説明

グラジエント溶出マルチカラム分離法

【課題】複雑な装置を必要とせずに、混合物から所望のフラクションを簡便に分離可能な分離法を提供する。
【解決手段】本発明の分離法は、直列に接続された少なくとも2個のクロマトグラフィーカラムを備える装置を用意する工程と、装置の単一のポイントから、分離対象混合物を断続的に注入する工程と、装置の単一のポイントから、目的物質が濃縮されたフラクションを断続的に分取する工程と、異なる溶出力を有する溶離剤を各カラムに注入する工程と、溶離剤を注入するポイントを移動させる工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィーで混合物からフラクション(画分)を分離する、グラジエント溶出マルチカラム分離法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィーは、混合物に含まれる化合物を、移動相と固定相(吸着相と呼ばれる場合もある)とにおける分配の差に基づき分離する方法である。例えば、液体、ガス、超臨界溶媒などを、吸着相が充填されたデバイス(カラム)に通すことにより、混合物に含まれる化合物を分離することができる。この方法は、混合物中の化合物を同定及び定量するための分析法として広く利用されている。また、精製法に利用されることもある。
【0003】
必要に応じて、様々なクロマトグラフィー法を分子の精製に利用することができる。これらのクロマトグラフィー法は、幾つかの基準にしたがって分類される。例えば:非連続式または連続式の方法であるか否か;単一のカラムかまたは複数のカラムを使用するのか否か;溶離剤の組成がアイソクラティック(一定)であるのか、それともグラジエント(経時的に変化する)であるのか;などといった基準が挙げられる。
【0004】
溶出タイプのクロマトグラフィーまたはバッチ式のクロマトグラフィーが普及している。バッチ式のクロマトグラフィーは、適当な固定相で充填されたカラムに対して精製対象混合物を断続的に注入し、溶離剤をカラムに通すことで、カラム内で物質を確実に移動及び分離させる方法である。分離した物質はカラムの出口から分取される。注入工程は、所定のピリオド(期間)を挟みながら繰り返し行ってもよい。一連の注入の間、分離状態は十分に持続される。
【0005】
いわゆるバッチ式のクロマトグラフィー(バッチ式クロマトグラフィー)は、特に小〜中スケールで適用する方法であり、広く利用されている。この方法は簡単に利用可能であり(シングルカラム方式)、総じて有効であるが、生産性に劣る。具体的には、精製対象物質が溶離溶媒中で低濃度に希釈されているため、生産性が低い。
【0006】
溶出相と吸着相とを向流させるという着想に研究を重ねた結果、「移動床」というコンセプトが生まれた。さらに、1961年に、カラム間を巧みに連結することで固定相の移動を模擬的に実現させた、「擬似移動床」(SMB)という方法が登場した。この方法の特徴は、フィード(仕込液)を導入するポイントと溶離剤を導入するポイントとを主流の流れ方向に一定期間で前進させると共に、ラフィネート(回収液)を分取するポイント及びエクストラクト(抽出液)を分取するポイントも同じ前進量で移動させるという点である。
【0007】
特許文献1には、周期的圧力勾配(driving-force gradient)を擬似移動床(SMB)法と組み合わせた方法が記載されている。当該文献には、幾つかの化合物を含む混合物の連続式または準連続式の精製法が開示されている。SMB法と同じく、幾つかのゾーンが設けられる。この精製は、溶媒及び混合物を導入する少なくとも2個のクロマトグラフィーカラム、好ましくは3個のクロマトグラフィーカラムを用いて行われる。混合物は、上記幾つかの化合物として、低重量の不純物、中重量の精製対象物質および高重量の不純物を少なくとも含む。カラムは、バッチ式モードにおいて少なくとも1つの工程または位置で使用される。このとき、1個のカラムのカラム出口が、中重量の精製対象物質を分取するのに利用される。さらに、カラムは、連続式モードもしくは準連続式モードにおいて少なくとも1つの工程または位置で使用される。このとき、少なくとも1個のカラムのカラム出口が、少なくとも1個の別のカラムの入口に流体連通状態で連結される。バッチ式モードと連続式または準連続式モードとは、同時にまたは段階的に実行される。カラムは、カラム切換え時又は切換え後に、溶媒の実質的な流れ方向と正反対の方向に移動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1716900号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の方法の短所は、複雑な装置を要する点と、当該方法を把握するためのシミュレーションツールを要する点である。
【0010】
本発明の目的は、簡便に実行可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的のため、分離対象混合物から目的物質が濃縮されたフラクションを分離する方法であって、
−直列に接続された少なくとも2個のクロマトグラフィーカラムを備える装置を用意する工程と、
−前記装置における単一のポイントから、分離対象混合物を断続的に注入する工程と、
−前記装置における単一のポイントから、フラクションを断続的に分取する工程と、
−異なる溶出力を有する溶離剤を各カラムに注入する工程と、
−溶離剤を注入するポイントを移動させる工程とを含む分離法を提案する。
【0012】
他の実施形態において、分離対象混合物からフラクションを分離する方法であって、
−直列に接続された3個のクロマトグラフィーカラムを備える装置を用意する工程と、
−前記装置における単一のポイントから、分離対象混合物を断続的に注入する工程と、
−前記装置における単一のポイントから、目的物質が濃縮されたフラクションを断続的に分取する工程と、
