説明

キシリレンジアミンの製造方法

【課題】循環方式によるフタロニトリルの水素化反応によりキシリレンジアミンを製造するに際し、簡便な装置で経済的にキシリレンジアミンを製造する方法を提供する。
【解決手段】原料フタロニトリルを溶媒中で2段階水素化することによるキシリレンジアミンの製造方法であって、(1)原料フタロニトリルを液体アンモニアを含む溶媒に溶解した1〜20重量%溶液を第1反応域入口へ供し、不均一系触媒の存在下、原料フタロニトリルに含まれる全ニトリル基のうち60〜98%を水素化してアミノメチル基にして第1水素化反応生成液を得る水素化工程−1、(2)第2反応域で、不均一系触媒の存在下、水素化によりシアノベンジルアミンをキシリレンジアミンの0.2重量%以下含む第2水素化反応生成液を得る水素化工程−2、および(3)第2水素化反応生成液から溶媒を留去し、蒸留して精製キシリレンジアミンを得る工程を含み、かつ、第1反応域から排出した第1水素化反応生成液のうち30〜90重量%を第1反応域入口に循環し、残部を第2反応域に導入するキシリレンジアミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフタロニトリルの水素化によりキシリレンジアミンを製造する方法に関する。キシリレンジアミンはポリアミド樹脂、硬化剤等の原料、イソシアネート樹脂等の中間原料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
連続流通式の反応器を用い、不均一系触媒の存在下でフタロニトリルを水素化してキシリレンジアミンを製造する方法はよく知られている。例えば、ニッケル−銅−モリブデン系触媒の存在下でフタロニトリルを液相で接触水素化することが開示されており、固定床連続流通式の反応器を用いた水素化反応が例示されている(特許文献1参照)。また、キシレンのアンモ酸化反応により得られたフタロニトリルを有機溶媒と接触させて捕集し、有機溶媒に捕集したフタロニトリルを分離することなく液体アンモニアを加え、ニッケル及び/またはコバルト系触媒を充填したかん液充填層反応器(trickle bed reactor)により連続的に水素化反応させてキシリレンジアミンを製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。さらに、メタキシレンのアンモ酸化反応により得られたイソフタロニトリルを有機溶媒と接触させて捕集し、蒸留により分離したイソフタロニトリルを液体アンモニアと炭化水素系溶媒からなる混合溶媒中、ニッケル及び/またはコバルト系触媒を充填したかん液充填層反応器(trickle bed reactor)により連続的に水素化させメタキシリレンジアミンを製造する方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0003】
一方、不均一系触媒及び連続流通式の反応器を用い、連続流通式反応器の出口液の一部を反応器入口に循環する流通方式(以下、循環方式と略記)により、フタロニトリルを水素化してキシリレンジアミンを製造する方法も公知である。例えば、コバルト系触媒によりフタロニトリルをキシレンジアミンに水素化する際、溶媒には水素化反応液を循環させて用いることが有効であると記載されており、コバルト−マンガン系触媒存在下、水素化反応液を溶媒の一部として用いた固定床連続流通式の反応器によるメタキシリレンジアミンの製造法が例示されている(特許文献4参照)。また、コバルト系触媒によりニトリルをアミンに水素化する方法が開示されており、循環方式によるコバルト−マンガン系触媒存在下でのメタキシリレンジアミンの製造法が例示されている(特許文献5参照)。さらに、液体アンモニア溶媒及び不均一系触媒を用い、溶融状のフタロニトリルを溶媒の一部として循環させた水素化反応液に溶解させて固定床連続流通式の反応器に供給し水素化するキシリレンジアミンの製造法が開示されており、水素化反応液を循環させることにより選択率の向上及び液体アンモニア使用量の削減が可能となることが記載されている(特許文献6参照)。
【0004】
しかし、循環方式は反応速度が低下する為、循環方式のみでは反応中間体であるシアノベンジルアミンが残り易くなるという欠点があった。シアノベンジルアミンは樹脂等の物性を損なう原因となる化合物であり分離精製が必要とされるが、キシリレンジアミンとの沸点差が小さく通常の蒸留では分離困難である。アミド化して除去する開示の方法では、装置が複雑になるうえフタロニトリルからのキシリレンジアミン収率が低下する(特許文献7参照)。
【0005】
