説明

キトサン−グルカンを含有する創傷治癒及び創傷への包帯付着防止のための製剤

本発明は,薬理学的に適切なキトサン−グルカン錯体又はその塩を単独,或いは一又はそれ以上の多糖又はそれらの適切な塩と組み合わせて含み,更に殺菌剤を含む製剤であって,創傷治癒を意図し,更には創傷治癒を促進すると同時に創傷への包帯付着を防止できる製剤に関する。本発明に係る製剤は,創傷に適用した際,創傷の治癒プロセスを間接的にサポートし,治癒をサポ−トする組織メディエーター及び酵素と共に,余分な分泌液を排出させる。その結果,周囲の皮膚の軟浸や,乾燥,創傷への貼り付きを起こすことなく創傷及びその周囲に必要な水分が提供される。殺菌剤を添加することにより更なる感染が防止される。本製剤は,キトサン−グルカン錯体を0.01〜100重量%,他の多糖を0〜99.99重量%及び殺菌剤を0〜50重量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,薬理学的に適切なキトサン−グルカン錯体又はその塩を単独,或いは一又はそれ以上の多糖又はそれらの適切な塩と組み合わせて含み,更に殺菌剤を含む製剤であって,創傷治癒を意図し,更には創傷治癒を促進すると同時に創傷への包帯付着を防止できる製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在,急性及び慢性の複雑な創傷の治癒には種々の材料や技法が用いられている。理想的には,創傷を清潔にして最後に外科的処置(縫合,皮膚自己移植等)を行う。しかしながらこの創傷治癒方法は限られた少数の皮膚欠陥にのみ実施可能であり,主に手術の創傷や急性非感染性創傷が対象となる。
【0003】
より広範囲に及ぶ創傷は多くの場合感染症を起こし,慢性の創傷の場合には実地では細菌汚染と,ある程度の壊死を常に想定しなければならない。これらの広範囲に及ぶ亜急性及び慢性の創傷の処置は非常に複雑である。今日では,広範な或いは慢性の創傷の治癒において永続的に湿った環境を維持するシステムが好ましい。このシステムは,ウインター氏が湿潤状態での創傷の治癒が乾燥状態の創傷に比べ2倍も早いことを実証した60年代に構築された理論に由来する。空気に触れる開放創傷の場合,脱水とかさぶたの形成が起こり,これは表皮細胞の遊走に対して機械的障壁となる。そうなると,治癒プロセスは,より深部の組織に移って行かざるを得なくなるため,治りが遅くなる。[1]
【0004】
湿潤環境をもたらす最も簡単な方法は,湿らせたガーゼを用いて再包帯を繰り返すことである。このガーゼは生理的溶液又は殺菌剤を含む溶液によって湿潤される。この方法は4〜6時間毎に頻繁に再包帯を行う必要があるため大変である。更に,この方法によっては創傷の完全な消毒には至らず,創傷周囲の皮膚の浸軟を防ぐことはできない。また,包帯が定期的に湿潤されなければ,包帯が乾燥して創傷に貼り付き,再包帯時に剥がすと非常に痛い。これは他の幾つかの方法により防ぐことができる。[2]
【0005】
ワセリンを浸み込ませたガーゼは,所謂「油ガーゼ(greasy gauze)」と呼ばれる。このワセリンにはヨウ素を配合することができ,こうすると包帯は抗細菌性を有する。湿潤ガーゼの使用に伴う問題点は,ワセリンが創傷と壊死部を覆ってしまい,包帯下で感染が拡大してしまうことである。再包帯において深い創傷からワセリンを取り除く際には問題が生じる。従って,この方法は表層の創傷のみに適用される。[3]
【0006】
より小さな深い創傷は,創傷の湿潤環境を維持するプラスチック包帯で覆われることが多い。この包帯にはセルロース誘導体又はアルギン酸塩を添加することができる。このような包帯は,主に被覆機能は果たすが消毒効果は無い。この包帯自体は壊死組織の除去には役に立たず,治癒を積極的にサポートすることもない。このことは,治癒を促進する物質の適用に先立って別の段階で創傷を清潔にする必要があること,及び,更なるサポートがなければ創傷を無菌状態に維持し,その後の感染拡大を防ぐこともできないことを意味する。[2]
【0007】
壊死組織は,コラゲナーゼやパパイン等の酵素を軟膏基剤又はクリーム基剤中に含む製剤により,或いは機械的に創傷から除去することができる。組織分泌物は特に活性炭を含む製剤によって除去される。[4]
【0008】
チェコ共和国実用新案第12015号には,適切なヒアルロン酸塩とヨウ素及びヨウ化カリウムとの組み合わせに基づく慢性創傷の治癒のための製剤が開示されている。この組合せにより,創傷を消毒する環境が提供され,更なる感染が防止され,同時に良好な湿潤が保証される。この適切なヒアルロン酸塩は創傷の治癒をサポートする。[5]
【0009】
