説明

クロマイト回収方法、並びにニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法

【課題】 ニッケル酸化鉱石の湿式精錬プラントにおいて、原料となるニッケル酸化鉱石を処理して得られる鉱石スラリーから、クロマイトを効率的に回収する方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する際に、ニッケル酸化鉱石から得られた鉱石スラリーからクロマイトを分離回収するクロマイトの回収方法であって、供給される鉱石スラリー中に含有される粒子の粒径差によって、所定の分級点に基づき鉱石スラリーを分離する粒径分離工程と、粒径分離工程において分離されたオーバーサイズの鉱石スラリーを、目標とする分級点に基づいて沈降濃縮し、クロマイトを回収する沈降分離工程とを有し、粒径分離工程において分離されるオーバーサイズの鉱石スラリー中の粗粒子含有率を30〜50%に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマイトの回収方法、並びにニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関し、特に、ニッケル酸化鉱石の湿式精錬プラントにおいて、原料となるニッケル酸化鉱石を処理して得られる鉱石スラリーからクロマイトを効率的に回収するクロマイトの回収方法、並びにそのクロマイトの回収方法を適用したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が注目されている。この方法は、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的・コスト的に有利であるとともに、ニッケル品位を50〜60重量%程度まで向上させたニッケル・コバルト混合硫化物を得ることができるという利点を有している。
【0003】
ニッケル・コバルト混合硫化物を得るための高圧酸浸出法は、例えば図5に例示するように、ニッケル酸化鉱石を解砕分級してスラリー(以下、「鉱石スラリー」ともいう。)とする前処理工程(1)と、得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、220〜280℃で攪拌して浸出スラリーを得る浸出工程(2)と、浸出スラリーを固液分離して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)と浸出残渣とを得る固液分離工程(3)と、得られた粗硫酸ニッケル水溶液に中和剤(例えば、炭酸カルシウム)を添加して不純物を中和する中和工程(4)と、中和した粗硫酸ニッケル水溶液に硫化水素ガスを添加して亜鉛を硫化亜鉛として除去する脱亜鉛工程(5)と、得られた脱亜鉛終液に硫化水素ガスを添加してニッケル・コバルト混合硫化物とニッケル貧液を得る硫化工程(6)と、固液分離工程(3)で発生する浸出残渣、脱亜鉛工程(5)で発生する硫化亜鉛、硫化工程(6)で発生するニッケル貧液等を無害化する無害化工程(7)とを有してなる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この湿式製錬法においては、工程内で取り扱う鉱石スラリー量が多くなればなるほど処理設備が大きくなることから、鉱石スラリー量を少なくする、すなわち高濃度で調整することが必要となる。しかし一方で、その後のパイプライン移送を容易とするためには、粘度を低くする、すなわち低濃度で調整する必要がある。
【0005】
このように、上述した湿式製錬方法においては、設備コストを低くするとともに移送を容易にする、という相反する要請があり、これに対して従来より、鉱石スラリー濃度を10重量%程度に調整して処理を行うことが必要となる。
【0006】
ところで、高圧酸浸出法等の湿式製錬法は、上述した各工程を行うための設備の他、各工程の反応温度制御のための蒸気を得るボイラーや、主として上述の(5)工程及び(6)工程において用いる硫化水素ガスを製造する硫化水素製造設備、さらには用水設備、電力設備、そして各工程を順次連結する送液パイプ等の配管により構成されたプラント設備において行われる。
【0007】
しかしながら、この実用プラントにおいては、以下の問題点がある。すなわち、処理するニッケル酸化鉱石はスラリーとして各工程間を搬送されるが、設備材料の磨耗が著しく促進され、とりわけ浸出工程(2)における配管やポンプ等の設備では補修頻度が高く、メンテナンスコストの上昇とプラント稼働率の低下の大きな原因となっていた。特に、ニッケル酸化鉱石中に含有されるクロマイトは、その粒径が大きく、しかも硬いため、スラリーの搬送を伴う湿式製錬プラントにおいては、配管、ポンプ等の磨耗を著しく助長する成分であり、浸出工程(2)において処理する原料鉱石から除去することが望ましい。
【0008】
これに対し、特許文献2では、鉱石スラリーからクロマイトを回収する方法が提供されている。具体的に特許文献2に記載の技術は、鉱石スラリーを出発原料とし、粒度により物理分離する方法であり、クロマイト粒子とその他粒子を精分離した後、クロマイトを含む粒子を回収する、というものである。この技術は、図6に示すように、鉱石スラリーにおけるクロマイトの粒径が、他の粒子と比較して比較的大きな粒度分布を持ち、特に50〜100μm付近でその差が顕著である、という特徴を利用したものである。
【0009】
