説明

クラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法

【課題】車両の原動機からクラッチを介して変速機へ伝達される伝達トルクが所定の必要伝達トルクを満足しないトルク不足の状態となっていることを検出することが可能なクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法を提供する。
【解決手段】クラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法は、クラッチの各摩擦部材が摩耗する前に、クラッチの伝達可能トルクTaとクラッチのストロークLとの初期関係線H0を設定する設定工程と、クラッチの伝達可能トルクTaが所定値であるときのストロークLを検出する検出工程と、検出工程における所定値の伝達可能トルクTa及び検出したストロークLを通過するように初期関係線H0を平行移動して摩耗後関係線Hxを定め、摩耗後関係線Hxを用いてクラッチの最大ストロークLzにおける最大伝達可能トルクTzxが所定の必要伝達トルクTr未満であると推定されるときに摩耗自動調整機構の作動不良であると判定する判定工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の原動機の回転駆動力を変速機へ伝達するクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の原動機の回転駆動力は、クラッチを介して変速機へ伝達される。このクラッチとして、摩擦式のクラッチを用いた場合は、作動の繰り返しによりクラッチの摩擦部材同士の接触部分に摩耗が生じる。これにより、クラッチの非係合状態における摩擦部材同士の離隔が広がり、クラッチを作動しても摩擦部材同士がしっかりと圧接された状態にはならずに、摩擦部材同士が滑ってしまう虞があった。
【0003】
そこで、従来技術として、クラッチに摩耗が生じたときに、クラッチの非係合状態における摩擦部材同士の離隔を一定間隔に自動調整する摩耗自動調整機構を備える自動クラッチ装置が開示されている(例えば、特許文献1)。このクラッチの摩耗自動調整機構は、SAC(Self Adjusting Clutch)と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−40452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の摩耗自動調整機構を備える自動クラッチ装置においては、摩耗自動調整機構の不具合や、クラッチの摩耗量が摩耗自動調整機構の作動可能量を超えたときのように、摩耗自動調整機構が作動不良の状態になった場合であっても、車両の使用者は、この作動不良を把握することができない。
【0006】
摩耗自動調整機構の作動不良の状態が長引くと、クラッチの非係合状態における摩擦部材同士の離隔が調整されないまま走行することとなり、クラッチの摩擦部材同士の滑りが徐々に大きくなる。そして、原動機から変速機へ伝達される伝達トルクが所定の必要伝達トルクを満足しないトルク不足の状態となる。このトルク不足の状態は徐々に悪化して、やがて原動機の回転駆動力が変速機へと伝達されなくなり走行不能となる。ところが、車両の使用者は、このようなトルク不足の状態や走行不能となるタイミングを把握することができないため、クラッチの修理の必要性を認識することができない。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、車両の原動機からクラッチを介して変速機へ伝達される伝達トルクが所定の必要伝達トルクを満足しないトルク不足の状態となっていることを検出することが可能なクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係るクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法の構成上の特徴は、車両の原動機の駆動軸に回転連結された第1摩擦部材と、変速機の入力軸に回転連結された第2摩擦部材と、駆動装置によって作動部材を前進させ前記第1及び第2摩擦部材を圧接させてトルク伝達させると共に、前記作動部材を後退させて前記第1及び第2摩擦部材を離隔させる作動部と、前記第1及び第2摩擦部材の非係合状態における離隔を一定間隔に自動調整する摩耗自動調整機構とを備えたクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法であって、
前記第1及び第2摩擦部材が摩耗する前に、該クラッチの伝達可能トルクと前記作動部材の移動量との初期関係線を設定する設定工程と、前記クラッチの伝達可能トルクが所定値であるときの前記作動部材の移動量を検出する検出工程と、前記検出工程における前記所定値の伝達可能トルク及び検出した前記移動量を通過するように前記初期関係線を平行移動して摩耗後関係線を定め、該摩耗後関係線を用いて前記作動部材の最大移動量における前記クラッチの最大伝達可能トルクが所定の必要伝達トルク未満であると推定されるときに前記摩耗自動調整機構の作動不良であると判定する判定工程と、を備えることである。
【0009】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1に記載のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法において、前記検出工程及び前記判定工程を所定回数実行し、該所定回数の全ての前記判定工程において前記摩耗自動調整機構が作動不良であると判定されたときに警告を発信する警告工程を備えることである。
【0010】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2に記載のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法において、前記検出工程における前記伝達可能トルクの所定値はゼロであり、前記検出工程における前記移動量は、前記原動機の回転駆動力が前記第1摩擦部材から前記第2摩擦部材に伝達され始めるタッチ点における前記移動量であることである。
【0011】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法において、前記検出工程における前記所定値の伝達可能トルク及び検出した前記移動量は、前記第1及び第2摩擦部材が圧接されているときに学習値として検出した前記伝達可能トルク及び前記移動量であることである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係るクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法では、クラッチの第1及び第2摩擦部材が摩耗する前に、クラッチの伝達可能トルクと第1及び第2摩擦部材を圧接・離隔させる作動部材の移動量との初期関係線を設定し、クラッチの伝達可能トルクが所定値であるときの作動部材の移動量を検出する。そして、検出した所定値の伝達可能トルク及び検出した移動量を通過するように初期関係線を平行移動して摩耗後関係線を定め、この摩耗後関係線を用いて作動部材の最大移動量におけるクラッチの最大伝達可能トルクが所定の必要伝達トルク未満であると推定されるときに摩耗自動調整機構の作動不良であると判定する。
【0013】
これにより、クラッチの最大伝達可能トルクが所定の必要伝達トルクを満足しないトルク不足の状態となっていることを検出することが可能である。なお、上記の「伝達可能トルク」とは、作動部材のある移動量においてクラッチが伝達することが可能な最大の伝達トルクのことである。すなわち、伝達可能トルクとは、作動部材のある移動量においてクラッチの摩擦部材同士の滑りが発生しない(駆動軸の回転数と入力軸の回転数とに差が発生しない)伝達トルクの上限値である。
【0014】
請求項2に係るクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法では、所定回数実行された全ての判定工程において摩耗自動調整機構が作動不良であると判定されたときに警告を発信する。1回の判定工程において摩耗自動調整機構が作動不良であると判定されたとしても、その後のイグニッションのON/OFFや、クラッチの断接や、車両走行中の振動などの影響によって、摩耗自動調整機構の作動不良が解消される場合がある。また、摩耗自動調整機構の作動不良の状態が短期間継続されたとしても、ただちに車両の走行に支障をきたす虞はない。したがって、摩耗自動調整機構の作動不良を1回の判定の度に警告するのは過剰である。本発明によれば、車両の使用者は、摩耗自動調整機構の作動不良の警告を過剰に受けることがなく、摩耗自動調整機構の作動不良の状態が長期間継続されてクラッチの修理等が必要となり得る場合のみ警告を受けることができる。
