説明

クラッチ制御装置

【課題】加速要求によってエンジンを始動する際における応答性を確保できるクラッチ制御装置を提供すること。
【解決手段】クラッチ制御装置2に、車両1のエンジン10と駆動輪44と間の回転トルクの伝達を遮断することができるクラッチC1と、停止中のエンジン10に回転トルクを伝達することによりエンジン10の始動が可能なスタータ12と、車両1の走行中にエンジン10を停止させるエンジン停止制御時にドライバの要求によりスタータ12によってエンジン10を始動する際にエンジン10の始動に失敗したか否かを判定する走行状態判定部78と、クラッチC1の係合制御が可能に設けられていると共に、走行状態判定部78でエンジン10の始動に失敗したと判定した場合には、エンジン10の始動前にクラッチC1を係合させる走行制御部74と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力源で発生した動力によって走行する車両では、動力源としてエンジンが用いられる場合が多いが、エンジンは、運転が停止している状態から回転数を上昇させて動力を発生させることはできず、運転を継続することができる最低回転数以上で運転する必要がある。一方、車両の走行時には車速が0になり、駆動輪の回転が停止する場合がある。このため、車両には、エンジンから駆動輪までの間の動力伝達経路に、係合状態を切り替えることにより動力の伝達や遮断を切り換えるクラッチが設けられており、車両の走行時には、このクラッチの係合状態を切り替えながら走行する。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された制動力回生装置では、エンジンと変速機との間に配設されるトルクコンバータにクラッチの一例であるロックアップ機構が備えられており、車両の走行状態に応じてロックアップ機構の係合と開放とを切り替えている。また、この特許文献1に記載された制動力回生装置では、エンジンに備えられる補機に対してトルクコンバータの両側から動力を伝達することが可能になっており、つまり、補機に対してエンジン側の動力と車輪側の動力とを伝達可能になっている。
【0004】
さらに、制動力回生装置には、補機に伝達するエンジン側の動力と車輪側の動力とのそれぞれの回転数のうち、より高い回転数側の動力を補機に伝達する回転数選択手段が設けられている。このため、ロックアップ機構を開放状態にした場合には、補機にはエンジン側の動力と車輪側の動力とのうち、いずれかの動力が伝達され、伝達された動力によって作動する。これにより、車輪の回転速度が低回転の場合でも、補機をより適切に作動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−207243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年では、燃料消費量の低減等を目的として、車両の走行中にエンジンを停止する技術が開発されている。このような車両では、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられるクラッチは、エンジンの停止時には開放させる。また、停止しているエンジンを始動する場合には、エンジンに備えられるスタータによって始動し、クラッチを係合することにより、エンジンで発生する動力を駆動輪側に伝達する。
【0007】
しかし、ドライバの加速要求によるエンジンの始動時には、エンジンの失火やスタータの噛み合い失敗等が発生することにより、エンジンの始動に失敗することが考えられる。このように、エンジンの始動に失敗した場合、エンジンの再始動を試みていると加速応答が遅くなり、ドライバの加速要求に応えられない場合がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、加速要求によってエンジンを始動する際における応答性を確保できるクラッチ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明に係るクラッチ制御装置は、車両のエンジンと駆動輪と間の回転トルクの伝達を遮断することができるクラッチと、停止中の前記エンジンに回転トルクを伝達することにより前記エンジンの始動が可能なスタータと、前記車両の走行中に前記エンジンを停止させるエンジン停止制御時にドライバの要求により前記スタータによって前記エンジンを始動する際に前記エンジンの始動に失敗したか否かを判定する始動失敗判定手段と、前記クラッチの係合制御が可能に設けられていると共に、前記始動失敗判定手段で前記エンジンの始動に失敗したと判定した場合には、前記エンジンの始動前に前記クラッチを係合させる係合制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、上記クラッチ制御装置において、前記始動失敗判定手段は、前記エンジンの始動に失敗したか否かを前記スタータの作動指令に対するエンジン回転数に基づいて判定することが好ましい。
【0011】
