上させる効果もある。TiOの含有量は0〜20%、0〜5%、0〜2.5%、特に0.1〜2.5%が好ましい。TiOの含有量が20%より多いと、アッベ数が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。また、短波長域(例えば、390〜440nm)の透過率が低下し、短波長用レンズとしての使用に支障をきたす可能性がある。
【0080】
特に、短波長域の透過率の低下を抑制するという観点では、これらの合量WO+TiOを10%以下、特に5%以下とすることが好ましい。
【0081】
LiOはアルカリ金属酸化物のなかでも最も軟化点を低下させる効果が大きい。ただし、LiOは分相性が強いため、過剰に含有するとBとLaを主成分とする失透物が析出し、液相温度が高くなって作業性が悪化するおそれがある。また、モールドプレス成形の際に発生する揮発物が増加したり、金型と融着しやすくなったりして、モールドプレス成形が困難になる傾向がある。したがって、LiOの含有量は0〜5%、0〜3%、0.1〜1.5%が好ましい。
【0082】
なお、ガラス組成Aおよびガラス組成Bともに、鉛成分(PbO)、砒素成分(As)およびF成分(F)は、環境上の理由から実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、これらの成分を意図的に添加しないことを意味し、不純物レベルでの混入を排除するものではない。具体的には、これらの成分がそれぞれ0.1%未満であることをいう。
【0083】
次に、本発明のガラスを用いたレンズ等の光学部品の製造方法について説明する。
【0084】
まず、所望の組成を有するように調合したガラス原料を溶融容器内で溶融する。溶融温度は1150〜1400℃であることが好ましい。溶融時間は、短すぎると清澄が不十分となる可能性があるので、2時間以上、特に3時間以上が好ましい。ただし、PtおよびRhの溶け込みによるガラス着色を防止する観点から、溶融時間は8時間以内、特に5時間以内であることが好ましい。
【0085】
溶融容器内のガラス融液の深さは、浅すぎると生産性が悪くなるため、30mm以上、特に50mm以上であることが好ましい。一方、深すぎると溶融ガラス中に発生する微塵泡の浮上に時間がかかるため、1m以下、特に0.5m以下が好ましい。
【0086】
続いて、溶融ガラスをモールドプレス可能な大きさのプリフォームに成形し、当該プリフォームを加熱しながらモールドプレス成形に供し、所望の形状に加工する。その後、洗浄、乾燥して光学部品を得る。
【0087】
プリフォームは、板状や塊状のガラス片から所定の形状に切り出して研磨、洗浄することにより作製してもよいが、溶融ガラスを連続的に所定量ずつ滴下して冷却および成形してから、研削、研磨、洗浄する液滴成形法を用いると、容易に作製できるため好ましい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明のガラスを実施例に基づいて詳細に説明する。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
表1〜3は本発明の実施例(No.1〜3、5、7、9、11、13)および比較例(No.4、6、8、10、12、14)を示す。
【0093】
各試料は、次のようにして作製した。
【0094】
表1〜3に記載の組成となるように調合したガラス原料を白金ルツボに投入し、試料No.1〜10は1300℃、試料11〜14は1350℃でそれぞれ2時間溶融した。次に、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却固化した後、アニールを行ってガラス試料を得た。
【0095】
このようにして得られた試料について、PtおよびRh含有量、Pt2+の割合、ガラス転移点、透過率、屈折率、アッベ数を測定した。結果を表1〜3に示す。
【0096】
PtおよびRh含有量は次のように測定した。まず、粉砕したガラス試料を混酸(HF、HClO、HNO、HCl)により分解後、加熱蒸発により乾固させ、塩を得た。次いで、得られた塩に硝酸を加え、ICP質量分析装置により分析定量した。
【0097】
Pt2+の割合は、ガラス試料に対して高エネルギー照射し、EXAFSで分析した。
【0098】
ガラス転移点は熱膨張曲線における低温度域の直線と高温度域の直線の交点より求めた。
【0099】
透過率は、10mm厚の両面ポリッシュ仕上げした試料を用いて測定した。得られた透過率曲線から800nmにおける透過率T800および360nmにおける透過率T360を読み取り、その差ΔT(=T800−T360)を求めた。
【0100】
屈折率、アッベ数はVブロック法にて測定した。
【0101】
図1には試料No.1〜4、図2には試料5および6の透過率曲線を示す。
【0102】
本発明の実施例であるNo.1〜3、5、7、9、11、13の各試料に対し、比較例である試料No.4、6、8、10、12、14の(Pt2+含有量)/(全Pt含有量)は0.8より大きく、概ね波長330〜400nmの領域において透過率に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のガラスは、高い可視域透過率が要求される光学ガラス用途、具体的には、CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等といった光学レンズ用硝材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 21%以上、Sb 0.1%未満の組成を含有し、屈折率ndが1.71未満であるガラスにおいて、800nmにおける透過率T800と360nmにおける透過率T360の差ΔTが15%以下であることを特徴とするガラス。
【請求項2】
質量%で、SiO 21〜60%、B 1〜35%、CaO 0〜15%、BaO 0〜25%、SrO 0〜15%、LiO 2〜12%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、LiO+NaO+KO 3〜15%、ZrO 0〜10%、La 0〜20%、Gd 0〜15%、Sb 0.1%未満の組成を含有することを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
質量%で、SiO 21%未満(0%を含まない)、Sb 0.1%未満の組成を含有し、屈折率ndが1.71以上のガラスにおいて、800nmにおける透過率T800と360nmにおける透過率T360の差ΔTが20%以下であることを特徴とするガラス。
【請求項4】
質量%で、SiO 3〜21%未満、B 8〜23%、ZnO 0〜40%、ZrO 2〜10%、La 20〜46%、Gd 0〜16%、Nb 0〜10%、Ta 0〜25%、Sb 0.1%未満の組成を含有することを特徴とする請求項3に記載のガラス。
【請求項5】
質量基準で、(Pt2+含有量)/(全Pt含有量)≦0.8であることを特徴とする請求項1〜4に記載のガラス。
【請求項6】
PtおよびRhの含有量が合量で20ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガラス。
【請求項7】
酸化剤として機能する金属酸化物を1〜200ppm含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガラス。
【請求項8】
質量基準で、酸化剤として機能する金属酸化物の総含有量がPtとRhの総含有量よりも多いことを特徴とする請求項7に記載のガラス。
【請求項9】
酸化剤として機能する金属酸化物がFeであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のガラス。
【請求項10】
光学ガラスであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のガラス。
【請求項11】
モールドプレス成形用途であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248046(P2010−248046A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101319(P2009−101319)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】