説明

ギャップ長調整装置

【課題】零点位置の決定やギャップ長の調整を作業者毎にバラツキなく行うことができるギャップ長調整装置を提供する。
【解決手段】金属テープ11を管状に加工するための成形工具12と、金属テープ11の両側突き合わせ箇所13を溶接するための電極棒14とを備え、両側突き合わせ箇所13と電極棒14とのギャップ長を調整するためのギャップ長調整装置10であって、金属テープ11と電極棒14とに電圧を印加し、金属テープ11と電極棒14との接触に伴う電気的接続を検知すると共にその検知に基づいて検知信号を出力する接触確認コントローラ15と、検知信号が入力されたときにギャップ長が零であることを表示する表示器16を有し、電極棒14の変位を測定する変位センサ17と、検知信号が入力されたときにギャップ長が零であることを作業者に報知するための報知器18と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造管溶接時に金属テープの両側突き合わせ箇所と電極棒とのギャップ長を調整するためのギャップ長調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、薄物の長尺物である金属テープを管状に加工し、管状に加工された金属テープの両側突き合わせ箇所を溶接する造管方法がある。この造管の際には、図4(a),(b)に示すような造管装置40が用いられる。
【0003】
造管装置40は、金属テープ41を管状に加工するための成形工具42と、管状に加工された金属テープ41の両側突き合わせ箇所43を溶接するための電極棒44と、を備える。電極棒44は溶接トーチ45に設けられ、この溶接トーチ45はYステージ46にて上下にスライド可能となっている。
【0004】
造管装置40で造管を行う際には、電極棒44を手動操作でYステージ46にて下げ、管状に加工された金属テープ41と電極棒44との接触を目視又はYステージ46の手への負荷で確認し、その位置を零点とする。その後、零点から設定位置まで手動操作でYステージ46の目盛りを確認しながら上昇させて、電極棒44の位置調整を行い、隙間ゲージにて金属テープ41の両側突き合わせ箇所43と電極棒44とのギャップ長Gを確認、調整する。ギャップ長Gを調整したら、溶接トーチ45を動かさずに溶接電流を変化させながら、金属テープ41の両側突き合わせ箇所43を溶加材を使用しないTIG溶接により接合する。
【0005】
溶接前に行うギャップ長Gの調整は、金属テープ41の両側突き合わせ箇所43における溶接品質のバラツキを軽減させる上で非常に重要な作業である。例えば、特許文献1には、母材被接合部の融合不良やビードの凹凸を発生させないようにするために電極−母材間距離、即ちギャップ長の調整が重要であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−144578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の造管方法では、零点位置の決定やギャップ長の調整が作業者による手動操作で行われているため、作業者毎、更にはYステージや溶接トーチ等の機器毎にバラツキが生じ、溶接品質に悪影響を及ぼす虞がある。また、隙間ゲージでのギャップ長の確認作業も作業者の感覚に依存するため、溶接箇所への異物付着や損傷の原因となる場合もある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、零点位置の決定やギャップ長の調整を作業者毎にバラツキなく行うことができるギャップ長調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために創案された本発明は、金属テープを管状に加工するための成形工具と、管状に加工された前記金属テープの両側突き合わせ箇所を溶接するための電極棒と、を備え、造管溶接時に前記金属テープの両側突き合わせ箇所と前記電極棒とのギャップ長を調整するためのギャップ長調整装置であって、前記金属テープと前記電極棒とに電圧を印加し、前記金属テープと前記電極棒との接触に伴う電気的接続を検知すると共にその検知に基づいて検知信号を出力する接触確認コントローラと、前記接触確認コントローラに接続され、前記接触確認コントローラから出力された前記検知信号が入力されたときに前記ギャップ長が零であることを表示する表示器を有し、前記電極棒の変位を測定する変位センサと、前記接触確認コントローラに接続され、前記接触確認コントローラから出力された前記検知信号が入力されたときに前記ギャップ長が零であることを作業者に報知するための報知器と、を備えるギャップ長調整装置である。
【0010】
前記表示器がデジタル式であると良い。