また、上記クラッチ制御装置において、前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前記回転トルクの入力側と出力側とで一対のシーブを有すると共に前記シーブには前記シーブ間で前記回転トルクを伝達するベルトが巻き掛けられており、且つ、前記シーブでの前記ベルトの挟圧力を調節することにより前記ベルトの回転半径を調節して前記シーブ間の変速比を無段階で調節可能な無段変速機が設けられており、前記シーブは、電気で作動する電動ポンプで発生する油圧と、前記エンジンの作動に伴って作動する機械式ポンプで発生する油圧と、により前記挟圧力を発生可能になっており、前記クラッチは、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記無段変速機との間に配設されており、前記エンジンの始動に失敗したと前記始動失敗判定手段で判定した場合には、前記係合制御手段は、前記電動ポンプで発生する油圧と前記機械式ポンプで発生する油圧とに応じて変化する前記シーブでの前記ベルトの前記挟圧力に基づいて前記クラッチの係合力を調節することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るクラッチ制御装置は、エンジン停止制御時にドライバの要求によってエンジンを始動する際に、エンジンの始動に失敗したと始動失敗判定手段で判定した場合には、エンジンの始動前にクラッチを係合させるので、車両の慣性エネルギでエンジンを始動することができ、加速要求によってエンジンを始動する際における応答性を確保することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施形態に係るクラッチ制御装置を備える車両の概略図である。
【図2】図2は、クラッチ制御装置の処理手順の概略を示すフロー図である。
【図3】図3は、エンジンの始動失敗時に無段変速機の動作を考慮してエンジンを始動する際における処理手順の概略を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るクラッチ制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
〔実施形態〕
図1は、実施形態に係るクラッチ制御装置を備える車両の概略図である。本実施形態に係るクラッチ制御装置2は、車両1に搭載されている。この車両1は、走行時における動力源として内燃機関であるエンジン10が設けられており、このエンジン10と車両1の駆動輪44との間には、双方の間で回転トルクを伝達することにより、エンジン10で発生した動力を駆動輪44に伝達する動力伝達経路が設けられている。
【0016】
動力伝達経路を構成する装置類について説明すると、エンジン10は、トルクの増幅手段及びトルクの断続手段としての機能を兼ねるトルクコンバータ16に接続されている。このトルクコンバータ16は、トルクコンバータ16から伝達された回転トルクの回転方向を任意の方向に切り替えて他の装置に伝達することのできる前後進切替機構20に接続されている。さらに、前後進切替機構20は、当該前後進切替機構20とで自動変速機を構成する無段変速機30に接続されている。この無段変速機30は、前後進切替機構20から伝達される回転トルクの入力回転数と出力回転数との変速比を無段階に変速可能な変速装置であるCVT(Continuously Variable Transmission)として設けられており、トルクの伝達にベルトを用いるベルト式無段変速機になっている。このように設けられる無段変速機30は、変速比を変更することにより、エンジン10側から入力された回転トルクの回転速度を変速して車両1の駆動輪44側に出力可能に設けられている。
【0017】
詳しくは、無段変速機30は、回転トルクの入力側と出力側とで一対のシーブを有しており、即ち、前後進切替機構20から伝達される回転トルクによって回転するプライマリシーブ32と、プライマリシーブ32から伝達される回転トルクによって回転するセカンダリシーブ34と、を有している。これらのプライマリシーブ32とセカンダリシーブ34とには、共にベルト36が巻き掛けられており、プライマリシーブ32の回転トルクは、このベルト36を介してセカンダリシーブ34に伝達される。また、これらのプライマリシーブ32とセカンダリシーブ34とは、共にベルト36の幅方向における挟圧力を調節可能になっており、この挟圧力を調節することにより、巻き掛けられるベルト36の回転半径を調節することができる。無段変速機30は、このように、プライマリシーブ32とセカンダリシーブ34との間でベルト36を介して回転トルクを伝達する際におけるベルト36の回転半径を、プライマリシーブ32とセカンダリシーブ34との双方で調節することにより、シーブ間の変速比の変更が可能になっている。
【0018】
このように設けられる無段変速機30は、さらに減速装置40に接続されており、セカンダリシーブ34の回転トルクを減速装置40に伝達可能になっている。この減速装置40は、無段変速機30から伝達される回転トルクを減速して差動装置42に伝達可能になっており、差動装置42は、減速装置40から伝達された回転トルクを左右の駆動輪44に伝達可能になっている。これらのように、エンジン10と駆動輪44との間には、複数の装置等によって動力伝達経路が構成されている。
【0019】
動力伝達経路を構成する各装置のうち、前後進切替機構20や無段変速機30は、油圧によって作動させることが可能になっている。このため、これらの装置には、バルブ類等を有することにより、それぞれの装置に付与する油圧を調節することができる油圧回路50が接続されており、油圧回路50には、吸引したオイルを吐出することにより油圧を発生させるポンプが接続されている。このうち、ポンプは、電気によって作動するモータ54で発生する動力を用いて油圧を発生する電動ポンプ52と、エンジン10の作動に伴って作動し、油圧を発生する機械式ポンプであるメカポンプ56と、が設けられている。これらの油圧回路50や、電動ポンプ52、メカポンプ56、さらに、前後進切替機構20等の油圧によって作動する各装置は、油圧経路58によって接続されている。
【0020】
