説明

クリップ式シート・フィルム延伸装置

【課題】高精度な高倍率の同時二軸延伸を行えるようにすること。
【解決手段】クリップ20をクリップ担持部材30に設け、主リンク部材53の一端と副リンク部材54の一端をクリップ担持部材30のクリップ20側の第1の軸部材51に枢動連結してクリップ20側に基準リンクを構成し、チェーンリンクを必要としない構造にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱可塑性樹脂フィルム等を延伸するクリップ式シート・フィルム延伸装置に関し、特に、縦横の同時二軸延伸を行うことができるクリップ式シート・フィルム延伸装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クリップ式シート・フィルム延伸装置として、チェーンリンクによって無端に連結された等長リンク装置にシート・フィルムを把持するクリップが設けられたものが平面視で左右対称に配置され、左右のクリップ間の距離をガイドレールによって徐々に拡大して横延伸(TD延伸)を行うと同時に、等長リンク装置の伸長によってクリップのピッチを徐々に拡大することにより縦延伸(MD延伸)を行い、同時二軸延伸を行えるものがある(例えば、特許文献1、2、3)。
【特許文献1】特公昭44−7155号公報
【特許文献2】特開昭61−58723号公報
【特許文献3】特開2004−122640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
同時二軸延伸を行う従来のクリップ式シート・フィルム延伸装置には、下記のような問題がある。
【0004】
(a)主リンク部材の一端にクリップが設けられているものでは、横延伸幅が変化するガイドレールの屈曲部において、クリップのシート・フィルム(クリップが把持しているシート・フィルム)に対する角度変化が大きく、しかも、シート・フィルム長手方向(MD方向)のクリップ位置間隔(クリップMDピッチ)のばらつきも大きい。このため、高精度な高倍率の同時二軸延伸を行うことが難しい。
【0005】
(b)チェーンリンクが反把持側に設けられているものでは、ガイドレールの屈曲部の半径が大きくなったり、縦方向の延伸力を負担するモーメントが大きくなる。また、チェーンリンクが把持側に設けられているものでは、伸直後に逆折れし、動作不良を起こす虞れがある。
【0006】
(c)縦方向のクリップ間隔(クリップMDピッチ)は、最小がクリップ(リンク要素)幅寸法、最大がチェーンリンク長により決まり、ガイドレール間隔の変化によって等長リンク装置を屈伸させることによりクリップMDピッチを変更できるが、小領域(小ピッチ側)でのクリップMDピッチ変化に対するガイドレール間隔の変化量が小さいので、高精度なMD延伸を行うことが難しい。
【0007】
現実的な同時二軸延伸装置には、リンク要素や枢軸の撓み、がたつき、ガイドレールの位置決め精度等が実在し、MD方向のクリップ間距離が小さい範囲では、MD方向のクリップピッチのばらつきが大きい。このため、クリップによるシート・フィルムの把持時のクリップMDピッチを、隣接するクリップ(リンク要素)同士が互いに接触する最小ピッチに一義的に設定して使用せざるを得ない。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、上述の問題を解決し、高精度な高倍率の同時二軸延伸を行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置は、平面視で、左右両側に配置された多数のクリップによってシート・フィルムの両側縁部を把持してシート・フィルムの延伸を行うクリップ式シート・フィルム延伸装置であって、長方形状をなし、長手方向の一端部にシート・フィルムを把持するクリップを有し、他端側に長手方向に長い長孔を形成された複数個のクリップ担持部材と、前記クリップ担持部材の各々の前記一端部の近傍に設けられた第1の軸部材と、前記クリップ担持部材の各々の前記長孔にスライド可能に係合したスライダと、各クリップ担持部材の前記スライダに設けられた第2の軸部材と、一端を各クリップ担持部材の前記第1の軸部材に枢動連結され、他端を隣接するクリップ担持部材の第2の軸部材に枢動連結された主リンク部材と、一端を各クリップ担持部材の前記第1の軸部材に枢動連結され、他端を前記主リンク部材の中間部に枢軸によって枢動連結された副リンク部材と、
各クリップ担持部材の前記第1の軸部材に設けられた係合子が係合し、前記クリップの巡回経路を画定する基準レールと、前記基準レールに沿って設けられて各クリップ担持部材の前記第2の軸部材に設けられた係合子が係合し、前記基準レールとの離間距離によって隣接するクリップ担持部材同士のピッチを可変設定するピッチ設定レールと、各クリップ担持部材の前記第1の軸部材に設けられた駆動ローラが選択的に係合して各クリップ担持部材を前記巡回経路に沿って走行させる駆動用スプロケットとを有する。
