キトサンコーテッド壁を有する医療品及び医療品製造方法
中空本体(2)を有する医療品の製造方法であって、中空本体(2)の壁の少なくとも一部の少なくとも内側がポリマーから成る層でコーティングされている、方法において、医療品の壁の少なくとも一部の少なくとも内側をポリマーの混合物(6)に接触させ、ポリマーを混合物(6)から壁の少なくとも一部の少なくとも内側に被着させることを特徴とする方法。1つ又は2つ以上の構造要素(16)から成る壁を備えた中空本体(2)を有する医療品であって、壁の少なくとも一区分が天然のキトサンから成る層(15)でコーティングされている、医療品において、中空本体(2)の内側と外側の両方で、中空本体(2)の壁の1つ又は2つ以上の構造要素(16)のうちの少なくとも幾つかは、天然のキトサン層(15)で少なくとも部分的にコーティングされていることを特徴とする医療品。ポリマーをポリマーの酸性混合物から電極上に電着する方法において、混合物(6)は、多塩基酸を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空本体を有する医療品の製造方法であって、中空本体の壁の少なくとも一部の少なくとも内側をポリマーから成る層でコーティングする方法に関する。本発明は更に、1つ又は2つ以上の構造要素から成る壁を備えた中空本体を有する医療品であって、壁の少なくとも一区分が天然のキトサンを含む層でコーティングされている医療品及びかかる医療品の使用に関する。最後に、本発明は、医療品の使用及びポリマーを酸性混合物から電極上に電着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの適応例において、中空本体、例えば医用ステントから成る医療品が有利である場合があり、中空本体の壁は、ポリマー、例えば多糖類、例えばキトサンでコーティングされている。
【0003】
ステントは、体内の生まれつきの通路又は導管、例えば血管中に挿入されてかかる体内通路又は導管中の局所流れ絞り部の発生を阻止し又は抑制する通常は管状の物体である。ステントの壁は、例えば金属ワイヤ又は有孔金属シートで作られた金属メッシュから成る場合が多い。大抵のステントは、これらステントが体内通路中に挿入可能な小さな管断面を有する圧縮(又は折り畳み)状態及び体内通路中にいったん導入されると取ることができると共に体内通路の壁に圧接するために大きな断面を有する拡張(又は広げ)状態を取ることができるという意味において拡張可能である。医療品、特に植え込み型医療品、例えば上述のステントの生体適合性を向上させるには、かかる医療品をポリマー、例えばキトサンで被覆し又はコーティングするのが良い。
【0004】
多糖類キトサンは、節足動物、有殻軟体動物、甲殻類の外骨格及び昆虫の角皮に広く見受けられるキトサンのN‐脱アセチル化誘導物である。キトサンは、或る真菌に天然に生じるがキチンのアルカリ加水分解により工業的に作られる。希酸中のキチン及びキトサンの溶解度の差は、2種類の多糖類を識別するために一般的に用いられている。キトサン(可溶形態)は、0%〜約60%の度合いのアセチル化を有するのが良く、上限は、例えば処理条件、分子量及び溶剤の特性のようなパラメータで決まる。キトサンは、酸性水性媒体中で可溶であるが、6.3を超えるpHで沈殿する。
【0005】
キチンとキトサンは両方共、種々の用途に有望なポリマーであり、かかる用途としては、水処理(金属除去、凝集剤/凝固剤、濾過)、パルプ及び紙(表面処理、感光紙、コピー用紙)、化粧品(メイキャップパウダ、ネイルポリッシュ、保湿剤、安定剤、浴用ローション、フェースクリーム、ハンドクリーム、ボディクリーム、練り歯磨き、フォーム促進剤)、バイオテクノロジ(酵素不動化、タンパク分離、クロマトグラフィー、細胞回復、細胞不動化、グルコース電極)、農業(種子コーティング、葉コーティング、水耕/化学肥料、制御農芸化学的放出)、食料(染料、固体及び酸の除去、防腐剤、カラー(色)安定化、動物飼料添加剤)及びメンブレン(逆浸透法、透過性制御、溶剤分離)が挙げられる。キチン及びキトサンの生物医学的用途が生体適合性、生分解性及びグリコサミノグリカンへの構造的類似性に鑑みて特に重要である。用途及び潜在的用途としては、創傷被覆材、組織エンジニアリング用途、人工腎臓メンブレン、薬剤送達システム、吸収性縫合糸、止血剤、抗菌剤用途並びに歯科、整形外科、眼科及び形成外科における用途が挙げられる。キチン及びキトサンの潜在的用途に関する内容豊富なレビューに関しては、例えば、シゲマサ(Shigemasa)及びミナミ(Minami),「アプリケーションズ・オブ・キチン・アンド・キトサン・フォー・バイオマテリアルズ(Applications of chitin and chitosan for biomaterials)」,バイオテクノロジー・ジェネティック・エンジニアリング・レビューズ 1996(Biotech. Genetic. Eng. Rev. 1996),1997年,13,383、クマール(Kumar),「ア・レビュー・オブ・キチン・アンド・キトサン・アプリケーションズ(A review of chitin and chitosan applications)」,リアクティブ・ファンクショナル・ポリマーズ(React. Funct. Polym.),2000年,46(1)、シン(Singh)及びレイ(Ray),「バイオメディカル・アプリケーションズ・オブ・キチン・キトサン・アンド・ゼア・デリバティブス(Biomedical applications of chitin, chitosan, and their derivatives)」,ジャーナル・オブ・マクロモレキュラー・サイエンス(J. Macromol. Sci.),2000年,C40(1),69を参照されたい。
【0006】
キトサンは、その優れた生体適合性に起因して、医療分野における生体適合性被膜(コーテング膜)、例えば、泌尿器科用途、心臓血管用途、胃腸科用途、神経学的用途、リンパ用途、耳鼻咽喉科用途、眼科用途及び歯科用途の器具のための適当な候補である。例えば、内皮細胞に向かうキトサンの再生潜在的可能性(チュパ等(Chupa at al),「バスキュラー・セル・レスポンシズ・トゥ・ポリサッカライド・マテリアルズ:イン・ビトロ・アンド・イン・ビボ・エバリュエーションズ(Vascular Call Responses to Polysaccharide Materials: In Vitro and In Vivo Evaluations)」,バイオマテリアルズ(Biomaterials),2000年,21(22),2315)は、キトサンが心臓血管インプラントの表面に塗布されると、血液適合性層の形成を支援する(ティエリ等(Thierry et al),「バイオディグレイダブル・メンブレン‐カバード・ステント・フロム・キトサン‐ベースド・ポリマーズ(Biodegradable membrane-covered stent from chitosan-based polymers)」,ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(J. Biomed. Mater. Res.),2005年,75A(3);556を参照されたい)。キトサンの静菌的可能性により、血管グラフトの被膜として被着されたときにインプラント関連感染の恐れが著しく減少する(フジタ等(Fujita et al),「インヒビション・オブ・バスキュラー・プロステーシス・グラフト・インフェクション・ユージング・ア・フォトクロスリンカブル・キトサン・ハイドロジェル(Inhibition of vascular prosthetic graft infection using a photocrosslinkable chitosan hydrogel)」,ジャーナル・オブ・サージカル・リサーチ(J. Surg. Res.),2004年,121(1),135参照されたい)。キトサン被膜のもう1つの利点は、制御した仕方で放出可能な生物活性剤、例えば細胞増殖抑制薬を混入する選択肢である(チェン等(Chen et al),「ジ・キャラクタリスティクス・アンド・イン・ビボ・サプレッション・オブ・ネオインティマル・フォーメーション・ウィズ・シロリムス‐エリューティング・ポリメリック・ステンツ(The characteristics and in vivo suppression of neointimal formation with sirolimus-eluting polymeric stents)」,バイオマテリアルズ(Biomaterials),2009年,30(1),79を参照されたい)。
【0007】
ポリマーによる中空医療品のコーティングに関し、上述のティエリ等の論文は、ステントを回転させながらキトサン及びポリエチレングリコールを含有したゼリー状溶液をステント上に注ぐことによって金属ステントを高密度膜で被覆する方法を記載している。この膜は、メッシュ状ステントの表面全体を被覆し、即ち、ストラットだけでなくストラット相互間の空間をも被覆する。後者は、ステントが圧縮状態から拡張状態に変化する際にストラット相互間のキトサン層が破断する場合があるので不都合な場合がある。
【0008】
リン等(Lin et al),「フィージビリティ・エバリュエーション・オブ・キトサン・コーティングス・オン・ポリエチレン・チュービング・フォー・ビリエリー・ステント・アプリケーションズ(Feasibility evaluation of chitosan coatings on polyethylene tubing for biliary stent applications)」,ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(J. Appl. Poly. Sci.),2005年,97,893‐902の論文では、胆管ステントを製造する方法が記載され、この方法では、中実PE管の内側をキトサン層で被覆する。この目的のため、最初に、キトサン溶液を管中に注入し、1時間後、メタノールで置き換える。メタノールの除去後、管を乾燥させ、中和し、更に乾燥させる。この先行技術の方法は、上述の理由で多孔性(holey)ステントには適していないということがこの先行技術の方法の欠点である場合がある。
【0009】
米国特許第7,279,174号明細書では、疎水性ポリマーと浸水性ポリマー、例えばキトサンの混合物をステントに吹き付けてこれらポリマーの化学的架橋網状構造を生じさせる方法が記載されている。キトサンの架橋及び他の改質がポリマーの有利な特性、特にその生態適合性にマイナスの影響を及ぼす場合のあることがこの先行技術の欠点である。米国特許第7,255,891号明細書は、ステントポリマー溶液、例えばキトサン溶液中に浸し又はステントにその溶液を吹き付けることを示唆している。同様に、米国特許第6,899,731号明細書は、キトサン及びDNAの交互の層を吹き付け又は浸漬法によりバルーンカテーテルに被着させる実験例を記載している。かかる交互の層をステントにも被着させることが示唆されている。米国特許第6,555,225号明細書は、水不溶性ポリイオンにイオン的に架橋された水溶性ポリイオン、例えばキトサンを含む高分子電解質錯体のステント表面上への機械的に安定性のある層の形成を開示している。
【0010】
米国特許第6,969,400号明細書は、共有結合的架橋網状構造を形成するキトサンと他の2種類のポリマー成分の混合物を合成インプラント、例えばステントに塗布する技術を示唆している。米国特許第7,351,421号明細書では、キトサン溶液を例えば浸漬被覆又は吹き付け被覆によってステントに塗布し、次に、架橋剤を塗布してキトサンを共有結合的に架橋する方法が記載されている。米国特許第6,923,996号明細書及び同第7,390,525号明細書は、最初に架橋剤から成る反応性層を医用器具、例えばステントの表面に被着させ、次に薬剤及び架橋可能なポリマー、例えばキトサンを含む溶液を塗布する方法を記載している。最後に、ティエリ等(Thierry et al),「バイオアクティブ・コーティングス・オブ・エンドバスキュラー・ステント・ベースド・オン・ポリエレクトロライト・マルチレイヤーズ(Bioactive coatings of endovascular stents based on polyelectrolyte multilayers)],バイオマクロモレキュルズ(Biomacromolecules),2003年4(6),1564の論文は、最初にNiTiステントにPEIプライマー層を被着させ、次にヒアルロナン及びキトサンの交互の層を被着させる方法を記載している。
【0011】
ウー等(Wu et al),「ボルテージ‐ディペンデント・アッセンブリー・オブ・ザ・ポリサッカライド・キトサン・オントゥー・アン・エレクトローデ・サーフェイス(Voltage-dependent assemble of the polysaccharide chitosan onto an electrode surface)」,ラングミュア(Langmuir),2002年,18(22),8620の論文及びフェルナンデス等(Fernandes et al),「エレクトロケミカリー・インデュースド・デポジション・オブ・ア・ポリサッカライド・ハイドロジェル・オントゥー・ア・パターンド・サーフェイス(Electrochemically induced deposition of a polysaccharide hydrogel onto a patterned surface)」,ラングミュア(Langmuir),2003年,19(10),4058の論文は、酸性キトサン水溶液中での負に帯電した電極へのキトサンの電着法を記載している。米国特許第7,014,749号明細書及び同第7,387,846号明細書は、キチンとブルッシャイト(ヒドロキシアパタイトの前駆物質)の混合物を金属プロテーゼに電着する方法を開示している。
【0012】
国際公開第01/014617号パンフレットは、作業電極として働くステント、基準電極及び対向電極をキトサンから成る電解質中に沈める電着法を記載している。ステントがカソードの役割を果たす場合、放射活性標識キトサンをステントに被着させることが示唆されている。本発明者は、ステントの表面上に放射活性が存在することが再狭窄の発生を減少させることができるということを利用しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第7,279,174号明細書
【特許文献2】米国特許第7,255,891号明細書
【特許文献3】米国特許第6,555,225号明細書
【特許文献4】米国特許第6,899,731号明細書
【特許文献5】米国特許第6,969,400号明細書
【特許文献6】米国特許第7,351,421号明細書
【特許文献7】米国特許第6,923,996号明細書
【特許文献8】米国特許第7,390,525号明細書
【特許文献9】米国特許第7,014,749号明細書
【特許文献10】米国特許第7,387,846号明細書
【特許文献11】国際公開第01/014617号パンフレット
