説明

クレーン用免震装置

【課題】クレーン本体とそのクレーン本体をレールに沿って走行させるための車輪を備えた走行装置とを有する走行式クレーンにおいて、地震波に対して長周期地震動成分も含めて的確に免震性能を発揮することができるクレーン用免震装置を提供する。
【解決手段】クレーン用免震装置20Aは、走行装置12に取り付けられた浮上装置21A(油圧シリンダ、押し付け部材25)と、走行装置12からワイヤによって吊り下げられた敷板とを備えており、地震が検知された場合には、油圧シリンダ22のロッドを延伸させて、ワイヤを切断して、敷板を走行装置12から離脱させて地面に下ろすとともに、その敷板の上面を押し付け部材25が押し付けるようにすることで、走行式クレーン全体をレールから浮上させ、その状態で、地震動に対応して、押し付け部材25と敷板の上面との間で滑り(摺動)を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテナクレーンやアンローダなどのように、クレーン本体とそのクレーン本体をレールに沿って走行させるための車輪を備えた走行装置とを有する走行式クレーンに用いる免震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンテナクレーンやアンローダなどの走行式クレーン10は、その一例を図14、図15に示すように、4本の脚部11aを備えて門形に構成されたクレーン本体11と、そのクレーン本体11をレール19に沿って走行させるための車輪13を備えた走行装置12とを有している。
【0003】
従来、このようなコンテナクレーンやアンローダなどの走行式クレーンにおける免震を考える場合、クレーン本体と走行装置の間に免震装置を介在させる方法(例えば、特許文献1)が考えられている。
【0004】
また、クレーン本体を下部本体と上部本体に分割し、その下部本体と上部本体とを免震装置を介して接続する方法(例えば、特許文献2)や、クレーン本体の構造斜材を相対移動可能にして構造を柔軟にした免震構造(例えば、特許文献3)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−210546号公報
【特許文献2】特開2002−302377号公報
【特許文献3】特開2003−012275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、港湾法の改正によって、想定地震波に長周期地震動成分が加味されるようになった。
【0007】
これに対して、特許文献1に記載されたような免震構造では、走行式クレーンの固有周期が約4秒付近となる場合、その固有周期と長周期の卓越周期が一致してしまい、長周期地震動成分に対する免震効果が得られないという問題点がある。
【0008】
また、特許文献2、3に記載されているように、クレーン構造自体の剛性を変化させる免震技術でも、上記と同様な構造体の固有周期を有することから、長周期地震動成分に対する免震効果が得られないという問題点がある。
【0009】
なお、特許文献1に記載されたような免震構造において、免震装置の復元要素(ばね)を柔らかくすれば、長周期の卓越周期から走行式クレーンの固有周期を外すことができ、長周期地震動成分に対する免震効果が得られるが、その場合、免震装置の変位ストロークが大きくなり、構造体全体を支持しながら偏芯を大きくとることの制約があるため、実現が困難である。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、コンテナクレーンやアンローダなどのように、クレーン本体とそのクレーン本体をレールに沿って走行させるための車輪を備えた走行装置とを有する走行式クレーンにおいて、地震波に対して長周期地震動成分も含めて的確に免震性能を発揮することができるクレーン用免震装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0012】
[1]クレーン本体とそのクレーン本体をレールに沿って走行させるための車輪を備えた走行装置とを有する走行式クレーンに搭載された免震装置であって、敷板と浮上装置とを備え、地震を検知したら、前記敷板が走行式クレーンから離脱して地面に下ろされ、その敷板の上面を前記浮上装置が押し付けて走行式クレーンをレールから浮上させ、その状態で前記浮上装置と前記敷板の上面との間で滑りを生じさせることを特徴とするクレーン用免震装置。
【0013】
[2]前記浮上装置との間で滑りを生じさせる前記敷板の上面部分は、中央部から外側に行くにしたがって摩擦係数が大きくなっていることを特徴とする前記[1]に記載のクレーン用免震装置。
【0014】
