説明

クライミングクレーンの反力受け構造

【課題】建造物に対するクライミングクレーンの適用範囲を拡大できるようにする。
【解決手段】本体支持架台と上部架台を備えてクライミングが可能なクレーン本体を有し、本体支持架台と上部架台の夫々に設けた拡縮機構により反力受部37を建造物の柱に押付けてクレーン本体に作用するモーメントを柱で受ける反力受け構造であって、拡縮機構が、本体支持架台及び上部架台に対して水平方向に拡縮する第1段拡縮部材24と、第1段拡縮部材24と直交する水平方向に拡縮する第2段拡縮部材35とからなり、反力受部37が第2段拡縮部材35の拡張方向先端に延設した固定爪38と固定爪38に回動可能に取り付けた回動爪40とを有し、拡張時に反力受部がL字形を形成して柱のコーナ部に押圧され、縮小時に回動爪40が固定爪38と平行な方向に回動して反力受部が第1段拡縮部材24の伸縮穴43内部に引込み収容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライミングクレーンの反力受け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低層のビルなどの建造物を建設する場合は、地上にマストを支持する架台を固定したクレーン本体が用いられるが、高層の建造物を建設する場合には、建設の進行に合わせてクレーン本体を建造物の上層階に順次盛り換えるようにしたクライミングクレーンが使用される。
【0003】
図9は従来の鉄骨構造の高層建築の建設に採用されているクライミングクレーンの一例を示すもので、このクライミングクレーンは、マスト1の頂部にクレーン2を備え且つマスト1の下端に本体支持架台3が固定されたクレーン本体4を有している。更に、前記本体支持架台3の上部におけるマスト1の外周には、ロックピン5の抜き差しによりマスト1への固定・切離しを行ってマスト1に対する盛り換えが可能な上部架台6を設けており、更に、ロックピン7の抜き差しによりマスト1への固定・切離しを行ってマスト1に対する盛り換えが可能なガイドマスト8を設けており、前記上部架台6とガイドマスト8の間を昇降シリンダ9により連結している。
【0004】
前記本体支持架台3と上部架台6の夫々には、水平な十字方向(前後左右)の外側に伸縮する伸縮ビーム12,14が備えてあり、該伸縮ビーム12,14は、柱10bと梁10a(横材)で構成される建造物10の上下の梁10a上に伸長させてアンカーボルト11,13により梁10aに固定するようにしている。前記本体支持架台3及び上部架台6に備えられる伸縮ビーム12,14は、一般に油圧シリンダ、或いは駆動モータで回転するネジ軸に伸縮ビーム12,14に備えたナットを螺合させた構成によって伸縮するようになっている。
【0005】
図9に示したクライミングクレーンでは、本体支持架台3の伸縮ビーム12をアンカーボルト11により下層の梁10aに固定し、且つロックピン5にてマスト1に固定した上部架台6の伸縮ビーム14をアンカーボルト13により上層の梁10aに固定しているので、クレーン本体4に作用する重力WとモーメントMは、建造物10の下層と上層の梁10aで支持されるようになっている。
【0006】
一般のクライミングクレーンでは、前記クレーン2もマスト1に対して盛り換えできるようになっており、作業の開始時には、先ず本体支持架台3に固定したマスト1にクレーン1を装着し、前記マスト1の上部に追加のマスト1を継ぎ足しながらクレーン2をクライミングさせる作業によって所要高さとしたマスト1の上端にクレーン2を固定することによりクレーン本体4を組立てている。
【0007】
図9のクライミングクレーンにおいて、建造物10の上層の建造が終了して、クレーン本体4を上方へ盛り換える際は、クレーン2に吊り荷が無い無負荷の状態において、先ず上部架台6の盛り換えを行う。上部架台6の盛り換えには、先ずガイドマスト8のロックピン7をマスト1から引き抜き、昇降シリンダ9を伸長してガイドマスト8を上昇させた位置でロックピン7を再びマスト1に差込んで固定する。次に上部架台6の伸縮ビーム14を梁10aに固定しているアンカーボルト13の固定を解除した後、上部架台6のロックピン5を引き抜き、昇降シリンダ9を縮小することにより上部架台6を所定高さまで引き上げた後、ロックピン5を差込んで上部架台6をマスト1に固定する。これにより上部架台6は所定ストローク分だけ上昇する。再び、上記と同様にして上部架台6を所定ストローク分上昇させる操作を繰返すことにより、前記上部架台6の伸縮ビーム14が上層の梁10aより上側位置になるまで上昇させた後、上部架台6の伸縮ビーム14を梁10a上に伸長し、且つ昇降シリンダ9を伸長して伸縮ビーム14を梁10a上に載置した後、アンカーボルト13により伸縮ビーム14を梁10aに固定する。これにより上部架台6の盛り換えは終了する。