−異なる溶出力を有する溶離剤を各カラムに注入する工程と、
−溶離剤を注入するポイントを移動させる工程とを含む分離法を提案する。
【0013】
他の実施形態において、分離対象混合物を注入する工程はサイクル単位で実行される。
【0014】
他の実施形態において、濃縮されたフラクションを分取する工程はサイクル単位で実行される。
【0015】
他の実施形態において、溶離剤の注入ポイントを移動させる工程はピリオド単位で実行される。
【0016】
他の実施形態において、溶離剤は連続的または断続的に注入される。
【0017】
他の実施形態において、少なくとも1種の溶離剤が断続的に注入される。
【0018】
他の実施形態において、各溶離剤の組成は一定である。
【0019】
他の実施形態において、少なくとも1種の溶離剤の組成は他の溶離剤とは独立して可変である。
【0020】
他の実施形態において、少なくとも1種の溶離剤が非同期的に移動される。
【0021】
他の実施形態において、少なくとも2個のカラムが、移動相の流れ方向に沿って、処理対象のフィードを注入するポイントと目的物質を分取するポイントとの間に存在する。
【0022】
他の実施形態において、系の全てのカラムが、移動相の流れ方向に沿って、処理対象のフィードを注入するポイントと目的物質を分取するポイントとの間に存在する。
【0023】
他の実施形態において、分離対象混合物は、注入ループ、注入ポンプおよび加圧容器で構成された群から選択される注入手段によって注入される。
【0024】
他の実施形態において、分離対象混合物は、増設されたクロマトグラフィーカラム(増設カラム)に通されてから、前記装置に注入される。
【0025】
他の実施形態において、増設カラムが、混合物の注入手段と混合物が装置に注入される単一のポイントとの間に存在するか、または前記装置における2個のカラム間に存在する。
【0026】
他の実施形態において、目的物質が濃縮されたフラクションの分取量は可変である。
【0027】
他の実施形態において、分離対象混合物は、注入ループおよび注入ポンプで構成された群から選択される注入手段によって注入される。
【0028】
他の実施形態において、分離対象混合物は、増設カラムに通されてから、前記装置に注入される。
【0029】
他の実施形態において、増設カラムが、混合物の注入手段と混合物が装置に注入される単一のポイントとの間に存在するか、または前記装置における2個のカラム間に存在する。
【0030】
他の実施形態において、各溶離剤の組成は、他の溶離剤とは独立して一定であるか、または可変である。
【0031】
他の実施形態において、溶離剤は連続的または断続的に注入される。
【0032】
他の実施形態において、溶離剤は他の溶離剤とは独立して移動される。
【0033】
他の実施形態において、本発明にかかる方法はサイクル単位で動作する。
【0034】
他の実施形態において、前記装置には、少なくとも1つの入口(上流口)と少なくとも1つの出口(下流口)とが常に存在する。
【0035】
他の実施形態において、目的物質の分取は、フィードが導入(注入)されるカラムの前に存在するカラムのカラム出口において実行される。
【0036】
他の実施形態において、目的物質の含有率が低いフラクションが、前記装置に再注入される。
【0037】
さらに、前述の分離法の使用であって、合成分子、天然抽出物、発酵由来のタンパク質、合成もしくは半合成によるタンパク質、免疫グロブリン、モノクローナル抗体、発酵由来のペプチド、または合成もしくは半合成によるペプチドを分離するための使用を提案する。
【0038】
本発明の他の特徴および利点は、図面を参照して行う本発明の実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになる。なお、以下の実施形態は単なる例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明にかかる分離法の一例の動作を示す図である。
【図2】本発明にかかる分離法の一例の動作を示す図である。
【図3】混合物の注入装置の一例を示す図である。
【図4】混合物の注入装置の一例を示す図である。
【図5】実施例における化合物の溶出グラフである。
【図6】実施例における化合物の溶出グラフである。
【図7】実施例における化合物の溶出グラフである。
【図8】実施例における化合物の溶出グラフである。
【図9】実施例における化合物の溶出グラフである。
【図10】実施例における化合物の溶出グラフである。
【図11】実施例における化合物の溶出グラフである。
【図12】分離法の一例の動作を示す概略図である。
【図13】分離法の一例の動作を示す概略図である。
【図14】分離法の一例の動作を示す概略図である。
【図15】分離法の一例の動作を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
分離対象混合物からフラクション(画分)を分離する方法を提案する。この方法は、直列に接続された少なくとも2個のクロマトグラフィーカラムを備える装置で利用される。この方法は、前記装置における単一のポイントから、分離対象混合物を断続的に注入する工程と、前記装置における単一のポイントから、目的物質が濃縮されたフラクションを断続的に分取する工程と、各カラムに溶離剤を注入する工程と、溶離剤を注入するポイントを移動させる工程とを含む。各溶離剤は、異なる溶出力を有する。この方法により、分離を簡便かつ効率良く行うことができる。
【0041】
この方法は、勾配を利用したマルチカラム分離法である。この方法はバッチ法ではない。この方法は、特に、少なくとも2種類の化合物を含む混合物の分離に利用される。この方法は、クロマトグラフィー時に溶出力をグラジエント変化(勾配的に変化)させることで分離を行う。
【0042】
