説明

キノコ種菌、キノコ種菌の接種方法、及びキノコの製造方法

【課題】栽培用培地に均一に接種できるとともに、製造時又は保存時に菌糸塊が生成し難いキノコ種菌、このような種菌を栽培用培地に接種する方法、このような種菌を用いてキノコを製造する方法を提供する。
【解決手段】粘性又は半流動状液体とキノコ菌体とを含むキノコ種菌。
粘性又は半流動状液体の粘度は200〜36000cP程度であることが好ましい。この種菌を、キノコ栽培用固体培地に設けた孔内に注入し、キノコ菌体を培養することにより、固体培地表面からキノコが生育する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シイタケ、エノキタケ、シメジ、マイタケ、エリンギ、ナメコなどのキノコの種菌、これらのキノコ種菌を培地に接種する方法、及びこれらのキノコを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シイタケ、エノキタケ、シメジ、マイタケ、エリンギ、ナメコ等のキノコ類を栽培するに当たっては、先ず、キノコ栽培用人工培地(おが屑やコーンコブミール粉砕物等の固形材料を塊状に成形したもの)であって、必要に応じてブドウ糖液のような栄養液を染み込ませたものに、おが屑種菌を接種し、接種後の人工培地を適度な温度条件に静置することによりキノコを生成させている。このおが屑種菌は、キノコ栽培用人工培地と同様の固形材料からなる培地にキノコ菌糸を蔓延させた状態の種菌培養培地を粉砕したものである。
【0003】
キノコ栽培用人工培地におが屑種菌を接種する従来方法を図1を参照して説明すると、先ず、広口瓶や袋1に粉砕物状の人工培地を充填することにより塊状の人工培地2を形成し、この人工培地2の中心部に上下方向に貫通又は穿設された接種孔21を設ける。さらに、おが屑種菌3をその容器から手作業でかき出して、接種孔21内に投入する。接種後の人工培地2をキノコ生育条件下に置き、菌糸が培地2上面に現われた時点で、培地2を袋1から取り出し、引き続き静置培養を行う。これにより、接種孔21に充填されたおが屑種菌3から菌糸が伸びて、人工培地2の側面にキノコが生育する。
【0004】
しかし、この方法では、おが屑種菌を接種孔の底部にまで詰めることが難しく、また種菌と人工培地との接触面積が小さい。このため、人工培地におけるキノコの生育領域が偏り易く、その結果キノコの生育効率が悪い。また、種菌を人工培地に接種する際に、雑菌の混入を回避するためには、クリーンルーム内での熟練した操作が必要であるという難点もある。
【0005】
また近年、種菌用の菌体を液体培地に接種し、液体培地内に分裂菌糸や分生菌糸が分散した状態で増加するように攪拌しながら培養し、その培養液を液体種菌として栽培用固体培地に散布することにより接種する方法が検討されている。
【0006】
液体種菌を使用する方法では、栽培用固体培地の表面全域に種菌を接種することができるため、接種分布も均一なものになり、菌糸の繁殖条件が良くなる利点がある。
【0007】
しかし、液体種菌を使用する方法では、種菌を液体培地で培養する場合に培地を静置した状態にしておくと菌糸が絡まりあって塊状となってしまう。菌糸が塊状になると、栽培用培地に菌を均一に接種することができない。従って、菌糸塊の生成を防止するために攪拌が必要になる。攪拌するためには、通常、容量の大きな培養タンクと攪拌機とを備え、無菌的に攪拌しながら培養することができる特殊な大型培養システムが必要になり、コスト高となる。しかも、容量の大きな培養タンク内で培養するため、液体培地が雑菌により汚染されるとタンク内全体が使用不能となり、大量の培養を最初からやり直さなければならないという危険性を常に抱えている。また、攪拌を止めてしばらくの間液体培地を静置していると液体と種菌が分離するため、接種時に培地を再度攪拌しなければならず、手間がかかる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、栽培用培地に均一に接種できるとともに、製造時又は保存時に菌糸塊が生成し難いキノコ種菌、このような種菌を栽培用培地に接種する方法、このような種菌を用いてキノコを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らは研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) キノコ種菌として、粘性又は半流動状の液体中にキノコ菌体を分散させたものを用いることにより、キノコ栽培用固体培地に設けた孔の底部まで種菌を均一に接種できる。また、菌体が分散している液体の粘度が高いため、菌体が培地内で塊状にならず、又はなり難い。
