説明

ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物及びその製法

【課題】高い導電率を有すると共に、温度に対する導電率の変化の割合が小さいガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を提供する。
【解決手段】本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物は、LixLn3(M1y2z)Ot(Lnは、La,Pr,Nd等からなる群より選ばれた1種以上の元素、M1は、Si,Sc,Ti,V,Ga,Ge,Y,Zr,Nb,In,Sb,Te,Hf,Ta,W,Biからなる群より選ばれた1種以上の元素、M2は、M1とは異なる元素であって、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Si,Ga及びGeからなる群より選ばれた1種以上の元素、xは、3≦x≦8を満たす数、y及びzは、y>0,z≧0,1.9≦y+z≦2.1を満たす数、tは、11≦t≦13を満たす数)で表される骨格中にAlを含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体型リチウムイオン二次電池は、非水電解液を用いるリチウム二次電池に比べて、固体電解質を用いるため発火の心配がない。しかし、高容量の全固体型リチウムイオン二次電池は世界的に見ても未だ実用化されていない。この原因の一つに固体電解質自体の問題がある。固体電解質に求められる主な特性として、リチウムイオン伝導度(導電率)が高いこと、化学的安定性に優れていること、電位窓が広いこと、の3つが挙げられる。ガーネット型酸化物は、こうした特性のうち、化学的安定性に優れ、電位窓が広いという利点を持つため、固体電解質の有望な候補の一つである(例えば非特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. Am. Ceram. Soc., 2003年,86巻3号,437-440頁
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed., 2007年, 46巻, 7778-7781頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたガーネット型酸化物は、さらなる特性向上が望まれている。特に、導電率を上げることや温度に対する導電率の変化の割合を小さくすることが望まれている。
【0005】
本発明は、高い導電率を有すると共に、温度に対する導電率の変化の割合が小さいガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物にAlを適量添加することにより、導電率が向上すると共に、導電率の活性化エネルギーが低下して温度に対する導電率の変化の割合が小さくなることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物は、
LixLn3(M1y2z)Ot …(1)
(式(1)中、Lnは、La,Pr,Nd,Sm,Lu,Y,K,Mg,Ba,Ca,Srからなる群より選ばれた1種以上の元素、
1は、Si,Sc,Ti,V,Ga,Ge,Y,Zr,Nb,In,Sb,Te,Hf,Ta,W,Biからなる群より選ばれた1種以上の元素、
2は、M1とは異なる元素であって、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Si,Ga及びGeからなる群より選ばれた1種以上の元素、
xは、3≦x≦8を満たす数、
y及びzは、y>0,z≧0,1.9≦y+z≦2.1を満たす数、
tは、11≦t≦13を満たす数)
で表される骨格中にAlを含有しており、Alは前記LixLn3(M1y2z)Otの結晶格子内及び前記LixLn3(M1y2z)Otの粒子間の粒界の少なくとも一方に存在するものである。
【0008】
本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の製法は、
上述したガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を製造する方法であって、
(a)式(1)の各元素を含む出発原料を式(1)の化学量論比になるようにそれぞれ秤量し、混合した後の粉末を仮焼し、その後、仮焼した粉末に、本焼結でのLiの欠損を補うためにリチウム化合物を添加し、該リチウム化合物を添加した粉末を再度仮焼することにより本焼結前粉末を得る工程と、
(b)該本焼結前粉末を成形したあとアルミナ製焼成容器中で本焼結を行うか、又は、前記本焼結前粉末にAl元素を有する化合物を添加した粉末を成形したあと本焼結を行うことにより、上述したガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を得る工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物によれば、従来のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物に比べて、導電率が向上すると共に、導電率の活性化エネルギーが低下して温度に対する導電率の変化の割合が小さくなるという効果が得られる。このような効果が得られるメカニズムは明らかではないが、例えば、以下の(1),(2)が考えられる。(1)少なくとも一部のAlが、ガーネットの結晶格子中の中に取り込まれ、Liサイトの一部に置換している場合、以下のメカニズムが考えられる。