クッション構造体
【課題】本発明は、繊維から実質的に構成された立体多重織組織において横ずれの発生のない優れたクッション性を有し安定した圧縮回復性を備えたクッション構造体を提供することを目的とするものである。
【解決手段】平織で織成された地組織10が上下に多重に組織され経糸方向に高収縮糸11が多数配列して織り込まれており、地組織10が上下の高収縮糸11に交互に交絡して波状に湾曲した状態に構成される。地組織10が波状に湾曲することで、多数の連通空隙部12が緯糸方向に沿って配列された層構造Mが形成される。層構造Mでは、扁平モノフィラメントからなる経糸10aが上下の高収縮糸11に交絡して間隔を保持することで連通空隙部12が維持されるようになっており、経糸10aが連通空隙部12の骨格形成を担っている。そして、地組織10を構成する緯糸10bが経糸10aに織り込まれることで、経糸10a全体が一体化して機能する。
【解決手段】平織で織成された地組織10が上下に多重に組織され経糸方向に高収縮糸11が多数配列して織り込まれており、地組織10が上下の高収縮糸11に交互に交絡して波状に湾曲した状態に構成される。地組織10が波状に湾曲することで、多数の連通空隙部12が緯糸方向に沿って配列された層構造Mが形成される。層構造Mでは、扁平モノフィラメントからなる経糸10aが上下の高収縮糸11に交絡して間隔を保持することで連通空隙部12が維持されるようになっており、経糸10aが連通空隙部12の骨格形成を担っている。そして、地組織10を構成する緯糸10bが経糸10aに織り込まれることで、経糸10a全体が一体化して機能する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維から実質的に構成された立体多重織組織からなるクッション構造体に関する。さらに詳しくは、寝具、車両用シート、椅子用シート、座布団用シート、応接セット用シート又はスポーツ資材等の通気性、クッション性、洗濯性などが要求される分野に利用することができるクッション構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立体構造を有するクッション構造体は、幅広い分野において用いられているが、ウレタンマットに代表される樹脂製発泡体、繊維材料から構成された立体構造体が実用化されている。樹脂製発泡体については、成形加工が容易であるが、発泡による空間が連通しておらず通気性の面で劣る。また、長時間の圧縮に対しては変形しやすく、圧縮回復力が低下するようになる。
【0003】
繊維材料からなる立体構造体としては、例えば、特許文献1に記載された織構造により立体構造体を形成するものがある。特許文献1では、フィラメント繊維の織組織を立体化した立体多重織組織からなり、その表面空隙層部は一定の大きさ及び形状の凸部が形成されており、中間空隙層部は、一方向に平行した多数の連通空洞部を有する層を1層もしくは2層以上積層形成されている点が記載されている。こうした立体多重織組織は、特許文献2に記載されているように、経糸に高収縮糸を用いた多重織組織を織成した後高収縮糸を収縮させて立体構造を構成するようにしている。同様の多層織物組織としては、例えば、特許文献3に記載された段ボール構造織物がある。
【0004】
また、特許文献4に記載されているように、表裏二層の編地とこれら二層の編地を連結する連結糸から構成された立体編物がある。また、特許文献5には、表裏二層を織地としこれらニ層を連結糸で連結した立体織物が記載されている。
【特許文献1】特許第2883288号公報
【特許文献2】特開平6−128837号公報
【特許文献3】登録実用新案第3010467号公報
【特許文献4】特許第3394183号公報
【特許文献5】特開2003−13337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した繊維材料からなる立体構造体をクッション材として用いた場合に問題になるのが、荷重が加わって圧縮された部分に生じる横ずれである。例えば、図11は、従来の立体多重織組織の一部拡大斜視図である。この従来例では、平織で織成された地組織100が上下に多重に組織され経糸方向に高収縮糸101が多数配列して織り込まれており、地組織100が上下の高収縮糸101に交互に交絡して波状に湾曲した状態に構成される。地組織100が波状に湾曲することで、多数の連通空隙部102が緯糸方向に沿って配列された層構造Lが形成される。
【0006】
こうした層構造では、地組織100を構成する経糸100aが上下の高収縮糸101に交絡して間隔を保持することで連通空隙部102が維持されるようになっており、経糸100aが連通空隙部102の骨格形成を担っている。そして、地組織100を構成する緯糸100bが経糸100aに織り込まれることで、経糸100a全体が一体化して機能するようになっている。
【0007】
このような従来の層構造に荷重が加わると、骨格形成を担う経糸100aが荷重を受けて撓むようになり、連通空隙部102が押し潰された状態となるが、荷重がなくなると、経糸100aが弾性回復して連通空隙部102は元の状態に戻るようになる。したがって、荷重に対して常時それに反発する弾性力が発生することからクッション性を有するようになる。
【0008】
図12は、従来の立体多重織組織における荷重が加わる前の状態(図12(a))及び荷重の加わった後の状態(図12(b))について層構造の経糸方向から見た模式図である。経糸100aは、荷重により上下方向に圧縮されると、一旦圧縮されて撓むものの、図12(b)に示すように緯糸方向に倒れるように傾斜する。そして、経糸100aが倒れるように傾斜すると、経糸100aの上部が緯糸方向に移動するため、立体構造体の表面では横ずれしたような感触を受けるようになる。こうした横ずれは、連通空隙部の間隔が大きくなるほど顕著になるため、クッション性を高めようとすると横ずれが大きくなって使い心地の悪いものとなってしまう。
【0009】
さらに、経糸100aが倒れるように変形する際に、下方の高収縮糸に交絡する根元部分においてねじれが発生するために、大きな負荷が経糸100aの根元部分に加わるようになる。したがって、同じ位置に繰り返し荷重が加えられると、同じ経糸100aの根元部分に繰り返しねじれ変形が加えられて弾性回復力が低下していき、クッション材としての機能が早期に失われてしまうようになる。
【0010】
こうした横ずれの問題は、特許文献4及び5に記載された連結糸においても生じる問題である。
【0011】
そこで、本発明は、繊維から実質的に構成された立体多重織組織において横ずれの発生のない優れたクッション性を有し安定した圧縮回復性を備えたクッション構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るクッション構造体は、繊維から実質的に構成された立体多重織組織からなり、一方向に沿って多数の連通空隙部が配列された層構造を少なくとも1層有するクッション構造体であって、前記連通空隙部は下記(1)及び(2)の条件を満たす扁平モノフィラメントにより実質的に骨格形成されていることを特徴とするクッション構造体。
