説明

クロマトグラフィー定量測定方法

【課題】操作性のよいクロマトグラフィー定量測定方法を提供する。
【解決手段】被検査溶液を展開する展開層と、展開層の一部に被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、展開層の他の一部に被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、展開層から試薬固定化部、及び標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、信号から定量的に被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定する方法において、被検査溶液を添加したクロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部に、光ビームを照射して得られる検出信号から、被検査溶液の添加量不足、及びクロマトグラフィー試験片の展開不良を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィー定量測定方法に関し、特に光学的な信号検出を行って分析対象物の濃度測定を行うクロマトグラフィー定量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、従来のクロマトグラフィー定量測定装置について説明する。
【0003】
図11は従来のクロマトグラフィー定量測定装置の概略構成図である。図11(a)は、分光光度計を用いた測定装置の概略構成図であり、図11(b)は、クロマトグラフィー試験片の構成図である。
【0004】
図11(a)において、ランプ1から出射された光ビーム33は反射板2を介して回折格子3に入射される。回折格子3に入射された光ビーム33は光波長が選択され、さらに開口部4により光ビーム33が絞られた後、ガラス板5に入射される。ガラス板5を反射した光ビーム33は参照光6として第1の光電子増倍管7で受光される。一方、ガラス板5を透過した光ビーム33はクロマトグラフィー試験片8の一部に照射し、クロマトグラフィー試験片8からの散乱光9を第2の光電子増倍管10で受光する。第1の光電子増倍管7と第2の光電子増倍管10の出力信号はそれぞれLog変換され、第1の光電子増倍管7のLog変換値から、第2の光電子増倍管10のLog変換値を減算して吸光度信号として出力する。
【0005】
クロマトグラフィー試験片8は図11(b)に示すように、被検査溶液を添加する被検査溶液添加部11と、被検査溶液を展開するための展開層14と、展開層14の一部に被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部13と、展開層14の他の一部に、被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部12と、展開層14から試薬固定化部13、及び標識試薬保持部12を除いた部分である生地部15から構成されている。
【0006】
このように構成されたクロマトグラフィー定量測定装置について、その動作を図11を用いて説明する。
【0007】
まず、被検査溶液添加部11に被検査溶液が添加されると、展開層14に被検査溶液が展開される。この時、標識試薬保持部12に被検査溶液が達すると、標識試薬を溶出しながら、被検査溶液中に含まれる分析対象物と特異的に結合する。続いて、この結合物が試薬固定化部13において固定化され、また固定化されない残りの標識試薬は、固定化されずに展開層14の下流側に流出する。
【0008】
そこで被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するには、クロマトグラフィー試験片8の試薬固定化部13と生地部15を分光光度計により、生地部15の吸光度から、試薬固定化部13の吸光度を減算して吸光度信号を検出し、既知の検量線から換算することによって、分析対象物の濃度を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−240591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来のクロマトグラフィー定量測定装置においては、クロマトグラフィー試験片8の試薬固定化部13では、被検査溶液が展開層14をゆっくりと展開するために、検出信号の値が時間とともに徐々に変化することとなる。つまり、より安定な測定結果を得るためには、測定を行う時間を管理することが重要であるので、従来のような分光光度計を使用しての測定では、時間を管理する機能がないために、測定者がわざわざ手動で時間管理を行う必要があり、測定作業が面倒となる課題を有していた。
【0011】
また、被検査溶液やクロマトグラフィー試験片8の状態によっては、正常な測定を妨げる試験片が存在する場合があり、従来のような分光光度計を使用しての測定では、被検査溶液やクロマトグラフィー試験片8の状態を検知する機能がないために、測定者はわざわざ手動で良否を判定する必要があり、測定作業が面倒となる課題を有していた。
【0012】
また、クロマトグラフィー試験片8の標識試薬保持部12には、溶出後にも標識試薬が残留するため、定量測定の精度を向上させるためには、残留標識試薬の影響を低減する必要がある。しかしながら、従来の分光光度計を使用しての測定では、残留標識試薬を識別する機能がないために、測定者がわざわざ手動で識別する必要があり、測定作業が面倒となる課題を有していた。
【0013】
