説明

キャリア輸送性および燐光発光性を有する化合物を用いた有機発光素子

【課題】高い発光効率を有し、耐久性に優れる有機発光素子を提供すること。
【解決手段】本発明の有機発光素子は、陽極と陰極とに挟まれた少なくとも1層の有機層を含む有機発光素子において、前記有機層の少なくとも1層が、正孔輸送性および電子輸送性のいずれか一方のキャリア輸送性ならびに燐光発光性を有する重合性化合物(a1)から導かれる構造単位と、他方のキャリア輸送性を有する重合性化合物(b)から導かれる構造単位とを有する高分子化合物(I)を含む発光層であり、前記重合性化合物(a1)が、下記式(E1−1)などから選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア輸送性および燐光発光性を有する化合物を用いた有機発光素子に関する。より詳しくは、本発明は、キャリア輸送性および燐光発光性を有するとともに、特定の置換基を含む化合物を用いることにより、高い発光効率および耐久性が得られる有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子としては、正孔輸送層および電子輸送層の間に、燐光発光性低分子化合物を含む発光層を設けた多層構造の素子が知られている。
これに対して、燐光発光性の重合性化合物、正孔輸送性の重合性化合物および電子輸送性の重合性化合物を共重合して得られる燐光発光性高分子化合物も開発されている。このような燐光発光性高分子化合物は、1つの化合物中に、燐光発光性とともに、正孔輸送性
および電子輸送性の機能を有するため、この高分子化合物からなる層を1層設けるのみで
有機発光素子が得られる利点がある。
【0003】
従来、上記高分子化合物の合成には、従来公知の燐光発光性低分子化合物、正孔輸送性低分子化合物および電子輸送性低分子化合物に、それぞれ重合性置換基を導入した重合性化合物が用いられている(特許文献1および2参照)。
【0004】
しかしながら、このように、多層構造の素子には好適に用いられる燐光発光性低分子化合物を用いて、正孔輸送性の重合性化合物および電子輸送性の重合性化合物と共重合すると、多層構造の素子よりも劣化しやすい素子が得られる場合がある。
【0005】
また、上記高分子化合物において、燐光発光性の構造単位上で効率よく励起子を生成させ、高い発光効率を得ることが難しかった。これは、単層内に全ての機能を有する高分子化合物では、多層構造の素子を作製する場合よりも、燐光発光性、正孔輸送性および電子輸送性の各化合物の有するエネルギーレベルを厳密に組み合わせる必要があることに起因し、各化合物の選択が非常に困難なためである。
【0006】
さらに、発光効率を上げるために燐光発光性の構造単位を高濃度に含む高分子化合物を用いる場合は、逆に濃度消光が起こり、結果として高い発光効率を得られないことも知られていた。
【特許文献1】特開2002−293830号公報
【特許文献2】特開2003−73479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高い発光効率を有し、耐久性に優れる有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、キャリア輸送性および燐光発光性を有するとともに、特定の置換基を含む化合物を用いることにより、高い発光効率を有し、耐久性に優れる有機発光素子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりに要約される。
[1] 陽極と陰極とに挟まれた少なくとも1層の有機層を含む有機発光素子において、
上記有機層の少なくとも1層が、正孔輸送性および電子輸送性のいずれか一方のキャリア輸送性ならびに燐光発光性を有する重合性化合物(a1)から導かれる構造単位と、他方のキャリア輸送性を有する重合性化合物(b)から導かれる構造単位とを有する高分子化合物(I)を含む発光層であり、
上記重合性化合物(a1)が、下記式(E1−1)〜(E1−39)からなる群より選ばれることを特徴とする有機発光素子。
【0010】
【化1】




【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
(式(E1−1)中、水素原子のうち少なくとも1つは、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる置換基で置き換えられており、水素原子のうち1つは、下記一般式(H1)
【0015】
【化5】

【0016】
で表される重合性置換基を表す。ここで、R25は水素原子または炭素数1〜5の鎖状のアルキル基を表す。式(E1−2)〜式(E1−39)中の水素原子についても、式(E1−1)中の水素原子と同様である。)
[2] 上記重合性化合物(a1)が正孔輸送性のキャリア輸送性および燐光発光性を有し、上記重合性化合物(b)が電子輸送性のキャリア輸送性を有することを特徴とする上記[1]に記載の有機発光素子。
[3] 上記重合性化合物(a1)が電子輸送性のキャリア輸送性および燐光発光性を有し、上記重合性化合物(b)が正孔輸送性のキャリア輸送性を有することを特徴とする上記[1]に記載の有機発光素子。
[4] 上記重合性化合物(a1)が、上記式(E1−1)で表されることを特徴とする上記[2]に記載の有機発光素子。
[5] 陽極と陰極とに挟まれた少なくとも1層の有機層を含む有機発光素子において、
上記有機層の少なくとも1層が、正孔輸送性および電子輸送性のいずれか一方のキャリア輸送性ならびに燐光発光性を有する化合物(a2)と、他方のキャリア輸送性を有する重合性化合物(b)から導かれる構造単位を有する高分子化合物(II)とを含む発光層であり、
上記化合物(a2)が、下記式(E2−1)〜(E2−39)からなる群より選ばれる
ことを特徴とする有機発光素子。
【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
【化9】

