説明

クリンカクーラ

【課題】
クリンカクーラのプッシャにおいて、高温強度の不足および硫化腐食の進行などを低減することによって、クリンカクーラからセメントクリンカがこぼれることを防止する。
【解決手段】
ロータリーキルンで焼成されたセメントクリンカが落下する位置に設けられたプッシャに続いて可動グレート板と固定グレート板とが交互に配列されて下流側に延び、各グレート板の内部に貫通形成されたスリットから各グレート板の上部に形成された空気孔を通じて空気を供給するように構成されたクリンカクーラおいて、前記プッシャのセメントクリンカとの接触構造面の中心から下半部の厚みが上半部の厚みよりも大きいことを特徴とするクリンカクーラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温耐熱強度と耐硫化腐食性を備えたクリンカクーラに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメント業界では廃棄物のロータリーキルンでの処理が進んでおり、地球環境負荷低減に大きく貢献してきている。しかし、廃棄物を処理することにより、クリンカクーラ等のセメント製造設備への悪影響が懸念される。
【0003】
まず、図11及び図4によって、セメント製造装置のクリンカクーラについて説明する。図11は、従来のプッシャ2と水平グレート装置の構造とセメントクリンカ9の流れの一例を示すプッシャ2付近を拡大した模式図である。図4は、一般的なセメント製造装置の焼成工程の概略図である。
図4にセメント製造装置の一例を示すように、セメント原料をプレヒータ13の原料送入口16から投入し、プレヒータ13、仮焼炉12を経由して、ロータリーキルン11で温度が約1500℃にて焼成された後、セメントクリンカ9としてクリンカクーラ1において冷却空気19で急冷される。クリンカクーラ1は、固定グレート板4と可動グレート板3が交互に配列されてセメントクリンカ9の輸送方向に延び、各グレート板の内部に貫通形成されたスリット21(図9)から上部に形成された空気孔36を通じて、クーラ吹込みファン6によって冷却空気19を供給する。
【0004】
プッシャ2は、ロータリーキルン11からのセメントクリンカ9が、クリンカクーラ1における可動グレート板3の上に最初に落下する位置に隣接したクリンカクーラ1の炉壁23の表面に沿って設置されている。クリンカクーラ1におけるセメントクリンカ9の冷却中の輸送は、平面的に多数敷設された可動グレート板3の往復運動によって行われる。セメントクリンカ9が冷却し終わったら、セメントクリンカ排出口17から排出されて次工程へ送られる。
【0005】
図11と図5に、プッシャ2と、水平グレート装置8のグレート板との従来の構造の模式図を示す。ロータリーキルン11からグレート板の上に落下した温度800〜1200℃のセメントクリンカ9は、可動グレート板3の往復運動によってセメントクリンカ排出口17に向かってゆっくりと移動してゆく。ゆっくりと移動しながら下部空気室5から、前記グレート板のスリット21の上部に形成された空気孔36、及び前記プッシャ2と前記可動グレート板3との間隙から冷却空気19を供給することによりセメントクリンカ9は急冷される。
【0006】
また、セメントクリンカ9と熱交換して昇温された加熱空気41は、ロータリーキルン11と仮焼炉12における燃焼バーナ15の燃焼空気の一部として回収され、最終的にはキルン排気ガスとして排気ファン14から排出される。また、燃焼空気として余剰となった昇温された加熱空気41は、排気ダクト20を通って、大気へ放出される。なお、図11には、冷却空気19と過熱空気41は、代表的に1箇所のみしか矢印を表示していないが、基本的には一部を除いてほとんどのグレート板には、前記と全く同様な図9に一例を示すような空気流を通過させるスリット21がある。
【0007】
ロータリーキルン11から落下してきたセメントクリンカ9が、プッシャ2の表面のうち特に下半部34の表面に強く接触するため、可動グレート板3の往復動作による磨耗する。近年の硫黄や塩素を含む廃棄物をセメント製造装置で高熱処理することにより、熱的損耗と硫化腐食が従来よりも極めて進行しやすくなってきた。
