説明

クラミジア・トラコマチスRNAの検出方法及び検出試薬

【課題】 クラミジア・トラコマチスを迅速かつ高感度に検出すること。
【解決手段】 クラミジア・トラコマチス 23S rRNA中の特定塩基配列に対して、ストリンジェントな条件でハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマー(該プライマーのいずれか一方はその5’末端にプロモーター配列が付加されている)からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせを用い、逆転写酵素により、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを生成し、該2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼによりRNA転写産物を生成し、該RNA転写産物が引き続き前記逆転写酵素によるDNA合成の鋳型となって前記2本鎖DNAを生成する工程からなるRNA増幅工程において、増幅されたRNA産物量を、増幅されたRNAと相補的2本鎖を形成するとシグナル特性が変化するように設計された核酸プローブにて測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迅速、かつ高感度にクラミジア・トラコマチスRNAを検出する方法、及び該方法を用いた検出試薬に関する。本発明は、臨床検査、公衆衛生、食品検査、食中毒検査の分野に有用である。
【背景技術】
【0002】
クラミジア・トラコマチスはクラミジア科に属するグラム陰性の偏性細胞内寄生性の真性細菌であり、性器クラミジア感染症の原因微生物である。性器クラミジア感染症は、主に性行為で感染し、男性では尿道炎や精巣上体炎を、女性では子宮頚管炎や骨盤内炎症性疾患を発症するが、特別な症状が見られない場合(無症候性感染)も多い。
【0003】
日本において性器クラミジア感染症は、厚生労働省により定点把握4疾患に指定されており、発生動向調査が行われている。それによると、男性においては、性器クラミジア感染症が定点把握4疾患の約40%を占め、女性においては、約60%と多い疾患である(非特許文献1)。性器クラミジア感染症を放置すると、精巣上体炎や骨盤内炎症性疾患へと進行することあり、不妊症や流早産の原因となる場合や、分娩時の産道感染により、新生児結膜炎や新生児肺炎を発症することがある。そのため、本菌への感染が判明した場合、確実に治療することが必要であり、感染が疑われる患者や妊婦に対し、クラミジア・トラコマチス検査を実施することは大変重要である。
【0004】
従来、臨床的には抗原検査や核酸検査によりクラミジア・トラコマチスの検出が行われてきた。抗原検査は、クラミジア科、又はクラミジア・トラコマチスに特異的な抗原を検出する方法であり、手技が簡単で、比較的迅速に結果が得られる。核酸検査は、クラミジア・トラコマチスに特異的な遺伝子(DNAやRNA)を検出する方法であり、DNAを増幅して検出するPCR法やSDA法(starand displacement amplification)、RNAを増幅し検出するTMA法(transcription mediated amplification)(特許文献1)等がある。いずれの核酸検査も、感度、特異性ともに従来の抗原検査と比較して高く、また、非侵襲的である尿検体を用いることができるという特徴がある。
【0005】
クラミジア治療のためには、被験者から検体(尿、尿道擦過物、子宮頚管擦過物、咽頭擦過物等)を採取後、極めて迅速に検出結果を得て、それに基づいて適切な薬剤を処方することが重要である。しかし、既存の核酸検査では、検査結果を得るまでに概ね4から5時間程度を要する。
【0006】
また近年、北欧においてcryptic plasmid DNAの一部が欠損したクラミジア・トラコマチスの変異株(CTスウェーデン株)が発見されたが(非特許文献2)、既存の核酸検査の中にはこのような変異株のDNA欠損部位を増幅領域とするものがあり、この変異株を検出することができない(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3241717号公報
【特許文献2】特開2000−14400号
【特許文献3】特開2001−37500号
【特許文献4】特許2650159号公報
【特許文献5】特許3152927号公報
【特許文献6】特開平8−211050号公報
【特許文献7】特開2001−13147号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小野寺昭一(2009)、日本臨牀、Vol.67、No.1、5−15
【非特許文献2】Ripa.T. et al.(2006)、Eurosurveillance Vol.11、(45)
【非特許文献3】病原体検出情報、Vol.29、No.9(No.343)September 2008、9−10
【非特許文献4】Ishiguro T.et al.(2003)Anal.Biochem.,314,77−86
【非特許文献5】Ishiguro T.et al.(1996)Nucleic Acids Res.,24,4992−4997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、核酸検査が有する高感度、高特異性という特徴を損なうことなく、短時間のうちに検出結果が得られる方法を提供することにある。また前記に加え、本発明はクラミジア・トラコマチスの遺伝子において、前記したような変異が生じにい部分を検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、クラミジア・トラコマチスの遺伝子において、変異が生じにくい部分を見出すとともに、当該部分を短時間のうちに高感度かつ高特異的に検出可能な方法を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、前記目的を達成する本発明は、試料中のクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を増幅し検出する方法であって、前記特定塩基配列の増幅が、配列番号10に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなる第一のプライマー、及び、配列番号19に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなる第二のプライマーを用いてなされることを特徴とする、クラミジア・トラコマチス23SrRNAの特定塩基配列を増幅し検出する方法である。また本発明は、特に好ましく以下の工程を含むことを特徴とする、クラミジア・トラコマチス23SrRNAの特定塩基配列を増幅し検出する方法である。
【0011】
(1)クラミジア・トラコマチス 23S rRNA中の特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーを前記RNAにハイブリダイズさせ、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記RNAを鋳型として前記第二プライマーを伸張し、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成して前記RNAとのRNA−DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、前記RNA−DNA2本鎖のRNAを分解して1本鎖DNAを生成する工程、
