クロック供給装置及びそれを用いた伝送装置
【課題】クロック供給装置において、ルート変更による遅延ばらつきに起因するクロックのジッタを抑圧することができることを目的とする。
【解決手段】IP網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、受信手段で生成したタイミング信号と内部発振手段で生成したクロックとの位相比較を行う位相比較手段と、位相比較結果のカウント値の統計処理を行って得た位相差の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段とを有する。
【解決手段】IP網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、受信手段で生成したタイミング信号と内部発振手段で生成したクロックとの位相比較を行う位相比較手段と、位相比較結果のカウント値の統計処理を行って得た位相差の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期フレームパケットに同期したクロックを供給するクロック供給装置及びそれを用いた伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDH(Synchronous Digital Hierarchy)又はSONET(Synchronous Optical Network)等の同期網の伝送装置を非同期伝送網であるIP(Internet Protocol)網を介して接続することが行われている。この場合、IP網を介して接続した伝送装置の装置クロックを同期化することが要求される。
【0003】
図1は、従来の伝送装置とクロック供給装置の概要を説明するための図を示す。同図中、A局のSDH伝送装置11Aと、B局のSDH伝送装置11Bは同期網であるSDH網15を介して接続されている。A局内のクロック供給装置12Aはクロックを生成してA局内のSDH伝送装置11A,装置13A,14Aに供給している。
【0004】
SDH伝送装置11Aは、クロック供給装置12Aから供給されるクロックを用いてデータの送受信を行う。クロック供給装置12Aは、セシウム発振器等の精度の高いクロックを出力し、SDH同期網全体のマスタクロックと位置づけられる。
【0005】
SDH伝送装置11Bは、SDH伝送装置11Aから受信したデータからクロック成分を抽出しクロック供給装置12Bに供給する。クロック供給装置12Bは受信したクロックからジッタ成分等のゆらぎ分を除去し、この受信クロックに同期したクロックを生成し装置クロックとしてB局内のSDH伝送装置11B,装置13B,14Bそれぞれに供給する。これにより、B局内の装置が全て同じクロックで動作することになり、A局内の装置とB局内の装置が全て同期している状態となる。
【0006】
近年のIPネットワーク化が進み、SDHデータのIPパケット化による伝送、例えばIP伝送が行われている。IPネットワーク経由のSDH伝送装置の同期化方式としては、アダプティブ同期方式がある(例えば特許文献1参照)。アダプティブ同期方式では、SDH伝送装置11AとSDH伝送装置11Bのクロック周波数の差分を通知し、周波数を補正することで同期を確立する。
【0007】
図2は、アダプティブ同期方式の概要を説明するための図を示す。同図中、IP伝送装置20Aは、クロック供給装置21からマスタクロックを供給されて動作する。IP伝送装置20BはIP伝送装置20Aから送信されたクロック制御データを受信し、クロック制御データで制御されたクロックで動作する。
【0008】
IP伝送装置20Aは、IP伝送装置20BからIP網22を通して受信した受信データとマスタクロックを比較し、受信データのマスタクロックに対する周波数の差分を検出し、IP伝送装置20Bに送信するクロック制御信号に反映させる。
【0009】
もし、受信データがマスタクロックより遅い場合にはIP伝送装置20Aは周波数を上げるクロック制御データを生成してIP伝送装置20Bに送信し、また受信データがマスタクロックより速い場合にはIP伝送装置20Aは周波数を下げるクロック制御データを生成してIP伝送装置20Bに送信する。
【0010】
IP伝送装置20Bでは、受信したクロック制御データにしたがってクロックを生成し、自装置内の装置クロックとして使用する。
【0011】
しかしながら、このアダプティブ同期方式では周波数の上げ下げによる調節を行っているので周波数の変動幅も大きく、また、IP網による伝送遅延のばらつき(ゆらぎ)やパケットの欠落等により不安定となる問題点もある。
【0012】
伝送遅延のばらつき(ゆらぎ)の一例として、IP網内におけるルート変更が挙げられる。図3にIP網内におけるルート変更の概略図を示す。IP網は多数のルータ(SW)で構成されている。IP伝送装置20AとIP伝送装置20Bを繋ぐ場合、太実線の矢印で示すようにルータSW1,SW5,SW12を経由している。この状態で固定している場合の伝送路遅延は安定しているが、IP網の輻輳具合や、稀にルータの故障等の理由で破線の矢印で示すようにルータSW1,SW3,SW7,SW6,SW5,SW10,SW12を経由するようにルート変更されると、伝送路遅延が変化してばらつくこととなる。
【0013】
アダプティブ同期方式では定期的なクロック制御が必要となるため、伝送路遅延のばらつきは著しくクロック周波数品質を悪化させる原因となる。このため、周波数変動幅が大きく、IP伝送装置20A,20BをSDH伝送装置と考えた場合、図1のようにSDH網の局全体を同期化することは困難となる。
【0014】
これを解決するため、マスタクロックに同期した同期フレームパケットを定期的に送信し、その同期フレームを受信した装置側で統計処理を行うことでマスタクロックに同期したクロックを特定する同期フレーム方式がある。
【0015】
図4は、同期フレーム方式の概要を説明するための図を示す。同図中、IP伝送装置25Aは、CLK供給装置26からマスタクロックを供給されて動作する。IP伝送装置25AはIP伝送装置25Bに対し、例えば8kHz周期で同期フレームと呼ばれるバケットを送信する。
【0016】
IP伝送装置25Bは、その同期フレームパケットを受信する。クロック周波数制御部27は、自装置内にある電圧制御型発振器(VCXO)28から出力されるクロックを使用して同期フレームの周期をカウントし、ある程度のサンプル数を受信したところで平均化処理(統計処理)を行って送信側のクロック周波数を特定し、電圧制御型発振器28を送信側クロック周波数に制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2007−235217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、IP網の伝送路の輻輳具合やルート変更等により、図5に示すような同期フレームパケットのゆらぎや欠落(破線の丸印で示す)が生じた場合、図6に示すように、受信側再生クロックの立ち上がり及び立ち下がりは送信側クロックに対して変動し(立ち上がり,立ち下がりを複数の縦線で示す)、図1に示すSDH網の同期化のようにゆらぎや欠落を完全に吸収し、ジッタ等の位相変動の少ない同期クロックを再生させることは困難であった。
【0019】
上記の問題の起こる原因として、次の2点が挙げられる。第1に、ルート変更等による遅延ばらつきの吸収が困難であるという点、第2に許容偏差の大きいVCXO28を使用しているという点である。
【0020】
IP網伝送路のルート変更による遅延ばらつきがあると、同期フレームパケット送信側のクロック周波数は変更されていないのに遅延時間が変動するため、本当にクロック周波数が変動している場合との区別がつかず、結果的にはジッタ成分の多いクロック出力となってしまう。また、IP網伝送路のゆらぎの影響をなくすためには、大量のサンプル数(データ量)が必要となる。しかし、大量のサンプル数を得るためには長時間が必要となる。
【0021】
同期フレーム方式では、平均化処理結果をVCXO28の制御信号に反映させているので、周波数変動量の大きいVCXO28を使用すると、取得中のサンプルデータの精度が落ち、VCXO28の出力クロックで取得したサンプルデータでは、送信側クロックの位相との差分が大きくなるという問題が発生する。逆に、サンプルデータ取得間隔を短くしてVCXO28の制御電圧に反映させると、IP網の伝送路のゆらぎや欠落の影響を受け、ジッタ成分を多く含んだクロックとなる。
【0022】
ここで、PLL回路について説明する。PLL(Phase locked loop)は、同期化したいクロック入力の位相とVCXOの出力位相を比較し、同位相となるよう制御を掛け、入力位相と出力位相をロックするという回路方式である。
