説明

ギアボックス用樹脂成形体

【課題】優れた静音化性能と、寸法精度、表面平滑性、及び摺動性を兼ね備えたギアボックス用樹脂成形体を提供する。
【解決手段】非晶性熱可塑性樹脂を含有し、23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.03〜0.10であり、かつ射出成形品の中心線表面粗さ(Ra)が0.4μm以下となる樹脂組成物により構成されているギアボックス用樹脂成形体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギアボックス用樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェットプリンター、複写機、レーザービームプリンター、FAX、液晶プロジェクター等の事務機器、DVD、CD等のディスクドライブ、オーディオ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ゲーム機、洗濯機、掃除機等の家電機器や自動車のカーナビゲーション、ドアミラー等の駆動部には、一般的に、モーターとギアとが組み込まれたギアボックスが設置されている。
【0003】
このようなギアボックスに用いる樹脂成形体においては、ギアの噛み合わせに影響を及ぼす寸法精度や、ギアとの摺動性に影響を及ぼす表面平滑性等が要求されており、従来においては、非強化のハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)、ABS樹脂、ポリカーボネート(PC)/ABSアロイ樹脂等が一般的に用いられている。
【0004】
ところで、近年において、事務機の発生音量規制規格の強化や、ユーザーの静かさを求める傾向等に伴い、機器の静音化の必要性が高まっており、機器を構成する部品の中でも騒音源の1つであると考えられているギアボックス部の静音化を図ることが課題となっている。
【0005】
ギアボックス部からの発生音を低減化させる方法としては、剛性の低いポリアセタール樹脂やポリアミド樹脂を使用した消音ギアを使用することが一般的であるが、この方法では、ギアからの発生音を減らすことはできるが、ギアボックス全体としての静音化を実現するためには、さらなる改良が必要である。
【0006】
ギアボックス成形体用の材料としては、液晶ポリマーを配合した制振性に優れる材料や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)/ポリカーボネート(PC)アロイ樹脂に、エラストマーと無機充填剤とを配合した制振性に優れる材料を用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−143379号公報
【特許文献2】特開2007−9143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示されている技術によると、振動抑制の効果は得られるものの、静音化性能に関しては、未だ改良すべき余地がある。
【0009】
また、特許文献2に開示されている樹脂組成物(PBT/ABS/エラストマー/無機充填剤)を構成する無機充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、ガラス繊維等が好適な例として挙げられているが、マイカ、ガラスフレークやガラス繊維で強化を行った材料において良好な表面平滑性を得ることは困難であり、摺動性の改良を図る余地がある。
【0010】
上述したように、静音化性能、寸法精度、表面平滑性、及び摺動性の全て特性を満足するギアボックス用樹脂成形体は存在しておらず、開発の要求が高まっている。
【0011】
そこで本発明においては、優れた静音化性能、寸法精度、表面平滑性、及び摺動性を兼ね備えた、事務機、家電機器、自動車等向けのギアボックス用樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〔1〕非晶性熱可塑性樹脂を含有し、23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.03〜0.10であり、かつ射出成形品の中心線表面粗さ(Ra)が0.4μm以下となる樹脂組成物により構成されているギアボックス用樹脂成形体を提供する。
【0013】
〔2〕前記樹脂組成物は、樹脂成分100質量部に対して、タルクを2〜45質量部含有する前記〔1〕のギアボックス用樹脂成形体を提供する。
【0014】
〔3〕前記樹脂成分が、
前記非晶性熱可塑性樹脂:95〜70質量部
ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体:5〜30質量部
を、含有する前記〔1〕に記載のギアボックス用樹脂成形体を提供する。
【0015】
〔4〕前記樹脂成分が、
前記非晶性熱可塑性樹脂:94.5〜50質量部
ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体:5〜30質量部
ポリオレフィン系化合物:0.1〜20質量部
