説明

クロピドグレル硫酸水素塩の結晶形態Iを製造する方法

【課題】 検出可能な量の結晶形IIを不純物として含まない、クロピドグレル硫酸水素塩の結晶形Iを得るための信頼性のある方法を提供する。
【解決手段】 下記式I:
【化1】


で表される、α−(2−クロロフェニル)−6,7−ジヒドロ−チエノ[3,2−c]ピリジン−5(4H)−酢酸メチルエステル(αS)の硫酸水素酸塩(クロピドグレル硫酸水素酸塩)を、その結晶形Iで製造するための方法であって、前記式Iの化合物を、一級、二級もしくは三級の炭素数1〜5のアルコール類、該アルコール類の炭素数1〜4のカルボン酸とのエステル類、およびそれらの混合物から選択される溶媒中で、遊離塩基又は塩としてクロピドグレルの溶液から分離することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−(2−クロロフェニル)−6,7−ジヒドロ−チエノ[3,2−c]ピリジン−5(4H)−酢酸メチルエステル(αS)の硫酸水素塩(クロピドグレル硫酸水素塩)を、その結晶形Iで製造するための新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(I):
【化1】

で表される、α−(2−クロロフェニル)−6,7−ジヒドロ−チエノ[3,2−c]ピリジン−5(4H)−酢酸メチルエステル(αS)の硫酸水素塩(クロピドグレル硫酸水素塩)は、右旋性S−エナンチオマーの製造に関する特許文献1に記載の抗血栓剤である。特許文献1に開示された製造方法では、ラセミ混合物と光学活性カンファースルホン酸とを反応させた後に、ジアステレオ異性体を分離している。
【0003】
クロピドグレルとカンファースルホン酸との各塩は、炭酸水素ナトリウムの塩化メチレン溶液により光学活性塩基に変換され、溶媒を蒸発させて回収される。蒸発残渣−クロピドグレルの光学活性塩基−をアセトンに溶解し、これを砕いた氷で冷却しながら当量の硫酸を滴下することにより硫酸水素塩に変換される。得られた析出物の融点は184℃であると記載されている。
【0004】
特許文献1は、このようにして調製されたクロピドグレル硫酸水素塩の結晶形について記載していない。より新しい特許文献2は、クロピドグレル硫酸水素塩の結晶形I及びIIを記載している。この後の特許出願によれば、特許文献1に記載の析出方法は結晶形Iをもたらす。特許文献2には、新規であると主張されている結晶形IIが定義されている。特許文献2の実施例1Aによる結晶形IIの製造方法では、クロピドグレルとカンファースルホン酸との塩を塩化メチレンに導入し、これを炭酸カリウムの溶液により塩基に変換している。塩化メチレンを蒸発させ、蒸発残渣をアセトンに溶解し、硫酸を添加することにより、硫酸水素塩がアセトンから析出する。
【0005】
従って、特許文献2の結晶形IIを得る方法は、同特許文献2に記載の結晶形Iを得る方法と極めて類似している。特許文献2は、さらに、結晶形IIの方が熱力学的により安定であると明示しており、結晶形Iが得られるとされてる公知の方法は再現が困難であることは自明である。条件の僅かな変化であっても、予想された結晶形Iではなくて結晶形IIが結果的に得られると思われる。従って、生成中の結晶形Iは結晶形IIへ自発的に変換し、結晶形Iには少なくとも結晶形IIが混在していると予想される。上記予想が正しいことは実験的に確かめられている。
【0006】
【特許文献1】チェコ特許CZ274420(EP281459)
【特許文献2】チェコ特許出願CZ2000−4637(WO99/65915)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、検出可能な量の結晶形IIを不純物として含まない、クロピドグレル硫酸水素塩の結晶形Iを得るための信頼性のある方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はクロピドグレル硫酸水素塩の結晶形Iを製造する方法に関し、炭素数1〜5のアルコール類、該アルコール類と炭素数1〜4のカルボン酸とのエステル類、およびアルコール類とエステル類との混合物から選択された溶媒から、該結晶形を結晶化又は析出させる方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上述したように、従来技術の製造方法では、結晶形Iが非特異的に製造される。本発明による方法でクロピドグレル硫酸水素塩を結晶化すれば、一定の高含量の結晶形Iが再現可能な方法で得られることが分かった。
【0010】
本発明の本質は、クロピドグレル硫酸水素塩の結晶形Iを製造する方法であり、該方法は、
1.クロピドグレルとカンファースルホン酸との塩を、有機溶媒中で、無機弱塩基の溶液を用いて、光学活性塩基へ変換し;
2.該溶媒を蒸発させて対応するクロピドグレル塩基を有機相から単離した後、炭素数1〜5のアルコール類、該アルコール類と炭素数1〜4のカルボン酸とのエステル類、およびアルコール類とエステル類との混合物から選択された溶媒中に前記塩基を溶解し、得られた混合物を冷却し;
3.硫酸を添加し、得られた混合物に、クロピドグレル硫酸水素塩の結晶形Iを接種し;
4.得られた結晶混合物を−5〜15℃の温度で攪拌し、結晶を濾別、乾燥してクロピドグレル硫酸水素塩の結晶形Iを得る方法である。
【0011】
別の態様によれば、クロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iを別の方法で製造することができ、該方法は、
1.炭素数1〜5のアルコール類、該アルコール類と炭素数1〜4のカルボン酸とのエステル類、およびアルコール類とエステル類との混合物から選択された溶媒中に、その溶媒の沸点で、クロピドグレル硫酸水素酸塩を溶解し;
2.得られた混合物を開口径が0.1〜1μmのフィルタを通してろ過し;
3.得られた溶液を冷却し、ろ過し、減圧乾燥してクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iを得る方法である。
【0012】
本発明に従って得られた、検出可能な量の結晶形IIにより汚染されていない、クロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iの品質は、慣用技術を使った以下の測定により確かめることができる。
【0013】
上記のようにして得られたクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iの粉末の特性X線粉末回折図を図1に示した。図中の表に、グリッド間距離及び相対強度(最強ラインに対する百分率)を示した。この粉末のX線回折プロファイルは、装置PHILIPS PW1730/PW1050を用いて、Cu−Kα線、Niフィルタ、自動データ記録、電圧:40kV、電流:25mA、毎分1/2°のゴニオメータ前進速度および時定数1の条件で測定した。
【0014】
製造したクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iの品質は、図2に示したフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって確認した。スペクトルは、Nicolet USA分光計、型式:Impact 410を用いて得た。測定条件:KBr錠剤法、16スキャン、分解能:4/cm(cmの逆数)、バックグラウンド:KBr錠剤。