【0008】
次に、クレーン本体4を盛り換えるには、前記した如く上層の梁10aに盛り換えた上部架台6によってクレーン本体4を支持した状態において、先ず本体支持架台3の伸縮ビーム12を梁10aに固定しているアンカーボルト11の固定を解除した後、伸縮ビーム12を縮小させる。
【0009】
次に、昇降シリンダ9を縮小してガイドマスト8を下降させた位置でガイドマスト8のロックピン7をマスト1に差込んで固定し、続いて昇降シリンダ9を僅かに伸長して上部架台6のロックピン5を引き抜き、これによりクレーン本体4の重量をロックピン7、ガイドマスト8、昇降シリンダ9を介して上部架台6により支持する。この状態で昇降シリンダ9を伸長してクレーン本体4を上昇させた位置で上部架台6のロックピン5をマスト1に差込んで固定する。これによりクレーン本体4は所定ストローク分だけ上昇する。再び、上記と同様にしてクレーン本体4を所定ストローク分上昇させる操作を繰返すことにより、前記本体支持架台3の伸縮ビーム12が上層の梁10aの上側位置になるまで上昇させた後、本体支持架台3の伸縮ビーム12を梁10a上に伸長し、且つ昇降シリンダ9を伸長して伸縮ビーム12を梁10a上に載置した後、アンカーボルト11により伸縮ビーム12を梁10aに固定する。これによりクレーン本体4の盛り換えが終了する。
【0010】
上記したクライミングクレーンでは、本体支持架台3及び上部架台6に備えた伸縮ビーム12,14を水平方向外側に張出し、該伸縮ビーム12,14をアンカーボルト11,13を用いて梁10aに固定することにより、クレーン本体4に作用する重力WとモーメントMを梁10aで受けるようにしているために、伸縮ビーム12,14は梁10aに対して強固に固定する必要がある。従って、前記伸縮ビーム12,14を梁10aに強固に固定するための構造が面倒であり、且つ梁10aに対する伸縮ビーム12,14の固定・解除に時間と手数を要する問題がある。又、前記伸縮ビーム12,14の固定・解除を自動で行うことも提案されているが、このような伸縮ビーム12,14の固定・解除を自動で行うためには装置の構成が非常に複雑且つ大掛りになり、このために本体支持架台3及び上部架台6の重量が増加するという問題がある。
【0011】
更に、クレーン本体4に作用する垂直方向の重力Wに対しては梁10aで受けることができるが、特にクレーン作業時にクレーン本体4に作用するモーメントMは梁10aに対して部分的に集中して掛ることになり、このとき梁10aは柱10bに比して強度が低いために梁10aが変形する場合がある。このため、従来では図9に示す如く梁10aを補強部材19で補強するようにしており、この補強部材19の取り付け・取り外しにも多大の手数と時間を要するという問題を有していた。
【0012】
又、クライミングクレーンとしては特許文献1に示したものがある。このクライミングクレーンでは、マストの頂部にクレーンを備え且つマストの下端に本体支持架台を固定したクレーン本体を備えており、前記本体支持架台は、十字状ビームと、このビームの各先端に着脱可能に備えた延長ビームとによって建造物の梁上に支持するようにしている。又、前記マストには夫々ロッドを着脱して盛り換えできるようにした上部架台と昇降装置が備えてあり、且つ上部架台と昇降装置との間は昇降シリンダで連結されている。そして、上部架台には、水平方向外側に張出して建造物の梁の上面或いは内面、又は柱の内面に支持するようにした延長ビームを備えている。
【特許文献1】特開2000−203788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記特許文献1に示されたクライミングクレーンは、本体支持架台の十字状ビームの各先端に着脱可能に設けた延長ビームによって本体支持架台を梁上に固定する構造を基本構成としているために、十字状ビームの各先端に延長ビームを着脱する作業、及び前記図9の従来例と同様に本体支持架台を梁に対して固定・解除するための作業に手数と時間を要し、このために能率的なクライミングができないという問題がある。又、延長ビームを梁に固定するための装置が複雑・大掛かりになる問題があり、更に、クレーン作業時にクレーン本体に作用するモーメントによって梁が変形するのを防止するために梁を補強する必要があるといった問題がある。
