説明

キシロシルトランスフェラーゼ活性の欠損したベンサミアナタバコ(Nicotianabenthamiana)植物

本発明は、糖タンパク質上でキシロシル構造を形成できないベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の突然変異植物を提供する。加えて本発明は、前記突然変異植物における異種糖タンパク質の産生のための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子農業の分野、つまりバイオ医薬品を産生するバイオリアクターとしての植物および植物細胞の使用、特に、哺乳類のグリコシル化に類似したNグリコシル化パターンを有する治療用タンパク質等の医薬品として有益なタンパク質に関する。本発明は、異種糖タンパク質を産生するための宿主植物または宿主細胞として適用できる、キシロシルトランスフェラーゼ活性が欠損したタバコ(Nicotiana)属の植物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコシル化はタンパク質にオリゴ糖鎖を付加し、糖タンパク質を形成する共有結合である。多くの糖タンパク質では、オリゴ糖鎖が、アスパラギン(Asn)残基のアミド窒素に付加され、N−グリコシル化に至る。グリコシル化は、天然およびバイオ医薬品のタンパク質において見られる、最も広汎な翻訳後修飾である。ヒトのタンパク質の半分以上はグリコシル化されており、これらの機能は特定のグリコフォーム(グリカン)に因るところが大きく、これらの血漿半減期、組織ターゲティング、または生物学的活性にも影響すると推定される。同様に、承認されたバイオ医薬品の三分の一以上が糖タンパク質であり、それらの機能および有効性は、それらのN−グリカンの存在および構成により影響される。タバコ植物であるベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)等の葉状作物は、治療タンパク質の産生には好ましいシステムである。なぜなら植物は、プリオンおよびウイルス等の動物性の病原体が無く、安全で生物学上活性な価値ある組換えタンパク質を低価格で大規模に生産でき、生産を拡大しやすく、効率的に収穫および貯蔵できる可能性がある、などのいくつかの利点を有すると一般的に考えられるためである。しかしながら植物のN−結合グリカンは哺乳動物細胞のものと異なっている。例えば植物においては、ベータ−(1,2)−キシロース残基は、グリカンのコアであるMan3GlucNAc2−Asnに連結していることが示されているが、これは哺乳類のグリカンでは検出されず、シアル酸残基および末端のベータ(1,4)−ガラクトシル構造が代わりに生じている。植物によって付加される独特のN−グリカンは、タンパク質の免疫原性および機能活性の両方に影響し得、したがって、タンパク質産生プラットフォームとしての植物の使用を制限する場合がある。実際、哺乳動物におけるベータ−1,2−キシロース残基の免疫原性は、例えばJin et al.(2006)Glycobiology 16:349−357に記載されている。
【0003】
UDPキシロースからタンパク質結合N−グリカンのコアであるβ−結合マンノースへのキシロースの移行を触媒する酵素は、ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼである(「XyIT」、EC2.4.2.38)。ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼは、植物およびいくつかの非脊椎動物種に特有の酵素で、ヒト、または他の脊椎動物においては生成されない。
【0004】
国際公開第2007107296号パンフレットには、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)等のタバコ属のベータ−1,2キシロシルトランスフェラーゼの同定およびクローニングが記載されている。植物により産生される糖タンパク質上のベータ−1,2−キシロシル構造を避けるために様々な方法が適用されている。国際公開第2009056155号パンフレットには、ベータ−1,2−キシロシル構造の形成が欠損しており、また、異種糖タンパク質におけるアルファ−1,3−フコシル構造が欠如している、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物の生成のためのRNA干渉法が記載されている。
【0005】
ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)におけるキシロシル抗原決定基を欠く糖タンパク質の産生のための最も明確な方法は、この植物のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子を完全にノックアウトすることであろう。しかしながら、後者の方法は、少なくとも2つのベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼの存在が記載されていること(国際公開第2007107296号パンフレットを参照)、および植物における相同組換えの効率が非常に低いことから、直接的な方法ではない。別の方法は、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)におけるベータ−1,2キシロシルトランスフェラーゼ活性を有する遺伝子の機能的な対立遺伝子全てにおいてヌル突然変異を生じさせることであろう。エチルメタンスルホン酸(EMS)により突然変異を誘発された植物の集団は、ゲノムの形質を分析する手段として植物生物学者に非常に有益であることが証明されている。しかしながら、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)は高等植物で、30,000〜50,000の遺伝子を含むと推定される。ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)遺伝学における主要な障害は、突然変異遺伝子同定に必要な大規模な突然変異体集団の不足である。このような有益なベンサミアナタバコ(N.benthamiana)集団は、理想的には、すべてのベンサミアナタバコ(N.benthamiana)遺伝子に対して少なくとも1つの突然変異対立遺伝子を含むであろう。突然変異ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)植物は、EMS、エックス線、または高速中性子等のDNA損傷因子を使用して産生できる。しかしながら、M1植物の大規模集団から突然変異を誘発された、候補遺伝子における突然変異のスクリーニングに利用可能なM2種子の株はない。本研究の目的はベンサミアナタバコ(N.benthamiana)の突然変異体集団を提供し、前記集団におけるヌル対立遺伝子をベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ活性をコードする遺伝子に関してスクリーニングすることであり、最終的な目的は、キシロシルトランスフェラーゼ活性が完全に欠損した、誘発された突然変異植物が得られる可能性を評価することであった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明につながる研究において、本発明者らは、古典的な突然変異誘発によって、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)におけるベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ経路を失活させようとした。ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ経路は、高等植物で異種タンパク質を産生する際の有用性を妨げる、望ましくないN−グリコシル化に関与している。特に、本発明者らは野生型ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物に化学的に突然変異を起こさせ、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)における古典的な突然変異誘発によって2つのベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子のヌル対立遺伝子を同定した。前記ヌル対立遺伝子を単一植物個体で組み合わせた後、ホモ接合の二重突然変異ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物−4つのヌル対立遺伝子のホモ接合の組合せを含む−は、生存可能であり、標準的な生育条件下で明らかな形態の表現型を示さないことを観察した。最も重要なことは、得られたホモ接合の二重突然変異ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)植物には、完全なキシロシルトランスフェラーゼ経路が全く存在しなかったことである。なぜなら、この植物は、前記糖タンパク質上のベータ−1,2−キシロシル糖質構造を欠いた、内在性および異種性の糖タンパク質を産生していたからである。したがって、4つのヌル対立遺伝子のホモ接合の組合せは、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)における完全なベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ活性の消失に十分であることが証明された。
【0007】
したがって、本発明の一目的は、NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された標準種子である、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体、またはその細胞、部位、種子、もしくは後代を提供することである。他の目的は、xyltg14−1、xyltg14−2またはxyltg14−3からなる群からのヌル対立遺伝子とxyltg19−1またはxyltg19−2からなる群から選択されたヌル対立遺伝子とから選択されたホモ接合のヌル対立遺伝子の組合せを含むことを特徴とする、ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体である、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物または植物細胞を提供することである。さらなる目的は、前記植物において産生された糖タンパク質のN−グリカン構造上でベータ−1,2−キシロシル−糖質を検出可能レベルで形成しない植物または植物細胞を提供することである。
【0008】
他の目的は、NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された、ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼの2つのヌル対立遺伝子、xyltg14−1およびxyltg19−1がホモ接合であることを特徴とする、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)種子を提供することである。
【0009】
