説明

クリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物並びに空気入りタイヤ

【課題】酸化亜鉛を減量しても、良好な操縦安定性(硬度)、加工性(押し出し加工性)を維持しつつ、低燃費性、破断時伸び、耐摩耗性をバランスよく向上できるクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物、並びにこれらを用いて作製したクリンチ、チェーファー及び/又はサイドウォールを有する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分100質量部に対して、下記式(I)で表される化合物の含有量が0.2〜6質量部、酸化亜鉛の含有量が1.0質量部以下であるクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物に関する。
[化1]


(式中、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物、並びにこれらを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
クリンチ、チェーファー、サイドウォールに使用されるゴム組成物は、リムや縁石と直接接触するため、優れた耐摩耗性や耐亀裂成長性が要求される。これらのゴム組成物には、その他にも、優れた操縦安定性(硬度)、低燃費性、破断時伸びが要求される。これらの要求を満たすために、クリンチ、チェーファー、サイドウォールに使用されるゴム組成物では、例えば、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)からなるゴム成分が使用され、酸化亜鉛がゴム成分100質量部に対して、通常2.5〜5質量部配合されている。
【0003】
しかし、酸化亜鉛は、難分散性の無機物であり、耐摩耗性を損なうため、減量することが望ましい。また、近年では、タイヤ用ゴム組成物に含まれる酸化亜鉛が環境汚染の観点から問題視されるようになってきており、酸化亜鉛の減量が望まれている。しかしながら、酸化亜鉛を減量すると、硬度が低下し、操縦安定性が悪化する傾向があるため、実用上酸化亜鉛を減量することは困難であった。
【0004】
他にも、操縦安定性(硬度)、低燃費性、破断時伸び、耐摩耗性を向上させるために様々な試みが行われている。例えば、特許文献1では、BRとして、VCRと変性BRとを併用する方法、特許文献2では、ハイブリッド架橋助剤として、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200を使用する方法、特許文献3では、硫黄、加硫促進剤、酸化亜鉛の配合量を最適化する方法などが提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1〜3に記載の技術では、良好な操縦安定性(硬度)、加工性(押し出し加工性)を維持しつつ、低燃費性、破断時伸び、耐摩耗性をバランスよく向上する点については改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−63143号公報
【特許文献2】特開2009−84534号公報
【特許文献3】特開2008−24913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、酸化亜鉛を減量しても、良好な操縦安定性(硬度)、加工性(押し出し加工性)を維持しつつ、低燃費性、破断時伸び、耐摩耗性をバランスよく向上できるクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物、並びにこれらを用いて作製したクリンチ、チェーファー及び/又はサイドウォールを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴム成分100質量部に対して、下記式(I)で表される化合物の含有量が0.2〜6質量部、酸化亜鉛の含有量が1.0質量部以下であるクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物に関する。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【0009】
ゴム成分100質量部に対して、上記式(I)で表される化合物の含有量が0.4〜6質量部であることが好ましい。
【0010】
上記ゴム成分がイソプレン系ゴム及びブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0011】
転がり抵抗性(低燃費性)を重視する場合、上記ゴム組成物は、上記ゴム成分100質量部に対して、シリカを5〜40質量部含むことが好ましい。
【0012】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したクリンチ、チェーファー及び/又はサイドウォールを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定量の上記式(I)で表される化合物を含むクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物であるので、酸化亜鉛を減量しても(所定量以下としても)、良好な操縦安定性(硬度)、加工性(押し出し加工性)を維持しつつ、低燃費性、破断時伸び、耐摩耗性をバランスよく向上できる。よって、上記ゴム組成物をタイヤのクリンチ、チェーファー及び/又はサイドウォールに使用することにより、良好な操縦安定性(硬度)を維持しつつ、低燃費性、耐久性、耐摩耗性がバランス良く改善された空気入りタイヤを提供できる。また、酸化亜鉛を所定量以下しか含まないため、環境汚染を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物(以下においては、これらをまとめて本発明のゴム組成物ともいう)は、特定量の上記式(I)で表される化合物を含み、酸化亜鉛の含有量が所定量以下である。
【0015】