【0014】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、クレーン本体に作用するモーメントを建造物の柱で受けるようにしたクライミングクレーンにおいて、クレーン本体の本体支持架台と上部架台に備える反力受部の突出長さを小さくすることにより、建造物に対するクライミングクレーンの適用範囲を拡大できるようにしたクライミングクレーンの反力受け構造を提供することを目的としてなしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のクライミングクレーンの反力受け構造は、マストの頂部にクレーンを有しマストの下端に本体支持架台を有するクレーン本体と、前記マストに沿って盛り換えが可能な上部架台と、マストに沿って盛り換えが可能なガイドマストと、前記上部架台とガイドマストとの間を連結する昇降シリンダとを有するクレーン本体の前記本体支持架台と上部架台の夫々に水平方向に拡縮可能な拡縮機構を設け、該拡縮機構の先端に設けた反力受部を建造物の柱のコーナ部に押付けてクレーン本体に作用するモーメントを建造物の柱で受けるようにしているクライミングクレーンの反力受け構造であって、前記拡縮機構が、前記本体支持架台及び上部架台に対して水平方向に拡縮する第1段拡縮部材と、該第1段拡縮部材に対して該第1段拡縮部材の拡縮方向と直交する水平方向に拡縮する第2段拡縮部材とから構成され、前記反力受部が、前記第2段拡縮部材の拡張方向先端に延設した固定爪と該固定爪に回動可能に取り付けた回動爪とを有し、拡縮機構の拡張時にL字形を形成して柱のコーナ部に押圧され、且つ拡縮機構の縮小時に前記回動爪が固定爪と平行な方向に回動して前記第1段拡縮部材の伸縮穴内部に引込み収容されるようにしたことを特徴とする。
【0016】
上記形態において、前記拡縮機構の拡張時には回動爪が付勢部材により回動して反力受部がL字形を形成し、前記拡縮機構の縮小時には回動爪が第1段拡縮部材の伸縮穴に当接して付勢部材に抗し固定爪と平行な方向に回動することにより反力受部が第1段拡縮部材の伸縮穴内部に収容されるようにしたことは好ましい。
【0017】
又、前記拡縮機構に、クレーン本体に作用する重力を建造物の梁に負荷する重力載置部を備えたことは好ましい。
【発明の効果】
【0018】
クレーン本体に作用するモーメントを建造物の柱で受けることによってクライミングのための装置構成を簡略化してクレーン本体の重量が軽減され、クレーン本体を支持する建造物の補強が不要になり、クライミング作業が高能率で行えるようにしたクライミングクレーンにおいて、クレーン本体の本体支持架台と上部架台に備える反力受部の突出長さを小さくすることにより、建造物に対するクライミングクレーンの適用範囲を大幅に拡大できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1〜図8は本発明のクライミングクレーンの反力受け構造を実施する形態の一例を示すもので、図1は本発明の反力受け構造を適用するクライミングクレーンの概略正面図、図2は図1をII−II方向から見た本体支持架台の平面図、図3は図2をIII−III方向から見た正面図、図4は図2をIV−IV方向から見た側面図、図5は反力受部が拡張時にL字形を形成している状態を示す平面図、図6は反力受部が縮小時に第1段拡縮部材の伸縮穴内部に収容された状態を示す切断平面図、図7は本発明のクライミングクレーンに備えた反力受け構造で建造物の柱を押圧する際の作用を示す平面図であり、図1〜7中、図9に示したものと同一のものには同一の符号を付してある。
【0021】
図1ではマスト1の頂部にクレーン2を有しマスト1の下端に本体支持架台3を固定したクレーン本体が示してあり、クレーン本体4のマスト1には、マスト1に対するロックピン5の抜き差しによりマスト1への固定・切離しを行ってマスト1に対する盛り換えを可能にした上部架台6が設けてあり、更に、上部架台6とは別に、マスト1に対するロックピン7の抜き差しによりマスト1への固定・切離しを行ってマスト1に対する盛り換えを可能にしたガイドマスト8が設けてあり、前記上部架台6とガイドマスト8は昇降シリンダ9によって連結されている。
【0022】
