クロロブチルまたは塩素化ブチル栓を用いるパリカルシトールの安定化
本発明は、容器においてクロロブチル栓または塩素化ブチル栓を用いることで、容器中のパリカルシトール溶液の安定性を高める方法に関するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓を用いることで容器中のパリカルシトール溶液の安定性を高める方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼンプラー(登録商標)(パリカルシトール)注射液は、腎不全を伴う二次性副甲状腺機能亢進症の治療用に現在販売されているバイアル入りの製品である。ブチル材料から構成されるエラストマー筐体を用いるバイアル入り製品は、ガラスアンプル中で保存された同じ溶液と比較して、12ヶ月という相対的に短い有効期間を有する。そのように相対的に有効期間が短いのは、栓が直接の原因であり、それがパリカルシトールの分解を触媒することで、経時的な効力低下が認められるようになった。高温での有効期間試験で、市販製品で現在用いられているものと同じブチル材料製の栓を有する注射液バイアル中に保存されたパリカルシトール溶液において同様の効力低下が示されている。高温試験での効力低下は、25℃での有効期間安定性試験の際に認められたものを反映している。従って、パリカルシトールを含む溶液が現在販売されている容器中の場合より低い速度で分解する栓を施した容器が必要とされている。
【0003】
本明細書で引用されている全ての特許および刊行物は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の開示】
【0004】
発明の要旨
本発明の主たる目的は、分解を防止する上で十分な時間および条件下でハロゲン化ブチルポリマー栓で密閉した容器中に保存した場合に、医薬品の有効期間を延長させる方法を提供することにある。医薬品の有効期間延長は、ハロゲン化ブチルポリマー栓を用いて保存した場合の医薬品の安定性上昇によるものである。医薬品の安定性上昇は、その医薬品をハロゲン化ブチルポリマー栓で密閉した容器で保存した場合の分解速度低下によって示される。さらに、医薬品の安定性上昇は、栓の組成に直接関係している。本発明のある特定の実施形態では、分解を防止する上で十分な時間および条件下でクロロブチルまたは塩素化ブチルポリマーを含む栓で密栓を施したガラスバイアル中で医薬品を保存する段階を有する、医薬品の分解の防止方法が開示される。
【0005】
本発明の別の実施形態では、ハロゲン化ブチルポリマー栓を含む栓で密栓を施したガラスバイアル中にビタミンD受容体活性化剤を保存する段階を有する、ビタミンD受容体活性化剤の分解の防止方法が開示される。さらに、本発明の別の実施形態では、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密閉された容器に保存されたビタミンD受容体活性化剤の分解速度を低下させる方法が提供される。本発明のさらに別の実施形態では、容器がガラスバイアル、I型ガラスバイアルおよび注射器からなる群から選択される、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密閉された容器に保存した場合に、溶液でのビタミンD受容体活性化剤の安定性上昇および有効期間延長が開示される。
【0006】
1実施形態において、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密栓を施したバイアル中でのパリカルシトール、カルシトリオール(すなわち、カルシジェックス(登録商標))およびドキセルカルシフェロール(すなわち、ヘクトラール(Hectoral;登録商標)、Genzyme Corporation, Cambridge, MA)など(これらに限定されるものではない。)のビタミンD受容体活性化剤の保存方法が提供される。さらに詳細には、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密栓を施したバイアル中でのパリカルシトールまたはカルシトリオールの保存によって、薬剤の有効期間が延長する。クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密閉したバイアル中に保存した場合にパリカルシトールまたはカルシトリオールの安定性が高くなるのは、栓存在下とした時にパリカルシトールまたはカルシトリオールの分解速度が小さくなったことによる結果である。本発明の好ましい実施形態では、溶液でのパリカルシトールの有効期間が、ブチル、ブロモブチル、エチレンプロピレンジエンモノマーまたはポリイソプレンからなる群から選択されるポリマーを含むポリマー栓からなる栓で密閉されたガラスバイアルに保存されたパリカルシトールの溶液と比較して長くなる、パリカルシトールの分解の防止方法が開示される。
【0007】
別の実施形態では、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密閉したガラスバイアル中に溶液を保存する段階を有する、静脈投与に用いられる溶液でのパリカルシトールの分解の防止方法が開示される。本発明のさらに別の実施形態では、注射器の栓がクロロブチルまたは塩素化ブチルポリマーからなるものである注射器にパリカルシトールを加える段階および溶液の分解を防止する上で十分な時間および条件下に前記注射器を維持する段階を有する、溶液でのパリカルシトールの分解の防止方法が開示される。
【0008】
本発明は、加速有効期間試験で栓で密閉されたバイアルに保存されたパリカルシトールの相対分解速度を測定するために、各種組成の栓を評価する方法を開示するものである。記載の方法は、現在市販されている製品を含む各種組成の栓で密閉した場合のパリカルシトールの溶液の相対分解速度を、ガラスアンプルに保存した同じ溶液と比較するものである。パリカルシトール(ゼンプラー(登録商標))およびカルシトリオール(カルシジェックス(登録商標))は、ビタミンD受容体活性化剤としてアボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories, 100 Abbott Park Rd, Abbott Park, Illinois 60064)によって現在市販されており、構造的に関連している。
【0009】
医薬品の有効期間は、固体であるか溶液であるかを問わず、それの保存状態での薬剤の分解速度に直接相関している。医薬品および/または溶液と接触する製剤、担体または保存容器などのある種の材料が、分解に関与する可能性があったり、分解に寄与する可能性がある。パリカルシトールが保存されているガラスまたは溶液がそれの分解に関与するか否かを確認するために、ガラスアンプル中にて溶液で保存されたパリカルシトールの分解を測定した。
【0010】
パリカルシトールの溶液を含む市販注射液バイアルの現在の有効期間は1年間である。本発明の1実施形態では、パリカルシトールの有効期間を約1から3年に延長する方法が開示される。本発明の好ましい実施形態では、パリカルシトールの溶液の有効期間を約2から3年に延長する方法が開示される。
【0011】
