説明

キャスタ

【課題】複雑な形状をなす操作レバーが不要であり、取付部分の設計の自由度も向上させることができるキャスタを提供する。
【解決手段】キャスタCが、アウターケース1とインナー部材2と車輪3とを具備してなり、アウターケース1を、ワゴンWに対して固定される固定ケース部11と、固定ケース部11に対して相対動作可能でインナー部材2を旋回可能に保持する可動ケース部12とを備えたものにし、アウターケース1内に前記固定ケース部に対する前記可動ケース部の相対動作を利用して前記車輪3の回転及びインナー部材2の旋回動作をロックするための車輪ロック機構4及び旋回ロック機構5とを設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワゴン等に好適に用いられるキャスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種のキャスタとして、ワゴン等の取付対象物に取り付けられるアウターケースと、このアウターケース内に配設され、略鉛直方向の旋回軸回りに旋回可能に保持されたインナー部材と、このインナー部材の旋回軸から偏心した位置に軸着された車輪とを具備してなるものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなキャスタにおいては、移動後に一定位置に接地したワゴン等をその位置で安定させるために車輪の回転をロックする車輪ロック機能と、インナー部材が旋回するのを禁止する旋回ロック機能を備えている。すなわち、このようなキャスタは、インナー部材の旋回中心位置にアウターケースに貫通するスライドピンを設けておき、このスライドピンを昇降動作させることによって前記車輪ロック機能及び前記旋回ロック機能を発揮させることができるようになっている。
【0004】
ところで、従来のものは、アウターケースの上面に前記スライドピンを突出させておきそのスライドピンの上端を操作レバーに設けたカム機構等により付勢してロック及びアンロックの切換を行うことができるようにしている。しかるに、この種のキャスタは、ワゴン等の下面に上半部分を埋設したような状態で取り付けられるため、アウターケースの上面部分は取付対象物の下縁よりも上方に位置することが一般的である。そのため、前記操作レバーは複雑に屈曲し、その先端がワゴンの下縁下側を通って外方に突出したものとならざるを得ない。
【0005】
また、このようなものでは、操作レバーの動作をスライドピンの昇降動作に変更するためのカム機構等がアウターケースの外に露出することになる。そのため、ゴミ等がそのカム機構にかみこんで作動不良を招くことを抑制するために、取付部分の密封性などに工夫をこらす必要があり、設計に一定の制限を受ける場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−302196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に着目してなされたもので、複雑な形状をなす操作レバーが不要であり取付部分の設計の自由度も向上させることができるキャスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明のキャスタは、次の構成をなすものである。
【0009】
請求項1に係るキャスタは、取付対象物に取り付けられるアウターケースと、このアウターケース内に配設され略鉛直方向の旋回軸回りに旋回可能に保持されたインナー部材と、このインナー部材の前記旋回軸から偏心した位置に軸着された車輪とを具備してなるキャスタであって、前記アウターケースを、前記取付対象物に対して固定される固定ケース部と、この固定ケース部に対して相対動作可能で前記インナー部材を旋回可能に保持する可動ケース部とを備えたものにし、前記アウターケース内に前記固定ケース部に対する前記可動ケース部の相対動作を利用して前記車輪の回転をロックするための車輪ロック機構と、前記相対動作を利用して前記インナー部材の旋回をロックするための旋回ロック機構とを設けたものである。
【0010】
請求項2に係るキャスタは、請求項1に係る構成において、前記可動ケース部が、前記固定ケース部に対して一定範囲内で水平旋回可能なものである。
【0011】
請求項3に係るキャスタは、請求項1又は2に係る構成において、前記可動ケース部が、前記インナー部材を旋回可能に包持する筒状部分と、この筒状部分の外周から略水平方向に突出するレバー部分とを備えたものである。
【0012】