【0015】
請求項3に係るクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法では、検出した作動部材の移動量は、原動機の回転駆動力が第1摩擦部材から第2摩擦部材に伝達され始めるタッチ点における移動量である。多くの場合、自動クラッチ装置を備える変速機は、タッチ点における作動部材の移動量の検出が可能となっている。本発明によれば、クラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出のためだけの新たな装置等を備える必要はなく、簡素な構成でクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良を検出することができる。なお、タッチ点は、例えば、変速機の入力軸の回転が変速機の出力軸まで伝達されない中立状態において、回転運動している第1摩擦部材と静止している第2摩擦部材とを互いに近接させていき、第2摩擦部材と共に変速機の入力軸が回転し始めた点として検出することができる。
【0016】
請求項4に係るクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法では、検出した所定値のクラッチの伝達可能トルク及び検出した作動部材の移動量は、第1及び第2摩擦部材が圧接されているときに学習値として検出した伝達可能トルク及び移動量である。第1及び第2摩擦部材が圧接されているときのクラッチの伝達可能トルク及び作動部材の移動量を検出可能な学習機能が自動クラッチ装置に備わっている場合には、学習値として検出した伝達可能トルク及び移動量を用いてトルク不足の判定を行うことができる。学習値を検出するための学習点は、摩耗後関係線上を伝達可能トルク及び移動量が増大する方向に進んだ点であるため、学習値として検出した伝達可能トルク及び移動量を用いることによって、作動部材の最大移動量における最大伝達可能トルクが所定の必要伝達トルク未満であると推定する精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による摩耗自動調整機構の作動不良検出装置を装備した車両を模式的に説明する説明図である。
【図2】本発明の一実施形態による摩耗自動調整機構の作動不良検出装置を備えるデュアルクラッチ式の自動変速機の全体構成を説明するスケルトン図である。
【図3】図2に示した自動変速機に備わるデュアルクラッチを模式的に説明する断面図であって、第1クラッチが係合している状態を示している。
【図4】図3に示したデュアルクラッチに備わる第1隙間調整リングの動作を説明する側面図であって、(a)は第1隙間調整リングの初期状態、(b)は第1隙間調整リングが隙間を調整している状態を示している。
【図5】本発明の一実施形態による摩耗自動調整機構の第1クラッチディスク摩耗後の動作を説明する断面図であって、(a)は第1クラッチが係合していない状態、(b)は第1クラッチが係合して第1摩耗追従ピンが押し込まれた状態、(c)は第1クラッチの係合が解除された状態、(d)は第1隙間調整リングが隙間を調整している状態を示している。
【図6】クラッチの摩耗量が増加していく過程におけるクラッチの伝達可能トルクとストロークとの関係を示すグラフである。
【図7】図6に示したクラッチの伝達可能トルクとストロークとの関係を用いて本発明の一実施形態による摩耗自動調整機構の作動不良検出を行う方法を説明するグラフである。
【図8】本発明の一実施形態による摩耗自動調整機構の作動不良検出装置において、作動不良を確定するためのフローチャートを示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1乃至図8に基づき、本発明の一実施形態によるクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出装置1による作動不良検出方法について説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の車両は、FFタイプ(フロントエンジン・フロントドライブ方式)の車両である。車両のエンジンルーム内には、駆動源であるエンジン10(原動機)及び自動変速機20(変速機)が搭載されている。自動変速機20は、エンジン10により回転駆動されるデュアルクラッチ2(クラッチ)を有している。デュアルクラッチ2は、第1、第2クラッチ2a、2bを備えている。エンジン10の回転駆動力は、自動変速機20を介して左前輪TFL及び右前輪TFRに伝達される。
【0020】
運転者がアクセルペダル50を踏み込んだときのアクセル操作量は、アクセル開度センサ51によってアクセル開度Aとして検出される。ECU(Engine Control Unit)10aは、アクセル開度Aの情報、後述するTCU(Transmission Control Unit)4からの各種情報、及び後述する各回転数センサ111、211、221の各情報を取得している。そして、ECU10aは、これらの車両情報に基づいて、スロットル開度や燃料噴射量を調整してエンジン10の駆動を制御している。エンジン10の駆動軸11の回転数Neの情報は、駆動軸回転数センサ111により検出されて、ECU10aに送られる。
【0021】
運転者は、シフトレバー60を操作することによって、自動変速機20の変速段(ギヤ位置)を自動又は手動で選択することができる。運転者がシフトレバー60を操作したときシフト位置の情報は、シフト位置センサ61によって検出される。TCU4とECU10aとは、CAN(Controller Area Network)通信によって相互に情報を交換可能となっている。TCU4の変速制御部4aは、シフト位置センサ61によって検出されたシフト位置の情報、ECU10aからの変速指令や取得した車両情報などに基づいて、自動変速機20の変速制御を行う。自動変速機20の各入力軸21及び22の各回転数Nt1及びNt2の情報は、自動変速機20内の入力軸回転数センサ211及び221により検出されて(図2示)、ECU10a及びTCU4に送られる。
【0022】
作動不良検出装置1は、第1入力軸21の回転数Nt1を検出する第1入力軸回転数センサ211と、第2入力軸22の回転数Nt2を検出する第2入力軸回転数センサ221と、第1クラッチ2aの伝達トルクT1を検出する第1トルクセンサ212と、第2クラッチ2bの伝達トルクT2を検出する第2トルクセンサ222と、第1クラッチ2aを作動するための第1クラッチアクチュエータ3a(作動部)の第1ロッド3a2(作動部材)の直線運動の移動量(ストローク量)であるストロークL1を検出する第1ストロークセンサ3a4と、第2クラッチ2bを作動するための第2クラッチアクチュエータ3b(作動部)の第2ロッド3b2(作動部材)のストロークL2を検出する第2ストロークセンサ3a4と、TCU4とを備えている。
【0023】
TCU4は、作動不良検出装置1による作動不良検出を実施するための制御部として、タッチ点検出部4bと、トルク学習部4cと、最大伝達可能トルク推定部4dと、トルク不足判定部4eと、警告部4fとを備えている。なお、タッチ点検出部4b及びトルク学習部4cの情報は、TCU4の変速制御部4aに送られて自動変速機20の変速制御を行うための情報としても活用される。作動不良検出装置1の動作については後ほど詳述することとし、まずは、図2乃至図5に基づいて、自動変速機20の全体構成について説明する。
【0024】
図2に示すように、自動変速機20は、前進7段、後進1段のFFタイプのデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)である。自動変速機20は、図示しないケースに回転可能に指示された回転軸である第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸23、第2副軸24、及び出力軸25を有している。
【0025】
また、自動変速機20は、第1入力軸21に伝達されたエンジン10の回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構である第1歯車切換ユニット30A1及び第3歯車切換ユニット30B1と、第2入力軸22に伝達されたエンジン10の回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構である第2歯車切換ユニット30A2及び第4歯車切換ユニット30B2とを有している。
【0026】