上記式(I)で表される化合物は、その構造の中心に亜鉛原子を保持しており、優れた架橋促進作用を発揮すると共に、分散性にも優れる。また、上記式(I)で表される化合物中の亜鉛は、酸化亜鉛のように塊ではなく、分子レベルで微分散している。そのため、特定量の上記式(I)で表される化合物を配合することにより、酸化亜鉛を減量しても(所定量以下としても)、均一な架橋を形成でき、良好な操縦安定性(硬度)、加工性(押し出し加工性)を維持しつつ、破断時伸び、低燃費性、耐摩耗性を向上できる。
また、上述のように、上記式(I)で表される化合物中の亜鉛は、分子レベルで微分散しているため、耐摩耗性に悪影響を及ぼさない。また、特定量の上記式(I)で表される化合物を配合することにより、異物、凝集塊として性能(特に、耐摩耗性)に悪影響を及ぼす酸化亜鉛を減量する(所定量以下とする)ことが可能となる。よって、環境汚染の防止と共に、耐摩耗性の低下を抑制できる。
【0016】
このように、本発明のゴム組成物によれば、酸化亜鉛を減量しても、良好な操縦安定性(硬度)、加工性(押し出し加工性)を維持しつつ、低燃費性、破断時伸び、耐摩耗性をバランスよく向上できる。
【0017】
なお、メタクリル酸亜鉛は、良好な分散性を有するものの、架橋促進作用は、上記式(I)で表される化合物に比べて劣っており、上記性能の向上効果は充分ではない。
【0018】
上記式(I)で表される化合物による架橋促進作用が発揮される機構については明らかではないが、以下のa)〜b)の機構が考えられる。
a)上記式(I)で表される化合物がシリカ(シリカの水酸基)と結合し、シランカップリング剤とシリカとの結合を仲介する。
b)上記式(I)で表される化合物がゴム中に高度に分散し、加硫(架橋)促進剤と結合し、該加硫促進剤とゴム成分との結合を仲介する。
【0019】
シリカを含むゴム組成物において好んで用いられる加硫促進剤であるDPGが上記a)の作用を発揮することは知られており、また、上記式(I)で表される化合物をDPGと置換した場合、DPGを上回る性能を示すことから、上記a)の機構である可能性がある。更に、上記式(I)で表される化合物を配合すると、加硫促進剤を減量しても同程度の硬度を確保することができること、シランカップリング剤を配合しない場合でも性能の向上が見られることから、上記b)の機構である可能性も高い。上記式(I)で表される化合物は、適度な長さの分子鎖を有するとともに、極性が低いため、ゴムポリマー中に分散しやすく、加硫促進剤と接近し易い構造である。上記効果は上記式(I)で表される化合物のこのような構造に起因するものであると推測される。
【0020】
上記式(I)において、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。R〜Rが表す直鎖若しくは分岐鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、4−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、オクタデシル基等が挙げられ、一方、シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
なかでも、ゴム成分中で分散し易く、かつ製造が容易であるという点から、R〜Rは、炭素数2〜8の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基であることが好ましく、n−ブチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−オクチル基であることがより好ましい。
【0021】
上記式(I)で表される化合物としては、例えば、ラインケミー社製のTP−50、ZBOP−50や、これらに類似する化合物(例えば、R〜Rがn−プロピル基、iso−プロピル基又はn−オクチル基のもの)等を使用することができる。
【0022】
式(I)で表される化合物の含有量(有効成分の含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、0.2質量部以上、好ましくは0.4質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上である。0.2質量部未満の場合、式(I)で表される化合物を配合することによる効果が充分に得られない傾向がある。
また、該含有量は、6質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。6質量部を超えると、スコーチタイムが短くなり、押し出し加工性が悪化する傾向がある。
【0023】
式(I)で表される化合物は、優れた架橋促進作用を有していることから、本発明のゴム組成物では、酸化亜鉛を減量できる。したがって、本発明のゴム組成物において、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1.0質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下、最も好ましくは0質量部(含有しない)である。これにより、式(I)で表される化合物がゴム中に高度に分散した後、加硫促進剤と結合しやすくなり、耐摩耗性をより改善することができる。これは、式(I)で表される化合物から硫黄原子や亜鉛原子がリリースされ加硫促進剤と複合体を形成するものと思われるが、酸化亜鉛が配合されている場合、亜鉛原子が式(I)で表される化合物からリリースされにくくなるためと推測される。
【0024】
本発明で使用できるゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムを使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、クリンチ、チェーファー、サイドウォールに求められる耐摩耗性、操縦安定性(硬度)、低燃費性、破断時伸びに優れるという理由から、イソプレン系ゴム、BRが好ましく、イソプレン系ゴムとBRを併用することがより好ましい。
【0025】