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】シゲマサ(Shigemasa)及びミナミ(Minami),「アプリケーションズ・オブ・キチン・アンド・キトサン・フォー・バイオマテリアルズ(Applications of chitin and chitosan for biomaterials)」,バイオテクノロジー・ジェネティック・エンジニアリング・レビューズ 1996(Biotech. Genetic. Eng. Rev. 1996),1997年,13,383
【非特許文献2】クマール(Kumar),「ア・レビュー・オブ・キチン・アンド・キトサン・アプリケーションズ(A review of chitin and chitosan applications)」,リアクティブ・ファンクショナル・ポリマーズ(React. Funct. Polym.),2000年,46(1)
【非特許文献3】シン(Singh)及びレイ(Ray),「バイオメディカル・アプリケーションズ・オブ・キチン・キトサン・アンド・ゼア・デリバティブス(Biomedical applications of chitin, chitosan, and their derivatives)」,ジャーナル・オブ・マクロモレキュラー・サイエンス(J. Macromol. Sci.),2000年,C40(1),69
【非特許文献4】チュパ等(Chupa at al),「バスキュラー・セル・レスポンシズ・トゥ・ポリサッカライド・マテリアルズ:イン・ビトロ・アンド・イン・ビボ・エバリュエーションズ(Vascular Call Responses to Polysaccharide Materials: In Vitro and In Vivo Evaluations)」,バイオマテリアルズ(Biomaterials),2000年,21(22),2315)
【非特許文献5】ティエリ等(Thierry et al),「バイオディグレイダブル・メンブレン‐カバード・ステント・フロム・キトサン‐ベースド・ポリマーズ(Biodegradable membrane-covered stent from chitosan-based polymers)」,ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(J. Biomed. Mater. Res.),2005年,75A(3);556
【非特許文献6】フジタ等(Fujita et al),「インヒビション・オブ・バスキュラー・プロステーシス・グラフト・インフェクション・ユージング・ア・フォトクロスリンカブル・キトサン・ハイドロジェル(Inhibition of vascular prosthetic graft infection using a photocrosslinkable chitosan hydrogel)」,ジャーナル・オブ・サージカル・リサーチ(J. Surg. Res.),2004年,121(1),135
【非特許文献7】チェン等(Chen et al),「ジ・キャラクタリスティクス・アンド・イン・ビボ・サプレッション・オブ・ネオインティマル・フォーメーション・ウィズ・シロリムス‐エリューティング・ポリメリック・ステンツ(The characteristics and in vivo suppression of neointimal formation with sirolimus-eluting polymeric stents)」,バイオマテリアルズ(Biomaterials),2009年,30(1),79
【非特許文献8】リン等(Lin et al),「フィージビリティ・エバリュエーション・オブ・キトサン・コーティングス・オン・ポリエチレン・チュービング・フォー・ビリエリー・ステント・アプリケーションズ(Feasibility evaluation of chitosan coatings on polyethylene tubing for biliary stent applications)」,ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(J. Appl. Poly. Sci.),2005年,97,893‐902
【非特許文献9】ティエリ等(Thierry et al),「バイオアクティブ・コーティングス・オブ・エンドバスキュラー・ステント・ベースド・オン・ポリエレクトロライト・マルチレイヤーズ(Bioactive coatings of endovascular stents based on polyelectrolyte multilayers)],バイオマクロモレキュルズ(Biomacromolecules),2003年4(6),1564
【非特許文献10】ウー等(Wu et al),「ボルテージ‐ディペンデント・アッセンブリー・オブ・ザ・ポリサッカライド・キトサン・オントゥー・アン・エレクトローデ・サーフェイス(Voltage-dependent assemble of the polysaccharide chitosan onto an electrode surface)」,ラングミュア(Langmuir),2002年,18(22),8620
【非特許文献11】フェルナンデス等(Fernandes et al),「エレクトロケミカリー・インデュースド・デポジション・オブ・ア・ポリサッカライド・ハイドロジェル・オントゥー・ア・パターンド・サーフェイス(Electrochemically induced deposition of a polysaccharide hydrogel onto a patterned surface)」,ラングミュア(Langmuir),2003年,19(10),4058
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、中空本体を有する医療品の製造方法であって、中空本体の壁の少なくとも一部の少なくとも内側をポリマーから成る層でコーティングする改良型方法を提供することにある。本発明は更に、1つ又は2つ以上の構造要素から成る壁を備えた中空本体を有する医療品であって、壁の少なくとも一区分が天然のキトサンを含む層でコーティングされている改良型医療品及びかかる医療品の使用を提供することを目的としている。最後に、本発明の目的は、医療品の使用及びポリマーをポリマーの酸性混合物から電極上に電着する改良型方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、この課題は、中空本体を有する医療品の製造方法であって、中空本体の壁の少なくとも一部の少なくとも内側がポリマーから成る層でコーティングされている、方法において、医療品の壁の少なくとも一部の少なくとも内側をポリマーの混合物、好ましくは溶液に接触させ、ポリマーを混合物から壁の少なくとも一部の少なくとも内側に被着させることを特徴とする方法によって解決される。さらに、課題は、1つ又は2つ以上の構造要素から成る壁を備えた中空本体を有する医療品であって、壁の少なくとも一区分が天然のキトサンから成る層でコーティングされている、医療品において、中空本体の内側と外側の両方で、中空本体の壁の1つ又は2つ以上の構造要素のうちの少なくとも幾つかは、天然のキトサン層で少なくとも部分的にコーティングされていることを特徴とする医療品を提供することによって解決される。最後に、課題は、ポリマーをポリマーの酸性混合物、好ましくは溶液から電極上に電着する方法において、混合物は、多塩基酸(multibasic acid)、好ましくはクエン酸を含むことを特徴とする方法を提供することによって解決される。
【0017】
本発明との関連において、中空本体の壁に関し「コーテッド(コーティングされた)」という用語は、壁に存在している場合のある孔が自由なままの状態で中空本体の壁を構成する構造要素をポリマーでコーティングするということを意味している。孔は、壁がウェブ若しくはメッシュ状であり又は材料の発泡又は有孔シートから作られている場合に生じることがあり、これは、医用ステントにおいてそうである場合が多い。ウェブ若しくはメッシュ状壁の場合、構造要素は、孔を境界付けるストラットである。他方、壁がコンパクトであり、即ち、単一の無孔片のものである場合、この片は、壁の単一の構造要素であると考えられる。
【0018】
これは、「被覆(被覆された)」壁とは対照的であり、「被覆」壁は、壁が高密度ポリマー層で被覆されていることを意味し、テントのフレームがテントのファブリックで覆われている状態に極めて似ている。壁がポリマー層で「被覆」されている場合、この層は、壁に存在している場合のある孔を含む壁を連続的に横切って延びる。高密度層が孔を横切って延びるので、孔は、一般に、ポリマーフィルムで閉じられることになる。壁のかかる孔は、医療品の開口部、例えば管状ステントの開放端部とは区別される必要があることに注目されたい。「被覆」壁と言った場合、これは、医療品の開口部も又ポリマー層で被覆されなければならないことを示唆するものでは全くない。事実、これとは対照的に、これら開口部は、一般に、覆われていない、即ち露出している。以下において壁全体ではなく壁の単に一部と言った場合、「被覆」とは区別される「コーテッド」の上述の定義は、それに応じて当てはまる。
【0019】
例えば、ポリマーフィルムがポリマーコーテッドストラット相互間の孔を横切って延びた状態で高密度ポリマー管中に埋め込まれたメッシュ状医用ステントを「ポリマー被覆」と称することができ、他方、孔を開放状態に保ちながらポリマーの層がストラット周りにのみ形成されているメッシュ状医用ステントを「ポリマーコーテッド」と称することができる。医療品の内側被膜に起因して、身体の生まれつきの通路又は導管、例えば血管の血栓症を含む閉塞を抑制することができるということが本発明の達成可能な利点である。
【0020】
本発明との関連において、「天然のキトサン」という用語は、規定された化学成分キトサンを意味し、これは、ポリ(N‐アセチル‐D‐グルコサミン‐コ‐D‐グルコサミン)コポリマーである。架橋又は化学的に改質されたキトサンは、天然のキトサン等が異なる特性をもつキトサン誘導体であると考えられる。
【0021】
医療品の壁を被覆するのではなくコーティングすることによって、例えば、ステントを挿入した後にステント中に慣例的に生じる種類の拡張中、医療品がその形状を変える際にポリマー層が壊れることを回避できるので有利である。また、有利には、ポリマー層の領域を最小限に抑えることができ、それにより、材料が節約されると共に人又は動物の体の内部の異物の存在によって引き起こされる場合のある副作用、例えば体内通路又は導管の閉塞が軽減され、かかる閉塞としては、血栓症や血管の再狭窄が挙げられる。
【0022】
非常に薄い層を達成することができ、それにより材料が節約されると共に特に柔軟性のポリマー層の実現が可能になるということが本発明の方法の達成可能な利点である。さらに、被膜の抗閉塞性を高めることができる特に一様なポリマー層を達成することができる。
【0023】
本発明は、中空物体を導電性材料、例えば金属からポリマーコーティングによりコーティングするのに適していることが本発明の別の達成可能な利点である。
【0024】
本発明を有利には、植え込み型医療品、例えば薬剤溶出医用ステントを含む医用ステントに利用することができる。有利には、医療品を動物、例えば哺乳動物、特に人間の医療処置、例えば手術若しくは治療又は診断法に利用することができる。医療品は、特に、動物又は人体の生まれつきの通路又は導管、例えば心臓血管系(例えば、冠血管ステント)、胆道(例えば、胆道内ステント)、肺内管(例えば、気管ステント)又は尿路(例えば、尿管ステント、尿道ステント)の閉塞を抑制するよう利用できる。特に有利には、医療品を利用して血栓症の発症を阻止することができる。
【0025】
得られるポリマー層が先行技術と比較して滑らかであると共に/或いは層中の細孔の発生を阻止することができ又は少なくとも減少させることができるということがポリマーの電着の際におけるクエン酸含有混合物の使用の達成可能な利点である。これは、医療品を製造する本発明の方法において特に有用であるが、この用途に限定されるわけではない。
【0026】
本発明の好ましい方法では、ポリマーは、壁の内側の少なくとも一部に被着されるよう混合物から沈殿する。好ましくは、医療品は、少なくとも部分的にポリマーの混合物中に浸漬され、その結果、壁の内側及び外側が混合物と接触し、ポリマーが混合物から壁の内側及び外側の少なくとも一部上に被着されるようになる。より好ましくは、ポリマーは、壁の内側及び外側の少なくとも一部上に被着されるよう混合物から沈殿する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、中空本体の壁は、本質的に管状であり、好ましくは、楕円形又は円形の断面を有する。中空本体は、例えば、例えば円筒形医用ステントにおいて典型的に見られる筒体バレルの形状をしているのが良い。しかしながら、中空本体は、他の管状の形状、例えば尿管ステントのピグテール形状のものであっても良い。中空本体は又、幾つかの管状枝部から成っていても良く、これら枝部は、更に、これらの断面が異なっていても良い。この種の医療品は、例えば、枝分かれ医用ステントとして有利に利用できる。
【0028】
好ましい医療品、好ましくは中空本体は、その端部に開口部を有する。それにより、流体、例えば体液、例えば血液、胆汁又は尿が医療品を通って流れることができることが達成できる。好ましい医療品は、ステント又は血管形成性器具、即ち血管形成術に用いられる器具、好ましくは血管形成性ステントである。他の好ましいステントとしては、胆道内ステント、食道ステント、気管ステント、尿管ステント及び尿道ステントが挙げられる。
【0029】
好ましくは、中空本体の壁の少なくとも一部は、多孔性であり、より好ましくはストラットにより境界付けられた孔を有するメッシュ又はウェブ状である。本発明の好ましい一実施形態では、壁は、材料の有孔又は発泡シートであり、別の実施形態では、壁は、例えば材料の1本又は数本のワイヤストランドから織成される。壁は、好ましくは、20個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上の穴を有する。孔の断面寸法は、好ましくは、0.5μm(マイクロメートル)〜5000μm、より好ましくは10μm〜2500μm、より好ましくは50μm〜1500μmである。中空本体の壁の中実部分(即ち、孔ではなく構造要素で構成されている部分)の面積、例えばメッシュ状又はウェブ状壁のストラットの面積は、好ましくは、壁全体の面積の75%未満、より好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満である。
【0030】
