説明

キノコ廃菌床の前処理及びその利用による糖、エタノールへの変換方法

【課題】 本発明は、キノコ廃菌床を利用して糖、エタノールを容易にかつ収率よく得るためのキノコ廃菌床の前処理方法並びに該前処理廃菌床を利用した糖、エタノールへの変換方法の開発を課題とする。
【解決手段】 本発明は、キノコ廃菌床を糖、エタノールへ変換するに当たり、キノコ廃菌床を4〜30℃で子実体収穫後1週間以上保持することにより課題を解決できることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキノコ栽培後に廃棄物として残る廃菌床中の、エネルギー資源として利用可能な、木質バイオマスを利用して糖、エタノールへ変換するに当たり、前処理を行うこと及び該前処理廃菌床を利用した糖、エタノールへの変換方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化防止のために、世界的に二酸化炭素削減が必要であると言われている。その中で注目を集めているのは、未利用のバイオマスからエネルギーを取り出して利用することである。バイオマスが注目を集めている理由の一つに、バイオマス中に含まれている炭素は元をたどれば植物が吸収・固定した空気中の二酸化炭素であり、エネルギーを取り出す際に生じる二酸化炭素量相当分の二酸化炭素を吸収する分の植物を再生することで±0となる、いわゆるカーボンニュートラルになることが挙げられる。又、バイオマスからエタノールやメタンガスなど燃料となる物質を取り出すことができるので、将来枯渇する化石燃料の代替が期待されている(非特許文献1)。
【0003】
バイオマスの中でも木質系のバイオマスを燃料物質へ変換することは困難である。それは、燃料物質の元となるセルロースが分解の困難なリグニンに囲まれているために利用し難いからである。そのため、木質系バイオマスのセルロースを利用するためには、リグニンなどを除去するなどしてセルロースを利用しやすい形態にする必要がある(非特許文献2、3、4)。
【0004】
木質系バイオマスを糖やエタノールに変換することだけを考えた場合、その方法には大きく分けて二種類存在する。一つは酸などを用いて木質系バイオマス中のセルロースをグルコースまで加水分解してから発酵によってエタノールへ変換する酸加水分解法である。この方法は古くから考えられて研究がされてきたが、強酸性かつ高温高圧な条件下で反応を行うためにそれに耐え得る装置のコストやメンテナンス費用がかかるなどの問題が大きい(非特許文献2、3)。
【0005】
一方、セルロース分解酵素(セルラーゼ)を用いてセルロースをグルコースまで分解する、酵素糖化法は酸加水分解法と比較して、穏和な条件で反応が可能であるために、装置上の利点がある。しかしながら、分解が進むにはセルラーゼと木質バイオマス中のセルロースが接触する必要があるが、前述したリグニンの存在、更にはセルロースの結晶化がそれを邪魔する。そのために酵素反応の前に何らかの前処理を行う必要がある。木質系バイオマスの酵素糖化法のための前処理として、希硫酸法、アルカリ処理法、微粉砕法など様々な方法が考えられているが、まだ決定的な方法は確立されていない(非特許文献3、5)。
【0006】
自然界でリグニンを分解できる生物としては糸状菌類が知られている。その中でも代表的なのは白色腐朽菌である。白色腐朽菌は強力なリグニン分解酵素を放出してリグニンを分解していくために、腐朽された木材の見た目は白っぽくなる。この白色腐朽菌のほとんどが担子菌類であり、シイタケ、ヒラタケ、マイタケなど食用キノコも多く含まれる(非特許文献6、7)。白色腐朽菌を木質系バイオマスの処理に利用した例として、Ceriporiopsis subvermisporaという白色腐朽菌のリグニン分解能力を用いた木材チップのパルピング装置が挙げられる。この処理法は紙の製造に対してはコスト競争力があると言われている(非特許文献6)。
【0007】