治療上有効量のビタミンD受容体活性化剤のある種の製剤は、50%の有機溶媒の水中混合物を含む。この有機溶媒は、代表的には、15%から約30%(体積比)エタノールの、グリコール誘導体(エチレンまたはプロピレングリコールなどがあるが、これらに限定されるものではない。)中の混合物である。ビタミンD受容体活性化剤用の代表的な注射製剤は、40から60%(体積比)アルコール水溶液を含む溶液で約1から10mcg/mLのものである。例えば、パリカルシトールについてのある好ましい製剤は、約2から5mcg/mLのパリカルシトールの50:30:20(体積比)での水、プロピレングリコールおよびエタノールの混合液溶液である。ビタミンD受容体活性化剤のある種の製剤については、米国特許第6136799号および米国特許第6361758号(これらは、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されている。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、パリカルシトールを含む溶液が現在市販されている容器中より遅い速度で分解する、栓を施したバイアルを開示する。新たな栓の存在下にパリカルシトールの分解速度が低くなることで、現在市販されているバイアルサンプルと比較した場合に、有効期間が長くなる。このようにパリカルシトール溶液の分解速度が低くなることで、大衆に対してより高純度の薬剤が提供され、市販のパリカルシトール注射剤の有効期限を長くすることができる。加速有効期間試験を通じて使用される試験内でパリカルシトールの溶液を保存したバイアルはI型であり、それは13mm仕上げを有するフリントガラスからなる5mLバイアルであった(Hospira, 4285 North Wesleyan Blvd., Rocky Mount, NC 27804から入手)。加速有効期間試験を通じて試験内でパリカルシトールの溶液を保存するのに用いたアンプルはI型であり、それはフリント硫黄処理5mLアンプル(Hospira, 4285 North Wesleyan Blvd., Rocky Mount, NC 27804から入手)であった。
【0013】
本試験内で比較した栓を表1に挙げてある。アシュランド(Ashland)の栓:アシュランド5212、アシュランド5287、アシュランド5153、アシュランド5337、アシュランド5330、アシュランド13mmPOE、アシュランド20mmPOE、アシュランドPOEおよびアシュランド・クラトン(Kraton)は、ホスピラ(Hospira, 268 East Fourth Street, Ashland, OH 44805)から入手した。ダイキョー(Daikyo)およびウェスト(West)栓は、ウェスト・ファーマシューティカル・サービシーズ(West Pharmaceutical Services, 101 Gordon Drive, Lionville, PA 19341)から入手した。
【0014】
パリカルシトールは、承認されたアボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)の目録(Abbott Laboratories, 100 Abbott Park Rd, Abbott Park, Illinois 60064)から入手した。
【0015】
【表1】
【実施例】
【0016】
(実施例I)
各種容器の栓を効果的に評価するために、加速安定性モデルを考案し、そこではパリカルシトール溶液を含み、27種類の栓で密閉したバイアルを、上下逆にし、80℃で21日間光から保護した。バイアルは、商業的入手先から得られた栓の組成のみにおいて異なるものであった。21日間の試験を通じて、サンプルは第2日、第7日、第14日および第21に取り出し、バイアルの内容物をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって分析して、既知濃度の対照サンプルと比較した試験化合物パリカルシトールの濃度を求めた。対照サンプルは、試験全期間(21日間)にわたり100%効力を維持した密閉ガラスアンプルに保存したパリカルシトール注射溶液からなるものであった。対照サンプルと比較した、試験栓を施して保存したバイアル中のパリカルシトールの相対濃度を測定して、21日間の試験にわたるパリカルシトールの安定性を示した。さらに、加速有効期間試験条件を同じバイアルで行い、バイアルのヘッドスペースにパリカルシトール溶液の上でアルゴンガスを充填してから適切な栓で密閉した。比較的低い濃度を酸素を含むアルゴン充填サンプルを対照サンプルと比較して、より不活性な雰囲気下での試験化合物の安定性を求めた。各種栓存在下でのパリカルシトールの溶液の80℃で21日間急速スクリーニングを計画して、現在市販されている製品で使用されている溶液と比較した試験化合物(すなわち、パリカルシトール)の安定性を予測した。
【0017】
パリカルシトール溶液の調製および安定性試験手順
パリカルシトール溶液調製液:(5mcg/mLの水−プロピレングリコール−エタノール/50:30:20;USP28−NF23 1471頁のガイドライン下で定義)は、90.0%以上および110.0%以下のラベル表示量のパリカルシトール(C27H44O3)を含むものである。5mLまたは10mL(20mm栓について)のI型ガラスバイアルに溶液1mLを加えた。バイアルを各種の栓で密閉した。酸素の効果を評価するため、第2の一連の同じバイアルにアルゴンを充填してから、栓でキャッピングを行った。いずれのサンプルも、光保護された80℃の乾燥器中にて上下逆にして保存して、溶液と栓との接触が最大となるようにした。アンプルサンプル(ヘッドスペースのアルゴンガス充填をおこなっていない)を準備し、同一の条件下にバイアルとともに保存して、対照として用いた。各種類の栓につき少なくとも2個のサンプルを第2日、第7日、第14日および第21日の時間点で抜き取り、それ以上希釈せずにHPLCを用いてアッセイを行った。各種組成の栓を含むバイアルからのパリカルシトール濃度プロファイルを、アンプルに入った同じ溶液と比較した。残ったパリカルシトールの相対濃度を21日試験の期間にわたってプロットして、試験栓存在下でのパリカルシトールの相対的安定性を確認した。
【0018】
HPLC検出手順(USP23−NF23 1470頁下で定義)
用いたクロマトグラフィーシステム:液体クロマトグラフィー装置に、252nm検出器および5μm充填材L1の入った4.6mm×25cmカラムを取り付け、流量を約2mL/分とした。対照標準についてクロマトグラフィーを行い。ピーク応答を手順に関しての指示に従って記録し、テーリング係数は2.0以下であり、反復注射についての相対標準偏差は2.0%以下であった。
【0019】
等量(約100から200μL)の標準調製液およびアッセイ調製液を別個にクロマトグラフィー装置に注入し、クロマトグラムを記録し、主要ピークについての応答を測定する。採取した注射液各1mL中のパリカルシトール(C27H44O3)の量を、下記式によってμgで計算する。
【0020】
【数1】
