説明

クラッドワイヤー及びカテーテル用複合構造ガイドワイヤー、並びにそれらの製造方法

【課題】芯材の径が細く、なおかつトルク伝達性や剛性に優れたカテーテル用ガイドワイヤーを安価に提供すること。
【解決手段】形状記憶合金製の心線と、前記心線を被覆する高剛性金属製のクラッド層とからなり、前記心線と前記クラッド層とが密着していることを特徴とするクラッドワイヤー、及び前記クラッドワイヤーからなる基質部と、テーパ状に加工され前記心線が一部露出してなる先端テーパ部とを有することを特徴とするカテーテル用複合構造ガイドワイヤー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は治療又は検査用にカテーテルを血管等の所定部位に導入する際に用いられるカテーテル用ガイドワイヤーであって、血管等に沿って移動し得る柔軟性と血栓等の障害でも屈曲しない剛性を併せ持つガイドワイヤー、及びかかるガイドワイヤーを製造するのに好適なクラッドワイヤー、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル用ガイドワイヤーは、例えば血管の所定部位から専用針により血管内に導入し後、専用針をガイドワイヤーから取り外し、その後ガイドワイヤーの後端にカテーテルを取り付けて、血管内の目標部位までカテーテルを案内するために用いる医療用器具である。このため、カテーテル用ガイドワイヤーは、屈曲する血管等の中をスムーズに進入できるようにしなやかに変形できる柔軟な先端テーパ部と、手元での操作でひねりを伝えるトルク伝達性や押し込みを伝えるプレッシャビリティーを満たす剛性を有する基質部とから構成されるのが好ましい。
【0003】
このため、カテーテル用ガイドワイヤーに体温で超弾性を示すNi-Ti系形状記憶合金が用いられている。ところが、Ni-Ti系形状記憶合金は加工が難しく、また非常に高価であるので、ガイドワイヤー自身も高価にならざるをえなかった。またNi-Ti系形状記憶合金は細線化すると、トルク伝達性やプレッシャビリティーを得るのに十分な剛性を示さなくなる。この問題は、細い血管部に挿入するためのより細いカテーテル用ガイドワイヤーの場合に深刻である。
【0004】
このため最近では、Ni-Ti系合金のような超弾性合金の心線の剛性を向上させるために、超弾性合金の心線を高剛性金属で被覆することが提案されている。例えば特開平2-289266号(特許文献1)には、Ni-Ti系超弾性合金からなるカテーテルガイドワイヤーの芯材において、血管導入先端部を除く表面の少なくとも一部が、無機皮膜で覆われてなるカテーテルガイドワイヤーの芯材が開示されている。無機皮膜として、Niメッキ、ステンレス蒸着膜、SiC又はTiNのスパッタ膜が例示されている。しかし、メッキ法や蒸着法では、十分なトルク伝達性やプレッシャビリティーを有する被膜を得るのは困難である。
【0005】
特開平7-124262号(特許文献2)には、ピアノ線、ステンレス線、リン青銅線、アモルファス合金線等の芯材を形状記憶合金製チューブに挿入してなる剛性に優れたカテーテル用ガイドワイヤーが開示されている。しかし、形状記憶合金を細管状に加工するのは非常に困難であるだけでなく、テーパ加工だけでは高剛性の芯材のみとなるので、別途作製した先端テーパ部を接合しなければならない。
【特許文献1】特開平2-289266号
【特許文献2】特開平7-124262号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、十分な柔軟性を有するとともに、細径にしてもトルク伝達性及びプレッシャビリティーに必要な剛性を有するカテーテル用ガイドワイヤー、かかるカテーテル用ガイドワイヤーを製造するのに用いるクラッドワイヤー、並びにこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に艦み鋭意研究の結果、本発明者らは、形状記憶合金の心線と高剛性金属製のクラッド層とからなるクラッドワイヤーを作製し、それを所定の長さに切断して先端部分をテーパ状にすると、十分な柔軟性及び剛性を有するカテーテル用複合構造ガイドワイヤーが安価に製造できることを発見し、本発明に想到した。
【0008】
本発明は以下の手段により達成される。
(1) 形状記憶合金製の心線と、前記心線を被覆する高剛性金属製のクラッド層とからなり、前記心線と前記クラッド層とが密着していることを特徴とするクラッドワイヤー。
【0009】
(2) 前記(1)に記載のクラッドワイヤーにおいて、前記形状記憶合金は、生体温度で超弾性を示すCu-Al-Mn系又はNi-Ti系形状記憶合金であることを特徴とするクラッドワイヤー。
【0010】
(3) 前記(1)又は(2)に記載のクラッドワイヤーにおいて、前記心線の外面及び/又は前記クラッド層の内面が銀、金又はニッケルでメッキされていることを特徴とするクラッドワイヤー。
【0011】
