グラウト注入施工方法、この施工方法を用いた桟橋施工方法及びこの施工方法に適用可能な基礎杭固定構造
【課題】基礎杭と被取付部との間隙に注入するグラウトについて水中で施工することによる品質低下を防止するとともに、施工期間を短くでき効率的に実施できるグラウト注入施工方法、この施工方法を用いた桟橋施工方法及びこの施工方法に適用可能な基礎杭固定構造を提供する。
【解決手段】このグラウト注入施工方法は、打設された基礎杭1に可撓性チューブ11及び止水蓋12を取り付ける工程と、基礎杭に据え付けられた被取付部3の下端16に止水蓋を接触させ、可撓性チューブを止水蓋の下面近傍に位置させる工程と、可撓性チューブを空気充填により膨張させて基礎杭と止水蓋の下面14とに押し付けることで被取付部の下端と止水蓋との間及び基礎杭と被取付部との間を止水構造とする工程と、被取付部と基礎杭との間の水を排出する工程と、取被付部と基礎杭との間にグラウトを注入する工程と、を含む。
【解決手段】このグラウト注入施工方法は、打設された基礎杭1に可撓性チューブ11及び止水蓋12を取り付ける工程と、基礎杭に据え付けられた被取付部3の下端16に止水蓋を接触させ、可撓性チューブを止水蓋の下面近傍に位置させる工程と、可撓性チューブを空気充填により膨張させて基礎杭と止水蓋の下面14とに押し付けることで被取付部の下端と止水蓋との間及び基礎杭と被取付部との間を止水構造とする工程と、被取付部と基礎杭との間の水を排出する工程と、取被付部と基礎杭との間にグラウトを注入する工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎杭と被取付部との結合のためのグラウト注入施工方法、この施工方法を用いた桟橋施工方法及びこの施工方法に適用可能な基礎杭固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のジャケット式桟橋の一般的な施工手順について図を参照して説明する。図10に示すように、基礎杭(鋼管杭)1を水底から地盤Gに打設し(a)、レグ3を有するジャケット2を運搬し(b)、レグ3を鋼管杭1に差し込んでジャケット2を据付ける(c)。次に、鋼管杭1とジャケット2のレグ3との間へグラウトを注入し一体化し、次に、上部コンクリートの施工を行う。
【0003】
上述のグラウト注入の施工において、図11(a)のように、鋼管杭1とレグ3との間のグラウト注入部4は水面Sよりも低く水中に没している。このため、一般には図11(b)に示すように、レグ3の下端には布製底型枠からなる止水装置5を取り付けた上で、図11(c)のようにレグ3の下端位置の注入口6からグラウト9を注入する。この際、グラウト注入高さが大きい場合には、グラウト重量により布製底型枠が押し下げられ、レグとの隙間からグラウトが漏洩するため、図11(d)のように、レグ下端から1m程度上方まで1次グラウト9を打ち上げ、その硬化後に2次注入口7から2次グラウト10を注入することもある。図11(c)(d)のいずれの場合でも、レグ3と鋼管杭1との隙間には海水が閉じ込められた状態でグラウトを注入することになり、グラウトには水中でも分離しない性能が要求される。
【0004】
特許文献1は、鋼管杭とレグの接合部における止水性を向上させグラウト注入時におけるグラウトの漏洩を防止するために、筒状のレグとレグに挿通される鋼管杭との間の接合部に装着され、弾性及び止水性を有する環状かつ板状のシール材からなりかつシール材の周方向に沿った一方の端部の長さと他方の端部の長さが異なる鋼管杭基礎用シールを、筒状のレグとレグに挿通される鋼管杭との間の接合部に装着し、鋼管杭基礎用シールの周方向に沿った一方の端部をレグまたは鋼管杭のいずれか一方に弾性的に圧接するとともに、他方の端部をレグまたは鋼管杭のいずれか他方に弾性的に圧接し、かつ、鋼管杭基礎用シールの上方に充填材を充填してなる鋼管杭基礎を開示する。
【0005】
特許文献2は、装着が容易で作業性がよく、構造体を加工することなくグラウトを注入でき、注入したグラウトの流出を防止するために、シート状の基体を、既設の杭と鞘管とを跨いで外周に巻き付けて筒状に形成し、上部締付け体で基体を鞘管の外周面に締付けてから、水密性を有する連結体で対向する両端部どうしを連結し、下部締付け体で基体を杭の外周面に締付けて、鞘管下端部のすき間を覆って基体を装着固定し注入口からグラウトを注入するグラウトの注入方法を開示する。
【0006】
特許文献3は、作業対象物を、一対の中空ユニットがヒンジで接合された作業函で囲むとともに、該作業函の下部に設けた止水チューブの切り離された一端部を他端部のスリーブに挿入した後に、止水チューブを膨張させたことにより、止水チューブの切り離された端部同士が簡単に接合できるとともに、その密着性を高めることができる止水構造を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−3831号公報
【特許文献2】特開2006−200328号公報
【特許文献3】特開2002−242220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
グラウトは、水中での分離抵抗性を有しているといえども、まったく分離しないわけではなく、水中での注入による分離を生じ品質低下が生じることになる。また、注入による打ち上がり途中において海水を巻き込み均一な品質を確保できないことも考えられる。さらには、止水を主たる目的とする1次グラウト注入と、その後の2次グラウト注入の2段階施工では、1次グラウトと2次グラウトとの間に十分な接着が得られず構造的な一体化が図れないこと及びグラウト施工期間が長くなることが欠点となる。
【0009】
図11の一般的な施工方法においてグラウトの品質低下を防止し、確実に所要の強度を確保するには海水の無いドライな状態でグラウトを注入することが最も望ましい。また、グラウト施工を2段階に分けることなく1回の注入で施工することが施工の効率化にもつながる。
【0010】