【0010】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置は、好ましくは、更に、駆動用スプロケット前記長孔における前記スライダのスライド可能範囲を設定するストッパ機構を各クリップに有する。
【0011】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置は、好ましくは、前記ストッパ機構は、前記長孔の一端側あるいは他端側のストロークエンド部にあって前記スライダが当接するストッパ部材を有する。
【0012】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置は、好ましくは、前記ストッパ機構は、前記長孔の一端側あるいは他端側のストロークエンド部にあって前記スライダが当接する当接位置と当該当接位置より待避して前記スライダが当接しない待避位置との間に移動可能に設けられたストッパ部材を有する。
【0013】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置は、好ましくは、前記基準レールと前記ピッチ設定レールは各々凹溝形状のレール部材により構成され、前記第1の係合子は前記基準レールの凹溝に係合する回転可能な案内ローラにより構成され、前記第2の係合子は前記ピッチ設定レールの凹溝に係合する回転可能な案内ローラにより構成されている。
【0014】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置は、好ましくは、前記基準レールと前記ピッチ設定レールは各々帯状の板部材により構成され、前記第1の係合子は前記基準レールの板部を両側から挟む回転可能な案内ローラ対により構成され、前記第2の係合子は前記ピッチ設定レールの板部を両側から挟む回転可能な案内ローラ対により構成されている。
【発明の効果】
【0015】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置は、クリップがクリップ担持部材に設けられ、主リンク部材の一端と副リンク部材の一端がクリップ担持部材のクリップ側の第1の軸部材に枢動連結されてクリップ側に基準リンクを構成しており、チェーンリンクを必要としない構造になっている。
【0016】
このため、主リンク部材の一端にクリップが設けられているもののように、横延伸幅が変化するガイドレールの屈曲部において、クリップのシート・フィルム(クリップが把持しているシート・フィルム)に対する角度変化、シート・フィルム長手方向(MD方向)のクリップ位置間隔(クリップMDピッチ)のばらつきが大きくなることがなく、高倍率の同時二軸延伸を高精度に行うことが可能になる。
【0017】
また、基準リンクがクリップ側に構成されることにより、基準レールの屈曲部の半径が大きくなったり、縦方向(MD方向)の延伸力を負担するモーメントが大きくなったりすることがない。
【0018】
また、チェーンリンクがない構造であるから、部品点数が削減され、チェーンリンクが伸直後に逆折れして動作不良を起こす虞れもない。
【0019】
更に、ストッパ機構が設けられることにより、シート・フィルムの把持時のクリップMDピッチを設定でき、このクリップMDピッチを、ストッパ調整によって、隣接するクリップ(リンク要素)同士が互いに接触する最小ピッチより大きい値に設定することができる。また、ストッパ調整によって最大側のクリップMDピッチも調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の一つの実施形態を、図1〜図5を参照して説明する。
【0021】
まず、図1を参照して本実施形態によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の全体構成について説明する。
【0022】
クリップ式シート・フィルム延伸装置は、平面視で、左右両側に、シート・フィルム把持用の多数のクリップ20を有する無端ループ10Rと10Lとを左右対称に有する。なお、bの実施形態では、延伸対象のシート・フィルムの入口側から見て右側の無端ループを右側の無端ループ10R、左側の無端ループを左側の無端ループ10Lと云う。
【0023】
左右の無端ループ10R、10Lのクリップ20は、各々、基準レール100に案内されてループ状に巡回移動する。右側の無端ループ10Rは時計廻り方向に巡回移動し、左側の無端ループ10Rは反時計廻り方向に巡回移動し、図1の紙面で見て左側が延伸対象のシート・フィルムの入口側で、右側が延伸対象のシート・フィルムの出口側である。
【0024】
シート・フィルムの入口側から出口側へ向けて、予熱ゾーンA、延伸ゾーンB、熱処理ゾーンCが順に構成されている。
【0025】