しかしながら、この方法では、上述のようにして鉱石スラリー濃度を10重量%程度に調整して処理した場合には、クロマイトを含む目標分級スラリーの回収率としては3割程度しか得られない。すなわち、鉱石スラリー中に含まれる回収すべき粒度の粒子の7割程度は回収されずに、鉱石スラリー中に残ってしまうという問題点がある。なお、目標分級スラリー回収率とは、回収スラリー中の目標分級点以上の粒子重量[g] ÷ 供給スラリー中目標分級点以上の粒子重量[g]、で算出されるものをいう。
【0010】
従来の物理分離方法では、この目標分級スラリー回収率を向上させるために、通常、10重量%の鉱石スラリーを希釈して供給する鉱石スラリー濃度を5重量%まで下げることによって、目標分級スラリーの回収率を向上させるようにしていた。しかしこの場合、鉱石スラリーの希釈に伴い設備の肥大化が必要になってしまうという問題があった。さらにこの場合には、一度希釈された鉱石スラリーを濃縮する必要があり、実操業としては好ましくなかった。
【0011】
鉱石スラリーに含まれるクロマイトは、金属クロムやクロム化合物の原料となるため、資源化が期待されているとともに、上述したように、比重や硬さが他の粒子成分と比較して大きいことから、浸出工程(2)に至るまでの鉱石スラリー輸送設備(配管、ポンプ等)に深刻な磨耗を引き起こす主要因の一つと考えられている。
【0012】
したがって、鉱石スラリー濃度を10重量%程度に調整した場合であっても、クロマイトの回収率を向上させることができる方法が必要とされ、特に、原料となるニッケル酸化鉱石を処理して得られる鉱石スラリーから、クロマイトを効率的に回収する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−350766号公報
【特許文献2】特開2010−095788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式精錬プラントにおいて、原料となるニッケル酸化鉱石を処理して得られる鉱石スラリーから、クロマイトを効率的に回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するために、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法において、ニッケル酸化鉱石をスラリー化した鉱石スラリーからクロマイトの回収率を向上させる方法について鋭意検討を重ねた。その結果、鉱石スラリーに対して粒径分離処理と沈降分離処理とを施すとともに、その粒径分離処理おいて得られる所定の分級点以上のオーバーサイズのスラリーに含まれる粗粒子含有率を所定の割合に調整することにより、供給する鉱石スラリー濃度が10重量%程度であっても、希釈することなく、高い回収率でクロマイトを回収できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明に係るクロマイトの回収方法は、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する際に、ニッケル酸化鉱石から得られた鉱石スラリーからクロマイトを分離回収するクロマイトの回収方法であって、供給される前記鉱石スラリー中に含有される粒子の粒径差によって、所定の分級点に基づき該鉱石スラリーを分離する粒径分離工程と、前記粒径分離工程において分離されたオーバーサイズの鉱石スラリーを、目標とする分級点に基づいて沈降濃縮し、クロマイトを回収する沈降分離工程とを有し、前記粒径分離工程において分離されるオーバーサイズの鉱石スラリー中の粗粒子含有率を30〜50%に調整することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化した鉱石スラリーを、高圧酸浸出設備に移送してニッケル及びコバルトを浸出し、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出液からニッケル及びコバルトを回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記鉱石スラリーを、該鉱石スラリー中に含有される粒子の粒径差によって、所定の分級点に基づき分離する粒径分離工程と、前記粒径分離工程において分離されたオーバーサイズの鉱石スラリーを、目標とする分級点に基づいて沈降濃縮し、クロマイトを回収する沈降分離工程とを有するクロマイト回収工程を含み、前記粒径分離工程において分離されるオーバーサイズの鉱石スラリー中の粗粒子含有率を30〜50%に調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、供給された10重量%程度の鉱石スラリーからのクロマイトの回収率を向上させることができる。そして、これにより、湿式製錬プラントの摩耗等の設備材料に対する負荷を軽減することができ、効率的なニッケル酸化鉱石の湿式製錬を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の工程の一例を表す図である。
【図2】クロマイト回収工程の一例を示す図である。
【図3】ハイメッシュセパレータ滞留時間に対する目標分級スラリー回収率の関係を示すグラフである。
【図4】ハイメッシュセパレータ滞留時間に対する目標分級スラリー回収率の関係を示すグラフである。