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、前記心線の外面及び/又は前記クラッド層の内面がイオンボンバードされていることを特徴とするクラッドワイヤー。
【0012】
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、前記高剛性金属がステンレス鋼であることを特徴とするクラッドワイヤー。
【0013】
(6) 前記(5)に記載のクラッドワイヤーにおいて、前記クラッド層が浸炭されていることを特徴とするクラッドワイヤー。
【0014】
(7) 前記(1)〜(6)のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、冷間加工により縮径された後、溶体化処理をされていることを特徴とするクラッドワイヤー。
【0015】
(8) 前記(1)〜(7)のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、前記心線の外径は前記クラッドワイヤーの外径の30〜85%であることを特徴とするクラッドワイヤー。
【0016】
(9) 前記(1)〜(8)のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、0.2〜0.8 mmの外径を有することを特徴とするクラッドワイヤー。
【0017】
(10) 前記(1)〜(9)のいずれかに記載のクラッドワイヤーからなる基質部と、前記心線が露出する先端テーパ部とを有することを特徴とするカテーテル用複合構造ガイドワイヤー。
【0018】
(11) 前記(10)に記載のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーにおいて、前記先端テーパ部の少なくとも先端部がX線造影性金属によりコートされていることを特徴とするカテーテル用複合構造ガイドワイヤー。
【0019】
(12) 前記(10)に記載のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーにおいて、前記先端テーパ部の少なくとも先端部にX線造影性金属の細線がコイル状に巻き付けられていることを特徴とするカテーテル用複合構造ガイドワイヤー。
【0020】
(13) 前記(1)〜(9)のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法であって、高剛性金属の管に前記形状記憶合金製の心線を挿入して、前記心線と高剛性金属管とからなる第一のクラッド材を形成し、前記第一のクラッド材を縮径する冷間加工により、前記心線の縮径と、前記高剛性金属管と前記心線との一体化とを行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【0021】
(14) 前記(1)〜(9)のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法であって、前記形状記憶合金製の心線を包むように高剛性金属の帯状板材を連続的に管状に成形して、前記心線と高剛性金属管とからなる第二のクラッド材を形成し、前記第二のクラッド材を縮径する冷間加工により、前記心線の縮径と、前記高剛性金属管と前記心線との一体化とを行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【0022】
(15) 前記(14)に記載のクラッドワイヤーの製造方法において、管状に成形した前記帯状板材の合せ部を溶接した後で引抜きを行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【0023】
(16) 前記(14)又は(15)に記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記高剛性金属の帯状板材の管状化をダイス及び/又は成形ロールにより行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【0024】
(17) 前記(13)〜(16)のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記クラッド材の冷間加工を引抜きにより行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【0025】
(18) 前記(13)〜(17)のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記冷間加工後の前記クラッド材に対して、浸炭処理を施すことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【0026】