(1)繊度が100dtex以上、10,000dtex以下
(2)次の式から求められる繊維断面の扁平度(H)が2以上、4.5以下
H=b/a
但し、bは繊維断面の長手方向の最大長さ、aはbと繊維断面積Sから次式により求められる値である。
a=4S/πb
さらに、前記扁平モノフィラメントは、ポリエステルからなることを特徴とする。さらに、前記扁平モノフィラメントは、ポリトリメチレンテレフタレート又は、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートの共重合体若しくはブレンドポリマーからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のような構成を有することで、上記(1)及び(2)の条件を満たす扁平モノフィラメントにより連通空隙部の骨格形成することで、横ずれの発生のない優れたクッション性を有し安定した圧縮回復性を備えることができる。
【0014】
すなわち、扁平モノフィラメントを用いたことにより従来生じていた横倒れの発生を抑えることができるため、フィラメント自体の剛性で荷重を支えることができるようになり、扁平モノフィラメントの剛性をクッション構造体の設計に生かすことが可能となる。例えば、多層構造の各層毎にフィラメントの剛性を変化させてクッション性のきめ細かい調整ができる。また、横ずれ方向の力が加わっても横倒れしにくいことから、様々な方向からの荷重に対しても同じようなクッション性を持たせることができ、今までにない優れたクッション性を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明に係る実施形態に関する断面図を模式的に示している。平織で織成された地組織10が上下に多重に組織され経糸方向に高収縮糸11が多数配列して織り込まれており、地組織10が上下の高収縮糸11に交互に交絡して波状に湾曲した状態に構成される。地組織10が波状に湾曲することで、多数の連通空隙部12が緯糸方向に沿って配列された層構造Mが形成される。
【0017】
層構造Mでは、地組織10を構成する経糸10aが上下の高収縮糸11に交絡して間隔を保持することで連通空隙部12が維持されるようになっており、経糸10aが連通空隙部12の骨格形成を担っている。そして、地組織10を構成する緯糸10bが経糸10aに織り込まれることで、経糸10a全体が一体化して機能するようになっている。地組織10を構成する経糸10aに扁平モノフィラメントが用いられている。
【0018】
図2は、本実施形態であるクッション構造体が圧縮された場合における経糸10aの変形の様子を示す模式図である。図2に示すように、圧縮前では経糸10aは、波状に湾曲変形して多数の連通空隙部が形成されているが(図2(a)参照)、上方からの圧縮力が加わると経糸10aは上部から撓んで圧縮変形するものの(図2(b)参照)、扁平モノフィラメントからなるため横倒れすることなくそのまま上下方向に潰されるように圧縮変形していく。したがって、クッション構造体全体として横ずれが発生せず、経糸10a自体の剛性で荷重を支えるようになって違和感のない自然なクッション性を発揮するようになる。また、横倒れによる根元部分のねじれが発生しないため、経糸10aの弾性回復力が損なわれることがなく、良好なクッション性を安定して維持できる。
【0019】
なお、この例では、経糸に扁平モノフィラメントを用いているが、これ以外のクッション構造体においてもこうした連通空隙部を備えている層構造を備えているものであれば、その骨格を形成する糸に扁平モノフィラメントを用いればよい。この場合層構造の積層数に特に限定されることはなく、少なくとも1層以上備えていればよい。好ましくは、1〜5層がよく、さらに好ましくは、1〜3層である。また、クッション構造体の一部にこうした層構造を備えている場合にも適用可能である。さらに、連通空隙部の形状についても上述した例のような台形状以外の形状でも適用でき、特に限定されない。
【0020】
本実施形態において連通空隙部は、一方の端部から他方の端部まで完全に連通していなくてもよく、縫製その他の手段により一部閉じられていてもクッション性が維持されていれば問題ない。通常、連通空隙部は、5cm以上、好ましくは10cm以上の長さに設定されていればよい。構造体全体の厚さは、10〜50mm、好ましくは15〜40mmであれば実用上十分なクッション性を得られる。
【0021】
本実施形態であるクッション構造体には、用途に応じてその表面にさらに別の織組織を複合化するようにしてもよい。
【0022】
本発明に係る実施形態に用いられる扁平モノフィラメントは、繊度が100dtex以上、10,000dtex以下である。繊度が100dtex未満では、圧縮による剛性が低く柔かいためクッション材として不適である。また、繊度が10,000dtexを超えると、剛性が高くなって固くなり、やはりクッション材としては不適である。より好ましくは、300dtex以上、1,000dtex以下である。
【0023】
扁平モノフィラメントは、扁平度(H)を次の式に示すようにbとaの比で規定される。
H=b/a
a及びbは、次の方法で求めることができる。まず、扁平モノフィラメントの横断面写真を取り、横断面の長手方向の最大長さ(b)及びその断面積(S)を求める。図2には、種々の扁平モノフィラメントの断面を示しており、それぞれの場合のb及びSを例示している。そしてb及びSが求められた後次の式によりaを求める。
a= 4S/πb
断面が楕円の場合には、bは長軸の長さとなり、aは短軸の長さとなる。
【0024】
そして、本発明に用いられる扁平モノフィラメントの扁平度(H)は、2以上4.5以下である。Hが2未満の場合は、上述した従来例で説明した経糸のように、荷重が加わると横倒れし根元部分においてねじれが発生する。Hが4.5を超えると製織等の加工工程でモノフィラメントが割れたり折れたりする。より好ましくは、2以上、4以下である。
【0025】
なお、扁平モノフィラメントの断面形状は、図3に例示するもの以外に四角形状でもよく、上記の繊度及び扁平度の条件を満たすものであれば特に限定されることはない。
【0026】
扁平モノフィラメントを構成するポリマーとしては、例えばポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン等が挙げられる。好ましくは、変形復元性が優れているポリエステル、ポリアミドを用いるとよい。より好ましくは、ポリトリメチレテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)であり、特に、PTT及びPBTのブレンドポリマーあるいは共重合体ポリマーである。好ましいPTTとPBTのブレンドあるいは共重合の割合は、PBTの割合(PBT%)が、12重量%以上45重量%以下である。この範囲のPBTを添加することで、PTT単独ポリマーに比べて延伸性が向上し、得られる繊維は高強力で初期弾性率も高く且つ弾性回復率も良好となる。PBT%が12重量%未満ではPTT単独ポリマーの性質と大差無く、45重量%を超えると弾性回復率が低下する。