【図5】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の工程の一例を表す図である。
【図6】ニッケル酸化鉱石に含まれる各元素の粒度分布と含有率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るクロマイトの回収方法について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。
1.本発明に概要
2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
3.実施例
【0021】
<1.本発明の概要>
本発明に係るクロマイトの回収方法は、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する際に、ニッケル酸化鉱石を解砕処理等してスラリー化して得られた鉱石スラリーからクロマイトを分離回収するものである。このクロマイトの回収方法は、例えば高圧酸浸出法によりニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬法に適用することができ、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーから効果的にクロマイトを回収し、クロマイトによる湿式製錬プラントの摩耗等を防止して効率的な湿式製錬を実現させるものである。
【0022】
具体的に、本発明に係るクロマイトの回収方法は、供給される鉱石スラリー中に含有される粒子の粒径差によって、所定の分級点に基づき鉱石スラリーを分離する粒径分離工程と、粒径分離工程において分離されたオーバーサイズの鉱石スラリーを、目標とする分級点に基づいて沈降濃縮し、クロマイトを回収する沈降分離工程とを有する。このとき、本発明においては、粒径分離工程において分離されるオーバーサイズ側の鉱石スラリー中の粗粒子含有率を30〜50%に調整する。
【0023】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法においては、設備コストを低くするとともに移送を容易にするという要請があることから、鉱石スラリー濃度を10重量%程度に調整して湿式製錬を行っている。しかしながら、鉱石スラリー濃度を10重量%程度にした場合、クロマイトを含む目標分級スラリーの回収率としては3割程度しか回収することができず、クロマイトの回収率としては僅かであった。供給するスラリー濃度を希釈して5重量%程度まで低下させることによって、目標分級スラリーの回収率を向上させることはできるものの、希釈することによって設備の肥大化が生じ、また希釈されたスラリーを濃縮させる必要もあり、効率的な湿式製錬を実現することができなかった。
【0024】
これに対して、本発明によれば、鉱石スラリーに対して粒径分離処理と沈降分離処理とを施すとともに、その粒径分離処理おいて得られる所定の分級点以上のオーバーサイズのスラリーに含まれる粗粒子含有率を所定の割合に調整することにより、供給する鉱石スラリー濃度が10重量%程度であっても、希釈することなく、高い回収率でクロマイトを回収できる。
【0025】
以下では、より具体的に、本発明に係るクロマイトの回収方法を適用したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法(以下、「本実施の形態」という。)を具体例として挙げて、詳細に説明する。
【0026】
<2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法(高温加圧酸浸出法)>
図1は、ニッケル酸化鉱石を高温加圧酸浸出法により製錬する製錬工程の概略を示す図である。図1に示すように、高温加圧酸浸出法による湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石を解砕分級してスラリー(鉱石スラリー)とする前処理工程(ニッケル酸化鉱石処理工程)S1と、前処理工程S1にて産出された鉱石スラリーからクロマイトを回収するクロマイト回収工程S2と、クロマイト回収工程S2から分離された鉱石スラリーに硫酸を添加して浸出スラリーを得る浸出工程S3と、浸出スラリーを固液分離してニッケル及びコバルトを含む浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)と浸出残渣とを得る固液分離工程S4と、得られた粗硫酸ニッケル水溶液に中和剤を添加して不純物を中和する中和工程S5と、中和した粗硫酸ニッケル水溶液に硫化水素ガスを添加して亜鉛を除去する脱亜鉛工程S6と、得られた脱亜鉛終液に硫化水素ガスを添加してニッケル・コバルト混合硫化物とニッケル貧液とを得る硫化工程S7と、固液分離工程S4で発生する浸出残渣、脱亜鉛工程S6で発生する硫化亜鉛、硫化工程S7で発生するニッケル貧液等を無害化する無害化工程S8とを有する。
【0027】
(1)前処理工程(ニッケル酸化鉱石処理工程)
前処理工程S1では、湿式処理するニッケル酸化鉱石を解砕分級して水と混合され、異物除去及び鉱石粒度調整を行って鉱石スラリーを形成する。
【0028】
具体的に、前処理工程S1では、ニッケル酸化鉱石を湿式篩等で篩い分けし、後段の浸出工程S3で浸出できない異物や、ポンプで流送困難な粒度の鉱石等を分離する。ここで、篩分け粒度は、2mm程度、好ましくは1.4mmであり、それ以上の粒度の鉱石は解砕処理される。この解砕−篩分け処理を通過した鉱石によりスラリーが形成され、次いで沈降させて濃縮し、スラリー中の固体濃度(スラリー濃度)を調整した鉱石スラリーを調製する。なお、鉱石スラリーの濃度としては、10質量%程度に調整される。
