説明

キャスト塗工紙

【課題】本発明の課題は、キャスト面の面感、白紙光沢度に優れ、かつ生産性の高いキャスト塗工紙を提供することである。
【解決手段】原紙に顔料と接着剤を主成分とするキャスト塗工層を設け、湿潤状態にある該キャスト塗工層を加熱された鏡面仕上げ面に圧接、乾燥して仕上げるキャスト塗工紙において、前記キャスト塗工層中に、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウムおよび/またはラウリル硫酸ナトリウムを含有することを特徴とするキャスト塗工紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原紙に顔料と接着剤を主成分とするキャスト塗工層を設け、該キャスト塗工層が湿潤状態にある間に加熱された鏡面仕上げ面に圧接、乾燥して仕上げるキャスト塗工紙及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャスト塗工紙と呼ばれる強光沢塗工紙は、原紙の表面に顔料および接着剤を主成分とする水性塗料を塗工してキャスト塗工層を設け、塗工層が湿潤状態にある段階で、キャスト塗工層を加熱された金属製の鏡面仕上げ面(ドラム)に圧接し、乾燥することにより製造されている。
【0003】
このキャスト塗工紙の製造方法としては、湿潤状態の塗工層を直接加熱された鏡面仕上げ面に圧接して光沢仕上げするウェットキャスト法(直接法)、湿潤状態の塗工層をゲル(凝固)状態にして加熱された鏡面ドラム面に圧接して光沢仕上げするゲル化キャスト法(凝固法)、湿潤状態の塗工層を一旦乾燥した後、再湿潤により可塑化して加熱された鏡面仕上げ面に圧接するリウェットキャスト法(再湿潤法)等が知られている。
【0004】
これらのキャスト塗工紙製造法はいずれもキャスト塗工層が湿潤または可塑状態にあるうちに加熱された鏡面仕上げ面に圧接、乾燥させることで共通している。ただし、キャスト塗工層の可塑状態の違いにより操業性および得られるキャスト塗工紙の品質において、それぞれ以下のような欠点がある。直接法では、キャスト塗工層の粘性が低く、鏡面ドラム面の温度を100℃以上にすると塗工液が沸騰し塗工層が破壊されるため、鏡面ドラム面の温度を100℃以上とすることができない。キャスト加工前の乾燥工程がなく、乾燥負荷も大きいため、低速度での操業を余儀なくされているのが現状である。
【0005】
凝固法ではキャスト塗工層が凝固されているため、鏡面仕上げ面の温度を100℃以上とすることが可能である。しかしながら、やはりキャスト加工前の乾燥工程がなく、乾燥負荷が大きいため、キャスト塗工層中に含まれる多量の水分を、鏡面ドラム接触時にスムーズに原紙層中に移行させて蒸発除去する必要があり、また塗工層の凝固の度合いを調節することも難しく、このためあまり高速でキャスト加工を行うと白紙光沢等の品質が低下する。
【0006】
再湿潤法ではキャスト加工前にキャスト塗工層が一旦乾燥されるため、鏡面ドラム面の温度を90〜180℃まで上げることが可能である。しかし、直接法、凝固法と比較して、キャスト塗工層の可塑性が低いため、高速でキャスト加工した場合、キャスト塗工層表面のピンホール、密着ムラ等のいわゆるキャスト面の不良が発生しやすくなる欠点がある。
【0007】
このような問題点を解決するために種々の方法が提案されている。例えば、キャスト塗工層中にプラスチックピグメントと最低造膜温度が0℃未満のラテックスを配合する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法で得られたキャスト塗工紙は白紙光沢に優れるものの印刷光沢が低く、紙の透気性が十分ではなく、生産効率が低い。また、キャスト塗工層中の顔料の粒度分布を規定する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法で得られたキャスト塗工紙は従来品と比較して改善されているが、それでも白紙光沢に対して低く、キャスト面感にも劣るものである。また、キャスト下塗り層に中空プラスチックピグメントを配合する方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法で得られたキャスト塗工紙の生産効率は従来品と比較して改善されているが、それでもキャストの面感などの品質に十分に満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−146294号公報
【特許文献2】特開平10−18197号公報