さらなる目的では、NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された標準種子から得られた、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物、またはその細胞、部位、種子、もしくは後代。
【0010】
またさらなる目的では、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の植物または植物細胞のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体は、停止させたアルファ−1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性をさらに含む。
【0011】
また別のさらなる実施形態において、停止させたアルファ−1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を含むベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の植物または植物細胞のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体は、加えて、ベータ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ活性をさらに含む。
【0012】
また別のさらなる実施形態において、停止させたアルファ−1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性、およびベータ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を含むベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物または植物細胞のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体は、さらに異種タンパク質をコードするキメラ遺伝子を含む。
【0013】
またさらなる態様において、本明細書に以上で記載したベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物は、異種タンパク質の産生に使用される。
【0014】
また、さらなる態様において、請求項1から3および5から8のいずれかに記載の植物または植物細胞において少なくとも1つの異種タンパク質を産生するための方法が提供され、この方法は、a)請求項1から3および請求項5から8のいずれかに記載の植物または植物細胞に、操作可能に連結された次の核酸分子:i)植物で発現可能なプロモーター、ii)異種タンパク質をコードするDNA領域、およびiii)転写終止およびポリアデニル化に関与するDNA領域、を含む少なくとも1つのキメラ遺伝子を提供するステップと、b)前記植物または植物細胞を培養し、前記植物または植物細胞から前記少なくとも1つの異種タンパク質を単離するステップとを含む。特定の態様では、前記異種タンパク質は抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)のM2種子の産生に最適なEMS用量の測定。異なるEMS濃度で種子を処理した。種子の生存に対する影響を示す。
【図1B】ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)におけるM2種子の産生のための最適なEMS用量の測定。異なった濃度のEMSで種子を処理した。植物稔性に対する影響を示す。
【図2】受入株BENTHAMIANAおよびNBNPGS2の間のSNP、およびXylTg14およびXylTg19における突然変異対立遺伝子の位置の概要。SNPおよび対立遺伝子または受入株の名前を配列上に示す。EMS突然変異および/またはSNPを探索した領域を下線で示す。
【図3】XylTg14−1およびXylTg19−1がホモ接合の植物から得た全タンパク質のN−グリカン上の検出可能なベータ−1,2−キシロース糖質の欠損。左パネル:抗キシロース抗体でプローブしたウェスタンブロット;右パネル:抗フルコース抗体でプローブしたウェスタンブロット;−(負の)対照:タンパク質は添加しなかった;+(正の)対照:wt BENTHAMIANA受入株からのタンパク質;ヘテロ接合ダブルノックアウト:二重ヘテロ接合突然変異体からのタンパク質;シングルノックアウト(14):XylTg14−1がホモ接合の植物からのタンパク質;シングルノックアウト(19):XylTg19−1がホモ接合の植物からのタンパク質;ダブルノックアウト:XylTg14−1および同19−1がホモ接合の植物からのタンパク質。1レーン当たり10μgの全タンパク質を添加した。
【図4】ホモ接合のXylTg14−1およびXylTg19−1ダブルノックアウトベンサミアナタバコ(N.benthamiana)植物からmagnICON(商標)発現されたIgG1のH鎖のN−グリカン分析。精製されたH鎖を、タンパク質分解酵素で消化し、得られたペプチドをLC−ESI−MSにより分析した。糖ペプチドを表すマススペクトルにおけるピークには、付属しているグリカンの型に対し注釈が付けられた。この方法では、グリコシル化によるタンパク質分解酵素の部分的阻害の結果、2つのグリコペプチドが産生される。したがって、gp−1およびgp−2は、アミノ酸が1つ異なる類似のH鎖グリコペプチドを指す。■=N−アセチルグルコサミン(Gn)、●=マンノース(Man)および(▲)=フコース(F)。グリカン分析から、キシロース残基は異種性のグリカン構造上で存在しないことが明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)は、Nicotiana debneyiとNicotiana suaveolensとの間の交雑による複二倍体種として記述されている(Goodspeed, T. H.(1954)The Genus Nicotiana,Waltham,Massachusetts:Chronica Botanica)。複二倍体は、2つの別個の染色体セットの結合と続く二倍体化により形成された倍数体であり、したがってベンサミアナタバコ(N.benthamiana)は、異質四倍体種とも呼ぶことができる。
【0017】
本発明は、第1実施形態において、NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された標準種子である、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体、またはその細胞、部位、種子、もしくは後代を提供する。別の実施形態において、本発明は、NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された標準種子から得られた、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体、またはその細胞、部位、種子、もしくは後代を提供する。さらなる別の実施形態において、本発明は、NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された標準種子の繁殖、および/または標準種子から生育した植物を用いて育種することにより得られた、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体、またはその細胞、部位、種子、もしくは後代を提供する。2つの「対立遺伝子」は、in vivoで、各ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子に対して、ゲノムの各XylT遺伝子座で存在すると予想される。(1つの対立遺伝子は1つの染色体上で見られる遺伝子配列であり、もう1つの対立遺伝子は、相同染色体上で見られる。)これらの2つの対立遺伝子のヌクレオチド配列は、あらゆる所与の植物において同じである(ホモ接合の植物)か、または異なる(ヘテロ接合の植物)場合があるが、各XylT遺伝子に存在する、異なる対立遺伝子の可能な数は、種個体群全体で2よりもかなり多い可能性がある。
【0018】
別の実施形態において、xyltg14−1、xyltg14−2またはxyltg14−3からなる群からのヌル対立遺伝子と、xyltg19−1またはxyltg19−2からなる群から選択されたヌル対立遺伝子とから選択されたホモ接合のヌル対立遺伝子の組合せを有することを特徴とする、ベンサミアナタバコのベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異植物または植物細胞を提供する。
【0019】
ホモ接合状態の対立遺伝子xyltg14−1およびxyltg19−1を含むベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物の標準種子は、National Collection of Industrial,Marine and Food Bacteria(NCIMB),NCIMB Ltd,Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen AB219YA,Scotlandに、2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622(菌株表示09GNNB000046)で寄託された。
【0020】
別の実施形態において、本発明は、NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された、ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼの2つのヌル対立遺伝子、xyltg14−1およびxyltg19−1がホモ接合であることを特徴とする、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)種子を提供する。
【0021】
さらなる実施形態において、本発明は、NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された種子から得られたる、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物、またはその細胞、部位、種子、もしくは後代を提供する。
【0022】
定義
本発明では、「種子」は植物の胚珠の連続した分化と、これに続く開花を伴う正常な成熟によって形成されるあらゆる植物の構造を指し、受精して形成されたかどうか、および前記種子構造が稔性であるか不稔であるかどうかに関らない。
【0023】
単語「発現」は、本明細書で使用される場合、その最も広範な文脈において解釈され、センスまたはアンチセンスmRNAを産生するための特定の遺伝子配列の転写、または、ペプチド、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、もしくは酵素分子を産生するセンスmRNA分子の翻訳に言及するものとする。センスmRNA転写物の産生を含む発現の場合には、単語「発現」は、転写および翻訳過程の組合せを示すと解釈してもよく、その後の、ペプチド、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質または酵素分子の生物学的活性、細胞または細胞内の局在、代謝回転または定常状態のレベルを変更する翻訳後のイベントのあるなしには関らない。