本発明は、かかる問題点を解消するためになされたものであり、測定までの時間管理、及び試験片の状態の良否、定量測定の補正を自動的に行い、装置の操作性を容易にしたクロマトグラフィー定量測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、本発明のクロマトグラフィー定量測定方法は、被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、前記被検査溶液を添加した前記クロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部に、光ビームを照射して得られる検出信号から、被検査溶液の添加量不足、及び前記クロマトグラフィー試験片の展開不良を判定する工程を含むことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記光ビームは、クロマトグラフィー試験片上の生地部の上流側端部から下流側端部まで走査することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、前記クロマトグラフィー試験片に被検査溶液を添加する工程と、前記被検査溶液の展開を任意の場所で検知してから一定時間後に、前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度測定を行う工程とを含むようにしたので、測定者が手動でわざわざ時間管理をする必要がなくなる。
【0017】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記被検査溶液の展開の検知は、標識試薬の溶出により発生する、検出信号の変化の検知によって行うようにしたので、測定者が手動でわざわざ時間管理をする必要がなくなる。また、標識試薬の溶出を検知して測定を行うので、既に標識試薬が溶出している使用済み試験片との識別が可能となる。
【0018】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記クロマトグラフィー試験片に被検査溶液を添加し、前記被検査溶液の展開を、前記標識試薬保持部から前記試薬固定化部までの領域で検知するようにしたので、測定者が手動でわざわざ時間管理をする必要がなくなる。また、標識試薬の溶出を検知して測定を行うので、既に標識試薬が溶出している使用済み試験片との識別が可能となる。
【0019】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、温度、及び湿度のうち少なくとも一方を監視して、分析対象物の濃度測定が行われるあらかじめ設定された一定時間を補正するようにしたので、周囲の温度、及び湿度が、クロマトグラフィー試験片上における、被検査溶液の展開速度の変化に与える影響を小さくすることができる。
【0020】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、被検査溶液の展開を検知する間、前記光源の点灯と消灯を交互に繰り返すようにしたので、クロマトグラフィー試験片へのレーザ光照射部の温度上昇に伴う、クロマトグラフィー試験片の性能悪化を防ぐことができる。
【0021】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記光源は、被検査溶液の展開の検知を行う直前まで消灯しておくようにしたので、クロマトグラフィー試験片へのレーザ光照射部の温度上昇に伴う、クロマトグラフィー試験片の性能悪化を防ぐことができる。
【0022】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、被検査溶液の展開を検知する間、光源の出力を分析対象物の濃度測定時よりも小さくするようにしたので、クロマトグラフィー試験片へのレーザ光照射部の温度上昇に伴う、クロマトグラフィー試験片の性能悪化を防ぐことができる。
【0023】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、前記クロマトグラフィー試験片に被検査溶液を添加する工程と、前記被検査溶液添加後の展開速度を検出し、前記展開速度から前記クロマトグラフィー試験片の性能の良否を判定する工程とを含むようにしたので、クロマトグラフィー試験片の目詰まり異常等の不良判別を行うことができる。
【0024】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記展開速度は、前記クロマトグラフィー試験片への被検査溶液の展開に伴う標識試薬の流出により発生する、検出信号の値の時間変化を検知して算出するようにしたので、クロマトグラフィー試験片の目詰まり異常等の不良判別を行うことができる。
【0025】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記展開速度は、前記クロマトグラフィー試験片への被検査溶液の展開に伴う標識試薬の溶出により発生する、検出信号の上昇値が一定に保つように光ビームを走査させ、前記光ビームの走査速度から算出するようにしたので、クロマトグラフィー試験片の目詰まり異常等の不良判別を行うことができる。
【0026】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記クロマトグラフィー試験片への被検査溶液の展開時における、周囲の温度、及び湿度のうちから少なくとも一方を測定した結果から、前記クロマトグラフィー試験片の性能の良否を判定する、展開速度の判別値を補正するようにしたので、温度や湿度の影響による良否の誤判定を防ぐことができる。
【0027】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、前記被検査溶液を添加した前記クロマトグラフィー試験片上の生地部における検出信号から、被検査溶液の種類を判別する工程を含むようにしたので、クロマトグラフィー試験片に添加された、被検査溶液の種類を判別することができる。
