説明

クローラ型走行装置及び段差乗り越え方法

【課題】 フリッパ式クローラを用いた走行装置において、クローラによる牽引力が弱い場合でも段差を容易に乗り越えられるようにする。
【解決手段】
走行装置は、本体1と、この本体1の前部および後部に配置されたクローラユニット2を備えている。クローラユニット2は、移動体と、この移動体の左右に支持された一対のクローラ20と、このクローラ20の駆動輪22を回転させてクローラベルト24を回す第1駆動手段と、クローラ20全体を駆動輪の軸線を中心として揺動させる第2駆動手段とを備えている。更に走行装置は、上記移動体を本体1に対して前後方向にスライド可能に支持するガイド手段50と、この移動体を本体1に対して前後方向に移動させ、これによりクローラユニット2全体を本体1に対して前後方向に位置調節する移動手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体の前後にそれぞれ左右一対のフリッパ式クローラを備えた走行装置及びこの走行装置による段差乗り越え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明の基本構成を備えた走行装置、すなわち本体の前部と後部に左右一対のフリッパ式クローラを配置した走行装置は、特許文献1の図8に示すように公知である。この走行装置が平坦な整地を走行する場合には、前側のクローラを前方に水平に倒し、後側のクローラを後方に水平に倒し、これら前後のクローラを本体から突出させて走行する。この走行装置が不整地を走行する場合には、クローラを凹凸に対応して揺動させて走行する。
【0003】
本願発明と基本構成は異なるものの、特許文献2,3には本願発明の特徴部に関連する走行装置を開示している。以下、各特許文献について説明する。
【0004】
特許文献2は、本体の左右に一対のクローラを装備した走行装置を開示している。この走行装置において、クローラの駆動輪は本体に所定位置で回転可能に支持されており、本体に設けられた原動機によって回転駆動される。クローラの前後の従動輪は本体に対して前後方向に位置調節され、これにより、クローラの接地部が本体に対して前後方向に位置調節される。特に図8の第5実施例では、走行フレーム10の前後端に従動輪が回転可能に支持され、この走行フレームがスライド調節機構を介して本体側のフレームに支持されている。この調節機構により、走行フレーム10が本体に対して前後方向に位置調節され、ひいてはクローラの前後の従動輪が本体に対して前後方向に位置調節される。
【0005】
特許文献3も、本体の左右に一対のクローラを装備した走行装置を開示している。この走行装置では、クローラがリンクを介して本体に設けられており、このリンクをシリンダで回動させることにより、クローラを本体に対して左右方向(幅方向)に移動させる。この際、クローラは本体に対して前後方向にも移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−279087号公報
【特許文献2】特開2000−233773号公報
【特許文献3】特開平7−237566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の走行装置では、フリッパ式クローラが本体に対して回動するものの、その回動中心位置が変わらないため、その走行性能が低かった。例えば砂地等の軟弱地盤で走行したり、浮力が作用する水中で走行する場合に、クローラによる牽引力が弱いので、段差を乗り越えるのに困難が伴うことがあった。
【0008】
特許文献2の走行装置では、クローラの駆動輪が本体の固定位置に支持されており、前後の従動輪が前後方向に位置調節される。従動輪は一定長さのベルトが緩まずに掛けられる位置にしなければならず、実質的には前後の2位置しか取り得ない。そのため、走行中に従動輪の位置調節をすることはできず、例えば段差乗り越え性能の改善に寄与するような構造を提案するものではない。
【0009】
特許文献3の走行装置では、クローラが前後方向だけでなく左右方向にも移動するため、特殊な用途にしか用いることができない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その一態様では、
本体と、この本体の前部および後部にそれぞれ配置された左右一対のクローラとを備え、各クローラが、前後に離れて配置された駆動輪および従動輪と、これら駆動輪および従動輪に掛け渡されたクローラベルトとを有し、上記クローラの駆動輪を回転させてクローラベルトを回す第1駆動手段と、クローラ全体を駆動輪の軸線を中心として揺動させる第2駆動手段とを備えた走行装置において、
