説明

キャスタブル耐火物の施工方法

【課題】水分添加量の少ないキャスタブル材料を、予め分割した施工箇所に1分割単位ずつ振動させながら施工することにより、施工時間の大幅な短縮と施工費のコストダウン、並びに焼却炉の年間稼働率の向上に寄与することができるキャスタブル耐火物の施工方法を提供する。
【解決手段】フロー試験で使用されるフローコーンに充填後、フローコーンを取り外した時の形状が、フローコーンの底面径で0〜+22%の拡大変形となる転写体が得られるように、水分添加量を調整しながら混練したキャスタブル材料(耐火性組成物)を、予め分割した施工箇所に1分割単位ずつ振動させながら施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスタブル耐火物の施工方法に関し、更に詳細には、産業廃棄物焼却炉やボイラ付焼却炉等の焼却炉、特に、ロータリーキルン式焼成炉の内張り材の施工又は補修に好適に用いることができるキャスタブル耐火物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物焼却炉(特に、ロータリーキルン式焼成炉)は、年間稼働率を上げるため、焼却炉の補修期間を可能な限り、短縮する必要がある。上記焼却炉は、その炉内壁面の内張り耐火物を施工するに当たり、不定形耐火物(キャスタブル耐火物)の打ち込み施工(プラスチック施工)、吹き付け施工及び流し込み施工が挙げられ、このうち、流し込み施工と吹き付け施工が多く行われている。
【0003】
しかしながら、この流し込み施工や吹き付け施工は、施工において熟練した作業者が必要であるとともに、時間(施工又は乾燥)がかかり、しかも吹き付け施工は、平面方向に積層していくため、層間で空隙が発生し易い。また、気孔率が大きいため、焼却炉内で発生する燃焼ガスが浸透しやすく、耐火物の層間で塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等が白色の結晶となって凝固、蓄積され、耐火物の強度が低い場合には表層から耐火物が剥離、脱落してしまう傾向がある。
【0004】
このため、上記焼却炉は、定期的に点検を行い、その炉内壁面の内張り耐火物の溶損部分や破損部分である補修箇所を、キャスタブル耐火物の施工により補修することが必要不可欠であった。
【0005】
例えば、キャスタブル耐火物を補修箇所に施工しようとすると、十分な流動性を得るため、キャスタブル材料の水分添加量を多くする必要があった。しかしながら、キャスタブル材料の水分添加量を多くすると、キャスタブル材料が漏れないような精密な型枠の作製が必要不可欠であり、キャスタブル材料が硬化し、キャスタブル耐火物になるまでに長時間(数時間〜半日近く)が必要であった。特に、補修箇所(施工箇所)の容積が大きくなればなる程、硬化時間(養生時間)もよりかかるため、次の補修工程に移れず、補修時間(施工時間)が長くなり、施工費が割高になるだけでなく、結果的に焼却炉の年間稼働率が著しく低下してしまうという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水分添加量の少ないキャスタブル材料を、予め分割した施工箇所に1分割単位ずつ振動させながら施工することにより、施工時間の大幅な短縮と施工費のコストダウン、並びに焼却炉の年間稼働率の向上に寄与することができるキャスタブル耐火物の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、以下のキャスタブル耐火物の施工方法を提供するものである。
【0008】
[1] フロー試験で使用されるフローコーンに充填後、前記フローコーンを取り外した時の形状が、前記フローコーンの底面径で0〜+22%の拡大変形となる転写体が得られるように、水分添加量を調整しながら混練したキャスタブル材料(耐火性組成物)を、予め分割した施工箇所に1分割単位ずつ振動させながら施工するキャスタブル耐火物の施工方法。
【0009】
[2] 1分割単位に、振動媒体を用いながら、キャスタブル材料の成形又は叩き付けを行う[1]に記載のキャスタブル耐火物の施工方法。
【0010】
[3] 1分割単位当たりのキャスタブル材料の施工厚さが、20〜200mmである[1]又は[2]に記載のキャスタブル耐火物の施工方法。
【0011】
[4] 施工箇所を、要求される施工時間とキャスタブル材料の硬化時間に基づいて、分割して施工する[1]〜[3]のいずれかに記載のキャスタブル耐火物の施工方法。
【0012】
[5] キャスタブル耐火物を施工する対象が、ロータリーキルン式焼成炉である[1]〜[4]のいずれかに記載のキャスタブル耐火物の施工方法。
【0013】
[6] ロータリーキルン式焼成炉の内周を、1/20〜1/3に分割して、1分割単位ずつ施工する[1]〜[5]のいずれか記載のキャスタブル耐火物の施工方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のキャスタブル耐火物の施工方法は、水分添加量の少ないキャスタブル材料を、予め分割した施工箇所に1分割単位ずつ振動させながら施工することにより、施工時間の大幅な短縮と施工費のコストダウン、並びに焼却炉の年間稼働率の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0016】