また,この他の製剤の幾つかは治癒効果向上のために,主にナトリウム塩の形態のヒアルロン酸を種々の成長因子と組み合わせて使用している。この場合,先行する別の工程で創傷を清潔にする必要があるという点がこのシステムの短所である。他の問題点は殺菌剤が存在しないことであり,このことは更なるサポート無しには製剤は創傷を無菌状態に保てず,その後の感染の進行を防止できないことを暗示している。[2]
【0010】
慢性の創傷を治療するためには,コラーゲンと化学修飾セルロースの組合わせが利用される。このシステムに他の物質が添加されなければ,該システム自体による創傷の消毒,分泌物の除去等は保証されない。[2]
【0011】
慢性創傷の治癒に利用される特殊な機器を用いる療法としては,高圧室での酸素化療法及び真空療法が挙げられる。高圧室酸素セラピーは特に糖尿病患者に適している。真空セラピーにおいては,多孔質弾性スポンジを創傷に適用し,該スポンジを一定の時間間隔で交換して,創傷を非浸透性の箔でカバーする。その後,創傷から空気が吸引され,得られた真空が創傷を清潔にし,分泌物を除去する。これらの療法は共に,機器の必要性が高く,非常に特殊な施設にのみ適している。更に,これらはある一定の診断のみに限定される。[6,7]
【0012】
参考文献
1.ウインターG.D.,「幼年家畜ブタの皮膚におけるかさぶたの形成と表面の創傷の上皮形成速度(Formation of scab and rate of epithelialization
of superficial wounds in the skin of the young domestic pig)」,ネイチャー
1962,193,293
2.オビントンL.G.,「創傷の手当ての進歩(Advances in wound dressings)」,Clinics.Dermatol. 2007,25,33
3.クイーンD.,エバンスJ.H.,ゲイラーJ.D.S.他,「火傷の手当て 総説(Burn wound dressings - a review)」,バーンズ1987,13,218
4.ファラベッラA.F.,「壊死組織切除及び褥瘡用製剤(Debridement and wound bed preparation)」,Dermatol.Therapy 2006,19,317
5.実用新案第12015号,チェコ共和国工業所有権庁
6.http://www.worldwidewounds.com/2001/may/Thomas/Vacuum−Assisted−Closure.htmL;5.9.07
7.http://en.wikipedia.org/wiki/Hyperbaric medicine;5.9.07
【0013】
発明の概要
本発明の目的は,創傷に適用した際に,創傷の治癒プロセスを間接的にサポートする製剤を生成することにある。この製剤はその特定な組成により,治癒をサポ−トする組織メディエーター及び酵素と共に作用して,創傷から余分な分泌液を表面に排出させる。その結果,周囲の皮膚の軟浸や,乾燥,創傷への貼り付きを起こすことなく創傷及びその周囲に必要な水分が同時に提供される。殺菌剤を添加することにより更なる感染が防止される。
【0014】
本発明に係る,創傷治癒のため及び創傷への包帯付着防止のための製剤の主題は,薬理学的に適切なキトサン−グルカン錯体又はその塩を単独で,或いは一又はそれ以上の多糖又はそれらの適切な塩と組み合わせて含み,更に殺菌剤を含むことにある。
【0015】
薬理学的に許容可能なキトサン−グルカン錯体は,2.5%溶液の25℃,回転速度0.0314rad/sにおける動的粘度が0.1〜100Pa・sであり,1,3−D−グルカンに対するキトサンの重量比が0.01:99.99〜99.99:0.01であり,グルコサミン含有量が0〜1(n/n)であり,遊離又は医薬的に適切な塩の形態である。適切な塩は,塩酸塩,乳酸塩,酢酸塩,プロピオン酸塩,コハク酸塩,グリコール酸塩,他の酸の水溶性塩,又はこれらの混合物である。
【0016】
前記他の多糖は例えばヒアルロン酸,アルギン酸(アルギン酸塩),カルボキシメチルセルロース,キトサン,酸化セルロース,フカン,シゾフィラン,カルボキシメチル−,スルホエチル−又は他の水溶性1,3−D−グルカンであり得る。他の多糖は遊離又は医薬的に適切な塩の形態で結合されている,塩は単一の塩であっても混合物であってもよい。所謂「他の多糖」と称される各多糖は次のパラメータを有する。
【0017】