上記本体の前部、後部の少なくとも一方に移動体が配置され、この移動体に上記左右一対のクローラとこれらクローラのための上記第1、第2の駆動手段が支持されることにより、クローラユニットが構成され、さらに、上記移動体を上記本体に対して前後方向にスライド可能に支持するガイド手段と、上記移動体を上記本体に対して前後方向に移動させ、これにより上記クローラユニット全体を上記本体に対して前後方向に位置調節する移動手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、各クローラが揺動するばかりではなく、本体の前部及び/又は後部に設けたクローラユニットを本体に対して前後方向にスライドすることにより、このクローラユニットに支持されたクローラを本体に対して前後方向に位置調節することができるので、種々の走行状況に応じて多様なクローラ制御を実行でき、走行性能を向上させることができる。
【0012】
本発明の他の態様では、本体の前部及び/又は後部に設けたクローラユニットが左右に一対装備されている点が上記態様と異なる。これによれば、構造は複雑になるが、左右のクローラを別々に前後方向にスライド調節できるので、走行性能をさらに向上させることができる。
【0013】
好ましくは、上記ガイド手段が上記本体に固定されて前後方向に延びるロッドと、上記移動体に固定されこのロッドに案内されて走行するスライダとを有し、上記移動手段が、上記本体に固定されて前後方向に延びる細長い第1係合部材と、上記移動体に回転可能に支持されて上記第1係合部材に係合する第2係合部材と、上記移動体に支持されて上記第2係合部材を回転させる第3駆動手段とを備え、上記第2係合部材を回転させることにより、上記第2係合部材の上記第1係合部材に対する係合位置を変え、ひいては上記クローラユニットの上記本体に対する前後位置を調節する。
この構成によれば、本体側に長尺のロッドと第1係合部材を固定したので、クローラユニットの前後方向寸法を増大させずに済む。
【0014】
好ましくは、上記移動体は上方に延びる支持板を有し、上記第1、第2駆動手段がそれぞれモータを含み、これらモータが上記支持板の上部に固定されるとともに中空をなす本体内に配置されている。
これによれば、クローラの接地機能を確保しつつ、走行装置の小型化を図ることができる。
【0015】
好ましくは、上記クローラユニットが上記本体の前部および後部の両方に装備される。これによれば、走行装置の走行性能をより一層向上させることができる。
【0016】
本発明は、上記走行装置を制御して段差を乗り越える方法において、全てのクローラのクローラベルトを同方向に回して走行装置を走行させ、この走行の過程で、
ア.進行方向の前側のクローラユニットを最前位置にスライドさせるとともに、進行方向の前側のクローラを斜め上方に回動させ、進行方向の後側のクローラを本体から後方に向けて突出させた状態で、走行装置を段差に近づける工程と、
イ.次に、進行方向の前側のクローラを段差に当てて段差の段鼻部に乗り上げさせ、さらにこれら前側のクローラを下方に回動させて上記段鼻部を超えさせる工程と、
ウ.次に、進行方向の後側のクローラを下方に回動させることにより本体における進行方向の後側の部位を持ち上げるとともに、進行方向の前側のクローラユニットを上記本体に対して相対的に後方にスライドさせることにより、本体の重心を進行方向に移動させる工程と、
を実行する特徴とする。
【0017】
上記方法によれば、例えば砂地等の軟弱地盤で走行したり、浮力が作用する水中で走行する場合に、クローラによる牽引力が弱くても、本体重心の移動により段差を円滑に乗り越えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、クローラユニットの前後方向スライド制御を加えることにより、フリッパ式クローラを備えた走行装置の走行性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態をなす水中走行装置を示す側面図であり、前側クローラユニットを後退させた状態で示す。
【図2】同走行装置を前方から見た正面図である。
【図3】同走行装置の本体上部を省略し、前後のクローラユニットをボデイから突出させた状態で示す平面図である。
【図4】同走行装置のクローラユニットを省略し、ガイド手段と移動手段を一部断面にして示す側面図である。
【図5】前側のクローラユニットの平面図である。
【図6】前側のクローラユニットを前方から見た正面図である。