前記本体支持架台3及び上部架台6は、図2に示す如く建造物10の4本の柱10bと梁10aで囲まれ矩形空間を昇降できる大きさに形成されており、且つ前記本体支持架台3と上部架台6の夫々には、図1に示すように水平方向外側に伸縮可能な拡縮機構20a,20bを備えている。
【0023】
前記本体支持架台3に備える拡縮機構20aと上部架台6に備える拡縮機構20bとは同一の構成を有しており、従って、以下では本体支持架台3に備える拡縮機構20aについて図2〜図4を参照して説明し、上部架台6に備える拡縮機構20bについては説明を省略する。
【0024】
拡縮機構20aは、図2、図3に示す如く、前記本体支持架台3の前後に水平且つ平行に設けたガイド部21に沿って左右幅方向Aに伸縮可能なビーム22と、該ビーム22の左側端部同士及び右側端部同士を固定する前後(図2では上下)に延びた連結ビーム23とからなる左右の第1段拡縮部材24を有しており、該第1段拡縮部材24は、前記本体支持架台3に設けた第1の駆動装置25により左右幅方向Aに拡縮するようになっている。第1の駆動装置25は、本体支持架台3のガイド部21に揺動軸26により取り付けた装置台27(図3)に、駆動モータ28で駆動されるウォーム29により回転されるネジ軸31を取り付け、前記第1段拡縮部材24のビーム22に備えたナット32を前記ネジ軸31に螺合した構成を有している。
【0025】
そして、前記第1段拡縮部材24の連結ビーム23の下部には、図2〜図4に示す如く第1段拡縮部材24の拡張時にクレーン本体4に作用する重力Wを建造物10の梁10aに負荷するための重力載置部34を設けている。
【0026】
更に、前記第1段拡縮部材24のビーム22に固定されている連結ビーム23の各両端部の伸縮穴43(図4)には、前後方向B(図2では上下方向)に伸縮可能な第2段拡縮部材35が設けてあり、該第2段拡縮部材35は、前記第1段拡縮部材24の拡縮を駆動する第1の駆動装置25と同様の構成を有する第2の駆動装置36によって前記左右幅方向Aと直交する前後方向Bに拡縮するようになっている。
【0027】
前記第2段拡縮部材35の夫々の外側端部には、前記第1及び第2段拡縮部材24,35の拡張時に建造物10の4本の柱10bの各内側コーナ部に押圧するようにした反力受部37を備えている。
【0028】
前記反力受部37は、図5、図6に示す如く、前記第2段拡縮部材35の拡張方向先端に延設した第1押付面38aを有する固定爪38と、該固定爪38に中間部がビン39により鋏状に回動可能に取り付けられ一端に第2押付面40aを有する回動爪40とを備えている。前記固定爪38と回動爪40との間にはばね等の付勢部材41が設けてあり、該付勢部材41により回動爪40の第2押付面40aが固定爪38の第1押付面38aに対して常に開く方向に付勢されるようになっている。更に、固定爪38にはストッパ部材42が設けてあり、前記回動爪40の第2押付面40aが固定爪38の第1押付面38aに対して90゜のL字形になった時に回動爪40の他端が前記ストッパ部材42に当接するようになっている。第2段拡縮部材35を第1段拡縮部材24における連結ビーム23の伸縮穴43に対して外方に突出させる拡張時には、図5に示す如く、付勢部材41によって回動爪40が固定爪38に対して開くように回動されてストッパ部材42に当接し、固定爪38の第1押付面38aと回動爪40の第2押付面40aとが90゜のL字形を形成するので、この反力受部37のL字形によって図2の如く柱10bのコーナ部に一致して押圧されるようになる。
【0029】
一方、前記第2段拡縮部材35を図5のように拡張した状態から図6のようにB’’方向に縮小する縮小時には、回動爪40の一端における前記第2押付面40aの背面部40bが第1段拡縮部材24の連結ビーム23における伸縮穴43の角部43’に当接し、更に第2段拡縮部材35が縮小することにより回動爪40は付勢部材41に抗して伸縮穴43に沿い固定爪38と平行な方向に回動して折り畳まれた状態となり、これによって、反力受部37は図6に示す如く第1段拡縮部材24の伸縮穴43の内部に収容されるようになる。
【0030】
上記形態では、第1段拡縮部材24をA’方向に拡張し、更に、第2段拡縮部材35をB’方向に拡張すると、前記第1段拡縮部材24の伸縮穴43に折り畳まれた状態で収容されていた反力受部37の回動爪40は付勢部材41により自動的にL字形に開いた状態に復帰する。従って、図1の本体支持架台3に設けた拡縮機構20aの反力受部37と、上部架台6に設けた拡縮機構20bの反力受部37とを建造物10の四隅の柱10bのコーナ部に押付けると、クレーン本体4に作用するモーメントMは上下の拡縮機構20a,20bの反力受部37を介して柱10bに横方向へ押付ける力Sとして作用し、これによりモーメントMは柱10bで受けられるようになる。