【0027】
また、地組織の緯糸を構成する繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン等が挙げられる。好ましくは、変形復元性が優れているポリエステル、ポリアミドを用いるとよい。
【0028】
また、高収縮糸を構成するポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンが挙げられる。好ましくは、他成分5〜15モル%を共重合したポリエステルである。ただし、本発明において高収縮糸は必要不可欠ではなく、要は連通空隙部が形成される層構造を備えているものであれば、高収縮糸以外の材料を用いても構わない。
【0029】
また、地組織の緯糸を構成する繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン等が挙げられる。好ましくは、変形復元性が優れているポリエステル、ポリアミドを用いるとよい。
【実施例1】
【0030】
<扁平モノフィラメントの製造>
実施例に用いる扁平モノフィラメントの特性としては、以下のパラメータを用いた。
(1)固有粘度[η]は、次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】
【0031】
定義中のηrは、純度98%以上の0−クロロフェノールの溶媒にポリマーを溶解した溶液の温度35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cは、ポリマーの重量濃度(g/100ml)である。
(2)破断強度及び伸度は、JIS−L−1013に準拠して、糸長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行い測定した。
(3)伸長弾性率は、JIS−L−1013に示されるA法に準拠し20%伸長後除重し、瞬間回復率(R00)と2分後の回復率(R20)を測定した。
(4)最大延伸倍率(HDmax)は、温度60℃の水浴で延伸倍率を上げてゆき、モノフィラメントが切断した時の倍率を求めた。
【0032】
(PTT100%の場合;TTタイプ)
[η]=0.85dl/gのPTTチップを用い、図4に示す形状のノズルから温度260℃で溶融紡糸した。紡糸した原糸のHDmaxは5.3であった。紡糸した原糸を連続して温度60℃の水浴中で3.7倍に延伸し、続いて温度130℃の熱風炉内で1.25倍(全体で4.6倍)に延伸した。続く温度180℃の熱風炉内で3%の収縮処理を行った後巻き取った。以上の製造工程により繊度600dtexで扁平度(H)2.5の扁平モノフィラメントを得た。製造された扁平モノフィラメントの破断強度は2.8cN/dtex、伸度38%、伸長弾性率はROO=82%、R20=97%であった。
【0033】
以上説明した扁平モノフィラメントをタイプTT−1とし、ノズルの形状を変更して扁平度(H)を1.0、1.5及び4.7に変化させた比較例としてタイプTT−2、TT−3及びTT−4についてもTT−1と同様に製造した。
【0034】
(PTT+PBTの場合;TBタイプ)
[η]=0.85dl/gのPTTチップ及び[η]=0.83dl/gのPBTチップを用い、PTTチップ80%、PBTチップ20%の割合でブレンドし、図3に示す形状のノズルから温度260℃で溶融紡糸した。紡糸した原糸のHDmaxは6.8であった。紡糸した原糸を連続して温度60℃の水浴中で4.2倍に延伸し、続いて130℃の熱風炉内で1.26倍(全体で5.3倍)に延伸した。続く180℃の熱風炉内で3%の収縮処理を行った後巻き取った。以上の製造工程により繊度600dtexで扁平度(H)2.5の扁平モノフィラメントを得た。製造された扁平モノフィラメントの破断強度は3.9cN/dtex、伸度35%、伸長弾性率はR00=90%、R20=99%であった。
【0035】
以上説明した扁平モノフィラメントをタイプTB−2とし、PBTチップの割合を8%及び50%に変化させたタイプTB−1及びTB−3についてもTB−2と同様に製造した。
【0036】
表1は、製造した各タイプの特性をまとめた一覧表である。
【表1】
【0037】
<クッション構造体の製織>
経糸として3種類を使用する。高収縮糸(全繊度1100dtex;帝人ソクラテックス)を中間部の3層配置(各層36本/inch)、扁平モノフィラメントを4層配置(各層36本/inch)、ポリエチレンテレフタレートウーリ糸SD475/144フィラメントを最外層に配置(各層13本/inch)で、各々3ビームに巻いた3重ビーム整経品によりレピア織機で変形5重織りとするにあたり、緯糸外装にポリエチレンテレフタレートウーリ糸SD475/144フィラメントを使用し、中間空間部にポリエチレンテレフタレートモノフィラメント(330dtex)を使用し、中間高収縮糸との交差部にズレ止め用として低融点ポリエチレンテレフタレート紡績糸20/1/双糸を使用する。製織された織物を150℃で2分熱セットし、織物の経糸方向に高収縮糸により40%収縮させて厚さ30mmで図1に示されるような骨格が形成された高通気性クッション構造体を得た。
【0038】
タイプTT−4については、製織時に繊維自体が割れて製織できなかった。また、タイプTT−2については、製造されたクッション構造体は、従来例と同様に上下方向に圧縮されると層構造の中で経糸が倒れて構造体全体に横ずれが発生した。タイプTT−3についても、上下方向に圧縮されると従来例と同様に層構造内の経糸が倒れて横ずれが発生した。残りのタイプの扁平モノフィラメントを連通空隙部の骨格形成に用いた場合では、上下方向の圧縮に対して経糸が上下方向に撓みながら倒れることなく圧縮されて横ずれの発生が見られず、良好なクッション性を有していた。したがって、扁平度が4.5を超えるとクッション構造体を製織する際に支障が生じることになる。
【0039】
また、熱セット中に低融点紡績糸は溶融して高収縮糸及び扁平モノフィラメントが接合され、圧縮時の扁平モノフィラメントの変形のバラツキを完全に防止できた。横倒れに関しても扁平モノフィラメントによって抑えられ上下方向だけでなく全方向からの圧縮に対してほぼ均等なクッション性能を有していることが確認できた。
【実施例2】
【0040】
<扁平モノフィラメントの製造>
(PTT100%の場合;TTタイプ)
実施例1と同様のPTTチップを用い、図5(a)に示す楕円形状のノズルから温度240℃で溶融紡糸した。紡糸した原糸を連続して温度60℃の水浴中でHDmaxの0.7倍に延伸し、続いて温度130℃の熱風炉内で更に1.2倍で延伸した。続く温度180℃の熱風炉内で全体を8%収縮処理を行った後巻き取った。以上の製造工程により繊度515dtexで扁平度(H)2.6の扁平モノフィラメントを得た。製造された扁平モノフィラメントの破断強度は2.75cN/dtex、伸度57%、伸長弾性率はROO=93%であった。以上説明した扁平モノフィラメントをタイプTT−10とする。比較例として、ノズルの形状を図5(b)に示す円形状に変更したタイプTT−11、図5(c)に示す形状に変更したタイプTT−12及び図5(d)に示す形状に変更したタイプTT−13をTT−10と同様に製造した。