(3)前記特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーを前記(2)で得られる1本鎖DNAにハイブリダイズさせ、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記DNAを鋳型として前記第一プライマーを伸張して(ここで第二のプライマー又は第一のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている)、特定塩基配列又は特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型としてRNA転写産物を生成させる工程、
(5)該RNA転写産物を前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型とすることで、RNA転写産物を連鎖的に生成させる工程、及び、
(6)生成したRNA転写産物量を測定する工程。
【0012】
そして本発明は、試料中のクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を増幅し検出するための試薬であって、配列番号6又は7に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれた第一のプライマー、配列番号17又は18に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれた前記第二のプライマーを含むことを特徴とする。以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明では、食品、飲料水、湖沼や河川の水等の環境水、糞便、嘔吐物、そして鼻腔、咽頭、尿道、子宮頚管等のぬぐい液やうがい液、更には血液、尿、その他の分泌液、体液又は組織洗浄液等の生体由来試料を試料として実施することができる。また本発明では、前記した生体試料等から核酸を予め抽出し、これを適当な溶液に懸濁したもの等を試料とすることもできる。また本発明では、後述する酵素反応等を阻害し得る妨害物質を事前に除去等しておくことが好ましい。
【0014】
本発明の検出対象であるクラミジア・トラコマチスは、クラミジア科菌に属するものであるが、クラミジア科菌には性器クラミジア感染症の原因菌であるクラミジア・トラコマチスの他に、クラミジア肺炎の原因菌であるクラミドフィラ・ニューモニエ、オウム病の原因菌であるクラミドフィラ・シッタシなど、ヒトへの感染性を有する種類が複数種知られている。これらのクラミジア科菌の中から検出対象であるクラミジア・トラコマチスを高感度で高特異的に検出するために、本発明は、クラミジア・トラコマチスの細胞当たりの含有量が多いリボゾーマルRNA(rRNA)中のクラミジア・トラコマチスに特異的な部分を検出するものである。またかかる部分は、前述したような菌株自体の変化に際しても、その保存性が比較的高いことから、本発明では、クラミジア・トラコマチスに変異が生じたとしてもなおも検出が可能である。
【0015】
本発明がクラミジア・トラコマチスの検出のために増幅及び検出対象とするそのrRNAの「部分」とは、クラミジア・トラコマチスの23S rRNAに見いだされ、後述する第一のプライマーと相同領域の5’末端から後述する第二のプライマーと相補領域の3’末端までの部分(以下、この部分を「特定塩基配列」という)である。本発明を実施することにより、試料中にクラミジア・トラコマチスが存在する場合、特定塩基配列を有する核酸が増幅される。従って、増幅工程において、又は、増幅工程の後に、特定塩基配列を有する核酸が存在するか否かを検出することにより試料中にクラミジア・トラコマチスが存在したか否かを知ることができ、更にはその初期量(クラミジア・トラコマチスの23S rRNAの初期コピー数)をも知ることができる。
【0016】
前記した、本発明における第一のプライマーは、配列番号10に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなるものである。かかる第一のプライマーの中でも、配列番号6又は7に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなるものが好ましく、特に好ましくは配列番号6又は7に記載の配列に相補的な配列からなるものである。
本発明でいう「ストリンジェントな条件」とは、通常の状態と比較してDNA同士又はDNAとRNAが二重鎖を形成し難い条件をいうが、例えば、42℃で50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム及び75mMクエン酸ナトリウムが共存する条件等が挙げられる。従って、配列番号10に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列、又は、配列番号6又は7に記載の塩基配列、にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列からなる第一のプライマーとしては、それら塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列に加え、当該塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション可能な範囲で塩基の置換、欠失、付加、修飾等が生じた塩基配列からなるものであっても良い。
【0017】
第一のプライマーの長さ(塩基数)は特に限定されないが、クラミジア・トラコマチスの23S rRNAに対する十分な特異性を得るためには8塩基から50塩基であり、好ましくは10塩基から50塩基、特に好ましくは15塩基から50塩基である。
【0018】
本発明における第二のプライマーは、配列番号19に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなる。かかる第二のプライマーの中でも、配列番号17又は18に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなるものが好ましく、特に好ましくは配列番号17又は18に記載の配列に相補的な配列からなるものである。第二のプライマーについても配列番号19に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列、又は、配列番号17又は18に記載の塩基配列、に対して完全に相補的な塩基配列に加え、当該塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション可能な範囲で塩基の置換、欠失、付加、修飾等が生じた塩基配列からなるものであっても良い。第二のプライマーの長さ(塩基数)も特に限定されないが、クラミジア・トラコマチスの23S rRNAに対する十分な特異性を得るためには8塩基から50塩基であり、好ましくは10塩基から50塩基、特に好ましくは15塩基から50塩基である。
【0019】
以上に説明した第一のプライマーと第二のプライマーを使用する本発明の方法は、PCR(Polymerase Chain Reaction)法又はLAMP法といった特定塩基配列をDNAとして増幅する方法においてこれらプライマーを用い、クラミジア・トラコマチスを検出する方法を含む。PCR法等の原理及び詳細な実施方法は既に広く知られており、本発明においてもプライマー対として前記第一のプライマー及び第二のプライマーを使用し、その第一段階でRNAの逆転写をする操作を実施する以外、特別の条件はない(いわゆるRT−PCR法又はRT−LAMP法)。PCR法では、試料中に特定塩基配列、すなわちクラミジア・トラコマチスの23S rRNAが存在した場合、特定塩基配列を含むDNA及び特定塩基配列の相補的配列を含むDNAが増幅される。従って、増幅の工程で、又は、増幅工程の終了後に、特定塩基配列又は特定塩基配列の相補的配列の検出を行うことにより、クラミジア・トラコマチスの存在等を検出することができる。
【0020】