【0031】
尚、図中44は前記第1段拡縮部材24の連結ビーム23に取り付けた浮上防止部材であり、該浮上防止部材44は建造物10の梁10aの下面に入り込んでクレーン本体4の浮き上がりを防止するためのものであり、該浮上防止部材44はピン45によって折り畳み可能に構成されている。
【0032】
次に、上記した実施の形態の作動を説明する。
【0033】
図1〜図4に示した構成において、クレーン本体4の本体支持架台3と上部架台6とに備えた各拡縮機構20a,20bの第1段拡縮部材24をA’方向に拡張して重力載置部34を所要の高さの梁10a上に載置し、更に第2段拡縮部材35をB’方向に拡張する。このとき、第2段拡縮部材35が縮小した状態では、図6に示す如く反力受部37は折り畳まれて第1段拡縮部材24の伸縮穴43内部に収容されており、図5に示す如く第2段拡縮部材35がB’方向に拡張されると回動爪40が付勢部材41の作用により自動的に開いてストッパ部材42に当接し、L字形が形成される。従って、第1段拡縮部材24の拡張を調節して反力受部37のL字形の第1押付面38aを柱10bのコーナ部の一方の面に押付け、第2段拡縮部材35の拡張を調節してL字形の第2押付面40aを柱10bのコーナ部の他方の面に押付けることにより、反力受部37によって柱10bを押圧することができる。
【0034】
これにより、クレーン本体4に作用する重力は前記重力載置部34によって建造物10の梁10aで支持され、一方、クレーン本体4に作用するモーメントMは拡縮機構20a,20bの反力受部37により横方向に押付ける力Sとして柱10bに作用することによって柱10bで支持され、このようにして建造物10に支持されたクレーン本体4のクレーン2によりクレーン作業が行われる。
【0035】
一方、図1のクレーン本体4を上方へ盛り換える際に、先ず上部架台6を盛り換え、その後本体支持架台3を盛り換えてクレーン本体4をクライミングするという方法は前記図9で説明した場合と同様であるが、前記した如く、クレーン本体4に作用する重力Wは本体支持架台3と上部架台6に設けた拡縮機構20a,20bの重力載置部34を建造物10の梁10aに載置することで梁10aによって受け、又、クレーン本体4に作用するモーメントMは本体支持架台3と上部架台6に設けた拡縮機構20a,20bの反力受部37を建造物10の柱10bに押付けることで柱10bによって受けるようにしたので、拡縮機構20a,20bを拡縮させるという簡単な操作でクレーン本体4を建造物10に支持させてクライミングすることができ、よって従来のクライミングクレーンに比して迅速なクライミングを行って、クライミングクレーンの作業能率を高めることができる。
【0036】
更に、上記クライミングのために第2段拡縮部材35を縮小する際に、反力受部37を折り畳んで第1段拡縮部材24の伸縮穴43に収容するようにしたので、本体支持架台3及び上部架台6に対する反力受部37の突出長さを小さくすることができ、よって建造物10に対するクライミングクレーンの適用範囲を拡大することができる。
【0037】
即ち、図8は従来のクライミングクレーンにおいて、L字形を有する一体型の反力受部Xを建造物10の柱10bに押付けることによってモーメントを柱10bで支持するようにした場合を示したもので、図8の構成では、第2段拡縮部材35の縮小時に、L字形の反力受部Xが第1段拡縮部材24の伸縮穴内部に収納される構成とはなっていないために反力受部Xが前後に突出し、そのために前後の梁10a間を本体支持架台3及び上部架台6が通過するためには梁10aと本体支持架台3及び上部架台6との間に大きな間隔L1が必要である。更に、第2段拡縮部材35の伸縮ストロークは強度上の制限か反力受部Xを大きなストロークで張出すことができず、従って、前後の梁10aの間隔が僅かに変化した場合の建造物10にしか適用することができず、建造物10に対するクライミングクレーンの適用範囲が狭く制限される。
【0038】