式中、Cは、USPパリカルシトール溶液RS中のパリカルシトールの含有量に基づいて計算される対照標準中のパリカルシトールの1mL当たりのミクログラム数での濃度であり;ruおよびrsはそれぞれ試験サンプルおよび対照標準から得られたパリカルシトールピーク応答である。
【0021】
結果
5つの安定性試験を行って、栓を評価した。アンプルおよびD777−1/FT/B2−40(市販製品用に商業的に使用される栓)栓バイアルを、各試験で対照として用いた。その5つの安定性試験は二連で行い、サンプルのうち少なくとも2個をアルゴンヘッドスペースガス充填を行って調製し、少なくとも2個をアルゴンヘッドスペースガス充填なしで調製した。
【0022】
得られた結果からは一貫して、ガラスアンプル中での試験化合物の保存が試験全体(21日間)を通じて約100%の効力を維持することが明らかになった。D777−1/FT/B2−40栓を施したバイアルサンプルは第7日時間点で効力の低下を示し始めた。D777−1/FT/B2−40栓の場合のサンプルの分解速度に変動があったが、この栓における効力低下は一貫しており、80℃分解モデルを用いて再現可能であった。従って、アンプルおよびD777−1/FT/B2−40栓が一貫しており、各実験において対照とした用いたことから、21間の80℃分解モデルは、パリカルシトールについてのD777−1/FT/B2−40栓と比較して栓の性能を予測する上で効果である。
【0023】
試験1は、アルゴンヘッドスペースガス充填ありとなしで栓番号3、7、8、10、12および13を比較した。アルゴンヘッドスペースなしで保存したサンプルについての試験1のデータ(図1)は、21日間の試験期間にわたってパリカルシトール濃度に顕著な低下を示した。栓番号8のテフゼル(Tefzel)コーティングを行ったアシュランドクロロブチルおよび栓番号7のテフゼルコーティングを行わないアシュランドクロロブチルが、21日間の試験期間にわたり最小の分解を示した。栓番号8を有するバイアルでのパリカルシトール濃度は、アンプル中で保存したサンプルと同等であった。
【0024】
アルゴンヘッドスペースガス充填を行った同じ栓を比較する試験1のデータ(図2)から、アルゴンガス充填を行わないサンプルの分解速度と比較した場合のある種のサンプルについてのパリカルシトールの分解速度における勾配の変化が示された。この分解速度における変化は、ある種のサンプルがアルゴン充填したヘッドスペースでより遅く分解することを示すものであった。ある種のサンプルについて分解速度に変化があったが、分解の唯一の原因が酸素であると結論付けるのに十分有意な変化ではなかった。やはり、パリカルシトールは、他の栓でのサンプルと比較してクロロブチル栓でのサンプルにおいてより安定であった。
【0025】
試験2では、異なる材料製で異なるコーティングを含むダイキョー(Daikyo)栓とウェスト(West)栓の間で比較を行った。アルゴンガス充填を行わないサンプルについての試験2のデータ(図3)からは、パリカルシトール溶液と最も適合性が高い栓が6、25および26であり、これらはいずれも塩素化ブチルまたはクロロブチルのいずれかからなるものであることがわかる。塩素化ブチル栓またはクロロブチル栓存在下でのパリカルシトールの安定性が一貫して上昇していること(供給者とは無関係に)も、アルゴン充填ヘッドスペースを有するサンプルで示された。さらに、試験2の結果から、80℃で21日間にわたり、パリカルシトール濃度がウェストクロロブチル栓およびダイキョー塩素化ブチル栓の場合に未変化のままであったことが明らかとなった。これらの適合性の栓を施したパリカルシトールサンプルの安定性プロファイルは、アンプル対照と同様であった。バイアルヘッドスペースでのアルゴン充填(図4)によって、ブチル、ブロモブチルおよびPOE栓を施したサンプルについてのパリカルシトールの安定性が高められた。しかしながら、21日間隔でのパリカルシトールの濃度は、クロロブチル栓および塩素化ブチル栓のサンプルと比較した場合に、これらのサンプル中でやはり最低であった。
【0026】
試験3では、アシュランド5212クロロブチル栓を各種コーティング材料と比較した。アルゴンガス充填を行わないサンプルの結果(図5)は、プラズマコーティングおよびPropコーティングが一定の安定性プロファイルのためにパリカルシトール溶液と同等であることを示している。試験3のアルゴンヘッドスペースガス充填を含むサンプル内に含まれるパリカルシトールの濃度における同様の上昇(図6)を測定した。
【0027】
試験4では、別のコーティングまたはフルオロテック(fluorotec)を含むクロロブチル(または塩素化ブチル)からなる栓B2−40またはB2−44を比較した。クロロブチル材料からなる栓は、21日試験を通じてパリカルシトールの最高濃度を一貫して維持した(図7および8)。得られた結果は、ウェスト4432/50栓サンプルがバリアコーティングがない場合であっても、アンプルサンプルと同様に良好な性能を有することを示した。
【0028】
これら4つのスクリーニング試験での安定性結果に基づいて、クロロブチル栓または塩素化ブチル栓が、アンプル中に保存したゼンプラー(登録商標)(パリカルシトール)注射液で用いる上で主要な候補であるように思われた。試験を通じて最少のパリカルシトール分解を示した栓は、アシュランド5212/テフゼル、ウェスト4432/50/FT/B2−40、ウェスト4432/50/テフロン(登録商標)およびダイキョーD−21−7/FT/B2−40栓であった。
【0029】
試験1から4は、実験室規模で行った。4つの主要な栓についてさらに調べるため、標準的な製造方法に最も近いパイロットプラントでサンプルを製造する試験5を行った。試験5内では、使用に先立って、市販製品の製造説明書に従って栓の洗浄および処理を行った。アンプルおよびD777−1/FT/B2−40栓を施したバイアルサンプルを同時に製造して、対照として用いた。試験5の結果から、ウェスト4432/50栓およびダイキョーD−21−7栓についての濃度プロファイルがアンプルサンプルと同様であることが明らかである(図9および10)。クロロブチル栓および塩素化ブチル栓もやはり、ヘッドスペースアルゴンガス充填なしでのパリカルシトール溶液についてD777−1/FT/B2−40栓より良好な性能を示した。得られた結果は、実験室規模の試験での所見と一致しており、それによって、クロロブチル栓および塩素化ブチル栓がパリカルシトール溶液と適合性であることが確認された。
【0030】
80℃安定性モデルがゼンプラー(登録商標)注射液について各種栓を比較してパリカルシトール溶液の長期安定性を予測する実施例1の結果から、栓のポリマーの種類がパリカルシトール溶液の安定性にとって非常に重要であることがわかる。クロロブチルまたは塩素化ブチルからなる栓で密閉したバイアルで、21日間にわたっての分解速度が最も低かった。
【0031】
(実施例II)
パリカルシトール溶液中の栓抽出物の評価
パリカルシトールの濃度低下機構を調べるため、同様の80℃安定性試験を行い、その試験ではHPLCによってサンプルを分析して、保存中に栓からパリカルシトール溶液中にとけ込んだ抽出物を調べた。サンプルは210nmに設定したUV検出器を用いる勾配HPLC法によって分析して、可能な抽出物を評価した。
【0032】