本発明におけるヒアルロン酸は分子量1000〜2500000g/molを有し,遊離又は薬理学的に適切な塩の形態である。この塩はナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である。本発明におけるアルギン酸(アルギン酸塩)は,分子量1000〜1000000g/molを有し,L−グルクロン酸に対するD−マンヌロン酸の比が0.1〜5(n/n)であり,遊離又は薬理学的に適切な塩の形態である。この塩はナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である。カルボキシメチルセルロースは分子量1000〜1500000g/molを有し,置換度(カルボキシメチル基総量/モノサッカライド単位総量)0.1〜3(n/n)を有し,遊離又は薬理学的に適切な塩の形態である。この塩はナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である。シゾフィラン(β−1,3−D−グルカン)は分子量1000〜2000000g/molを有する。キトサンは分子量1000〜1000000g/molを有し,脱アセチル化度0.1〜1(n/n)を有し,遊離又は薬理学的に適切な塩の形態である。この塩は塩酸塩,乳酸塩,酢酸塩,プロピオン酸塩,コハク酸塩,グリコール酸塩若しくは他の酸の水溶性塩,又はこれらの混合物である。本発明における酸化セルロース(ポリグルクロン酸)は分子量1000〜1000000g/molを有し,酸化度0.05〜1(n/n)を有し,遊離又は薬理学的に適切な塩の形態である。この塩はナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である。フカンは分子量1000〜500000g/molを有し,モノサッカライド単位の総数に対するフコース単位の総数の比を少なくとも0.25(n/n)有し,スルホ基の重量分率を少なくとも0.1重量%有する。カルボキシメチル−β−l,3/l,6−D−グルカンは分子量1000〜1500000g/molを有し,0.05〜3(n/n)の範囲の置換度(モノサッカライド単位総量に対するカルボキシメチル基総量)を有し,遊離又は薬理学的に適切な塩の形態である。この塩はナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である。スルホエチル−β−l,3−D−グルカンは分子量1000〜1500000g/molを有し,0.05〜3(n/n)の範囲の置換度(モノサッカライド単位総量に対するスルホエチル基総量)を有し,遊離又は薬理学的に適切な塩の形態である。この塩はナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である。
【0018】
殺菌剤は,グリコール類(プロピレングリコール,1,3−ブチレングリコール,ヘキシレングリコール等),四級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム(BAC),臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTMB),塩化セチルピリミジウム(CPC),塩化ベンゼトニウム(BZT)等),ビグアニジン誘導体(クロルヘキシジンクロリド/アセテート/グルコネート等,ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB),ポリアミノプロピルビグアニド等),オクテニド類(塩化オクテニド等),ヨウ素錯体(ヨウ素/ヨウ化カリウム等),ビスマストリブロモフェネート(bismuttribromophenate),銀,銀スルファジン他からなる群から選択することができる。
【0019】
本発明に係る製剤は,薬理学的に適切なキトサン−グルカン錯体を(前記製剤の)乾燥材料(the dry matter)に対して0.01〜100重量%,一の他の多糖又は複数の多糖の混合物を乾燥材料に対して0〜99.99重量%及び殺菌剤を乾燥材料に対して0〜50重量%の各濃度で含む。
【0020】
本発明の製剤の更に好ましい実施形態は,薬理学的に適切なキトサン−グルカン錯体を乾燥材料に対して40〜90重量%,一又は複数の他の多糖を乾燥材料に対して10〜60重量%及び殺菌剤を乾燥材料に対して1〜25重量%の各濃度で含む。
【0021】
本発明の創傷治癒及び創傷への包帯付着防止のための製剤は,粘性水溶液,ゲル,箔,凍結乾燥物,適切な布地に付着させた箔,適切な布地に付着させた凍結乾燥物の各形態,又はこれら形態の組み合わせとすることが好ましい。
【0022】
本発明に係る製剤は粘性水溶液又はゲルであり,これらは上述の各成分を無菌水に溶解することにより調製される。本発明に係る製剤が箔又は適切な布地に付着させた箔の形態である場合には,上述の各成分を無菌水に溶解し,その溶液を適切な型又は布地で覆った型に注ぎ,乾燥させることにより調製される。本発明に係る製剤が凍結乾燥物或いは布地に付着させた凍結乾燥物である場合には,上述の各成分を無菌水に溶解し,その溶液を適切な型又は布地で覆った型に注いで凍結し,凍結乾燥させることにより調製される。
【0023】