また、特許文献1,2の構造やグラウト注入方法によれば、構造の複雑なシールや杭と鞘管とを跨いで外周に巻き付けて筒状に形成し上部締付け体で基体を鞘管の外周面に締付けるようにしたシート状の基体が必要であり、施工工程がその分複雑化する。
【0011】
本発明は、ジャケット式桟橋などの施工においてジャケットのレグ等の被取付部と基礎杭との間隙に注入するグラウトについて水中で施工することによる品質低下を防止するとともに、施工期間を短くでき効率的に実施できるグラウト注入施工方法、この施工方法を用いた桟橋施工方法及びこの施工方法に適用可能な基礎杭固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するためのグラウト注入施工方法は、打設された基礎杭に可撓性チューブ及び止水蓋を取り付ける工程と、前記基礎杭に据え付けられた被取付部の下端に前記止水蓋を接触させ、前記可撓性チューブを前記止水蓋の下面近傍に位置させる工程と、前記可撓性チューブを空気充填により膨張させて前記基礎杭と前記止水蓋の下面とに押し付けることで前記被取付部の下端と前記止水蓋との間及び前記基礎杭と前記被取付部との間を止水構造とする工程と、前記被取付部と前記基礎杭との間の水を排出する工程と、前記取被付部と前記基礎杭との間にグラウトを注入する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
このグラウト注入施工方法によれば、被取付部の下端に接触した止水蓋の下面近傍に可撓性チューブを位置させて空気充填により膨張させることで基礎杭と止水蓋の下面とに押し付けることによって被取付部の下端と止水蓋との間及び基礎杭と被取付部との間を止水構造にすることができる。このため、被取付部と基礎杭とが水中にあっても止水状態として被取付部と基礎杭との間において水を排出できドライな状態にできるので、被取付部と基礎杭との間に注入するグラウトに水が混入することがなく、水中で施工することによるグラウトの品質低下を防止できるとともに、従来のような2段階に分けるグラウト施工が必要なく、施工期間を短くでき効率的に実施できる。
【0014】
上記グラウト注入施工方法において前記グラウト注入工程は水中からの施工または陸上からの施工で行うことができる。
【0015】
上記目的を達成するための桟橋施工方法は、前記被取付部が前記基礎杭に差し込まれるジャケットのレグであり、上述のグラウト注入施工方法によりジャケット式桟橋を構築する。
【0016】
この桟橋施工方法によれば、ジャケットのレグと基礎杭とが水中にあっても止水状態としてレグと基礎杭との間において水を排出できドライな状態にできるので、レグと基礎杭との間に注入するグラウトに水が混入することがなく、水中で施工することによるグラウトの品質低下を防止できるとともに、従来のような2段階に分けるグラウト施工が必要なく、施工期間を短くでき効率的に実施できる。
【0017】
上記目的を達成するための基礎杭固定構造は、打設された基礎杭に被取付部を据え付けて固定するための基礎杭固定構造であって、前記基礎杭に取り付けられた可撓性チューブと、前記基礎杭に取り付けられて前記被取付部の下端に接触する止水蓋とを備え、前記止水蓋の下面近傍に位置する前記可撓性チューブを空気充填により膨張させて前記基礎杭と前記止水蓋の下面とに押し付けることで前記被取付部の下端と前記止水蓋との間及び前記基礎杭と前記被取付部との間を止水構造としてから、前記被取付部と前記基礎杭との間にグラウトを注入することで前記被取付部を前記基礎杭に固定することを特徴とする。
【0018】
この基礎杭固定構造によれば、被取付部の下端に接触した止水蓋の下面近傍に可撓性チューブを位置させて空気充填により膨張させることで、それ自身の膨張と浮力の同時作用により、基礎杭と止水蓋の下面とに押し付けることによって被取付部の下端と止水蓋との間及び基礎杭と被取付部との間を止水構造にすることができる。さらに、基礎杭と被取付部との間に閉じ込められた水を排水すれば外側からの水圧も加わることになり止水性は一段と向上する。このため、被取付部と基礎杭とが水中にあっても止水状態として被取付部と基礎杭との間において水を排出できドライな状態にできるので、被取付部と基礎杭との間に注入するグラウトに水が混入することがなく、水中で施工することによるグラウトの品質低下を防止できるとともに、従来のような2段階に分けるグラウト施工が必要なく、施工期間を短くでき効率的に実施できる。
【0019】
上記基礎杭固定構造において前記被取付部の下端と前記止水蓋との間に配置される弾性部材をさらに備えることで、被取付部の下端と止水蓋との間の止水性を向上できる。
【0020】
また、前記可撓性チューブを前記止水蓋の下面近傍に位置するように前記止水蓋と一体構造とすることで、可撓性チューブを止水蓋とともに一体に位置調整することができ、可撓性チューブ単独の位置調整は不要となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のグラウト注入施工方法、桟橋施工方法及び基礎杭固定構造によれば、ジャケットのレグなどの被取付部と基礎杭との間に注入するグラウトに水が混入することがなく、水中(海中)で施工することによるグラウトの品質低下を防止できるとともに、従来のような2段階に分けるグラウト施工が必要なく、施工期間を短くでき効率的に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態によるグラウト注入施工方法の工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1の工程S02に対応し、可撓性チューブ及び止水蓋を鋼管杭に差し込んだ状態を示す側面図である。
【図3】図2の可撓性チューブ及び止水蓋による止水蓋構造の側面・断面図(a)および上面図(b)である。
【図4】図2,図3の止水蓋への可撓性チューブの取り付け例を示す断面図である。
【図5】図1の工程S03,S04に対応し、ジャケットのレグが鋼管杭に差し込まれた状態(a)及びレグの下端に止水蓋を接触させた状態(b)を示す側面図である。
【図6】図1の工程S05,S06に対応し、可撓性チューブを止水蓋の下面まで持ち上げた状態(a)及び空気充填により膨張させた状態を示す側面図である。