【特許文献3】特開平9−268493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況を鑑み、本発明の課題は、キャスト面の面感、白紙光沢度に優れ、かつ生産性の高いキャスト塗工紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討を重ねた結果、原紙に顔料と接着剤を主成分とするキャスト塗工層を設け、湿潤状態にある該キャスト塗工層を加熱された鏡面仕上げ面に圧接、乾燥して仕上げるキャスト塗工紙において、前記キャスト塗工層中に、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウムおよび/またはラウリル硫酸ナトリウムを界面活性剤として含有することにより、ドラムピックが抑えられ、キャスト塗工紙表面の面感である写像性に優れ、白紙光沢度が高いキャスト塗工紙を得ることができ、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明のキャスト塗工紙は、キャスト面の面感に優れ、白紙光沢度が高く、ドラムピックが抑えられ、生産性に優れるキャスト塗工紙を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、原紙に顔料と接着剤を主成分とするキャスト塗工層を設け、湿潤状態にある該キャスト塗工層を加熱された鏡面仕上げ面に圧接、乾燥して仕上げるキャスト塗工紙において、特定の界面活性剤をキャスト塗工層に含有するキャスト塗工紙の製造方法である。
【0013】
本発明のキャスト塗工層に用いる界面活性剤としては、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウムおよび/またはラウリル硫酸ナトリウムを含む界面活性剤を用いるものである。本発明においては、特定の界面活性剤である、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムを含む界面活性剤をキャスト塗工層を設けるキャスト塗工液に使用することにより、キャスト塗工液の表面張力がより効率良く低下するため、この塗工液を塗工して得られた湿潤状態のキャスト塗工層を、加熱した鏡面ドラムであるキャストドラムに圧接、乾燥して仕上げる際、キャスト塗工層がキャストドラムにより密着し、キャストの面感である写像性や白紙光沢度が向上し、更に界面活性剤のもつ親水基が該界面活性剤に適度な親水性を与えて、該界面活性剤の塗工層中での分布が均一となり、離型ムラ等を抑制し、ドラムピックの発生が抑えられ、良好な連続操業が可能となったものと思われる。
【0014】
上記の界面活性剤のキャスト塗工層中への含有量は、顔料100重量部に対して0.02〜10重量部、より好ましくは0.1〜4.0重量部、更に好ましくは0.2〜2.0重量部の範囲で調節して使用することができる。 因みに、0.02重量部未満の場合は充分な離型性が得られず、ドラムピックが発生しやすく、また、10重量部を越えると、キャスト塗工層が湿潤状態にあるキャスト塗工紙をキャストドラムに押し付けた祭に、キャスト塗工層のキャストドラムに対する密着性が悪い為、キャスト塗工紙表面の白紙面感や白紙光沢度の低下が見られる。 また、本発明においては、上記以外の界面活性剤を本発明の効果を損なわない範囲で加えても良い。
【0015】
キャスト塗工層に用いる顔料としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、デラミネーテッドクレー、タルク、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、シリカ、サチンホワイト、プラスチックピグメント等、一般の塗工紙用顔料の1種または2種以上が適宜使用することができる。白紙面感、白紙光沢度の点から顔料100重量部に対して、カオリンを80重量部以上用いることが好ましい。
【0016】
また、キャスト塗工層に用いる接着剤としては、澱粉、変性澱粉、カゼイン、大豆蛋白、プロテイン等の天然系接着剤、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリルエマルジョンラテックス、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール等の合成系接着剤等の一般に水性系塗被組成物に使用される各種の天然及び合成接着剤の1種または2種以上が適宜組み合わされて使用することができる。なお、一般に接着剤の使用量は、顔料100重量部に対して5〜50重量部、より好ましくは10〜30重量部の範囲である。
