説明

クルクミン及びクルクミン誘導体のナノ乳化法

非イオン性界面活性剤及び非イオン性共溶媒を用い、音波エネルギーを利用して、水溶解度を向上させる、高親油性ポリフェノール化合物のナノ乳化法を本明細書で開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性界面活性剤及び非イオン性共溶媒を特定濃度で用い、音波エネルギーをあわせて利用して水溶解度を向上させる、クルクミノイドなどの高親油性ポリフェノール化合物の新規ナノ乳化法に関する。
【背景技術】
【0002】
クルクミノイドは、クルクミン及び様々な化学基を有するクルクミン誘導体である。これらの化合物はポリフェノールであり、黄色く発色する。多くのクルクミノイド化合物の特性は、酸性及び生理的pHで水への溶解度が低く、またアルカリ性溶液中で急速に加水分解するので、薬物設計に適さない。従って、クルクミン誘導体を合成して、これらの溶解度、ひいてはバイオアベイラビリティを増大させる(Studies on curcumin and curcuminoids XXXI.Symmetric and asymmetric curcuminoids:Stability,activity and complexation with cyclodextrin.Author(s):Tomren MA(Tomren,M.A.),Masson M(Masson,M.),Loftsson T(Loftsson,T),Tonnesen HH(Tonnesen,H.Hjorth).Source:INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS 338(1−2):27−34 JUN 29 2007)。クルクミノイドは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン及びエタノール中に可溶性である(Formulation and characterization of curcuminoids loaded solid lipid nanoparticles.Author(s):Tiyaboonchai W(Tiyaboonchai,Waree),Tunpradit W(Tunpradit,Watcharaphorn),Plianbangchang P(Plianbangchang,Pinyupa).Source:INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS 337(1−2):299−306 JUN 7 2007)が、脂質中には難溶性である。界面活性剤又は共界面活性剤を含む水性相中でのこれらの溶解度を増大させることが可能である(Antioxidant activities of curcumin,demethoxycurcumin and bisdemethoxycurcumin.Author(s):Jayaprakasha GK,Rao LJ,Sakariah KK Source:FOOD CHEMISTRY 98(4):720−724 2006)。クルクミンよりも有効であり得るクルクミン誘導体が合成されている。最も一般的な誘導体は、フェニル基上に異なる置換基を有する(Formulation and characterization of curcuminoids loaded solid lipid nanoparticles.Author(s):Tiyaboonchai W(Tiyaboonchai,Waree),Tunpradit W(Tunpradit,Watcharaphorn),Plianbangchang P(Plianbangchang,Pinyupa).Source:INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS 337(1−2):299−306 JUN 7 2007)。ところで、デメトキシクルクミン及び(クルクミノイド)は、最近見いだされたそれらの生物学的活性のために需要が増大している(Antioxidant activities of curcumin,demethoxycurcumin and bisdemethoxycurcumin.Author(s):Jayaprakasha GK,Rao LJ,Sakariah KK Source:FOOD CHEMISTRY 98(4):720−724 2006)。
【0003】
天然のクルクミノイドは、ウコンという植物から抽出されるもので、主に3つの構成成分:a)クルクミン、b)デメトキシクルクミン、c)ビスデメトキシクルクミンから構成される。それらの薬理効果がコルチコステロイド及び非ステロイド系抗炎症薬の薬理効果に匹敵することは、いくつかの研究によって証明されている。
【化1】

【0004】
クルクミン(化1B)は1815年に単離され、1910年に構造的に解明された。ウコンから単離された他のクルクミノイドとしては、デメトキシクルクミン(化1C)、ビスデメトキシクルクミン(化1D)、クルクミンのシス−トランス幾何異性体(化1E)、及びシクロクルクミン(化1F)が挙げられる。
【0005】
