説明

ガリウム化リン酸カルシウム生体材料

本発明は、式(I)のガリウム添加リン酸カルシウム化合物[Ca(10.5-1.5x)Gax(PO47(式中、0<x<1)]とその塩、水和物、及び混合物を含んでなり、及び/又は特に(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.67の範囲であり、ガリウム含量が最大4.5重量%である、カルシウム欠損アパタイト様構造を有する、ガリウム化リン酸カルシウム生体材料に関する。本発明はまた、そのような材料の調製方法と、特に歯又は骨インプラントとしてのその使用に関する。本発明はさらに、流体成分と組合せてガリウム化リン酸カルシウム生体材料を含んでなるキットに関する。本発明は最後に、ガリウム化リン酸カルシウム生体材料の使用法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウム化リン酸カルシウム生体材料、例えばリン酸カルシウムセメント、その製造方法、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
個体の骨活性の脱制御は、骨粗鬆症、ページェット病、又は骨融解性腫瘍のような多くの骨疾患の原因である。特にヒトの寿命が延びたことを考慮すると、骨粗鬆症は国民の健康問題となり、これを治療するために多くの研究が行われている。考慮すべき骨病態は、破骨細胞活性が盛んになる方向への骨リモデリングのアンバランスにより引き起こされるため、企図される治療経路の1つは、破骨細胞の活性を低下させて、骨材料の分解を遅らせるというものである。
【0003】
骨は、主にコラーゲンのような生体高分子と、炭酸ハイドロキシアパタイト((Ca,Mg,Na,M)10(PO4,CO3,HPO46(OH,Cl)2と略記される)のような無機成分の複合体である。
【0004】
修復材料としての合成リン酸カルシウム材料の概念と利点は、20世紀初頭に最初に導入された(Albee 1920, Ray and Ward 1951 , Nery et AL, 1975)。修復材料としてのアパタイト又はリン酸カルシウムセメント(CPC)は、最初に1982年にLeGeros et al.により、そして1983年にBrown & Chowにより導入された。
【0005】
現在多くのリン酸カルシウム材料が、粉末、顆粒の形で、生体適合性ポリマー、インプラント、薄いコーティング、リン酸カルシウムセメント(CPC)との混合物で市販されている。
【0006】
最も広く使用されている化合物は、ハイドロキシアパタイト(HA、Ca10(PO46(OH)2)とリン酸三カルシウム(TCP,Ca3(PO42)である。TCPは再吸収がかなり速いことが証明されているが、HAは、生物学的アパタイト結晶に似た化学的及び物理的性質による利点を有する。TCPとHAとの組合せ(2相性リン酸カルシウム(BCP)と呼ばれる)は、これらの好適な性質の組合せを提供する(Legeros R. et al. 2003参照)。
【0007】
リン酸カルシウムバイオセラミクスは、出発化学物質の水溶液から粉末を沈殿させることにより調製される。これらの粉末は高圧(100〜500MPa)で圧縮され、次に1000℃〜1300℃の温度で焼結される(Jarcho, 1980参照)。
【0008】
2相性リン酸カルシウム(BCP)は、カルシウム欠損した生物学的又は合成アパタイトが700℃より高温で焼結されると得られる。Ca/P比が、純粋なカルシウムハイドロキシアパタイトの化学量論値1.67より小さいと、アパタイトはカルシウム欠損であると考えられる。
【0009】
適切な多孔性を与えるためにポリマー−セラミクス複合体及びポリマーネットワークが開発されているが、一般には好適な機械的性質が犠牲になっている(Yang et al., 2001; Pompe W. et al. 2003参照)。
【0010】
骨を修復、回復、及び増大するために、今日まで非常に多種類のインプラント材料が使用されている。最も一般的に使用されるインプラントには、自己由来の骨、合成ポリマー、及び不活性金属がある。これらの材料を使用するプロトコールは、患者の疼痛、手術中の感染リスク、生体適合性の欠如、コスト、及び挿入されたハードウェアがさらに骨を傷害するリスク、を含む大きな欠点を有する。従って、生体材料科学者の大きな目標は、骨格修復のためのこれらの従来法の代替として使用できる新規骨代用品を開発することである。
【0011】
例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)に基づくセメントのような骨セメントは、固体インプラントの使用を避けるというある程度の利点はあるが、いくつかの欠点もある。メタクリレートとメタクリル酸は、生体組織に対して公知の刺激物質であり、PMMAベースのセメントをインビボで硬化すると、フリーラジカルが生成され、これらが周りの組織に傷害を与えることがある。さらにこれらの材料の重合反応は発熱性であり、硬化中に出る熱が組織に傷害を与えることがある。さらにこれらの材料は生体分解性ではない。
【0012】
修復材料候補としてのアパタイト又はリン酸カルシウムセメント(CPC)の概念及び利点の可能性は、1982年にLeGeros et al("Apatitic Calcium Phosphates : Possible Restorative Materials", J Dent Res 61 (特別号):343)により最初に導入された。
【0013】
現在いくつかのCPC市販品がある。CPCは以下の利点を有する:欠陥の部位や形に適合するように改変できる展延性。注射可能リン酸カルシウムセメントの導入は、セメントの取り扱いと送達を大きく改善し、CPCの新しい用途領域を開いた。
【0014】
CPCシステムは、粉末と液体成分からなる。粉末成分は通常、追加のカルシウム塩が有り又は無しの1つ以上のリン酸カルシウム化合物で構成される。硬化時間を調整、注射性を向上、凝集もしくは膨張時間を低減、及び/又はマクロ多孔性を導入するために、他の添加物を少量含めてもよい。
【0015】
そのような材料は、例えばEP0416761号、US4,880,610号、US5,053,212号、EP0664133号、EP0543765号、WO96/36562号、及びWO2004/000374号に開示されている。
【0016】
フランス特許出願FR−2715853号は、BCPもしくはカルシウム−チタン−リン酸からなるミネラル相と、セルロースベースのポリマーの水溶液を含む液体水性相とを含む、支持組織の再吸収/置換のための生体材料の組成物を記載する。これらの注射性組成物は、活性成分を含有しない。
【0017】
ガリウムがその抗再吸収活性により、骨再吸収を阻害し血漿カルシウムを低下させることが、多くの研究により証明されている(例えば、Warrell et al., 1984, 1985; Warrell and Bockman, 1989; Bernstein, LR. 1998を参照)。例えば、US4,529,593号は、ガリウム化合物(例えば硝酸ガリウム)を使用して、骨からのカルシウムの過度の喪失を防ぐのに有効な方法を開示する。カルシウムの過度の喪失は、低カルシウム血症、骨粗鬆症、又は副甲状腺機能亢進症に関連している。ガリウム化合物は、静脈内、皮下、又は筋肉内投与される。
【0018】
その抗再吸収活性に基づいて、ガリウムはまた、悪性腫瘍の低カルシウム血症(Warrell and Bockman, 1989)、骨のページェット病(Bockman and Bosco, 1994; Bockman et al., 1989, 1995)の臨床的治療にも使用されている。ガリウムはまた、多発性骨髄腫に関連する骨融解や骨疼痛、及び骨転移を抑制するのに臨床的効力を示し(Warrell et al., 1987, 1993)、骨粗鬆症の治療として示唆されている(Warrell, 1995)。抗細菌剤としてのインビトロ効力も報告されている(Valappil, 2008)。
【0019】