一方、近年、キノコ類の人工栽培では大規模な周年空調菌床栽培が確立されたことにより、マイタケなどの菌床栽培が一般的となりつつある。菌床栽培では細かく砕いたオガコとキノコの栄養分を混ぜ合わせ、含水率を適宜調節して袋やビンに詰めた培地を作成する。これを滅菌してからキノコ菌糸を植えて適当な条件下で数ヶ月培養し、キノコ菌糸を培地内外に蔓延させた(この状態を菌床と呼ぶ)後、キノコ子実体を形成させる。自然界ではキノコ類が含まれる担子菌類は他の生物と競合せざるを得ずその結果として難分解性の木材を資化しているが、菌床栽培ではその競合が無いためより資化しやすい木材以外の栄養分を使って成長していると考えられている。
【0008】
実際、マイタケでは木材のβ-グルカン(セルロース)よりも栄養分由来のα-グルカン(TFA可溶性グルカン)を優先的に消化することが知られている(非特許文献8)。よって、菌床栽培でキノコを収穫した後に残る菌床(廃菌床)には未利用のオガコ中セルロース分がほとんど無傷のまま残っていると推察される。更に、培地成分中オガコ重量の割合(水を除く)は、ブナシメジなどで40%程度、マイタケなど一部のキノコでは50〜90%(主に広葉樹)と大部分がオガコである。かかる観点から廃菌床、特にマイタケなど培地成分の大部分がオガコであるキノコの廃菌床は木質系バイオマス資源として有望である。又、マイタケなどは工場での大規模栽培が行われており、大量にまとめて廃菌床を得ることができる。しかしながら、現在のところ廃菌床の利用はボイラーの熱源などごく一部に限られている。
【非特許文献1】山地憲治(2002)、バイオマスエネルギーの特性とエネルギー変換・利用技術、NTS、p3-36
【非特許文献2】坂士朗ら(2001)、バイオマス・エネルギー・環境、IPC、p251-260
【非特許文献3】杉浦純(2002)、バイオマスエネルギーの特性とエネルギー変換・利用技術、NTS、p283-312
【非特許文献4】George P. Philippidis (1996), Handbook on Bioethanol, Taylor & Francis, p253-285
【非特許文献5】The-An Hsu (1996), Handbook on Bioethanol, Taylor & Francis, p183-212
【非特許文献6】渡辺隆司(2002)、バイオマスハンドブック、オーム社、p176-183
【非特許文献7】高橋旨象(1989)、きのこと木材、築地書館
【非特許文献8】橋本由紀ら(2003)、日本応用きのこ学会第7回大会講演要旨集、日本応用きのこ学会第7回大会、p67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、キノコ廃菌床を利用して糖、エタノールを容易にかつ収率よく得るためのキノコ廃菌床の前処理方法並びに該前処理廃菌床を利用した糖、エタノールへの変換方法の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、キノコの工場栽培で大量に排出され、限定的な利用しかできない廃菌床に残っているリグノセルロースを酵素処理により糖、更にエタノールに変換を行う際、キノコ廃菌床内のキノコ菌糸をそのまま利用して木材を処理する工程を導入することにより変換効率が高まることを知見して本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、キノコ廃菌床内のキノコ菌糸をそのまま利用してキノコ廃菌床内の木材などリグノセルロースを処理した後、そのまま若しくは別の前処理を行い、その後酵素による糖化、更に微生物によるアルコール発酵を行うか、或いは酵素による糖化と微生物によるアルコール発酵の併用による併行複発酵を行い、エタノールを得る際の前処理方法に関するもので、以下詳述する。
【0012】
本発明は、
(1)キノコ廃菌床を糖、エタノールへ変換するに当たり、キノコ廃菌床を4〜30℃で子実体収穫後1週間以上保持することを特徴とするキノコ廃菌床の前処理方法、
(2)キノコ廃菌床を20℃〜30℃で保持することを特徴とする上記(1)に記載のキノコ廃菌床の前処理方法、