【0024】
正常な遺伝子の「阻害、遮断、ノックアウト、ノックダウン、または発現を減少させる他の方法」によって、正常な遺伝子の転写および/または翻訳および/または翻訳後修飾が阻害され、または妨害され、またはノックダウンされ、またはノックアウトされ、または遮断され、その結果、特定の正常な遺伝子の、そうでなければ発現されたであろう細胞、組織、器官または生物体への生物学的効果が減少することを意味する。
【0025】
当業者は、発現が阻害、遮断、または減少されたかどうかを、必要以上の実験なしに知ることができるであろう。例えば、特定の遺伝子の発現レベルは、mRNAテンプレート分子の逆転写反応に続くポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって測定できる。あるいは、遺伝子配列の発現レベルを、ノーザンハイブダイゼーション分析、またはドットブロットハイブリダイゼーション分析、またはin situハイブリダイゼーション分析、または類似の技術によって測定してもよい。このような技術では、mRNAを膜支持体に移し、目的の遺伝子によりコードされたmRNA転写物のヌクレオチド配列に相補的であり、適切なリポーター分子で標識されたヌクレオチド配列を含む「プローブ」分子にハイブリダイズさせる。適切なリポーター分子は数多くあるが、なかでも放射活性により標識されたdNTP(すなわち[alpha−32P]dCTP、または[alpha−35S]dCTP)、またはビオチン標識されたdNTPである。次いで、ハイブリダイズしたプローブ分子に結合されたリポーター分子が生成する信号の出現を検出することにより目的遺伝子の発現が測定され得る。
【0026】
あるいは、特定の遺伝子の転写の速度を核ランオンおよび/または核ランオフ実験により測定してもよい。この実験では、核を特定の細胞または組織から単離し、特定のmRNA分子にrNTPが取り込まれる速度を測定する。あるいは、目的の遺伝子の発現を、RNaseプロテクションアッセイにより測定してもよく、前記目的遺伝子によりコードされたmRNAのヌクレオチド配列に相補的な標識されたRNAプローブまたは「リボプローブ」は、二本鎖mRNA分子が形成されるのに十分な時間と条件の時に、前記mRNAにアニールされ、その後試料をRNA分解酵素に消化させ、一本鎖RNA分子、特にハイブリダイズしなかった過剰なリボプローブを除く。このような方法は、Sambrook, J.,Fritsch,E.F.およびManiatis,T.Molecular Cloning:a laboratory manual.2nded.N.Y.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989.1659p.ISBN 0−87969−309−6に詳細に記載されている。
【0027】
当業者はまた、タンパク質レベルで特定の遺伝子の発現レベルを検出するための様々な免疫学的および酵素による方法、例えば、様々な方法の中でも、ロケット免疫電気泳動法、ELISA、放射免疫アッセイおよびウェスタンブロット免疫電気泳動法を使用できることを認識するだろう。
【0028】
本明細書中において使用される場合、用語「対立遺伝子」は、特定の遺伝子座にある遺伝子の1つまたは複数のとりうる形態のいずれかを意味する。生物の二倍体(または複二倍体)細胞において、所与の遺伝子の対立遺伝子は、染色体上の特定の場所または遺伝子座(遺伝子座(locus)は遺伝子座(loci)の複数形)にある。1つの対立遺伝子は、一対の相同染色体の各染色体上に存在する。
【0029】
本明細書中において使用される場合、用語「ヘテロ接合の」は、2つの異なる対立遺伝子が特定座位にあるが、細胞内の対応する一対の相同染色体上にそれぞれ位置するときの遺伝子の状態を意味する。逆に、本明細書で使用される場合、用語「ホモ接合の」は、2つの同一の対立遺伝子が特定座位にあり、細胞内の対応する一対の相同染色体上にそれぞれ位置するときの遺伝子の状態を意味する。
【0030】
本発明に記載の「植物」への言及が行われる際は常に、植物の部位(細胞、組織または器官、種子、切り離された部位、例えば根、葉、花、花粉等)、親の特有の特性を保持する植物の後代、例えば自家受粉または交雑によって得られた種子等も、別に示さない限り、本明細書に包含されると理解される。
【0031】
「野生型(」(「野生型(wildtype)」または「野生型(wild−type)」とも記載)は、本明細書で使用される場合、自然界において最も一般に見られる、植物または遺伝子の典型的な形態を指す。「野生型植物」は、自然集団におけるその植物の最も一般的な表現型を有する植物を指す。「野生型対立遺伝子」は、野生型の表現型を産生するために必要とされる遺伝子の対立遺伝子を指す。対照的に「突然変異植物」は、自然集団における、またはヒトの介入、例えば突然変異誘発、によって産生されたその植物の異なる、まれな表現型を有する植物を指し、「突然変異対立遺伝子」は、突然変異表現型を産生するために必要とされる遺伝子の対立遺伝子を指す。
【0032】
本明細書中において使用される場合、用語「野生型ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子(wild type beta−1,2−xylosyltransferase)」(例えば野生型XylTg14またはXylTg19)は、タバコ属(Nicotiana)、特にベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物に見られる自然発生のXylT対立遺伝子を意味し、この遺伝子は機能的XylTタンパク質をコードする。XylTg14遺伝子のフラグメントは、国際公開第2007107296号パンフレットにある配列番号11に示され、XylTg19遺伝子のフラグメントは、国際公開第2007107296号パンフレットにある配列番号13に示されている。本出願においては、XylTg14遺伝子のフラグメントのヌクレオチド配列は、配列番号1として示され、一方、XylTg19遺伝子のフラグメントのヌクレオチド配列は、配列番号3として示される。対照的に、用語「突然変異XylT遺伝子」(例えば突然変異XylTg14またはXylTg19)は、本明細書において使用される場合、機能的XylTタンパク質をコードしないXylT対立遺伝子、すなわち非機能的XylTタンパク質をコードするXylT対立遺伝子、または全くXylTタンパク質をコードしないXylT対立遺伝子を指す。本明細書に使用される場合、非機能的XylTタンパク質とは、生物学的活性を有さないXylTタンパク質である。そのような「突然変異XylT対立遺伝子」(本明細書ではさらに「ヌル」対立遺伝子とも呼ぶ)は、その核酸配列において1つまたは複数の変異を含み、したがってin vivoの植物または植物細胞において検出可能な量の機能的XylTタンパク質を産生しない野生型のXylT対立遺伝子である。好ましい実施形態において、核酸配列内の前記突然変異は、前記核酸配列が翻訳される時に、終止コドンとなる。本明細書中において使用される場合、「ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体」は、2つのXylTg14ヌル対立遺伝子および2つのXylTg19ヌル対立遺伝子を有するベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物である。この対立遺伝子の組合せにより、内在性および異種性に産生された、糖タンパク質のN−グリカン構造でのベータ−1,2結合キシロース糖質が損失するという結果となる。本明細書において、XylTタンパク質をコードする核酸配列の突然変異対立遺伝子を「xylt」(例えばそれぞれxyltg14−1、xyltg14−2、xyltg14−3、またはxyltg19−1、xyltg19−2)と呼ぶ。
【0033】
対立遺伝子xyltg14−1は、配列番号1での位置192におけるC→Tの突然変異に対応しており、したがって配列番号1に終止コドンを導入する。
【0034】
対立遺伝子xyltg14−2は、配列番号1内での位置212におけるG→Aの突然変異に対応しており、したがって配列番号1に終止コドンを導入する。
【0035】
対立遺伝子xyltg14−3は、配列番号1内での位置329におけるG→Aの突然変異に対応しており、したがって配列番号1に終止コドンを導入する。
【0036】
対立遺伝子xyltg19−1は、配列番号1内での位置139におけるC→Tの突然変異に対応しており、したがって配列番号3に終止コドンを導入する。
【0037】
対立遺伝子xyltg19−2は、配列番号1内での位置183におけるG→Aの突然変異に対応しており、したがって配列番号3に終止コドンを導入する。
【0038】
同定された対立遺伝子、および他の対立遺伝子の出現の可能性の概要を表2に示す。
【0039】
突然変異ヌル対立遺伝子は、自然界で見られる突然変異ヌル対立遺伝子(例えば、ヒトによって突然変異誘起物質が適用されずに自発的に産生された)である「自然突然変異」ヌル対立遺伝子であるか、または、ヒトの介入、例えば突然変異誘発により誘導され、非自然突然変異ヌル対立遺伝子と呼ばれる「誘導された突然変異」ヌル対立遺伝子かのどちらかであり得る。
【0040】
「機能的XylTタンパク質の著しい減少量」は、突然変異xyltg14またはxyltg19対立遺伝子を含む細胞によって産生された機能的なXylTタンパク質の量の減少を指し、突然変異XylT対立遺伝子を含まない細胞によって産生される機能的XylTタンパク質の量と比較して、その減少量は少なくとも95%または好ましくは100%である(つまり、この対立遺伝子は機能的XylTタンパク質を産生しない)。この定義は、in vivoで生物学的活性を有さない「非機能的」XylTタンパク質(例えば、切断XylTタンパク質)の産生、機能的XylTタンパク質の絶対量の減少(例えば、XylT遺伝子の突然変異により産生される非機能的XylTタンパク質)を包含する。
【0041】