【0023】
図7にPLLのブロック図を示す。同図中、クロック入力部31から同期化したいクロック(例えば周波数8kHz)と、VCXO34の周波数を分周回路35で分周して8kHzに合わせたクロックを、位相比較部32で比較を行う。通常、位相比較の場合、各パルスの論理和(オア演算)をとり、周波数が一致している場合はその演算結果はデューティ比50%のパルスとなる。次段のフィルタ部33はローパスフィルタで構成され、演算結果のパルスから直流電圧を取り出し、その電圧を制御電圧としてVCXO34を制御する。デューティ比50%のパルス時に制御電圧=(電源電圧/2)となるよう回路を設計し、デューティ比の変動分、つまりフィルタ部33の直流電圧値で、VCXO34の出力周波数を変動させ、クロック入力と同位相となるよう調整する。
【0024】
PLLの場合、入力クロック周波数を特定して、その周波数を合わせるのではなく、入力クロックの位相との差分を常時モニタしてVCXO34の出力周波数を調整(周波数の上げ下げ)している。
【0025】
このため、制御方法が適切でないと大きなジッタ成分が発生することとなる。この方法を同期フレーム方式に当てはめると、IP網の伝送路のゆらぎは、入力クロック周波数が変動することであり、位相比較部32でのデューティ比が大きく変動し、VCXO34の制御電圧(直流電圧)が急激に変化することでジッタが発生する。そして、IP伝送路のゆらぎを最小化するため、サンプル数を大きくして長い平均化時間が必要となると、VCXO34の周波数を小刻みに制御することができなくなってしまい、結果的には精度の低いクロックを出力することとなる。
【0026】
また、IP網内のルート変更による遅延ばらつきが発生した場合、遅延時間は最大で数10msecずれる。これはマスタ局の周波数に変化がない状況での位相の大きな変動を意味しており、平均化処理で積上げたデータに大きな誤差が発生し、クロック周波数が誤って変動することとなる。
【0027】
つまり、同期フレーム方式の問題点はIP伝送路のゆらぎ、特にルート変更による遅延ばらつきを抑圧することができず、結果的に位相の変動量が大きくなり、ジッタ成分が大きくなることであった。
【0028】
開示のクロック供給装置は、ルート変更による遅延ばらつきに起因するクロックのジッタを抑圧することができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
開示の一実施形態によるクロック供給装置は、非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号と内部発振手段で生成したクロックとの位相比較を行う位相比較手段と、
位相比較結果のカウント値の統計処理を行って得た位相差の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段とを有する。
【発明の効果】
【0030】
本実施形態によれば、ルート変更による遅延ばらつきに起因するクロックのジッタを抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来の伝送装置とクロック供給装置の概要を説明するための図である。
【図2】アダプティブ同期方式の概要を説明するための図である。
【図3】IP網内におけるルート変更の概略図である。
【図4】同期フレーム方式の概要を説明するための図である。
【図5】同期フレームパケットのゆらぎや欠落を示す図である。
【図6】受信側再生クロックの立ち上がり及び立ち下がりの変動を示す図である。
【図7】PLLのブロック図である。
【図8】クロック供給装置の第1実施形態のブロック図である。
【図9】同期フレームパケットの一実施形態のフォーマットである。
【図10】統計処理部の一実施形態のブロック図である。
【図11】図8の各部の信号タイミングチャートである。
【図12】変動量の増加が持続した場合の位相変動検出の概念図である。
【図13】変動量の増加が持続した場合の信号タイミングチャートである。
【図14】変動量の増加が急激な場合の位相変動検出の概念図である。
【図15】変動量の増加が急激な場合の信号タイミングチャートである。
【図16】統計及び制御処理のフローチャートである。
【図17】クロック供給装置を用いたIP伝送装置の第2実施形態のブロック図である。
【図18】クロック供給装置の第3実施形態のブロック図である。
【図19】統計処理部の一実施形態のブロック図である。
【図20】クロック供給装置を用いたIP伝送装置の第4実施形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づいて実施形態を説明する。
【0033】
<第1実施形態>
図8は、クロック供給装置の第1実施形態のブロック図を示す。同図中、クロック供給装置40は、非同期伝送網であるIP網41から供給される同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する受信部43、受信部43から出力されるタイミング信号とルビジウム発振器47の出力クロックを分周器48で1/n分周したクロックの位相を比較する位相比較部44、位相比較結果から統計処理による平均化を行う統計処理部45、統計処理の結果からルビジウム発振器47の制御信号を生成する制御信号生成部46、制御信号にしたがって発振を行うルビジウム発振器47、分周器48を有している。
【0034】
IP伝送装置(送信側)50の同期フレームパケット送信部51は、同期フレームパケットを生成してIP網41に送出する。同期フレームパケットは例えば8kHz周期で送信される通常のIPパケットである。
【0035】
図9に同期フレームパケットの一実施形態のフォーマットを示す。同図中、プリアンブル、宛先アドレス、送信元アドレス、タイプ/レングスに続いてユーザデータが設けられ、最後に誤り訂正用のFCS(Flame Check Sequence)が設けられている。上記ユーザデータとして、同期フレームを表すID(識別子)と(1)、送信時刻(2)と、同期フレームの順番を表す追番号(3)と、例えば同期フレーム送信周期の制御等を行うための制御データ(4)が設定される。
【0036】
クロック供給装置40内の受信部43では同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する。位相比較部44では8kHz周期のタイミング信号と、ルビジウム発振器47出力を分周器48で1/n分周したクロックとのオア演算結果を統計処理部45に供給する。
【0037】
図10は、統計処理部45の一実施形態のブロック図を示す。同図中、受信カウンタ55は、位相比較結果(オア演算結果)のハイレベル(又はローレベル)である期間(パルス幅)を例えば100MHzのカウンタ用クロック(内部高速クロック)でカウントし、カウント値(CTn)を平均値計算部56に供給する。平均値計算部56は、例えば10sec等の単位時間毎に、受信カウンタ55が8kHz周期で出力するカウント値の平均値(ACTm)つまり位相差データを算出する。位相変動検出部57は、前回の単位時間における平均値と今回の単位時間における平均値との差分である位相差データの変動量(ΔACTm)を算出する。
【0038】
そして、制御信号生成部46では、単位時間当たりの位相差データの変動量(ΔACTm)を閾値と比較して変動していること(ΔACTm≧閾値)を検出した場合、変動量が0となる方向にルビジウム発振器47の発振周波数を制御する制御信号を生成し、ルビジウム発振器48に供給する。変動量が閾値内に収まっている場合(ΔACTm<閾値)には、ルビジウム発振器48の発振周波数は、その周波数で固定される。
【0039】
ここで、図11に、受信部43が同期フレームパケットを受信して出力する8kHz周期のタイミング信号と、分周器48出力と、位相比較部44の出力する位相比較結果と、カウンタ用クロックそれぞれの信号タイミングチャートを示す。
【0040】
ここで、カウンタ値(CTn)は、位相比較部44からの位相差データを高速クロック(例えば100MHzのクロック)でカウントする。この場合、±10nsecの偏差でカウント値が得られる。このカウント値(CTn)を平均値計算部56で単位時間毎の平均値(ACTm)として格納する。単位時間が10秒の場合、8kHz(125μsec)毎の計算となるので、80000サンプルの平均値となる。この平均値の変動差を変動値ΔACTm[=ACTm−1 − ACTm]として格納する。なお、上記、m,nはパケット受信順を表す任意の整数である。
【0041】
ところで、同期処理の初期状態の場合、大きな位相差が算出されることが予想されるため、単位時間は1秒等に短くすることにより、早急な周波数同期が期待できる。