壁の好ましい材料は、導電性材料である。壁は、好ましくは層の状態で配置される単一材料、好ましくは金属若しくは金属合金又は数種類の材料のものであって良い。後者の場合、少なくとも最も外側の層(この層は、本発明のポリマーでコーティングされる)は、好ましくは、金属若しくは金属合金のものである。好ましい金属としては、銀、金、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ロジウム、チタン、タングステン及びルテニウムが挙げられる。好ましい金属合金としては、コバルト‐クロム合金、ニッケル‐チタン合金(例えば、ニチノール)、鉄‐クロム合金(例えば、好ましくは少なくとも50%の鉄及び少なくとも11.5%のクロムを含むステンレス鋼)、コバルト‐クロム‐鉄合金(例えば、エルジロイ合金)及びニッケル‐クロム合金(例えば、インコネル合金)が挙げられる。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態では、被膜(コーテング膜)は、単一のポリマーを含み、より好ましくは、被膜は、このポリマーから成る。しかしながら、本発明は又、別の物質、例えば生物活性物質、例えば薬剤がポリマー中に混ぜ込まれた実施形態を想定している。この別の物質は、当然のことながら、ポリマーであっても良い。本発明の好ましい実施形態では、例えば金属及び金属合金の上述のリストからの金属又は金属合金がポリマー中に混ぜ込まれる。被膜の全質量に対するこの他の物質の質量分率は、50%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは1%未満である。本発明の特に好ましい実施形態では、他の物質は、被膜中に微量でしか存在せず、即ち、被膜の全質量に対する他の物質の質量分率は、0.1%未満、より好ましくは0.01%未満、より好ましくは0.001%未満である。他の物質は、ナノ粒子、即ち直径が100ナノメートル未満の粒子の形態で存在するのが良い。被膜は、当然のことながら、他の物質のうちの幾つかを含むのが良い。医療品を薬剤溶質医療品、例えば薬剤溶質医用ステントにすることができるということは、別の物質又は他の物質が被膜中に存在することにより達成可能な利点である。例えば、銀粒子を含むポリマー被膜は、銀イオンを放出することができ、銀イオンは、抗菌性を有するものとして知られている。さらに、他の物質は、別の成分が結合することができる活性群をポリマー層に与えることができる。
【0032】
他の物質の混入は、例えば、この他の物質をポリマーを放出被着させる混合物の状態で提供することによって達成できる。また、層を既に形成した後で例えばポリマーコーテッド壁を他の物質の混合物、例えば溶液中に浸漬させることにより他の物質を層中に導入することが可能である。
【0033】
代替的に又は追加的に、医療品は、好ましくは1種類又は2種類以上の薬剤を含む他の物質が混入され又は他の物質から成る別の層を備えても良い。この場合も又、これは、医療品を薬剤溶質医療品、例えば薬剤溶質医用ステントにすることができるので有利である。別の層は、好ましくは、ポリマー層の前に被着される。この別の層は、好ましくは、ポリマー層の下に配置される。
【0034】
本発明の好ましいポリマーは、多糖類である。好ましいポリマーは、バイオポリマー(生体高分子)、即ち生態により作ることができるポリマーである。好ましくは、バイオポリマーは、生物学的重合、より好ましくは天然に生じるモノマーの重合により作られるポリマーである。ポリマーは、疎水性であっても良く浸水性であっても良い。壁をコーティングする好ましいポリマーは、その生まれつきの形態をしている。本発明との関連において、ポリマーに関して「生まれつき」という表現は、特に、ポリマーがそれ自体とも別のポリマーとも架橋されておらず、化学的に改質され又は別の物質に化学的に結合されることを意味している。好ましくは、被膜のポリマーは、イオン化されていない。さらに、ポリマーがバイオポリマーである場合、このポリマーは、好ましくは、これが通常自然に生じる形態で被膜中に存在する。
【0035】
好ましい多糖類は、生まれつきのキトサンである。おそらくは生まれつきのキトサンの生体適合性、内皮細胞に向かうその再生可能性及び/又はその静菌的可能性に起因して医療品の閉塞を回避することができるということが本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。さらに、有利には、生物活性剤、例えば薬剤を生まれつきのキトサン被膜中に混入することができる。
【0036】
適当な生まれつきではないポリマーとしては、キトサン、例えば部分又は完全N‐、O‐又はN,O‐誘導体かキトサンの誘導体が挙げられ、かかる誘導体としては、正電荷を形成することができる誘導体、例えばアミン、グワニジミウム、イミダゾール、インドール、プリン、ピリミジン、ピロル等の機能性を含む誘導体並びに負電荷を形成することができる誘導体、例えばアルコキシド、カルボキシル、カルボキシレート、オキシ酸、フェノール酸、ホスフェート、スルフヒドリル基等の機能性を含む誘導体が挙げられる。他の適当なポリマーとしては、多糖類、ポリピロル、ポリアミン、ポリイミン、ポリペプチド、ポリアミノ酸、ポリカルボキシル酸並びに他のポリマー及び正電荷又は負電荷を形成することができるポリマー誘導体が挙げられる。
【0037】
本発明の好ましい医療品では、壁全体は、少なくとも一方の側部、好ましくは両方の側部がポリマーでコーティングされる。
【0038】
好ましい医療品では、壁の少なくとも一部分、好ましくは壁全体は、両側部がポリマー層でコーティングされ、その結果、被膜は、中空本体の内側から外側に連続して延びるようになる。換言すると、中空本体の壁(その一部)の外側被膜と内側被膜との間にコーティングされていない隙間が生じない。好ましくは、被膜は、壁に設けられている孔を通って中空本体の内側から外側に延びる。
【0039】
好ましい医療品では、中空本体の壁を構成する1つ又は2つ以上の構造要素のうちの少なくとも幾つかは、全体が、ポリマー層でコーティングされる。この関係で、「全体として(全体が)コーティングされ」という表現は、特に、構造要素が中空本体の内側に一部分を有すると共にその外側に別の部分を有する場合、内側部分の構造要素の被膜と外側部分の構造要素の被膜との間に隙間が存在しないことを意味している。適切に言えば、被膜は、中空本体の内側から外側まで構造要素上に連続して延びている。好ましくは、中空本体の壁の一部分を構成する構造要素の全て、より好ましくは中空本体の壁全体を構成する全ての構造要素は、全体がポリマー層でコーティングされる。
【0040】
本発明の好ましい方法では、医療品の壁の少なくとも内側全体をポリマーの混合物に接触させ、ポリマーは、混合物から沈殿して壁の少なくとも内側に被着される。中空本体の壁全体の少なくとも内側がポリマーでコーティングされることは、本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。
【0041】
本発明の好ましい方法では、医療品を少なくとも部分的に、より好ましくは全体的にポリマーの混合物中に浸漬し、壁の内側及び外側が混合物と接触するようにし、ポリマーが混合物から沈殿して壁の内側及び外側の少なくとも一部上に被着されるようにする。中空本体の壁の内側と外側の両方を好ましくは同時にポリマーでコーティングできることは、本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。
【0042】
被膜の厚さは、内側及び外側で同一であっても良く、或いは、内側の厚さは、外側の厚さと異なっていても良い。厚さが異なっている場合、内側被膜は、好ましくは、外側被膜よりも厚い。好ましくは、中空本体の内側のポリマー被膜の厚さは、0.02μm〜2000μm、より好ましくは0.2μm〜200μm、より好ましくは0.5μm〜10μmである。中空本体の外側のポリマー被膜の好ましい厚さは、0.02μm〜2000μm、より好ましくは0.2μm〜200μm、より好ましくは0.5μm〜10μmである。
【0043】
本発明との関連において、被膜(コーテング膜)の「厚さ」は、コーテッド構造要素の表面に垂直な方向に測定される。非常に一様な被膜を達成できることは、本発明の達成可能な利点である。具体的に言えば、構造要素から孔中に延びるコーティングポリマーの堆積、例えばウェブ状又はメッシュ状壁のストラットからストラットにより包囲された孔中に延びるウェッビングの形状を有する堆積を回避することができる。「厚さ」についてのこの定義によれば、これら堆積が延びる起点となる構造要素の部分は、周囲の部分よりも非常に厚い被膜を有する。これとは対照的に、本発明の好ましい実施形態では、中空本体の同一側の厚さの局所的最小値と隣りの局所的最大値との厚さの差は、中空本体のこの側のポリマー層の平均厚さの100%未満、より好ましくは30%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満である。
【0044】
本発明の好ましい方法では、ポリマーの被着は、特に、電着であり、換言すると、ポリマーを壁に電着させる。電着では、極性が互いに反対の少なくとも2つの電極によって混合物中に電流を流す。電着に関するこれ以上の情報については、ジョン・リン・ワン等(Zhong Lin Wang et al),「ハンドブック・オブ・ナノフェーズ・アンド・ナノストラクチャード・マテリアルズ(Handbook of nanophase and nanostructured materials)」,Vol.1及びクリューバーズ(Kluvers),「シンセシス(Synthesis)」に見られる。懸濁液又はコロイド中において、電着は、特に、電気泳動法(EPD)であるのが良い。
【0045】
好ましくは、中空本体は、一方の電極として役立ち、対向電極の極性とは逆の極性を有し、対向電極も又、少なくとも部分的に混合物中に浸漬される。本発明の好ましい実施形態では、電極は、中空本体の外側に配置される(外側電極)。外側電極は、例えば、好ましくは金属で作られた導電性メッシュであるのが良い。これは、好ましくは、中空本体全体を包囲する。
【0046】
本発明の方法の好ましい実施形態では、少なくとも一方の電極を中空本体の内側に配置する(内側電極)。本発明者は、一方の電極を中空本体の内側に配置すると、中空本体の内側へのポリマーの電着具合を向上させることができるので有利であることを見出した。好ましくは、内側電極は、中空本体と同一の極性を有し、より好ましくは、内側電極は、中空本体に電気的に接続される。好ましい実施形態では、内側電極は、中空本体のための支持体、例えばハンガーを兼ねている。この目的のため、内側電極の一部は、フックの形をしているのが良い。支持体としての役目を果たす内側電極の部分は、好ましくは、導電性である。電気的接触を好都合に且つ確実な仕方で内側電極と中空本体との間に確立すると、両方が同一の極性をもつようにすることができるということは、本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。
【0047】
変形実施形態では、内側電極は、中空本体の極性と逆の極性を有し、即ち、内側電極は、対向電極として働く。この場合、好ましくは、内側電極が中空本体に接触することがないようにする適当な手立てが取られる。それにより、有利には、中空本体と内側電極との間の短絡を回避することができる。この目的のため、内側電極は、例えば、独国特許第758374(B)号明細書に示唆されているように多孔質ワニス被膜を備えるのが良い。内側電極が例えば上述したようなフック状部分によってハンガーを兼ねる場合、この部分は好ましくは、非導電性であり又は絶縁される。
【0048】
好ましい内側電極は、細長く、好ましくは少なくとも中空本体の内側の一部を貫通して延び、より好ましくは、中空本体の内側全体を貫通して延びる。例えば、中空本体が管状である場合、好ましい内側電極は、一方の管開口部から他方の管開口部まで延びる。好ましくは、中空本体は、本質的に垂直に混合物中に配置される。この場合、好ましい内側電極も又、中空本体の内側を貫通して垂直に延び、内側電極の底部は、好ましくは、混合物中の中空本体を支持すると同時に中空本体に電気的に接触する。
【0049】
内側電極は、例えば、好ましくは金属で作られた導電性ワイヤ又は管、例えばカニューレから成るのが良い。本発明の好ましい実施形態では、内側電極は、金属ワイヤに嵌められた金属管から成る。内側電極は、好ましくは、コーティングされるべき中空本体の内径の5%〜95%、より好ましくは50%〜90%、より好ましくは60%〜80%の外径を有する。
【0050】
好ましくは、ポリマーの混合物は、特に、ポリマーの溶液であり、換言すると、ポリマーは、溶剤中に溶けている。しかしながら、本発明は又、混合物がコロイド又は懸濁液であり、より一般的には分散液であり、即ち、ポリマーは、混合物媒体中に単に懸濁される実施形態を想定している。混合物媒体、即ち、例えば溶剤又は分散液媒体は、好ましくは、液体である。
【0051】
本発明の好ましい方法では、ポリマーをその混合状態で、即ち、例えばその溶解又は分散状態で帯電させる。好ましいポリマーは、混合物中の陽イオンである。しかしながら、本発明は、当然のことながら、ポリマーが混合物中の陰イオンである実施形態を想定している。好ましくは、電着中、電極として働く中空本体は、カソードとして働く混合物中のポリマーイオンとは逆の極性に帯電され、好ましくは負に帯電される。かくして、有利には、ポリマーの荷電イオンを中空本体によって引き付けることができる。
【0052】
好ましい混合物媒体は、プロトン性溶剤又は極性のある非プロトン性溶剤から成る。混合物は、単一の混合物媒体、例えば水から成っていても良く、或いは、混合物媒体の組み合わせであっても良く、これらの1つは、好ましくは、極性のある非プロトン性溶剤又はプロトン性溶剤、例えば水である。有利には、水は、イオンにとって良好な溶剤であり、安価であり且つ医学的用途と良好に適合する。
【0053】
被着中、本発明の好ましい実施形態では、ポリマーは、好ましくは中空本体の内側及び/又は外側の近くの電荷の弱め合いに起因して混合物から沈殿する。例えば、水性混合物では、電荷の弱め合いは、中空本体がカソードとして働いている場合には中空本体の近くのpHの増大によって又は中空本体がアノードとして働いている場合には中空本体の近くでのpHの減少によって誘起可能である。混合物のpHを調節するため、混合物は、好ましくは、酸又は塩基を更に含む。好ましい酸としては、無機酸、例えば塩酸並びに一塩基有機酸又は2〜12個の炭素原子を有すると共に1〜5の第1pKa値をもつ多塩基有機酸、例えばクエン酸、乳酸、リンゴ酸、琥珀酸、マンデル酸、シュウ酸、酒石酸、アスコルビン酸等が挙げられる。無機酸と有機酸の混合物並びに無機酸と有機酸の塩(例えば、緩衝溶液)を混合物のpHの調節のためにも使用可能である。
【0054】
好ましいポリマー層は、本質的に細孔がない。好ましい酸は、多塩基酸、例えばクエン酸である。この実施形態では、特に滑らかなポリマー層が電極に被着される可能であると共に/或いはポリマー層の細孔を回避することができ又は少なくとも減少させることができる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー混合物のバルクは、酸性であり、pHは、好ましくは、−1.0〜6.5、より好ましくは1.0〜6.0、より好ましくは3.0〜5.5である。ポリマー、例えばキトサンが混合物のバルク中に溶けるが、中空本体がカソードとして働く場合、カソードの近くのpHの増大に起因して中空本体の近くで混合物から沈殿することができることは、本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。