前記検出は、従来公知の方法に従えば良い。従来公知の方法として、電気泳動による方法、液体クロマトグラフィーによる方法、検出可能な標識で標識された核酸プローブによるハイブリダイゼーション法等を例示できる。核酸プローブによる方法としては、具体的に核酸配列(又はその相補的配列)に相補的な核酸を固定した固相と、検出可能なシグナルを生成する標識物質と特定塩基配列(又はその相補的配列)に相補的な核酸との結合物とを用い、それぞれをハイブリダイゼーションさせて特定塩基配列(又はその相補的配列)を含む複合体を形成させ、複合体形成に関与していない標識物質を除去(いわゆるB/F分離)した後、除去されなかった標識物質を検出する方法を例示することができる。中でも、検出対象となる特定塩基配列(又はその相補的配列)とハイブリダイズすることによって光学特性が変化するように設計された標識プローブを使用することが、前記したB/F分離の操作の省略等、操作の簡便、迅速化等の観点から好ましい。またこのような標識プローブではB/F分離が不要なため、密閉した容器中で検出を実施することが可能となり、容器の開閉に伴う核酸増幅産物の環境中への飛散を防止することも可能である。
【0021】
標識プローブとしては、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した蛍光標識プローブ、インターカレーター性蛍光色素で標識したインターカレーター標識プローブ等が例示できる。インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブで、検出対象である特定塩基配列(又はその相補的配列)と相補的な2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素部分が当該相補的2本鎖部分にインターカレートしてその蛍光特性(例えば蛍光強度)が変化するように設計された核酸プローブを用いる方法が特に好ましい。
インターカレーター性蛍光色素としては特に限定されないが、汎用されているオキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、ヘミシアニン又はこれらの誘導体を使用することができる。
【0022】
例えばオキサゾールイエローの場合、2本鎖DNAにインターカレートすることによって510nmの蛍光(励起波長490nm)が顕著に増加することが既知である。このような色素をオリゴヌクレオチドと結合するには、例えばオリゴヌクレオチドの3’末端のリン酸ジエステル部又は塩基部分に適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素と結合すれば良い。なお、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブを、例えば後述する本発明の好ましい方法における工程(1)から工程(4)の際に共存させる場合には、オリゴヌクレオチドの3’末端の水酸基からの伸長を防止する目的で該3’末端の水酸基を修飾することが好ましい。
【0023】
第一のプライマーと第二のプライマーを使用する本発明の他の方法は、特定塩基配列をRNAとして増幅する方法においてこれらプライマーを用い、クラミジア・トラコマチスを検出する方法である。特定塩基配列(RNA)をRNAとして増幅する方法としては、例えばTRC法(特許文献2及び3、非特許文献4)、NASBA法(特許文献4及び5)、TMA法を例示することができる。これらの方法は、極めて迅速にクラミジア・トラコマチスを増幅し検出することが可能であり、しかも一定温度条件下、単に試薬が投入された容器に一定量の試料を投入するのみで実施可能であることに加えて、試料中に種々のDNAが混在したとしてもそれらの影響を受けないなど、本発明の特に好適な態様である。
【0024】
この本発明において特に好適な態様の方法は、以下の工程を含むことを特徴とするものである。
(1)クラミジア・トラコマチス 23S rRNA中の特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーを前記RNAにハイブリダイズさせ、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記RNAを鋳型として前記第二プライマーを伸張し、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成して前記RNAとのRNA−DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、前記RNA−DNA2本鎖のRNAを分解して1本鎖DNAを生成する工程、
(3)前記特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーを前記(2)で得られる1本鎖DNAにハイブリダイズさせ、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記DNAを鋳型として前記第一プライマーを伸張して(ここで第二のプライマー又は第一のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている)、特定塩基配列又は特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型としてRNA転写産物を生成させる工程、
(5)該RNA転写産物を前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型とすることで、RNA転写産物を連鎖的に生成させる工程、及び、
(6)生成したRNA転写産物量を測定する工程。
【0025】
本発明において、工程(1)で使用するRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、工程(2)で使用するリボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素、及び工程(3)で使用するDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素は、いずれも公知の酵素であり、種々の酵素を選択することができる。本発明においては、上記酵素としてそれぞれ別個の酵素を使用することも可能であるが、2種以上の活性を併せ持つ酵素を用いることが試薬数の減少等の観点から好ましい。特に好ましくは前記3つの活性を併せ持つ酵素を使用することであり、かかる酵素としてレトロウイルス由来の逆転写酵素を例示することができる。より具体的には、例えば、AMV(Avian Myeloblastosis Virus)逆転写酵素、MMLV(Molony Murine Leukemia Virus)逆転写酵素、RAV(Rous Associated Virus)逆転写酵素、HIV(Human Immunodeficiency Virus)逆転写酵素又はこれらの誘導体(アミノ酸配列に変異を導入することで、活性等を向上したこれらの酵素)を具体的に例示できる。
前記工程(4)で使用するRNAポリメラーゼ活性を有する酵素は、第一のプライマー又は第二のプライマーのいずれかの5’端に付加されたプロモーター配列に対応するものであれば特に制限はない。例えばバクテリアファージ由来のT7 RNAポリメラーゼとそれに対応するプロモーター配列、T3 RNAポリメラーゼとそれに対応するプロモーター配列又はSP6 RNAポリメラーゼとそれに対応するプロモーター配列等を使用すること例示することができる。なお本発明においては、プロモーター配列に転写効率に影響を及ぼすことが知られている転写開始領域を付加する等しても良い。
【0026】
