説明

クラバム抗生物質の産生を強化する方法

【課題】遺伝子挿入により分裂したストレプトマイセス・クラブリゲラスから由来のlat遺伝子を含有する組換えプラスミドの提供。
【解決手段】遺伝子挿入により分裂したストレプトマイセス・クラブリゲラスから由来のlat遺伝子を含有する組換えプラスミド。ならびに、分裂したlat遺伝子を有するpCF002と称される組換えプラスミド;および分裂したlat遺伝子を有するp486latapと称される組換えプラスミド;より選択される、プラスミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強いβ−ラクタマーゼ阻害活性を有する化合物を含め、増殖性生物からのクラブラン酸および他のクラバムの産生を強化する方法に関する。本発明はまた、多量のこれらのクラバムを産生する能力を有する新規な生物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物、特にストレプトマイセス(Streptomyces)種は、クラブラン酸および他のクラバム(clavam)、セファロスポリン、セファマイシン、ツニカマイシン、ホロマイシンおよびペニシリンを含め、多くの抗生物質を産生する。これら抗生物質の絶対的および相対的産生量の操作にはかなりの興味がもたれており、そのためこれらの経路の代謝および遺伝的機構を調査することに多大な研究がなされてきた[Domain,A.L.(1990)「β−ラクタム抗生物質の生合成および調整」:50年間のペニシリン使用、歴史および傾向](非特許文献1)。代謝経路の種々の工程に関与する酵素の多くおよびこれら酵素をコードする遺伝子が知られている。
【0003】
例えば、ストレプトマイセス・クラブリゲラス(Streptomyces vlavuligerus)のセファロスポリン代謝経路において、3種の重要な抗生物質、すなわち、ペニシリン、N,O−カルバモイルデアセチルセファロスポリンCおよびセファロマイシンCを産生できる。これらの抗生物質はトリペプチド先駆体d−(L−a−アミノアジピル)−L−システイニル−D−バリン(ACV)より合成される[J.F.Martinら(1990),「ペニシリンおよびセファロスポリン生合成に関与する遺伝子の菌株群」:50年間のペニシリン使用、歴史および傾向](非特許文献2)。
【0004】
ストレプトマイセス・クラブリゲラスのペニシリンおよびセファロスポリンの両方の生合成において認識されている第1工程には、酵素、リジン−ε−アミノトランスフェラーゼ(LAT)が関与する。ストレプトマイセス・クラブリゲルスlat遺伝子のヌクレオチド配列および誘導アミノ酸配列が知られている[Tobin,M.B.ら、(1991)J.Bacteriol.,173,6223−6229](非特許文献3)。
【0005】
米国特許第5474912号(1995年12月12日公開)(特許文献1)は、一またはそれ以上のLAT遺伝子のコピーを生物の染色体に挿入することでストレプトマイセス・クラブリゲラスにて多量のセファロスポリンを生産する方法を記載する。β−ラクタム抗生物質に対する作用が特許請求されているが、ストレプトマイセス・クラブリゲラスにおけるセファロスポリン経路の産物についての効果が開示されているにすぎず、クラバム産生についての効果は何も測定または記載されていない。
【0006】
クラブラン酸および他のクラバムは、3炭素化合物[Townsend,C.A.およびHo,M.F.(1985)J.Am.Chem.Soc.107(4),1066−1068(非特許文献4)ならびにElson,S.W.およびOliver,R.S.(1978)J.Antibiotics XXXI No.6,568(非特許文献5)]およびアルギニン[Valentine,B.P.ら(1993)J.Am.Chem.Soc.15,1210−1211](非特許文献6)より誘導される。
【0007】
セファロスポリンおよびクラブラン酸の生合成を決定する遺伝子菌株群は、ストレプトマイセス・クラブリゲラス染色体上で相互に隣接しているが[Ward,J.M.およびHodgson,J.E.(1993)FEMS Microbiol.Lett.110,239−242](非特許文献7)、共通する生合成構造遺伝子を共有しない。したがって、その経路の間に明らかな生合成の関係はない。
【特許文献1】米国特許第5474912号(1995年12月12日公開)
【非特許文献1】Domain,A.L.(1990)「β−ラクタム抗生物質の生合成および調整」:50年間のペニシリン使用、歴史および傾向
【非特許文献2】J.F.Martinら(1990),「ペニシリンおよびセファロスポリン生合成に関与する遺伝子の菌株群」:50年間のペニシリン使用、歴史および傾向
【非特許文献3】Tobin,M.B.ら、(1991)J.Bacteriol.,173,6223−6229