この試験で調べた栓はパイロットプラントで洗浄および処理を行ってから、試験サンプルの調製を行った。21日間の80℃での保存後に、210nmの波長でのHPLCによってサンプルを分析した。20分から60分のクロマトグラム領域は、選択した適合性の栓を用いたパリカルシトール溶液において同様であった。51分付近に保持時間を有する2本の主要なピークが認められ、それらは酸化防止剤であるBHTおよび2,2′−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)とそれぞれ同じ保持時間を有していた。そのHPLCクロマトグラムは、テフロン(登録商標)、フルロテックまたはテフゼルなどの栓バリアとは無関係に、ウェスト4432/50栓およびダイキョーD−21−7栓からBHTが抽出され、2,2′−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)がアシュランド5212栓から抽出されることを示していた。BHTおよび2,2′−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)のこれら2つのピークは、D777−1/FT/B2−40栓サンプルのクロマトグラムでは認めることはできなかった。
【0033】
BHTは酸化防止剤であり、酸化的分解から化学物質および材料を保護するのに用いられることが多く、いくつかの栓に存在する。21日間80℃の保存中、ならびに9ヶ月間にわたって実施した別個の25℃、30℃および40℃安定性試験の間、試験サンプルでBHTのレベルを確認した。25、30および40℃安定性試験で認められたBHTの平均量は、約0.4mcg/mLであることが認められた。BHTがパリカルシトール溶液の安定性を高めるか分解を引き起こすかを確認するために、製剤試験を実施して、35日間80℃分解モデルを用いて、現在の栓を用いたゼンプラー(登録商標)製剤でのパリカルシトールの安定性に対するBHTの効果を評価した。この試験では、0.05、0.1、0.5および1.0mcg/mLの濃度を有するゼンプラー(登録商標)製剤に、各種量のBHTを加えた。対照は、アンプル中およびD777−1/FT/B2−40もしくは4432/50/Flu/B2−40栓のいずれかで密閉したバイアルに入ったBHTを含まないゼンプラー製剤からなるものとした。試験の途中において、アンプルおよび4432/50/Flu/B2−40栓を有するバイアル内のサンプルのパリカルシトール濃度は、35日間を通じて一定のままであった。例えBHTを用いた全てのゼンプラー製剤が現在の栓サンプルについてのBHTを用いないものと比較して低い分解速度を示したとしても、パリカルシトールの一定の損失がやはり明らかであった。これらの結果は、パリカルシトールの損失がBHTの存在に直接関係するものではないことを示している。従って、十分に解明されていない原因によって、4432/50/Flu/B2−40栓を用いたサンプルに含まれるパリカルシトール溶液の安定化向上が生じたものである。
【0034】
実施例IIの結果は、35日間の80℃安定性試験の途中においてパリカルシトール溶液で認められる可能な抽出物を測定することで分解の主因を確認する上では決定的なものではなかった。ある種の試験サンプルでは酸化防止剤が認められたが、BHTを含むサンプルがパリカルシトール溶液の分解または安定化に寄与したようには思えなかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】試験1でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図2】試験1でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図3】試験2でのパリカルシトール溶液(ヘッドスペースアルゴンガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図4】試験2でのパリカルシトール溶液(ヘッドスペースアルゴンガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図5】試験3でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図6】試験3でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図7】試験4でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図8】試験4でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図9】試験5でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図10】試験5でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図11】各種量のBHTを含むゼンプラー(登録商標)静注製剤の80℃での効力プロファイルを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓を用いることで容器中のパリカルシトール溶液の安定性を高める方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼンプラー(登録商標)(パリカルシトール)注射液は、腎不全を伴う二次性副甲状腺機能亢進症の治療用に現在販売されているバイアル入りの製品である。ブチル材料から構成されるエラストマー筐体を用いるバイアル入り製品は、ガラスアンプル中で保存された同じ溶液と比較して、12ヶ月という相対的に短い有効期間を有する。そのように相対的に有効期間が短いのは、栓が直接の原因であり、それがパリカルシトールの分解を触媒することで、経時的な効力低下が認められるようになった。高温での有効期間試験で、市販製品で現在用いられているものと同じブチル材料製の栓を有する注射液バイアル中に保存されたパリカルシトール溶液において同様の効力低下が示されている。高温試験での効力低下は、25℃での有効期間安定性試験の際に認められたものを反映している。従って、パリカルシトールを含む溶液が現在販売されている容器中の場合より低い速度で分解する栓を施した容器が必要とされている。
【0003】
本明細書で引用されている全ての特許および刊行物は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の開示】
【0004】
発明の要旨
本発明の主たる目的は、分解を防止する上で十分な時間および条件下でハロゲン化ブチルポリマー栓で密閉した容器中に保存した場合に、医薬品の有効期間を延長させる方法を提供することにある。医薬品の有効期間延長は、ハロゲン化ブチルポリマー栓を用いて保存した場合の医薬品の安定性上昇によるものである。医薬品の安定性上昇は、その医薬品をハロゲン化ブチルポリマー栓で密閉した容器で保存した場合の分解速度低下によって示される。さらに、医薬品の安定性上昇は、栓の組成に直接関係している。本発明のある特定の実施形態では、分解を防止する上で十分な時間および条件下でクロロブチルまたは塩素化ブチルポリマーを含む栓で密栓を施したガラスバイアル中で医薬品を保存する段階を有する、医薬品の分解の防止方法が開示される。