【図7】図1の工程S07に対応し、レグ3と鋼管杭1との間から海水を排出する状態(a)及び完全に海水を排水した状態(b)を示す側面図である。
【図8】本実施形態の止水構造による図7(b)での止水効果を説明するための部分側断面図である。
【図9】図1の工程S08に対応し、レグ3と鋼管杭1との間へのグラウト注入のための海中からの施工(a)及び陸上からの施工(b)を示す側面図である。
【図10】従来のジャケット式桟橋の概略的な施工工程(a)〜(c)を説明するための図である。
【図11】ジャケット式桟橋の施工における従来の一般的なグラウト施工工程(a)〜(d)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態によるグラウト注入施工方法の工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。図2は、図1の工程S02に対応し、可撓性チューブ及び止水蓋を鋼管杭に差し込んだ状態を示す側面図である。図3は図2の可撓性チューブ及び止水蓋による止水蓋構造の側面・断面図(a)および上面図(b)である。図4は図2,図3の止水蓋への可撓性チューブの取り付け例を示す断面図である。
【0024】
図1,図2,図10(a)のように、鋼管杭(基礎杭)1を水底から地盤Gに打設し(S01)、その後、ジャケットを据え付ける前に、鋼管杭1に止水用の可撓性チューブ11を差し込み次に止水蓋12を差し込む(S02)。このようにして取り付けられた止水用の可撓性チューブ11と止水蓋12は水面Sの下で水中にある。
【0025】
ここで、図2,図3,図4を参照して、本実施形態のグラウト注入施工方法に適用可能な止水構造について説明する。
【0026】
本実施形態の止水構造は、止水用の可撓性チューブ11及び止水蓋12から構成される止水蓋構造を有する。止水用の可撓性チューブ11及び止水蓋12は円形の閉じた形状を有する。止水用の可撓性チューブ11はドーナッツ形状に構成されて鋼管杭1に差し込まれ、止水蓋12はその内孔から鋼管杭1に差し込まれるようになっている。すなわち、図3(a)(b)のように可撓性チューブ11及び止水蓋12の内径は鋼管杭1の外径よりわずかに大きめになっている。これにより、図2のような可撓性チューブ11と止水蓋12との鋼管杭1への差し込みが容易になる。
【0027】
図3(a)(b)のように、止水蓋12とレグ3の下端16(図5〜図8参照)との間に隙間が生じないように止水蓋12の上面にはゴム板等からなる止水用の弾性部材13を取り付けておくことが好ましい。
【0028】
また、止水蓋12は、図3(a)のように、止水蓋12の下面14から下方垂直に突き出る突き出し部12aを有し、突き出し部12aと鋼管杭1との間に可撓性チューブ11が位置することで水平方向に保持される。
【0029】
可撓性チューブ11は、ゴム材等からなる内部が空洞の管状部材で、空気を充填することで膨らむ構造を有し、高圧空気を注入するための空気注入用バルブ11a(図6(b)参照)を取り付けておく。
【0030】
図3(a)の止水蓋構造によれば、可撓性チューブ11を高圧空気の充填により膨張させることで鋼管杭1の外周面に巻き付かせるようにして押し付けることができ、鋼管杭1の外周面に固定できる。本実施形態の止水構造では後述の図8のように止水蓋12の上面に弾性部材13を介してレグ3の下端16が位置する。
【0031】
なお、図4のように、止水蓋12の下面14に断面L形状の保持部材12bを取り付け、止水蓋12の下面14と保持部材12bとの間に可撓性チューブ11を水平方向及び鉛直方向に保持するように予め収めておく構造としてもよい。このような止水蓋12と可撓性チューブ11とを予め一体化させた構造のものを用いることで、鋼管杭1における止水蓋12と可撓性チューブ11との位置を一体に調整可能である。また、止水蓋12、突き出し部12a、保持部材12bは鋼材からなることが好ましい。
【0032】
次に、図5〜図9をさらに参照して本実施形態によるグラウト注入施工方法の工程S03〜S08を説明する。
【0033】
図5は、図1の工程S03,S04に対応し、ジャケットのレグが鋼管杭に差し込まれた状態(a)及びレグの下端に止水蓋を接触させた状態(b)を示す側面図である。図6は、図1の工程S05,S06に対応し、可撓性チューブを止水蓋の下面まで持ち上げた状態(a)及び空気充填により膨張させた状態を示す側面図である。
【0034】
次に、図1の工程S02の後に、図5(a)、図10(b)のように、ジャケット2のレグ3を鋼管杭1に差し込むことでジャケット2を据え付ける(S03)。次に、図5(a)のように、止水蓋12を持ち上げレグ3の下端16に接触させ、その接触状態でボルトなどの公知の固定手段によりレグ3に仮固定する(S04)。
【0035】
次に、図6(a)のように、可撓性チューブ11を止水蓋12の下面14まで持ち上げて所定位置に接地する(S05)。次に、図6(b)のように、可撓性チューブ11に空気注入用バルブ11aから高圧空気を充填し(S06)、可撓性チューブ11を膨脹させることで鋼管杭1の外周面に巻き付かせるようにして押し付けて固定する。
【0036】
図7は、図1の工程S07に対応し、レグ3と鋼管杭1との間から海水を排出する状態(a)及び完全に海水を排水した状態(b)を示す側面図である。図8は、本実施形態の止水構造による図7(b)での止水効果を説明するための部分側断面図である。図9は図1の工程S08に対応し、レグ3と鋼管杭1との間へのグラウト注入のための海中からの施工(a)及び陸上からの施工(b)を示す側面図である。
【0037】
次に、図7(a)のようにレグ3の下端16側に予め設置した排水用のバルブ3aを用いて、レグ3と鋼管杭1との間に閉じ込められている水(海水)Wを排出し、最終的に図7(b)のように水を完全に排出する(S07)。
【0038】