【0021】
(式(E2−1)中、水素原子のうち少なくとも1つは、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる置換基で置き換えられている。式(E2−2)〜式(E2−39)中の水素原子についても、式(E2−1)中の水素原子と同様である。)
[6] 上記化合物(a2)が正孔輸送性のキャリア輸送性および燐光発光性を有し、上記重合性化合物(b)が電子輸送性のキャリア輸送性を有することを特徴とする上記[5]に記載の有機発光素子。
[7] 上記化合物(a2)が電子輸送性のキャリア輸送性および燐光発光性を有し、上記重合性化合物(b)が正孔輸送性のキャリア輸送性を有することを特徴とする上記[5]に記載の有機発光素子。
[8] 上記化合物(a1)が、上記式(E2−1)で表されることを特徴とする上記[6]に記載の有機発光素子。
[9] 上記高分子化合物(I)が、全構造単位中、上記重合性化合物(a1)から導かれる構造単位を3〜60重量%の量で含むことを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の有機発光素子。
[10] 上記発光層が、上記化合物(a2)および上記高分子化合物(II)の全量に対して、上記化合物(a2)を3〜60重量%の量で含むことを特徴とする上記[5]〜[8]のいずれかに記載の有機発光素子。
[11] 上記発光層が、上記重合性化合物(a1)よりも低エネルギーで発光する燐光発光性を有する化合物(d)を含むことを特徴とする上記[1]〜[4]および[9]のいずれかに記載の有機発光素子。
[12] 上記発光層が、上記化合物(a2)よりも低エネルギーで発光する燐光発光性を有する化合物(d)を含むことを特徴とする上記[5]〜[8]および[10]のいずれかに記載の有機発光素子。
[13] 上記[1]〜[12]のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とする表示装置。
[14] 上記[1]〜[12]のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とする面発光光源。
[15] 上記[1]〜[12]のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とする表示装置用バックライト。
[16] 上記[1]〜[12]のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とする照明装置。
[17] 上記[1]〜[12]のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とするインテリア。
[18] 上記[1]〜[12]のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とするエクステリア。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、キャリア輸送性および燐光発光性を有するとともに、特定の置換基を含む化合物を用いるため、高い発光効率を有し、耐久性に優れる有機発光素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について具体的に説明する。
1.有機発光素子の構成
本発明の有機発光素子は、陽極と陰極とに挟まれた少なくとも1層の有機層を含み、該有機層の少なくとも1層に発光層が含まれる。
【0024】
上記有機発光素子の構成の一例を図1に示すが、該素子の構成は、これに制限されない。図1では、透明基板(1)上に設けた陽極(2)および陰極(6)の間に、正孔輸送層(3)、発光層(4)および電子輸送層(5)を、この順で設けている。
【0025】
上記有機発光素子では、たとえば、陽極(2)と陰極(6)の間に、1)正孔輸送層/発光層、2)発光層/電子輸送層のいずれかを設けても、3)発光層一層のみを設けてもよい。また、発光層を2層以上積層してもよく、陽極(2)と正孔輸送層(3)との間に陽極バッファー層を設けてもよく、発光層(4)と電子輸送層(5)との間に正孔ブロック層を設けてもよい。なお、さらに、4)正孔輸送性化合物、発光性化合物、電子輸送性化合物を含む層、5)正孔輸送性化合物、発光性化合物を含む層、6)発光性化合物、電子輸送性化合物を含む層、7)正孔輸送性および電子輸送性を有する化合物、発光性化合物を含む層を設けてもよい。
【0026】
上記の各層は、バインダとして高分子材料などを混合して形成してもよい。上記高分子材料としては、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイドなどが挙げられる。
【0027】
なお、本明細書において、電子輸送性化合物、正孔輸送性化合物および発光性化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を有機エレクトロルミネッセンス(本明細書において、有機ELともいう。)化合物ともいい、該化合物からなる層を有機EL化合物層ともいう。また、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物、正孔輸送性および電子輸送性を有する化合物を、キャリア輸送性化合物ともいう。
2.発光層
本発明に用いられる発光層は、[A]高分子化合物(I)を含む発光層;または[B]化合物(a2)と高分子化合物(II)とを含む発光層であり、[C]高分子化合物(I)と化合物(d)とを含む発光層;または[D]化合物(a2)と高分子化合物(II)と化合物(d)とを含む発光層であってもよい。
<発光層[A]>
発光層[A]は、重合性化合物(a1)から導かれる構造単位と、重合性化合物(b)から導かれる構造単位とを有する高分子化合物(I)を含む。高分子化合物(I)は、重
合性化合物(a1)および重合性化合物(b)を共重合して得られる。
【0028】
重合性化合物(a1)は、正孔輸送性および電子輸送性のいずれか一方のキャリア輸送性ならびに燐光発光性を有し、上記式(E1−1)〜(E1−39)からなる群より選ばれる。重合性化合物(a1)は、同種のキャリア輸送性を有するものであれば単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
式(E1−1)中、水素原子のうち少なくとも1つは、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる置換基を表す。
【0030】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。
上記炭素数1〜10のアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。
【0031】
上記炭素数6〜10のアリール基としては、たとえば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基などが挙げられる。
上記炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基としては、たとえば、アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基などが挙げられる。
【0032】
上記炭素数1〜10のアルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基などが挙げられる。
【0033】
上記シリル基としては、たとえば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。
これらのうちで、フッ素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基、ジメチルアミノ基、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、フッ素原子、t−ブチル基、ジメチルアミノ基、メトキシ基がより好ましい。
【0034】
式(E1−1)中、水素原子のうち1つは、上記式(H1)で表される重合性置換基を
表す。ここで、R25は水素原子または炭素数1〜5の鎖状のアルキル基を表す。これらのうちで、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。
【0035】
上記重合性置換基は、ヘテロ原子を含まない炭化水素のみによって構成される炭素数1〜20の有機基を介してイリジウム錯体に結合するような置換基であってもよい。
上記重合性置換基としては、具体的には、下記一般式(A1)〜(A11)で表される置換基が好ましく用いられる。
【0036】
【化10】