【0005】
本発明の別の実施形態では、ハロゲン化ブチルポリマー栓を含む栓で密栓を施したガラスバイアル中にビタミンD受容体活性化剤を保存する段階を有する、ビタミンD受容体活性化剤の分解の防止方法が開示される。さらに、本発明の別の実施形態では、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密閉された容器に保存されたビタミンD受容体活性化剤の分解速度を低下させる方法が提供される。本発明のさらに別の実施形態では、容器がガラスバイアル、I型ガラスバイアルおよび注射器からなる群から選択される、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密閉された容器に保存した場合に、溶液でのビタミンD受容体活性化剤の安定性上昇および有効期間延長が開示される。
【0006】
1実施形態において、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密栓を施したバイアル中でのパリカルシトール、カルシトリオール(すなわち、カルシジェックス(登録商標))およびドキセルカルシフェロール(すなわち、ヘクトラール(Hectoral;登録商標)、Genzyme Corporation, Cambridge, MA)など(これらに限定されるものではない。)のビタミンD受容体活性化剤の保存方法が提供される。さらに詳細には、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密栓を施したバイアル中でのパリカルシトールまたはカルシトリオールの保存によって、薬剤の有効期間が延長する。クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密閉したバイアル中に保存した場合にパリカルシトールまたはカルシトリオールの安定性が高くなるのは、栓存在下とした時にパリカルシトールまたはカルシトリオールの分解速度が小さくなったことによる結果である。本発明の好ましい実施形態では、溶液でのパリカルシトールの有効期間が、ブチル、ブロモブチル、エチレンプロピレンジエンモノマーまたはポリイソプレンからなる群から選択されるポリマーを含むポリマー栓からなる栓で密閉されたガラスバイアルに保存されたパリカルシトールの溶液と比較して長くなる、パリカルシトールの分解の防止方法が開示される。
【0007】
別の実施形態では、クロロブチルまたは塩素化ブチル栓で密閉したガラスバイアル中に溶液を保存する段階を有する、静脈投与に用いられる溶液でのパリカルシトールの分解の防止方法が開示される。本発明のさらに別の実施形態では、注射器の栓がクロロブチルまたは塩素化ブチルポリマーからなるものである注射器にパリカルシトールを加える段階および溶液の分解を防止する上で十分な時間および条件下に前記注射器を維持する段階を有する、溶液でのパリカルシトールの分解の防止方法が開示される。
【0008】
本発明は、加速有効期間試験で栓で密閉されたバイアルに保存されたパリカルシトールの相対分解速度を測定するために、各種組成の栓を評価する方法を開示するものである。記載の方法は、現在市販されている製品を含む各種組成の栓で密閉した場合のパリカルシトールの溶液の相対分解速度を、ガラスアンプルに保存した同じ溶液と比較するものである。パリカルシトール(ゼンプラー(登録商標))およびカルシトリオール(カルシジェックス(登録商標))は、ビタミンD受容体活性化剤としてアボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories, 100 Abbott Park Rd, Abbott Park, Illinois 60064)によって現在市販されており、構造的に関連している。
【0009】
医薬品の有効期間は、固体であるか溶液であるかを問わず、それの保存状態での薬剤の分解速度に直接相関している。医薬品および/または溶液と接触する製剤、担体または保存容器などのある種の材料が、分解に関与する可能性があったり、分解に寄与する可能性がある。パリカルシトールが保存されているガラスまたは溶液がそれの分解に関与するか否かを確認するために、ガラスアンプル中にて溶液で保存されたパリカルシトールの分解を測定した。
【0010】
パリカルシトールの溶液を含む市販注射液バイアルの現在の有効期間は1年間である。本発明の1実施形態では、パリカルシトールの有効期間を約1から3年に延長する方法が開示される。本発明の好ましい実施形態では、パリカルシトールの溶液の有効期間を約2から3年に延長する方法が開示される。
【0011】
治療上有効量のビタミンD受容体活性化剤のある種の製剤は、50%の有機溶媒の水中混合物を含む。この有機溶媒は、代表的には、15%から約30%(体積比)エタノールの、グリコール誘導体(エチレンまたはプロピレングリコールなどがあるが、これらに限定されるものではない。)中の混合物である。ビタミンD受容体活性化剤用の代表的な注射製剤は、40から60%(体積比)アルコール水溶液を含む溶液で約1から10mcg/mLのものである。例えば、パリカルシトールについてのある好ましい製剤は、約2から5mcg/mLのパリカルシトールの50:30:20(体積比)での水、プロピレングリコールおよびエタノールの混合液溶液である。ビタミンD受容体活性化剤のある種の製剤については、米国特許第6136799号および米国特許第6361758号(これらは、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されている。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、パリカルシトールを含む溶液が現在市販されている容器中より遅い速度で分解する、栓を施したバイアルを開示する。新たな栓の存在下にパリカルシトールの分解速度が低くなることで、現在市販されているバイアルサンプルと比較した場合に、有効期間が長くなる。このようにパリカルシトール溶液の分解速度が低くなることで、大衆に対してより高純度の薬剤が提供され、市販のパリカルシトール注射剤の有効期限を長くすることができる。加速有効期間試験を通じて使用される試験内でパリカルシトールの溶液を保存したバイアルはI型であり、それは13mm仕上げを有するフリントガラスからなる5mLバイアルであった(Hospira, 4285 North Wesleyan Blvd., Rocky Mount, NC 27804から入手)。加速有効期間試験を通じて試験内でパリカルシトールの溶液を保存するのに用いたアンプルはI型であり、それはフリント硫黄処理5mLアンプル(Hospira, 4285 North Wesleyan Blvd., Rocky Mount, NC 27804から入手)であった。
【0013】
