説明

クラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する新規化合物及びその製造方法

【課題】不斉識別剤としての利用が期待され、また種々の機能性材料の原料としての利用が期待されるクラウンエーテル様環状構造と光学活性なビナフチル基とを含む新規な化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】6,6’位が臭素で置換され、3,3’位が特定の置換基で置換されたビナフチル誘導体を特定の反応によりさらに誘導体化することで、クラウンエーテル様環状構造及びビナフチル構造を有する新規の化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規化合物およびその製造方法に関し、より詳しくはクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する新規化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する化合物は、従来からクロマトグラフィー用分離剤の原料として用いられている。例えば、ビナフチル基の各ナフチル環にクラウンエーテル様環状構造が架け渡されているビナフチル誘導体が担体上に吸着されてなる光学異性体用分離剤が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この光学異性体用分離剤は、アミノ酸等のアミノ基を有する化合物の光学分割に適している。
上記のようなクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する化合物の原料となるビナフトール誘導体は、従来から不斉合成における有用な不斉配位子として着目されており、その機能性向上のための誘導体化に関する研究が行われている。
【0003】
そのような誘導体化の中でも特にハロゲン化に関する研究が進められており、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(BINAP)を、トリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TfOH」とも言う)の存在下でBINAPとN,N’−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン(以下、「DIH」とも言う)とを用いることによって、ビナフチルの5,5’位へヨウ素が導入されたジヨードBINAPを効率よく得る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
また、ヨウ素化剤として上記DIHと、触媒量のルイス酸を用いて、2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの6,6’位が選択的にヨウ素化されたビナフトール誘導体の合成例が報告されている(例えば非特許文献2)。
さらに、2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの3,3’,6,6’位が選択的にヨウ素化されたテトラヨード体のビナフトール誘導体も報告され、またその報告によれば、ブロモ化剤としてN,N’−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン(以下、「DBH」とも言う)を用いて、6,6’位が選択的にブロモ化された2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの誘導体をまず得た後、当該ブロモ化されたビナフトール誘導体を、DIHを用いた3,3’位の選択的なヨード化を行うことで、3,3’−ジヨード−6,6’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルを得られたことが報告されている。そして、得られた3,3’−ジヨード−6,6’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルについて、選択的鈴木−宮浦クロスカップリング反応を行うことにより、3,3’位のみにアリール基(フェニル基、4−メチルフェニル基または4−メトキシフェニル基)が導入された下記式で示される化合物が得られたことが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【化1】


(式中、Arは、フェニル基、4−メチルフェニル基または4−メトキシフェニル基を示す)
【0005】
上記のように、ビナフチル基の誘導体化では、ビナフチル基の所定の位置を選択的にハロゲン化した後に、クロスカップリング反応を行い、所望の置換基をビナフチル基に導入させる試みが行われている。また、上記のように、不斉構造を有するビナフチル誘導体のさらなる開発は、不斉識別による技術の改良や確率をもたらすことから、新規のビナフチル誘導体が合成されることより、これを原料とする化合物、例えば上述したようなクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する新規な化合物の合成も期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−57816号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】嶋田 豊司他5名、「5−モノヨードBINAPの簡易合成とその誘導化」、日本化学会第88春季年会、4PB−086(2008)
【非特許文献2】嶋田 豊司他3名、「ルイス酸が触媒する位置選択的ヨウ素化反応」、日本化学会第90春季年会、2F−34(2010)
【非特許文献3】嶋田 豊司他2名、「3,3’,6,6’−四置換ビナフトールの新規合成方法」、日本化学会第91春季年会、2C4−44(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、クラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を含む新規な化合物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、出発物質としてビナフチル基の6,6’位が臭素で置換され、3,3’位が特定の置換基で置換されたビナフチル誘導体を用い、これをさらに特定の反応による誘導体化を行うことで、クラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する新規の化合物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、下記式(I)で示される化合物を提供する。
【化2】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基を表し、R3及びR4は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または−(CH23−Aを表し、Aは、下記式(i)で示される構造であり、nは4〜6の整数を表す。]
【化3】

[式中、R5、R6及びR7はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。]
【0011】
また本発明は、nが4である前記の化合物、R1及びR2がそれぞれ、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−メトキシナフチル基又は4−フルオロフェニル基である前記のク化合物、R3及びR4がそれぞれ2−プロペニル基、フェニル基または−(CH23−Si(C353である前記の化合物、を提供する。
【0012】
また本発明は、下記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aの6,6’位のブロモ基をそれぞれ下記式(III)で示されるR3及びR4に置き換えたビナフチル誘導体Bを得るB工程と、ビナフチル誘導体Bの2,2’位のメトキシ基を加水分解して前記メトキシ基が水酸基になったビナフチル誘導体Cを得るC工程と、ビナフチル誘導体Cの前記水酸基のそれぞれをポリエチレングリコール誘導体で架橋してクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する下記式(I)で示される化合物を得るD工程とを含む、前記式(I)で示される化合物の製造方法を提供する。
【0013】
【化4】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(I)のR1及びR2と同じである。]
【化5】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(I)のR1及びR2と同じであり、R3及びR4は、それぞれ、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表す。]
【0014】
また本発明は、2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの6,6’位をそれぞれ臭素化して6,6’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルを得る工程と、当該6,6’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの3,3’位をそれぞれヨウ素化して6,6’−ジブロモ−3,3’−ジヨード−2,2’−ジメ
トキシ−1,1’−ビナフチルを得る工程と、当該6,6’−ジブロモ−3,3’−ジヨード−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの3,3’位のヨード基をそれぞれR1及びR2に置き換えてビナフチル誘導体Aを得る工程を含むA工程をさらに含む前記の製造方法を提供する。
【0015】
また本発明は、B工程において、ビナフチル誘導体Aと下記式(IV)で示される化合物とを、遷移金属触媒の存在下で反応させてビナフチル誘導体Bを得る前記の製造方法を提供する。
【化6】

[式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表し、Mgはマグネシウムを表し、Xは塩素、臭素又はヨウ素を表す。]
【0016】
また本発明は、B工程において、ビナフチル誘導体Aと下記式(V)で示される化合物とを、パラジウム触媒及び塩基の存在下で反応させてビナフチル誘導体Bを得る前記の製造方法を提供する。
【化7】