【0041】
(PTT+PBTの場合;TBタイプ)
実施例1と同様のPTTチップ及びPBTチップを用い、PTTチップ85%、PBTチップ15%の割合でブレンドし、図5(a)に示す形状のノズルから温度250℃で溶融紡糸した。紡糸した原糸を連続して温度60℃の水浴中で4.2倍に延伸し、続いて130℃の熱風炉内で全体を6.0倍にまで延伸した。続く180℃の熱風炉内で全体を5.6倍になるまで収縮処理を行った後巻き取った。以上の製造工程により繊度525dtexで扁平度(H)2.6の扁平モノフィラメントを得た。製造された扁平モノフィラメントの破断強度は3.6cN/dtex、伸度34%、伸長弾性率はR00=99%であった。以上説明した扁平モノフィラメントをタイプTT−10とする。
【0042】
表2は、製造した各タイプの特性をまとめた一覧表である。
【表2】
【0043】
(TTタイプ及びTBタイプの比較)
図6は、TT−10とTB−10に関する伸度と破断強度の相関関係を示すグラフである。比較のためナイロン繊維(480dtex)についても記載されている。図6からわかるように、TBタイプの方が、伸度と破断強度に関してナイロン繊維に近い特性を有しており、同じ伸度においてTBタイプの方が強度が大きくなる。したがって、クッション構造体にTBタイプを用いた場合には、クッション性の安定性が増すとともに耐久性が向上する。
【0044】
以上の結果をみると、TBタイプは、TTタイプに比べてHdmaxが大きいため、延伸がしやすく引張強度が高くなり、伸長弾性率が大きくなる。したがって、クッション構造体に用いる扁平モノフィラメントとしては、TTタイプに比べTBタイプがより好ましいと考えられる。
【0045】
(扁平モノフィラメントの圧縮特性)
TT−10〜13のモノフィラメントを所定の長さに切断して、図7(a)に示すように、高さ7mmで幅が16mmとなるように湾曲させ、載置台にほぼ垂直となるように両側をテープで固定した。この形状は、図1に示すクッション構造体における層構造での経糸の波形形状に類似するものである。そして、3本のモノフィラメントを1mm間隔で配列して、上方から垂直方向に一定荷重を加えて図7(b)のように圧縮変形させその変形量を測定した。圧縮試験機は、カトーテック株式会社製(KES−G5)を用い、圧縮力を0から一定のペースで増加させて10cN/cm2まで加え、その後同じペースで減少させて圧縮力を解除するようにした。
【0046】
図8は、その測定結果を示すグラフである。横軸に圧縮されたモノフィラメントの変形量(高さ(mm))をとり、縦軸に圧縮に対する反発力(cN/cm2)をとっている。図7をみると、TT−10及びTT−12では、圧縮されて高さが低下するに従い反発力が増加し圧縮力が解除されるに従い元に戻っているが、TT−11では、圧縮されて高さが5mmより低下した段階で横倒れが発生して反発力が急激に小さくなっている。TT−13についても、圧縮されて高さが5mmより小さくなった段階でねじれが発生して反発力の増加がみられなくなり、3mmより小さくなると横倒れが発生して反発力が急激に低下している。
【0047】
以上の結果をみると、扁平度(H)が2未満では、上下方向の圧縮に十分耐えることができず横倒れ等が発生することから、クッション構造体に用いると横ずれが発生してクッション性に悪影響を及ぼすことになり、不適である。
【0048】
<クッション構造体の製織>
TB−10の扁平モノフィラメントを層構造の連通空隙部を骨格形成する経糸として用い、実施例1と同様の製織方法によりクッション構造体を製織した。製織されたクッション構造体の圧縮過程を撮影した写真を図9及び図10に示す。図9は、圧縮されていない状態のクッション構造体を経糸方向から撮影しており、4つの層構造の経糸が上下方向に配列されている。図10は、60%だけ圧縮した状態のクッション構造体を撮影しており、中間の2層が圧縮されて見えておらず、上下の2層についても大きく圧縮変形しているが、4層の経糸の配列方向は依然として上下方向に維持されており、横倒れは発生していない。そして、横倒れが発生しにくいことから、横ずれ方向の力が加わってもその方向に変形しにくくなり、様々な方向からの力に対して同じような反発力が発生してクッション性に方向性がなく優れたクッション性を実現できる。
【0049】
このように、層構造の連通空隙部を形成する経糸は、圧縮に従い上下方向に潰されるように変形するが、横倒れが発生することなく横ずれが生じることがない。また、上下方向に潰されることで反発力が増加するようになり、優れたクッション性が実現されている。なお、経糸が上下方向に潰されるように変形することから、各経糸の変形にバラツキが生じるようになるため、緯糸に低融点の融着糸を用いて経糸同士を連結し、変形のバラツキを防止するようにするとよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るクッション構造体は、横ずれのない優れたクッション性を備えているとともに、通気性、耐圧分布の均一性、耐久性及び洗濯性に優れ、寝具、車両用シート、椅子用シート、座布団用シート、応接セット用シート及びスポーツ用具等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る実施形態に関する断面図である。
【図2】本実施形態が圧縮された場合での経糸の変形の様子を示す模式図である。
【図3】扁平モノフィラメントの断面形状を示す模式図である。
【図4】ノズルの形状を示す模式図である。
【図5】ノズルの形状を示す模式図である。
【図6】TT−10とTB−10に関する伸度と破断強度の相関関係を示すグラフである。
【図7】圧縮試験を行うフィラメントの設定状態を示す模式図である。
【図8】圧縮試験の測定結果に関するグラフである。
【図9】クッション構造体の圧縮前の状態を撮影した写真である。
【図10】クッション構造体の圧縮状態を撮影した写真である。
【図11】従来の立体多重織組織の一部拡大斜視図である。
【図12】従来の立体多重織組織に荷重が加わった場合を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0052】
10 地組織
10a 経糸
10b 緯糸
11 高収縮糸
12 連通空隙部
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維から実質的に構成された立体多重織組織からなるクッション構造体に関する。さらに詳しくは、寝具、車両用シート、椅子用シート、座布団用シート、応接セット用シート又はスポーツ資材等の通気性、クッション性、洗濯性などが要求される分野に利用することができるクッション構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立体構造を有するクッション構造体は、幅広い分野において用いられているが、ウレタンマットに代表される樹脂製発泡体、繊維材料から構成された立体構造体が実用化されている。樹脂製発泡体については、成形加工が容易であるが、発泡による空間が連通しておらず通気性の面で劣る。また、長時間の圧縮に対しては変形しやすく、圧縮回復力が低下するようになる。
