説明

キノロンカルボン酸組成物と関連する治療方法

【課題】生物学的利用能と吸収性が高い、広範囲抗菌組成物を提供すること。
【解決手段】キノロンカルボン酸誘導体を含む局所眼科用組成物が提供される。1つの実施形態において、上記組成物が上記キノロンカルボン酸誘導体の徐放を生ずる。1つの実施形態において、上記組成物がカルボキシル基含有ポリマーをさらに含有する。1つの実施形態において、上記カルボキシル基含有ポリマーが、上記組成物の全重量に基づいて、上記組成物の約0.1 〜約6.5 重量%を占める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼および眼周囲の感染症の治療におけるキノロンカルボン酸処方組成物の使用に関する。本発明はまた、点眼形態での投与を可能にするビヒクル中に特定のキノロンカルボン酸化合物を含む持効性組成物にも関する。本発明はまたキノロンカルボン酸組成物とその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
眼と眼周囲の感染症の治療は、眼への軟膏の塗布または局所抗菌・抗生物質懸濁液剤の点眼によって行うことができる。そのような組成物は、例えば下記の抗菌・抗生物質剤の1種または2種以上を用いることができる:ネオマイシン、ポリミキシンB、バシトラシン、トリメトプリム、トブラマイシン、テラマイシン、スルファセタミド(例、コルチコスポリン<CORTICOSPORIN>TM、モナーク・ファーマシューティカルズ社、テネシー州ブリストル;ネオデカドロン<NEODECADRON>TM、メルク社、ペンシルベニア州ウェスト・ポイント;ポリスポリン<POLYSPORIN>TM、グラクソ・ウェルカム社、ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パーク;ポリトリム<POLYTRIM>TMおよびブレファミド<BLEPHAMIDE>TM、アレルガン社、カリフォルニア州アービン;トブラデックス<TOBRADEX>TM、アルコン・ラボラトリーズ社、テキサス州フォートワース;テラコトリル<TERA-COTRIL>TM、ファイザー社、ニューヨーク州ニューヨーク、等)。チボキシン<CHIBOXIN>TM (メルク社、ペンシルベニア州ウェスト・ポイント) 、シロキサン<CILOXAN>TM(アルコン・ラボラトリーズ社、テキサス州フォートワース) およびオクフロックス<OCUFLOX>TM (アレルガン社、カリフォルニア州アービン)のような組成物は、水溶液または水性懸濁液状態でキノロン系抗菌剤を使用している。
【0003】
他の薬剤の眼への局所投与と同様に、抗菌剤の放出は、多様な要因、とりわけ、快適さ、投与量の一貫性と正確さ、視覚障害が起こる場合の種類と時間、投与の容易さ、および放出のタイミングにより左右される。これらの要因については、例えば、Davisらの米国特許第5,192,536 号に検討されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本技術分野では眼と眼周囲の感染症の治療用の多様な組成物が既に生み出されてきたが、生物学的利用能と吸収性が高い、広範囲(広域) 抗菌組成物がなお求められている。そのような組成物が、点眼薬のような便利な剤形で正確な用量の投与を容易に可能にするビヒクルを含んでいれば、さらに一層望ましいであろう。その組成物が刺激性がなく、既に刺激を受けた眼および眼周囲の組織を静めることも望ましい。以上の組成物がさらに、その抗菌性組成物の徐放を生じ、涙液分泌によるその抗菌剤の急速な希釈または急速な除去を受けることがなければ、さらに一層望ましい。
【0005】
本技術分野では、局所投与用の抗菌剤とその投与に有用な組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
下記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体を含む局所眼科用組成物:
【化1】


式中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、またはin vivo 加水分解されうるエステル残基であり、R2 は水素原子または1個もしくは2個の低級アルキル基で置換されていてもよいアミノ基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、YはCH2、O、S、SO、SO2 、またはN−R3 であって、ここでR3 は水素原子または低級アルキル基であり、そしてZは酸素原子または2個の水素原子である。
(項目2)
上記組成物が上記キノロンカルボン酸誘導体の徐放を生ずる項目1記載の組成物。
(項目3)
カルボキシル基含有ポリマーをさらに含有する、項目1記載の組成物。
(項目4)
上記カルボキシル基含有ポリマーが、上記組成物の全重量に基づいて、上記組成物の約0.1〜約6.5 重量%を占める、項目3記載の組成物。
(項目5)
上記ポリマーが約40重量%までのカルボキシル基不含有モノエチレン性不飽和モノマーを含有する、項目4記載の組成物。
(項目6)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が超微粒子化 (マイクロナイゼーション) により作製された粒子からなる、項目5記載の組成物。
(項目7)
上記粒子の平均粒径が約10ミクロン以下である、項目6記載の組成物。
(項目8)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が、組成物の全重量に基づいて、約0.005〜約10重量%の量で存在する、項目1記載の組成物。
(項目9)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が、組成物の全重量に基づいて、約0.02〜約2.5 重量%の量で存在する、項目8記載の組成物。
(項目10)
1種または2種以上の添加剤をさらに含有する、項目1記載の組成物。
(項目11)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体がこのキノロンカルボン酸誘導体のプロドラッグ形態である、項目1記載の組成物。
(項目12)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が、遊離酸の(R)-(+)-7-(3-アミノ-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)-8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸、その塩、またはその塩酸塩である、項目1記載の組成物。
(項目13)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が、遊離酸の8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-7-(2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-5-オキソ-1H-1,4-ジアゼピン-1-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸、その塩、またはその塩酸塩である、項目1記載の組成物。
(項目14)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が超微粒子化により作製された粒子からなる、項目1記載の組成物。
(項目15)
上記粒子の平均粒径が約10ミクロン以下である、項目14記載の組成物。
(項目16)
溶解補助剤をさらに含有する、項目1記載の組成物。
(項目17)
上記溶解補助剤がヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである、項目16記載の組成物。
(項目18)
上記ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが、上記組成物の全重量に基づいて上記組成物の約5.0〜約20.0重量%の量である、項目17記載の組成物。
(項目19)
架橋カルボキシル基含有ポリマーをさらに含有する、項目1記載の組成物。
(項目20)
上記架橋カルボキシル基含有ポリマーが、上記組成物の全重量に基づいて、上記組成物の約0.1〜約6.5 重量%の量を占める、項目19記載の組成物。
(項目21)
上記架橋カルボキシル基含有ポリマーが、上記組成物の全重量に基づいて、上記組成物の約0.5〜約1.0 重量%の量を占める、項目20記載の組成物。
(項目22)
眼または眼周囲領域における感染症の治療または予防方法であって、下記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体を含む組成物を、眼または眼周囲領域に放出することを含む方法:
【化2】