【0029】
ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が用いられる。ラテライト鉱のニッケル含有量としては、0.8〜2.5重量%であり、ニッケルは水酸化物又は含水ケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄が含水ケイ苦土鉱物等に含有される。また、珪酸分は、石英、クリストバライト(無定形シリカ)等のシリカ鉱物及び含水ケイ苦土鉱物に含有される。また、クロム分の多くは、鉄又はマグネシウムを含むクロマイト鉱物として含有される。また、マグネシア分は、含水ケイ苦土鉱物の他、未風化で硬度が高いニッケルをほとんど含有しないケイ苦土鉱物に含有される。
【0030】
このように、原料となるラテライト鉱には、クロマイト鉱物、シリカ鉱物、ケイ苦土鉱物等の、ニッケルをほとんど含有しない、いわゆる脈石成分が含有されている。そして、この前処理工程S1を経て得られた鉱石スラリー中には、後段の浸出工程S3の配管やポンプ等の設備の磨耗に大きな影響を及ぼすクロマイトやケイ苦土鉱物、並びに浸出工程で硫酸を消費するマグネシウムを含み、しかもニッケル含有量が低いケイ苦土鉱物が含まれることとなる。その中でも、特に、他の粒子と比較して大きな粒度分布を持ち、硬い性質を持つクロマイトによる設備摩耗等の負荷の影響は深刻であり、このため、前処理工程S1で調製する鉱石スラリーから、クロマイトを効率的に分離回収すること望ましい。そこで、本実施の形態においては、浸出工程S3に先立ち、クロマイト回収工程S2として鉱石スラリーからクロマイトを分離回収する。
【0031】
(2)クロマイト回収工程
クロマイト回収工程S2では、前処理工程S1にて産出された鉱石スラリーからクロマイトを物理的に分離して回収する。図2は、クロマイト回収工程S2の工程の一例を示す図である。図2に示されるように、クロマイト回収工程S2は、前処理工程S1から産出された鉱石スラリーを、その鉱石スラリー中に含有される粒子の粒径差によって、所定の分級点に基づいて分離する粒径分離工程S21と、粒径分離工程S21において分離されたオーバーサイズの鉱石スラリーを沈降濃縮してクロマイトを回収する沈降分離工程S22とを有する。
【0032】
なお、このクロマイト回収工程S2は、上述した粒径分離工程S21と沈降分離工程S22の2段で行うことに限られず、粒径分離工程S21を2段以上の複数段(S21,S21,・・・S21)備え、最終の粒径分離工程S21を経て得られた鉱石スラリーを沈降分離工程S22において沈降濃縮させるようにしてもよい。
【0033】
(2−1)粒径分離工程
粒径分離工程S21では、前処理工程S2から産出された鉱石スラリーを分離機に投入し、所定の分級条件によって、アンダーサイズの鉱石スラリー(アンダーフロー)とオーバーサイズの鉱石スラリー(オーバーフロー)とに分離する。この粒径分離工程S21において分離されたアンダーサイズの鉱石スラリーは、図1に示す後段の浸出工程S3に移送され、一方で、オーバーサイズの鉱石スラリーは、後述する沈降分離工程S22に送られる。
【0034】
なお、上述のように、この粒径分離工程S21は複数段有していてもよい。すなわち、粒径分離工程S21において分離機により分離したオーバーサイズの鉱石スラリーを、2段目の分離機に投入して所定の分級条件でアンダーサイズの鉱石スラリーとオーバーサイズの鉱石スラリーとに分離し、そして適宜、この処理を複数段に亘って繰り返してもよい。
【0035】
前処理工程S1を経て得られた鉱石スラリーは、10重量%程度のスラリー濃度で鉱石粒子を含んでおり、その粒径は数μm〜1.4mm程度である。また、組成としては、粒子のうち、70〜80重量%がゲーサイト、10重量%程度がサーペンタイン、5%程度がスメクタイトであり、その他、シリケート、クロマイト等を含む。また、ニッケルは、0.5〜2.0重量%程度含有されている。
【0036】
ここで、本実施の形態においては、粒径分離工程S21において分級されるオーバーサイズ側の粗粒子含有率が30〜50%となるように調整する。このように粗粒子含有率を30〜50%となるように調整することにより、鉱石スラリー濃度が10重量%程度であっても、所定の分級点以上のスラリー(目標分級スラリー)を高い回収率で回収することができ、クロマイトの回収率を向上させることができる。なお、粗粒子含有率とは、全固形量(g)に対する、目標とする所定の分級点(例えば75μm)以上の粒径を持つ粒子量(g)の比率である。
【0037】
粒径分離工程S21における鉱石スラリーの分級処理としては、湿式分級によって処理することが好ましく、分離機としてはハイドロサイクロンを用いることが好ましい。例えば、ハイドロサイクロンを用いた場合、その分級条件としては、入口圧(MPa)、フィードシム開口寸法(mm)、ボルテックスファインダー径(mm)、アペックスバルブ径(mm)等があり、これらの条件を調整することによって分級条件を調整する。以下では具体的に、ハイドロサイクロンを用いて粒径分離工程S21を行う場合を一例として説明を続ける。
【0038】