従って、構造の観点から、クルクミノイドの溶解度が水溶液中で非常に低いことは明らかである。従って、水への溶解度を増大させることに関してかなりの数の研究が進行中であり、この点で関連する従来技術を以下に記載する:
【0006】
PCT/US2007/005829は、向上したバイオアベイラビリティを有するクルクミノイド配合物が提供され、これはクルクミノイド、酸化防止剤、グルクロン酸化阻害剤、及び水溶性の薬学的に許容される阻害剤を含むことを記載している。このような組成物を投与することによるアルツハイマー病及び他の加齢に関連する疾患の治療法も提供され、ナノエマルジョンによってクルクミノイドを可溶化する方法も提供される。
【0007】
PCT/KR2004/000529は、クルクミンの可溶化及び水中への分散法を記載する。この方法は、糖をクルクミンと共有結合させ、これにより、水中に不溶性であったクルクミンを水溶性クルクミンにすることによって水溶性クルクミンを調製する。
【0008】
Biji T.Kurienらは、熱エネルギーの使用によってクルクミンを可溶化するさらに別の方法を記載している。(Improving the Solubility and Pharmacological Efficacy of Curcumin by Heat Treatment− ASSAY and Drug Development Technologies,August 1,2007,5(4):567−576.doi:10.1089/adt.2007.064)
【0009】
BISHTらは、ナノカプセル化法を用いてクルクミン粒子をカプセル化し、「ナノクルクミン」と命名している。Polymeric nanoparticle−encapsulated curcumin(“nanocurcumin”):a novel strategy for human cancer therapy Journal of Nanobiotechnology April 17th 2007,5:3。
【0010】
TOMREN MA Studies on curcumin and curcuminoids XXXI.Symmetric and asymmetric curcuminoids:Stability,activity and complexation with cyclodextrin.Author(s):Tomren MA(Tomren,M.A.),Masson M(Masson,M.),Loftsson T(Loftsson,T),Tonnesen HH(Tonnesen,H Hjorth).Source:INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS 338(1−2):27−34 JUN 29 2007)。
【0011】
クルクミンは非常に急速に代謝を受け、その結果、クルクミンの98%が排出されるので、バイオアベイラビリティが非常に低いということは周知の事実である。この化合物は2%しか体内に吸収されないが、それでも多くの疾患の治療において顕著な効果をもたらす。
【0012】
非イオン性界面活性剤の使用を、前記文献において可溶化の目的に関して検討してきたが、見地が異なるようである。使用される界面活性剤は、エマルジョンなどを調製するために使用され、クルクミノイドを直接可溶化するためではない。
従って、本発明は、非イオン性界面活性剤及び非イオン性共溶媒を特定濃度で用い、あわせて音波エネルギーを利用して、クルクミノイドなどの高親油性ポリフェノール化合物の水溶解度を向上させることを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】PCT/US2007/005829
【特許文献2】PCT/KR2004/000529
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Studies on curcumin and curcuminoids XXXI.Symmetric and asymmetric curcuminoids:Stability,activity and complexation with cyclodextrin.Author(s):Tomren MA(Tomren,M.A.),Masson M(Masson,M.),Loftsson T(Loftsson,T),Tonnesen HH(Tonnesen,H.Hjorth).Source:INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS 338(1−2):27−34 JUN 29 2007
【非特許文献2】Formulation and characterization of curcuminoids loaded solid lipid nanoparticles.Author(s):Tiyaboonchai W(Tiyaboonchai,Waree),Tunpradit W(Tunpradit,Watcharaphorn),Plianbangchang P(Plianbangchang,Pinyupa).Source:INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS 337(1−2):299−306 JUN 7 2007