【0028】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、検出信号を測定する生地部は、試薬固定化部より展開方向の下流側としたので、試薬固定化部の下流側生地部と比較して、上流側の生地部で残留しやすい標識試薬の影響による、被検査溶液の種類の誤判別を抑えることができる。
【0029】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記被検査溶液に適合した検量線をあらかじめ選択できるようにしたので、複数種類の被検査溶液を測定する場合、使用者がわざわざ手動で被検査溶液の種類を装置に入力する必要がなく、自動による測定が可能となる。
【0030】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、前記被検査溶液を添加した前記クロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部に、光ビームを照射して得られる検出信号から、被検査溶液の添加量不足、及び前記クロマトグラフィー試験片の展開不良を判定する工程を含むようにしたので、クロマトグラフィー試験片に添加された被検査溶液の添加量不足や、目詰まりなどで発生する、クロマトグラフィー試験片の展開不良を検知することができる。
【0031】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記光ビームは、クロマトグラフィー試験片上の生地部の上流側端部から下流側端部まで走査するようにしたので、被検査溶液の添加量不足やクロマトグラフィー試験片の展開不良を検知するために、新たな光源を必要とせず、機能追加に伴う装置の大型化や価格増加を抑えることができる作用を有する。
【0032】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、前記試薬固定化部より展開方向の下流側で、かつ前記試薬固定化部の影響がない位置での検出信号を基準値としたときの、試薬固定化部での検出信号を、前記濃度測定の検出信号とする工程を含むようにしたので、試薬固定化部の下流側生地部と比較して、上流側生地部で残留しやすい標識試薬による、吸光度測定誤差の影響を抑えることができる。
【0033】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記濃度測定の検出信号は、前記試薬固定化部の極値前後の値の平均値とし、前記基準値となる検出信号は、前記試薬固定化部より被検査溶液の展開方向の下流側で、かつ前記試薬固定化部の影響がない位置前後の値の平均値とするようにしたので、検出信号に、偶々電気的ノイズが付加されたときでも、分析対象物の濃度を求める演算結果への影響を、小さくすることが可能である。
【0034】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記濃度測定の検出信号は、前記試薬固定化部の極値前後の値の中間値とし、前記基準値となる検出信号は、前記試薬固定化部より被検査溶液の展開方向の下流側で、かつ前記試薬固定化部の影響がない位置前後の値の中間値とするようにしたので、吸光度信号に偶々電気的ノイズが付加されたときでも、分析対象物の濃度を求める演算結果への影響を、平均値を用いた場合よりも更に小さくすることができる。
【0035】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記試薬固定化部における検出信号の極値前後の値を比較し、差が判別値を超える場合、前記クロマトグラフィー試験片の性能不良と判定するようにしたので、試薬固定化部における標識試薬の固定化ムラや、クロマトグラフィー試験片の表面上のキズ等に伴う、誤った測定を避けることができる。
【0036】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記試薬固定化部より展開方向の下流側で、前記試薬固定化部の影響がない位置前後の値を比較し、差が判別値を超える場合、前記クロマトグラフィー試験片の性能不良と判定するようにしたので、生地部における目詰まりによる被検査溶液の展開ムラや、クロマトグラフィー試験片の表面上のキズ等に伴う、誤った測定を避けることができる。
【0037】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、濃度測定時は前記クロマトグラフィー試験片上の標識試薬保持部を除いて測定を行う工程を含むようにしたので、標識試薬保持部における吸光度測定値が含まれないため、吸光度ピーク位置の誤認識が発生せず、正常な分析対象物の濃度検出が可能となる。
【0038】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、前記クロマトグラフィー試験片上の検出信号の値が平坦となる領域は、標識試薬保持部の領域と見なすようにしたので、吸光度ピーク位置の誤認識が発生せず、正常な分析対象物の濃度検出が可能となる。
【0039】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、クロマトグラフィー試験片上の検出信号の値が平坦となる領域の幅を算出し、前記幅を規定の標識試薬保持部の幅と比較するようにしたので、標識試薬の保持量を確認することができ、クロマトグラフィー試験片の性能不良を判別できる。
【0040】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、クロマトグラフィー試験片上の検出信号が平坦となる値を検知し、前記値から残留標識試薬の量を確認するようにしたので、標識試薬が正常に流れたかどうかの確認を行うことができる。