【非特許文献4】Townsend,C.A.およびHo,M.F.(1985)J.Am.Chem.Soc.107(4),1066−1068
【非特許文献5】Elson,S.W.およびOliver,R.S.(1978)J.Antibiotics XXXI No.6,568
【非特許文献6】Valentine,B.P.ら(1993)J.Am.Chem.Soc.15,1210−1211
【非特許文献7】Ward,J.M.およびHodgson,J.E.(1993)FEMS Microbiol.Lett.110,239−242
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、意外にも、生物のセファロスポリン経路の少なくとも一工程が妨げられると、生物により産生される量のクラバムが増加することを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、セファロスポリン経路においてL−リジンのL−α−アミノアジピン酸への変換を妨げることにより、クラバム経路またはその一部とセファロスポリン経路またはその一部の両方の経路を有する生物により産生されるクラバムの量を増加させる方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
クラバムはβ−ラクタマーゼ阻害活性を有することが好ましく、該クラバムはクラブラン酸であることがさらに好ましい。
【0011】
本発明の好ましい態様において、L−リジンのL−α−アミノアジピン酸に変換する方法は、LAT酵素またはlat遺伝子の機能を変えることにより妨げられる。例えば、酵素を(例えば、非代謝性基質またはアナログを用いることにより)阻害さもなければ遮断することができる。
【0012】
適当には、LAT遺伝子は、公開されている配列に基づき、従来のクローニング方法(PCRなど)により得ることができる。該遺伝子の機能は、遺伝子分裂[Aidoo,K.A.ら(1994)、Gene,147,41−46]、任意突然変異誘発、部位定方向性突然変異およびアンチセンスRNAなどの技術により妨げ、または排除/削除することができる。
【0013】
Mahro,B.およびDemain,A.(1987)、Appl.Microbiol.Technol.27,272−275は、セファロスポリンを産生せず、lat、acvsおよびipns酵素活性を欠いていると証明されたストレプトマイセス・クラブリゲラスの自発性突然変異株を記載した。H.Yuら(1994)[Microbiology,140,3367−3377]はこれら3種の酵素の活性が突然変異体を完全なLAT遺伝子(lat)および上半分のacvs遺伝子(pcbAB)をコードするDNAのフラグメントで形質転換することにより回収できることを明らかにした。しかし、クラブラン酸または他のクラバムの産生に関するこの突然変異体の作用について何の教示もない。本発明のさらなる態様において、lat遺伝子、好ましくは以下に記載のプラスミドpCF002およびp487latapを含有するプラスミドが提供される。適当には、該プラスミドを用いてストレプトマイセス・クラブリゲラス・eg株ATCC27064(ストレプトマイセス・クラブリゲラスNRRL3585の同等物)などの生物を形質転換する。
【0014】
本発明のさらなる態様において、欠陥lat遺伝子を含有する生物が提供される。
【0015】
実施例中の方法はすべて、特記しない限り、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManiatis、T.(1989)Molecular Cloning A Laboratory Manual(第2版)にあるとおりである。
【実施例1】
【0016】
分裂したlat遺伝子のアセンブリー化
該方法を開始するのに、pA2/119(A.K.Petrichの論文(1993);ストレプトマイセス・クラブリゲラスのイソペニシリン N シンセターゼ遺伝子の転写分析;アルバータ大学)をKpnIで消化し、その0.688kb挿入体を遊離させた。消化物をアガロースゲル電気泳動により分画し、0.688kbのフラグメントを溶出させてクレノー処理に付した。ついで、その平滑末端フラグメントをHincII消化pUC119にライゲーションし、それを用いてイー・コリ(E.coli)MV1193をアンピシリン耐性に形質転換させた。以下、pELK044と称される組換えプラスミドを含有する形質転換体を単離し、その同一性を制限分析により確認した。pELK004をBamHIおよびKpnIで消化し、BamHI−KpnI apr−フラグメントにライゲーションした。そのライゲーション混合物を用いてイー・コリMV1193をアプラマイシン耐性に形質転換させた。得られた形質転換体をスクリーニングに付し、0.688kbの3’−latフラグメントの上流で、逆方向に挿入された、apr−フラグメントを含有する組換えプラスミドpCF001Aを単離し、制限分析により確認した。