【非特許文献3】Antioxidant activities of curcumin,demethoxycurcumin and bisdemethoxycurcumin.Author(s):Jayaprakasha GK,Rao LJ,Sakariah KK Source:FOOD CHEMISTRY 98(4):720−724 2006
【非特許文献4】Improving the Solubility and Pharmacological Efficacy of Curcumin by Heat Treatment− ASSAY and Drug Development Technologies,August 1,2007,5(4):567−576.doi:10.1089/adt.2007.064
【非特許文献5】Polymeric nanoparticle−encapsulated curcumin(“nanocurcumin”):a novel strategy for human cancer therapy Journal of Nanobiotechnology April 17th 2007,5:3
【非特許文献6】TOMREN MA Studies on curcumin and curcuminoids XXXI.Symmetric and asymmetric curcuminoids:Stability,activity and complexation with cyclodextrin.Author(s):Tomren MA(Tomren,M.A.),Masson M(Masson,M.),Loftsson T(Loftsson,T),Tonnesen HH(Tonnesen,H Hjorth).Source:INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS 338(1−2):27−34 JUN 29 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の主な目的は、クルクミノイドなどの高親和性ポリフェノール化合物(天然及び合成由来)を両親媒性媒体中に可溶化させ、それによって水溶解度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、非イオン性界面活性剤及び非イオン性共溶媒を特定濃度で用い、あわせて音波エネルギーを利用して水溶解度を向上させる、クルクミノイドなどの高親油性ポリフェノール化合物の新規ナノ乳化法を開示する。
【0017】
本発明を、ある好適かつ最適な実施形態と関連して詳細に記載し、その様々な態様がさらに十分に理解されるようにする。
【0018】
本明細書で用いられる場合、「界面活性剤」という用語は、水の表面張力を低下させ、親油性化合物を溶解させることによって作用する表面活性剤を意味する。
【0019】
本明細書で用いられる場合、「共溶媒」という用語は、本発明の文脈では、本発明の親油性化合物の溶解度を相乗的に向上させる溶媒を意味する。
【0020】
本発明に従って、非イオン性界面活性剤及び非イオン性共溶媒を用い、音波エネルギーを利用して、クルクミノイドなどの親油性化合物を可溶化させる方法を提供する。
【0021】
界面活性剤は両親媒性である。つまり、疎水性尾部及び親水性頭部を含む。従って、界面活性剤は疎水性媒体及び水の両方に溶解する。界面活性剤は、a)イオン性、b)非イオン性の2種類である。本発明は、製薬目的の非イオン性界面活性剤の使用を含む。使用される界面活性剤は、ポリソルベート80及び20、ポロキサマー、オクトキシノール及び任意の薬学的に許容される非イオン性界面活性剤から選択され得る。
【0022】
相乗作用により溶解度を向上させることができる可溶化法における共溶媒も記載する。これに関連して使用される共溶媒はポリエチレングリコール(PEG−400)である。PEG6000も使用できる。
【0023】
本発明の方法によれば、界面活性剤及び共溶媒をクルクミノイドに添加する際、クルクミノイドを溶解させるために、混合物をよく撹拌し、超音波処理に付すか、又は試料サイズに応じて15〜30分間25Khzの音エネルギーを使用する必要がある。2.5%までのクルクミノイドを、本発明の方法を用いて可溶化することができる。
【0024】
超音波処理は、分子間相互作用及び非共有結合を断ち、これにより水溶解度の向上を助けることによって、クルクミノイドの可溶化を可能にする。クルクミノイドの興味深い特性は、その構造における共役ジエン系であり、これにより治療特性が付与される。音波エネルギーは共有結合を断つほど強力ではないので、クルクミノイドの治療特性は損なわれることなく残される。
【0025】
クルクミノイドを可溶化するための相乗活性は、クルクミノイドと非イオン性界面活性剤の疎水性ポケットとの相互作用によるものであり得る。このポケットは、超音波処理により提供される音エネルギーによって促進される全錯体に中程度の電荷を付与する共溶媒とのさらなる複合体形成を可能する長鎖疎水性尾部として存在する。このような中程度の電荷は、水性系中の溶解度の向上に役立つ。