ガリウムはまた、骨格組織、特に骨沈着とリモデリングの場所で濃縮されることが長い間知られている(例えば、Dudley and Maddox, 1949; Nelson et al., 1972)。しかし、骨細胞によるガリウム摂取の機構についてはほとんど情報が無く、骨格へのガリウム蓄積の機構はほとんど不明である。ガリウムはインビトロで合成ハイドロキシアパタイトに吸着し、その結果、ハイドロキシアパタイトの結晶化とおそらく溶解が低下することが知られている(Donnelly and Boskey, 1989; Blumenthal and Cosma, 1989)。最近の研究でKorbas et al., 2004は、骨組織がインビトロで、ブルッシャイトに似た局所的構造でガリウムを取り込む実験を報告した。開示されたガリウム添加モデル化合物は、Ca/Pモル比が1(ACP、ブルッシャイト)と1.66(HAP)を有する。
【0020】
硝酸ガリウムは現在Ganite(商標)として市販されており、この製品は、充分な水分補給に応答しなかった明らかに症状のある癌関連低カルシウム血症の治療のために、静脈内注射により投与される。Ganite(商標)のFDA認可されたラベルによると、硝酸ガリウムは、骨からのカルシウム再吸収を阻害し、上昇した骨ターンオーバーをおそらく低下させることにより、カルシウム低下作用を示す。実際ガリウムは、骨再吸収を担う破骨細胞に対する阻害作用と、骨細胞への細胞毒性無しで骨増殖を担う骨芽細胞に対する増加作用を有し得る(Donnelly, R., et al., 1993)。
【0021】
リン酸カルシウムセメントのような生体材料へのガリウムの取り込みは、簡単ではない。実際アパタイトリン酸カルシウムセメントペーストのpHはほとんど中性であるが、ガリウムイオンは八面体のヘキサアクア錯体の形ではpH<3でのみ安定であり、ガリウム塩イオンの形ではpH>8で溶液中で安定である。これは、セメントが完全に硬化する前に非晶質Ga(OH)3の急速で制御不可能な沈殿を引き起こす。さらにガリウムは、セメントの硬化中に起きる溶解と沈殿プロセスから生じるリン酸塩イオンを捕捉するため、ガリウムイオンは硬化プロセスを妨害し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
技術的課題
従って、ガリウムの代替投与経路を提供するニーズ、特に骨部位の近くに置かれる生体材料中にガリウムを導入することにより、特に例えば骨粗鬆症、ページェット病、又は骨融解性腫瘍のために、破骨細胞活性を局所的に阻害する必要がある弱い骨構造を強化するニーズがある。治療の必要性に従って投与量と持続時間の点でガリウム放出の正確な調整を可能にする経路を提供する具体的な重要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明の要約
本発明者らは、ガリウム添加リン酸カルシウム化合物(その一部は結晶格子内にGa(III)イオンを含む)からガリウム化リン酸カルシウム生体材料を調製し、こうして、沈殿による、ガリウムが硬化反応の妨害する可能性を制限できることを証明した。さらに、このようなガリウム化リン酸カルシウム生体材料はインビボでガリウムを放出できることが証明された。最後に、モル比Ca/Pが1.28〜1.5のガリウム添加リン酸カルシウム化合物の使用は、最適なガリウム放出特性を可能にする。実際、ガリウム添加ブルッシャイト(Ca/P=1)のような水溶性の高いリン酸カルシウム化合物は、迅速なガリウム放出を示し、従って過剰投与のリスクのある短い活性スパンを与えることが予測されるが、ガリウム添加ハイドロキシアパタイト(HAP)(Ca/P=1.66)のような水溶性の低いリン酸カルシウム化合物は、治療効果には不充分なガリウム放出を示すと予測される。
【0024】
従って本発明の第1の目的は、ガリウム添加リン酸カルシウム化合物を含むガリウム化リン酸カルシウム生体材料に関する。
【0025】
このようなガリウム化リン酸カルシウム生体材料は、特に自己硬化性リン酸カルシウムセメント(CPC)と複合リン酸カルシウム−ポリマーセメントとを含む。このセメントは好ましくは注射可能である。注射可能セメントは、注射により必要な骨部位に直接導入され、そこでセメントは硬化し、次に必要な部位の近くで骨細胞により分解されて、局所的にインサイチュでガリウムを放出し得る。
【0026】
さらなる生体材料には、セラミクスインプラント、例えばガリウム化リン酸カルシウム生体材料から製造され、次に体に移植できる骨又は歯のインプラントがある。
【0027】
第2の態様において本発明はさらに、ガリウム添加リン酸カルシウム生体材料の製造法を提唱する。
第3の態様において本発明はさらに、ガリウム化リン酸カルシウム生体材料を含むインプラントの製造法を提供する。
第4の態様において本発明はさらに、液体又はゲルのような液相と組合せたガリウム添加リン酸カルシウム生体材料を含むキットを提供する。
【0028】
最後に第5の態様において本発明はさらに、再構成的骨手術の方法と、骨疾患、特に破骨細胞機能不全による骨疾患の治療法とであって、治療の必要な患者の体内に、治療すべき骨部位の近くで本発明のガリウム化リン酸カルシウム生体材料を導入することを含んでなる方法を提供する。
【0029】
定義
本発明の文脈において用語「リン酸カルシウム(phosphocalcic)」又は「リン酸カルシウム(calcium phosphate)」は、カルシウムイオン(Ca2+)をオルトリン酸塩(PO43-)、メタリン酸塩、又はピロリン酸塩(P274-)とともに、そしてまれに水酸化イオン又はプロトンのような他のイオンとともに含むミネラルを示す。
【0030】
具体的なリン酸カルシウム化合物は、リン酸三カルシウム(TCP)(Ca3(PO42)と同素型、アパタイト(Ca5(PO43X、ここでXはF,Cl,OHである)、及びハイドロキシアパタイト(HA)、(余分のイオンが主に水酸化物であるアパタイト)である。
【0031】
他のリン酸カルシウム化合物は、無定形リン酸カルシウム(ACP)、(Cax(PO4y・H2O)、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)(CaH4(PO42.H2O)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)(CaHPO4・2H2O)(ブルッシャイトとも呼ばれる)、リン酸二カルシウム無水物(DCPA)(CaHPO4)(モネタイトとも呼ばれる)、沈殿又はカルシウム欠損アパタイト(CDA)、(Ca,Na)10(PO4,HPO46(OH)2、及びリン酸四カルシウム(TTCP)(Ca429)(ヒルゲンストカイト(hilgenstockite)とも呼ばれる)である。
【0032】
本明細書において用語「生体適合性」は、その材料が宿主で実質的に有害な応答を誘発しないことを意味する。
【0033】
用語「生体再吸収性」は、物質がインビボで再吸収される能力を示す。本発明の文脈において「完全な」再吸収は、有意な細胞外断片が残っていないことを意味する。再吸収プロセスは、体液、酵素、又は細胞の作用による、元々のインプラント材料の排除を含む。
【0034】
再吸収されるリン酸カルシウムは、例えば骨芽細胞作用を介して、新しい骨ミネラルとして再沈着されるか、又は体内で再利用されるか排泄される。「強く生体再吸収性」は、リン酸カルシウムインプラントの大部分が1〜5年間で再吸収されることを意味する。この遅延は、リン酸カルシウムインプラントの固有の特徴のみではなく、移植された部位、患者の年齢、インプラントの一次安定性などに依存する。
【0035】
本発明の文脈において「リン酸カルシウムセメント」(CPC)は、水又は水溶液の存在下で硬化する追加のカルシウム塩を最終的に含む、1つ以上のリン酸カルシウムを含んでなるか、又はこれから構成される固体複合材料である。用語CPCは、固体材料と水もしくは水溶液との混合から生じるペーストと、ならびに硬化後に得られる硬化した材料とを示す。硬化時間、粘度のようなセメントの性質を調整し、凝集又は膨張時間を低下させ、及び/又はマクロ多孔性を誘導し、最終的硬化生成物に弾力性を付与するために、他の添加物を少量加えてもよい。
【0036】
本発明の文脈においてセメントの「硬化」は、周囲温度で、すなわち環境、室温、又は体温に依存して、セメントペーストが手を加えないで自己硬化することを意味する。
【0037】
本発明の文脈において「注射可能なセメント」又は「注射するのに適した形のセメント」は、数ミリメートル、好ましくは1〜5mm、さらに好ましくは1〜3mm、最も好ましくは2〜3mmの直径を有する針を介して押し出されるセメントペーストを示す。注射可能セメントの特に重要なパラメータは、大きな粒子が存在しないこと、適切な粘度、ならびにインビボ(37℃)での適切な硬化時間を含む。