(ii) 粘性又は半流動状の液体は、例えば水溶性高分子化合物を水、又は種菌用液体培地などに添加することにより得ることができる。水溶液高分子化合物として食品添加物として許可されている増粘多糖類を用いるときには、より安全性の高いキノコが得られる。
(iii) キノコ菌体に代えて、種菌用固体培地として従来使用されている粉砕物状の固体培地中に菌体を増殖させたものを用い、これを粘性又は半流動状の液体と混合して種菌とすることもできる。これにより種菌中の菌体分布が一層均一になり、その結果、栽培用培地に一層均一にキノコ菌体を接種することができる。
【0010】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下のキノコ種菌、キノコ種菌の接種方法、及びキノコの製造方法を提供する。
【0011】
項1. 粘性又は半流動状液体とキノコ菌体とを含むキノコ種菌。
【0012】
項2. 粘性又は半流動状液体の粘度が200〜36000cPである項1に記載のキノコ種菌。
【0013】
項3. 粘性又は半流動状液体が水溶性高分子化合物を含むものである項1又は2に記載のキノコ種菌。
【0014】
項4. 水溶性高分子化合物が、増粘多糖類である項3に記載のキノコ種菌。
【0015】
項5. 増粘多糖類がカルボキシメチルセルロースであり、粘性又は半流動状液体中にカルボキシメチルセルロースが1〜3重量%含まれる項4に記載のキノコ種菌。
【0016】
項6. 増粘多糖類がカラギナンであり、粘性又は半流動状液体中にカラギナンが0.3〜3.5重量%含まれる項4に記載のキノコ種菌。
【0017】
項7. キノコ菌体に代えて、粉砕物状のキノコ栽培用固体培地中にキノコ菌体を生育させたものを含む項1〜6のいずれかに記載のキノコ種菌。
【0018】
項8. キノコ栽培用固体培地に設けた孔内に、項1〜7のいずれかに記載のキノコ種菌を注入するキノコ種菌の接種方法。
【0019】
項9. キノコ栽培用固体培地に設けた孔内に項1〜7のいずれかに記載のキノコ種菌を注入する第1工程と;キノコ栽培用固体培地中のキノコ菌体を培養することによりキノコを生成させる第2工程とを含むキノコの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のキノコ種菌は、粘性ないしは半流動状液体中に菌体を含むものであるため、キノコ栽培用固体培地に設けられた孔の奥部まで均一に充填することができる。この結果、栽培用固体培地にキノコ菌体を均一に接種でき、栽培用固体培地中でのキノコの生育効率がよい。
【0021】
また、種菌の製造時及び保存時に、菌糸塊が生じず、又は生じ難いため、製造又は保存時に攪拌機を必要とせず、従って大型装置を使用せずに低コストで製造できる。
【0022】
さらに、固体状ではなく、粘性液体又は半流動状の状態であるため、配管やノズルを介することにより簡単に無菌的接種を行える。
【0023】
また、菌体を直接粘性又は半流動状の液体に混合するのに代えて、従来の粉砕物状の固体培地中で菌体を増殖させたものを粘性又は半流動状の液体と混合することにより、菌体と粘性又は半流動状の液体とを一層簡単に混合することができるとともに、菌体が一層均一に分布した種菌となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)種菌
本発明のキノコ種菌は、粘性又は半流動状の液体とキノコ菌体とを含むものである。
キノコ
キノコの種類は特に限定されず、食用又は医用などに有用なキノコであればよい。例えば、シイタケ、エノキタケ、シメジ、マイタケ、エリンギー、マッシュルーム、ナメコ、マツタケなどが挙げられる。
粘性又は半流動状の液体
粘性又は半流動状の液体(以下、「粘性液体」と略称する)は、菌体塊の生成を防止できるとともに、キノコ栽培用固体培地に設けた孔の奥部まで均一に種菌を接種することができる程度の粘性ないしは流動性を有するものであればよい。
【0025】