[式中、Yは置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【0017】
また本発明は、D工程において、オキシエチレン基の繰り返し数が5〜7のポリオキシエチレングリコールジトシラートをアルカリ条件下で反応させてビナフチル誘導体Cの水酸基間を架橋して式(I)で示される化合物を得る前記の製造方法を提供する。
【0018】
また本発明は、下記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aとアリルマグネシウムブロミドとを、パラジウムを含む触媒の存在下で反応させて、下記式(VI)で示される化合物を得るB’工程と、当該化合物の2,2’位のメトキシ基を加水分解して前記メトキシ基が水酸基になった化合物を得るC’工程と、当該化合物の前記水酸基のそれぞれをポリエチレングリコール誘導体で架橋してクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する下記式(VII)で示される化合物を得るD’工程と、下記式(VII)で示される化合物の6,6’位の2−プロペニル基について、ヒドロシリル化を行うE工程と、ヒドロシリル化を行った6,6’位をさらに下記式(VIII)で示されるR5及びR6に置き換えるF工程を含む、下記式(VIII)で示される化合物の製造方法を提供する。
【化8】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいナフチル基を表す。]
【化9】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じである。]
【化10】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じである。]
【化11】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じであり、R8、R9及びR10は、それぞれ、独立して置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。]
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、不斉識別剤としての利用が期待され、また種々の機能性材料の原料としての利用が期待されているクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する新規な化合物と、その製造方法を提供することができる。
特に本発明では、出発物質として3,3’位にヨウ素、6,6’位に臭素が導入されているものを採用し、鈴木−宮浦クロスカップリング反応の反応性がアイオダイドの方が優れることを利用することで、位置選択的に3,3’位のみにカップリングを行ったのち、既に導入されている6,6’位の臭素にカップリングを行うものであり、3,3’位および6,6’位の組み合わせを数多く合成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】合成例1で得られた化合物(b)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図2】合成例2で得られた化合物(c)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図3】合成例3で得られた化合物(d−1)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図4】合成例3で得られた化合物(d−1)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図5】合成例3で得られた化合物(d−1)の13C NMRのスペクトルを表す図である。
【図6】合成例4で得られた化合物(d−2)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図7】合成例4で得られた化合物(d−2)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図8】合成例4で得られた化合物(d−2)の13C NMRのスペクトルを表す図である。
【図9】合成例5で得られた化合物(d−3)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図10】合成例5で得られた化合物(d−3)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図11】合成例5で得られた化合物(d−3)の13C NMRのスペクトルを表す図である。
【図12】合成例6で得られた化合物(d−4)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図13】合成例6で得られた化合物(d−4)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図14】合成例6で得られた化合物(d−4)の13C NMRのスペクトルを表す図である。
【図15】合成例7で得られた化合物(d−5)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図16】合成例7で得られた化合物(d−5)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図17】合成例7で得られた化合物(d−5)の13C NMRのスペクトルを表す図である。
【図18】合成例8で得られた化合物(d−6)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図19】合成例8で得られた化合物(d−6)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図20】合成例8で得られた化合物(d−6)の13C NMRのスペクトルを表す図である。
【図21】合成例9で得られた化合物(d−7)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図22】合成例9で得られた化合物(d−7)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図23】合成例9で得られた化合物(d−7)の13C NMRのスペクトルを表す図である。
【図24】合成例9で得られた化合物(d−7)の19F NMRのスペクトルを表す図である。
【図25】合成例10で得られた化合物(e)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図26】合成例10で得られた化合物(e)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図27】合成例10で得られた化合物(e)の1H NMRスペクトルの別の一部を拡大して示す図である。
【図28】合成例11で得られた化合物(f)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図29】合成例11で得られた化合物(f)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図30】合成例11で得られた化合物(f)の1H NMRスペクトルの別の一部を拡大して示す図である。
【図31】合成例12で得られた化合物(g)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図32】合成例12で得られた化合物(g)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図33】合成例13で得られた化合物(h)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図34】合成例13で得られた化合物(h)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図35】合成例13で得られた化合物(h)の1H NMRスペクトルの別の一部を拡大して示す図である。
【図36】合成例13で得られた化合物(h)の13C NMRのスペクトルを表す図である。
【図37】合成例14で得られた化合物(i)の1H NMRスペクトルを表す図である。
【図38】合成例14で得られた化合物(i)の1H NMRスペクトルの一部を拡大して示す図である。
【図39】合成例14で得られた化合物(i)の1H NMRスペクトルの別の一部を拡大して示す図である。
【図40】合成例14で得られた化合物(i)の1H NMRスペクトルのさらに別の一部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の化合物は、下記式(I)で示される化合物である。
【0022】
【化12】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基を表し、R3及びR4は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または−(CH23−Aを表し、Aは、下記式(i)で示される構造であり、nは4〜6の整数を表す。]
【化13】

[式中、R5、R6及びR7はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。]
【0023】
上記式(I)中、R1及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基を表し、アリール基として、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基等が例示でき、例えば、最終合成物を光学異性体用分離剤として用いる場合、光学異性体の分離性能の向上の観点から、フェニル基又はナフチル基が好ましく例示できる。アリール基が有してもよい置換基は、1またはそれ以上であってもよく、フッ素原子、メトキシ基、エトキシ基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、フェニル基、アリル基、炭素数が1〜3のアルキルシリル基、アリールシリル基、アリルシリル基、ジアリルエトキシシリル基、トリアリルシリル基、メタリルシリル基、カルボキシル基、−COOC25、−CONH2、−CONH(C25)、−CONH(Ph)が好ましく例示できる。
上記のアリールシリル基のうち、好ましいものとしては、トリフェニルシリル基や、t−ブチルジフェニルシリル基が挙げられる。
【0024】
1及びR2の具体例として、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−メトキシナフチル基又は4−フルオロフェニル基が、好ましく挙げられる。
【0025】
上記式(I)中、R3及びR4のアルキル基は、炭素数1〜22が例示でき、特に1〜8、10、12、16、20、22のものが好ましく例示できる。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0026】
上記式(I)中、R3及びR4のアルケニル基は分枝状または非分枝状のアルケンの任意の炭素原子から1個の水素原子を除去した1価の不飽和炭化水素基であり、炭素数2〜22、特に2〜8、18、20、22のものが好適である。遊離原子価は、例えばビニル基(CH2=CH−)のように不飽和炭素原子上にあってもよいし、又は、例えばアリル基(CH2=CHCH2−)のように飽和炭素原子上にあってもよい。アルケニル基の特に好ましい例として、2−プロペニル基が挙げられる。
【0027】
アルキニル基は分枝状または非分枝状のアルキンの任意の炭素原子から1個の水素原子を除去した1価の不飽和炭化水素基であり、炭素数2〜6、特に2〜3のものが好適である。遊離原子価は、例えばエチニル基(CH≡C−)のように不飽和炭素原子上にあってもよいし、または例えばプロパルギル基(CH≡CCH2−)のように飽和炭素原子上にあってもよい。
【0028】
上記式(I)中、R3及びR4のアリール基は単環式または多環式の芳香族炭化水素の環構成炭素原子から1個の水素原子を除去した1価の基であり、炭素数6〜16のものが好ましく例示できる。アリール基の具体例として、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基等が挙げられ、例えば最終合成物を光学異性体用分離剤として用いる場合、光学異性体の分離性能の観点から、フェニル基が特に好ましく例示できる。
【0029】
3及びR4のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基は、1またはそれ以上の置換基を有していてもよい。
そのような置換基として、フッ素原子、メトキシ基、エトキシ基、エチル基、トリメチルシリル基、カルボキシル基、−COOC25、−CONH2、−CONH(C25)、−CONH(Ph)が挙げられる。
【0030】
3及びR4が−(CH23−Aである場合、Aは、下記式(i)で示される構造である。
【化14】