を、含有する前記〔2〕又は〔3〕に記載のギアボックス用樹脂成形体を提供する。
【0016】
〔5〕前記非晶性熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンエーテル系樹脂である〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のギアボックス樹脂成形体を提供する。
【0017】
〔6〕前記樹脂成分が、
ポリフェニレンエーテル系樹脂:70〜90質量部
カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、かつ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる非水添のランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体:10〜30質量部
を、含有する前記〔2〕乃至〔5〕のいずれか一に記載のギアボックス樹脂成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、振動による成形体のビビリの発生音や、ギアとの摺動音を抑制でき、遮音性も有し、総合的に優れた静音化性能を示し、さらには寸法精度、表面平滑性、摺動性に優れ、難燃性付与も容易であるギアボックス用樹脂成形体が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について説明するが、本発明は下記に示す例に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態のギアボックス用樹脂成形体は、非晶性熱可塑性樹脂を含有し、23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.03〜0.10であり、かつ射出成形品の中心線表面粗さ(Ra)が0.4μm以下となる樹脂組成物により構成されているギアボックス用樹脂成形体である。
【0021】
本実施形態のギアボックス用樹脂成形体とは、インクジェットプリンター、複写機、レーザービームプリンター、FAX、液晶プロジェクター等の事務機器、DVD、CD等のディスクドライブ、オーディオ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ゲーム機、洗濯機、掃除機等の家電機器や自動車のカーナビゲーション、ドアミラー等に用いられるギアとモーターとが設置されるギアボックスの本体、蓋、ギア軸の押さえ等を総称するものとし、シャーシ類と一体になった形態のものも含まれる。
【0022】
〔樹脂組成物〕
本実施形態ギアボックス用樹脂成形体を構成する樹脂組成物は、非晶性熱可塑性樹脂を含有する。
(非晶性熱可塑性樹脂)
非晶性熱可塑性樹脂としては、下記の例に限定されないが、例えば、ポリスチレン樹脂、ゴム補強のポリスチレン樹脂(ハイインパクト−ポリスチレン樹脂)、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイ、ポリカーボネート樹脂/ポリブチレンテレフタレート樹脂アロイ等のポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン樹脂、又はハイインパクト−ポリスチレン樹脂とのアロイ)、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリプロピレン樹脂アロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリフェニレンサルファイド樹脂アロイ等のポリフェニレンエーテル系樹脂等が挙げられる。
特に、ポリカーボネート系樹脂であるポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイやポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましく、耐熱性、寸法精度、難燃性、軽量化の観点から、変性ポリフェニレンエーテル樹脂がより好ましい。
【0023】
(損失係数)
また、23℃の条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.03〜0.10であり、好ましくは0.05〜0.10、より好ましくは0.06〜0.0.10である。
損失係数(η)が0.03以上であれば、優れた静音化性能を発揮し得る部品が得られ、機器全体の騒音の低減化が図られる。
また、制振・静音性、強度・剛性、難燃性のバランス等、実用上の観点から、損失係数(η)は0.10以下とする。
なお、損失係数は、具体的に試験片として、127mm×12.7mm×3.2mmの短冊試験片を用い、JIS G0602−1993に記載されている方法により測定できる。
【0024】
〔ギアボックス用樹脂成形体〕
本実施形態のギアボックス用樹脂成形体は、射出成形品の中心線表面粗さ(Ra)が0.4μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.2μm以下となる樹脂組成物により構成されている。