上記課題を解決する為には水素化反応を出来るだけ完結させなければならないが、その為には反応器容量をより大きくして触媒量を増やす必要があり、工業的に不利な要因となっていた。
【特許文献1】特公昭53−20969号公報
【特許文献2】特開2002−105035号公報
【特許文献3】特開2003−26639号公報
【特許文献4】英国特許第852972号明細書
【特許文献5】英国特許第1143390号明細書
【特許文献6】国際公開第2005/026098号パンフレット
【特許文献7】特開昭56−2941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術に示した課題を解決し循環方式によるフタロニトリルの水素化反応によりキシリレンジアミンを製造するに際し、簡便な装置で経済的にキシリレンジアミンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、原料フタロニトリルの水素化を特定の条件を満たす2段階水素化により行うと上記目的が達成されることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、原料フタロニトリルを溶媒中で2段階水素化することによるキシリレンジアミンの製造方法であって、(1)原料フタロニトリルを液体アンモニアを含む溶媒に溶解した1〜20重量%溶液を第1反応域入口へ供し、不均一系触媒の存在下、原料フタロニトリルに含まれる全ニトリル基のうち60〜98%を水素化してアミノメチル基にして第1水素化反応生成液を得る水素化工程−1、(2)第2反応域で、不均一系触媒の存在下、水素化によりシアノベンジルアミンをキシリレンジアミンの0.2重量%以下含む第2水素化反応生成液を得る水素化工程−2、および(3)第2水素化反応生成液から溶媒を留去し、蒸留して精製キシリレンジアミンを得る工程を含み、かつ、第1反応域から排出した第1水素化反応生成液のうち30〜90重量%を第1反応域入口に循環し、残部を第2反応域に導入するキシリレンジアミンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高収率を保ちながら簡便な構成の装置で液体アンモニアを含む溶媒使用量を減らし、溶媒回収に必要なエネルギーを削減することができる為、経済的なフタロニトリルの水素化によるキシリレンジアミンの製造が可能となる。従って本発明の工業的意義は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるキシリレンジアミンには、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンの3つの異性体が含まれる。また、原料に用いられるフタロニトリル(原料フタロニトリル)には、オルトフタロニトリル、イソフタロニトリル、テレフタロニトリルの3つの異性体が含まれる。本発明の製造方法は、イソフタロニトリルを原料として用い、水素化してメタキシリレンジアミンを製造するのに好適に用いられる。
フタロニトリルの製造方法としてはキシレン等アルキル置換ベンゼンのアンモ酸化による方法、ジクロロベンゼン類とシアン化水素を反応させる方法、フタル酸類とアンモニアを反応させる方法等が挙げられるが、工業的には主にキシレン等アルキル置換ベンゼンのアンモ酸化によって製造される。例えば、キシレンのアンモ酸化は公知触媒および方法で実施することができる(特公昭49−45860号公報、特開昭49−13141号公報、特開昭63−190646号公報、特開平5−170724号公報、特開平1−275551号公報、特開平5−170724号公報、特開平9−71561号公報参照。)。
【0010】
上記方法により得られた溶融状の原料フタロニトリル、あるいは固体状にした原料フタロニトリルを混合槽にて液体アンモニアを含む溶媒に溶解させた溶液を水素化工程−1の第1反応域入口に供給する。この際、溶液中のフタロニトリル濃度は1〜20重量%が好ましく、さらに5〜15重量%が好ましい。上記範囲内であると、溶媒回収に大量のエネルギーが要らず、水素化反応の選択率も良好である。
【0011】
本発明では液体アンモニアに加え、水素化反応条件下で安定な種々の有機溶媒を混合して用いてもよい。有機溶媒として具体的にはトルエン、キシレン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒、ベンジルアミン、メチルベンジルアミンなどの芳香族モノアミン系溶媒が挙げられ、特に、芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。混合溶媒中には液体アンモニアが50重量%以上含まれるのが好ましい。
【0012】