上記の方法において、工程(3)で生成される2本鎖DNAは、RNAポリメラーゼのプロモーター配列下流のセンス鎖又はアンチセンス鎖に特定塩基配列を有する。具体的には、その5’端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加された第二のプライマーを使用した場合、工程(3)で生成される2本鎖DNAは、RNAポリメラーゼのプロモーター配列下流のアンチセンス鎖に特定塩基配列を有し、その5’端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加された第一のプライマーを使用した場合、工程(3)で生成される2本鎖DNAは、RNAポリメラーゼのプロモーター配列下流のセンス鎖に特定塩基配列を有することになる。この結果、前者の場合には工程(4)において特定塩基配列に相補的な配列のRNAが生成し、後者の場合には工程(4)において特定塩基配列に相同な配列のRNAが生成する。そして、工程(4)で生成されたRNAは、工程(1)におけるcDNA合成の鋳型となって工程(1)から工程(5)が連鎖的に生じ、RNA転写産物が連鎖的に生成することになる。
【0027】
このような連鎖反応を進行させるために、本発明の方法は、前記各酵素がその活性を発揮するために必要な条件で実施する。そのような条件としては、例えば、反応に際して適当な緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸、リボヌクレオシド−三リン酸を使用することが重要である。また例えば、増幅反応の効率を調節するためにジメチルスルホキシド(DMSO)、ジチオスレイトール(DTT)、ウシ血清アルブミン(BSA)及び糖等を使用することが好ましい。またその他の条件として、例えばAMV逆転写酵素やT7 RNAポリメラーゼを使用する場合、35℃から65℃の範囲に反応温度を設定することが好ましく、40℃から50℃の範囲で設定することが特に好ましい。本発明の好ましい態様では、RNAの連鎖的増幅は一定温度で進行し、逆転写酵素及びRNAポリメラーゼが活性を発揮するために適当な温度に反応温度を設定することが可能である。
【0028】
本発明の前記好ましい方法において、第一のプライマーの5’端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加し、工程(4)において特定塩基配列に相同な配列のRNAを生成する場合には、前記工程(3)に先立ち、クラミジア・トラコマチス23S rRNAを、その第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位、即ち、クラミジア・トラコマチス23S rRNA中の特定塩基配列内であって、第一のプライマーと相同な領域の5’末端を含む部分配列である。切断の方法としては、例えば切断する部分配列からクラミジア・トラコマチス23S rRNAの5’方向に隣接する領域に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドとリボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素を使用することが好ましい。当該オリゴヌクレオチドとしては、より具体的には切断する部分配列からクラミジア・トラコマチス23S rRNAの5’方向に隣接する領域に相補的な15塩基程度の塩基配列を有し、かつ、その3’末端にある水酸基が当該オリゴヌクレオチドを起点とする伸長反応が生じないよう例えばアミノ化等、適当に修飾されているものを例示できる。このオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせてRNA−DNA2本鎖を生成させ、リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素を作用させてRNA−DNAハイブリッドのRNA部分を消化することで、クラミジア・トラコマチス23S rRNAを前記部分で切断することができる。このようにクラミジア・トラコマチス23S rRNAをその特定塩基配列の5’末端部位で切断することにより、工程(3)におけるDNAを鋳型とする第一のプライマーの3’端の伸長と同時に、当該DNAの3’ 末端の伸長によってDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を形成して、結果として機能的な2本鎖DNAプロモーター構造を形成できるからである。
【0029】
以上に説明した本発明の好ましい方法の中でも特に以下の(1)から(6)の工程を含み、しかも、工程(3)に先だち、第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位と重複して該部位から5’方向に隣接する領域に相補的な、配列番号5に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなるオリゴヌクレオチドとリボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、前記特定塩基配列の5’末端部位でクラミジア・トラコマチス 23S rRNAを切断する工程を実施することを特徴とする方法は、クラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を迅速、高感度かつ高特異性をもって増幅し検出する方法として好ましい方法である。
【0030】
(1)クラミジア・トラコマチス 23S rRNA中の特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーを前記RNAにハイブリダイズさせ、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記RNAを鋳型として前記第二プライマーを伸張し、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成して前記RNAとのRNA−DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、前記RNA−DNA2本鎖のRNAを分解して1本鎖DNAを生成する工程、
(3)配列番号6又は7に記載の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれた第一のプライマーを前記(2)で得られる1本鎖DNAにハイブリダイズさせ、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記DNAを鋳型として前記第一プライマーを伸張して(ここで第一のプライマーの5’末端にはRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている)、特定塩基配列又は特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型としてRNA転写産物を生成させる工程、
(5)該RNA転写産物を前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型とすることで、RNA転写産物を連鎖的に生成させる工程、及び、
(6)生成したRNA転写産物量を測定する工程。
【0031】
本発明の好ましい一態様では、切断用オリゴヌクレオチドとして、クラミジア・トラコマチス 23S rRNAの一部に相同な配列番号5に記載の塩基配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれるオリゴヌクレオチドを用いることができる。
本発明のより好ましい一態様では、切断用オリゴヌクレオチドが配列番号1又は2に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれたオリゴヌクレオチドからなる。
【0032】
なお、本発明中の配列番号5、10、19、22はChlamydia trachomatis D/UW−3/CX(GenBank No.NC_000117)の部分配列の相同鎖もしく相補鎖である。
本発明中の標的RNAとは、RNA転写産物上の特定塩基配列のうち、前記プライマーとの相同あるいは相補領域以外の配列を示し、蛍光色素で標識された核酸プローブとの相補的な結合が可能である配列を有する。よって、蛍光色素で標識された核酸プローブは、本発明中の特定塩基配列の一部と相補的な配列となる。
【0033】