(3)キノコ廃菌床を子実体収穫後4週間以上保持することを特徴とする上記(1)乃至(2)に記載のキノコ廃菌床の前処理方法、
(4)キノコ廃菌床が食用キノコの廃菌床であることを特徴とする上記(1)乃至(3)に記載のキノコ廃菌床の前処理方法、
(5)食用キノコがマイタケ、エリンギ、ブナシメジ、シイタケ、ナメコのいずれかであることを特徴とする上記(4)に記載のキノコ廃菌床の前処理方法、
【0013】
(6)キノコ廃菌床を糖、エタノールへ変換するに当たり、キノコ廃菌床を上記(1)乃至(3)に記載の前処理を行った後、該キノコ廃菌床にセルラーゼ、ヘミセルラーゼ若しくはヘミセルラーゼを含むセルラーゼなどの酵素により、グルコース、キシロース、マンノース、アラビノース及び/又はガラクトースに糖化し更に微生物によるエタノール発酵を行うか、或いは上記酵素による糖化及び微生物によるエタノール発酵を同時に併行して行うことを特徴とするキノコ廃菌床よりエタノールへの変換方法、
(7)キノコ廃菌床を糖、エタノールへ変換するに当たり、キノコ廃菌床を上記(1)乃至(3)に記載の前処理を行った後、該キノコ廃菌床をアルカリ処理又は粉砕処理を行い、次いで該処理キノコ廃菌床にセルラーゼ、ヘミセルラーゼ若しくはヘミセルラーゼを含むセルラーゼなどの酵素により、グルコース、キシロース、マンノース、アラビノース及び/又はガラクトースに糖化し更に微生物によるエタノール発酵を行うか、或いは上記酵素による糖化及び微生物によるエタノール発酵を同時に併行して行うことを特徴とするキノコ廃菌床よりエタノールへの変換方法、
(8)キノコ廃菌床が食用キノコの廃菌床であることを特徴とする上記(6)乃至(7)に記載のキノコ廃菌床よりエタノールへの変換方法、
(9)食用キノコがマイタケ、エリンギ、ブナシメジ、シイタケ、ナメコのいずれかであることを特徴とする上記(8)に記載のキノコ廃菌床よりエタノールへの変換方法、
に関する。
【0014】
本発明者等は種々研究の結果、キノコ廃菌床(ここで言うキノコ廃菌床とは、マイタケ、エリンギ、ブナシメジ、シイタケ及びナメコなどオガコを含有する培地で袋栽培若しくはビン栽培したキノコの子実体を収穫した後の菌床を指す)内に残っている菌糸を生かし、菌糸に廃菌床中の木材などリグノセルロースを処理させることが、該リグノセルロースをグルコースなどの糖やエタノールへ変換する際の前処理法として有効であることを知見して本発明を完成した。以下に詳細に記す。
【0015】
該前処理方法は特別に煩雑な作用を必要とせず、廃菌床を子実体収穫後から更に一週間以上、4〜30℃で保持することにより所期の目的を達成することができる。好ましくは4週間以上でキノコが生育し易い20℃〜30℃で保持することである。その際、廃菌床中に酸素が供給できるようにすると処理効果がより高くなる。又廃菌床が乾燥し過ぎないようにすることが好ましい。廃菌床内にはすでにキノコ菌糸が蔓延しているため、適切な温度で保持する場合はカビなどが生えにくいため大掛かりな滅菌を行う必要が無い。又、新たな菌を接種する必要が無く手間がまったくかからない。
【0016】
該前処理方法では処理中の廃菌床は袋や瓶に入っていようと、野積みのような形態であろうと、特に処理形態を選ばない。
【0017】
例えばマイタケ菌の場合、菌の生育至適温度に近い25℃付近で、通気を十分にして処理することにより高い効果を得ることができ、約12週の処理により、酵素を利用したグルコースなどの糖やエタノールへの変換効率が処理前の3.5〜10倍高くなる。
【0018】
この処理の最中、生殖成長の状態にあった廃菌床中のキノコ菌糸が栄養成長の状態となることにより菌糸がそれまで分泌するのを止めていた、ラッカーゼに代表されるリグニン分解酵素などの酵素を再び分泌するようになり、その酵素若しくは菌糸自体が廃菌床中の木材などのリグノセルロースに作用して、廃菌床の前処理が行われるものと考えられる。
【0019】
