説明

ガードレール用木製ビームユニット

【課題】丸太状木材を用いるガードレールについて、低コストで充分な強度を確保しながら車両の衝突で支柱が傾倒しても車両誘導機能が損なわれにくくする。
【解決手段】支柱5,5間を上下2段で架設する丸太状木材による1対のビーム部材10,11と、その端部側をボルト止めしてビーム部材同士を連結しながら支柱5に固定される平板状のブラケット15からなるガードレール用木製ビームユニット2において、ビーム部材10,11を上段側が下段側よりも所定レベル太い組み合わせとし、ブラケット15をビーム取付け面が起立状態で支柱5に固定されるものとして、支柱5にブラケット15を固定しながら複数の支柱5間を架設することで、ビーム取付け面にその太さ分側方に突出して取付けられた上下2段のビーム部材10,11の突出方向先端側の外周面を渡して接する仮想の平面である車両誘導面Sが、ビーム部材10,11の径差で道路側に所定角度傾倒するものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガードレール用木製ビームユニットに関し、殊に、ガードレールの支柱間に架設するビームに丸太状の木材を用いた木製ビームユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガードレールの支柱間に架設するビームに木材を用いたものが普及している。このように、従来は鋼材で作成していたビームを木材で作成することにより、林業において廃材として扱われていた間伐材を有効活用できることに加え、木質の外観により周囲の景観を損ないにくい状態でガードレールを設置することが可能となる。
【0003】
斯かるガードレール用の木製ビームとしては、原木を丸太状に加工したビーム部材とこれらを支柱側に取り付けるための専用のブラケットをビームの1単位(ユニット)として、ガードレール支柱間に架設する方式のものが汎用されている。しかし、木製ビームは屋外の風雨・日光に曝されることにより、木材が退色しながら劣化が進み弾力性と強度が低下しやすいことが知られている。
【0004】
また、前述の木製ビームユニットにおいては、ビーム部材の端部側をボルトによる1点止めでブラケットに取付けてあるのが通常であり、車両衝突に伴う引っ張り力に抗しきれずにボルト挿通孔部分で破損して長手方向に連結したビーム部材間にズレを生じるため、ビーム及び支柱の連続性が断たれて衝突車両の誘導機能が損なわれやすくなるという難点がある。
【0005】
これに対し、特開2007−247149号公報に記載されているもののように、丸太の長手方向に設けた背割り溝に金属製の芯材を埋め込んで木製ビームの強度を高めたものが知られている。しかしながら、このように丸太と金属製の芯材を組み合わせたハイブリッド式のビームにあっては、芯材を埋め込むための工程が加わるとともに部品点数が増加するため、全体としてのコストアップが避けられない。また、ビーム部材として使用する丸太の太さを所定レベル以上に太くして強度を上げることも考えられるが、充分な強度を発揮可能な太さで上下2段のビーム部材を総て均一に揃えることもコストアップに繋がってしまう。
【0006】
一方、道路用の防護柵であるガードレールは、衝突車両を安全な方向に誘導するための誘導用手段として機能するのが通常であるが、車両が衝突することにより支柱が外側に傾倒して車両誘導面(ビーム面)を上向きに傾けながらビームの高さ(柵高)が低くなってしまうため、衝突車両がビーム面の上を外側に向かって滑りながらこれを乗り越えやすくなり、安全かつスムースな誘導機能を発揮しにくい状況になる。
【0007】
この問題に対し、特開平8−113925号公報には、標準タイプの鋼板製ビームを支柱の側面から離間した位置でブラケットを介し道路側に傾倒するように取付けたことで、車両の衝突により支柱が傾倒した場合でも予め設けた傾斜で車両誘導面の垂直性を維持しやすいものとし、かつ、ビームがブラケットの取付け軸を中心に回転する構造として支柱の傾倒に伴ないビームの高さが増すものとして、衝突車両の安全かつスムースな誘導機能を確保しやすいものとした、ガードレール用支柱ブラケットが提案されている。
【0008】
しかしながら、このガードレール用支柱ブラケットには専用の支柱が必要であり、標準タイプの鋼製支柱をそのまま用いることができない。また、標準タイプの鋼板製ビームを傾斜した状態で固定するための構造を有しているため、これをそのまま丸太状のビーム部材を固定するために用いることもできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−247149号公報