このため、プッシャ2の下半部34の部分においては損耗によって部分的に穴が空き、グレート上のセメントクリンカ9のうち小粒径や粉状のものが下部空気室5へクリンカ漏れ22としてこぼれることがあった。こぼれたクリンカ漏れ22の清掃処分作業のために人手を要していた。また、冷却空気19がプッシャ2の熱損腐食磨耗部18の穴を通ってグレート板の上部にショートパスして抜けるので、冷却空気19をセメントクリンカ9の冷却用に有効に使用することができなかった。
【0008】
特許文献1には、冷却空気の漏れやセメントクリンカのこぼれを防止できるクリンカクーラが開示されている。しかし、このクリンカクーラでは、ロータリーキルンでの廃棄物の大量処理によって硫黄や塩素を多く含むセメントクリンカや、高温になったセメントクリンカに対する高熱強度劣化および硫化腐食に対して、耐磨耗低下や腐食割れ等の問題があり、長期間の耐久運転と安定運転を継続することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−19503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、セメントクリンカクーラのプッシャ2において、高温強度の不足および硫化腐食の進行などを低減されたクリンカクーラを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ロータリーキルンで焼成されたセメントクリンカが落下する位置に設けられたプッシャに続いて可動グレート板と固定グレート板とが交互に配列されて下流側に延び、各グレート板の内部に貫通形成されたスリットから各グレート板の上部に形成された空気孔を通じて空気を供給するように構成されたクリンカクーラおいて、前記プッシャのセメントクリンカとの接触構造面の中心から下半部の厚みが上半部の厚みよりも大きいことを特徴とするクリンカクーラである。前記下半部の厚みは35〜60mmであることが好ましい。また、前記プッシャの材質は、ニッケルを11〜36質量%及びクロムを24〜32質量%含有することが好ましい。さらに、前記合金は、コバルトを14〜16質量%含有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温耐熱強度の向上と、耐硫化腐食性の向上との両方の性能を有するクリンカクーラを提供することができ、セメント製造装置の操業度を高めることができる。また、セメントクリンカのこぼれを低減することができ、清掃作業の労力を低減することができる。さらに、グレート板のショートパスを防止して、冷却空気をセメントクリンカの冷却用に有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のプッシャと水平グレート装置の、構造とセメントクリンカの流れの一例を示すプッシャ付近を拡大した模式図である。
【図2】本発明におけるプッシャの形状の一例を示す立体の概略図である。
【図3】本発明におけるプッシャとプッシャサポートを組み立てた実施例を示す断面図である。
【図4】一般的なセメント製造装置の焼成工程の概略図である。
【図5】従来のクリンカクーラにおける長手方向の側面図の概略図である。
【図6】本発明におけるクリンカクーラにおけるグレート装置の平面図の一部概略図である。
【図7】本発明における下部空気室の構造例と、冷却空気の供給例とを示す一部概略図である。
【図8】本発明における傾斜グレート装置の配置の一例を示す断面の概略図である。
【図9】一般的な1枚のグレート板の形状を示す概略図である。
【図10】本発明におけるプッシャのテスト結果を示す熱損腐食磨耗部の比較図である。
【図11】従来における、プッシャと水平グレート装置の、構造とセメントクリンカの流れの一例を示すプッシャ付近を拡大した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。尚、上で述べた従来のクリンカクーラと同一の要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