該前処理の後、更に何らかの処理を行うことにより、グルコースなどの糖やエタノールへの変換率を更に高めることもできる。この時、該前処理後に行う処理はリグノセルロース系バイオマスの前処理として知られている、物理的処理であろうと化学的処理であろうとどの様な方法でも良いが、廃菌床の場合、アルカリ処理や粉砕処理などがより効果的である。
【0020】
廃菌床のアルカリ処理は1〜5%のNaOH溶液中で100℃に加熱処理することにより行うと良い。粉砕処理は揺動型粉砕機にて、その70%以上の粒径が90μm以下にするとより効果的である。
【0021】
こうした処理の後、廃菌床は酵素糖化によるグルコースなどの糖を生成させた後それら糖の微生物によるエタノール発酵を行うか、或いは酵素糖化と微生物によるエタノール発酵を併行して同時に行う併行複発酵を行うことによりエタノールに変換する。
【0022】
この時、微生物によるエタノール発酵を行わず、酵素糖化で止めることによりグルコースなどの糖を得ることができる。酵素としてセルラーゼを用いた場合はリグノセルロース内セルロース由来のグルコースが、キシラナーゼなどのヘミセルラーゼを用いた場合は、リグノセルロース内ヘミセルロース由来のキシロース、マンノース、アラビノースやガラクトースなどの糖を得ることができる。又、ヘミセルラーゼを含むセルラーゼを用いることにより、これらセルロース由来のグルコースとヘミセルロース由来のキシロースなどの糖を同時に得ることができる。こうして得られた糖をエタノール以外の物質に変換することも可能である。
【0023】
特に本発明による該処理済み廃菌床の使用は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ若しくはヘミセルラーゼを含むセルラーゼなどの酵素及び酵母とともに培養することにより、糖化と、その糖を用いて酵母などの微生物によるエタノール発酵を同時に行う併行複発酵において、生成した糖による酵素活性阻害が少なくなり、より効果的に発酵が進むことになる。
【0024】
発酵に用いる酵素は市販品であっても、糸状菌を培養した培養液やそれから精製したものであっても、セルロースやヘミセルロースを糖化できるものであれば良い。市販の酵素や粗精製の酵素にはセルラーゼとヘミセルラーゼが混在していることが多い。酵素の量は適宜で良いが、マイタケ廃菌床の場合、ヘミセルラーゼを含むセルラーゼを廃菌床当り12.5−50FPU(Filter Paper Unit、ろ紙分解活性)となるように加えると有効である。酵素の形態が粉末状である場合はpH5.0付近のバッファーに懸濁すると使用しやすい。酵素液は0.45μm以下のフィルターを通して雑菌を除いておくと発酵系への雑菌のコンタミネーションを防ぐことができる。
【0025】
エタノール発酵に使用する微生物については、酵母ではSaccharomyces cereviciaeを用いるのが簡便であるので有効であるが、ヘミセルロース由来のキシロースなどのペントースをエタノール発酵させる場合はPichia stipitisを、又条件によっては耐塩性のShizosaccharomyces pombeなどを用いることができ、又酵母以外ではエタノール発酵が可能な細菌であるZymomonas mobilisなどエタノール発酵が可能である生物ならば、遺伝子組み換えをされたものも含めて何でも使用できる。S. cereviciaeを用いる場合、スラントや凍結などで保存されているものを使用して良いが、市販のパン酵母を用いても良い。パン酵母を用いる場合はその形態が乾燥であれ、生であれ、そのまま発酵系に投入することにより、発酵初期から酵母が高濃度で存在することとなるため効率が良い。スラントなどで保存してある状態の酵母を用いる場合は、併行複発酵に用いる前に液体培地を用いて前培養すると酵母の量や活性を上げることが望ましい。
【0026】
前培養に用いる液体培地は1%酵母エキス、2%ペプトン、3%グルコース、pH5.0のような、酵母の培養に適しているものであれば何でも良い。前培養終了後に集菌して使用する。酵母の投入量は終濃度0.1g/l以上であれば問題なく発酵できるが、多ければ前述のように発酵効率が良いとともにコンタミネーションを防ぐことができる。