本発明の創傷治癒及び創傷への包帯付着防止のための製剤は,創傷に直接塗布するか,その必要量を包帯の一面に塗布して創傷に適用する。或いは,本製剤を多層包帯構造に挿入することもでき,その場合,本製剤は非接着性布地又は酸化セルロース製の布地で形成される包帯接触層の真裏に配置され,この多層包帯の接触層を創傷に当てることにより適用される。
【0024】
キトサン−グルカン及び他の多糖は,製剤を適用する際,創傷や創傷の周囲からの組織液の分泌を確実なものとするのに十分な親水性を有し,創傷治癒(創傷の水和)に適切な永続的に湿った環境を提供する分子である。創傷を湿らせる水は創傷から包帯に移行するという事実からすれば,創傷周囲の浸軟は起こらない。殺菌剤は創傷を消毒することにより,創傷内の清潔な環境を確実とする。これら要因の全ては肉芽組織形成と後続の上皮形成,従って創傷治癒に確実に影響を及ぼす。この利点により包帯のモニタリングの可能性が提供される。
【0025】
キトサン−グルカンを含む本発明に係る製剤の実験用の創傷の治癒に及ぼす影響を表1に示す。表1中の略語及び製剤に含まれる各物質のパラメータは次の通りである。CH−G:キトサン−グルカン(2.5%溶液の25℃,回転速度0.0314rad/sにおける粘度:6.8Pa・s,グルコサミン含有量0.11(n/n)で塩化水素の塩(塩酸塩)の形態);HA:ヒアルロン酸(分子量:1700000g/mol,ナトリウム塩)
【0026】
【表1】

【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明において用いるキトサン−グルカンの分子量は動的粘度により定義される。本発明に用いる他のポリマー物質の分子量は重量平均分子量である。
【0028】
実施例1
キトサン−グルカン(溶液濃度2.5%,温度25℃,回転速度0.0314rad/sにおける動的粘度2.5Pa・s,グルコサミン含有量0.15(n/n))1gを滅菌注射液100mLに溶解し,キトサン−グルカン溶液に塩化オクテニジン溶液を最終塩化オクテニジン濃度が0.2%となるよう加える。この最終溶液を滅菌する。この粘性を帯びた溶液を型に注ぎ,注がれた混合物をトレー熱風乾燥機にて60℃で24時間乾燥させる。このように調製された箔を,メッシュ構造を有する非接着性PAD布地で形成される包帯接触層の真裏に配置されるよう多層包帯構造体に挿入する。続いてこの包帯を包装し,滅菌する。本包帯は創傷への直接適用を意図したものである。
【0029】
実施例2
キトサン−グルカン(溶液濃度2.5%,温度25℃,回転速度0.0314rad/sにおける動的粘度6.8Pa・s,グルコサミン含有量0.11(n/n))0.75g及びヒアルロン酸ナトリウム(分子量1700000g/mol)0.75gを滅菌注射液50mLに溶解させる。ヨウ化カリウム0.15gを滅菌注射液50mLに溶解させた溶液にヨウ素0.1gを溶解させる。両溶液は個々に調製し且つ個々に滅菌する。滅菌後,これらの溶液を滅菌条件下にて混合する。生成したゲルの薄層を直接創傷に適用し,その上に包帯を適用する。
【0030】
実施例3
キトサン−グルカン(溶液濃度2.5%,温度25℃,回転速度0.0314rad/sにおける動的粘度8.6Pa・s,グルコサミン含有量0.13(n/n))1g,シゾフィラン(分子量1200000g/mol)0.5g及びビスマストリブロモフェネート0.1gを滅菌注射液100mLに溶解させ,滅菌する。この非常に高粘性のゲルを型に注ぎ,この注がれた混合物を−18℃で12時間凍結させる。凍結した混合物を凍結乾燥機に入れ凍結乾燥させる。このように調製された凍結乾燥物を,メッシュ構造を有する非接着性PP布地から形成される包帯接触層の真裏に配置されるよう多層包帯構造体に導入する。続いてこの包帯を包装し,滅菌する。本包帯は創傷への直接適用を意図したものである。
【0031】
実施例4
キトサン−グルカン(溶液濃度2.5%,温度25℃,回転速度0.0314rad/sにおける動的粘度12.0Pa・s,グルコサミン含有量0.20(n/n))0.75g,ヒアルロン酸ナトリウム(分子量1700000g/mol)0.5g,カルボキシメチルグルカン(分子量200000g/mol,置換度0.79(n/n))0.25g及びPHMB0.1gを滅菌注射液100mLに溶解し,滅菌する。この非常に高粘性のゲルを不織PES布地で覆った型に注ぎ,この注がれた混合物を−18℃で12時間凍結させる。凍結した混合物を凍結乾燥機に入れ凍結乾燥させる。このように調製され,不織PES布地に固定された凍結乾燥物は創傷への直接適用を意図したもので,布地面でない面が創傷に適用される。
【0032】
実施例5