図5と図6によって、クリンカクーラ1の構造と機能について説明する。クリンカクーラ1は、長い箱型の形状をしており、長手方向にセメントクリンカ9が輸送される。一方の側を、ロータリーキルン11における燃焼バーナ15の周囲のフッド部と上部で接続され、ロータリーキルン11からのセメントクリンカ9が連続的に落下する構造である。また、他方の側は、セメントクリンカ9が排出される構造となっている。
【0015】
長い箱型の内部における上下中間部において、図6に示すように、水平方向の平面状に金属製の多数のグレート板が、例えれば屋根瓦のように全面に敷かれた水平グレート装置8である。セメントクリンカ9は、この連結されたグレート装置の上をゆっくりと、クリンカクーラ1の長手方向に輸送されて行く構造になっている。グレート装置には可動グレート板3と固定グレート板4がセメントクリンカ9の流れ輸送方向の横1列毎の交互に、それぞれの一部分をオーバーラップさせた配置で並べてある。また、セメントクーラ1の横幅方向は、グレート板が多数、横1列に並べて敷いてあり、可動列の位置では同時に往復動作をする。可動グレート板3の往復運動によってセメントクリンカ9はグレート装置上をゆっくりと輸送されてセメントクリンカ排出口17まで輸送される。
【0016】
なお、グレート板の並び配置については、図1のような1枚のグレート板の先端を上向き角度10度程度の傾斜に配置させることによって、グレート装置としてはセメントクリンカ9の移動方向が水平である水平グレート装置8の場合が多い。しかし、図8のように1枚のグレート板を水平方向に固定させ、グレート装置として、セメントクリンカ9の移動方向が下り傾斜となる配置である傾斜グレート装置7の場合もあって、特に指定するものではない。
【0017】
グレート板の裏面より下の空間は下部空気室5になっていて、複数の独立した部屋になっており、クーラ吹込みファン6からの冷却空気19が下部空気室5に送られてくる。各グレート板には冷却空気19が通過できるようなスリット21が多数設けてあり、スリット21の上部に形成された空気孔36(図9)からの空気によってセメントクリンカ9を急冷するような構造をしている。図5に示すように、セメントクリンカ9を冷却し熱交換した後の加熱空気41は、ロータリーキルン11と仮焼炉12の燃焼バーナ15の燃焼空気として比較的高温である空気の必要最少量が、燃焼空気として回収される。余った熱交換後の比較的低温の加熱空気41は、セメントクリンカ排出口17の上部に設けた排気ダクト20からクーラ排気ガス38として除塵した後、大気へ放出される。
【0018】
図1にプッシャ2付近の拡大図を示す。プッシャ2の設置されている場所は、クリンカクーラ1のグレート装置の上におけるロータリーキルン11からのセメントクリンカ9が落下する炉壁23の位置に設置される。設置方向については、プッシャ2へのセメントクリンカの接触表面部が、垂直の角度から上向き角度で15度の範囲になるように設置することが好ましい。垂直を越えた下向き角度にしたら、プッシャ2の下半部34の磨耗がさらに激しくなる。一方、上向き角度が15度を越えると、セメントクリンカ9がプッシャ2の近辺に滞留しやすくなって冷却空気19が通り難くなり、セメントクリンカ9の急冷効果が低減する。
【0019】
クリンカクーラ1の横幅方向においては、プッシャ2の配列は、図6に示すリンカクーラ1の横幅と同じ長さになるように複数個ほど取り付けられる。該プッシャ2の構造は、図2に示すような下半部34の厚さが上半部33よりも大きく可動グレート板3と同じ幅の形状に分割され、複数個のプッシャ2を並べてクリンカクーラ1の横幅と同じ長さになる個数で構成される。
【0020】
プッシャ2の役割と機能は、プッシャ2に隣接する可動グレート板3の往復運動における際に可動グレート板3の上に乗っているセメントクリンカ9が、クリンカクーラ1の炉壁を磨耗させることから防止することの役割をしている。可動グレート板3が前進動作をすると可動グレート板3の先端エッジに隣接して存在するセメントクリンカ9は、セメントクリンカ9が載っている固定グレート板4の上面を押し出されるように前進すると共に、可動グレート板3の上のセメントクリンカ9も前進する。また、可動グレート板3が後退する際には、可動グレート板3の上面のセメントクリンカ9はプッシャ2で堰き止められ、可動グレート板3の表面をスリップして後退することができない構造になっている。