【0011】
前記金属テープ及び前記電極棒と前記接触確認コントローラとの間に切り替え手段を介して溶接コントローラが設けられ、前記溶接コントローラによって溶接条件が制御されると良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、零点位置の決定やギャップ長の調整を作業者毎にバラツキなく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るギャップ長調整装置を示す概略図である。
【図2】図1のギャップ長調整装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】図1のギャップ長調整装置の動作の各ステップにおける電極棒の位置を示す図である。
【図4】従来の造管装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0015】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係るギャップ長調整装置を示す概略図である。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係るギャップ長調整装置10は、金属テープ11を管状に加工するための成形工具12と、管状に加工された金属テープ11の両側突き合わせ箇所13を溶接するための電極棒14と、を備え、造管溶接時に金属テープ11の両側突き合わせ箇所13と電極棒14とのギャップ長を調整するためのものであり、金属テープ11と電極棒14とに電圧を印加し、金属テープ11と電極棒14との接触に伴う電気的接続を検知すると共にその検知に基づいて検知信号(ワンショット信号)を出力する接触確認コントローラ15と、接触確認コントローラ15に接続され、接触確認コントローラ15から出力された検知信号が入力されたときにギャップ長が零であることを表示する表示器16を有し、電極棒14の変位を測定する変位センサ17と、接触確認コントローラ15に接続され、接触確認コントローラ15から出力された検知信号が入力されたときにギャップ長が零であることを作業者に報知するための報知器18と、を備えることを特徴とする。本装置は、TIG溶接を対象としている。
【0017】
成形工具12は、その側面が半円弧状に形成されており、この成形工具12の側面で金属テープ11を挟み込むようにして金属テープ11を管状に加工するものである。
【0018】
電極棒14は、金属テープ11との間でアークを発生させるためのものであり、融点の高いタングステンからなる非消耗電極である。この電極棒14は、Yステージ19にて上下にスライド可能な溶接トーチ20に設けられる。
【0019】
また、金属テープ11及び電極棒14と接触確認コントローラ15との間に切り替え手段を介して溶接コントローラ21が設けられ、溶接コントローラ21によって溶接条件が制御される。
【0020】
接触確認コントローラ15は、ギャップ長調整時に、金属テープ11と成形工具12と電極棒14と溶接コントローラ21とで構成される溶接回路22に接続される。溶接回路22への接続は、切り替え手段としての、接触確認コントローラ15のコネクタ23と、溶接コントローラ21のコネクタ24とを接続することで行われる。
【0021】
変位センサ17は、零点に基づいて電極棒14の変位を測定し、その変位の測定結果を表示器16に表示するものである。なお、表示器16としてはデジタル式のものが好ましい。この変位センサ17は、溶接トーチ20と同じ動きをするセンサドグ25の変位を測定することで、電極棒14の変位を測定する。
【0022】
また、報知器18は、接触確認コントローラ15に接続されたブザーや表示灯等からなる。
【0023】
次に、ギャップ長調整装置10の動作を図2のフローチャートにしたがって説明する。
【0024】
造管停止時や規定数量溶接後に電極棒14を交換すると、電極棒14と溶接トーチ20にズレが生じ零点がズレるため、零点出しが必要となる。
【0025】
電極棒14の交換を完了したら(S1)、接触確認コントローラ15のコネクタ23と溶接コントローラ21のコネクタ24とを接続し、導体である成形工具12と電極棒14に低電圧を印加する(S2)。
【0026】
その後、Yステージ19を手動操作し、電極棒14を下降させる(S3)。そして、管状に加工された金属テープ11と電極棒14とが接触することで、導体である成形工具12、金属テープ11、電極棒14、接触確認コントローラ15の電気回路が形成され、そのときの印加電圧の変化により、接触確認コントローラ15が金属テープ11と電極棒14との接触に伴う電気的接続を検知する(S4)。この検知がなされるまで、S3,S4が繰り返される。