精製される分子としては、例えば:合成分子、天然抽出物、発酵由来のタンパク質、合成もしくは半合成によるタンパク質、免疫グロブリン、モノクローナル抗体、発酵由来のペプチド、合成もしくは半合成によるペプチドなどが挙げられる。
【0043】
使用可能な固定相として、例えば:多孔質の固相担体(例えば、シリカなど(順相固相と称される場合もある))、グラフト重合された多孔質の固相担体(例えば、逆相固相と称される場合もある)、イオン交換樹脂、グラフト重合(例えば、タンパク質と)された樹脂などが挙げられる。広くいえば、移動相の組成をグラジエント変化させることのできる固定相であれば、どの種類の固定相を使用してもよい。例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(分子ふるいクロマトグラフィー)の場合、界面活性剤をグラジエントで添加する(勾配的に添加する)。
【0044】
移動相の組成のグラジエント変化は、様々な方法で実行することができる。例えば、別の組成に直接切り換える方法(「ステップ」グラジエントと称される)や、組成を徐々に変化させる方法(「リニア」グラジエントと称される)が挙げられる。
【0045】
使用可能な移動相として、以下の流体、例えば、
−液体、例えば、水および/または有機溶媒(塩または緩衝液を任意で混合してもよい)
−超臨界ガスおよび/または超臨界流体(有機溶媒を任意で混合してもよい)
などが挙げられる。
【0046】
印加する圧力の範囲は、固定相の粒子径、溶媒の粘度、カラム内での移動相の速度に応じて様々であり、一般的に、0.1〜300バール(bar)である。例えば:
−粒子径が50μmから400μmの場合には0.1〜10バール(bar)、
−粒子径が5μmから90μmの場合には3〜50バール(bar)、
−液相に溶解したCO、液体状態のCOまたは超臨界状態のCOを含む溶離剤の場合には40〜300バール(bar)、
が印加される。
【0047】
図1に、本発明にかかる分離法の動作を示す。この分離法は、複数のクロマトグラフィーカラムを備える装置で利用される。この方法により、分離対象混合物(フィード)からフラクション(画分)を分離することができる。この混合物は、二成分系(2種類の化合物を含む混合物)や、三成分系(3種類の化合物を含む混合物)であってもよい。三成分系の混合物(3種類の化合物を含む混合物)の場合、目的物質は、コアフラクション(コア画分)に存在する(すなわち、目的物質は、その保持時間よりも短い保持時間または長い保持時間を有する不純物に囲まれている)。しかしながら、この混合物は、4種類以上の化合物を含むものであってもよい。図1において、上記装置は、直列に接続され得る3個のカラム1,2,3を備えている。つまり、カラム1のカラム出口12は、カラム2のカラム入口21につながれており;カラム1のカラム出口12は、カラム1,2間で流体が往来可能なようにカラム2のカラム入口21と接続されてもよい。さらに、カラム2のカラム出口22は、カラム3のカラム入口31につながれている。以下の説明において、カラム間で流体が往来可能なようにカラムのカラム出口と次のカラムのカラム入口とが接続された複数のカラムのことを、直列カラムと称する。
【0048】
上記方法は、開管型(open loop)で動作する。つまり、どの瞬間においても、上記装置には、少なくとも1つの入口(上流口)と少なくとも1つの出口(下流口)が存在する。
【0049】
異なる溶出力を有する溶離剤A,B,Cが、それぞれ、部位11においてポイント41からカラム1に、部位21においてポイント42からカラム2に、部位31においてポイント43からカラム4に注入される。そして、出口(下流口)4はカラム3のカラム出口32と接続されている。あるピリオド(期間)T1の後、溶離剤Aの注入ポイント41、溶離剤Bの注入ポイント42、溶離剤Cの注入ポイント43が移動される。ピリオドとは、同じ溶離剤が、あるカラムから別のカラムへ移動されるまでの期間を指す。図1では、注入ポイント41,42,43が、それぞれ、部位21,31,11に移動され、溶離剤A,B,Cが、それぞれ、カラム2,3,1に注入される。カラム3のカラム出口32に位置した出口4も同じく移動され、カラム1のカラム出口12に接続される。さらなるピリオドT2の後、注入ポイント41,42,43が、それぞれ、部位31,11,21に移動され、溶離剤A,B,Cが、それぞれ、カラム3,1,2に注入され、かつ、出口4がカラム2のカラム出口22に接続される。
【0050】
なお、ピリオドT3の終了における移動により、装置は最初の状態(すなわち、ピリオドT1の状態)に戻る。つまり、本明細書で説明する分離法は、サイクル単位で動作するものであり、各サイクルが終了すると、装置が最初の形態に戻る。
【0051】
注入ポイント41,42,43の上記移動により、所定のピリオドTが経つと、カラム1,2,3内で移動相の組成がグラジエントに変化する。事実、ピリオドT1(すなわち、溶離剤A,B,Cが、それぞれ、カラム1,2,3に注入される期間)では、溶離剤Aが単独でカラム1を通過し、溶離剤AおよびBの混合物がカラム2を通過し、溶離剤A、BおよびCの混合物がカラム3を通過する。ピリオドT1の終了からピリオドT2の開始までの間に、溶離剤A,B,Cが移動され(溶離剤A,B,Cそれぞれの注入ポイントが移動され)、溶離剤A,B,Cが、それぞれ、カラム2,3,1に注入される。この注入により、溶離剤A、BおよびCの混合物がカラム1を通過し、溶離剤Aが単独でカラム2を通過し、溶離剤AおよびBの混合物がカラム3を通過する。同じように、ピリオドT2の終了からピリオドT3の開始までの間に、溶離剤の注入ポイントが移動されることにより、溶離剤AおよびBの混合物がカラム1を通過し、溶離剤A、BおよびCの混合物がカラム2を通過し、溶離剤Aが単独でカラム3を通過する。ピリオドT3が終了すると、溶離剤の注入ポイントが移動される。図1に当てはめると、溶離剤の注入ポイントはピリオドT1での位置に戻ることになる。