また、油圧で作動する装置のうち、動力伝達経路におけるエンジン10と無段変速機30との間に配設される前後進切替機構20は、例えば、摩擦係合を行うことにより、トルクコンバータ16と無段変速機30との間の回転トルクの伝達や遮断を切り替えることができるクラッチC1の係合を、油圧によって行うことができるように設けられている。このため、前後進切替機構20は、クラッチC1の係合状態を、油圧を調節することにより切替え可能になっている。また、無段変速機30は、プライマリシーブ32やセカンダリシーブ34の挟圧力は、電動ポンプ52で発生する油圧とメカポンプ56で発生する油圧とによって発生可能になっており、この挟圧力は、付与する油圧を調節することにより、調節することができる。つまり、無段変速機30は、油圧を調節することにより、変速比の調節が可能になっている。
【0021】
また、エンジン10には、エンジン10が停止している場合に、エンジン10のクランクシャフト(図示省略)に回転トルクを入力することによりエンジン10を始動することができるスタータ12が備えられている。このスタータ12は、車両1に装備される各電気機器の電源として用いられるバッテリ(図示省略)から供給される電気によって作動するモータ、及びモータで発生した動力をエンジン10に伝達する伝達機構によって設けられている。このように設けられるスタータ12は、バッテリからの電気によってモータが作動し、このモータで発生した動力を、停止している状態のエンジン10のクランクシャフトに対して伝達機構から伝達してクランクシャフトを回転させることにより、エンジン10を始動する。即ち、スタータ12は、停止中のエンジン10に回転トルクを伝達することによりエンジン10の始動が可能に設けられている。
【0022】
また、エンジン10には、エンジン回転数を検出する回転数検出手段であるエンジン回転数センサ14が設けられており、エンジン10の運転時における回転数の検出を行うことが可能になっている。
【0023】
これらのように設けられるエンジン10等の機関や装置、センサ類は、車両1に搭載されると共に車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)70に接続されている。また、ECU70には、車両1のドライバの運転操作の状態を検出するセンサ類も接続されており、例えば、ドライバが駆動力を調節する際に操作をするアクセルペダル60の開度を検出するアクセルセンサ62が接続されている。
【0024】
このように各装置やセンサ類が接続されるECU70は、これらの装置等との間で情報や信号のやり取りが可能になっており、これにより、車両1の各部は、センサ類での検出結果に基づいて、ECU70により制御されて作動する。例えば、エンジン10は、吸入空気量やインジェクタ(図示省略)による燃料噴射量、点火時期が、アクセルセンサ62で検出するアクセルペダル60の開度や、エンジン回転数センサ14で検出するエンジン回転数、エンジン冷却水温度等に応じて制御されることにより作動する。
【0025】
このように各部を制御可能なECU70のハード構成は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部や、RAM(Random Access Memory)等の記憶部等を備えた公知の構成であるため、説明は省略する。
【0026】
また、このように設けられるECU70の処理部は、車両1の走行状態や運転者の運転操作の状態を取得する走行状態取得部72と、車両1の走行制御を行う走行制御部74と、車両1の走行中にエンジン10を停止させる制御であるエンジン停止制御を行うエンジン停止制御部76と、車両1の走行状態や運転者の運転操作の状態に基づく各種の判定を行う走行状態判定部78と、を有している。
【0027】
この実施形態に係るクラッチ制御装置2は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1の走行時には、ドライバが操作をするアクセルペダル60の操作量であるアクセル開度をアクセルセンサ62で検出し、この検出結果を、ECU70が有する走行状態取得部72で取得する。走行状態取得部72で取得したアクセル開度は、ECU70が有する走行制御部74に伝達される。走行制御部74は、走行状態取得部72で取得した運転操作の状態等に基づいて、車両1の走行制御を行う。車両1の走行制御を行う場合には、走行状態取得部72から伝達された走行状態等に応じて、エンジン10で発生する動力や、無段変速機30の変速比を調節する。
【0028】
例えば、エンジン10の動力を調節する場合には、エンジン10が有するスロットルバルブ(図示省略)の開度を調節したり、燃料インジェクタ(図示省略)から噴射する燃料の噴射量を調節したりすることにより、所望の動力をエンジン10に発生させる。また、無段変速機30の変速比を調節する場合には、油圧回路50を制御してプライマリシーブ32やセカンダリシーブ34に付与する油圧を調節し、それぞれのシーブによるベルト36に対する挟圧力を調節することにより、ベルト36の回転半径を調節し、変速比を調節する。このようにドライバによる運転操作の状態等に基づいて、走行制御部74でエンジン10等を制御することにより、エンジン10で発生した動力は無段変速機30等の動力伝達経路を介して駆動輪44に伝達され、駆動輪44で所望の駆動力を発生する。
【0029】
また、車両1は、ドライバが車両1を加速させる意思がないと判断できる場合には、エンジン10の運転を停止させて慣性エネルギを用いて惰性で車両1を走行させる制御であるエンジン停止制御を行う。このエンジン停止制御では、エンジン10の運転を停止するのみでなく、エンジン10と駆動輪44との間の動力伝達経路における回転トルクの伝達も遮断する。このように、エンジン10を停止すると共に、エンジン10と駆動輪44との間の回転トルクの伝達も遮断するエンジン停止制御は、走行状態取得部72で取得するドライバの運転操作をECU70が有するエンジン停止制御部76で判定し、ドライバは車両1を加速させる意思がないと判断することができる場合に行う。
【0030】