中心線平均粗さ(Ra)は、金型温度90℃以下の条件にて射出成形により作製した成形品の平面部を、JIS B0601に記載の方法により測定することにより得られる。
ギアボックス用樹脂成形品だけでなく、平板等の試験片を成形した際にも、中心線平均粗さ(Ra)が0.4μm以下となるものとする。
【0025】
本実施形態のギアボックス用樹脂成形体においては、上記樹脂組成物が、上述した非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分100質量部に対して、タルクを2〜45質量部含有していることが好ましく、10〜30質量部含有していることがより好ましく、10〜25質量部含有していることがさらに好ましい。
タルクを含有することにより、剛性及び機械的強度の向上効果が得られる。
また、樹脂組成物にタルクを配合することにより強化を行うと、表面平滑性が良好なものとなり、ギアとの摺動性に優れるギアボックス用樹脂成形体が得られる。
タルクの配合量が樹脂成分100質量部に対して2質量部未満であると、十分な剛性及び機械的強度の向上効果が得られず、樹脂成分100質量部に対して45質量部を超えると樹脂組成物が脆くなり、表面平滑性も悪化する。
タルクの平均粒径は、20μm以下であることが好ましい。
タルクの平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。
【0026】
上記樹脂成分は、上述した非晶性熱可塑性樹脂の他にも、樹脂材料を含むものとしてもよい。
非晶性熱可塑性樹脂の他の樹脂材料としては、特に限定されるものではないが、ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体」と称す。)、ポリオレフィン系化合物が、上述した損失係数を向上させる機能を発揮できるため好ましいものとして挙げられる。
具体的には、下記(1)、(2)の組成が好ましい。
(1)非晶性熱可塑性樹脂95〜70質量部、ブロック共重合体5〜30質量部を含有する樹脂成分。
(2)非晶性熱可塑性樹脂94.9〜50質量部、ブロック共重合体5〜30質量部、ポリオレフィン系化合物0.1〜20質量部を含有する樹脂成分。
【0027】
上記ブロック共重合体のビニル芳香族化合物重合体ブロックを構成するビニル芳香族化合物としては、以下のものに限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。特にスチレンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、上記ブロック共重合体の共役ジエン化合物重合体ブロックを構成する共役ジエン化合物としては、以下のものに限定されないが、例えば、イソプレン、ブタジエン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。特に、イソプレン及びブタジエンが好ましく、イソプレンがより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記ブロック共重合体の、ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックとの質量比(ビニル芳香族化合物重合体ブロック/共役ジエン化合物重合体ブロック)は、好ましくは5/95〜60/40、より好ましくは10/90〜30/70である。
ビニル芳香族化合物重合体ブロックの質量比が60%を超えると、本実施形態のギアボックス用樹脂成形体を構成する樹脂組成物の損失係数を充分に高めることができない可能性があり、5%未満とするとマトリックスとなる非晶性熱可塑性樹脂との相溶性が悪化し、機械的物性の低下を招来する。
【0029】
上記ブロック共重合体の、共役ジエン化合物重合体ブロックの部分は、樹脂組成物の生産時や成形時における熱安定性の面から不飽和度が60%を超えない程度にまで選択的に水添されていることが好ましく、不飽和度が20〜50%となるように水添されていることがより好ましい。
【0030】
上記ブロック共重合体の含有量は、上述したように、樹脂成分中の5〜30質量部であることが好ましいが、10〜20質量部がより好ましい。
ブロック共重合体の含有量が樹脂成分中の5質量部未満とすると、本実施形態ギアボックス用樹脂成形体を構成する樹脂組成物の損失係数を十分に高めることができず、樹脂成分中の30質量部を超えると、機械的強度の低下を招来するおそれがある。
【0031】
上記ポリオレフィン系化合物としては、以下のものに限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリイソブチレン等のオレフィン系モノマーの単独重合体や、エチレン−プロピレン系共重合体、エチレン−エチレンアクリレート系共重合体等のオレフィン系モノマーを含む共重合体が挙げられる。ポリプロピレン及びエチレン−プロピレン系共重合体が特に好ましい。
【0032】