【0003】
繊維材料からなる立体構造体としては、例えば、特許文献1に記載された織構造により立体構造体を形成するものがある。特許文献1では、フィラメント繊維の織組織を立体化した立体多重織組織からなり、その表面空隙層部は一定の大きさ及び形状の凸部が形成されており、中間空隙層部は、一方向に平行した多数の連通空洞部を有する層を1層もしくは2層以上積層形成されている点が記載されている。こうした立体多重織組織は、特許文献2に記載されているように、経糸に高収縮糸を用いた多重織組織を織成した後高収縮糸を収縮させて立体構造を構成するようにしている。同様の多層織物組織としては、例えば、特許文献3に記載された段ボール構造織物がある。
【0004】
また、特許文献4に記載されているように、表裏二層の編地とこれら二層の編地を連結する連結糸から構成された立体編物がある。また、特許文献5には、表裏二層を織地としこれらニ層を連結糸で連結した立体織物が記載されている。
【特許文献1】特許第2883288号公報
【特許文献2】特開平6−128837号公報
【特許文献3】登録実用新案第3010467号公報
【特許文献4】特許第3394183号公報
【特許文献5】特開2003−13337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した繊維材料からなる立体構造体をクッション材として用いた場合に問題になるのが、荷重が加わって圧縮された部分に生じる横ずれである。例えば、図11は、従来の立体多重織組織の一部拡大斜視図である。この従来例では、平織で織成された地組織100が上下に多重に組織され経糸方向に高収縮糸101が多数配列して織り込まれており、地組織100が上下の高収縮糸101に交互に交絡して波状に湾曲した状態に構成される。地組織100が波状に湾曲することで、多数の連通空隙部102が緯糸方向に沿って配列された層構造Lが形成される。
【0006】
こうした層構造では、地組織100を構成する経糸100aが上下の高収縮糸101に交絡して間隔を保持することで連通空隙部102が維持されるようになっており、経糸100aが連通空隙部102の骨格形成を担っている。そして、地組織100を構成する緯糸100bが経糸100aに織り込まれることで、経糸100a全体が一体化して機能するようになっている。
【0007】
このような従来の層構造に荷重が加わると、骨格形成を担う経糸100aが荷重を受けて撓むようになり、連通空隙部102が押し潰された状態となるが、荷重がなくなると、経糸100aが弾性回復して連通空隙部102は元の状態に戻るようになる。したがって、荷重に対して常時それに反発する弾性力が発生することからクッション性を有するようになる。
【0008】
図12は、従来の立体多重織組織における荷重が加わる前の状態(図12(a))及び荷重の加わった後の状態(図12(b))について層構造の経糸方向から見た模式図である。経糸100aは、荷重により上下方向に圧縮されると、一旦圧縮されて撓むものの、図12(b)に示すように緯糸方向に倒れるように傾斜する。そして、経糸100aが倒れるように傾斜すると、経糸100aの上部が緯糸方向に移動するため、立体構造体の表面では横ずれしたような感触を受けるようになる。こうした横ずれは、連通空隙部の間隔が大きくなるほど顕著になるため、クッション性を高めようとすると横ずれが大きくなって使い心地の悪いものとなってしまう。
【0009】
さらに、経糸100aが倒れるように変形する際に、下方の高収縮糸に交絡する根元部分においてねじれが発生するために、大きな負荷が経糸100aの根元部分に加わるようになる。したがって、同じ位置に繰り返し荷重が加えられると、同じ経糸100aの根元部分に繰り返しねじれ変形が加えられて弾性回復力が低下していき、クッション材としての機能が早期に失われてしまうようになる。
【0010】
こうした横ずれの問題は、特許文献4及び5に記載された連結糸においても生じる問題である。
【0011】
そこで、本発明は、繊維から実質的に構成された立体多重織組織において横ずれの発生のない優れたクッション性を有し安定した圧縮回復性を備えたクッション構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るクッション構造体は、繊維から実質的に構成された立体多重織組織からなり、一方向に沿って多数の連通空隙部が配列された層構造を少なくとも1層有するクッション構造体であって、前記連通空隙部は下記(1)及び(2)の条件を満たす扁平モノフィラメントにより実質的に骨格形成されていることを特徴とするクッション構造体。
(1)繊度が100dtex以上、10,000dtex以下
(2)次の式から求められる繊維断面の扁平度(H)が2以上、4.5以下
H=b/a
但し、bは繊維断面の長手方向の最大長さ、aはbと繊維断面積Sから次式により求められる値である。
a=4S/πb
さらに、前記扁平モノフィラメントは、ポリエステルからなることを特徴とする。さらに、前記扁平モノフィラメントは、ポリトリメチレンテレフタレート又は、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートの共重合体若しくはブレンドポリマーからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のような構成を有することで、上記(1)及び(2)の条件を満たす扁平モノフィラメントにより連通空隙部の骨格形成することで、横ずれの発生のない優れたクッション性を有し安定した圧縮回復性を備えることができる。
【0014】
すなわち、扁平モノフィラメントを用いたことにより従来生じていた横倒れの発生を抑えることができるため、フィラメント自体の剛性で荷重を支えることができるようになり、扁平モノフィラメントの剛性をクッション構造体の設計に生かすことが可能となる。例えば、多層構造の各層毎にフィラメントの剛性を変化させてクッション性のきめ細かい調整ができる。また、横ずれ方向の力が加わっても横倒れしにくいことから、様々な方向からの荷重に対しても同じようなクッション性を持たせることができ、今までにない優れたクッション性を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明に係る実施形態に関する断面図を模式的に示している。平織で織成された地組織10が上下に多重に組織され経糸方向に高収縮糸11が多数配列して織り込まれており、地組織10が上下の高収縮糸11に交互に交絡して波状に湾曲した状態に構成される。地組織10が波状に湾曲することで、多数の連通空隙部12が緯糸方向に沿って配列された層構造Mが形成される。
【0017】
層構造Mでは、地組織10を構成する経糸10aが上下の高収縮糸11に交絡して間隔を保持することで連通空隙部12が維持されるようになっており、経糸10aが連通空隙部12の骨格形成を担っている。そして、地組織10を構成する緯糸10bが経糸10aに織り込まれることで、経糸10a全体が一体化して機能するようになっている。地組織10を構成する経糸10aに扁平モノフィラメントが用いられている。