水素化工程−1において第1反応域入口に供する水素は反応に関与しない不純物、例えばメタン、窒素等を含んでいても良いが、不純物濃度が高いと必要な水素分圧を確保するために反応全圧を高める必要があり工業的に不利となる為、水素濃度は50モル%以上が好ましい。
【0013】
水素化工程−1では、不均一系触媒を用い、循環方式にて水素化反応を行う。反応形式は固定床を用いる。不均一系触媒としては公知の担持金属触媒、非担持金属触媒、ラネー触媒、貴金属触媒等を使用できるが、好ましくは粒状あるいはペレット状の担持金属触媒を用いる。金属としてはニッケル、コバルト、あるいはパラジウムが好適である。担持金属触媒を用いる場合、金属濃度は10〜95重量%が好ましく、さらに20〜80重量%が好ましく、特に30〜70重量%が好ましい。担体としては、珪藻土、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、マグネシア、ジルコニア、チタニア、活性炭が好ましい。不均一系触媒の使用量は、水素化工程−1の入口へ供給する原料フタロニトリルの1時間当りの供給量に対して1〜100重量倍が好ましく、さらに2〜50重量倍が好ましく、特に5〜20重量倍が好ましい。
【0014】
水素化工程−1における反応温度は20〜200℃が好ましく、特に30〜180℃が好ましい。反応圧力は1〜30MPaが好ましく、さらに好ましくは3〜20MPaである。
【0015】
水素化工程−1においてアミノメチル基へと水素化するニトリル基は、原料フタロニトリルに含まれる全ニトリル基のうち60〜98%が好ましく、さらに75〜98%が好ましく、特に85〜98%が好ましい。当該水素化率が60%よりも低いと後段の第2反応域での負荷が増大する為、水素化工程−2においてキシリレンジアミン選択率の低下が生じてしまう。一方、当該水素化率を98%よりも高くするには、必要な触媒量が多量となり、工業的に不利なプロセスとなってしまう。尚、水素化工程−1におけるニトリル基の水素化率Y(%)は式1により求められる。
Y(%)=100x(2B+C)/2A (式1)
但し、Y、A、B、Cは以下の様に定義する。
Y:原料フタロニトリルに含まれる全ニトリル基のアミノメチル基への水素化率(%)
A :水素化工程−1の入口に単位時間当りに供給する原料フタロニトリルのモル数
B:水素化工程−1の出口で単位時間当りに得られるキシリレンジアミンのモル数
C:水素化工程−1の出口で単位時間当りに得られるシアノベンジルアミンのモル数
【0016】
水素化工程−1において第1反応域出口から循環流として第1反応域入口に戻す液量は、第1反応域出口から抜出した水素化反応生成液のうち30〜90重量%が好ましく、さらに40〜85重量%が好ましく、特に50〜80重量%が好ましい。30重量%より低量であると選択率が向上せず、循環方式の効果が得られない。90重量%より多量であると循環部分の装置が過度に大型化する為、建設費の負担が大きくなる。循環流は必要に応じて熱交換器等による温度調節を行い、反応温度の制御に利用する。
【0017】
残りの水素化反応生成液は水素化工程―2に導かれる。水素化工程−2では、水素化工程−1で得られた水素化反応生成液を流通系反応操作により第2反応域で水素化し反応を完結させる。工業的には、第1反応域と第2反応域は2つの反応塔に分けても良いし、1つの反応塔内で第1反応域と第2反応域をつなげても良いが、建設費が抑えられるので後者の方が有利である。
【0018】
水素化工程−2では不均一系触媒を用いて水素化反応を行う。反応形式は固定床を用いる。不均一系触媒としては公知の担持金属触媒、非担持金属触媒、ラネー触媒、貴金属触媒等を使用できるが、好ましくは粒状あるいはペレット状の担持金属触媒を用いる。金属としてはニッケル、コバルト、あるいはパラジウムが好適である。担持金属触媒を用いる場合、金属濃度は10〜95重量%が好ましく、さらに20〜80重量%が好ましく、特に30〜70重量%が好ましい。担体としては、珪藻土、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、マグネシア、ジルコニア、チタニア、活性炭が好ましい。水素化工程−2に用いる触媒の量は水素化工程−1に用いる触媒量の0.1〜1重量倍が好ましく、さらに好ましくは0.3〜1重量倍である。
【0019】
水素化工程−2における反応温度は20〜200℃、特に30〜180℃であり、第1反応域の反応温度と同等以上の温度が望ましく、1〜40℃高い温度にすることによりシアノベンジルアミンの濃度を一定以下に抑えることができるので好適である。温度制御には水素化工程−1の出口から水素化工程−2の第2反応域入口をつなぐ反応液供給ラインに熱交換器等を設置することが有効である。