【0017】
キャスト塗工層中には、顔料、接着剤及び特定の界面活性剤以外に必要に応じて分散剤、耐水化剤、防腐剤、染料、消泡剤、流動変性剤等の各種助剤を適宜配合することもできる。
【0018】
キャスト塗工紙用原紙としては、特に限定されるものではなく、一般にキャスト塗工紙分野で使用される酸性紙、あるいは中性紙が適用されるものである。白色度等の点からは、中性紙を用いることが好ましい。原紙の坪量としては、40〜220g/m2程度のものを使用することができる。なお、原紙の片面または両面には必要に応じて、澱粉などのクリアー塗工液、一般の顔料塗工液を予め予備塗工しても良い。
【0019】
本発明において、原紙上にキャスト塗工層を設けるためには、顔料、接着剤、界面活性剤を含有するキャスト塗工液を、原紙上にエアーナイフコーター、ブレードコーター、ブラシコーター、ロールコーター、サイズプレス等の適当な塗工装置によって塗工することができ、塗工量は、原紙の片面あたり固形分として5〜30g/m2が好ましく、より好ましくは15〜25g/m2である。塗工後は、湿潤状態のキャスト塗工層を加熱された鏡面ドラムであるキャストドラムに圧接、乾燥して、キャスト塗工紙を得ることができる。
【0020】
本発明のキャスト塗工紙を得るためには、湿潤状態の塗工層のままで鏡面仕上げする直接法、湿潤状態の塗工層を凝固して鏡面仕上げする凝固法、湿潤状態の塗工層を一旦乾燥して、再湿潤液で塗工層を再湿潤して鏡面仕上げする再湿潤法が用いることができ、白紙面感、白紙光沢度の点からは、凝固法を用いることが好ましい。また、再湿潤法や凝固法では、本発明の界面活性剤を再湿潤液や凝固液に添加してもよい。
【0021】
本発明のキャスト塗工紙は、特に一般印刷用のキャスト塗工紙として、好適である。好ましい態様において、本発明のキャスト塗工紙の白紙光沢度は90%以上である。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。なお、特に断わらない限り例中の部及び%はそれぞれ重量部及び重量%を示す。品質評価法について以下に示す。
【0023】
<品質評価法>
1.白紙光沢度:JIS P 8142:1998に準じて、75°光沢度でキャスト面を測定した。
2.白紙面感:JIS K 7105に準じて、スガ試験機株式会社製写像性測定器:ICM−ITを用いて、入射光角度60°、幅2mmの条件でキャスト面を測定した。
3.キャスト塗工操業性:キャスト塗工紙を実施例にしたがって生産した場合、キャスト塗工紙のドラムピックなどが発生するか否かで判定した。評価基準は以下のとおりである。
◎:キャスト塗工紙のドラムピックなどがまったく発生しない
○:キャスト塗工紙のドラムピックなどがほとんど発生しない
△:キャスト塗工紙のドラムピックが発生する場合がある。
×:キャスト塗工紙のドラムピックなどが発生し、良好な品質のキャスト塗工紙を生産することができない
[実施例1]
微粒カオリン100部に対して、ポリアクリル酸ソーダ系分散剤0.2部を添加し、カウレス分散機を用いて水に分散し、固形分濃度60%の顔料スラリーを調製した。これに消泡剤としてトリブチルフォスフェート0.2部、接着剤としてアンモニアを用いて溶解したカゼイン水溶液(固形分濃度18%)7部及びブタジエン含有量が55%であるスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス17部を加え、離型剤としてステアリン酸カルシウムを2部、ノニオン系乳化剤0.6部、界面活性剤としてラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム主成分とする界面活性剤(エナジコール L-30AN、ライオン(株)製)0.18部を配合し、最後に水及びアンモニアを加えて固形分濃度48%、pHを10.0のキャスト塗工液を調製した。
【0024】
また、凝固液として10%ぎ酸カルシウム溶液を調製し、更にポリエチレンワックスエマルジョンを0.3部及びポリオキシエチレンアルキルエーテル(炭素数16)を0.3部、添加した。
【0025】
また、鏡面ドラムにはステアリン酸(炭素数17)を塗布し、バフ研磨を行った。
【0026】
上記の方法により調製した塗工液を用い、坪量110g/m2の広棄樹晒しクラフトパルプ単独配合、炭酸カルシウムを原紙重量5%含有する原紙の片面に、乾燥塗工量が21g/m2となるように塗工液をロールコータで塗工し、次いで凝固液に接触させて塗工層を凝固させた。その後直径750mmのプレスロールと表面温度105℃、直径3000mmの鏡面ドラム(キャストドラム)にプレス圧130Kg/cmで圧着し、乾燥後テークオフロールでキャストドラムから剥離して印刷用キャスト塗工紙を製造した。スピードは 70m/分で加工した。