【0031】
上記式中、R5、R6及びR7はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはアルコキシ基を表し、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基は、上記のR3及びR4で説明したものと同じものが好ましく例示でき、アルキル基としてメチル基、エチル基などがさらに好ましく例示でき、アルケニル基としてアリル基及びメタリル基がさらに好ましく例示できる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基のような炭素数1〜3のものが好ましく例示できる。
上記式(i)で示されるシリル基のうち、特に好ましいものとしては、トリアリルシリル基、ジアリルメチルシリル基、アリルジメチルシリル基、メトキシシリル基及びエトキシシリル基を挙げることができる。
【0032】
本発明の化合物は、下記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aの6,6’位のブロモ基をそれぞれ下記式(III)で示されるR3及びR4に置き換えたビナフチル誘導体Bを得るB工程と、ビナフチル誘導体Bの2,2’位のメトキシ基を加水分解して前記メトキシ基が水酸基になったビナフチル誘導体Cを得るC工程と、ビナフチル誘導体Cの前記水酸基のそれぞれをポリエチレングリコール誘導体で架橋してクラウンエーテル様環状構造を有する下記式(I)で示される化合物を得るD工程と、を含む方法によって製造することができる。
【化15】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(I)のR1及びR2と同じである。]
【化16】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(I)のR1及びR2と同じであり、R3及びR4は、それぞれ、上記式(I)のR3及びR4と同じである。]
【化17】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じであり、R3及びR4は、それぞれ、上記式(III)のR3及びR4と同じであり、nは4〜6の整数を表す。]
【0033】
本発明において、式(II)で示されるビナフチル誘導体Aは、例えば、以下の(1)〜(3)の工程を含む工程Aを経て合成することができるが、この製法に限定されるものではない。
【0034】
(1)市販されている2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチル(東京化成工業株式会社製)(a)の6,6’位をそれぞれブロモ化して、6,6’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチル(b)を得る。
【化18】

【化19】

【0035】
この際の6,6’位の選択的なブロモ化は、例えば、ルイス酸の非存在下、N,N’−ジブロモ−5,5’−ジメチルヒダントイン(以下、DBHとも言う)を溶解させたジクロロエタン、クロロホルムやジクロロメタンなどの溶媒の中で、0〜100℃、副生成物の生成を抑える観点から好ましくは20〜30℃の温度、10〜30時間より好ましくは20〜30時間反応させることでできる。
また、この(1)の工程において、DBHの使用量は、収率及び効果の頭打ちの観点から、前記式(a)で示される基質1モル当量に対して2〜3モル当量であることが好ましく、2.1 〜2.2モル当量であることがより好ましい。なお、N,N’−ジブロモ−5,5’−ジメチルヒダントインは5,5’−ジメチルヒダントインに臭素と水酸化ナトリウムを加えることで調製でき、市販品として入手することもできる。
【0036】
(2)次に(b)で示される化合物の3,3’位をそれぞれヨード化して6,6’−ジ
ブロモ−3,3’−ジヨード−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチル(c)を得る。
【化20】

【0037】
この際の3,3’位の選択的なヨード化は、例えば、式(b)で示される化合物を、N,N’−ジヨード−5,5’−ジメチルヒダントイン(DIH)とBi(OTf)3等のルイス酸を溶解させたジクロロエタン、クロロホルムやジクロロメタンなどの溶媒の中で、0〜100℃、副生成物の生成を抑える観点から好ましくは20〜30℃の温度、10〜30時間より好ましくは20〜30時間反応させることでできる。
また、この(2)の工程において、DIHの使用量は、収率及び効果の頭打ちの観点から、前記式(a)で示される基質1モル当量に対して1.2〜2.2モル当量であることが好ましく、1.5〜1.6モル当量であることがより好ましい。
この(2)の工程において、Bi(OTf)3等のルイス酸の使用量は、収率及び効果の頭打ちの観点から、前記式(b)で示される基質1モル当量に対して0.05 〜0.20モル当量であることが好ましく、0.10モル当量であることがより好ましい。またBi(OTf)3等のルイス酸の使用量は、収率及び効果の頭打ちの観点から、DIHに対してモル比で10〜20であることが好ましく、15であることがより好ましい。Bi(OTf)3等のルイス酸は、市販品として入手することができる。
【0038】
(3)さらに上記式(c)で示される6,6’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの3,3’位のヨード基をそれぞれ上記R1及びR2に置き換えて式(II)で示されるビナフチル誘導体Aを得る。
この際、上記式(c)で示される化合物の3,3’位のみを上記R1及びR2に置き換えることは、例えば、鈴木−宮浦クロスカップリング反応により行うことができる。
この工程の鈴木−宮浦クロスカップリング反応は、式(c)で示される化合物と、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、酢酸パラジウム等のパラジウムを含む触媒及び炭酸カリウム等の塩基の存在下、アリールボロン酸と反応させることによって起こる反応である。
この工程における反応温度は、80〜120℃であることが好ましく、確実に3,3’位のみを上記R1及びR2に置き換えるために100℃であることがより好ましい。
この工程で用いることのできる溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFとも言う)やトルエンが挙げられる。
また、この工程において、パラジウムを含む触媒の使用量は、収率及び効果の頭打ちの観点から、前記式(c)で示される基質1モル当量に対して0.05〜0.20モル当量であることが好ましく、0.08〜0.12モル当量であることがより好ましい。
【0039】
(3)の工程で用いるアリールボロン酸のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基等が例示でき、例えば、最終合成物を光学異性体用分離剤として用いる場合、光学異性体の分離性能の向上の観点から、フェニル基又はナフチル基が好ましく例示できる。アリール基が有してもよい置換基は、1またはそれ以上であってもよく、フッ素原子、メトキシ基、エトキシ基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、フェニル基、アリル基、炭素数が1〜3のアルキルシリル基、アリールシリル基、アリルシリル基、ジアリルエトキシシリル基、トリアリルシリル基、メタリルシリル基、カルボキシル基、−COOC25、−CONH2、−CONH(C25)、−CONH(Ph)が好ましく例示できる。
上記のアリールシリル基のうち、好ましいものとしては、トリフェニルシリル基や、t−ブチルジフェニルシリル基が挙げられる。
1及びR2が置換基を有するアリール基であり、その置換基にシリル基を含む場合にも、例えば、Tetrahedron vol.63 (2007) 11467-11474に記載のジアリル[4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]エトキシシランや、市販されている4−トリアリルシリルフェニルボロン酸、4−(トリフェニルシリル)フェニルボロン酸のようなアリールボロン酸を反応させることで製造できる。
【0040】
これらの中でも、アリール基がフェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、p−メチルフェニル基、4−フルオロフェニル基などであるアリールボロン酸は、市販されているものを用いることでき、好ましく例示できる。例えば、Sigma−Ardrich社が発行しているSuzuki Coupling Reagentsのカタログに記載のものを用いることも可能である。
上記のようにビナフチル誘導体(c)を得るためにSc(OTf)3やBi(OTf)3などのルイス酸とDIHを用いる反応を用いれば、ビナフチル誘導体(c)を容易に高収率で合成可能である。
【0041】
前記B工程では、上記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aの6,6’位のブロモ基をそれぞれ上記式(III)で示されるR3及びR4に置き換えてビナフチル誘導体Bを得る工程である。
【0042】
このB工程の第一の態様では、上記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aと、下記式(IV)で示される化合物とを、遷移金属触媒の存在下で反応させて上記式(III)で示されるビナフチル誘導体Bを得ることが好ましい。
【化21】