【0026】
本発明によれば、クルクミノイドを可溶化するための方法は、以下の
a)クルクミノイドと非イオン性界面活性剤ポリソルベート80との1:10比の混合物を撹拌するステップと、
b)クルクミノイド粒子を媒体中に十分に分散させるために撹拌を続けながら、非イオン性共溶媒であるポリエチレングリコールをクルクミンに関して1:10の比で添加するステップと、
c)前記混合物を、15〜30分間又はクルクミノイドが完全に可溶化するまで若しくは混合物中に目に見える粒子がなくなるまで音エネルギーを用いて超音波処理に付すステップと、
d)前記混合物を水性相中に分散させ、続いてよく撹拌して、クルクミノイドを水中に可溶化させるステップと、
を含む。
【0027】
前記方法にしたがって可溶化したクルクミノイドを用いることにより調製された組成物は、クルクミンの輸送が著しく増大し、バイオアベイラビリティが改善される。独自のナノ乳化法を用いて配合物を調製し、この方法は、化合物を構造的に変化させることなく化合物をさらに親水性にし、これによってさらに良好な輸送及び吸収を促進するのに役立ち、このことはインビトロ及びインビボ研究の両方によって裏付けられる。
【0028】
本発明の利点は、可溶化のために使用されるクルクミノイドは2.5%まで溶解され得ることであり、これは医薬配合物では高い方である。
【0029】
クルクミノイドと非イオン性界面活性剤との比は1:10の範囲である。同様に、クルクミノイドと非イオン性共溶媒との比は1:10の範囲である。
【0030】
非イオン性界面活性剤及び非イオン性共溶媒は溶液中にそれぞれ1%の量で存在する。
【0031】
したがって、クルクミノイドなどの高親和性分子を、複雑な処置を含まない簡単な本発明の方法を用いることによって有効に可溶化することができることは明らかである。
【0032】
界面活性剤の使用は、親油性化合物の親水性媒体中への可溶化において十分に文書化されているが、非イオン性共溶媒と関連して使用し、続いて音波エネルギーを使用して可溶化させることは文献では報告されていない。したがって、本発明は、時間がかかり複雑な手順を伴う他の親油性治療化合物の可溶化も拡大することができる。
【0033】
したがって本発明は、1)経済的であること、2)手順が複雑でないこと、3)時間消費が軽減されること、という産業的設定において不可欠なものとする3つの態様を有する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ナノ乳化LI01008のA549細胞単層を越える輸送での濃度に依存した増加を示す用量反応曲線である。
【図2】投与後12時間にわたる血清LI01008(BDMC)濃度(ug/ml)を示すグラフである。
【図3】ナノ乳化クルクミン98%のサイズを示すグラフである。
【図4】未配合クルクミン98%のサイズを示すグラフである。
【図5】ナノ乳化BDMCのサイズを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
好適な実施形態を含む以下の実施例は、本発明の実施を説明するものであり、示された詳細は一例であり、本発明の好適な実施形態を具体的に説明するためのものであることを理解すべきである。
【実施例1】
【0036】
クルクミンのナノ乳化法:
12gのクルクミン98%をガラスビーカー中に入れ、212gのポリソルベート80及び224gのポリエチレングリコール400を添加し、混合物を25KHzで30分間、完全に溶解するまで超音波処理する。
【実施例2】
【0037】
ビス−o−デメチルクルクミンのナノ乳化法:
12gのビス−o−デメチルクルクミンをガラスビーカーに入れ、212gのポリソルベート80及び224gのポリエチレングリコール400を添加し、混合物を30分間25KHzで、完全に溶解するまで超音波処理する。
【実施例3】
【0038】
【表1】

【0039】
眼科用配合物を調製するための手順:
溶液Aの調製:
1.20gmのヒドロキシプロピルメチルセルロースを正確に秤量し、2Lの水(バッチサイズの10%)を含む容器にこれを添加し、約90℃に加熱し、一夜保持する。
2.前記溶液を翌日完全に分散するまで撹拌し、精製水で体積を6L(バッチサイズの30%)にし、これをよく撹拌して、均質な分散液を得る。
3.2μ前置フィルターを通して前記溶液を充填容器中に濾過する。この溶液を次いでオートクレーブ処理する。
【0040】
溶液Bの調製:
1.14Lの精製水を新たに製造容器中に集める。4.67gのホウ砂を正確に秤量し、製造容器に添加する。完全に溶解するまで撹拌する;
2.4mlの塩化ベンザルコニウム溶液を正確に秤量し、製造容器に添加し、完全に溶解するまで撹拌する;
3.20gのエデト酸二ナトリウムを正確に秤量し、完全に溶解するまで撹拌しながら製造容器に添加する;そして
4.159gの塩化ナトリウムを正確に秤量し、完全に溶解するまで撹拌しながら製造容器に添加する。
【0041】
溶液Cの調製:
1.12gのクルクミン98%を正確に秤量し、これをガラスビーカーに添加し;
2.212gのポリソルベート80を正確に測定し、好適なサイズのガラスビーカーに添加し;