請求項4に係るキャスタは、請求項1、2又は3に係る構成において、前記固定ケース部が、前記可動ケース部を包持する固定周壁と、その固定周壁の上端に設けた固定天壁とを備えたものであるとともに、前記可動ケース部が、前記固定周壁の内側に嵌り込む可動周壁と、この可動周壁の上端に設けた可動天壁とを備えたものであり、前記車輪ロック機構が、スライドピンの昇降によって車輪のロック又はアンロックを行うようにしたものであって、前記固定ケース部の固定天壁と前記可動ケース部の可動天壁との間に設けられ前記固定ケース部と可動ケース部との相対動作を前記スライドピンの昇降動作に変換するカム機構を備えているものである。
【0013】
請求項5に係るキャスタは、請求項1、2、3又は4に係る構成において、前記旋回ロック機構が、可動ケース部に保持されたロックピンをインナー部材方向に突没させることによりインナー部材の旋回動作をロック又はアンロックするようにしたものであって、前記固定ケース部と前記可動ケース部との対向部分に設けられ前記固定ケース部と前記可動ケース部との相対動作を前記ロックピンの突没動作に変換するカム機構を備えているものである。
【0014】
請求項6に係るキャスタは、請求項1、2、3、4又は5に係る構成において、前記取付対象物の底部に前記アウターケースを取り付けた状態で前記レバー部分が取付対象物の外面よりも外方に突出するように構成されているものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複雑な形状をなす操作レバーが不要であり取付部分の設計の自由度も向上させることができるキャスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示す斜視図。
【図2】同実施形態を示す斜視図。
【図3】同実施形態を示す斜視図。
【図4】同実施形態を示す側断面図。
【図5】同実施形態を示す分解斜視図。
【図6】同実施形態を示す底面図。
【図7】同実施形態の作用説明図。
【図8】同実施形態の作用説明図。
【図9】同実施形態を示す斜視図。
【図10】同実施形態を示す斜視図。
【図11】同実施形態のカム機構を説明するための模式図。
【図12】同実施形態のカム機構を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態は、本発明を取付対象物であるワゴンWの底部に装着して用いられるキャスタCに適用した場合のものである。
【0019】
このキャスタCは、ワゴンWに取り付けられるアウターケース1と、このアウターケース1内に配設され略鉛直方向の旋回軸j回りに旋回可能に保持されたインナー部材2と、このインナー部材2の前記旋回軸jから偏心した位置に軸着された車輪3とを具備してなるものである。このキャスタCは、詳しくは後述するように、車輪3の回転ロック及びインナー部材2の旋回ロックがどちらも行われているロック状態Aと、車輪3の回転ロック及びインナー部材2の旋回ロックがどちらも解除されているアンロック状態Bとをとり得るようになっている。
【0020】
以下、各部について順に説明する。
【0021】
アウターケース1は、ワゴンWのベースフレーム8に対して固定される固定ケース部11と、この固定ケース部11に対して相対動作可能で前記インナー部材2を旋回可能に保持する可動ケース部12とを備えている。
【0022】
アウターケース1が取り付けられるワゴンWのベースフレーム8は、図4に示すように、上水平板81と、この上水平板81の前縁から垂下する前板82と、この前板82の下縁から後方に屈曲する屈曲板83と、前記上水平板81の後縁から垂下する後板84と、この後板84の下縁から後方に延びる下水平板85とを具備してなる略チャンネル状のものであり、下水平板85には位置決め孔85aが形成されている。
【0023】
アウターケース1の固定ケース部11は、前記可動ケース部12を包持する固定周壁111と、その固定周壁111の上端に設けた固定天壁112と、固定周壁111の前面側から突出する前延出壁113と、前記固定周壁111の背面側から突出する後延出壁114と、この後延出壁114の後縁に立設された起立壁115とを備えたものである。起立壁115の前面には係合爪t1が形成されているとともに、前記後延出壁114の上面には位置決め突起t2が突設されている。しかして、この固定ケース部11は、前延出壁113の先端部分を、前記ワゴンWのベースフレーム8の屈曲板83の先端上面に係わり合わせた状態で、固定ケース部11の後方をベースフレーム8方向に回動させることにより、前記位置決め突起t2が前記位置決め孔85aに嵌合するとともに前記起立壁115に設けた係合爪t1が前記ベースフレーム8の下水平板85の後縁に部材の弾性変形を利用して係合し、その状態でこの固定ケース部11が前記ベースフレーム8に固定される。このキャスタCは、例えば、図1及び図2に示すように、ワゴンWの底部すなわち底面に前記アウターケース1を取り付けた状態で前記レバー部分LBがワゴンWの外面よりも外方に突出するように構成されている。
【0024】