中でも、その粘度は、200〜36000cP程度であることが好ましく、200〜30000cP程度であることがより好ましく、200〜10000cPであることがさらにより好ましい。上記粘度範囲であることにより、菌体塊の生成を防止できるとともに、キノコ栽培用固体培地に設けた孔の奥部まで均一に種菌を接種することができる。
【0026】
本発明において、粘度は、B型粘度計を用いて測定した値であり、詳しくは実施例に記載の方法で測定した値である。
【0027】
粘性液体は、例えば、水溶性高分子化合物を水性溶液に溶解させることにより得られる。水溶性高分子化合物としては、代表的には多糖類が挙げられるが、多糖類以外の水溶性高分子化合物であってもよい。
【0028】
多糖類としては、一般に増粘多糖類と称される、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、キサンタンガム、アラビアガム、カラギナン、グアーガム、ペクチン、タマリンドシードガムなどが挙げられる。これらは食品添加物としての使用が認められている物質であることから、消費者の印象がよい。中でも、キノコの栄養源となるセルロースが含まれている点で、カルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0029】
また、カラギナンも好ましい。カラギナンは、紅藻類のイバラノリ、キリンサイ、ギンナンソウ、ツノマタ、スギノリから得られる多糖類であり、κタイプ、λタイプ、ιタイプの3種類が知られている。カラギナンは、ゼリーのゲル化剤や乳飲料のこくみ付与等に使用されている安全性の高い食品添加物である点で好ましい。
【0030】
多糖類以外の水溶性高分子化合物としては、例えばアクリル酸グラフト共重合体などが挙げられる。水溶性高分子化合物は、高分子であるため、そのままではキノコ菌体には取り込まれない。従って、得られるキノコの安全性には特に悪影響を与えない。
【0031】
水溶性高分子化合物の使用量は、菌体塊の生成を防止できるとともに、キノコ栽培用固体培地に設けた孔の奥部まで均一に種菌を接種することができる程度の粘度が得られる範囲であればよく、高分子の種類やエーテル化度によっても異なる。例えば、エーテル化度0.5〜1.5程度のカルボキシメチルセルロースの場合は、粘性又は半流動状の液体中に1〜3重量%程度が好ましく、1.5〜2.0重量%程度がより好ましい。また、カラギナンの場合は、粘性又は半流動状の液体中に0.3〜3.5重量%程度が好ましく、0.3〜0.5重量%程度がより好ましい。
【0032】
粘性液体は、例えば上記水溶性高分子化合物を水に溶解させた水溶液であってよい。この液体には水溶性高分子化合物の他に栄養分を特に加えなくてもよいが、菌体の増殖を促進するために、ブドウ糖、ショ糖、デンプンのような炭素源、アミノ酸、尿素などの窒素源を加えることもできる。さらに、種菌の培養に従来使用されている液体培地(ブドウ糖、ポリペプトン、酵母エキスを主成分とするGPY培地等)に水溶性高分子化合物を溶解させたものであってもよい。粘性液体が菌体の栄養分を含む場合は、後述するように、粘性液体に少量の菌体を接種し、その中で菌体を増殖させたものを種菌として用いることができる。
菌体
キノコ菌体は、菌糸又は胞子のいずれであってもよい。通常は菌糸と粘性液体とを混合する。最終的に種菌をキノコ栽培用固体培地に接種すると菌体が増殖するため、菌体の使用量は特に限定されない。
【0033】
また、粘性液体に菌の栄養分が含まれる場合は、少量の菌体を粘性液体に接種し、20〜25℃程度で、30〜60日間程度静置培養することにより菌体が粘性液体中で増殖するため、菌体が増殖した粘性液体を使用すればよい。
【0034】
また、キノコ菌体そのものを粘性液体と混合するのに代えて、キノコ種菌生育用に従来使用されている粉砕状の固体培地にキノコ菌体を蔓延させたものと粘性液体とを混合することもでき、これにより、粘性液体中に菌体を一層均一に含ませることができる。
【0035】
このようなキノコ種菌は株式会社北研、森産業、秋山種菌研究所、キノックスなどから市販されているが、次のようにして調製することもできる。この粉砕状の固体培地としては、例えば、おが屑、コーンコブミールのような粉砕された植物材料が挙げられる。また、この固体培地には、ブドウ糖、米糠、麦ふすまのような栄養分を添加してもよい。また、バイデル(株式会社北研)、ネオビタス(株式会社キノックス)、キノゲンS(森産業株式会社)のようなキノコ用の市販の栄養分を添加することもできる。固体培地の含水率は、菌糸の生長が旺盛となる通常60〜65重量%程度とすればよい。