【0041】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、検出信号の立ち上がりと立ち下がりを認識して、前記検出信号の極値を求める工程を含むようにしたので、吸光度ピーク位置の誤認識が発生せず、正常な分析対象物の濃度検出が可能となる。
【0042】
また、本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、前記クロマトグラフィー定量測定方法において、前記検出信号の立ち上がりと立ち下がりを認識して、前記立ち上がりと立ち下がりの間の間隔を算出し、前記間隔の大きさを、規定の試薬固定化部の幅と比較するようにしたので、試薬固定化部の幅が確認できる。従って、クロマトグラフィー試験片の性能不良の判別が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態1におけるクロマトグラフィー定量測定装置の概略構成図
【図2】本発明の実施の形態1における被検査溶液の展開に伴う吸光度の変化の図
【図3】本発明の実施の形態2における待機状態での吸光度変化の図
【図4】本発明の実施の形態3における被検査溶液の相異によるクロマトグラフィー試験片の吸光度測定結果の図
【図5】本発明の実施の形態4におけるクロマトグラフィー試験片の被検査溶液の展開を示す図
【図6】本発明の実施の形態5におけるクロマトグラフィー試験片の吸光度差測定を示す図
【図7】本発明の実施の形態6におけるクロマトグラフィー試験片の吸光度信号の電気的ノイズを示す図
【図8】本発明の実施の形態7におけるクロマトグラフィー試験片の吸光度信号の光学的ノイズを示す図
【図9】本発明の実施の形態8におけるクロマトグラフィー試験片の標識試薬保持部を含んだ吸光度を示す図
【図10】本発明の実施の形態9におけるクロマトグラフィー試験片の吸光度ピーク値検出方法を示す図
【図11】従来のクロマトグラフィー試験装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0045】
(実施の形態1(参考例))
以下、本発明の実施の形態1について、図1と図2を用いて説明する。
【0046】
図1は本発明の実施の形態1によるクロマトグラフィー定量測定装置の概略構成図である。図1(a)は分光光度計を用いた測定装置の概略構成図であり、図1(b)はクロマトグラフィー試験片の構成図である。
【0047】
図1(a)において、半導体レーザ17から出射された光は、コリメートレンズ18を通過することによって平行ビームに変換される。この平行ビームは、開口部4を通過してビームスプリッタ19に入射される。ここで、ビームスプリッタ19で反射された一部の光ビームは、参照光6として第1のフォトダイオード20で受光される。一方、ビームスプリッタ19を透過した残りの光ビームは、シリンドリカルレンズ21によってクロマトグラフィー試験片8の長辺方向のみが集光され、楕円ビーム16としてクロマトグラフィー試験片8上に照射される。さらにこのクロマトグラフィー試験片8の表面からは散乱光9が発生し、第2のフォトダイオード22で受光される。
【0048】
次に、参照光6を受光した第1のフォトダイオード20と、散乱光9を受光した第2のフォトダイオード22の出力をそれぞれLog変換し、第1のフォトダイオード20のLog変換値から、第2のフォトダイオード22のLog変換値を減算して吸光度信号として出力する。
【0049】
クロマトグラフィー試験片8は図1(b)に示すように、被検査溶液を添加する被検査溶液添加部11と、被検査溶液を展開するための展開層14と、展開層14の一部に被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部13と、展開層14の他の一部に、被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部12と、展開層14から試薬固定化部13、及び標識試薬保持部12を除いた部分である生地部15から構成されている。
【0050】
このように構成されたクロマトグラフィー定量測定装置について、その動作を図1を用いて説明する。
【0051】
まず、被検査溶液添加部11に被検査溶液が添加されると、展開層14に被検査溶液が展開される。この時、標識試薬保持部12に被検査溶液が達すると、標識試薬を溶出しながら、被検査溶液中に含まれる分析対象物と特異的に結合する。続いて、この結合物が試薬固定化部13において固定化され、また固定化されない残りの標識試薬は、固定化されずに展開層14の下流側に流出する。
【0052】
被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度は、クロマトグラフィー試験片8の試薬固定化部13と生地部15の吸光度信号の差を検出し、既知の検量線から換算することによって求めることができる。
【0053】
ここで、クロマトグラフィー試験片8を長辺方向に走査することにより、単独の光ビームによって、生地部15と試薬固定化部13の吸光度信号の差が測定可能となっている。また光ビームを楕円とすることによって、クロマトグラフィー試験片8の短辺方向の位置によるムラの影響が緩和されている。
【0054】
次に吸光度測定について説明する。
【0055】
図2は、本発明の実施の形態1によるクロマトグラフィー試験片の吸光度測定を示す図である。図2(a)は、クロマトグラフィー試験片上における被検査溶液の展開の状態と光ビームの照射位置を示している。また、図2(b)は、測定時間に対する吸光度信号の変化を示している。
【0056】
クロマトグラフィー試験片8を測定装置に取り付けて、被検査溶液23を被検査溶液添加部11に添加する。次に被検査溶液23の展開に伴い、被検査溶液23中に含まれる分析対象物が、溶出した標識試薬と結合しながら押し流され、試薬固定化部13において結合物が固定化される。光ビーム16を試薬固定化部13上に連続照射した状態で吸光度測定を行うと、吸光度信号24は、標識試薬の通過により急激に上昇と下降を行った後、徐々に上昇し、被検査溶液の乾燥に伴って、再度、徐々に低下する。