【0020】
水素化工程−2における反応圧力は1〜30MPaが好ましく、さらに好ましくは3〜20MPaである。水素化工程−2において第2反応域入口に供する水素は、水素化工程−1に用いる水素と同程度の品質の水素を新たに供給しても良いが、水素化工程−1での未反応水素を再使用するのが工業的に有利である。
【0021】
水素化工程−2では、第2水素化反応生成液中のキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンの量が0.2重量%以下に下がるまで水素化するのが好ましく、0.1重量%以下に下がるまで水素化するのがさらに好ましい。キシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンの量が0.2重量%よりも多いと、充分な品質のキシリレンジアミンが得られない。
【0022】
水素化工程−2の次工程として、必要に応じて反応生成物中のシアノベンジルアミンを更に除去する工程を設けても良い。シアノベンジルアミン除去工程は特に限定されるものではないが、例として水和反応によりシアノベンジルアミンを比較的容易に蒸留分離が可能なシアノベンズアミドへと変換する方法(アミド化による除去工程)や、アンモニアを含む溶媒除去後に再度水素化してキシリレンジアミンへと変換する方法(再度水素化工程)等が挙げられる。しかし、アミド化による除去工程では原料フタロニトリルからのキシリレンジアミン収率が低下する為、再度水素化工程の方が望ましい。再度水素化工程での反応温度は30〜150℃が好ましく、40〜100℃の範囲がより好ましい。30℃以上であれば、シアノベンジルアミンの転化率の著しい低下を防ぐことができ、150℃以下であれば反応生成物中に多量に含まれるキシリレンジアミンの核水素化及び脱アミノ化が多量に進行するのを防ぎ、且つ、キシリレンジアミン自体の熱変質も防ぐことができる。再度水素化工程での水素分圧は通常0.1〜10MPaの範囲であることが好ましく、0.5〜8MPaの範囲であることがさらに好ましい。0.1MPa以上であればシアノベンジルアミンの転化率の著しい低下を防ぐことができ、10MPa以下であれば反応生成物中に多量に含まれるキシリレンジアミンの核水素化及び脱アミノ化が多量に進行するのを防ぐことができる。
【0023】
本発明において、水素化工程−1と水素化工程−2により水素化して、その後、溶媒留去の後に蒸留精製を行いキシリレンジアミンを製造する。
溶媒留去は、アンモニアを蒸発させた後、減圧もしくは常圧条件下で有機溶媒を留去して実施する。その後、得られた粗キシリレンジアミンについて減圧蒸留を行い、精製キシリレンジアミンを得る。
【実施例】
【0024】
次に以下の実施例によって本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。なお、分析方法は、以下の通りである。
<ガスクロマトグラフィー分析>
原料あるいはサンプリング液を、溶媒以外の成分が1〜5重量%になる様メタノール、ジオキサンあるいはテトラヒドロフランで希釈したものについて、Agilent(J&W)社製DB−1カラムを備え付けたAgilent社製6890ガスクロマトグラフィーにて定性・定量分析を行った。
【0025】
<実施例1>
図1に示す実験装置において、内径25mmφのSUS製反応管2本にニッケル含量50重量%であるニッケル/珪藻土触媒(円柱状、直径3mmΦ、高さ3mm)をそれぞれ120mL(第1反応域:反応管A)及び60mL(第2反応域:反応管B)充填し、水素気流下200℃で還元して活性化させた。冷却後、反応管A、B及びそれらをつなぐ配管内に水素ガスを圧入して一定圧力8MPaに保ち、外部からの加熱によりAの触媒層温度を75℃、Bの触媒層温度を80℃に維持した。
反応管Aの入口より13 NL/hの流速で水素ガスの供給を開始し、反応管Bの出口より抜出した。水素ガスの流通状態を保ちながら、原料イソフタロニトリルを1重量部、液体アンモニアを9重量部の割合で混合した原料液を139g/hの速度で反応管Aの入口より供給し、反応管Aを出た第1水素化反応生成液の一部は循環ポンプにより417g/h(循環流75重量%)の流速で反応管Aの入口へ戻し、循環方式により連続的な水素化反応を行った。反応管Aの出口より抜出され反応管Bへ供給される第1水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、原料イソフタロニトリルの転化率95.2mol%、メタキシリレンジアミンの選択率85.4mol%、3−シアノベンジルアミンの選択率6.5mol%であり、原料イソフタロニトリルに含まれる全ニトリル基のアミノメチル基への水素化率は84.4%であった。