式中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、またはin vivo 加水分解されうるエステル残基であり、R2 は水素原子または1個もしくは2個の低級アルキル基で置換されていてもよいアミノ基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、YはCH2、O、S、SO、SO2 、またはN−R3 であって、ここでR3 は水素原子または低級アルキル基であり、そしてZは酸素原子または2個の水素原子である。
(項目23)
上記組成物が上記キノロンカルボン酸誘導体の徐放を生ずる項目22記載の方法。
(項目24)
上記組成物がカルボキシル基含有ポリマーをさらに含有する、項目22記載の方法。
(項目25)
上記カルボキシル基含有ポリマーが、上記組成物の全重量に基づいて上記組成物の約0.1〜約6.5 重量%を占める、項目24記載の方法。
(項目26)
上記ポリマーが約40重量%までのカルボキシル基不含有モノエチレン性不飽和モノマーを含有する、項目25記載の方法。
(項目27)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が超微粒子化により作製された粒子からなる、項目26記載の方法。
(項目28)
上記粒子の平均粒径が約10ミクロン以下である、項目27記載の方法。
(項目29)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が、組成物の全重量に基づいて約0.005 〜約10重量%の量で存在する、項目22記載の方法。
(項目30)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が、組成物の全重量に基づいて約0.02〜約2.5 重量%の量で存在する、項目29記載の方法。
(項目31)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が超微粒子化により作製された粒子からなる、項目22記載の方法。
(項目32)
上記粒子の平均粒径が約10ミクロン以下である、項目31記載の方法。
(項目33)
上記組成物が1種または2種以上の添加剤をさらに含有する、項目22記載の方法。
(項目34)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体がこのキノロンカルボン酸誘導体のプロドラッグ形態である、項目22記載の方法。
(項目35)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が、遊離酸の(R)-(+)-7-(3-アミノ-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)-8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸、その塩、またはその塩酸塩である、項目22記載の方法。
(項目36)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が、遊離酸の8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-7-(2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-5-オキソ-1H-1,4-ジアゼピン-1-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸、その塩、またはその塩酸塩である、項目22記載の方法。
(項目37)
上記組成物が溶解補助剤をさらに含有する、項目22記載の方法。
(項目38)
上記溶解補助剤がヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである、項目37記載の方法。
(項目39)
上記ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが、上記組成物の全重量に基づいて上記組成物の約5.0〜約20.0重量%の量である、項目38記載の方法。
(項目40)
上記組成物が架橋カルボキシル基含有ポリマーをさらに含有する項目22記載の方法。
(項目41)
上記架橋カルボキシル基含有ポリマーが、上記組成物の全重量に基づいて、上記組成物の約0.1〜約6.5 重量%の量を占める、項目40記載の方法。
(項目42)
上記架橋カルボキシル基含有ポリマーが、上記組成物の全重量に基づいて、上記組成物の約0.5〜約1.0 重量%の量を占める、項目40記載の方法。
(項目43)
上記組成物が溶液剤、複方剤、軟膏剤または点眼剤である、項目22記載の方法。
(項目44)
上記感染症がグラム陽性細菌の感染症、グラム陰性細菌の感染症、またはグラム陽性細菌とグラム陰性細菌との混合感染症である、項目22記載の方法。
(項目45)
上記感染症が、エシェリキア・コリ(Escherichiacoli,大腸菌) 、サルモネラ・ティフィ(Salmonella typhi,チフス菌) 、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri, 赤痢菌)、クレブシエラ・ニューモニア(Klebsiellia pneumonia, 肺炎桿菌) 、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロテウス・レットゲリ(Proteusrettgeri)、ヘモフィルス・インフルエンゼ(Haemophilus influenzae,インフルエンザ菌) 、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonasaeruginosia、緑膿菌) 、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens) 、モラクセラ・モルガニー(Moraxellamorganii)、モラクセラ・ラクナータ(Moraxella lacunata)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis) 、バシラス・サチリス(Bacillussubtilis, 枯草菌) 、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus, 黄色ブドウ球菌) 、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcusepidrmidis, 表皮ブドウ球菌) 、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus) 、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcushominis)、スタフィロコッカス・ピオゲネス(Staphylococcus pyogenes) 、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcuspneumoniae,肺炎連鎖球菌) 、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis) 、ミクロコッカス・リソデイクチカス(Micrococcuslysodeikticus) 、およびそれらの組合わせよりなる群から選ばれた細菌の感染症である、項目44記載の方法。
(項目46)
上記感染症がグラム陰性細菌とグラム陽性細菌との混合感染症である、項目42記載の方法。
(項目47)
持効性局所眼科用薬剤放出系の製造方法であって、
下記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体を含む組成物を調製し:
【化3】


式中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、またはin vivo 加水分解されうるエステル残基であり、R2 は水素原子または1個もしくは2個の低級アルキル基で置換されていてもよいアミノ基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、YはCH2、O、S、SO、SO2 、またはN−R3 であって、ここでR3 は水素原子または低級アルキル基であり、そしてZは酸素原子または2個の水素原子である;そして
上記組成物を眼への投与のためにパッケージングする、
ことを含む方法。
(項目48)
上記組成物が、上記組成物の全重量に基づいて上記組成物の約0.1〜約6.5 重量%で存在するカルボキシル基含有ポリマーをさらに含む、項目47記載の方法。
(項目49)
上記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体が平均粒径約10ミクロン以下の粒子として存在し、この粒子が上記キノロンカルボン酸誘導体の超微粒子化により調製されたものである、項目48記載の方法。
本発明は、下記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体を含む局所眼科用組成物を包含し、かつ提供する。