【0036】
このような固体培地にキノコ菌体を接種し、20〜25℃程度で30〜60日程度静置培養することにより、菌体が蔓延した固体培地種菌が得られる。
【0037】
この固体培地種菌を粘性液体と均一に混合すればよい。菌体含有固体培地は、粘性液体に対して通常10〜50v/v%程度、好ましくは20〜30v/v%程度使用すればよい。上記の固体培地種菌の使用量の範囲であれば、実用上十分に短い期間の培養で、キノコ栽培用固体培地からキノコを生育させることができ、かつ粘性のある種菌となる。
【0038】
菌体そのものを粘性液体と混合する場合、及び固体培地中に増殖させた菌体(固体培地菌体)を粘性液体と混合する場合の双方において、菌体又は固体培地菌体は、攪拌により粘性液体中に均一に分布させることができる。一旦均一に混ざるとその後は、30日間程度までであれば静置保存しても、菌体又は固体培地菌体が沈殿したり、塊状になって、粘性液体と分離することはない、又は殆どない。
その他の成分
本発明の種菌には、本発明の効果を損なわない範囲で、コメヌカ、麦フスマ、ホミニーフィード、ビール粕などのキノコ種菌に通常添加される物質を添加することができる。
(II)種菌の接種方法
本発明の種菌の接種方法は、上記説明した本発明の種菌をキノコ栽培用固体培地に設けた孔に注入する方法である。
【0039】
キノコ栽培用固体培地は特に限定されず、公知の培地を使用できる。このような公知の培地として、例えば、ナラ、ブナ、コナラ、シデなどの木材のおが屑、コーンコブミール、籾殻、綿実殻、バガスなどの1種又は2種以上を、含水率60〜65重量%程度になるように調整して塊状に成形したものが挙げられる。また、この固体培地には、ブドウ糖、コメヌカ、フスマのような栄養分や、バイデル(株式会社北研)、ネオビタス(株式会社キノックス)、キノゲンS(森産業株式会社)のような市販の栄養液を含ませることもできる。
【0040】
また、この固体培地には、種菌を接種するための孔が設けられる。孔の位置、及び形状はとくに限定されないが、固体培地全体をキノコ生育に有効に利用するためには、固体培地塊の中央部に塊を上下方向に貫くようにして孔を設けることが好ましい。また、2〜6個程度の孔を固体培地の上下方向に均等に設けても構わない。または、固体培地の底面のごく一部を残して上面から穿った孔も好ましい。
【0041】
孔の容積は、固体培地に対する種菌の接種量に影響を与える。孔の容積は、固体培地に対して1〜15容量%程度が好ましく、2〜8容量%程度がより好ましい。上記の孔の容積比率の範囲であれば、種菌接種量が十分になって固体培地中のキノコの培養期間が実用上十分に短くなる。また、これ以上孔容積が大きくてもそれ以上の効果は得られず、種菌接種量が多くなってコスト高となるだけである。
【0042】
種菌の接種に先立ち、固体培地は通常雑菌の混入を防ぐために殺菌される。殺菌方法は特に限定されないが、常圧下98〜100℃程度で6〜8時間程度の熱処理、又は圧力0.7〜1.0kg/平方センチメートル程度のオートクレーブ内で115〜121℃程度で1〜2時間程度の熱処理による殺菌を行うことができる。
【0043】
次いで、固体培地に設けた孔内に種菌を注入する。本発明の種菌は粘性液体であるため、種菌調製に使用する容器から外気に接しないように配管、及びノズルを介して無菌的に固体培地に接種することができる。種菌は、固体培地の孔全体に充たせばよいが、さらに固体培地の上面を覆うようにすることが望ましく、これにより培地全体を利用して効率よくキノコを生育させることができる。種菌の使用量は、固体培地に対して、4〜20v/v%程度が好ましく、6〜10v/v%程度がより好ましい。
(III)キノコ栽培方法
本発明のキノコ栽培方法は、キノコ栽培用固体培地に設けた孔内に本発明の種菌を注入する第1工程と;キノコ栽培用固体培地中のキノコ菌体を培養することによりキノコを生成させる第2工程とを含む方法である。
【0044】