【0027】
該処理済みキノコ廃菌床は発酵量に対して適当量加えて良いが、該廃菌床が高濃度になると高粘度となるので発酵初期の攪拌が困難になる。よって、投入する該処理済みキノコ廃菌床の量は攪拌機の能力を考慮してよく攪拌できる量に調整すると良い。
【0028】
該処理済みキノコ廃菌床や酵母成長に必要な栄養源を加えた発酵液はオートクレーブにて滅菌する(121℃、15分以上)。滅菌後37℃程度まで冷却し、先に述べた酵素や酵母を投入し、37℃で発酵を開始する。発酵中は嫌気状態にし、攪拌を行うと効率が上がる。こうして1−3日培養を行うことにより、廃菌床中のセルロースやヘミセルロースをエタノールに変換することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のように、キノコ栽培後の廃菌床内に残存したキノコ菌糸を再利用することにより、廃菌床中のリグノセルロースから手間を掛けることなく、しかも緩和な製造条件で、より高い収率で糖やエタノールが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明をより具体的に説明するために、以下に実施例を示すが本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
(1)マイタケ廃菌床の保存処理
ブナオガコとコーンブランを体積比9:1で混合し、含水率を65%に調整したものをマイタケ栽培培地として作成した。水を除いた重量比はブナオガコが80%、コーンブランが20%となる。それを2.5kgマイタケ栽培用袋に詰めて105℃、2時間滅菌した。冷却後マイタケ菌を植菌して25℃程度で2.5ヶ月培養後16℃程度の部屋に移し、栽培袋上部を切りマイタケ子実体を発生させた。子実体の収穫適期になったら収穫し、廃菌床を得た。
【0032】
得られた廃菌床をマイタケ栽培用袋から取り出し、新たなマイタケ栽培用袋に入れ替え、酸素の供給を確保するために栽培袋のフィルター部より上をシーラーで密着し、袋内部と外部でのガス交換ができるようにした上で各試験温度にて処理を行った。
【0033】
処理期間は1から12週間の任意とし、処理期間終了後に取り出し、ブロック状の廃菌床を崩してからよく攪拌して次の処理に用いた。
【0034】
(2)該前処理廃菌床のアルカリ処理
該前処理廃菌床を、乾重量で20gとなるようにプラスチック製ビン中に入れ、そこに5%NaOH溶液を100ml注ぎ込んだ。よく混ぜて廃菌床全体がNaOH溶液に浸るようにし、ラップで封をして100℃、60分にてオートクレーブした。オートクレーブ終了後、廃菌床−NaOH溶液を室温まで冷却した。廃菌床−NaOH溶液のpHが12.5であったため、硫酸を用いてpHを7.0付近まで下げた。その後80メッシュのふるいと流水を用いてアルカリ処理済廃菌床を洗浄廃液が透明になるまで洗浄した。乾燥機を用いて洗浄したアルカリ処理済廃菌床を乾燥した後、糖化処理若しくは併行複発酵に用いた。
【0035】
(3)該前処理廃菌床の粉砕処理
該前処理廃菌床を、Drying Ovenを用いて60℃、一晩乾燥させた。乾燥させたマイタケ廃菌床を4.5lのポリ容器に200gほど入れ、更にメディアとして直径10mmのジルコニア製ボールを1.2kg入れた。蓋をしっかりと閉めてから、揺動型ミルにセットした。振動数を50.0Hzに設定し、粉砕を開始した。粉砕時間は二時間としたが発熱するため、30分動作後停止し、容器とサンフ゜ルを冷ましてから更に30分動作するようにして、動作時間の合計が2時間となるようにした。粉砕終了後にビンから粉砕廃菌床とメディアの混合物を目開き4.0mmの篩にあけ、振るうことにより、粉砕した廃菌床をメディアから分離した。
【0036】
(4)マイタケ廃菌床の酵素糖化