本明細書で使用される場合、「突然変異誘発」は、植物細胞(ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の複数個体の種子または他の部位、例えば花粉等)に細胞のDNAで突然変異を誘発する技術を適用する過程を指し、この技術には、突然変異誘発物質、例えば化学物質(例えばエチルメタンスルホン酸(EMS)、エチルニトロソ尿素(ENU))、または電離放射線(中性子(例えば高速中性子突然変異誘発等)、アルファ線、ガンマ線(例えばガンマ線源コバルト60から放出されるもの等)、エックス線、紫外線等)との接触、またはこれらの2つ以上の組合せがある。したがって、1つまたは複数のXylT対立遺伝子の望ましい突然変異誘発を達成するには、エチルメタンスルホン酸(EMS)、エチルニトロソ尿素等に1つまたは複数の植物組織を接触させる化学的手段の使用、X線等の物理的手段の使用、またはガンマ線源コバルト60により放出されるなどしたガンマ線を使用してもよい。照射法によって作られた突然変異は、大規模な欠失、または、転位もしくは複雑な再配列等の全体的な破壊となることが多い一方、化学的変異誘発物質により作られた突然変異は、点突然変異等の、より分散的な破壊となることが多い。例えば、EMSはグアニン塩基をアルキル化し、塩基誤対合を起こし、アルキル化されたグアニンはチミン塩基とペアになり、主にG/CをA/Tへ転位させる。突然変異誘発後、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物は、処理された種子から既知の技術を使用して再生される。例えば、得られたベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)種子を、従来の栽培手順に従って植えてもよく、この場合、植物で自家受粉種子が形成される。現世代または後代におけるこのような自家受粉の結果、形成される追加の種子を収穫でき、突然変異XylT対立遺伝子の存在をスクリーニングできる。特定の突然変異対立遺伝子をスクリーニングするための技術がいくつか知られており、例えば、Deleteagene(商標)(Delete−a−gene;Li et al.,2001,Plant J 27:235−242)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析を使用して、高速中性子による突然変異誘発によって誘発された欠失突然変異体をスクリーニングし、TILLING(ゲノム上で誘発された局所損傷を標的とする;McCallum et al.,2000,Nat Biotechnol 18:455−457)は、EMSで誘発された点突然変異を同定する。特定の突然変異XylT対立遺伝子の存在をスクリーニングする別の技術を以下の実施例に記載する。
【0042】
本発明の目的のために、2つの関連するヌクレオチドまたはアミノ酸配列の「配列同一性」は、百分率で表現され、2つの最適にアライメントされた配列での位置の数を指し、同一の残基(x100)を比較された位置の数で割る。ギャップ、すなわち、ある残基が一方の配列には存在するが他方には存在しない配列内の位置は、異なる残基を有する位置であると見なされる。2つの配列の「最適なアラインメント」は、The European Molecular Biology Open Software Suite(EMBOSS,Rice et al.,2000、Trends in Genetics 16(6):276−277)のNeedleman and Wunsch global alignment algorithm(Needleman and Wunsch,1970,J Mol Biol 48(3):443−53);例えばhttp://www.ebi.ac.uk/emboss/align/index.htmlを参照)に従って、2つの配列を全長にわたってアラインメントさせ、デフォルト設定(ギャップ開始ペナルティー=10(ヌクレオチド)/10(タンパク質)とギャップ伸張ペナルティー=0.5(ヌクレオチド)/0.5(タンパク質))を使用することにより、見いだされる。ヌクレオチドに対してデフォルトで使用するスコアリングマトリクスはEDNAFULL、タンパク質に対してのデフォルトのスコアリングマトリクスはEBLOSUM62である。
【0043】
本発明に記載の核酸配列
タバコ属種、特にベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)のXylT遺伝子の機能的XylTタンパク質をコードする野生型XylT核酸配列、および突然変異xylt核酸配列(1つまたは複数の突然変異、好ましくは、コードされたXylTタンパク質の生物学的活性が無い、または、著しく減少している、もしくはXylTタンパク質が産生されない突然変異を含む)の両方を提供する。
【0044】
Xyltg14遺伝子およびXyltg19遺伝子の突然変異核酸配列を、配列リストに示したように、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)から単離した。野生型Xyltg14遺伝子およびXyltg19遺伝子の配列を記載するが、これらの配列の突然変異xyltg14遺伝子およびxyltg19遺伝子の配列を、野生型Xyltg14遺伝子およびXyltg19遺伝子の配列を基準にして、本明細書の以下の図2および実施例に記載する。
【0045】
植物、特にベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物における特定のXylt対立遺伝子/タンパク質の機能性の測定には、ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ活性の機能レベルが測定でき、実施例で詳細に記載する。あるいは、Xylt対立遺伝子を、形質転換ベクターに組み入れ、モデル植物であるシロイヌナズナの、活性のあるベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ(XylT)およびコアアルファ−1,3−フコシルトランスフェラーゼ(FucT)を欠損しているノックアウト系統を形質転換するために使用できる。(Strasser et al.ら(2004)FEBS Lett.561:132−136)。特定のXylT対立遺伝子を有するこのノックアウト系統の相補により、XylT対立遺伝子が機能を有するか、またはヌル対立遺伝子かどうかが示される。植物または異種糖タンパク質上のキシロース残基の存在により示される機能的な相補はモニタリングでき、実施例において詳細に示す。
【0046】
本発明の方法
突然変異xylt14および/またはxylt19対立遺伝子は(例えば、突然変異誘発により誘発して)生じさせてもよく、および/または、当技術分野において一般的な方法、例えば、indゲノムまたはcDNAの一部または全てを増幅するPCRをベースとした方法を使用して同定してもよい。
【0047】
突然変異誘発後、植物は処理された種子から成長するか、または処理された細胞から既知の技術を使用して再生される。例えば、突然変異誘発した種子を、従来の栽培手順に従って植えてもよく、この場合、植物で自家受粉種子が形成される。現世代または後代におけるこのような自家受粉の結果、形成される追加の種子を収穫でき、突然変異XylT対立遺伝子の存在を、当技術分野において一般的な方法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)をベースとした技術(ind対立遺伝子の増幅)、またはサザンブロット分析等のハイブリダイゼーションをベースとした技術、BACライブラリスクリーニング等、および/またはxylt対立遺伝子の直接シーケンス法を使用して、スクリーニングできる。点突然変異(いわゆる一塩基多型、またはSNP)の存在に関して突然変異IND対立遺伝子をスクリーニングするために、当技術分野において一般的なSNP検出方法、例えばオリゴライゲーションに基づく技術、一塩基伸張に基づく技術、またはTILLING等の制限酵素部位の差異に基づく技術を使用できる。
【0048】
上述のように、特定の野生型XylT対立遺伝子の突然変異誘発(自発的な、または誘導された)の結果、得られたXylT突然変異対立遺伝子において、1つまたは複数のヌクレオチドが欠失、挿入、または置換される(以後、「突然変異領域」と呼ぶ)。したがって突然変異XylT対立遺伝子を、野生型XylT対立遺伝子内の、欠失、挿入、または置換された1つまたは複数のヌクレオチドの場所および構造によって特徴づけることができる。野生型XylT対立遺伝子において、1つまたは複数のヌクレオチドが欠失、挿入、または置換されたサイトをそれぞれ、本明細書においては「突然変異領域または配列」と呼ぶ。「5’または3’フランキング領域または配列」は、本明細書で使用される場合、1つまたは複数の欠失、挿入、または置換されたヌクレオチドを含むDNAとは異なるDNAの、少なくとも20bp、好ましくは少なくとも50bp、少なくとも750bp、少なくとも1500bp、および5000bpまでの、突然変異(または対応する野生型)XylT対立遺伝子におけるDNA領域または配列を指し、好ましくは、突然変異XylT対立遺伝子(または対応する野生型XYLT対立遺伝子)における突然変異領域のすぐ上流の、および接する(5’フランキング領域または配列)、または、すぐ下流の、および接する(3’フランキング領域または配列)位置にある、突然変異(または対応する野生型)XylT対立遺伝子のDNAを指す。「結合領域」は、本明細書で使用される場合、突然変異領域と5’フランキング領域または3’フランキング領域が互いに連結される、突然変異(または対応する野生型)XylT対立遺伝子におけるDNA領域を指す。したがって、突然変異領域と5’または3’フランキング領域の間の結合領域にまたがる配列は、突然変異配列およびその配列に隣接しているフランキング配列も含む。
【0049】
特定の突然変異XylT対立遺伝子、または特定の突然変異XylT対立遺伝子を含む植物または植物材料、または特定の突然変異XylT対立遺伝子を含む植物材料を含む生成物を同定するために開発されたツールは、対応する野生型XylT対立遺伝子のゲノムの特性と比較した特定の突然変異XylT対立遺伝子の特定のゲノムの特性、例えば突然変異領域を含むゲノム領域の特定の制限地図、分子マーカー、または隣接のおよび/または突然変異の領域の配列に基づく。
【0050】
一旦、特定の突然変異XylT対立遺伝子が配列決定されると、試料の核酸(DNAまたはRNA)内の、5’フランキング内、3’フランキング内、および/または、突然変異XylT対立遺伝子の変異領域内の配列を特異的に認識するプライマーおよびプローブを、分子生物学的技術によって開発することができる。例えば、PCR法を、生物学的試料(例えば植物、植物材料、または植物材料を含む生成物の試料)における突然変異XylT対立遺伝子を同定するために開発できる。このようなPCR法は、少なくとも2つの特異的「プライマー」を基本とする。2つの特異的「プライマー」とは、つまり、それぞれ一方は突然変異XylT対立遺伝子の5’または3’フランキング領域内の配列を認識し、もう一方は突然変異XylT対立遺伝子の3’または5’フランキング領域内の配列を認識する;または、一方は突然変異XylT対立遺伝子の5’または3’フランキング領域内の配列を認識し、もう一方は突然変異XylT対立遺伝子の変異領域内の配列を認識する;または、それぞれ一方は突然変異XylT対立遺伝子の5’または3’フランキング領域内の配列を認識し、もう一方は特定の突然変異XylT対立遺伝子(以下に詳細に記載)の3’または5’フランキング領域と突然変異領域の間の結合領域にまたがる配列を認識する。
【0051】
プライマーは15〜35のヌクレオチドの配列が好ましく、最適化されたPCR条件下で、5’または3’フランキング領域内の配列、突然変異領域内の配列、または特定の突然変異XylT対立遺伝子の3’または5’フランキング領域と突然変異領域の間の結合領域にまたがる配列を「特異的に認識する」。その結果、特定のフラグメント(「突然変異XylT遺伝子の特定フラグメント」または判別できるアンプリコン)を、特定の突然変異XylT対立遺伝子を含む核酸試料から増幅できる。これは、植物ゲノムにおいて標的にされた突然変異XylT対立遺伝子だけが、最適化されたPCR条件下で増幅され、他の配列は増幅されないことを意味する。
【0052】