第2入力軸22は、筒状に形成されており、第1入力軸21を同軸的に囲んで、第1入力軸21に対して相対回転可能に設けられている。ここで、第1入力軸21の車両左側(図2中左方)の端部は、第2入力軸22の車両左側の端部よりも突出する長さに形成されている。第1副軸23、第2副軸24及び出力軸25は、両入力軸21、22に対して平行に配置されている。
【0027】
自動変速機20の車両右側(図2中右方)には、エンジン10の駆動軸11により回転駆動されるデュアルクラッチ2が配設されている。デュアルクラッチ2は、車両が停車している状態で、エンジン10が停止中及び起動中の場合に、クラッチ係合状態を解除するノーマルオープンタイプを構成している。
【0028】
デュアルクラッチ2は、摩擦クラッチである第1クラッチ2aと第2クラッチ2bとを備えている。そして、それぞれ第1、第2クラッチ2a、2bがエンジン10の駆動軸11に連結されている。第1クラッチ2aは、第1入力軸21に連結されており、第2クラッチ2bは、第2入力軸22に連結されている。
【0029】
デュアルクラッチ2は、TCU4の変速制御部4aからの命令に基づいて、第1クラッチ2aが係合しており第2クラッチ2bが係合していない図3に示す作動状態、第2クラッチ2bが係合しており第1クラッチ2aが係合していない作動状態、及び第1、第2クラッチ2a、2bの係合がともに解除された不作動状態のうちのいずれかの状態に制御される。
【0030】
第1クラッチ2aは、TCU4の変速制御部4aからの命令に基づいて第1クラッチアクチュエータ3aにより断接及び係合量が制御され、図3に示すクラッチ係合状態において、エンジン10の回転駆動力を第1入力軸21に伝達する。また、第2クラッチ2bは、TCU4の変速制御部4aからの命令に基づいて第2クラッチアクチュエータ3bにより断接及び係合量が制御され、クラッチ係合状態において、エンジン10の回転駆動力を第2入力軸22に伝達する。
【0031】
図3に基づいて、デュアルクラッチ2の詳細構造について説明する。デュアルクラッチ2は、第1、第2クラッチディスク2a1、2b1(いずれも第2摩擦部材)、センタプレート2c(第1摩擦部材)、第1、第2プレッシャプレート2a2、2b2(いずれも第1摩擦部材)、第1、第2ダイアフラムスプリング2a3、2b3、第1プレッシャプレート2a2の外径部に連結された第1伝達部材2a4、第2プレッシャプレート2b2の外径部に連結された第2伝達部材2b4、第1、第2摩擦追従ピン2a5、2b5、及び第1、第2隙間調整リング2a6、2b6を有している。
【0032】
第1クラッチディスク2a1は、エンジン10の回転駆動力を第1入力軸21に伝達し、第2クラッチディスク2b1は、エンジン10の回転駆動力を第2入力軸22に伝達する。第1クラッチディスク2a1は、第1入力軸21の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合され、第2クラッチディスク2b1は、第2入力軸22の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合されている。
【0033】
センタプレート2cは、第1クラッチディスク2a1と第2クラッチディスク2b1との間にその面が第1、第2クラッチディスク2a1、2b1の面と平行に対向して配置されている。センタプレート2cは、第2入力軸22の外周面との間にボールベアリングを介して第2入力軸22と相対回転可能に設けられ、エンジン10の駆動軸11に連結されて、エンジン10の駆動軸11と一体に回転する。
【0034】
第1、第2プレッシャプレート2a2、2b2は、センタプレート2cとの間でそれぞれ第1、第2クラッチディスク2a1、2b1を挟持し、第1、第2クラッチディスク2a1、2b1と圧接可能に配置されている。
【0035】
第1、第2ダイアフラムスプリング2a3、2b3は、円環状に形成されている。第1ダイアフラムスプリング2a3は、センタプレート2cを挟んで、入力軸方向に第1プレッシャプレート2a2と反対側に配置されている。第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部と第1プレッシャプレート2a2とは、円筒状の第1伝達部材2a4及び第1隙間調整リング2a6によって連結されている。また、第1ダイアフラムスプリング2a3はセンタプレート2cから延在している腕部2c1の先端部に支持されている。
【0036】
第1隙間調整リング2a6は、第1伝達部材2a4の先端部2a42に固定されている。一方、第1隙間調整リング2a6は、第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部に固定されてはおらず、第1隙間調整リング2a6と第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部とは、離接可能に当接している。
【0037】
第1ダイアフラムスプリング2a3は、ばね力がセンタプレート2cの腕部2c1をエンジン10側に向かって付勢するよう配置されている。これにより通常時においては、第1プレッシャプレート2a2は、第1クラッチディスク2a1に圧接されない。
【0038】
そして、第1ダイアフラムスプリング2a3の内径部をエンジン10側に向かって押圧すると、センタプレート2cから延在している腕部2c1の先端部を支点として第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部は、エンジン10とは反対方向に移動される。これらによって第1プレッシャプレート2a2は、第1クラッチディスク2a1方向に移動し、やがてセンタプレート2cとの間で第1クラッチディスク2a1を挟持して圧接する。そして完全に係合してエンジン10の回転駆動力が第1入力軸21に伝達される(図3示)。
【0039】
また、第2ダイアフラムスプリング2b3は、センタプレート2cの腕部2c1のエンジン10側に配置され、第2プレッシャプレート2b2を挟んで、入力軸方向に第2クラッチディスク2b1と反対側に配置されている。第2ダイアフラムスプリング2b3と第2プレッシャプレート2b2とは、第2隙間調整リング2b6によって連結されている。また、第2ダイアフラムスプリング2b3の外径部はセンタプレート2cから延在している腕部2c1のエンジン10側の面に支持されている。
【0040】
第2隙間調整リング2b6は、第2プレッシャプレート2b2の内径部に固定されている。一方、第2隙間調整リング2b6は、第2ダイアフラムスプリング2b3に固定されてはおらず、第2隙間調整リング2b6と第2ダイアフラムスプリング2b3とは、離接可能に当接している。
【0041】
第2ダイアフラムスプリング2b3の外径部は、ばね力がセンタプレート2cの腕部2c1を自動変速機20側に向かって付勢するよう配置されている。これにより通常時においては、第2プレッシャプレート2b2は、第2クラッチディスク2b1に圧接されない(図3示)。
【0042】
そして、第2ダイアフラムスプリング2b3の内径部をエンジン10側に向かって押圧すると、腕部2c1に接触する第2ダイアフラムスプリング2b3の外径部を支点として押圧部近傍がエンジン10方向へ移動する。これによって第2プレッシャプレート2b2がダイアフラムスプリング2b3に押され第2クラッチディスク2b1方向に移動し、やがてセンタプレート2cとの間で第2クラッチディスク2b1を挟持して圧接する。そして完全に係合しエンジン10の回転駆動力が第2入力軸22に伝達される。
【0043】
図4に基づいて、第1隙間調整リング2a6の構造及び動作を説明する。なお、第2隙間調整リング2b6の構造は、第1隙間調整リング2a6と異径の略同一構造であるため説明を省略する。図4は、第1隙間調整リング2a6を径方向から見た側面図を示しており、図4(a)は第1隙間調整リング2a6の初期状態、図4(b)は第1隙間調整リング2a6が隙間を調整している状態を示している。
【0044】
第1隙間調整リング2a6は、第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部と当接する移動リング2a61と、第1伝達部材2a4の先端部2a42に固定される固定リング2a62と、移動リング2a61を図4中の矢印方向に回転付勢する図示しないばねとにより構成されている。移動リング2a61と固定リング2a62とは同軸同径である。移動リング2a61の固定リング2a62側には、一山一山が周方向に連続した歯面が形成されている。また、固定リング2a62の移動リング2a61側には、移動リング2a61の歯面と噛合する歯面が形成されている。各歯面の各一山を形成する二面の形状は、一方の面は角度が摩擦角(物体が滑り出すときの斜面の角度)よりも緩い緩斜面となっており、他方の面は角度が切り立った急斜面(本実施形態においては直角)となっている。
【0045】