50mMクエン酸バッファー中に60FPU/g-バイオマスのセルラーゼ(ヘミセルラーゼを含む)及び1mMアジ化ナトリウムが含まれた酵素液を作成し、10mlを100mgの上記(1)〜(3)で得た処理済みマイタケ廃菌床を入れた50ml三角フラスコに分注した。水分が蒸発しないように蓋をし、50℃にて120rpmで振盪をしながら3日間反応させた。反応終了後、必要量をサンプリングし、沸騰湯浴中で5分保持することにより酵素を失活させた。遠心にて不溶分を除いた後に、グルコースセンサーを用いて溶液中のグルコース濃度も求めた。この時キシロースセンサーを併用してキシロース濃度を測定した。
【0037】
糖化率は廃菌床中セルロース含有量を45%とし、ここから生じる理想グルコース量に対する得られたグルコース量の百分率で表した。アルカリ処理を行った場合はアルカリ処理前の廃菌床からの収率として、アルカリ処理による重量減少を考慮に入れて計算した。
【0038】
(5)マイタケ廃菌床のエタノールへの変換(併行複発酵)
エタノール変換は発酵液40mlの系で行った。すなわち、100mlの三角フラスコに30mlの50mMクエン酸−燐酸バッファー(pH5.0)をいれ、そこに4.0g(終濃度10%)の処理済廃菌床を混合し、濃燐酸を用いてpHを5.0に調整した。121℃、15分オートクレーブし、室温まで冷却した。滅菌した50mMクエン酸−燐酸バッファー(pH5.0)に乾燥酵母を10g/lとなるように加えてよく攪拌し、酵母液とした。又、30FPU分のセルラーゼ粉末を2mlのバッファーに懸濁しセルラーゼ溶液とし、それを0.42μmのフィルターを用いてフィルター滅菌した。
【0039】
クリーンベンチ内で無菌的に32mlの廃菌床液に4mlの酵母液、及び4mlのセルラーゼ溶液を添加して40mlとした。三角フラスコにエタノールで滅菌した発酵栓でふたをし、隙間をパラフィルムでふさいだ。こうして調整したフラスコを37℃のインキュベーターに入れ、120往復の振盪をしながら7日間発酵(培養)させた。発酵終了後に遠心分離にて上清と固形分を分け、上清中のエタノール濃度をガスクロマトグラフィーにて測定した。
【0040】
マイタケ廃菌床を25℃で1、4又は12週間処理し、そのまま糖化又はエタノール変換した結果を表1に、処理温度の影響を調査した結果を表2に示した。表2は未処理の廃菌床の糖化率を100とし、各温度での糖化率を相対値で示した。更にアルカリ処理をしない場合とした場合の結果を示した。表1と同様の処理の後アルカリ処理を行った場合の糖化又はエタノール変換した結果を表3に、表1と同様の処理の後粉砕処理を行った場合の糖化した結果を表4に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
表1から明らかなように、25℃処理した廃菌床は処理時間一週間で糖化率が約二倍となり、処理時間が長くなるに連れて糖化率は上昇した。エタノール変換率も同様であった。又、表2から分かるように、4℃からおおよそ30℃まで処理の効果が見られる。表3又は表4から分かるように、処理後にアルカリ処理や粉砕処理を行うことにより糖化率は更に高くなる。例えば、4週処理でアルカリ処理や粉砕処理を施さない場合、糖化率は29.0%(表1)であるが、アルカリ処理をした場合、63.3%(表3)で、粉砕処理をすると50.9%(表4)となりいずれも2倍前後の糖化率となる。又これらの場合、4週間以上の処理で高い効果が得られることが分かる。
【0047】
表5にキシロース収量を示したが、キシロースもグルコースと同様に処理することにより収量が、12週処理で3.5倍、4週処理後にアルカリ処理をすることにより8.5倍、増加することが分かる。
【0048】
(6)マイタケ菌以外のキノコ廃菌床の保存処理
マイタケ菌以外の廃菌床としてブナシメジ、エリンギそれぞれを瓶栽培した後の廃菌床を用いて保存処理を行った。ブナシメジは広葉樹オガコからなる培地を含水率65%に調整し、630g程度850cc瓶に詰めて、滅菌、冷却後にブナシメジ菌を植菌した。培養は25℃で行い、14℃で子実体発生を行った。子実体の収穫適期になったところで収穫し、瓶内に残った培地を廃菌床として用いた。
【0049】