反応管Aの出口より抜出された第1水素化反応生成液を139g/hの速度で反応管Bの入口に供給し、同時に反応管Aの出口より抜出された水素化工程−1での未反応水素ガスを供給し連続的な水素化反応を行った。反応管Bの出口より抜出された第2水素化反応生成液及び未反応水素ガスのうち、第2水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミンに対する3−シアノベンジルアミンの量は0.046重量%で、水素化工程−1と2を通した、イソフタロニトリルの転化率は99.9%以上、メタキシリレンジアミン選択率は91.9mol%、3−シアノベンジルアミン選択率は0.0438mol%であった。
さらに、第2水素化反応生成液からアンモニアを蒸発させ、減圧蒸留(125℃、6Torr)を実施して得られた精製メタキシリレンジアミンをガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミン濃度は99.95wt%、3−シアノベンジルアミン濃度は480wtppmであった。
【0026】
<比較例1>
図1の実験装置に変えて、単一の反応管(SUS製、内径25mmφ)からなる実験装置を用いてイソフタロニトリルの水素化を行った。
ニッケル含量50重量%であるニッケル/珪藻土触媒(円柱状、直径3mmΦ、高さ3mm)180mLを反応管に充填し、水素気流下200℃で還元して活性化させた。冷却後、反応管内に水素ガスを圧入して一定圧力8MPaに保ち、外部からの加熱により触媒層温度を80℃に維持した。
反応管入口より13NL/hの流速で水素ガスの供給を開始し、その状態を保ちながら、原料イソフタロニトリルを1重量部、液体アンモニアを9重量部の割合で混合した原料液を139g/hの速度で反応管入口より供給し、連続的に水素化反応を行った。反応管出口より出た水素化反応生成液の一部は循環ポンプにより417g/h(循環流75重量%)の流速で反応器入口へ再供給した。反応器出口より抜出された水素化反応生成液及び未反応水素ガスのうち、水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、原料イソフタロニトリルに含まれる全ニトリル基のアミノメチル基への水素化率は90.6%で、イソフタロニトリルの転化率は99.9%以上、メタキシリレンジアミン選択率は89.0mol%、3−シアノベンジルアミン選択率は3.10mol%であった。
【0027】
<実施例2>
図1に示す実験装置において、内径35mmφのSUS製反応管2本にニッケル含量50重量%であるニッケル/珪藻土触媒(円柱状、直径5mmΦ、高さ5mm)をそれぞれ240mL(上流側:反応管A)及び120mL(下流側:反応管B)充填し、水素気流下200℃で還元して活性化させた。冷却後、反応管A、B及びそれらをつなぐ配管内に水素ガスを圧入して一定圧力8MPaに保ち、外部からの加熱によりAの触媒層温度を75℃、Bの触媒層温度を80℃に維持した。
反応管Aの入口より24NL/hの流速で水素ガスの供給を開始し、反応管Bの出口より抜出した。水素ガスの流通状態を保ちながら、原料イソフタロニトリルを1重量部、液体アンモニアを9重量部の割合で混合した原料液を252g/hの速度で反応管Aの入口より供給し、反応管Aを出た第1水素化反応生成液の一部は循環ポンプにより756g/h(循環流75重量%)の流速で反応管Aの入口へ再供給し、循環方式により連続的な水素化反応を行った。反応管Aの出口より抜出され反応管Bへ供給される第1水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、原料イソフタロニトリルの転化率96.0mol%、メタキシリレンジアミンの選択率86.0mol%、3−シアノベンジルアミンの選択率6.10mol%であり、原料イソフタロニトリルに含まれる全ニトリル基のアミノメチル基への水素化率は85.5%であった。
反応管Aの出口より抜出された第1水素化反応生成液を252g/hの速度で反応管Bの入口に供給し、同時に反応管Aの出口より抜出された水素化工程−1での未反応水素ガスを供給し連続的な水素化反応を行った。反応管Bの出口より抜出された第2水素化反応生成液及び未反応水素ガスのうち、第2水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミンに対する3−シアノベンジルアミンの量は0.055重量%で、水素化工程−1と2を通した、イソフタロニトリルの転化率は99.9%以上、メタキシリレンジアミン選択率は92.0mol%、3−シアノベンジルアミン選択率は0.0522mol%であった。