すなわち、リチウムイオン伝導性ガーネット型酸化物のLiサイトは4配位又は6配位をとり、Lnサイトは8配位をとり、M1,M2サイトは6配位をとることが知られている。Alは一般に4配位又は6配位をとるため、Liサイト、M1サイト又はM2サイトに置換している可能性がある。但し、元々Liサイトに空サイトが多いことから、AlはLiサイトに置換しやすいと考えられる。AlとLiのイオン半径を比較すると、Al3+(4配位:0.39Å、6配位:0.535Å)、Li+(4配位:0.59Å、6配位:0.76Å)である。このため、AlがLiサイトを置換すると、Al−O距離が短いので、Li−O距離は若干伸びて、Liイオンが伝導しやすくなると考えられる。但し、Al量が多くなりすぎると、AlがLi伝導を阻害すると考えられる。以上のことから、添加するAl量には適正量が存在すると考えられる。(2)少なくとも一部のAlが、ガーネットの結晶粒界中に存在している場合、以下のメカニズムが考えられる。すなわち、結晶粒界中のAlが、固体電解質の焼結助剤として作用し、電解質の焼結密度を高め、粒界抵抗を下げ、その結果導電率が向上したと考えられる。なお、本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物は、全固体型リチウムイオン二次電池への適用が可能であり、特に高出力が要求される自動車搭載用の二次電池への適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】XRDパターンを示すグラフである。
【図2】La3モルに対するAlのモル比と25℃導電率との関係を示すグラフである。
【図3】La3モルに対するAlのモル比と導電率の活性化エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図4】La3モルに対するAlのモル比と格子定数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物は、式(1)つまりLixLn3(M1y2z)Otで表される骨格中にAlを含有しており、Alは前記LixLn3(M1y2z)Otの結晶格子内及び前記LixLn3(M1y2z)Otの粒子間の粒界の少なくとも一方に存在するものである。ここで、Lnは、La,Pr,Nd,Sm,Lu,Y,K,Mg,Ba,Ca,Srからなる群より選ばれた1種以上の元素であるが、このうちLaが好ましい。M1は、Si,Sc,Ti,V,Ga,Ge,Y,Zr,Nb,In,Sb,Te,Hf,Ta,W,Biからなる群より選ばれた1種以上の元素であるが、このうちZrが好ましい。M2は、M1とは異なる元素であって、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Si,Ga及びGeからなる群より選ばれた1種以上の元素であるが、このうちNbが好ましい。xは、3≦x≦8を満たす数であるが、5≦x≦7を満たすことが好ましい。また、xは、5+yとしてもよい。y及びzは、y>0,z≧0,1.9≦y+z≦2.1を満たす数である。yは、1.4≦y<2を満たすことが好ましく、1.625≦y≦1.875を満たすことがより好ましい。zは、2−yとしてもよい。tは、11≦t≦13を満たす数(例えば12)である。Alは、Ln3モルに対して0.05モル以上0.30モル以下含有していることが好ましく、0.07モル以上0.25モル以下含有していることがより好ましい。
【0012】
本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物は、全固体型リチウム二次電池に利用可能である。こうした二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極との間に、本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を介在させた構成とすることができる。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-a)MnO2(0≦a<1など、以下同じ)、Li(1-a)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-a)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-a)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。また、負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、導電性ポリマーなどが挙げられるが、このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。この炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり電解質塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時おける不可逆容量を少なくできるため、好ましい。
【0013】
本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法の一例について説明する。この酸化物の製造方法は、(a)本焼結前粉末を作製する工程と、(b)本焼結前粉末を成形したあとアルミナ製焼成容器中で本焼結を行うか、又は、本焼結前粉末にAl元素を有する化合物を添加した粉末を成形したあと本焼結を行う工程とを含む。このうち、工程(a)は、1)第1混合工程、2)第1仮焼工程、3)第2混合工程、4)第2仮焼工程を含む。以下、工程(a)の1)〜4)及び工程(b)について、順に説明する。