「突然変異XylT遺伝子の特定のフラグメント」の検出および/または同定は、様々な方法、例えば、ゲルまたはキャピラリー電気泳動法後のサイズによる評価、または蛍光ベースの検出方法によって行うことができる。突然変異XylT遺伝子の特定のフラグメントは直接的に配列決定されてもよい。増幅されたDNAフラグメントを検出するための配列特異的な他の方法も、当技術分野において知られている。
【0053】
当技術分野において標準的なPCR法のプロトコルは、「PCR Applications Manual」(Roche Molecular Biochemicals, 2nd Edition,1999)、および他の参考文献等に記載されている。特異的プライマーの配列を含むPCR法の最適条件は、「PCR同定手順」に、個々の特定の突然変異XylT対立遺伝子に関して明記されている。しかしながら、PCR同定手順のパラメータのいくつかは、個別の研究室の条件に合うように調整する必要があり、同様の結果を得るために、わずかに変更される場合があることが知られている。例えば、DNAの調製に異なる方法を使用する場合、例えば、使用されるプライマーの量、ポリメラーゼ、MgCl濃度、またはアニーリング条件の調節が必要とされる場合がある。同様に、他のプライマーを選択する場合、PCR同定手順に対して、他の最適な条件が指定される場合がある。しかしながら、これらの調整は当業者に明らかであり、また上で言及したような現在使われているPCR Applications Manualに更に詳述される。
【0054】
特定の突然変異XylT対立遺伝子を同定するPCR同定手順の、また別の可能性を実施例において記述する。
【0055】
あるいは、特異的プライマーは、突然変異XylT遺伝子の特定のフラグメントを増幅するために使用でき、この突然変異XylTの特定のフラグメントは、生物学的試料における特定の突然変異XylT対立遺伝子の同定のための「特異的プローブ」として使用できる。プローブと核酸内のプローブと対応するフラグメントとがハイブリッド形成できる条件下で、生物学的試料の核酸をプローブに接触させると、核酸/プローブハイブリッドが形成される。このハイブリッドの形成は検出でき(例えば、核酸またはプローブの標識)、それによりこのハイブリッドの形成が、特定の突然変異XylT対立遺伝子の存在を示す。(固相担体上または溶液内のいずれかでの)特異的プローブでのハイブリダイゼーションに基づいたこのような同定法は、当技術分野において記載されている。特異的プローブは、最適条件下で、5’または3’フランキング領域内、および/または特定の突然変異XylT対立遺伝子の変異領域内の領域へ特異的にハイブリッド形成する配列であることが好ましい。(以後、「突然変異XylT遺伝子の特定領域」と呼ぶ。)特異的プローブは、10〜1000bp、50〜600bpの間の、100〜500bpの間の、150〜350bpの間の配列を含み、特定領域のヌクレオチド配列に対して、少なくとも80%、好ましくは80〜85%、より好ましくは85〜90%、特に好ましくは90〜95%、最も好ましくは95%〜100%同一である(または相補的である)ことが好ましい。特異的プローブは、特定の突然変異XylT対立遺伝子の特定領域に対して同一である(または相補的である)約13〜約100の隣接するヌクレオチドの配列を含むことが好ましい。
【0056】
また別の実施形態において、本発明は、停止させたアルファ−1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性をさらに含むベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼについて二重のホモ接合のヌル突然変異体であるベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物を提供する。
【0057】
アルファ(1、3)フコシルトランスフェラーゼの活性レベルは、内在性のアルファ(1、3)フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現の転写サイレンシングまたは転写後のサイレンシングにより適宜減少または無くすことができる。この目的のために、内在性のアルファ(1、3)フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を標的にするサイレンシングRNA分子を植物細胞に導入する。本明細書中において使用される場合、「サイレンシングRNA」または「サイレンシングRNA分子」は、植物細胞へ導入される際に、標的遺伝子の発現を減少させるあらゆるRNA分子を指す。このようなサイレンシングRNAは、たとえば、いわゆる「アンチセンスRNA」と呼ばれることがあり、したがってこのRNA分子は、標的核酸の配列に相補する配列、好ましくは目的遺伝子のコード配列に対して95%の配列同一性を有する、少なくとも20個の連続したヌクレオチドの配列を含む。しかしながら、アンチセンスRNAの標的を、標的遺伝子の制御配列、例えば、プロモーター配列、および転写終止、およびポリアデニル化シグナルとしてもよい。サイレンシングRNAには、いわゆる「センスRNA」も含まれ、したがってこのRNA分子は、標的核酸の配列に対して95%の配列同一性を有する、少なくとも20個の連続したヌクレオチドの配列を含む。サイレンシングRNAは他に、「ポリアデニル化されていないRNA」でもよく、標的核酸の配列に相補する配列に対して95%の配列同一性を有する、少なくとも20個の連続したヌクレオチドを含んでおり、たとえば国際公開第01/12824号パンフレットまたは米国特許第6423885号明細書に記載されている。(両文献を参照により本明細書に組み込む。)また、別のタイプのサイレンシングRNAは、国際公開第03/076619号パンフレット(参照により本明細書に組み込む)に記載のようなRNA分子であり、標的核酸またはその補体の配列に対して95%の配列同一性を有する、少なくとも20個の連続したヌクレオチドを含んでおり、国際公開第03/076619号パンフレットに記載されているように大部分は二本鎖である領域さらに含んでいる(ジャガイモやせいも病ウイロイド(Potato spindle tuber viroid)型のウイロイドからの核局在化シグナルを含む、またはCUG三塩基反復を含む大部分は二本鎖の領域)。サイレンシングRNAはまた、本明細書で定義するように、センスおよびアンチセンス鎖を含む二本鎖RNAでもよく、センスおよびアンチセンス鎖は、互いに塩基対合し、二本鎖RNA領域を形成できる。(センスおよびアンチセンスRNAの前記少なくとも20個の連続したヌクレオチドは、互いに相補的であることが好ましい。)センスおよびアンチセンス領域はまた、1つのRNA分子内に存在することもあるため、センスおよびアンチセンス領域が二本鎖RNA領域を形成する場合、ヘアピンRNA(hpRNA)を形成できる。hpRNAは当業者によく知られている。(例えば国際公開第99/53050号パンフレットを参照、この文献を参照により本明細書に組み込む。)hpRNAは、長鎖hpRNAとして分類してもよく、その大部分は相補的であり得るが、完全に相補的である必要はない、長鎖のセンスおよびアンチセンス領域を有する。(典型的には約200bpより大型であり、200bp〜1000bpの範囲に及ぶ。)hpRNAはまた、約30bp〜約42bpのサイズのかなり小さいものでもよいが、94bpよりも長くはない。(国際公開第04/073390号パンフレットを参照、この文献を参照により本明細書に組み込む。)サイレンシングRNAはまた、例えば国際公開第2005/052170号パンフレット、国際公開第2005/047505号パンフレット、または米国特許出願公開第2005/0144667号明細書(全文献を本明細書に参照して組み込む)に記載された、人工のマイクロRNA分子でもよい。
【0058】
別の実施形態において、サイレンシングRNA分子を、植物細胞または植物に提供するには、サイレンシングRNA分子、特に、二本鎖RNA(「dsRNA」)分子を産生できるキメラ遺伝子を含む形質転換植物細胞または植物を産生する。このようなdsRNA分子の相補RNA鎖は、XylTまたはFucTタンパク質をコードするヌクレオチド配列の一部を含む。
【0059】
GDPフコースから、タンパク質結合N−グリカンのコアβ−連結N−アセチルグルコサミン(GIcNAc)へのフコースの移行を触媒する酵素は、α−1,3−フコシルトランスフェラーゼ(「FucT」、EC2.4.1.214)である。
【0060】
植物においてアルファ(1、3)フコシルトランスフェラーゼ(FucT)をコードする遺伝子はよく知られており、実験的に示された、および推定上のFucT cDNAおよびその遺伝子配列、一部、または相同配列を同定する以下のデータベースエントリーがある:NM112815(シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana))、NM103858(シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana))、AJ 618932(ヒメツリガネゴケPhyscomitrella patens))At1g49710(シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana))およびAt3g19280(シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana))。DQ789145(コウキクサ(Lemna minor))、AY557602(タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)) Y18529(リョクトウ(Vigna radiata)) AP004457(イネ(Oryza sativa))、タンパク質CAI70373をコードするAJ891040(ウラジロハコヤナギ(Populus alba)xヤマナラシ(Populus tremula))タンパク質AAL99371をコードするAY082445(ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa))タンパク質CAE46649をコードするAJ582182(コムギ(Triticum aestivum))タンパク質CAE46648をコードするAJ582181(オオムギ(Hordeum vulgare))(すべての配列を参照により本明細書に組み込む)。
【0061】
利用可能な配列に基づき、当業者は、アルファ(1、3)フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、またはベータ(1、2)キシロシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を上述の植物以外の植物から単離できる。相同の核酸配列を、ストリンジェントな条件下、同定されたヌクレオチド配列をプローブとして使用したハイブリダイゼーションにより、同定し単離してもよい。