【0007】
【化4】

【0008】
式中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、またはin vivo 加水分解されうるエステル残基であり、R2 は水素原子または1個もしくは2個の低級アルキル基で置換されていてもよいアミノ基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、YはCH2、O、S、SO、SO2 、またはN−R3 であって、ここでR3 は水素原子または低級アルキル基であり、そしてZは酸素原子または2個の水素原子である。
【0009】
本発明は、眼または眼周囲領域における感染症の治療または予防方法であって、下記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体を含む組成物を、眼または眼周囲領域に放出することを含む方法を包含し、かつ提供する。
【0010】
【化5】

【0011】
式中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、またはin vivo 加水分解されうるエステル残基であり、R2 は水素原子または1個もしくは2個の低級アルキル基で置換されていてもよいアミノ基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、YはCH2、O、S、SO、SO2 、またはN−R3 であって、ここでR3 は水素原子または低級アルキル基であり、そしてZは酸素原子または2個の水素原子である。
【0012】
本発明はまた、持効性局所眼科用薬剤放出系の製造方法を包含し、かつ提供する。この方法は、
下記一般式(I)のキノロンカルボン酸誘導体を含む組成物を調製し:
【0013】
【化6】

【0014】
式中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、またはin vivo 加水分解されうるエステル残基であり、R2 は水素原子または1個もしくは2個の低級アルキル基で置換されていてもよいアミノ基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、YはCH2、O、S、SO、SO2 、またはN−R3 であって、ここでR3 は水素原子または低級アルキル基であり、そしてZは酸素原子または2個の水素原子である;そして前記組成物を眼への投与のためにパッケージングする、ことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1a】そこにSS732 と表示されている、キノロン系抗菌剤の8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-7-(2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-5-オキソ-1H-1,4-ジアゼピン-1-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸の構造を示す。
【図1b】そこにSS734 と表示されている、(R)-(+)-7-(3-アミノ-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)-8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸の構造を示す。
【図2】(R)-(+)-7-(3-アミノ-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)-8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸を含有する3種類の異なる局所点眼処方組成物の点眼後のこの化合物の涙液中濃度の経時変化を示す線グラフである。
【図3】(R)-(+)-7-(3-アミノ-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)-8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸を含有する3種類の異なる局所点眼処方組成物の点眼後のこの化合物の結膜中濃度の経時変化を示す線グラフである。
【図4】(R)-(+)-7-(3-アミノ-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)-8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸の涙液中濃度の経時変化を、InternationalJournal of Therapeutics, 35(5), 1997, 214-217 頁に発表されたキノロン系抗菌剤シロキサン(CILOXAN)TM、オクフロックス(OCUFLOX)TMおよびチボキシン(CHIBOXIN)TMの涙液中濃度と比較して示す線グラフである。
【図5】各組成物の1回量を投与した後の、(R)-(+)-7-(3-アミノ-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)-8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸の結膜中濃度の経時変化を、オクフロックスTMにおけるキノロン系抗菌剤の結膜中濃度と比較して示す線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、眼および眼周囲領域への投与のための、本技術分野で知られているように、軟膏または点眼剤(溶液剤もしくは懸濁液剤のような) の形態の、広範囲キノロン系抗菌剤を含む眼感染症の治療用組成物を包含し、かつ提供する。本発明の他の態様は、適当な初期粘度で投与可能であるが、その後に組織または流体と接触すると、この組織または流体により投与した組成物のpHが上昇するため、その粘度が実質的に増大するようなビヒクルを含む、眼および眼周囲への投与用の組成物を包含する。
【0017】
本発明の一部の態様では、一般式(I)のキノロンカルボン酸の懸濁液が、所望のキノロンカルボン酸の超微粒子化 (マイクロナイゼーション) により作製される。超微粒子化は難溶性薬剤の生物学的利用能を高めるという利点がある。ChaumeilJ.C., Methods Find. Exp. Clin. Pharmacology, 20(3) 211 (1998)。超微粒子化は、従来より公知の多様な方法、例えば、SetnikarがBoll.Chim. Farm. 116(7): 393-410 で概説しているように、材料を単独で、または非溶媒中での懸濁液状態で粉砕または摩砕することにより達成することができる。超臨界二酸化炭素中での超微粒子化をはじめとする他の超微粒子化方法も採用できる。Kerc,et al., Int. J. Pharm. 182(1): 33 (1999)。キノロンカルボン酸化合物の超微粒子化懸濁液は、高分子 (ポリマー型) 懸濁化剤(沈殿防止剤) の存在下または不存在下のいずれでも、眼科用処方組成物の調製に使用することができる。また、一般式(I) のキノロンカルボン酸の超微粒子化した製剤は、組織または流体と接触すると実質的に粘度増大を生ずる高分子ビヒクルと一緒に有利に使用することができる。
【0018】
1好適態様において、キノロンカルボン酸抗菌剤は、下記一般式(I)で示される化合物である。
【0019】
【化7】

【0020】
式中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、またはin vivo 加水分解されうるエステル残基であり、R2 は水素原子または1個もしくは2個の低級アルキル基で置換されていてもよいアミノ基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、YはCH2、O、S、SO、SO2 、またはN−R3 であって、ここでR3 は水素原子または低級アルキル基であり、そしてZは酸素原子または2個の水素原子である。
【0021】
一般式(I) においてR1で表される基の具体例としては、制限されないが、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基;アラルキル基 (例、ベンジル、フェニルエチル、メチルベンジル、ナフチルメチル等);ならびにin vivo で、即ち、眼および眼周囲領域の組織および涙液をはじめとする生体の組織もしくは流体に曝されると、加水分解されうるエステル残基 (例、アルカノイルオキシアルキル、アルコキシカルボニルオキシアルキル、カルバモイルアルキル、アルコキシアルキル等、具体的には、アセトキシメチル、1-アセトキシエチル、エトキシカルボニルオキシメチル、カルバモイルメチル、カルバモイルエチル、メトキシメチル、メトキシエチル等)が挙げられる。
【0022】