エリンギは針葉樹オガコからなる培地を含水率71%に調整し、580g程度850cc瓶に詰めて、滅菌、冷却後にエリンギ菌を植菌した。培養は23℃で行い、17℃で子実体発生を行った。子実体の収穫適期になったところで収穫し、瓶内に残った培地を廃菌床として用いた。
【0050】
こうして得られた廃菌床を瓶に入ったまま、マイタケ栽培袋中に入れ、ガス交換ができるように、袋に付いたフィルター部より上の部分で圧着した。これを25℃で4週間保存した。保存期間終了後に瓶から取り出し、良く攪拌した後に乾燥させた。その後前述の通りにあるアルカリ処理、セルラーゼ糖化を行った。
【0051】
【表6】

【0052】
表6から分かるように、ブナシメジ、エリンギにおいても25℃処理の後アルカリ処理を行うことで糖化率を高めることができる。
なお、シイタケやナメコについても同様の効果が得られることが確認されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコ廃菌床を糖、エタノールへ変換するに当たり、キノコ廃菌床を4〜30℃で子実体収穫後1週間以上保持することを特徴とするキノコ廃菌床の前処理方法。
【請求項2】
キノコ廃菌床を20℃〜30℃で保持することを特徴とする請求項1に記載のキノコ廃菌床の前処理方法。
【請求項3】
キノコ廃菌床を子実体収穫後4週間以上保持することを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載のキノコ廃菌床の前処理方法。
【請求項4】
キノコ廃菌床が食用キノコの廃菌床であることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のキノコ廃菌床の前処理方法。
【請求項5】
食用キノコがマイタケ、エリンギ、ブナシメジ、シイタケ、ナメコのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載のキノコ廃菌床の前処理方法。
【請求項6】
キノコ廃菌床を糖、エタノールへ変換するに当たり、キノコ廃菌床を請求項1乃至請求項3に記載の前処理を行った後、該キノコ廃菌床にセルラーゼ、ヘミセルラーゼ若しくはヘミセルラーゼを含むセルラーゼなどの酵素により、グルコース、キシロース、マンノース、アラビノース及び/又はガラクトースに糖化し更に微生物によるエタノール発酵を行うか、或いは上記酵素による糖化及び微生物によるエタノール発酵を同時に併行して行うことを特徴とするキノコ廃菌床よりエタノールへの変換方法。
【請求項7】
キノコ廃菌床を糖、エタノールへ変換するに当たり、キノコ廃菌床を請求項1乃至請求項3に記載の前処理を行った後、該キノコ廃菌床をアルカリ処理又は粉砕処理を行い、次いで該処理キノコ廃菌床にセルラーゼ、ヘミセルラーゼ若しくはヘミセルラーゼを含むセルラーゼなど酵素により、グルコース、キシロース、マンノース、アラビノース及び/又はガラクトースに糖化し更に微生物によるエタノール発酵を行うか、或いは上記酵素による糖化及び微生物によるエタノール発酵を同時に併行して行うことを特徴とするキノコ廃菌床よりエタノールへの変換方法。
【請求項8】
キノコ廃菌床が食用キノコの廃菌床であることを特徴とする請求項6乃至請求項7に記載のキノコ廃菌床よりエタノールへの変換方法。
【請求項9】
食用キノコがマイタケ、エリンギ、ブナシメジ、シイタケ、ナメコのいずれかであることを特徴とする請求項8に記載のキノコ廃菌床よりエタノールへの変換方法。

【公開番号】特開2006−230365(P2006−230365A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53831(P2005−53831)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(593084915)株式会社雪国まいたけ (30)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】