好ましくは、ポリマーは、0.01%〜10%、より好ましくは0.1%〜1%、例えば0.33%の濃度で混合物中に存在する。電着のために電極に印加される電圧は、好ましくは、0.1〜50V(ボルト)、好ましくは1〜15V、例えば10Vから選択される。電圧は、好ましくは、0.1〜30秒間、より好ましくは1〜60秒間、例えば15秒間印加される。達成可能な層の厚さは、大きくは電圧の印加時間で決まり、かくして、厚さをこの持続時間の適当な選択によって調節することができる。例えば、10Vの電圧を15秒間印加すると、その結果として、約1μmのキトサン層が生じる。一般的に言えば、ポリマー濃度が高ければ高いほど、電圧が高ければ高いほど且つ/或いは印加時間が長ければ長いほど、その結果として、被着される層がそれだけ一層厚くなる。所望の層厚さを達成するため、これらパラメータは、コーティングされるべき中空本体の設計に応じて調節可能である。しかしながら、電圧が極めて高く且つ/或いは印加時間が極めて長いと、その結果として、電気分解中における気泡の生成に起因して、層の粗さ及び多孔度が増大する場合がある。他方、ポリマー濃度が高いと、その結果として、混合物の粘度が増大し、それにより中空本体の構造要素(即ち被覆材)相互間における層の形成の蓋然性が高くなる。
【0056】
添付の略図を用いて本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】電着によってキトサン被膜が被着された本発明のメッシュ状血管ステントを製造する設備を概略的に示す図である。
【図2】図1の設備の容器及び対向電極を概略的に示す図である。
【図3】図1の設備の作業電極と内側電極の組み合わせを概略的に示す図である。
【図4】一条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図5】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図6】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図7】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図8】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図9】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図10】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図11】コーテッドステントの一区分のSEM画像を示す図である。
【図12】ポリマー被覆ステントの壁の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
実施例1
【0059】
中空円筒形ステント2のメッシュ状壁の内側と外側の両方をキトサン層でコーティングする設備1が図1に概略的に示されている。この設備は、本質的に、円筒形容器3、外側電極4、ステント2及び容器3内に入っているキトサン含有溶液6中に浸漬された内側電極5を有している。外側電極4は、電源8の正極7に接続された対向電極として役立ち、ステント2と内側電極5は、互いに接続されると共に電源8の負極9に接続されている。
【0060】
図2は、設備1の溶液6及び外側電極4が納められた容器3を示している。容器3は、円形断面の縦形ガラス筒体であり、その直径は、約5cm(センチメートル)であり、その内容積は、約100ml(ミリリットル)であり、この容器は、約80mlの溶液6を収容している。溶液6中にはステンレス鋼の円筒形格子が浸漬されており、この円筒形ステンレス鋼格子は、ガラス筒体の周囲全体の内壁に沿って延び、外側電極4として働く。円筒形格子の直径は、約4cmであり、その網目の大きさは、約3mm(ミリメートル)である。格子を構成するワイヤの厚さは、約0.5mmである。さらに、ステンレス鋼のワイヤ10は、円筒形格子を円筒形ガラス容器の外側に接続している。
【0061】
図3に示されているように、設備1の内側電極5は、直径約0.3mm、長さ約20cmのステンレス鋼ワイヤ11及びワイヤ11に嵌められた長さ5cmの尖っていないステンレス鋼カニューレ12を有している。ワイヤ11は、底部12のところで、フック状に曲げられており、カニューレ12は、ワイヤ11が図1に示されているように垂直位置に保持されているとき、ワイヤ11の底部のところで支持されるようになっている。
【0062】
ステント2は、ステンレス鋼の裸金属冠血管ステントである。ステント2は、長さ約39mm、直径約1.55mmの円形筒体の形状をしている。ステントの壁は、本質的に正方形断面のストラット16から成り、正方形の各辺の長さは、約100μmであり、これは、結果的に、ステント2の壁の幅でもある。ステント2は、カニューレ12に嵌められており、ワイヤ11のフック状部分14は、構造体2,5全体を垂直位置にすると、ステント2も又支持するほど大きい。ステント2と内側電極5の構造体を円筒形ガラス容器3の中央の近くで溶液6中に配置し、その結果、ステント2が溶液6中に完全に浸漬されるようにする。ワイヤ11を電源8の負極9に電気的に接続する。カニューレ12とステント2の両方がワイヤ11のフック状部分14上に載ると、カニューレ12及びステント2も又、電源8の負極9に接続し、かくして、同一の極性を有する。外側電極4を電源8の正極7に電気的に接続する。次に、電源8により10Vの電圧を適当な時間、例えば15秒間対向電極と金属ワイヤとの間に印加する。
【0063】
その後、ワイヤ11を電源8から切り離し、ワイヤ11、カニューレ12及びステント2の構造体をピンセットの使用により溶液6から取り出し、蒸留水の浴(pH7)中の吊り下げ位置に配置する。さらに、ステント2がワイヤ11上に載ったままの状態でピンセットを用いてカニューレ12を穏やかに取り外す。次に、蒸留水の浴を約2分間撹拌し(200rpmで掻き回すことによって)、それによりキトサンコーテッドステントを洗浄する。
【0064】
キトサン被膜(コーテング膜)を点検のために目に見えるようにするため、次に、キトサンを染色液中に浸漬させることによりキトサンを染色する。染色液は、0.1%インジゴカルミン水溶液である。染色液中での約1分間のインキュベーション時間後、ステント2を取り出して10分間蒸留水に浸し、次に吊り下げたままの状態にして室温で且つ真空下で乾燥させる。最後に、ステント2をワイヤ11から取り外し、埃のない環境中に保つ。この手順の変形例では、カニューレ12は、上述の手順全体の間、ワイヤ11に取り付けたままにし、手順の終わりでのみワイヤ11と一緒にステント2から取り外す。
【0065】
図4〜図10は、種々の条件下における種々のコーティング実験の結果を示している。全ての実験において、10Vの電圧を15秒間印加した。実験結果から理解できるように、カニューレの直径並びに酸の選択は、得られる被膜に重要な影響を及ぼす。図4及び図5では、以下の組成の溶液6中の酸として、即ち、N‐メチルピロリドンを混ぜた1%クエン酸溶液(1:1)中の0.33%キトサンとして用いた。カニューレ12の直径は、それぞれ1.18mm(図4)及び1.38mm(図5)であった。ステント2の内側と外側の両方に被着された良好な被膜が観察された。
【0066】
これとは対照的に、他の条件が同一である場合において0.81mmカニューレ12は、良好な外側被膜を生じさせただけで、内側には観察できるほどの被膜は生じなかった(図8)。同様に、カニューレ12ではなく、1.15mmワイヤ11だけを内側電極として用いた場合、外側には弱くて不規則な被膜しか達成されず、内側には観察できるほどの被膜は達成されなかった(図7)。溶液6中の酸の選択の効果は、図8に示されており、この場合、他の条件が図4の条件と同一である場合、クエン酸に代えて1%酢酸を含む溶液を用いた。これらの条件下においては観察できるほどの被膜は生じなかった。
【0067】
図9及び図10は、内側電極5が全く存在しないコントロール実験を示している。適切に言えば、ステント2の頂部を金属ワイヤ11のフック状端部14で支持し、その結果、ワイヤは、ステント2の内部を通り抜けることがなかった。酢酸を含むキトサン溶液(N‐メチルピロリドンを混ぜた1%酢酸溶液(1:1)中に0.33%のキトサンを含む組成物)では、被膜は全く観察されず、他方、クエン酸(N‐メチルピロリドンを混ぜた1%クエン酸溶液(1:1)中に0.33%のキトサンを含む組成物)を用いた場合、ステントの外側にのみ弱い被膜が生じた。
【0068】
実施例1の条件下で得られたステントの一区分の走査型電子顕微鏡写真図を示している図11から理解できるように、得られた被膜は、細孔又はスパイクのない非常に一様なものである。特に、ウェブ相互間の孔内に延びるようなウェッビングは観察できない。最後に、図12は、ステント2の概略断面図によって、壁の構造要素16に被着されているコーティング層15の局所厚さtは、コーテッド構造要素16の表面に垂直な方向に測定されていることを示している。構造要素16は、中空本体の内側に位置する部分17及び中空本体の外側に位置した部分18を有している。この構造要素は、内側部分17上の構造要素の被膜と外側部分18上の構造要素の被膜との間に隙間がないという意味において、全体がコーティング層15でコーティングされている。適切に言えば、コーティング層15は、中空本体の内側から外側まで構造要素16上に連続して延びている。
【0069】
実施例2
【0070】
これは、キトサン/添加剤懸濁液6からコーティングにより添加剤、例えば薬剤を混ぜ込んだ一例である。ジフルニサールをモデル薬剤として用いた。ステント2をキトサン溶液6が0.33%キトサン、2%クエン酸及び約30秒間24000rpmでIka T25 Ultra-Turraxホモジナイザーを用いたキトサン溶液中に懸濁させた0.33%ジフルニサールで構成されていた点を除き、上述の実施例1で説明したステップに従ってコーティングした。
【0071】
実施例3
【0072】
これは、キトサン/添加剤懸濁液6からコーティングにより添加剤、例えば薬剤を混ぜ込んだ別の例である。ジフルニサールをモデル薬剤として用いた。キトサン溶液6が0.33%キトサン、1%クエン酸/N‐メチルピロリドン(1:1)及び0.33%ジフルニサールで構成されていた点を除き、ステントを実施例1で説明したステップに従ってコーティングした。
【0073】
実施例4
【0074】
これは、最初に添加剤の層を形成し、次にキトサン溶液6からのコーティングを行うことによって添加剤、例えば薬剤を混ぜ込んだ更に別の例である。ジフルニサールをモデル薬剤として用いた。実施例1で用いたステント2を、アセトンに溶かしたジフルニサールの5%アセトン溶液中に浸漬被覆し、約5分間の乾燥後、キトサン溶液が0.33%キトサン及び2%クエン酸で構成されている点を除き、実施例1で説明したステップに従ってコーティングした。
【0075】
実施例5
【0076】
これは、最初にキトサン溶液6からのコーティングを行い、次に薬剤溶液中に浸漬させることによって添加剤、例えば薬剤を混ぜ込んだ更に別の例である。ジフルニサールがモデル薬剤として用いられた。ステント2を実施例1で説明したようにコーティングし、次に0.5%ジフルニサールの0.1規定水酸化ナトリウム溶液中に約10分間浸漬させた。その後、ステント2を蒸留水中で徹底的に洗浄し、室温で乾燥させ、そして埃のない容器内に貯蔵した。
【0077】
本明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された特徴は、任意の組み合わせで本発明に適切であると言える。特許請求の範囲の参照符号は、特許請求の範囲の記載を読みやすくするために記載されているに過ぎない。これら参照符号は、本発明を何ら限定するものではない。
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空本体を有する医療品の製造方法であって、中空本体の壁の少なくとも一部の少なくとも内側をポリマーから成る層でコーティングする方法に関する。本発明は更に、1つ又は2つ以上の構造要素から成る壁を備えた中空本体を有する医療品であって、壁の少なくとも一区分が天然のキトサンを含む層でコーティングされている医療品及びかかる医療品の使用に関する。最後に、本発明は、医療品の使用及びポリマーを酸性混合物から電極上に電着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの適応例において、中空本体、例えば医用ステントから成る医療品が有利である場合があり、中空本体の壁は、ポリマー、例えば多糖類、例えばキトサンでコーティングされている。
【0003】
ステントは、体内の生まれつきの通路又は導管、例えば血管中に挿入されてかかる体内通路又は導管中の局所流れ絞り部の発生を阻止し又は抑制する通常は管状の物体である。ステントの壁は、例えば金属ワイヤ又は有孔金属シートで作られた金属メッシュから成る場合が多い。大抵のステントは、これらステントが体内通路中に挿入可能な小さな管断面を有する圧縮(又は折り畳み)状態及び体内通路中にいったん導入されると取ることができると共に体内通路の壁に圧接するために大きな断面を有する拡張(又は広げ)状態を取ることができるという意味において拡張可能である。医療品、特に植え込み型医療品、例えば上述のステントの生体適合性を向上させるには、かかる医療品をポリマー、例えばキトサンで被覆し又はコーティングするのが良い。
【0004】
多糖類キトサンは、節足動物、有殻軟体動物、甲殻類の外骨格及び昆虫の角皮に広く見受けられるキトサンのN‐脱アセチル化誘導物である。キトサンは、或る真菌に天然に生じるがキチンのアルカリ加水分解により工業的に作られる。希酸中のキチン及びキトサンの溶解度の差は、2種類の多糖類を識別するために一般的に用いられている。キトサン(可溶形態)は、0%〜約60%の度合いのアセチル化を有するのが良く、上限は、例えば処理条件、分子量及び溶剤の特性のようなパラメータで決まる。キトサンは、酸性水性媒体中で可溶であるが、6.3を超えるpHで沈殿する。
【0005】
キチンとキトサンは両方共、種々の用途に有望なポリマーであり、かかる用途としては、水処理(金属除去、凝集剤/凝固剤、濾過)、パルプ及び紙(表面処理、感光紙、コピー用紙)、化粧品(メイキャップパウダ、ネイルポリッシュ、保湿剤、安定剤、浴用ローション、フェースクリーム、ハンドクリーム、ボディクリーム、練り歯磨き、フォーム促進剤)、バイオテクノロジ(酵素不動化、タンパク分離、クロマトグラフィー、細胞回復、細胞不動化、グルコース電極)、農業(種子コーティング、葉コーティング、水耕/化学肥料、制御農芸化学的放出)、食料(染料、固体及び酸の除去、防腐剤、カラー(色)安定化、動物飼料添加剤)及びメンブレン(逆浸透法、透過性制御、溶剤分離)が挙げられる。キチン及びキトサンの生物医学的用途が生体適合性、生分解性及びグリコサミノグリカンへの構造的類似性に鑑みて特に重要である。用途及び潜在的用途としては、創傷被覆材、組織エンジニアリング用途、人工腎臓メンブレン、薬剤送達システム、吸収性縫合糸、止血剤、抗菌剤用途並びに歯科、整形外科、眼科及び形成外科における用途が挙げられる。キチン及びキトサンの潜在的用途に関する内容豊富なレビューに関しては、例えば、シゲマサ(Shigemasa)及びミナミ(Minami),「アプリケーションズ・オブ・キチン・アンド・キトサン・フォー・バイオマテリアルズ(Applications of chitin and chitosan for biomaterials)」,バイオテクノロジー・ジェネティック・エンジニアリング・レビューズ 1996(Biotech. Genetic. Eng. Rev. 1996),1997年,13,383、クマール(Kumar),「ア・レビュー・オブ・キチン・アンド・キトサン・アプリケーションズ(A review of chitin and chitosan applications)」,リアクティブ・ファンクショナル・ポリマーズ(React. Funct. Polym.),2000年,46(1)、シン(Singh)及びレイ(Ray),「バイオメディカル・アプリケーションズ・オブ・キチン・キトサン・アンド・ゼア・デリバティブス(Biomedical applications of chitin, chitosan, and their derivatives)」,ジャーナル・オブ・マクロモレキュラー・サイエンス(J. Macromol. Sci.),2000年,C40(1),69を参照されたい。