[3]前記浮上装置との間で滑りを生じさせる前記敷板の上面部分は、凹形状になっていることを特徴とする前記[1]に記載のクレーン用免震装置。
【0015】
[4]地震の検知は、地震による加速度をセンサーが検知することで行うことを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のクレーン用免震装置。
【0016】
[5]地震の検知は、緊急地震速報や地震計などによる地震情報によって行うことを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のクレーン用免震装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るクレーン用免震装置においては、浮上装置によって走行式クレーン全体をレールから浮上させた状態で、浮上装置と敷板の上面との間で滑りを生じさせるようにしているので、その滑りの固有周期や変位量を自由に設定できるため、所望の免震性能を持たせることができる。その結果、地震波に対して長周期地震動成分も含めて的確に免震性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係るクレーン用免震装置を示す図である(通常時)。
【図2】図1におけるA−A矢視図である。
【図3】図2におけるB−B矢視図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るクレーン用免震装置を示す図である(地震時)。
【図5】図4におけるA−A矢視図である。
【図6】本発明の実施形態1における浮上装置と敷板との滑り状態を示す図である。
【図7】本発明の実施形態1における浮上装置と敷板との滑り状態を示す図である。
【図8】図7におけるX−X矢視図である。
【図9】本発明の実施形態1における浮上装置と敷板との滑り状態を示す図である。
【図10】本発明の実施形態1における浮上装置と敷板との滑り状態を示す図である。
【図11】本発明の実施形態2に係るクレーン用免震装置を示す図である(通常時)。
【図12】図11におけるC−C矢視図である。
【図13】図12におけるD−D矢視図である。
【図14】走行式クレーンを示す図である。
【図15】走行式クレーンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明の実施形態に係るクレーン用免震装置は、走行式クレーンに搭載される免震装置である。その走行式クレーン10は、その一例を図14、図15に示したように、4本の脚部を備えた門形のクレーン本体11と、そのクレーン本体11の4本の脚部にそれぞれ取り付けられて、クレーン本体11をレール19に沿って走行させるための車輪13を備えた4個の走行装置12とを有している。
【0021】
ここで、それぞれの走行装置12においては、図15に示すように、隣り合う2個の車輪13が小ブロック部材14によって小ブロックにまとめられ、隣り合う2個の小ブロックが中ブロック部材15によって中ブロックにまとめられ、2個の中ブロックが大ブロック部材16によって大ブロックにまとめられている。
【0022】
そして、この実施形態に係るクレーン用免震装置は、敷板と浮上装置とを備え、地震を検知したら、敷板が走行式クレーンから離脱して地面に下ろされ、その敷板の上面を浮上装置が押し付けて走行式クレーンをレールから浮上させ、その状態で浮上装置と敷板の上面との間で滑りを生じさせるようになっている。
【0023】
以下に、その実施形態1と実施形態2を示す。
【0024】
[実施形態1]
本発明の実施形態1に係るクレーン用免震装置20Aは、図1に側面図を示すように、走行装置12の小ブロック部材14と小ブロック部材14の間に位置するようにして、中ブロック部材15に取り付けられている。したがって、1個の走行装置12に2個の免震装置20Aが設けられており、走行式クレーン10全体では8個の免震装置20Aが設けられている。
【0025】
そして、図2に図1におけるA−A矢視図、図3に図2におけるB−B矢視図を示すように、クレーン用免震装置20Aは、中ブロック部材15に取り付けられた浮上装置21Aと、中ブロック部材15からワイヤ33によって吊り下げられた敷板31とを備えている。
【0026】
浮上装置21Aは、中ブロック部材15に取り付けられた2個の油圧シリンダ22と、各油圧シリンダ22のロッド23の先端に取り付けられた連結部材24と、2個の連結部材24に跨って取り付けられた押し付け部材25と、中ブロック部材15に取り付けられて、押し付け部材25を案内・保持するガイド部材26と、ガイド部材26の内面に取り付けられて、押し付け部材25を円滑に下方向にスライドさせるためのスライド用部材27とを備えている。