具体的には、アクセルセンサ62で検出するアクセル開度が0で、且つ、自動変速機の作動状態を選択することにより走行レンジを切り替えることができるセレクトレバー(図示省略)が、エンジン10で発生した動力を駆動輪44の伝達しないレンジであるN(ニュートラル)レンジに操作された場合には、ドライバは車両1を加速させる意思がないと判断することができる。このように、アクセル開度が全閉の状態で、且つ、セレクトレバーがNレンジに操作されている場合には、エンジン停止制御部76はエンジン停止制御を行うと判定する。
【0031】
所定の条件を満たすことによりエンジン停止制御を行うとエンジン停止制御部76で判定した場合には、走行制御部74は、燃料噴射制御や点火制御を停止することにより、エンジン10の運転を停止させる。さらに、走行制御部74は、油圧回路50を制御することにより、前後進切替機構20に設けられるクラッチC1を開放状態にし、これらの制御を行うことによって、惰性走行の制御を行う。
【0032】
エンジン停止制御時は、このように前後進切替機構20に設けられるクラッチC1を開放状態にすることにより、トルクコンバータ16と無段変速機30との間の回転トルクの伝達が遮断される。これにより、駆動輪44とエンジン10とは、回転トルクの伝達が遮断された状態になり、動力を発生しないエンジン10を回転させることによる抵抗が発生しないため、車両1は、走行抵抗が低減した状態で、エンジン停止制御を開始した際における車速に基づく運動エネルギによる惰性走行を続ける。
【0033】
このように、エンジン停止制御によってエンジン10を停止し、惰性走行で車両1を走行させている状態で、ドライバが車両1を加速させる意思があると判断できる場合には、エンジン10を始動し、エンジン10で発生する動力によって駆動力を発生させる。
【0034】
具体的には、自動変速機の走行レンジを切り替えるセレクトレバーが、D(ドライブ)レンジ等、エンジン10で発生した動力を用いて駆動輪44で駆動力を発生させることのできるレンジに操作され、アクセルペダル60が踏み込まれたことをアクセルセンサ62で検出した場合には、ドライバは車両1を加速させる意思があると判断することができる。このように、セレクトレバーが、車両1を走行させる走行レンジに操作され、且つ、アクセル開度が全閉以外の場合には、エンジン停止制御部76はエンジン停止制御を終了してエンジン10を始動するとの判定を行う。
【0035】
所定の条件を満たすことにより、エンジン10を始動するとの判定をエンジン停止制御部76で行った場合には、走行制御部74は、エンジン10の燃料噴射制御や点火制御と共に、スタータ12を作動させる。これらのように、エンジン10の各部を制御することによりエンジン10を始動させたら、前後進切替機構20のクラッチC1を係合させ、トルクコンバータ16と無段変速機30との間で回転トルクを伝達可能な状態にする。これにより、エンジン10で発生した動力は無段変速機30等を介して駆動輪44に伝達され、駆動輪44で駆動力を発生することにより、車両1はドライバの運転操作に応じて加速をする。
【0036】
エンジン停止制御時に、ドライバが加速要求を行った場合には、このようにエンジン10を始動することにより、ドライバの要求に応じた加速を行うように各部を制御するが、停止しているエンジン10を始動する場合、場合によっては始動を失敗する場合がある。例えば、エンジン10の始動時にスタータ12の動力をエンジン10に伝達する際には、スタータ12の伝達機構を作動させ、この伝達機構が有する歯車(図示省略)と、クランクシャフトと一体となって回転をする歯車(図示省略)とを噛み合わせることによりクランクシャフトに対して動力を伝達するが、この歯車同士の噛み合わせに失敗した場合には、エンジン10の始動を失敗することになる。また、エンジン10の運転時には、点火プラグ(図示省略)で火花を発生させることにより、燃料と空気との混合気を着火させるが、エンジン10の始動時における点火プラグでの着火時に失火した場合も、エンジン10の始動を失敗することになる。
【0037】
次に、これらのようにエンジン10の始動に失敗した場合の制御について説明すると、エンジン10の始動時には、ECU70が有する走行状態判定部78でエンジン10の始動状態を判定し、エンジン10の始動に失敗したと判定された場合には、前後進切替機構20のクラッチC1を係合させる。つまり、エンジン停止制御時には、前後進切替機構20のクラッチC1は開放させているが、ドライバの加速要求に基づいてエンジン10を始動させる際に、始動に失敗したと判定された場合には、エンジン10の始動を待つことなくクラッチC1を係合させる。
【0038】
この場合、車両1は慣性走行中であるため、慣性エネルギは駆動輪44から車両1の動力伝達経路に対して入力されるが、前後進切替機構20のクラッチC1を係合することにより、この慣性エネルギは回転トルクとなって無段変速機30側からトルクコンバータ16側に伝達される。さらに、この回転トルクはトルクコンバータ16からエンジン10に伝達されるため、エンジン10のクランクシャフトは、この回転トルクによって回転する。その際に、燃料噴射制御や点火制御を継続的に行うことにより、エンジン10は自律運転が可能な状態になる。
【0039】
換言すると、エンジン10が停止している状態での慣性走行時に前後進切替機構20のクラッチC1を係合した場合、慣性エネルギによる回転トルクがエンジン10に伝達され、エンジン10は押し掛けによって始動することになる。ドライバの加速要求時にエンジン10の始動に失敗した場合には、このように前後進切替機構20のクラッチC1を係合し、押し掛けによってエンジン10を始動することにより、ドライバの要求に応じた駆動力を発生可能な動力をエンジン10で発生させる。
【0040】