【0037】
式(E1−2)〜式(E1−39)中の水素原子についても、式(E1−1)中の水素原子と同様である。
重合性化合物(b)は、正孔輸送性または電子輸送性のキャリア輸送性を有する。重合性化合物(b)は、重合性置換基を含むことのほか、特に制限されず、公知のキャリア輸送性の化合物が用いられる。重合性化合物(b)は、同種のキャリア輸送性を有するものであれば単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記重合性置換基としては、上記式(E1−1)で表される重合性化合物における、重合性置換基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
正孔輸送性を有する重合性化合物(b)としては、下記式(F1)〜(F9)で表される化合物が好適に用いられる。
【0039】
【化11】

【0040】
電子輸送性を有する重合性化合物(b)としては、下記式(G1)〜(G9)で表される化合物が好適に用いられる。
【0041】
【化12】

【0042】
なお、上記式(F1)〜(F9)、(G1)〜(G9)において、重合性置換基は上記式(A1)で表されているが、上記式(H1)で表される重合性置換基であればよい。
〈1〉重合性化合物(a1)が燐光発光性とともに正孔輸送性のキャリア輸送性を有するときは、重合性化合物(b)は電子輸送性のキャリア輸送性を有し、また、〈2〉重合性化合物(a1)が燐光発光性とともに電子輸送性のキャリア輸送性を有するときは、重合性化合物(b)は正孔輸送性のキャリア輸送性を有する。〈1〉、〈2〉いずれの場合も、それぞれ、2種の化合物を共重合するのみで、燐光発光性、正孔輸送性および電子輸送性の全ての機能を有する高分子化合物が得られる。従来のように、それぞれの機能を有する3種の化合物を用いた高分子化合物に比較して、単量体として用いられる化合物の種類が少なくてすむため、耐久性に優れる高分子化合物が得られる。また、2種の化合物のみを選択すればよいため、従来に比較して、エネルギーレベルの調整も容易である。さらに、重合性化合物(a1)が、キャリア輸送性および燐光発光性を兼ね備えているため、
重合性化合物(a1)から導かれる構造単位上で、より高い確率で励起子が生成し、高い発光効率も得られる。
【0043】
発光層[A]においては、重合性化合物(a1)として正孔輸送性および燐光発光性を有する上記式(E1−1)、中でも下記式(E1−1−1)で表される重合性化合物と、電子輸送性を有する重合性化合物(b)との組み合わせが、発光効率および耐久性にさらに優れた素子が得られるため最も好ましい。
【0044】
【化13】