可動ケース部12は、前記インナー部材2を旋回可能に包持する筒状部分TBと、この筒状部分TBの外周から略水平方向に突出するレバー部分LBとを備えたもので、筒状部分TBは、固定ケース部11の固定周壁11の内側に嵌り込む可動周壁121と、この可動周壁121の上端に設けた可動天壁122とを具備してなる。可動天壁122の中心部下面には後述するスライドピンp1を挿通させるためのボスb1が形成されており、このボスb1の外周にはインナー部材2を回転可能に取り付けるための爪t3が形成されている。ボスb1の内周にはキー溝m1が形成されている。レバー部分LBは、径方向に延びる対をなす案内壁123間に後述する旋回ロックを行うためのロックピンp2を配設可能なロックピン配設空間s1を形成したもので、このロックピン配設空間s1は前記筒状部分TBに設けた窓w1を介して筒状部分TBの内部に連通させてある。筒状部分TBにおける先端近傍の上面部分には、開口窓w2が形成されている。そして、利用者が、筒状部分TBの上側から開口窓w2を通して筒状部分TBの内部、すなわちロックピン配設空間s1の一部を視認できるように構成されている。本実施形態では、図7及び図8に示すように、ロック状態Aにおいては、開口窓w2を通してロックピンp2が見えないようになっており、アンロック状態Bにおいては、開口窓w2を通じてロックピンp2の一部が見えるようになっている。
【0025】
この可動ケース部12の前記固定ケース部11に対する取り付けは、次の通りである。
【0026】
固定ケース部11の固定天壁112の下面には、その中心を囲うようにして複数の弾性爪t4が突設してある。一方、可動ケース部12における可動天壁122の前記各弾性爪t4に対応する部位には複数の爪係合孔h1が設けてある。そして、前記各弾性爪t4を前記爪係合孔h1に貫通して可動天壁122の下面に係合させることにより、前記可動ケース部12を前記固定ケース部11に離脱しないように取り付けている。なお、各爪係合孔h1は、可動ケース部12が前記固定ケース部11に対して一定角度範囲内で水平旋回し得るように円周方向に延びる長孔状をなしている。
【0027】
インナー部材2は、円筒状をなす周壁21と、この周壁21の上端に設けた天壁22とを有してなる有底円筒体状をなすもので、天壁22の中心部には貫通孔221が形成されているとともに、中心から偏心した位置に車輪3のシャフト31を保持するためのシャフト保持部222が形成されている。
【0028】
このインナー部材2の可動ケース部12への取付は、次の通りである。
【0029】
すなわち、可動ケース部12のボスb1の先端部分を、インナー部材2の貫通孔221に貫通させ、その貫通端に形成されている爪t3をインナー部材2の天壁22の下面に係合させることにより、インナー部材2を可動ケース部12に鉛直方向の旋回軸j回りに旋回可能に取り付けている。なお、インナー部材2の天壁22の上面と可動ケース部12の可動天壁122の下面との間には複数のボール61を有したラジアル・スラストベアリング6が設けられている。
【0030】
車輪3は、前記シャフト保持部222に両端を保持されたシャフト31と、このシャフト31に回転可能に支持された対をなす車輪本体32とを具備してなる。各車輪本体32は、ボス321とリム322間に内側に開放された環状凹陥部323が形成されたもので、ボス321同士を突き合わせてシャフト31に装着することによりリム322間に隙間が形成されるようになっている。また、各車輪本体32のリム322の内周には内歯歯車g1が形成されている。
【0031】
以上のようにしてなるキャスタCの前記アウターケース1内には、前記固定ケース部11に対する前記可動ケース部12の相対回転動作を利用して前記車輪3の回転をロックするための車輪ロック機構4と、前記相対回転動作を利用して前記インナー部材2の旋回をロックするための旋回ロック機構5とが設けられている。しかして、このキャスタCは、車輪3の回転ロック及びインナー部材2の旋回ロックがどちらも行われているロック状態Aと、車輪3の回転ロック及びインナー部材2の旋回ロックがどちらも解除されているアンロック状態Bとをとり得るようになっている。より具体的に言えば、本実施形態においては、可動ケース部12を水平方向に回転操作することにより、可動ケース部12と固定ケース部11のレバー部分LBとによって平面視略I字状すなわち直線状となる姿勢においては、車輪3の回転ロック及びインナー部材2の可動ケース部12に対する旋回ロックがどちらも行われているロック状態Aをとることができるとともに、可動ケース部12と固定ケース部11のレバー部分LBとによって平面視略くの字状となる姿勢においては、車輪3の回転ロック及びインナー部材2の可動ケース部12に対する旋回ロックが何れも解除されているアンロック状態Bをとることができるようになっている。
