説明

クラスター生成装置

【課題】サイズ分散性の低い複合ナノクラスターを効率良く生成する。
【解決手段】クラスターセル11は、クラスタ生成空間21を有している。クラスタ生成空間21を区画する面に、衝撃波反射面31が形成されており、衝撃波反射面31は、基準軸線CLを有しかつ基準軸線CL上に焦点33を有する凹状曲面よりなる。基準軸線CL上における衝撃波反射面31から焦点33を超えたところに複数のターゲット55、56が配置されている。同ターゲット55、56は、基準軸線CLの周囲にその周方向に並べられかつターゲット55、56毎に異なる種類の材料によって形成されている。レーザ手段23、24によって、各ターゲット55、56にレーザが照射され、これにより、各ターゲット55、56を蒸発させて衝撃波が発生させられるようになされている。レーザ手段23、24は、ターゲット55、56の材料の種類に対応する複数種類の波長のレーザをターゲット55、56毎に照射可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板上にナノクラスターを堆積させて成膜するために、レーザーアブレーション法によって、クラスターを生成するためのクラスター生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のクラスター生成装置としては、クラスターセルが、クラスタ生成空間を有しており、クラスタ生成空間を区画する面に、衝撃波反射面が形成されており、衝撃波反射面は、基準軸線を有しかつ基準軸線上に焦点を有する凹状曲面よりなり、基準軸線上における衝撃波反射面から焦点を超えたところに複数のターゲットが配置されており、レーザ手段によって、各ターゲットに、同一波長のレーザが照射され、これにより、各ターゲットを蒸発させて衝撃波が発生させられるようになされているものが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0003】
この従来装置では、サイズ分散性の低い単一材料のシングルナノクラスターを効率良く得ることができる。
【0004】
ナノクラスターを利用してインテリジェント材料等の新規材料を開発する場合、複合ナノクラスター、即ち、複合材料のナノクラスターが必須となるが、この要求に、上記従来装置では対応することができなかった。
【特許文献1】特開2001−158956号公報
【特許文献1】特開2002−38257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、サイズ分散性の低い複合ナノクラスターを効率良く生成することのできるクラスター生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるクラスター生成装置は、クラスターセルが、クラスタ生成空間を有しており、クラスタ生成空間を区画する面に、衝撃波反射面が形成されており、衝撃波反射面は、基準軸線を有しかつ基準軸線上に焦点を有する凹状曲面よりなり、基準軸線上における衝撃波反射面から焦点を超えたところに複数のターゲットが配置されており、同ターゲットは、基準軸線の周囲にその周方向に並べられかつターゲット毎に異なる種類の材料によって形成されており、レーザ手段によって、各ターゲットにレーザが照射され、これにより、各ターゲットを蒸発させて衝撃波が発生させられるようになされており、レーザ手段は、ターゲットの材料の種類に対応する複数種類の波長のレーザをターゲット毎に照射可能としているものである。
【0007】
この発明によるクラスター生成装置では、複数のターゲットから発生させられた材料の異なる複数種類の蒸気原子塊(プルーム)を、これと同時に発生させられて焦点において収束させられた衝撃波と衝突させることにより、複数種類の材料を効率良く混合して、複合ナノクラスターを生成することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、サイズ分散性の低い複合ナノクラスターを効率良く生成することのできるクラスター生成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明によるクラスター生成装置の垂直縦断面図である。
【図2】同クラスター生成装置のターゲット周辺の正面図である。
【図3】同クラスター生成装置の変形例による垂直縦断面図である。