【0062】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、本明細書で使用される場合、一般的に、少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%の配列同一性がプローブと標的配列の間にある場合、ハイブリダイゼーションが生じるであろうことを意味する。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト液、10%の硫酸デキストラン、および、鮭精子DNA等の20μg/mlの変性、せん断されたキャリアーDNAを含む溶液中での一晩のインキュベーション、次いで、ハイブリダイゼーション支持体の、約65℃の0.1×SSC中で、好ましくは約10分間2回の洗浄である。他のハイブリダイゼーションおよび洗浄条件はよく知られており、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,NY(1989)、特に11章において例示される。
【0063】
こうして得られた核酸配列は、植物の既知のアルファ(1、3)フコシルトランスフェラーゼに少なくとも80%〜95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることが確認されるはずである。
【0064】
また別の実施形態において、停止させたアルファ(1,3)フコシルトランスフェラーゼを含むベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体は、加えてベータ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ活性をさらに含む。そのような活性を植物細胞に導入する簡便な方法として、ベータ(1、4)ガラクトシルトランスフェラーゼをコードするDNA領域に操作可能に連結された、植物で発現可能なプロモーターを含み、植物細胞における転写終止および機能的なポリアデニル化に関連する3’末端領域を任意で含むキメラ遺伝子を植物細胞に提供する方法がある。用語「ベータ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ」は、2型鎖(Galbeta1→4GlcNAc)からの主鎖構造の生合成に必要とされるEC2.4.1.38として命名されたグリコシルトランスフェラーゼを指し、N結合グリカン上に広範に現れ、すなわちこの酵素がN結合グリカンのガラクトシル化活性を有する。ベータ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼは、ヒト、ネズミ、ラット由来でも、ニワトリおよびゼブラフィッシュ等の哺乳類以外の種からのベータ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼの相同分子種(国際公開第2008125972号パンフレット参照)由来でも有益である。
【0065】
ベータ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする領域は、好ましくは、ヒト含む哺乳類生物から得るが、他の生物から得てもよい。NM022305(Mus musculus)NM146045(Mus musculus)NM004776(ホモサピエンス(Homo sapiens))NM001497(ホモサピエンス(Homo sapiens))は、β(1、4)ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の数少ないデータベースエントリーである。β(1、4)ガラクトシルトランスフェラーゼの他のデータベースエントリーには、AAB05218(ニワトリ(Gallus gallus))、XP693272(ゼブラフィッシュ(Danio rerio))、CAF95423(ミドリフグ(Tetraodon nigroviridis))、またはNP001016664(アフリカツメガエル(Xenopus tropicalis))がある(すべての配列を参照により本明細書に組み込む)。
【0066】
本明細書中において使用される場合、用語「植物で発現可能なプロモーター」は、植物細胞において転写を制御(開始)できるDNA配列を意味する。これは、植物起源のプロモーターだけでなく、植物細胞における転写を指令できる非植物起源のいかなるプロモーターをも含む。このようなプロモーターはすなわち、ウイルスまたは細菌起源のプロモーター、例えば、CaMV35S(Harpster et al.(1988)Mol Gen Genet.212(1):182−90)、サブタレニアンクローバウイルス(subterranean clover virus)プロモーターのNO.4もしくはNO.7(国際公開第9606932号パンフレット)、または、T−DNA遺伝子プロモーターがあり、またこればかりでなく、組織特異的または器官特異的なプロモーター、例えば種子特異的プロモーター(例えば国際公開第89/03887号パンフレット)、器官原基特異的プロモーター(An et al.(1996)Plant Cell 8(1):15−30)、茎特異的プロモーター(Keller et al.,(1988)EMBO J.7(12):3625−3633)、葉特異的プロモーター(Hudspeth et al.(1989)Plant Mol Biol. 12:579−589)、 葉肉特異的プロモーター(光誘導性Rubiscoプロモーター等)、根特異的プロモーター(Keller et al.(1989)Genes Dev.3:1639−1646)、塊茎特異的プロモーター(Keil et al.(1989)EMBO J.8(5):1323−1330)、維管束組織特異的プロモーター(Peleman et al.(1989)Gene 84:359−369)、雄ずい選択的プロモーター(国際公開第89/10396号パンフレット、国際公開第92/13956号パンフレット)、裂開領域特異的プロモーター(国際公開第97/13865号パンフレット)等があるが、これらに限定されない。
【0067】
また別の実施形態において、停止させたフコシルトランスフェラーゼ、および任意でさらにベータ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼを含む突然変異ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物は、糖タンパク質をコードする異種遺伝子も含み得る。この糖タンパク質は高等植物の細胞に内在性の糖タンパク質であってもよく、これらのタンパク質の機能性、折り畳み構造または半減期を変化させうる。糖タンパク質には、高等植物の細胞に外来性のタンパク質(つまり異種糖タンパク質)、つまり、自然界におけるこのような植物細胞で通常は発現されないタンパク質をも含まれる。これらのタンパク質には、例えばモノクローナル抗体等の治療に使用できる哺乳類またはヒトタンパク質が含まれてもよい。外来糖タンパク質を発現させる簡便な方法として、植物で発現可能なプロモーターと目的の糖タンパク質のコード領域とを含み、植物細胞のゲノムへ安定的に組み込めるキメラ遺伝子から発現させる方法がある。植物細胞で外来タンパク質を発現する方法は当技術分野においてよく知られている。あるいは、外来糖タンパク質を一過性の方法、例えば、国際公開第02/088369号パンフレット、国際公開第2006/079546号パンフレット、および国際公開第2006/012906号パンフレットに記載のウイルスベクターおよび方法を使用して、または国際公開第89/08145号パンフレット、国際公開第93/03161号パンフレット、国際公開第96/40867号パンフレット、もしくは国際公開第96/12028号パンフレットに記載のウイルスベクターを使用して発現させてもよい。
【0068】
「異種タンパク質」は、自然界における植物または植物細胞により発現されないタンパク質(つまりポリペプチド)を指すと理解される。これは、植物または植物細胞によって自然に発現されるタンパク質である相同タンパク質と対照をなす。翻訳後のNグリコシル化を受ける異種および相同のポリペプチドを、本明細書においては、異種または相同の糖タンパク質と呼ぶ。
【0069】
本発明の方法によって有利に産生できる目的の異種タンパク質の例には、サイトカイン、サイトカイン受容体、成長因子(例えばEGF、HER−2、FGF−alpha、FGF−beta、TGF−alpha、TGF−beta、PDGF、IGF−I、IGF−2、NGF)、成長因子受容体があるが、これらに限定はされない。他の実施例には、成長ホルモン(例えばヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン)が含まれる他;インシュリン(例えば、インシュリンA鎖およびインシュリンB鎖)、プロインシュリン、エリトロポエチン(EPO)、コロニー刺激因子(例えばG−CSF、GM−CSF、M−CSF);インターロイキン;血管内皮細胞増殖因子(VEGF)およびその受容体(VEGF−R)、インターフェロン、腫瘍壊死因子およびその受容体、血小板産生因子(TPO)、トロンビン、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP);凝固因子(例えば第VIII因子、第IX因子、フォンヴィレブランド因子など)、抗凝固因子;組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、カルシトニン、CDタンパク質(例えばCD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CDl Ia、CDl Ib、CD18、CD19、CD20、CD25、CD33、CD44、CD45、CD71等)、CTLAタンパク質(例えばCTLA4);T細胞およびB細胞受容体タンパク質、骨形態形成タンパク質(BNP、例えばBMP−1、BMP−2、BMP−3等)、神経栄養因子、例えば骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン、例えばレンニン、リウマチ因子、ランテス、アルブミン、リラキシン、マクロファージ抑制タンパク質(例えばMIP−1、MIP−2)、ウイルスタンパク質または抗原、表面膜タンパク質、イオンチャンネルタンパク質、酵素、調節タンパク質、免疫調節タンパク質、(例えばHLA、MHC、B7ファミリー)、ホーミング受容体、輸送タンパク質、スーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)、G−タンパク質共役受容体タンパク質(GPCR)、神経調節タンパク質、アルツハイマー病関連タンパク質およびペプチドが含まれる。融合タンパク質およびポリペプチド、キメラタンパク質およびポリペプチドと同様に、あらゆる上述のタンパク質およびポリペプチドのフラグメントまたは部分、または突然変異体、変異体、またはアナログも本発明の方法によって産生できる適切な、ポリペプチドおよびペプチド類に含まれている。好ましい実施形態では、目的のタンパク質は糖タンパク質である。糖タンパク質の1つのクラスは、例えばワクチンを産生するために使用できるウイルス糖タンパク質であり、特にサブユニットである。