【0042】
<遅延時間変動の検出>
次に、位相変動検出部57で行う遅延時間変動の検出について図12乃至図15を用いて説明する。
【0043】
図12、図14において、横軸は経過時間t、縦軸は位相差データの変動量(ΔACTm)である。図中の点(ドット)はカウンタ値(CTn)を表し、太実線の矢印は平均値(ACTm)を表している。
【0044】
図12では、単位時間の区間を区間a〜区間lとしたとき、区間dと区間eの間で変動量(ΔACTm)が増加を開始しており、変動量(ΔACTm)が増加した状態が区間e〜区間lで持続していることは、IP伝送装置50におけるマスタクロック周波数の変動を表している。
【0045】
図13に、変動量(ΔACTm)の増加が持続した場合の受信部43出力のタイミング信号と、分周器48出力と、位相比較部44の出力する位相比較結果(位相差)それぞれの信号タイミングチャートを示す。
【0046】
一方、図14では、単位時間の区間を区間a〜区間lとしたとき、区間gにおいて急激に変動量(ΔACTm)が増加したことを表しており、変動量(ΔACTm)の増加が区間gだけであることは、ルート変更等による遅延時間の変動を表し、IP伝送装置50におけるマスタクロック周波数の変動はないことを表している。
【0047】
図15に、変動量(ΔACTm)の増加が1つの区間だけの場合の受信部43出力のタイミング信号と、分周器48出力と、位相比較部44の出力する位相比較結果(位相差)それぞれの信号タイミングチャートを示す。
【0048】
位相変動検出部57では、図12と図14の変動量の傾向の違いを検出する。図12に示す場合は区間eから区間lの変動量の増加を認識し、ルビジウム発振器47の周波数を変化させる動作を行う。図14に示す場合は区間gでの急激な変動を無視してルビジウム発振器47の周波数を変動させない動作を行う。
【0049】
位相変動検出部57で変動傾向の違いを認識する方法としては、例えば、図12に前回の区間内平均値と今回の区間内平均値との変動量(ΔACTm)を数値で表示しているが、この変動量(ΔACTm)がない状態を「0」で表し、変動量が緩やかな状態を表す数値として「+2」で表した場合、区間内変動差が「+2」の状態が例えば3区間持続した場合に、ルビジウム発振器47の周波数を変動させる制御を開始する。
【0050】
なお、周波数制御の仕様の一例としては、閾値を「±0.5」として、変動量(ΔACTm)が±0.5未満では毎単位時間監視を行い、周波数は安定しているためルビジウム発振器47の周波数は現状維持とする。変動量(ΔACTm)が±0.5以上では3単位時間連続監視を行い、3単位時間連続して変動量(ΔACTm)が±0.5以上の場合は周波数変動があるとしてルビジウム発振器47の周波数制御を行う。
【0051】
図14の場合は、変動量(ΔACTm)が急激な状態を表す数値として「+20」で表し、この区間内変動が1区間であるため、ルート変更等による遅延時間の変動による差分と判断し、ルビジウム発振器47の周波数制御は行わない動作とする。
【0052】
なお、ルビジウム発振器を用いたPLLでは、周波数可変幅が10−8程度の実用例もあり、平均化処理時間の周期つまり単位時間を長くすることができる。不充分なサンプル数で平均化処理を行って周波数を変動させることは、ルビジウム発振器47が出力するクロックに含まれるジッタ成分の増加に繋がる。
【0053】
マスタ局(IP伝送装置50)のクロックが、セシウム発振器等のように周波数偏差が10−12程度の高精度発振器の場合、周波数偏差は少なく安定していると考えられる。このため、平均化処理では大量のサンプル数から伝送路遅延の平均値を求め、マスタ局のクロック周波数に同期させる。
【0054】
<統計及び制御処理>
図16は、統計処理部45及び制御信号生成部46が実行する統計及び制御処理のフローチャートを示す。ここで、判定回数Xと閾値Yは、NMS(Network Management System)等の図示しない上位装置から設定される。なお、判定回数Xと閾値Yは固定値であっても良い。
【0055】
ステップS1で受信カウンタ55は位相比較部44からの位相比較結果を内部高速クロックでカウントしてカウント値(CTn)を得る。
【0056】
ステップS2で平均値計算部56は単位時間毎に8kHz周期のカウント値の平均値(ACTm)を求め、位相変動検出部57は位相差データの変動量(ΔACTm)を求める。
【0057】
次に、ステップS3で制御信号生成部46は変動量(ΔACTm)が+Y以内であるか否かを判別し、+Y以上であればステップS4でX回連続しているか否かを判別し、X回連続している場合にはステップS7に進む。これと同時に、ステップS5で制御信号生成部46は変動量(ΔACTm)が−Y以内であるか否かを判別し、−Y以下であればステップS6でX回連続しているか否かを判別し、X回連続している場合にはステップS7に進む。
【0058】
ステップS7で制御信号生成部46は、変動量(ΔACTm)が+Y以上のときルビジウム発振器48の発振周波数を所定量だけ増加させる制御信号を生成し、変動量(ΔACTm)が−Y以下のときルビジウム発振器48の発振周波数を所定量だけ減少させる制御信号を生成する。
【0059】
ステップS8で制御信号生成部46は、生成した制御信号をルビジウム発振器48に供給し、これによりルビジウム発振器48の発振周波数が可変される。
【0060】
この実施形態では、IP網伝送路のルート変更による遅延ばらつきがあってもルビジウム発振器48の発振周波数を変化させないため、ルート変更による遅延ばらつきに起因するクロックのジッタを抑圧することができる。また、安定した周波数偏差が出力できるルビジウム発振器48を使用することで、IP網伝送路のゆらぎや欠落の影響を受けないクロックを出力することができる。
【0061】
<第2実施形態>
図17は、クロック供給装置を用いたIP伝送装置の第2実施形態のブロック図を示す。同図中、IP伝送装置60内のPHY部61は、IP網からEthernet(登録商標)等の伝送信号の送受信を行う。受信パケット処理部62は受信したパケット情報を確認する。カプセル分離処理部63は受信パケットを分解してSDHデータ(同期網データ)を取り出す。SDH処理部64はSDHデータの処理を行う。カプセル化処理部65はSDHデータのカプセル化(パケット化)を行って送信パケットを形成する。送信パケット処理部66は送信パケットの送信処理を行ってPHY部61に供給する。
【0062】
同期フレームパケット抽出部67は、受信パケット処理部62から供給される受信パケットから同期フレームパケットを抽出してクロック供給装置40に供給する。
【0063】
クロック供給装置40は図8と同一構成であり、同期フレームパケット抽出部67から供給される同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する受信部43、受信部43から出力されるタイミング信号とルビジウム発振器47の出力クロックを分周器48で1/n分周したクロックの位相を比較する位相比較部44、位相比較結果から統計処理による平均化を行う統計処理部45、統計処理の結果からルビジウム発振器47の制御信号を生成する制御信号生成部46、制御信号にしたがって発振を行うルビジウム発振器47、分周器48を有している。
【0064】
この実施形態では、IP伝送装置60内にクロック供給装置40を具備する。つまり、IPデータ送受信中に定期的(8kHz,125μsec周期)に同期フレームパケットを受信し、同期フレームパケット抽出部67で同期フレームパケットを抽出してクロック供給装置40にて同期クロックの再生を行う。そして、この同期クロックをIP伝送装置60内のSDH処理部64等に供給する。
【0065】
<第3実施形態>
この実施形態では第1実施形態に対して位相比較部を削除し、受信同期フレームパケットの周期を直接ルビジウム発振器の出力クロックでカウントし、そのカウント値の平均値の統計処理を行う。
【0066】
図18は、クロック供給装置の第3実施形態のブロック図を示す。同図中、クロック供給装置70は、IP網41から供給される同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する受信部71、受信部71から出力されるタイミング信号をルビジウム発振器74の出力するクロックでカウントし、カウント値の平均化を行う統計処理部72、統計処理の結果からルビジウム発振器74の制御信号を生成する制御信号生成部73、制御信号にしたがって発振を行うルビジウム発振器74を有している。
【0067】
IP伝送装置(送信側)50の同期フレームパケット送信部51は、同期フレームパケットを生成してIP網41に送出する。同期フレームパケットは例えば8kHz周期で送信される通常のIPパケットである。