【0021】
このようにセメントクリンカ9が輸送され流れる機能を維持するために、セメントクリンカ9の流れる方向に向かって、可動グレート板3と固定グレート板4とが1枚ずつ交互に配置されて、全体としてグレート装置が構成される。以上のように、クリンカクーラ1内の全ての可動グレート板3が同じ往復運動をすることによって、セメントクリンカ9は、可動グレート板3の前進動作の際のみに徐々に間欠的に前進して行き、セメントクリンカ排出口17まで輸送させることができる。
【0022】
横1列ずつ交互に配列された固定グレート板4と可動グレート板3は、どちらのグレート板にもセメントクリンカ9を急冷する冷却空気19が通過するスリット21とその上部に形成される空気孔36とが図9に示す断面図のように、貫通されている。このスリット21や空気孔36には様々な公知技術があるが、ここでは一例として示しており、特に指定するものではない。
【0023】
次に図1、図4および図5で、プッシャ2、固定グレート板4、可動グレート板3の並び方を一例として詳細に説明する。ロータリーキルン11に最も近いクリンカクーラ1の内部壁面において、グレート板と接する垂直の炉壁23がセメントクリンカ9によって最も磨耗しやすい位置にプッシャ2を設置する。グレート板上のセメントクリンカ9の層厚27は、通常の操業状態の一例で、層厚27の厚さは、20〜50cm程度である。ロータリーキルン11からセメントクリンカ9が落下する位置の層厚27は、クリンカクーラ1の横幅中央部の層厚27が最も大きく50cm程度の厚さで、両端は20cm程度の厚さであるが、クリンカクーラ1内部を輸送されてゆくに従って、徐々に層厚27は30cm程度の一定の厚さになってくる。
【0024】
長年の操業実績の知見から、可動グレート板3の上面に直角なプッシャ2の表面が、下端から6cm以下の部分の下半部34で磨耗し易い実績を考慮して、プッシャ2の高さは、10〜30cmの範囲であるが、好ましくは12〜20cmである。プッシャ2の高さが10cm以下ならば、プッシャ2の上部の炉壁23がセメントクリンカによって磨耗し、炉壁23の断熱性が失われて、炉壁23の溶損につながる。また、プッシャ2の高さが30cm以上であったら、材質がJIS合金記号:SCH―13の高価な合金で製作されているので、磨耗し難い部分におけるプッシャ2の製作費用が無駄になる。
【0025】
プッシャ2へのセメントクリンカの接触表面部において、下端の6cm以下の磨耗が激しい理由は、図1に示すように、可動グレート板3が後退運動する際に、グレート板上に層厚27を作っているセメントクリンカ9も後退しようとしてプッシャ2に衝突することによるものと推定できる。セメントクリンカ9の層のうちグレート面に近い下層の部分であればあるほど、セメントクリンカ9の層の自重による相互摩擦力が大きいためにグレート板の前進動作に先導されてセメントクリンカ9が動く。このため、プッシャ2の磨耗は、セメントクリンカ9がプッシャ2の表面に強く衝突するために起きることであると推定している。セメントクリンカ9の層の上層は、層内でスリップするように同じ位置に滞留し、可動グレート板3が前進するとき、プッシャ2の表面を流れ込むように可動グレート板3の表面まで落下することで、さらに磨耗を促進することなどの繰返しによって、プッシャ2の下端部が磨耗するものと思われる。
【0026】
プッシャ2のセメントクリンカへの接触表面部に対して、角度75〜90度で接するグレート板は可動グレート板3であり、続いて固定グレート板4となる。その後、グレート板の1枚毎に、可動グレート板3と固定グレート板4を交互に設置している。クリンカクーラ1の幅方向については、同じ種類のグレート板を使用し、全ての可動グレート板3は、同方向に同時に往復運動をする。
【0027】