【0006】
キトサンは、その優れた生体適合性に起因して、医療分野における生体適合性被膜(コーテング膜)、例えば、泌尿器科用途、心臓血管用途、胃腸科用途、神経学的用途、リンパ用途、耳鼻咽喉科用途、眼科用途及び歯科用途の器具のための適当な候補である。例えば、内皮細胞に向かうキトサンの再生潜在的可能性(チュパ等(Chupa at al),「バスキュラー・セル・レスポンシズ・トゥ・ポリサッカライド・マテリアルズ:イン・ビトロ・アンド・イン・ビボ・エバリュエーションズ(Vascular Call Responses to Polysaccharide Materials: In Vitro and In Vivo Evaluations)」,バイオマテリアルズ(Biomaterials),2000年,21(22),2315)は、キトサンが心臓血管インプラントの表面に塗布されると、血液適合性層の形成を支援する(ティエリ等(Thierry et al),「バイオディグレイダブル・メンブレン‐カバード・ステント・フロム・キトサン‐ベースド・ポリマーズ(Biodegradable membrane-covered stent from chitosan-based polymers)」,ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(J. Biomed. Mater. Res.),2005年,75A(3);556を参照されたい)。キトサンの静菌的可能性により、血管グラフトの被膜として被着されたときにインプラント関連感染の恐れが著しく減少する(フジタ等(Fujita et al),「インヒビション・オブ・バスキュラー・プロステーシス・グラフト・インフェクション・ユージング・ア・フォトクロスリンカブル・キトサン・ハイドロジェル(Inhibition of vascular prosthetic graft infection using a photocrosslinkable chitosan hydrogel)」,ジャーナル・オブ・サージカル・リサーチ(J. Surg. Res.),2004年,121(1),135参照されたい)。キトサン被膜のもう1つの利点は、制御した仕方で放出可能な生物活性剤、例えば細胞増殖抑制薬を混入する選択肢である(チェン等(Chen et al),「ジ・キャラクタリスティクス・アンド・イン・ビボ・サプレッション・オブ・ネオインティマル・フォーメーション・ウィズ・シロリムス‐エリューティング・ポリメリック・ステンツ(The characteristics and in vivo suppression of neointimal formation with sirolimus-eluting polymeric stents)」,バイオマテリアルズ(Biomaterials),2009年,30(1),79を参照されたい)。
【0007】
ポリマーによる中空医療品のコーティングに関し、上述のティエリ等の論文は、ステントを回転させながらキトサン及びポリエチレングリコールを含有したゼリー状溶液をステント上に注ぐことによって金属ステントを高密度膜で被覆する方法を記載している。この膜は、メッシュ状ステントの表面全体を被覆し、即ち、ストラットだけでなくストラット相互間の空間をも被覆する。後者は、ステントが圧縮状態から拡張状態に変化する際にストラット相互間のキトサン層が破断する場合があるので不都合な場合がある。
【0008】
リン等(Lin et al),「フィージビリティ・エバリュエーション・オブ・キトサン・コーティングス・オン・ポリエチレン・チュービング・フォー・ビリエリー・ステント・アプリケーションズ(Feasibility evaluation of chitosan coatings on polyethylene tubing for biliary stent applications)」,ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(J. Appl. Poly. Sci.),2005年,97,893‐902の論文では、胆管ステントを製造する方法が記載され、この方法では、中実PE管の内側をキトサン層で被覆する。この目的のため、最初に、キトサン溶液を管中に注入し、1時間後、メタノールで置き換える。メタノールの除去後、管を乾燥させ、中和し、更に乾燥させる。この先行技術の方法は、上述の理由で多孔性(holey)ステントには適していないということがこの先行技術の方法の欠点である場合がある。
【0009】
米国特許第7,279,174号明細書では、疎水性ポリマーと浸水性ポリマー、例えばキトサンの混合物をステントに吹き付けてこれらポリマーの化学的架橋網状構造を生じさせる方法が記載されている。キトサンの架橋及び他の改質がポリマーの有利な特性、特にその生態適合性にマイナスの影響を及ぼす場合のあることがこの先行技術の欠点である。米国特許第7,255,891号明細書は、ステントポリマー溶液、例えばキトサン溶液中に浸し又はステントにその溶液を吹き付けることを示唆している。同様に、米国特許第6,899,731号明細書は、キトサン及びDNAの交互の層を吹き付け又は浸漬法によりバルーンカテーテルに被着させる実験例を記載している。かかる交互の層をステントにも被着させることが示唆されている。米国特許第6,555,225号明細書は、水不溶性ポリイオンにイオン的に架橋された水溶性ポリイオン、例えばキトサンを含む高分子電解質錯体のステント表面上への機械的に安定性のある層の形成を開示している。
【0010】
米国特許第6,969,400号明細書は、共有結合的架橋網状構造を形成するキトサンと他の2種類のポリマー成分の混合物を合成インプラント、例えばステントに塗布する技術を示唆している。米国特許第7,351,421号明細書では、キトサン溶液を例えば浸漬被覆又は吹き付け被覆によってステントに塗布し、次に、架橋剤を塗布してキトサンを共有結合的に架橋する方法が記載されている。米国特許第6,923,996号明細書及び同第7,390,525号明細書は、最初に架橋剤から成る反応性層を医用器具、例えばステントの表面に被着させ、次に薬剤及び架橋可能なポリマー、例えばキトサンを含む溶液を塗布する方法を記載している。最後に、ティエリ等(Thierry et al),「バイオアクティブ・コーティングス・オブ・エンドバスキュラー・ステント・ベースド・オン・ポリエレクトロライト・マルチレイヤーズ(Bioactive coatings of endovascular stents based on polyelectrolyte multilayers)],バイオマクロモレキュルズ(Biomacromolecules),2003年4(6),1564の論文は、最初にNiTiステントにPEIプライマー層を被着させ、次にヒアルロナン及びキトサンの交互の層を被着させる方法を記載している。
【0011】
ウー等(Wu et al),「ボルテージ‐ディペンデント・アッセンブリー・オブ・ザ・ポリサッカライド・キトサン・オントゥー・アン・エレクトローデ・サーフェイス(Voltage-dependent assemble of the polysaccharide chitosan onto an electrode surface)」,ラングミュア(Langmuir),2002年,18(22),8620の論文及びフェルナンデス等(Fernandes et al),「エレクトロケミカリー・インデュースド・デポジション・オブ・ア・ポリサッカライド・ハイドロジェル・オントゥー・ア・パターンド・サーフェイス(Electrochemically induced deposition of a polysaccharide hydrogel onto a patterned surface)」,ラングミュア(Langmuir),2003年,19(10),4058の論文は、酸性キトサン水溶液中での負に帯電した電極へのキトサンの電着法を記載している。米国特許第7,014,749号明細書及び同第7,387,846号明細書は、キチンとブルッシャイト(ヒドロキシアパタイトの前駆物質)の混合物を金属プロテーゼに電着する方法を開示している。
【0012】
国際公開第01/014617号パンフレットは、作業電極として働くステント、基準電極及び対向電極をキトサンから成る電解質中に沈める電着法を記載している。ステントがカソードの役割を果たす場合、放射活性標識キトサンをステントに被着させることが示唆されている。本発明者は、ステントの表面上に放射活性が存在することが再狭窄の発生を減少させることができるということを利用しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第7,279,174号明細書
【特許文献2】米国特許第7,255,891号明細書
【特許文献3】米国特許第6,555,225号明細書
【特許文献4】米国特許第6,899,731号明細書
【特許文献5】米国特許第6,969,400号明細書
【特許文献6】米国特許第7,351,421号明細書
【特許文献7】米国特許第6,923,996号明細書
【特許文献8】米国特許第7,390,525号明細書
【特許文献9】米国特許第7,014,749号明細書
【特許文献10】米国特許第7,387,846号明細書
【特許文献11】国際公開第01/014617号パンフレット
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】シゲマサ(Shigemasa)及びミナミ(Minami),「アプリケーションズ・オブ・キチン・アンド・キトサン・フォー・バイオマテリアルズ(Applications of chitin and chitosan for biomaterials)」,バイオテクノロジー・ジェネティック・エンジニアリング・レビューズ 1996(Biotech. Genetic. Eng. Rev. 1996),1997年,13,383
【非特許文献2】クマール(Kumar),「ア・レビュー・オブ・キチン・アンド・キトサン・アプリケーションズ(A review of chitin and chitosan applications)」,リアクティブ・ファンクショナル・ポリマーズ(React. Funct. Polym.),2000年,46(1)
【非特許文献3】シン(Singh)及びレイ(Ray),「バイオメディカル・アプリケーションズ・オブ・キチン・キトサン・アンド・ゼア・デリバティブス(Biomedical applications of chitin, chitosan, and their derivatives)」,ジャーナル・オブ・マクロモレキュラー・サイエンス(J. Macromol. Sci.),2000年,C40(1),69
【非特許文献4】チュパ等(Chupa at al),「バスキュラー・セル・レスポンシズ・トゥ・ポリサッカライド・マテリアルズ:イン・ビトロ・アンド・イン・ビボ・エバリュエーションズ(Vascular Call Responses to Polysaccharide Materials: In Vitro and In Vivo Evaluations)」,バイオマテリアルズ(Biomaterials),2000年,21(22),2315)
【非特許文献5】ティエリ等(Thierry et al),「バイオディグレイダブル・メンブレン‐カバード・ステント・フロム・キトサン‐ベースド・ポリマーズ(Biodegradable membrane-covered stent from chitosan-based polymers)」,ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(J. Biomed. Mater. Res.),2005年,75A(3);556
【非特許文献6】フジタ等(Fujita et al),「インヒビション・オブ・バスキュラー・プロステーシス・グラフト・インフェクション・ユージング・ア・フォトクロスリンカブル・キトサン・ハイドロジェル(Inhibition of vascular prosthetic graft infection using a photocrosslinkable chitosan hydrogel)」,ジャーナル・オブ・サージカル・リサーチ(J. Surg. Res.),2004年,121(1),135
【非特許文献7】チェン等(Chen et al),「ジ・キャラクタリスティクス・アンド・イン・ビボ・サプレッション・オブ・ネオインティマル・フォーメーション・ウィズ・シロリムス‐エリューティング・ポリメリック・ステンツ(The characteristics and in vivo suppression of neointimal formation with sirolimus-eluting polymeric stents)」,バイオマテリアルズ(Biomaterials),2009年,30(1),79
【非特許文献8】リン等(Lin et al),「フィージビリティ・エバリュエーション・オブ・キトサン・コーティングス・オン・ポリエチレン・チュービング・フォー・ビリエリー・ステント・アプリケーションズ(Feasibility evaluation of chitosan coatings on polyethylene tubing for biliary stent applications)」,ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(J. Appl. Poly. Sci.),2005年,97,893‐902
【非特許文献9】ティエリ等(Thierry et al),「バイオアクティブ・コーティングス・オブ・エンドバスキュラー・ステント・ベースド・オン・ポリエレクトロライト・マルチレイヤーズ(Bioactive coatings of endovascular stents based on polyelectrolyte multilayers)],バイオマクロモレキュルズ(Biomacromolecules),2003年4(6),1564