図8のように、膨張させた可撓性チューブ11と、その上方に位置する止水蓋12とにより止水構造が完成する。かる止水構造によれば、可撓性チューブ11は、上述の鋼管杭3への固定により落下することがなく、さらに、高圧空気を充填し膨張させるため可撓性チューブ11には浮力が作用するとともに可撓性チューブ11自体が膨張することから、上方にある止水蓋12を押し上げる力が作用し、レグ3の下端16と止水蓋12との間および止水蓋12と鋼管杭3との間の止水性を確保することができる。
【0039】
さらに、レグ3と鋼管杭1との間からの排水で内側から作用する水圧が無くなり、外側からの水圧により、可撓性チューブ11と止水蓋12とを上側のレグ3と鋼管杭1とに対しさらに押しつけることになるので、レグ3の下端16と止水蓋12との間および止水蓋12と鋼管杭1との間の止水性が格段に向上する。
【0040】
次に、図7(b)のレグ3と鋼管杭1との間の隙間Dから海水を排出することで、隙間Dを水が存在しないドライな状態にした段階で、図9(a)のように、レグ3の下端16のグラウト注入のバルブ3aからグラウトを図7(b)の隙間Dに注入する(S08)。これにより、レグ3と鋼管杭1との間にグラウト15が充填されてレグ3と鋼管杭1とが結合し一体化する。グラウト材料としては、主にセメント系材料を用いることができ、例えば、セメントミルク、セメントモルタルなどである。
【0041】
なお、上述の図9(a)のようにグラウト注入は海中からの施工で行うことができるが、図7(b)の隙間D内は、すでにドライな状態になっており、クラウドが海水と混じり合う心配も無いため、図9(b)のようにレグ3と鋼管杭1との間の隙間Dの上端側から行うことができ、陸上からの施工が可能である。
【0042】
また、バルブ3aは、排水兼グラウト注入バルブであり、隙間Dにおける排水用とグラウト注入用とを兼用しているが、別々に設けてもよい。
【0043】
以上のように、本実施形態のグラウト注入方法によれば、図8のような可撓性チューブ11と止水蓋12とによる止水構造を用いることから、レグ3の下端16と止水蓋12との間の隙間および止水蓋12と鋼管杭1との間の隙間をなくすことができる。したがって、これらの隙間における止水性を確実に確保することができる。
【0044】
さらに、レグ3と鋼管杭1との間の隙間から海水を排出することに伴う外側から作用する水圧を利用し、かつ、空気の充填により膨脹させた可撓性チューブ11に働く浮力を利用することで、止水構造の止水性をさらに高めることができる。
【0045】
上述の止水構造により止水状態として、水中にあるレグ3と鋼管杭1との間から水を完全に排出でき、レグ3と鋼管杭1との間をドライな状態にできるので、ジャケットのレグ3と鋼管杭1との間に注入するグラウト15に水(海水)が混入することがなく、グラウトが水(海水)と混じり合うことも無くなる。このため、水中(海中)で施工することによる材料分離による品質低下が無くなることに加えて、海水の巻き込みも無いため均一な品質のグラウトとすることができ、グラウトの品質低下を防止できる。
【0046】
また、水中での不分離性をグラウトに持たせるには特殊混和剤を用いるため、材料価格が増加するが、本実施形態によれば、かかる特殊混和剤は不要となり通常のグラウト材料でよいため、材料のコストアップを防ぐことができる。
【0047】
また、本実施形態のグラウト注入方法によれば、止水状態としてレグ3と鋼管杭1との間から水を完全に排出できるので、従来の止水を目的とする1次グラウト注入は不要であり、図11(d)のようなグラウト注入作業を複数回に分ける必要がないことから、施工期間を短縮することができる。
【0048】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図1の可撓性チューブ11の持ち上げ工程S05は、図4のような止水蓋12と可撓性チューブ11との一体化構造を採用した場合には省略することができ、止水蓋12をレグ3の下端16に接触させたとき、可撓性チューブ11は止水蓋12の下面14の近傍に位置している。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のグラウト注入方法及び止水構造を有する基礎杭固定構造は、例えば、工場製作等により組み立てられたジャケットのレグを水底に打設された基礎杭に差し込んで構築するジャケット式桟橋の施工に適用して好ましい。
【符号の説明】
【0050】
1 鋼管杭(基礎杭)
2 ジャケット
3 レグ(被取付部)
3a 排水兼グラウト注入バルブ
11 可撓性チューブ
12 止水蓋
12a 突き出し部
12b 保持部材
13 弾性部材
14 止水蓋12の下面
15 グラウト
16 レグ3の下端
D 鋼管杭とレグ3との間の隙間
G 地盤
S 水面
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎杭と被取付部との結合のためのグラウト注入施工方法、この施工方法を用いた桟橋施工方法及びこの施工方法に適用可能な基礎杭固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のジャケット式桟橋の一般的な施工手順について図を参照して説明する。図10に示すように、基礎杭(鋼管杭)1を水底から地盤Gに打設し(a)、レグ3を有するジャケット2を運搬し(b)、レグ3を鋼管杭1に差し込んでジャケット2を据付ける(c)。次に、鋼管杭1とジャケット2のレグ3との間へグラウトを注入し一体化し、次に、上部コンクリートの施工を行う。
【0003】
上述のグラウト注入の施工において、図11(a)のように、鋼管杭1とレグ3との間のグラウト注入部4は水面Sよりも低く水中に没している。このため、一般には図11(b)に示すように、レグ3の下端には布製底型枠からなる止水装置5を取り付けた上で、図11(c)のようにレグ3の下端位置の注入口6からグラウト9を注入する。この際、グラウト注入高さが大きい場合には、グラウト重量により布製底型枠が押し下げられ、レグとの隙間からグラウトが漏洩するため、図11(d)のように、レグ下端から1m程度上方まで1次グラウト9を打ち上げ、その硬化後に2次注入口7から2次グラウト10を注入することもある。図11(c)(d)のいずれの場合でも、レグ3と鋼管杭1との隙間には海水が閉じ込められた状態でグラウトを注入することになり、グラウトには水中でも分離しない性能が要求される。