図4(a)に示すように、第1隙間調整リング2a6の初期状態において、移動リング2a61及び固定リング2a62の歯面同士が完全に噛合している。このとき、上述した各歯面の急斜面同士が当接していることによって、移動リング2a61が図4中の矢印の反対方向に回転することなく、固定リング2a62に対して位置決めされている。そして、図4(b)に示すように、第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部と第1伝達部材2a4の先端部2a42との離隔が広がると、ばね力によって移動リング2a61が図4中の矢印方向に回転する。
【0046】
これにより、移動リング2a61の歯面(緩斜面)が固定リング2a62の歯面(緩斜面)に誘導されて、第1隙間調整リング2a6が軸方向に延びて、第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部と第1伝達部材2a4の先端部2a42との離隔による隙間を埋める。そして、第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部から第1隙間調整リング2a6を介して第1伝達部材2a4の先端部2a42に押圧力が加わったとしても、上述した各歯面の緩斜面の角度が摩擦角よりも緩くなっていることによって、歯面同士(緩斜面同士)の滑りを防止し得る摩擦力が発生するため、第1隙間調整リング2a6が図4(b)に示す状態から図4(a)に示す状態に戻されることはない。
【0047】
上述した第1、第2ダイアフラムスプリング2a3、2b3の各内径部の押圧は、第1、第2クラッチアクチェータ3a、3bによって行う。第1、第2クラッチアクチェータ3a、3bは、それぞれ第1、第2直流電動モータ3a1、3b1(いずれも駆動装置)と、第1、第2直流電動モータ3a1、3b1の作動によってボールねじ構造により直線運動する第1、第2ロッド3a2、3b2(いずれも作動部材)と、第1、第2ロッド3a2、3b2の直線運動を第1、第2ダイアフラムスプリング2a3、2b3の各内径部に伝達する第1、第2伝達部3a3、3b3と、第1、第2ロッド3a2、3b2の直線運動の移動量(ストローク量)であるストロークL1、L2を検出する第1、第2ストロークセンサ3a4、3b4とを有している。
【0048】
図5に基づいて、デュアルクラッチ2の第1クラッチ2aの摩耗自動調整機構について説明する。図5は、第1クラッチディスク2a1が摩耗した後の摩耗自動調整機構の動作を説明する断面図(半断面図)を示している。図5(a)は第1クラッチ2aが係合していない状態、図5(b)は第1クラッチ2aが係合して第1摩耗追従ピン2a5が押し込まれた状態、図5(c)は第1クラッチ2aの係合が解除された状態、図5(d)は第1隙間調整リング2a6が隙間を調整している状態を示している。
【0049】
第1摩耗追従ピン2a5は、センタプレート2cに形成された挿入孔に挿入されている。第1摩耗追従ピン2a5の外周面には、微細な凹凸加工が施されている。センタプレート2cの挿入孔の内周面には、第1摩耗追従ピン2a5の凹凸加工の凹部と噛み合いかつ弾性変形可能な微細な凸部が設けられている。この微細な凹凸加工と微細な凸部との噛み合わせによって、第1摩耗追従ピン2a5は、第1プレッシャプレート2a2により押し込まれる方向(図5中左方)にのみ移動可能となっている。
【0050】
図5(b)に示すように第1摩耗追従ピン2a5が第1プレッシャプレート2a2により図5中左方に押し込まれると、第1摩耗追従ピン2a5のセンタプレート2cからの出代が長さHだけ長くなる。この長さHは、第1クラッチディスク2a1の摩耗量にほぼ相当している(第1プレッシャプレート2a2及びセンタプレート2cも若干摩耗するが、摩耗量の大半は第1クラッチディスク2a1で発生する)。
【0051】
そして、図5(c)に示すように第1クラッチ2aの係合が解除されると、第1プレッシャプレート2a2は、図略のリタンスプリングにより図5(a)に示した位置に戻ろうとする。しかし、第1伝達部材2a4に形成されている段部2a41と第1摩耗追従ピン2a5の図5中左方の端部とが当接することによって、第1プレッシャプレート2a2は、図5(a)に示した位置から長さHだけ図5中左方に移動した図5(c)に示す位置までしか戻ることができない。
【0052】
これにより、第1クラッチ2aの非係合状態における第1クラッチディスク2a1と第1プレッシャプレート2a2との離隔、及び第1クラッチディスク2a1とセンタプレート2cとの離隔を合計した摩擦部材同士の離隔が、第1クラッチディスク2a1の摩耗量によらず一定間隔に自動調整される。また、第1プレッシャプレート2a2及びセンタプレート2cが摩耗したとしても摩擦部材同士の離隔が一定間隔に自動調整される。すなわち、摩擦部材同士の離隔が図3中に示す段部2a41と第1摩耗追従ピン2a5の図3中左方の端部との間隔Lt0に自動調整される。
【0053】
図5(c)に示すように第1アクチュエータ3aの第1ロッド3a2を初期位置まで後退させると、第1隙間調整リング2a6と第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部との間に長さHと等しい隙間Dが発生する。そして、摩耗自動調整機構が正常に作動しているときには、上述したように第1隙間調整リング2a6が図5(d)に示すように軸方向に延びて隙間Dが埋められる。
【0054】
第2クラッチディスク2b1の摩耗自動調整機構においては、第2摩耗追従ピン2b5は、第2プレッシャプレート2b2により押し込まれる方向(図3中右方)にのみ移動可能となっている。また、第2伝達部材2b4の先端に形成されている段部2a41と第2摩耗追従ピン2b5の図3中右方の端部とが当接する構造となっている。第2クラッチディスク2b1が摩耗した後の摩耗自動調整機構の動作は、上述した第1クラッチディスク2a1が摩耗した後の摩耗自動調整機構の動作と同様であるため説明を省略する。
【0055】
図2に示すように、自動変速機20は、第1入力軸21又は第2入力軸22と第1副軸23との間に設けられる第1歯車変速機構30Aと、第1入力軸21又は第2入力軸22と第2副軸24との間に設けられる第2歯車変速機構30Bと、第1副軸23と出力軸25とを連結する第1リダクションギヤ列39a、39cと、第2副軸24と出力軸25とを連結する第2リダクションギヤ列39b、39cとを備えている。
【0056】
第1歯車変速機構30Aは、第1入力軸21と第1副軸23との間に設けられる第1歯車切換ユニット30A1(第1シフト機構)と、第2入力軸22と第1副軸23との間に設けられる第2歯車切換ユニット30A2(第2シフト機構)とにより構成されている。
【0057】
第1歯車切換ユニット30A1は、第7速ギヤ列37a、37bと、第5速ギヤ列35a、35bと、第1切換クラッチ40Aとにより構成されている。第7速ギヤ列37a、37bは、第1入力軸21に固定された第7速駆動ギヤ37aと、第1副軸23に回転自在に設けられた第7速従動ギヤ37bとにより構成されている。第5速ギヤ列35a、35bは、第1入力軸21に固定された第5速駆動ギヤ35aと、第1副軸23に回転自在に設けられた第5速従動ギヤ35bとにより構成されている。
【0058】
第1切換クラッチ40Aは、クラッチハブLと、第7速係合部材S7と、第5速係合部材S5と、シンクロナイザリングOと、スリーブMとにより構成されている。クラッチハブLは、第7速従動ギヤ37bと第5速従動ギヤ35bとの軸方向間となる第1副軸23にスプライン固定されている。第7速係合部材S7及び第5速係合部材S5は、第7速従動ギヤ37b及び第5速従動ギヤ35bのそれぞれに、例えば圧入などにより固定されている。シンクロナイザリングOは、クラッチハブLと軸方向両側の各係合部材S7、S5との間にそれぞれ介在されている。スリーブMは、クラッチハブLの外周に軸方向移動自在にスプライン係合されている。
【0059】
この第1切換クラッチ40Aは、第7速従動ギヤ37b及び第5速従動ギヤ35bの一方と第1副軸23との係合を可能とし、かつ、第7速従動ギヤ37b及び第5速従動ギヤ35bの両者を第1副軸23に対して離脱する状態にすることができる周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0060】
第1切換クラッチ40AのスリーブMは、中立位置ではいずれの係合部材S7、S5とも係合されていない。シフトフォークNによりスリーブMが第7速従動ギヤ37b側にシフトされれば、スリーブMは、まずそちら側のシンクロナイザリングOにスプライン係合して第1副軸23と第7速従動ギヤ37bとの回転を同期させ、次いで第7速係合部材S7の外周の外歯スプラインと係合し、第1副軸23と第7速従動ギヤ37bとを一体的に連結して第7速段を形成する。また、シフトフォークNによりスリーブMが第5速従動ギヤ35b側にシフトされれば、同様にして第1副軸23と第5速従動ギヤ35bとの回転を同期させた後に、この両者を一体的に連結して第5速段を形成する。