【0045】
式(E1−1−1)中、R11〜R124のうち少なくとも1つは、ハロゲン原子、シアノ
基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる置換基を表す。R11〜R124のうち1つは、重合性置換
基を表す。上記重合性置換基は、上述した置換基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0046】
また、発光層[A]において、重合性化合物(b)として正孔輸送性および電子輸送性のキャリア輸送性を有する重合性化合物、すなわち一般に「バイポーラー性」と呼ばれる性質を有する重合性化合物を用いてもよい。上記バイポーラー性を有する重合性化合物は、一般に正孔輸送性および電子輸送性のいずれかが優位であり、この化合物を用いる場合は、重合性化合物(a1)のキャリア輸送性によってキャリアバランスをとればよい。
【0047】
上記バイポーラー性を有する重合性化合物としては、具体的には、4,4’−n,n’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)が挙げられる。
高分子化合物(I)は、全構造単位中、重合性化合物(a1)から導かれる構造単位を好ましくは3〜60重量%、より好ましくは15〜30重量%の量で含むことが望ましい。ここで、構造単位の量は、ICP元素分析および13C−NMR測定によって測定される値である。本発明に用いられる高分子化合物(I)では、重合性化合物(a1)が上記のように特定の置換基を有するため、重合性化合物(a1)から導かれる構造単位が多く含まれても、成膜性に優れ、耐久性の高い発光層が得られる。また、濃度消光も起こりにくく、高い発光効率も得られる。
【0048】
また、高分子化合物(I)の分子量は、重量平均分子量で1,000〜2,000,0
00が好ましく、20,000〜100,000がより好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃で測定される値である。
【0049】
高分子化合物(I)は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれでもよい。
高分子化合物(I)の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。これらの高分子化合物の製造方法としては、より具体的には、たとえば、特開2003−342325号公報、特開2003−119179号公報、特開2003−113246号公報、特開2003−206320号公報、特開2003−147021号公報、特開2003−171391号公報、特開2004−346312号公報、特開2005−97589号公報などに開示されている。
【0050】
発光層[A]の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、以下のように製造できる。まず、高分子化合物(I)を溶解した溶液を調製する。上記溶液の調製に用いる溶媒としては、特に限定されないが、たとえば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒などが用いられる。次いで、このように調製した溶液を、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の湿式成膜法などにより基板上に成膜する。用いる化合物および成膜条件などに依存するが、たとえば、スピンコート法やディップコート法の場合には、上記溶液は、高分子化合物(I)を0.5〜5重量%の量で含むことが好ましい。
<発光層[B]>
発光層[B]は、化合物(a2)と、重合性化合物(b)から導かれる構造単位とを有する高分子化合物(II)を含む。高分子化合物(II)は、重合性化合物(b)を重合して得られる。
【0051】
化合物(a2)は、正孔輸送性および電子輸送性のいずれか一方のキャリア輸送性ならびに燐光発光性を有し、上記式(E2−1)〜(E2−39)からなる群より選ばれる。化合物(a2)は、同種のキャリア輸送性を有するものであれば単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
式(E2−1)中、水素原子のうち少なくとも1つは、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる置換基を表す。好ましい置換基は、式(E1−1)と同様である。
【0053】
式(E2−2)〜式(E2−39)中の水素原子についても、式(E2−1)中の水素原子と同様である。
重合性化合物(b)は、正孔輸送性または電子輸送性のキャリア輸送性を有する。重合性化合物(b)は、重合性置換基を含むことのほか、特に制限されず、公知のキャリア輸送性の化合物が用いられる。重合性化合物(b)は、同種のキャリア輸送性を有するものであれば単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
上記重合性置換基としては、上記式(E1−1)で表される重合性化合物における、重合性置換基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
正孔輸送性を有する重合性化合物(b)としては、上記式(F1)〜(F9)で表される化合物が好適に用いられ、電子輸送性を有する重合性化合物(b)としては、上記式(G1)〜(G9)で表される化合物が好適に用いられる。なお、上記式(F1)〜(F9)、(G1)〜(G9)において、重合性置換基は上記式(A1)で表されているが、上記式(H1)で表される重合性置換基であればよい
また、高分子化合物(II)の分子量は、重量平均分子量で1,000〜2,000,000が好ましく、20,000〜100,000がより好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃で測定される値である。
【0055】
高分子化合物(II)の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。これらの高分子化合物は公知の方法によって得られる。
【0056】
〈1〉化合物(a2)が燐光発光性とともに正孔輸送性のキャリア輸送性を有するときは、重合性化合物(b)は電子輸送性のキャリア輸送性を有し、また、〈2〉化合物(a2)が燐光発光性とともに電子輸送性のキャリア輸送性を有するときは、重合性化合物(b)は正孔輸送性のキャリア輸送性を有する。〈1〉、〈2〉いずれの場合も、それぞれ、2種の化合物を用いるのみで、燐光発光性、正孔輸送性および電子輸送性の全ての機能を有する発光層が得られる。このため、耐久性にも優れる。また、2種の化合物のみを選択すればよいため、従来に比較して、エネルギーレベルの調整も容易である。さらに、化合物(a2)が、キャリア輸送性および燐光発光性を兼ね備えているため、化合物(a2)上で、より高い確率で励起子が生成し、高い発光効率も得られる。
【0057】
発光層[B]においては、化合物(a2)として正孔輸送性および燐光発光性を有する上記式(E2−1)、中でも下記式(E2−1−1)で表される化合物と、電子輸送性を有する重合性化合物(b)から導かれる構造単位を有する高分子化合物(II)との組み合わせが、発光効率および耐久性にさらに優れた素子が得られるため最も好ましい。
【0058】
【化14】