本発明中におけるRNA転写産物量の測定を、標的RNAと相補的な2本鎖を形成すると蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブ共存下で前記蛍光特性の変化を測定することによってなされることを特徴とする方法を用いることで、簡便性や迅速性、特異性が大きく向上した。
【0034】
より好ましい態様としては、蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブは、インターカレーター性蛍光色素をリンカーを介して結合させたインターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブであることが挙げられる。
【0035】
本発明の一態様として、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブが、クラミジア・トラコマチス 23S rRNAの一部に相補的な配列番号22に記載の塩基配列、あるいはその相補的配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列のオリゴヌクレオチドを用いることができる。
【0036】
本発明の好ましい一態様では、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブが、クラミジア・トラコマチス 23S rRNAの一部に相補的な配列番号20及び21に記載の配列、あるいはその相補的配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれたオリゴヌクレオチドからなる。
【0037】
本発明の一態様として、切断用オリゴヌクレオチドは、配列番号5に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列であるオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチドからなり、第一のプライマーは、その5’末端にプロモーター配列を有しており、配列番号10に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列であるオリゴヌクレオチドからなり、第二のプライマーは配列番号19に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列であるオリゴヌクレオチドからなり、さらに、インターカレーター性蛍光色素標識核酸プローブは、配列番号22に記載の塩基配列、あるいはその相補的配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列であるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
【0038】
より好ましくは、前記切断用オリゴヌクレオチドが配列番号1及び2に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれたオリゴヌクレオチドからなり、また、第一のプライマーは、配列番号6又は7に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれたオリゴヌクレオチドからなり、第二のプライマーは配列番号17及び18に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれたオリゴヌクレオチドからなる。
【0039】
さらに、好ましくは、前記切断用オリゴヌクレオチドが配列番号1及び2に記載の配列の相補鎖から選ばれたオリゴヌクレオチドからなり、第一のプライマーは、配列番号6又は7に記載の配列の相補鎖から選ばれたオリゴヌクレオチドからなり、さらに、第二のプライマーは配列番号17及び18に記載の配列の相補鎖から選ばれたオリゴヌクレオチドからなる。
【0040】
本発明の一態様として、試料に少なくとも、5’末端にT7プロモーター配列を有する第一のプライマー(配列番号10に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの5’末端にT7プロモーター配列(配列番号23)を付加した配列、第二のプライマー(配列番号19に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド)、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブ(配列番号22に示す配列、あるいはその相補的配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能である配列)、切断用オリゴヌクレオチド(配列番号5に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド)、AMV逆転写酵素、T7 RNAポリメラーゼ、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸、リボヌクレオシド−三リン酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む増幅試薬を添加し、反応温度35から65℃(好ましくは40から50℃)の一定温度で反応させると同時に反応液の蛍光強度を経時的に測定する方法を提供する。
【0041】
前記態様において、最も好ましくは、前記切断用オリゴヌクレオチドが配列番号1及び2に記載の塩基配列に相補的な配列から選ばれるオリゴヌクレオチドからなり、第一のプライマーは、配列番号6又は7に記載の塩基配列に相補的な配列から選ばれるオリゴヌクレオチドからなり、さらに、第二のプライマーは配列番号17及び18に記載の塩基配列に相補的な配列から選ばれるオリゴヌクレオチドからなる。
【0042】
前記態様においては、蛍光強度を経時的に測定することから有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅及び測定をあわせて通例30分以内で終了することが可能である。
【0043】
また、前記測定試薬に含まれる全ての試料を単一の容器に封入可能な点は特筆すべきである。即ち、一定量の試料をかかる単一の容器に分注するという操作さえ実施すれば、その後は自動的にクラミジア・トラコマチス 23S rRNAを増幅し検出することができる。
この容器は、例えば蛍光色素が発する信号を外部から測定可能なように、少なくともその一部分が透明な材料で構成されてさえいれば良く、試料を分注した後に密閉することが可能なものはコンタミネーションの防止のうえで特に好ましい。
【0044】
前記態様のRNA増幅・測定方法は、一段階、一定温度で実施可能であるため、RT−PCRに比べて簡便で自動化に適した方法であるといえる。本発明によりクラミジア・トラコマチス 23S rRNAを高特異的、高感度、迅速、簡便、一定温度、かつ一段階の同時測定が可能となった。
【発明の効果】
【0045】
本発明は、
(1)クラミジア・トラコマチス 23S rRNA中の特定塩基配列を鋳型とし、第一のプライマー及び第二のプライマー、DNAポリメラーゼなどの核酸重合酵素を用いて、前記特定塩基配列を含む核酸を増幅する工程、
(2)該核酸増幅産物を測定する工程、
からなるクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの検出方法において、前記第一のプライマー配列番号10に記載の配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列であるオリゴヌクレトチドからなり、かつ第二のプライマーが配列番号19に記載の配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれた少なくとも1種類以上のオリゴヌクレトチドからなることを特徴としている。