本試験内で比較した栓を表1に挙げてある。アシュランド(Ashland)の栓:アシュランド5212、アシュランド5287、アシュランド5153、アシュランド5337、アシュランド5330、アシュランド13mmPOE、アシュランド20mmPOE、アシュランドPOEおよびアシュランド・クラトン(Kraton)は、ホスピラ(Hospira, 268 East Fourth Street, Ashland, OH 44805)から入手した。ダイキョー(Daikyo)およびウェスト(West)栓は、ウェスト・ファーマシューティカル・サービシーズ(West Pharmaceutical Services, 101 Gordon Drive, Lionville, PA 19341)から入手した。
【0014】
パリカルシトールは、承認されたアボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)の目録(Abbott Laboratories, 100 Abbott Park Rd, Abbott Park, Illinois 60064)から入手した。
【0015】
【表1】
【実施例】
【0016】
(実施例I)
各種容器の栓を効果的に評価するために、加速安定性モデルを考案し、そこではパリカルシトール溶液を含み、27種類の栓で密閉したバイアルを、上下逆にし、80℃で21日間光から保護した。バイアルは、商業的入手先から得られた栓の組成のみにおいて異なるものであった。21日間の試験を通じて、サンプルは第2日、第7日、第14日および第21に取り出し、バイアルの内容物をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって分析して、既知濃度の対照サンプルと比較した試験化合物パリカルシトールの濃度を求めた。対照サンプルは、試験全期間(21日間)にわたり100%効力を維持した密閉ガラスアンプルに保存したパリカルシトール注射溶液からなるものであった。対照サンプルと比較した、試験栓を施して保存したバイアル中のパリカルシトールの相対濃度を測定して、21日間の試験にわたるパリカルシトールの安定性を示した。さらに、加速有効期間試験条件を同じバイアルで行い、バイアルのヘッドスペースにパリカルシトール溶液の上でアルゴンガスを充填してから適切な栓で密閉した。比較的低い濃度を酸素を含むアルゴン充填サンプルを対照サンプルと比較して、より不活性な雰囲気下での試験化合物の安定性を求めた。各種栓存在下でのパリカルシトールの溶液の80℃で21日間急速スクリーニングを計画して、現在市販されている製品で使用されている溶液と比較した試験化合物(すなわち、パリカルシトール)の安定性を予測した。
【0017】
パリカルシトール溶液の調製および安定性試験手順
パリカルシトール溶液調製液:(5mcg/mLの水−プロピレングリコール−エタノール/50:30:20;USP28−NF23 1471頁のガイドライン下で定義)は、90.0%以上および110.0%以下のラベル表示量のパリカルシトール(C27H44O3)を含むものである。5mLまたは10mL(20mm栓について)のI型ガラスバイアルに溶液1mLを加えた。バイアルを各種の栓で密閉した。酸素の効果を評価するため、第2の一連の同じバイアルにアルゴンを充填してから、栓でキャッピングを行った。いずれのサンプルも、光保護された80℃の乾燥器中にて上下逆にして保存して、溶液と栓との接触が最大となるようにした。アンプルサンプル(ヘッドスペースのアルゴンガス充填をおこなっていない)を準備し、同一の条件下にバイアルとともに保存して、対照として用いた。各種類の栓につき少なくとも2個のサンプルを第2日、第7日、第14日および第21日の時間点で抜き取り、それ以上希釈せずにHPLCを用いてアッセイを行った。各種組成の栓を含むバイアルからのパリカルシトール濃度プロファイルを、アンプルに入った同じ溶液と比較した。残ったパリカルシトールの相対濃度を21日試験の期間にわたってプロットして、試験栓存在下でのパリカルシトールの相対的安定性を確認した。
【0018】
HPLC検出手順(USP23−NF23 1470頁下で定義)
用いたクロマトグラフィーシステム:液体クロマトグラフィー装置に、252nm検出器および5μm充填材L1の入った4.6mm×25cmカラムを取り付け、流量を約2mL/分とした。対照標準についてクロマトグラフィーを行い。ピーク応答を手順に関しての指示に従って記録し、テーリング係数は2.0以下であり、反復注射についての相対標準偏差は2.0%以下であった。
【0019】
等量(約100から200μL)の標準調製液およびアッセイ調製液を別個にクロマトグラフィー装置に注入し、クロマトグラムを記録し、主要ピークについての応答を測定する。採取した注射液各1mL中のパリカルシトール(C27H44O3)の量を、下記式によってμgで計算する。
【0020】
【数1】
式中、Cは、USPパリカルシトール溶液RS中のパリカルシトールの含有量に基づいて計算される対照標準中のパリカルシトールの1mL当たりのミクログラム数での濃度であり;ruおよびrsはそれぞれ試験サンプルおよび対照標準から得られたパリカルシトールピーク応答である。
【0021】
結果
5つの安定性試験を行って、栓を評価した。アンプルおよびD777−1/FT/B2−40(市販製品用に商業的に使用される栓)栓バイアルを、各試験で対照として用いた。その5つの安定性試験は二連で行い、サンプルのうち少なくとも2個をアルゴンヘッドスペースガス充填を行って調製し、少なくとも2個をアルゴンヘッドスペースガス充填なしで調製した。
【0022】
得られた結果からは一貫して、ガラスアンプル中での試験化合物の保存が試験全体(21日間)を通じて約100%の効力を維持することが明らかになった。D777−1/FT/B2−40栓を施したバイアルサンプルは第7日時間点で効力の低下を示し始めた。D777−1/FT/B2−40栓の場合のサンプルの分解速度に変動があったが、この栓における効力低下は一貫しており、80℃分解モデルを用いて再現可能であった。従って、アンプルおよびD777−1/FT/B2−40栓が一貫しており、各実験において対照とした用いたことから、21間の80℃分解モデルは、パリカルシトールについてのD777−1/FT/B2−40栓と比較して栓の性能を予測する上で効果である。
【0023】
試験1は、アルゴンヘッドスペースガス充填ありとなしで栓番号3、7、8、10、12および13を比較した。アルゴンヘッドスペースなしで保存したサンプルについての試験1のデータ(図1)は、21日間の試験期間にわたってパリカルシトール濃度に顕著な低下を示した。栓番号8のテフゼル(Tefzel)コーティングを行ったアシュランドクロロブチルおよび栓番号7のテフゼルコーティングを行わないアシュランドクロロブチルが、21日間の試験期間にわたり最小の分解を示した。栓番号8を有するバイアルでのパリカルシトール濃度は、アンプル中で保存したサンプルと同等であった。
【0024】
アルゴンヘッドスペースガス充填を行った同じ栓を比較する試験1のデータ(図2)から、アルゴンガス充填を行わないサンプルの分解速度と比較した場合のある種のサンプルについてのパリカルシトールの分解速度における勾配の変化が示された。この分解速度における変化は、ある種のサンプルがアルゴン充填したヘッドスペースでより遅く分解することを示すものであった。ある種のサンプルについて分解速度に変化があったが、分解の唯一の原因が酸素であると結論付けるのに十分有意な変化ではなかった。やはり、パリカルシトールは、他の栓でのサンプルと比較してクロロブチル栓でのサンプルにおいてより安定であった。