【非特許文献10】ウー等(Wu et al),「ボルテージ‐ディペンデント・アッセンブリー・オブ・ザ・ポリサッカライド・キトサン・オントゥー・アン・エレクトローデ・サーフェイス(Voltage-dependent assemble of the polysaccharide chitosan onto an electrode surface)」,ラングミュア(Langmuir),2002年,18(22),8620
【非特許文献11】フェルナンデス等(Fernandes et al),「エレクトロケミカリー・インデュースド・デポジション・オブ・ア・ポリサッカライド・ハイドロジェル・オントゥー・ア・パターンド・サーフェイス(Electrochemically induced deposition of a polysaccharide hydrogel onto a patterned surface)」,ラングミュア(Langmuir),2003年,19(10),4058
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、中空本体を有する医療品の製造方法であって、中空本体の壁の少なくとも一部の少なくとも内側をポリマーから成る層でコーティングする改良型方法を提供することにある。本発明は更に、1つ又は2つ以上の構造要素から成る壁を備えた中空本体を有する医療品であって、壁の少なくとも一区分が天然のキトサンを含む層でコーティングされている改良型医療品及びかかる医療品の使用を提供することを目的としている。最後に、本発明の目的は、医療品の使用及びポリマーをポリマーの酸性混合物から電極上に電着する改良型方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、この課題は、中空本体を有する医療品の製造方法であって、中空本体の壁の少なくとも一部の少なくとも内側がポリマーから成る層でコーティングされている、方法において、医療品の壁の少なくとも一部の少なくとも内側をポリマーの混合物、好ましくは溶液に接触させ、ポリマーを混合物から壁の少なくとも一部の少なくとも内側に被着させることを特徴とする方法によって解決される。さらに、課題は、1つ又は2つ以上の構造要素から成る壁を備えた中空本体を有する医療品であって、壁の少なくとも一区分が天然のキトサンから成る層でコーティングされている、医療品において、中空本体の内側と外側の両方で、中空本体の壁の1つ又は2つ以上の構造要素のうちの少なくとも幾つかは、天然のキトサン層で少なくとも部分的にコーティングされていることを特徴とする医療品を提供することによって解決される。最後に、課題は、ポリマーをポリマーの酸性混合物、好ましくは溶液から電極上に電着する方法において、混合物は、多塩基酸(multibasic acid)、好ましくはクエン酸を含むことを特徴とする方法を提供することによって解決される。
【0017】
本発明との関連において、中空本体の壁に関し「コーテッド(コーティングされた)」という用語は、壁に存在している場合のある孔が自由なままの状態で中空本体の壁を構成する構造要素をポリマーでコーティングするということを意味している。孔は、壁がウェブ若しくはメッシュ状であり又は材料の発泡又は有孔シートから作られている場合に生じることがあり、これは、医用ステントにおいてそうである場合が多い。ウェブ若しくはメッシュ状壁の場合、構造要素は、孔を境界付けるストラットである。他方、壁がコンパクトであり、即ち、単一の無孔片のものである場合、この片は、壁の単一の構造要素であると考えられる。
【0018】
これは、「被覆(被覆された)」壁とは対照的であり、「被覆」壁は、壁が高密度ポリマー層で被覆されていることを意味し、テントのフレームがテントのファブリックで覆われている状態に極めて似ている。壁がポリマー層で「被覆」されている場合、この層は、壁に存在している場合のある孔を含む壁を連続的に横切って延びる。高密度層が孔を横切って延びるので、孔は、一般に、ポリマーフィルムで閉じられることになる。壁のかかる孔は、医療品の開口部、例えば管状ステントの開放端部とは区別される必要があることに注目されたい。「被覆」壁と言った場合、これは、医療品の開口部も又ポリマー層で被覆されなければならないことを示唆するものでは全くない。事実、これとは対照的に、これら開口部は、一般に、覆われていない、即ち露出している。以下において壁全体ではなく壁の単に一部と言った場合、「被覆」とは区別される「コーテッド」の上述の定義は、それに応じて当てはまる。
【0019】
例えば、ポリマーフィルムがポリマーコーテッドストラット相互間の孔を横切って延びた状態で高密度ポリマー管中に埋め込まれたメッシュ状医用ステントを「ポリマー被覆」と称することができ、他方、孔を開放状態に保ちながらポリマーの層がストラット周りにのみ形成されているメッシュ状医用ステントを「ポリマーコーテッド」と称することができる。医療品の内側被膜に起因して、身体の生まれつきの通路又は導管、例えば血管の血栓症を含む閉塞を抑制することができるということが本発明の達成可能な利点である。
【0020】
本発明との関連において、「天然のキトサン」という用語は、規定された化学成分キトサンを意味し、これは、ポリ(N‐アセチル‐D‐グルコサミン‐コ‐D‐グルコサミン)コポリマーである。架橋又は化学的に改質されたキトサンは、天然のキトサン等が異なる特性をもつキトサン誘導体であると考えられる。
【0021】
医療品の壁を被覆するのではなくコーティングすることによって、例えば、ステントを挿入した後にステント中に慣例的に生じる種類の拡張中、医療品がその形状を変える際にポリマー層が壊れることを回避できるので有利である。また、有利には、ポリマー層の領域を最小限に抑えることができ、それにより、材料が節約されると共に人又は動物の体の内部の異物の存在によって引き起こされる場合のある副作用、例えば体内通路又は導管の閉塞が軽減され、かかる閉塞としては、血栓症や血管の再狭窄が挙げられる。
【0022】
非常に薄い層を達成することができ、それにより材料が節約されると共に特に柔軟性のポリマー層の実現が可能になるということが本発明の方法の達成可能な利点である。さらに、被膜の抗閉塞性を高めることができる特に一様なポリマー層を達成することができる。
【0023】
本発明は、中空物体を導電性材料、例えば金属からポリマーコーティングによりコーティングするのに適していることが本発明の別の達成可能な利点である。
【0024】
本発明を有利には、植え込み型医療品、例えば薬剤溶出医用ステントを含む医用ステントに利用することができる。有利には、医療品を動物、例えば哺乳動物、特に人間の医療処置、例えば手術若しくは治療又は診断法に利用することができる。医療品は、特に、動物又は人体の生まれつきの通路又は導管、例えば心臓血管系(例えば、冠血管ステント)、胆道(例えば、胆道内ステント)、肺内管(例えば、気管ステント)又は尿路(例えば、尿管ステント、尿道ステント)の閉塞を抑制するよう利用できる。特に有利には、医療品を利用して血栓症の発症を阻止することができる。
【0025】
得られるポリマー層が先行技術と比較して滑らかであると共に/或いは層中の細孔の発生を阻止することができ又は少なくとも減少させることができるということがポリマーの電着の際におけるクエン酸含有混合物の使用の達成可能な利点である。これは、医療品を製造する本発明の方法において特に有用であるが、この用途に限定されるわけではない。
【0026】
本発明の好ましい方法では、ポリマーは、壁の内側の少なくとも一部に被着されるよう混合物から沈殿する。好ましくは、医療品は、少なくとも部分的にポリマーの混合物中に浸漬され、その結果、壁の内側及び外側が混合物と接触し、ポリマーが混合物から壁の内側及び外側の少なくとも一部上に被着されるようになる。より好ましくは、ポリマーは、壁の内側及び外側の少なくとも一部上に被着されるよう混合物から沈殿する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、中空本体の壁は、本質的に管状であり、好ましくは、楕円形又は円形の断面を有する。中空本体は、例えば、例えば円筒形医用ステントにおいて典型的に見られる筒体バレルの形状をしているのが良い。しかしながら、中空本体は、他の管状の形状、例えば尿管ステントのピグテール形状のものであっても良い。中空本体は又、幾つかの管状枝部から成っていても良く、これら枝部は、更に、これらの断面が異なっていても良い。この種の医療品は、例えば、枝分かれ医用ステントとして有利に利用できる。
【0028】
好ましい医療品、好ましくは中空本体は、その端部に開口部を有する。それにより、流体、例えば体液、例えば血液、胆汁又は尿が医療品を通って流れることができることが達成できる。好ましい医療品は、ステント又は血管形成性器具、即ち血管形成術に用いられる器具、好ましくは血管形成性ステントである。他の好ましいステントとしては、胆道内ステント、食道ステント、気管ステント、尿管ステント及び尿道ステントが挙げられる。
【0029】
好ましくは、中空本体の壁の少なくとも一部は、多孔性であり、より好ましくはストラットにより境界付けられた孔を有するメッシュ又はウェブ状である。本発明の好ましい一実施形態では、壁は、材料の有孔又は発泡シートであり、別の実施形態では、壁は、例えば材料の1本又は数本のワイヤストランドから織成される。壁は、好ましくは、20個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上の穴を有する。孔の断面寸法は、好ましくは、0.5μm(マイクロメートル)〜5000μm、より好ましくは10μm〜2500μm、より好ましくは50μm〜1500μmである。中空本体の壁の中実部分(即ち、孔ではなく構造要素で構成されている部分)の面積、例えばメッシュ状又はウェブ状壁のストラットの面積は、好ましくは、壁全体の面積の75%未満、より好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満である。
【0030】
壁の好ましい材料は、導電性材料である。壁は、好ましくは層の状態で配置される単一材料、好ましくは金属若しくは金属合金又は数種類の材料のものであって良い。後者の場合、少なくとも最も外側の層(この層は、本発明のポリマーでコーティングされる)は、好ましくは、金属若しくは金属合金のものである。好ましい金属としては、銀、金、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ロジウム、チタン、タングステン及びルテニウムが挙げられる。好ましい金属合金としては、コバルト‐クロム合金、ニッケル‐チタン合金(例えば、ニチノール)、鉄‐クロム合金(例えば、好ましくは少なくとも50%の鉄及び少なくとも11.5%のクロムを含むステンレス鋼)、コバルト‐クロム‐鉄合金(例えば、エルジロイ合金)及びニッケル‐クロム合金(例えば、インコネル合金)が挙げられる。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態では、被膜(コーテング膜)は、単一のポリマーを含み、より好ましくは、被膜は、このポリマーから成る。しかしながら、本発明は又、別の物質、例えば生物活性物質、例えば薬剤がポリマー中に混ぜ込まれた実施形態を想定している。この別の物質は、当然のことながら、ポリマーであっても良い。本発明の好ましい実施形態では、例えば金属及び金属合金の上述のリストからの金属又は金属合金がポリマー中に混ぜ込まれる。被膜の全質量に対するこの他の物質の質量分率は、50%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは1%未満である。本発明の特に好ましい実施形態では、他の物質は、被膜中に微量でしか存在せず、即ち、被膜の全質量に対する他の物質の質量分率は、0.1%未満、より好ましくは0.01%未満、より好ましくは0.001%未満である。他の物質は、ナノ粒子、即ち直径が100ナノメートル未満の粒子の形態で存在するのが良い。被膜は、当然のことながら、他の物質のうちの幾つかを含むのが良い。医療品を薬剤溶質医療品、例えば薬剤溶質医用ステントにすることができるということは、別の物質又は他の物質が被膜中に存在することにより達成可能な利点である。例えば、銀粒子を含むポリマー被膜は、銀イオンを放出することができ、銀イオンは、抗菌性を有するものとして知られている。さらに、他の物質は、別の成分が結合することができる活性群をポリマー層に与えることができる。
【0032】
他の物質の混入は、例えば、この他の物質をポリマーを放出被着させる混合物の状態で提供することによって達成できる。また、層を既に形成した後で例えばポリマーコーテッド壁を他の物質の混合物、例えば溶液中に浸漬させることにより他の物質を層中に導入することが可能である。
【0033】
代替的に又は追加的に、医療品は、好ましくは1種類又は2種類以上の薬剤を含む他の物質が混入され又は他の物質から成る別の層を備えても良い。この場合も又、これは、医療品を薬剤溶質医療品、例えば薬剤溶質医用ステントにすることができるので有利である。別の層は、好ましくは、ポリマー層の前に被着される。この別の層は、好ましくは、ポリマー層の下に配置される。
【0034】
本発明の好ましいポリマーは、多糖類である。好ましいポリマーは、バイオポリマー(生体高分子)、即ち生態により作ることができるポリマーである。好ましくは、バイオポリマーは、生物学的重合、より好ましくは天然に生じるモノマーの重合により作られるポリマーである。ポリマーは、疎水性であっても良く浸水性であっても良い。壁をコーティングする好ましいポリマーは、その生まれつきの形態をしている。本発明との関連において、ポリマーに関して「生まれつき」という表現は、特に、ポリマーがそれ自体とも別のポリマーとも架橋されておらず、化学的に改質され又は別の物質に化学的に結合されることを意味している。好ましくは、被膜のポリマーは、イオン化されていない。さらに、ポリマーがバイオポリマーである場合、このポリマーは、好ましくは、これが通常自然に生じる形態で被膜中に存在する。
【0035】
好ましい多糖類は、生まれつきのキトサンである。おそらくは生まれつきのキトサンの生体適合性、内皮細胞に向かうその再生可能性及び/又はその静菌的可能性に起因して医療品の閉塞を回避することができるということが本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。さらに、有利には、生物活性剤、例えば薬剤を生まれつきのキトサン被膜中に混入することができる。
【0036】
適当な生まれつきではないポリマーとしては、キトサン、例えば部分又は完全N‐、O‐又はN,O‐誘導体かキトサンの誘導体が挙げられ、かかる誘導体としては、正電荷を形成することができる誘導体、例えばアミン、グワニジミウム、イミダゾール、インドール、プリン、ピリミジン、ピロル等の機能性を含む誘導体並びに負電荷を形成することができる誘導体、例えばアルコキシド、カルボキシル、カルボキシレート、オキシ酸、フェノール酸、ホスフェート、スルフヒドリル基等の機能性を含む誘導体が挙げられる。他の適当なポリマーとしては、多糖類、ポリピロル、ポリアミン、ポリイミン、ポリペプチド、ポリアミノ酸、ポリカルボキシル酸並びに他のポリマー及び正電荷又は負電荷を形成することができるポリマー誘導体が挙げられる。