【0038】
用語「生体セラミクス」は、生体適合性セラミクス材料を示すのに使用される。
用語「生体材料」は、生体適合性材料を示すのに使用される。
【0039】
ガリウム化リン酸カルシウム生体材料
本発明の第1の態様において本発明は、式(I)のガリウム添加リン酸カルシウム化合物:
Ca(10.5-1.5x)Gax(PO47 (I)
(式中、0<x<1)
とその塩、水和物、及び混合物を含んでなるガリウム化リン酸カルシウム生体材料を提供する。
【0040】
塩は、特にカルシウムがZn、Cu、Mg、Na、Kなどの他の元素で部分的に置換された式(I)の化合物でもよい。
【0041】
好ましくは本発明のガリウム化リン酸カルシウム材料は、0<x≦0.85である式(I)の化合物を含有する。
【0042】
式(I)のガリウム添加リン酸カルシウム化合物は、Ca10.125Ga0.25(PO47、Ca9.75Ga0.5(PO47、Ca9.375Ga0.75(PO47、及びCa9.27Ga0.82(PO47からなる群から選択してもよい。
【0043】
ガリウム化リン酸カルシウム生体材料は、好ましくはβ−リン酸三カルシウム(β−TCP)様構造を有するリン酸カルシウム化合物、及び/又はカルシウム欠損アパタイト(CDA)様構造を有するリン酸カルシウム化合物を含む。
【0044】
ある実施態様においてガリウム化リン酸カルシウム生体材料は、さらにポリマーを含んでよい。
【0045】
使用されるガリウム添加リン酸カルシウム化合物は好ましくは、β−リン酸三カルシウム様構造(β−TCP)を示す(Dickens, B. et al., 1974; Yashima, M. et al., 2003)。このような構造は、Ga含量の関数として以下の範囲で変動するセルパラメータを有するR3cスペース基を示す:a=10.31〜10.44Å、c=37.15〜37.5Å、α=90°、β=90°、及びγ=120°。
【0046】
特に限定されないがガリウム化リン酸カルシウム材料中のガリウム含量は、多くの用途で最大6.35重量%、特に0.001〜6.0重量%、最も好ましくは0.01〜5.3重量%である。
【0047】
一般にガリウムの少なくとも一部は、ガリウム化材料中に存在するガリウム添加化合物の結晶格子内に、好ましくはカルシウム部位に位置する。
【0048】
好適な実施態様において本発明は、(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.67であるガリウム添加カルシウム欠損アパタイト(CDA)を含み、(i)ガリウム、カルシウム、及びリン酸イオンを含有する水溶液から、pHを7近くまで上昇させるて沈殿させることにより(ガリウム含量は最大4.5重量%)、又は(ii)8に近い制御されたpHの硝酸ガリウム溶液中にCDAを懸濁させることにより(ガリウム含量は最大0.65重量%)調製される、ガリウム化リン酸カルシウム生体材料を提供する。
【0049】
第3の態様に従って本発明はさらに、ガリウム化リン酸カルシウム生体材料を含むインプラントの製造方法であって、
(i)本発明の自己硬化性ガリウム化リン酸カルシウム生体材料を適切な量の水性液相と混合して、セメントペーストを得る工程と、
(ii)セメントペーストをインプラントに成形する工程とを、
含んでなる方法を提供する。
【0050】
硬化後、調製されたガリウム化リン酸カルシウム生体材料を含むインプラントは、骨を修復、回復、及び増大させ、及び/又は骨もしくは歯の欠損を充填するために使用し得る。
【0051】
第4の態様において本発明はさらに、液体又はゲルのような流体相と組合せたガリウム添加リン酸カルシウム生体材料を含んでなるキットを提供する。
【0052】
リン酸カルシウムセメント
本発明の好適なガリウム化リン酸カルシウム生体材料は、リン酸カルシウムセメント(CPC)のような自己硬化性材料である。
【0053】
硬化時間はリン酸カルシウムセメントの重要な性質である。これが短か過ぎると、外科医にとってセメントが硬化するまで充分な時間が無いであろう。硬化時間が長すぎると、外科医は創傷が閉じるのを待つのに時間を浪費する危険がある。硬化時間は、固相と液相の組成、固体対液体の比、リン酸カルシウムセメントの比率、及び固相成分の粒子サイズなどの種々のパラメータに依存する。
【0054】
硬化時間は通常、ギルモア針器具を用いて成形試料で測定される。この検査は基本的に、水和性セメントペーストが浸透に対してある有限の抵抗値を示す時、測定される。これは、特定のサイズと重量の針がセメントペースト試料をある深さまで貫通するか、又はセメントペースト試料を貫通できない時間に基づいて、初期硬化時間と最終硬化時間とを規定する。ギルモア針器具は、異なる直径と異なる重量を有する2つの針からなる。最大の直径と最小の重量とを有する第1の針は初期硬化時間を測定するのに使用され、最小の直径と最大の重量とを有する第2の針は、最終硬化時間を測定するのに使用される(C266 ASTM基準)。
【0055】
あるいは、セメントを使用するための開始時間を評価するために、テクスチャ解析を使用することができる。この方法は、押出しが不可能になるまでセメントペーストを押出すのに必要な圧縮力を、時間に対して測定することからなる。
【0056】
外科的使用に適しているためには、37℃でのCPCの初期硬化時間は典型的には1時間未満であり、さらに好ましくは45分未満、最も好ましくは10分未満であり、37℃での最終硬化時間は3時間未満、好ましくは40分未満、最も好ましくは20分未満である。
【0057】
いったん硬化すると本発明のガリウム化CPCは、典型的には10MPaより大きい、典型的には20MPaより大きい高圧縮力を有し、これはガリウム化CPCをこの材料に企図される用途に充分適合させる。
【0058】
注射前のセメントペーストの調製は、選択された固相と選択された液相とを適切なそれぞれの量で、約2分間混合することからなる。
【0059】
水溶液中のアパタイトセメントの場合は、主要な固体成分はα−TCPであり、これは水和してカルシウム欠損ハイドロキシアパタイト(CDA)を与える。ブルッシャイトセメントの場合は、主要な固体成分はβ−TCPであり、これはリン酸二カルシウム二水和物(DCPD)(ブルッシャイトとも呼ばれる)に変換される。各場合に、反応により組成物が硬化し、自己硬化性リン酸カルシウムセメントの調製が可能になる。
【0060】
リン酸カルシウムセメントのような自己硬化性材料は、これらを欠陥の部位や形に適するように改変できる展延性という利点があり、一方またインプラントに一次機械的剛性を提供する。
【0061】
従って本発明のさらなる目的は、骨部位の近くでインサイチュでガリウムの局所投与に特に重要な、本発明のガリウム添加化合物を含んでなる又はこれからなるガリウム化リン酸カルシウムセメントである。好ましくはガリウム化リン酸カルシウムセメントは注射に適した形である。
【0062】
注射可能ガリウム化CPCは、骨粗鬆症性骨折の修復に特に有用である。近年骨粗鬆症性骨折の発生数が劇的に増加している。充分な治療法が無いことと老人人口の増加を考えると、この傾向は続くと予測される。しかし骨粗鬆症性骨折の修復は、骨が非常に弱いため困難である。従って一般的には、骨接合プレートを保持するためにネジを挿入することが不可能である。この問題を解決する1つの方法は、骨粗鬆症性骨中にCPCを注射可能して骨を強化することである。
【0063】
a.固相
硬化前はリン酸カルシウムセメントは、本発明のガリウム添加リン酸カルシウム化合物を含む微粉化組成物である。好ましくはガリウム添加リン酸カルシウム化合物は、β−TCP又はCDAから得られる。
【0064】
ガリウム添加リン酸カルシウム化合物以外に、リン酸カルシウムセメントの固相は、硬化挙動、弾力性、又は機械的抵抗性のような性質を最適化するために、好ましくは他の化合物をさらに含んでよい。
【0065】
好ましくは固相は、カルシウム及び/又はリン酸カルシウム化合物、例えばHA、α−TCP、β−TCP、ACP、MCPM、DCPA、DCPD、CDA、CaSO4.2H2O、CaCO3を含む。
【0066】
固相はしばしば、CaHPO4、及び1つ以上の他のリン酸カルシウム化合物を含む。
【0067】