ウイルスタンパク質には、ライノウイルス、ポリオウイルス、ヘルペスウィルス、ウシヘルペスウィルス、インフルエンザウイルス、ニューカッスル病ウイルス、呼吸系発疹ウイルス、麻疹ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス等のレトロウイルス、またはパルボウイルスまたはパポバウイルス、ロタウイルスまたは伝染性胃腸炎ウイルス等のコロナウイルス、またはダニ媒介性脳炎ウイルスまたは黄熱ウイルス等のフラビウイルス、または東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、またはベネズエラウマ脳炎ウイルス等のトガウイルス、A型ウイルス肝炎またはB型肝炎ウイルス等の肝炎を引き起こすウイルス、ブタコレラウイルス等のペスチウイルス、または狂犬病ウイルス等のラブドウイルス、からのタンパク質を含む。別の好ましい実施形態では、異種糖タンパク質は抗体、またはそのフラグメントである。用語「抗体」は組換え抗体(例えばIgD、IgG、IgA、IgM、IgEのクラス)ならびに単鎖抗体、キメラおよびヒト化抗体、および多重特異性抗体等の組換え抗体を指す。用語「抗体」はまた、前述の全てのフラグメントおよび誘導体を指し、さらに、特異的に抗原決定基に結合する能力を保持する、任意の修飾または誘導されたその変異体を含み得る。抗体誘導体は抗体に結合したタンパク質または化学的な部分を含み得る。モノクローナル抗体は標的抗原または抗原決定基に選択的に結合できる。抗体には、モノクローナル抗体(mAbs)、ヒト化またはキメラ抗体、ラクダ化抗体、ラクダ化抗体(nanobodies(登録商標))、単鎖抗体(scFvs)、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)フラグメント、抗イディオタイプ(anti−Id)抗体、細胞内抗体、合成抗体、および上記いずれかの抗原決定基結合フラグメントが含まれる。用語「抗体」はまた、免疫グロブリンのFc領域と同等の領域を含む融合タンパク質を指す。いわゆる二重特異性抗体の本発明の植物または植物細胞における産生(Bostrom J et al(2009)Science 323,1610−1614)もまた考えられる。
【0070】
本発明の範囲に含まれる好ましい抗体は、下記のアミノ酸配列を含む抗体を包含する:HおびL鎖可変領域(米国特許第5,725,856号明細書を参照)を含む抗体、またはHERCEPTIN(商標)等のトラスツズマブを含む抗HER2抗体;米国特許第5,736,137号明細書のキメラ抗CD20、米国特許第5,721,108号明細書の2H7抗体のキメラまたはヒト化変異体等の抗CD20抗体;ヒト化抗VEGF抗体huA4.6.1 AVASTIN(商標)(国際公開第96/30046号パンフレットおよび国際公開第98/45331号パンフレット)等のヒト化および/または親和性成熟抗VEGF抗体を含む抗VEGF抗体;抗EGFR(国際公開第96/40210号パンフレットのキメラ化またはヒト化抗体);OKT3(米国特許第4,515,893号明細書)等の抗CD3抗体;CHI−621(SIMULECT)および(ZENAPAX)(米国特許第5,693,762号明細書)等の抗CD25抗体または抗tac抗体。本発明は、本発明の形質転換された植物細胞を培養すること、または本発明の形質転換された植物の生育することを含む、抗体の産生のための方法を提供する。産生された抗体は、標準的な手順に従って精製し調剤できる。
【0071】
グリコシルトランスフェラーゼおよび/または異種遺伝子のヌクレオチド配列は、植物での発現レベルを増加させるために最適化されたコドンであってもよい。コドン最適化は、植物におけるコドンの利用法に近づけるため、構造遺伝子またはそれらのフラグメントのオリゴヌクレオチド構築ブロックの合成のための適切なDNAヌクレオチドの選択およびその後の酵素集合を意味する。
【0072】
ある実施形態において、望ましい糖タンパク質またはその機能的フラグメントを得るための方法は、本明細書に記載の植物を収穫できる段階に到達するまで栽培すること、植物を収穫および分画し、分画された植物材料を得ること、および前記分画された植物材料から前記糖タンパク質を少なくとも部分的に単離することを含む。
【0073】
ある実施形態において、望ましい糖タンパク質またはその機能的フラグメントを得るための方法は、発酵槽内の細胞培養で組換え植物細胞を、前記細胞培養が収穫できる段階に到達するまで、または望ましい糖タンパク質が培地から回収できるまで生育することを含む。本明細書で記載した糖タンパク質、例えば抗体、ワクチン、サイトカイン、およびホルモンは、当業者によく知られている標準的な技術で精製してもよい。そのような組換えにより生成されたタンパク質は、直接発現させてもよく、融合タンパク質として発現させてもよい。組換えタンパク質を、細胞溶解(例えば、超音波処理、フレンチプレス)、アフィニティークロマトグラフィー、または他のアフィニティベースの方法の組合せにより精製する。融合生成物について、その後、適切なタンパク質分解酵素により融合タンパク質を消化させることで、望ましい組換えタンパク質が遊離される。
【0074】
また別の実施形態において、本発明は、本明細書に前述されたベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物のヌル突然変異体における少なくとも1つの異種タンパク質を産生する方法を提供し、この方法は、a)本発明に記載のヌル突然変異植物または植物細胞に、次の操作可能に連結された核酸分子、i)植物で発現可能なプロモーター、ii)異種タンパク質をコードするDNA領域、およびiii)転写終止およびポリアデニル化に関与するDNA領域、を含む少なくとも1つのキメラ遺伝子を提供するステップと、b)前記植物または植物細胞を培養し、前記植物または植物細胞から前記少なくとも1つの異種タンパク質を単離するステップとを含む。好ましい態様では、産生される異種タンパク質は抗体である。
【0075】
本明細書に記載のタンパク質は、組み換えか合成であり、当技術分野においてよく知られている標準技術、例えば 界面活性剤可溶化、硫酸アンモニウム等の物質での選択的沈殿、カラムクロマトグラフィー、免疫精製法、および他の方法により相当な純度に精製してもよい。例えば、R. Scopes, Protein Purification:Principles and Practice,Springer−Verlag:New York(1982);Deutscher,Guide to Protein Purification,Academic Press(1990)を参照のこと。例えば、本明細書に記載のように、抗体をタンパク質として産生にしてもよい。大腸菌からの精製は、米国特許第4,511,503号明細書に記載の以下の手順により達成される。次いで、タンパク質を発現している細胞からタンパク質を単離し、本明細書に記載したような標準的なタンパク質化学技術によってさらに精製してもよい。発現されたタンパク質の検出は、当技術分野において知られている方法、例えば、放射免疫アッセイ、ウエスタンブロット法技術、または免疫沈殿法により達成される。
【0076】
説明および実施例の全体にわたって、下記の配列を参照する。
【0077】
配列番号1:ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼXylTg14のヌクレオチド配列
配列番号2:配列番号1のアミノ酸配列
配列番号3:ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼXylTg19のヌクレオチド配列
配列番号4:配列番号3のアミノ酸配列
【実施例】
【0078】
1.M2種子産生に最適なEMS用量の測定
EMS突然変異誘発のための最適用量を、ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)種子を0、50、75、100、150、および200mMのEMSで処理することにより決定した。簡単に述べると、種子を室温で2時間浸し、室温で4時間EMSで処理し、室温で15分間の洗浄を5回行った。種子を一晩乾燥させ、すぐ播種した。発芽、幼苗致死および植物稔性に対する影響を記録した。ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)は、Nicotiana debneyiとNicotiana suaveolensとの組み合わせによる複二倍体種として記述されている(Goodspeed,T.H.(1954)The Genus Nicotiana,Waltham,Massachusetts:Chronica Botanica)。驚いたことに、四倍体であるベンサミアナタバコ(N.benthamiana)と比較して、二倍体である親がEMSに対して高い抵抗性を有することが発見された。ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)種子における結果を図1Aおよび図1Bに示す。EMS処理は発芽の遅れを引き起こしたが、EMSが75mMになるまで致死率は検出されなかった。より高EMS用量では、致死率は急速に上昇し、EMSが150mMになると、処理後生存していた種子はなかった(図1A)。稔性は50mMですでに影響が見られた。75mMで種子を処理すると、M1植物のおよそ60%が不稔であった(図1B)。これらの結果に基づき、最適のEMS用量を75mMと設定した。
【0079】
2.直接配列決定法によるSNP検出
EMS誘発点突然変異をSmits B.M. et al.(2006)Pharmacogenet.Genomics16:159−169に記述の方法を使用し、直接配列解析法によりハイスループットな方法で検出した。簡単に述べると、特異的遺伝子フラグメントを、遺伝子特異的プライマーを使用して、個々の植物の葉組織のDNAからPCRによって増幅した。各プライマーはその5’末端に追加配列を有し、得られたPCRフラグメントの両鎖の配列を分析できる。第一段階で、方法を最適化した。さらに、いくつかのベンサミアナタバコ(N.benthamiana)受入株からDNAを抽出した(受入株については表1を参照)。遺伝子XylTg14およびXylTg19の第1エキソンを増幅し、ヌクレオチド配列を決定した。これらの配列とXylTg14およびXylTg19の配列とをNovoSNP(Weckx S. et al.(2005)Genome Research15:436−442)で比較し、配列のクロマトグラムで一塩基多型(SNP)を分析した。USDA National Germplasm System(アクセッションコードPI555684)からの受入株NBNPGS2のみが、本研究において使用したベンサミアナタバコ(N.benthamiana)受入株(つまりIcon Genetics GmbHによって供給された品種「BENTHAMIANA」)と比較して、SNPをいくつか含んでいたことが明らかとなった。同定されたSNPの位置を図2に概略する。
【0080】
最終的なM2集団のDNAの産生のため、96ウェルフォーマットにおいて葉材料をサンプリングする際に、受入株NBNPGS2を対照および位置マーカーとして使用した。(つまり、NBNPGS2からの葉材料をウェルH12にサンプリングした。)
【0081】
【表1】

【0082】
表1 EMSで突然変異誘発したM2集団の試験および産生において使用したベンサミアナタバコ(N.benthamiana)受入株。受入株BENTHAMIANAを最終的なM2集団に使用した。他の受入株は、SNP検出方法の試験および最適化のために使用しただけであった。受入株NBNPGS2を、最後のM2集団のサンプリングの際に、各96ウェルプレートにおける対照として使用した。