上記ポリオレフィン系化合物の含有量は、上述したように、樹脂成分中の0.1〜20質量部とすることが好ましいが、より好ましくは3〜15質量部、さらに好ましくは5〜10質量部である。
上記ポリオレフィン系化合物の含有量が樹脂成分中の20質量部を超えると、本実施形態ギアボックス用樹脂成形体の機械的強度の低下や表面の剥離発生を招来する。
【0033】
また、本実施形態のギアボックス用樹脂成形体を構成する樹脂組成物に含有されている非晶性熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテルである場合、樹脂成分として、カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、かつ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる、非水添のランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体(以下、「水添共重合体」と称す。)を含有させることも、樹脂組成物の損失係数を向上させることが可能となり好ましい。
具体的には、下記(3)の組成が樹脂成分として、好ましい例として挙げられる。
(3)ポリフェニレンエーテル系樹脂70〜90質量部と、前記水添共重合体10〜30質量部とからなる樹脂成分。
【0034】
上記水添共重合体の含有量に関しては、本実施形態のギアボックス用樹脂成形体を構成する樹脂組成物の損失係数の向上を図り機械的強度とのバランスを良好なものとする観点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂70〜90質量部に対して、水添共重合体10〜30質量部が好ましく、より好ましくは10〜25質量部、さらに好ましくは10〜20質量部である。
【0035】
本実施形態のギアボックス用樹脂成形体を構成する樹脂組成物には、必要に応じて、通常の熱可塑性樹脂に添加される各種添加剤、例えば熱安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、滑剤、染料、顔料等を配合してもよい。
【0036】
本実施形態のギアボックス用樹脂成形体を構成する樹脂組成物は、従来公知の技術を用いて調製できる。
例えば、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等を適用できる。特に、押出機を用いて調製することが好ましい。
【0037】
本実施形態のギアボックス用樹脂成形体は、従来公知の方法により成形できる。
例えば、射出成形、インジェクションプレス成形、ガスインジェクション成形等の公知の方法により成形できる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例と、比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0039】
実施例及び比較例において使用した成分を示す。
(1)非晶性熱可塑性樹脂
<i>ポリフェニレンエーテル樹脂
極限粘度が0.52(30℃、クロロホルム中)であるポリ2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル
<ii>ハイインパクト−ポリスチレン樹脂
「PSJポリスチレンH9405」、PSジャパン社製
<iii>ポリスチレン樹脂
「PSJポリスチレン685」、PSジャパン社製
<iv>ポリカーボネート樹脂
「パンライトK−1300」、帝人化成社製
<v>ABS樹脂
「スタイラックABS121」、旭化成ケミカルズ社製
【0040】
(2)ブロック共重合体
水添スチレン−イソプレンブロック共重合体(「ハイブラー7125」、クラレ社製)
(3)ポリオレフィン系化合物
ポリプロピレン樹脂(「ノバテックPP EA9BT」、日本ポリプロピレン社製)
【0041】
(4)水添共重合体
この水添共重合体は、下記のように、所定の共重合体に対して水素添加を行うことにより製造した。
<水添触媒の調整>
水添反応に用いる水添触媒は、下記のようにして製造した。
窒素置換した反応容器に、乾燥、精製処理を施したシクロヘキサン2リットルを仕込み、ビス(η−シクロペンタジエニル)−ジ−p−トリルチタニウム40ミリモルと、分子量が約1,000の1,2−ポリブタジエン(1,2−ビニル結合量約85%)150グラムとを溶解した。
その後、n−ブチルリチウム60ミリモルを含むシクロヘキサン溶液を添加して、室温で5分反応させた。
直ちにn−ブタノール40ミリモルを添加して攪拌することにより、水添触媒を得た。
【0042】
<水添共重合体の作製>
内容積が10リットルの攪拌装置及びジャケットを具備する槽型反応器を用いて、共重合体を下記のようにして製造した。
シクロヘキサン10質量部を槽型反応器に仕込んで温度80℃に調整した。