【図7】同走行装置が水中の傾斜面を上りながら走行する様子を示す概略図である。
【図8】(A)〜(H)は、同走行装置が水中の段差を乗り越える際の作用を順を追って説明する概略図である。
【図9】本発明の第2実施形態をなす水中走行装置を示す図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1実施形態に係わる水中走行装置(水中探査ロボットまたは水中作業ロボットともいう)について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の走行装置は比較的小型軽量のクローラ型サービスロボットである。
最初に走行装置の基本構成を簡単に説明する。図1〜図6には理解を容易にするために、前後左右を矢印で示す。このロボットは、長い本体1と、この本体1の前後に設けられた一対のクローラユニット2とを備えている。
【0021】
上記本体1は、平面形状が前後に長い矩形をなすベースフレーム1aと、このベース部1aの上面に固定された支持フレーム1bとを有している。この支持フレーム1bには例えば4個のフロート3が固定されている。本体1の下側の部分は中空をなしている。
【0022】
上記支持フレーム1bの上面中央には引っ掛け部(図示しない)が形成され、この引っ掛け部に連結されたケーブル(図示しない)により、走行装置が母船または潜水艇等から上げ降ろしされるようになっている。
【0023】
図1、図4にのみ概略的に示すように、上記本体1の支持フレーム1bの前端および後端には、ライト4とビデオカメラ5が設けられており、必要に応じて上記本体1には多関節のロボットアーム等からなるマニピュレータ(図示しない)が設けられる。
【0024】
上記ボデイ1の支持フレーム1bにはさらにコントロールユニット6(制御手段)が固定されており、このコントロールユニット6と母船または潜水艇等の基地局との間でケーブルを介して送受信が行われるようになっている。
【0025】
コントロールユニット6はビデオカメラ5による映像を基地局に送る。基地局の操作者はビデオカメラ5による映像を見ながら遠隔操作信号を送り、コントロールユニット6はこの遠隔操作信号に応答して、クローラユニット2やマニピュレータのための制御を行なう。
【0026】
前後のクローラユニット2は同一構成をなしているので、前側のクローラユニット2について説明し、後側のクローラユニット2には図において対応する構成部に同番号を付してその説明を省略する。
図1、図5、図6に最も良く示すように、クローラユニット2は、左右方向に延びる細長い移動体10と、この移動体10の左右端に支持されたクローラ20とを有している。
【0027】
上記移動体10は、左右方向に細長い平面略長方形のベースフレーム11と、このベースフレーム11の左右端部に固定されたサポート12とを有している。
上記ベースフレーム11は、左右方向に延び前後に離間した長板11aの左右端に端板11bを固定することにより中空に構成されている。これら長板11aと端板11bは垂直をなしている。端板11bは長板11aから下方に突出している。
左右のサポート12は、端板11bに順に固定されたブロック12a,支持板12b、ブラケット12cを有している。この支持板12bは垂直をなして上方に突出し、その上部が本体1の左右側面に近接して配置されている。
【0028】
各クローラ20は、左右一対の細長い側板21と、これら一対の側板21の両端部間に回転可能に支持された駆動輪22および従動輪23(いずれも図1のみ破線で示す)と、これら駆動輪22および従動輪23に掛け渡されたクローラベルト24とを有している。図5、図6に示すように、クローラベルト24は周方向に離間した多数の接地ラグ24aを有しているが、図1ではその外接円のみ示す。
【0029】
上記クローラ20の駆動輪22の車軸は、上記移動体10のサポート12に回転可能に支持され、第1駆動手段30により正逆方向に回転駆動されるようになっている。この第1駆動手段30は、支持板12bの上部に固定されたモータ31と、このモータ31の出力軸に固定されたプーリ32と、上記駆動輪22の車軸に固定されたプーリ33と、これらプーリ32,33間に掛け渡された伝達ベルト34とを有している。
【0030】
上記モータ31の駆動でプーリ32,33および伝達ベルト34(動力伝達系)を介して駆動輪22を回転させ、クローラベルト24を回すことにより、走行装置を走行させることができる。全てのクローラ20が正回転すると走行装置が前進し、逆回転すると走行装置が後退する。さらに4つのクローラ20を適宜回転制御することにより、走行装置を旋回させることもできる。