【0068】
図19は、統計処理部72の一実施形態のブロック図を示す。同図中、受信カウンタ75には、受信部71で同期フレームパケットを受信して生成した8kHz周期のタイミング信号が供給される。受信カウンタ75は、8kHz周期のタイミング信号をルビジウム発振器74の出力クロックでカウントし、カウント値(CTn)を平均値計算部76に供給する。平均値計算部76は、例えば10sec等の単位時間毎に、受信カウンタ75が8kHz周期で出力するカウント値の平均値(ACTm)を算出する。位相変動検出部77は、前回の単位時間における平均値と今回の単位時間における平均値との差分であるフレーム周期の変動量(ΔACTm)を算出する。
【0069】
そして、制御信号生成部73では、単位時間当たりのフレーム周期の変動量(ΔACTm)を閾値と比較して変動していること(ΔACTm≧閾値)を検出した場合、変動量が0となる方向にルビジウム発振器74の発振周波数を制御する制御信号を生成し、ルビジウム発振器74に供給する。変動量が閾値内に収まっている場合(ΔACTm<閾値)には、ルビジウム発振器74の発振周波数は、その周波数で固定される。
【0070】
<第4実施形態>
図20は、クロック供給装置を用いたIP伝送装置の第4実施形態のブロック図を示す。同図中、図17と同一部分には同一符号を付す。IP伝送装置60内のPHY部61は、IP網からEthernet(登録商標)等の伝送信号の送受信を行って物理レイヤの処理を行う。受信パケット処理部62は受信したパケット情報を確認する。カプセル分離処理部63は受信パケットを分解してSDHデータを取り出す。SDH処理部64はSDHデータの処理を行う。カプセル化処理部65はSDHデータのカプセル化を行って送信パケットを形成する。送信パケット処理部66は送信パケットの送信処理を行ってPHY部61に供給する。
【0071】
同期フレームパケット抽出部67は、受信パケット処理部62から供給される受信パケットから同期フレームパケットを抽出してクロック供給装置40に供給する。
【0072】
クロック供給装置40は図8と同様の構成であり、同期フレームパケット抽出部67から供給される同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する受信部43、受信部43から出力されるタイミング信号とルビジウム発振器47の出力クロックを分周器48で1/n分周したクロックの位相を比較する位相比較部44、位相比較結果から統計処理による平均化を行う統計処理部45、統計処理の結果からルビジウム発振器47の制御信号を生成する制御信号生成部46、制御信号にしたがって発振を行うルビジウム発振器47、分周器48を有している。
【0073】
この実施形態では、統計処理部45で得た位相差データの変動量(ΔACTm)は送信周期自動制御部70に供給される。送信周期自動制御部70は変動量(ΔACTm)が例えば数分〜数10分程度の所定期間一定で安定している場合に、同期フレームパケット生成部71に送信周期延長を要求する。
【0074】
同期フレームパケット生成部71は、この送信周期延長要求を受けると、図9に示す同期フレームパケットの制御データに同期フレーム送信周期の延長を要求する制御情報を設定して生成し送信パケット処理部66に供給する。この同期フレーム送信周期の延長を要求する同期フレームパケットは送信側のIP伝送装置に対して送信される。これにより、送信側のIP伝送装置は同期フレームパケットを要求に応じて、同期フレーム送信周期の延長を8kHz周期から例えば80Hz周期等に延長することができる。
【0075】
なお、統計処理部45で得た位相差データの変動量(ΔACTm)を外部モニタ端末72に供給して保守者に対し表示等の提示を行い、保守者が変動量(ΔACTm)の安定を確認したときにマニュアルで同期フレームパケット生成部71に送信周期延長要求を出しても良い。
【0076】
このようにして、IP網等の非同期伝送網を介してマスタクロックを持つクロック供給装置と同期した状態でクロックを供給することが可能となり、IP網を介して接続したSDH網の同期が可能となり、フレキシブルな運用形態を提供できる。特に、現状で局内に存在するSDH装置は、局間をSDH網で接続して網同期をとっているが、局間インターフェースをIP網化した場合でも、クロック供給装置を用いて網同期の確立が可能となる。
【0077】
なお、図17,図20において、クロック供給装置40の代りに、図18に示すクロック供給装置70を用いても良い。
(付記1)
非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号と内部発振手段で生成したクロックとの位相比較を行う位相比較手段と、
位相比較結果のカウント値の統計処理を行って得た位相差の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段と、
を有することを特徴とするクロック供給装置。
(付記2)
付記1記載のクロック供給装置において、
前記内部発振手段は、ルビジウム発振器であることを特徴とするクロック供給装置。
(付記3)
非同期伝送網から受信したパケットから同期網データを取り出してデータ処理を行い、データ処理した同期網データをパケット化して前記非同期伝送網に送出する伝送装置であって、
付記1又は2記載のクロック供給装置を有し、
前記クロック供給装置の内部発振手段で生成したクロックを用いて前記データ処理を行うことを特徴とする伝送装置。
(付記4)
付記3記載のクロック供給装置において、
前記変動量が安定しているとき送信周期の延長を要求する要求手段と、
前記送信周期の延長を要求する情報を設定した同期フレームパケットを生成して前記非同期伝送網に送出するパケット生成手段と、
を有することを特徴とする伝送装置。
(付記5)
非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号を内部発振手段で生成したクロックでカウントするカウント手段と、
前記カウント手段のカウント値の統計処理を行って得たフレーム周期の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段と、
を有するクロック供給装置。
(付記6)
付記5記載のクロック供給装置において、
前記内部発振手段は、ルビジウム発振器であることを特徴とするクロック供給装置。
(付記7)
非同期伝送網から受信したパケットから同期網データを取り出してデータ処理を行い、データ処理した同期網データをパケット化して前記非同期伝送網に送出する伝送装置であって、
付記5又は6記載のクロック供給装置を有し、
前記クロック供給装置の内部発振手段で生成したクロックを用いて前記データ処理を行うことを特徴とする伝送装置。
【符号の説明】
【0078】
40 クロック供給装置
41 IP網
43 受信部
44 位相比較部
45 統計処理部
46 制御信号生成部
47 ルビジウム発振器
48 分周器
50 IP伝送装置
51 同期フレームパケット送信部
55 受信カウンタ
56 平均値計算部
57 位相変動検出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期フレームパケットに同期したクロックを供給するクロック供給装置及びそれを用いた伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDH(Synchronous Digital Hierarchy)又はSONET(Synchronous Optical Network)等の同期網の伝送装置を非同期伝送網であるIP(Internet Protocol)網を介して接続することが行われている。この場合、IP網を介して接続した伝送装置の装置クロックを同期化することが要求される。
【0003】
図1は、従来の伝送装置とクロック供給装置の概要を説明するための図を示す。同図中、A局のSDH伝送装置11Aと、B局のSDH伝送装置11Bは同期網であるSDH網15を介して接続されている。A局内のクロック供給装置12Aはクロックを生成してA局内のSDH伝送装置11A,装置13A,14Aに供給している。
【0004】
SDH伝送装置11Aは、クロック供給装置12Aから供給されるクロックを用いてデータの送受信を行う。クロック供給装置12Aは、セシウム発振器等の精度の高いクロックを出力し、SDH同期網全体のマスタクロックと位置づけられる。
【0005】