【0018】
図2は、本実施形態であるクッション構造体が圧縮された場合における経糸10aの変形の様子を示す模式図である。図2に示すように、圧縮前では経糸10aは、波状に湾曲変形して多数の連通空隙部が形成されているが(図2(a)参照)、上方からの圧縮力が加わると経糸10aは上部から撓んで圧縮変形するものの(図2(b)参照)、扁平モノフィラメントからなるため横倒れすることなくそのまま上下方向に潰されるように圧縮変形していく。したがって、クッション構造体全体として横ずれが発生せず、経糸10a自体の剛性で荷重を支えるようになって違和感のない自然なクッション性を発揮するようになる。また、横倒れによる根元部分のねじれが発生しないため、経糸10aの弾性回復力が損なわれることがなく、良好なクッション性を安定して維持できる。
【0019】
なお、この例では、経糸に扁平モノフィラメントを用いているが、これ以外のクッション構造体においてもこうした連通空隙部を備えている層構造を備えているものであれば、その骨格を形成する糸に扁平モノフィラメントを用いればよい。この場合層構造の積層数に特に限定されることはなく、少なくとも1層以上備えていればよい。好ましくは、1〜5層がよく、さらに好ましくは、1〜3層である。また、クッション構造体の一部にこうした層構造を備えている場合にも適用可能である。さらに、連通空隙部の形状についても上述した例のような台形状以外の形状でも適用でき、特に限定されない。
【0020】
本実施形態において連通空隙部は、一方の端部から他方の端部まで完全に連通していなくてもよく、縫製その他の手段により一部閉じられていてもクッション性が維持されていれば問題ない。通常、連通空隙部は、5cm以上、好ましくは10cm以上の長さに設定されていればよい。構造体全体の厚さは、10〜50mm、好ましくは15〜40mmであれば実用上十分なクッション性を得られる。
【0021】
本実施形態であるクッション構造体には、用途に応じてその表面にさらに別の織組織を複合化するようにしてもよい。
【0022】
本発明に係る実施形態に用いられる扁平モノフィラメントは、繊度が100dtex以上、10,000dtex以下である。繊度が100dtex未満では、圧縮による剛性が低く柔かいためクッション材として不適である。また、繊度が10,000dtexを超えると、剛性が高くなって固くなり、やはりクッション材としては不適である。より好ましくは、300dtex以上、1,000dtex以下である。
【0023】
扁平モノフィラメントは、扁平度(H)を次の式に示すようにbとaの比で規定される。
H=b/a
a及びbは、次の方法で求めることができる。まず、扁平モノフィラメントの横断面写真を取り、横断面の長手方向の最大長さ(b)及びその断面積(S)を求める。図2には、種々の扁平モノフィラメントの断面を示しており、それぞれの場合のb及びSを例示している。そしてb及びSが求められた後次の式によりaを求める。
a= 4S/πb
断面が楕円の場合には、bは長軸の長さとなり、aは短軸の長さとなる。
【0024】
そして、本発明に用いられる扁平モノフィラメントの扁平度(H)は、2以上4.5以下である。Hが2未満の場合は、上述した従来例で説明した経糸のように、荷重が加わると横倒れし根元部分においてねじれが発生する。Hが4.5を超えると製織等の加工工程でモノフィラメントが割れたり折れたりする。より好ましくは、2以上、4以下である。
【0025】
なお、扁平モノフィラメントの断面形状は、図3に例示するもの以外に四角形状でもよく、上記の繊度及び扁平度の条件を満たすものであれば特に限定されることはない。
【0026】
扁平モノフィラメントを構成するポリマーとしては、例えばポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン等が挙げられる。好ましくは、変形復元性が優れているポリエステル、ポリアミドを用いるとよい。より好ましくは、ポリトリメチレテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)であり、特に、PTT及びPBTのブレンドポリマーあるいは共重合体ポリマーである。好ましいPTTとPBTのブレンドあるいは共重合の割合は、PBTの割合(PBT%)が、12重量%以上45重量%以下である。この範囲のPBTを添加することで、PTT単独ポリマーに比べて延伸性が向上し、得られる繊維は高強力で初期弾性率も高く且つ弾性回復率も良好となる。PBT%が12重量%未満ではPTT単独ポリマーの性質と大差無く、45重量%を超えると弾性回復率が低下する。
【0027】
また、地組織の緯糸を構成する繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン等が挙げられる。好ましくは、変形復元性が優れているポリエステル、ポリアミドを用いるとよい。
【0028】
また、高収縮糸を構成するポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンが挙げられる。好ましくは、他成分5〜15モル%を共重合したポリエステルである。ただし、本発明において高収縮糸は必要不可欠ではなく、要は連通空隙部が形成される層構造を備えているものであれば、高収縮糸以外の材料を用いても構わない。
【0029】
また、地組織の緯糸を構成する繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン等が挙げられる。好ましくは、変形復元性が優れているポリエステル、ポリアミドを用いるとよい。
【実施例1】
【0030】
<扁平モノフィラメントの製造>
実施例に用いる扁平モノフィラメントの特性としては、以下のパラメータを用いた。
(1)固有粘度[η]は、次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】
【0031】
定義中のηrは、純度98%以上の0−クロロフェノールの溶媒にポリマーを溶解した溶液の温度35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cは、ポリマーの重量濃度(g/100ml)である。
(2)破断強度及び伸度は、JIS−L−1013に準拠して、糸長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行い測定した。
(3)伸長弾性率は、JIS−L−1013に示されるA法に準拠し20%伸長後除重し、瞬間回復率(R00)と2分後の回復率(R20)を測定した。
(4)最大延伸倍率(HDmax)は、温度60℃の水浴で延伸倍率を上げてゆき、モノフィラメントが切断した時の倍率を求めた。
【0032】
(PTT100%の場合;TTタイプ)