予熱ゾーンAでは、左右の無端ループ10R、10Lの離間距離が横延伸初期幅相当で小さくて、全域に亘って左右の無端ループ10R、10Lが互いに平行な配置になっている。
【0026】
延伸ゾーンBでは、予熱ゾーンAの側から熱処理ゾーンCに向かうに従って左右の無端ループ10R、10Lの離間距離が徐々に拡大され、左右の無端ループ10R、10Lが非平行の配置になっている。延伸ゾーンBにおける左右の無端ループ10R、10Lの離間距離は、延伸開始端(予熱ゾーンAとの接続端)では横延伸初期幅相当になっており、延伸終了端(熱処理ゾーンCとの接続端)では横延伸最終幅相当になっている。
【0027】
熱処理ゾーンCでは、左右の無端ループ10R、10Lの離間距離が横延伸最終幅相当で大きくて、全域に亘って左右の無端ループ10R、10Lが互いに平行な配置になっている。
【0028】
つぎに、図2〜図5を参照して本実施形態によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の詳細構造について説明する。
【0029】
左右の無端ループ10R、10Lの複数個のクリップ20は、各々、長方形状のクリップ担持部材30の長手方向の一端部(前側)に取り付けられている。クリップ20は、シート・フィルムWを係脱可能に把持するものであり、ヨーク形状のクリップ本体21と、クリップ本体21に固定装着された下側固定クリップ部材22と、ピン23によってクリップ本体21に回動可能に取り付けられた可動レバー24と、可動レバー24の下端にピン25によって揺動可能に取り付けられた上側可動クリップ部材26とを有し、下側固定クリップ部材22と上側可動クリップ部材26とで、シート・フィルムWの側縁を挟み込み式に把持する。
【0030】
クリップ担持部材30は、各々、クリップ20を個々に担持するものであり、クリップ20の個数と同数個、存在する。クリップ担持部材30は、上梁35、下梁36、前壁37、後壁38とによる閉じ断面の剛固なフレーム構造(図4、図5参照)に形成されている。クリップ担持部材30の両端(前壁37、後壁38)には各々、軸31、32によって走行輪33、34が回転可能に設けられている。走行輪33、34は、基台110に形成された水平な走行路面111、112上を転動する。走行路面111、112は全域に亘って基準レール100に並行している。
【0031】
各クリップ担持部材30の上梁35と下梁36の他端側(後側)には、長手方向に長い長孔(長形の穴)39が形成されている。上下の長孔39には各々スライダ40が長孔39の長手方向にスライド可能に係合している。
【0032】
各クリップ担持部材30の一端部(クリップ20側)の近傍には、上梁35、下梁36を貫通して一本の第1の軸部材51が垂直に設けられている。各クリップ担持部材30の上下のスライダ40には一本の第2の軸部材52が垂直に貫通して設けられている。
【0033】
各クリップ担持部材30の第1の軸部材51には主リンク部材53の一端が枢動連結されている。主リンク部材53は、他端を隣接するクリップ担持部材30の第2の軸部材52に枢動連結されている。
【0034】
各クリップ担持部材30の第1の軸部材51には、主リンク部材53に加えて、副リンク部材54の一端が枢動連結されている。副リンク部材54は、他端を主リンク部材53の中間部に枢軸55によって枢動連結されている。
【0035】
主リンク部材53、副リンク部材54によるリンク機構により、図2に示されているように、スライダ40がクリップ担持部材30の他端側(反クリップ側)に移動しているほど、クリップ担持部材30同士のピッチ(クリップMDピッチ)が小さくなり、図3に示されているように、スライダ40がクリップ担持部材30の一端側(クリップ側)に移動しているほど、クリップ担持部材30同士のピッチが大きくなる。
【0036】
なお、この実施形態では、クリップ担持部材30同士の最小ピッチは、図2に示されているように、隣接するクリップ担持部材30同士が接触することにより決められ、クリップ担持部材30同士の最大ピッチは、スライダ40がクリップ担持部材30の一端側(クリップ側)のストロークエンドに到達することにより決められる。
【0037】
第1の軸部材51の下端には案内ローラ(第1の係合子)56が回転可能に設けられている。案内ローラ56は基台110上に設けられてクリップ20の巡回経路を画定する凹溝形状の基準レール100の凹溝101に係合している。第1の軸部材51の上端には駆動ローラ58が回転可能に設けられている。
【0038】
駆動ローラ58は、駆動用スプロケット11、12(図1参照)に選択的に係合し、各クリップ担持部材30を巡回経路に沿って走行させる。つまり、駆動用スプロケット11、12は、各クリップ担持部材30の駆動ローラ58と選択的に係合し、電動モータ13、14(図1参照)によって回転駆動されて各クリップ担持部材30を巡回経路に沿って走行させる力をクリップ担持部材30に与える。