図2は、クラッチ制御装置の処理手順の概略を示すフロー図である。次に、本実施形態に係るクラッチ制御装置2の制御方法、即ち、当該クラッチ制御装置2の処理手順の概略について説明する。本実施形態に係るクラッチ制御装置2では、まず、エンジン停止制御を実施中であるか否かを判定する(ステップST101)。この判定は、ECU70が有する走行状態判定部78で行う。走行状態判定部78は、所定に条件が満たされた場合にエンジン停止制御を行うエンジン停止制御部76が、エンジン停止制御を実施しているか否かを、エンジン停止制御部76の状態に基づいて行う。なお、このエンジン停止制御を実施中であるか否かの判定は、直接エンジン停止制御部76での制御状態に基づいて行う方法以外の方法によって行ってもよく、例えば、エンジン停止制御の実施状態を示すフラグを設定し、このフラグの状態に基づいて判定してもよい。この走行状態判定部78での判定により、エンジン停止制御は実施中ではないと判定された場合(ステップST101、No判定)には、この処理手順から抜け出る。
【0041】
これに対し、エンジン停止制御は実施中であると走行状態判定部78で判定した場合(ステップST101、Yes判定)には、次に、エンジン10の始動要求があるか否かを判定する(ステップST102)。この判定は、ECU70の走行状態判定部78で行う。走行状態判定部78は、アクセルセンサ62で検出し、走行状態取得部72で取得したアクセル開度に基づいて、エンジン10の始動要求があるか否かを判定する。つまり、アクセル開度に基づいて、ドライバがアクセルペダル60を踏み込んでいることを検出した場合には、ドライバは加速要求を行っていると判断し、エンジン10の始動要求があると判定する。
【0042】
この判定により、エンジン10の始動要求はないと判定された場合(ステップST102、No判定)には、エンジン10の始動要求が行われるまで、エンジン10を停止した状態でこの判定を繰り返す。
【0043】
これに対し、エンジン10の始動要求があると判定された場合(ステップST102、Yes判定)には、エンジン10の始動制御を行う(ステップST103)。つまり、ECU70の走行制御部74でエンジン10を制御し、燃料噴射制御や点火制御を行いつつ、スタータ12を作動させる。
【0044】
次に、エンジン10の始動は失敗したか否かを判定する(ステップST104)。この判定は、エンジン10の運転状態を検出するセンサ類での検出結果に基づいて、走行状態判定部78で判定する。走行状態判定部78は、このようにエンジン停止制御時にドライバの要求によりスタータ12によってエンジン10を始動する際に、エンジン10の始動に失敗したか否かを判定する始動失敗判定手段としても設けられている。走行状態判定部78は、例えば、スタータ12の作動指令に対するエンジン回転数に基づいて、この判定を行う。つまり、エンジン10の始動制御時に走行制御部74でスタータ12の作動指令を行った後の、エンジン回転数センサ14で検出するクランクシャフトの回転速度の立ち上がりが所定の変化量よりも小さい場合には、エンジン10の始動は失敗したと判定する。
【0045】
なお、このエンジン10の始動は失敗したか否かの判定は、これ以外の手法によって行ってもよい。例えば、エンジン10の筒内圧を検出する筒内圧センサ(図示省略)での検出結果に基づいてエンジン10の失火判定を行い、エンジン10の始動は失敗したか否かを判定してもよい。即ち、エンジン10の始動制御時にエンジン10は失火していると判定された場合には、エンジン10の始動は失敗したと判定してもよい。
【0046】
この判定により、エンジン10の始動は失敗したと判定された場合(ステップST104、Yes判定)には、クラッチC1を係合する(ステップST105)。つまり、エンジン10の始動は失敗したと判定された場合には、エンジン10の始動が成功することを待つことなく、走行制御部74で電動ポンプ52を作動させつつ油圧回路50を制御することにより、前後進切替機構20のクラッチC1を係合させる。このように、走行制御部74は、クラッチC1の係合制御が可能に設けられていると共に、走行状態判定部78でエンジン10の始動に失敗したと判定した場合には、エンジン10の始動前にクラッチC1を係合させる係合制御手段としても設けられている。
【0047】
なお、この場合におけるクラッチC1の係合制御は、駆動輪44側の回転トルクをエンジン10側に伝達することによりエンジン10を始動させる制御モードである、押し掛けモードで係合制御を行う。即ち、押し掛けモードでの係合制御を行う際には、エンジン10は停止している、または、極低回転で回転をしている状態であるため、駆動輪44側の回転トルクが急激にエンジン10に伝達された場合、動力伝達経路や駆動輪44には、エンジン10のイナーシャトルクに伴うショックが発生する。このため、押し掛けモードでの係合制御時には、このようなショックを低減させるために、回転トルクが徐々にエンジン10に伝達され、エンジン回転数が徐々に上昇するように、クラッチC1を徐々に係合させる。
【0048】
次に、エンジン10は自律復帰可能であるか否かを判定する(ステップST106)。この判定は、エンジン回転数センサ14の検出結果より走行状態取得部72で取得するエンジン回転数が、エンジン10が外部からの力の入力を必要とせず自律復帰可能な所定の回転数に到達しているか否かを、走行状態判定部78で判定する。このエンジン10が自律復帰可能であるか否かの判定を行う際に用いる所定の回転数は、予め設定されてECU70の記憶部に記憶されている。走行状態判定部78は、走行状態取得部72で取得したエンジン回転数が、このようにECU70の記憶部に記憶されている所定の回転数以上であるか否かを判定することにより、エンジン10は自律復帰可能であるか否かを判定する。なお、このエンジン10は自律復帰可能であるか否かを判定する際に用いる所定の回転数は、一定の回転数でもよく、または、現在の水温等に基づいて適宜設定してもよい。
【0049】