【0031】
クローラ20全体は、第2駆動手段40により駆動輪22の軸線L(図6参照)を中心として揺動(回動)され、フリッパとしての役割を担うようになっている。この第2駆動手段40は、支持板12bの上部に固定されたモータ41を有するとともに、動力伝達系として、このモータ41の出力軸に固定されたプーリ42と、クローラ20の側板21に固定されて駆動輪22の車軸に回転可能に支持されたプーリ43と、これらプーリ42,43間に掛け渡された伝達ベルト44とを有している。
【0032】
上記第1、第2駆動手段30,40のモータ31,41は、互いに平行をなして、本体1の中空をなす下部内に配置されている。
【0033】
図4、図5に最も良く示すように、各クローラユニット2は、ガイド手段50により本体1に対して前後方向にスライド可能に支持されている。
このガイド手段50は、前後のクローラユニット2に共通の、左右一対のガイドロッド51を有している。これらガイドロッド51は前後方向に延び、その両端が本体1のベースフレーム1aの前辺部と後辺部に固定され、その中央がベースフレーム1aに固定されたサポート52に支持されている。
上記ガイドロッド51の前部が前側のクローラユニット2のガイドに提供され、後部が後側のクローラユニット2のガイドに提供される。
【0034】
各クローラユニット2のガイド手段50は、移動体10のベースフレーム11において前後2つの長板11aの左右端部に固定された合計4つのスライダ55を有している。各スライダ55には貫通穴が形成されており、この貫通穴にブッシュ55aが装着されている。
【0035】
上記左右のガイドロッド51が、上記長板11aを貫通し前後のスライダ55のブッシュ55aを貫通することにより、移動体10がスライド可能に支持され、ひいてはクローラユニット2が本体1に対して前後方向にスライド可能に支持されている。
【0036】
各クローラユニット2は、移動手段60により本体10に対して前後方向に移動されるようになっている。この移動手段60は、前後方向に延びてその両端が本体1のベースフレーム1aの前辺部と中間部とに固定されたラック61(第1係合部材)と、このラック61と噛み合うピニオン62(第2係合部材)と、このピニオン62を正逆方向に回転するモータ63(第3駆動手段)とを有している。
【0037】
図5に示すように、上記ピニオン62とモータ63は、移動体10のベースフレーム11内に配置されている。より具体的には、上記ピニオン62はベースフレーム11の長板11a間に掛け渡された補助板15に回転可能に支持されており、上記モータ63も長板11a間に掛け渡された他の補助板16に水平をなして固定されている。
【0038】
各クローラユニット2は、対応する移動手段60のモータ63を駆動し、ピニオン62のラック61に対する係合位置を変えることにより、本体1に対して前後方向に位置調節される。
【0039】
上記構成をなす走行装置は、前述したように第1駆動手段30で各クローラ20を回転駆動することにより走行する。比較的高速度で走行する場合は水の抵抗を受けてバランスが保ちにくく、図7に示すように斜面を登ったり降りたりする場合にも、バランスを保ちにくいが、このような状況では、図3,図7に示すように、移動手段60により前側のクローラユニット2を本体1から最大限前方に突出し、後側のクローラユニットを最大限後方に突出させるとともに、第2駆動手段40により各クローラ20を本体1のベースフレーム11とほぼ水平に倒す。これにより、前側クローラ20の接地部の前端X1と後側クローラ20の接地部の後端X2との距離Dは最大となり、最も安定した走行姿勢をとることができる。
【0040】
また、傾斜していない地盤を低速度で走行する場合には、移動手段60により前後のクローラユニット2を本体1に向かって後退させることにより、前側クローラ20の接地部の前端X1と後側クローラ20の接地部の後端X2との距離Dは最小にする。このようにすれば、クローラ20が砂や泥濘を巻き上げる量を抑制し、ビデオカメラ5の映像を乱さない。
【0041】
上記のように、クローラ20の接地部の前端X1と後端X2との距離Dを調節することができる。前側のクローラ20の位置と後側クローラ20の位置は個別に調節できされるので、上記距離Dの接地領域における走行装置の重心位置も調節することができる。
【0042】
海底に凹凸がある場合にはその凹凸に合わせて第2駆動手段40を駆動してクローラ20を揺動させることにより安定して走行することができる。
【0043】