【0037】
本発明の好ましい医療品では、壁全体は、少なくとも一方の側部、好ましくは両方の側部がポリマーでコーティングされる。
【0038】
好ましい医療品では、壁の少なくとも一部分、好ましくは壁全体は、両側部がポリマー層でコーティングされ、その結果、被膜は、中空本体の内側から外側に連続して延びるようになる。換言すると、中空本体の壁(その一部)の外側被膜と内側被膜との間にコーティングされていない隙間が生じない。好ましくは、被膜は、壁に設けられている孔を通って中空本体の内側から外側に延びる。
【0039】
好ましい医療品では、中空本体の壁を構成する1つ又は2つ以上の構造要素のうちの少なくとも幾つかは、全体が、ポリマー層でコーティングされる。この関係で、「全体として(全体が)コーティングされ」という表現は、特に、構造要素が中空本体の内側に一部分を有すると共にその外側に別の部分を有する場合、内側部分の構造要素の被膜と外側部分の構造要素の被膜との間に隙間が存在しないことを意味している。適切に言えば、被膜は、中空本体の内側から外側まで構造要素上に連続して延びている。好ましくは、中空本体の壁の一部分を構成する構造要素の全て、より好ましくは中空本体の壁全体を構成する全ての構造要素は、全体がポリマー層でコーティングされる。
【0040】
本発明の好ましい方法では、医療品の壁の少なくとも内側全体をポリマーの混合物に接触させ、ポリマーは、混合物から沈殿して壁の少なくとも内側に被着される。中空本体の壁全体の少なくとも内側がポリマーでコーティングされることは、本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。
【0041】
本発明の好ましい方法では、医療品を少なくとも部分的に、より好ましくは全体的にポリマーの混合物中に浸漬し、壁の内側及び外側が混合物と接触するようにし、ポリマーが混合物から沈殿して壁の内側及び外側の少なくとも一部上に被着されるようにする。中空本体の壁の内側と外側の両方を好ましくは同時にポリマーでコーティングできることは、本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。
【0042】
被膜の厚さは、内側及び外側で同一であっても良く、或いは、内側の厚さは、外側の厚さと異なっていても良い。厚さが異なっている場合、内側被膜は、好ましくは、外側被膜よりも厚い。好ましくは、中空本体の内側のポリマー被膜の厚さは、0.02μm〜2000μm、より好ましくは0.2μm〜200μm、より好ましくは0.5μm〜10μmである。中空本体の外側のポリマー被膜の好ましい厚さは、0.02μm〜2000μm、より好ましくは0.2μm〜200μm、より好ましくは0.5μm〜10μmである。
【0043】
本発明との関連において、被膜(コーテング膜)の「厚さ」は、コーテッド構造要素の表面に垂直な方向に測定される。非常に一様な被膜を達成できることは、本発明の達成可能な利点である。具体的に言えば、構造要素から孔中に延びるコーティングポリマーの堆積、例えばウェブ状又はメッシュ状壁のストラットからストラットにより包囲された孔中に延びるウェッビングの形状を有する堆積を回避することができる。「厚さ」についてのこの定義によれば、これら堆積が延びる起点となる構造要素の部分は、周囲の部分よりも非常に厚い被膜を有する。これとは対照的に、本発明の好ましい実施形態では、中空本体の同一側の厚さの局所的最小値と隣りの局所的最大値との厚さの差は、中空本体のこの側のポリマー層の平均厚さの100%未満、より好ましくは30%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満である。
【0044】
本発明の好ましい方法では、ポリマーの被着は、特に、電着であり、換言すると、ポリマーを壁に電着させる。電着では、極性が互いに反対の少なくとも2つの電極によって混合物中に電流を流す。電着に関するこれ以上の情報については、ジョン・リン・ワン等(Zhong Lin Wang et al),「ハンドブック・オブ・ナノフェーズ・アンド・ナノストラクチャード・マテリアルズ(Handbook of nanophase and nanostructured materials)」,Vol.1及びクリューバーズ(Kluvers),「シンセシス(Synthesis)」に見られる。懸濁液又はコロイド中において、電着は、特に、電気泳動法(EPD)であるのが良い。
【0045】
好ましくは、中空本体は、一方の電極として役立ち、対向電極の極性とは逆の極性を有し、対向電極も又、少なくとも部分的に混合物中に浸漬される。本発明の好ましい実施形態では、電極は、中空本体の外側に配置される(外側電極)。外側電極は、例えば、好ましくは金属で作られた導電性メッシュであるのが良い。これは、好ましくは、中空本体全体を包囲する。
【0046】
本発明の方法の好ましい実施形態では、少なくとも一方の電極を中空本体の内側に配置する(内側電極)。本発明者は、一方の電極を中空本体の内側に配置すると、中空本体の内側へのポリマーの電着具合を向上させることができるので有利であることを見出した。好ましくは、内側電極は、中空本体と同一の極性を有し、より好ましくは、内側電極は、中空本体に電気的に接続される。好ましい実施形態では、内側電極は、中空本体のための支持体、例えばハンガーを兼ねている。この目的のため、内側電極の一部は、フックの形をしているのが良い。支持体としての役目を果たす内側電極の部分は、好ましくは、導電性である。電気的接触を好都合に且つ確実な仕方で内側電極と中空本体との間に確立すると、両方が同一の極性をもつようにすることができるということは、本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。
【0047】
変形実施形態では、内側電極は、中空本体の極性と逆の極性を有し、即ち、内側電極は、対向電極として働く。この場合、好ましくは、内側電極が中空本体に接触することがないようにする適当な手立てが取られる。それにより、有利には、中空本体と内側電極との間の短絡を回避することができる。この目的のため、内側電極は、例えば、独国特許第758374(B)号明細書に示唆されているように多孔質ワニス被膜を備えるのが良い。内側電極が例えば上述したようなフック状部分によってハンガーを兼ねる場合、この部分は好ましくは、非導電性であり又は絶縁される。
【0048】
好ましい内側電極は、細長く、好ましくは少なくとも中空本体の内側の一部を貫通して延び、より好ましくは、中空本体の内側全体を貫通して延びる。例えば、中空本体が管状である場合、好ましい内側電極は、一方の管開口部から他方の管開口部まで延びる。好ましくは、中空本体は、本質的に垂直に混合物中に配置される。この場合、好ましい内側電極も又、中空本体の内側を貫通して垂直に延び、内側電極の底部は、好ましくは、混合物中の中空本体を支持すると同時に中空本体に電気的に接触する。
【0049】
内側電極は、例えば、好ましくは金属で作られた導電性ワイヤ又は管、例えばカニューレから成るのが良い。本発明の好ましい実施形態では、内側電極は、金属ワイヤに嵌められた金属管から成る。内側電極は、好ましくは、コーティングされるべき中空本体の内径の5%〜95%、より好ましくは50%〜90%、より好ましくは60%〜80%の外径を有する。
【0050】
好ましくは、ポリマーの混合物は、特に、ポリマーの溶液であり、換言すると、ポリマーは、溶剤中に溶けている。しかしながら、本発明は又、混合物がコロイド又は懸濁液であり、より一般的には分散液であり、即ち、ポリマーは、混合物媒体中に単に懸濁される実施形態を想定している。混合物媒体、即ち、例えば溶剤又は分散液媒体は、好ましくは、液体である。
【0051】
本発明の好ましい方法では、ポリマーをその混合状態で、即ち、例えばその溶解又は分散状態で帯電させる。好ましいポリマーは、混合物中の陽イオンである。しかしながら、本発明は、当然のことながら、ポリマーが混合物中の陰イオンである実施形態を想定している。好ましくは、電着中、電極として働く中空本体は、カソードとして働く混合物中のポリマーイオンとは逆の極性に帯電され、好ましくは負に帯電される。かくして、有利には、ポリマーの荷電イオンを中空本体によって引き付けることができる。
【0052】
好ましい混合物媒体は、プロトン性溶剤又は極性のある非プロトン性溶剤から成る。混合物は、単一の混合物媒体、例えば水から成っていても良く、或いは、混合物媒体の組み合わせであっても良く、これらの1つは、好ましくは、極性のある非プロトン性溶剤又はプロトン性溶剤、例えば水である。有利には、水は、イオンにとって良好な溶剤であり、安価であり且つ医学的用途と良好に適合する。
【0053】
被着中、本発明の好ましい実施形態では、ポリマーは、好ましくは中空本体の内側及び/又は外側の近くの電荷の弱め合いに起因して混合物から沈殿する。例えば、水性混合物では、電荷の弱め合いは、中空本体がカソードとして働いている場合には中空本体の近くのpHの増大によって又は中空本体がアノードとして働いている場合には中空本体の近くでのpHの減少によって誘起可能である。混合物のpHを調節するため、混合物は、好ましくは、酸又は塩基を更に含む。好ましい酸としては、無機酸、例えば塩酸並びに一塩基有機酸又は2〜12個の炭素原子を有すると共に1〜5の第1pKa値をもつ多塩基有機酸、例えばクエン酸、乳酸、リンゴ酸、琥珀酸、マンデル酸、シュウ酸、酒石酸、アスコルビン酸等が挙げられる。無機酸と有機酸の混合物並びに無機酸と有機酸の塩(例えば、緩衝溶液)を混合物のpHの調節のためにも使用可能である。
【0054】
好ましいポリマー層は、本質的に細孔がない。好ましい酸は、多塩基酸、例えばクエン酸である。この実施形態では、特に滑らかなポリマー層が電極に被着される可能であると共に/或いはポリマー層の細孔を回避することができ又は少なくとも減少させることができる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー混合物のバルクは、酸性であり、pHは、好ましくは、−1.0〜6.5、より好ましくは1.0〜6.0、より好ましくは3.0〜5.5である。ポリマー、例えばキトサンが混合物のバルク中に溶けるが、中空本体がカソードとして働く場合、カソードの近くのpHの増大に起因して中空本体の近くで混合物から沈殿することができることは、本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。
好ましくは、ポリマーは、0.01%〜10%、より好ましくは0.1%〜1%、例えば0.33%の濃度で混合物中に存在する。電着のために電極に印加される電圧は、好ましくは、0.1〜50V(ボルト)、好ましくは1〜15V、例えば10Vから選択される。電圧は、好ましくは、0.1〜30秒間、より好ましくは1〜60秒間、例えば15秒間印加される。達成可能な層の厚さは、大きくは電圧の印加時間で決まり、かくして、厚さをこの持続時間の適当な選択によって調節することができる。例えば、10Vの電圧を15秒間印加すると、その結果として、約1μmのキトサン層が生じる。一般的に言えば、ポリマー濃度が高ければ高いほど、電圧が高ければ高いほど且つ/或いは印加時間が長ければ長いほど、その結果として、被着される層がそれだけ一層厚くなる。所望の層厚さを達成するため、これらパラメータは、コーティングされるべき中空本体の設計に応じて調節可能である。しかしながら、電圧が極めて高く且つ/或いは印加時間が極めて長いと、その結果として、電気分解中における気泡の生成に起因して、層の粗さ及び多孔度が増大する場合がある。他方、ポリマー濃度が高いと、その結果として、混合物の粘度が増大し、それにより中空本体の構造要素(即ち被覆材)相互間における層の形成の蓋然性が高くなる。
【0056】
添付の略図を用いて本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】電着によってキトサン被膜が被着された本発明のメッシュ状血管ステントを製造する設備を概略的に示す図である。
【図2】図1の設備の容器及び対向電極を概略的に示す図である。
【図3】図1の設備の作業電極と内側電極の組み合わせを概略的に示す図である。
【図4】一条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図5】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図6】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図7】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図8】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図9】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図10】別の条件下にある図1の設備で得られた血管ステントの写真図である。
【図11】コーテッドステントの一区分のSEM画像を示す図である。
【図12】ポリマー被覆ステントの壁の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
実施例1
【0059】
中空円筒形ステント2のメッシュ状壁の内側と外側の両方をキトサン層でコーティングする設備1が図1に概略的に示されている。この設備は、本質的に、円筒形容器3、外側電極4、ステント2及び容器3内に入っているキトサン含有溶液6中に浸漬された内側電極5を有している。外側電極4は、電源8の正極7に接続された対向電極として役立ち、ステント2と内側電極5は、互いに接続されると共に電源8の負極9に接続されている。
【0060】
図2は、設備1の溶液6及び外側電極4が納められた容器3を示している。容器3は、円形断面の縦形ガラス筒体であり、その直径は、約5cm(センチメートル)であり、その内容積は、約100ml(ミリリットル)であり、この容器は、約80mlの溶液6を収容している。溶液6中にはステンレス鋼の円筒形格子が浸漬されており、この円筒形ステンレス鋼格子は、ガラス筒体の周囲全体の内壁に沿って延び、外側電極4として働く。円筒形格子の直径は、約4cmであり、その網目の大きさは、約3mm(ミリメートル)である。格子を構成するワイヤの厚さは、約0.5mmである。さらに、ステンレス鋼のワイヤ10は、円筒形格子を円筒形ガラス容器の外側に接続している。
【0061】
図3に示されているように、設備1の内側電極5は、直径約0.3mm、長さ約20cmのステンレス鋼ワイヤ11及びワイヤ11に嵌められた長さ5cmの尖っていないステンレス鋼カニューレ12を有している。ワイヤ11は、底部12のところで、フック状に曲げられており、カニューレ12は、ワイヤ11が図1に示されているように垂直位置に保持されているとき、ワイヤ11の底部のところで支持されるようになっている。
【0062】