この判定により、エンジン10は自律復帰可能ではないと判定された場合(ステップST106、No判定)、つまり、走行状態取得部72で取得したエンジン回転数が所定の回転数に到達していないと判定された場合には、クラッチC1の係合制御を継続する(ステップST105)。即ち、押し掛けモードでの係合制御時は、エンジン回転数を徐々に上昇させるため、エンジン回転数が自律復帰可能な所定の回転数以上になるまで、クラッチC1の係合制御を継続する。
【0050】
これに対し、エンジン10の自律復帰が可能であると判定された場合(ステップST106、Yes判定)には、クラッチC1の係合制御を通常制御にする(ステップST107)。つまり、クラッチC1を押し掛けモードで係合制御を行っている場合には、駆動輪44側からエンジン10側に伝達される回転トルクが徐々に増加するようにクラッチC1の係合状態を制御するが、エンジン10の自律復帰が可能であると判定された場合には、エンジン10はドライバの要求する動力を発生可能な状態になる。このため、この場合には、クラッチC1は、通常の車両走行時における係合制御を行う。このように、クラッチC1の係合制御を通常制御にする場合には、電動ポンプ52を停止させ、エンジン10で発生する動力によって作動するメカポンプ56によって、油圧を発生させる。
【0051】
また、エンジン10の始動制御時に(ステップST103)、エンジン10の始動は失敗していないと判定された場合(ステップST104、No判定)にも同様に、エンジン10はドライバの要求する動力を発生可能な状態になるため、クラッチC1は、通常の車両走行時における係合制御を行う(ステップST107)。
【0052】
以上のクラッチ制御装置2は、エンジン停止制御時にドライバの加速要求によってエンジン10を始動する際に、エンジン10の始動に失敗したと走行状態判定部78で判定した場合には、走行制御部74で直ぐに前後進切替機構20のクラッチC1を係合させている。これにより、エンジン停止制御時におけるドライバの加速要求によってエンジン10を始動させる際に、エンジン10の始動に失敗した場合でも、車両1の慣性エネルギでエンジン10を始動することができ、短時間でドライバの要求に応じた駆動力を発生させることできる。この結果、加速要求によってエンジン10を始動する際における応答性を確保することができる。
【0053】
また、走行状態判定部78は、エンジン10の始動に失敗したか否かを判定する場合には、スタータ12の作動指令に対するエンジン回転数に基づいて判定するため、エンジン10を始動させる制御を行った後に始動に失敗したか否かを、より確実に判定することができる。これにより、エンジン停止制御時にドライバの加速要求によってエンジン10を始動させる際におけるクラッチC1の係合制御を、より適切に行うことができる。この結果、加速要求によってエンジン10を始動する際における応答性を、過不足なく確保することができる。
【0054】
また、エンジン10の始動に失敗したと判定された場合には、クラッチC1を徐々に係合させて駆動輪44側の回転トルクを徐々にエンジン10側に伝達するので、車両1の慣性エネルギを用いてエンジン10を押し掛けする際におけるショックを軽減することができる。この結果、加速要求によってエンジン10を始動する際におけるドライブフィーリングの悪化を抑制することができる。
【0055】
また、エンジン10の始動に失敗したと判定された場合に、クラッチC1を係合させることにより、エンジン10が自律復帰可能な状態になったら、電動ポンプ52を停止させるので、電動ポンプ52で使用する電気消費量を低減することができる。つまり、電動ポンプ52は、運動エネルギを一旦電気エネルギに変換した後、再び運動エネルギに変換するため、メカポンプ56と比較した場合、効率は低くなっているが、この電動ポンプ52を停止することにより、効率が悪い電動ポンプ52で使用する電気消費量を低減することができる。この結果、電動ポンプ52を作動させることによる電気消費量の増加に伴う燃費の悪化を抑制することができる。
【0056】
また、エンジン停止制御時に加速要求があった場合には、通常はスタータ12でエンジン10を始動し、エンジン10の始動に失敗した場合にのみ、クラッチC1を係合させることによりエンジン10を始動させている。このように、クラッチC1を係合させることによるエンジン10の始動は、緊急時にのみ行うことにより、押し掛けによってエンジン10を始動することによるショックの発生回数を低減したり、クラッチC1の摩耗を抑制したりすることができる。この結果、ドライブフィーリングの悪化を抑制することができ、また、クラッチC1の耐久性を確保することができる。
【0057】
なお、上述した実施形態に係るクラッチ制御装置2では、エンジン停止制御時にエンジン10を始動する際における始動失敗時には、クラッチC1を係合させることによりエンジン10の押し掛けを行っているが、押し掛けによってエンジン10を始動する場合には、無段変速機30の動作を考慮して制御を行ってもよい。
【0058】
つまり、エンジン10の始動失敗判定時にクラッチC1を係合してエンジン10を押し掛けする場合、エンジン10で発生する動力によって作動するメカポンプ56は、エンジン10の停止に伴って作動が停止した状態になっている。このため、エンジン10の始動失敗判定時にクラッチC1を係合する際における油圧は、電動ポンプ52のみで発生させることになる。しかし、この電動ポンプ52は、電力損失等によりメカポンプ56より効率が悪くなっているため、電動ポンプ52のみで大きな油圧を発生させることは、車両1への搭載サイズより、大変困難なものとなる。
【0059】