【0057】
そこで、吸光度測定の誤差を抑えるために、光ビーム16を標識試薬保持部12から試薬固定化部13までの間で照射した状態で待機させておき、被検査溶液の展開、あるいは標識試薬の溶出による吸光度の変化を検知し、この検知から一定時間経過後に自動的に測定を開始した。
【0058】
また、上述した一定時間は、測定装置周囲の温度、及び湿度により、被検査溶液の展開速度に影響を及ぼす恐れがある。そこで、被検査溶液の展開に伴なう標識試薬の溶出から、分析対象物の濃度測定が行われるまで、温度、及び湿度をモニタして一定時間の補正を行った。また、光ビームの動作は被検査溶液の展開を検知する間、光ビームの点灯と消灯を交互に繰り返すこととした。あるいは、被検査溶液の展開を検知する時間を予測し、予想到達時間の直前までの間、光ビームを消灯することとした。あるいは、被検査溶液の展開を検知する間、光ビームの出力を測定時よりも低くなるように設定した。
【0059】
このように、本実施の形態1によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、クロマトグラフィー試験片に被検査溶液を添加し、被検査溶液の展開を検知してから一定時間後に、被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度測定を行ったので、測定者が手動でわざわざ時間管理をする必要がなくなる。また、標識試薬の溶出を検知して測定を行うので、既に標識試薬が溶出している使用済み試験片との識別が可能となる。
【0060】
また、本実施の形態1によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、周囲の温度や湿度をモニタして、標識試薬の溶出の検知から測定が行われるまでの時間を補正したので、周囲の温度、及び湿度が、クロマトグラフィー試験片上における、被検査溶液の展開速度の変化に与える影響を小さくすることができる。
【0061】
また、本実施の形態1によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、被検査溶液の展開を検知する間、光ビームの点灯と消灯を交互に繰り返し、あるいは、被検査溶液の展開を検知する時間を予測し、予測到達時間直前までの間、レーザを消灯し、あるいは、クロマトグラフィー試験片への被検査溶液の展開検知をする間、レーザ出力を測定時よりも低く設定し、あるいは、それらの方法を組み合わせて行ったので、クロマトグラフィー試験片へのレーザ光照射部の温度上昇に伴う、クロマトグラフィー試験片の性能悪化を防ぐことができる。
【0062】
なお、本実施の形態1においては、標識試薬の溶出の検知について述べたが、被検査溶液そのものの展開を検知しても同様の効果が得られる。
【0063】
(実施の形態2(参考例))
次に、本発明の実施の形態2について、図3を用いて説明する。
【0064】
図3は、本発明の実施の形態2によるクロマトグラフィー試験片の吸光度測定を示す図である。図3(a)は、クロマトグラフィー試験片上における被検査溶液の展開の状態と光ビームの照射位置を示している。また、図3(b)は、本発明の実施の形態2における待機状態での吸光度変化のうち、急激な上昇を示す部分の拡大図である。
【0065】
光ビーム16を、標識試薬保持部12から試薬固定化部13までの間に照射した状態で待機させる。この時の吸光度信号は、標識試薬の溶出と共に単調に増加する。
【0066】
そこで、吸光度信号の時間変化の傾きθを求めることにより、被検査溶液23の展開速度を算出し、展開速度からクロマトグラフィー試験片の性能の良否を判定する。あるいは、標識試薬の溶出による吸光度の上昇値が、一定に保つように光ビームを走査させて、その走査速度から被検査溶液23の展開速度を算出し、展開速度からクロマトグラフィー試験片の性能の良否を判定する。
【0067】
また、クロマトグラフィー試験片への被検査溶液の展開時における周囲の温度、及び湿度のうち少なくとも一方を測定した結果から、展開速度の判別値を補正した。
【0068】
このように、本実施の形態2によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、被検査溶液添加後の展開速度を検出し、展開速度からクロマトグラフィー試験片性能の良否を判定したので、クロマトグラフィー試験片の目詰まり異常等の不良判別を行うことができる。
【0069】
また、被検査溶液の展開に伴う標識試薬の溶出により発生する、検出信号の値の時間変化を検知してから、被検査溶液の展開速度を算出するようにしたので、クロマトグラフィー試験片の目詰まり異常等の不良判別を行うことができる。
【0070】
また、被検査溶液の展開に伴う標識試薬の溶出により発生する、検出信号の上昇値が一定に保たれるように光ビームを走査させ、光ビームの走査速度から被検査溶液の展開速度を算出したので、クロマトグラフィー試験片の目詰まり異常等の不良判別を行うことができる。
【0071】
また、被検査溶液の展開時における周囲の温度及び湿度のうち少なくとも一方を測定した結果から、展開速度の判別値を補正したので、温度や湿度の影響による良否の誤判定を防ぐことができる。
【0072】
(実施の形態3(参考例))
以下、本発明の実施の形態3について、図4を用いて説明する。
【0073】
図4は本発明の実施の形態3によるクロマトグラフィー試験片による吸光度測定結果の、被検査溶液による相異を示す図である。図4(a)は、クロマトグラフィー試験片上における光ビームの走査の状態、また図4(b)は、光ビームの位置に対する吸光度信号の変化を示している。
【0074】