本発明に係るキャスタブル耐火物の施工方法は、フロー試験で使用されるフローコーンに充填後、フローコーンを取り外した時の形状が、フローコーンの底面径で0〜+22%の拡大変形となる転写体が得られるように、水分添加量を調整しながら混練したキャスタブル材料(耐火性組成物)を、予め分割した施工箇所(補修箇所)に1分割単位ずつ振動させながら施工するものである。
【0017】
これにより、本発明のキャスタブル耐火物の施工方法は、保形性があり、且つ自己流動性のない水分添加量の少ないキャスタブル材料を使用することにより、振動により流動性を発現させた場合であっても、施工位置を区分する支持型の設置だけで良いため、従来のようにキャスタブル材料が漏れないような型枠の作製が不要であり、施工費を軽減することができるだけでなく、キャスタブル材料からキャスタブル耐火物への硬化も大幅に短縮することができる。
【0018】
また、本発明のキャスタブル耐火物の施工方法は、予め分割した施工箇所に1分割単位ずつ振動させながら施工することにより、従来のように、施工時間(補修箇所)の容積が大きい場合であっても、1分割単位ずつマルチタスクで施工することができる(各分割単位で、キャスタブル材料の成形又は叩き付けとキャスタブル材料の養生を同時に行うことができる)ため、キャスタブル耐火物の施工時間(補修時間)を大幅に短縮することができる。
【0019】
尚、上記フロー試験とは、「JIS R2521−1995(耐火物用アルミナセメントの物理試験方法)」に規定された試験方法の一つであり、その測定方法は、測定試料である混練物を乾燥した布でよくぬぐったフローテーブル上の中央の位置に置いた底面径100mm、上面径70mmの円錐台形状のフローコーン内に2層に詰める。各層は突き棒の先端がその層の約1/2の深さまで入るように全面にわたって各15回突き、最後に不足分を補い表面をならす。詰めた後直ちに、フローコーンを上の方に取り去ってから15秒後、試料の混練物が広がった最大径と、これに直角の方向とノギスで測定するものである。このとき、測定されたその平均値をmm単位とする無名数の整数で表した値がフロー値である。
【0020】
本発明で用いる混練したキャスタブル材料の水分添加量は、特に限定されないが、3.0〜4.6質量%であることが好ましい。これは、例えばAl23及びSiO2を主成分とするキャスタブル材料の場合、保形性があり、且つ自己流動性が無く、外部振動により流動性が発現することができるとともに、キャスタブル材料が硬化し、キャスタブル耐火物になるまでの硬化時間(養生時間)を短縮することができるからである。
【0021】
また、本発明のキャスタブル耐火物の施工方法は、保形性があり、且つ自己流動性が無く、外部振動により流動性が発現することができるキャスタブル材料を用いるため、施工時に、振動媒体を用いながら、キャスタブル材料の成形又は叩き付けを行うことが好ましい。
【0022】
更に、本発明のキャスタブル耐火物の施工方法は、1分割単位当たりの施工箇所(補修箇所)の施工厚さが20〜200mmであることが好ましい。これは、施工厚さが200mm超過する場合、施工箇所(補修箇所)に均等な振動が伝わらないため、厚み方向で充填ムラ(密度ムラ)が発生するからである。しかしながら、上記施工厚さが250〜300mm程度であれば、施工する上で支障はない。
【0023】
次に、本発明のキャスタブル耐火物の施工方法は、前述した通り、施工箇所(補修箇所)を、要求される施工時間(補修時間)とキャスタブル材料の硬化時間に基づいて、分割して施工することにある。
【0024】
例えば、ロータリーキルン式焼成炉に本発明を適用する場合、ロータリーキルン式焼成炉の内周を、1/20〜1/3に分割して、1分割単位ずつ施工することが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1〜6、比較例1〜4)
71質量%のAl23と23質量%のSiO2を主成分とするキャスタブル原料(添加水分規格5〜6%)1バッチ200kgに、所定量の水を添加して、ミキサー(ミキサー能力8才[1才=25kg混合能力])2台を用いて混合(5分/回)・混練し、得られたキャスタブル材料中の水分添加量が3.7質量%(誤差±0.1%)になるように、キャスタブル材料を作製した。
【0027】
このとき、初めに1台のミキサーで1バッチ200kgのキャスタブル原料に、所定量の水を添加し、5分混合する。次に、もう1台のミキサーで前述と同様に混合しつつ、先に混合を始めたミキサーの混練開始後の2分後にミキサーの羽を回転させ、混練を行った。
【0028】
次に、得られたキャスタブル材料を用いて、内径4.7m、全長10.0mの焼却炉内へのキャスタブル耐火物の施工を実施した。内径4.7mを10分割し、1分割単位(弦状)を約1.5m(幅)とし、1分割単位を円周方向で木等の型を用いて施工範囲(長さ10m)に予め区分した。尚、施工箇所へのキャスタブル材料の運搬は、施工箇所の手前までベルトコンベアで連続的に運搬し、ベルトコンベアから施工箇所まで一輪車で行った。
【0029】