【特許文献2】特開平8−113925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、丸太状の木材をビームに用いるガードレールについて、低コストで充分なる強度を確保しながら、車両の衝突により支柱が傾倒しても車両誘導機能が損なわれにくいものとすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明は、丸太状の木材からなり支柱間を上下2段で架設する1対のビーム部材と、この1対のビーム部材の各端部側をボルト止めして長手方向に隣接するビーム部材同士を連結しながら支柱に固定される1枚の平板状のブラケットとからなるガードレール用木製ビームユニットにおいて、その1対のビーム部材は上段側が下段側よりも所定レベル太い組み合わせとされ、そのブラケットはビーム取付け面が支柱の長手方向に対し平行な起立状態で支柱の側面道路側に固定されるものとなっており、垂直に立設した支柱にブラケットを固定しながら複数の支柱間を複数で連続的に架設することにより、ブラケットのビーム取付け面にその太さ分側方に突出した状態で取付けられた上下2段のビーム部材の突出方向先端側の外周面を渡して接する仮想の平面である車両誘導面が、上下のビーム部材の径差により道路側に所定角度傾倒した状態となる、ことを特徴とするものとした。
【0012】
このように、丸太状のビーム部材を上下2段で平板状のブラケットに取付けたものを1つのビームの単位としながら上段側が下段側よりも太い組合せとしたことにより、簡易な構成で既存の標準タイプの支柱に固定することができ、上段に下段よりも太いビーム部材を用いたことでコストを低廉に抑えやすいものとなり、かつ、太さの異なる2種類のビーム部材を用いて予め道路側に傾いた車両誘導面を形成したことにより、車両が先に強度の高い上段のビーム部材に当たってから下段のビーム部材に当たるため、下段のビーム部材の強度が低くても全体として高い強度を発揮しやすいことに加え、車両誘導面が予め道路側に傾いていることで車両誘導面の垂直性を維持しやすいことから、車両誘導機能が損なわれにくいものとなる。
【0013】
また、このガードレール用木製ビームユニットにおいて、その車両誘導面の傾倒角度は2〜6°に設定されたものとすれば、通常は適度な車両誘導機能を発揮しながら、支柱が傾倒した場合に傾きの程度に応じて車両誘導面の垂直性を維持しやすいものとなる。
【0014】
さらに、このガードレール用木製ビームユニットにおいて、その1対のビーム部材は、上段側の径が170〜190mmであり下段側の径が150〜170mmであって、上下の取付けピッチが260〜360mmとされていることを特徴としたものとすれば、間伐材を有効利用しやすい太さの組み合わせで車両誘導面の傾倒角度を確保しやすいものとして、コストを低廉に抑えながら充分なる強度と適度な車両誘導機能を発揮しやすいものとなる。
【0015】
さらにまた、上述したガードレール用木製ビームユニットにおいて、そのビーム部材の端部側は、長手方向に所定間隔を有したボルトによる2点止めでブラケットに取付けられることを特徴としたものとすれば、車両衝突の際にたわみ変形に伴う引っ張り力に抗して長手方向に連結したビーム部材間のズレを最小限に抑えながら、ビーム及び支柱の連続性を維持しやすいものとなる。
【0016】
加えて、上述したガードレール用木製ビームユニットにおいて、そのブラケットは、円柱状の鋼製支柱に対し鋼板製ビームを支柱に取付けるためのビーム取付け用ブラケットを介して、左右方向の中間位置にてボルトによる1点止めで支柱に固定されることを特徴としたものとすれば、鋼板製の標準タイプのビームを固定する既存のブラケットと既存の支柱をそのまま利用できることに加え、1点止めによる支柱への固定のため、勾配のある地形にも容易に対応可能なものとなる。
【0017】
加えて、上述したガードレール用木製ビームユニットにおいて、そのビーム部材は、乾燥した丸太状木材に対し、加圧式保存処理薬剤のうちAAC−1又はCUAZ−2を、真空加圧含浸装置を使用して所定量を含浸した後、その未乾燥材に日本建築学会仕様書に規定の水溶性木材保護塗料を塗布又は浸漬することにより、防腐処理・表面塗装が施されてなるものである、ことを特徴としたものとすれば、木質ビームの美観を長期間に亘って維持しやすいとともに、木材部分の弾力性と強度を長期間に亘って維持しやすいものとなる。
【発明の効果】
【0018】