SDH伝送装置11Bは、SDH伝送装置11Aから受信したデータからクロック成分を抽出しクロック供給装置12Bに供給する。クロック供給装置12Bは受信したクロックからジッタ成分等のゆらぎ分を除去し、この受信クロックに同期したクロックを生成し装置クロックとしてB局内のSDH伝送装置11B,装置13B,14Bそれぞれに供給する。これにより、B局内の装置が全て同じクロックで動作することになり、A局内の装置とB局内の装置が全て同期している状態となる。
【0006】
近年のIPネットワーク化が進み、SDHデータのIPパケット化による伝送、例えばIP伝送が行われている。IPネットワーク経由のSDH伝送装置の同期化方式としては、アダプティブ同期方式がある(例えば特許文献1参照)。アダプティブ同期方式では、SDH伝送装置11AとSDH伝送装置11Bのクロック周波数の差分を通知し、周波数を補正することで同期を確立する。
【0007】
図2は、アダプティブ同期方式の概要を説明するための図を示す。同図中、IP伝送装置20Aは、クロック供給装置21からマスタクロックを供給されて動作する。IP伝送装置20BはIP伝送装置20Aから送信されたクロック制御データを受信し、クロック制御データで制御されたクロックで動作する。
【0008】
IP伝送装置20Aは、IP伝送装置20BからIP網22を通して受信した受信データとマスタクロックを比較し、受信データのマスタクロックに対する周波数の差分を検出し、IP伝送装置20Bに送信するクロック制御信号に反映させる。
【0009】
もし、受信データがマスタクロックより遅い場合にはIP伝送装置20Aは周波数を上げるクロック制御データを生成してIP伝送装置20Bに送信し、また受信データがマスタクロックより速い場合にはIP伝送装置20Aは周波数を下げるクロック制御データを生成してIP伝送装置20Bに送信する。
【0010】
IP伝送装置20Bでは、受信したクロック制御データにしたがってクロックを生成し、自装置内の装置クロックとして使用する。
【0011】
しかしながら、このアダプティブ同期方式では周波数の上げ下げによる調節を行っているので周波数の変動幅も大きく、また、IP網による伝送遅延のばらつき(ゆらぎ)やパケットの欠落等により不安定となる問題点もある。
【0012】
伝送遅延のばらつき(ゆらぎ)の一例として、IP網内におけるルート変更が挙げられる。図3にIP網内におけるルート変更の概略図を示す。IP網は多数のルータ(SW)で構成されている。IP伝送装置20AとIP伝送装置20Bを繋ぐ場合、太実線の矢印で示すようにルータSW1,SW5,SW12を経由している。この状態で固定している場合の伝送路遅延は安定しているが、IP網の輻輳具合や、稀にルータの故障等の理由で破線の矢印で示すようにルータSW1,SW3,SW7,SW6,SW5,SW10,SW12を経由するようにルート変更されると、伝送路遅延が変化してばらつくこととなる。
【0013】
アダプティブ同期方式では定期的なクロック制御が必要となるため、伝送路遅延のばらつきは著しくクロック周波数品質を悪化させる原因となる。このため、周波数変動幅が大きく、IP伝送装置20A,20BをSDH伝送装置と考えた場合、図1のようにSDH網の局全体を同期化することは困難となる。
【0014】
これを解決するため、マスタクロックに同期した同期フレームパケットを定期的に送信し、その同期フレームを受信した装置側で統計処理を行うことでマスタクロックに同期したクロックを特定する同期フレーム方式がある。
【0015】
図4は、同期フレーム方式の概要を説明するための図を示す。同図中、IP伝送装置25Aは、CLK供給装置26からマスタクロックを供給されて動作する。IP伝送装置25AはIP伝送装置25Bに対し、例えば8kHz周期で同期フレームと呼ばれるバケットを送信する。
【0016】
IP伝送装置25Bは、その同期フレームパケットを受信する。クロック周波数制御部27は、自装置内にある電圧制御型発振器(VCXO)28から出力されるクロックを使用して同期フレームの周期をカウントし、ある程度のサンプル数を受信したところで平均化処理(統計処理)を行って送信側のクロック周波数を特定し、電圧制御型発振器28を送信側クロック周波数に制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2007−235217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、IP網の伝送路の輻輳具合やルート変更等により、図5に示すような同期フレームパケットのゆらぎや欠落(破線の丸印で示す)が生じた場合、図6に示すように、受信側再生クロックの立ち上がり及び立ち下がりは送信側クロックに対して変動し(立ち上がり,立ち下がりを複数の縦線で示す)、図1に示すSDH網の同期化のようにゆらぎや欠落を完全に吸収し、ジッタ等の位相変動の少ない同期クロックを再生させることは困難であった。
【0019】
上記の問題の起こる原因として、次の2点が挙げられる。第1に、ルート変更等による遅延ばらつきの吸収が困難であるという点、第2に許容偏差の大きいVCXO28を使用しているという点である。
【0020】
IP網伝送路のルート変更による遅延ばらつきがあると、同期フレームパケット送信側のクロック周波数は変更されていないのに遅延時間が変動するため、本当にクロック周波数が変動している場合との区別がつかず、結果的にはジッタ成分の多いクロック出力となってしまう。また、IP網伝送路のゆらぎの影響をなくすためには、大量のサンプル数(データ量)が必要となる。しかし、大量のサンプル数を得るためには長時間が必要となる。
【0021】
同期フレーム方式では、平均化処理結果をVCXO28の制御信号に反映させているので、周波数変動量の大きいVCXO28を使用すると、取得中のサンプルデータの精度が落ち、VCXO28の出力クロックで取得したサンプルデータでは、送信側クロックの位相との差分が大きくなるという問題が発生する。逆に、サンプルデータ取得間隔を短くしてVCXO28の制御電圧に反映させると、IP網の伝送路のゆらぎや欠落の影響を受け、ジッタ成分を多く含んだクロックとなる。
【0022】
ここで、PLL回路について説明する。PLL(Phase locked loop)は、同期化したいクロック入力の位相とVCXOの出力位相を比較し、同位相となるよう制御を掛け、入力位相と出力位相をロックするという回路方式である。
【0023】
図7にPLLのブロック図を示す。同図中、クロック入力部31から同期化したいクロック(例えば周波数8kHz)と、VCXO34の周波数を分周回路35で分周して8kHzに合わせたクロックを、位相比較部32で比較を行う。通常、位相比較の場合、各パルスの論理和(オア演算)をとり、周波数が一致している場合はその演算結果はデューティ比50%のパルスとなる。次段のフィルタ部33はローパスフィルタで構成され、演算結果のパルスから直流電圧を取り出し、その電圧を制御電圧としてVCXO34を制御する。デューティ比50%のパルス時に制御電圧=(電源電圧/2)となるよう回路を設計し、デューティ比の変動分、つまりフィルタ部33の直流電圧値で、VCXO34の出力周波数を変動させ、クロック入力と同位相となるよう調整する。
【0024】
PLLの場合、入力クロック周波数を特定して、その周波数を合わせるのではなく、入力クロックの位相との差分を常時モニタしてVCXO34の出力周波数を調整(周波数の上げ下げ)している。
【0025】
このため、制御方法が適切でないと大きなジッタ成分が発生することとなる。この方法を同期フレーム方式に当てはめると、IP網の伝送路のゆらぎは、入力クロック周波数が変動することであり、位相比較部32でのデューティ比が大きく変動し、VCXO34の制御電圧(直流電圧)が急激に変化することでジッタが発生する。そして、IP伝送路のゆらぎを最小化するため、サンプル数を大きくして長い平均化時間が必要となると、VCXO34の周波数を小刻みに制御することができなくなってしまい、結果的には精度の低いクロックを出力することとなる。
【0026】
また、IP網内のルート変更による遅延ばらつきが発生した場合、遅延時間は最大で数10msecずれる。これはマスタ局の周波数に変化がない状況での位相の大きな変動を意味しており、平均化処理で積上げたデータに大きな誤差が発生し、クロック周波数が誤って変動することとなる。
【0027】
つまり、同期フレーム方式の問題点はIP伝送路のゆらぎ、特にルート変更による遅延ばらつきを抑圧することができず、結果的に位相の変動量が大きくなり、ジッタ成分が大きくなることであった。
【0028】
開示のクロック供給装置は、ルート変更による遅延ばらつきに起因するクロックのジッタを抑圧することができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