【図4】同変形例によるクラスター生成装置のターゲット周辺の正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の実施の形態を図面を参照しながらつぎに説明する。
【0011】
以下の説明において、前後とは、図1右側を前、これと反対側を後というものとする。
【0012】
クラスターセル11は、クラスター生成空間21を有している。クラスター生成空間21には、図示しない手段によって希ガスが供給されるようになっている。クラスター生成空間21の後側には窓22が形成されている。クラスター生成空間21の上側には前斜め上向きにのびた第1レーザ導入孔23が、その下側には前斜め下向きにのびた第2レーザ導入孔24がそれぞれ形成されている。クラスター生成空間21の前側には水平状クラスター導出孔25が形成されている。
【0013】
クラスター生成空間21は、左右方向にのびた水平状基準軸線CLを回転軸とする回転楕円面31によって区画されかつその楕円面31の後方焦点32および前方焦点33を有している。
【0014】
クラスター生成空間21の、後方焦点32を通る垂直面よりも後方部分が開口されて、窓22に連通させられている。
【0015】
第1および第2レーザ導入孔23、24の軸線は、基準軸線CLの周方向に等間隔をおいて基準軸線CL上において互いに90°の角度をもって交差させられている。
【0016】
窓22には垂直円板状ホルダ41が出入自在にはめ入れられている。ホルダ41の後側面中央には、クラスター生成空間21の基準軸線CLと同心の水平状トランスファロッド42の前端部が連結されている。ホルダ41の前側面には凹所43が形成されている。凹所43の周面には90°の角度をもつテーパ面44が形成されている。
【0017】
第1レーザ導入孔23の軸線延長線上に第1ガイド孔51が、その第2レーザ導入孔24の軸線延長線上に第2ガイド孔52がそれぞれ形成されている。第1および第2ガイド孔51、52は、ホルダ41周方向に等間隔をおいて、ホルダ41の外面からテーパ面44にかけて、ホルダ41に貫通させられている。
【0018】
第1ガイド孔51に第1回転ロッド53が、第2ガイド孔52に第2回転ロッド54がそれぞれ通されている。第1回転ロッド53の内端に第1ターゲット55が、第2回転ロッド54の内端に第2ターゲット56がそれぞれ固定されている。両ターゲット51、52は、クラスター生成空間21の基準軸線CLを挟んでその上下両側に位置させられかつともに円板状をなしているが、材料を異にするものである。
【0019】
第1ターゲット55は、右上向きの第1蒸発面55aを有している。第2ターゲット56は、右下向きの第2蒸発面56aを有している。第1蒸発面55aの回転中心から偏心されらせた部分に第1レーザ導入孔23の軸線が交差させられている。この交差点からのびた法線が前方焦点33を通過させられている。第2蒸発面56aの回転中心から偏心させられた部分に第2レーザ導入孔24の軸線が交差させられている。この交差点からのびた法線が前方焦点33を通過させられている。
【0020】
クラスター導出孔25の前方開口本端にはディフューザ61が形成されている。ディフューザ61は、差動排気室62に開放されている。差動排気室62には排気パイプ63が連通させられている。差動排気室62および排気パイプ63の境界にはスキマー64が備えられている。
【0021】
第1および第2レーザ導入孔23、24には、波長可変レーザ発信器(図示略)より、異なる波長のレーザが導入される。導入されるレーザの波長は、第1および第2ターゲット55、56の材料によって適宜選択される。
【0022】
つぎに、クラスター生成の過程を説明する。
【0023】
まず、第1および第2レーザ導入孔23、24を通じて、波長の異なる2種類のナノ秒パルスのレーザを、対応する第1および第2ターゲット55、56の蒸発面55a、56aにそれぞれ同時に照射する。両ターゲット55、56は急激に蒸発・膨張して、材料元素の異なる2種類の蒸気原子塊を形成し、形成された2種類の蒸気原子塊はクラスター生成空間21内を同時に前向きに進行していく。続いて、蒸気原子塊が急激に蒸発・膨張したことにともなって、クラスター生成空間21内の2カ所の蒸発面55a、56a上から衝撃波が発生し、クラスター生成空間21内を伝搬する。蒸発した蒸気原子塊の進行速度より衝撃波の伝搬速度の方が大きい。2カ所から発生した衝撃波は、それぞれ、クラスター生成空間21の楕円面31で反射して、前方焦点33付近に収束する。後から進行してきた2種類の蒸気原子塊は、収束した衝撃波と衝突して、クラスター化される。