【0027】
[実施例2]
実施例1のキャスト塗工液に使用する界面活性剤として、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム主成分とする界面活性剤(エナジコール L-30AN、ライオン(株)製)を使用する代わりにラウリル硫酸ナトリウム(エマール 2F-30、花王(株))を主成分とする界面活性剤を使用した以外は実施例1と同様に印刷用キャスト塗工紙を製造した。
【0028】
[比較例1]
実施例1のキャスト塗工液で界面活性剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様に印刷用キャスト塗工紙を製造した。
【0029】
[比較例2]
実施例1のキャスト塗工液に使用する界面活性剤として、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム主成分とする界面活性剤(エナジコール L-30AN、ライオン(株)製)を使用する代わりに脂肪族アミン4級化物(TATコンク、ライオン(株)製)を主成分とする界面活性剤を使用した以外は実施例1と同様に印刷用キャスト塗工紙を製造した。
【0030】
[比較例3]
実施例1のキャスト塗工液に使用する界面活性剤として、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム主成分とする界面活性剤(エナジコール L-30AN、ライオン(株)製)を使用する代わりにポリオキシエチレンココナットアルキルアミン(アミート105、花王(株)製)を主成分とする界面活性剤を使用した以外は実施例1と同様に印刷用キャスト塗工紙を製造した。
【0031】
[比較例4]
実施例1のキャスト塗工液に使用する界面活性剤として、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム主成分とする界面活性剤(エナジコール L-30AN、ライオン(株)製)を使用する代わりにジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリーム(ペレックスOT−P、花王(株)製)を主成分とする界面活性剤を使用した以外は実施例1と同様に印刷用キャスト塗工紙を製造した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果から、実施例1、2は、白紙光沢度が高く、白紙面感に優れ、ドラムピックの発生が抑えられ、塗工操業性が良好なキャスト塗工紙が得られる。比較例1は、白紙光沢度が高く、白紙面感に優れ、ドラムピックの発生が抑えられ、塗工操業性に劣る。比較例2、4は、白紙面感に劣る。比較例3は、塗工操業性に劣る。比較例4は、白紙面感に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙に顔料と接着剤を主成分とするキャスト塗工層を設け、湿潤状態にある該キャスト塗工層を加熱した鏡面仕上げ面に圧接、乾燥して仕上げるキャスト塗工紙であって、前記キャスト塗工層中に、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウムおよび/またはラウリル硫酸ナトリウムを含有するキャスト塗工紙。
【請求項2】
顔料100重量部に対して、0.02〜10部のラウロイルメチル−β−アラニンナトリウムおよび/またはラウリル硫酸ナトリウムを前記キャスト塗工層中に含有する、請求項1に記載のキャスト塗工紙。
【請求項3】
原紙に顔料と接着剤を主成分とするキャスト塗工液を塗工してキャスト塗工層を設けた後、湿潤状態にある該キャスト塗工層を加熱した鏡面仕上げ面に圧接、乾燥して仕上げるキャスト塗工紙の製造方法において、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウムおよび/またはラウリル硫酸ナトリウムを含有するキャスト塗工液を用いる、キャスト塗工紙の製造方法。

【公開番号】特開2010−229611(P2010−229611A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81279(P2009−81279)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】