上述のように、本実施の形態においては、粒径分離工程S21において分級されるオーバーサイズ側の粗粒子含有率を30〜50%となるように調整する。このとき、粗粒子含有率を調整するに際しては、ハイドロサイクロンのアペックスバルブ径を小さくし、分級点を意図的に小さくする。より具体的に、例えば粗粒子含有率を30%に調整する場合には、アペックスバルブ径を48mm程度に変更する。
【0039】
このようにして、ハイドロサイクロンのアペックスバルブ径を小さくして分級点を意図的に小さくし、分離するオーバーサイズ側の粗粒子含有率が30〜50%となったオーバーサイズの鉱石スラリーが、沈降分離工程S22に移送される。
【0040】
(2−2)沈降分離工程
沈降分離工程S22では、粒径分離工程S21において分級された、粗粒子含有率が30〜50%のオーバーサイズの鉱石スラリーを、ハイメッシュセパレータ等の分離機に投入し、設定した目標分級点に基づいて、アンダーサイズの鉱石スラリーとオーバーサイズの鉱石スラリーとに濃縮分離する。この沈降分離工程S22において分離されたアンダーサイズの鉱石スラリーは、図1に示す後段の浸出工程S3に移送され、一方で、オーバーサイズの鉱石スラリーは、クロマイトが濃縮された鉱石スラリーとして回収される。
【0041】
なお、クロマイトが濃縮された鉱石スラリーは、別の工程にて、脱水乾燥処理が行われ、クロマイトが回収される。
【0042】
沈降分離工程S22において設定する目標分級点としては、特に限定されるものではないが、原料鉱石の性状及び細粒部へのニッケル収率等も考慮すると、20〜300μmとし、クロマイトを特異的に分離可能であるという観点から50〜100μmとすることがより好ましい。目標分級点を20μm未満の場合には、クロマイトを濃縮分離することができずクロマイトの回収率を向上させることができないとともに鉱石スラリー中のニッケルがロスする可能性がある。一方で、目標分級点を300μmより大きくすると、クロマイト分離が不十分となる。
【0043】
本実施の形態においては、前段の粒径分離工程S21においてオーバーサイズ側の鉱石スラリーの粗粒子含有率を30〜50%に調整し、その鉱石スラリーをこの沈降分離工程S22にて分離するようにしているので、10重量%程度のスラリー濃度においても高い回収率で目標分級スラリーを回収することができる。また、本実施の形態では、目標分級点を従来と比較して小さくしても、高い回収率で目標分級スラリーを回収することができる。そして、このようにして高い回収率で回収したスラリーからは、クロマイトを効果的に回収することができ、その回収率を向上させることができる。特に、分級点を50〜100μmとすることによって、より一層に特異的にクロマイトを濃縮分離することが可能となり、クロマイトの回収率を大幅に向上させることができる。
【0044】
具体的には、前処理工程S1からの供給スラリー濃度が10重量%の条件下において、上述したように粒径分離工程S21においてオーバーサイズ側の鉱石スラリーの粗粒子含有率を30〜50%に調整することで、目標分級スラリーの回収率を約8割とすることができ、従来の目標分級スラリー回収率が約3割であったのに比べて大幅に向上させることができる。そして、目標分級スラリーの回収率が約8割となることは、クロマイト回収率に換算すると約4割に相当し、従来のクロマイト回収率の約1.5割に比べて大幅に向上させることができる。
【0045】
以上のように、本実施の形態においては、前処理工程S1の後にクロマイト回収工程S2として粒径分離工程S21と沈降分離工程S22とを有し、粒径分離工程S21において粗粒子含有率が30〜50%となるように調整することによって、スラリー濃度が10重量%程度の鉱石スラリーでも、高い回収率で目標分級スラリーを回収することができ、クロマイトの回収率を向上させることができる。
【0046】
そして、本実施の形態においては、このようなクロマイトの回収率を向上させたクロマイト回収工程S2を経て得られた鉱石スラリーを浸出工程S3に移送するようにしているので、鉱石スラリー中のクロマイトによって輸送設備に摩耗を引き起こす等の問題を防止することができ、効率的かつ効果的なニッケル酸化鉱石の湿式製錬処理を実現することができる。
【0047】
また、クロマイトの回収率を向上できることにより、そのクロマイトから金属クロムやクロム化合物の原料を有効に回収することができ、効果的な資源化を実現することができる。
【0048】
(3)浸出工程
浸出工程S3では、クロマイト回収工程S2の粒径分離工程S21にて分離されたアンダーサイズの鉱石スラリーと沈降分離工程S22にて分離された所定の分級点以下の鉱石スラリーが移送され、これら鉱石スラリーに硫酸を添加し、200℃以上の高温高圧下で浸出させて、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
【0049】
浸出工程S3における高温加圧酸浸出の方法としては、特に限定されるものではなく、例えば以下の方法で行われる。すなわち、先ず、移送された鉱石スラリーに硫酸を添加し、さらに酸化剤として高圧空気及び加熱源として高圧水蒸気を吹き込み、所定の圧力及び温度下に制御しながら撹拌して、浸出残渣と浸出液からなる浸出スラリーを形成し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る。
【0050】