【0014】
(a)本焼結前粉末の作製
1)第1混合工程
第1混合工程では、式(1)つまりLixLn3(M1y2z)Ot(Ln,M1,M2,x,y,z,tは前出のとおり)の各元素を含む出発原料を式(1)の化学量論比になるようにそれぞれ秤量し、混合する。出発原料としては、各元素の炭酸塩や硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物などを用いることができる。このうち、熱分解して炭酸ガスを生じる炭酸塩及び熱分解して水蒸気を生じる水酸化物が、ガスの処理が比較的容易であり好ましい。例えば、Liの炭酸塩、Lnの水酸化物、M1の酸化物及びM2の酸化物を用いることが好ましい。混合方法は、溶媒に入れずに乾式で混合粉砕してもよいし、溶媒に入れて湿式で混合粉砕するものとしてもよいが、溶媒に入れて湿式の混合粉砕を行うことが混合性の向上の面からは好ましい。この混合方法は、例えば、遊星ミル、アトライター、ボールミルなどを用いることができる。溶媒としては、Liが溶解しにくいものが好ましく、例えばエタノールなどの有機溶媒がより好ましい。混合時間は、混合量にもよるが、例えば2h〜8hとすることができる。
【0015】
2)第1仮焼工程
第1仮焼工程では、第1混合工程で得られた混合粉末を仮焼する。このときの仮焼温度は、出発原料の状態変化(例えばガスの発生とか相変化など)が起きる温度以上、本焼結時の温度未満とするのが好ましい。例えば、出発原料の一つとしてLi2CO3を用いた場合には、この炭酸塩が分解する温度以上、本焼結時の温度未満とするのが好ましい。こうすれば、のちの本焼結において、熱分解でのガス発生による密度の低下を抑制することができる。具体的には、仮焼温度は、900℃〜1150℃とすることが好ましい。
【0016】
3)第2混合工程
第2混合工程では、第1仮焼工程で得られた仮焼粉末に、本焼結でのLiの欠損を補うためのリチウム化合物(例えば炭酸リチウム)を添加し、混合する。このときの添加量は、第1仮焼工程、第2仮焼工程及び本焼結工程などの焼成工程の各条件に応じて、経験的に定めるものとする。第2混合工程では、添加量として仮焼粉末中のLi量に対してLi量が4atomic%(at.%)以上20at.%以下の範囲に相当するLiを添加することが好ましい。
【0017】
4)第2仮焼工程
第2仮焼工程では、第2混合工程で得られた混合粉末を仮焼する。この工程は、第1仮焼工程と同様の条件で行ってもよいが、リチウム化合物の状態変化が起きる温度以上、第1仮焼工程の仮焼温度未満で行うことが好ましい。例えば、リチウム化合物として炭酸リチウムを用いた場合には、この炭酸塩が分解する温度以上、第1仮焼工程の仮焼温度未満とするのが好ましい。こうすれば、再仮焼した材料が固化してしまうのが抑制されるため、本焼結工程の前に、再仮焼した材料を粉砕する必要がなく好ましい。また、第2仮焼工程では、第1仮焼工程に比して状態変化させる必要のある材料の量が僅かであるため、仮焼時間を短くしてもよい。この第2仮焼工程を行うことにより、のちの本焼結工程において、第2混合工程で添加したリチウム化合物の状態変化に伴う密度の低下を抑制することができる。具体的には、仮焼温度は、900℃〜1150℃とすることが好ましい。
【0018】
(b)本焼結前粉末の本焼結
この本焼結では、第2仮焼工程で得られた材料(本焼結前粉末という)を成形したあとアルミナ製焼成容器中で本焼結を行うか、又は、本焼結前粉末にAl元素を有する化合物(例えばアルミナ)を添加した粉末を成形したあと本焼結を行う。後者の場合、焼成容器はアルミナ製であってもよいし、他の材質で作製されたものでもよい。本焼結の温度は、第1仮焼温度や第2仮焼温度よりも高く設定する。本焼結前粉末は、2回仮焼しており、固化・固着していることが少ないため、簡単な解砕により比較的容易に成形体へ成形することができる。成形体への成形は、本焼結前粉末を、冷間等方成形(CIP)や熱間等方成形(HIP)、金型成形、ホットプレスなどにより任意の形状に行うことができる。
【0019】
以上詳述した製法によれば、出発原料の混合粉末を仮焼したあと、経験的に求めた添加量のリチウム化合物を添加して再仮焼し、その後本焼結を行うため、組成のずれを精度よく抑制することができる。なお、本発明のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の製法は、これに限定されるものではなく、他の製法を採用しても構わない。
【実施例】
【0020】
[本焼結前粉末の作製]
本発明の効果を実証するために、ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の例として、Li6.75La3(Zr1.75Nb0.25)O12を取り上げた。出発原料にはLi2CO3、La(OH)3、ZrO2、Nb25を用いた。はじめに、出発原料を化学量論比になるように秤量し、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で2時間、混合・粉砕を行った(第1混合工程)。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離した後、アルミナ製坩堝中にて、950℃、10時間大気雰囲気で仮焼を行った(第1仮焼工程)。その後、本焼結でのLiの欠損を補う目的で、仮焼した粉末に、Li6.75La3(Zr1.75Nb0.25)O12の組成中のLi量に対してLi換算で10at.%になるようにLi2CO3を過剰添加した。この混合粉末を、混合のためエタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で2時間処理を行った(第2混合工程)。得られた粉末を再び950℃、10時間大気雰囲気の条件下で再度仮焼し(第2仮焼工程)、本焼結前粉末を得た。