【0059】
式(E2−1−1)中、R21〜R224のうち少なくとも1つは、ハロゲン原子、シアノ
基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる置換基を表す。
【0060】
また、発光層[B]において、重合性化合物(b)として正孔輸送性および電子輸送性のキャリア輸送性を有する重合性化合物、すなわち一般に「バイポーラー性」と呼ばれる性質を有する重合性化合物を用いてもよい。上記バイポーラー性を有する重合性化合物は、一般に正孔輸送性および電子輸送性のいずれかが優位であり、この化合物を用いる場合は、化合物(a2)のキャリア輸送性によってキャリアバランスをとればよい。
【0061】
上記バイポーラー性を有する重合性化合物としては、具体的には、4,4’−n,n’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)が挙げられる。
発光層[B]は、化合物(a2)および高分子化合物(II)の全量に対して、化合物(a2)を好ましくは3〜60重量%、より好ましくは15〜30重量%の量で含むことが望ましい。本発明に用いられる化合物(a2)は、上記のように特定の置換基を有するため、成膜性とともに特に分散性に優れ、高濃度で用いることができる。また、分散性に優れるため、耐久性の極めて高い発光層が得られる。さらに、濃度消光も起こりにくく、高い発光効率も得られる。
【0062】
発光層[B]の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、以下のように製造できる。まず、化合物(a2)と高分子化合物(II)とを溶解した溶液を調製する。上記溶液の調製に用いる溶媒としては、特に限定されず、発光層[A]の場合と同様の溶媒が用いられる。次いで、このように調製した溶液を、発光層[A]の場合と同様に基板上に成膜する。用いる化合物および成膜条件などに依存するが、たとえば、スピンコート法やディップコート法の場合には、上記溶液は、固形分濃度が0.5〜5重量%であり、該固形分全量に対して化合物(a2)を15〜30重量%の量で含み、高分子化合物(II)を85〜70重量%の量で含むことが好ましい。
<発光層[C]>
発光層[C]は、さらに重合性化合物(a1)よりも低エネルギーで発光する燐光発光性を有する化合物(d)を含むことが好ましい。
【0063】
この場合は、高分子化合物(I)はホストとして用いられる。高分子化合物(I)は耐久性およびキャリア輸送性に優れるため、化合物(d)に効率よくエネルギー移動が起こり、化合物(d)が高い効率で発光する。
【0064】
化合物(d)としては、重合性化合物(a1)よりも低エネルギーで発光する化合物であれば何ら制限されずに用いられる。化合物(d)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。たとえば、重合性化合物(a1)として青色を発光する化合物を用いた場合は、緑色、黄色または赤色を発光する化合物(d)を用いればよく、重合性化合物(a1)として緑色を発光する化合物を用いた場合は、黄色または赤色を発光する化合物(d)を用いればよく、重合性化合物(a1)として黄色を発光する化合物を用いた場合は、赤色を発光する化合物(d)を用いればよい。ここで、化合物が発光するエネルギーとは、分光光度計で測定される吸収波長あるいは発光波長から求められる励起エネルギー値をいう。
【0065】
発光層[C]は、高分子化合物(I)および化合物(d)の全量に対して、高分子化合物(I)を99.5〜80重量%の量で含み、化合物(d)を0.5〜20重量%の量で含むことが好ましい。
【0066】
発光層[C]の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、以下のように製造
できる。まず、高分子化合物(I)と化合物(d)とを溶解した溶液を調製する。上記溶液の調製に用いる溶媒としては、特に限定されず、発光層[A]の場合と同様の溶媒が用いられる。次いで、このように調製した溶液を、発光層[A]の場合と同様に基板上に成膜する。用いる化合物および成膜条件などに依存するが、たとえば、スピンコート法やディップコート法の場合には、上記溶液は、固形分濃度が0.5〜5重量%であり、該固形分全量に対して高分子化合物(I)を99.5〜80重量%の量で含み、化合物(d)を0.5〜20重量%の量で含むことが好ましい。
<発光層[D]>
発光層[D]は、さらに化合物(a2)よりも低エネルギーで発光する燐光発光性を有する化合物(d)を含むことが好ましい。
【0067】
この場合は、化合物(a2)および高分子化合物(II)はホストとして用いられる。化合物(a2)および高分子化合物(II)からなる発光層は耐久性およびキャリア輸送性に優れるため、化合物(d)に効率よくエネルギー移動が起こり、化合物(d)が高い効率で発光する。
【0068】
化合物(d)としては、発光層[C]と同様に、化合物(a2)よりも低エネルギーで発光する化合物であれば何ら制限されずに用いることができる。化合物(d)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
発光層[D]は、化合物(a2)、高分子化合物(II)および化合物(d)の全量に対して、化合物(a2)を15〜30重量%の量で含み、高分子化合物(I)を70〜85重量%の量で含み、化合物(d)を0.5〜20重量%の量で含むことが好ましい。
【0070】
発光層[D]の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、以下のように製造できる。まず、化合物(a2)と高分子化合物(II)と化合物(d)とを溶解した溶液を調製する。上記溶液の調製に用いる溶媒としては、特に限定されず、発光層[A]の場合と同様の溶媒が用いられる。次いで、このように調製した溶液を、発光層[A]の場合と同様に基板上に成膜する。用いる化合物および成膜条件などに依存するが、たとえば、スピンコート法やディップコート法の場合には、上記溶液は、固形分濃度が0.5〜5重量%であり、該固形分全量に対して化合物(a2)を15〜30重量%の量で含み、高分子化合物(I)を70〜85重量%の量で含み、化合物(d)を0.5〜20重量%の量で含むことが好ましい。
3.その他の層
以下、本発明の有機発光素子に用いてもよい層について説明する。
<陽極バッファー層:バイトロンなどを使う場合>
上記陽極バッファー層に用いられる化合物としては、陽極表面およびその上層に良好な付着性を有する化合物であれば特に制限はないが、たとえば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との混合物、ポリアニリンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物(PANI)などの公知の導電性ポリマーなどが挙げられる。これら導電性ポリマーにトルエン、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を添加して用いてもよい。また、界面活性剤などの第三成分を含む導電性ポリマーであってもよい。上記界面活性剤としては、たとえば、アルキル基、アルキルアリール基、フルオロアルキル基、アルキルシロキサン基、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボキシレート、アミド、ベタイン構造、第4級化アンモニウム基等を含む界面活性剤が挙げられるが、フッ化物ベースの非イオン性界面活性剤を用いてもよい。
<正孔ブロック層>
また、正孔が発光層を通過することを抑え、発光層内で正孔と電子とを効率よく再結合させる目的で、発光層の陰極側に隣接して正孔ブロック層を設けてもよい。この正孔ブロック層には、発光性化合物より最高占有分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital
;HOMO)準位の深い化合物が用いられ、該化合物としては、具体的には、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などが挙げられる。
【0071】