【0052】
このようにして、1つのカラム内の移動相の組成は、1回のサイクルの間(すなわち、溶離剤の注入ポイントが最初の位置に戻るまでの間)に変化する。例えば、1回のサイクルの間、カラム3には、溶離剤A、BおよびCの混合物、次いで溶離剤AおよびBの混合物、最後に溶離剤A単独が通過する。同様の現象が、各カラムにおいて、それぞれに対応する順番で生じる。このように、溶離剤を移動させる(溶離剤の注入ポイントを移動させる)だけで、各カラム内の移動相の組成をグラジエントに変化させることができる。この構成は、生産性の観点(短いサイクルで実行できる)や、分離性の観点(異なる物質間の良好な分離能および室間再現精度)からみて有利である。
【0053】
また、図1に示す出口4からの流れの一部または全体を、溶離剤の注入ポイント41、42および43のうちの1つに再注入するようにしてもよい。
【0054】
一例として、図1では、各溶離剤(各溶離剤の注入ポイント)の移動は同時に実行される。この場合、ピリオドの数はカラムの数だけ存在する。しかし、別の例として、各溶離剤を、他の溶離剤とは独立して移動させる(非同期的に移動させる)ようにしてもよいし、または他の溶離剤とは独立してその位置で維持してもよい(同位置に維持する)。その場合、このような、他の溶離剤とは独立して行なわれる非同期的な移動は、ピリオド単位で行われる。
【0055】
また、各溶離剤A,B,Cの組成を、1つ以上のピリオドの間もしくは1つのサイクルの間、同一(一定)としてもよいし、または他の溶離剤とは独立した様々な組成としてもよい。この構成は、所望の分離(分離比、目的物質の純度など)および目的物質の特性(移動相の組成の変化に対する目的物質の保持時間の応答)に応じて溶離剤の組成を調節できるので有利である。サイクル中に、1つのカラムに対し、そのカラム入口で特定の組成が得られるように、異なる組成を有する2種類の溶離剤を同時に注入するようにしてもよい。この構成は、僅かな種類の組成(固定された組成を含むリザーバ(溶離剤槽))を用いて、カラム入口において様々な種類の組成を得ることができるので有利である。
【0056】
また、溶離剤A,B,Cは、連続的または断続的に注入するようにしてもよい。すなわち、溶離剤の注入を、途中で中断することなく実行してもよいし、途中で中断してもよい。断続的な注入は、溶離剤を所望の期間だけ適用でき、優れた柔軟性を有する点で有利である。溶離剤を断続的に注入する場合、その注入を中断するのは、注入ポイントの移動時に行うようにしてもよい。連続的に注入するのは、適用が単純である点で有利である。
【0057】
分離対象混合物は、装置の単一ポイントから注入される。図1において、分離対象混合物は、混合物の注入ポイント61からカラム1のカラム入口11に注入される。この注入ポイント61は唯一存在する定位置に維持されている。この定位置構成は、複雑な装置に限らず、あらゆる一般的な注入装置が使用可能になるので極めて有利である。また、この定位置構成により、カラム毎に注入装置を設ける必要がなくなる。よって、この装置は、必要となる導管(配管)およびバルブの数が少ないので、洗浄を容易に行うことができる。また、この装置は、分離対象混合物を注入するポイントを複数備えた装置よりも、制御が容易である。
【0058】
事実、あらゆる一般的な注入手段を利用することができる。例えば、注入ループが使用可能である。この注入手段により、所定量の分離対象混合物を流れ中に注入することができる。また、注入ポンプも使用可能である。この注入手段では、フィードを、直接処理対象の混合物として注入することもできるし、既存の流れへ追加して注入することもできる。
【0059】
分離対象混合物は、断続的(非連続的)に注入される。すなわち、混合物の注入は途中で中断される。このような注入は、柔軟に対応できるとともに、容易に適用可能であるため有利である。
【0060】
分離対象混合物の注入は、サイクル単位で、複数あるピリオドのうちの1つの間に、または2つのピリオド間に実行される。図1の例では、混合物の注入はピリオドT3の間に実行される。この場合、ピリオドT3は、分離対象混合物を注入するシーケンスS1を含む。混合物の注入がピリオドT3の期間よりも短い期間で実行される場合、シーケンスS1の期間はピリオドT3の期間よりも短い。混合物が注入される時間および混合物が注入されるカラムは可変である。また、場合に応じて、注入シーケンスは、サイクル中の複数のピリオドのうちの1つの間に実行されてもよいし、あるピリオドで開始して次のピリオドで終了するようにされてもよい。
【0061】
目的物質が濃縮されたフラクション(画分)は、装置における単一のポイントから分取される。図1において、分取は、カラム3のカラム出口32において実行される。この構成の利点は、カラム毎に分取装置を必要とせず、装置全体に対して単一の分取装置を設けるだけでよい点である。よって、この装置では、必要となる導管(配管)およびバルブの数が少ないので、洗浄を簡単に行うことができる。さらに、この装置は、簡単に制御できる。
【0062】
目的物質が濃縮されたフラクション(画分)の分取は、断続的に実行される。すなわち、分取は途中で中断される。この分取構成の利点は、分取量の調節が柔軟にできることである。この構成により、系の物理的限度(移動相に対する可溶度、固定相の飽和度など)内で、フラクション(画分)の濃度を調節することができる。分取量が少ないほど、濃度を高くできる。また、このような断続的な分取は、連続的な分取よりも容易に実施することができる。
【0063】
