説明

クランクシャフト

【課題】クランクシャフトの耐久信頼性を確保しつつ、クランクシャフトの摺動抵抗を下げることで、内燃機関の燃費を向上させる。
【解決手段】エンジンブロックにメインベアリングを介して回転可能に支持される主軸部分11と、コンロッドにコンロッドベアリングを介して接続される偏心軸部分12とを備えたクランクシャフト10において、主軸部分11に、幅B1が主軸部分11の幅Bmよりも狭く且つ直径D1が主軸部分11の直径Dmよりも小径であり、メインベアリングと係合するためのジャーナル部分17を形成して、主軸部分11を段付き形状とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンブロックにメインベアリングを介して回転可能に支持される主軸部分と、コンロッドにコンロッドベアリングを介して接続される偏心軸部分とを備えたクランクシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)においては、図5及び図6に示すようなクランクシャフトが用いられる。図5及び図6は4気筒の内燃機関に用いられるクランクシャフトの例である。
【0003】
図5及び図6に示すように、クランクシャフト30は、エンジンブロック(エンジンのシリンダブロック)にメインベアリング(図示せず)を介して回転可能に支持され、クランクシャフト30の回転中心Cと同心的に形成されたジャーナル部分(主軸部分)31と、コンロッドにコンロッドベアリング(図示せず)を介して接続され、クランクシャフト30の回転中心Cから偏心させて形成されたピン部分(偏心軸部分)32と、ピン部分32に対するカウンターウェイトとしてのカウンターウェイト部分33とを備えている。ジャーナル部分31、ピン部分32及びカウンターウェイト部分33はそれぞれ、クランクシャフト30に複数形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−315489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、クランクシャフト30の摺動抵抗は、ジャーナル径D1(ジャーナル部分31の直径)、ピン径D2(ピン部分32の直径)が細いほど少ない。
【0006】
摺動抵抗∝直径^3;クランクシャフト30の摺動抵抗は、直径(ジャーナル径D1、ピン径D2)の3乗に比例する。
【0007】
クランクシャフト30の摺動抵抗が下がると内燃機関の燃費が向上するので、ジャーナル径D1、ピン径D2はできる限り細いことが好ましい。
【0008】
しかし実際は、「筒内圧による荷重」及び「慣性力(ピストン、ピストンピン等の往復運動部分)」による応力の限界のためジャーナル径D1、ピン径D2の最小限界があるので、ジャーナル径D1、ピン径D2はさほど細くはできない。また、ジャーナル径D1、ピン径D2を細くするとジャーナル部分31の隅R部34、ピン部分32の隅R部35に生じる応力が高くなる。
【0009】
すなわち、クランクシャフトの耐久信頼性を確保するためには、クランクシャフトの摺動抵抗に関しては妥協をせざるを得なかった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、クランクシャフトの耐久信頼性を確保しつつ、クランクシャフトの摺動抵抗を下げることで、内燃機関の燃費を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジンブロックにメインベアリングを介して回転可能に支持される主軸部分と、コンロッドにコンロッドベアリングを介して接続される偏心軸部分とを備えたクランクシャフトにおいて、前記主軸部分に、前記主軸部分の幅よりも狭く且つ前記主軸部分の直径よりも小径であり、前記メインベアリングと係合するためのジャーナル部分を形成して、前記主軸部分を段付き形状としたものである。
【0012】
前記偏心軸部分に、前記偏心軸部分の幅よりも狭く且つ前記偏心軸部分の直径よりも小径であり、前記コンロッドベアリングと係合するためのピン部分を形成して、前記偏心軸部分を段付き形状としても良い。
【0013】