ステント2は、ステンレス鋼の裸金属冠血管ステントである。ステント2は、長さ約39mm、直径約1.55mmの円形筒体の形状をしている。ステントの壁は、本質的に正方形断面のストラット16から成り、正方形の各辺の長さは、約100μmであり、これは、結果的に、ステント2の壁の幅でもある。ステント2は、カニューレ12に嵌められており、ワイヤ11のフック状部分14は、構造体2,5全体を垂直位置にすると、ステント2も又支持するほど大きい。ステント2と内側電極5の構造体を円筒形ガラス容器3の中央の近くで溶液6中に配置し、その結果、ステント2が溶液6中に完全に浸漬されるようにする。ワイヤ11を電源8の負極9に電気的に接続する。カニューレ12とステント2の両方がワイヤ11のフック状部分14上に載ると、カニューレ12及びステント2も又、電源8の負極9に接続し、かくして、同一の極性を有する。外側電極4を電源8の正極7に電気的に接続する。次に、電源8により10Vの電圧を適当な時間、例えば15秒間対向電極と金属ワイヤとの間に印加する。
【0063】
その後、ワイヤ11を電源8から切り離し、ワイヤ11、カニューレ12及びステント2の構造体をピンセットの使用により溶液6から取り出し、蒸留水の浴(pH7)中の吊り下げ位置に配置する。さらに、ステント2がワイヤ11上に載ったままの状態でピンセットを用いてカニューレ12を穏やかに取り外す。次に、蒸留水の浴を約2分間撹拌し(200rpmで掻き回すことによって)、それによりキトサンコーテッドステントを洗浄する。
【0064】
キトサン被膜(コーテング膜)を点検のために目に見えるようにするため、次に、キトサンを染色液中に浸漬させることによりキトサンを染色する。染色液は、0.1%インジゴカルミン水溶液である。染色液中での約1分間のインキュベーション時間後、ステント2を取り出して10分間蒸留水に浸し、次に吊り下げたままの状態にして室温で且つ真空下で乾燥させる。最後に、ステント2をワイヤ11から取り外し、埃のない環境中に保つ。この手順の変形例では、カニューレ12は、上述の手順全体の間、ワイヤ11に取り付けたままにし、手順の終わりでのみワイヤ11と一緒にステント2から取り外す。
【0065】
図4〜図10は、種々の条件下における種々のコーティング実験の結果を示している。全ての実験において、10Vの電圧を15秒間印加した。実験結果から理解できるように、カニューレの直径並びに酸の選択は、得られる被膜に重要な影響を及ぼす。図4及び図5では、以下の組成の溶液6中の酸として、即ち、N‐メチルピロリドンを混ぜた1%クエン酸溶液(1:1)中の0.33%キトサンとして用いた。カニューレ12の直径は、それぞれ1.18mm(図4)及び1.38mm(図5)であった。ステント2の内側と外側の両方に被着された良好な被膜が観察された。
【0066】
これとは対照的に、他の条件が同一である場合において0.81mmカニューレ12は、良好な外側被膜を生じさせただけで、内側には観察できるほどの被膜は生じなかった(図8)。同様に、カニューレ12ではなく、1.15mmワイヤ11だけを内側電極として用いた場合、外側には弱くて不規則な被膜しか達成されず、内側には観察できるほどの被膜は達成されなかった(図7)。溶液6中の酸の選択の効果は、図8に示されており、この場合、他の条件が図4の条件と同一である場合、クエン酸に代えて1%酢酸を含む溶液を用いた。これらの条件下においては観察できるほどの被膜は生じなかった。
【0067】
図9及び図10は、内側電極5が全く存在しないコントロール実験を示している。適切に言えば、ステント2の頂部を金属ワイヤ11のフック状端部14で支持し、その結果、ワイヤは、ステント2の内部を通り抜けることがなかった。酢酸を含むキトサン溶液(N‐メチルピロリドンを混ぜた1%酢酸溶液(1:1)中に0.33%のキトサンを含む組成物)では、被膜は全く観察されず、他方、クエン酸(N‐メチルピロリドンを混ぜた1%クエン酸溶液(1:1)中に0.33%のキトサンを含む組成物)を用いた場合、ステントの外側にのみ弱い被膜が生じた。
【0068】
実施例1の条件下で得られたステントの一区分の走査型電子顕微鏡写真図を示している図11から理解できるように、得られた被膜は、細孔又はスパイクのない非常に一様なものである。特に、ウェブ相互間の孔内に延びるようなウェッビングは観察できない。最後に、図12は、ステント2の概略断面図によって、壁の構造要素16に被着されているコーティング層15の局所厚さtは、コーテッド構造要素16の表面に垂直な方向に測定されていることを示している。構造要素16は、中空本体の内側に位置する部分17及び中空本体の外側に位置した部分18を有している。この構造要素は、内側部分17上の構造要素の被膜と外側部分18上の構造要素の被膜との間に隙間がないという意味において、全体がコーティング層15でコーティングされている。適切に言えば、コーティング層15は、中空本体の内側から外側まで構造要素16上に連続して延びている。
【0069】
実施例2
【0070】
これは、キトサン/添加剤懸濁液6からコーティングにより添加剤、例えば薬剤を混ぜ込んだ一例である。ジフルニサールをモデル薬剤として用いた。ステント2をキトサン溶液6が0.33%キトサン、2%クエン酸及び約30秒間24000rpmでIka T25 Ultra-Turraxホモジナイザーを用いたキトサン溶液中に懸濁させた0.33%ジフルニサールで構成されていた点を除き、上述の実施例1で説明したステップに従ってコーティングした。
【0071】
実施例3
【0072】
これは、キトサン/添加剤懸濁液6からコーティングにより添加剤、例えば薬剤を混ぜ込んだ別の例である。ジフルニサールをモデル薬剤として用いた。キトサン溶液6が0.33%キトサン、1%クエン酸/N‐メチルピロリドン(1:1)及び0.33%ジフルニサールで構成されていた点を除き、ステントを実施例1で説明したステップに従ってコーティングした。
【0073】
実施例4
【0074】
これは、最初に添加剤の層を形成し、次にキトサン溶液6からのコーティングを行うことによって添加剤、例えば薬剤を混ぜ込んだ更に別の例である。ジフルニサールをモデル薬剤として用いた。実施例1で用いたステント2を、アセトンに溶かしたジフルニサールの5%アセトン溶液中に浸漬被覆し、約5分間の乾燥後、キトサン溶液が0.33%キトサン及び2%クエン酸で構成されている点を除き、実施例1で説明したステップに従ってコーティングした。
【0075】
実施例5
【0076】
これは、最初にキトサン溶液6からのコーティングを行い、次に薬剤溶液中に浸漬させることによって添加剤、例えば薬剤を混ぜ込んだ更に別の例である。ジフルニサールがモデル薬剤として用いられた。ステント2を実施例1で説明したようにコーティングし、次に0.5%ジフルニサールの0.1規定水酸化ナトリウム溶液中に約10分間浸漬させた。その後、ステント2を蒸留水中で徹底的に洗浄し、室温で乾燥させ、そして埃のない容器内に貯蔵した。
【0077】
本明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された特徴は、任意の組み合わせで本発明に適切であると言える。特許請求の範囲の参照符号は、特許請求の範囲の記載を読みやすくするために記載されているに過ぎない。これら参照符号は、本発明を何ら限定するものではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空本体(2)を有する医療品の製造方法であって、前記中空本体(2)の壁の少なくとも一部の少なくとも内側がポリマーから成る層でコーティングされている、方法において、
前記医療品の前記壁の前記少なくとも一部の前記少なくとも内側を前記ポリマーの混合物(6)に接触させ、前記ポリマーを前記混合物(6)から前記壁の前記少なくとも一部の前記少なくとも内側に被着させる、方法。
【請求項2】
前記医療品を前記ポリマーの前記混合物(6)中に少なくとも部分的に浸漬させて前記壁の前記内側及び前記外側が前記混合物(6)と接触関係をなし、前記ポリマーを前記壁の前記内側及び前記外側の少なくとも一部上に前記混合物(6)から被着させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記中空本体(2)の前記壁の少なくとも一部は、多孔性である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーを前記壁上に電着する、請求項1〜3のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの電極が前記中空本体(2)の内側に配置されている、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーをその混合状態で帯電させる、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーは、多糖類、好ましくは天然のキトサンである、請求項1〜6のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項8】
添加剤又は薬剤が前記壁の少なくとも一部に被着された前記ポリマーによって形成される層(15)中に混入され或いは前記添加剤又は薬剤は、前記医療品に被着された別の層を形成し又はこの別の層中に混入される、請求項1〜7のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項9】
1つ又は2つ以上の構造要素(16)から成る壁を備えた中空本体(2)を有する医療品であって、前記壁の少なくとも一区分が天然のキトサンから成る層(15)でコーティングされている、医療品において、前記中空本体(2)の内側と外側の両方で、前記中空本体(2)の前記壁の前記1つ又は2つ以上の構造要素(16)のうちの少なくとも幾つかは、前記天然のキトサン層(15)で少なくとも部分的にコーティングされている、医療品。
【請求項10】
前記医療品は、医用ステントである、請求項9記載の医療品。
【請求項11】
前記中空本体(2)の前記壁の少なくとも一部は、多孔性である、請求項9又は10記載の医療品。
【請求項12】
前記壁をコーティングしている前記ポリマーは、その天然の形態にある、請求項9〜11のうちいずれか一に記載の医療品。
【請求項13】
前記天然のキトサン層(15)は、前記層中に混入された別の物質、好ましくは薬剤を含み、或いは、前記医療品は、前記別の物質が混入された別の層又は前記別の物質から成る別の層を有する、請求項9〜12のうちいずれか一に記載の医療品。
【請求項14】
薬剤溶出又は非薬剤溶出医用ステントとしての請求項9〜13のうちいずれか一に記載の医療品の使用。
【請求項15】
ポリマーを前記ポリマーの酸性混合物から電極上に電着する方法において、前記混合物(6)は、多塩基酸、好ましくはクエン酸を含む、方法。
【請求項1】
中空本体(2)を有する医療品の製造方法であって、前記中空本体(2)の壁の少なくとも一部の少なくとも内側がポリマーから成る層でコーティングされている、方法において、
前記医療品の前記壁の前記少なくとも一部の前記少なくとも内側を前記ポリマーの混合物(6)に接触させ、前記ポリマーを前記混合物(6)から前記壁の前記少なくとも一部の前記少なくとも内側に被着させる、方法。
【請求項2】
前記医療品を前記ポリマーの前記混合物(6)中に少なくとも部分的に浸漬させて前記壁の前記内側及び前記外側が前記混合物(6)と接触関係をなし、前記ポリマーを前記壁の前記内側及び前記外側の少なくとも一部上に前記混合物(6)から被着させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記中空本体(2)の前記壁の少なくとも一部は、多孔性である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーを前記壁上に電着する、請求項1〜3のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの電極が前記中空本体(2)の内側に配置されている、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーをその混合状態で帯電させる、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーは、多糖類、好ましくは天然のキトサンである、請求項1〜6のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項8】
添加剤又は薬剤が前記壁の少なくとも一部に被着された前記ポリマーによって形成される層(15)中に混入され或いは前記添加剤又は薬剤は、前記医療品に被着された別の層を形成し又はこの別の層中に混入される、請求項1〜7のうちいずれか一に記載の方法。
【請求項9】
1つ又は2つ以上の構造要素(16)から成る壁を備えた中空本体(2)を有する医療品であって、前記壁の少なくとも一区分が天然のキトサンから成る層(15)でコーティングされている、医療品において、前記中空本体(2)の内側と外側の両方で、前記中空本体(2)の前記壁の前記1つ又は2つ以上の構造要素(16)のうちの少なくとも幾つかは、前記天然のキトサン層(15)で少なくとも部分的にコーティングされている、医療品。
【請求項10】
前記医療品は、医用ステントである、請求項9記載の医療品。
【請求項11】
前記中空本体(2)の前記壁の少なくとも一部は、多孔性である、請求項9又は10記載の医療品。
【請求項12】
前記壁をコーティングしている前記ポリマーは、その天然の形態にある、請求項9〜11のうちいずれか一に記載の医療品。
【請求項13】
前記天然のキトサン層(15)は、前記層中に混入された別の物質、好ましくは薬剤を含み、或いは、前記医療品は、前記別の物質が混入された別の層又は前記別の物質から成る別の層を有する、請求項9〜12のうちいずれか一に記載の医療品。
【請求項14】
薬剤溶出又は非薬剤溶出医用ステントとしての請求項9〜13のうちいずれか一に記載の医療品の使用。
【請求項15】
ポリマーを前記ポリマーの酸性混合物から電極上に電着する方法において、前記混合物(6)は、多塩基酸、好ましくはクエン酸を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2012−527912(P2012−527912A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512215(P2012−512215)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056685
【国際公開番号】WO2010/136075
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511289493)メドフェント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056685
【国際公開番号】WO2010/136075
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511289493)メドフェント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】
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