[式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表し、Mgはマグネシウムを表し、Xは塩素、臭素又はヨウ素を表す。]
【0043】
上記式(IV)で示される化合物は、グリニャール試薬として知られている有機マグネシウムハロゲン化物である。
Rのアルキル基は、炭素数1〜22が例示でき、特に1〜8、10、12、16、20、22のものが好ましく例示できる。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
Rのアルケニル基は分枝状または非分枝状のアルケンの任意の炭素原子から1個の水素原子を除去した1価の不飽和炭化水素基であり、炭素数2〜22、特に2〜8、18、20、22のものが好適である。遊離原子価は、例えばビニル基(CH2=CH−)のように不飽和炭素原子上にあってもよいし、又は、例えばアリル基(CH2=CHCH2−)のように飽和炭素原子上にあってもよい。アルケニル基の特に好ましい例として、2−プロペニル基が挙げられる。
Rのアルキニル基は分枝状または非分枝状のアルキンの任意の炭素原子から1個の水素原子を除去した1価の不飽和炭化水素基であり、炭素数2〜6、特に2〜3のものが好適である。遊離原子価は、例えばエチニル基(CH≡C−)のように不飽和炭素原子上にあってもよいし、または例えばプロパルギル基(CH≡CCH2−)のように飽和炭素原子上にあってもよい。
Rのアリール基は、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基等が挙げられる。
上記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基は、1またはそれ以上の置換基を有していてもよい。そのような置換基として、フッ素原子、メトキシ基、エトキシ基、エチル基、トリメチルシリル基、カルボキシル基、−COOC25、−CONH2、−CONH(C25)、−CONH(Ph)が挙げられる。
【0044】
上記式(IV)のXは塩素、臭素又はヨウ素であり、臭素が好ましく用いられる。
【0045】
上記の有機マグネシウムハロゲン化物は、不活性ガス雰囲気下で、原料の有機ハロゲン化物と金属マグネシウムとを主としてエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)溶媒中で反応させることにより合成できる。また、市販されているものを用いてもよい。市販されているグリニャール試薬としては、例えば、メチルグリニャール試薬、エチルグリニャール試薬、プロピルグリニャール試薬、シクロペンチルグリニャール試薬、シクロヘキシルグリニャール試薬等のアルキルグリニャール試薬、ビニルグリニャール試薬、アリルグリニャール試薬、クロチルグリニャール試薬、メタリルグリニャール試薬、シンナミルグリニャール試薬等のアルケニルグリニャール試薬、フェニルグリニャール試薬、ナフチルグリニャール試薬、ビフェニルグリニャール試薬等のアリールグリニャール試薬、ベンジルグリニャール試薬、フェニルエチルグリニャール試薬、ナフチルメチルグリニャール試薬、ナフチルエチルグリニャール試薬等のアラルキルグリニャール試薬等が挙げられる。
上記の有機マグネシウムハロゲン化物のうち、アリルマグネシウムブロミドを用いることが、実用上好ましい。
【0046】
前記工程Bの第一の態様で用いられる前記遷移金属触媒としては、パラジウムを含むものが好ましく、ジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィン)フェロセン]パラジウムが好ましく用いられる。
【0047】
前記工程Bの第一の態様で用いられる溶媒としては、エーテル系の溶媒を用いることが好ましく、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランが挙げられ、この中でも特にジエチルエーテルを用いることが好ましい。
【0048】
前記工程Bの第一の態様では、反応は、溶媒が還流する系で行われ、その還流のために用いる恒温油槽の温度を、用いる溶媒の沸点よりも30〜40℃程度高く設定し、反応時間を15〜24時間、より好ましくは20〜22時間にすることが、6、6’位を上記Rに確実に置換する観点から好ましい。
【0049】
前記B工程の第二の態様では、上記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aと、下記式(V)で示される化合物とを、パラジウム触媒及び塩基の存在下で反応させて上記式(III)で示されるビナフチル誘導体Bを得ることが好ましい。この反応は、鈴木−宮浦クロスカップリング反応として知られている。
【化22】