また、本発明は、エンジンブロックにメインベアリングを介して回転可能に支持される主軸部分と、コンロッドにコンロッドベアリングを介して接続される偏心軸部分とを備えたクランクシャフトにおいて、前記偏心軸部分に、前記偏心軸部分の幅よりも狭く且つ前記偏心軸部分の直径よりも小径であり、前記コンロッドベアリングと係合するためのピン部分を形成して、前記偏心軸部分を段付き形状としたものである。
【0014】
前記主軸部分に、前記主軸部分の幅よりも狭く且つ前記主軸部分の直径よりも小径であり、前記メインベアリングと係合するためのジャーナル部分を形成して、前記主軸部分を段付き形状としても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、クランクシャフトの耐久信頼性を確保しつつ、クランクシャフトの摺動抵抗を下げることで、内燃機関の燃費を向上させることが可能になるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの側面図である。
【図2】図2は、図1のクランクシャフトの要部拡大図である。
【図3】図3(a)は「改良(本発明)」に係る応力計算モデルであり、図3(b)は「現状」に係るクランクシャフトの応力計算モデルである。
【図4】図4は、比較例に係るクランクシャフトの応力計算モデルである。
【図5】図5は、従来のクランクシャフトの側面図である。
【図6】図6は、図5のクランクシャフトの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るクランクシャフト10は、4気筒の内燃機関に適用されるものである。クランクシャフト10は、エンジンブロック(エンジンのシリンダブロック)にメインベアリング(図示せず)を介して回転可能に支持され、クランクシャフト10の回転中心Cと同心的に形成された主軸部分11と、コンロッド(コネクティングロッド)にコンロッドベアリング(図示せず)を介して接続され、クランクシャフト10の回転中心Cから偏心させて形成された偏心軸部分12と、偏心軸部分12に対するカウンターウェイトとしてのカウンターウェイト部分13とを備えている。これら主軸部分11、偏心軸部分12及びカウンターウェイト部分13はそれぞれ、クランクシャフト10に複数形成されている。また、主軸部分11、偏心軸部分12及びカウンターウェイト部分13は、クランクシャフト10に一体に形成されている。
【0019】
また、メインベアリング及びコンロッドベアリングの潤滑のために、潤滑油が流通するオイル通路14がクランクシャフト10内に設けられ、オイル通路14の入口又は出口となるオイル穴15、16がそれぞれ、主軸部分11(後述するジャーナル部分17)及び偏心軸部分12(後述するピン部分21)の外周面に開口させて設けられている。
【0020】
本実施形態では、主軸部分11に、幅B1が主軸部分11の幅(全幅)Bmよりも狭く且つ直径(ジャーナル径)D1が主軸部分11の直径(最大直径)Dmよりも小径であり、メインベアリングと係合するためのジャーナル部分17を形成して、主軸部分11を段付き形状としている。主軸部分11を段付き形状としたことにより、主軸部分11には、ジャーナル部分17よりも大径(Dm)の大径軸部分18がジャーナル部分17に隣接して形成される。本実施形態では、ジャーナル部分17と大径軸部分18とは互いに同心的に形成されている。ジャーナル部分17の幅方向端部には、所定半径の隅R部19が形成されている。大径軸部分18の軸方向端部の内、ジャーナル部分17とは反対側の端部には、所定半径の隅R部20が形成されている。本実施形態では、ジャーナル部分17の隅R部19の半径と大径軸部分18の隅R部20の半径とは等しく設定されている。
【0021】