[η]=0.85dl/gのPTTチップを用い、図4に示す形状のノズルから温度260℃で溶融紡糸した。紡糸した原糸のHDmaxは5.3であった。紡糸した原糸を連続して温度60℃の水浴中で3.7倍に延伸し、続いて温度130℃の熱風炉内で1.25倍(全体で4.6倍)に延伸した。続く温度180℃の熱風炉内で3%の収縮処理を行った後巻き取った。以上の製造工程により繊度600dtexで扁平度(H)2.5の扁平モノフィラメントを得た。製造された扁平モノフィラメントの破断強度は2.8cN/dtex、伸度38%、伸長弾性率はROO=82%、R20=97%であった。
【0033】
以上説明した扁平モノフィラメントをタイプTT−1とし、ノズルの形状を変更して扁平度(H)を1.0、1.5及び4.7に変化させた比較例としてタイプTT−2、TT−3及びTT−4についてもTT−1と同様に製造した。
【0034】
(PTT+PBTの場合;TBタイプ)
[η]=0.85dl/gのPTTチップ及び[η]=0.83dl/gのPBTチップを用い、PTTチップ80%、PBTチップ20%の割合でブレンドし、図3に示す形状のノズルから温度260℃で溶融紡糸した。紡糸した原糸のHDmaxは6.8であった。紡糸した原糸を連続して温度60℃の水浴中で4.2倍に延伸し、続いて130℃の熱風炉内で1.26倍(全体で5.3倍)に延伸した。続く180℃の熱風炉内で3%の収縮処理を行った後巻き取った。以上の製造工程により繊度600dtexで扁平度(H)2.5の扁平モノフィラメントを得た。製造された扁平モノフィラメントの破断強度は3.9cN/dtex、伸度35%、伸長弾性率はR00=90%、R20=99%であった。
【0035】
以上説明した扁平モノフィラメントをタイプTB−2とし、PBTチップの割合を8%及び50%に変化させたタイプTB−1及びTB−3についてもTB−2と同様に製造した。
【0036】
表1は、製造した各タイプの特性をまとめた一覧表である。
【表1】
【0037】
<クッション構造体の製織>
経糸として3種類を使用する。高収縮糸(全繊度1100dtex;帝人ソクラテックス)を中間部の3層配置(各層36本/inch)、扁平モノフィラメントを4層配置(各層36本/inch)、ポリエチレンテレフタレートウーリ糸SD475/144フィラメントを最外層に配置(各層13本/inch)で、各々3ビームに巻いた3重ビーム整経品によりレピア織機で変形5重織りとするにあたり、緯糸外装にポリエチレンテレフタレートウーリ糸SD475/144フィラメントを使用し、中間空間部にポリエチレンテレフタレートモノフィラメント(330dtex)を使用し、中間高収縮糸との交差部にズレ止め用として低融点ポリエチレンテレフタレート紡績糸20/1/双糸を使用する。製織された織物を150℃で2分熱セットし、織物の経糸方向に高収縮糸により40%収縮させて厚さ30mmで図1に示されるような骨格が形成された高通気性クッション構造体を得た。
【0038】
タイプTT−4については、製織時に繊維自体が割れて製織できなかった。また、タイプTT−2については、製造されたクッション構造体は、従来例と同様に上下方向に圧縮されると層構造の中で経糸が倒れて構造体全体に横ずれが発生した。タイプTT−3についても、上下方向に圧縮されると従来例と同様に層構造内の経糸が倒れて横ずれが発生した。残りのタイプの扁平モノフィラメントを連通空隙部の骨格形成に用いた場合では、上下方向の圧縮に対して経糸が上下方向に撓みながら倒れることなく圧縮されて横ずれの発生が見られず、良好なクッション性を有していた。したがって、扁平度が4.5を超えるとクッション構造体を製織する際に支障が生じることになる。
【0039】
また、熱セット中に低融点紡績糸は溶融して高収縮糸及び扁平モノフィラメントが接合され、圧縮時の扁平モノフィラメントの変形のバラツキを完全に防止できた。横倒れに関しても扁平モノフィラメントによって抑えられ上下方向だけでなく全方向からの圧縮に対してほぼ均等なクッション性能を有していることが確認できた。
【実施例2】
【0040】
<扁平モノフィラメントの製造>
(PTT100%の場合;TTタイプ)
実施例1と同様のPTTチップを用い、図5(a)に示す楕円形状のノズルから温度240℃で溶融紡糸した。紡糸した原糸を連続して温度60℃の水浴中でHDmaxの0.7倍に延伸し、続いて温度130℃の熱風炉内で更に1.2倍で延伸した。続く温度180℃の熱風炉内で全体を8%収縮処理を行った後巻き取った。以上の製造工程により繊度515dtexで扁平度(H)2.6の扁平モノフィラメントを得た。製造された扁平モノフィラメントの破断強度は2.75cN/dtex、伸度57%、伸長弾性率はROO=93%であった。以上説明した扁平モノフィラメントをタイプTT−10とする。比較例として、ノズルの形状を図5(b)に示す円形状に変更したタイプTT−11、図5(c)に示す形状に変更したタイプTT−12及び図5(d)に示す形状に変更したタイプTT−13をTT−10と同様に製造した。
【0041】
(PTT+PBTの場合;TBタイプ)
実施例1と同様のPTTチップ及びPBTチップを用い、PTTチップ85%、PBTチップ15%の割合でブレンドし、図5(a)に示す形状のノズルから温度250℃で溶融紡糸した。紡糸した原糸を連続して温度60℃の水浴中で4.2倍に延伸し、続いて130℃の熱風炉内で全体を6.0倍にまで延伸した。続く180℃の熱風炉内で全体を5.6倍になるまで収縮処理を行った後巻き取った。以上の製造工程により繊度525dtexで扁平度(H)2.6の扁平モノフィラメントを得た。製造された扁平モノフィラメントの破断強度は3.6cN/dtex、伸度34%、伸長弾性率はR00=99%であった。以上説明した扁平モノフィラメントをタイプTT−10とする。
【0042】
表2は、製造した各タイプの特性をまとめた一覧表である。
【表2】
【0043】
(TTタイプ及びTBタイプの比較)
図6は、TT−10とTB−10に関する伸度と破断強度の相関関係を示すグラフである。比較のためナイロン繊維(480dtex)についても記載されている。図6からわかるように、TBタイプの方が、伸度と破断強度に関してナイロン繊維に近い特性を有しており、同じ伸度においてTBタイプの方が強度が大きくなる。したがって、クッション構造体にTBタイプを用いた場合には、クッション性の安定性が増すとともに耐久性が向上する。
【0044】
以上の結果をみると、TBタイプは、TTタイプに比べてHdmaxが大きいため、延伸がしやすく引張強度が高くなり、伸長弾性率が大きくなる。したがって、クッション構造体に用いる扁平モノフィラメントとしては、TTタイプに比べTBタイプがより好ましいと考えられる。
【0045】
(扁平モノフィラメントの圧縮特性)
TT−10〜13のモノフィラメントを所定の長さに切断して、図7(a)に示すように、高さ7mmで幅が16mmとなるように湾曲させ、載置台にほぼ垂直となるように両側をテープで固定した。この形状は、図1に示すクッション構造体における層構造での経糸の波形形状に類似するものである。そして、3本のモノフィラメントを1mm間隔で配列して、上方から垂直方向に一定荷重を加えて図7(b)のように圧縮変形させその変形量を測定した。圧縮試験機は、カトーテック株式会社製(KES−G5)を用い、圧縮力を0から一定のペースで増加させて10cN/cm2まで加え、その後同じペースで減少させて圧縮力を解除するようにした。