【0083】
3.突然変異誘発検出のための標的領域の定義
直接配列決定法によるSNP検出は500bpの配列フラグメントに制限されるため、EMSで突然変異誘発した際、ヌル突然変異が生じる可能性が最も高いXylTg14およびXylTg19の遺伝子の500bp領域を同定する必要があった。したがって、(1)GからAへ、またはCからTへの変異により終止コドンに変化できるコドンが最も高密度である領域、および/またはスプライス供与部位およびアクセプター部位、ならびに(2)触媒または保存ドメイン中、または上流に位置する領域、を同定する必要があった。終止またはスプライス変異候補の最も高密度な領域を見つけるため、EmsPred、つまり、コード配列において、EMS突然変異誘発により誘発された終止コドンまたはスプライス変異体に変異導入できるすべてのコドンを同定するBayer BioScienceが所有するアルゴリズムを使用した。XylTg14およびXylTg19で同定された位置を表2に記載する。触媒ドメインの上流領域の同定のために、Pagny et al.(Pagny,S. et al.(2003)Plant J.33:189−203)による、N末端の82、106、および143のアミノ酸の除去によるシロイヌナズナ(A.thaliana)のβ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼの失活を記述した論文を使用した。結論として、XylTg14およびXylTg19の120および720の位置の間の推定ヌル突然変異を検索することに決定した。XylTg14では、この領域は第1エキソン(位置650まで)の一部、および第1イントロンの一部、およびアミノ酸の41〜217に対するコードに対応していた。XylTg19では、この領域はまた、第1エキソン(位置648まで)の一部、および第1イントロンの一部、およびアミノ酸の41〜216に対するコードに対応していた。
【0084】
【表2】

【0085】
表2 1つのEMS突然変異による、終止またはスプライス突然変異を産生する、XylTg14および19における全位置の概略。最終的なXylTg14および19の対立遺伝子の終止コドンの位置も示す。
【0086】
4.XylTg14およびXylTg19のシングルノックアウト植物の同定、およびダブルノックアウト植物の作製
合計で5700のM2個体を、XylTg14における突然変異についてスクリーニングし、XylTg19に関しては6200の個体をスクリーニングした。XylTg14では、ヌクレオチド位置192、212、および392で3つの推定ヌル対立遺伝子を同定し、それぞれXylTg14−1、−2、および−3と名づけた。XylTg19では、ヌクレオチド位置139および183で2つの推定ヌル対立遺伝子を同定し、それぞれXylTg19−1、および−2と名づけた。(図2および表2)。
【0087】
これらの突然変異のホモ接合の突然変異体を得るため、元のM2種子ロットから24個体の植物−突然変異が同定されている−を生育し、サンプリングし、特定の突然変異を直接配列決定法によって分析した。xyltg14−1突然変異体をxyltg19−1と交雑し、ヘテロ接合の二重突然変異体を産生した。さらに、すべての突然変異体(つまり、xyltg14−2およびxyltg14−3およびxyltg19−2を含む)を自家受精させ、ホモ接合の単一突然変異体の種子ロットを確立した。
【0088】
XylTg14−1とXylTg19−1の交雑種の後代を、そのヘテロ接合の遺伝子型を確認するために直接配列決定法で分析した。選択された植物を自家受精させた。二重ホモ接合の突然変異体をこれらの植物の後代から直接配列決定法によって同定した。安定的なホモ接合の種子ロットを確立するために、これらの植物を自家受精した。同時に、これらの植物をBENTHAMIANA受入株で戻し交雑し、xyltg14−1およびxyltg19−1がホモ接合だが望ましくない背景突然変異の無い植物を産生させた。
【0089】
5.XylTg14およびXylTg19単一および二重突然変異体のグリカン分析
対立遺伝子XylTg14−1および同19−1で見られる突然変異が、それぞれXylTg14および同19の遺伝子の失活をもたらすかどうか判定するために、異なったヘテロ接合およびホモ接合の単一および二重突然変異体からの全タンパク質に対しウェスタンブロットを行った。全タンパク質10μgをレーン毎に添加し、ブロットし、Fayeらによって記述された方法(Faye,L. et al(1993)Anal.Biochem.209:104−108)によって産生した、抗キシロースまたは抗フコース抗体のいずれかでプローブした。 (Faye, L. et al (1993)。図3は、二重ホモ接合の突然変異体の全タンパク質が抗キシロース抗体により認識されないことを示す。対照的に、単一ホモ接合の突然変異体または二重ヘテロ結合の突然変異体のいずれかからのタンパク質は、抗キシロース抗体によって認識される。抗フコース抗体でプローブした対照ブロットは、タンパク質がすべてのレーンに添加されたことを示す。これらを合わせると、対立遺伝子xyltg14−1およびxyltg19−1の突然変異はヌル突然変異であること、および二重ホモ接合のxyltg14−1およびxyltg19−1植物といったようなXylTg14およびXylTg19の両方のヌル突然変異体を生じさせるには、完全なβ1、2−キシロシルトランスフェラーゼ活性を失活させ、ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)のN−グリカンへのいかなるβ1、2−キシロースの付加をも完全に妨げることが必要十分であることが示される。
【0090】
次のステップで、xyltg14−1およびxyltg19−1がホモ接合のベンサミアナタバコ(N.benthamiana)植物において産生された異種糖タンパク質のN−グリカンの上のキシロース糖質の有無を調査した。さらに、ダブルノックアウト植物において発現されたIgG1のH鎖上に存在するN−グリカンを、magnICON(登録商標)(Marillonnet et al.(2005)Nature Biotechnology 23,718−723)を使用して分析した。浸潤後9日目に、全タンパク質を突然変異植物から抽出し、IgG1をプロテインGを使用して精製した。精製された抗体のH鎖を、還元SDS−PAGEから対応するバンドを切り出すことにより単離した。このバンドにおけるH鎖タンパク質を、Kolarichらによって記述されたLC−MS(Kolarich,D. et al
(2006)Proteomics 6:3369−3380)によるグリカン分析に使用した。図4に示された結果は、キシロースがこのIgG1のH鎖上に存在しないことを示す。これにより、二重ホモ接合のxyltg14−1およびxyltg19−1ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)突然変異体は完全に、ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ活性を欠くことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された標準種子を用いて育種することにより得られる、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物のベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体、またはその細胞、部位、種子、もしくは後代。
【請求項2】
前記ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼヌル突然変異体は、xyltg14−1、xyltg14−2、またはxyltg14−3からなる群からのヌル対立遺伝子と、xyltg19−1またはxyltg19−2からなる群から選択されるヌル対立遺伝子とから選択されるホモ接合のヌル対立遺伝子の組合せを含む、請求項1に記載のベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物または植物細胞。
【請求項3】
前記植物において産生された糖タンパク質のN−グリカン構造上でベータ−1,2−キシロシル−糖質を形成しない、請求項1または2に記載の植物または植物細胞。
【請求項4】
ベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼの2つのヌル対立遺伝子、xyltg14−1およびxyltg19−1がホモ接合であることを特徴とする、NCIMBに2009年5月21日にアクセッション番号NCIMB41622で寄託された、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)種子。
【請求項5】
請求項4の種子から得られる、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物、またはその細胞、部位、種子、もしくは後代。
【請求項6】
停止させたアルファ−1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性をさらに含む、請求項1、2、3、または5のいずれか一項に記載の植物または植物細胞。
【請求項7】
ベータ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ活性をコードするキメラ遺伝子をさらに含む、請求項6に記載の植物または植物細胞。
【請求項8】
異種タンパク質をコードするキメラ遺伝子を含む、請求項1、2、3、5、6、または7のいずれか一項に記載の植物または植物細胞。
【請求項9】
異種タンパク質の産生のための請求項1から3または請求項4から8のいずれか一項に記載の植物または植物細胞の使用。
【請求項10】
請求項1から3および請求項5から8のいずれか一項に記載の植物または植物細胞において少なくとも1つの異種タンパク質を産生する方法であって、
a.請求項1から3および請求項5から8のいずれか一項に記載の植物または植物細胞に、操作可能に連結された次の核酸分子、
a.植物で発現可能なプロモーター、
b.異種タンパク質をコードするDNA領域
c.転写終止およびポリアデニル化に関与するDNA領域、
を含む、少なくとも1つのキメラ遺伝子を提供するステップと、
b.前記植物または植物細胞を培養し、前記植物または植物細胞から前記少なくとも1つの異種タンパク質を単離するステップとを含む方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−529886(P2012−529886A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514397(P2012−514397)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003749
【国際公開番号】WO2010/145846
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(501018298)バイエル・バイオサイエンス・エヌ・ヴェー (12)
【氏名又は名称原語表記】Bayer BioScience N.V.
【Fターム(参考)】