その後、n−ブチルリチウムを全モノマー(槽型反応器に投入するブタジエンモノマー及びスチレンモノマーの総量)の重量に対して0.076質量%、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンをn−ブチルリチウム1モルに対して0.4モル添加し、その後モノマーとしてスチレン11質量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を約6分間かけて添加し、槽型反応器の内温を約80℃に調整しながら30分間反応を行った。
【0043】
次に、ブタジエン33質量部とスチレン56質量部とを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を、60分間かけて一定速度で連続的に槽型反応器に供給した。この間、槽型反応器の内温は、約80℃になるように調整し、共重合体を得た。
【0044】
得られた共重合体のスチレン含有量は67質量%であり、スチレン重合体ブロックの含有量は11質量%、ブタジエン部のビニル結合量は18質量%であった。
【0045】
次に、得られた共重合体に、使用したn−ブチルリチウム1モルに対してジメチルジクロロシラン0.6モル添加し、10分間カップリング反応を行った。
【0046】
次に、上述した水添触媒を共重合体の重量に対してチタンとして100重量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。
【0047】
水添反応終了後にメタノールを添加し、次に、安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを共重合体の重量に対して0.3質量%添加し、水添ブロック共重合体を得た。
得られた水添ブロック共重合体の重量平均分子量は20万、水添率は99%、tanδ(損失正接)のピーク温度は10℃であった。
また、示差走査熱量測定(DSC測定)の結果、結晶化ピークは無かった。
【0048】
(5)タルク
「ハイトロンA」、竹内化学工業社製
(6)ガラスフレーク
「マイクログラスフレカREFG−302」、日本板硝子社製
(7)難燃剤
芳香族燐酸エステル系難燃剤「CR741」、大八化学製
【0049】
〔実施例1〜9〕、〔比較例1〜5〕
下記表1に示す組成に従い、各成分を温度290〜320℃、スクリュー回転数500rpmに設定した二軸押出機(「ZSK−40」、WERNER&PFLEIDERE社製)を用いて溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。
【0050】
上記樹脂組成物ペレットを用いて、シリンダー温度240〜290℃、金型温度60〜80℃の条件で射出成形を行った。
(樹脂組成物評価用のテストピース)
なお、各試験項目にて規定された形状のテストピース、及び150mm×150mm×2mmの平板を成形した。
(ギアボックス用樹脂成形体)
120mm×100mm×60mm、肉厚2.5mmの箱状の形状に、モーターと3個のギア列が設置できるようにボスが立ったギアボックス本体模擬成形体と、120mm×80mm×2.5mmの板状のギアボックス蓋体模擬成形体により構成されるギアボックス用樹脂成形体を成形した。
【0051】
これらの樹脂組成物及びギアボックス用樹脂成形体について、下記の方法により試験及び評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
【0052】
(1)樹脂組成物の物性
<i>損失係数(η)
JIS G0602−1993に準拠して測定を行った。
すなわち、23℃の条件下で、損失係数測定装置(松下インターテクノ社製)を用い、片端固定定常加振法により試験片(127mm×12.7mm×3.2mmの短冊試験片)を電磁加振させ、その応答速度を読み、伝達関数を得た。
次に、その2次共振ピークの絶対値から3dB下がった点での周波数を読み、半値幅法から損失係数(η)を求めた。
【0053】
<ii>中心線平均粗さ(Ra)
JIS B0601に準拠して測定した。
150mm×150mm×2mmの平板の中心部を、測定距離5mmにて表面粗さの測定を行った。
【0054】
<iii>荷重たわみ温度
ASTM D−648に準拠して、荷重を1.82MPaとして測定した。
<iv>曲げ弾性率
ASTM D−790に準拠して、23℃の温度条件下で測定した。
<v>燃焼性
UL94に準拠して評価を実施した。
試験片厚みを1.6mmとした。
【0055】
(2)ギアボックス用樹脂成形体の評価
<i>中心線平均粗さ(Ra)
JIS B0601に準拠して測定した。
ギアボックス本体模擬成形体の長辺側面の中心部を測定距離5mmにて表面粗さの測定を行った。
【0056】
<ii>反り
ギアボックス本体模擬成形体、及びギアボックス蓋体模擬成形体の反りについて、以下の基準で評価を行った。
○:反りは殆ど確認できず、ギアボックス本体模擬成形体とギアボックス蓋体模擬成形体とは容易に勘合できる。
△:若干の反りが確認できるが、ギアボックス本体模擬成形体とギアボックス蓋体模擬成形体との勘合は可能である。
×:反りが大きく、ギアボックス本体模擬成形体とギアボックス蓋体模擬成形体との勘合が困難である。
【0057】
<iii>静音化性能評価