次に、図8(A)〜(H)を参照して、走行装置が段差を乗り越える際の作用を説明する。初期状態では、図7に示すのと同じように前側のクローラユニット2のスライド位置が最も前にあり、そのクローラ20が前方に倒れて、ほぼ水平をなしており、後側のクローラユニット2のスライド位置が最も後にあり、そのクローラ20が後方に倒れて、ほぼ水平をなしている。
【0044】
全てのクローラ20を同一方向、同一速度で回転駆動し、走行装置を前進させる。この走行装置の前進は以下の図8(A)〜図8(H)の工程において継続される。
【0045】
走行装置が段差100に近づいたら、前側のクローラユニット2の左右一対のクローラ20を所定角度上げる(図8(A)参照)。
【0046】
やがて、前側のクローラ20が段差100に当たると(図8(B)参照)、前側のクローラ20が段差100の段鼻部101を上り始める。前側のクローラ20が段鼻部101を昇る途中で、前側のクローラ20を下方に回動させる。これにより、前側のクローラ20は段鼻部101を乗り越える(図8(C)参照)。この前側のクローラ20の下方への回動工程において後側のクローラ20を少しだけ上げ、これにより後側のクローラ20の接地領域を確保するのが好ましい。
【0047】
次に、後側のクローラ20を下方に回動させ、これにより本体1の後部を徐々に持ち上げてその傾きを減じる(図8(D)参照)。この本体1の後部の持ち上げ工程において、前側のクローラユニット2を本体1に対して徐々に後方にスライドさせる。前側のクローラ20は後側のクローラ20と同様に前進を続けているから、結果として、本体1が前側のクローラ20に対して前進することになる。
【0048】
海底等の砂地等の軟弱地盤ではクローラ20による牽引力が弱く、しかも浮力が作用するためより一層牽引力が弱くなるが、上述したように本体1の重心の移動により段差100を円滑に乗り越えることができる。
【0049】
次に、前側のクローラ20を少し上げることにより、前側のクローラ20のほぼ全体を接地させるとともに、本体1の傾きを減じる(図8(E)参照)。
【0050】
やがて後側のクローラ20が段鼻部101に当たる(図8(F)参照)。その後、後側のクローラ20を段鼻部101を通過する過程で徐々に上げる。段差100を越え終わると、前後のクローラ20は略水平になる(図8(G)参照)。
【0051】
最後に前側クローラユニット2を前進させて本体1から突出させ、初期状態にする(図8(H)参照)。
【0052】
なお、本体1の後部を進行方向に向けて走行しながら(後退しながら)、段差を乗り越える場合には、前後のクローラ20の制御を上記とは逆にすればよい。
上記段差乗り越えは、遠隔操作により行っているが、これをコントロールユニットでの自動制御により行ってもよい。
【0053】
次に、本発明の第2実施形態について図9を参照しながら説明する。この実施形態において、第1実施形態に対応する構成部は図において同番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0054】
第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、本体1の前部および後部のそれぞれに、左右一対のクローラユニット2L、2Rが配置されていることである。これらクローラユニット2L、2Rは、左右に配置された移動体10L、10Rのそれぞれに、1つのクローラ20とこのクローラ20のための第1、第2駆動手段30,40を組み込むことにより、構成されている。
【0055】
第2実施形態では、左右のクローラユニット2L、2Rは、対応するガイド手段50と移動手段60により独立してスライド制御される。
【0056】
本発明は、上記実施例に制約されず、種々の態様を採用することができる。例えば、移動手段は、雄ねじロッド(第1係合部材)と、この雄ねじロッドに螺合されるナット(第2係合部材)と、このナットを回転させる第3駆動手段により構成してもよい。
本発明は、陸上走行用の走行装置にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、水中や陸上を走行し、段差を上る走行装置に適している。
【符号の説明】
【0058】
1 本体
2、2L、2R クローラユニット
10,10L、10R 移動体
20 クローラ
30 第1駆動手段
31 モータ
40 第2駆動手段
41 モータ
50 ガイド手段
51 ガイドロッド
55 スライダ
60 移動手段
61 ラック(第1係合部材)
62 ピニオン(第2係合部材)