3.224gのポリエチレングリコール400を正確に測定し、これをビーカーに添加し;そして
4.完全に溶解するまで、混合物を30分間超音波処理する。
【0042】
バルク溶液の調製:
1.「溶液C」を「溶液B」とともに添加し、よく撹拌し;
2.0.2μのフィルターを通して溶液を、「溶液A」を含むオートクレーブ処理された充填容器中に濾過し;そして
3.pHが5.8〜6.4であることをチェックする。
【実施例4】
【0043】
ナノ乳化クルクミン98%及びBDMCの粒子サイズ分布データ
ナノ乳化配合物に関して実施した粒子サイズ分布の研究により、クルクミン分子が本発明の配合物中にナノサイズの粒子として存在することがさらに裏付けられる。この研究により、未配合形態で本来374nmであるクルクミン分子は、本発明者等の配合物によるクルクミンの輸送の向上及び有効性に望ましい独自の方法によって乳化されて8〜11nmのサイズの粒子になることが明らかになる。
【0044】
この研究は、Malvern粒子サイズアナライザーを用いて実施した。散乱強度対角度のマップは、粒子サイズを計算するために使用される主な情報源である。粒子の散乱は、可能な最も広いダイナミックレンジにわたる正確なサイジングを可能にするMie散乱モデルによって正確に予想される。レーザー回折測定の間、粒子は集束レーザービームを通過する。これらの粒子は自らのサイズに反比例する角度で光を散乱する。次に散乱光の角度強度を一連の感光検出器によって測定する。この研究の利点は、関連する試料を調製する必要がないことである。
【0045】
クルクミン98%及びナノ乳化BDMCの粒子サイズ分布及びクルクミン98%に関して実施した研究から、ナノ乳化BDMC及びクルクミン98%の粒子サイズが8〜11nmであることがわかり、これは未配合のクルクミン98%の粒子サイズ(373nm)と比較した場合にナノ乳化化合物の理想的なサイズである。このことは、続いて行ったナノ乳化法が、大きなサイズの粒子をナノサイズのコーティングされたクルクミノイド粒子に有効に変えたことの明示である。さらなるピークが観察でき、これは配合物を調製するために使用した高分子量賦形剤に起因する。得られた結果は、この研究で使用した本発明のナノ乳化法が簡単かつ有効であることを示す。
【実施例5】
【0046】
ナノ乳化ビス−o−デメチルクルクミン(BDMC)に関して実施したインビボバイオアベイラビリティ研究:
前記配合物のバイオアベイラビリティをヒト肺癌線維芽細胞系のA549細胞系に関して研究した。これらは急速に成長する能力を有する接着細胞である。細胞を約90%のコンフルエンシーに達するまでDMEM培地中で培養し、その後細胞を12穴プレートに分割した。培養プレートが約90〜100%までコンフルエントになったら、実験に使用した。通常、10細胞/穴の播種密度では3日で約90%までコンフルエントな培養をもたらすことができる。
【0047】
ナノ乳化ビス−o−デメチルクルクミンの濃度がA549上皮細胞系を通る前記化合物の輸送効率に対して用量に依存して及ぼす影響を調べた。
【表2】

【0048】
様々な濃度の本発明の配合物を用いた用量反応を実施して、1つの薬物動態パラメータがビス−o−デメチルクルクミンのA549細胞中への輸送に及ぼす影響を研究した。実施した実験を表す、グラフ(図l)によって示される用量反応曲線は、A549細胞単層を横切るナノ乳化ビス−o−デメチルクルクミンの輸送は明らかに濃度に依存して増加することを示し、したがって、濃度はナノ乳化ビス−o−デメチルクルクミンの輸送において明らかに重要なパラメータであると推定することができる。
【0049】
前述の方法にしたがって調製された配合物を、ウサギの眼組織を介する硝子体液中へのインビボ輸送についてさらに研究した。したがって硝子体液を集め、HPLCを用いて分析した。化合物は検出可能な量で輸送され、様々な時間間隔で評価した。
【実施例6】
【0050】
クルクミン98%眼科用配合物のインビボ抗白内障効果:
配合物の抗白内障効果に関するインビボ効能実験により、当該化合物は眼柵を通って透過し、網膜に到達することができ、ラットにおいて白内障形成を防止することが示される。
【0051】
クルクミン98%眼科用配合物の抗白内障効果を判定して、白内障の予防または遅延のための安全かつ有効な治療法を開発するための研究を実施した。動物をI群(対照)、II群(亜セレン酸ナトリウム)及びIII群(治療)に分けた。
【0052】
生後10日に、クルクミン98%眼科用配合物をIII群動物のみの眼に局所的に注入した。2時間後、亜セレン酸ナトリウム(5ml/kgbwの25μM/kgbw)をII群及びIII群動物の両方に皮下注射し、その後、5μlのLP002−09をIII群動物のみの眼に局所的に注入した。クルクミン98%眼科用配合物を、1日3回、4時間間隔で1週間にわたって注入し、一方、I群及びII群の動物は投薬期間中そのままにした。クルクミン98%の注入中、ラットの子どものまぶたを優しくかつ丁寧に開かせ、約1分間保持して、クルクミン98%眼科用配合物があふれ出るのを防止した。
【0053】