【0039】
第2の軸部材52の下端にはピッチ設定ローラ(第2の係合子)57が回転可能に設けられている。ピッチ設定ローラ57は、基台110上に基準レール100に沿って設けられた凹溝形状のピッチ設定レール120の凹溝121に係合し、長孔39におけるスライダ40の位置を設定する。
【0040】
ピッチ設定レール120は、基準レール100との離間距離によって長孔39におけるスライダ40の位置を決める働きをし、このことにより、隣接するクリップ担持部材30同士のピッチを可変設定する。ピッチ設定レール120は、基準レール100との離間距離が長いほど、つまり基準レール100より遠ざかっているほど、スライダ40をクリップ担持部材30の他端側(反クリップ側)に移動させてクリップ担持部材30同士のピッチを小さくし、基準レール100との離間距離が短いほど、つまり基準レール100に近づいているほど、スライダ40をクリップ担持部材30の一端側(クリップ側)に移動させてクリップ担持部材30同士のピッチを大きくする。
【0041】
ピッチ設定レール120について、図1参照して説明する。ピッチ設定レール120は、予熱ゾーンAでは、基準レール100との離間距離が全域に亘って一様に最小ピッチ設定の最大値になっている。
【0042】
延伸ゾーンBでは、ピッチ設定レール120の基準レール100との離間距離は、延伸開始端(予熱ゾーンAとの接続端)において最小ピッチ設定の最大値で、これより延伸終了端側へ向かうに従って徐々に短くなり、延伸終了端において最大ピッチ設定の最小値になっている。
【0043】
熱処理ゾーンCでは、ピッチ設定レール120の基準レール100との離間距離は、全域に亘って一様に最大ピッチ設定の最小値になっている。
【0044】
つぎに、上述の構成によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の作用について説明する。
【0045】
右側の無端ループ10Rの駆動用スプロケット11、12は電動モータ13、14によって時計廻り方向に、左側の無端ループ10Lの駆動用スプロケット11、12は電動モータ13、14によって反時計廻り方向に各々回転駆動され、これら駆動用スプロケット11、12に係合している駆動ローラ58のクリップ担持部材30に走行力が与えられる。これにより、右側の無端ループ10Rは時計廻り方向に巡回移動し、左側の無端ループ10Lは反時計廻り方向に巡回移動し、図1の紙面で見て左側(入口側)から延伸対象のシート・フィルムが左右の無端ループ10R、10L間に取り込まれる。
【0046】
このシート・フィルム取り込みの入口において、左右の無端ループ10R、10Lのクリップ20によってシート・フィルムの両側縁が把持(クリップ・オン)され、左右の無端ループ10R、10Lの移動、つまり、基準レール100に案内された各クリップ担持部材30の移動により、シート・フィルムは、まず、予熱ゾーンAに進入する。
【0047】
予熱ゾーンAでは、左右の無端ループ10R、10Lの離間距離が横延伸初期幅相当で小さくて、全域に亘って左右の無端ループ10R、10Lが互いに平行な配置であること、ピッチ設定レール120と基準レール100との離間距離が全域に亘って一様に最小ピッチ設定の最大値になっていることにより、横延伸も、縦延伸も行われず、予熱だけが行われる。
【0048】
シート・フィルムは、予熱後、続いて延伸ゾーンBに進入する。延伸ゾーンBでは、予熱ゾーンAの側から熱処理ゾーンCに向かうに従って左右の無端ループ10R、10Lの離間距離が徐々に拡大されていること、ピッチ設定レール120の基準レール100との離間距離が予熱ゾーンAの側から熱処理ゾーンCに向かうに従って徐々に短くなってることにより、スライダ40がクリップ担持部材30の一端側(クリップ側)に移動し、クリップ担持部材30同士のピッチが徐々に大きくなる。これにより、横延伸と同時に縦延伸が行われる。
【0049】
シート・フィルムは、延伸ゾーンBを通過することにより、横延伸と縦延伸の同時二軸延伸され、延伸終了後に、続いて熱処理ゾーンCに進入する。熱処理ゾーンCでは、左右の無端ループ10R、10Lの離間距離が横延伸最終幅相当で大きくて、全域に亘って左右の無端ループ10R、10Lが互いに平行な配置になっていること、ピッチ設定レール120と基準レール100との離間距離が全域に亘って一様に最大ピッチ設定の最小値になっていることにより、横延伸も、縦延伸も行われず、温度調整等の熱処理だけが行われる。
【0050】
熱処理ゾーンCの終端の出口では、左右の無端ループ10R、10Lのクリップ20によるシート・フィルムの把持が解放(クリップ・オフ)され、シート・フィルムは直進し、クリップ担持部材30は基準レール100に案内されてループ状に巡回移動する。
【0051】