浸出工程S3においては、下記の式(I)〜(V)で表される浸出反応と高温加水分解反応とによって、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は、完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等のほかに2価と3価の鉄イオンが含まれる。
【0051】
《浸出反応》
MO+HSO ⇒ MSO+HO ・・・・・・・・・・・・・・・(I)
(式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す。)
2FeOOH+3HSO ⇒ Fe(SO+4HO ・・・・(II)
FeO+HSO ⇒ FeSO+HO ・・・・・・・・・・・・・(III)
《高温加水分解反応》
2FeSO+HSO+1/2O ⇒ Fe(SO+HO ・(IV)
Fe(SO+3HO⇒ Fe+3HSO ・・・・・・・(V)
【0052】
ここで、浸出操作は、所定温度により形成される加圧下、例えば3〜6MPaGで行われ、これらの条件に対応可能な高温加圧容器(オートクレーブ)等が用いられる。これにより、ニッケルとコバルトの浸出率を、いずれも90%以上、好ましくは95%以上とすることができる。
【0053】
また、浸出工程S3における操作温度は、特に限定されるものではないが、220〜280℃とすることが好ましく、240〜270℃とすることがより好ましい。温度を220〜280℃の範囲とすることにより、鉄はヘマタイトとして大部分が固定されることとなる。一方、温度を220℃未満とした場合には、高温熱加水分解反応の速度が遅いため反応溶液中に鉄が溶存して残り、鉄を除去するための後段の中和工程S5における負荷が増加し、ニッケルとの分離が非常に困難となる。また、温度を280℃より高くした場合には、高温熱加水分解反応自体は促進されるものの、高温加圧浸出に用いる容器の材質の選定が難しくなり、温度上昇にかかる蒸気コストが上昇する可能性があり好ましくない。
【0054】
また、浸出工程S3で用いる硫酸量は、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるように過剰量とすることが好ましい。例えば、鉱石1トン当り200〜500kgとすることが好ましい。鉱石1トンあたり硫酸添加量が500kgを超えると、硫酸コストが大きくなるため好ましくない。
【0055】
なお、得られる浸出液のpHは、固液分離工程S4を経て産出されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性から、0.1〜1.0に調整することが好ましい。
【0056】
以上のようにして、浸出工程S3では、その残渣部分の大部分がヘマタイトである浸出スラリーが生成する。この浸出スラリーは、次に固液分離工程S4に送られる。
【0057】
(4)固液分離工程
固液分離工程S4では、浸出工程S3で形成される浸出スラリーを多段洗浄し、ニッケル及びコバルトのほか亜鉛を含有する浸出液と、浸出残渣とを得る。これによって、浸出残渣に付着して廃棄されるニッケル等を浸出液中に回収する。
【0058】
この固液分離工程S4では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナーで固液分離を行う。具体的には、先ず、浸出スラリーを洗浄液により希釈し、次に浸出残渣をシックナーの沈降物として濃縮して、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合に応じて減少させる。実操業では、このような機能を持つシックナーを多段に連結させて用いる。
【0059】
固液分離工程S4における多段洗浄としては、特に限定されるものではないが、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させる連続交流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)が好ましい。これによって、系内に新たに導入する洗浄液を削減するとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上とすることができる。
【0060】
固液分離工程S4において用いる洗浄液としては、特に限定されるものではないが、ニッケルを含まず、この工程に影響を及ぼさないものが好ましく、その中でもpHが1〜3であるものが好ましい。また、洗浄液は、繰り返して使用することが好ましい。
【0061】
沈降後残渣の固体率は、特に限定されるものではなく、30〜50重量%が好ましい。すなわち、固体率が30重量%未満では、付着水分が多くニッケルのロスが大きくなる。一方、固体率が50重量%を超えると、攪拌や送液が困難になる。
【0062】
(5)中和工程
中和工程S5では、固液分離工程S4にて生成した、ニッケル及びコバルトとともに不純物元素を含有する浸出液の酸化を抑制しながらpHを調整し、3価の鉄を含む中和澱物スラリーと、不純物の大部分を除去した硫化反応始液である粗硫酸ニッケル溶液等の硫酸塩溶液とを生成する。これによって、浸出工程S3で用いた過剰の酸の中和を行うとともに、溶液中に残留する3価の鉄イオンの除去を行う。
【0063】
中和工程S5におけるpH条件は、4以下とすることが好ましく、3.2〜3.8とすることがより好ましい。pHが4を超えると、ニッケルの水酸化物の発生が多くなる。
【0064】