【0004】
特許文献1は、鋼管杭とレグの接合部における止水性を向上させグラウト注入時におけるグラウトの漏洩を防止するために、筒状のレグとレグに挿通される鋼管杭との間の接合部に装着され、弾性及び止水性を有する環状かつ板状のシール材からなりかつシール材の周方向に沿った一方の端部の長さと他方の端部の長さが異なる鋼管杭基礎用シールを、筒状のレグとレグに挿通される鋼管杭との間の接合部に装着し、鋼管杭基礎用シールの周方向に沿った一方の端部をレグまたは鋼管杭のいずれか一方に弾性的に圧接するとともに、他方の端部をレグまたは鋼管杭のいずれか他方に弾性的に圧接し、かつ、鋼管杭基礎用シールの上方に充填材を充填してなる鋼管杭基礎を開示する。
【0005】
特許文献2は、装着が容易で作業性がよく、構造体を加工することなくグラウトを注入でき、注入したグラウトの流出を防止するために、シート状の基体を、既設の杭と鞘管とを跨いで外周に巻き付けて筒状に形成し、上部締付け体で基体を鞘管の外周面に締付けてから、水密性を有する連結体で対向する両端部どうしを連結し、下部締付け体で基体を杭の外周面に締付けて、鞘管下端部のすき間を覆って基体を装着固定し注入口からグラウトを注入するグラウトの注入方法を開示する。
【0006】
特許文献3は、作業対象物を、一対の中空ユニットがヒンジで接合された作業函で囲むとともに、該作業函の下部に設けた止水チューブの切り離された一端部を他端部のスリーブに挿入した後に、止水チューブを膨張させたことにより、止水チューブの切り離された端部同士が簡単に接合できるとともに、その密着性を高めることができる止水構造を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−3831号公報
【特許文献2】特開2006−200328号公報
【特許文献3】特開2002−242220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
グラウトは、水中での分離抵抗性を有しているといえども、まったく分離しないわけではなく、水中での注入による分離を生じ品質低下が生じることになる。また、注入による打ち上がり途中において海水を巻き込み均一な品質を確保できないことも考えられる。さらには、止水を主たる目的とする1次グラウト注入と、その後の2次グラウト注入の2段階施工では、1次グラウトと2次グラウトとの間に十分な接着が得られず構造的な一体化が図れないこと及びグラウト施工期間が長くなることが欠点となる。
【0009】
図11の一般的な施工方法においてグラウトの品質低下を防止し、確実に所要の強度を確保するには海水の無いドライな状態でグラウトを注入することが最も望ましい。また、グラウト施工を2段階に分けることなく1回の注入で施工することが施工の効率化にもつながる。
【0010】
また、特許文献1,2の構造やグラウト注入方法によれば、構造の複雑なシールや杭と鞘管とを跨いで外周に巻き付けて筒状に形成し上部締付け体で基体を鞘管の外周面に締付けるようにしたシート状の基体が必要であり、施工工程がその分複雑化する。
【0011】
本発明は、ジャケット式桟橋などの施工においてジャケットのレグ等の被取付部と基礎杭との間隙に注入するグラウトについて水中で施工することによる品質低下を防止するとともに、施工期間を短くでき効率的に実施できるグラウト注入施工方法、この施工方法を用いた桟橋施工方法及びこの施工方法に適用可能な基礎杭固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するためのグラウト注入施工方法は、打設された基礎杭に可撓性チューブ及び止水蓋を取り付ける工程と、前記基礎杭に据え付けられた被取付部の下端に前記止水蓋を接触させ、前記可撓性チューブを前記止水蓋の下面近傍に位置させる工程と、前記可撓性チューブを空気充填により膨張させて前記基礎杭と前記止水蓋の下面とに押し付けることで前記被取付部の下端と前記止水蓋との間及び前記基礎杭と前記被取付部との間を止水構造とする工程と、前記被取付部と前記基礎杭との間の水を排出する工程と、前記取被付部と前記基礎杭との間にグラウトを注入する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
このグラウト注入施工方法によれば、被取付部の下端に接触した止水蓋の下面近傍に可撓性チューブを位置させて空気充填により膨張させることで基礎杭と止水蓋の下面とに押し付けることによって被取付部の下端と止水蓋との間及び基礎杭と被取付部との間を止水構造にすることができる。このため、被取付部と基礎杭とが水中にあっても止水状態として被取付部と基礎杭との間において水を排出できドライな状態にできるので、被取付部と基礎杭との間に注入するグラウトに水が混入することがなく、水中で施工することによるグラウトの品質低下を防止できるとともに、従来のような2段階に分けるグラウト施工が必要なく、施工期間を短くでき効率的に実施できる。
【0014】
上記グラウト注入施工方法において前記グラウト注入工程は水中からの施工または陸上からの施工で行うことができる。
【0015】
上記目的を達成するための桟橋施工方法は、前記被取付部が前記基礎杭に差し込まれるジャケットのレグであり、上述のグラウト注入施工方法によりジャケット式桟橋を構築する。
【0016】
この桟橋施工方法によれば、ジャケットのレグと基礎杭とが水中にあっても止水状態としてレグと基礎杭との間において水を排出できドライな状態にできるので、レグと基礎杭との間に注入するグラウトに水が混入することがなく、水中で施工することによるグラウトの品質低下を防止できるとともに、従来のような2段階に分けるグラウト施工が必要なく、施工期間を短くでき効率的に実施できる。
【0017】