【0025】
試験2では、異なる材料製で異なるコーティングを含むダイキョー(Daikyo)栓とウェスト(West)栓の間で比較を行った。アルゴンガス充填を行わないサンプルについての試験2のデータ(図3)からは、パリカルシトール溶液と最も適合性が高い栓が6、25および26であり、これらはいずれも塩素化ブチルまたはクロロブチルのいずれかからなるものであることがわかる。塩素化ブチル栓またはクロロブチル栓存在下でのパリカルシトールの安定性が一貫して上昇していること(供給者とは無関係に)も、アルゴン充填ヘッドスペースを有するサンプルで示された。さらに、試験2の結果から、80℃で21日間にわたり、パリカルシトール濃度がウェストクロロブチル栓およびダイキョー塩素化ブチル栓の場合に未変化のままであったことが明らかとなった。これらの適合性の栓を施したパリカルシトールサンプルの安定性プロファイルは、アンプル対照と同様であった。バイアルヘッドスペースでのアルゴン充填(図4)によって、ブチル、ブロモブチルおよびPOE栓を施したサンプルについてのパリカルシトールの安定性が高められた。しかしながら、21日間隔でのパリカルシトールの濃度は、クロロブチル栓および塩素化ブチル栓のサンプルと比較した場合に、これらのサンプル中でやはり最低であった。
【0026】
試験3では、アシュランド5212クロロブチル栓を各種コーティング材料と比較した。アルゴンガス充填を行わないサンプルの結果(図5)は、プラズマコーティングおよびPropコーティングが一定の安定性プロファイルのためにパリカルシトール溶液と同等であることを示している。試験3のアルゴンヘッドスペースガス充填を含むサンプル内に含まれるパリカルシトールの濃度における同様の上昇(図6)を測定した。
【0027】
試験4では、別のコーティングまたはフルオロテック(fluorotec)を含むクロロブチル(または塩素化ブチル)からなる栓B2−40またはB2−44を比較した。クロロブチル材料からなる栓は、21日試験を通じてパリカルシトールの最高濃度を一貫して維持した(図7および8)。得られた結果は、ウェスト4432/50栓サンプルがバリアコーティングがない場合であっても、アンプルサンプルと同様に良好な性能を有することを示した。
【0028】
これら4つのスクリーニング試験での安定性結果に基づいて、クロロブチル栓または塩素化ブチル栓が、アンプル中に保存したゼンプラー(登録商標)(パリカルシトール)注射液で用いる上で主要な候補であるように思われた。試験を通じて最少のパリカルシトール分解を示した栓は、アシュランド5212/テフゼル、ウェスト4432/50/FT/B2−40、ウェスト4432/50/テフロン(登録商標)およびダイキョーD−21−7/FT/B2−40栓であった。
【0029】
試験1から4は、実験室規模で行った。4つの主要な栓についてさらに調べるため、標準的な製造方法に最も近いパイロットプラントでサンプルを製造する試験5を行った。試験5内では、使用に先立って、市販製品の製造説明書に従って栓の洗浄および処理を行った。アンプルおよびD777−1/FT/B2−40栓を施したバイアルサンプルを同時に製造して、対照として用いた。試験5の結果から、ウェスト4432/50栓およびダイキョーD−21−7栓についての濃度プロファイルがアンプルサンプルと同様であることが明らかである(図9および10)。クロロブチル栓および塩素化ブチル栓もやはり、ヘッドスペースアルゴンガス充填なしでのパリカルシトール溶液についてD777−1/FT/B2−40栓より良好な性能を示した。得られた結果は、実験室規模の試験での所見と一致しており、それによって、クロロブチル栓および塩素化ブチル栓がパリカルシトール溶液と適合性であることが確認された。
【0030】
80℃安定性モデルがゼンプラー(登録商標)注射液について各種栓を比較してパリカルシトール溶液の長期安定性を予測する実施例1の結果から、栓のポリマーの種類がパリカルシトール溶液の安定性にとって非常に重要であることがわかる。クロロブチルまたは塩素化ブチルからなる栓で密閉したバイアルで、21日間にわたっての分解速度が最も低かった。
【0031】
(実施例II)
パリカルシトール溶液中の栓抽出物の評価
パリカルシトールの濃度低下機構を調べるため、同様の80℃安定性試験を行い、その試験ではHPLCによってサンプルを分析して、保存中に栓からパリカルシトール溶液中にとけ込んだ抽出物を調べた。サンプルは210nmに設定したUV検出器を用いる勾配HPLC法によって分析して、可能な抽出物を評価した。
【0032】
この試験で調べた栓はパイロットプラントで洗浄および処理を行ってから、試験サンプルの調製を行った。21日間の80℃での保存後に、210nmの波長でのHPLCによってサンプルを分析した。20分から60分のクロマトグラム領域は、選択した適合性の栓を用いたパリカルシトール溶液において同様であった。51分付近に保持時間を有する2本の主要なピークが認められ、それらは酸化防止剤であるBHTおよび2,2′−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)とそれぞれ同じ保持時間を有していた。そのHPLCクロマトグラムは、テフロン(登録商標)、フルロテックまたはテフゼルなどの栓バリアとは無関係に、ウェスト4432/50栓およびダイキョーD−21−7栓からBHTが抽出され、2,2′−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)がアシュランド5212栓から抽出されることを示していた。BHTおよび2,2′−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)のこれら2つのピークは、D777−1/FT/B2−40栓サンプルのクロマトグラムでは認めることはできなかった。
【0033】
BHTは酸化防止剤であり、酸化的分解から化学物質および材料を保護するのに用いられることが多く、いくつかの栓に存在する。21日間80℃の保存中、ならびに9ヶ月間にわたって実施した別個の25℃、30℃および40℃安定性試験の間、試験サンプルでBHTのレベルを確認した。25、30および40℃安定性試験で認められたBHTの平均量は、約0.4mcg/mLであることが認められた。BHTがパリカルシトール溶液の安定性を高めるか分解を引き起こすかを確認するために、製剤試験を実施して、35日間80℃分解モデルを用いて、現在の栓を用いたゼンプラー(登録商標)製剤でのパリカルシトールの安定性に対するBHTの効果を評価した。この試験では、0.05、0.1、0.5および1.0mcg/mLの濃度を有するゼンプラー(登録商標)製剤に、各種量のBHTを加えた。対照は、アンプル中およびD777−1/FT/B2−40もしくは4432/50/Flu/B2−40栓のいずれかで密閉したバイアルに入ったBHTを含まないゼンプラー製剤からなるものとした。試験の途中において、アンプルおよび4432/50/Flu/B2−40栓を有するバイアル内のサンプルのパリカルシトール濃度は、35日間を通じて一定のままであった。例えBHTを用いた全てのゼンプラー製剤が現在の栓サンプルについてのBHTを用いないものと比較して低い分解速度を示したとしても、パリカルシトールの一定の損失がやはり明らかであった。これらの結果は、パリカルシトールの損失がBHTの存在に直接関係するものではないことを示している。従って、十分に解明されていない原因によって、4432/50/Flu/B2−40栓を用いたサンプルに含まれるパリカルシトール溶液の安定化向上が生じたものである。