目的物質が濃縮されたフラクションの分取は、サイクル単位で実行される。この分取は、複数あるピリオドのうちの1つの間において実行されてもよいし、あるピリオドで開始して次のピリオドで終了するようにしてもよい。フラクションの一部(あるカラムから次のカラムへの流れの一部)または全体を分取してもよい。図1の例では、目的物質が濃縮されたフラクションの分取は、ピリオドT3の間に分取ポイント62において実行される。この場合、ピリオドT3は、目的物質が濃縮されたフラクションを分取するシーケンスS1を含む。目的物質が濃縮されたフラクションの分取がピリオドT3の期間よりも短い期間で実行される場合、シーケンスS1の期間はピリオドT3の期間よりも短い。図1に示すように、一例として、分取ポイント62における分取と注入ポイント61における混合物の注入が同一のシーケンスS1に含まれていてもよい。しかしながら、注入と分取は、異なるシーケンスで実行されてもよい。また、図1の例に示すように、目的物質が濃縮されたフラクションの分取を、シーケンスS1を超えて、混合物の注入が実行されないシーケンスS2まで引き続き行ってもよい。図1の例では、ピリオドT3は、シーケンスS1およびシーケンスS2よりも長い。この場合、ピリオドT3は、目的物質が濃縮されたフラクションの分取および混合物の注入のいずれも実行されないシーケンスS3を含む。
【0064】
好ましくは、分離対象混合物の注入を最初のカラム(最も上流のカラム)のカラム入口において実行する場合、目的物質の分取は最後のカラム(最も下流のカラム)のカラム出口において実行される。この構成は、目的物質を系の全てのカラムに通した後に分取できるので極めて有利である。
【0065】
図1に示すように、分離対象混合物の注入と目的物質の分取を同時に実行してもよい。特に、図1の場合、目的物質の分取は、サイクル中において、分離対象混合物の新たな注入と同時に開始される。しかし、この構成は本発明を限定するものでない。
【0066】
処理対象のフィードを注入する工程の間、少なくとも1種の溶離剤の注入を中断するようにしてもよい。また、目的物質を分取する間、少なくとも1種の溶離剤の注入を中断するようにしてもよい。注入が実行される期間の長さと、目的物質の分取が実行される期間の長さを、互いに異ならせてもよい。
【0067】
図2に、2個のカラムを使用した分離法の動作の一例を示す。この方法は、2個の直列カラムを備えた装置で利用される。図2では、サイクル中の第1のピリオドT1において、異なる溶出力を有する2種類の溶離剤が、それぞれ、カラム1,2に注入される。
【0068】
ピリオドT1は、2つのシーケンスに分割してもよい。第1のシーケンスS1には、2種類の溶離剤A,Bを、それぞれ、注入ポイント41からカラム1に、注入ポイント42からカラム2に注入する工程が含まれる。第2のシーケンスS2には、2種類の溶離剤A,Cを、それぞれ、注入ポイント41からカラム1に、注入ポイント43からカラム2に注入する工程が含まれる。
【0069】
この方法では、ピリオドT1の後にピリオドT2が続く。ピリオドT2にもシーケンスS1,S2が含まれる。溶離剤を注入するポイントが移動され、シーケンスS1では、溶離剤A,Bが、それぞれ、(注入ポイント41から)カラム2に,(注入ポイント42から)カラム1に注入され、シーケンスS2では、溶離剤A,Cが、それぞれ、(注入ポイント41から)カラム2に,(注入ポイント43から)カラム1に注入される。
【0070】
第2のピリオドT2では、カラム2のカラム出口がカラム1のカラム入口に接続される。この方法のサイクルは、2つのピリオドで構成される。分離対象混合物を注入するシーケンス(図示せず)および目的物質を分取するシーケンス(図示せず)は、それぞれ、サイクルにおいて1回だけ実行される。例えば、混合物を、ピリオドT2のシーケンスS1で、カラム2のカラム入口において注入するようにし、かつ、目的物質を、ピリオドT2のシーケンスS1およびS2で、カラム1のカラム出口において分取するようにしてもよい。上記の例は、本発明におけるピリオドのシーケンスの内容および数を限定するものではない。
【0071】
図3および図4に、混合物の注入装置を示す。いずれの図の装置も、注入手段としてのポンプ(注入ポンプ)13,14、および増設カラム5を備える。増設カラム5は、プレカラムとも称される。混合物は、装置に注入される前に増設カラム5に通される。増設カラム5は、分離対象混合物中の不純物、特に、カラムに極めて強く保持される不純物を除去する役割を果たす。この構成により、一部の不純物による装置の汚染を抑制することができるので、洗浄が容易になる。
【0072】
図3に、混合物の注入装置であって、直列に接続された第1のカラムのカラム出口と第2のカラムのカラム入口との間に増設カラム5を設けた注入装置を示す。例えば、図1にこの注入装置を応用した場合、増設カラム5は、カラム3のカラム出口32とカラム1のカラム入口11との間に設けられてもよい。増設カラム5のカラム入口に三方向切り換えバルブ(三方弁)6、そのカラム出口に三方向切り換えバルブ(三方弁)7がそれぞれ配設され、直列カラムと増設カラム5とを接続している。カラム入口におけるバルブ6は、分離対象混合物8の注入、または増設カラム5を洗浄するための再生用の溶媒9の注入を可能にする。カラム出口におけるバルブ7は、増設カラム5のカラム出口をその次のカラムのカラム入口から切り離し、ライン10を介して再生用の溶媒9および排出対象の不純物を排出することを可能にする。この構成は、装置全体を再生する必要がなく、増設カラム5のみを再生すればよいという優れた利点を有する。さらに、この構成は、装置を汚染することなく、増設カラムを洗浄することができるという他の利点も有する。洗浄および再生シーケンスを、サイクル中に実行するようにしてもよい。
【0073】