【0021】
[実施例1]
本焼結前粉末をペレット成型し、アルミナ製焼成容器中で1180℃、36時間大気中の条件下で本焼結を行い、ペレット試料を作製した。
【0022】
[実施例2]
本焼結前粉末に対して、0.9wt%のアルミナを加え、アルミナ乳鉢で30分充分に乾式混合した。その後、ペレット成型し、アルミナ製焼成容器中で1180℃、36時間大気中の条件下で本焼結を行い、ペレット試料を作製した。
【0023】
[実施例3]
本焼結前粉末に対して、1.5wt%のアルミナを加え、アルミナ乳鉢で30分充分に乾式混合した。その後、ペレット成型し、アルミナ製焼成容器中で1180℃、36時間大気中の条件下で本焼結を行い、ペレット試料を作製した。
【0024】
[実施例4]
本焼結前粉末に対して、3wt%のアルミナを加え、アルミナ乳鉢で30分充分に乾式混合した。その後、ペレット成型し、アルミナ製焼成容器中で1180℃、36時間大気中の条件下で本焼結を行い、ペレット試料を作製した。
【0025】
[比較例1]
本焼結前粉末の作製における第1混合工程の段階で、Al23も混合した。混合量はLa3モルに対して、Al0.15モルとした。それ以外は、[本焼結前粉末の作製]と同様の手順で本焼結前粉末を作製した。得られた本焼結前粉末をペレット成型し、アルミナ製焼成容器中で1180℃、36時間大気中の条件下で本焼結を行い、ペレット試料を作製した。
【0026】
[比較例2]
本焼結前粉末をペレット成型し、ジルコニア製焼成容器中で1180℃、36時間大気中の条件下で本焼結を行い、ペレット試料を作製した。
【0027】
[導電率の測定]
恒温槽中にてACインピーダンスアナライザーを用い(周波数:40Hz〜110MHz、振幅電圧:100mV)、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から導電率を算出した。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを850℃、30分の条件で焼き付けることで形成した。得られた導電率を表1にまとめた。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1〜4で得られた試料は、3×10-4S/cm以上の高い導電率を示した。特に実施例1〜3で得られた試料は、6×10-4S/cm以上の高い導電率を示した。それに対して、比較例2で得られた試料は、3×10-5S/cmという低い導電率を示した。また、比較例1で得られた試料は、測定周波数:40Hz〜110MHzの範囲では、導電率を見積もることが出来なかった。
【0030】
[結晶構造の同定]
各試料の相は、XRD測定結果から求めた。XRDの測定は、XRD測定器(ブルカー(Buruker)製、D8ADVANCE)を用いて、試料粉末をCuKα、2θ:10〜120°、0.01°step/1sec.の条件で測定した。実施例1〜実施例5及び比較例1で得られた試料のXRDパターンを図1に示す(10°〜50°の拡大図)。図1のXRDパターンから、実施例1〜4及び比較例1で得られた試料は、ガーネット単一相と考えられ、他のピークは検出されなかった。一方、比較例2で得られた試料からは、La2Zr27のピークが検出された。
【0031】
比較例1で得られた試料は、ガーネット単一相ながら、測定ができないほど導電率が低かったが、その理由は以下のように考えられる。比較例1のペレット中には、空孔がいくつか存在していた。これは、出発原料を混合する段階でAl23を混ぜたため、本焼結前粉末の段階で、LaAlO3が存在し(XRD測定により確認済み)、これが本焼結のときにガーネットに変化する際に、空孔を生成させ、結果として、固体電解質の導電率が低くなったと考えられる。
【0032】
比較例2で得られた試料は、坩堝にジルコニアを用いたため、試料中にはAlは存在していないと考えられる。一方で、実施例1〜4は、坩堝にアルミナを用い、試料によっては本焼結時にアルミナ添加を行っているので、ペレット中にAlが存在している。実施例1〜4の固体電解質ペレット中のLa3モルに対するAlのモル数をICP発光分析により求めた結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示すようにガーネット単一相のXRDパターンが得られた試料中からAlが検出された。以上のことから、Alを混入させることにより、La2Zr27などの不純物の生成が抑制され、高い導電率を有する試料が得られたと考えられる。但し、Alの混入を仮焼の段階で行うと、本焼結時にはペレット中に空孔が生成し、高い導電率の電解質は得られないので、Alの混入は本焼結時に行うのが望ましいことが分かった。
【0035】
[Al量と各種パラメータとの関係]
次に、固体電解質ペレット中のLa3モルに対するAlのモル数(ペレットAl量vs.La3という)と25℃導電率との関係を図2に示す。また、ペレットAl量vs.La3と導電率の活性化エネルギーとの関係を図3に示す。活性化エネルギー(Ea)は、25℃−100℃までの導電率データから、アレニウスの式:σ=Aexp(−Ea/kT)(σ:導電率、A:頻度因子、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)を用い、アレニウスプロットの傾きを求めることにより算出した。更に、ペレットAl量vs.La3と結晶構造の格子定数(XRD測定データから求めた)との関係を図4に示す。