【0034】
実施例IIの結果は、35日間の80℃安定性試験の途中においてパリカルシトール溶液で認められる可能な抽出物を測定することで分解の主因を確認する上では決定的なものではなかった。ある種の試験サンプルでは酸化防止剤が認められたが、BHTを含むサンプルがパリカルシトール溶液の分解または安定化に寄与したようには思えなかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】試験1でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図2】試験1でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図3】試験2でのパリカルシトール溶液(ヘッドスペースアルゴンガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図4】試験2でのパリカルシトール溶液(ヘッドスペースアルゴンガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図5】試験3でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図6】試験3でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図7】試験4でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図8】試験4でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図9】試験5でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填なし)の安定性結果を示す図である。
【図10】試験5でのパリカルシトール溶液(アルゴンヘッドスペースガス充填あり)の安定性結果を示す図である。
【図11】各種量のBHTを含むゼンプラー(登録商標)静注製剤の80℃での効力プロファイルを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解を防止する上で十分な時間および条件下でクロロブチル、塩素化ブチル、フルオロブチルおよびフッ素化ブチルからなる群から選択されるハロゲン化ブチルポリマーを含む栓で密閉されたガラスバイアル中で医薬品を保存する段階を有する、医薬品の分解の防止方法。
【請求項2】
前記栓がクロロブチルまたは塩素化ブチルポリマーからなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬品が溶液状態である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記医薬品がビタミンD受容体活性化剤である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ビタミンD受容体活性化剤がパリカルシトールである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ブチル、ブロモブチル、エチレン−プロピレンジエンモノマーまたはポリイソプレンからなる群から選択されるポリマーを含むポリマー栓で密閉したガラスバイアル中に保存されたパリカルシトールの溶液と比較して、溶液中のパリカルシトールの有効期間が延長される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記パリカルシトール溶液を静脈投与する請求項5に記載の方法。
【請求項8】
栓がクロロブチルまたは塩素化ブチルポリマーからなる注射器にパリカルシトールを加える段階ならびに前記得られる注射器を溶液の分解を防止する上で十分な時間および条件下に維持する段階を有する、事前装填注射器中でのパリカルシトールの溶液の分解防止方法。
【請求項1】
分解を防止する上で十分な時間および条件下でクロロブチル、塩素化ブチル、フルオロブチルおよびフッ素化ブチルからなる群から選択されるハロゲン化ブチルポリマーを含む栓で密閉されたガラスバイアル中で医薬品を保存する段階を有する、医薬品の分解の防止方法。
【請求項2】
前記栓がクロロブチルまたは塩素化ブチルポリマーからなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬品が溶液状態である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記医薬品がビタミンD受容体活性化剤である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ビタミンD受容体活性化剤がパリカルシトールである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ブチル、ブロモブチル、エチレン−プロピレンジエンモノマーまたはポリイソプレンからなる群から選択されるポリマーを含むポリマー栓で密閉したガラスバイアル中に保存されたパリカルシトールの溶液と比較して、溶液中のパリカルシトールの有効期間が延長される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記パリカルシトール溶液を静脈投与する請求項5に記載の方法。
【請求項8】
栓がクロロブチルまたは塩素化ブチルポリマーからなる注射器にパリカルシトールを加える段階ならびに前記得られる注射器を溶液の分解を防止する上で十分な時間および条件下に維持する段階を有する、事前装填注射器中でのパリカルシトールの溶液の分解防止方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2009−525063(P2009−525063A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551419(P2008−551419)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/001459
【国際公開番号】WO2007/084676
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/001459
【国際公開番号】WO2007/084676
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】
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