さらに、ゴム成分として、イソプレン系ゴムとBRを併用した場合には、例えば、ゴム成分としてSBRのみを用いた場合に比べて、上記式(I)で表される化合物を配合したことにより得られる性能の向上効果が大きい。
【0026】
イソプレン系ゴムとしては、合成イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム等が挙げられる。NRには、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)も含まれ、改質天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。また、NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、NR、IRが好ましく、NRがより好ましい。
【0027】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、破断時伸びが劣るおそれがある。また、イソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。50質量%をこえると、耐摩耗性が劣るおそれがある。
【0028】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)も使用できる。なかでも、耐摩耗性、耐亀裂成長性に優れるという理由から、シス含量は95質量%以上が好ましい。また、低燃費性と耐摩耗性をバランスよく向上できることから、SPBを含むBRと、スズ変性BRを併用することが好ましい。
【0029】
上記SPBを含むBRにおいて、SPBは、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散していることが好ましい。前記結晶がゴム成分と化学結合したうえで分散(配向(配行))することにより、耐摩耗性、押し出し加工性がより向上する傾向がある。
【0030】
SPBの融点は180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましい。融点が180℃未満では、プレスにおけるタイヤの加硫中に結晶が溶融し、硬度が低下する傾向がある。また、SPBの融点は220℃以下であることが好ましく、210℃以下であることがより好ましい。融点が220℃をこえると、SPBを含むBRの分子量が大きくなるため、ゴム組成物中において分散性が悪化する傾向がある。
【0031】
SPBを含むBR中において、SPBの含有量は2.5質量%以上、好ましくは10質量%以上である。2.5質量%未満では、ゴム組成物の充分な硬度が得られない傾向がある。また、SPBを含むBR中において、SPBの含有量は20質量%以下、好ましくは18質量%以下である。20質量%をこえると、SPBを含むBRがゴム組成物中に分散し難く、加工性(押し出し加工性)が悪化する傾向がある。ここで、SPBを含むBR中におけるSPBの含有量とは、沸騰n−ヘキサン不溶物の含有量を示す。
【0032】
上記スズ変性BRは、リチウム開始剤により1,3−ブタジエンの重合を行った後、スズ化合物を添加することにより得られ、更に該スズ変性BR分子の末端はスズ−炭素結合で結合されていることが好ましい。該スズ変性BRを使用することにより、ポリマーのTg(ガラス転移温度)を低下することができ、またカーボンブラック等のフィラーとポリマーとの結合を強固にすることもできる。
【0033】
リチウム開始剤としては、アルキルリチウム、アリールリチウム、アリルリチウム、ビニルリチウム、有機スズリチウム、有機窒素リチウム化合物などのリチウム系化合物が挙げられる。リチウム系化合物を開始剤とすることで、高ビニル、低シス含量のスズ変性BRを作製できる。
【0034】
スズ化合物としては、四塩化スズ、ブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、ジオクチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、トリフェニルスズクロライド、ジフェニルジブチルスズ、トリフェニルスズエトキシド、ジフェニルジメチルスズ、ジトリルスズクロライド、ジフェニルスズジオクタノエート、ジビニルジエチルスズ、テトラベンジルスズ、ジブチルスズジステアレート、テトラアリルスズ、p−トリブチルスズスチレンなどが挙げられ、これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
スズ変性BRのスズ原子の含有量は50ppm以上、好ましくは60ppm以上である。含有量が50ppm未満では、スズ変性BR中のカーボンブラックの分散を促進する効果が小さく、tanδが増大する。また、スズ原子の含有量は3000ppm以下、好ましくは2500ppm以下、より好ましくは250ppm以下である。含有量が3000ppmを超えると、混練り物のまとまりが悪く、エッジが整わないため、混練り物の押し出し加工性が悪化する。
【0036】
スズ変性BRの分子量分布(Mw/Mn)は2以下、好ましくは1.5以下である。Mw/Mnが2を超えると、カーボンブラックの分散性が悪化し、tanδが増大するため好ましくない。
なお、本発明において、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレンより換算した値である。
【0037】
スズ変性BRのビニル結合量は5質量%以上、好ましくは7質量%以上である。ビニル結合量が5質量%未満では、スズ変性BRを重合(製造)することが困難である。また、ビニル結合量は50質量%以下、好ましくは20質量%以下である。ビニル結合量が50質量%を超えると、カーボンブラックの分散性が悪く、また、引張強さが弱くなる傾向がある。
【0038】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。50質量%未満であると、耐摩耗性に劣るおそれがある。該BRの含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。90質量%を超えると、加工性、破断時伸びが劣るおそれがある。
【0039】