光ビーム16は、クロマトグラフィー試験片8上において、上流側生地部15aから試薬固定化部13を通過して、下流側生地部15bまで走査する。この時の吸光度信号は、被検査溶液の種類によって異なる。例えば血漿サンプルと全血サンプルでは、全血サンプルの方が全体的に吸光度が高くなる。また、生地部15における吸光度の大きさは、被検査溶液に含まれる分析対象物の濃度に関わらず一定となる。
【0075】
そこで、被検査溶液の種類を判別する信号検出位置を、試薬固定化部13より下流側として、生地部15における吸光度を検出し、各被検査溶液の種類に対応した、既知の吸光度の大きさと比較した。また、生地部15における吸光度の大きさから被検査溶液の種類を判別し、その種類に応じた検量線を選定して、被検査溶液に含まれる分析対象物の濃度を換算した。
【0076】
このように、本実施の形態3によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、被検査溶液を添加したクロマトグラフィー試験片上の生地部における検出信号から、被検査溶液の種類を判別したので、クロマトグラフィー試験片に添加された、被検査溶液の種類を判別することができる。
【0077】
また、検出信号を測定する生地部は、試薬固定化部より展開方向の下流側とした、従って、試薬固定化部の下流側生地部と比較して、上流側の生地部で残留しやすい標識試薬の影響による、被検査溶液の種類の誤判別を抑えることができる。
【0078】
また、生地部の検出信号から被検査溶液の種類を判別し、被検査溶液に適合した検量線をあらかじめ選択できるものとしたので、複数種類の被検査溶液を測定する場合、使用者がわざわざ手動で被検査溶液の種類を装置に入力する必要がなく、自動による測定が可能となる。
【0079】
(実施の形態4)
以下、本発明の実施の形態4について、図5を用いて説明する。
【0080】
図5は本発明の実施の形態4によるクロマトグラフィー試験片の被検査溶液の流れを示す図である。
【0081】
図5(a)は、被検査溶液添加部11に十分な被検査溶液23が添加された場合を示している。添加された被検査溶液23は、クロマトグラフィー試験片8の標識試薬保持部12と上流側生地部15aと試薬固定化部13と下流側生地部15bをそれぞれ展開し、下流側生地部15bのさらに下流側端部にまで達している。
【0082】
図5(b)は、被検査溶液添加部11に添加された被検査溶液23が不足している場合を示しており、添加された被検査溶液23は、下流側生地部15bの下流側端部まで達していない。
【0083】
そこで、下流側生地部15bの下流側端部に光ビームを照射し、その場合に得られる検出信号の値を判定した。また、分析対象物の濃度を測定するために、試薬固定化部13の前後に走査する光ビーム16と同一の光ビームを、下流側生地部15bの下流側端部まで更に走査した。
【0084】
このように、本実施の形態4によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、被検査溶液を添加したクロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部に、光ビームを照射して得られる検出信号から、被検査溶液の添加量不足、及びクロマトグラフィー試験片の展開不良を判定したので、クロマトグラフィー試験片に添加された被検査溶液の添加量不足や、目詰まりなどで発生する、クロマトグラフィー試験片の展開不良を検知することができる。
【0085】
また、クロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部まで光ビームを走査させたので、被検査溶液の添加量不足やクロマトグラフィー試験片の展開不良を検知するために、新たな光源を必要とせず、機能追加に伴う装置の大型化や価格増加を抑えることができる作用を有する。
【0086】
(実施の形態5(参考例))
以下、本発明の実施の形態5について、図6を用いて説明する。
【0087】
図6は本発明の実施の形態5によるクロマトグラフィー試験片の吸光度測定を示す図である。図6(a)は、クロマトグラフィー試験片上における光ビームの走査の状態、また図6(b)は、光ビームの位置に対する吸光度信号の変化を示している。
【0088】
光ビーム16は、クロマトグラフィー試験片8上において、上流側生地部15aから試薬固定化部13を通過して、下流側生地部15bまで走査する。
【0089】
分析対象物の濃度に対応する吸光度の大きさは、試薬固定化部13に固定化された標識試薬の吸光の影響を受けない位置、つまり吸光度信号24がピークとなる位置Tよりも、距離Dだけ下流側の位置Uにおける吸光度値を基準とし、その時のピーク位置Tとの差の値Eとして求めることができる。言い換えれば、ピーク位置Tにおける吸光度値は、被検査溶液そのものの吸光成分を含んでいるが、これが試薬固定化部13に固定化された標識試薬の吸光度測定の誤差となるため、位置Uにおける吸光度値(被検査溶液そのものの吸光成分に相当)を基準とすることによって、この誤差の影響を除くことができる。また、基準位置を試薬固定化部13の上流側ではなく、下流側の位置Uとしているため、上流側生地部15aで残留しやすい標識試薬による吸光度測定の誤差(図6(b)中のF部分)を取り除くことが可能となっている。
【0090】
このように、本実施の形態5によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、クロマトグラフィー試験片上の試薬固定化部より被検査溶液の展開方向の下流側で、試薬固定化部の影響がない位置での検出信号を基準値としたときの、試薬固定化部での検出信号を、測定する濃度の検出信号としたので、試薬固定化部の下流側生地部と比較して、上流側生地部で残留しやすい標識試薬による、吸光度測定誤差の影響を抑えることができる。
【0091】
(実施の形態6(参考例))
以下、本発明の実施の形態6について、図7を用いて説明する。