【0061】
第2歯車切換ユニット30A2は、第6速ギヤ列36a、36bと、第2速ギヤ列32a、32bと、後進段駆動ギヤ38aと、第2切換クラッチ40Bとにより構成されている。第6速ギヤ列36a、36bは、第2入力軸22に固定された第6速駆動ギヤ36aと第1副軸23に回転自在に設けられた第6速従動ギヤ36bとにより構成されている。第2速ギヤ列32a、32bは、第2入力軸22に固定された第2速駆動ギヤ32aと第1副軸23に回転自在に設けられた第2速従動ギヤ32bとにより構成されている。
【0062】
後進段駆動ギヤ38aは、第2速従動ギヤ32bに一体に形成されており、第2速従動ギヤ32bよりも車両右側(図2中右方)に設けられ、第1副軸23に回転自在に設けられている。この後進段駆動ギヤ38aは、第2副軸24に回転自在に設けられている後進段従動ギヤ38bに噛合している。
【0063】
第2切換クラッチ40Bは、実質的に第1切換クラッチ40Aと同じ構造よりなっている。第2切換クラッチ40Bにおいては、第6速係合部材S6及び第2速係合部材S2がそれぞれ第6速従動ギヤ36b及び第2速従動ギヤ32bに固定されている点が第1切換クラッチ40Aと相違する。この第2切換クラッチ40Bは、第1切換クラッチ40Aと同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0064】
第2切換クラッチ40Bにおいて第6速段及び第2速段を形成する動作は、実質的に第1切換クラッチ40Aにおいて第7速段及び第5速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0065】
第2歯車変速機構30Bは、第1入力軸21と第2副軸24との間に設けられる第3歯車切換ユニット30B1(第1シフト機構)と、第2入力軸22と第2副軸24との間に設けられる第4歯車切換ユニット30B2(第2シフト機構)とにより構成されている。
【0066】
第3歯車切換ユニット30B1は、第1速ギヤ列31a、31bと、第3速ギヤ列33a、33bと、第3切換クラッチ40Cとにより構成されている。第1速ギヤ列31a、31bは、第1入力軸21に固定された第1速駆動ギヤ31aと、第2副軸24に回転自在に設けられた第1速従動ギヤ31bとにより構成されている。第3速ギヤ列33a、33bは、第1入力軸21に固定された第3速駆動ギヤ33aと、第2副軸24に回転自在に設けられた第3速従動ギヤ33bとにより構成されている。
【0067】
第3切換クラッチ40Cは、実質的に第1切換クラッチ40Aと同じ構造よりなっている。第3切換クラッチ40Cにおいては、第1速係合部材S1及び第3速係合部材S3がそれぞれ第1速従動ギヤ31b及び第3速従動ギヤ33bに固定されている点が第1切換クラッチ40Aと相違する。この第3切換クラッチ40Cは、第1切換クラッチ40Aと同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0068】
第3切換クラッチ40Cにおいて第1速段及び第3速段を形成する動作は、実質的に第1切換クラッチ40Aにおいて第7速段及び第5速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0069】
第4歯車切換ユニット30B2は、第4速ギヤ列34a、34bと、後進段従動ギヤ38bと、第4切換クラッチ40Dとにより構成されている。第4速ギヤ列34a、34bは、第2入力軸22に固定された第4速駆動ギヤ34a(上述した第6速駆動ギヤ36aを兼ねる)と、第2副軸24に回転自在に設けられた第4速従動ギヤ34bとにより構成されている。後進段従動ギヤ38bは、第2副軸24に回転自在に設けられている。
【0070】
第4切換クラッチ40Dは、実質的に第1切換クラッチ40Aと同じ構造よりなっている。第4切換クラッチ40Dにおいては、第4速係合部材S4及び後進係合部材SRがそれぞれ第4速従動ギヤ34b及び後進段従動ギヤ38bに固定されている点が第1切換クラッチ40Aと相違する。この第4切換クラッチ40Dは、第1切換クラッチ40Aと同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0071】
第4切換クラッチ40Dにおいて第4速段及び後進段を形成する動作は、実質的に第1切換クラッチ40Aにおいて第7速段及び第5速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0072】
次に、自動変速機20の動作について説明する。自動変速機20の第1、第2歯車変速機構30A、30B及びデュアルクラッチ2は、アクセル開度A、エンジン10の駆動軸11の回転数Ne、自動変速機20の各入力軸21及び22の各回転数Nt1及びNt2、車速などの車両の作動状態に応じて、TCU4の変速制御部4aからの命令に基づいて作動する。不作動状態において、第1、第2歯車変速機構30A、30Bの第1〜第4切換クラッチ40A〜40Dは中立位置にあり、デュアルクラッチ2の第1、第2クラッチ2a、2bの係合はともに解除されている。
【0073】
停車状態においてエンジン10を起動させた場合にも、上記不作動状態と同様の状態を維持する。そして、停車状態においてエンジン10を起動させた後に、自動変速機20のシフトレバー60を前進位置とすれば、TCU4の変速制御部4aは、第3切換クラッチ40Cの第1速係合部材S1を係合させて第2副軸24と第1速従動ギヤ31bとを一体的に連結して第1速段を形成する命令を自動変速機20に送る。このとき、その他の各切換クラッチ40A、40B及び40Dは中立位置にある。
【0074】
この状態でアクセル開度Aが増大してエンジン10の駆動軸11の回転数Neが所定の回転数を越えれば、TCU4の変速制御部4aは、図3に示すようにアクセル開度Aに合わせてデュアルクラッチ2の第1クラッチ2aの係合量を徐々に増加させて係合力(圧接力)を徐々に増加させる命令を第1クラッチアクチェータ3aに送る。これにより駆動軸11の回転駆動力は、第1クラッチ2aから第1入力軸21、第1速ギヤ列31a、31b、第3切換クラッチ40Cの第1速係合部材S1、第2副軸24、第2リダクションギヤ列39b、39cを介して出力軸25に伝達され、車両は第1速で走行し始める。
【0075】
アクセル開度Aが増大するなどして車両の走行状況が第2速走行に適した状態となれば、TCU4の変速制御部4aは、第2切換クラッチ40Bの第2速係合部材S2を係合させて第1副軸23と第2速従動ギヤ32bとを一体的に連結して第2速段を形成する命令を自動変速機20に送る。その後、TCU4からの命令により、デュアルクラッチ2を第1クラッチ2a側から第2クラッチ2b側に切り換える。次いで、TCU4からの命令により、第3切換クラッチ40Cを中立位置にする。
【0076】
これにより駆動軸11の回転駆動力は、第2クラッチ2bから第2入力軸22、第2速ギヤ列32a、32b、第2切換クラッチ40Bの第2速係合部材S2、第1副軸23、第1リダクションギヤ列39a、39cを介して出力軸25に伝達され、車両は第2速で走行し始める。
【0077】
同様にして、TCU4は、第3速〜第7速では、車両の走行状況に応じた変速段(ギヤ位置)を順次選択するとともに、第1クラッチ2a及び第2クラッチ2bの係合状態を交互に選択して、その走行状況に適した変速段での走行が行われるように自動変速機20の動作を制御する。
【0078】
エンジン10を起動させた停車状態において自動変速機20のシフトレバー60を後進位置とすれば、TCU4の変速制御部4aは、第4切換クラッチ40Dの後進係合部材SRを係合させて第2副軸24と後進段従動ギヤ38bとを一体的に連結して後進段を形成する命令を自動変速機20に送る。このとき、その他の各切換クラッチ40A、40B及び40Cは中立位置にある。
【0079】
この状態でアクセル開度Aが増大してエンジン10の駆動軸11の回転数Neが所定の回転数を越えれば、TCU4の変速制御部4aは、アクセル開度Aに合わせてデュアルクラッチ2の第2クラッチ2bの係合量を徐々に増加させて係合力(圧接力)を徐々に増加させる命令を第2クラッチアクチェータ3bに送る。これにより駆動軸11の回転駆動力は、第2クラッチ2bから第2入力軸22、第2速ギヤ列32a、32b、後進段ギヤ列38a、38b、第4切換クラッチ40Dの後進係合部材SR、第2副軸24、第2リダクションギヤ列39b、39cを介して出力軸25に伝達され、車両は後進を開始する。
【0080】