【0032】
まず、車輪ロック機構4について説明する。
【0033】
車輪ロック機構4は、スライドピンp1の進退動作、すなわち、可動ケース部12及びインナー部材2の旋回軸と軸心を一致させて配されたスライドピンp1の上下昇降動作によって前記車輪3のロック又はアンロックを行うようにしたものであって、前記固定ケース部11の固定天壁112と前記可動ケース部12の可動天壁122との間に設けられ前記固定ケース部11と可動ケース部12との相対回転動作を前記スライドピンp1の昇降動作に変換するカム機構41を備えている。
【0034】
詳述すれば、車輪ロック機構4は、インナー部材2に回動可能に設けられ車輪本体32のリム322間の隙間に挿入される先端部411aに前記車輪本体32の内歯歯車g1に係脱する係合爪t5を有した回動アーム411と、この回動アーム411を前記係合爪t5が内歯歯車g1に係合する方向に弾性付勢するスプリングたる板バネsp1と、前記可動ケース部12のボスb1に昇降可能に装着され下端を前記回動アーム411の中間位置に当接させたスライドピンp1と、このスライドピンp1を回動アーム411の係合爪t5が内歯歯車g1に係合する上昇位置Xから前記係合爪t5が内歯歯車g1から離脱する降下位置Yまでの間で昇降させる前記カム機構41とを具備してなる。なお、前記スライドピンp1の外周にはキーt6が一体に形成されており、これらのキーt6を前記ボスb1の内周に形成したキー溝m1に係合させることによりスライドピンp1が可動ケース部12とともに回動し得るようになっている。
【0035】
車輪ロック機構4を構成するカム機構41は、前記スライドピンp1の上端に設けられ、前記固定ケース部11の固定天壁112と可動ケース部12の可動天壁122との間に位置するカム羽根f1と、このカム羽根f1を付勢すべく固定天壁112の下面に設けられたカム面112bとを具備してなる。具体的には、前記スライドピンp1の上端には固定ケース部11の中心すなわち固定天壁112に設けられた案内孔h2に摺動可能に嵌装された大径部p11の下半部外周に複数のカム羽根f1を放射状に突設している。カム羽根f1の円周方向一端側には傾斜面f11が形成されている。一方、固定天壁112の下面には、各カム羽根f1を収容可能な凹陥部112aが円周方向に間隔をあけて形成されており、これら凹陥部112aの円周方向一端部には前記カム羽根f1の傾斜面f11に摺接するカム面112bが形成されている。
【0036】
しかして、可動ケース部12を固定ケース部11に対して図1、図4、図7及び図9に示すようなロック位置に保持している場合には、前記各カム羽根f1が前記各凹陥部112a内に収容されており、前記スライドピンp1は板バネsp1の付勢力により上昇位置Xに保持されるようにしてある。可動ケース部12を固定ケース部11に対して図2、図8及び図9に示すようなアンロック位置まで回動させると、可動ケース部12の旋回に伴ってスライドピンp1がカム羽根f1とともに回転し、カム羽根f1の傾斜面f11が固定ケース部11のカム面112bに案内されて下方に付勢される。その結果、スライドピンp1が板バネsp1の付勢力に抗して下方に降下し、前記回動アーム411が基端に設けられた支軸411bを中心にして下方に回動し、係止爪t5が内歯歯車g1から外れるようになっている。なお、以上に説明したカム羽根f1と固定ケース部11のカム面112bとの係わり合いについては、図11において模式的に示している。
【0037】
次に、旋回ロック機構5について説明する。
【0038】
旋回ロック機構5は、前記可動ケース部12に保持されたロックピンp2をインナー部材2の方向に進退すなわち突没させることによりインナー部材2の旋回動作をロック又はアンロックするようにしたものであって、前記固定ケース部11と前記可動ケース部12との対向部分に設けられ前記固定ケース部11と前記可動ケース部12との相対動作を前記ロックピンp2の突没動作に変換するカム機構51を備えている。
【0039】
詳述すれば、旋回ロック機構5は、前記インナー部材2の周壁21外面に形成した外歯歯車g2と、前記可動ケース部12のレバー部分LBに形成されたロックピン配設空間s1にスライド可能に収容されその先端が窓w1を通してインナー部材2側に突出して前記外歯歯車g2に係合するロック位置から窓w1内に没入して前記外歯歯車g2から離脱するアンロック位置までの間で進退するロックピンp2と、このロックピンp2をロック位置方向に弾性付勢するスプリングたるコイルスプリングsp2と、このロックピンp2を固定ケース部11に対する可動ケース部12の旋回動作を利用して進退動作させるカム機構51とを具備してなる。
【0040】