図7に下部空気室5の分割した一例を示している。各分割した下部空気室5には、独立したクーラ吹込みファン6によって、グレート板の下に位置する各々の下部空気室5から冷却空気19が、図9に示すようなグレート板のスリット21を通過上昇して、図1に示すようなセメントクリンカ9の層厚27内を通過する。なお、図1のセメントクリンカ9は模式図であって、実際には小粒径や粉状のセメントクリンカも多く含まれる。
【0028】
図1でわかるように、各グレート板同士の間隙及びプッシャ2とグレート板との間隙からの冷却空気19は、下部空気室5に粉状のセメントクリンカ9がこぼれないようにするために、できるだけ少ないことが望まれる。下部空気室5の圧力はグレート装置の上部圧力よりもかなり高く、風圧が2〜6MPaになるように複数のクーラ吹込みファン6によって冷却空気19が供給され、セメントクリンカ9が図9に示すスリット21からこぼれないようにする。なお、クーラ吹込みファン6は、スリット21の通過用とグレート板同士の間隙などの通過用とで別々に専用のファンを設置してもよいが、ここでは、指定しない。
【0029】
グレート板上のセメントクリンカ9の冷却については、図9の一例に示すような、グレート板を貫通したスリット21の内部を通過した噴出空気によって、各グレート板上のセメントクリンカ9を流動化させながら効率よく急冷させる。そして図5に示すように、セメントクリンカ9と熱交換した加熱空気41は、一部をロータリーキルン11の燃焼空気として回収される。また、他の一部はクーラ抽気ダクト37を経由したクーラ抽気ガス39として、仮焼炉12の燃焼バーナ15の燃焼空気としても回収される。一方、クリンカクーラ1の低温部からの熱交換後のクーラ排気ガス38は排気ダクト20を経由して、バッグフィルターまたは電気集塵機などで除塵されて、大気へ放出される。
【0030】
図2、図3に示すように、前記のプッシャ2は、水平連結部26、及びセメントクリンカ9との接触構造面により構成されており、プッシャサポート10と水平連結部26のボルト穴32を介してボルトナット40により保持できる形状である。接触構造面は、水平連結部26の中心軸から上側である上半部33と下側である下半部34からなる。本発明のプッシャ2は、下半部の厚みが上半部の厚みよりも大きいことを特徴とする。これにより、高温耐熱強度の向上と、耐硫化腐食性の向上との両方の性能を有するクリンカクーラを提供することができる。また、セメントクリンカ9のこぼれを低減することができ、清掃作業の労力を低減することができる。さらに、グレート板のショートパスを防止して、冷却空気19をセメントクリンカ9の冷却用に有効に使用することができる。尚、下半部34および上半部33の厚みとは、プッシャ2の接触構造面の厚みをいう。
【0031】
例えば、下半部34の厚みは35〜60mm、上半部33の厚みは、25〜30mmの厚さの範囲で任意に選択が可能である。これによって、従来よりも、高熱強度と耐硫化腐食とに優れた構造にすることができる。
【0032】
図2に一例を示すように、前記プッシャ2のセメントクリンカ9への接触構造面の厚みは、全体部分ではなく下半部34だけを35〜60mm程度に厚くすると良い。このようにすることによって、高価なプッシャ2の経済的な製作と、容易な施工とを行うことができる。しかし、該厚みを35mm未満にすると、6ケ月程度の長期の使用では、磨耗によって穴があいてセメントクリンカ9がクリンカ漏れ22をしてしまう可能性もあり、一方、該厚みが60mmを越えるとプッシャ2の製作と施工コストが大きくなる。
【0033】
プッシャ2のクリンカクーラ1内での配置については、プッシャ2の水平長手方向に隣接して多数配列し、クリンカクーラ1の壁面に幅一杯に6〜12個ほど設置する。なお、セメントクリンカ9の流れの中央部のプッシャ2は、下半部34の厚さを厚めにし、両端部に行くほど薄めにしてもよいが、全てのプッシャ2の下半部34の厚さを中央部と統一してもよい。この理由は、中央部のクリンカ層厚27は両端部の層厚27よりも大きいため、磨耗する高さも相対的に大きいためである。
【0034】
プッシャ2の材質は、ニッケルを11〜36質量%及びクロムを24〜32質量%含有する合金であることが好ましい。
具体的には、まずニッケルが11〜14質量%、クロムが24〜28質量%のJIS規格で、合金記号がSCH−13が挙げられる。