第1、第2クラッチ2a、2bの係合がともに解除された停車状態において自動変速機20のシフトレバー60を駐車位置とすれば、TCU4の変速制御部4aは、第2切換クラッチ40Bの第2速係合部材S2を係合させるとともに、第4切換クラッチ40Dの後進係合部材SRを係合させる命令を自動変速機20に送る。
【0081】
第2速係合部材S2の係合により、第2入力軸22から、第2速ギヤ列32a、32b、第2切換クラッチ40Bの第2速係合部材S2、第1副軸23、第1リダクションギヤ列39a、39cを介して出力軸25に一方向の回転力が伝達される状態となる。一方、後進係合部材SRの係合により、第2入力軸22から、第2速ギヤ列32a、32b、後進段ギヤ列38a、38b、第4切換クラッチ40Dの後進係合部材SR、第2副軸24、第2リダクションギヤ列39b、39cを介して出力軸25に他方向(反対方向)の回転力が伝達される状態となる。
【0082】
したがって、第2速ギヤ列32a、32b及び第1リダクションギヤ列39a、39cによる噛み合いと、後進段ギヤ列38a、38b及び第2リダクションギヤ列39b、39cによる噛み合いの、2重噛み合いがなされて、パーキングロックがなされる。
【0083】
次に、作動不良検出装置1の動作について説明する。上述したように、作動不良検出装置1のTCU4は、作動不良検出を実施するための制御部として、タッチ点検出部4bと、トルク学習部4cと、最大伝達可能トルク推定部4dと、トルク不足判定部4eと、警告部4fとを備えている(図1示)。
【0084】
まずは、図6に基づいて、作動不良検出装置1によって上述した摩耗自動調整機構の作動不良を検出する目的について説明する。図6は、第1、第2クラッチ2a、2bの摩耗量(主に第1、第2クラッチディスク2a1、2b1の摩耗量)が増加していく過程における伝達可能トルクTaとストロークLとの関係を示すグラフである。第1、第2クラッチ2a、2bが摩耗する前に、実験等によって伝達可能トルクTaとストロークLとの初期関係線H0が設定されているものとする(本発明の設定工程に相当する)。最大ストロークLzに対応した初期関係線H0上の最終点Z0において、最大伝達可能トルクTz0が必要伝達トルクTrよりも大きくなっている。
【0085】
通常は、摩耗自動調整機構が正常に作動して、第1、第2クラッチ2a、2bの摩耗量が増加しても伝達可能トルクTaとストロークLとの関係線が初期関係線H0に保たれる。しかし、摩耗自動調整機構の不具合や、第1、第2クラッチ2a、2bの摩耗量が摩耗自動調整機構の作動可能量を超えたときのように、摩耗自動調整機構が作動不良の状態になった場合には、伝達可能トルクTaとストロークLとの関係線が摩耗後関係線Hc、Hxへと移動する。
【0086】
この摩耗後関係線Hc、Hxは、初期関係線H0を図6のストロークLの増加方向に平行移動した関係線である。摩耗後関係線Hcは、最大ストロークLzに対応した摩耗後関係線Hc上の最終点Zcにおいて、最大伝達可能トルクTzcが必要伝達トルクTrと等しい値となる関係線である。したがって、初期関係線H0から摩耗後関係線Hcまで移動する間は、トルク不足が問題となることはない。この摩耗後関係線Hcは、図6に示すグラフにおいて作図により定めることができる。
【0087】
摩耗後関係線Hxは、最大ストロークLzに対応した摩耗後関係線Hx上の最終点Zxにおいて、最大伝達可能トルクTzxが必要伝達トルクTrよりも小さい値となる関係線である。したがって、伝達可能トルクTaとストロークLとの関係線が摩耗後関係線Hcから摩耗後関係線Hxの方向に移動した場合には、トルク不足が問題となる。すなわち、摩耗自動調整機構の作動不良を検出する目的は、伝達可能トルクTaとストロークLとの関係線が摩耗後関係線Hcから摩耗後関係線Hxの方向に移動してトルク不足の状態になっていることを判定することである。
【0088】
タッチ点検出部4bには、第1入力軸回転数センサ211で検出した第1入力軸21の回転数Nt1、第2入力軸回転数センサ221で検出した第2入力軸22の回転数Nt2、第1ストロークセンサ3a4で検出した第1クラッチアクチュエータ3aの第1ロッド3a2のストロークL1、及び第2ストロークセンサ3b4で検出した第2クラッチアクチュエータ3bの第1ロッド3b2のストロークL2が送られる。そして、タッチ点検出部4bにおいて、タッチ点ストロークLtx(タッチ点における移動量)を検出する。図6に示す伝達可能トルクTaとストロークLとの関係において、A0、Ac、Axがタッチ点であり、Lt0、Ltc、Ltxがタッチ点ストロークである。
【0089】
例えば、第1クラッチ2aのタッチ点ストロークLtxは、次のように検出することができる。イグニッションOFFの状態において、自動変速機20は、第1入力軸21の回転が出力軸25まで伝達されない中立状態になっている。そして、イグニッションONによりエンジン10の駆動軸11をアイドリング回転させる。このとき第1クラッチ2aは非係合状態であり、自動変速機20の第1入力軸21は静止している。そして、第1クラッチアクチュエータ3aの第1ロッド3a2のストロークL1を徐々に増加させていく。
【0090】
ストロークL1を増加させると、やがて駆動軸11とともに回転運動している第1プレッシャプレート2a2と、第1入力軸21とともに静止している第1クラッチディスク2a1とが圧接し始める。そして、第1入力軸21が回転を開始した(回転数Nt1が検出された)時点がタッチ点であり、このときのストロークL1がタッチ点ストロークLtxである。
【0091】
最大伝達可能トルク推定部4dには、タッチ点検出部4bで検出したタッチ点ストロークLtxが送られる。図7に示すように、摩耗後関係線Hxは、既知の初期関係線H0を、(Ltx−Lt0)だけストロークLの増加方向に平行移動した関係線である。摩耗後関係線Hxは、タッチ点Axを起点としている。最大伝達可能トルク推定部4dにおいて、タッチ点ストロークLtxにより設定された摩耗後関係線Hxに基づいて、最大ストロークLzにおける最大伝達可能トルクTzxを推定する。
【0092】
トルク学習部4cには、第1ストロークセンサ3a4で検出したストロークL1、第2ストロークセンサ3b4で検出したストロークL2、第1トルクセンサ212で検出した第1クラッチ2aの伝達トルクT1、及び第2トルクセンサ222で検出した第2クラッチ2bの伝達トルクT2が送られる。そして、トルク学習部4cにおいて、学習ストロークLsx及び学習伝達トルクTsxを検出する。学習伝達トルクTsxとは、学習ストロークLsxにおいて、第1、第2クラッチ2a、2bが伝達することが可能な最大の伝達トルクT1、T2のことである。
【0093】
例えば、第1クラッチ2aの学習伝達トルクTsxは、次のように検出することができる。車両の走行中に第1クラッチ2aの断接が行われる場合、第1クラッチアクチュエータ3aの第1ロッド3a2のストロークL1がある学習ストロークLsxになったとする。このとき、駆動軸11の回転数Neと第1入力軸21の回転数Nt1とに差が発生して第1クラッチ2aが滑った状態となっていれば、このときの第1トルクセンサ212で検出した第1クラッチ2aの伝達トルクT1が学習ストロークLsxに対応した学習伝達トルクTsxとなる。
【0094】
なお、次の方法によれば、第1、第2トルクセンサ212、222を用いることなく伝達トルクT1、T2を推定することが可能である。例えば、エンジン10の駆動軸11の回転数Neやアクセル開度Aなどの検出値、及びエンジン10の出力トルク特性に基づいてエンジン10の現出力トルクTeを算出することができる。また、エンジン10のイナーシャIe(慣性モーメント又は慣性能率ともいう)に駆動軸11の回転数Neの変化速度ΔNeを乗算すると慣性トルクIe・ΔNeが求まる。そして、エンジン10の現出力トルクTeから慣性トルクIe・ΔNeを減算することにより、第1、第2クラッチ2a、2bの伝達トルクT1、T2を算出することが可能である。
【0095】
最大伝達可能トルク推定部4dには、トルク学習部4cで検出した学習ストロークLsx及び学習伝達トルクTsxが送られる。図7に示すように、摩耗後関係線Hxは、ある学習ストロークLsxに対応した学習伝達トルクTsxを検出し、この学習伝達トルクTsxに対応する初期関係線H0上の学習ストロークLs0を求め、初期関係線H0を、(Lsx−Ls0)だけストロークLの増加方向に平行移動した関係線である。摩耗後関係線Hxは、学習点Bxを通過点としている。最大伝達可能トルク推定部4dにおいて、学習ストロークLsx及び学習伝達トルクTsxにより設定された摩耗後関係線Hxに基づいて、学習ストロークLsx及び学習伝達トルクTsxから最大伝達可能トルクTzxを推定する。
【0096】