一般にこのセメントの主成分はα−TCPである。すなわちガリウム化リン酸カルシウムセメント粉末は、好ましくは30〜90重量%のα−TCPを含む。リン酸塩セメントはさらに、最大50重量%、好ましくは5〜30重量%のCaHPO4を含む。さらにリン酸カルシウムセメントは、最大50%、好ましくは10〜30重量%のβ−TCP(これはガリウム添加されていてもよい)を含む。リン酸カルシウムセメントはさらに、最大30重量%、好ましくは1〜15重量%のCDA(これはガリウム添加されていてもよい)を含む。
【0068】
アパタイトセメントについては、このようなCPCの固相は、少なくとも40%、50%、60%、78%、又は最大100%のα−TCPを含んでよい。本発明のCPCの最も好適な固相は、α−TCP(最大20%のβ−TCPを含む)、DCPD、MCPM、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)と、沈殿カルシウム欠損ハイドロキシアパタイト(CDA)との混合物である。この場合ガリウムは、ガリウム添加β−TCP又はガリウム添加CDAとして固相中に導入される。
【0069】
ブルッシャイトセメントについては、β−TCPとMCPMとを含む固相がより好ましい。好適な実施態様において本発明のこのようなCPCの固相は、少なくとも70%、80%、又はさらに90%のβ−TCPを含む。最も好適な固相は、β−TCPとMCPMとの混合物からなる。この場合、ガリウムはガリウム添加β−TCPとして固相に導入される。
【0070】
本発明のガリウム化リン酸カルシウムセメントの固相はさらに、1つ以上の生体適合性及び生体再吸収性ポリマーのような有機成分を含んでよい。そのようなポリマーは、特にポリ酸、ポリエステル及び多糖類から選択される。特に有用なのは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ε)カプロラクトン、ポリホスファゼン、デンドリマー、及び多糖類、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリジオキサノン、ヒアルロン酸、ポリヒドロキシアルカノエート、及びポリヒドロキシ酪酸、ならびにこれらの塩、共重合体、ブレンド、及び混合物がある。
【0071】
ポリホスファゼン、デンドリマー、多糖類、ポリ(ε)カプロラクトン、ポリエステル、ポリヒドロキシアルカノエート、及びこれらの塩と混合物が好適である。その物理的及び機械的性質以外にこれらは、適切な再吸収速度、親水性、及び溶解度で、製造することができる。溶解すると、セメント内で連結したマイクロ多孔が作成され、これは、ガリウム化材料の再吸収性及びガイドされた再吸収置換の制御を可能にする。
【0072】
ポリホスファゼンは好ましくは、ポリ(エチルオキシベンゾエート)ホスファゼン(PN−ECB)、ポリ(プロピルオキシベンゾエート)ホスファゼン(PN−POB)、ポリ[ビス(カルボキシラートフェノキシナトリウム)ホスファゼン](Na−PCPP)]、ポリ[ビス(カルボキシラートフェノキシカリウム)ホスファゼン](K−PCPP)]、ポリ[ビス(エチルアラナト)ホスファゼン](PAlaP)、ポリ[ビス(カルボキシラートフェノキシ)ホスファゼン](酸性−PCPP)、及びこれらの塩と混合物からなる群から選択される。
【0073】
多糖類は最も好適なポリマーであり、特にセルロースエステル、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)がある。
【0074】
生体適合性ポリマー及び生体再吸収性ポリマーは、微粉、繊維、又は微粒子として使用することができる。
【0075】
このような組成物では無機成分は、未変性の骨との密接な結合と、骨形成性とを可能にし、一方有機成分は、ミネラルマトリックス中の相互連絡マクロ多孔性を可能にし、セメントの凝集性、弾力性、レオロジー性、及び注射性を改良する。
【0076】
存在する場合ガリウム化リン酸カルシウムセメントの有機成分は、固相の0.1〜30重量%、好ましくは0.2〜50重量%、さらに好ましくは0.5〜3重量%、特に1〜2重量%で変動する。
【0077】
本発明のガリウム化リン酸カルシウムセメントは、当該分野で公知の従来法、例えば国際出願WO2008023254号に開示された方法に従って調製される。
【0078】
一般にセメント粉末の成分は、混合前又は後に微粉化される。例として成分は、固体の約50%が粒子サイズ0.1〜0.8μmを有し、固体の約25重量%が粒子サイズ8〜25μmを有し、さらに固体の25重量%が粒子サイズ25〜80μmを有するように粉砕し得る。
【0079】
自己硬化性ガリウム化リン酸カルシウム生体材料は、
− 適切な量の任意のガリウム化されたTCP(Ca3(PO42)を提供する工程、
− TCPを適切な量の1つ以上のガリウム添加リン酸カルシウム化合物及び任意の他の添加物と混合する工程、そして
− これらの成分を粉砕して、リン酸カルシウムセメントの固相を形成する工程、
とを含んでなる方法に従って製造し得る。
【0080】
b.液相
リン酸カルシウムセメントの硬化に使用される液相は、好ましくは水、塩のような化合物の水溶液、ポリマー、酸のようなpH調節剤、又は表1に列記した薬剤活性成分である。
【0081】
【表1】

【0082】
多くの場合、液相は低濃度の引用化合物を含有する。典型的にはこれは、最終液相の重量に対して、0.001〜5重量%、好ましくは0.01〜3重量%、最も好ましくは0.1〜1重量%の引用化合物を含有する。
【0083】
液相のpHは好ましくは5〜10、好ましくは5〜9、最も好ましくは5〜7になるように調整すべきである。
【0084】
アパタイトリン酸カルシウムセメントについては、好適な液相は、Na2HPO4水溶液、NaH2PO4水溶液、又はクエン酸溶液からなる。さらに好ましくは液相は、Na2HPO4水溶液からなる。例えば、蒸留水中約0.5〜5重量%のNa2HPO4の溶液、蒸留水中約0.5〜5重量%のNaH2PO4の溶液、又は蒸留水中約0.5〜5重量%のクエン酸の溶液を使用することができる。
【0085】
ブルッシャイトリン酸カルシウムセメントについては、好適な液相はH3PO4水溶液である。この溶液は、一般に0.25〜3.0mol/L、最も好ましくは3.0mol/Lの上記化合物を含有する。
【0086】
リン酸カルシウムセメントの液相と固相の比は、特に目的とする用途の必要性により粘度と硬化時間のようなパラメータは大きく変動し得る。典型的にはCPCの液相/固相(L/S)比は、0.2〜0.9ml/g、好ましくは0.3〜0.8ml/g、さらに好ましくは0.25〜0.5ml/gである。
【0087】
水が液相である場合、液相/固相(L/S)比は好ましくは約0.20〜約0.9ml/g、さらに好ましくは約0.25〜約0.8ml/g、さらに好ましくは約0.25〜約0.45ml/g、最も好ましくは約0.30〜約0.45ml/gである。
【0088】
液相がNa2HPO4又はNaH2PO4の水溶液である場合、液相/固相(L/S)比は好ましくは約0.25〜約0.9ml/g、さらに好ましくは約0.30〜約0.45ml/gである。
【0089】
液相がクエン酸水溶液である場合、液相/固相(L/S)比は好ましくは約0.2〜約0.8ml/g、さらに好ましくは約0.25〜約0.30ml/gである。
【0090】
リン酸カルシウムセメントは、当該分野で公知により成形してもよい。
【0091】
バイオセラミクス
別の実施態様において、本発明のガリウム化リン酸カルシウム生体材料は、生体再吸収性及び骨誘導活性骨移植片代用品として、及びインプラントの製造のために、使用できるバイオセラミクスを含んでなるか又はこれからなる。
【0092】
好ましくは該バイオセラミクスは、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)及びハイドロキシアパタイト(HA)(これらの少なくとも1つはガリウム添加されている)からなる群から選択される1つ以上の焼結リン酸カルシウム化合物を含んでなるか又はこれからなる。このようなバイオセラミクスは、顆粒、又は凝集顆粒の形、又は円錐、円筒、及びスティックの形で製造してもよい。
【0093】
特に重要なのは、ゲルに埋め込まれた顆粒の形のバイオセラミクスの使用である。このような応用のためには、顆粒は好ましくは40〜5000μm、さらに好ましくは40〜80μmのサイズである。
【0094】
ガリウム添加リン酸カルシウム化合物とその調製