旋回ロック機構5を構成するカム機構51は、固定ケース部11と可動ケース部12とが対向する部分に設けられたもので、具体的には前記可動ケース部12により隠された前記固定ケース部11の下面、より具体的には固定ケース部11の前延出壁113の下面に設けたカム溝m2と、ロックピンp2の上面に突設されカム溝m2内に挿通された突起t6とを備えたものである。しかして、可動ケース部12を回動操作することにより、可動ケース部12に保持されたロックピンp2の突起t6が、カム溝m2の一方の内側に形成されたカム面m21により案内され、前記ロックピンp2をインナー部材2と係わり合うロック位置たる係合位置Rとインナー部材2との係わり合いが解除されるアンロック位置たる退避位置Uとの間で進退動作するようになっている。すなわち、前記可動ケース部12が、図1、図4、図6及び図8に示すようなロック位置にある場合には、前記突起t6がカム溝m2の一端側に位置し、前記ロックピンp2はコイルスプリングsp2の付勢力によりロック位置である係合位置Rに保持されている。そして、可動ケース部12を、図2、図8及び図9に示すようなアンロック位置まで旋回操作すると、その可動ケース部12に保持されたロックピンp2の突起t6が固定ケース部11に形成されたカム溝m2のカム面m21に案内されて他端側に位置するようになり、前記ロックピンp2がアンロック位置である退避位置Uまでコイルスプリングsp2の付勢力に抗して移動するようになっている。なお、以上に説明したロックピンp2の突起t6とカム溝m2との係わり合いについては、図12において模式的に示している。
【0041】
このように、本実施形態に係るキャスタCにおいては、可動ケース部12のレバー部分LBを水平方向に回動操作することによって車輪3の回転とインナー部材2の旋回動作をロックしたり、それらのロックを解除したりすることができるようになっている。しかして、このものはアウターケース1を固定ケース部11と可動ケース部12に分割し、固定ケース部11に対する可動ケース部12の旋回動作を利用してロック・アンロック状態を実現することができるようにしているので、複雑な形状の操作レバーが不要となり構成の簡略化を図ることができる。しかも、前記アウターケース1内に車輪3をロックするための車輪ロック機構5と、旋回ロック機構6を配しているので、埃等の存在により作動不良を招くという不具合の発生を抑制することができるように設計することが容易になる。
【0042】
また、本実施形態に示すものは、スライドピンp1の昇降動作によって車輪3のロック・アンロックのみを行い、インナー部材2の旋回に対するロック・アンロックは、インナー部材2の外側に設けたロックピンp2により行うようにしている。そのため、インナー部材2の内部に旋回ロック機構を組み込む必要が無くなる。したがって、部品の配置を分散することができ、強度的に優れた設計を実現し易いものとなる。具体的には、インナー部材2の旋回ロックを行うためのロックピンp2をインナー部材2の内側に配する場合にはスペース上の制約があるため十分な強度を確保することが難しくなる場合があるが、本キャスタCのように、ロックピンp2をインナー部材2の外側に配する場合にはそのような制約が無くなり、設計の自由度が高くなる。
【0043】
可動ケース部12が、インナー部材2を旋回可能に包持する筒状部分TBと、この筒状部分TBの外周から略水平方向に突出するレバー部分LBとを備えたものであるので、レバー部分LBを使用して車輪3のロック及びインナー部材2の旋回ロックを同時に行うための操作を容易に行うことができる。
【0044】
ワゴンWの底面にアウターケース1を取り付けた状態で、レバー部分LBがワゴンWの外面よりも外方に突出するように構成されているため、オフィス等における使用者にとってはレバー部分LBに対してアクセスし易いものとなっている。
【0045】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0046】
キャスタを取りつけるべき取付対象物は、本実施形態に示したワゴンに限られるものではなく、例えば、デスクやテーブル等の天板付き家具における脚の底部に取り付けても良いし、ホワイトボードや黒板等のボード支持体における脚の底部に取り付けても良いし、ローパーティション等の仕切り機能を発揮する家具における脚の底部に取り付けるようにしても良い。
【0047】
取付対象物に対する取付の態様は、本実施形態に示されるものには限定されず、例えば、ボルトやナット等の適宜の取付手段を利用してキャスタを取付対象物に取り付けるようにしてもよい。
【0048】
車輪ロック機構や旋回ロック機構を作動するための固定ケース部と可動ケース部との相対動作は、本実施形態に示した水平方向の旋回動作に限られるものではなく、前後や左右に直線的にスライドさせることにより相対位置を変更させるようにしてもよい。
【0049】