さらに、第2水素化反応生成液からアンモニアを蒸発させ、減圧蒸留(125℃、6Torr)を実施して得られた精製メタキシリレンジアミンをガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミン濃度は99.94wt%、3−シアノベンジルアミン濃度は570wtppmであった。
【0028】
<比較例2>
ニッケル含量50重量%であるニッケル/珪藻土触媒(円柱状、直径5mmΦ、高さ5mm)720mLを内径50mmφのSUS製反応管に充填し、水素気流下200℃で還元して活性化させた。冷却後、反応管内に水素ガスを圧入して一定圧力8MPaに保ち、外部からの加熱により触媒層温度を80℃に維持した。反応管入口より24NL/hの流速で水素ガスの供給を開始し、その状態を保ちながら、原料イソフタロニトリルを1重量部、液体アンモニアを9重量部の割合で混合した原料液を252g/hの速度で反応管入口より供給し、連続的に水素化反応を行った。反応管出口より抜出された水素化反応生成液の一部は循環ポンプにより756g/h(循環流75重量%)の流速で反応管入口へ再供給した。反応管出口より抜出された水素化反応生成液及び未反応水素ガスのうち、水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、原料イソフタロニトリルに含まれる全ニトリル基のアミノメチル基への水素化率は91.5%で、イソフタロニトリルの転化率は99.9%以上、メタキシリレンジアミン選択率は90.7mol%、3−シアノベンジルアミン選択率は1.50mol%であった。
【0029】
<実施例3〜5、比較例3>
図1に示す実験装置において、内径12mmφのSUS製反応管2本(第1反応域:反応管A、第2反応域:反応管B)にニッケル含量50重量%であるニッケル/珪藻土触媒を破砕して大きさを揃えたもの(12−22mesh)を充填し、水素気流下200℃で還元して活性化させた。冷却後、反応管A、B及びそれらをつなぐ配管内に水素ガスを圧入して一定圧力8MPaに保ち、外部からの加熱によりA及びBの触媒層温度を所定温度に維持した。それぞれの実験における充填触媒量及び反応管内の温度を表1に示す。
反応管Aの入口より3.0NL/hの流速で水素ガスの供給を開始し、反応管Bの出口より抜出した。水素ガスの流通状態を保ちながら、原料イソフタロニトリルを1重量部、液体アンモニアを9重量部の割合で混合した原料液を31.5g/hの速度で反応管Aの入口より連続的に供給した。反応管Aを出た第1水素化反応生成液の一部は循環ポンプにより94.5g/h(循環流75重量%)の流速で反応管Aの入口へ循環させた。残りの水素化反応生成液は連続的に反応管Bの入口に供給し同時に反応管Aの出口より抜出された水素化工程−1での未反応水素ガスを供給した。ガスクロマトグラフィー分析により求めた、水素化工程−1における原料イソフタロニトリルに含まれる全ニトリル基のアミノメチル基への水素化率、水素化工程−2で得られる第2水素化反応生成液中のメタキシリレンジアミンに対する3−シアノベンジルアミンの量、水素化工程−1と2を通したイソフタロニトリルの転化率及び反応生成物の選択率を表1に示す。
さらに、第2水素化反応生成液からアンモニアを蒸発させ、減圧蒸留(125℃、6Torr)を実施した。得られた精製メタキシリレンジアミンをガスクロマトグラフィーで分析した結果を表1に示す。
【表1】

【0030】
<実施例6〜7>
図1に示す実験装置において、内径12mmφのSUS製反応管2本(第1反応域:反応管A、第2反応域:反応管B)にニッケル含量50重量%であるニッケル/珪藻土触媒を破砕して大きさを揃えたもの(12−22mesh)を充填し、水素気流下200℃で還元して活性化させた。それぞれの実験における充填触媒量を表2に示す。冷却後、反応管A、B及びそれらをつなぐ配管内に水素ガスを圧入して一定圧力8MPaに保ち、外部からの加熱によりAの触媒層温度を75℃、Bの触媒層温度を80℃に維持した。
反応管Aの入口より3.0NL/hの水素ガスの供給を開始し、反応管Bの出口より抜出した。水素ガスの流通状態を保ちながら、原料イソフタロニトリル及び液体アンモニアを所定の割合で混合した原料液を315g/h(実施例6)或いは15.8g/h(実施例7)の速度で反応管Aの入口より連続的に供給し、反応管Aを出た第1水素化反応生成液のうち、75重量%は循環流として反応管Aの入口へ循環させた。原料液の組成比を表2に示す。