ギアボックス本体模擬成形品に、モーター、ギア(旭化成ケミカルズ テナック4520製)を組み込み、ギアボックス蓋体模擬成形品で本体に蓋をした。
この状態でモーターを動かし、ギア列を回した。
なお、ギアボックス本体模擬成形品のボスとギアとの間、及びギアとギアとの間には、グリス(モリコートEL30L:ダウコーニング社製)を少量塗布した。
蓋体の中心部の10cm上部に騒音計を設置し、発生音量の測定を行った。
発生音量は、表1中に示すように、比較例1のABS樹脂製のギアボックス模擬成形品を使用した際の発生音を基準(0)としての比較評価を行った。
【0058】
<iv>摺動性評価
上記モーターとギアとを組み込んだギアボックス模擬成形体のモーターを100時間動かし、ギア列を回した後に、ギアの軸穴部の磨耗状態について顕微鏡にて確認を行い、下記の基準により評価した。
○:ギアの軸穴部に殆ど磨耗は認められない。
×:ギアの軸穴部に磨耗・傷が認められる。
【0059】
【表1】

【0060】
上記表1に示すように、実施例1〜9の成形体は、いずれも、従来のギアボックス材として一般的に用いられているABS樹脂製の成形体(比較例1)と比較して、優れた静音化性能を有していることが分かった。
さらには実施例1〜9の成形体は、いずれも実用上十分に良好な寸法精度、及び表面平滑性、摺動性も兼ね備えていることが分かった。
【0061】
また、樹脂組成物は、荷重たわみ温度が高く耐熱性に優れており、曲げ弾性率についても実用上十分な剛性を有していることが分かった。
さらに、実施例6〜8に示すように、難燃剤を添加することにより、燃焼性の評価が飛躍的に向上したことがわかった。
【0062】
損失係数が0.03未満の樹脂組成物を用いた比較例3の成形体は、静音化効果が殆ど認められなかった。
また、成形品の中心線平均粗さが0.4μm以上となる組成物を用いた比較例4、5の成形体は、ギアとの摺動性において、実用上良好な評価が得られなかった。
【0063】
さらに、非晶性熱可塑性樹脂を含有しない樹脂組成物を用いた比較例2は、組成物としての損失係数は高いが、成形品にした際に本体、蓋共に反りが非常に大きくなってしまい、本体と蓋体との勘合が困難であり、ギア等の組み込みを行うことができず、ギアボックスとしての実用化が極めて困難であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のギアボックス用樹脂成形体は、各種事務用機器、家電機器、自動車等の構成部品等として産業上利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性熱可塑性樹脂を含有し、
23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.03〜0.10であり、
かつ射出成形品の中心線表面粗さ(Ra)が0.4μm以下となる樹脂組成物により構成されているギアボックス用樹脂成形体。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、
樹脂成分100質量部に対して、タルクを2〜45質量部含有する請求項1に記載のギアボックス用樹脂成形体。
【請求項3】
前記樹脂成分が、
前記非晶性熱可塑性樹脂:95〜70質量部
ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体:5〜30質量部
を、含有する請求項2に記載のギアボックス用樹脂成形体。
【請求項4】
前記樹脂成分が、
前記非晶性熱可塑性樹脂:94.5〜50質量部
ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体:5〜30質量部
ポリオレフィン系化合物:0.1〜20質量部
を、含有する請求項2又は3に記載のギアボックス用樹脂成形体。
【請求項5】
前記非晶性熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンエーテル系樹脂である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のギアボックス樹脂成形体。
【請求項6】
前記樹脂成分が、
ポリフェニレンエーテル系樹脂:70〜90質量部
カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、かつ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる非水添のランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体:10〜30質量部
を、含有する請求項2乃至5のいずれか一項に記載のギアボックス樹脂成形体。

【公開番号】特開2010−248415(P2010−248415A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100962(P2009−100962)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】