下段よりも上段が太いビーム部材の組み合わせで車両誘導面が道路側に傾倒することを特徴とした本発明により、低コストで充分なる強度を確保しながら、車両の衝突で支柱が傾倒した場合でも車両誘導機能が損なわれにくいものとすることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明における実施の形態のガードレール用木製ビームユニットの正面図である。
【図2】図1のガードレール用木製ビームユニットを用いて設置したガードレールを示す背面図である。
【図3】図2の部分拡大平面図である。
【図4】図2のX−X線に沿う部分拡大断面図である。
【図5】(A),(B),(C)は図2のガードレール用木製ビームユニットによる機能面の特徴を説明するための縦断面図である。
【図6】実施例2による試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態であるガードレール用の木製ビームユニット2の正面図を示している。この木製ビームユニット2は、木材を丸太状に形成してガードレールの支柱間に上下2段で架設されるビーム部材10,11と、この木製のビーム部材10,11の各端部側をボルト止めして長手方向に隣接するビーム部材10,10、11,11同士を連結しながら、道路に沿って垂直に立設した支柱に固定される1枚の平ブラケット15とで、複数の支柱間に複数で架設されてガードレールを構成するビームの1つの単位をなすものである。
【0022】
斯かる木製ビームユニット2は、これを用いて設置した図2のガードレール1Aの背面図に示すように、所定間隔で立設された標準タイプの支柱5,5,・・・の間を架設しながらガードレール1Aを構成するビームの1つの単位であり、図2の部分拡大平面図である図3に示すように、鋼製で円柱状の支柱5に対し、その平ブラケット15の左右方向中央部分を、鋼板をアーチ状に形成してなるレール取付け用で標準タイプのブラケット6を介しながら、1本のボルト25で固定されている。
【0023】
このように、平ブラケット15の左右方向中間位置を1本のボルト25による1点止めで支柱5に固定したことにより、勾配のある地形にも容易に対応することができ、また、平ブラケット15の平坦なビーム取付け面に直接ビーム部材10,11を取付ける構成であるため、曲線部のセットも容易に行える。この上下2段で架設されるビーム部材10,11としては、杉間伐材等の原木を均一の太さの丸太状に形成して所定の長さに揃えたものを使用することができるが、上下のビーム部材10,11の径が互いに異なって上段のビーム部材10が下段のビーム部材11よりも所定レベル太くなっている点が、本発明の特徴部分となっている。
【0024】
そして、このビーム部材10,11は、図2のX−X線に沿う断面部分拡大図である図4及び図1の正面図に示すように、その端部側のボルト挿通孔10a,10b,10c,10d(10dは図に表れない),11a,11b,11c,11d(11dは図に表れない)を挿通してボルト20,20,20,20,21,21,21,21で平ブラケット15,15の垂直なビーム取付け面に各々取付けられたことにより、上段のビーム部材10が下段のビーム部材11よりも太い分だけ道路側に余分に突出した状態となる。
【0025】
即ち、従来の丸太状のビーム部材を用いたガードレールでは、上下のビーム部材が同じ太さで車両誘導面(ビーム面)が垂直であったのに対し、本発明において上下2段のビーム部材10,11を互いに異なる太さとしたことにより、平ブラケット15の垂直なビーム取付け面から道路側に突出した外周面先端側の両方に接するように渡した仮想の平面である車両誘導面Sが、ビーム部材10,11の径差分、道路側にX度傾倒した状態となっている。
【0026】
このように太さの異なる丸太状のビーム部材10,11を組み合わせて用いたことにより、略ティーパ状の原木から無駄を最小限にしてビーム部材を採取できるため、コスト面において有利なものとなる。また、上段のビーム部材10が下段よりも太く強度の高い構成としたことで、車両が先に上段に当たって衝撃が吸収されてから下段に当たることから、下端のビーム部材11の太さは上段よりも細くても済むため、コストを低廉に抑えながら全体として充分なる強度を確保可能なものとなる。
【0027】
さらに、車両の衝突により支柱が傾倒した場合でも、車両誘導面Sが予め内側に傾倒していることで外側に大きく傾倒しにくくなるため、衝突車両の誘導機能が損なわれにくくなっている。尚、この傾倒角度については、本願発明者らが種々の条件で試験した結果、2度〜6度の範囲に設定することが、支柱が傾倒しない状態における車両誘導機能と、車両の衝突による支柱傾倒時のビーム面の垂直性維持とのバランスの観点から好適である。
【0028】