反応管Aの出口より抜出した第1水素化反応生成液は全量を連続的に反応管Bの入口に供給し、同時に反応管Aの出口より抜出された水素化工程−1での未反応水素ガスを供給し連続的な水素化反応を行った。ガスクロマトグラフィー分析により求めた、水素化工程−1における原料イソフタロニトリルに含まれる全ニトリル基のアミノメチル基への水素化率、水素化工程−2で得られる第2水素化反応生成液中のメタキシリレンジアミンに対する3−シアノベンジルアミンの量、水素化工程−1と2を通したイソフタロニトリルの転化率及び反応生成物の選択率を表2に示す
さらに、第2水素化反応生成液からアンモニアを蒸発させ、減圧蒸留(125℃、6Torr)を実施した。得られた精製メタキシリレンジアミンをガスクロマトグラフィーで分析した結果を表2に示す。
【表2】

【0031】
<実施例8〜9>
図1に示す実験装置において、内径12mmφのSUS製反応管2本にニッケル含量50重量%であるニッケル/珪藻土触媒を破砕して大きさを揃えたもの(12−22mesh)をそれぞれ30mL(第1反応域:反応管A)及び15mL(第2反応域:反応管B)充填し、水素気流下200℃で還元して活性化させた。冷却後、反応管A、B及びそれらをつなぐ配管内に水素ガスを圧入して一定圧力8MPaに保ち、外部からの加熱によりAの触媒層温度を75℃、Bの触媒層温度を80℃に維持した。
反応管Aの入口より3.0NL/hの流速で水素ガスの供給を開始し、反応管Bの出口より抜出した。水素ガスの流通状態を保ちながら、原料イソフタロニトリルを1重量部、液体アンモニアを9重量部の割合で混合した原料液を31.5g/hの速度で反応管Aの入口より連続的に供給し、反応管Aを出た第1水素化反応生成液は15.8g/h(実施例8)或いは284g/h(実施例9)の流速で反応管Aの入口へ循環させた。反応管Aの出口より抜出した第1水素化反応生成液は全量を連続的に反応管Bの入口に供給し、同時に反応管Aの出口より抜出された水素化工程−1での未反応水素ガスを供給し連続的な水素化反応を行った。ガスクロマトグラフィー分析により求めた、水素化工程−1における原料イソフタロニトリルに含まれる全ニトリル基のアミノメチル基への水素化率、水素化工程−2で得られる第2水素化反応生成液中のメタキシリレンジアミンに対する3−シアノベンジルアミンの量、水素化工程−1と2を通したイソフタロニトリルの転化率及び反応生成物の選択率を表3に示す。
さらに、第2水素化反応生成液からアンモニアを蒸発させ、減圧蒸留(125℃、6Torr)を実施した。得られた精製メタキシリレンジアミンをガスクロマトグラフィーで分析した結果を表3に示す。
【表3】

【0032】
<実施例10>
反応管Bの触媒層温度を外部からの加熱により90℃に保った以外は、実施例2と同じ条件下で水素化反応を行った。反応管Bの出口より抜出された第2水素化反応生成液及び未反応水素ガスのうち、第2水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミンに対する3−シアノベンジルアミンの量は0.021重量%で、水素化工程−1と2を通した、イソフタロニトリルの転化率は99.9%以上、メタキシリレンジアミン選択率は92.1mol%、3−シアノベンジルアミン選択率は0.0201mol%であった。
さらに、第2水素化反応生成液からアンモニアを蒸発させ、減圧蒸留(125℃、6Torr)を実施して得られた精製メタキシリレンジアミンをガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミン濃度は99.98wt%、3−シアノベンジルアミン濃度は220wtppmであった。
【0033】
<実施例11>
反応管Aに供給する原料液を原料イソフタロニトリルを1重量部、液体アンモニアを8重量部、メタキシレン1重量部の割合で混合して調整した以外は実施例2と同じ条件下で水素化反応を行った。反応管Aの出口より抜出され反応管Bへ供給される第1水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、原料イソフタロニトリルの転化率95.4mol%、メタキシリレンジアミンの選択率84.5mol%、3−シアノベンジルアミンの選択率6.20mol%であり、原料イソフタロニトリルに含まれる全ニトリル基のアミノメチル基への水素化率は83.6%であった。
反応管Bの出口より抜出された第2水素化反応生成液及び未反応水素ガスのうち、第2水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミンに対する3−シアノベンジルアミンの量は0.057重量%で、水素化工程−1と2を通した、イソフタロニトリルの転化率は99.9%以上、メタキシリレンジアミン選択率は90.6mol%、3−シアノベンジルアミン選択率は0.0530mol%であった。