一方、エンジン10を始動させるためにクラッチC1を係合させた場合、エンジン10のイナーシャトルクが無段変速機30に入力されるが、電動ポンプ52で発生する油圧のみでは、ベルト36に対するシーブの挟圧力の確保が困難になり、ベルト36の滑りが発生する可能性がある。例えば、無段変速機30に対して駆動輪44側に位置する動力伝達経路の回転部材と共に回転をするセカンダリシーブ34とベルト36との間で、滑りが発生する可能性がある。このため、エンジン10の始動失敗判定時にクラッチC1を係合させる場合には、このような無段変速機30でのベルト36の滑りの抑制を考慮してクラッチC1の係合制御を行ってもよい。
【0060】
具体的には、エンジン10の始動失敗判定時にクラッチC1を係合させる場合には、セカンダリシーブ34で発生させることができる挟圧力によって、ベルト36の滑りを発生させることなく保持が可能なイナーシャトルクを算出し、エンジン10、トルクコンバータ16、プライマリシーブ32の回転数変動である1軸目回転数変動が、このイナーシャトルクの範囲内になるようにクラッチC1のスリップ制御をする。その際に、クラッチC1の係合を開始することによりエンジン回転数が引き上げられた場合には、エンジン10の作動によってメカポンプ56も作動を開始する。このため、セカンダリシーブ34で発生させることができる挟圧力によって保持が可能なイナーシャトルクを算出する場合には、電動ポンプ52で発生する油圧と、エンジン回転数が引き上げられることにより作動するメカポンプ56で発生する油圧とによって発生させることができる挟圧力に基づいて算出する。
【0061】
つまり、エンジン10の始動に失敗したと走行状態判定部78で判定した場合には、走行制御部74は、電動ポンプ52で発生する油圧とメカポンプ56で発生する油圧とに応じて変化するセカンダリシーブ34でのベルト36の挟圧力に基づいてクラッチC1の係合力を調節する。これにより、クラッチC1を係合することによってエンジン10を始動する際に、ベルト36の滑りを発生させることなく、エンジン10を始動することができる。
【0062】
図3は、エンジンの始動失敗時に無段変速機の動作を考慮してエンジンを始動する際における処理手順の概略を示すフロー図である。次に、上述したようにベルト36の滑りが発生しないようにエンジン10を始動させる際における処理手順について説明する。このように、エンジン10の始動失敗時にベルト36の滑りを抑制してエンジン10を始動する制御は、実施形態に係るクラッチ制御装置2で、エンジン10の始動は失敗したとの判定(ステップST104、Yes判定)の後、エンジン10の自律復帰が可能であると判定されるまで(ステップST106、Yes判定)行われる。つまり、エンジン10は自律復帰可能ではないと判定された場合(ステップST106、No判定)には、自律復帰が可能であると判定されるまで本制御が呼び出される。
【0063】
この制御を行う場合には、まず、エンジン停止制御からのエンジン始動復帰失敗判定時の油圧制御モードを開始するか否かを判定する(ステップST201)。この判定は、走行状態判定部78で行う。走行状態判定部78は、走行状態取得部72で取得したエンジン回転数が、メカポンプ56で有効的に油圧を発生させることができる回転数まで引き上げられたか否かに基づいて、油圧制御モードを開始するか否かを判定する。この判定により、エンジン始動復帰失敗判定時の油圧制御モードを開始しないと判定された場合(ステップST201、No判定)は、この処理手順から抜け出る。
【0064】
これに対し、エンジン始動復帰失敗判定時の油圧制御モードを開始すると判定した場合(ステップST201、Yes判定)は、セカンダリシーブ34の挟圧力を取得する(ステップST202)。このセカンダリシーブ34の挟圧力は、油圧をセカンダリシーブ34に付与することによりセカンダリシーブ34で発生することのできる挟圧力を走行状態取得部72で推定し、取得する。その際に、走行状態取得部72は、セカンダリシーブ34に付与する油圧として、電動ポンプ52によって発生する油圧のみでなく、エンジン回転数が引き上げられることにより作動を開始したメカポンプ56によって発生する油圧も含めて挟圧力を推定し、取得する。
【0065】
このようにセカンダリシーブ34で発生することのできる挟圧力は、セカンダリシーブ34に対して付与する油圧と挟圧力との関係が予めマップの状態で設定されてECU70の記憶部に記憶されており、走行状態取得部72は、このマップと油圧とより、挟圧力を推定する。なお、挟圧力の取得時に用いる油圧は、電動ポンプ52やメカポンプ56の作動状態に基づいて推定してもよく、または、油圧を検出する油圧センサ(図示省略)を油圧経路に設け、油圧センサの検出結果より取得してもよい。
【0066】
次に、ベルト36の保持が可能なイナーシャトルクを算出する(ステップST203)。つまり、走行状態取得部72で取得したセカンダリシーブ34の挟圧力によって保持が可能なイナーシャトルクを、取得した挟圧力や、ベルト36とセカンダリシーブ34との摩擦係数に基づいて走行制御部74で算出する。
【0067】
次に、プライマリシーブ32に関わる軸の等価慣性を算出する(ステップST204)。この等価慣性は、セカンダリシーブ34でベルト36の保持が可能なイナーシャトルクに基づいて算出する。つまり、イナーシャトルクは(等価慣性×回転変動)であるため、セカンダリシーブ34でベルト36の保持が可能なイナーシャトルクに基づいて、プライマリシーブ32に関わる等価慣性(エンジン10、トルクコンバータ16、クラッチC1等)を走行制御部74で算出する。この場合、トルクコンバータ16は、ロックアップ状態であるものとして等価慣性を算出する。
【0068】
次に、変動許可1軸目回転数変化を算出する(ステップST205)。つまり、エンジン10、トルクコンバータ16、プライマリシーブ32の回転数である1軸目回転数の変動を許容することのできる回転数変化である1軸目回転数変化を、セカンダリシーブ34でベルト36の保持が可能なイナーシャトルクと、プライマリシーブ32に関わる軸の等価慣性とに基づいて走行制御部74で算出する。これにより、1軸目のイナーシャトルクが、セカンダリシーブ34でベルト36の保持が可能なイナーシャトルクの範囲内になる回転数変化の許容値を算出する。
