説明

キセノンフラッシュランプ点灯装置

【課題】 要求された点灯条件の下で10万回以上繰り返しキセノンフラッシュランプを点灯させることが可能な点灯装置を提供する。
【解決手段】 発光管両端部に箔シール構造を有するキセノンフラッシュランプに対して電流を供給して点灯させる電源回路とから構成されるランプ点灯装置において、
前記電源回路が供給する電流は、ランプ電流ピーク値が40A以上であり、かつ電流変動幅が10%以内の定電流制御が10msec以上であり、なおかつ定電流制御時のランプ電流値をIs(A)、定電流制御時間をSs(sec)とすると、0.40≦Is×Ss≦15であり、かつ発光間隔Ti(sec)はTi≧1/2×Is×Ssである条件を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瞬時に大電流が供給されるキセノンフラッシュランプを点灯させるためのキセノンフラッシュランプ点灯装置の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールの製造ラインでは、太陽電池モジュールのIV特性の高速計測の際、キセノンフラッシュランプを光源として用いたソーラーシミュレータによって、当該モジュールに擬似太陽光が照射される。その際、キセノンフラッシュランプに求められる条件は、(1)太陽電池モジュールのIV特性の測定所要時間から要求される有効パルス発光幅として10〜100msecが必要であり、その間の照度は定電流制御によって変動幅が10%以内に保たれていること、(2)IV特性測定時に要求される照度を確保する為に、ランプ電流40〜70A、1回の点灯当たり4000J程度で点灯できること、(3)ランプ寿命として10万回以上の繰り返し発光に耐えること、である。
【0003】
従来のキセノンフラッシュランプは、点灯時に数100A以上(瞬間的には約2kA(ピーク値))の大電流が流れることから、ランプ封止部に熱応力が掛かることにより発生するクラックを防止する為、発光管バルブ構成部材と電極構成部材との熱膨張係数差を緩和する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。さらには、タングステン電極棒とタングステン硝子を溶着させ、そのタングステン硝子と発光管として使用される普通石英ガラスとの間で、熱膨張率の異なる硝子材料を3段階以上に渡って溶着させる封止構造を採用する工夫も行なわれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−256890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの従来技術においては、ランプ製造工程において石英管を真空加熱洗浄する際に、高温に加熱すると該封止部がクラックすることから加熱温度を十分に上げられず(650℃まで)、材料中の不純ガスが十分除去できない為、ランプ点灯時に始動不良を引き起こすだけでなく、ランプの寿命特性にも悪影響を与えるという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、上記課題を解決し、要求された点灯条件の下で10万回以上繰り返しキセノンフラッシュランプを点灯させることが可能な点灯装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、要求されている点灯条件においては、ランプ電流ピーク値が40〜70Aと従来のキセノンフラッシュランプより極めて小さいこと、発光幅が10〜120msecと連続点灯と比較して瞬時であること、また発光間隔が10〜15secと比較的長く、ランプ電流は8.4A・sec程度であることから、高圧メタルハライドランプ等で従来から用いられている金属箔封止構造をキセノンフラッシュランプに適用することを想起した。
【0008】
金属箔封止構造とは、タングステン電極芯棒の一端に幅5mm、厚さ0.035mm、長さ20mmのモリブデン製金属箔を溶接し、硝子管を箔部分で溶封させるという構造である。金属箔封止構造を有する高圧メタルハライドランプにおいては、連続点灯でランプ電流15A程度が限度であるが、本件のように瞬時点灯であり、発光間隔が10〜15secの条件であれば、この構造を封止部に適用することが可能と考えられる。またこれによって、ランプ製造工程での石英管の高温加熱洗浄が可能になり、材料に含まれる不純ガスが十分に排出され、封入したキセノンガスがランプ寿命中も高純度に保たれることによって、ランプの始動性、寿命特性の改善に結び付けることが可能になると考えた。
【0009】
そこで、本発明のキセノンフラッシュランプ点灯装置は、
石英ガラスからなる発光管は両端部にモリブ箔を介して密封溶着された箔シール構造を有し、また各端部に電流を導入する陽極および陰極をそれぞれ備えるキセノンフラッシュランプと、このランプに対して電流を供給して点灯させる電源回路とから構成されるキセノンフラッシュランプ点灯装置において、
前記電源回路が供給する電流は、ランプ電流ピーク値が40A以上であり、かつ電流変動幅が10%以内の定電流制御が10msec以上であり、
なおかつ定電流制御時のランプ電流値をIs(A)、定電流制御時間をSs(sec)とすると
0.40≦Is×Ss≦15
であり、かつ発光間隔Ti(sec)は
Ti≧1/2×Is×Ss
である条件を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キセノンフラッシュランプの端部には金属箔封止構造が採用され、ランプに対して所定条件で電流が供給されるので、キセノンフラッシュランプの繰り返し点灯時に不点が起こらず、10万回以上の繰り返し発光が可能なキセノンフラッシュランプ点灯装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態のキセノンフラッシュランプ点灯装置を用いて点灯されるキセノンフラッシュランプの一例の外観模式図である。
【図2】ランプ電流Isと定電流制御時間Ssの関係を示す図である。
【図3】ランプ電流Isと定電流制御時間Ssの積と発光間隔Tiとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
<実施例>