本発明により、試料中に含まれる微量なクラミジア・トラコマチス 23S rRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず迅速、かつ高感度に増幅、検出することが可能となった。
【0046】
さらに、プロモーター配列を有する第一のプライマー、又は第二のプライマーを用いて得られるRNA転写産物量を測定する工程において、標的RNAと相補的2本鎖を形成するとシグナル特性が変化するように設計された核酸プローブを共存させ、増幅されたクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定核酸に由来する蛍光強度の増加を経時的に測定することにより、クラミジア・トラコマチス 23S rRNAの検出を簡便、迅速、かつ高感度に行なうことが可能となった。
【0047】
本発明の検出方法を用いたクラミジア・トラコマチスの検出試薬は、試料中に含まれているクラミジア・トラコマチスを高感度に検出することができ、さらに、従来技術と比較すると圧倒的に迅速である、という特徴を有している。そのため、検査結果を迅速に医師に提示することが可能となり、感染拡大防止、及び、適切な薬剤の投与による耐性菌の発生の防止に本発明が寄与するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例2で作製したインターカレーター性蛍光色素標識核酸プローブの構造。B1、B2、B3、B4は塩基を示す。Ishiguroら(非特許文献5)の方法に従いリン酸ジエステル部分にリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素(オキサゾールイエロー)を結合させたプローブ。なお、3’末端の水酸基からの伸長反応を防止するために3’末端の水酸基はグリコール酸修飾がなされている。
【図2】本発明で使用した標準RNAの塩基配列と、GenBank No.NC_000117の23SrRNA遺伝子領域(878039から880902)の塩基配列の対応図である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0050】
実施例1 標準RNAの調製
後述の実施例で使用したクラミジア・トラコマチス 23S rRNA(以降、標準RNAと表記)は(1)から(2)に示す方法で調製した。
(1)クラミジア・トラコマチスUW−3/Cx株(ATCC No.VR−885)のRNA抽出物を用い、23S rRNA塩基配列領域の2本鎖DNAを調製した(なお、該DNAの5’末端側にはSP6プロモーターを付加している)。
(2)(1)で調製した2本鎖DNAを、定法に従い、pUC19プラスミドのマルチクローニングサイトに挿入し、大腸菌JM109株を形質転換した。
(3)(2)の形質転換大腸菌の培養物からプラスミドを抽出し、挿入DNAの3’末端側を制限酵素で消化し、直鎖状のDNAを調製した。
(4)(3)で調製したDNAを鋳型として、SP6 RNAポリメラーゼを用いてインビトロ転写を実施し、引き続きDNase I処理により前記2本鎖DNAを完全消化した後、RNAを精製し、標準RNAを調製した。該RNAは260nmにおける吸光度を測定して定量した。
【0051】
なお、標準RNAは、クラミジア・トラコマチスの23S rRNAの塩基配列を含み、全長は約3000塩基(該RNAの5’末端にはSP6プロモーターに由来する8塩基が付加されている)である。
【0052】
また、今回調製した標準RNAの塩基配列を解析した結果、プライマー・プローブ設計に用いたGenBank No.NC_000117の23SrRNA遺伝子領域(878039から880902)の塩基配列に対し、完全一致していることを確認した。
【0053】
実施例2 インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブの調製
インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブを調製した。非特許文献5に記載の方法で、
配列番号20に記載の配列の5’末端から10番目のAと11番目のTの間、
配列番号21に記載の配列の5’末端から10番目のCと11番目のGの間、
のリン酸ジエステル部分に、それぞれリンカーを介してオキサゾールイエローを結合させたオキサゾールイエロー標識核酸プローブを調製した(図1)。
【0054】
実施例3 クラミジア・トラコマチス 23S rRNA検出用プライマーセットの検討
表1に示した組み合わせの第一のプライマー、第二のプライマー、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブ(以降、INAFプローブと表記)、切断用オリゴヌクレオチドを用いて、(1)から(4)に示す方法で、標準RNAの測定を行い、検出性能、特異性等について評価を行った。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
(1)前記標準RNAをRNA希釈液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA、0.25U/μL リボヌクレアーゼインヒビター、5.0mM DTT)を用いて、10コピー/5μLになるように希釈し、これらをRNA試料として用いた。
(2)以下の組成の反応液20μLを0.5mL容量PCR用チューブ(Individual Dome Cap PCR Tube、SSI製)に分注し、これに前記RNA試料5μLを添加した。
【0058】
反応液の組成:濃度は酵素液添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris−HCl緩衝液(pH8.6)
17mM 塩化マグネシウム
100mM 塩化カリウム
1mM DTT
各0.25mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各3.0mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.6mM ITP
各0.5μM 第一のプライマー:該プライマーは、各配列番号記載の塩基配列の5’末端にT7プロモータ配列(配列番号23)が付加されている
0.5μM 第二のプライマー
25nM INAFプローブ:該プローブは実施例2で調製したもの
各0.08μM 切断用オリゴヌクレオチド:該オリゴヌクレオチドの3’末端の水酸基はアミノ基で修飾されている
6U リボヌクレアーゼインヒビター(タカラバイオ製)
13.0% DMSO
(3)上記の反応液を、43℃で5分間保温後、以下の組成で、予め43℃で2分間保温した酵素液5μLを添加した。
【0059】
酵素液の組成:反応時(30μL中)の最終濃度
2.0% ソルビトール
6.4U AMV逆転写酵素 (ライフサイエンス製)
142U T7 RNAポリメラーゼ (インビトロジェン製)
3.6μg 牛血清アルブミン
(4)引き続きPCRチューブを直接測定可能な温調機能付き蛍光分光光度計を用い、43℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度(励起波長470nm、蛍光波長520nm)を経時的に30分間測定した。
【0060】
酵素添加時を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度比で割った値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした結果を表1から7に示した。
【0061】
表1、2、3は標準RNAを、表5はオウム病クラミジア標準RNA(GenBank No.U68447)及び肺炎クラミジア(TW−183株)核酸抽出物を、表6はナイセリア属菌核酸抽出物をそれぞれ使用した。
【0062】
クラミジア科菌及びナイセリア属菌の核酸抽出には、RNeasy mini kit(キアゲン社製)を使用した。