さらに、第2水素化反応生成液からアンモニアを蒸発させ、減圧蒸留(125℃、6Torr)を実施して得られた精製メタキシリレンジアミンをガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミン濃度は99.94wt%、3−シアノベンジルアミン濃度は580wtppmであった。
【0034】
<実施例12>
実施例2の反応管B出口より抜出された第2水素化反応生成液からアンモニアを蒸発させて除き、メタキシリレンジアミン濃度92.1wt%、3−シアノベンジルアミン濃度520wtppmの粗キシリレンジアミンを得た。
内径35mmφのSUS製再度水素化反応管にニッケル含量50重量%であるニッケル/珪藻土触媒(円柱状、直径5mmΦ、高さ5mm)を50mL充填し、水素気流下200℃で還元して活性化させた。冷却後、再度水素化反応管に水素ガスを圧入して一定圧力4MPaに保ち、外部からの加熱により触媒層温度を100℃に維持した。
再度水素化反応管入口より1.1NL/hの流速で水素ガスの供給を開始し、その状態を保ちながら、上記の粗キシリレンジアミンを25.2g/hの速度で反応管入口より供給して連続的に再度水素化反応を行った。再度水素化反応管出口より抜出された水素化反応生成液及び未反応水素ガスのうち、水素化反応生成液についてサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミン濃度は91.7wt%、3−シアノベンジルアミン濃度は検出下限の30wtppm未満であった。
さらに、水素化反応生成液からアンモニアを蒸発させ、減圧蒸留(125℃、6Torr)を実施して得られた精製メタキシリレンジアミンをガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタキシリレンジアミン濃度は99.99wt%、3−シアノベンジルアミン濃度は検出下限の30wtppm未満であった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料フタロニトリルを溶媒中、第1反応域において水素化する水素化工程−1と、その後段の第2反応域において水素化する水素化工程−2により2段階水素化して、溶媒留去の後に蒸留精製を行いキシリレンジアミンを製造する方法であって、下記条件(1)及び条件(2)を満たすキシリレンジアミン製造方法。
条件(1)水素化工程−1において、原料フタロニトリルを液体アンモニアを含む溶媒に溶解した1〜20重量%溶液を第1反応域入口へ供し、不均一系触媒の存在下、固定床の反応形式により原料フタロニトリルに含まれる全ニトリル基のうち60〜98%を水素化してアミノメチル基とし、第1反応域出口から抜出した第1水素化反応生成液のうち30〜90重量%を循環流として第1反応域入口に戻す
条件(2)水素化工程−2において、不均一系触媒の存在下、固定床の反応形式により水素化を行い、キシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンの量が0.2重量%以下である第2水素化反応生成液を得る
【請求項2】
イソフタロニトリルの水素化によりメタキシリレンジアミンを製造する請求項1に記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項3】
液体アンモニアを含む溶媒が、芳香族炭化水素を1〜50重量%含む請求項1に記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項4】
水素化工程−2において水素化工程−1よりも1〜40℃高温で反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項5】
1つの反応塔中に第1反応域及び第2反応域を有する反応塔を用いて製造する請求項1に記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項6】
水素化工程−2で得られた反応液からアンモニアを含む溶媒を除去し、得られた反応生成物中のシアノベンジルアミンを再度水素化する請求項1〜5のいずれかに記載のキシリレンジアミン製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−31155(P2008−31155A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161082(P2007−161082)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】