また、そのビーム部材の太さと上下の取付けピッチについても種々試験した結果、上段側の径を170〜190mmとし下段側の径を150〜170mmとしながら、上下の取付けピッチを260〜360mmとすることが、前述の傾倒角度を確保しながらビームの強度とコスト面のバランスの観点から、好適であることが判明している。
【0029】
加えて、本実施の形態のガードレール用木製ビームユニット2は、図1に示したように、上下1対のビーム部材10,11がその端部側を長手方向に所定間隔を置いた2点にてボルト挿通孔10a,10b,10c,10d(10c,10dは図に表れず)11a,11b,11c,11d(11c,11dは図に表れず)部分で、各々平ブラケット15にボルト止めされる構成となっている。
【0030】
そのため、従来例においてボルトによる1点止めで取付けられていたものと比べて、平ブラケット15に対する取付け状態が一層堅固なものとなり、車両の衝突によりビーム部材10,11が遠心方向(外側)に押圧されて撓んだ場合でも、長手方向に連結された木製ビーム部材10,10,11,11間におけるズレの発生を最小限に抑えることが可能であるとともに、平ブラケット15が回転しにくくなることから、ビーム及び支柱の連続性を維持しやすいものとなっている。
【0031】
図5は、本実施の形態のガードレール用の木製ビームユニット2による機能面における特徴を説明するためのものであり、車両がガードレール1Aの車両誘導面S上に位置するビーム10,11先端側外周面に衝突して支柱5が外側に傾倒した場合に、車両誘導面Sがどのように変化するかについて示すものである。
【0032】
図5(A)は、車両が衝突する前の支柱5が垂直な状態の車両誘導面Sを示している。支柱5の長手方向に対し平行で垂直な状態の平ブラケット15のビーム取付け面に取付けられた丸太状のビーム部材10,11のうち、上段のビーム部材10の径が下段のビーム部材11の径よりも大きい分だけその先端側外周面が道路側に突出しており、上下の先端側外周面を結ぶ仮想の平面による車両誘導面SがX度だけ道路側に傾倒した状態となっている。
【0033】
この状態から、図5(B)に示すように車両の衝突により支柱5が外側にX度傾倒した場合、車両誘導面Sは予め内側にX度傾倒していたことで垂直な状態になり、この垂直な車両誘導面Sで衝突車両を安全かつスムースに誘導しやすい状態となっている。尚、この場合、上段のビーム部材10は支柱5の傾倒に伴い道路側への突出量に応じた分のh1だけ高くなるため、車両がガードレール1Aを乗り越えにくい状態となっている。
【0034】
図5(C)を参照して、さらに図5(B)の2倍の角度で支柱5が傾倒して傾倒角度が2X度になった場合、車両誘導面Sの傾倒角度はX度であり、この段階でも車両誘導機能は大きく損なわれていない。尚、図5(B)の場合よりもさらに大きく傾倒した分、上段側のビーム部材10がさらに高く(h2)持ち上がることから、車両誘導面Sが多少上向きになっても衝突車両が車両誘導面Sを乗り越えにくくなるため、衝突車両のスムースかつ安全な誘導を実現しやすい状態を依然として維持している。
【0035】
尚、図から分かるように、ビーム部材10,11は丸太状であることから、ビーム面の向きが変化しても車両に当接する部分は同じ曲面であるため、衝突車両を滑らせながら安全な方向に誘導する機能が維持されやすいものとなっている。また、ビーム部材10,11外周面の平ブラケット15への取付け位置には、所定幅の平らな面取り部が長手方向に亘って形成されており、平ブラケット15への安定的な取付け状態を維持しやすいものとしている。
【0036】
一方、図3,4に示したように、平ブラケット15はアーチ状の標準タイプのレール取付け用のブラケット6を介してビーム部材10の中心軸線からやや下の位置で支柱5側にボルト25で固定されている。これに対し、下段のビーム部材11を取付けた位置の平ブラケット15支柱側には、支柱5の外周面と平ブラケット15内側面との間でブラケット6が枕状に配設されておりボルトで固定されていない。そのため、アーチ状のブラケット6がクッション材として機能しやすくなり、ビーム部材10よりも細く強度の劣るビーム部材11が弾性的に支持されることにより、ビーム部材11の強度が高められて下段のビーム部材11,11,・・・同士の連続性も維持されやすくなっている。
【0037】