SPBを含むBRと、スズ変性BRを併用する場合、ゴム成分100質量%中のSPBを含むBRの含有量は、好ましくは30〜50質量%である。
また、ゴム成分100質量%中のスズ変性BRの含有量は、好ましくは20〜40質量%である。
SPBを含むBRと、スズ変性BRの含有量が上記範囲である場合、低燃費性と耐摩耗性をよりバランスよく向上できる。
【0040】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムとBRの合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。80質量%未満であると、本発明の効果が充分に得られないおそれがある。
【0041】
本発明では、シリカを使用することが好ましい。シリカを配合することにより、良好な低発熱性及び高いゴム強度が得られ、低燃費性、破断時伸びを向上できる。上記式(I)で表される化合物とシリカを併用することにより、初期加硫速度の適正化を図ることができ、相乗的に低燃費性、破断時伸びを向上できる。なお、一般的に、上記式(I)で表される化合物を配合することにより、初期加硫速度が上昇するが、上記式(I)で表される化合物と共にシリカを配合することにより、初期加硫速度の適正化を図ることができる。これは、シリカの表面が酸性のため、シリカを配合することにより加硫速度を遅くできるためであると推測される。
【0042】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0043】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは40m/g以上、より好ましくは100m/g以上である。40m/g未満では、破断時伸びが低下する傾向がある。また、シリカのNSAは、好ましくは220m/g以下、より好ましくは200m/g以下である。220m/gを超えると、低燃費性、押し出し加工性が悪化する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0044】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上、更に好ましくは10質量部以上である。5質量部未満では、転がり抵抗(低燃費性)と破断時伸びについて充分な向上効果が得られない傾向がある。また、シリカの含有量は、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは25質量部以下である。40質量部を超えると、耐摩耗性、押し出し加工性が悪化する傾向がある。
【0045】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドがより好ましい。
【0046】
シランカップリング剤の含有量は、シリカの含有量100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。2質量部未満では、破断時伸びが大きく低下する傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、シリカの含有量100質量部に対して、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。15質量部を超えると、シランカップリング剤を添加することによる破断時伸びの向上や転がり抵抗低減(低燃費性の向上)などの効果が得られない傾向がある。
【0047】
上記ゴム組成物には、カーボンブラックを配合してもよい。これにより、より良好な補強性が得られ、操縦安定性(硬度)、破断時伸び、耐摩耗性をより改善できる。カーボンブラックとしては、例えば、GPF、HAF、ISAF、SAFなど、タイヤ工業において一般的なものを用いることができる。
【0048】
クリンチ、又はチェーファー用ゴム組成物に、カーボンブラックを使用する場合、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは40m/g以上、より好ましくは60m/g以上である。NSAが40m/g未満では、充分な補強性が得られず、操縦安定性(硬度)、破断時伸び、耐摩耗性を充分に向上できないおそれがある。また、カーボンブラックのNSAは、好ましくは120m/g以下、より好ましくは90m/g以下である。NSAが120m/gを超えると、押し出し加工性が悪化したり、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのNSAは、JIS K6217、7頁のA法によって求められる。
【0049】
サイドウォール用ゴム組成物に、カーボンブラックを使用する場合、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは10m/g以上、より好ましくは20m/g以上である。NSAが10m/g未満では、充分な補強性が得られず、操縦安定性(硬度)、破断時伸び、耐摩耗性を充分に向上できないおそれがある。また、カーボンブラックのNSAは、好ましくは60m/g以下、より好ましくは50m/g以下である。NSAが60m/gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、サイドウォール用ゴム組成物に、カーボンブラックを使用する場合、カーボンブラックと共にシリカを使用することが好ましい。この場合、低燃費性に優れたタイヤ(乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ)が得られる。
【0050】
カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは25質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。25質量部未満では、充分な補強性が得られず、操縦安定性(硬度)、破断時伸び、耐摩耗性を充分に向上できないおそれがある。また、上記合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。80質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0051】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、クレー等の補強用充填剤、ステアリン酸、各種老化防止剤、アロマオイル等のオイル、ワックス、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤などを適宜配合することができる。
【0052】
耐摩耗性向上のためには、硫黄を減量することが好ましい。しかし、クリンチ、チェーファー、サイドウォール用ゴム組成物の硫黄の含有量を減量すると、クリンチ、チェーファー、サイドウォールに隣接するカーカスコード(ケース)被覆用ゴムと該ゴムに被覆されるコードとの接着性が低下し、タイヤの耐久性が低下してしまうため、硫黄を減量できない。クリンチ、チェーファー、サイドウォール用ゴム組成物の硫黄を減量すると、加硫中にカーカスコード被覆用ゴムからクリンチゴム、チェーファーゴム、サイドウォールゴムへ硫黄の移行が発生し、その結果、カーカスコード被覆用ゴムと該ゴムに被覆されるコードとの接着性が低下するものと推測される。従って、本発明のゴム組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1.5〜2.5質量部が好ましい。
【0053】
加硫促進剤としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)等のスルフェンアミド系加硫促進剤や、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、ジフェニルグアニジン(DPG)などが挙げられる。なかでも、加硫特性に優れ、加硫後の低発熱性、ゴム焼け性(スコーチ性)が良好である点で、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましく、TBBSがより好ましい。
【0054】
上記式(I)で表される化合物は活性が高いため、配合すると混練り工程でゴム焼け(変色)が発生し易く、かつ架橋密度が高くなる傾向がある。したがって、本発明のゴム組成物は、加硫促進剤を減量することが好ましい。具体的には、ゴム成分100質量部に対して、加硫促進剤の含有量は、好ましくは2.2質量部以下、より好ましくは1.8質量部以下、更に好ましくは1.4質量部以下である。2.2質量部を超えると、破断時伸びが低下するおそれがある。該加硫促進剤の含有量は、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上である。0.5質量部未満であると、操縦安定性(硬度Hs)が劣るおそれがある。
【0055】
加硫促進助剤(加硫遅延剤)としては、加硫速度を遅くし、スコーチを防止可能なN−シクロヘキシルチオフタルイミド(大内新興化学工業(株)製のリターダーCTP、モンサント社製のリターダーPVI)等を使用することが好ましい。N−シクロヘキシルチオフタルイミドは、ゴム成分100質量部に対して、0.3質量部以下を配合することが好ましい。0.3質量部を超えると、加工中にN−シクロヘキシルチオフタルイミドがブルームし、粘着性や、他のゴムとの接着性が低下するおそれがある。
【0056】
本発明のゴム組成物は、クリンチ、チェーファー及び/又はサイドウォールに使用することができる。
【0057】
なお、本明細書において、クリンチとは、サイドウォールの内方端に配されるゴム部であり、チェーファーとは、ビード部の少なくともリムと接触する部分に配される部材である。クリンチ、チェーファーの具体例は、特開2010−163560号公報の図1等に示されている。
【0058】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、前記各成分をバンバリーミキサー、オープンロール等のゴム混練装置を用いて混練する方法が挙げられる。
【0059】
本発明のゴム組成物を用い、通常の方法で本発明の空気入りタイヤを製造することができる。すなわち、前記ゴム組成物を用いてクリンチ、チェーファー及び/又はサイドウォールなどのタイヤ部材を作製し、他の部材とともに貼り合わせ、タイヤ成型機上にて加熱加圧することにより製造できる。
【0060】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車、トラック/バス、ライトトラック等に用いることができる。本発明の空気入りタイヤは、操縦安定性(硬度)、低燃費性、耐久性(特に、過荷重耐久性)、耐摩耗性に優れている。また、本発明の空気入りタイヤは、ランフラットタイヤであってもよい。本発明のゴム組成物をランフラットタイヤに適用した場合、得られたランフラットタイヤは、操縦安定性(硬度)、低燃費性、耐久性(特に、ランフラット耐久性)、耐摩耗性に優れている。
【実施例】
【0061】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0062】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
BR(1):宇部興産(株)製のBR150B(ハイシスBR、シス含量:97質量%)
BR(2):日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性BR、開始剤としてリチウムを用いて重合、ビニル結合量:10〜13質量%、Mw/Mn:1.5、スズ原子の含有量:250ppm)
BR(3):宇部興産(株)製のVCR617(ハイシスBR、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)分散体、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の含有量(沸騰n−ヘキサン不溶物の含有量):17質量%、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の融点:200℃)
NR:TSR20