[式中、Yは置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【0050】
上記式(V)のアリール基は単環式または多環式の芳香族炭化水素の環構成炭素原子から1個の水素原子を除去した1価の基であり、炭素数6〜16のものが好ましく例示できる。アリール基の具体例として、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基
等が挙げられ、例えば最終合成物を光学異性体用分離剤として用いる場合、光学異性体の分離性能の観点から、フェニル基が特に好ましく例示できる。
また、上記式(V)のアリール基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子、メトキシ基、エトキシ基、エチル基、トリメチルシリル基、カルボキシル基、−COOC25、−CONH2、−CONH(C25)、−CONH(Ph)が挙げられる。
上記式(V)で示される化合物(アリールボロン酸)は、例えば上述したSigma−Ardorich社などから市販されているものを用いることができ、フェニルボロン酸を用いることが、好ましい。
【0051】
前記工程Bの第二の態様では、上記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aと、上記式(V)で示される化合物とを反応させる際のパラジウムを含む触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を用いることが好ましい。また、上記反応の際に存在させる塩基としては、炭酸カリウムを用いることが好ましい。
【0052】
前記工程Bの第二の態様で用いられる溶媒としては、エーテル系の溶媒を用いることが好ましく、例えば、テトラヒドロフランを用いることが好ましい。
【0053】
前記工程Bの第二の態様では、反応温度を60〜100℃、好ましくは75〜85℃とし、反応時間を16〜30時間、より好ましくは20〜24時間にすることが、6、6’位を上記Yに確実に置換する観点から好ましい。
【0054】
前記C工程は、ビナフチルの2,2’位がビナフチル誘導体Bの中でも反応性が高いことから、温和な条件での反応によって行うことができる。このような反応の条件としては、例えば氷冷下から室温中での三臭化ホウ素による脱アルキル反応が挙げられる。
より具体的な条件としては、通常、10〜5℃で1.5〜2時間反応を行う。またこの反応は、通常、ジクロロメタンやジクロロエタン等の溶媒中で行わせる。
このような条件でC工程を行うことは、ビナフチル誘導体Bの他の構造への影響を抑え、より収率よくビナフチル誘導体Cを得る観点から好ましい。
【0055】
前記D工程は、ビナフチル誘導体Cの2,2’位の水酸基にポリオキシエチレンを架橋させられる条件によって行うことができる。このような架橋は、加水分解を利用して行うことができ、例えば、オキシエチレン基の繰り返し数が5〜7のポリオキシエチレングリコールジトシラートをアルカリ条件下で反応させることにより、ビナフチル誘導体の2、2’の水酸基間を架橋させることで行うことができる。
この反応は、通常、60〜80℃で15〜24時間反応を行う。またこの反応は、通常、テトラヒドロフランやジクロロメタン、ジクロロエタン等の溶媒中で行わせる。
【0056】
本発明では、下記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aとアリルマグネシウムブロミドとを、パラジウムを含む触媒の存在下で反応させて、下記式(VI)で示される化合物を得るB’工程と、当該化合物の2,2’位のメトキシ基を加水分解して前記メトキシ基が水酸基になった化合物を得るC’工程と、当該化合物の前記水酸基のそれぞれをポリエチレングリコール誘導体で架橋してクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する下記式(VII)で示される化合物を得るD’工程と、下記式(VII)で示される化合物の6,6’位のヒドロシリル化を行うE工程と、ヒドロシリル化を行った6,6’位を下記式(VIII)で示されるように誘導体化するF工程を含む、下記式(VIII)で示される化合物の製造方法を提供する。
【化23】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【化24】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じである。]
【化25】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じである。]
【化26】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じであり、R8、R9及びR10は、それぞれ、独立して置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。]
【0057】
上記のB’工程は、前述のB工程で用いる式(IV)で示されるR−MgXとして、アリルマグネシウムブロミドを用いるように限定すること以外は、前述のB工程と同様の工程である。この工程を経ると、上記の式(VI)で示される化合物が得られる。
【0058】
上記の式(VI)で示される化合物について、前述したC工程及びD工程と同様のC’工程及びD’工程を経ることで、上記のクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する式(VII)で示される化合物が得られる。なお、C’工程及びD’工程の各条件は、前述したC工程及びD工程と同じ条件を用いることができる。
【0059】
式(VII)で示される化合物の6,6’位の2−プロペニル基について、ヒドロシリル化を行うE工程は、当該式(VII)で示される化合物と、テトラブチルアンモニウムヘキサクロロプラチネート(IV)やジ−μ−クロロジクロロビス(エチレン)二白金(II)等の存在下、ジクロロメタンとジエチルエーテル等の混合溶媒に溶解させて冷却させた後、例えば、トリクロロシラン、ジクロロメチルシランまたはクロロジメチルシランなどのハロゲン化シリルを加え、20〜30℃、好ましくは25℃で、24〜48時間、好ましくは36〜48時間反応させる工程である。
【0060】
上記F工程は、上記E工程を経て得られる化合物について、6、6’位のシリル基に導入された塩素原子などのハロゲン原子を、上記式(VIII)で示されるR8、R9及びR10に置き換える工程である。このF工程には、下記のように2通りの態様が好ましく挙げられる。
【0061】
F工程の第一の態様では、上記の工程Bの第一の態様で説明したグリニャール試薬を用いて反応を行う。グリニャール試薬は上記で説明したものと同様のものを用いることができる。その中でも、アリルグリニャール試薬及びメタリルグリニャール試薬を好ましく用いることができる。
この時の反応は、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒を用い、20〜30℃、より好ましくは25℃の温度で、8〜12時間、より好ましくは10〜12時間かけて行うことが好ましい。
【0062】
一方、F工程の第二の態様は、6、6’位のシリル基に導入された塩素原子などのハロゲン原子を、例えば、トリエチルアミンやピリジンなどの塩基の存在下、炭素数が1〜3のような低級アルコールを作用させ、シリル基に導入されたハロゲン原子を低級アルコキシ基に置き換える工程である。
炭素数が1〜3の低級アルコールのうち、好ましいものはメタノール及びエタノールが挙げられる。
この際の温度は20〜30℃であることが好ましく、反応時間は12〜15時間であることがより好ましい。
【0063】
各工程において得られるビナフチル誘導体は、精製してもよいし、生成物をそのまま次の工程の原料に用いてもよい。
【0064】
本発明によって製造されるクラウンエーテル構造とビナフチル基を有する化合物は、不斉構造が保たれた状態で種々の置換基の導入が期待されることから、不斉合成や光学分割における高性能な不斉識別剤への利用が期待される。よって、本発明は、有用な不斉合成触媒や光学異性体用分離剤の開発や、これらを用いた医薬品、化成品、化粧料、電子材料等の種々の分野における新規材料の開発に大きく貢献することが期待される。
【実施例】
【0065】
本実施例において、湿気に敏感な操作は、全て五酸化リンを通して乾燥させた窒素雰囲気下で行った。NMRスペクトルはフーリエ変換核磁気共鳴装置(JNM−ECX400)(1H NMRで400MHz、13C NMRで400MHz、19F NMRで400MHz)で測定した。ケミカルシフトはδppmで、テトラメチルシランを1H NMR、重クロロホルム(δ77.0)を13C NMRの基準として報告した。
【0066】
<合成例1>
2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチル(a)の6,6’位のブロモ化
【化27】

窒素雰囲気下、化合物(a)(1000mg,3.181mmol)およびN,N’−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン(DBH) (1909.9mg,6.680mmol)をdist. CH2Cl2 (40 mL)に溶解させ、室温で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物は5重量%硫酸ナトリウム水溶液でクエンチし、水層をCH2Cl2で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、目的の化合物(b)を得た(1501mg,100%)。
【0067】
得られた(b)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図1に示す。
1H NMR (CDCl3)δ 3.762(s,6H), 6.930 (d, J = 9.2
Hz, 2H), 7.271 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.461 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.888 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 8.020 (s, 2H).
【0068】
<合成例2>
6,6’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチル(b)の3、3’位のヨード化
【化28】

窒素雰囲気下、化合物(b)(1419.1mg, 3.005mmol)、N,N’−ジヨード−5、5’ジメチルヒダントイン(DIH)(1712.8mg, 4.508mmol)およびビスマス(III)トリフラート(197.2mg, 0.3005mmol)をdist. CH2Cl2(40mL)に溶解させ、室温で10時間攪拌した。反応終了後、反応混合物は5重量%硫酸ナトリウムス水溶液でクエンチし、水層をCH2Cl2で抽出した。集めた有機層は飽和炭酸ナトリウム水溶液と飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3)により原点抜きをし、目的の化合物(c)を得た(2175.9mg,93%)。
【0069】
得られた(c)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図2に示す。
1H NMR (CDCl3) δ3.751(s, 6H), 6.877 (d, J = 9.2
Hz, 2H), 7.283 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 8.010 (s, 2H), 8.279 (s, 2H).
【0070】
<合成例3>
【化29】