【0027】
なお、通常時(地震が検知されていない時)には、免震装置20Aは走行装置12とともに移動するようになっている。
【0028】
そして、地震が検知された場合には、図4に側面図、図5に図4におけるA−A矢視図を示すように、油圧シリンダ22のロッド23を延伸させることによって、ワイヤ33を切断して、敷板31を走行装置12から離脱させて地面に下ろすとともに、押し付け部材25を下方向にスライドさせて、敷板31の上面を押し付け部材25が押し付けるようにすることで、走行式クレーン10全体をレール19から浮上させ、その状態で、地震動に対応して、押し付け部材25と敷板31の上面との間で滑り(摺動)を生じさせるようになっている。これによって、地震波動から走行式クレーン10を振動絶縁させることができる。
【0029】
なお、その際に、押し付け部材25が連結部材24を介して取り付けられている油圧シリンダ22(ロッド23)は水平力や水平方向変位に対する抵抗力が小さいので、押し付け部材25をガイド部材26が水平方向に保持することによって、油圧シリンダ22(ロッド23)に過大な水平力や水平方向変位が働かないようにしている。
【0030】
そして、図6に示すように、押し付け部材25にグリース供給用の油溝(油穴、油カップ)28を設けておき、押し付け部材25と敷板31との間にグリースを供給して良好な摺動状態(摩擦係数)が確保できるようにすることが好ましい。
【0031】
また、敷板31の上面をフッ素樹脂加工したり、MCナイロン(登録商標)で被覆したりすることによって、押し付け部材25と敷板31との間で良好な摺動状態(摩擦係数)が得られるようにすることも好ましい。
【0032】
あるいは、図7に側面図、図8(a)、(b)に図7におけるX−X矢視図を示すように、押し付け部材25の下面(敷板31との接触面)にころ29(球状ころ29a、円筒状ころ29b)を取り付けることによって、押し付け部材25と敷板31との間で良好な摺動状態(摩擦係数)が得られるようにすることもできる。
【0033】
なお、押し付け部材25と敷板31との間の適正な摩擦係数は想定地震のシミュレーションにより決定する。
【0034】
ここで、図6、図7に示すように、敷板31の周囲にはストッバ32が設けられており、押し付け部材25が敷板31から脱落することを防止している。
【0035】
場合によっては、図9に示すように、敷板31の中央部から外側に行くにしたがって、敷板31の上面の粗さを粗くして、摩擦係数が大きくなるようにすることによって、押し付け部材25に過大な水平方向変位が働かないようにしてもよい。
【0036】
また、図10に示すように、押し付け部材25の先端部を凸形状(擂粉木の先端形状)にするとともに、敷板31の上面部分を凹形状(擂り鉢形状)にすることが好ましい。このように、押し付け部材25と敷板31との接触面(摺動面)の形状を、下に凸の面とすることで、原点(下に凸の面の最下部)への復元力が生じ、その曲率を変えることで、復元力を調整することができる。
【0037】
なお、図6〜図10を用いて説明したことは、それらを適宜組み合わせて行ってもよい。
【0038】
そして、上記において、地震の検知は、地震による加速度(例えば、地震によって走行式クレーンに生じる加速度、あるいは、地震加速度により走行式クレーンに作用する負荷荷重)をセンサー(図示せず)が検知することで行う。センサーが検知した加速度が、予め定めてある閾値以上の場合に、その検知信号によって、油圧シリンダ22の油圧回路または電磁ブレーキなどが解除されて、浮上装置21Aが作動する。
【0039】
あるいは、地震の検知は、緊急地震速報や地震計などによる地震情報によって行う。地震情報が、予め定めてある震度以上の場合に、その地震情報によって、油圧シリンダ22の油圧回路または電磁ブレーキなどが解除されて、浮上装置21Aが作動する。
【0040】
このようにして、この実施形態1に係る免震装置20Aにおいては、浮上装置21Aによって走行式クレーン10全体をレール19から浮上させた状態で、浮上装置21A(押し付け部材25)と敷板31の上面との間で滑りを生じさせるようにしているので、地震波に対して長周期地震動成分も含めて的確に免震性能を発揮することができる。
【0041】
[実施形態2]
本発明の実施形態2に係るクレーン用免震装置20Bは、図11に側面図を示すように、走行装置12の車輪13と車輪13の間に位置するようにして、中ブロック部材15に取り付けられている。したがって、1個の走行装置12に4個の免震装置20Bが設けられており、走行式クレーン10全体では16個の免震装置20Bが設けられている。