2 で表される、1個もしくは2個の低級アルキル基で置換されていてもよいアミノ基の具体例としては、制限されないが、アミノ、メチルアミノ、エチルアミノ、イソプロピルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、およびジイソプロピルアミノを挙げることができる。一般式(I)のR2 が水素ではない場合、R2 が結合している炭素原子は不斉炭素原子となり、一般式(I) の化合物に対してRおよびSの光学異性体を生ずる。本発明の持効性処方組成物は、いずれか一方の光学異性体を別個に使用したものと、それらの混合物(ラセミ体を含む) を使用した処方組成物とを包含する。
【0023】
Xで表されるハロゲン原子の具体例は、制限されないが、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等を包含する。
低級アルキル基は炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖アルキル基(例、メチル、エチル、i-プロピル、sec-ブチル、t-ブチル、アミル等) でよい。
【0024】
一般式(I) のキノロンカルボン酸の製造と抗菌剤としての使用は、コンノらにより米国特許第5,385,900号および米国特許第5,447,926 号に開示されている。
本発明の処方組成物は、一般式(I)の化合物の塩の使用が有利となることもある。一般式(I) の化合物の有用な塩の例として、アルカリ金属、無機酸、有機酸等との塩が挙げられる。より具体的な例としては、アルカリ金属との塩として、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が、;無機酸との塩として、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸等が;ならびに有機酸との塩として、酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等、が挙げられる。
【0025】
一般式(I) のキノロンカルボン酸薬剤の製造は、コンノらにより米国特許第5,385,900号および米国特許第5,447,926 号に説明されている。
1好適態様において、キノロンカルボン酸は、図1bに示すように、(R)-(+)-7-(3-アミノ-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)-8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸である。
【0026】
別の好適態様において、キノロンカルボン酸は、図1aに示すように、8-クロロ-1-シクロプロピル-6-フルオロ-7-(2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-5-オキソ-1H-1,4-ジアゼピン-1-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸である。
【0027】
本発明のキノロンカルボン酸抗菌剤は、溶液剤と懸濁液剤を包含する本発明の処方組成物のいずれにも、他の剤形で投与される量に匹敵する、治療有効量で含有させることができる。この量は、処方組成物の全重量に基づいて、約0.005〜約10重量%、好ましくは約0.007 〜約5重量%、さらに一層好ましくは0.02〜2.5 重量%の範囲である。別の態様において、このキノロンカルボン酸抗菌剤は、組成物の全重量に基づいて、約0.1〜約0.5 重量%、約0.5 〜約1.0 重量%、約2.0 〜約3.0 重量%、または約3.0 〜約5.0 重量%のの量で存在させることができる。1態様において、約0.01〜約1重量%の一般式(I)のキノロン系抗菌剤をこのようにして投与することができる。
【0028】
本発明のキノロン系抗菌剤を眼に放出することができるどの適当な組成物も使用することができ、それは一般に本技術分野で周知の溶液剤と懸濁液剤を包含する。本発明の1態様において、本明細書に記載したキノロンカルボン酸抗菌剤は、組成物において溶液状態である。別の態様では、本発明のキノロンカルボン酸抗菌剤は組成物において溶液および懸濁液の両状態である。別の態様では、キノロンカルボン酸は懸濁液状態であり、ここで粒子の集団の平均粒径が約30ミクロン以下、またはより好ましくは約20ミクロン以下、またはより好ましくは約15ミクロン以下、またはより好ましくは約10ミクロン以下、またはより好ましくは約5ミクロン以下となるように、超微粒子化によって所望のキノロンカルボン酸の粒子が作製される。粒径が約4ミクロン以下、または約2ミクロン以下、または約1ミクロン以下の超微粒子化キノロンカルボン酸の粒子も使用することができる。或いは、キノロンカルボン酸の超微粒子化は、平均粒径が約30ミクロンないし約1ミクロン、または約20ミクロンないし約5ミクロン、または約15ミクロンないし約5ミクロン、または約10ミクロンないし約5ミクロン、の粒子の集団を調製するように行うこともできる。存在するキノロンカルボン酸粒子の粒度を制御することにより、キノロンカルボン酸抗菌剤の処方組成物の安定性と生物学的利用能に影響を及ぼすことができる。
【0029】
一般式(I) の超微粒子化キノロンカルボン酸の製剤は、親水性ポリマーをはじめとする、本技術分野で従来より公知の1種または2種以上の懸濁化剤(沈殿防止剤) または粘度調整剤を含有するビヒクル中で調製してもよい。使用しうる懸濁化剤または粘度調整剤の例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、多糖類、デキストラン、ならびにヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピル−メチルセルロースのようなセルロース系ポリマーが挙げられる。別の態様では、キノロンカルボン酸の超微粒子化製剤は、高分子ビヒクルを併用して組成物を調製することが有利となることがあり、調製された組成物は、適当な初期粘度で投与することができ、その後で涙液と接触すると粘度が実質的に増大する。
【0030】
超微粒子化キノロンカルボン酸の製剤は多様な利点を与える。可溶性の薬剤をpHを高めるように調整して溶解度を低減させることにより沈殿させて調製したキノロンカルボン酸組成物とは異なり、キノロンカルボン酸の超微粒子化製剤を含有する組成物は、組成物の眼への使用を不適当にすることがある結晶の析出が起こらない。また、超微粒子化キノロンカルボン酸を本発明のポリマー含有ビヒクル、特に涙液と接触して粘度増大を生ずるもの、と併用すると、さらなる利点が得られる。超微粒子化材料の微小粒子はポリマー含有ビヒクル中に容易に懸濁する。超微粒子化材料は、飽和または飽和に近い溶液をより容易に維持し、これに組成物を眼との接触状態に保つ高分子ビヒクルを併用すると、生物学的利用能の増大が生ずる。さらに、高分子懸濁化剤により、結晶成長と同様に組成物を眼への投与に対して不適当にすることがある、薬剤粒子の凝集、が防止される。
【0031】
本発明のさらに別の態様では、組成物に溶解補助剤(可溶化剤) を含有させて、溶液状態のキノロンカルボン酸抗菌剤の量を増大させる。シクロデキストリン類をはじめとする (それに制限されないが) 、眼科用組成物に適した任意の溶解補助剤を使用することができる。1好適態様において、本発明の組成物はヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含有する。本発明の1好適態様では、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの量は、組成物の全重量に基づいて、組成物の約1.0〜約30.0重量%、より好ましくは約5.0 〜約20.0重量%である。
【0032】
1態様において、適当な初期粘度で投与した後、涙液と接触すると粘度が実質的に増大するような一般式(I)のキノロン系抗菌剤の眼および眼周囲への投与に有用なビヒクルは、Davis らの米国特許第5,192,535 号に記載されているものである。Davis らの米国特許に記載されているもののような眼投与用ビヒクルは、一般に本技術分野では周知の、軽度に架橋した(以下、軽架橋) アクリル酸等のポリマーを含有する。1好適態様にあっては、この種のポリマーは、存在するモノマーの合計重量に基づく重量%で、少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、さらに一層好ましくは約95%〜約99.9%の量の、1種または2種以上のカルボキシル基含有モノエチレン性不飽和モノマーから調製したものでよい。1好適態様では、カルボキシル基含有モノエチレン性不飽和モノマーとしてアクリル酸を使用する。別の態様では、メタクリル酸、エタクリル酸、β-メチルアクリル酸(クロトン酸) 、cis-α-メチルクロトン酸 (アンゲリカ酸) 、trans-α-メチルクロトン酸 (チグリン酸) 、α-ブチルクロトン酸、α-フェニルアクリル酸、α-ベンジルアクリル酸、α-シクロヘキシルアクリル酸、β-フェニルアクリル酸(ケイ皮酸) 、クマリン酸 (o-ヒドロキシケイ皮酸) 、ウンベル酸 (p-ヒドロキシクマリン酸) などの不飽和重合性のカルボキシル基含有モノマーを、アクリル酸に加えて、またはアクリル酸に代えて、使用することができる。