63 モータ(第3駆動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、この本体の前部および後部にそれぞれ配置された左右一対のクローラとを備え、各クローラが、前後に離れて配置された駆動輪および従動輪と、これら駆動輪および従動輪に掛け渡されたクローラベルトとを有し、
上記クローラの駆動輪を回転させてクローラベルトを回す第1駆動手段と、クローラ全体を駆動輪の軸線を中心として揺動させる第2駆動手段とを備えた走行装置において、
上記本体の前部、後部の少なくとも一方に移動体が配置され、この移動体に上記左右一対のクローラとこれらクローラのための上記第1、第2の駆動手段が支持されることにより、クローラユニットが構成され、
さらに、上記移動体を上記本体に対して前後方向にスライド可能に支持するガイド手段と、上記移動体を上記本体に対して前後方向に移動させ、これにより上記クローラユニット全体を上記本体に対して前後方向に位置調節する移動手段とを備えたことを特徴とする走行装置。
【請求項2】
本体と、この本体の前部および後部にそれぞれ配置された左右一対のクローラとを備え、各クローラが、前後に離れて配置された駆動輪および従動輪と、これら駆動輪および従動輪に掛け渡されたクローラベルトとを有し、
上記クローラ毎に、その駆動輪を回転させてクローラベルトを回す第1駆動手段と、クローラ全体を駆動輪の軸線を中心として揺動させる第2駆動手段とを備えた走行装置において、
上記本体の前部、後部の少なくとも一方に左右一対の移動体が配置され、これら移動体のそれぞれに、上記クローラとこのクローラのための上記第1、第2の駆動手段が支持されることにより、左右一対のクローラユニットが構成され、
さらに、上記移動体を上記本体に対して前後方向にスライド可能に支持するガイド手段と、上記移動体を上記本体に対して前後方向に移動させ、これにより上記クローラユニット全体を上記本体に対して前後方向に位置調節する移動手段とを備えたことを特徴とする走行装置。
【請求項3】
上記ガイド手段が上記本体に固定されて前後方向に延びるロッドと、上記移動体に固定されこのロッドに案内されて走行するスライダとを有し、
上記移動手段が、上記本体に固定されて前後方向に延びる細長い第1係合部材と、上記移動体に回転可能に支持されて上記第1係合部材に係合する第2係合部材と、上記移動体に支持されて上記第2係合部材を回転させる第3駆動手段とを備え、上記第2係合部材を回転させることにより、上記第2係合部材の上記第1係合部材に対する係合位置を変え、ひいては上記クローラユニットの上記本体に対する前後位置を調節することを特徴とする請求項1または2に記載の走行装置。
【請求項4】
上記移動体は上方に延びる支持板を有し、上記第1、第2駆動手段がそれぞれモータを含み、これらモータが上記支持板の上部に固定されるとともに中空をなす本体内に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の走行装置。
【請求項5】
上記クローラユニットが上記本体の前部および後部の両方に装備されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の走行装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の走行装置を制御して段差を乗り越える方法において、全てのクローラのクローラベルトを同方向に回して走行装置を走行させ、この走行の過程で、
ア.進行方向の前側のクローラユニットを最前位置にスライドさせるとともに、進行方向の前側のクローラを斜め上方に回動させ、進行方向の後側のクローラを本体から後方に向けて突出させた状態で、走行装置を段差に近づける工程と、
イ.次に、進行方向の前側のクローラを段差に当てて段差の段鼻部に乗り上げさせ、さらにこれら前側のクローラを下方に回動させて上記段鼻部を超えさせる工程と、
ウ.次に、進行方向の後側のクローラを下方に回動させることにより本体における進行方向の後側の部位を持ち上げるとともに、進行方向の前側のクローラユニットを上記本体に対して相対的に後方にスライドさせることにより、本体の重心を進行方向に移動させる工程と、
を実行することを特徴とする段差乗り越え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−61963(P2012−61963A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207945(P2010−207945)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)