本発明の生体材料に含まれる式(I)のガリウム添加リン酸カルシウム化合物:
Ca(10.5-1.5x)Gax(PO47 (I)
(式中、0<x<1、好ましくは0<x≦0.85、特に0<x≦0.82である)、
及びその水和物、及びこれらの混合物は、後述の方法を使用して得られる。
【0095】
ガリウム添加及びリン酸カルシウム支持体の存在は、粉末X線回折と31P及び71Ga固相NMR(後者の2つは両方を示す)により証明することができる。実際カルシウムをガリウムにより置換すると、ガリウムに結合したリン酸基に関連する31P NMR線の高磁場へのシフトが起き、ガリウムの配位構造は71Ga化学シフト値から得ることができる。
【0096】
理論に拘束されるつもりはないが本発明者らは、結晶格子中のCa(II)イオンをGa(III)イオンで置換し、陽イオン電荷の差を補償するために空隙を作成することにより、ガリウムイオンが少なくとも部分的にリン酸カルシウム化合物に取り込まれることを証明した。Ga(III)イオンのイオン半径はCa(II)イオンの半径より小さいため、置換反応により、ユニットセルの収縮が起きると予測される。従ってガリウム添加化合物は、変形構造を与える可能性が高い。
【0097】
好適なガリウム添加リン酸カルシウム化合物は、β−TCP又はCDA構造に基づく。
ガリウム添加リン酸カルシウム化合物は完全に又は部分的に無定形であるが、好ましくは少なくとも部分的に結晶性である。特にリン酸カルシウム化合物は1つ以上の結晶相を含んでよい。
ガリウム添加リン酸カルシウム化合物の結晶相は、特にβ−リン酸三カルシウム(β−TCP)に関連する(Dickens, B. et al., 1974; Yashima, M. et al., 2003)。
【0098】
リン酸三カルシウム(TCP)は式Ca3(PO42を有し、オルトリン酸カルシウム、3級リン酸カルシウム、3塩基性リン酸カルシウム、又は骨灰としても知られている。β−TCPはスペース基R3c中で結晶化し、以下のセルパラメータを有する:a=10.435Å、c=37.403Å、α=90°、β=90°、及びγ=120°。
【0099】
ガリウムは、好ましくはリン酸カルシウム化合物の結晶格子中に含まれる。この場合、ガリウムイオンはカルシウム部位を占めることが特に好ましい。
【0100】
しかし、低温で得られるガリウム添加リン酸カルシウム化合物が、表面で吸着されるガリウム分子種を含むことがあることが観察されている。そのような化合物を加熱することは、一般に結晶構造へのガリウムの拡散を引き起こす。
【0101】
上記ガリウム添加リン酸カルシウム化合物の製造のための2つの異なる方法(固体法と溶液中の方法)は後述される。
【0102】
最初の方法は固体法であり、以下の工程を含んでなる:
(a)適切な量のガリウム化合物の存在下でリン酸カルシウムに炭酸カルシウムを接触させる工程、
(b)混合物を焼結してガリウム添加リン酸カルシウム化合物を生成する工程、及び
(c)ガリウム添加リン酸カルシウム化合物を回収する工程。
【0103】
こうして調製された化合物は、ガリウム含量が最大5.3重量%でもよい。
この方法は、好ましくは水の非存在下で行われる。すなわちリン酸二カルシウム(例えばDCPAもしくはDCPD、又はこれらの混合物)の使用が好ましい。同じ理由で反応物は好ましくは無水化合物である。
【0104】
炭酸カルシウムは分解されて二酸化炭素を与え、こうして不要なアニオンによる試料の汚染を制限する。
【0105】
上記方法の工程(a)で使用される好適なガリウム化合物は、周囲条件で非揮発性かつ安定で、特に酸化ガリウムと、焼結中に酸化物に変換される前駆体(例えば水酸化ガリウム)を含むものから選択される。
【0106】
ガリウムが酸化物の形で取り込まれる場合、反応は以下の式で示される:
7CaHPO4+(3.5−1.5x)CaCO3+(x/2)Ga23→Ca10.5-1.5xGax(PO47+3.5H2O+(3.5−1.5x)CO2
(ここで、0<x<1である)。
【0107】
この方法は、好ましくは化学量論量の反応物を使用して行われる。
工程(b)の温度は、反応物の融合温度に近いか又はそれより高くなるように選択される。一般に750℃〜1570℃、好ましくは800℃〜1550℃、特に900℃〜1360℃、及び特に1000℃の温度が適切である。
【0108】
好ましくは工程(b)は、焼結が完了するまで、典型的には12時間以上、さらに好ましくは24時間又はそれ以上の時間行われる。得られる固体を粉砕し、追加の焼成を行うことが好ましい。この方法は、数回行われる。
【0109】
ガリウム添加リン酸カルシウム化合物は、上記固相法に従って得ることができる。
この方法は、この方法の条件下で形成される結晶型で改質リン酸カルシウム化合物を与えるであろう。さらに詳しくは記載の方法は、β−TCPに近い構造を有するガリウム添加リン酸カルシウム化合物を与えるであろう。このような構造はR3cスペース基を示し、セルパラメータはGa含量の関数として以下の範囲で変動する:a=10.31〜10.44Å、c=37.15〜37.5Å、α=90°、β=90°、及びγ=120°。
【0110】
提唱されるガリウム添加リン酸カルシウム化合物の製造のための別の方法は、溶液中で行われる。
この方法は、ガリウム、カルシウム、及びリン酸イオンを含有する水溶液から、好ましくはpHを下げて沈殿させることにより、上記のガリウム添加リン酸カルシウム化合物を与える。
【0111】
さらに詳しくはガリウム添加化合物の製造のための溶液中の方法は、以下の工程からなる:
(a)カルシウム化合物と適切な量のガリウム化合物とを含有する水溶液を調製する工程、
(b)工程(a)で得られた溶液のpHを、必要であれば、8.5〜12、好ましくは9〜11、さらに好ましくは9〜9.5の値に調整する工程、
(c)該溶液に適切な量のリン酸化合物を加える工程、
(d)該溶液のpHを7.0〜12、好ましくは7.5〜9、さらに好ましくは7.5〜8の値に調整することにより、ガリウム添加リン酸カルシウム化合物を沈殿させる工程、及び
(e)溶液から、沈殿したガリウム添加リン酸カルシウム化合物を分離する工程。
【0112】
こうして調製された化合物は、最大0.65重量%のガリウム含量を有し、一般に(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.67の範囲でよい。
工程(a)の溶液を調製するのに使用されるカルシウム及びガリウム化合物は、塩又は錯体のような非常に広範囲の水溶性化合物から選択し得る。
【0113】
好ましくは工程(a)の該ガリウム化合物は、酢酸ガリウム、炭酸ガリウム、クエン酸ガリウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム、ヨウ化ガリウム、フッ化ガリウム、ギ酸ガリウム、硝酸ガリウム、シュウ酸ガリウム、硫酸ガリウム、酸化もしくは水酸化ガリウム、及びこれらの水和物からなる群から選択される。特に好適なのは、その高い溶解度から硝酸ガリウムである。
【0114】
好ましくはカルシウム化合物は、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、及びフッ化カルシウム、及びこれらの水和物からなる群から選択される。ガリウム化合物と同様に、硝酸カルシウム、特に硝酸カルシウム四水和物が、その高い溶解度から特に好ましい。
【0115】
好適な化合物の純度を上げるために、超純水を使用して、この方法で使用される溶液を調製することが好ましい。「超純水」とは、少なくとも18MΩcmの抵抗を有する水を意味する。
【0116】
工程(b)は、塩基や酸のようなpH調整物質を加えることにより便利に行われる。好適なものは、さらなるイオンを導入することがない強塩基と強酸である。適切なpH調整物質はアンモニウム溶液でもよい。
【0117】
工程(c)で使用されるリン酸化合物は、目的のガリウム添加化合物のリン酸陰イオンを含有する任意の可溶性塩又は錯体でもよい。
【0118】
そのような塩は、リン酸水素塩であることが便利である。他の化合物によるカルシウムの置換による化合物の汚染を避けて、化合物の高純度を確保するために、最も好ましくは陽イオンは揮発性、例えばアンモニウムである。好ましくはリン酸塩を使用してもよい。塩はあらかじめ水に溶解すると有利である。
【0119】
工程(c)中に、ガリウム添加リン酸カルシウム化合物の沈殿が始まると溶液は白色になる。