ところで、木製のビーム部材は、風雨や日光に長期間曝されることで木材特有の色が退色するとともに、木材が劣化して弾力性及び強度が低下しやすいことが知られている。そのため、本実施の形態で用いるビーム部材10,11には、防腐処理・表面塗装を施しておくことが望ましい。その防腐処理としては、乾燥状態の丸太状木材に対し、加圧式保存処理用薬剤のうち、AAC−1(第4級アンモニューム化合物系)またはCUAZ―2(銅・アゾール化合物系)のいずれかを、真空加圧含浸装置を使用して所定量を含浸させることが、長期間に亘る防腐効果の確保の観点で好ましい。
【0038】
また、防腐処理後に行う表面塗装としては、未乾燥材に日本建築学会(JASS)の仕様書に規定されている水溶性木材保護塗料を湿布又は浸漬することが、長期間に亘る美観・耐候性確保の観点で好ましい。尚、防腐処理後に表面塗装をする際には材料を乾燥させてから行うのが通常であるが、後述するように、生材(未乾燥材)のままで塗装を行うことにより、再乾燥のコスト削減が図られるとともに、乾燥状態で行う場合と比べて耐候性に差がないことが判明している。
【実施例1】
【0039】
上述した実施の形態のガードレール用木製ビームユニットを用いたガードレールを実際に作成して、乗用車による衝突実験(試験1)及び大型車による衝突実験(試験2)を行い、衝突車両の誘導機能等について検証した。尚、両試験は国土交通省の国土技術政策総合研究所、実車衝突実験場にて晴天の条件にて行った。
【0040】
(試験用ガードレール)上段ビーム部材:φ180mm×1980mmの群馬県産杉材を48本、下段ビーム部材:φ160mm×1980mmの群馬県産杉材を48本、上段袖付ビーム部材:φ180mm×2490mmの群馬県産杉材を2本、下段袖付ビーム部材φ160mm×2490mmの群馬県産杉材を2本、平ブラケット:t4.5mm×600mm×425mmの鋼板(SS400)を51枚、標準ブラケットt4.5mm×70mm×300mmを102枚、支柱:φ114.3mm×t4.5mm×2100mm(地上部分700mm)の鋼製円柱状支柱を51本(土中埋設)、ビーム部材取付け位置:下段は地面から350mm、上段は地面から660mm、ビーム面の下伏角度:3.7度
(試験1)車両質量1.087t、衝突速度60.3km/h、衝突角度20.8度、離脱速度38.8km/h、離脱角度1.6度、衝撃度19kJ
(試験2)車両質量21.0t、衝突速度30.0km/h、衝突角度15.0度、離脱速度22.6km/h、離脱角度0.0度、衝撃度49kJ
【0041】
(試験1の結果)以下に試験1の結果を表1,2,3,4に示す。表1は各種性能試験、表2は支柱の最大変位量・最大残留変位量等、表3は乗員の安全性能(車両重心加速度)、表4は車両の損傷状況を示している。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
(試験2の結果)以下に試験2の結果を表5,6,7に示す。表5は各種性能試験、表6は支柱の最大変位量・最大残留変位量等、表7は車両の損傷状況を示している。
【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
上記試験結果から、前述した実施の形態のガードレール用の木製ビームユニットを作成して用いながら実際に設置したガードレールは、車両用のたわみ性防護柵として充分なる強度を有しているとともに、優れた車両誘導機能を発揮することが分かった。
【実施例2】
【0051】
本発明において用いるビーム部材の防腐処理と表面塗装の方法について、前述した方法によりAAC−1とCUAZ−2で防腐処理した板材を、生材(未乾燥材)と乾燥材に分け、前述の方法にて木材保護塗料を塗布したものをキセノンアークによる促進耐候性試験を行って、その耐候性能を検討した。
【0052】
未乾燥材のウエザリング(促進耐候性試験)時間と色差の関係を図6のグラフに示す。このグラフから、照射500時間までに急速に退色し、2000時間後には無色の薬剤であるAAC−1(無塗装)との色差(△E)は27、緑褐色のCUAZ−1でも13と、著しく退色することが分かった。これに対し、CUAZ−2に生材のまま木材保護塗料を塗布することで、わずか3以下となって設置当初の美観が長期間に亘って保持できることが分かった。また、このように耐候性に優れるということは、木材の弾力性・強度についても同様に長期間に亘って維持されることが期待されるものである。
【0053】
本発明によるガードレール用木製ビームユニットの特徴を以下にまとめると、木質ビームにおける木材の使用目的としては、従来例のような剛性防護柵に対する緩衝材ではなく、主たる部材(鋼製支柱)の連続性を確保するとともに、衝突車両を安全な方向に誘導するための誘導用材料として用いられるものである。
【0054】