さらに、励起子(エキシトン)が陰極金属で失活することを防ぐ目的で、発光層の陰極側に隣接してエキシトンブロック層を設けてもよい。このエキシトンブロック層には、発光性化合物より励起三重項エネルギーの大きな化合物が用いられ、該化合物としては、具体的には、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などが挙げられる。
<各層の形成法>
上記の各層は、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法等の乾式成膜法のほか、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の湿式成膜法などにより形成できる。低分子化合物の場合は、乾式成膜法が好適に用いられ、高分子化合物の場合は、湿式成膜法が好適に用いられる。
<陽極>
本発明に係る有機発光素子に用いる陽極材料としては、発光を基板を通して観察する場合には、たとえば、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化錫、酸化亜鉛、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子など公知の透明導電材料が好適に用いられる。また、ITO表面に、光透過性を損なわないように1〜3nmの金属薄膜を設けてもよい。上記金属としては、たとえば、金、ニッケル、マンガン、イリジウム、モリブテン、パラジウム、白金などが挙げられる。
【0072】
また、発光を上部の電極を通して観察する場合(トップエミッション)には、陽極の透過性は必要ない。このため、このような陽極材料としては、たとえば、仕事関数が4.1
eVよりも高い金属または金属化合物などが好適に用いられ、具体的には、上記金属と同様のものが挙げられる。これらの金属を単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0073】
陽極の表面抵抗は、1〜50Ω/□(オーム/スクエアー)であることが好ましく、陽極の厚さは2〜300nmであることが好ましい。
上記陽極の成膜方法としては、たとえば、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法などが用いられる。
<陽極表面処理>
また、陽極バッファー層などの成膜の際に、陽極表面を前処理することにより、陽極バッファー層などの性能(陽極基板との密着性、表面平滑性、正孔注入障壁の低減化など)が改善される。上記前処理の方法としては、高周波プラズマ処理を始め、スパッタリング処理、コロナ処理、UVオゾン照射処理、酸素プラズマ処理などが挙げられる。
<陰極>
本発明に係る有機発光素子の陰極材料としては、仕事関数が低く、かつ化学的に安定な材料であれば特に制限されないが、たとえば、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属;Al;MgAg合金;AlLi、AlCa等のAlとアルカリ金属との合金などが好適に用いられる。化学的安定性を考慮すると仕事関数は2.9eV以下であることが好ましい。陰極の厚さは、10nm〜1μmが好ましく
、50〜500nmがより好ましい。
【0074】
上記陰極材料の成膜方法としては、たとえば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが用いられる。
また、陰極から有機層への電子注入障壁を下げ、電子の注入効率を上げる目的で、陰極
バッファー層を設けてもよい。この陰極バッファー層としては、陰極より仕事関数の低い金属層が用いられ、陰極と陰極に隣接する有機層との間に挿入される。上記陰極バッファー層に用いられる金属としては、たとえば、アルカリ金属(Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Sr、Ba、Ca、Mg)、希土類金属(Pr、Sm、Eu、Yb)などが挙げられる。また、陰極より仕事関数の低いものであれば、合金、金属化合物なども使用できる。上記陰極バッファー層の厚さは、0.05〜50nmが好ましく、0.1〜20nmがより好ましく、0.5〜10nmがさらに好ましい。
【0075】
さらに、陰極バッファー層は、上記の低仕事関数の金属などと電子輸送性化合物との混合物として形成してもよい。この電子輸送性化合物としては、例示したような上記化合物が用いられる。このような陰極バッファー層の厚さは、0.1〜100nmが好ましく、
0.5〜50nmがより好ましく、1〜20nmがさらに好ましい。
【0076】
また、陰極と有機物層との間に、導電性高分子からなる層、金属酸化物、金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる層(平均膜厚2nm以下の層)などを設けてもよい。
上記陰極バッファー層の成膜方法としては、蒸着法、共蒸着法、スパッタ法などが用いられる。また、用いる材料によっては、スピンコーティング法、ディップコーティング法、インクジェット法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法などの成膜方法も用いられる。
<基板>
本発明に係る有機発光素子の基板としては、上記発光材料の発光波長に対して透明な絶縁性基板が好適に用いられ、具体的には、ガラスのほか、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート等の透明プラスチックなどが用いられる。
<封止>
陰極を製造した後、上記有機発光素子を保護するため、保護層および/または保護カバーを設けてもよい。これにより、上記有機発光素子の耐久性が高まる。上記保護層としては、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物などからなる層が用いられる。上記保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板、金属などが用いられ、該カバーを熱効果樹脂、光硬化樹脂などで素子基板と貼り合わせて密閉する方法が好適に用いられる。
【0077】
また、スペーサーを用いて空間を維持すれば、素子がキズつきにくくなる。この空間に窒素、アルゴンなどの不活性ガスを封入すれば、陰極の酸化を防止できる。さらに、酸化バリウムなどの乾燥剤を上記空間内に設置すれば、製造工程で吸着した水分による素子のタメージが抑制される。これらのうち、いずれか1つ以上の方策をとることが好ましい。4.用途
本発明の有機発光素子を用いてパターン状の発光を得るためには、上記面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成して実質的に非発光とする方法、陽極および/または陰極をパターン状に形成する方法が挙げられる。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にOn/OFFできるように配置して、セグメントタイプの表示素子が得られる。これにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できる表示装置が得られる。
【0078】
また、ドットマトリックス素子とするためには、陽極および陰極ともにストライプ状に形成して直交するように配置すればよい。発光色の異なる複数の有機EL化合物を塗り分ける方法、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルターを用いる方法などにより、部分カラー表示またはマルチカラー表示が可能となる。ドットマトリックス素子は、パッシブ駆動としてもよく、TFTなどと組み合わせてアクティブ駆動としてもよい。これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として好適に用いられる。
【0079】
本発明の有機発光素子を用いて面状の発光を得るためには、面状の陽極と面状の陰極とが重なり合うように配置すればよい。このような面状の発光素子は、自発光薄型であるため、面発光光源、液晶表示装置等の表示装置用バックライト、面状の照明装置、インテリア、エクステリアとして好適に用いられる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源または表示装置としても使用できる。
【0080】
[実施例]
以下、実施例及び比較例を挙げ本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。