図4に、混合物の注入装置であって、増設カラム(プレカラム)5が、一群の導管(配管)および三方向切り換えバルブ(三方弁)17,18,19,20により、直列に接続された第1のカラムのカラム出口と第2のカラムのカラム入口との間に間接的に接続された注入装置を示す。これら一群の導管および三方向切り換えバルブ(三方弁)17,18,19,20は、様々な組合せ(流路)を可能にする:例えば、分離対象混合物8を注入ポイントからカラムのカラム入口に直接注入できるようにバルブを切り換えることもできるし、また、分離対象混合物8を増設カラム5に通してから、カラムのカラム入口に注入するようにバルブを切り換えることも可能である。この構成の場合、本発明にかかる分離法では、増設カラム5の再生工程を実行するに際し、装置の分離動作を中断することなく、増設カラム5をカラムのカラム入口から切り離すことができ、装置を汚染することなく増設カラム5の再生工程を実行できる。例えば、図1にこの注入装置を応用した場合、増設カラム5は、カラム3のカラム出口32にバルブ19(図4)を介して接続され、かつ、カラム1のカラム入口11にバルブ20(図4)を介して接続されてもよい。また、バルブ19とバルブ20を直接連通させた場合、増設カラム5への通過を省略することもできる。
【0074】
なお、図3の注入装置よび図4の注入装置は、フィードの注入を実行する上での、増設カラム5の使用方法の例示に過ぎない。図示のバルブとは異なる個数の、複数方向の切換えが可能なバルブ(多方弁)を、ポンプや溶媒に接続して用いた装置も考えられる。また、増設カラムにおける流体の流れ方向を、図3および図4における方向と反対の方向に設定することも考えられる。
【0075】
処理対象のフィードは、注入ポンプに代えて、加圧容器によって系に注入されてもよい。
【0076】
処理対象のフィードに含まれる不純物以外のフラクションは、ピリオド単位で移動する分取ラインによって分取されるか、または系における単一のポイントで分取される。任意で、フラクションの分取は、流れの一部または全体を分取することで実行してもよい。
【0077】
系のカラムを再生するための再生シーケンスを、ピリオド単位で設けてもよい。
【0078】
また、本発明にかかる方法は、国際公報第2008/025887号パンフレットに記載されているような、COを含有する流体(例えば、超臨界流体または亜臨界流体)などの非液体の溶離剤を使用することも可能である。なお、溶離剤に共溶媒を添加してもよい。
【0079】
本発明の他の実施形態において、カラムの容積は互いに同一であってもよいし、互いに異なるものであってもよい。
【0080】
本発明の他の実施形態において、ピリオドの長さは互いに同一であってもよいし、互いに異なるものであってもよい。
【0081】
本発明の他の実施形態において、洗浄シーケンス、強く保持された物質を脱離するための脱離シーケンス、カラムを再生するための再生シーケンス、カラムを平衡化するための平衡化シーケンスなどが設けられてもよく、また、それらのシーケンスの長さは、ピリオドに応じて互いに同一であってもよいし、互いに異なるものであってもよい。他の実施形態において、これらの工程は、溶離剤の流れ方向を反対方向にすることで実行されてもよい。
【0082】
本発明の他の実施形態において、目的でない物質を分取する1つ以上のシーケンスを、系において時々実行するようにしてもよい。この分取構成により、所望の物質と保持時間が近接する不純物について、その濃度が過度に高くなるのを防ぐことができる。
【0083】
以下の実施例は本発明の例示であって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0084】
[実施例1]
本実施例は、本発明にかかる方法とバッチ法を、シミュレーションによって比較したものである。本実施例におけるシミュレーションは、当該実施例で説明するシーケンスを複数のサイクルにわたって繰り返した場合を正確に再現している。
【0085】
使用するモデルは、内部流動に伴って抵抗が生じる軸方向拡散(管型反応器)モデルをLDF(線形推進力近似)法で記述したものである。パラメータは、平衡式のパラメータを求める際の濃度と同じモディファイア(modifier)の濃度における、ファンディームター(Van Deemter)式の係数から抽出した。吸着平衡式および処理対象のフィードの組成については、Strohlein et al. (J. Chrom. A 1126 (1-2), 338-346, 2006)に掲載されたモデルを利用した:このモデルでは、モディファイアの量を180g/Lとし、溶離剤の流れ速度を1.6mL/分とした際に、直径1cmおよび長さ30cmのカラムにおいて、処理対象のフィードに含まれる3種類の化合物の保持時間が、それぞれ、127分、168分、208.5分となり、モディファイアの量を200g/Lとした際の保持時間が、それぞれ、38.5分、49.5分、60.5分となる。
【0086】
本実施例は、図1の方法を用いる。
【0087】
カラムの長さは10cmとし、カラムの直径は1cmとする。
【0088】
異なる溶出力を有する溶離剤A,B,Cを、それぞれ、部位11においてポイント41からカラム1に、部位21においてポイント42からカラム2に、部位31においてポイント43からカラム3に注入する。出口4はカラム3のカラム出口32に接続される。
【0089】
ピリオドT1の後、溶離剤Aの注入ポイント41、溶離剤Bの注入ポイント42、溶離剤Cの注入ポイント43が移動され、溶離剤A,B,Cが、それぞれ、部位21においてカラム2に、部位31においてカラム3に、部位11においてカラム1に注入される。出口4はカラム1のカラム出口12に接続される。
【0090】
ピリオドT2の後、注入ポイント41,42,43が移動され、溶離剤A,B,Cが、それぞれ、部位31においてカラム3に、部位11においてカラム1に、部位21においてカラム2にカラム3,1,2に注入される。出口4はカラム2のカラム出口22に接続される。
【0091】