この場合、2種類の蒸気原子塊は、衝撃波の収束点、即ち、前方焦点33付近において混合される。衝撃波の後方には、蒸気原子塊と希ガスの境界である接触面が続いているが、この接触面は反射衝撃波と干渉して一定時間定住する。この領域で蒸気原子塊は急冷却を受けて結晶化し、これにより複合クラスターが生成される。しかも、この領域は高速気流(クラスター生成空間21への希ガス供給による)によって作られているため拡散現象に支配されず、均一な熱力学条件を持つ閉じ込め領域となっている。したがって、この領域からは均一サイズの結晶核が生成され、さらに膨張過程を経過する間にも均一にクラスター成長する。生成された複合クラスターは、クラスター生成空間21内に供給された希ガスを、差動排気室62を通じて真空引きし、かつ、クラスター導出孔25を通じて、ディフューザ61による圧力降下をともなって、クラスター生成空間21から差動排気室62に効率よく導出される。差動排気室62内の複合クラスターは、スキマー64によって、一方向の進行速度をもつビームの形に整えられ、排気パイプ63を通じて、基板(図示略)まで導かれる。
【0024】
上記において、両ターゲット55、56にレーザを照射する際、図示しない手段によって両回転ロッド53、54を回転させることにより、両ターゲット55、56の蒸発面55a、56aの広範囲へのレーザ照射が可能となる。
【0025】
図3および図4に、図1および図2に示す実施例の変形例が示されている。上記実施例では、クラスター生成空間21内で生成したクラスターをクラスター生成空間21から取り出し、これを、基板に堆積するようにしていたが、この変形例では、クラスター生成空間21内で生成したクラスターを、これをクラスター生成空間21から取り出すこと無く、クラスター生成空間21内で基板に堆積させている。
【0026】
両ターゲット55、56間に2つの方形状基板Sが両ターゲット55、56と同様の態様で配列されている。上記実施例のクラスター導出孔25に相当するものは、不必要である。ディフューザ61、差動排気室62、排気パイプ63およびスキマー64も必要が無い。
【0027】
この変形例においても、前方焦点33付近のクラスター生成領域にクラスターが収束するメカニズムは、上記実施例と同じである。
【0028】
クラスター生成空間21からクラスターは、希ガスとともに流出することは無いため、クラスター生成クラスター生成領域付近の希ガスの圧力が次第に高くなり、それにつれて、反射衝撃波も強くなる。これにより、クラスター生成領域でクラスター化された蒸気原子塊は後向きに押し戻される。このときに、押し戻される蒸気原子塊のもつ運動エネルギーは、クラスター化されることによって失われる。その後、押し戻されたクラスターは、基板Sの成膜面に堆積される。堆積時のクラスターの速度は大きく無いため、成膜させるために都合の良い条件となっている。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この発明によるクラスター生成装置は、基板上にナノクラスターを堆積させて成膜するために、レーザーアブレーション法によって、クラスターを生成することを達成するのに適している。
【符号の説明】
【0030】
11 クラスターセル
21 クラスタ生成空間
23、24 レーザ導入孔
31 楕円面
33 焦点
55、56 ターゲット
CL 基準軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスターセルが、クラスタ生成空間を有しており、クラスタ生成空間を区画する面に、衝撃波反射面が形成されており、衝撃波反射面は、基準軸線を有しかつ基準軸線上に焦点を有する凹状曲面よりなり、基準軸線上における衝撃波反射面から焦点を超えたところに複数のターゲットが配置されており、同ターゲットは、基準軸線の周囲にその周方向に並べられかつターゲット毎に異なる種類の材料によって形成されており、レーザ手段によって、各ターゲットにレーザが照射され、これにより、各ターゲットを蒸発させて衝撃波が発生させられるようになされており、レーザ手段は、ターゲットの材料の種類に対応する複数種類の波長のレーザをターゲット毎に照射可能としているクラスター生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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