また、本実施形態では、偏心軸部分12に、幅B2が偏心軸部分12の幅(全幅)Beよりも狭く且つ直径(ピン径)D2が偏心軸部分12の直径(最大直径)Deよりも小径であり、コンロッドベアリングと係合するためのピン部分21を形成して、偏心軸部分12を段付き形状としている。偏心軸部分12を段付き形状としたことにより、偏心軸部分12には、ピン部分21よりも大径(De)の大径軸部分22がピン部分21に隣接して形成される。本実施形態では、ピン部分21と大径軸部分22とは互いに同心的に形成されている。ピン部分21の幅方向端部には、所定半径の隅R部23が形成されている。大径軸部分22の軸方向端部の内、ピン部分21とは反対側の端部には、所定半径の隅R部24が形成されている。本実施形態では、ピン部分21の隅R部23の半径と大径軸部分22の隅R部24の半径とは等しく設定されている。
【0022】
ここで、本実施形態では、ジャーナル径D1(ジャーナル部分17の直径)、ピン径D2(ピン部分21の直径)はそれぞれ、図5及び図6に示すジャーナル径D1(ジャーナル部分31の直径)、ピン径D2(ピン部分32の直径)よりも小さい(細い)ものとする。また、本実施形態では、ジャーナル部分17の幅B1、ピン部分21の幅B2はそれぞれ、図5及び図6に示すジャーナル部分31の幅B1、ピン部分32の幅B2よりも小さい(細い)ものとする。
【0023】
なお、ジャーナル径D1、ピン径D2を細くすると、対応してメインベアリング(すべり軸受)、コンロッドベアリング(すべり軸受)の径も小さくなる。そのため、メインベアリング、コンロッドベアリングの面圧が上昇するので、メインベアリング、コンロッドベアリングの材質アップ(剛性を高める)で対応する必要がある場合もある。
【0024】
また、本実施形態では、主軸部分11(大径軸部分18)の直径Dm、偏心軸部分12(大径軸部分22)の直径Deはそれぞれ、図5及び図6に示すジャーナル部分31の直径(ジャーナル径)D1、ピン部分32の直径(ピン径)D2と等しいものとする。さらに、本実施形態では、主軸部分11の幅(全幅)Bm、偏心軸部分12の幅(全幅)Beはそれぞれ、図5及び図6に示すジャーナル部分31の幅B1、ピン部分32の幅B2と等しいものとする。
【0025】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0026】
図3(a)に、偏心軸部分を段付き形状とした「改良(本発明)」に係るクランクシャフトの応力計算モデルを示し、図3(b)に、「現状」に係るクランクシャフトの応力計算モデルを示す。
【0027】
図3(a)及び図3(b)に示す応力計算モデルでは、クランクシャフトがジャーナル中心(ジャーナル部分の幅方向中間)にて支持され、ピン中心(ピン部分の軸方向中間)に荷重Fを加えている。
【0028】
なお、図3(a)及び図3(b)に示すクランクシャフト各部の寸法は、応力計算をするための一例であり、勿論寸法に関する制約はない。
【0029】
〔ピン部分の応力計算結果〕
図3(a)の「改良(本発明)」の応力計算結果(応力の比率)を〔表1〕に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
つまり、図3(a)の「改良(本発明)」では、図3(a)の〔1〕部(大径軸部分の隅R部)の応力は、図3(b)の「現状」における〔1〕部(ピン部分の隅R部)の応力と同一であり、図3(a)の〔2〕部(ピン部分の隅R部)の応力は、図3(a)の〔1〕部(大径軸部分の隅R部)の応力の97.8%であった。よって、クランクシャフトのピン部分(偏心軸部分)に発生する最大応力を上げずに、ピン径D2を「φ53」から「φ51」まで細くすることができており、クランクシャフトのピン部分の摺動抵抗を下げることができる。また、クランクシャフトのピン部分(偏心軸部分)に発生する最大応力は上がっていないので、クランクシャフトのピン部分(偏心軸部分)の耐久信頼性を確保できる。
【0032】
勿論図3(a)の「改良(本発明)」における〔2〕部(ピン部分の隅R部)の応力自体は、図3(b)の「現状」における〔2〕部の応力に対して高くなっているが、最大応力(図3(a)の〔1〕部(大径軸部分の隅R部)の応力)以下なので、問題無い。
【0033】
なお、図4に示すように、偏心軸部分を段付き形状としないで、ピン部分の直径D2を細くし且つピン部分の隅R部の半径を大きくし上記と同じ応力計算を行うと、図4の〔1〕部(ピン部分の隅R部)の応力は図3(a)の〔1〕部(大径軸部分の隅R部)の応力の105%となり、クランクシャフトのピン部分(偏心軸部分)に発生する最大応力が上がってしまう。これは図3(a)の「改良(本発明)」に対し、最大応力発生箇所がピン中心から離れていて、モーメントが大きくなるからである。