反応物の均一な濃縮を確保するために、反応混合物は好ましくは工程(c)と(d)で攪拌される。工程(d)について反応混合物は、好ましくは約50℃で少なくとも30分間攪拌される。
【0120】
反応物のモル比は、好ましくは化学量論比であり、従って主に必要な比(Ca+Ga)/Pに依存する。
反応速度を上げるために、工程(d)の沈殿は好ましくは20〜100℃の高温、さらに好ましくは40〜80℃で、最も好ましくは50℃で行われる。
工程(d)で使用されるpH調整物質は、再度好ましくは反応混合物に追加のイオンを加えない化合物である。特に好適なものはアンモニア溶液である。
【0121】
反応は数分又は数時間でスムーズに進行する。好ましくは工程(d)は15分間〜72時間の間、さらに好ましくは30分間〜6時間、さらに好ましくは30分間〜2時間、最も好ましくは30分間行われる。
反応の完了後、沈殿物は、工程(e)で従来法(例えばろ過)により反応混合物から分離される。
【0122】
次に得られたガリウム添加リン酸カルシウム化合物はさらに精製及び/又は変換される。特に工程(e)で得られる化合物は精製され、特に洗浄及び乾燥してもよい。粗生成物は特に超純水で洗浄し、次に適切な温度(例えば80℃)で乾燥してもよい。
【0123】
こうして得られたリン酸カルシウム化合物は、一般にカルシウム欠損アパタイト(CDA)構造に似た構造を有し、これは、Ca/P比が1.44〜1.67の範囲、31P NMRブロード共鳴が2.9ppmであること、特徴的X粉末回折ブロード線(2θ=〜26°(中)及び〜32°(強))とIR吸収[OH(〜3570cm-1)とPO4(〜1040及び1100cm-1)]により証明される。ガリウムは結晶内に含まれるか、又は物理的に吸着、化学的に吸着、又は沈殿したガリウム分子種としてその表面に存在してもよい。
【0124】
上記方法により得られるガリウム添加リン酸カルシウム化合物は、特に(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.67の範囲、かつガリウム含量が最大4.5重量%で存在してもよい。
【0125】
得られたガリウム添加リン酸カルシウム化合物は次に焼成されて、例えば典型的には800〜1500℃、さらに好ましくは例えば900〜1300℃、最も好ましくは1100℃の温度で、好ましくは数時間、特に3時間〜5時間、典型的には4時間、加熱することにより、β−TCP様構造を有するガリウム化化合物が得られる。
【0126】
最後に、ガリウム添加リン酸カルシウム化合物の製造のための別の方法は、固体/液体反応に依存し、ここでカルシウム欠損アパタイト(CDA)はガリウム水溶液に懸濁され、混合物は調節pH条件下で、好ましくは攪拌下で反応される。反応の好適なpH範囲は、わずかにアルカリ性pH,例えば8〜9である。反応した固体は次に、反応混合物から適当な方法(例えば、遠心分離)により分離され、次に洗浄、乾燥される。
【0127】
ガリウム添加リン酸カルシウム化合物から作成されたガリウム化リン酸カルシウム生体材料は、次に後述のように使用される。
【0128】
使用法
本発明の別の目的は、特に骨粗鬆症のような骨疾患の骨修復、増大、再構成、再生、及び治療に関する歯科的及び医学的用途のための、本発明のガリウム化リン酸カルシウム生体材料の使用である。
【0129】
さらなる医学的用途には、骨欠陥の修復、脊椎固定用骨折の修復、人工器官(臀部、膝、肩など)手術修正、骨増大、及び癌治療に関連する骨再構成がある。
【0130】
本発明の材料は、例えば外傷、骨粗鬆症、骨融解性腫瘍、又は関節もしくは歯人工器官手術が引き起こす骨や歯の欠損又は骨折を充填するのに特に有用である。
【0131】
特に組成物は、整形外科、例えば脊椎手術に有用であり、ここでCPC移植片を正確に位置決定することは決定的に重要であり、さらに一般的には骨の環境(ここで病理的骨再吸収活性を避けなければならない)で有用である。
主要な歯科的応用は、歯周欠陥、空洞増大、上顎顔面再構成、歯髄覆罩剤、口蓋裂修復、及び歯インプラントの補助物である。
【0132】
注射可能ガリウム化リン酸カルシウムセメントは体の近づきにくい部分に置くことができ、従って機能回復を速めながら傷害や疼痛を減少させる侵襲性が最小の手術法に特に適している。
【0133】
従って本発明のさらに別の目的は、再構成的骨手術法及び特に破骨細胞機能不全による骨疾患の治療法であって、治療の必要な患者の体内の治療すべき骨部位の近くへの本発明のガリウム化リン酸カルシウム生体材料の導入を含んでなる方法である。
【0134】
本発明の好適な実施態様において、導入は注射により行われる。
例えばそのようなCPCは、経皮的脊椎動脈形成術で使用することができる。これは、しばしば骨粗鬆症の結果としての胸部及び腰部脊柱の脊椎陥没を安定化し矯正する経皮的穿刺法からなる。
【0135】
骨粗鬆症の経過において、非常に痛い脊椎陥没が、骨子の荷重負担能力の低下の結果として、胸部(TSC)及び腰部(LSC)脊柱の領域に起きることがある。これは多かれ少なかれ脊椎、及びさらには脊椎陥没の明確な変形を引き起こす。両方のケースはX線により容易に認識できる。脊柱の完全な脊椎陥没や明確な変形も起きることがある。
【0136】
局所的麻酔下で、所望であれば全身麻酔下で、例えばX線ガイド下で、細い穿刺針を脊柱に挿入する。脊柱のある点(いわゆる腹柄)で、骨はリスク無く針により穿刺することができる。次に流体骨セメントが穿刺針を介して脊柱に注射される。セメントが硬化後、脊柱は安定化される(脊椎動脈形成術)。脊柱がひどく変形(例えば、くさび様形成)すると、陥没脊柱はセメント注射前に矯正される。こうして穿刺針を介してバルーンが脊柱に挿入され、高圧下で流体で膨張される。うまく矯正後、バルーンは取り出され、生じる空洞は骨セメントにより充填される(バルーンキホプラスティ(baloon-kyphoplasty))。この場合、ガリウムの存在のために、インプラントの放射線不透過性が上昇し、こうして放射線透視下での手術実施が促進され、追加の利点は、移植後のインプラントの代謝を同様に追跡できることである。
【0137】
本発明は、以下の図面と実施例を参照してさらに例示される。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】実施例1(上)対Gaの無いTCP(下)により調製されるガリウム添加リン酸カルシウム化合物のX線微小血管造影であり、本発明の化合物の高い放射線不透過性を示す。
【図2】4mmのプローブヘッドとZrO2ロータを使用して7.0Tで記録した、異なる値のxについてのCa10.5-1.5xGax(PO47の粉末試料の31P MAS NMRスペクトル。
【図3】17.6Tで記録した、0.17<x<0.71についてのCa10.5-1.5xGax(PO47の粉末試料の71Gaエコー MAS NMRスペクトル。
【図4】7.0Tで記録した、初期Ga/P比0.07についての単離されたガリウム添加CDAの粉末試料の31P MAS NMRスペクトル。1000℃で焼成後、Ca9.75Ga0.5(PO47が得られた。
【実施例】
【0139】
実施例1:固体反応によるガリウム添加リン酸カルシウムの調製
乳鉢中で無水リン酸カルシウム(0.174mol)を、(Ca+Ga)/Pモル比が以下の式を使用して所望のx値に対応するように計算した量の炭酸カルシウム及び酸化ガリウムと密接に混合した。
【0140】
典型的には5グラムの調製スケールでるつぼ中の混合物の焼成を、1000℃で24時間行った(加熱速度:5℃/分、冷却速度:5℃/分)
7CaHPO4+(3.5−1.5x)CaCO3+x/2Ga23
Ca10.5-1.5xGax(PO47+3.5H2O+(3.5−1.5x)CO2
【0141】
化合物の構造は、垂直PW1050(θ/2θ)角度計及びPW1711Xe検出器を取り付けたフィリップスPW1830ジェネレータを使用して記録したX線粉末回折パターンからのリートフェルト(Rietveld)改良により得られた。データは、Niフィルター銅Kα照射を使用してステップバイステップモードで、2θ最初:10°、2θ最後:100°、ステップ2θ=0.03、ステップ当たりの時間:2.3秒を用いて取得した。
【0142】