第1工程については上記説明した通りである。種菌を接種した固体培地中のキノコの栽培方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、温度15〜25℃程度、相対湿度50〜80%程度の環境下で静置すればよい。キノコ種菌を接種した固体培地は、上記温度条件下になる季節であれば屋外に置いても構わない。
【0045】
光は自然光でもよく蛍光灯のような人工光でもよいが、人工光の場合は、0.1〜1600Lux程度の照度で光照射することが望ましい。
【0046】
通常60〜120日間程度上記環境下に置くと、培地上面に菌糸塊が現われるため、固形培地を袋又は容器から取り出す。さらに、温度10〜20℃程度、湿度80〜90%程度、照度200〜1600Lux程度の条件下で、引き続き静置培養を続けると、7〜14日間程度で、固体培地側面からキノコが生成する。
【0047】
本発明のキノコ栽培方法は、例えば図2に示す装置を用いて行うことができる。この装置は、種菌調製用のタンク5を備え、タンク5内部にはカッター51が備えられている。タンク5内に、粘性液体62及びキノコ菌体を蔓延させた固形培地61を加え、固形培地61をカッター51で攪拌、粉砕する。これにより本発明の種菌6が得られる。
【0048】
タンク5は配管7を介してキノコ培養用容器9と連通している。タンク5内で調製された種菌6をポンプ8の駆動により配管7を介してキノコ栽培用容器9に輸送する。配管7の先端部にはノズル71が装着されており、ノズル71の先から種菌6を容器9内に注入できるようになっている。容器9内には、キノコ栽培用固形培地10が充填されている。固形培地10の中央部には上下方向に貫通した接種孔101が設けられている。種菌を容器9内に注入することにより、粘性液体状の種菌が固形培地10の孔101内の底部にまでに充填される。さらに固形培地10の上面を覆うまで種菌6を注入すればよい。
実施例
以下、本発明を実施例、及び試験例を挙げてより詳細に説明する。
【0049】
試験例1 カルボキシメチルセルロースを使用した粘性種菌
<種菌の粘性液体の粘度の検討>
粘性液体からなる種菌として、濃度1重量%、1.5重量%、及び3重量%の各カルボキシメチルセルロース(CMC;日本製紙(株)製サンローズEB50)水溶液を調製した。
【0050】
濃度1重量%、3重量%のCMC水溶液の粘度をB型粘度計(東京計器社製、BM形式、1983年12月製造)を用いて、温度20℃で粘度を測定した。ロータの回転速度は12rpmとした。使用ロータは、上記粘度計の添付マニュアルに従い、濃度1重量%のサンプルではロータNo.2とし、濃度3重量%のサンプルではロータNo.4とした。各サンプルについて3回づつ粘度測定し、その平均値を粘度とした。
【0051】
濃度1重量%のCMC水溶液の平均粘度は259cPであり、3重量%濃度のCMC水溶液の平均粘度は30167cPであった。
【0052】
この3種類のCMC水溶液、及び対照としての水に対して、それぞれシイタケおが屑種菌(北研600号)を30(v/v%)添加することにより、4種類の種菌を調製した。
【0053】
次に、シイタケ栽培用固体培地を次のようにして作製した。3メッシュより大きい広葉樹おが屑、20メッシュより小さい広葉樹おが屑、米ぬか、及びふすまを5:5:1:1の容積比で混合し、水道水を加えて含水率を62重量%に調整して培地を作成した。これを、11cm×13cm×30cmのサイズのビニール袋に1700ml充填し、その中央部に上下に貫通するように直径2cmの孔を設けた。この固形培地の孔に、上記4種類の種菌をピペットチップの先端をカットし、先端直径を5mmとした2〜10ml用のマイクロピペットを用いて40ml注入した。
【0054】
CMC濃度1.5重量%の種菌は、固体培地の孔の底部までスムースに注入することができた。また、注入後、24時間経過しても、CMC水溶液中でおが屑種菌が分離することがなかった。
【0055】
CMC濃度1重量%の種菌は、固形培地の孔の底部まで注入することができた。また、種菌注入後の固形培地を静置したところ、1時間程度で、粘性液体であるCMC水溶液とおが屑種菌とが一部で分離しているのが認められたが、実用できない範囲ではなかった。
【0056】
CMC濃度3重量%の種菌は、固形培地の孔の底部まで注入することができたが、注入時に、一部が孔壁に付着して下方に流れ難かった。しかし、実用できない範囲ではなかった。
【0057】