上記目的を達成するための基礎杭固定構造は、打設された基礎杭に被取付部を据え付けて固定するための基礎杭固定構造であって、前記基礎杭に取り付けられた可撓性チューブと、前記基礎杭に取り付けられて前記被取付部の下端に接触する止水蓋とを備え、前記止水蓋の下面近傍に位置する前記可撓性チューブを空気充填により膨張させて前記基礎杭と前記止水蓋の下面とに押し付けることで前記被取付部の下端と前記止水蓋との間及び前記基礎杭と前記被取付部との間を止水構造としてから、前記被取付部と前記基礎杭との間にグラウトを注入することで前記被取付部を前記基礎杭に固定することを特徴とする。
【0018】
この基礎杭固定構造によれば、被取付部の下端に接触した止水蓋の下面近傍に可撓性チューブを位置させて空気充填により膨張させることで、それ自身の膨張と浮力の同時作用により、基礎杭と止水蓋の下面とに押し付けることによって被取付部の下端と止水蓋との間及び基礎杭と被取付部との間を止水構造にすることができる。さらに、基礎杭と被取付部との間に閉じ込められた水を排水すれば外側からの水圧も加わることになり止水性は一段と向上する。このため、被取付部と基礎杭とが水中にあっても止水状態として被取付部と基礎杭との間において水を排出できドライな状態にできるので、被取付部と基礎杭との間に注入するグラウトに水が混入することがなく、水中で施工することによるグラウトの品質低下を防止できるとともに、従来のような2段階に分けるグラウト施工が必要なく、施工期間を短くでき効率的に実施できる。
【0019】
上記基礎杭固定構造において前記被取付部の下端と前記止水蓋との間に配置される弾性部材をさらに備えることで、被取付部の下端と止水蓋との間の止水性を向上できる。
【0020】
また、前記可撓性チューブを前記止水蓋の下面近傍に位置するように前記止水蓋と一体構造とすることで、可撓性チューブを止水蓋とともに一体に位置調整することができ、可撓性チューブ単独の位置調整は不要となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のグラウト注入施工方法、桟橋施工方法及び基礎杭固定構造によれば、ジャケットのレグなどの被取付部と基礎杭との間に注入するグラウトに水が混入することがなく、水中(海中)で施工することによるグラウトの品質低下を防止できるとともに、従来のような2段階に分けるグラウト施工が必要なく、施工期間を短くでき効率的に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態によるグラウト注入施工方法の工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1の工程S02に対応し、可撓性チューブ及び止水蓋を鋼管杭に差し込んだ状態を示す側面図である。
【図3】図2の可撓性チューブ及び止水蓋による止水蓋構造の側面・断面図(a)および上面図(b)である。
【図4】図2,図3の止水蓋への可撓性チューブの取り付け例を示す断面図である。
【図5】図1の工程S03,S04に対応し、ジャケットのレグが鋼管杭に差し込まれた状態(a)及びレグの下端に止水蓋を接触させた状態(b)を示す側面図である。
【図6】図1の工程S05,S06に対応し、可撓性チューブを止水蓋の下面まで持ち上げた状態(a)及び空気充填により膨張させた状態を示す側面図である。
【図7】図1の工程S07に対応し、レグ3と鋼管杭1との間から海水を排出する状態(a)及び完全に海水を排水した状態(b)を示す側面図である。
【図8】本実施形態の止水構造による図7(b)での止水効果を説明するための部分側断面図である。
【図9】図1の工程S08に対応し、レグ3と鋼管杭1との間へのグラウト注入のための海中からの施工(a)及び陸上からの施工(b)を示す側面図である。
【図10】従来のジャケット式桟橋の概略的な施工工程(a)〜(c)を説明するための図である。
【図11】ジャケット式桟橋の施工における従来の一般的なグラウト施工工程(a)〜(d)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態によるグラウト注入施工方法の工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。図2は、図1の工程S02に対応し、可撓性チューブ及び止水蓋を鋼管杭に差し込んだ状態を示す側面図である。図3は図2の可撓性チューブ及び止水蓋による止水蓋構造の側面・断面図(a)および上面図(b)である。図4は図2,図3の止水蓋への可撓性チューブの取り付け例を示す断面図である。
【0024】
図1,図2,図10(a)のように、鋼管杭(基礎杭)1を水底から地盤Gに打設し(S01)、その後、ジャケットを据え付ける前に、鋼管杭1に止水用の可撓性チューブ11を差し込み次に止水蓋12を差し込む(S02)。このようにして取り付けられた止水用の可撓性チューブ11と止水蓋12は水面Sの下で水中にある。
【0025】
ここで、図2,図3,図4を参照して、本実施形態のグラウト注入施工方法に適用可能な止水構造について説明する。
【0026】
本実施形態の止水構造は、止水用の可撓性チューブ11及び止水蓋12から構成される止水蓋構造を有する。止水用の可撓性チューブ11及び止水蓋12は円形の閉じた形状を有する。止水用の可撓性チューブ11はドーナッツ形状に構成されて鋼管杭1に差し込まれ、止水蓋12はその内孔から鋼管杭1に差し込まれるようになっている。すなわち、図3(a)(b)のように可撓性チューブ11及び止水蓋12の内径は鋼管杭1の外径よりわずかに大きめになっている。これにより、図2のような可撓性チューブ11と止水蓋12との鋼管杭1への差し込みが容易になる。
【0027】
図3(a)(b)のように、止水蓋12とレグ3の下端16(図5〜図8参照)との間に隙間が生じないように止水蓋12の上面にはゴム板等からなる止水用の弾性部材13を取り付けておくことが好ましい。
【0028】
また、止水蓋12は、図3(a)のように、止水蓋12の下面14から下方垂直に突き出る突き出し部12aを有し、突き出し部12aと鋼管杭1との間に可撓性チューブ11が位置することで水平方向に保持される。
【0029】