なお、学習ストロークLsxに対応した摩耗後関係線Hc上の学習点Bc及び初期関係線H0上の学習点B0は、図7に示すグラフにおいて作図により定めることが可能な仮想の学習点である。摩耗自動調整機構が作動不良の状態になった場合には、図7に示すように、第1、第2クラッチ2a、2bの摩耗量の増加にともなって、学習点が学習点B0から学習点Bxへと移動する。
【0097】
トルク不足判定部4eには、最大伝達可能トルク推定部4dにおいて推定された最大伝達可能トルクTzxが送られる。そして、トルク不足判定部4eにおいて、最大伝達可能トルクTzxが必要伝達トルクTrよりも小さいトルク不足の状態となっているか否かの判定を行う。また、後述するようにトルク不足の判定が所定の回数継続されたときに摩耗自動調整機構の作動不良を確定する。
【0098】
警告部4fには、トルク不足判定部4eの判定結果が送られる。トルク不足判定部4eにおいて摩耗自動調整機構の作動不良と確定されたときには、警告部4fは、車両の使用者に対して摩耗自動調整機構の作動不良の警告を行う。この警告には、例えば、インストルメントパネルに配置された警告ランプを点灯することによって行うことができる。
【0099】
図8は、摩耗自動調整機構(SAC)の作動不良検出装置1において、作動不良を確定するためのフローチャートを示している。このフローチャートは、イグニッションONにより開始(START)する。フローチャートの開始時点においては、第1、第2クラッチ2a、2bに摩耗が発生した後、摩耗自動調整機構が正常に作動しているか否かが不明であるとする。また、フローチャートの開始時点までに、本発明の設定工程が実施されており、図6及び7で示した伝達可能トルクTaとストロークLとの初期関係線H0がTCU4に記憶されているものとする。
【0100】
フローチャートの開始後、ステップS1において、タッチ点ストロークLtxを検出することが可能な条件が成立しているか否かを判定する。例えば、車両が停車中で、かつ自動変速機20の変速段(ギヤ位置)が中立位置にあるときに、イグニッションがOFFからONになった場合に、タッチ点ストローク検出条件成立とすることができる。そして、ステップS1において、検出条件が成立していると判定されたときにはステップS2に進み、検出条件が成立していないと判定されたときにはステップS4に進む。
【0101】
ステップS2において、TCU4のタッチ点検出部4bによりタッチ点ストロークLtxを検出した後、TCU4の最大伝達可能トルク推定部4dにより摩耗後関係線Hxに基づいて最大伝達可能トルクTzxを推定し、TCU4のトルク不足判定部4eにより最大伝達可能トルクTzxが必要伝達トルクTrよりも小さいトルク不足の状態となっているか否かの判定を行う。ステップS2は、本発明の検出工程及び判定工程に相当する。そして、ステップS2において、Tzx≧Trであれば、トルク不足ではないと判定してステップS4に進む。また、ステップS2において、Tzx<Trであれば、トルク不足と判定してステップS3に進んで、タッチ点不良フラッグをONにした後、後述するステップS7に進む。
【0102】
ステップS4において、トルク学習値(学習ストロークLsx及び学習伝達トルクTsx)を検出することが可能な条件が成立しているか否かを判定する。例えば、車両走行中に自動変速機20に変速指令が送られて、イグニッションONとなった後に最初に第2速段から第3速へのシフトアップが行われた場合に限って、トルク学習値検出条件成立とすることができる。トルク学習は、エンジン10の回転数Neが大きく、エンジン10の現出力トルクTeが大きいほど適しているため、低速段の変速である第2速段から第3速へのシフトアップをトルク学習値検出条件成立の一例として述べた。ステップS4において、検出条件が成立していると判定されたときにはステップS5に進み、検出条件が成立していないと判定されたとき、又は、変速状況によりトルク学習の検出が不可能となった場合にはステップS4を繰り返す。
【0103】
ステップS5において、TCU4のトルク学習部4cにより学習ストロークLsx及び学習伝達トルクTsxを検出した後、TCU4の最大伝達可能トルク推定部4dにより摩耗後関係線Hxに基づいて最大伝達可能トルクTzxを推定し、TCU4のトルク不足判定部4eにより最大伝達可能トルクTzxが必要伝達トルクTrよりも小さいトルク不足の状態となっているか否かの判定を行う。ステップS5は、本発明の検出工程及び判定工程に相当する。そして、ステップS5において、Tzx≧Trであれば、トルク不足ではなく、摩耗自動調整機構が正常に作動していると判断して、フローチャートを終了(END)する。フローチャート終了後には、再びフローチャートを開始する。また、ステップS5において、Tzx<Trであれば、トルク不足と判定してステップS6に進む。
【0104】
ステップS6において、タッチ点不良フラッグがONとなっているか否かを判定する。タッチ点不良フラッグがONとなっている場合には、既にステップS3からステップS7に進んでいるため、トルク不足判定の重複を避けるためにフローチャートを終了する。フローチャート終了後には、再びフローチャートを開始する。また、ステップS6において、タッチ点不良フラッグがOFFであれば、トルク不足判定の重複はなく、トルク学習値のみによりトルク不足と判定されていることになるため、ステップS7に進む。
【0105】
上述のとおり、ステップS3において、タッチ点よりトルク不足と判定されているか、又は、ステップS6において、トルク学習値よりトルク不足と判定されている場合に、ステップS7に進む。ステップS7においては、ステップS3経由及びステップS6経由のうちのいずれか早くステップS7に到達したステップのみを対象として、イグニッションON回数N=N+1とする。その後、ステップS8に進む。ここで、1回目のフローチャートでステップS7に進んできたときには、N=0+1=1であり、イグニッションON回数N=1が設定される。そして、フローチャートを繰り返して、ステップS7が繰り返される度にイグニッションON回数Nは1回ずつ増加する。
【0106】
ステップS8において、上述したトルク不足の判定が所定の回数継続されたか否かを判定する。本実施形態においては、ステップS8において、イグニッションON回数Nが所定回数Naに達したか否かを判定する。ステップS8において、N=Naであれば、摩耗自動調整機構の作動不良であると確定してステップS9に進む。N<Naであれば、フローチャートを終了する。フローチャート終了後には、再びフローチャートを開始する。再びフローチャートを開始するときには、イグニッションON回数N=N+1が設定されている。ステップS7及びS8は、本発明の判定工程に相当する。
【0107】
ステップS9において、イグニッションON回数N=0を設定した後、ステップS10において、TCU4の警告部4fによって、車両の使用者に対して摩耗自動調整機構の作動不良の警告を行う。その後、フローチャートを終了する。ステップS10は、本発明の警告工程に相当する。
【0108】
摩耗自動調整機構の作動不良の警告を行った後のフローチャート終了後には、車両の使用者は、摩耗自動調整機構の修理や、第1、第2クラッチ2a、2bの摩耗した第1、第2クラッチディスク2a1、2b1の交換などを行った後、フローチャートを再度開始する。
【0109】
このような本実施形態のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法では、第1、第2クラッチ2a、2bが摩耗する前に、第1、第2クラッチ2a、2bの伝達可能トルクTaとストロークLとの初期関係線H0を設定し、第1、第2クラッチ2a、2bの伝達可能トルクTaが所定値であるときのストロークLを検出する。そして、検出した所定値の伝達可能トルクTa及び検出したストロークLを通過するように初期関係線H0を平行移動して摩耗後関係線Hxを定め、この摩耗後関係線Hxを用いて第1、第2クラッチ2a、2bの最大ストロークLzにおける最大伝達可能トルクTzxが所定の必要伝達トルクTr未満であると推定されるときに摩耗自動調整機構の作動不良であると判定する。これにより、第1、第2クラッチ2a、2bの最大伝達可能トルクTzxが所定の必要伝達トルクTrを満足しないトルク不足の状態となっていることを検出することが可能である。
【0110】
また、本実施形態のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法では、イグニッションON回数Nが所定回数Naに達するまで判定工程を実行して、この所定回数Naの全ての判定工程においてトルク不足という判定結果となったときに摩耗自動調整機構が作動不良であることを確定して警告を発信する。したがって、車両の使用者は、摩耗自動調整機構の作動不良の警告を過剰に受けることがなく、摩耗自動調整機構の作動不良の状態が長期間継続されてデュアルクラッチ2の修理等が必要となり得る場合のみ警告を受けることができる。