こうして得られたCa9.27Ga0.82(PO47の原子座標を表1に示す。得られたデータから、化合物は、5個のカルシウム部位のうちの1個が徐々にガリウムにより置換され、第2のカルシウム部位が電荷補償により空になるβ−TCP型の構造を有することは明らかである。スペース基は、a=10.322Å、c=37.179Å、α=90°、β=90°、及びγ=120°を有するR3cである。
【0143】
4mmのプローブヘッドとZrO2ロータを使用して7.0Tで記録した31P MAS NMRスペクトル(図2)を、化合物から取った。スペクトルは、ガリウムに結合したリン酸部位の数が増加すると、NMRピークが高磁場へシフトすることを示す。
【0144】
Ca10.5-1.5xGax(PO4771Gaエコー MAS NMRスペクトル。は17.67Tで記録した。スペクトルは、X線構造測定結果と一致して、GaO5環境[−38〜−46ppm]に特徴的なアイソトープ化学シフトを有する、化合物中のガリウムイオンの存在を示す。
【表2】

【0145】
実施例2:共沈殿によるガリウム添加リン酸カルシウムの調製
(Ca+Ga)/Pモル比が1.5の生成物について、0.444gの硝酸ガリウム(Aldrich、MW=390)と2.685gの硝酸カルシウム四水和物(MW=236)の混合物を、125mLの超純水を含有するビーカーに溶解する。
【0146】
濃アンモニア溶液を用いて、溶液のpHを9〜9.5の範囲で調整する。次に反応混合物を油浴中に置いた、滴下ロートを備えた三ツ首丸底フラスコに入れた。次に滴下ロートに、125mLの超純水に溶解した1.089gのリン酸水素二アンモニウム(MW=132)を入れる。反応混合物の温度を50℃に上げ、リン酸水素二アンモニウムの溶液を滴下して5〜10分かけて加える。混合物が白くなる。濃アンモニア溶液を用いて、溶液のpHを7.5〜8の範囲に調整する(反応の初期時間)。30分後、ヒーターを止め、懸濁物(pHは中性)を遠心分離する。上清の主要な部分を取り出し、固体残渣を250mLの超純水で洗浄し、遠心分離し、再度上清の主要な部分を取り出す。この操作を4回繰り返した後、最後の固体をろ別する。白色の蝋質の生成物を80℃のオーブン中で24時間乾燥する。
【0147】
化合物をIRスペクトル法[OH(〜3570cm-1)とPO4(〜1040と1100cm-1)]、粉末X線回折法[2θ=〜26°(中)と〜32°(強)でブロード線]、及び31P MAS NMRスペクトル法[2.9ppmでブロード共鳴]により性状解析後、1000℃で焼成する(図4)。対応するデータは、カルシウム欠損アパタイトに特徴的である。
【0148】
これはまた、(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.5の範囲で、ガリウム含量が最大4.5重量%である元素分析によっても確認された。
【0149】
1000℃で焼成後、得られた化合物は、粉末X線回折と固体31Pと71Ga NMRにより確認されるように実施例1で得られたもの(x=0〜0.75)に一致し、β−TCPに近い構造を示している。多量の硝酸ガリウム(初期Ga/P比>約0.15)について、焼成化合物中に、ガリウム添加TCP相と混合された副産物(主に酸化ガリウム)の存在が観察された。
【0150】
実施例3:固体/液体反応によるガリウム添加CDAの調製
超純水中の1リットルの硝酸ガリウム溶液(最大0.25×10-3mol/l)を調製し、pHを10重量%NH4OH溶液を添加して8.4に調整した。この溶液に2gのCDAを懸濁し、再度pHを10重量%NH4OH溶液を加えて8.4に調整した。懸濁物を室温に維持した試験管中に置き、回転スターラーで16rpmで2日間攪拌した。次に懸濁物を遠心分離し、上清の大部分を除去した。固体残渣をろ別し、少量の超純水で数回洗浄し、次に室温で乾燥した。得られた固体は最大0.65重量%のガリウムを含有した。化合物をIRスペクトル法[OH(〜3570cm-1)とPO4(〜1040と1100cm-1)]、粉末X線回折法[2θ=〜26°(中)と〜32°(強)でブロード線]、及び31P MAS NMRスペクトル法[2.9ppmでブロード共鳴]により性状解析後、1000℃で焼成した(図4)。対応するデータは、カルシウム欠損アパタイトに特徴的であった。
【0151】
実施例4:アパタイトガリウム化リン酸カルシウムセメントの調製
ガリウム添加CDA又はβ−TCPを使用して、粉砕したα−TCP、β−TCP、DCPA、及びCDAを混合することにより、ガリウム添加リン酸カルシウムセメントを調製した。
CaHPO4とCaCO3の2:1モル混合物を1350℃で少なくとも4時間焼成することによりα−TCPを得て、次に急速に室温まで冷却した。反応生成物は5%未満のβ−TCPを含有した。
ガリウム添加β−TCPを実施例1に従って調製した。ガリウム添加CGAを実施例2に従って合成した。
セメント混合物の主成分はα−TCPであり、これは、約50%の固体の粒子サイズが0.1〜8μmで、約25%が8〜25μm、そしてさらに25%が25〜80μmになるように粉砕した。
【0152】
セメント混合物の組成を以下の表2に示す。
【表3】

【0153】
次に液相として、蒸留水中の2.5重量%のNa2HPO4溶液を使用して、セメント粉末からセメントペーストを調製した。使用した液体/粉末比は0.35ml/gであった。
【0154】
こうして調製したセメントは、初期硬化時間、圧縮力、及びX線回折パターンにより性状解析した。
初期硬化時間は、室温(20±1℃)でASTM基準に従ってギルモア針を使用して測定した。結果を以下の表3に示す。
【0155】
テクスチャアナライザーを使用して圧縮力を測定した。まず、高さ12mmで直径6mmのセメントシリンダーをテフロン(登録商標)鋳型で作成した。次にシリンダーを37℃のリンゲル液に24時間浸した後、テクスチャアナライザーを用いて圧縮速度1mm/分で圧縮力を測定した。結果を以下の表3に示す。
【0156】
硬化したセメント材料をさらにX線回折を使用して試験した。ガリウム添加β−TCP又はCDAの存在にもかかわらず、生成した主要な最終生成物は、α−TCPの変換から生じるカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトであった。
【表4】

【0157】
結果は、ガリウム添加β−TCP又はCDAを導入すると、硬化時間と圧縮力がガリウムの取り込みによる影響を受けないことを示す。得られたデータはさらに、得られた材料が臨床的使用に適していることを示す。
【0158】
実施例5:MCPM及びHPMCを含むアパタイトガリウム化リン酸カルシウムセメントの調製
粉砕α−TCP、ガリウム添加β−TCP、DCPD、CDA、MCPM、及びHPMCを混合して、ガリウム添加リン酸カルシウムセメントを調製した。
CaHPO4とCaCO3の2:1モル混合物を1350℃で少なくとも4時間焼成することによりα−TCPを得て、次に急速に室温まで冷却した。反応生成物は5%未満のβ−TCPを含有した。
ガリウム添加β−TCPを実施例1に従って調製した。セメント混合物の主成分はα−TCPであり、これは、約50%の固体の粒子サイズが0.1〜8μmで、約25%が8〜25μm、そしてさらに25%が25〜80μmになるように粉砕した。
【0159】
調製したセメント混合物の組成を以下の表4に示す。
【表5】

【0160】
次に液相として、蒸留水中の5重量%のNa2HPO4溶液を使用して、セメント粉末からセメントペーストを調製した。使用した液体/粉末比は0.50ml/gであった。
こうして調製したセメントは、初期硬化時間、圧縮力、及びX線回折パターンにより性状解析した。
初期硬化時間は、室温(37±1℃)でASTM基準に従ってギルモア針とサーモスタットセルとを使用して測定した。結果を以下の表5に示す。
【0161】
テクスチャアナライザーを使用して圧縮力を測定した。まず、高さ12mmで直径6mmのセメントシリンダーをテフロン(登録商標)鋳型で作成した。次にシリンダーを37℃のリンゲル液に24時間浸した後、テクスチャアナライザーを用いて圧縮速度1mm/分で圧縮力を測定した。結果を以下の表5に示す。
【0162】
硬化したセメント材料をさらにX線回折を使用して試験した。ガリウム添加β−TCPの存在にもかかわらず、生成した主要な最終生成物は、α−TCPの変換から生じるカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトであった。
【表6】

【0163】