また、中和工程S5では、溶液中に残留する3価の鉄イオンを除去するに際し、溶液中に2価として存在する鉄イオンを酸化させないことが好ましく、空気の吹込み、巻き込み等による溶液の酸化を防止することが好ましい。
【0065】
また、中和工程S5における温度は、50〜80℃とすることが好ましい。温度条件を50℃未満とした場合には、澱物が微細となり、固液分離に悪影響を及ぼす。一方、温度条件を80℃より高くした場合には、装置材料の耐食性の低下や加熱のためのエネルギーコストの増大を招く。
【0066】
(6)脱亜鉛工程
脱亜鉛工程S6では、ニッケル及びコバルトを硫化物として分離する硫化工程S7に先立って、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素として亜鉛を含有する硫酸塩溶液に硫化水素ガスを吹きこみ、亜鉛を含む硫化物を生成し、硫化亜鉛殿物スラリーとニッケル及びコバルト回収用の母液を形成する。
【0067】
具体的に、脱亜鉛工程S6では、中和工程S5にて生成された、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素として亜鉛を含有する硫酸塩溶液を硫化反応槽内に導入し、硫化反応槽内に硫化水素ガスを添加して、硫酸塩溶液中に含有される亜鉛を硫化する(硫化反応)。その後、固液分離して形成された亜鉛硫化物と脱亜鉛終液とを得る。
【0068】
この脱亜鉛工程S6は、続く硫化工程S7により回収するニッケル・コバルト混合硫化物への亜鉛の混入を防止するために行われるものである。したがって、この脱亜鉛工程S6における硫化反応の条件としては、硫化反応によりニッケル及びコバルトに対して亜鉛が優先的に硫化される条件とすることが好ましい。具体的には、硫化反応の際に、弱い反応条件を作り出して硫化反応速度を抑制し、亜鉛と比較して濃度が高いニッケルの共沈を抑制することにより、亜鉛を選択的に除去する。
【0069】
なお、粗硫酸ニッケル水溶液中に含有される亜鉛量が、後工程で生成されるニッケル・コバルト混合硫化物への混入によりその品質に問題とならない程度に少ない場合には、この脱亜鉛工程S6を省略してもよい。
【0070】
(7)硫化工程
硫化工程S7では、脱亜鉛工程S6で得られたニッケル及びコバルト回収用の母液(脱亜鉛終液)に、硫化水素ガスを添加して母液中のニッケル及びコバルトを硫化し、ニッケル・コバルト混合硫化物とニッケル貧液(製錬廃液)とを得る。
【0071】
この硫化工程S7においては、必要に応じて、製造されたニッケル及びコバルトを含む硫化物からなる種晶を、硫化反応槽内に投入することができる。
【0072】
(8)無害化工程
無害化工程S8では、固液分離工程S4で発生する浸出残渣、脱亜鉛工程S6で発生する硫化亜鉛、硫化工程S7で発生するニッケル貧液等を無害化する。
【0073】
この無害化工程S8に送られるニッケル貧液等は、回収ロスであるニッケル及びコバルトを僅かに含有しているので、この無害化工程S8にて無害化された後に、再度ニッケル及びコバルトの回収原料として、また浸出残渣や中和工程で産出される中和残渣の洗浄液として再利用することができる。
【0074】
<3.実施例>
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
本実施例では、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法においてニッケル酸化鉱石を解砕処理して得られた鉱石スラリーを用い、以下のクロマイト回収方法によって鉱石スラリーからクロマイトを回収した。なお、下記の実施例で用いた金属の分析は、蛍光X線分析法又はICP発光分析法で行った。
【0076】
〔実施例1〕
実施例1では、ニッケル酸化鉱石を1.4mm以下に解砕して得られた鉱石スラリーを、スラリー濃度が10重量%となるように調整し、先ず、定格の分級点が50μmであるハイドロサイクロン(MD−9型 アタカ大機株式会社製)を用いて粒径差に基づく粒径分離処理を行い、アンダーサイズの鉱石スラリー(アンダーフロー)とオーバーサイズの鉱石スラリー(オーバーフロー)とに分離した。このとき、ハイドロサイクロンの分級条件を表1に示すようにしてオーバーフローにおける粗粒子含有率が30%となるようにした。
【0077】
次に、粒径分離処理によって得られた粗粒子含有率が30%のオーバーフローを、ハイメッシュセパレータ(KUC−612S型 株式会社氣工社製)を用いて沈降濃縮する沈降分離処理を行い、スラリーに含まれるクロマイトを回収した。なお、表1に示すようにハイメッシュセパレータの目標分級点は75μmに設定した。
【0078】
〔実施例2〕
実施例2では、ハイドロサイクロンの分級条件を表1に示すようにして、粒径分離処理により得られたオーバーフローにおける粗粒子含有率を48%としたこと以外は、実施例1と同様にしてクロマイトを回収した。
【0079】
【表1】

【0080】
(実施例1の測定結果)
下記表2に、実施例1における粒径分離処理及び沈降分離処理を経て得られた目標分級(+75μm)スラリーの回収率、並びにクロム回収率の測定結果を示す。また、図3に示すグラフに、ハイメッシュセパレータの滞留時間に対する目標分級スラリーの回収率(%)の推移を示す(グラフ中の黒抜き「□」で示す。)。なお、この図3のグラフには、後述する比較例3(粗粒子含有率10%)の結果(グラフ中の白抜き「◇」で示す。)を併せて示す。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示されるように、粒径分離工程における分級条件、特にアペックスバルブ径を調整し、オーバーフローにおける粗粒子含有率を30%とすることにより、目標分級スラリーの回収率を78.0%とすることができ、またクロマイトの回収率についても40%とすることができた。