その1分割単位の施工箇所に運搬・投入されたキャスタブル材料は、振動媒体(成形機で外部振動を与えながら、キャスタブル材料を施工箇所に施工した。1分割単位の施工終了後、1時間の養生時間を保持した。養生後、型を外し、隣の1分割単位の施工箇所を同様の方法で順次施工を行った。尚、1分割単位の施工に、キャスタブル材料を9t(ミキサー混合回数45回)を用いて、10分割90tのキャスタブル耐火物の施工を60時間(2.5日)で行うことができた(実施例1)。
【0030】
このとき、内径4.7m、全長10.0mの焼却炉内へのキャスタブル耐火物の施工を前述と同様の方法で、キャスタブル材料中の水分添加率を表1に示す条件で行ったときに得られたキャスタブル耐火物の気孔率、圧縮強度及び施工時間の結果を表1に示す(実施例1〜6、比較例1〜4)。
【0031】
一方、従来の施工方法では、内径4.7m、全長10.0mの型枠をしっかり作製した後、キャスタブル材料を流し込み、キャスタブル材料が硬化後、型枠を再セットすることで施工が完了する。この施工方法の場合、1日当たりの施工量が約8tであるため、全ての施工(90t)が完了するのに246時間(約11日間)を要した(比較例4)。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果から、キャスタブル材料中の水分添加率が3.7〜4.5質量%の時(実施例1〜5)、従来の施工方法と比較しても品質的に遜色無く、施工時間も従来の施工方法の約1/4と大幅に短縮することを確認した。
【0034】
(実施例7〜11、比較例5〜9)
55質量%のAl23と41質量%のSiO2を主成分とするキャスタブル原料(添加水分規格6〜7%)を用いて、キャスタブル材料中の水分添加率を表2に示す条件で前述と同様の方法でキャスタブル耐火物の施工をそれぞれ実施した。尚、1分割単位の施工に、キャスタブル材料を8.2t用いて、全体で10分割82tのキャスタブル耐火物の施工を行った。得られたキャスタブル耐火物の圧縮強度及び施工時間の結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2の結果から、キャスタブル材料中の水分添加率が4.0〜4.6質量%の時(実施例7〜10)、従来の施工方法と比較しても品質的に遜色無く、施工時間も従来の施工方法の約1/4と大幅に短縮することを確認した。
【0037】
(実施例12〜18)
成形機1回当たりのキャスタブル材料の施工厚さを20〜300mmに変化させた時、最終的に得られたキャスタブル耐火物の厚み方向における密度分布の測定を行った。その結果を表3に示す。尚、キャスタブル耐火物の施工は、実施例1に準拠して行った。
【0038】
【表3】

【0039】
表3の結果から、成形機1回当たりのキャスタブル材料の施工厚さが20〜200mm(実施例12〜16)までは、最終的に得られたキャスタブル耐火物の厚み方向における密度分布にほとんど差異が見られなかったが、成形機1回当たりの施工厚さが200mmを超過する場合(実施例17及び実施例18)、振動力がキャスタブル材料の全域に伝達させることができなかったため、厚み方向で充填ムラ(密度ムラ)が発生していることを確認した(特に、振動面の反対側[下]のかさ比重低下)。しかしながら、上記施工厚さが250〜300mm程度であれば、施工する上で支障はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のキャスタブル耐火物の施工方法は、産業廃棄物焼却炉やボイラ付焼却炉等の焼却炉、特に、ロータリーキルン式焼成炉の内張り材の施工又は補修に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー試験で使用されるフローコーンに充填後、前記フローコーンを取り外した時の形状が、前記フローコーンの底面径で0〜+22%の拡大変形となる転写体が得られるように、水分添加量を調整しながら混練したキャスタブル材料(耐火性組成物)を、予め分割した施工箇所に1分割単位ずつ振動させながら施工するキャスタブル耐火物の施工方法。
【請求項2】
前記1分割単位に、振動媒体を用いながら、前記キャスタブル材料の成形又は叩き付けを行う請求項1に記載のキャスタブル耐火物の施工方法。
【請求項3】
前記1分割単位当たりのキャスタブル材料の施工厚さが、20〜200mmである請求項1又は2に記載のキャスタブル耐火物の施工方法。
【請求項4】
前記施工箇所を、要求される施工時間とキャスタブル材料の硬化時間に基づいて、分割して施工する請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャスタブル耐火物の施工方法。
【請求項5】
キャスタブル耐火物を施工する対象が、ロータリーキルン式焼成炉である請求項1〜4のいずれか1項に記載のキャスタブル耐火物の施工方法。
【請求項6】
前記ロータリーキルン式焼成炉の内周を、1/20〜1/3に分割して、1分割単位ずつ施工する請求項1〜5のいずれか1項に記載のキャスタブル耐火物の施工方法。

【公開番号】特開2006−258352(P2006−258352A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75711(P2005−75711)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(000237868)エヌジーケイ・アドレック株式会社 (37)
【Fターム(参考)】