【0017】
次の工程においては、pA2/119をPCR反応にて鋳型として用い、lat遺伝子の上流領域をpUC119にサブクローンさせた。DNAプライマーは、M13逆スクリーニングプライマーおよびDNA配列5’CATGCGGATCCCGTCGACGAGCATATGC−3’を有するプライマーであり、標準条件[DNA増幅についてのPCR技術の原理および適用、H A Ehrlich編(1989)]および92℃で30秒、55℃で30秒および72℃で60秒のサイクルの下で使用した。PCR産物を1.25%アガロースゲルのゲル電気泳動で単離した。増幅したDNAフラグメントをゲル精製し、制限エンドヌクレアーゼEcoR1およびBamH1で消化し、同様に消化したpUC119にライゲーションした。その後、イー・コリMV1193形質転換体を制限エンドヌクレアーゼ処理により分析し、つづいてゲル電気泳動およびDNA配列分析に付し、正しいフラグメントがクローンされ、意図しない突然変異がPCR増幅の間に導入されていないことを確認した。latの上流にDNA領域を有するpUC119構築物をpL/119と命名した。
【0018】
次の工程では、pL1/119をEcoR1およびKpn1で消化し、その1.08kbフラグメントを遊離させた。消化物をアガロースゲル電気泳動で分画し、その1.08kbフラグメントを溶出し、EcoR1およびKpn1−消化pCF011Aにライゲーションした。そのライゲーション混合物を用い、MV1193をアパラマイシン耐性に形質転換させた。得られた形質転換体をスクリーニングに付し、共に同方向であるが、逆に配向されたaprフラグメントで相互に分けられている、3’−latフラグメントの上流に1.08kbの5’−latフラグメントを有する組換えプラスミドpCF002[図1(a)]を含有するクローンを単離した。pCF002の同定は制限分析により確認した;その結果より、aprフラグメントが、開始コドンから852bpおよび停止コドンから521bpにあるlat遺伝子の中の、Kpn1部位で挿入されたことがわかった。
【実施例2】
【0019】
分裂したlat遺伝子のストレプトマイセス・クラブリゲラスへの導入
pCF002をEcoR1およびHindIIIで消化することで分裂したlat遺伝子をサブクローンし(分裂したlat遺伝子を有するDNAフラグメントを遊離させる)、その消化物を同様に消化したpIJ486にライゲーションし、p486latap[図1(b)]を形成させた。そのライゲーション混合物を用い、エス・リビダンス(S.lividans)プロトプラストをアプラマイシン耐性に形質転換させた(ストレプトマイセスの遺伝的操作;A Laboratory manual(1985)D.A.Hopwoodら)。組換えプラスミドp486latapを含有するクローンを選択し;ついで制限分析を用い、p486latap中に分裂したlat遺伝子があることを確認した。
【0020】
p486latapを用いて野生型ストレプトマイセス・クラブリゲラス(NRRL3585)のプロトプラストをアプラマイシン耐性に形質転換させた[Bailey,C.R.およびWinstanley,D.J.,J.Gen.Microbiol.(1986)132,2945−2947]。チオストレプトンおよびアパラマイシンを補足したMYM[Paradkar,A.S.およびJensen,S.E.(1994),J.Bact.,177,1307−1314]上でサブクローンした場合に増殖が良好である形質転換体を1種だけ得た。その形質転換体をIPS培地#3寒天(補足体なし)[ParadkarおよびJensen、同書]に培養し、28℃で胞子形成させた。胞子を収穫し、ついで単コロニーをISP培地#3寒天およびMYM寒天(共に補足体なし)上に平板培養させた。これらを胞子形成させ、ついで逐次、チオスレプトンを補足したMYM、アラマイシンを補足したMYMおよびMYM(補足体なし)上にレプリカ平板培養させた。28℃で3日経過した後、アラマイシン補足および補足していない平板上にコロニーが出現したが、チオストレプトン平板ではコロニーは増殖しなかった。アラマイシン耐性で、チオストレプトン感受性の4つのコロニー(lat#2、lat#5、lat#7およびlat#11)をさらなる研究のために選択した。これらの単離体はapr、tioであるため、二重乗換事象がp486latapとストレプトマイセス・クラブリゲラス染色体の間に生じたと仮定した。この仮定はサザン・ハイブリダイゼーション分析により確認された。
【実施例3】
【0021】
lat−分裂突然変異体によるセファマイシンおよびクラブラン酸生成