一方、水に、おが屑種菌を混合した種菌は、調製後直ぐにおが屑種菌と水が分離したため、接種前に攪拌する必要があった。また、固体培地の孔に注入した後直ぐにおが屑種菌が水と分離し始めた。
【0058】
このことから、粘性液体のCMC濃度は1〜3重量%程度が適当であることが分かる。
<種菌の接種・キノコの栽培例>
CMC1.5重量%を含む水溶液に対して、シイタケのおが屑種菌(北研600号)を20(v/v%)混合した。
【0059】
シイタケ栽培用固形培地(3メッシュより大きい広葉樹おが屑:20メッシュより小さい広葉樹おが屑:米ぬか:ふすま=5:5:1:1(容積比)、含水率62重量%)をサイズ11cm×13cm×30cmのビニール袋に1700ml充填し、中央部に上下に貫通する直径2cmの孔を設けた。このようにして成形した固形培地を圧力1.0kg/平方センチメートル、121℃で90分間滅菌した。
【0060】
滅菌後の固体培地の孔内に種菌を110ml注入することにより、孔内に種菌が充たされ、さらに固体培地上面が種菌で覆われた状態になった。
【0061】
これを21℃、相対湿度65%の室内で、照度800Luxの昼白色蛍光灯2本の光の下に置いた。90日間後に固体培地を袋から取り出し、引き続き同じ光条件で温度17℃、相対湿度85%の環境下に置いた。袋から取り出して7日後に固形培地の側面からシイタケの子実体が生成した。
【0062】
試験例2 カラギナンを使用した粘性種菌
<カラギナンと種菌の粘性液体の粘度の検討>
試験にはカラギナン(GENUEGEL carrageenan type CJ)を供試した。カラギナンは、蒸留水で溶解して水溶液として使用した。カラギナンのタイプ、水溶液濃度等を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
カラギナン水溶液をオートクレーブ(121℃、20分)後、各カラギナン水溶液に対して30%(v/v)のシイタケおが屑種菌(北研607号、株式会社北研)を添加し、1000mL容量のエースホモジナイザー(AM-10型、(株)日本精機製作所)を用いて、8,000rpm、60秒の条件で破砕し、粘性種菌を作成した。
【0065】
オートクレーブ後の各カラギナン水溶液の粘度、ならびに、粘性種菌の破砕直後、作成4日後及び10日後の粘度をB形粘度型(BM形、東機産業株式会社)を用いて、温度25℃で測定した。
【0066】
これらの測定は、上記粘度計の添付マニュアルに従い、表2に示すように、ロータの回転速度は、6、60rpm、ロータは、ロータNo.2、3、4を使用した。粘度は、各試験区3回の測定の平均値とした。
【0067】
各試験区におけるカラギナンを使用した粘性種菌の粘度と一定期間後のおが屑種菌とカラギナン水溶液の分離状況を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
イオタ(ι)タイプのカラギナンは、水溶液濃度0.3重量%、0.5重量%とも10日後においても、おが屑種菌とカラギナン水溶液の分離は見られなかった。10日後の粘度は、水溶液濃度0.3重量%が400cP、0.5重量%が1,400cPであった。これらの粘度の種菌を培地に接種したところ、均一に接種することが出来た。
【0070】
このことから、カラギナンを使用した粘性種菌を作成するには、カラギナン水溶液の濃度は0.3〜0.5重量%が望ましいことが明らかとなった。0.3重量%のιタイプのカラギナン水溶液に対して、30%(v/v)のシイタケおが屑種菌を添加し、ミキサーで、8,000rpm、60秒の条件で破砕することで、水溶液とおが屑種菌が分離しない、良好な粘性種菌が作成できた。
<種菌の接種・キノコの栽培例>
0.3重量%濃度のιタイプカラギナン水溶液に対して、シイタケのおが屑種菌(北研607号、株式会社北研)を30%(v/v)混合した。
【0071】
培地材料は、3メッシュより大きい粒度の広葉樹おが粉と20メッシュより小さい広葉樹おが粉、栄養材として米ぬか、ふすまを使用した。これらの材料を乾物重量比でそれぞれ5:5:1:1に配合し、含水率を62重量%に調整して培地を作成した。
【0072】
培地は、培養袋(ST-12P-25、株式会社シナノポリ)に1kg充填後、117℃で90分間の高圧蒸気殺菌を行った。
【0073】