【0033】
軽架橋ポリマーを用いた好ましいビヒクルは、少量、即ち、存在するモノマーの合計重量に基づいて、約5%以下、例えば、約0.5 %からもしくは約0.1 %から約5%まで、好ましくは0.2 %〜約1%の量、の多官能性架橋剤を用いて架橋させることができる。別の態様では、本発明は、存在するモノマーの合計重量に基づく重量%で、約0.01%〜約0.05%、約0.06%〜約0.1%、約0.11%〜約0.5 %、約0.55%〜約1.0 %、約1.5 %〜約2.5 %、約2.6 %〜約3.5 %、または約3.6 %〜約4.5 %、の量の架橋剤で架橋させた軽架橋ポリマーの使用も意図する。このような架橋剤として挙げられるのは、ジビニルグリコール、2,3-ジヒドロキシヘキサ-1,5-ジエン、2,5-ジメチル-1,5-ヘキサジエン、ジビニルベンゼン、N,N-ジアリルアクリルアミド、N,N-ジアリルメタクリルアミドなどの非ポリアルケニルポリエーテル型の二官能性架橋用モノマーである。好ましい架橋剤はジビニルグリコールである。また、1分子あたり2以上のアルケニルエーテル基、好ましくは末端にH2C=C<基を持つアルケニルエーテル基、を含有するポリアルケニルポリエーテル型架橋剤も挙げられる。この後者の架橋剤は、少なくとも3個のヒドロキシル基を持つ炭素数4以上の多価アルコールを臭化アリル等のハロゲン化アルケニルによりエーテル化することによって調製され、例えばポリアリルスクロース、ポリアリルペンタエリスリトールなどがある。例えば、Brownの米国特許第2,798,053 号を参照。分子量約400 〜約8,000 のジオレフィン性非親水性の多量体(macromeric)架橋剤、例えば、不溶性であるジオールおよびポリオールのジおよびポリアクリレートおよびメタクリレート、ジイソシアネート−ヒドロキシアルキルアクリレートもしくはメタクリレート反応生成物、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールもしくはポリシロキサンジオールから誘導されたイソシアネート末端プレポリマーとヒドロキシアルキルメタクリレートとの反応生成物、なども架橋剤として使用することができる。例えば、Muellerらの米国特許第4,192,827 号および第4,136,250 号を参照。
【0034】
1種または2種以上の架橋剤と一緒に、存在させるモノマーとして1種または2種以上のカルボキシル基含有モノマーだけを使用して、軽架橋ポリマーを調製することができる。1態様では、軽架橋ポリマーは、カルボキシル基含有モノエチレン性不飽和モノマーの重量で約1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%または40%までを、カルボキシル基を含有せず、生理学的かつ眼科学的に無害な置換基だけを含有する、1種または2種以上のモノエチレン性不飽和モノマーで置換したポリマーとすることができる。カルボキシル基不含有モノエチレン性不飽和モノマーは、存在するモノマーの0〜約40重量%の量で存在させてもよく、好ましくは約0%〜約20重量%の量で存在させる。上記ポリマーの調製に有用なカルボキシル基不含有モノエチレン性不飽和モノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレートなどのアクリル酸およびメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル、N−ビニルピロリドンなどが挙げられる。本発明の組成物において使用できる別のモノエチレン性不飽和モノマーのリストについては、Muellerら米国特許第4,548,990 号を参照。特に好ましいポリマーは、架橋用モノマーが2,3-ジヒドロキシヘキサ-1,5-ジエンまたは2,3-ジメチルヘキサ-1,5-ジエンである軽架橋アクリル酸ポリマーである。
【0035】
本発明のビヒクルと一緒に使用できる軽架橋ポリマーは、慣用のラジカル重合触媒を用いて、等積球径(equivalentspherical diameter) で約30μm以下の乾燥粒度になるまで、モノマーを懸濁重合または乳化重合させることにより調製することが好ましい。1好適態様では、乾燥粒度は、等積球径で約1〜約30μm、好ましくは約3〜約20μmの範囲である。1態様において、このようなポリマーの分子量(ダルトン) は、10〜100 億、好ましくは約20〜50億の範囲内であると推定される。
【0036】
投与すると粘度が増大するビヒクルの軽架橋ポリマーについて、架橋度と粒度との関係は意味がある。粒子は懸濁状態で存在するので、必然的に架橋度はポリマーの実質的な溶解を避けるようなレベルとなる。ポリマーは涙液との接触により生ずるpH変化に応答して急速なゲル化を受けるので、必然的に架橋度は急速なゲル化を阻害するほどには大きくしない。大きなゲル化は涙液との接触による処方組成物のpH変化に伴って起こる。当業者には理解されるように、投与に続いて粘度が増大するように設計されている本発明の処方組成物は、約3〜約6.5のpHおよび約10〜約400 mOsMの浸透圧で放出させることができる。当然ながら、涙液のpHは約7.2 〜約7.4 とより高い。pHの上昇に伴って、カルボン酸(COOH)はナトリウム置換を受け(COONaに)、このナトリウム塩の形態が解離して、ポリマーの膨張を生ずる。ポリマーの粒度が大きすぎると、誘起された膨潤が、ゲル化を生ずるのではなく、互いに接触する大粒子間の容積部分にボイドを生じがちになることがある。
【0037】
モノマーに対する架橋剤の比率が低すぎたために架橋が不十分となった場合にもそうかもしれないように、投与後に粘度上昇を受けるように設計したビヒクルに用いたポリマーが溶解状態になってしまったら、粒度の関連性はより小さくなろう。しかし、懸濁状態ではポリマーの粒度は快適感に関係することがある。本発明の好適な系では、小さな粒度と軽度の架橋とが相乗的に作用して、組成物のpHを上昇させる涙液への露出後に、投与された組成物の急速なゲル化を生ずる。各種の態様において、本発明は、約30μm以下、約20μm以下、約10μm以下、または約6μm以下の粒子の使用を包含かつ提供する。30μm以下の粒度は粘度の増大を得るのに好ましい。さらに、30μm以下の粒度は眼の快適感を改善する。
【0038】
懸濁重合または乳化重合により調製した、平均乾燥粒度が等積球径で約30μmよりかなり大きなポリマー粒子を含有する水性懸濁液は、等積球径が平均で約30μm以下のポリマー粒子を含有する、その他の点では組成が同一の懸濁液に比べて、眼に投与した時の快適感が劣る。等積球径で約30μmよりかなり大きな乾燥粒度に調製した後で、例えば、機械的な粉砕または摩砕により、等積球径で約30μm以下の乾燥粒度まで粒度を小さくしたアクリル酸等の軽架橋ポリマーは、水性懸濁液から作製したポリマーほどにはうまく作用しないことも判明した。
【0039】
本発明の作用を説明するために提示されたどのような理論またはメカニズムにも拘束されることを望まないが、そのような機械的粉砕または摩砕ポリマー粒子だけが微粒子状ポリマーとして存在する場合の違いについての1つの可能な説明は、30μmより大きな軽架橋ポリマー粒子の空間的な幾何学形状または形態が摩砕により崩壊することである。この崩壊は、恐らくはポリマー連鎖から未架橋の分岐鎖が除去されるか、鋭いエッジまたは突起を有する粒子が形成されるか、または満足すべき放出系の性能を与えるには広すぎる粒度範囲が普通には生じることにより起こる。広い粒度分布範囲は、より好適な態様の粘度−ゲル化の関係を阻害することがある。いずれにしても、そのような機械的に微細化した粒子は、懸濁または乳化重合により適度な粒度に調製された粒子に比べて、水性懸濁液状態での水和性がより困難となり、眼内において涙液の影響下で十分な程度にゲル化しにくくなり、本発明の水性懸濁液を用いて眼内で生じたゲルに比べて、ゲル化した後の快適感が劣る。ただし、そのような粉砕または摩砕したポリマー粒子も、存在する軽架橋ポリマー粒子の全重量に基づいた重量%で、約5%、より好ましくは10%、15%、20%、30%またはより好ましくは40%、までの量であれば、本発明を実施する時に乾燥粒径が約30μm以下の懸濁または乳化重合したポリマー粒子に混ぜて使用することができる。そのような混合物も、特にその粉砕または摩砕ポリマー粒子の乾燥形態での粒度が、等積球径で平均約0.01〜約30μm、好ましくは約0.05〜約15μm、より好ましくは約0.25〜約7.5μm、そして最も好ましくは約1〜約5μmである場合には、眼への薬剤放出系と眼内で形成されたin situ ゲルにおける満足すべき粘度レベルを与え、同時に投与の容易さおよび快適さならびに眼への薬剤の満足すべき徐放をも与えるであろう。別の態様では、乾燥形態の、平均で約5.0〜約10μmの粉砕もしくは摩砕ポリマー粒子、または平均で約10〜約20μmの粉砕もしくは摩砕ポリマー粒子、または平均で約20〜約30μmの粉砕もしくは摩砕ポリマー粒子を、乾燥粒径が約30μm以下の懸濁液または乳化重合したポリマー粒子と混合することができる。