【0069】
次に、クラッチC1の係合圧を算出する(ステップST206)。即ち、1軸目の回転数変化が、走行制御部74で算出した回転数変化の許容値に収まるようにすることができるクラッチC1の係合圧を算出する。なお、このクラッチC1の係合圧を算出する場合には、油温や制御開始時点のエンジン回転数を考慮して算出する。このようにクラッチC1の係合圧を算出したら、クラッチC1の係合圧が算出した係合圧になるように油圧回路50を制御する。
【0070】
これらのように、エンジン停止制御時にエンジン10を始動する際に、始動に失敗したと判定され、クラッチC1を係合させる場合には、セカンダリシーブ34でのベルト36の挟圧力に基づいて係合力を調節することにより、押し掛けによるエンジン10の始動時のベルト36の滑りを抑制することができる。これにより、駆動輪44側からの回転トルクをエンジン10に伝達させる際に、効率よく伝達させることができる。この結果、エンジン10を早期に始動させることができる。
【0071】
また、電動ポンプ52によって発生させることのできる油圧のみでなく、エンジン回転数が引き上げられることにより回転が上昇中のメカポンプ56で発生させることのできる油圧も合わせて、ベルト36の挟圧力を算出することにより、精度よく挟圧力を算出することができる。この結果、クラッチC1の係合圧を、より適切に制御することができ、より早期にエンジン10を始動させることができる。
【0072】
また、上述した実施形態に係るクラッチ制御装置2では、エンジン停止制御時にドライバの加速要求等によってエンジン10を始動する際に、始動に失敗したと判定された場合に係合するクラッチは、前後進切替機構20のクラッチC1であるが、エンジン10の始動に失敗した場合に係合するクラッチは、クラッチC1以外のものでもよい。エンジン10の始動に失敗したと判定された場合に係合するクラッチは、エンジン停止制御時には開放状態にすることによりエンジン10側と駆動輪44側との間の回転トルクを遮断し、係合時には駆動輪44側の回転トルクをエンジン10側に伝達することのできるクラッチであれば、前後進切替機構20のクラッチC1以外のものでもよい。
【0073】
また、上述したクラッチ制御装置2では、変速装置の一例としてベルト式の無段変速機30が用いられている場合について説明しているが、変速装置はベルト式の無段変速機30以外のものを用いてもよい。変速装置は、エンジン10が停止している場合でも、駆動輪44側の回転トルクをエンジン10側に伝達することができる変速装置であれば、その形態はベルト式の無段変速機30にとらわれない。
【符号の説明】
【0074】
1 車両
2 クラッチ制御装置
10 エンジン
12 スタータ
14 エンジン回転数センサ
16 トルクコンバータ
20 前後進切替機構
30 無段変速機
32 プライマリシーブ
34 セカンダリシーブ
36 ベルト
44 駆動輪
50 油圧回路
52 電動ポンプ
56 メカポンプ
58 油圧経路
60 アクセルペダル
70 ECU
72 走行状態取得部
74 走行制御部
76 エンジン停止制御部
78 走行状態判定部
C1 クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンと駆動輪と間の回転トルクの伝達を遮断することができるクラッチと、
停止中の前記エンジンに回転トルクを伝達することにより前記エンジンの始動が可能なスタータと、
前記車両の走行中に前記エンジンを停止させるエンジン停止制御時にドライバの要求により前記スタータによって前記エンジンを始動する際に前記エンジンの始動に失敗したか否かを判定する始動失敗判定手段と、
前記クラッチの係合制御が可能に設けられていると共に、前記始動失敗判定手段で前記エンジンの始動に失敗したと判定した場合には、前記エンジンの始動前に前記クラッチを係合させる係合制御手段と、
を備えることを特徴とするクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記始動失敗判定手段は、前記エンジンの始動に失敗したか否かを前記スタータの作動指令に対するエンジン回転数に基づいて判定することを特徴とする請求項1に記載のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前記回転トルクの入力側と出力側とで一対のシーブを有すると共に前記シーブには前記シーブ間で前記回転トルクを伝達するベルトが巻き掛けられており、且つ、前記シーブでの前記ベルトの挟圧力を調節することにより前記ベルトの回転半径を調節して前記シーブ間の変速比を無段階で調節可能な無段変速機が設けられており、
前記シーブは、電気で作動する電動ポンプで発生する油圧と、前記エンジンの作動に伴って作動する機械式ポンプで発生する油圧と、により前記挟圧力を発生可能になっており、
前記クラッチは、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記無段変速機との間に配設されており、
前記エンジンの始動に失敗したと前記始動失敗判定手段で判定した場合には、前記係合制御手段は、前記電動ポンプで発生する油圧と前記機械式ポンプで発生する油圧とに応じて変化する前記シーブでの前記ベルトの前記挟圧力に基づいて前記クラッチの係合力を調節することを特徴とする請求項1または2に記載のクラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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