可撓性チューブ11は、ゴム材等からなる内部が空洞の管状部材で、空気を充填することで膨らむ構造を有し、高圧空気を注入するための空気注入用バルブ11a(図6(b)参照)を取り付けておく。
【0030】
図3(a)の止水蓋構造によれば、可撓性チューブ11を高圧空気の充填により膨張させることで鋼管杭1の外周面に巻き付かせるようにして押し付けることができ、鋼管杭1の外周面に固定できる。本実施形態の止水構造では後述の図8のように止水蓋12の上面に弾性部材13を介してレグ3の下端16が位置する。
【0031】
なお、図4のように、止水蓋12の下面14に断面L形状の保持部材12bを取り付け、止水蓋12の下面14と保持部材12bとの間に可撓性チューブ11を水平方向及び鉛直方向に保持するように予め収めておく構造としてもよい。このような止水蓋12と可撓性チューブ11とを予め一体化させた構造のものを用いることで、鋼管杭1における止水蓋12と可撓性チューブ11との位置を一体に調整可能である。また、止水蓋12、突き出し部12a、保持部材12bは鋼材からなることが好ましい。
【0032】
次に、図5〜図9をさらに参照して本実施形態によるグラウト注入施工方法の工程S03〜S08を説明する。
【0033】
図5は、図1の工程S03,S04に対応し、ジャケットのレグが鋼管杭に差し込まれた状態(a)及びレグの下端に止水蓋を接触させた状態(b)を示す側面図である。図6は、図1の工程S05,S06に対応し、可撓性チューブを止水蓋の下面まで持ち上げた状態(a)及び空気充填により膨張させた状態を示す側面図である。
【0034】
次に、図1の工程S02の後に、図5(a)、図10(b)のように、ジャケット2のレグ3を鋼管杭1に差し込むことでジャケット2を据え付ける(S03)。次に、図5(a)のように、止水蓋12を持ち上げレグ3の下端16に接触させ、その接触状態でボルトなどの公知の固定手段によりレグ3に仮固定する(S04)。
【0035】
次に、図6(a)のように、可撓性チューブ11を止水蓋12の下面14まで持ち上げて所定位置に接地する(S05)。次に、図6(b)のように、可撓性チューブ11に空気注入用バルブ11aから高圧空気を充填し(S06)、可撓性チューブ11を膨脹させることで鋼管杭1の外周面に巻き付かせるようにして押し付けて固定する。
【0036】
図7は、図1の工程S07に対応し、レグ3と鋼管杭1との間から海水を排出する状態(a)及び完全に海水を排水した状態(b)を示す側面図である。図8は、本実施形態の止水構造による図7(b)での止水効果を説明するための部分側断面図である。図9は図1の工程S08に対応し、レグ3と鋼管杭1との間へのグラウト注入のための海中からの施工(a)及び陸上からの施工(b)を示す側面図である。
【0037】
次に、図7(a)のようにレグ3の下端16側に予め設置した排水用のバルブ3aを用いて、レグ3と鋼管杭1との間に閉じ込められている水(海水)Wを排出し、最終的に図7(b)のように水を完全に排出する(S07)。
【0038】
図8のように、膨張させた可撓性チューブ11と、その上方に位置する止水蓋12とにより止水構造が完成する。かる止水構造によれば、可撓性チューブ11は、上述の鋼管杭3への固定により落下することがなく、さらに、高圧空気を充填し膨張させるため可撓性チューブ11には浮力が作用するとともに可撓性チューブ11自体が膨張することから、上方にある止水蓋12を押し上げる力が作用し、レグ3の下端16と止水蓋12との間および止水蓋12と鋼管杭3との間の止水性を確保することができる。
【0039】
さらに、レグ3と鋼管杭1との間からの排水で内側から作用する水圧が無くなり、外側からの水圧により、可撓性チューブ11と止水蓋12とを上側のレグ3と鋼管杭1とに対しさらに押しつけることになるので、レグ3の下端16と止水蓋12との間および止水蓋12と鋼管杭1との間の止水性が格段に向上する。
【0040】
次に、図7(b)のレグ3と鋼管杭1との間の隙間Dから海水を排出することで、隙間Dを水が存在しないドライな状態にした段階で、図9(a)のように、レグ3の下端16のグラウト注入のバルブ3aからグラウトを図7(b)の隙間Dに注入する(S08)。これにより、レグ3と鋼管杭1との間にグラウト15が充填されてレグ3と鋼管杭1とが結合し一体化する。グラウト材料としては、主にセメント系材料を用いることができ、例えば、セメントミルク、セメントモルタルなどである。
【0041】
なお、上述の図9(a)のようにグラウト注入は海中からの施工で行うことができるが、図7(b)の隙間D内は、すでにドライな状態になっており、クラウドが海水と混じり合う心配も無いため、図9(b)のようにレグ3と鋼管杭1との間の隙間Dの上端側から行うことができ、陸上からの施工が可能である。
【0042】
また、バルブ3aは、排水兼グラウト注入バルブであり、隙間Dにおける排水用とグラウト注入用とを兼用しているが、別々に設けてもよい。
【0043】
以上のように、本実施形態のグラウト注入方法によれば、図8のような可撓性チューブ11と止水蓋12とによる止水構造を用いることから、レグ3の下端16と止水蓋12との間の隙間および止水蓋12と鋼管杭1との間の隙間をなくすことができる。したがって、これらの隙間における止水性を確実に確保することができる。
【0044】
さらに、レグ3と鋼管杭1との間の隙間から海水を排出することに伴う外側から作用する水圧を利用し、かつ、空気の充填により膨脹させた可撓性チューブ11に働く浮力を利用することで、止水構造の止水性をさらに高めることができる。
【0045】
上述の止水構造により止水状態として、水中にあるレグ3と鋼管杭1との間から水を完全に排出でき、レグ3と鋼管杭1との間をドライな状態にできるので、ジャケットのレグ3と鋼管杭1との間に注入するグラウト15に水(海水)が混入することがなく、グラウトが水(海水)と混じり合うことも無くなる。このため、水中(海中)で施工することによる材料分離による品質低下が無くなることに加えて、海水の巻き込みも無いため均一な品質のグラウトとすることができ、グラウトの品質低下を防止できる。
【0046】