【0046】
図8は、その測定結果を示すグラフである。横軸に圧縮されたモノフィラメントの変形量(高さ(mm))をとり、縦軸に圧縮に対する反発力(cN/cm2)をとっている。図7をみると、TT−10及びTT−12では、圧縮されて高さが低下するに従い反発力が増加し圧縮力が解除されるに従い元に戻っているが、TT−11では、圧縮されて高さが5mmより低下した段階で横倒れが発生して反発力が急激に小さくなっている。TT−13についても、圧縮されて高さが5mmより小さくなった段階でねじれが発生して反発力の増加がみられなくなり、3mmより小さくなると横倒れが発生して反発力が急激に低下している。
【0047】
以上の結果をみると、扁平度(H)が2未満では、上下方向の圧縮に十分耐えることができず横倒れ等が発生することから、クッション構造体に用いると横ずれが発生してクッション性に悪影響を及ぼすことになり、不適である。
【0048】
<クッション構造体の製織>
TB−10の扁平モノフィラメントを層構造の連通空隙部を骨格形成する経糸として用い、実施例1と同様の製織方法によりクッション構造体を製織した。製織されたクッション構造体の圧縮過程を撮影した写真を図9及び図10に示す。図9は、圧縮されていない状態のクッション構造体を経糸方向から撮影しており、4つの層構造の経糸が上下方向に配列されている。図10は、60%だけ圧縮した状態のクッション構造体を撮影しており、中間の2層が圧縮されて見えておらず、上下の2層についても大きく圧縮変形しているが、4層の経糸の配列方向は依然として上下方向に維持されており、横倒れは発生していない。そして、横倒れが発生しにくいことから、横ずれ方向の力が加わってもその方向に変形しにくくなり、様々な方向からの力に対して同じような反発力が発生してクッション性に方向性がなく優れたクッション性を実現できる。
【0049】
このように、層構造の連通空隙部を形成する経糸は、圧縮に従い上下方向に潰されるように変形するが、横倒れが発生することなく横ずれが生じることがない。また、上下方向に潰されることで反発力が増加するようになり、優れたクッション性が実現されている。なお、経糸が上下方向に潰されるように変形することから、各経糸の変形にバラツキが生じるようになるため、緯糸に低融点の融着糸を用いて経糸同士を連結し、変形のバラツキを防止するようにするとよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るクッション構造体は、横ずれのない優れたクッション性を備えているとともに、通気性、耐圧分布の均一性、耐久性及び洗濯性に優れ、寝具、車両用シート、椅子用シート、座布団用シート、応接セット用シート及びスポーツ用具等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る実施形態に関する断面図である。
【図2】本実施形態が圧縮された場合での経糸の変形の様子を示す模式図である。
【図3】扁平モノフィラメントの断面形状を示す模式図である。
【図4】ノズルの形状を示す模式図である。
【図5】ノズルの形状を示す模式図である。
【図6】TT−10とTB−10に関する伸度と破断強度の相関関係を示すグラフである。
【図7】圧縮試験を行うフィラメントの設定状態を示す模式図である。
【図8】圧縮試験の測定結果に関するグラフである。
【図9】クッション構造体の圧縮前の状態を撮影した写真である。
【図10】クッション構造体の圧縮状態を撮影した写真である。
【図11】従来の立体多重織組織の一部拡大斜視図である。
【図12】従来の立体多重織組織に荷重が加わった場合を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0052】
10 地組織
10a 経糸
10b 緯糸
11 高収縮糸
12 連通空隙部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維から実質的に構成された立体多重織組織からなり、一方向に沿って多数の連通空隙部が配列された層構造を少なくとも1層有するクッション構造体であって、前記連通空隙部は下記(1)及び(2)の条件を満たす扁平モノフィラメントにより実質的に骨格形成されていることを特徴とするクッション構造体。
(1)繊度が100dtex以上、10,000dtex以下
(2)次の式から求められる繊維断面の扁平度(H)が2以上、4.5以下
H=b/a
但し、bは繊維断面の長手方向の最大長さ、aはbと繊維断面積Sから次式により求められる値である。
a=4S/πb
【請求項2】
前記扁平モノフィラメントは、ポリエステルからなることを特徴とする請求項1記載のクッション構造体。
【請求項3】
前記扁平モノフィラメントは、ポリトリメチレンテレフタレート又は、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートの共重合体若しくはブレンドポリマーからなることを特徴とする請求項2に記載のクッション構造体。
【請求項1】
繊維から実質的に構成された立体多重織組織からなり、一方向に沿って多数の連通空隙部が配列された層構造を少なくとも1層有するクッション構造体であって、前記連通空隙部は下記(1)及び(2)の条件を満たす扁平モノフィラメントにより実質的に骨格形成されていることを特徴とするクッション構造体。
(1)繊度が100dtex以上、10,000dtex以下
(2)次の式から求められる繊維断面の扁平度(H)が2以上、4.5以下
H=b/a
但し、bは繊維断面の長手方向の最大長さ、aはbと繊維断面積Sから次式により求められる値である。
a=4S/πb
【請求項2】
前記扁平モノフィラメントは、ポリエステルからなることを特徴とする請求項1記載のクッション構造体。
【請求項3】
前記扁平モノフィラメントは、ポリトリメチレンテレフタレート又は、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートの共重合体若しくはブレンドポリマーからなることを特徴とする請求項2に記載のクッション構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−100256(P2007−100256A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293287(P2005−293287)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(502018109)永平寺サイジング株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(502018109)永平寺サイジング株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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