(19) 前記(13)〜(18)のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記冷間加工後の前記クラッド材に対して、HIP(熱間等方圧加圧)処理を施すことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【0027】
(20) 前記(13)〜(19)のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記冷間加工後の前記クラッド材中の前記形状記憶合金製の心線に対して溶体化処理を施すことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【0028】
(21) 前記(14)〜(19)のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記第二のクラッド材の形成を真空中で行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【0029】
(21) 前記(10)〜(12)のいずれかに記載のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーを製造する方法であって、前記クラッドワイヤーからなる基質部の先端部分を化学的処理及び/又は機械加工によりテーパ状にし、もって前記心線が露出した先端テーパ部を形成することを特徴とするカテーテル用複合構造ガイドワイヤーの製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーは、形状記憶合金の心線にステンレス鋼等の高剛性金属を被覆したクラッドワイヤーからなる高剛性の基質部と、クラッドワイヤーの先端部分をテーパ状に加工して心線が露出したしなやかな先端テーパ部とを有するので、子供の細い血管にも挿入治療可能なように細径にすることができる。また高剛性金属の帯状板材を用いて本発明のクラッドワイヤーを連続的に製造する場合、長さに制限がないクラッドワイヤーを低コストで作製することができるだけでなく、それを所望の長さに切断した後加工すればガイドワイヤーも低コストで作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[1] クラッドワイヤー及びその製造方法
(1) クラッドワイヤーの構造
図1に示すように、本発明のクラッドワイヤー1は、形状記憶合金製の心線2と、ステンレス鋼等の高剛性金属製のクラッド層3とが密着した構造を有する。心線2の材質は生体温度で超弾性を示す限り限定的ではなく、例えばCu-Al-Mn系又はNi-Ti系の形状記憶合金でよいが、低コストである点でCu-Al-Mn系形状記憶合金の方が好ましい。
【0032】
これらの形状記憶合金自体は公知である。Cu-Al-Mn系形状記憶合金の細線は、特開2001-20026号に記載の方法等により製造することができる。例えばCu80.4Al8.0Mn9.5Ni2.1の組成を有する合金を溶解し、平均140℃/分の冷却速度で凝固し、850℃で熱間加工した後、冷間引抜き加工と600℃での焼鈍を繰り返し、所望の冷間加工率に達した後で、900℃で10分間の溶体化処理をし、氷水中に投入して焼き入れを行ってから150℃〜200℃で15分間の時効処理を行うと、形状記憶性を有する細線が得られる。またNi-Ti系形状記憶合金の細線は、例えばNi51Ti49の組成を有する合金材を950℃で溶体化処理し、熱間加工を施し、丸棒にした後、冷間引抜き加工により細線とし、500℃で10分間の熱処理を行うことにより得られる。ガイドワイヤー用Ni-Ti系超弾性合金は、特公平2-24549号等に記載されている。
【0033】
本発明のクラッドワイヤーのクラッド層3は高剛性の金属からなり、特にSUS303、SUS304、SUS316、SUS316L等のステンレス鋼が好ましい。クラッド層3の剛性を高めるには浸炭処理すれば良い。浸炭処理には、個体浸炭、液体浸炭、ガス浸炭、真空浸炭等があるが、処理面の清浄性の観点から真空浸炭処理が好ましい。浸炭処理を施したステンレス鋼は約800の表面ピッカーズ硬度を有する。浸炭処理はクラッド層を心線と接合した後に行うことが好ましい。なお、浸炭処理によりクラッド層3の外面に荒れが生じるので、浸炭処理の後に少なくとも1回の引抜き加工を行うのが好ましい。
【0034】
心線2とクラッド層3とは、先端テーパ部を作製したときにテーパ状クラッド層の端部13がめくれないように、十分に密着している必要がある。両者の密着は後述する冷間引抜き加工時に得られる。十分な密着性を得るためには、心線2の外面及び/又はクラッド層3の内面が銀、金又はニッケルでメッキされているのが好ましい。
【0035】
本発明のクラッドワイヤー1の外径は0.2〜0.8 mmであることが好ましい。 クラッドワイヤー1の外径Dに対する心線2の外径dの比は、所望の柔軟性及び剛性の程度に応じて適宜設定することができるが、例えばd/D=30〜85%であるのが好ましい。
【0036】
(2)クラッドワイヤーの製造方法