【0040】
本発明の最も好ましい態様では、処方組成物に用いたビヒクルは、粒子の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%が、幅10μmの主要粒度分布幅の範囲に入る、狭い粒度分布を有する粒子を含んでいる。また、微細粒子(即ち、粒度が1μmより小さい粒子) の割合は、20%以下、好ましくは10%以下、そして最も好ましくは5%以下である。そのような微細粒子が多量に存在すると、眼との接触後の望ましいゲル化を阻害することが判明した。さらに、このような粒子の単分散を利用すると、ある一定の粒度について、眼科用薬剤放出系の粘度が最高になり、その眼内滞留時間が長くなるであろう。粒度が30μm以下の単分散粒子が最も好ましい。平均粒度を30μmから6μmといったより小さな粒度に下げるにつれて、主要粒度分布幅を狭くする(例えば、5μmに) ことも望ましい。主要粒度分布幅の範囲内に入る粒子の好ましい粒度は約30μm以下、より好ましくは約20μm以下、そして最も好ましくは約1μm〜約5μmである。粒度分布が狭いと良好な粒子充填が助長される。
【0041】
本発明の好ましい処方組成物は、懸濁液の全重量に基づいて、約0.1〜約6.5 重量%、より好ましくは約0.5 〜約4.5 重量%、そしてさらに一層好ましくは約1.0 〜約3.0 重量%の範囲内の量で軽架橋ポリマー粒子を含有しよう。別の態様では、本発明の処方組成物は、懸濁液の全重量に基づいて、約0.1〜約6.5 重量%、または約0.25〜約4.0 重量%、または好ましくは約0.5 〜約1重量%の範囲内の量で軽架橋ポリマー粒子を含有していてもよい。この処方組成物は好ましくは、生理学的または眼科学的に有害な成分を含有しない滅菌純水、好ましくは脱イオン水または蒸留水を用いて調製することができ、眼科学的に許容されるpH調整用の酸、塩基または緩衝剤、例えば、酢酸、ホウ酸、クエン酸、乳酸、リン酸、塩酸などの酸、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、THAM(トリスヒドロキシメチルアミノメタン) などの塩基、ならびにクエン酸/デキストロース、重炭酸ナトリウム、塩化アンモニウム、および前述の酸と塩基との混合物などの塩および緩衝剤、を用いて、任意の望ましいpH、好ましくは約6.5以下のpHに調整することができる。1好適態様では、ポリマーはカルボキシル基含有ポリマーである。別の好適態様では、ポリマーは架橋カルボキシル基含有ポリマーである。
【0042】
本発明の水性懸濁液を処方する場合、その浸透圧(π) は、適当な量の生理学的および眼科学的に許容される塩を用いて、約10ミリオスモル(mOsM)〜約400 mOsM、好ましくは約100 〜約250mOsMに調整されよう。塩化ナトリウムが生理学的流体に近似させるのに好適であり、水性懸濁液の全重量に基づいて約0.01〜約1重量%、好ましくは約0.05〜約0.45重量%の範囲内の塩化ナトリウム量が、上記範囲内の浸透圧濃度を生ずるであろう。カリウム、アンモニウムなどのカチオンと、塩素、クエン酸、アスコルビン酸、ホウ酸、リン酸、重炭酸、硫酸、チオ硫酸、重亜硫酸などのアニオンとからなる塩、例えば、塩化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウムなど、の1種または2種以上を、塩化ナトリウムに加えてまたは塩化ナトリウムに代えて、等量で使用して、上記範囲内の浸透圧濃度を得ることもできる。
【0043】
軽架橋ポリマー粒子を含む組成物を調製する場合、上述した範囲内から選んだ軽架橋ポリマー粒子の量、pH、および浸透圧は、相互に、かつ架橋度と相関させて、所望の粘度、好ましくはCP-40スピンドルを取り付けたブルックフィールドディジタルLV-CP 粘度計を用いて25℃で2.25 sec-1の剪断速度で測定して、約500 〜約10,000、より好ましくは1,000〜約5,000 、1500〜3500、そしてさらに一層好ましくは2000〜3000センチポアズの粘度を持つ水性懸濁液を得ることができる。5000 cpsより高粘度では、点眼容器を用いた組成物の取り扱いと投与が不必要に煩雑になり、間違いが起きやすくなる。1000cpsより低粘度では、組成物が出涙などにより眼から極めて容易に洗い流されるようになったり、眼内滞留時間が不十分となったりすることがある。また、粘度は主に架橋カルボキシル基含有ポリマーの種類と量に依存(pHにも依存) するので、このような低粘度の場合に存在する架橋カルボキシル基含有ポリマーの量は一般に少なすぎて、所望の薬剤放出プロファイルを与えることはできない。
【0044】
本発明のより好ましい態様の水性懸濁液によって放出された流体点眼処方組成物から生ずる粘稠なゲルの眼内滞留時間は、約2〜約12時間、例えば、約3〜約6時間の範囲となる。このような処方組成物中に含まれるキノロンカルボン酸がゲルから放出される速度は、その薬剤それ自体とその物理的形態、薬剤含有量の程度と系のpH、ならびに存在させてもよい任意成分の薬剤放出佐剤、例えば、眼表面と適合性のあるイオン交換樹脂、といった要因に依存しよう。例えば、図1bに示したフルオロキノロン抗菌剤SS734の場合、ラビットの眼内での放出は、SS734 の結膜中および涙液中濃度により測定して、4時間を超える (例えば、図3および4を参照) 。
【0045】
本発明の処方組成物のプロドラッグを含有する対応する態様も本発明の範囲内である。例えば、一般式(I)のキノロン系抗菌剤でR1 がin vivo 加水分解されうるエステル残基であるプロドラッグ処方組成物とすることができる。プロドラッグのinvivo 加水分解は、具体的には、眼および眼周囲領域での一般式(I) のキノロン系抗菌剤のプロドラッグの加水分解を包含するものである。そのようなプロドラッグ含有処方組成物のR1基は、アルカノイルオキシアルキル、アルコキシカルボニルオキシアルキル、カルバモイルアルキル、アルコキシアルキル等;より具体的には、アセトキシメチル、1-アセトキシエチル、エトキシカルボニルオキシメチル、カルバモイルメチル、カルバモイルエチル、メトキシメチルおよびメトキシエチルから選択することができよう。
【0046】
本発明の処方組成物は、眼科学的に許容されるpH調整用の酸、塩基または緩衝剤といった添加剤も含有しうる。それ以外の添加剤としては、例えば、制限されないが、キレート化剤(例、EDTA等) 、界面活性剤および上記以外の高分子添加剤 (例、PoloxamerTMポリマーのようなエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのブロック共重合体)ならびに保存剤を挙げることができる。「レミントン製薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences) 」MackPublishing Co.,ペンシルベニア州イーストンに記載されているものといった、多種多様な添加剤を本発明の組成物中に含有させうることは、当業者であれば容易に理解できよう。
【0047】
本発明の水性局所眼科用薬剤放出組成物はいくつかの方法のいずれでも調製することができる。例えば、1つの好都合な方法は、最終的な量の約95%量の水に薬剤と他の処方成分を添加し、成分を溶解させるか、または溶液を飽和させるのに十分な時間攪拌するものである。溶液の飽和は、例えば分光光度計を用いる、既知の方法により決定することができる。その後、組成物のpHおよび濃度をそれらの最終値に調整する。
【0048】
軽架橋ポリマーを含有する組成物の調製は多様な方法で行うことができる。例えば、軽架橋ポリマー粒子と浸透圧濃度調整用の塩を乾燥形態で予め混合してから、水の全量または一部に加えた後、目視できるポリマー集合物がなくなることで証明されるような、目でわかるポリマー分散が完了するまで、激しく攪拌する方法が可能である。本発明の抗菌剤は、予め混合した乾燥材料に、それらを水に添加するより前に、乾燥形態で添加することにより導入することができる。或いは、キノロン系抗菌剤は、上記の水性分散液を攪拌している間にこの分散液に、乾燥形態、懸濁状態または予め溶解して(溶液状態で) 添加することができる。その後、所望のpHを得るのに十分なpH調整剤を少しずつ添加し、必要なら100 %の処方重量 (式量) にするための追加の水をこの時点で添加することができる。
【0049】