開示の一実施形態によるクロック供給装置は、非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号と内部発振手段で生成したクロックとの位相比較を行う位相比較手段と、
位相比較結果のカウント値の統計処理を行って得た位相差の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段とを有する。
【発明の効果】
【0030】
本実施形態によれば、ルート変更による遅延ばらつきに起因するクロックのジッタを抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来の伝送装置とクロック供給装置の概要を説明するための図である。
【図2】アダプティブ同期方式の概要を説明するための図である。
【図3】IP網内におけるルート変更の概略図である。
【図4】同期フレーム方式の概要を説明するための図である。
【図5】同期フレームパケットのゆらぎや欠落を示す図である。
【図6】受信側再生クロックの立ち上がり及び立ち下がりの変動を示す図である。
【図7】PLLのブロック図である。
【図8】クロック供給装置の第1実施形態のブロック図である。
【図9】同期フレームパケットの一実施形態のフォーマットである。
【図10】統計処理部の一実施形態のブロック図である。
【図11】図8の各部の信号タイミングチャートである。
【図12】変動量の増加が持続した場合の位相変動検出の概念図である。
【図13】変動量の増加が持続した場合の信号タイミングチャートである。
【図14】変動量の増加が急激な場合の位相変動検出の概念図である。
【図15】変動量の増加が急激な場合の信号タイミングチャートである。
【図16】統計及び制御処理のフローチャートである。
【図17】クロック供給装置を用いたIP伝送装置の第2実施形態のブロック図である。
【図18】クロック供給装置の第3実施形態のブロック図である。
【図19】統計処理部の一実施形態のブロック図である。
【図20】クロック供給装置を用いたIP伝送装置の第4実施形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づいて実施形態を説明する。
【0033】
<第1実施形態>
図8は、クロック供給装置の第1実施形態のブロック図を示す。同図中、クロック供給装置40は、非同期伝送網であるIP網41から供給される同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する受信部43、受信部43から出力されるタイミング信号とルビジウム発振器47の出力クロックを分周器48で1/n分周したクロックの位相を比較する位相比較部44、位相比較結果から統計処理による平均化を行う統計処理部45、統計処理の結果からルビジウム発振器47の制御信号を生成する制御信号生成部46、制御信号にしたがって発振を行うルビジウム発振器47、分周器48を有している。
【0034】
IP伝送装置(送信側)50の同期フレームパケット送信部51は、同期フレームパケットを生成してIP網41に送出する。同期フレームパケットは例えば8kHz周期で送信される通常のIPパケットである。
【0035】
図9に同期フレームパケットの一実施形態のフォーマットを示す。同図中、プリアンブル、宛先アドレス、送信元アドレス、タイプ/レングスに続いてユーザデータが設けられ、最後に誤り訂正用のFCS(Flame Check Sequence)が設けられている。上記ユーザデータとして、同期フレームを表すID(識別子)と(1)、送信時刻(2)と、同期フレームの順番を表す追番号(3)と、例えば同期フレーム送信周期の制御等を行うための制御データ(4)が設定される。
【0036】
クロック供給装置40内の受信部43では同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する。位相比較部44では8kHz周期のタイミング信号と、ルビジウム発振器47出力を分周器48で1/n分周したクロックとのオア演算結果を統計処理部45に供給する。
【0037】
図10は、統計処理部45の一実施形態のブロック図を示す。同図中、受信カウンタ55は、位相比較結果(オア演算結果)のハイレベル(又はローレベル)である期間(パルス幅)を例えば100MHzのカウンタ用クロック(内部高速クロック)でカウントし、カウント値(CTn)を平均値計算部56に供給する。平均値計算部56は、例えば10sec等の単位時間毎に、受信カウンタ55が8kHz周期で出力するカウント値の平均値(ACTm)つまり位相差データを算出する。位相変動検出部57は、前回の単位時間における平均値と今回の単位時間における平均値との差分である位相差データの変動量(ΔACTm)を算出する。
【0038】
そして、制御信号生成部46では、単位時間当たりの位相差データの変動量(ΔACTm)を閾値と比較して変動していること(ΔACTm≧閾値)を検出した場合、変動量が0となる方向にルビジウム発振器47の発振周波数を制御する制御信号を生成し、ルビジウム発振器48に供給する。変動量が閾値内に収まっている場合(ΔACTm<閾値)には、ルビジウム発振器48の発振周波数は、その周波数で固定される。
【0039】
ここで、図11に、受信部43が同期フレームパケットを受信して出力する8kHz周期のタイミング信号と、分周器48出力と、位相比較部44の出力する位相比較結果と、カウンタ用クロックそれぞれの信号タイミングチャートを示す。
【0040】
ここで、カウンタ値(CTn)は、位相比較部44からの位相差データを高速クロック(例えば100MHzのクロック)でカウントする。この場合、±10nsecの偏差でカウント値が得られる。このカウント値(CTn)を平均値計算部56で単位時間毎の平均値(ACTm)として格納する。単位時間が10秒の場合、8kHz(125μsec)毎の計算となるので、80000サンプルの平均値となる。この平均値の変動差を変動値ΔACTm[=ACTm−1 − ACTm]として格納する。なお、上記、m,nはパケット受信順を表す任意の整数である。
【0041】
ところで、同期処理の初期状態の場合、大きな位相差が算出されることが予想されるため、単位時間は1秒等に短くすることにより、早急な周波数同期が期待できる。
【0042】
<遅延時間変動の検出>
次に、位相変動検出部57で行う遅延時間変動の検出について図12乃至図15を用いて説明する。
【0043】
図12、図14において、横軸は経過時間t、縦軸は位相差データの変動量(ΔACTm)である。図中の点(ドット)はカウンタ値(CTn)を表し、太実線の矢印は平均値(ACTm)を表している。
【0044】
図12では、単位時間の区間を区間a〜区間lとしたとき、区間dと区間eの間で変動量(ΔACTm)が増加を開始しており、変動量(ΔACTm)が増加した状態が区間e〜区間lで持続していることは、IP伝送装置50におけるマスタクロック周波数の変動を表している。
【0045】
図13に、変動量(ΔACTm)の増加が持続した場合の受信部43出力のタイミング信号と、分周器48出力と、位相比較部44の出力する位相比較結果(位相差)それぞれの信号タイミングチャートを示す。
【0046】
一方、図14では、単位時間の区間を区間a〜区間lとしたとき、区間gにおいて急激に変動量(ΔACTm)が増加したことを表しており、変動量(ΔACTm)の増加が区間gだけであることは、ルート変更等による遅延時間の変動を表し、IP伝送装置50におけるマスタクロック周波数の変動はないことを表している。
【0047】
図15に、変動量(ΔACTm)の増加が1つの区間だけの場合の受信部43出力のタイミング信号と、分周器48出力と、位相比較部44の出力する位相比較結果(位相差)それぞれの信号タイミングチャートを示す。
【0048】
位相変動検出部57では、図12と図14の変動量の傾向の違いを検出する。図12に示す場合は区間eから区間lの変動量の増加を認識し、ルビジウム発振器47の周波数を変化させる動作を行う。図14に示す場合は区間gでの急激な変動を無視してルビジウム発振器47の周波数を変動させない動作を行う。
【0049】
位相変動検出部57で変動傾向の違いを認識する方法としては、例えば、図12に前回の区間内平均値と今回の区間内平均値との変動量(ΔACTm)を数値で表示しているが、この変動量(ΔACTm)がない状態を「0」で表し、変動量が緩やかな状態を表す数値として「+2」で表した場合、区間内変動差が「+2」の状態が例えば3区間持続した場合に、ルビジウム発振器47の周波数を変動させる制御を開始する。
【0050】
なお、周波数制御の仕様の一例としては、閾値を「±0.5」として、変動量(ΔACTm)が±0.5未満では毎単位時間監視を行い、周波数は安定しているためルビジウム発振器47の周波数は現状維持とする。変動量(ΔACTm)が±0.5以上では3単位時間連続監視を行い、3単位時間連続して変動量(ΔACTm)が±0.5以上の場合は周波数変動があるとしてルビジウム発振器47の周波数制御を行う。