【0015】
示差走査熱量分析(DSC)は、Perkin Elmerの装置DSC7を用いて行い、Inで検量した。熱量測定は、Alカップに試料1.725mgを入れ、40〜200℃の範囲の温度、10℃/分の加熱速度で行った。融点及び特性DSC曲線を図3に示す。
【0016】
上記方法を組み合わせて用いると、もう一方の結晶形の検出限界は、2%未満のままである。従って、この方法により、他方の結晶形の含量が少なくとも98%であることが確実である。
【実施例1】
【0017】
温度計及びマグネチックスターラを取り付けた平底フラスコにクロピドグレル塩基2.26gを入れて、乾燥イソプロパノール32mlに溶解する。この溶液を攪拌しながら0〜−5℃に冷却する。次いで、98%硫酸(ρ−1.8361g・cm-3)0.33mlを添加し、結晶形Iの結晶を接種する。この混合物を上記温度で2.5時間攪拌すると、約1時間のうちに、分離した結晶相は徐々に溶液に変化するにつれて外観が変化する。混合物の温度を10℃まで上げ、約0.5時間後にこの混合物に結晶形Iの結晶を再び接種する。この混合物を、結晶相が分離するまで10〜15℃の温度で1.5〜2時間、次いで−5℃で8時間攪拌する。生成物をフリットガラスS−2上に濾別し、空気流通下で乾燥する。多形体純度が少なくとも98%であり、融点が185〜187℃であるクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iが1.7g得られる。
母液を25℃に放置することにより、融点が177〜179℃であるクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形IIが0.5g析出する。
【実施例2】
【0018】
マグネチックスターラ及び還流冷却器を取り付けたフラスコにクロピドグレル硫酸水素酸塩25gを入れ、不活性ガス雰囲気で還流下、酢酸ブチル1150mlに溶解する。わずかに混濁した溶液をろ過し、攪拌しながら0〜−2℃に冷却する。濾液を冷蔵庫に保存し、6時間後、速やかに吸引濾過して析出した生成物をフリットS−2上に捕集する。減圧下で乾燥した後、融点が184〜186℃のクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iが得られる。
【実施例3】
【0019】
温度計及びマグネチックスターラを取り付けた平底フラスコにクロピドグレル塩基20gを入れ、乾燥イソプロパノール140ml及び酢酸ブチル140mlに溶解する。得られた溶液を攪拌しながら0〜−2℃に冷却する。その後、98%硫酸(ρ−1.8361g・cm-3)2.9mlを添加する。混合物を上記温度で1時間、5℃で2時間、−5℃で8時間攪拌する。生成物をフリットガラスS−2上に濾別し、減圧下で乾燥する。融点が184〜186℃のクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iが14.5g得られる。
母液を25℃に放置することにより、融点が177〜179℃のクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形IIが析出する。
【実施例4】
【0020】
温度計及びマグネチックスターラを取り付けた平底フラスコにクロピドグレル塩基1.84gを入れ、沸騰下で、乾燥イソプロパノール26mlに溶解する。攪拌しながら、得られた溶液を0℃まで冷却する。次いで、98%硫酸(ρ−1.8361g・cm-3)0.33mlを添加し、結晶形Iの結晶を接種する。得られた混合物を上記温度で2時間攪拌すると、約1時間のうちに、分離した結晶相は徐々に溶液に変化するにつれて外観が変化する。混合物の温度を10℃まで上げ、約0.5時間後、結晶形Iの結晶を再び接種する。得られた混合物を、結晶相が分離するまで10〜15℃の温度で1.5〜2時間、次いで−1℃で8時間攪拌する。生成物をフリットガラスS−2上に濾別し、空気流通下で乾燥する。融点が184〜186℃のクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iが1.8g得られる。
【実施例5】
【0021】
クロピドグレル塩基56.9gを酢酸n−ブチル570mlに溶解し、これを温度計、KPG攪拌機及び滴下漏斗を取り付けた三ッ口丸底フラスコに入れる。混合しながら、酢酸ブチル溶液を氷水浴中で0〜+5℃に冷却する。この溶液にクロピドグレルの結晶形Iの結晶を接種する。強く攪拌しながら、反応混合物の温度が+5℃を超えないようにして、濃硫酸(97%)9.71ml(1.5当量)を冷却した溶液に滴下する。酸性になった後、反応混合物を+10℃まで加熱し、この温度で3時間攪拌する。その後、結晶化温度を+20〜+24℃まで上げ、この温度でさらに18時間撹拌を続ける。
上記時間経過後、得られた結晶画分をフリットガラス(S2)で濾別し、25℃以下の温度で乾燥する。
このようにして、クロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iが63.0g(理論量の84.8%)得られる。
X線回折図は結晶形Iに一致する(図4)。
【実施例6】
【0022】
クロピドグレル塩基12.63gを酢酸n−ブチル126mlに溶解し、これを、温度計、KPG攪拌機及び滴下漏斗を取り付けた三ッ口丸底フラスコに入れる。混合しながら、酢酸ブチル溶液を氷水浴中で0〜+5℃に冷却する。この溶液にクロピドグレルの結晶形Iの結晶を接種する。強く攪拌しながら、反応混合物の温度が+5℃を超えないようにして、濃硫酸(98%)2.4ml(1.1当量)を冷却した溶液に滴下する。酸性になった後、反応混合物を+10℃まで加熱し、この温度で3時間攪拌する。その後、結晶化温度を+20〜+23℃まで上げ、この温度でさらに19時間撹拌を続ける。
上記時間経過後、得られた結晶画分をフリットガラス(S2)で濾別し、25℃以下の温度で乾燥する。
このようにして、クロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iが15.16g(理論量の78.0%)得られる。
X線回折図は結晶形Iに一致する(図5)。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例4で得たクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形IのX線回折図である。
【図2】図2は、実施例4で得たクロピドグレル硫酸水素酸塩の結晶形Iのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって得られたスペクトル図である。
【図3】図3は、示差走査熱量測定の結果である。
【図4】図4は、実施例5で得た生成物のX線回折図である。
【図5】図5は、実施例6で得た生成物のX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式I:
【化1】