形状記憶合金ワイヤーの心線と、心線を被覆する高剛性金属製のクラッド層とからなり、心線とクラッド層とが密着してなるクラッドワイヤーは、(a)高剛性金属製のチューブに形状記憶合金ワイヤーの心線を挿入して、心線と高剛性金属管とからなる第一のクラッド材を形成し、引抜き法により心線を縮径すると共に、管と心線とを一体化させる方法、又は(b) 形状記憶合金ワイヤーの心線を包むように高剛性金属製の帯状板材を連続的に管状に成形して、心線と高剛性金属管とからなる第二のクラッド材を形成し、引抜き法により心線を縮径すると共に、管状に成形した帯状板材と心線とを一体化させる方法により製造することができる。本発明のクラッドワイヤーは(b)の方法により製造することが好ましい。
【0037】
形状記憶合金ワイヤーの心線及び高剛性金属製のクラッド層は、両者を一体化させる前にあらかじめ研磨、イオンボンバード等により相互に接する面を洗浄・活性化することが好ましい。
【0038】
図3は本発明のクラッドワイヤーの(a)の製造方法において、心線2になる形状記憶合金をクラッド層となる高剛性金属製チューブ5へ挿入する前の状態を示している。高剛性金属の管に形状記憶合金製の心線を挿入して形成した、心線と高剛性金属管とからなる第一のクラッド材は、冷間加工により心線の縮径と、高剛性金属管と心線との一体化とを行う。(a)の製造方法において、高剛性金属性のチューブはシーム管でもシームレス管でもよいが、シームレス管であることが好ましい。
【0039】
図4は本発明のクラッドワイヤーの(b)の製造方法において、形状記憶合金の心線2を包むようにクラッド層となる高剛性金属製の帯状板材6を連続的に管状に成形して、心線と高剛性金属管とからなる第二のクラッド材を形成している状態を示している。第二のクラッド材は、後述の引抜き加工により、心線の縮径と、高剛性金属管と心線との一体化とを行うが、より強度を高めるため、合わせ部はレーザー溶接することが好ましい。
【0040】
高剛性金属製の帯状板材6を連続的に管状に成形して、形状記憶合金の心線と高剛性金属管とからなる第二のクラッド材を形成するには、公知の方法を用いることができる。すなわち、ダイス又は複数の成型ロールにより帯状板材6を連続的に管状に成形して、心線と高剛性金属管とからなる第二のクラッド材を形成することができる。ダイスを用いた管の形成は、実開昭58-89110号等に記載の方法を用いることができる。また、成型ロールを用いた管の形成は、特開2004-114118号、特開2005-199292号等に記載された方法を用いることができる。
【0041】
図5はクラッドワイヤーにするための引抜き加工を示している。(a)又は(b)の製造方法において、高剛性金属製のチューブに形状記憶合金の心線を挿入して得られた第一のクラッド材、又は連続的に管状に成形した高剛性金属製の帯状板材と形状記憶合金の心線とからなる第二のクラッド材は、引抜きダイス4に通して引抜き加工を行うことにより、高剛性金属製のクラッド層は縮管され形状記憶合金の心線と密着する。
【0042】
引抜き接合直後の、心線の回りにクラッド層を有する1〜2 mm程度の直径を有する複合材料は、その後複数回の引抜き加工(伸線加工)と焼鈍を繰り返すことにより直径0.2〜0.8 mm程度まで縮径し、形状記憶合金の心線と高剛性金属製のクラッド層とが一体化した、超弾性等の機械的特性を有するクラッドワイヤーとなる。連続的に引抜き加工を繰り返し、所望の外径を有するクラッドワイヤーを得るための方法は、特開2001-1030号や特開2001-271282号等に記載の公知の方法により行うことができる。引抜き加工は、前述の引抜き接合の後に巻き取らずに連続して実施することが好ましい。
【0043】
本発明のクラッドワイヤーは、引抜き加工によりクラッド層を心線と接合した後に浸炭処理を行うことが好ましい。なお、浸炭処理によりクラッド層3の外面に荒れが生じるので、浸炭処理の後に少なくとも1回の引抜き加工を行うのが好ましい。浸炭処理は前述の焼鈍又は後述の溶体化処理を兼ねて行っても良い。
【0044】
本発明のクラッドワイヤーは、引抜き加工の後にHIP処理を行うことが好ましい。HIP処理の条件は、600〜800℃で50〜500MPa及び0.1〜100分間が好ましく、クラッドワイヤー同士は接合しないような条件で行う。HIP処理はアルゴンガス等の不活性ガス中で行うことが好ましい。HIP処理により、高剛性金属製のクラッド層と形状記憶合金の心線をより密着させることができる。複数回の引抜き加工を行う場合、HIP処理は引抜き加工の間に行うことが好ましい。特にクラッド層を心線と接合した後に行うことが好ましく、浸炭処理の前に行っても良いし、浸炭処理の後に行っても良い。HIP処理の後に少なくとも1回の引抜き加工を行うのが好ましい。HIP処理は前述の後述の溶体化処理を兼ねて行っても良い。
【0045】