【0051】
図14の場合は、変動量(ΔACTm)が急激な状態を表す数値として「+20」で表し、この区間内変動が1区間であるため、ルート変更等による遅延時間の変動による差分と判断し、ルビジウム発振器47の周波数制御は行わない動作とする。
【0052】
なお、ルビジウム発振器を用いたPLLでは、周波数可変幅が10−8程度の実用例もあり、平均化処理時間の周期つまり単位時間を長くすることができる。不充分なサンプル数で平均化処理を行って周波数を変動させることは、ルビジウム発振器47が出力するクロックに含まれるジッタ成分の増加に繋がる。
【0053】
マスタ局(IP伝送装置50)のクロックが、セシウム発振器等のように周波数偏差が10−12程度の高精度発振器の場合、周波数偏差は少なく安定していると考えられる。このため、平均化処理では大量のサンプル数から伝送路遅延の平均値を求め、マスタ局のクロック周波数に同期させる。
【0054】
<統計及び制御処理>
図16は、統計処理部45及び制御信号生成部46が実行する統計及び制御処理のフローチャートを示す。ここで、判定回数Xと閾値Yは、NMS(Network Management System)等の図示しない上位装置から設定される。なお、判定回数Xと閾値Yは固定値であっても良い。
【0055】
ステップS1で受信カウンタ55は位相比較部44からの位相比較結果を内部高速クロックでカウントしてカウント値(CTn)を得る。
【0056】
ステップS2で平均値計算部56は単位時間毎に8kHz周期のカウント値の平均値(ACTm)を求め、位相変動検出部57は位相差データの変動量(ΔACTm)を求める。
【0057】
次に、ステップS3で制御信号生成部46は変動量(ΔACTm)が+Y以内であるか否かを判別し、+Y以上であればステップS4でX回連続しているか否かを判別し、X回連続している場合にはステップS7に進む。これと同時に、ステップS5で制御信号生成部46は変動量(ΔACTm)が−Y以内であるか否かを判別し、−Y以下であればステップS6でX回連続しているか否かを判別し、X回連続している場合にはステップS7に進む。
【0058】
ステップS7で制御信号生成部46は、変動量(ΔACTm)が+Y以上のときルビジウム発振器48の発振周波数を所定量だけ増加させる制御信号を生成し、変動量(ΔACTm)が−Y以下のときルビジウム発振器48の発振周波数を所定量だけ減少させる制御信号を生成する。
【0059】
ステップS8で制御信号生成部46は、生成した制御信号をルビジウム発振器48に供給し、これによりルビジウム発振器48の発振周波数が可変される。
【0060】
この実施形態では、IP網伝送路のルート変更による遅延ばらつきがあってもルビジウム発振器48の発振周波数を変化させないため、ルート変更による遅延ばらつきに起因するクロックのジッタを抑圧することができる。また、安定した周波数偏差が出力できるルビジウム発振器48を使用することで、IP網伝送路のゆらぎや欠落の影響を受けないクロックを出力することができる。
【0061】
<第2実施形態>
図17は、クロック供給装置を用いたIP伝送装置の第2実施形態のブロック図を示す。同図中、IP伝送装置60内のPHY部61は、IP網からEthernet(登録商標)等の伝送信号の送受信を行う。受信パケット処理部62は受信したパケット情報を確認する。カプセル分離処理部63は受信パケットを分解してSDHデータ(同期網データ)を取り出す。SDH処理部64はSDHデータの処理を行う。カプセル化処理部65はSDHデータのカプセル化(パケット化)を行って送信パケットを形成する。送信パケット処理部66は送信パケットの送信処理を行ってPHY部61に供給する。
【0062】
同期フレームパケット抽出部67は、受信パケット処理部62から供給される受信パケットから同期フレームパケットを抽出してクロック供給装置40に供給する。
【0063】
クロック供給装置40は図8と同一構成であり、同期フレームパケット抽出部67から供給される同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する受信部43、受信部43から出力されるタイミング信号とルビジウム発振器47の出力クロックを分周器48で1/n分周したクロックの位相を比較する位相比較部44、位相比較結果から統計処理による平均化を行う統計処理部45、統計処理の結果からルビジウム発振器47の制御信号を生成する制御信号生成部46、制御信号にしたがって発振を行うルビジウム発振器47、分周器48を有している。
【0064】
この実施形態では、IP伝送装置60内にクロック供給装置40を具備する。つまり、IPデータ送受信中に定期的(8kHz,125μsec周期)に同期フレームパケットを受信し、同期フレームパケット抽出部67で同期フレームパケットを抽出してクロック供給装置40にて同期クロックの再生を行う。そして、この同期クロックをIP伝送装置60内のSDH処理部64等に供給する。
【0065】
<第3実施形態>
この実施形態では第1実施形態に対して位相比較部を削除し、受信同期フレームパケットの周期を直接ルビジウム発振器の出力クロックでカウントし、そのカウント値の平均値の統計処理を行う。
【0066】
図18は、クロック供給装置の第3実施形態のブロック図を示す。同図中、クロック供給装置70は、IP網41から供給される同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する受信部71、受信部71から出力されるタイミング信号をルビジウム発振器74の出力するクロックでカウントし、カウント値の平均化を行う統計処理部72、統計処理の結果からルビジウム発振器74の制御信号を生成する制御信号生成部73、制御信号にしたがって発振を行うルビジウム発振器74を有している。
【0067】
IP伝送装置(送信側)50の同期フレームパケット送信部51は、同期フレームパケットを生成してIP網41に送出する。同期フレームパケットは例えば8kHz周期で送信される通常のIPパケットである。
【0068】
図19は、統計処理部72の一実施形態のブロック図を示す。同図中、受信カウンタ75には、受信部71で同期フレームパケットを受信して生成した8kHz周期のタイミング信号が供給される。受信カウンタ75は、8kHz周期のタイミング信号をルビジウム発振器74の出力クロックでカウントし、カウント値(CTn)を平均値計算部76に供給する。平均値計算部76は、例えば10sec等の単位時間毎に、受信カウンタ75が8kHz周期で出力するカウント値の平均値(ACTm)を算出する。位相変動検出部77は、前回の単位時間における平均値と今回の単位時間における平均値との差分であるフレーム周期の変動量(ΔACTm)を算出する。
【0069】
そして、制御信号生成部73では、単位時間当たりのフレーム周期の変動量(ΔACTm)を閾値と比較して変動していること(ΔACTm≧閾値)を検出した場合、変動量が0となる方向にルビジウム発振器74の発振周波数を制御する制御信号を生成し、ルビジウム発振器74に供給する。変動量が閾値内に収まっている場合(ΔACTm<閾値)には、ルビジウム発振器74の発振周波数は、その周波数で固定される。
【0070】
<第4実施形態>
図20は、クロック供給装置を用いたIP伝送装置の第4実施形態のブロック図を示す。同図中、図17と同一部分には同一符号を付す。IP伝送装置60内のPHY部61は、IP網からEthernet(登録商標)等の伝送信号の送受信を行って物理レイヤの処理を行う。受信パケット処理部62は受信したパケット情報を確認する。カプセル分離処理部63は受信パケットを分解してSDHデータを取り出す。SDH処理部64はSDHデータの処理を行う。カプセル化処理部65はSDHデータのカプセル化を行って送信パケットを形成する。送信パケット処理部66は送信パケットの送信処理を行ってPHY部61に供給する。
【0071】
同期フレームパケット抽出部67は、受信パケット処理部62から供給される受信パケットから同期フレームパケットを抽出してクロック供給装置40に供給する。
【0072】
クロック供給装置40は図8と同様の構成であり、同期フレームパケット抽出部67から供給される同期フレームパケットを受信して8kHz周期のタイミング信号を生成する受信部43、受信部43から出力されるタイミング信号とルビジウム発振器47の出力クロックを分周器48で1/n分周したクロックの位相を比較する位相比較部44、位相比較結果から統計処理による平均化を行う統計処理部45、統計処理の結果からルビジウム発振器47の制御信号を生成する制御信号生成部46、制御信号にしたがって発振を行うルビジウム発振器47、分周器48を有している。