また、水中での不分離性をグラウトに持たせるには特殊混和剤を用いるため、材料価格が増加するが、本実施形態によれば、かかる特殊混和剤は不要となり通常のグラウト材料でよいため、材料のコストアップを防ぐことができる。
【0047】
また、本実施形態のグラウト注入方法によれば、止水状態としてレグ3と鋼管杭1との間から水を完全に排出できるので、従来の止水を目的とする1次グラウト注入は不要であり、図11(d)のようなグラウト注入作業を複数回に分ける必要がないことから、施工期間を短縮することができる。
【0048】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図1の可撓性チューブ11の持ち上げ工程S05は、図4のような止水蓋12と可撓性チューブ11との一体化構造を採用した場合には省略することができ、止水蓋12をレグ3の下端16に接触させたとき、可撓性チューブ11は止水蓋12の下面14の近傍に位置している。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のグラウト注入方法及び止水構造を有する基礎杭固定構造は、例えば、工場製作等により組み立てられたジャケットのレグを水底に打設された基礎杭に差し込んで構築するジャケット式桟橋の施工に適用して好ましい。
【符号の説明】
【0050】
1 鋼管杭(基礎杭)
2 ジャケット
3 レグ(被取付部)
3a 排水兼グラウト注入バルブ
11 可撓性チューブ
12 止水蓋
12a 突き出し部
12b 保持部材
13 弾性部材
14 止水蓋12の下面
15 グラウト
16 レグ3の下端
D 鋼管杭とレグ3との間の隙間
G 地盤
S 水面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設された基礎杭に可撓性チューブ及び止水蓋を取り付ける工程と、
前記基礎杭に据え付けられた被取付部の下端に前記止水蓋を接触させ、前記可撓性チューブを前記止水蓋の下面近傍に位置させる工程と、
前記可撓性チューブを空気充填により膨張させて前記基礎杭と前記止水蓋の下面とに押し付けることで前記被取付部の下端と前記止水蓋との間及び前記基礎杭と前記被取付部との間を止水構造とする工程と、
前記被取付部と前記基礎杭との間の水を排出する工程と、
前記取被付部と前記基礎杭との間にグラウトを注入する工程と、を含むことを特徴とするグラウト注入施工方法。
【請求項2】
前記グラウト注入工程は水中からの施工または陸上からの施工で行う請求項1に記載のグラウト注入施工方法。
【請求項3】
前記被取付部が前記基礎杭に差し込まれるジャケットのレグであり、請求項1または2に記載のグラウト注入施工方法によりジャケット式桟橋を構築する桟橋施工方法。
【請求項4】
打設された基礎杭に被取付部を据え付けて固定するための基礎杭固定構造であって、
前記基礎杭に取り付けられた可撓性チューブと、
前記基礎杭に取り付けられて前記被取付部の下端に接触する止水蓋と、を備え、
前記止水蓋の下面近傍に位置する前記可撓性チューブを空気充填により膨張させて前記基礎杭と前記止水蓋の下面とに押し付けることで前記被取付部の下端と前記止水蓋との間及び前記基礎杭と前記被取付部との間を止水構造としてから、前記被取付部と前記基礎杭との間にグラウトを注入することで前記被取付部を前記基礎杭に固定することを特徴とする基礎杭固定構造。
【請求項5】
前記被取付部の下端と前記止水蓋との間に配置される弾性部材をさらに備える請求項4に記載の基礎杭固定構造。
【請求項6】
前記可撓性チューブを前記止水蓋の下面近傍に位置するように前記止水蓋と一体構造とした請求項4または5に記載の基礎杭固定構造。
【請求項1】
打設された基礎杭に可撓性チューブ及び止水蓋を取り付ける工程と、
前記基礎杭に据え付けられた被取付部の下端に前記止水蓋を接触させ、前記可撓性チューブを前記止水蓋の下面近傍に位置させる工程と、
前記可撓性チューブを空気充填により膨張させて前記基礎杭と前記止水蓋の下面とに押し付けることで前記被取付部の下端と前記止水蓋との間及び前記基礎杭と前記被取付部との間を止水構造とする工程と、
前記被取付部と前記基礎杭との間の水を排出する工程と、
前記取被付部と前記基礎杭との間にグラウトを注入する工程と、を含むことを特徴とするグラウト注入施工方法。
【請求項2】
前記グラウト注入工程は水中からの施工または陸上からの施工で行う請求項1に記載のグラウト注入施工方法。
【請求項3】
前記被取付部が前記基礎杭に差し込まれるジャケットのレグであり、請求項1または2に記載のグラウト注入施工方法によりジャケット式桟橋を構築する桟橋施工方法。
【請求項4】
打設された基礎杭に被取付部を据え付けて固定するための基礎杭固定構造であって、
前記基礎杭に取り付けられた可撓性チューブと、
前記基礎杭に取り付けられて前記被取付部の下端に接触する止水蓋と、を備え、
前記止水蓋の下面近傍に位置する前記可撓性チューブを空気充填により膨張させて前記基礎杭と前記止水蓋の下面とに押し付けることで前記被取付部の下端と前記止水蓋との間及び前記基礎杭と前記被取付部との間を止水構造としてから、前記被取付部と前記基礎杭との間にグラウトを注入することで前記被取付部を前記基礎杭に固定することを特徴とする基礎杭固定構造。
【請求項5】
前記被取付部の下端と前記止水蓋との間に配置される弾性部材をさらに備える請求項4に記載の基礎杭固定構造。
【請求項6】
前記可撓性チューブを前記止水蓋の下面近傍に位置するように前記止水蓋と一体構造とした請求項4または5に記載の基礎杭固定構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−196053(P2011−196053A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62386(P2010−62386)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
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