軽架橋ポリマー粒子を含有する本発明の処方組成物の別の調製方法では、軽架橋ポリマー粒子と浸透圧濃度調整用の塩をまず乾燥形態で混合してから、抗菌剤で飽和させた懸濁液に添加し、目でわかるポリマーの水和が完了するまで攪拌する。所望のpHを得るのに十分なpH調整剤を少しずつ添加した後、残りの水を攪拌しながら加えて、懸濁液を100%の式量にする。さらに別の方法では、処方組成物を調製するために、所望のキノロン系抗菌剤を含む溶液とカルボキシル基含有ポリマー粒子を含む懸濁液とを別々に調製する。キノロン系抗菌剤溶液は、この抗菌剤が十分に可溶性であるpHで約1/3量のビヒクル溶媒(典型的には水) を用いて調製することができ、カルボキシル基含有ポリマー粒子を含む懸濁液も約1/3量のビヒクル溶媒を用いて調製することができる。カルボキシル基含有ポリマー粒子を十分に水和させた後、キノロン系抗菌剤の溶液と粒子の懸濁液とを攪拌しながら混合し、その際に、必要に応じてpHを所望範囲内に維持するのに十分な塩基または酸の添加も行う。混合が完了したら、水を加えて100%の式量にする。
【0050】
超微粒子化したキノロンカルボン酸を含有する製剤も多様な手段により調製することができる。懸濁させたキノロンカルボン酸を超微粒子化する1つの好ましい組成物調製方法では、まず所望のキノロンカルボン酸のpH−溶解度プロファイルを測定して、その化合物が低い溶解度を示すpHを決定する。その後、所望のキノロンカルボン酸を超微粒子化処理して所望の平均粒度にする。粒子の平均粒径は、一部の態様では約30ミクロンとなろうが、別の態様では約15ミクロン、別の態様では約10ミクロン、そしてさらに別の態様では約8ミクロン、そしてさらに別の態様では約5ミクロンとなろう。その後、任意の高分子添加剤を含有するビヒクルを調製し、そのpHを、所望のキノロンカルボン酸の溶解度が低いpHに調整し、これに超微粒子化した薬剤を加える。その後、必要に応じて、この処方組成物のpHを、キノロンカルボン酸の低い溶解度を保持しながら眼科用投与に適したpH範囲に調整する。
【0051】
本発明の処方組成物は、保存剤(防腐剤) を含まない1回量の、開けたら閉じることができない容器内にパッケージすることができる。1つの好ましい方法では、点眼形態で眼に投与するために、約1000〜約30,000センチポアズの範囲の所望の粘度で処方組成物を調整し、パッケージする。それにより、1回量の薬剤が眼に一度に1滴だけ放出されるようにすることができ、使用後に容器は捨てる。このような容器は、特に水銀を含む保存剤を含有する眼科用薬剤から起こることが見られてきたような、保存剤に関係する角膜上皮の刺激や鋭敏化が起こる可能性を排除する。所望により、多数回量用の容器も使用することができる。これは、特に、本発明の水性懸濁液の粘度が比較的低いため、一定で正確な量を必要に応じて一日に何回も眼に点眼投与することができるからである。保存剤を含有させる懸濁液の場合、適当な保存剤はクロロブタノール、ポリクアット(Polyquat)、塩化ベンザルコニウム、臭化セチル、過ホウ酸ナトリウム、クロルヘキシジン等である。
【0052】
本発明の処方組成物は、広範囲の微生物に対して有効なキノロン系抗菌剤を含有するので、キノロン系抗菌剤の作用を受ける微生物スペクトルに関連して眼および眼周囲領域が冒された感染症と付随症状の治療に有用である。本発明の処方組成物は、グラム陰性細菌とグラム陽性細菌の感染症の治療に有用であり、またグラム陰性細菌とグラム陽性細菌の混合感染症の治療にも有用である。そのような感染症は、下記グラム陰性菌の感染症:エシェリキア・コリ(Escherichiacoli,大腸菌) 、サルモネラ・ティフィ(Salmonella typhi,チフス菌) 、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri, 赤痢菌)、クレブシエラ・ニューモニア(Klebsiellia pneumonia, 肺炎桿菌) 、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロテウス・レットゲリ(Proteusrettgeri)、ヘモフィルス・インフルエンゼ(Haemophilus influenzae,インフルエンザ菌) 、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonasaeruginosia、緑膿菌) 、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens) 、モラクセラ・モルガニー(Moraxellamorganii)、モラクセラ・ラクナータ(Moraxella lacunata)およびモラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis);ならびに下記グラム陽性菌の感染症:バシラス・サチリス(Bacillus subtilis, 枯草菌) 、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcusaureus, 黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性および感受性の菌株を含む) 、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcusepidrmidis, 表皮ブドウ球菌) 、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus) 、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcushominis)、スタフィロコッカス・ピオゲネス(Staphylococcus pyogenes) 、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcuspneumoniae,肺炎連鎖球菌) 、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis) およびミクロコッカス・リソデイクチカス(Micrococcuslysodeikticus) 、を包含する。本発明の処方組成物は、ストレプトコッカス・ニューモニエ、スタフィロコッカス・アウレウス (メチシリン耐性および感受性の菌株を含む)、ヘモフィルス・インフルエンゼ、シュードモナス・エルジノーサ、モラクセラ・モルガニー、モラクセラ・ラクナータ、モラクセラ・カタラーリスの眼および眼周囲感染症、またはそれらの混合感染症の治療に特に有用である。1好適態様において、本発明の処方組成物は、エシェリキア・コリ、サルモネラ・ティフィ、シゲラ・フレクスネリ、クレブシエラ・ニューモニア、プロテウス・ブルガリス、プロテウス・レットゲリ、ヘモフィルス・インフルエンゼ、シュードモナス・エルジノーサ、セラチア・マルセッセンス、モラクセラ・モルガニー、モラクセラ・ラクナータおよびモラクセラ・カタラーリス、バシラス・サチリス、スタフィロコッカス・アウレウス、スタフィロコッカス・エピデルミディス、スタフィロコッカス・ヘモリティカス、スタフィロコッカス・ホミニス、スタフィロコッカス・ピオゲネス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、エンテロコッカス・フェカーリス、ミクロコッカス・リソデイクチカスおよびそれらの組合わせよりなる群から選ばれた細菌の感染症の治療に有用である。
【0053】
本発明の目的にとって、眼および眼周囲領域とは、眼と眼に隣接した組織、特に涙器の分泌液に曝される領域、であると定義される。そのような領域は、眼瞼、角膜、強膜、結膜、涙器および涙管を包含する。当業者には明らかなように、傷および感染は、結膜組織のように、眼および眼周囲領域組織の周囲または下層組織も冒すか、巻き込むことがあり、それらも本発明の処方組成物を用いて治療するのが有利であることもある。
【0054】
眼および眼周囲の細菌感染と細菌感染に付随する症状の治療は、この抗菌剤処方組成物の十分量(即ち、抗菌作用を達成するのに十分な抗菌剤を放出する十分量の処方組成物) を点眼することからなる。より好ましい態様では、この治療方法は、比較的低粘度の形態の処方組成物(即ち、点眼形態で容易に投与するのに適した粘度のものであるが、眼および眼周囲領域の組織および涙液と接触すると粘度増大を生ずるもの) を利用して、治療有効量 (被検者において抗菌作用を果たすのに十分な用量)のキノロン系抗菌剤を放出する。眼および眼周囲領域の組織または流体と接触すると、この処方組成物は粘度増大を生じて、眼感染症の治療に有用なキノロン系抗菌剤の持続放出(徐放) が可能な高粘度形態になる。本発明の処方組成物で治療しうる具体的症状の例としては、ヘモフィルス・インフルエンゼ、スタフィロコッカス・アウレウス、スタフィロコッカス・エピデルミディス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・モルガニー、モラクセラ・ラクナータ、およびモラクセラ・カタラーリス感染に付随する結膜炎、シュードモナス・エルジノーサ、セラチア・マルセッセンス、スタフィロコッカス・アウレウス、スタフィロコッカス・エピデルミディス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・モルガニー、モラクセラ・ラクナータ、およびモラクセラ・カタラーリス感染に付随する角膜潰瘍、ならびに一般式(I)のキノロン系抗菌剤に感受性のある微生物による角膜感染に付随する角膜炎が挙げられる。本発明の処方組成物を用いた治療は、この処方組成物の予防のための使用をさらに包含するものである。