【0036】
図2及び図3に示すように、固体電解質中にAlを含有する試料は高い導電率及び低い活性化エネルギーを示した。特に、La3モルに対して、Alが0.05〜0.30モル(とりわけ0.07〜0.25モル)のときに優れた特性を示した。また、図4に示すように、ペレット中のAl量の増加に伴い、格子定数が若干低下する傾向が見られたことから、ペレット中のAlの一部はガーネット結晶構造中に存在することが示唆される。
【0037】
[その他の実施例]
上述した本焼結前粉末の作製において、出発原料をそれぞれLi6.5La3(Zr1.5Nb0.5)O12,Li6.625La3(Zr1.625Nb0.375)O12,Li6.875La3(Zr1.875Nb0.125)O12の化学量論比となるように秤量して本焼結前粉末を得た。こうして得られた各本焼結前粉末を成形したあとアルミナ製焼成容器を用いて本焼結を行うことにより、ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を得た。各酸化物は、アルミナ製焼成容器を用いているため、Alを含有し、そのAlの少なくとも一部が結晶格子内に存在するか、粒子間の粒界に存在している。各酸化物の25℃導電率を測定したところ、それぞれ3×10-4S/cm,4.5×10-4S/cm,6×10-4S/cmであった。また、活性化エネルギーを算出したところ、いずれも0.34以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、全固体型リチウムイオン二次電池に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LixLn3(M1y2z)Ot …(1)
(式(1)中、Lnは、La,Pr,Nd,Sm,Lu,Y,K,Mg,Ba,Ca,Srからなる群より選ばれた1種以上の元素、
1は、Si,Sc,Ti,V,Ga,Ge,Y,Zr,Nb,In,Sb,Te,Hf,Ta,W,Biからなる群より選ばれた1種以上の元素、
2は、M1とは異なる元素であって、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Si,Ga及びGeからなる群より選ばれた1種以上の元素、
xは、3≦x≦8を満たす数、
y及びzは、y>0,z≧0,1.9≦y+z≦2.1を満たす数、
tは、11≦t≦13を満たす数)
で表される骨格中にAlを含有しており、Alは前記LixLn3(M1y2z)Otの結晶格子内及び前記LixLn3(M1y2z)Otの粒子間の粒界の少なくとも一方に存在する、
ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項2】
Ln3モルに対して、Alを0.07モル以上0.25モル以下含有している、請求項1記載のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項3】
LnがLaであり、M1がZrであり、xが5≦x≦7を満たす、請求項1又は2に記載のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項4】
2がNbである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を製造する方法であって、
(a)式(1)の各元素を含む出発原料を式(1)の化学量論比になるようにそれぞれ秤量し、混合した後の粉末を仮焼し、その後、仮焼した粉末に、本焼結でのLiの欠損を補うためにリチウム化合物を添加し混合し、該混合した粉末を再度仮焼することにより本焼結前粉末を得る工程と、
(b)該本焼結前粉末を成形したあとアルミナ製焼成容器中で本焼結を行うことにより、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を得る工程と、
を含むガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の製法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を製造する方法であって、
(a)式(1)の各元素を含む出発原料を式(1)の化学量論比になるようにそれぞれ秤量し、混合した後の粉末を仮焼し、その後、仮焼した粉末に、本焼結でのLiの欠損を補うためにリチウム化合物を添加し混合し、該混合した粉末を再度仮焼することにより本焼結前粉末を得る工程と、
(b)該本焼結前粉末にAl元素を有する化合物を添加し、該添加した粉末を成形したあと本焼結を行うことにより、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物を得る工程と、
を含むガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の製法。
【請求項7】
前記Al元素を有する化合物としてアルミナを用いる、
請求項6記載のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の製法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−31025(P2012−31025A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173392(P2010−173392)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】