窒素雰囲気下、化合物(C)(100mg, 0.1381mmol)、フェニルボロン酸(33.68mg, 0.2763 mmol)、炭酸カリウム(76.36mg, 0.5525 mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(15.96mg, 0.01381mmol)をdist. DMF(5mL)に溶解させ、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、DMFを除去した後、ヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒に溶解させた。続いて、飽和塩化アンモニウム水溶液により二回洗浄し、水層をヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で二回洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をプレパラTLC(ヘキサン/酢酸エチル=6/1)により精製し、目的の化合物(d−1)を得た(64.3mg, 78%)。
【0071】
得られた(d−1)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図3及び図4に、13C NMRのスペクトルを図5に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ 3.793 (s, 6H), 7.100(d, J = 9.2 Hz, 2H), 7.303(d, J = 9.2 Hz, 2H), 7.404(s, 2H), 7.492−7.612 (m, 10H), 8.038(s, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ 6.682, 115.892, 117.865, 118.294, 127.276, 127.781, 128.258, 128.544, 129.707, 129.993, 132.806, 140.005, 141.282, 154.497.
【0072】
<合成例4>
【化30】

窒素雰囲気下、化合物(c)(1000mg, 1.382mmol)、4−メチルフェニルボロン酸(375.6mg, 2.63mmol)、炭酸カリウム(763.6mg, 5.525mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) (159.6mg,0.1381 mmol)をdist. DMF (50mL)に溶解させ、100℃で27時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、DMFを除去した後、ヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒に溶解させた。続いて、飽和塩化アンモニウム水溶液により二回洗浄し、水層をヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で二回洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的の化合物(d−2)を得た(645.8 mg, 72%)。
【0073】
得られた(d−2)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図6及び図7に、13C NMRのスペクトルを図8に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ2.510 (s, 6H), 3.802 (s, 6H), 7.082(d, J=9.2Hz, 2H), 7.301 (d, J=9.2Hz, 2H), 7.389(d, J= 8Hz, 4H), 7.392(s, 2H), 7.507 (d, J=8Hz, 4H), 8.053(s, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ21.309, 56.720, 115.872, 117.779, 118.161, 127.295, 128.344, 128.716, 129.269, 129.640, 129.888, 132.835, 137.116, 137.583, 141.301, 154.535.
【0074】
<合成例5>
【化31】

窒素雰囲気下、化合物(c)(100mg, 0.1381mmol)、4−メトキシフェニルボロン酸(41.98mg, 0.2763mmol)、炭酸カリウム(76.36mg, 0.5525mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(15.96mg, 0.01381 mmol)をdist. DMF(5 mL)に溶解させ、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、DMFを除去した後、ヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒に溶解させた。続いて、飽和塩化アンモニウム水溶液により二回洗浄し、水層をヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で二回洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をプレパラTLC(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)により精製し、目的の化合物d−3を得た(58.6mg, 62%)。
【0075】
得られた(d−3)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図9及び図10に、13C NMRのスペクトルを図11に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ3.805 (s, 6H), 3.945 (s, 6H), 7
.080 (d, J= 9.2 Hz, 2H), 7.113 (d, J=8.8Hz, 4H), 7.300 (d, J= 8.8 Hz, 2H), 7.384(s, 2H), 7.539(d, J=8.4Hz, 4H), 8.052(s, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ55.395, 56.701, 113.966, 115.872, 117.751, 118.046, 127.295, 128.334, 128.830, 129.612, 131.099, 132.339, 132.844, 140.967, 154.535, 159.264.
【0076】
<合成例6>
【化32】

窒素雰囲気下、化合物(c)(80mg, 0.1105 mmol)、3,5−ジメチルフェニルボロン酸(33.15mg, 0.2210mmol)、炭酸カリウム(61.09 mg, 0.4420mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) (12.77mg, 0.01105mmol)をdist. DMF(4 mL)に溶解させ、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、DMFを除去した後、ヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒に溶解させた。続いて、飽和塩化アンモニウム水溶液により二回洗浄し、水層をヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で二回洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をプレパラTLC(ヘキサン/酢酸エチル=7/1)により精製し、目的の化合物(d−4)を得た(56.0mg, 74%)。
得られた(d−4)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図12及び図13に、13C NMRのスペクトルを図14に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ2.461 (s, 12H), 3.794 (s, 6H), 7.072(d, J=9.2 Hz, 2H), 7.149(s, 2H), 7.220(s,
4H), 7.290 (d, J=9.2 Hz, 2H), 7.383(s, 2H), 8.041(s, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ21.442, 56.672, 115.729, 117.684, 118.123, 127.228, 127.762, 128.391, 128.696, 129.373, 129.593, 132.768, 138.050, 139.995, 141.559, 154.459.
【0077】
<合成例7>
【化33】

窒素雰囲気下、化合物(c)(80mg,0.1105 mmol)、3,5−ジメトキシフェニルボロン酸(40.22mg, 0.2210mmol)、炭酸カリウム(61.09 mg, 0.4420mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(12.77mg, 0.01105mmol)をdist.DMF(4mL)に溶解させ、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、DMFを除去した後、ヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒に溶解させた。続いて、飽和塩化アンモニウム水溶液により二回洗浄し、水層をヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で二回洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をプレパラTLC(ヘキサン/酢酸エチル= 2/1)により精製し、目的の化合物(d−5)を得た(53mg, 64%)。
【0078】
得られた(d−5)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図15及び図16に、13C NMRのスペクトルを図17に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ 3.806 (s, 6H), 3.892 (s, 12H), 6.615 (s, 2H), 6.749 (s, 4H), 7078 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.303 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 7.417 (s, 2H),
8.082 (s, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ 55.528, 56.710, 99.788, 108.130, 115.510, 117.846, 118.323, 127.209, 128.344, 128.487, 129.726, 132.701, 141.196, 141.997, 154.383, 160.675.
【0079】
<合成例8>
【化34】