また、たわみ性防護柵でありながら、ビーム部材を上段用と下段用の2種類の太さの丸太(好ましくは実施例のφ180mmとφ160mm)の組み合わせとしたことで、杉間伐材等を利用しながら比較的低コストで提供できることに加え、車両誘導面が内側に傾倒していることで、車両の衝突で支柱が外側に傾倒しても車両誘導機能が損なわれにくいものとなった。
【0055】
さらに、標準タイプの鋼製支柱にそのまま取付け可能で標準タイプのレール取付け用ブラケットがそのまま使用でき、中間支柱を追加することで既存の鋼製ガードレールから容易に本発明を用いた木質ビームに交換することもできる。加えて、平ブラケットに対するビーム部材端部側の取付け方法を1箇所当たり2点止めにしたことで、前後のビームのズレを最小限に抑えてビーム及び支柱の連続性を維持しやすいものとなった。そして、ビーム部材の防腐処理後の未乾燥の状態で木材保護塗料を塗布することにより耐候性が向上したものとなった。
【0056】
以上、述べたように、丸太状の木材をビームに用いるガードレールについて、本発明により、低コストで充分なる強度を確保しながら、車両の衝突で支柱が傾倒した場合でも車両誘導機能が損なわれにくいものとなった。
【符号の説明】
【0057】
1A ガードレール、2 木製ビームユニット、5 支柱、6 ブラケット、10,11 ビーム部材、10a,10b,10c,10d,11a,11b,11c,11d,15a,15b,15c,15d,15e,15f,15g,15h,15i,15j ボルト挿通孔、15 平ブラケット、20,21,22,25 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸太状の木材からなり支柱間を上下2段で架設する1対のビーム部材と、該1対のビーム部材の各端部側をボルト止めして長手方向に隣接する前記ビーム部材同士を連結しながら前記支柱に固定される1枚の平板状のブラケットとからなるガードレール用木製ビームユニットにおいて、
前記1対のビーム部材は上段側が下段側よりも所定レベル太い組み合わせとされ、前記ブラケットはビーム取付け面が前記支柱の長手方向に対し平行な起立状態で前記支柱の側面道路側に固定されるものであり、垂直に立設した前記支柱に前記ブラケットを固定しながら複数の前記支柱間を複数で連続的に架設することにより、前記ビーム取付け面にその太さ分側方に突出した状態で取付けられた上下2段の前記ビーム部材の突出方向先端側の外周面を渡して接する仮想の平面である車両誘導面が、前記上下のビーム部材の径差により道路側に所定角度傾倒した状態となる、ことを特徴とするガードレール用木製ビームユニット。
【請求項2】
前記車両誘導面の傾倒角度が2〜6°に設定されている、ことを特徴とする請求項1に記載したガードレール用木製ビームユニット。
【請求項3】
前記1対のビーム部材は、上段側の径が170〜190mmであり下段側の径が150〜170mmであって、上下の取付けピッチが260〜360mmとされている、ことを特徴とする請求項2に記載したガードレール用木製ビームユニット。
【請求項4】
前記ビーム部材の端部側は、長手方向に所定間隔を有したボルトによる2点止めで前記ブラケットに取付けられる、ことを特徴とする請求項1,2または3に記載したガードレール用木製ビームユニット。
【請求項5】
前記ブラケットは、円柱状の鋼製支柱に対し鋼板製ビームを支柱に取付けるためのビーム取付け用ブラケットを介して、左右方向の中間位置にてボルトによる1点止めで前記支柱に固定される、ことを特徴とする請求項1,2,3または4に記載したガードレール用木製ビームユニット。
【請求項6】
前記ビーム部材は、乾燥した丸太状木材に対し加圧式保存処理薬剤のうちAAC−1又はCUAZ−2を、真空加圧含浸装置を使用して所定量を含浸した後、その未乾燥材に日本建築学会仕様書に規定の水溶性木材保護塗料を塗布又は浸漬することにより、防腐処理・表面塗装が施されてなるものであることを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載したガードレール用木製ビームユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−7430(P2012−7430A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145901(P2010−145901)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(510178655)吾妻森林組合 (1)
【出願人】(510178666)群馬県交通安全施設業協同組合 (1)
【Fターム(参考)】