キトサン−グルカン(溶液濃度2.5%,温度25℃,回転速度0.0314rad/sにおける動的粘度20.0Pa・s,グルコサミン含有量0.05(n/n))1g,キトサン(グルコサミンのフラクション0.7(n/n))0.5g,シゾフィラン(分子量1550000g/mol)0.5g及びクロルヘキシジングルコネート0.05gを滅菌注射液100mLに溶解し,滅菌する。この非常に高粘性のゲルを型に注ぎ,注がれた混合物をトレー熱風乾燥機にて60℃で24時間乾燥させる。このように調製された箔を,酸化セルロース製の布地である包帯接触層の真裏に配置されるよう多層包帯構造体に導入する。続いて,この包帯を包装し,滅菌する。本包帯は創傷への直接適用を意図したものである。
【0033】
実施例6
キトサン−グルカン(溶液濃度2.5%,温度25℃,回転速度0.0314rad/sにおける動的粘度30Pa・s,グルコサミン含有量0.15(n/n))1g及びアルギン酸ナトリウム(分子量80000g/mol)0.5gを滅菌注射液100mLに溶解し,キトサン−グルカン及びアルギン酸塩を含む溶液にPHMB溶液を最終PHMB濃度が0.1%となるよう加える。この最終溶液を滅菌する。この非常に高粘性のゲルを不織PP布地で覆った型に注ぎ,注がれた混合物をトレー熱風乾燥機にて60℃で24時間乾燥させる。このように調製され,不織PP布地に固定された箔は創傷への直接適用を意図したもので,布地面でない面が創傷に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤創傷の治癒及び創傷への包帯付着防止のための製剤であって,薬理学的に適切なキトサン−グルカン錯体又はその塩を単独,或いは一又はそれ以上の他の多糖又はそれらの適切な塩と組み合わせて含み,更に殺菌剤を含むこと特徴とする製剤。
【請求項2】
前記薬理学的に適切なキトサン−グルカン錯体は,溶液濃度2.5%,温度25℃,回転速度0.0314rad/sにおける動的粘度を0.1〜100Pa・sの範囲で有し,グルカンに対するキトサンの重量比を0.01:99.99〜99.99:0.01の範囲で有し,モノサッカライド単位総数に対するグルコサミン単位の比を0〜1の範囲で有し,且つ遊離形態又は適切な塩の形態で結合することを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項3】
前記薬理学的に適切な塩は,塩酸塩,乳酸塩,酢酸塩,プロピオン酸塩,コハク酸塩,グリコール酸塩,又は他の酸の水溶性塩,或いはこれらの混合物であることを特徴とする請求項2記載の製剤。
【請求項4】
前記薬理学的に適切なキトサン−グルカン錯体又はその塩の濃度は乾燥材料に対して0.01〜100重量%の範囲であり,前記一又はそれ以上の他の多糖は前記乾燥材料に対して0〜99.99重量%の範囲で存在し,前記殺菌剤は前記乾燥材料に対して0〜50重量%の範囲で存在することを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項5】
前記薬理学的に適切なキトサン−グルカン錯体又はその塩の濃度は前記乾燥材料に対して40〜90重量%の範囲であり,前記他の一又はそれ以上の多糖は前記乾燥材料に対して10〜60重量%の範囲で存在し,前記殺菌剤は前記乾燥材料に対して1〜25重量%の範囲で存在することを特徴とする請求項1〜4記載の製剤。
【請求項6】
前記他の一又はそれ以上の多糖は,ヒアルロン酸,アルギン酸,カルボキシメチルセルロース,キトサン,酸化セルロース,フカン,シゾフィラン,カルボキシメチル−,スルホエチル−若しくは他の水溶性1,3−D−グルカン又はこれらの混合物の遊離形態及び薬理学的に適切な塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4記載の製剤。
【請求項7】
前記他の多糖は,分子量を1000〜2500000g/molの範囲で有し且つ遊離の形態又は薬理学的に適切なナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である塩の形態であるヒアルロン酸であることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項8】
前記他の多糖は,分子量を1000〜1000000g/molの範囲で有し,L−グルクロン酸単位の総数に対するD−マンヌロン酸単位の総数の比を0.1〜5の範囲で有し,且つ遊離の形態又は薬理学的に適切なナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である塩の形態であるアルギン酸であることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項9】
前記他の多糖は,分子量を1000〜1500000g/molの範囲で有し,モノサッカライド単位の総数に対するカルボキシメチル基の総数で表わされる置換度を0.1〜3の範囲で有し,且つ遊離の形態又は薬理学的に適切なナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である塩の形態であるカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項10】