【0083】
また、図3に示されるように、この実施例1では、従来と同様に粒径分離処理後のオーバーフロー中の粗粒子含有率を10%とした比較例と比べても、目標分級スラリーの回収率は大幅に向上されていることが分かる。
【0084】
(実施例2の測定結果)
下記表3に、実施例2における粒径分離処理及び沈降分離処理を経て得られた目標分級(+75μm)スラリーの回収率、並びにクロム回収率の測定結果を示す。
【0085】
【表3】

【0086】
表3に示されるように、実施例2においても、粒径分離工程における分級条件、特にアペックスバルブ径を調整し、オーバーフローにおける粗粒子含有率を48%とすることにより、目標分級スラリーの回収率を77.4%とすることができ、またクロマイトの回収率についても29%とすることができた。
【0087】
〔比較例1〜3〕
比較例として、ニッケル酸化鉱石を1.4mm以下に解砕して得られた鉱石スラリーを、スラリー濃度がそれぞれ3重量%(比較例1)、5重量%(比較例2)、10重量%(比較例3)となるように調整し、実施例1と同様にハイドロサイクロンによる粒径分離処理及びハイメッシュセパレータにより沈降分離処理を行った。
【0088】
このとき、比較例1〜3においては、粒径分離処理におけるハイドロサイクロンの分級条件を、下記表4に示す従来と同様の条件とし、オーバーフローの粗粒子含有率を10%となるように調整して行った。
【0089】
【表4】

【0090】
(比較例1〜3の測定結果)
図4に、比較例1〜3の結果として、ハイメッシュセパレータ滞留時間(min)に対する目標分級(+75μm)スラリーの回収率(%)の推移を示す。
【0091】
図4に示されるように、供給するスラリー濃度が3重量%や5重量%の場合では、滞留時間が長い、すなわち供給スラリー流量が小さい条件下においては、約7〜8割程度のスラリー回収率となったものの、供給するスラリー濃度を10重量%にした場合には、スラリー流量がいずれの場合であっても、目標分級スラリーの回収率は3割程度にしか至らず、クロマイトの回収率に換算すると1.5割程度しか回収できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明に係るクロマイトの回収方法は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して得られた、スラリー濃度が10重量%程度の鉱石スラリーから、クロマイトの回収率を大幅に向上させることができる。そして、これをニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に適用することにより、浸出工程等の各湿式製錬工程に鉱石スラリーを移送させるに際して、配管やポンプ等の輸送設備に摩耗が生じることを効果的に防止し、効率的なニッケル酸化鉱石の湿式製錬を実現することが可能となり、その工業的価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する際に、ニッケル酸化鉱石から得られた鉱石スラリーからクロマイトを分離回収するクロマイトの回収方法であって、
供給される前記鉱石スラリー中に含有される粒子の粒径差によって、所定の分級点に基づき該鉱石スラリーを分離する粒径分離工程と、
前記粒径分離工程において分離されたオーバーサイズの鉱石スラリーを、目標とする分級点に基づいて沈降濃縮し、クロマイトを回収する沈降分離工程とを有し、
前記粒径分離工程において分離されるオーバーサイズの鉱石スラリー中の粗粒子含有率を30〜50%に調整することを特徴とするクロマイトの回収方法。
【請求項2】
前記粒径分離工程に供給される前記鉱石スラリーの濃度は、10重量%であることを特徴とする請求項1記載のクロマイトの回収方法。
【請求項3】
ニッケル酸化鉱石をスラリー化した鉱石スラリーを、高圧酸浸出設備に移送してニッケル及びコバルトを浸出し、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出液からニッケル及びコバルトを回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記鉱石スラリーを、該鉱石スラリー中に含有される粒子の粒径差によって、所定の分級点に基づき分離する粒径分離工程と、
前記粒径分離工程において分離されたオーバーサイズの鉱石スラリーを、目標とする分級点に基づいて沈降濃縮し、クロマイトを回収する沈降分離工程と
を有するクロマイト回収工程を含み、
前記粒径分離工程において分離されるオーバーサイズの鉱石スラリー中の粗粒子含有率を30〜50%に調整することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−107289(P2012−107289A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256720(P2010−256720)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】