図1は本発明の実施形態のキセノンフラッシュランプ点灯装置(不図示)を用いて点灯させることができるキセノンフラッシュランプ10の一例について説明する為の外観模式図である。図1において、11は内径12.5mmの透光性の石英ガラス製の発光管バルブである。バルブ11の各端部には、先端が円柱状で酸化バリウムなどの酸化物を10%含有したカソード電極121と、先端がコイル状に巻回された構造を有するアノード電極122とが各端部に支持されバルブ内側に突き出して対向配置される。電極121、122は、主要材料としてタングステンを使用する。
【0014】
電極121、122の根元は、それぞれ金属箔151,152の一端に溶接される。金属箔151,152の他端は、例えばモリブデン製の引出し線161,162の一端と電気的に接続する。バルブ11の両端部は箔シール構造を有しており、電極121,122の溶接部から引出し線161,162の一端までの各領域を、石英ガラス製のシール管141、142でそれぞれ囲繞しこれを加熱して封止する。金属箔151,152は、シール管141、142を形成する石英ガラスの熱膨張率に近い金属材料であれば何でもよいが、この条件に適った金属としてモリブデンを使用する。バルブ11内部には、圧力4〜6kPaのキセノンガスが封入される。
【0015】
引出し線161,162の他端は、例えばセラミック製の口金171,172の内部で電気的に接続された耐紫外線被覆を有する電線181,182を介して、図示しない電源回路190に接続される。電源回路190は、下記に説明する所定条件でランプ10に電流を供給する。
【0016】
こうして、キセノンフラッシュランプ10と電源回路190とからキセノンフラッシュランプ点灯装置100が構成される。
【0017】
このランプ10を、ランプ電流値Isを70A、定電流制御時間Ssを0.22secとして点灯させた場合(Is×Ss=15.4)、ランプ封止部に熱負荷が掛かることによって、目標とするランプ寿命の10万回繰り返し発光に達する前に封止部のクラックによってランプが不点となった。
【0018】
また、ランプ電流値Isを126A、定電流制御時間Ssを0.12secとした場合(Is×Ss=15.12)についても同様に、目標発光回数の10万回に到達する前に不点となった。
【0019】
そこで、ランプ電流Isを70A、定電流制御時間Ssを0.12secにした場合(Is×Ss=8.4)、封止部のクラック及びリークが発生せず、10万回以上の繰り返し発光が可能であることがわかった。
【0020】
同様に実験を行なったところ、ランプ電流Isと定電流制御時間Ssの積が
0.40≦Is×Ss≦15
となる条件で点灯させる場合には、封止部のクラックによるランプ不点が抑制されることが分かった。
【0021】
なお、上記不等式における下限値は、本発明では、電源回路が供給する電流は、ランプ電流値Isがピーク値で40A以上であり、かつ電流変動幅が10%以内の定電流制御時間Ssが10msec以上であることから導かれる。ランプ電流ピーク値及び定電流制御時間がそれぞれこの下限値未満となる場合は、ランプの放電が維持できないので好ましくない。
【0022】
図2は、ランプ電流Isと定電流制御時間Ssの関係について示したものである。IsとSsの積が0.40≦Is×Ss≦15の範囲、すなわち図2における斜線で示される範囲が封止部のクラックを抑えることが可能な範囲である。
【0023】
次に、発光間隔Tiとの関係に着目し、ランプ電流Isが70A、定電流制御時間Ssが120msecとなる条件で、発光間隔Tiを4secとした場合(Ti=4<1/2×Is×Ss=4.2)及び、発光間隔15secにした場合(Ti=15>1/2×Is×Ss=4.2)での点灯実験を行った。その結果、発光間隔4secとした場合、ランプ封止部が冷える前に再点灯することによって封止部に熱負荷が掛かり、目標とするランプ寿命の10万回繰り返し発光に達する前に封止部のクラックによってランプが不点となった。一方、発光間隔15secとした場合、ランプ点灯毎に封止部が冷やされる為、10万回点灯後においても封止部のクラック、リークなどの不具合現象は起きず、ランプ不点は一度も発生しなかった。
【0024】
図3は、ランプ電流Is及び定電流制御時間Ssと発光間隔Tiとの関係を示している。上記実験結果から、発光間隔Ti(sec)について、
Ti≧1/2×Is×Ss
となる範囲(すなわち図3における斜線範囲)において、封止部のクラックを抑えることが可能であることが分かった。
【0025】
なお、本発明では、電源回路が供給する電流は、電源の充電容量の大きさの制約や寸法、コスト面で過大となるのを避ける為、ランプ電流ピーク値については70Aが、電流変動幅が10%以内の定電流制御時間については120msecが、それぞれ上限値として妥当である。
【0026】
以上の結果から、本発明によればキセノンフラッシュランプの不点が起こらず、10万回以上の繰り返し瞬時発光が可能なキセノンフラッシュランプ点灯装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、主に400〜1100nmの光を利用した、太陽電池モジュールのIV特性測定用ソーラーシミュレータの光源として用いられるキセノンフラッシュランプのための点灯装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0028】
10… キセノンフラッシュランプ
11… 発光管バルブ
121… カソード電極
122… アノード電極
141、142… シール管
151、152… 金属箔
161、162… 引出し線
171、172… 口金
181、182… 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスからなる発光管バルブは両端部にモリブ箔を介して密封溶着された箔シール構造を有し、また各端部に電流を導入する陽極および陰極をそれぞれ備えるキセノンフラッシュランプと、このランプに対して電流を供給して点灯させる電源回路とから構成されるキセノンフラッシュランプ点灯装置において、
前記電源回路が供給する電流は、ランプ電流ピーク値が40A以上であり、かつ電流変動幅が10%以内の定電流制御が10msec以上であり、
なおかつ定電流制御時のランプ電流値をIs(A)、定電流制御時間をSs(sec)とすると
0.40≦Is×Ss≦15
であり、かつ発光間隔Ti(sec)は
Ti≧1/2×Is×Ss
である条件を満たすことを特徴とするキセノンフラッシュランプ点灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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