【0092】
図7は、本発明の実施の形態6によるクロマトグラフィー試験片の吸光度測定を示す図である。図7(a)は、クロマトグラフィー試験片上における光ビームの走査の状態、また、図7(b)は、光ビームの位置に対する吸光度信号の変化に、急峻な電気的ノイズ25が付加された状態を示している。
【0093】
光ビーム16は、クロマトグラフィー試験片8上において、上流側生地部15aから試薬固定化部13を通過して、下流側生地部15bまで走査する。この時、吸光度信号24のデータは、滑らかな変化を十分検出できる間隔Gで記憶しておく。
【0094】
吸光度信号に付加された電気的ノイズ25は、電気回路に添加する電源(例えばスイッチング電源)から発生するものや、デジタル処理を行う回路から発生するもの等であり、光ビーム16の走査速度と比較して、非常に急峻な変化を示す。
【0095】
そこで、吸光度信号24のピーク位置TとTから距離Dだけ下流側の位置Uの値を求める場合に、それぞれの位置に対して、前後数データの平均値をもって対応させた。また、吸光度信号24のピーク位置TとTから距離Dだけ下流側の位置Uの値を求める場合に、それぞれの位置に対して、前後数データの中間値(各データの大きさ順に並べ替えた場合の中間に位置するデータの値)をもって対応させた。
【0096】
なお、上記で述べた平均値及び中間値を求めるためのデータ数は、吸光度信号24の滑らかな変化を読み取るために、支障のない範囲で行うものである。
【0097】
このように、本実施の形態6によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、試薬固定化部での検出信号は、極値前後の値の平均値とし、基準値となる検出信号は、試薬固定化部より被検査溶液の展開方向の下流側で、かつ試薬固定化部の影響がない位置前後の値の平均値としたので、検出信号に、偶々電気的ノイズが付加されたときでも、分析対象物の濃度を求める演算結果への影響を、小さくすることが可能である。
【0098】
また、試薬固定化部での検出信号は、極値前後の値の中間値とし、基準となる検出信号は、試薬固定化部より被検査溶液の展開方向の下流側で、試薬固定化部の影響がない位置前後の値の中間値としたので、吸光度信号に偶々電気的ノイズが付加されたときでも、分析対象物の濃度を求める演算結果への影響を、平均値を用いた場合よりも更に小さくすることができる。
【0099】
(実施の形態7(参考例))
以下、本発明の実施の形態7について、図8を用いて説明する。
【0100】
図8は本発明の実施の形態7によるクロマトグラフィー試験片の吸光度測定を示す図である。図8(a)は、クロマトグラフィー試験片上における光ビームの走査の状態、また、図8(b)は、光ビームの位置に対する吸光度信号の変化に、光学的ノイズ31,32が付加された状態を示している。また、図8(c)は、光ビームの位置に対する正常な吸光度信号の変化を示している。
【0101】
光ビーム16は、クロマトグラフィー試験片8上において、上流側生地部15aから試薬固定化部13を通過して、下流側生地部15bまで走査する。この時、吸光度信号24のデータは、滑らかな変化を十分検出できる間隔Gで記憶しておく。また、予め正常なクロマトグラフィー試験片8で吸光度測定を行った吸光度信号24のピーク位置T前後(間隔I)の変化量Kと、下流側の位置U前後(間隔J)の変化量Lを求め、K+α、及びL+α(αはノイズ成分の許容度)の値をそれぞれの位置における判別値として記憶しておく。
【0102】
吸光度信号に付加された光学的ノイズ31,32は、試薬固定化部13における標識試薬の固定化ムラ26(通称、呈色ムラ)によるものや、下流側生地部15bにおける目詰まりによる標識試薬の展開ムラ27やクロマトグラフィー試験片8の表面上のキズ等によるものである。この光学的ノイズ31,32は、吸光度信号24の緩やかな変化を妨げるものであり、その大きさによっては、正常な吸光度測定が不可能となる。
【0103】
そこで、吸光度信号24のピーク位置T前後(間隔I)の値を比較して、最大値と最小値間の差が判別値を越える場合、クロマトグラフィー試験片8の性能不良と判定した。また、吸光度信号24のピーク位置Tから距離Dだけ下流側の位置U前後(間隔J)の値を比較して、最大値と最小値間の差が判別値を越える場合、クロマトグラフィー試験片8の性能不良と判定した。
【0104】
このように、本実施の形態7によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、クロマトグラフィー試験片上の試薬固定化部における、検出信号の極値前後の値を比較し、差が判別値を超える場合、クロマトグラフィー試験片の性能不良と判定したので、試薬固定化部における標識試薬の固定化ムラや、クロマトグラフィー試験片の表面上のキズ等に伴う、誤った測定を避けることができる。
【0105】
また、クロマトグラフィー試験片上の試薬固定化部より展開方向の下流側で、試薬固定化部の影響がない位置前後の値を比較し、差が判別値を超える場合、クロマトグラフィー試験片の性能不良と判定したので、生地部における目詰まりによる被検査溶液の展開ムラや、クロマトグラフィー試験片の表面上のキズ等に伴う、誤った測定を避けることができる。
【0106】
(実施の形態8(参考例))
以下、本発明の実施の形態8について、図9を用いて説明する。
【0107】
図9は本発明の実施の形態8によるクロマトグラフィー試験片上における光ビームの走査の状態、及び光ビームの位置に対する吸光度信号の変化を、並記して示したものである。
【0108】
標識試薬保持部12は被検査溶液通過後も標識試薬が残留している。つまり、低濃度の分析対象物の測定において、標識試薬保持部12の上流側から光ビーム16を走査した場合、標識試薬保持部12に残留している標識試薬の吸光度が、ピーク位置となる場合がある。また、標識試薬保持部12における残留標識試薬は一様に分布するため、この領域での吸光度28は、平坦な信号となっている。