本発明のクラッドワイヤーは、引抜き加工の後に溶体化処理及び時効処理を行うのが好ましい。溶体化処理及び時効処理の条件は使用する形状記憶合金の組成によって異なるが、例えば銅系合金の場合、500〜900℃で0.1〜15分程度で溶体化処理を行い、100〜250℃で5〜200分で時効処理を行うことが好ましい。これらの処理は、特開2000-14792号等に記載の方法で実施することができる。引抜き加工(冷間加工)の後に溶体化処理を行うことにより、より優れた超弾性を有する形状記憶合金の心線が得られる。
【0046】
上記で述べた、引抜き加工、焼鈍、溶体化処理及び時効処理は、例えば以下のような工程で実施することができる。
引抜き接合→引抜き加工1→引抜き加工2→引抜き加工3→焼鈍1→引抜き加工4→引抜き加工5→引抜き加工6→焼鈍2→引抜き加工7→引抜き加工8→真空浸炭処理1→HIP処理1→引抜き加工9→溶体化処理→時効処理。
【0047】
図6はクラッドワイヤーの(b)の製造方法による製造装置の一例を示す概念図である。真空排気装置506により真空に引かれた真空チャンバー501中に導入された形状記憶合金製の心線2及び高剛性金属製の帯状板材6は、イオンボンバード502によりそれぞれが接する面が活性化される。予備成形部503で樋状に成形を施した帯状板材6は、ダイスを具備する合せ部504で心線2を包むように連続的に管状に成形され、高剛性金属管と心線2とからなる第二のクラッド材を形成する。引抜接合部505で縮管され、高剛性金属管と心線2とが接合したクラッド材は、真空チャンバー外の巻取り部507で巻き取られる。
【0048】
[2]ガイドワイヤー
図2に示すように、本発明のカテーテル用複合構造ガイドワイヤー10は、クラッドワイヤーからなる基質部11と、クラッドワイヤーの先端部分を化学的処理及び/又は機械加工によりテーパ状にして心線2を露出させた先端テーパ部12とを有する。先端テーパ部の加工は公知の化学的処理及び/又は機械加工により行うことができる。先端テーパ部は形状記憶合金の心線が露出しているため、柔軟性を持ちガイドワイヤーとして使用したときの挿入操作性に優れている。先端テーパ部12の根元部13では心線2の外周にテーパ状のクラッド層3があるが、心線2とクラッド層3とは十分に密着しているので、クラッド層3の端部が心線2からめくれることはない。先端テーパ部の形状は挿入操作性に優れた形であればどのような形状でもよい。先端テーパ部の長さは20〜300 mm程度であり、好ましくは50〜200 mm程度である。
【0049】
上記のような構造を有する本発明のカテーテル用複合構造ガイドワイヤー10は、クラッドワイヤーからなる基質部11では大きな剛性を有するとともに、心線2が露出した先端テーパ部12では十分に柔軟であるので、先端が血栓等に当たったときでも基質部11がへたることがなく、また先端が血管壁を突き破るおそれもない。
【0050】
本発明のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーは、X線観察時の造影性を高めるため、Au、Pt、Pd、Sn、Bi、W等の金属をメッキ、蒸着等によりコートすることが好ましい。また、図7に示すように、これらの金属のワイヤーをコイル7として巻き付けて使用してもよい。これらのコーティング又はワイヤーの巻き付けは、特に複合構造ガイドワイヤーの先端テーパ部の少なくとも先端部に施すのが好ましい。
【0051】
図8に示すように、本発明のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーは、一部又は全部を合成樹脂8で被覆してもよい。ガイドワイヤーを被覆する合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、フッ素樹脂、シリコンゴム又はそれらのエラストマー及び複合材料を使用できる。これらの合成樹脂はガイドワイヤーのX線造影性能を高めるため硫酸バリウム、前述の金属の粉末又は前述の金属を含有する錯体等のX線不透過性の化合物を含有することが好ましい。さらにガイドワイヤーの表面にポリビニルピロリドン、無水マレイン酸エチルエステル、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体等の潤滑性物質で被覆するのが好ましい。これらのガイドワイヤーの構造については、特開2004-275609号、特開2004-305241号等に記載されている材料及び方法を用いることができる。
【実施例】
【0052】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0053】