上述の動作において、クリップ20はクリップ担持部材30に設けられ、主リンク部材53の一端と副リンク部材54の一端がクリップ担持部材30のクリップ20側の第1の軸部材51に枢動連結されてクリップ20側に基準リンクが構成され、チェーンリンクを必要としない構造になっているから、主リンク部材の一端にクリップが設けられている従来のもののように、横延伸幅が変化するガイドレール(基準レール100)の屈曲部において、クリップのシート・フィルム(クリップが把持しているシート・フィルム)に対する角度変化、シート・フィルム長手方向(MD方向)のクリップ位置間隔(クリップMDピッチ)のばらつきが大きくなることがなく、高倍率の同時二軸延伸を高精度に行うことが可能になる。
【0052】
また、基準リンクがクリップ側に構成されることにより、基準レール100の屈曲部の半径が大きくなったり、縦方向(MD方向)の延伸力を負担するモーメントが大きくなったりすることがない
しかも、チェーンリンクがない構造であるから、部品点数が削減され、チェーンリンクが伸直後に逆折れして動作不良を起こす虞れもない。
【0053】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態を、図6〜図9を参照して説明する。なお、図6〜図9において、図2〜図5に対応する部分は、図2〜図5に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0054】
この実施形態では、各クリップ担持部材30の長孔39におけるスライダ40のスライド可能範囲を可変設定するストッパ部材61が各クリップ担持部材30に設けられている。ストッパ部材61は、長孔39の他端側(反クリップ側)のストロークエンド部にあって、図9に示されているように、スライダ40が当接する当接位置と、図7に示されているように、前記当接位置より待避してスライダ40が当接しない待避位置との間に移動可能に設けられている。
【0055】
図7に示されているように、ストッパ部材61がスライダ40が当接しない待避位置にある状態では、クリップ担持部材30同士の最小ピッチは、前述の実施形態と同様に、図6に示されているように、隣接するクリップ担持部材30同士が接触することにより決められる。
【0056】
これに対し、図9に示されているように、ストッパ部材61がスライダ40が当接する当接位置にある状態では、クリップ担持部材30同士の最小側のピッチは、ストッパ部材61により各クリップ担持部材30毎に個々に決められるスライダ40の長孔39の反クリップ側の位置により決められ、図8に示されているように、隣接するクリップ担持部材30同士が非接触の所定ピッチに設定することができる。
【0057】
これにより、主リンク部材53、副リンク部材54やこれらの枢軸の撓み、がたつき、ガイドレール(基準レール100、ピッチ設定レール120)の位置決め精度によるMD方向のクリップピッチのばらつきを補償して、シート・フィルムの把持時のクリップMDピッチを隣接するクリップ担持部材30同士が互いに接触する最小ピッチより大きい値に、均一に、精度よく設定することができる。
【0058】
ストッパ部材61の当接位置と待避位置との位置変更、つまり、オン−オフは、手操作以外に、カム等によってクリップ走行中に自動的に行うこともできる。この場合、シート・フィルムの把持時にはストッパ部材61を当接位置に位置させ、シート・フィルムの把持後にストッパ部材61を待避位置に移動させることにより、MD方向のマイナス延伸(収縮)を行うこともできる。
【0059】
また、ストッパ部材61の当接位置をボルト締め位置調整によって各クリップ担持部材30に個別に設定して、最小側のクリップMDピッチを各クリップ担持部材30毎に個々に決め、主リンク部材53、副リンク部材54やこれらの枢軸の撓み、がたつき、ガイドレール(基準レール100、ピッチ設定レール120)の位置決め精度によるMD方向のクリップピッチのばらつきを補償して、最小のクリップMDピッチを、隣接するクリップ担持部材30同士が互いに接触する最小ピッチより大きい値に、均一に、精度よく設定することもできる。
【0060】
なお、ストッパ部材61が設けられる場合、ストッパ作用分を見込んで、ピッチ設定レール120の凹溝121の溝幅を、図示されているように、ピッチ設定ローラ57の外径寸法より大きくしておく。
【0061】
また、図10〜図13に示されているように、長孔39の一端側(クリップ側)のストロークエンド部にストッパ部材62が設けられてもよい。この場合には、ストッパ部材61による最小側のクリップMDピッチの可変設定と同様に、最大側のクリップMDピッチを可変設定できる。
【0062】