【0109】
そこで、ピーク位置の誤認識を避けるために、標識試薬保持部12を除いた上流側生地部15aの位置から光ビーム16を走査し、測定を開始した。あるいは、平坦な吸光度信号28を検知し、試薬固定化部13に対応した吸光度ピーク位置Tとの識別を行った。
【0110】
また、平坦な吸光度信号28の幅から、標識試薬保持部12の幅Hを求め、規定の幅と比較した。また、平坦な吸光度信号28の値を検知し、残留する標識試薬の量を求めた。
【0111】
このように、本実施の形態8によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、濃度測定時はクロマトグラフィー試験片上の標識試薬保持部を除いて測定を行ったので、標識試薬保持部における吸光度測定値が含まれないため、吸光度ピーク位置の誤認識が発生せず、正常な分析対象物の濃度検出が可能となる。
【0112】
また、クロマトグラフィー試験片上の検出信号の値が平坦となる領域は、標識試薬保持部の領域と見なしたので、吸光度ピーク位置の誤認識が発生せず、正常な分析対象物の濃度検出が可能となる。
【0113】
また、クロマトグラフィー試験片上の検出信号の値が平坦となる領域の幅を算出し、前記幅を規定の標識試薬保持部の幅と比較したので、標識試薬の保持量を確認することができ、クロマトグラフィー試験片の性能不良を判別できる。
【0114】
また、クロマトグラフィー試験片上の検出信号が平坦となる値を検知し、前記値から残留標識試薬の量を確認したので、標識試薬が正常に流れたかどうかの確認を行うことができる。
【0115】
(実施の形態9(参考例))
以下、本発明の実施の形態9について、図10を用いて説明する。
【0116】
図10は本発明の実施の形態9によるクロマトグラフィー試験片上における光ビームの走査の状態、及び光ビームの位置に対する吸光度信号の変化を、並記して示したものである。
【0117】
標識試薬保持部12は被検査溶液通過後も標識試薬が残留している。つまり、低濃度の分析対象物の測定において、標識試薬保持部12の位置から光ビーム16を走査した場合、標識試薬保持部12に残留している標識試薬の吸光度が、ピーク位置となる場合がある。
【0118】
そこで、吸光度信号24の傾きの変化から、立ち上がり部29と立ち下がり部30を検出し、立ち上がり部29と立ち下がり部30で挟まれる領域における最大位置を、ピーク位置Tと認識した。
【0119】
また、立ち上がり部29と立ち下がり部30の間隔を求め、規定の試薬固定化部13の幅と比較した。
【0120】
このように、本実施の形態9によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、検出信号の立ち上がりと立ち下がりを認識して、検出信号の極値を求めたので、吸光度ピーク位置の誤認識が発生せず、正常な分析対象物の濃度検出が可能となる。
【0121】
また、検出信号の立ち上がりと立ち下がりを認識して、立ち上がりと立ち下がりの間の間隔を算出し、間隔の大きさを、規定の試薬固定化部の幅と比較したので、試薬固定化部の幅が確認できる。従って、クロマトグラフィー試験片の性能不良の判別が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明に係るクロマトグラフィー定量測定方法は、クロマトグラフィー試験片に添加された被検査溶液の添加量不足や、目詰まりなどで発生する、クロマトグラフィー試験片の展開不良を検知することができるので、操作性のよいクロマトグラフィー定量測定装置等に有用である。
【符号の説明】
【0123】
1 ランプ
2 反射板
3 回折格子
4 開口部
5 ガラス板
6 参照光
7,10 光電子増倍管
8 クロマトグラフィー試験片
9 散乱光 11 被検査溶液添加部
12 標識試薬保持部
13 試薬固定化部
14 展開層
15 生地部
15a 上流側生地部
15b 下流側生地部
16,33 光ビーム
17 半導体レーザ
18 コリメートレンズ
19 ビームスプリッタ
20、22 フォトダイオード
21 シリンドリカルレンズ
23 被検査溶液
24 吸光度信号
25 電気的ノイズ
26 呈色ムラ
27 展開ムラ
28 フラット部
29 立ち上がり部
30 立ち下がり部
31,32 光学的ノイズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定方法において、
前記被検査溶液を添加した前記クロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部に、光ビームを照射して得られる検出信号から、被検査溶液の添加量不足、及び前記クロマトグラフィー試験片の展開不良を判定する工程を含む、
ことを特徴とするクロマトグラフィー定量測定方法。
【請求項2】
請求項1記載のクロマトグラフィー定量測定方法において、
前記光ビームは、クロマトグラフィー試験片上の生地部の上流側端部から下流側端部まで走査する、
ことを特徴とするクロマトグラフィー定量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−191314(P2011−191314A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107827(P2011−107827)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【分割の表示】特願2001−190198(P2001−190198)の分割
【原出願日】平成13年6月22日(2001.6.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】