窒素雰囲気下、化合物(c)(80mg, 0.1105 mmol)、6−メトキシ−2−ナフチルボロン酸(44.65mg, 0.2210 mmol)、炭酸カリウム(61.09mg, 0.4420mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(12.77mg, 0.01105 mmol)をdist. DMF(4m
L)に溶解させ、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、DMFを除去した後、ヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒に溶解させた。続いて、飽和塩化アンモニウム水溶液により二回洗浄し、水層をヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で二回洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をプレパラTLC(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、目的の化合物(d−6)を得た(50.4mg, 59%)。
【0080】
得られた(d−6)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図18及び図19に、13C NMRのスペクトルを図20に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ3.821(s, 6H), 3.981(s, 6H), 7.147(d, J=9.2 Hz, 2H), 7.253(d, J=8.8 Hz, 2H), 7.265(s, 2H),7.324(d, J=9.2 Hz, 2H), 7.498(s, 2H), 7.698(d, J=8.4 Hz, 2H), 7.848(d, J=8.8 Hz, 2H), 7.919(d, J=8.4 Hz, 2H), 8.000(s, 2H), 8.087(s, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ 55.395, 56.720, 105.613, 116.149, 117.884, 118.304, 119.448, 126.856, 127.343, 128.410, 128.630, 128.840, 129.650, 129.717, 132.882, 133.921, 135.294, 141.358, 154.573, 158.044.
【0081】
<合成例9>
【化35】

窒素雰囲気下、化合物(c)(80mg, 0.1105mmol)、4−フルオロフェニルボロン酸(30.92mg, 0.2210mmol)、炭酸カリウム(61.09mg, 0.4420mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(12.77mg, 0.01105mmol)をdist. DMF(4mL)に溶解させ、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、DMFを除去した後、ヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒に溶解させた。続いて、飽和塩化アンモニウム水溶液により二回洗浄し、水層をヘキサン/酢酸エチル=1/5の混合溶媒で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で二回洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をプレパラTLC(ヘキサン/酢酸エチル=6/1)により精製し、目的の化合物(d−7)を得た(54 mg, 74%)。
【0082】
得られた(d−7)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図21及び図22に、13C NMRのスペクトルを図23に、19F NMRのスペクトルを図24に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ 3.813(s, 6H), 7.080(d, J=9.2
Hz, 2H), 7.275(t, J=8.8Hz, 4H), 7.318(d, J=9.2
Hz, 2H), 7.376(s, 2H), 7.576(dd, J=8.8 Hz, 5.2Hz, 4H), 7.967(s, 2H).
13C NMR (CDCl3)δ 56.720, 115.567 (JC-F = 21 Hz),
115.949, 118.008, 118.390, 127.285, 128.077,
128.630, 129.812, 131.586 (JC-F = 7.7 Hz), 132.777, 135.905, 140.214, 154.440, 162.506 (JC-F = 246 Hz).
19F NMR (CDCl3) δ−114.223.
【0083】
<実施例>
(合成例10:工程Bの実施−1)
【化36】

窒素雰囲気下、化合物(d−2)(1504mg, 2.305mmol)とジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(35.72mg, 0.04611mmol)の混合物にdist.ジエチルエーテル (75.2 mL)を加え、0℃まで冷却した。この時、化合物(d−2)は溶媒に完璧に溶解していない。そこへ、アリルマグネシウムブロミド(7.607 mL,ジエチルエーテル中で1M 7.607 mmol)を滴下し、反応温度を60℃まで上昇させ、22時間還流下で攪拌した。反応終了後、反応混合物は0℃まで冷却し、水でクエンチした後10%HClを塩がなくなるまで加えた。有機層を分離し、水層はジエチルエーテルで抽出を行い、集めた有機層は飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、MaSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物はショートカラム (酢酸エチル=100%)に通し、目的の化合物(e)を定量的に得た。
【0084】
得られた(e)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図25、図26及び図27に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ2.504 (s, 6H), 3.401 (d, J=6.4Hz, 2H), 3.787(s, 6H), 4.981−5.052(m, 4H), 5.883−5.984(m, 2H) 7.088(d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.191(d, J=8.4 Hz, 2H), 7.359(s, 2H), 7.371(d, J=9.2Hz, 4H), 7.540(d, J=8Hz, 4H), 7.709(s, 2H).
【0085】
<合成例11:工程Cの実施>
【化37】

窒素雰囲気下、化合物(e)(264.3mg, 0.4599mmol)をdist. CH2Cl2(9mL)に溶解させ、−78℃に冷却した。そこへ、1Mの三臭化ホウ素ジクロロメタン溶液1.012mL (1.012mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後、反応温度を0℃で2時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を0℃のまま、水でクエンチし、水層をCH2Cl2で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル=4/1)により精製し、目的の化合物(f)を得た(221mg, 88%)。
【0086】
得られた(f)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図28、図29及び図30に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ2.498(s, 6H), 3.418(d, J=6.4Hz, 2H), 4.999−5.058(m, 4H), 5.165(br, 2H), 5.881−5.966 (m, 2H) 7.183(d, J=8.4Hz, 2H), 7.255(d, J = 8Hz, 2H), 7.320(s, 2H), 7.365(d, J=8Hz, 4H), 7.499 (d, J=8Hz, 4H), 7.760(s, 2H).
【0087】
(合成例12:工程Bの実施−2)
【化38】

化合物(d−2)(81mg, 0.1242mmol)、フェニルボロン酸(45.41mg, 0.3725mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(12.77mg, 0.01105mmol)を封管に入れ、窒素を吹き込みながらdist. THF (2.99mL)に溶解させ、さらに1M炭酸カリウム水溶液(0.6208mL, 0.6208mmol)を加え、蓋をした。反応は80℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、少量のクロロホルムに溶解させた。続いて飽和塩化アンモニウム水溶液により洗浄し、水層をクロロホルムで抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をプレパラTLC(ヘキサン/酢酸エチル=7/1)により精製し、目的の化合物(g)を得た(37.4mg, 47%)。
【0088】
得られた(d−1)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図32及び図32に、それぞれ示す。
1H NMR (CDCl3) δ 2.506(s, 6H), 3.848(s, 6H), 7.289(t, J=7.4 Hz, 2H), 7.372−7.408(m, 10H), 7.441(s, 2H), 7.517−7.606(m, 10H), 8.165(s, 2H).
【0089】
(合成例13:工程Dの実施)
【化39】

窒素雰囲気下、化合物(f)(86mg, 0.1573mmol)およびカリウムtert−ブトキシド(35.30mg, 0.3146mmol)をdist. THF(2.76 mL)に溶解させ、70℃で40分攪拌した。その後、ペンタエチレングリコールジ−p−トルエンスルホン酸(86mg, 0.1573mmol)をdist. THF(4.63mL)に溶解させた溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに70℃で18時間加熱攪拌した。反応終了後、反応混合物を濃縮した後、CH2Cl2に溶かし、水で洗浄し、水層をCH2Cl2で抽出した。集めた有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、Na2SO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をプレパラTLC(ヘキサン/酢酸エチル=3/2)により精製し、目的の化合物(h)を得た(19.7mg 16%)。
【0090】
得られた(h)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図33、図34及び図35に、13C NMRのスペクトルを図36に、それぞれ示す。1H NMR (CDCl3) δ2.502(s, 6H), 3.348−3.670(m, 20H), 4.045−4.094(m, 2H), 4.196−4.251(m, 2H), 4.984−5.506(m, 4H), 5.887−5.987(m, 2H), 7.087(d, J=8.6 Hz, 2H), 7.224(d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.367(d, J=8 Hz, 4H), 7.384(s, 2H), 7.528(d, J=7.6 Hz, 4H), 7.724(s, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ21.299, 40.349, 69.830, 70.516, 70.555, 70.841, 115.586, 117.398, 119.896, 124.835, 126.132, 127.505, 127.791, 129.030, 130.050, 133.283, 135.170, 137.001, 137.573, 137.964, 140.987, 153.544.
【0091】
(合成例14:化合物iの合成)
【化40】