つまり、ストッパ部材62は、長孔39の一端側(クリップ側)のストロークエンド部にあって、図12に示されているように、スライダ40が当接する当接位置と、図11に示されているように、前記当接位置より待避してスライダ40が当接しない待避位置との間に移動可能に設けられており、図11に示されているように、ストッパ部材62がスライダ40が当接しない待避位置にある状態では、クリップ担持部材30同士の最大ピッチは、前述の実施形態と同様に、図10に示されているように、スライダ40が長孔39のクリップ側のストロークエンドに到達することにより決まる。
【0063】
これに対し、図13に示されているように、ストッパ部材62がスライダ40が当接する当接位置にある状態では、クリップ担持部材30同士の最大側のピッチは、ストッパ部材62により各クリップ担持部材30毎に個々に決められるスライダ40の長孔39のクリップ側の位置により決められ、図12に示されているように、隣接するクリップ担持部材30同士の最大側のピッチを所定ピッチに設定することができる。
【0064】
この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態を、図14を参照して説明する。なお、図14において、図4応する部分は、図4に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0065】
この実施形態では、基準レール130が複数枚の帯状の可撓性板材131を積層したものにより構成され、座金部材114を介して取付ボルト115により基台110上の固定ブロック113に取り付けられている。
【0066】
第1の軸部材51の下端と、下梁36の下底部に固定された支持軸71には各々案内ロール(第1の案内子)72、73が回転可能に取り付けられている。案内ロール72、73は、対をなして基準レール130の板部を両側から挟み、基準レール130に案内されて転動する。
【0067】
また、ピッチ設定レール140も、基準レール130と同様に、複数枚の帯状の可撓性板材141を積層したものにより構成され、座金部材117を介して取付ボルト118により基台110上の固定ブロック116に取り付けられている。
【0068】
第2の軸部材52の下端と、下梁36の下底部に固定された支持軸81には各々案内ロール(第2の案内子)82、83が回転可能に取り付けられている。案内ロール82、83は、対をなしてピッチ設定レール140の板部を両側から挟み、ピッチ設定レール140に案内されて転動する。
【0069】
この実施形態では、基準レール130、ピッチ設定レール140が、可撓性板材131、141を積層した簡素なもので構成され、基準レール130、ピッチ設定レール140の曲げ部の形状を、容易に調整、変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の一つの実施形態の全体構成を示す平面図である。
【図2】一つの実施形態によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の要部の最小ピッチ状態の平面図である。
【図3】一つの実施形態によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の要部の最大ピッチ状態の平面図である。
【図4】一つの実施形態によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の要部の最小ピッチ状態の側面図である。
【図5】一つの実施形態によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の要部の最大ピッチ状態の側面図である。
【図6】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態の要部の最小ピッチ状態(ストッパオフ時)の平面図である。
【図7】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態の要部の最小ピッチ状態(ストッパオフ時)の側面図である。
【図8】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態の要部の最小ピッチ状態(ストッパオン時)の平面図である。
【図9】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態の要部の最小ピッチ状態(ストッパオン時)の側面図である。
【図10】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態の要部の最小ピッチ状態(ストッパオフ時)の平面図である。
【図11】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態の要部の最小ピッチ状態(ストッパオフ時)の側面図である。
【図12】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態の要部の最小ピッチ状態(ストッパオン時)の平面図である。
