説明

クラッチレリーズ軸受装置

【課題】回転部材と内輪又は外輪の接触部との間の異音の発生を防止することができるクラッチレリーズ軸受装置を提供する。
【解決手段】クラッチレリーズ軸受20の内輪21がクラッチ装置の回転部材と接触する接触部27を有し、接触部27は、円弧形状に形成され、回転部材との接触面27aを有し、接触面27aの曲率半径Rが1.6mm〜2.7mmに設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などに用いられるクラッチレリーズ軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載される摩擦板を用いたクラッチ装置は、入力部材であるシフトフォークでクラッチカバーのダイヤフラムスプリングを軸方向に押圧することによって動力伝達の接離が行なわれる。そして、車体等の固定側に配置されるシフトフォークと、エンジンのフライホイール等に取り付けられて回転するダイヤフラムスプリングとの間には、両者間の相対回転を許容するクラッチレリーズ軸受が設けられる。
【0003】
従来のクラッチレリーズ軸受装置としては、内輪に形成された接触部が回転部材であるダイヤフラムスプリングと接触して回転し、外輪が固定側とされたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、これとは逆に、外輪に形成された接触部が回転部材であるダイヤフラムスプリングと接触して回転し、内輪が固定側とされたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
このようなダイヤフラムスプリングと接触する内輪又は外輪の接触部は、ダイヤフラムスプリングと滑らかな接触を可能とするため、円弧形状に形成されるのが一般的である。また、従来では、製造が容易なことから接触部の円弧の曲率半径は大きくなっている。特に、金属板をプレス加工することによって製作される場合は、この曲率半径が大きくなる傾向が強い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−280367号公報
【特許文献2】特開2005−195132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、接触部の円弧の曲率半径が大きいと、ダイヤフラムスプリングとの接触面積が大きくなるので、半クラッチ程度の軽い接触をさせた場合、すべりによる異音が発生する可能性があり、運転者に不快感や不安感を与える可能性があった。また、クラッチレリーズ軸受装置の使用に伴い接触部が摩耗して接触面積が増大すると、異音が発生する可能性があった。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転部材と内輪又は外輪の接触部との間の異音の発生を防止することができるクラッチレリーズ軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内輪、外輪、及び内輪と外輪間に転動自在に配設される複数の転動体を備え、内輪又は外輪がクラッチ装置の回転部材と接触する接触部を有するクラッチレリーズ軸受を備えるクラッチレリーズ軸受装置であって、接触部は、円弧形状に形成され、回転部材との接触面を有し、接触面の曲率半径が1.6mm〜2.7mmに設定されることを特徴とするクラッチレリーズ軸受装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクラッチレリーズ軸受装置によれば、内輪又は外輪の接触部の接触面の曲率半径が1.6mm〜2.7mmに設定されるため、内輪又は外輪の接触部の接触面積を小さくすることができ、回転部材と接触部が軽く接触した状態であったとしても、すべりによる異音の発生を防止することができる。また、使用に伴い接触面が摩耗したとしても、接触面積を小さく維持することができるので、異音の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るクラッチレリーズ軸受装置の一実施形態を説明するための断面図である。
【図2】図1に示すクラッチレリーズ軸受の要部拡大断面図である。
【図3】図2に示すクラッチレリーズ軸受の接触面が摩耗した状態の要部拡大断面図である。
【図4】図1に示す連結部材を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るクラッチレリーズ軸受装置の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図1の下方は連結部材を通る位置で切断されており、上方は連結部材以外を通る位置で切断されている。
【0012】
本実施形態のクラッチレリーズ軸受装置10は、図1に示すように、クラッチレリーズ軸受20と、軸受保持部材30と、軸受保持部材30に対してクラッチレリーズ軸受20を径方向移動可能に保持する一対の連結部材40と、を備える。
【0013】
クラッチレリーズ軸受20は、図2に示すように、左端部に不図示のダイヤフラムスプリング(回転部材)との接触部27を有する内輪21と、外輪22と、内輪21と外輪22との間に転動可能に配置される複数の玉(転動体)23と、玉23を転動可能に所定間隔で保持する保持器24と、玉23の軸方向両側で内輪21と外輪22とにより画成される軸受空間を密封するシール25,26と、を備える。
【0014】
接触部27は、内輪21の本体部21aから軸方向外側(図2の左側)に延設された後、径方向外側に反り上がって円弧形状に形成されており、接触部27の軸方向外側面には、不図示のダイヤフラムスプリングと接触する接触面27aが形成される。そして、本実施形態では、接触部27の接触面27aの円弧面の曲率半径Rは1.6mm〜2.7mmに設定される。これにより、接触部27の接触面27aの頂点と不図示のダイヤフラムスプリングが点接触するので、接触部27の接触面積が小さくなる。
【0015】