【0027】
接触確認コントローラ15は、金属テープ11と電極棒14との接触に伴う電気的接続を検知すると、その検知に基づいて検知信号を出力し、検知信号が入力された変位センサ17の表示器16はギャップ長が零であることを表示し、報知器18は作業者に報知する(S5)。
【0028】
その後、作業者は、表示器16の零表示又は報知器18の報知により、零点出しの完了を確認し(S6)、表示器16の表示を確認しながら、Yステージ19の手動操作により電極棒14を設定位置まで上昇させ、任意のギャップ長に調整する(S7)。なお、作業者は、S6のときに、更に電極棒14を下降させ、表示器16の表示がマイナス表示になることを確認するようにしても良い。また、マイナス表示中は報知器18で報知すると良い。
【0029】
最後に、接触確認コントローラ15のコネクタ23を溶接コントローラ21のコネクタ24から取り外し(S8)、溶接を開始する(S9)。
【0030】
これら各ステップにおける電極棒14の位置を図3と表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
図3(a)はS1〜S3における電極棒14の位置を、図3(b)はS4〜S6における電極棒14の位置を、図3(c)はS6のときにマイナス表示になることを確認する場合における電極棒14の位置を、図3(d)はS7における電極棒14の位置を示す。なお、図及び表中A〜Cは零点からのギャップ長を示す。
【0033】
このようなギャップ長調整装置10によれば、金属テープ11と電極棒14との接触に伴う電気的接続を検知して零点出しを行うため、ギャップ長を設定値の±20μm以下に抑えることが可能となり、また、作業者の感覚ではなく、デジタルの計測値でギャップ長の設定が可能となり、零点位置の決定やギャップ長の調整を作業者毎にバラツキなく行うことができる。その結果、溶接品質のバラツキを低減することができる。
【0034】
また、隙間ゲージによるギャップ長の確認作業が不要となり、溶接箇所への異物付着や損傷の原因を排除することができる。
【0035】
なお、本実施の形態においては、S3において手動操作にて電極棒14を下降させたが、モータによって電極棒14を下降させるようにしても良い。この場合、接触確認コントローラ15からの検知信号をモータに入力し、これを受けたモータが駆動を停止し、自動的に零点出しが行えるように構成しても良い。また更に零点出しの後、モータを逆回転させてギャップ長の調整まで自動化することもできる。
【符号の説明】
【0036】
10 ギャップ長調整装置
11 金属テープ
12 成形工具
13 両側突き合わせ箇所
14 電極棒
15 接触確認コントローラ
16 表示器
17 変位センサ
18 報知器
19 Yステージ
20 溶接トーチ
21 溶接コントローラ
22 溶接回路
23 コネクタ
24 コネクタ
25 センサドグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属テープを管状に加工するための成形工具と、管状に加工された前記金属テープの両側突き合わせ箇所を溶接するための電極棒と、を備え、造管溶接時に前記金属テープの両側突き合わせ箇所と前記電極棒とのギャップ長を調整するためのギャップ長調整装置であって、
前記金属テープと前記電極棒とに電圧を印加し、前記金属テープと前記電極棒との接触に伴う電気的接続を検知すると共にその検知に基づいて検知信号を出力する接触確認コントローラと、
前記接触確認コントローラに接続され、前記接触確認コントローラから出力された前記検知信号が入力されたときに前記ギャップ長が零であることを表示する表示器を有し、前記電極棒の変位を測定する変位センサと、
前記接触確認コントローラに接続され、前記接触確認コントローラから出力された前記検知信号が入力されたときに前記ギャップ長が零であることを作業者に報知するための報知器と、
を備えることを特徴とするギャップ長調整装置。
【請求項2】
前記表示器がデジタル式である請求項1に記載のギャップ長調整装置。
【請求項3】
前記金属テープ及び前記電極棒と前記接触確認コントローラとの間に切り替え手段を介して溶接コントローラが設けられ、前記溶接コントローラによって溶接条件が制御される請求項1又は2に記載のギャップ長調整装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−13915(P2013−13915A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148426(P2011−148426)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】