ピリオドT1,T2,T3の長さ(分)は、それぞれ、12.5分である。合計37.5分のサイクルは、時間t=0(分)で始まる。ピリオドT1はt=0からt=12.5まで続く。ピリオドT2はt=12.5からt=25まで続く。ピリオドT3はt=25からt=37.5まで続く。
【0092】
図1のように、ピリオドT3を3つのシーケンスに分割してもよい。第1のシーケンスS1はt=25からt=26.5まで続く。このシーケンスにおいて、分離対象混合物3.45mLがカラム1のカラム入口11に注入される。分取はカラム3のカラム出口32において実行される。
【0093】
第2のシーケンスS2はt=26.5からt=27.1まで続く。このシーケンスでは、分離対象混合物の注入は終了している。ただし、分取はカラム3のカラム出口32において引き続き行われる。
【0094】
第3のシーケンスS3はt=27.1からt=37.5まで続く。このシーケンスでは、分離対象混合物の注入、分取のいずれも実行されていない。
【0095】
上記の場合、注入および分取がt=25で同時に開始され、注入は分取よりも先に終了する(t=26.5)。ただし、本発明はこの構成に限定されない。
【0096】
本実施例では、溶離剤Aのモディファイアの組成は、ピリオドの開始から終了までに、205〜215g/Lと線形的に変化し、溶離剤Aの溶出力を変化させる。一方、溶離剤Bのモディファイアの量および溶離剤Cのモディファイアの量は、それぞれ、180.7g/L、172.8g/Lと一定である。溶離剤A,B,Cの流れ速度は、それぞれ、1.6mL/分、0.8mL/分、1.4mL/分である。
【0097】
図5に、カラム3のカラム出口において得られるクロマトグラムを示す。図5では、化合物IIが目的とする精製対象の化合物である。図中の曲線51は、時間あたりの化合物Iの濃度の変化を示したものである。曲線52は、時間あたりの化合物IIの濃度の変化を示したものである。曲線53は、時間あたりの化合物IIIの濃度の変化を示したものである。曲線54は、時間あたりのモディファイアの濃度の変化を示したものである。図中に2本の一点鎖線で示した時間間隔55は、分取が実行される期間の長さを表している。純度は96%で、収率は89%である。図6に、化合物I、IIおよびIIIの混合物(濃度は、それぞれ、0.15g/L、0.55g/L、0.25g/L)を、注入量3.45mLで、バッチ法によりグラジエント溶出(流れ速度Q=1.6mL/分;モディファイア濃度Cmod=180〜215g/Lで変化させる)する際のクロマトグラムを示す。カラムの長さは30cmであり、カラムの直径は1cmである。化合物IIが目的とする精製対象の化合物である。図中の曲線51は、時間あたりの化合物Iの濃度の変化を示したものである。曲線52は、時間あたりの化合物IIの濃度の変化を示したものである。曲線53は、時間あたりの化合物IIIの濃度の変化を示したものである。曲線54は、時間あたりのモディファイアの濃度の変化を示したものである。図中に2本の一点鎖線で示した時間間隔55における分取フラクションは、純度が94%で、収率が20%である。つまり、サイクル毎に(サイクル単位で)処理されるフィードの量および使用される固定相の量が同一であっても、本発明にかかる方法は、純度および収率の両方において優れている。
【0098】
[実施例2]
本実施例は、図2の2個のカラムについて、実施例1の条件を繰り返し適用するものである。カラムの長さは10cmであり、カラムの直径は1cmである。
【0099】
第1のピリオドでは、カラム1のカラム出口がカラム2のカラム入口に接続されている。第1のピリオドの第1のシーケンスS1において、溶離剤A,Bが、それぞれ、カラム1、カラム2に注入される。第1のピリオドの第2のシーケンスS2において、溶離剤A,Cが、それぞれ、カラム1、カラム2に注入される。
【0100】
第2のピリオドでは、カラム2のカラム出口がカラム1のカラム入口に接続されている。第2のピリオドの第1のシーケンスS1において、溶離剤A,Bが、それぞれ、カラム2、カラム1に注入される。第2のピリオドの第2のシーケンスにおいて、溶離剤A,Cが、それぞれ、カラム2、カラム1に注入される。
【0101】
シーケンスS1は7.5分間続き、シーケンスS2は17分間続く。1つのピリオドの長さは合計24.5分間であり、サイクル全体の長さは49分である。
【0102】
ピリオド中において、溶離剤Aのモディファイアの量はt=0からt=7.5のあいだ190g/Lと一定であり、そこからピリオドの終了における200g/Lに達するまで線形的に変化する。
【0103】
溶離剤B,Cの組成は、それぞれ、215g/L、127g/Lと一定である。
【0104】
溶離剤A,B,Cの流れ速度は、それぞれ、2mL/分、1.33mL/分、0.25mL/分である。
【0105】
分離対象混合物の注入は、t=38.5〜t=39.5のあいだ、カラム1において、流れ速度2mL/分で実行される。
【0106】
目的物質の回収は、t=38.5〜t=40.5のあいだ、カラム2のカラム出口において実行される。得られる目的物質の純度は93%であり、収率は76%である。
【0107】
[実施例3]
本実施例は、本発明にかかる方法を、Fmoc法(9−フルオレニルメトキシカルボニル法)による固相上でのペプチド合成で得られたロイシン−エンケファリンを含む、2種類の錯体混合物M1,M2に対して適用したものである。これらの各フィードについて、以下に記載される方法に従って、類似の方法を適用した。
【0108】
モデルを構築するには、ピークの保持時間およびピークの分散(分離)を算出する必要がある。
【0109】