【0111】
また、本実施形態のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法では、タッチ点ストロークLtxに基づいて最大伝達可能トルクTzxを推定している。自動クラッチ装置を備える自動変速機20には、タッチ点ストロークLtxを検出する機能がもともと備わっているため、クラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出のためだけの新たな装置等を備える必要はなく、簡素な構成でクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良を検出することができる。
【0112】
また、本実施形態のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法では、学習ストロークLsx及び学習伝達トルクTsxに基づいて最大伝達可能トルクTzxを推定している。学習ストロークLsx及び学習伝達トルクTsxを検出するための学習点Bxは、摩耗後関係線Hx上を伝達可能トルクTa及びストロークLが増大する方向に進んだ点であるため、学習値として検出した学習ストロークLsx及び学習伝達トルクTsxを用いることによって、最大伝達可能トルクTzxを推定する精度を高めることができ、トルク不足判定の精度を高めることができる。
【0113】
本発明のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができることは言うまでもない。
【0114】
例えば、本実施形態においては、図8のフローチャートのステップS2及びS5に示すように、タッチ点及びトルク学習値の両方からトルク不足の判定を行っている。しかし、これら2つのトルク不足判定のうちのいずれか一方のみを実施する実施形態とすることもできる。
【0115】
また、本実施形態においては、第1、第2トルクセンサ212、222により第1、第2クラッチ2a、2bの伝達トルクT1、T2を検出しているが、上述したように、第1、第2トルクセンサ212、222を用いることなく、エンジン10の現出力トルクTe、及びエンジン10のイナーシャIeに駆動軸11の回転数Neの変化速度ΔNeを乗算した慣性トルクIe・ΔNeに基づいて伝達トルクT1、T2を推定することも可能である。
【0116】
また、本実施形態においては、摩耗後関係線Hx上の最終点Zxにおける最大伝達可能トルクTzxの値を推定しているが、以下の方法によれば、最大伝達可能トルクTzxの値を推定することなく、トルク不足の判定を行うことができる。例えば、タッチ点からのトルク不足の判定においては、図7に示すように、摩耗後関係線Hxのタッチ点Axから最大ストロークLzまでの残ストローク(=Lz−Ltx)は、タッチ点Acから最大ストロークLzまでの残ストロークLAcよりも小さい。このとき、摩耗後関係線Hx上の最終点Zxにおいて、最大伝達可能トルクTzxが必要伝達トルクTrよりも小さい値となりトルク不足であると判定することができる。
【0117】
また、例えば、トルク学習値からのトルク不足の判定においては、図7に示すように、摩耗後関係線Hx上の学習点Bxから最大ストロークLzまでの残ストローク(=Lz−Lsx)は、学習点Bcから最大ストロークLzまでの残ストロークLBcよりも小さい。このとき、摩耗後関係線Hx上の最終点Zxにおいて、最大伝達可能トルクTzxが必要伝達トルクTrよりも小さい値となりトルク不足であると判定することができる。
【0118】
また、本実施形態において、図3乃至図5に基づいて説明したデュアルクラッチ2の摩耗自動調整機構は一例であって、本発明のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法を、図3乃至図5に示した摩耗自動調整機構とは異なる構成よりなる他の摩耗自動調整機構に適用することも可能である。
【0119】
また、本実施形態においては、クラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法をデュアルクラッチ式の自動変速機(DCT)に適用しているが、本発明のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法を、自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT:例えば、特開2008−75814号公報参照)に適用することもできる。また、従来のマニュアルトランスミッションのクラッチ操作のみを自動化した変速機に適用することもできる。
【符号の説明】
【0120】
1 … 作動不良検出装置 2 … デュアルクラッチ
2a … 第1クラッチ
2a1… 第1クラッチディスク(第2摩擦部材)
2a2… 第1プレッシャプレート(第1摩擦部材)
2b … 第2クラッチ
2b1… 第2クラッチディスク(第2摩擦部材)
2b2… 第2プレッシャプレート(第1摩擦部材)
2c … センタプレート(第1摩擦部材)
3a … 第1クラッチアクチュエータ(作動部)
3a1… 第1直流電動モータ(駆動装置)
3a2… 第1ロッド(作動部材)
3b … 第2クラッチアクチュエータ(作動部)
3b1… 第2直流電動モータ(駆動装置)
3b2… 第2ロッド(作動部材)
10 … エンジン(原動機) 11 … 駆動軸
20 … 自動変速機(変速機) 21 … 第1入力軸
22 … 第2入力軸 A0、Ac、Ax… タッチ点
H0 … 初期関係線 Hc、Hx… 摩耗後関係線
L、L1、L2… ストローク(移動量)
Ls0、Lsx… 学習ストローク(学習値として検出した移動量)
Lt0、Ltx… タッチ点ストローク(タッチ点における移動量)
Lz … 最大ストローク(最大移動量)
T1、T2… 伝達トルク Ta … 伝達可能トルク
Tr … 必要伝達トルク Tz … 最大伝達可能トルク
Ts … 学習伝達トルク(学習値として検出した伝達可能トルク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の原動機の駆動軸に回転連結された第1摩擦部材と、変速機の入力軸に回転連結された第2摩擦部材と、駆動装置によって作動部材を前進させ前記第1及び第2摩擦部材を圧接させてトルク伝達させると共に、前記作動部材を後退させて前記第1及び第2摩擦部材を離隔させる作動部と、前記第1及び第2摩擦部材の非係合状態における離隔を一定間隔に自動調整する摩耗自動調整機構とを備えたクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法であって、
前記第1及び第2摩擦部材が摩耗する前に、該クラッチの伝達可能トルクと前記作動部材の移動量との初期関係線を設定する設定工程と、
前記クラッチの伝達可能トルクが所定値であるときの前記作動部材の移動量を検出する検出工程と、
前記検出工程における前記所定値の伝達可能トルク及び検出した前記移動量を通過するように前記初期関係線を平行移動して摩耗後関係線を定め、該摩耗後関係線を用いて前記作動部材の最大移動量における前記クラッチの最大伝達可能トルクが所定の必要伝達トルク未満であると推定されるときに前記摩耗自動調整機構の作動不良であると判定する判定工程と、
を備えるクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法。
【請求項2】
前記検出工程及び前記判定工程を所定回数実行し、該所定回数の全ての前記判定工程において前記摩耗自動調整機構が作動不良であると判定されたときに警告を発信する警告工程を備える請求項1に記載のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法。
【請求項3】
前記検出工程における前記伝達可能トルクの所定値はゼロであり、前記検出工程における前記移動量は、前記原動機の回転駆動力が前記第1摩擦部材から前記第2摩擦部材に伝達され始めるタッチ点における前記移動量である請求項1又は2に記載のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法。
【請求項4】
前記検出工程における前記所定値の伝達可能トルク及び検出した前記移動量は、前記第1及び第2摩擦部材が圧接されているときに学習値として検出した前記伝達可能トルク及び前記移動量である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクラッチの摩耗自動調整機構の作動不良検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate