説明

クリプトン及び/又はキセノンの製造方法及び装置

【課題】 深冷空気分離によるクリプトン及び/又はキセノンの製造に際して、ハロゲン化合物の除去を特に経済的な方式で実現する。
【解決手段】 冷空気分離によるクリプトン及び/又はキセノンの製造方法及び装置において、クリプトンとキセノンを富化してクリプトン/キセノン濃縮留分を形成し、このクリプトン/キセノン濃縮留分から蒸留によりクリプトン/又はキセノンを得る。蒸留の前に、TiO2及び/又はZrO2を含有する触媒床にクリプトン/キセノン濃縮留分を通流し、この触媒床においてクリプトン/キセノン濃縮留分に含まれる少なくとも1種のハロゲン化合物を反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリプトンとキセノンを富化してクリプトン/キセノン濃縮留分を形成し、このクリプトン/キセノン濃縮留分から蒸留によりクリプトン/又はキセノンを得る深冷空気分離によるクリプトン及び/又はキセノンの製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
深冷空気分離の全般的な基本原理並びに特に窒素/酸素分離用の精留設備の構成は非特許文献1及び2に述べられている。高圧塔は低圧塔よりも高圧で運転され、これら2塔は好ましくは例えば主凝縮器を介して互いに熱交換する。この場合、高圧塔の塔頂ガスは低圧塔の塔底液の蒸発で液化される。本発明による精留設備は従来の二塔式設備や三塔式設備、或いは三塔よりも多くの塔を備えた設備として構成することが可能である。また、窒素/酸素分離塔に例えばアルゴン回収用など、空気中のその他の成分、特に希ガスを製造するための追加装置を設けることも可能である。
【非特許文献1】ハウゼン/リンデ(Hausen/Linde)著、「極低温技術(Tieftemperaturetechnik)」、第2版、1985年
【非特許文献2】ラティマー(Latimer)著、ケミカル・エンジニアリング・プログレス誌(Chemical Engineering Progress)、第63巻、第2号、1967年、第35頁
【0003】
高純度のクリプトンとキセノンを得るには、深冷空気分離ユニットの塔底酸素(これは例えばクリプトン/キセノン富化塔の塔底に形成される)を装入空気と比較して3000〜5000倍に富化することが重要な要件である。この富化液(クリプトン/キセノン濃縮留分)は、例えばクリプトンが3000〜5000vppm、キセノンが200〜400vppmに富化されているのに加えて、数百vppmに富化された炭化水素、CO2、N2O、そして微量ながらフッ素含有成分、例えばCF4、SF6及びC2F6なども含有している。
【0004】
ハロゲン化炭素は、いずれの場合にも清浄空気中に数百モルppt(1兆分の1=10-12)の濃度で存在する。クリプトン及び/又はキセノンを得るために高レベルの富化を行うことを考慮に入れると、幾つかのハロゲン化合物は分離除去が困難な悪質不純物となる。特に完全フッ素化合物は高度に不活性であり、しかも極めて高温でしか分解できない。
【0005】
深冷空気分離ユニットにおいて装入空気は分子篩吸着器で浄化されるが、上述のハロゲン化合物だけは装入空気の成分として分子篩吸着器を通過してしまい、塔底酸素中に持ち込まれてしまう。分子篩吸着器の主目的は装入空気からのCO2とH2Oの除去である。文献中で指摘されることの多いCF4、C2F6、及びSF6に加えて、NF3、CClF3、及びC3F8も空気の浄化に標準的に利用される分子篩13Xを充填した吸着器をCO2よりも先に通過してしまうことが確認されている。従ってこれらもクリプトン/キセノン濃縮留分にもたらされる可能性のある不純物となる。
【0006】
深冷空気分離ユニットの塔底酸素に生成されたクリプトン/キセノン濃縮留分は、本来的に更なるプロセス工程で分離して高純度のクリプトン及び/又はキセノンを生成することが可能である。これに代えてクリプトン/キセノン濃縮留分を例えば液化タンクに貯蔵し、別の場所で処理することもできる。
【0007】
一般的に、クリプトン/キセノン濃縮留分はプラチナ又はパラジウムを含有する触媒上で約500℃にて蒸発及び反応され、触媒上ではメタンが完全燃焼してCO2とH2Oを生成し、またN2Oが分解して窒素と酸素を生成する。フッ素含有化合物は僅かな比率の部分量が反応するだけである。生成されたガスからはCO2と水分が分子篩吸着器内で除去され、この生成ガスは次いで深冷分離段へ導入されるが、深冷分離段ではクリプトン及び/又はキセノンを蒸留によって酸素、アルゴン、窒素からだけでなく、上述のフッ素化合物からも分離する必要がある。
【0008】
このため、特許文献1又は2に開示されているように、フッ素含有不純物及び/又は塩素含有不純物、特にフルオロハイドロカーボン、CF4及び/又はSF6をクリプトン/キセノン濃縮留分から分離するためにフィロ珪酸塩を含有する固定吸着剤による付加的な吸着段を使用することが提案されている。
【特許文献1】欧州特許出願公開第863375号明細書
【特許文献2】米国特許第6063353号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、深冷空気分離によるクリプトン及び/又はキセノンの製造に際して、ハロゲン化合物の除去を特に経済的な方式で実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、この課題は、クリプトンとキセノンを富化してクリプトン/キセノン濃縮留分を形成し、このクリプトン/キセノン濃縮留分から蒸留によりクリプトン/又はキセノンを得る深冷空気分離によるクリプトン及び/又はキセノンの製造方法において、遷移金属酸化物、特にTiO2及び/又はZrO2を含有する触媒床にクリプトン/キセノン濃縮留分を通流し、この触媒床においてクリプトン/キセノン濃縮留分に含まれる少なくとも1種の完全ハロゲン化合物、特に少なくとも1種の完全フッ素化合物を反応させることによって解決される。
【0011】
ここで、完全ハロゲン化合物や完全フッ素化(パーフッ素化)化合物は、極めて低反応性の条件下における触媒反応を生じ得るような水素原子を一切含んでいない。
【0012】
このタイプの触媒反応は深冷空気分路及びクリプトン/キセノン製造技術においては未だ知られていなかったが、半導体製造技術においては使用済エッチングガスの変換に既に利用されており、例えばCF4、C2F6、又はC3F8等の完全フッ素化(パーフッ素化)炭素、或いはNF3やSF6等の完全フッ素化合物をTiO2やZrO2からなる触媒上で反応させている。本発明は、このタイプの手法をクリプトン/キセノン濃縮留分からの完全ハロゲン化合物の除去に採用するものである。
【0013】
従前よりクリプトン/キセノン濃縮留の精製に利用されてきた触媒と異なり、TiO2及びZrO2は反応中に生成されたフッ化水素(HF)に対して化学的に不活性である。加えて、これらTiO2及びZrO2は、従前より用いられているアルミニウム基材のプラチナ又はパラジウム製触媒材料と同様にクリプトン/キセノン濃縮留分に含まれるメタンをCO2とH2Oに変換し、更にN2OをN2とO2に分解する。
【0014】
ハロゲン化合物の変換に際して生じる反応は一般的に加水分解反応であるので、C2F6の破壊は別として酸素を必要としないが、H2Oの存在は必須である。但し、この水分は、並行して生じる上述のメタンの反応を考慮に入れれば、いずれにせよ既に存在している。
【0015】
これらのTiO2やZrO2による遷移金属酸化物触媒床は、メタンの変換に従来より慣用されている触媒の代わりに、或いはそれに加えて使用することができる。従来の慣用触媒床に加えて使用する場合、クリプトン/キセノン濃縮留分は、先行して例えば約400〜500℃でプラチナ及び/又はパラジウム含有材の上に通流させ、その後、約750℃で遷移金属酸化物の上に通流させる。これら両方の触媒床は別々の容器又は単一の共通容器内に配置することができる。
【0016】
遷移金属酸化物触媒床は650℃以上、特に700℃以上、典型的には約750℃の温度で運転することが好ましい。
【0017】
TiO2及びZrO2は、その本来の機能を果たすことができるように温度650℃〜700℃で安定化することが可能である(固体技術(Solid State Technology)、2001年7月、189〜200頁参照)。
【0018】
変換反応中に、少なくとも1種のハロゲン化水素、フッ化水素(HF)、及び/又は塩化水素(HCl)が生成される。クリプトン/キセノン濃縮留分は、この触媒床の下流側でハロゲン化水素を除去するための特に水又は洗剤による浄化段に導入することが好ましい。この洗浄はSO3の分離にも利用することができ、更にはガス流の冷却にも寄与する。
【0019】
変換反応中には一般にCO2も形成される。このCO2は、既に慣用されているように触媒床の下流側のクリプトン/キセノン濃縮留分を吸着床に通流させることにより除去することができる。この吸着床は、ハロゲン化水素を除去するための浄化段の下流側に配置することが好ましい。
【0020】
本発明においては、CF4、C2F6、SF6、NF3、CClF3、及びC3F8の少なくとも1種の化合物を触媒床中で反応させることが望ましく、この場合、特に下記の反応、即ち、
CF4 + 2 H2O → CO2 + 4 HF
C2F6 + 3 H2O + 0.5 O2 → 2 CO2 + 6 HF
SF6 + 3 H2O → SO3 + 6 HF
NF3 + 1.5 H2O → NOX + 3 HF
CF3Cl + 2 H2O → CO2 + 3 HF + HCl
の少なくとも一つを触媒床中で行うことが好ましい。
【0021】
本発明はまた、前述の課題を達成するための深冷空気分離によるクリプトン及び/又はキセノンの製造装置を提供するものであり、この装置は、少なくとも1基の窒素/酸素分離用の分離塔と、この分離塔からクリプトン/キセノン濃縮留分を抽出する手段と、クリプトン/キセノン濃縮留分からクリプトン及び/又はキセノンを得るための蒸留装置とを備えている。本発明による装置は、TiO2及び/又はZrO2を含有する触媒床を備えた精製装置を更に備えており、この精製装置はクリプトン/キセノン濃縮留分からクリプトン及び/又はキセノンを得るための蒸留装置の上流側に配置されていると共にクリプトン/キセノン濃縮留分を触媒床に導入する手段を備えている。本発明の好適な一実施形態による装置はクリプトン/キセノン濃縮留分からハロゲン化水素を除去するための浄化段を更に備えており、この浄化段は触媒床の下流側で且つ蒸留装置の上流側に配置されている。別の好適な実施形態による装置はクリプトン/キセノン濃縮留分を精製するための吸着床を更に備えており、この吸着床は触媒床の下流側で且つ蒸留装置の上流側に配置されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明及びその詳細を具体的な実施例に基づいて詳述すれば以下の通りである。
【0023】
この実施例においては、高圧塔と低圧塔を備えた在来型リンデ方式の二塔式設備で深冷空気分離を実行する場合を例にしている。低圧塔の塔底又は粗アルゴン塔の塔底から酸素フラクションが分離され、このフラクションは比較的低揮発性の空気成分の全てを含有しており、これがクリプトン/キセノン富化塔へ導入される。この富化塔の塔底からクリプトン/キセノン濃縮留分が抽出されて蒸発され、約750℃で稼働される触媒床に導入される。冷却後、触媒床の下流でHFとClが水洗により除去される。その後、クリプトン/キセノン濃縮留分は吸着床内に通流され、この吸着床内で水とCO2並びにSF6から生成されたあらゆるSO2が除去される。最後に、精製後のクリプトン/キセノン濃縮留分は蒸留装置に導かれ、この蒸留装置内でアルゴンと窒素が分離されて、純クリプトン製品と純キセノン製品を得る。
【0024】
別の手法として、二塔式設備又はクリプトン/キセノン富化塔からのクリプトン/キセノン濃縮留分を液化ガス容器に収集し、これを本発明に従って触媒床を装備した別の場所の精製プラントへ運んで処理することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリプトンとキセノンを富化してクリプトン/キセノン濃縮留分を形成し、このクリプトン/キセノン濃縮留分から蒸留によってクリプトン/又はキセノンを得る深冷空気分離によるクリプトン及び/又はキセノンの製造方法において、遷移金属酸化物、特にTiO2及び/又はZrO2を含有する触媒床にクリプトン/キセノン濃縮留分を通流し、この触媒床においてクリプトン/キセノン濃縮留分に含まれる少なくとも1種の完全ハロゲン化合物、特に少なくとも1種の完全フッ素化合物を反応させることを特徴とするクリプトン及び/又はキセノンの製造方法。
【請求項2】
触媒床を650℃以上、特に700℃以上の温度で運転することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応の間に少なくとも1種のハロゲン化水素を生成させ、触媒床の下流側のクリプトン/キセノン濃縮留分をハロゲン化水素除去用の浄化段に導くことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
浄化段で洗浄、特に水又は洗剤による洗浄処理を行うことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
触媒床の下流のクリプトン/キセノン濃縮留分を吸着床に通流させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
CF4、C2F6、SF6、NF3、CClF3、及びC3F8の少なくとも1種の化合物を触媒床中で反応させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
下記の反応、即ち、
CF4 + 2 H2O → CO2 + 4 HF
C2F6 + 3 H2O + 0.5 O2 → 2 CO2 + 6 HF
SF6 + 3 H2O → SO3 + 6 HF
NF3 + 1.5 H2O → NOX + 3 HF
CF3Cl + 2 H2O → CO2 + 3 HF + HCl
の少なくとも一つを触媒床中で行うことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1基の窒素/酸素分離用の分離塔と、この分離塔からクリプトン/キセノン濃縮留分を抽出する手段と、クリプトン/キセノン濃縮留分からクリプトン及び/又はキセノンを得るための蒸留装置とを備えた深冷空気分離によるクリプトン及び/又はキセノンの製造装置において、TiO2及び/又はZrO2を含有する触媒床を備えた精製装置を更に備え、該精製装置がクリプトン/キセノン濃縮留分からクリプトン及び/又はキセノンを得るための蒸留装置の上流側に配置されていると共にクリプトン/キセノン濃縮留分を触媒床に導入する手段を備えていることを特徴とするクリプトン及び/又はキセノンの製造装置。
【請求項9】
精製装置がクリプトン/キセノン濃縮留分からハロゲン化水素を除去するための浄化段を備え、該浄化段が触媒床の下流側で且つ蒸留装置の上流側に配置されていると共に特に洗浄塔を備えていることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
精製装置がクリプトン/キセノン濃縮留分を精製するための吸着床を備え、該吸着床が触媒床の下流側で且つ蒸留装置の上流側に配置されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の装置。

【公開番号】特開2007−45702(P2007−45702A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207632(P2006−207632)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシヤフト (106)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AKTIENGESELLSCHAFT
【住所又は居所原語表記】Abraham−Lincoln−Strasse 21, D−65189 Wiesbaden,Germany
【Fターム(参考)】