シリカ(1):ローディアジャパン(株)製のZ115Gr(NSA:112m/g)
シリカ(2):エボニックデグッサ社製のウルトラジルVN3(NSA:175m/g)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のN330(NSA:78m/g)
オイル:H&R社製のvivatec500(TDAEオイル)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(6PPD)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミサルファー(二硫化炭素による不溶物60%以上の不溶性硫黄、オイル分:10%)
加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
架橋助剤V200:田岡化学工業(株)製のタッキロールV200
架橋助剤SDT−50:ラインケミー社製のSDT−50(下記式で表される化合物、R12〜R15:2−エチルヘキシル基、x:1以上、有効成分の含有量:50質量%)
【化2】

架橋助剤TP−50:ラインケミー社製のTP−50(式(I)で表される化合物、R〜R:n−ブチル基、有効成分の含有量:50質量%)
架橋助剤ZBOP−50:ラインケミー社製のZBOP−50(式(I)で表される化合物、R〜R:アルキル基、有効成分の含有量:50質量%)
架橋助剤PVI:モンサント社製のリターダーPVI(N−シクロヘキシルチオフタルイミド)(加硫遅延剤)
【0063】
実施例1〜12及び比較例1〜11
表1,2に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、配合材料のうち、硫黄、加硫促進剤及び架橋助剤以外の材料を180℃になるまで混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤及び架橋助剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をクリンチ、チェーファー及びサイドウォール形状に加工し、他のタイヤ部材と貼り合わせ、170℃の条件下で12分間加硫することで試験用タイヤ(タイヤサイズ:225/40R18 88Y)を得た。
【0064】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、試験用タイヤを用いて以下の評価を行った。その結果を表1,2に示す。
【0065】
(操縦安定性(Hs))
JIS K6253に準拠し、25℃の温度で硬度計を用いて各加硫ゴム組成物の硬度を測定した(ショア−A測定)。数値が大きいほど硬く、操縦安定性に優れることを示す。
【0066】
(低燃費性)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各加硫ゴム組成物のtanδを測定した。tanδが小さいほど転がり抵抗性(低燃費性)に優れることを示す。
【0067】
(引張試験)
加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。EBが大きいほど、破断時伸び(耐破壊強度)に優れることを示す。
【0068】
(耐摩耗性(リムズレ性))
JIS規格の最大荷重(最大内圧条件)の230%荷重の条件下で、試験用タイヤを速度20km/hで400時間ドラム走行させた後、リムフランジ接触部の摩耗深さを測定し、比較例1のリムズレ性指数を100とし、以下の計算式により、各配合の摩耗深さを指数表示した。なお、リムズレ性指数が大きいほど、リムずれしにくく、耐摩耗性に優れることを示す。
(リムズレ性指数)=(比較例1の摩耗深さ)/(各配合の摩耗深さ)×100
【0069】
(押し出し加工性)
未加硫ゴム組成物をコールドフィード押し出し機で押し出す際の、ゴム焼けの耐性、押し出しエッジの凹凸具合、押し出し寸法の安定性を評価した。
◎+:特に優れている、◎:優れている、○:良い、△:生産性・ユニフォミティーの低下が生じる、×:大きく生産性が低下する、××:極めて劣る(生産に支障がある)
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1,2より、特定量の上記式(I)で表される化合物を含み、酸化亜鉛の含有量が所定量以下の実施例は、良好な操縦安定性(硬度)、押し出し加工性を維持しつつ、低燃費性、破断時伸び、耐摩耗性をバランスよく向上できた。一方、特定量の上記式(I)で表される化合物を配合しなかった比較例では、実施例に比べて性能が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対して、下記式(I)で表される化合物の含有量が0.2〜6質量部、酸化亜鉛の含有量が1.0質量部以下であるクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【請求項2】
ゴム成分100質量部に対して、前記式(I)で表される化合物の含有量が0.4〜6質量部である請求項1記載のクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分がイソプレン系ゴム及びブタジエンゴムを含む請求項1又は2記載のクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分100質量部に対して、シリカを5〜40質量部含む請求項1〜3のいずれかに記載のクリンチ、チェーファー又はサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したクリンチ、チェーファー及び/又はサイドウォールを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−46601(P2012−46601A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188671(P2010−188671)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】