【図13】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態の要部の最小ピッチ状態(ストッパオン時)の側面図である。
【図14】この発明によるクリップ式シート・フィルム延伸装置の他の実施形態の要部の断面図である。
【符号の説明】
【0071】
10R、10L 無端ループ
11、12 駆動用スプロケット
13、14 電動モータ
20 クリップ
30 クリップ担持部材
31、32 軸
33、34 走行輪
35 上梁
36 下梁
37 前壁
38 後壁
39 長孔
40 スライダ
51 第1の軸部材
52 第2の軸部材
53 主リンク部材
54 副リンク部材
55 枢軸
56 案内ローラ
57 ピッチ設定ローラ
58 駆動ローラ
61、62 ストッパ部材
71 支持軸
72、73 案内ロール
81 支持軸
82、83 案内ロール
100 基準レール
101 凹溝
110 基台
111、112 走行路面
113 固定ブロック
114 座金部材
115 取付ボルト
116固定ブロック
117 座金部材
118 取付ボルト
120 ピッチ設定レール
121 凹溝
130 基準レール
131 可撓性板材
140 ピッチ設定レール
141 可撓性板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視で、左右両側に配置された多数のクリップによってシート・フィルムの両側縁部を把持してシート・フィルムの延伸を行うクリップ式シート・フィルム延伸装置であって、
長方形状をなし、長手方向の一端部にシート・フィルムを把持するクリップを有し、他端側に長手方向に長い長孔を形成された複数個のクリップ担持部材と、
前記クリップ担持部材の各々の前記一端部の近傍に設けられた第1の軸部材と、
前記クリップ担持部材の各々の前記長孔にスライド可能に係合したスライダと、
各クリップ担持部材の前記スライダに設けられた第2の軸部材と、
一端を各クリップ担持部材の前記第1の軸部材に枢動連結され、他端を隣接するクリップ担持部材の第2の軸部材に枢動連結された主リンク部材と、
一端を各クリップ担持部材の前記第1の軸部材に枢動連結され、他端を前記主リンク部材の中間部に枢軸によって枢動連結された副リンク部材と、
各クリップ担持部材の前記第1の軸部材に設けられた第1の係合子が係合し、前記クリップの巡回経路を画定する基準レールと、
前記基準レールに沿って設けられて各クリップ担持部材の前記第2の軸部材に設けられた第2の係合子が係合し、前記基準レールとの離間距離によって隣接するクリップ担持部材同士のピッチを可変設定するピッチ設定レールと、
各クリップ担持部材の前記第1の軸部材に設けられた駆動ローラが選択的に係合して各クリップ担持部材を前記巡回経路に沿って走行させる駆動用スプロケットと、
を有するクリップ式シート・フィルム延伸装置。
【請求項2】
前記長孔における前記スライダのスライド可能範囲を設定するストッパ機構を各クリップに有する請求項1に記載のクリップ式シート・フィルム延伸装置。
【請求項3】
前記ストッパ機構は、前記長孔の一端側あるいは他端側のストロークエンド部にあって前記スライダが当接するストッパ部材を有する請求項2に記載のクリップ式シート・フィルム延伸装置。
【請求項4】
前記ストッパ機構は、前記長孔の一端側あるいは他端側のストロークエンド部にあって前記スライダが当接する当接位置と当該当接位置より待避して前記スライダが当接しない待避位置との間に移動可能に設けられたストッパ部材を有する請求項2に記載のクリップ式シート・フィルム延伸装置。
【請求項5】
前記基準レールと前記ピッチ設定レールは各々凹溝形状のレール部材により構成され、前記第1の係合子は前記基準レールの凹溝に係合する回転可能な案内ローラにより構成され、前記第2の係合子は前記ピッチ設定レールの凹溝に係合する回転可能な案内ローラにより構成されている請求項1から4の何れか一項に記載のクリップ式シート・フィルム延伸装置。
【請求項6】
前記基準レールと前記ピッチ設定レールは各々帯状の板部材により構成され、前記第1の係合子は前記基準レールの板部を両側から挟む回転可能な案内ローラ対により構成され、前記第2の係合子は前記ピッチ設定レールの板部を両側から挟む回転可能な案内ローラ対により構成されている請求項1から4の何れか一項に記載のクリップ式シート・フィルム延伸装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2008−44339(P2008−44339A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12473(P2007−12473)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】