【0081】
簡略化のため、材料およびそれらより形成された層を以下のように略記する。
ITO:インジウム錫酸化物(陽極)
[実施例1]
25mm角のガラス基板の一方の面に、陽極となる幅4mmの2本のITO電極がストライプ状に形成されたITO(酸化インジウム錫)付き基板(ニッポ電機、Nippo Electric Co., LTD.)を用いて有機発光素子を作製した。はじめに、上記ITO付き基板のITO(陽極)上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルホン酸(バイエル社製、商品名「バイトロンP」)をスピンコート法により、回転数3500rpm、塗布時間40秒の条件で塗布した後、真空乾燥器で減圧下、100℃で2時間乾燥を行い、陽極バッファ層を形成した。得られた陽極バッファ層の膜厚は約60nmであった。
【0082】
次に、燐光発光性化合物を含む層を形成するための塗布溶液を調製した。すなわち、電子輸送性の高分子化合物であるポリジ[4−(3,5−ジメチル−p−テルフェニル)]−2,6−ジメチル−4−スチリルフェニル ボラン(poly−(vi2MB)とする)11.5mgと、正孔輸送性および燐光発光性を有する化合物(色素)であるトリス(4−tert−ブチルフェニルピリジン)イリジウム(III)(G3とする)1.3mg
とをトルエン(和光純薬工業製、特級)387.2mgに溶解し、得られた溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過して塗布溶液とした。この塗布液に含まれる固形成分に占め
る色素濃度は、10%である。次に、陽極バッファ層上に、調製した塗布溶液をスピンコート法により、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で塗布し、140℃にて30分間乾燥することにより、発光層を形成した。得られた発光層の膜厚は約80nmであった。次に、発光層を形成した基板を蒸着装置内に載置し、バリウムを蒸着速度0.01nm/sで2nmの厚さに蒸着し、続いて、陰極としてアルミニウムを蒸着速度1nm/sで150nmの厚さに蒸着し、素子1を作製した。尚、バリウムとアルミニウムの層は、陽極の延在方向に対して直交する2本の幅3mmのストライプ状に形成し、1枚のガラス基板当たり、縦4mm×横3mmの有機発光素子を4個作製した。
【0083】
(株)アドバンテスト社製 プログラマブル直流電圧/電流源 TR6143を用いて上記有機EL素子に電圧を印加し発光させ、その発光輝度を(株)トプコン社製 輝度計
BM−8を用いて測定した。その結果得られた素子の外部量子効率(%)および初期輝度100cd/m2換算での耐久性(時間)を表3に示す(各値は1枚の基板に形成され
た素子4個の平均値である)。
【0084】
表1に記載するように、固形成分中に含まれる色素(G3)濃度を、20%、30%、40%と変化させた以外は、素子1と同様にして素子2〜4を作製した。これらの素子についても素子1と同様にEL発光特性の評価を行った結果を表3に示す。
【0085】
[比較例1]
表2に記載したように、用いる塗布溶液の中に、素子1で用いた電子輸送性の高分子化合物(poly−(vi2MB)の代わりに、ポリ(N,N’−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−N’−(3−ビニルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン−Co−ジ[4−(3,5−ジメチル−p−テルフェニル)]−2,6−ジメチル−4−スチリルフェニル ボラン)(poly-(HMTPD)−poly-(vi2MB))を用いた以外は、素子1と同様にして素子5〜8を作製した。これらの素子についても素子1と同様にEL発光特性の評価を行った結果を表3に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
表3より、正孔輸送性重合性化合物と電子輸送性重合性化合物との共重合体に、燐光発光性化合物(色素)を添加して作製した発光素子(比較例1)に比べて、電子輸送性を有する高分子化合物に、燐光発光性化合物(色素)を添加して作製した発光素子(実施例1)の方が、外部量子効率が高く、耐久性も高いことがわかる。
【0090】
正孔輸送性重合性化合物と電子輸送性重合性化合物との共重合体に、燐光発光性化合物(色素)を添加して作製した発光素子(比較例1)では、特定の置換基を有する燐光発光性化合物(色素)を用いているため、分散性は改善され、色素濃度を高くできるようになった。しかし、さらに、本願では、上述したように燐光発光性化合物が有するキャリア輸送性を活用できることを見出した。すなわち、正孔輸送性および電子輸送性のいずれか一方のキャリア輸送性ならびに燐光発光性を有する色素(実施例1では、正孔輸送性である。)と、他方のキャリア輸送性を有する高分子化合物(実施例1では、電子輸送性である。)との組み合わせを実現したことによって、耐久性が飛躍的に向上できた。
【0091】
[実施例2]
実施例1で用いた電子輸送性化合物と燐光発光性化合物(色素)との塗布溶液に更にもう一種類の色素を添加した塗布溶液を作製した。すなわち、poly−(vi2MB)170mgと、G3色素19.2mgと、[6−(4−ビニルフェニル)−2,4−ヘキサンジオナート]ビス[2−(2−ピリジル)ベンゾチエニル]イリジウム(III)(R3
とする)6.7mgとをトルエン2.9gに溶解し、得られた溶液を孔径0.2μmのフ
ィルターで濾過して塗布溶液とした。この塗布溶液に含まれる固形成分に占める色素濃度は、G3が20%であり、R3が7%である。塗布溶液の組成以外の操作は全て実施例1に準じて素子9を作製した。
【0092】
素子9について、素子1と同様にEL発光特性の評価を行った結果を表5に示す。
[比較例2]
素子9で用いた塗布溶液の代わりに、(poly-(HMTPD)−poly-(vi2MB))89.3mgと、R3を6.7mgとをトルエン2.9gに溶解し、得られた溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過して得られた塗布溶液を用いた。この塗布溶液に
含まれる固形成分に占める色素濃度は、R3が7%である。塗布溶液の組成以外の操作は全て実施例1に準じて素子10を作製した。
【0093】
素子10について、素子1と同様にEL発光特性の評価を行った結果を表5に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
表5より、正孔輸送性化合物と電子輸送性化合物との共重合体に、燐光発光性化合物(R3色素)を添加して作製した発光素子(比較例2)に比べて、電子輸送性を有する高分子に高濃度の燐光発光性化合物(G3色素)を添加した系に、更にG3色素よりもエネルギーの低いR3色素を添加して作製した発光素子(実施例2)の方が、外部量子効率が高く、耐久性も高いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、本発明に係る有機発光素子の例の断面図である。
【符号の説明】
【0098】
1: 透明基板
2: 陽極
3: 正孔輸送層
4: 発光層
5: 電子輸送層
6: 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極とに挟まれた少なくとも1層の有機層を含む有機発光素子において、
前記有機層の少なくとも1層が、正孔輸送性および電子輸送性のいずれか一方のキャリア輸送性ならびに燐光発光性を有する重合性化合物(a1)から導かれる構造単位と、他方のキャリア輸送性を有する重合性化合物(b)から導かれる構造単位とを有する高分子化合物(I)を含む発光層であり、
前記重合性化合物(a1)が、下記式(E1−1)〜(E1−39)からなる群より選ばれることを特徴とする有機発光素子。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(式(E1−1)中、水素原子のうち少なくとも1つは、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる置換基で置き換えられており、水素原子のうち1つは、下記一般式(H1)
【化5】