高剛性金属のクラッド層として、厚さ0.2 mm、幅3.4 mmのステンレス(SUS304)製帯状板材と、形状記憶合金の心線として、直径1.0 mmの銅系形状記憶合金(SMA)製ワイヤーを準備し、それぞれの外表面を研磨し油汚れや軽いさびを落とした。ステンレス製帯状板材は、真空チャンバー中に導入し、数10 Torrで13.5 MHzの条件でイオンボンバード処理を行い、心線と接する表面を活性化した。あらかじめ銀メッキを施したSMA製心線は真空チャンバー内に導入し、帯状板材と同条件でイオンボンバード処理を行った。あらかじめ樋状に予備成形された帯状板材は心線に巻き付けてダイスで管状に成型し合せ部をレーザー溶接した後、引抜き接合を行い形状記憶合金ワイヤーの心線にステンレス鋼製のクラッド層が巻き付いた外径1.4 mm(心線径1.0 mm)の複合材料を得た。真空チャンバー外に出した複合材料は、引き続き表1に示す様に13回の引抜き加工(伸線加工)を行い、外径0.35 mm(心線径0.25 mm)の複合ワイヤーを得た。引抜き加工の途中に表1に示すように600℃×10分間+空冷の中間焼鈍処理を2回、800℃で真空浸炭処理を1回、アルゴンガス気流中で750℃ 100MPaで30分間のHIP処理を1回行った。この複合ワイヤーに対して、600℃及び30分で溶体化処理を行い氷水中に焼き入れた後、150℃で15分間の時効処理を行い、超弾性を有するクラッドワイヤーを得た。
【0054】
【表1】

【0055】
得られた上記クラッドワイヤーの片側端部の200 mmを機械的に削り細くすることにより先端テーパ部を形成し、本発明のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーを得た。
【0056】
得られた本発明のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーは、先端テーパ部に柔軟性を有し、基質部に適度な剛性と弾性を有しており、挿入操作性及びトルク伝達性に優れた性能を示した。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明によるクラッドワイヤー1の断面図を示している。
【図2】本発明による複合構造ガイドワイヤー10の断面図を示している。
【図3】形状記憶合金の心線2とクラッド層になる高剛性金属製チューブ5を示している。
【図4】形状記憶合金の心線2を包むようにクラッド層になる高剛性金属製の帯状板材6を連続的に管状に成形している様子を示している。
【図5】クラッド材を一体化するための引抜き加工を示している。
【図6】請求項14にかかる発明のクラッドワイヤーを製造する装置の一例を表す概念図である。 (a)〜(e)は各部における帯状板材6及び心線2の断面図である。
【図7】請求項12にかかる発明の先端テーパ部の少なくとも先端部にX線造影性金属のコイル7が巻き付けられた複合構造ガイドワイヤーの断面図を示している。
【図8】合成樹脂で被覆した複合構造ガイドワイヤーの断面図を示している。
【符号の説明】
【0058】
1・・・クラッドワイヤー
2・・・形状記憶合金製の心線
3・・・高剛性金属製のクラッド層
4・・・引抜きダイス
5・・・クラッド層になる高剛性金属製チューブ
6・・・クラッド層になる高剛性金属製帯状板材
7・・・X線不透過性の金属製コイル
8・・・合成樹脂
10・・・複合構造ガイドワイヤー
11・・・基質部
12・・・先端テーパ部
13・・・先端テーパ部12の根元部
501・・・真空チャンバー
502・・・イオンボンバード装置
503・・・帯状板材の予備成形部
504・・・ダイスを具備した合せ部
505・・・引抜接合部
506・・・真空排気装置
507・・・巻取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金製の心線と、前記心線を被覆する高剛性金属製のクラッド層とからなり、前記心線と前記クラッド層とが密着していることを特徴とするクラッドワイヤー。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッドワイヤーにおいて、前記形状記憶合金は、生体温度で超弾性を示すCu-Al-Mn系又はNi-Ti系形状記憶合金であることを特徴とするクラッドワイヤー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のクラッドワイヤーにおいて、前記心線の外面及び/又は前記クラッド層の内面が銀、金又はニッケルでメッキされていることを特徴とするクラッドワイヤー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、前記心線の外面及び/又は前記クラッド層の内面がイオンボンバードされていることを特徴とするクラッドワイヤー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、前記高剛性金属がステンレス鋼であることを特徴とするクラッドワイヤー。
【請求項6】