結果は、ガリウム添加β−TCPを導入すると、硬化時間と圧縮力がガリウムの取り込みによる影響を受けないことを示す。
48時間の硬化時間後、対照と試料5(表5)は同じα−TCPからCDAへの変換率(%)を示す(66±3)。得られたデータはさらに、得られた材料が臨床的使用に適していることを示す。
【0164】
実施例6:アパタイトガリウム化リン酸カルシウムセメントの調製
粉砕α−TCP、ガリウム添加CDA、DCPD、MCPM、及びHPMCを混合して、ガリウム添加リン酸カルシウムセメントを調製した。
CaHPO4とCaCO3の2:1モル混合物を1350℃で少なくとも4時間焼成することによりα−TCPを得て、次に急速に室温まで冷却した。反応生成物は5%未満のβ−TCPを含有し、ガリウム添加CDAは実施例3に従って合成した。
セメント混合物の主成分はα−TCPであり、これは、約50%の固体の粒子サイズが0.1〜8μmで、約25%が8〜25μm、そしてさらに25%が25〜80μmになるように粉砕した。
【0165】
調製したセメント混合物の組成を以下の表6に示す。
【表7】

【0166】
次に液相として、蒸留水中の5重量%のNa2HPO4溶液を使用して、セメント粉末からセメントペーストを調製した。使用した液体/粉末比は0.50ml/gであった。
こうして調製したセメントは、初期硬化時間、圧縮力、及びX線回折パターンにより性状解析した。
初期硬化時間は、室温(37±1℃)でASTM基準に従ってギルモア針とサーモスタットセルとを使用して測定した。結果を以下の表7に示す。
【0167】
テクスチャアナライザーを使用して圧縮力を測定した。まず、高さ12mmで直径6mmのセメントシリンダーをテフロン(登録商標)鋳型で作成した。次にシリンダーを37℃のリンゲル液に24時間浸した後、テクスチャアナライザーを用いて圧縮速度1mm/分で圧縮力を測定した。結果を以下の表7に示す。
【0168】
硬化したセメント材料をさらにX線回折を使用して試験した。ガリウム添加CDAの存在にもかかわらず、生成した主要な最終生成物は、α−TCPの変換から生じるカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトであった。
【表8】

【0169】
結果は、ガリウム添加CDAを導入すると、硬化時間と圧縮力がガリウムの取り込みによる影響を受けないことを示す。得られたデータはさらに、得られた材料が臨床的使用に適していることを示す。
【0170】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のガリウム添加リン酸カルシウム化合物:
Ca(10.5-1.5x)Gax(PO47 (I)
(式中、0<x<1)
とその塩、水和物、及び混合物を含んでなるガリウム化リン酸カルシウム生体材料。
【請求項2】
前記式(I)において0<x≦0.85であることを特徴とする、請求項1に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料。
【請求項3】
前記式(I)のガリウム添加リン酸カルシウム化合物が、Ca10.125Ga0.25(PO47、Ca9.75Ga0.5(PO47、Ca9.375Ga0.75(PO47、及びCa9.27Ga0.82(PO47からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料であって、
(a)適切な量のガリウム化合物の存在下でリン酸カルシウムに炭酸カルシウムを接触させる工程、
(b)混合物を焼結してガリウム添加リン酸カルシウム化合物を生成する工程、及び
(c)ガリウム添加リン酸カルシウム化合物を回収する工程、を含んでなる固体法により得られ、
そして、ガリウム含量が最大5.3重量%であることを特徴とする、生体材料。
【請求項5】
ガリウム化リン酸カルシウム生体材料であって、
(a)カルシウム化合物と適切な量のガリウム化合物とを含有する水溶液を調製する工程、
(b)工程(a)で得られた溶液のpHを、必要であれば、8.5〜12の値に調整する工程、
(c)該溶液に適切な量のリン酸化合物を加える工程、
(d)該溶液のpHを7.0〜12の値に調整することにより、ガリウム添加リン酸カルシウム化合物を沈殿させる工程、及び
(e)溶液から、沈殿したガリウム添加リン酸カルシウム化合物を分離する工程、を含んでなる方法により得られるガリウム添加リン酸カルシウム化合物を含んでなり、
かつ、(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.67の範囲であり、ガリウム含量が最大4.5重量%であることを特徴とする、生体材料。
【請求項6】
ガリウム化リン酸カルシウム生体材料であって、
(a)リン酸カルシウムをガリウム水溶液に懸濁し、そのpHを8〜9の値に調整する工程、
(b)得られた懸濁物を室温で攪拌する工程、及び
(c)溶液から、ガリウム添加リン酸カルシウム化合物を分離する工程、を含んでなる固体/液体法により得られるガリウム添加リン酸カルシウム化合物を含んでなり、
そして、(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.67の範囲であり、ガリウム含量が最大0.65重量%であることを特徴とする、生体材料。
【請求項7】
β−リン酸三カルシウム(β−TCP)様構造を有するリン酸カルシウム化合物を含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料。
【請求項8】
カルシウム欠損アパタイト(CDA)様構造を有するリン酸カルシウム化合物を含んでなる、請求項5〜6のいずれか一項に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料。
【請求項9】
前記材料が自己硬化性である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料。
【請求項10】
ポリマーをさらに含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料。
【請求項11】
請求項9に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料の製造方法であって、
− 適切な量のTCP(Ca3(PO42)を提供する工程、
− TCPを適切な量の1つ以上のガリウム添加リン酸カルシウム化合物及び任意の他の添加物と混合する工程、及び
− これらの成分を粉砕して、リン酸カルシウムセメントの固相を形成する工程、
を含んでなる方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料を含んでなるインプラント。
【請求項13】
請求項12に記載のインプラントの製造方法であって、
(i)請求項9〜10のいずれか一項に記載の自己硬化性ガリウム化リン酸カルシウム生体材料を適切な量の水性液相と混合して、セメントペーストを得る工程、及び
(ii)セメントペーストをインプラントに成形する工程、
含んでなる方法。
【請求項14】
流体成分との組み合わせにおいて、請求項1〜10のいずれか一項に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料を含んでなるキット。
【請求項15】
骨又は歯の欠損を充填するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載のガリウム化リン酸カルシウム生体材料の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−519505(P2012−519505A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552441(P2011−552441)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052723
【国際公開番号】WO2010/100211
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(509053639)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【出願人】(506152885)ユニベルシテ ドゥ ナント (3)
【Fターム(参考)】