【0055】
本発明の1態様において、組成物は、ビヒクル中にキノロン系化合物を含有する眼および眼周囲への投与のための持効性処方組成物であって、このビヒクルは、適当な初期粘度での投与を可能にするが、眼および眼周囲領域の組織または涙液と接触すると、その粘度が投与時の形態より大きな粘度に増大するものである。そのような処方組成物の利点としては、キノロン系抗菌剤の単なる水性溶液剤または懸濁液剤で達成しうる短い持続時間の放出とレベル(濃度) に比べて、キノロン系抗菌剤の持続放出 (徐放) を付与できることと、より高レベルのキノロン系抗菌剤を眼および眼周囲領域に放出できることがある。本発明の別の利点として、より少ない回数の抗菌剤の投与を用いて、広範囲のグラム陰性菌もしくはグラム陽性菌の感染症またはグラム陰性菌とグラム陽性菌の混合感染症を効果的に治療できることが挙げられる。これは医師と患者の双方に利点がある。なぜなら、培養での感受性が決まるまで待つのではなく、患者を診察した最も早い段階で医師が有効な治療を処方できる可能性が高まるからである。また、本発明の持効性処方組成物は投与回数がより少なくてすむので、患者の服薬遵守が高くなる可能性がより大きくなり、それにより治療結果がより積極的なものとなる。
【0056】
本発明の組成物は、多くの理由から、眼および眼周囲領域の組織へのキノロンカルボン酸の付与の面で有利である。まず、本発明の処方組成物は、予想外に高レベルのキノロン系抗菌剤を眼および眼周囲領域に付与することができる。1態様において、持効性組成物や眼および眼周囲領域の組織に投与すると粘度が増大する組成物を使用した場合、得られるキノロン系抗菌剤のレベルは、投与により涙分泌物、眼または眼周囲の組織と接触しても粘度が増大しない従来の他の点眼剤で達成できるレベルより優れたものとなる。第二に、本発明の処方組成物は予想外に長い時間にわたってキノロン系抗菌剤化合物を放出することができ、それにより頻繁に投与を繰り返す必要性が低減する。第三に、一般式(I)のキノロン系抗菌剤は吸収性が高いため、眼および眼の周囲の組織において高い生物学的利用能を示す。第四に、一般式(I) のキノロン系抗菌剤は、グラム陰性菌に対して高レベルの効力を保持しながら、グラム陽性菌(例、スタフィロコッカス・アウレウス) に対して増大した効力を示す。その結果、本発明の処方組成物は広範囲の感染症およびグラム陽性とグラム陰性の混合感染症の治療に使用可能となる。本発明のキノロン系抗菌剤処方組成物は広範囲抗菌剤を含有しているため、眼および眼周囲感染症を扱う医師は、培養での感受性が決まるまで待つのではなく、患者を診察した最も早い段階で有効な治療を処方することが可能となる。また、本発明の処方組成物はキノロン系抗菌剤の徐放を与えるので、より少ない投与回数ですむ。従って、患者が服用を遵守する確率が高くなる可能性が大きく、治療結果がより積極的なものとなる。少なくとも以上の理由により、本発明の処方組成物および治療方法は、眼および眼周囲感染症の治療に顕著な前進をもたらす。
【0057】
当業者が本発明の各種側面をより十分に理解することができるように、以下の実施例を示す。これらの実施例は例示のみを目的として示すのであって、制限するものと解すべきではない。
【実施例1】
【0058】
キノロン系抗菌剤SS734の処方組成物の例を本実施例では示す。表1に、本発明に係るキノロン系抗菌剤SS734 を含む処方組成物の例、およびSS734 を含有する2種類の比較用の処方組成物をまとめて示す。全ての成分は、NaOHと水を除いて、100ml溶液中のその重量% (即ち、g/100 ml) として示す。NaOHは約5.5 〜約5.8 の最終pHを生ずるように添加し、水は最終体積を100 mlとするように添加する。ノベオンAA-1TMは、ジビニルグリコールで架橋したアクリル酸ポリマーの商品名であって、B.F.Goodrich 社 (オハイオ州クリーブランド) の製品である。ポロキサマーTM407 はBASF社 (ドイツ、ルートビッヒスハーフェン)製のエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体である。ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンはHPBCと略記した。
【0059】
【表1】

【0060】
処方組成物は、別々に調製した薬剤溶解補助剤溶液/懸濁液を、水和させたノベオン(存在させる場合) と残りの添加剤とを含有する混合物に、連続攪拌しながら添加することにより調製する。得られた複合混合物を滴定して5.5〜5.8 の最終pHにし、各処方組成物に水を添加してSS734 の最終処方量を調整する。各処方組成物をガラス・バイアルに充填し、栓をし、クリンプする。処方組成物Aは半透明で、キノロン系抗菌剤は完全に溶解していた。処方組成物BおよびCは懸濁液である。これらの懸濁液中の薬剤の溶解度率は約0.3%である。
【実施例2】
【0061】
本実施例ではSS734による眼投与の検討を行う。涙液中濃度の検討のために、実施例1に準じて処方組成物A、BおよびCを調製する。初期測定の後、各処方組成物の25μl 量をニュージーランド白ラビットの眼に滴下する。涙液中の化合物SS734の濃度をその後の所望の時点ごとに測定する。涙液中のSS734 濃度の定量はLCMS (液体クロマトグラフィー質量分析法) による分析を用いて行う。結果は図2に示す。
【0062】
結膜中濃度の検討のために、実施例1に準じて処方組成物A、BおよびCを調製するが、ただし各サンプルは0.192%のクエン酸を含有する。クエン酸はSS734 を酸性条件下で溶解させるために使用する。初期測定の後、各処方組成物の25μl 量をニュージーランド白ラビットの眼に滴下する。結膜組織に利用可能な化合物SS734の濃度をその後の所望の時点ごとに測定する。サンプル中のSS734 濃度の定量は、実施例2に記載したHPLC方式を用いて行う。結果は図3に示す。
【0063】
以上の結果は、本発明の好適態様の1つに係る本発明例の処方組成物である処方組成物Cが、結膜と涙液の両方の測定に基づいて、化合物SS734 の延長された放出を与えることを示している。
【実施例3】
【0064】
本実施例では、本発明のSS734処方組成物を、いくつかの既知化合物の公表された結果と比較する。結果を図4および5に示す。
本発明の以上の検討は、主に本発明のある種の態様に向けられている。ここに説明した概念を実際に実施する際には、特許請求の範囲に記載された発明の技術思想から逸脱せずにさらなる変更および改変をなすことができることは当業者には明らかであろう。
【実施例4】
【0065】
本実施例には、超微粒子化したキノロン系抗菌剤SS734 の処方組成物の例を示す。全ての成分は、NaOHと水を除いて、100 ml溶液中のその重量% (即ち、g/100 ml) として示す。NaOHは約5.5〜約5.8 の最終pHを生ずるように添加し、水は最終体積を100 mlとするように添加する。この組成物を調製するため、薬剤のpH−溶解度プロファイルをまず測定したところ、この薬剤はpH6.5で溶解度が低いことが判明した。
【0066】
【表2】

【0067】
この処方組成物の調製は、抗菌剤SS734を別個に超微粒子化処理して平均粒径が10ミクロンの範囲の粒子を得ることにより行う。水和させたノベオン (存在させる場合) と残りの添加剤とを含む、処方組成物のビヒクル成分を十分な水中で別個に調製し、必要に応じてNaOHを添加してpHを6.5に調整する。連続攪拌しながら、超微粒子化したSS734 をビヒクル成分に加える。最終の処方組成物を必要に応じてpH 6.5に調整し、各組成物に水を添加して、最終の量およびSS734濃度に調整する。この処方組成物を、全成分を存在させて、123 ℃で30分間加熱滅菌処理し、予め滅菌した個々のバイアルにそれぞれの量を無菌充填する。加熱滅菌後に粒度分布に著しい変化はない。
【0068】
ここに引用した各特許文献、論文その他の参考文献はその全体を参考文献としてここに援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載される発明。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−83901(P2010−83901A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5362(P2010−5362)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【分割の表示】特願2003−503136(P2003−503136)の分割
【原出願日】平成14年4月24日(2002.4.24)
【出願人】(391008847)ボシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド (137)
【氏名又は名称原語表記】BAUSCH & LOMB INCORPORATED
【Fターム(参考)】