で表される重合性置換基を表す。ここで、R25は水素原子または炭素数1〜5の鎖状のアルキル基を表す。式(E1−2)〜式(E1−39)中の水素原子についても、式(E1−1)中の水素原子と同様である。)
【請求項2】
前記重合性化合物(a1)が正孔輸送性のキャリア輸送性および燐光発光性を有し、前記重合性化合物(b)が電子輸送性のキャリア輸送性を有することを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記重合性化合物(a1)が電子輸送性のキャリア輸送性および燐光発光性を有し、前記重合性化合物(b)が正孔輸送性のキャリア輸送性を有することを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記重合性化合物(a1)が、前記式(E1−1)で表されることを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項5】
陽極と陰極とに挟まれた少なくとも1層の有機層を含む有機発光素子において、
前記有機層の少なくとも1層が、正孔輸送性および電子輸送性のいずれか一方のキャリア輸送性ならびに燐光発光性を有する化合物(a2)と、他方のキャリア輸送性を有する重合性化合物(b)から導かれる構造単位を有する高分子化合物(II)とを含む発光層であり、
前記化合物(a2)が、下記式(E2−1)〜(E2−39)からなる群より選ばれることを特徴とする有機発光素子。
【化6】

【化7】

【化8】




【化9】


(式(E2−1)中、水素原子のうち少なくとも1つは、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる置換基で置き換えられている。式(E2−2)〜式(E2−39)中の水素原子についても、式(E2−1)中の水素原子と同様である。)
【請求項6】
前記化合物(a2)が正孔輸送性のキャリア輸送性および燐光発光性を有し、前記重合性化合物(b)が電子輸送性のキャリア輸送性を有することを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記化合物(a2)が電子輸送性のキャリア輸送性および燐光発光性を有し、前記重合性化合物(b)が正孔輸送性のキャリア輸送性を有することを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記化合物(a2)が、前記式(E2−1)で表されることを特徴とする請求項6に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記高分子化合物(I)が、全構造単位中、前記重合性化合物(a1)から導かれる構造単位を3〜60重量%の量で含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記発光層が、前記化合物(a2)および前記高分子化合物(II)の全量に対して、前記化合物(a2)を3〜60重量%の量で含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記発光層が、前記重合性化合物(a1)よりも低エネルギーで発光する燐光発光性を有する化合物(d)を含むことを特徴とする請求項1〜4および9のいずれかに記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記発光層が、前記化合物(a2)よりも低エネルギーで発光する燐光発光性を有する化合物(d)を含むことを特徴とする請求項5〜8および10のいずれかに記載の有機発光素子。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とする表示装置。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とする面発光光源。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とする表示装置用バックライト。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とする照明装置。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とするインテリア。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれかに記載の有機発光素子を用いたことを特徴とするエクステリア。

【図1】
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【公開番号】特開2007−266071(P2007−266071A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85639(P2006−85639)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】