抗生物質の産生における推定されるlat分裂変異の効果を測定するために、4つのすべての株(分裂体)を澱粉−アスパラギン(SA)液体培地(Paradkar,A.S.およびJesen,S.E.(1995)、J.Bacteriol.,177,1307−1314)に28℃で66時間培養した。上澄を調整して、種々の増殖速度を説明し、イー・コリESS(ParadkarおよびJensen、同書)に対してバイオアッセイに付し、野生型ストレプトマイセス・クラブリゲラスの培養物由来の同様に調整した上澄と比較した。lat−分裂体はすべて、約0.045μg/ml/セファロスポリンに相当する非常に小さな領域の阻害を生じ;同様の条件下で、野生型株は3.18μg/ml/セファロスポリンをもたらした。
【0022】
同じ上澄のサンプルをクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)に対するクラブラン酸産生についてバイオアッセイに付した(Bailey,C.R.ら、(1984)Bio/Technology 2(9)808−811)。バイオアッセイにより判断した場合、4つのすべての分裂体は、野生型との比較で、2ないし3倍量のクラブラン酸を産生したのが明らかであった。4つのすべてのlat分裂体はクラブラン酸産生に関して同様の表現型を示すと考えられ、そのすべてが一つの一次形質転換体より誘導されているため、さらに研究するために、lat#2を選択した。lat#2の混和培養を3回反復試験に付し、その野生型ストレプトマイセス・クラブリゲラスをSA培地中、28℃で培養し、接種の48時間、72時間および99時間後にサンプリングする経時的実験を行った。クレブシエラ・ニューモニエに対するバイオアッセイでは、48時間で、lat#2が野生型に比べて略4倍量のクラブラン酸を産生することが明らかにされた。しかし、99時間では、lat#2培養体は野生型と比べて2倍よりもほんの少し多いだけのクラブラン酸を産生した。イー・コリESSに対する同じ期間の同じ培養体の同時バイオアッセイは、lat#2が検出可能な抗生物質活性を生成しないことを明らかにした。野生型培養体は容易に検出可能量であるが、中程度の量のセファロスポリン(最大力価6.5μg/ml)を産生した。
【0023】
概要
lat分裂変異体を製造した。実験により該変異体がわずかな量のβ−ラクタム抗生物質(クラブラン酸を除く)を産生することがわかった。クラブラン酸については、該変異体は、澱粉−アスパラギン培地中、振とうフラスコ条件下で増殖させた野生型ストレプトマイセス・クラブリゲラスにより産生されるクラブラン酸の少なくとも2ないし3倍の量を産生した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1a】図1(a)は、分裂したlat遺伝子を有する、pCF002と称される組換えプラスミドの制限部位の配置を示す。
【図1b】図1(b)は、分裂したlat遺伝子を有する、p486latapと称される組換えプラスミドの制限部位の配置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子挿入により分裂したストレプトマイセス・クラブリゲラスから由来のlat遺伝子を含有する組換えプラスミド。
【請求項2】
分裂したlat遺伝子を有し、図1(a)に示される制限部位の配置のpCF002と称される組換えプラスミド;および
分裂したlat遺伝子を有し、図1(b)に示される制限部位の配置のp486latapと称される組換えプラスミド;
より選択される、請求項1記載のプラスミド。
【請求項3】
セファロスポリン経路においてL−リジンのL−α−アミノアジピン酸への変換を妨げることにより、クラバム経路またはその一部およびセファロスポリン経路またはその一部の両方の経路を有する微生物において増量のクラバムを産生して単離するクラバムの生成方法であって、請求項1または2記載の組換えプラスミドを用いてlat遺伝子を分裂することでlat遺伝子の機能を除去することにより上記変換工程を妨げる、方法。

【図1a】
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【図1b】
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【公開番号】特開2007−289193(P2007−289193A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140125(P2007−140125)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【分割の表示】特願平9−502607の分割
【原出願日】平成8年6月6日(1996.6.6)
【出願人】(595047190)スミスクライン ビーチャム ピー エル シー (34)
【出願人】(399050976)ザ・ガバナーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・アルバータ (5)
【氏名又は名称原語表記】The Governors of the University of Alberta
【Fターム(参考)】