また、本実施形態では、図3に示すように、クラッチレリーズ軸受装置10の使用に伴い内輪21の接触部27の接触面27aが摩耗すると、接触面27aの一部に線接触面27bが形成されるが、初期状態の接触面27aの曲率半径Rが1.6mm〜2.7mmに設定されているので、良好な製作精度と、摩耗後においても接触面積が比較的小さく維持され、すべりによる異音の発生が防止される。
【0016】
軸受保持部材30は、合成樹脂製であって、円筒部31と、円筒部31の略中央部から径方向外方に延設されるフランジ部32と、フランジ部32の外端部から軸方向に延設される外壁部33と、フランジ部32から径方向外方に突設される突起部34と、を有する。
【0017】
外壁部33は、クラッチレリーズ軸受20の外方に設けられており、一対の連結部材40によって保持されるクラッチレリーズ軸受20の径方向移動を制限する。また、クラッチレリーズ軸受20を径方向移動可能とするため、外輪22の外周と外壁部33の内周との間には隙間C1が設けられ、内輪21の内周と円筒部31の外周との間には隙間C2が設けられる。これにより、クラッチレリーズ軸受20は、隙間C1及び隙間C2分だけ径方向移動可能となる。
【0018】
一対の連結部材40は、互いに180°異なる位相で配置されており、図4に示すように、軸受保持部材30のフランジ部32に当接するベース部41と、クラッチレリーズ軸受20の外輪22に当接するばね部42と、ベース部41とばね部42との間を軸方向に連結する梁部43と、梁部43の軸受保持部材30の突起部34と対応する位置に形成され、突起部34が嵌合される凹部44と、を有する。また、連結部材40は、例えば、ばね鋼板をプレスで打ち抜いた後、折り曲げ、焼入処理することによって形成される。
【0019】
一対の連結部材40は、ベース部41とばね部42との間に、軸受保持部材30のフランジ部32及びクラッチレリーズ軸受20の外輪22を狭持しており、クラッチレリーズ軸受20が、一対の連結部材40の付勢力によって軸受保持部材30に保持される。即ち、一対の連結部材40は、軸受保持部材30に対して、クラッチレリーズ軸受20をばね部42と外輪22との間の摩擦力のみで保持している。
【0020】
従って、クラッチが作動して、内輪21の接触部27が不図示のダイヤフラムスプリングに当接したとき、両者が偏心していると、クラッチレリーズ軸受20に調心力が生じて、クラッチレリーズ軸受20が径方向に移動して自動調心される。
【0021】
以上説明したように、本実施形態のクラッチレリーズ軸受装置10によれば、内輪21の接触部27の接触面27aの曲率半径Rが1.6mm〜2.7mmに設定されるため、
内輪21の接触部27の接触面積を小さくすることができ、不図示のダイヤフラムスプリングと接触部27が軽く接触した状態であったとしても、すべりによる異音の発生を防止することができる。また、使用に伴い接触面27aが摩耗したとしても、接触面積を小さく維持することができるので、異音の発生を防止することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明のクラッチレリーズ軸受装置10(本発明例)の作用効果を確認するために行った回転接触試験について説明する。
【0023】
本試験の本発明例及び比較例1〜3には、図1に示すクラッチレリーズ軸受装置10と同一構成のクラッチレリーズ軸受装置を使用し、それぞれの仕様は次の通りである。
[本発明例]
接触部の接触面の曲率半径R:1.6mm〜2.7mm
[比較例1]
接触部の接触面の曲率半径R:1.6mmより小さい
[比較例2]
接触部の接触面の曲率半径R:2.8mm〜3.3mm
[比較例3]
接触部の接触面の曲率半径R:3.3mmより大きい
【0024】
本試験では、本発明例及び比較例1〜3を用意し、それぞれを回転させると共に、その接触部をダイヤフラムスプリングに接触させて、異音の発生の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から明らかなように、比較例2、3では異音が発生したものの、本発明例及び比較例1では異音は発生しなかった。また、異音は発生しなかったが、比較例1のように接触面の曲率半径Rを1.6mmより小さくすることは製作精度の観点から製造コストが増加する可能性がある。これらのことから、本発明例では、製造コストの増加を招くことなく異音の発生を防止することができるとわかった。
【0027】
なお、本発明は、上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、内輪に接触部が設けられるクラッチレリーズ軸受装置に本発明を適用した場合を例示したが、これに限定されず、外輪に接触部が設けられるクラッチレリーズ軸受装置に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0028】
10 クラッチレリーズ軸受装置
20 クラッチレリーズ軸受
21 内輪
22 外輪
27 接触部
27a 接触面
30 軸受保持部材
40 連結部材
R 接触面の曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪、及び前記内輪と前記外輪間に転動自在に配設される複数の転動体を備え、
前記内輪又は前記外輪がクラッチ装置の回転部材と接触する接触部を有するクラッチレリーズ軸受を備えるクラッチレリーズ軸受装置であって、
前記接触部は、円弧形状に形成され、前記回転部材との接触面を有し、
前記接触面の曲率半径が1.6mm〜2.7mmに設定されることを特徴とするクラッチレリーズ軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−156446(P2010−156446A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−302(P2009−302)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】