【0073】
この実施形態では、統計処理部45で得た位相差データの変動量(ΔACTm)は送信周期自動制御部70に供給される。送信周期自動制御部70は変動量(ΔACTm)が例えば数分〜数10分程度の所定期間一定で安定している場合に、同期フレームパケット生成部71に送信周期延長を要求する。
【0074】
同期フレームパケット生成部71は、この送信周期延長要求を受けると、図9に示す同期フレームパケットの制御データに同期フレーム送信周期の延長を要求する制御情報を設定して生成し送信パケット処理部66に供給する。この同期フレーム送信周期の延長を要求する同期フレームパケットは送信側のIP伝送装置に対して送信される。これにより、送信側のIP伝送装置は同期フレームパケットを要求に応じて、同期フレーム送信周期の延長を8kHz周期から例えば80Hz周期等に延長することができる。
【0075】
なお、統計処理部45で得た位相差データの変動量(ΔACTm)を外部モニタ端末72に供給して保守者に対し表示等の提示を行い、保守者が変動量(ΔACTm)の安定を確認したときにマニュアルで同期フレームパケット生成部71に送信周期延長要求を出しても良い。
【0076】
このようにして、IP網等の非同期伝送網を介してマスタクロックを持つクロック供給装置と同期した状態でクロックを供給することが可能となり、IP網を介して接続したSDH網の同期が可能となり、フレキシブルな運用形態を提供できる。特に、現状で局内に存在するSDH装置は、局間をSDH網で接続して網同期をとっているが、局間インターフェースをIP網化した場合でも、クロック供給装置を用いて網同期の確立が可能となる。
【0077】
なお、図17,図20において、クロック供給装置40の代りに、図18に示すクロック供給装置70を用いても良い。
(付記1)
非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号と内部発振手段で生成したクロックとの位相比較を行う位相比較手段と、
位相比較結果のカウント値の統計処理を行って得た位相差の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段と、
を有することを特徴とするクロック供給装置。
(付記2)
付記1記載のクロック供給装置において、
前記内部発振手段は、ルビジウム発振器であることを特徴とするクロック供給装置。
(付記3)
非同期伝送網から受信したパケットから同期網データを取り出してデータ処理を行い、データ処理した同期網データをパケット化して前記非同期伝送網に送出する伝送装置であって、
付記1又は2記載のクロック供給装置を有し、
前記クロック供給装置の内部発振手段で生成したクロックを用いて前記データ処理を行うことを特徴とする伝送装置。
(付記4)
付記3記載のクロック供給装置において、
前記変動量が安定しているとき送信周期の延長を要求する要求手段と、
前記送信周期の延長を要求する情報を設定した同期フレームパケットを生成して前記非同期伝送網に送出するパケット生成手段と、
を有することを特徴とする伝送装置。
(付記5)
非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号を内部発振手段で生成したクロックでカウントするカウント手段と、
前記カウント手段のカウント値の統計処理を行って得たフレーム周期の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段と、
を有するクロック供給装置。
(付記6)
付記5記載のクロック供給装置において、
前記内部発振手段は、ルビジウム発振器であることを特徴とするクロック供給装置。
(付記7)
非同期伝送網から受信したパケットから同期網データを取り出してデータ処理を行い、データ処理した同期網データをパケット化して前記非同期伝送網に送出する伝送装置であって、
付記5又は6記載のクロック供給装置を有し、
前記クロック供給装置の内部発振手段で生成したクロックを用いて前記データ処理を行うことを特徴とする伝送装置。
【符号の説明】
【0078】
40 クロック供給装置
41 IP網
43 受信部
44 位相比較部
45 統計処理部
46 制御信号生成部
47 ルビジウム発振器
48 分周器
50 IP伝送装置
51 同期フレームパケット送信部
55 受信カウンタ
56 平均値計算部
57 位相変動検出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号と内部発振手段で生成したクロックとの位相比較を行う位相比較手段と、
位相比較結果のカウント値の統計処理を行って得た位相差の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段と、
を有することを特徴とするクロック供給装置。
【請求項2】
請求項1記載のクロック供給装置において、
前記内部発振手段は、ルビジウム発振器であることを特徴とするクロック供給装置。
【請求項3】
非同期伝送網から受信したパケットから同期網データを取り出してデータ処理を行い、データ処理した同期網データをパケット化して前記非同期伝送網に送出する伝送装置であって、
請求項1又は2記載のクロック供給装置を有し、
前記クロック供給装置の内部発振手段で生成したクロックを用いて前記データ処理を行うことを特徴とする伝送装置。
【請求項4】
請求項3記載のクロック供給装置において、
前記変動量が安定しているとき送信周期の延長を要求する要求手段と、
前記送信周期の延長を要求する情報を設定した同期フレームパケットを生成して前記非同期伝送網に送出するパケット生成手段と、
を有することを特徴とする伝送装置。
【請求項5】
非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号を内部発振手段で生成したクロックでカウントするカウント手段と、
前記カウント手段のカウント値の統計処理を行って得たフレーム周期の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段と、
を有するクロック供給装置。
【請求項1】
非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号と内部発振手段で生成したクロックとの位相比較を行う位相比較手段と、
位相比較結果のカウント値の統計処理を行って得た位相差の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段と、
を有することを特徴とするクロック供給装置。
【請求項2】
請求項1記載のクロック供給装置において、
前記内部発振手段は、ルビジウム発振器であることを特徴とするクロック供給装置。
【請求項3】
非同期伝送網から受信したパケットから同期網データを取り出してデータ処理を行い、データ処理した同期網データをパケット化して前記非同期伝送網に送出する伝送装置であって、
請求項1又は2記載のクロック供給装置を有し、
前記クロック供給装置の内部発振手段で生成したクロックを用いて前記データ処理を行うことを特徴とする伝送装置。
【請求項4】
請求項3記載のクロック供給装置において、
前記変動量が安定しているとき送信周期の延長を要求する要求手段と、
前記送信周期の延長を要求する情報を設定した同期フレームパケットを生成して前記非同期伝送網に送出するパケット生成手段と、
を有することを特徴とする伝送装置。
【請求項5】
非同期伝送網から同期フレームパケットを受信してタイミング信号を生成する受信手段と、
前記受信手段で生成したタイミング信号を内部発振手段で生成したクロックでカウントするカウント手段と、
前記カウント手段のカウント値の統計処理を行って得たフレーム周期の変動量の傾向から同期フレームパケットの周波数変化を検出する位相変動検出手段と、
前記位相変動検出手段で同期フレームパケットの周波数変化を検出したときに前記内部発振手段の発振周波数を制御する発振周波数制御手段と、
を有するクロック供給装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−177778(P2010−177778A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15533(P2009−15533)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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