固定ケース部や可動ケースの形状は種々の形状とすることができ、本実施形態に示されるものに限定されない。同様に、インナー部材の形状についても種々の形状を採用することができ、本実施形態に示されるものには限定されない。
【0050】
車輪ロック機構を構成するカム機構及び旋回ロック機構を構成するカム機構の具体的な構成は、本実施形態に示されるものの他、種々の構成を適用することができるのはもちろんのことである。
【0051】
旋回ロック機構を構成するロックピンに、ロック状態やアンロック状態を視覚的に区別して示す表示機能、いわゆるインジケータの機能を持たせるようにしても良い。例えば、上述した実施形態に示すように、ロック状態Aでは可動ケース部12のレバー部分LBに形成された開口窓w2からロックピンp2が表出しないようにし、アンロック状態Bでは開口窓w2からロックピンp2が表出するようにしたものが考えられる。また、その他のものとしては、例えば、ロック状態とアンロック状態によって、開口窓から表出する色彩を変えるようにしたものが考えられる。具体的には、レバー部分の上側から開口窓を通して視認可能にしたロックピンの一面に色彩の異なる2箇所の表示部分を設け、ロック状態では一方の色彩の表示部分が開口窓から見えるようにし、アンロック状態では他方の色彩の表示部分が開口窓から見えるようにしたものを挙げることができる。以上に説明したもの以外にも、ロック状態とアンロック状態との間で配置箇所が変化するロックピンに関連させて種々のインジケータの構成を採用することができるのはもちろんのことである。
【0052】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…アウターケース
2…インナー部材
3…車輪
4…車輪ロック機構
5…旋回ロック機構
11…固定ケース部
12…可動ケース部
C…キャスタ
W…取付対象物(ワゴン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付対象物に取り付けられるアウターケースと、このアウターケース内に配設され略鉛直方向の旋回軸回りに旋回可能に保持されたインナー部材と、このインナー部材の前記旋回軸から偏心した位置に軸着された車輪とを具備してなるキャスタであって、
前記アウターケースを、前記取付対象物に対して固定される固定ケース部と、この固定ケース部に対して相対動作可能で前記インナー部材を旋回可能に保持する可動ケース部とを備えたものにし、前記アウターケース内に前記固定ケース部に対する前記可動ケース部の相対動作を利用して前記車輪の回転をロックするための車輪ロック機構と、前記相対動作を利用して前記インナー部材の旋回をロックするための旋回ロック機構とを設けたことを特徴とするキャスタ。
【請求項2】
前記可動ケース部が、前記固定ケース部に対して一定範囲内で水平旋回可能なものである請求項1記載のキャスタ。
【請求項3】
前記可動ケース部が、前記インナー部材を旋回可能に包持する筒状部分と、この筒状部分の外周から略水平方向に突出するレバー部分とを備えたものである請求項1又は2記載のキャスタ。
【請求項4】
前記固定ケース部が、前記可動ケース部を包持する固定周壁と、その固定周壁の上端に設けた固定天壁とを備えたものであるとともに、前記可動ケース部が、前記固定周壁の内側に嵌り込む可動周壁と、この可動周壁の上端に設けた可動天壁とを備えたものであり、
前記車輪ロック機構が、スライドピンの昇降によって車輪のロック又はアンロックを行うようにしたものであって、前記固定ケース部の固定天壁と前記可動ケース部の可動天壁との間に設けられ前記固定ケース部と可動ケース部との相対動作を前記スライドピンの昇降動作に変換するカム機構を備えている請求項1、2又は3記載のキャスタ。
【請求項5】
前記旋回ロック機構が、可動ケース部に保持されたロックピンをインナー部材方向に突没させることによりインナー部材の旋回動作をロック又はアンロックするようにしたものであって、前記固定ケース部と前記可動ケース部との対向部分に設けられ前記固定ケース部と前記可動ケース部との相対動作を前記ロックピンの突没動作に変換するカム機構を備えている請求項1、2、3又は4記載のキャスタ。
【請求項6】
前記取付対象物の底部に前記アウターケースを取り付けた状態で前記レバー部分が取付対象物の外面よりも外方に突出するように構成されている請求項1、2、3、4又は5記載のキャスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−1307(P2013−1307A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136262(P2011−136262)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】