請求項5に記載のクラッドワイヤーにおいて、前記クラッド層が浸炭されていることを特徴とするクラッドワイヤー。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、冷間加工により縮径された後、溶体化処理をされていることを特徴とするクラッドワイヤー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、前記心線の外径は前記クラッドワイヤーの外径の30〜85%であることを特徴とするクラッドワイヤー。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のクラッドワイヤーにおいて、0.2〜0.8 mmの外径を有することを特徴とするクラッドワイヤー。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のクラッドワイヤーからなる基質部と、前記心線が露出する先端テーパ部とを有することを特徴とするカテーテル用複合構造ガイドワイヤー。
【請求項11】
請求項10に記載のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーにおいて、前記先端テーパ部の少なくとも先端部がX線造影性金属によりコートされていることを特徴とするカテーテル用複合構造ガイドワイヤー。
【請求項12】
請求項10に記載のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーにおいて、前記先端テーパ部の少なくとも先端部にX線造影性金属の細線がコイル状に巻き付けられていることを特徴とするカテーテル用複合構造ガイドワイヤー。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法であって、高剛性金属の管に前記形状記憶合金製の心線を挿入して、前記心線と高剛性金属管とからなる第一のクラッド材を形成し、前記第一のクラッド材を縮径する冷間加工により、前記心線の縮径と、前記高剛性金属管と前記心線との一体化とを行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法であって、前記形状記憶合金製の心線を包むように高剛性金属の帯状板材を連続的に管状に成形して、前記心線と高剛性金属管とからなる第二のクラッド材を形成し、前記第二のクラッド材を縮径する冷間加工により、前記心線の縮径と、前記高剛性金属管と前記心線との一体化とを行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のクラッドワイヤーの製造方法において、管状に成形した前記帯状板材の合せ部を溶接した後で引抜きを行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記高剛性金属の帯状板材の管状化をダイス及び/又は成形ロールにより行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記クラッド材の冷間加工を引抜きにより行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記冷間加工後の前記クラッド材に対して、浸炭処理を施すことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【請求項19】
請求項13〜18のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記冷間加工後の前記クラッド材に対して、HIP(熱間等方圧加圧)処理を施すことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【請求項20】
請求項13〜19のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記冷間加工後の前記クラッド材中の前記形状記憶合金製の心線に対して溶体化処理を施すことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【請求項21】
請求項14〜20のいずれかに記載のクラッドワイヤーの製造方法において、前記第二のクラッド材の形成を真空中で行うことを特徴とするクラッドワイヤーの製造方法。
【請求項22】
請求項10〜12のいずれかに記載のカテーテル用複合構造ガイドワイヤーを製造する方法であって、前記クラッドワイヤーからなる基質部の先端部分を化学的処理及び/又は機械加工によりテーパ状にし、もって前記心線が露出した先端テーパ部を形成することを特徴とするカテーテル用複合構造ガイドワイヤーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−255396(P2006−255396A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1867(P2006−1867)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(500219571)株式会社エーアンドエー研究所 (18)
【Fターム(参考)】