0.3重量%濃度のイオタタイプカラギナン水溶液で作成した粘性種菌ι0. 3をチューブポンプを用いて、1培地当たり40ml接種した後、培養を開始した。また、対照区として、おが屑種菌を種菌メーカーの使用基準である、1培地当たり15g接種した試験区を設定した。培養期間は100日間、培養温度は21℃、湿度は65%とした。また接種30日後までは暗黒で、それ以降は、800Luxの白色蛍光灯による1日8時間の照明とした。
【0074】
培養終了後の培地を培養袋から取り出し、培地表面を水道水で水洗いした後、温度17℃、湿度85%以上、800Luxの白色蛍光灯による1日8時間の照明下で、子実体を発生させた。1回目の発生が終了した培地は、水分供給のため浸水を行い、2回目の発生に備えた。このように、発生終了後の培地への浸水を繰り返し、合計4回子実体を発生させて、発生個数をサイズ別に測定した。サイズは、菌傘直径が4cm以上をM、4cm未満をS、奇形をOと区分した。各試験区とも、供試培地数は15培地とした。
【0075】
1培地当たりにおける、4回発生までの子実体の発生個数を表3に示す。子実体発生個数は、粘性種菌使用区が23.7個、対照区である、おが屑種菌使用区が19.0個となった。これらの間には、危険率5%で有意な差が生じた。
【0076】
【表3】

【0077】
一般に、熟成度の高い培地は、子実体の発生量が多くなることが分かっている。粘性種菌は、おが屑種菌と比べて、培地に菌体をよりいっそう、均一に分布させることが出来るため、菌糸の蔓延期間が短縮できると考えられる。実際に、粘性種菌を接種した培地は、培地表面を菌糸が覆う期間が、おが屑種菌と比べて、5〜8日程度短くなった。このことから、培地の熟成度も、おが屑種菌を使用した培地と比べて進んでいると推察される。そのため、粘性種菌がおが屑種菌に比べて、子実体の発生個数が多くなったと考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】従来の固形培地への種菌接種方法を説明する図である。
【図2】本発明の種菌接種方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0079】
1 広口瓶又は袋
2 人工培地
21 接種孔
3 おが屑種菌
5 タンク
51 カッター
6 種菌
61 固形培地種菌(キノコ菌体を蔓延させた固体培地)
62 粘性液体
7 配管
71 ノズル
8 ポンプ
9 容器
10 キノコ栽培用固形培地
101 接種孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性又は半流動状液体とキノコ菌体とを含むキノコ種菌。
【請求項2】
粘性又は半流動状液体の粘度が200〜36000cPである請求項1に記載のキノコ種菌。
【請求項3】
粘性又は半流動状液体が水溶性高分子化合物を含むものである請求項1又は2に記載のキノコ種菌。
【請求項4】
水溶性高分子化合物が、増粘多糖類である請求項3に記載のキノコ種菌。
【請求項5】
増粘多糖類がカルボキシメチルセルロースであり、粘性又は半流動状液体中にカルボキシメチルセルロースが1〜3重量%含まれる請求項4に記載のキノコ種菌。
【請求項6】
増粘多糖類がカラギナンであり、粘性又は半流動状液体中にカラギナンが0.3〜3.5重量%含まれる請求項4に記載のキノコ種菌。
【請求項7】
キノコ菌体に代えて、粉砕物状のキノコ栽培用固体培地中にキノコ菌体を生育させたものを含む請求項1〜6のいずれかに記載のキノコ種菌。
【請求項8】
キノコ栽培用固体培地に設けた孔内に、請求項1〜7のいずれかに記載のキノコ種菌を注入するキノコ種菌の接種方法。
【請求項9】
キノコ栽培用固体培地に設けた孔内に請求項1〜7のいずれかに記載のキノコ種菌を注入する第1工程と;キノコ栽培用固体培地中のキノコ菌体を培養することによりキノコを生
成させる第2工程とを含むキノコの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−280371(P2006−280371A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63983(P2006−63983)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【出願人】(300031621)有限会社丸浅苑 (2)
【Fターム(参考)】