これに対し、前記形態例では、第2段拡縮部材35を縮小する際に、図5に示した張出し状態から図6に示すように反力受部37を折り畳んで第1段拡縮部材24の伸縮穴43内部に収容することができるので、図7に示すように梁10aと本体支持架台3及び上部架台6との間に必要な間隔L2を小さくすることができ、従って、梁10aの間隔に近い前後寸法の本体支持架台3及び上部架台6から反力受部37を大きなストロークで張り出すことができるので、建造物10に対するクライミングクレーンの適用範囲を大幅に拡大することができる。
【0039】
なお、上記形態ではクライミングクレーンによって鉄骨構造の建造物を建設する場合について説明したが、コンクリート構造の建造物を建設する場合にも適用し得ること、回動爪の回動を付勢部材にて行う場合について例示したが、エアシリンダやモータによる種々の駆動装置を備えて回動させるようにしても良いこと、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の反力受け構造を適用するクライミングクレーンの一例を示す概略正面図である。
【図2】図1をII−II方向から見た本体支持架台の平面図である。
【図3】図2をIII−III方向から見た正面図である。
【図4】図2をIV−IV方向から見た側面図である。
【図5】拡縮機構の拡張により反力受部が張出してL字形を形成した状態を示す平面図である。
【図6】拡縮機構の縮小により反力受部が第1段拡縮部材の伸縮穴内部に収容された状態を示す切断平面図である。
【図7】クライミングクレーンに備えた反力受け構造で建造物の柱を押圧する際の作用を示す平面図である。
【図8】従来のクライミングクレーンに一体型の反力受部を備えて建造物の柱を押圧する場合の作用を示す平面図である。
【図9】従来のクライミングクレーンの一例を示す概略正面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 マスト
2 クレーン
3 本体支持架台
4 クレーン本体
6 上部架台
8 ガイドマスト
9 昇降シリンダ
10 建造物
10a 梁
10b 柱
20a,20b 拡縮機構
24 第1段拡縮部材
34 重力載置部
35 第2段拡縮部材
37 反力受部
38 固定爪
38a 第1押付面
40 回動爪
40a 第2押付面
41 付勢部材
43 伸縮穴
A 左右幅方向
B 前後方向
A’ 拡張方向
B’ 拡張方向
B’’ 縮小方向
M モーメント
W 重力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マストの頂部にクレーンを有しマストの下端に本体支持架台を有するクレーン本体と、前記マストに沿って盛り換えが可能な上部架台と、マストに沿って盛り換えが可能なガイドマストと、前記上部架台とガイドマストとの間を連結する昇降シリンダとを有するクレーン本体の前記本体支持架台と上部架台の夫々に水平方向に拡縮可能な拡縮機構を設け、該拡縮機構の先端に設けた反力受部を建造物の柱のコーナ部に押付けてクレーン本体に作用するモーメントを建造物の柱で受けるようにしているクライミングクレーンの反力受け構造であって、前記拡縮機構が、前記本体支持架台及び上部架台に対して水平方向に拡縮する第1段拡縮部材と、該第1段拡縮部材に対して該第1段拡縮部材の拡縮方向と直交する水平方向に拡縮する第2段拡縮部材とから構成され、前記反力受部が、前記第2段拡縮部材の拡張方向先端に延設した固定爪と該固定爪に回動可能に取り付けた回動爪とを有し、拡縮機構の拡張時にL字形を形成して柱のコーナ部に押圧され、且つ拡縮機構の縮小時に前記回動爪が固定爪と平行な方向に回動して前記第1段拡縮部材の伸縮穴内部に引込み収容されるようにしたことを特徴とするクライミングクレーンの反力受け構造。
【請求項2】
前記拡縮機構の拡張時には回動爪が付勢部材により回動して反力受部がL字形を形成し、前記拡縮機構の縮小時には回動爪が第1段拡縮部材の伸縮穴に当接して付勢部材に抗し固定爪と平行な方向に回動することにより反力受部が第1段拡縮部材の伸縮穴内部に収容されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のクライミングクレーンの反力受け構造。
【請求項3】
前記拡縮機構に、クレーン本体に作用する重力を建造物の梁に負荷する重力載置部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のクライミングクレーンの反力受け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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