【0035】
本発明においては、さらに、前記のプッシャ2の耐久性を向上させるために、ニッケル11〜14質量%、及びクロム28〜32質量%の鋳鋼製の耐熱耐食合金とすることができる。これにより、高熱強度及び耐硫化腐食性をさらに上げる事が出来る。これに適するプッシャ2の材質としては、JIS規格で、合金記号がSCH−23である。
【0036】
さらに高熱強度及び耐硫化腐食性を向上させるためには、ニッケル18〜22質量%、及びクロム28〜32質量%の耐熱耐食合金とすることもできる。JIS規格の合金記号がHB520Mであって、材質の選定として最も磨耗速度を加味して経済的である。
【0037】
また、前記プッシャ2の材質にコバルトを添加することができる。これにより、SCH−23やHB520Mよりも、さらに高熱強度及び耐硫化腐食性を上げることができる。例えば、ニッケル34〜36質量%及びクロム25〜27質量%、コバルト14〜16質量%を含有している鋳鋼製の耐熱耐食合金(JISの合金記号で、PH35C)が磨耗速度としての性能はさらに良好である。ただし、経済的には前記の2者のものに比べて非常に高価であって耐久寿命が数年以上を必要とする場合に用いることができる。
表1に、JIS規格である各合金(記号)の含有成分を示す。
【0038】
【表1】

【実施例】
【0039】
プッシャ2へのセメントクリンカ9への接触構造面である下半部34の厚さを45mm、上半部の厚さは30mmとして、かつ材質がニッケル20%、及びクロム30%の耐熱合金鋳鋼製のものを、本発明品(JISの合金記号で、HB520M)とした。
【0040】
図1に示すように、クリンカクーラ1の水平グレート装置8において、セメントクリンカ9が最初に落下する可動グレート板3の位置に隣接してプッシャ2を設置した。セメントクリンカ9の落下する最上流部の幅は、8枚の可動グレート板3の炉壁23の面において、2400mmであって、プッシャ2は同じ寸法のものを8個、隣接して設置した。プッシャ2の1個あたりの寸法は、高さ140mm、横幅300mm、下半部の厚さ45mm、上半部の厚さ30mmである。
クリンカクーラ1において、横幅の位置で最も層厚27が大きい場所において必要な高さを有するプッシャ2の本発明品を8個ほど取り付けた。層厚27が最も大きい位置は、ロータリーキルン11からセメントクリンカ9が落下する場所であって、クリンカクーラ1におけるセメントクリンカ9流れのほぼ中央部である。
【0041】
図3に実施例を示すように、プッシャサポート10は、プッシャ2を支持・固定する役目をしている。プッシャサポート10のプッシャ2に面する厚さは、上部サポート24が20mm、下部サポート25が13mmとした。なお、図1に示すように、プッシャサポート10は、クリンカクーラ1の炉壁23の一部でグレート板と隣接する位置において、プッシャ2へのセメントクリンカ9の接触表面部が垂直から上向き角度10度なるように固定された。プッシャ2から直角に突出した水平連結部26を、プッシャサポート10の空洞部にはめ込み、連結サポート35と水平連結部26とのボルト穴32を通したボルトナット40によって、両者を接続し固定する構造とした。
【0042】
図5に示すように、クリンカクーラ1の構造は、図の縦長手方向に第1室から第6室までの6部屋の下部空気室5を有している。このうち、図7に示す下部空気室5のうち、ロータリーキルン11からセメントクリンカ9が落下して流れる方向に向かって、最初の下部空気室5は、第1室28である。従って、グレート装置を通過する冷却空気19を送るクーラ吹込みファン6は、各室とも単独のクーラ吹込みファン6を有しているので、合計6台のクーラ吹込みファン6を有することになり、この時のクリンカクーラ1への吹込み総空気量は、平均490KNm/hrであった。なお、この第1室の風圧は、5.25MPaであった。本発明のプッシャ2の耐久性を確認するため、6ヶ月の期間ほど連続使用した。6ヶ月間における、このセメント製造装置のセメントクリンカ生産量は平均196t/hrであった。