【0042】
そして、図12に図11におけるC−C矢視図、図13に図12におけるD−D矢視図を示すように、クレーン用免震装置20Bは、中ブロック部材15に取り付けられた浮上装置21Bと、中ブロック部材15からワイヤ33によって吊り下げられた敷板31とを備えている。
【0043】
浮上装置21Bは、中ブロック部材15に取り付けられた1個の油圧シリンダ22と、油圧シリンダ22のロッド23の先端に取り付けられた連結部材24と、連結部材24の先端に取り付けられた押し付け部材25と、中ブロック部材15に取り付けられて、押し付け部材25を案内・保持するガイド部材26と、ガイド部材26の内面に取り付けられて、押し付け部材25を円滑に下方向にスライドさせるためのスライド用部材27とを備えている。
【0044】
ちなみに、前述の実施形態1に係る浮上装置21Aでは、油圧シリンダ22が2個であったが、この実施形態2に係る浮上装置21Bでは、設置スペースが狭いことと設置個数が多いことから、油圧シリンダ22が1個になっている。
【0045】
なお、通常時(地震が検知されていない時)には、免震装置20Bは走行装置12とともに移動するようになっている。
【0046】
そして、地震が検知された場合には、前述の実施形態1にて図4、図5に示したと同様に、油圧シリンダ22のロッド23を延伸させることによって、ワイヤ33を切断して、敷板31を走行装置12から離脱させて地面に下ろすとともに、押し付け部材25を下方向にスライドさせて、敷板31の上面を押し付け部材25が押し付けるようにすることで、走行式クレーン10全体をレール19から浮上させ、その状態で、地震動に対応して、押し付け部材25と敷板31の上面との間で滑り(摺動)を生じさせるようになっている。これによって、地震波動から走行式クレーン10を振動絶縁させることができる。
【0047】
なお、この実施形態2においても、押し付け部材25と敷板31との間の潤滑・摩擦状態については、前述の実施形態1にて図6〜図10に示したと同様にすることができる。
【0048】
このようにして、この実施形態2に係る免震装置20Bにおいては、浮上装置21Bによって走行式クレーン10全体をレール19から浮上させた状態で、浮上装置21B(押し付け部材25)と敷板31の上面との間で滑りを生じさせるようにしているので、地震波に対して長周期地震動成分も含めて的確に免震性能を発揮することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 走行式クレーン
11 クレーン本体
11a 脚部
12 走行装置
13 車輪
19 レール
20A 免震装置
20B 免震装置
21A 浮上装置
21B 浮上装置
22 油圧シリンダ
23 油圧シリンダのロッド
24 連結部材
25 押し付け部材
26 ガイド部材
27 スライド用部材
28 油溝
29 ころ
29a 球状ころ
29b 円筒状ころ
31 敷板
32 ストッパ
33 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン本体とそのクレーン本体をレールに沿って走行させるための車輪を備えた走行装置とを有する走行式クレーンに搭載された免震装置であって、敷板と浮上装置とを備え、地震を検知したら、前記敷板が走行式クレーンから離脱して地面に下ろされ、その敷板の上面を前記浮上装置が押し付けて走行式クレーンをレールから浮上させ、その状態で前記浮上装置と前記敷板の上面との間で滑りを生じさせることを特徴とするクレーン用免震装置。
【請求項2】
前記浮上装置との間で滑りを生じさせる前記敷板の上面部分は、中央部から外側に行くにしたがって摩擦係数が大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載のクレーン用免震装置。
【請求項3】
前記浮上装置との間で滑りを生じさせる前記敷板の上面部分は、凹形状になっていることを特徴とする請求項1に記載のクレーン用免震装置。
【請求項4】
地震の検知は、地震による加速度をセンサーが検知することで行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクレーン用免震装置。
【請求項5】
地震の検知は、緊急地震速報や地震計などによる地震情報によって行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクレーン用免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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