で表される、α−(2−クロロフェニル)−6,7−ジヒドロ−チエノ[3,2−c]ピリジン−5(4H)−酢酸メチルエステル(αS)の硫酸水素酸塩(クロピドグレル硫酸水素酸塩)を、その結晶形Iで製造するための方法であって、前記式Iの化合物を、一級、二級もしくは三級の炭素数1〜5のアルコール類、該アルコール類の炭素数1〜4のカルボン酸とのエステル類、およびそれらの混合物から選択される溶媒中で、遊離塩基又は塩としてクロピドグレルの溶液から分離することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記式Iの化合物を、冷却によってクロピドグレル硫酸水素酸塩の溶液から結晶化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式Iの化合物を、0.6〜1.1当量の硫酸を添加することによって、前記塩基又は塩の溶液から析出させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記式Iの化合物を、炭素数1〜5のアルコール溶液から析出させることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記析出が、2−プロパノール溶液からなされることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記析出を−5〜15℃の温度で行い、前記溶液に結晶形Iの結晶を接種することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
結晶形Iの含有量が少なくとも98%である、請求項6に記載の方法により製造された前記式Iのクロピドグレル硫酸水素酸塩。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−502238(P2006−502238A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−569700(P2004−569700)
【出願日】平成15年8月26日(2003.8.26)
【国際出願番号】PCT/CZ2003/000049
【国際公開番号】WO2004/020443
【国際公開日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(505068952)
【Fターム(参考)】