【0034】
〔ジャーナル部分の応力計算結果〕
ジャーナル部分についても同様で、クランクシャフトのジャーナル部分(主軸部分)に発生する最大応力を上げずに、ジャーナル径D1を「φ70」から「φ68」まで細くすることができ、クランクシャフトのジャーナル部分の摺動抵抗を下げることができる。また、クランクシャフトのジャーナル部分(主軸部分)に発生する最大応力は上がっていないので、クランクシャフトのジャーナル部分(主軸部分)の耐久信頼性を確保できる。
【0035】
〔クランクシャフトの摺動抵抗の低減率〕
ジャーナル部分;{1−(68÷70)^3}×100=8.3%
ピン部分;{1−(51÷53)^3}×100=10.9%
よって、クランクシャフト全体で9.5%ほど摺動抵抗を下げることができる。
【0036】
以上要するに、本実施形態に係るクランクシャフト10によれば、主軸部分11に、主軸部分11の幅Bmよりも狭く且つ主軸部分11の直径Dmよりも小径であり、メインベアリングと係合するためのジャーナル部分17を形成して、主軸部分11を段付き形状としたことにより、クランクシャフト10のジャーナル部分17(主軸部分11)の耐久信頼性を確保しつつ、クランクシャフト10のジャーナル部分17の摺動抵抗を下げることで、内燃機関の燃費を向上させることが可能になる。
【0037】
また、本実施形態に係るクランクシャフト10によれば、偏心軸部分12に、偏心軸部分12の幅Beよりも狭く且つ偏心軸部分12の直径Deよりも小径であり、コンロッドベアリングと係合するためのピン部分21を形成して、偏心軸部分12を段付き形状としたことにより、クランクシャフト10のピン部分21(偏心軸部分12)の耐久信頼性を確保しつつ、クランクシャフト10のピン部分21の摺動抵抗を下げることで、内燃機関の燃費を向上させることが可能になる。
【0038】
さらに、クランクシャフト10の基本形態は従来のものから大きく変えないので、最小の投資規模で本実施形態に係るクランクシャフト10を作ることができる。
【符号の説明】
【0039】
10 クランクシャフト
11 主軸部分
12 偏心軸部分
17 ジャーナル部分
21 ピン部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンブロックにメインベアリングを介して回転可能に支持される主軸部分と、コンロッドにコンロッドベアリングを介して接続される偏心軸部分とを備えたクランクシャフトにおいて、前記主軸部分に、前記主軸部分の幅よりも狭く且つ前記主軸部分の直径よりも小径であり、前記メインベアリングと係合するためのジャーナル部分を形成して、前記主軸部分を段付き形状としたことを特徴とするクランクシャフト。
【請求項2】
前記偏心軸部分に、前記偏心軸部分の幅よりも狭く且つ前記偏心軸部分の直径よりも小径であり、前記コンロッドベアリングと係合するためのピン部分を形成して、前記偏心軸部分を段付き形状とした請求項1に記載のクランクシャフト。
【請求項3】
エンジンブロックにメインベアリングを介して回転可能に支持される主軸部分と、コンロッドにコンロッドベアリングを介して接続される偏心軸部分とを備えたクランクシャフトにおいて、前記偏心軸部分に、前記偏心軸部分の幅よりも狭く且つ前記偏心軸部分の直径よりも小径であり、前記コンロッドベアリングと係合するためのピン部分を形成して、前記偏心軸部分を段付き形状としたことを特徴とするクランクシャフト。
【請求項4】
前記主軸部分に、前記主軸部分の幅よりも狭く且つ前記主軸部分の直径よりも小径であり、前記メインベアリングと係合するためのジャーナル部分を形成して、前記主軸部分を段付き形状とした請求項3に記載のクランクシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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