全動物を観察期間全体にわたって個々に臨床兆候及び死亡率について観察した。検査当日、すなわち子どもが初めて眼を開けた時に、0.8%のトロピカミドで瞳孔を拡張させることにより混濁の有無によって白内障の進行を観察した。
【0054】
白内障は、Muranovら(2004年)により記載された手順にしたがって0〜4のスケールで採点した。グレード0は正常な透明の水晶体であり、グレード1は水晶嚢下混濁であり;グレード2は核性白内障であり、グレード3は強い核性白内障であり;グレード4は水晶体全体に及ぶ濃厚な混濁であり、結果を下記表3に示す。
【表3】

【0055】
結果:
実験期間全体にわたってどの動物も毒性の臨床兆候及び死亡を示さなかった。I群(対照)動物の眼はすべて透明であることが判明した。II群において、亜セレン酸ナトリウムを注入された動物は、70%の眼が濃厚な混濁型白内障を発現し、20%の眼が強い核性白内障を発症し、10%の眼が核性白内障を発現し、一方、III群(治療)動物においては55%(11個の眼)で白内障は観察されず、10%(2個の眼)で強い核性白内障、10%(2個の眼)で核性白内障、及び25%(5個の眼)で水晶嚢下混濁が観察された。
【0056】
これらの実験条件下で、このように、クルクミン98%眼科用配合物をWistar仔ラットの眼に注入することにより、亜セレン酸により誘発される白内障の影響が有効に軽減されると結論付けられる。従って、実験によって、クルクミンが本発明の配合物によりさらに良好に輸送され、これによって、バイオアベイラビリティが向上され、その結果、効力が改善されると結論付けられた。
【0057】
ラットに関して実施されたインビボ経口バイオアベイラビリティ実験は、14倍改善されたバイオアベイラビリティを示し、このことはグラフ(図2)で明らかに示される(下記グラフ、ピンク色の線−未配合、青色の線−配合)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性界面活性剤及び非イオン性共溶媒を用い、音波エネルギーを利用して、水溶解度を向上させる、高親油性ポリフェノール化合物のナノ乳化法。
【請求項2】
前記親油性ポリフェノール化合物が天然及び合成的に誘導されるクルクミノイドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記天然クルクミノイドが、クルクミン、ビスデメトキシクルクミン、デメトキシクルクミンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記合成クルクミノイドが合成的に誘導されるビス−o−デメチルクルクミン及び/又は他のデメチル化クルクミノイドから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記界面活性剤がポリソルベート80及び20、ポロキサマー、オクトキシノール及び任意の薬学的に許容される非イオン性界面活性剤から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記共溶媒がポリエチレングリコール(PEG)のクラスから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
クルクミノイドと非イオン性界面活性剤との比が1:10の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
クルクミノイドと非イオン性共溶媒との比が1:10の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
可溶化クルクミノイドの粒子サイズが8〜11nmの範囲で存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
以下の
a.クルクミノイド及び非イオン性界面活性剤ポリソルベート80の1:10比の混合物を撹拌するステップと、
b.クルクミノイド粒子を媒体中に十分に分散させるために継続して撹拌しながら、非イオン性共溶媒であるポリエチレングリコールをクルクミンに関して1:10の比で添加するステップと、
c.前記混合物を15〜30分間、又はクルクミノイドが完全に溶解するまで、又は混合物中に粒子が見られなくなるまで超音波処理に付すステップと、
d.前記混合物を水性相中に分散させ、続いてよく撹拌してクルクミノイドを水中に可溶化させるステップと、
を含む、請求項1に記載のクルクミノイドの水溶解度を向上させるための方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−508794(P2012−508794A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543881(P2011−543881)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【国際出願番号】PCT/IN2009/000651
【国際公開番号】WO2010/070665
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(510282192)ライラ ファーマシューティカルズ ピーブイティ.エルティディ. (4)
【Fターム(参考)】