この結果、本発明のテスト品は、下半部の元厚が45mmであったものが、残厚が35mmとなり、10mmの減肉厚であった。上半部33はある程度は減肉したが6ヶ月間も十分に使用することができ耐久性としての問題はなく、さらに1年間の耐久性もあることが推測できた。
【0043】
[比較例]
従来品は、図10(a)に示すような全体の厚みが30mmのプッシャ2を使用した。高さ15cmのプッシャ2へのセメントクリンカ9の接触構造面の全体の厚さを一定にして、かつ材質がニッケル11〜14%及びクロム24〜28%の耐熱合金鋳鋼製(JISの合金記号で、SCH―13)のものとした。それ以外は実施例と同じ条件でテストを行った。
その結果、下半部34元厚が30mmであったものが、残厚が5mmとなり、熱損腐食磨耗部18は、25mmの減肉厚であった。
【0044】
これについて、図10にて熱損腐食磨耗部18としての減肉圧の様子を模式図にて比較した。
従来品ではプッシャ2の下半部34が、熱損と硫化腐食により元厚30mmがほとんどの位置で無くなっており、下半部34の平均値で残厚が5mmとなっている。これは25mm以上の減肉厚である。
【0045】
一方、本発明のテスト品では、図10(b)に示すようにプッシャ2の下半部34の平均値で減肉厚が平均10mmである。即ち、従来品に較べて該テスト品は減肉厚で60%程度の改善ができたことになった。本発明の該テスト品での結果から、材質をJIS合金記号:SCH―13から、JIS合金記号:HB520Mへ変更すれば、残厚の状態から、機械強度的には6ヶ月以上は十分に従来の形状でも使用可能であったが、長期的な保全費用を考慮すれば、本発明によるものが最適な形状と材質であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、高温を扱う各種の炉内における金属部の高熱劣化、硫化腐食などについての経済的な対応策を行う方法について、各種産業に適用可能な技術である。
【符号の説明】
【0047】
1 クリンカクーラ
2 プッシャ
3 可動グレート板
4 固定グレート板
5 下部空気室
6 クーラ吹込みファン
7 傾斜グレート装置
8 水平グレート装置
9 セメントクリンカ
10 プッシャサポート
11 ロータリーキルン
12 仮焼炉
13 プレヒータ
14 排気ファン
15 燃焼バーナ
16 原料送入口
17 セメントクリンカ排出口
18 熱損腐食磨耗部
19 冷却空気
20 排気ダクト
21 スリット
22 クリンカ漏れ
23 炉壁
24 上部サポート
25 下部サポート
26 水平連結部
27 層厚
28 第1室
29 第2室
30 第3室
31 第4室
32 ボルト穴
33 上半部
34 下半部
35 連結サポート
36 空気孔
37 クーラ抽気ダクト
38 クーラ排気ガス
39 クーラ抽気ガス
40 ボルトナット
41 加熱空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーキルンで焼成されたセメントクリンカが落下する位置に設けられたプッシャに続いて可動グレート板と固定グレート板とが交互に配列されて下流側に延び、各グレート板の内部に貫通形成されたスリットから各グレート板の上部に形成された空気孔を通じて空気を供給するように構成されたクリンカクーラおいて、前記プッシャのセメントクリンカとの接触構造面の中心から下半部の厚みが上半部の厚みよりも大きいことを特徴とするクリンカクーラ。
【請求項2】
前記下半部の厚みは35〜60mmである請求項1記載のクリンカクーラ。
【請求項3】
前記プッシャの材質は、ニッケルを11〜36質量%及びクロムを24〜32質量%含有する合金である請求項1または2記載のクリンカクーラ。
【請求項4】
前記合金は、コバルトを14〜16質量%含有する請求項3記載のクリンカクーラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−195663(P2010−195663A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45258(P2009−45258)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】