表中のNegaとは、標的核酸の代わりに注射用蒸留水を加えて反応させたものである。表中における「判定」とは、標準RNAの検出時間、Negaの測定結果、蛍光強度比などから総合的に判断したものであり、良好なものから順番に「◎」「○」「△」「×」と記載した。
【0063】
表3は、表1の組合せの中で、良好な性能であると判断したG、P、AC、AE、AK、ASのオリゴヌクレオチドの組合せをさらに選抜するため、30コピー/5μLの標準RNAを測定したときの結果を示した。
【0064】
表4は、表3の組み合わせの中で、良好な性能であると判断したG,P,AKの組み合わせのオリゴヌクレオチドをさらに選抜するため、10、30、10コピー/5μLの標準RNAを測定したときの結果を示した。
【0065】
表5は、表3の組み合わせの中で、良好な性能であると判断したG,P,AKの組み合わせのオリゴヌクレオチドをさらに選抜するため、1010コピー/5μLのオウム病クラミジア標準RNA、及び肺炎クラミジア核酸抽出物を測定したときの結果を示した。
【0066】
表6は、表1から5までの検討で選抜された、最も性能の良いオリゴヌクレオチドの組み合わせを示したものである。
【0067】
表7は、Pの組み合わせのオリゴヌクレオチドを用い、クラミジア・トラコマチスとともに性感染症の原因菌として一般的な淋菌、及び病原性は有しないが、咽頭、口腔内の常在菌として知られているナイセリア属菌に対する交差反応性を試験したものである。淋菌及びナイセリア属菌は、10CFU/testとなるように濃度を調製した。
なお、全ての表において、N.D.とは酵素を添加して30分後の蛍光強度比が1.2未満(陰性判定)であった試料を意味する。また、Negaとは、滅菌済み蒸留水をサンプルとして測定したものである。また、ゲル電気泳動における+の数は、増幅産物に由来するバンドの濃さの程度を示したものであり、+の数が多いほど、増幅産物量が多く生成し、−は、増幅産物が生成しなかったことを表している。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
10, 30, 10^2コピー/test
【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
【表7】

【0074】

表1から表5に示した検討結果より、クラミジア・トラコマチス 23S rRNAを検出するのに好適なオリゴヌクレオチド配列が明らかになったとともに、迅速かつ高感度、高特異的に検出することが可能なオリゴヌクレオチドの組合せを見出すことに成功した。
【0075】
表1に示した、AからAVのオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いた場合の、クラミジア・トラコマチス標準RNAの検出時間、蛍光強度比、及びNegaの測定結果より、オリゴヌクレオチドの組み合わせG、P、AC、AE、AK、ASが良好であると判断された。
【0076】
切断用オリゴヌクレオチドは、配列番号1、2、3、4のそれぞれに相補的な配列が使用できることから、それらに対応した配列を含む、配列番号5にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列が使用できることが分かった。
【0077】
第一のプライマーは、配列番号6、7、8,9のそれぞれに相補的な配列が使用できることから、それらに対応した配列を含む、配列番号10にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列が使用できることが分かった。
【0078】
第二のプライマーは、配列番号15、17、18のそれぞれに相補的な配列が使用できることから、それらに対応した配列を含む、配列番号19にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列が使用できることが分かった。
【0079】
INAFプローブは、配列番号20、21に記載の配列が使用できることから、それらに対応した配列を含む、配列番号22に示された配列、あるいはその相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列が使用できることが分かった。
【0080】
すなわち、切断用オリゴヌクレオチドとして、配列番号5にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列を用い、第一のプライマーとして、配列番号10にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列を用い、第二のプライマーとして、配列番号19にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列を用い、INAFプローブとして、配列番号22にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列、又はその相補鎖を用いることで、クラミジア・トラコマチス標準RNAを特異性良く、迅速に増幅し検出できることが分かった。
【0081】
表3より、表1で選抜された6つの組み合わせの中から、検出感度か特に良好である3つの組み合わせ(G,P,AK)を選抜することができた。なお、AC,AE,ASの組み合わせは、表2の実験ではNegaの立ち上がりは見られなかったにも関わらず、表3の実験ではNegaの立ち上がりが見られた。しかしながら、いずれの組み合わせのNegaの蛍光強度比も、Posi(30コピ−/test)の蛍光強度比よりも十分に小さいことが分かる。そのため、これらの組み合わせは、閾値を適切に調整することで使用は可能と考えられる。
【0082】
表4は、表3で選抜された3つの組み合わせを用い、標準RNAの検出感度を比較したものである。いずれの組み合わせも、検出時間に差が見られるものの、いずれの組み合わせも10コピー/testまで検出することが可能であり、最良の組み合わせを選抜するには到らなかった。
【0083】
表5は、表3で選抜された3つの組み合わせを用い、オウム病クラミジア標準RNA、及び肺炎クラミジア培養菌体の核酸抽出物を測定したものである。オウム病クラミジア標準RNAは、いずれの組み合わせでも、検出されなかったが、肺炎クラミジア核酸抽出物は、AKの組み合わせで陽性化が見られた。組み合わせG、Pは、どちらを用いても陰性であり、クラミジア・トラコマチスに高い特異性を有していることが分かった。
しかしながら、反応液のゲル電気泳動分析の結果、組み合わせGとPでは、増幅産物の生成量に差が見られることが分かった。
【0084】
表6に、最終的に選抜されたオリゴヌクレオチドの組み合わせを記載した。記載の組み合わせのオリゴヌクレオチドを含む検出試薬を使用することで、クラミジア・トラコマチスを迅速かつ高感度に検出することが可能であることが分かった。
【0085】
表7は、オリゴヌクレオチドの組み合わせPを用い、淋菌を含むナイセリア属菌の核酸抽出物に対する反応性を評価したものであり、試験した全ての核酸抽出物に対して陰性であり、非常に高い特異性を有していることが分かった。

実施例3 クラミジア・トラコマチス 23S rRNAの検出試薬
【0086】
【表8】

【0087】
実施例2で得られた、好適なオリゴヌクレオチドの組み合わせGとPを用い、クラミジア・トラコマチスを迅速かつ高感度に測定可能な検出試薬の作製を試みた。
実施例2に記載の試薬組成を調製し、クラミジア・トラコマチス検出試薬を2種類(オリゴヌクレオチドの組み合わせGとP)作製した。
クラミジア・トラコマチス(UW−3/Cx株)をHela細胞に感染させ、十分にクラミジア・トラコマチスが増殖したものから抽出したRNAを、上記のクラミジア・トラコマチス検出試薬で測定を実施した。
表中の10^−2、10^−4、10^−6、10^−8とは、抽出物の希釈度合いを表しており、それぞれ、原液を10倍、10倍、10倍、10に希釈したものである。
【0088】