窒素雰囲気下、化合物h(76.3 mg, 0.1019 mmol)とテトラブチルアンモニウムヘキサクロロプラチネート(IV)(0.36mg,0.0004075mmol)の混合物をdist.ジクロロメタン(1mL)とdist.ジエチルエーテル(0.5mL)の混合溶媒に溶解させ、0℃まで冷却した。トリクロロシラン(41.19μL, 0.4705mmol)を加え、室温で48時間攪拌した。攪拌終了後、反応混合物を濃縮し、窒素雰囲気下で0℃に冷却後、アリルマグネシウムブロミド(0.815 mL,ジエチルエーテル中 1M,0.815mmol)を滴下し、室温で12時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を0℃まで冷却し、水でクエンチした後10%塩酸を塩がなくなるまで加えた。有機層を分離し、水層はジクロロメタンで抽出を行い、集めた有機層は飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、Na2SO4で乾燥させた後、ろ過・濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物はプレパラTLC(ヘキサン/酢酸エチル=3/2)により精製し、目的の化合物iを得た(6.7mg,6%)。
【0092】
得られた(i)のNMRの測定結果を以下に示す。また前記1H NMRのスペクトルを図37、図38、図39及び図40にそれぞれ示す。
1H NMR (CDCl3)δ 0.595−0.637(m,4H),1.541(d,J=8.4Hz, 12H), 1.587−1.633(m, 4H), 2.506(s,6H), 2.628(t, J=7.4Hz, 4H), 3.381−3.672 (m, 16H), 4.053−4.102 (m, 2H),4.198−4.253(m,2H), 4.793−4.845 (m, 12H), 5.674−5.781(m, 6H), 7.064 (d,J=8.8Hz, 2H), 7.223(d, J=8.4Hz, 2H), 7.373(d, J=8.8Hz, 4H), 7.384(s, 2H), 7.534(d, J=8Hz, 4H), 7.684 (s, 2H).
【産業上の利用可能性】
【0093】
ビナフチル誘導体とクラウンエーテル様環状構造とを有する化合物は、ビナフチルに導入する置換基の種類や、クラウンエーテル様環状構造の大きさ等の要素によって、例えば光学異性体用分離剤として用いた場合に、分離特性を調整できる可能性がある。本発明によれば、ビナフチル誘導体とクラウンエーテル様環状構造とを化合物について、ビナフチル基の所望の位置に置換基が導入されることによって、所望の特性が付与された新規材料の開発が大いに期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示される化合物。
【化1】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基を表し、R3及びR4は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または−(CH23−Aを表し、Aは、下記式(i)で示されるシリル基であり、nは4〜6の整数を表す。]
【化2】

[式中、R5、R6及びR7はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。]
【請求項2】
nが4であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
1及びR2が、それぞれ、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−メトキシナフチル基又は4−フルオロフェニル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
3及びR4が、それぞれ、2−プロペニル基、フェニル基、または−(CH23−Si(C353であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
下記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aの6,6’位のブロモ基をそれぞれ下記式(III)で示されるR3及びR4に置き換えたビナフチル誘導体Bを得るB工程と、
ビナフチル誘導体Bの2,2’位のメトキシ基を加水分解して前記メトキシ基が水酸基になったビナフチル誘導体Cを得るC工程と、
ビナフチル誘導体Cの前記水酸基のそれぞれをポリエチレングリコール誘導体で架橋してクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する下記式(I)で示される化合物を得るD工程と、
を含む、下記式(I)で示される化合物の製造方法。
【化3】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【化4】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、式(II)のR1及びR2と同じであり、R3及びR4は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表す。]
【化5】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、式(II)のR1及びR2と同じであり、R3及びR4は、それぞれ、式(III)のR3及びR4と同じであり、nは4〜6の整数を表す。]
【請求項6】
(1)2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの6,6’位をそれぞれブロモ化して6,6’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルを得る工程と、
(2)当該6,6’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの3,3’位をそれぞれヨード化して6,6’−ジブロモ−3,3’−ジヨード−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルを得る工程と、
(3)当該6,6’−ジブロモ−3,3’−ジヨード−2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチルの3,3’位のヨード基をそれぞれR1及びR2に置き換えてビナフチル誘導体Aを得る工程、
を含むA工程をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
B工程において、ビナフチル誘導体Aと下記式(IV)で示される化合物とを、遷移金属触媒の存在下で反応させてビナフチル誘導体Bを得ることを特徴とする請求項5又は6に記載の製造方法。
【化6】

[式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表し、Mgはマグネシウムを表し、Xは塩素、臭素又はヨウ素を表す。]
【請求項8】
B工程において、ビナフチル誘導体Aと下記式(V)で示される化合物とを、パラジウム触媒及び塩基の存在下で反応させてビナフチル誘導体Bを得ることを特徴とする請求項5又は6に記載の製造方法。
【化7】

[式中、Yは置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【請求項9】
D工程において、オキシエチレン基の繰り返し数が5〜7のポリオキシエチレングリコールジトシラートをアルカリ条件下で反応させてビナフチル誘導体Cの水酸基間を架橋してクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する前記式(I)で示される化合物を得ることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
下記式(II)で示されるビナフチル誘導体Aとアリルマグネシウムブロミドとを、パラジウムを含む触媒の存在下で反応させて、下記式(VI)で示される化合物を得るB’工程と、下記式(VI)で示される化合物の2,2’位のメトキシ基を加水分解して前記メトキシ基が水酸基になった化合物を得るC’工程と、当該化合物の前記水酸基のそれぞれをポリエチレングリコール誘導体で架橋してクラウンエーテル様環状構造及びビナフチル基を有する下記式(VII)で示される化合物を得るD’工程と、下記式(VII)で示される化合物の6,6’位のヒドロシリル化を行うE工程と、ヒドロシリル化を行った6,6’位を下記式(VIII)で示されるように誘導体化するF工程を含む、下記式(VIII)で示される化合物の製造方法を提供する。
【化8】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【化9】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じである。]
【化10】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じである。]
【化11】

[式中、R1及びR2は、それぞれ、上記式(II)のR1及びR2と同じであり、R8、R9及びR10は、それぞれ、独立して置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公開番号】特開2013−23483(P2013−23483A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161035(P2011−161035)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(503446121)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】