前記他の多糖は,分子量を1000〜2000000g/molの範囲で有するシゾフィラン,即ちβ−1,3−D−グルカンであることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項11】
前記他の多糖は,分子量を1000〜1000000g/molの範囲で有し,モノサッカライド単位の総数に対する脱アセチル化グルコサミン単位の総数で表わされる脱アセチル化度を0.1〜1の範囲で有し,且つ遊離の形態又は薬理学的に適切な塩酸塩,乳酸塩,酢酸塩,プロピオン酸塩,コハク酸塩,グリコール酸塩若しくは他の酸の水溶性塩又はこれらの混合物である塩の形態であるキトサンであることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項12】
前記他の多糖は,分子量を1000〜1000000g/molの範囲で有し,モノサッカライド単位の総数に対するグルクロン酸単位の総数で表わされる酸化度を0.05〜1の範囲で有し,且つ遊離の形態又は薬理学的に適切なナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である塩の形態である酸化セルロースであることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項13】
前記他の多糖は,分子量を1000〜500000g/molの範囲で有し,モノサッカライド単位の総数に対するフコース単位の比が少なくとも0.25であり,且つスルホ基の重量分率が少なくとも0.1重量%以上のフカンであることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項14】
前記他の多糖は,分子量を1000〜1500000g/molの範囲で有し,モノサッカライド単位の総量に対するカルボキシメチル基の総量で表わされる置換度を0.05〜3の範囲で有し,且つ遊離の形態又は薬理学的に適切なナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である塩の形態であるカルボキシメチル−β−l,3(1,6)−D−グルカンであることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項15】
前記他の多糖は,分子量を1000〜1500000g/molの範囲で有し,モノサッカライド単位の総量に対するスルホエチル基の総量で表わされる置換度を0.05〜3の範囲で有し,且つ遊離の形態又は薬理学的に適切なナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛,コバルト,マンガン若しくは他のものの塩又はこれらの混合物である塩の形態であるスルホエチル−β−1,3−D−グルカンであることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項16】
前記殺菌剤は,殺菌作用を有するグリコール又はその混合物,四級アンモニウム塩又はその混合物,ビグアニジン誘導体又はその混合物,オクテニジン又はその誘導体の混合物,ヨウ素/ヨウ化カリウム等のヨウ素錯体又はヨウ素を含む他の錯体,ビスマストリブロモフェネート,銀,銀スルファジン,殺菌作用を有する他の物質又はこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4記載の製剤。
【請求項17】
粘性水溶液,ゲル,箔,凍結乾燥物,適切な布地に付着させた箔,適切な布地に付着させた凍結乾燥物の各形態,又はこれら形態の組み合わせであることを特徴とする請求項1〜4記載の製剤。
【請求項18】
前記布地は,酸化セルロース,ポリアミドPAD,ポリプロピレンPP若しくは創傷に対して接着性を有さない他の適切なポリマー,又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項17記載の製剤。

【公表番号】特表2010−540573(P2010−540573A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527317(P2010−527317)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際出願番号】PCT/CZ2008/000117
【国際公開番号】WO2009/043319
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(504274549)
【Fターム(参考)】