表中のRNA定量値とは、濃度既知の標準RNAを測定し、その検出時間から作成した検量線より求めたRNA濃度(コピー/test)である。
上記試薬の測定結果は、表8に示した通りであり、クラミジア・トラコマチスは、全ての希釈系列でほぼ10分以内で陽性となり、極めて迅速かつ、高感度に測定可能であることが分かった。
【0089】
本実施例に示した方法は、クラミジア・トラコマチスを高感度、高特異的、かつ、非常に迅速に測定することが可能であることが分かった。本実施例に示した方法が、本発明における最も好ましい系であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を増幅し検出する方法であって、前記特定塩基配列の増幅が、配列番号10に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなる第一のプライマー、及び、配列番号19に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなる第二のプライマーを用いてなされることを特徴とする、クラミジア・トラコマチス23SrRNAの特定塩基配列を増幅し検出する方法。
【請求項2】
以下の工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を増幅し検出する方法。
(1)クラミジア・トラコマチス 23S rRNA中の特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーを前記RNAにハイブリダイズさせ、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記RNAを鋳型として前記第二プライマーを伸張し、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成して前記RNAとのRNA−DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、前記RNA−DNA2本鎖のRNAを分解して1本鎖DNAを生成する工程、
(3)前記特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーを前記(2)で得られる1本鎖DNAにハイブリダイズさせ、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記DNAを鋳型として前記第一プライマーを伸張して(ここで第二のプライマー又は第一のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている)、特定塩基配列又は特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型としてRNA転写産物を生成させる工程、
(5)該RNA転写産物を前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型とすることで、RNA転写産物を連鎖的に生成させる工程、及び、
(6)生成したRNA転写産物量を測定する工程。
【請求項3】
前記第一のプライマーが配列番号6又は7に記載の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれたオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号17又は18に記載の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれたオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を増幅し検出する方法。
【請求項4】
前記第一のプライマーが配列番号6又は7に記載の塩基配列に相補的な配列から選ばれたオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号17又は18に記載の塩基配列に相補的な配列から選ばれたオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を増幅し検出する方法。
【請求項5】
(1)クラミジア・トラコマチス 23S rRNA中の特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーを前記RNAにハイブリダイズさせ、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記RNAを鋳型として前記第二プライマーを伸張し、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成して前記RNAとのRNA−DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、前記RNA−DNA2本鎖のRNAを分解して1本鎖DNAを生成する工程、
(3)配列番号6又は7に記載の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれた第一のプライマーを前記(2)で得られる1本鎖DNAにハイブリダイズさせ、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記DNAを鋳型として前記第一プライマーを伸張して(ここで第一のプライマーの5’末端にはRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている)、特定塩基配列又は特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型としてRNA転写産物を生成させる工程、
(5)該RNA転写産物を前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型とすることで、RNA転写産物を連鎖的に生成させる工程、及び、
(6)生成したRNA転写産物量を測定する工程、を含み、ここで工程(3)に先だち、第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位と重複して該部位から5’方向に隣接する領域に相補的な、配列番号5に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列からなるオリゴヌクレオチドとリボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、前記特定塩基配列の5’末端部位でクラミジア・トラコマチス 23S rRNAを切断する工程を実施することを特徴とする、請求項2に記載のクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を増幅し検出する方法。
【請求項6】
試料中のクラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を増幅し検出するための試薬であって、配列番号6又は7に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれた第一のプライマー、配列番号17又は18に記載の塩基配列から連続して選択される15塩基以上の塩基配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列から選ばれた前記第二のプライマーを含むことを特徴とする、クラミジア・トラコマチス 23S rRNAの特定塩基配列を増幅し検出するための試薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−130290(P2012−130290A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285495(P2010−285495)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】