ピークの保持時間は、吸着平衡式から再現可能である。この吸着平衡式には、前述した実施例と同じ式を利用する。平衡式のパラメータは、実験データから算出した。図7、図8および図9は、混合物M1を溶離するための緩衝液として異なる組成の水/エタノールを適用することで得られた、混合物M1のクロマトグラム(UV λ=220nm)であり、それぞれ、水/エタノールの組成を75/25、70/30、65/35と変化させている。ここでは、長さ15cmおよび直径0.46cm(固定相としてKromasil C18の5μmを使用)のカラムを用いており、溶離剤の流れ速度は0.5mL/分である。得られたロイシン−エンケファリンの保持時間は、それぞれのクロマトグラムにおいて、23.0分、12.4分、7.8分である。これらの保持時間から、平衡式のパラメータを推測できる。
【0110】
ピークの分散を算出するためのパラメータは、図10のクロマトグラム(カラム粒子径5μm)および図11のクロマトグラム(カラム粒子径25μm)上のピークの分散を測定し、これらを用いて推測した。分散式には、簡略化したファンディームター(Van Deemter)式を使用する:
HETP=A×d+Bu
[式中、HETPは理論段相当高さ(cm)を示し、uは流体の線速度(cm/秒)を示し、dは粒子径(cm)を示し、AおよびBは係数である。(d=20μmとした際に、A=7.8、B=0.588(秒)となる。Bは粒子径の二乗に依存する。)]
【0111】
混合物M1,M2中のロイシン−エンケファリンの含有率は、それぞれ、51%、92%である(クロマトグラム上の面積 UV λ=220nm)。このモデルにより、ロイシン−エンケファリンのピークの挙動およびこれに近接する不純物の挙動を、実際の場合に近い形で再現することができた。図10および図11の両方に、実験で得られたクロマトグラム(実線)、およびこのモデルによって得られるクロマトグラム(点線)を示す。同図から分かるように、このモデルから、実際の場合に近いデータを算出することができる。
【0112】
図13に示す方法を混合物M1に対して適用する際の条件を以下に説明する。
【0113】
1回のサイクル(9.15分)は、3つのピリオドT1,T2,T3で構成される。かつ、1つのピリオドは、2つのシーケンスS1,S2(それぞれの長さは、0.775分、2.275分)で構成される。図12に、第1のピリオドT1における入口ライン(配管)および出口ライン(配管)の組合せを概略的に示す。ピリオドT1,T2,T3の長さは、いずれも3.05分である。第1のピリオドT1から、カラムの入口ラインおよび出口ラインの位置を切り換えることにより、ピリオドT2の状態(入口ラインおよび出口ラインをカラム1個分切り換えた場合)やピリオドT3の状態(入口ラインおよび出口ラインをカラム2個分切り換えた場合)に達することができる(図13を参照)。
【0114】
ピリオドT1は2つのシーケンスS1,S2を有する。第1のシーケンスS1では、3種類の溶離剤A,B,Dを、それぞれ、部位11においてポイント41からカラム1に、部位21においてポイント42からカラム2に、部位31においてポイント43からカラム3に注入する。出口51,52は、それぞれ、カラム2のカラム出口22に、カラム3のカラム出口32に接続される。第2のシーケンスS2では、3種類の溶離剤A,B,Cを、それぞれ、部位11においてポイント41からカラム1に、部位21においてポイント42からカラム2に、部位31においてポイント43からカラム3に注入する。出口52はカラム3のカラム出口32に接続される。この第2のシーケンスにおいて、カラム2のカラム出口がカラム3のカラム入口に接続される。
【0115】
ピリオドT1の後、溶離剤の注入ポイント41,42,43が移動される。そして分離方法はピリオドT2へと進む。ピリオドT1と同じく、ピリオドT2も2つのシーケンスS1,S2を有する。第1のシーケンスS1において、溶離剤を注入するポイントが移動され、溶離剤A,B,Dが、それぞれ、(注入ポイント41から)カラム2に、(注入ポイント42から)カラム3に、(注入ポイント43から)カラム1に注入され、出口51,52が、それぞれ、カラム3のカラム出口32、カラム1のカラム出口12に接続される。第2のシーケンスS2において、溶離剤A,B,Cが、それぞれ、(注入ポイント41から)カラム2に、(注入ポイント42から)カラム3に、(注入ポイント43から)カラム1に注入され、出口52がカラム1のカラム出口12に接続される。この第2のシーケンスS2において、カラム3のカラム出口がカラム1のカラム入口に接続される。
【0116】
ピリオドT2の終了において、溶離剤の注入ポイント41,42,43が移動される。続いて、方法はピリオドT3に進む。ピリオドT1,T2と同じく、ピリオドT3も2つのシーケンスS1,S2を有する。第1のシーケンスS1において、溶離剤を注入するポイントが移動され、溶離剤A,B,Dが、それぞれ、(注入ポイント41から)カラム3に、(注入ポイント42から)カラム1に、(注入ポイント43から)カラム2に注入され、出口51,52が、それぞれ、カラム1のカラム出口12、カラム2のカラム出口22に接続される。第2のシーケンスS2において、溶離剤A,B,Cが、それぞれ、(注入ポイント41から)カラム3に、(注入ポイント42から)カラム1に、(注入ポイント43から)カラム2に注入され、出口52がカラム2のカラム出口に接続される。この第2のシーケンスS2において、カラム1のカラム出口がカラム2のカラム入口に接続される。
【0117】
溶離剤のラインA,B,C,Dは、以下の組成および流れ速度を特徴とする:
・ ラインA:シーケンスS1において33〜33.5体積%エタノールを5mL/分の速度で供給し、シーケンスS2において33.5〜35体積%エタノールを5mL/分の速度で供給する。
・ ラインB:20体積%エタノールを0.5mL/分の速度で供給する。
・ ラインC:20体積%エタノールを0.5mL/分の速度で供給する。
・ ラインD:50体積%エタノールを6mL/分の速度で供給する。
【0118】
分離対象混合物を注入し、かつ、目的物質を分取するシーケンスS0(図14)はサイクル毎に(サイクル単位で)1回実行され、詳細には、ピリオドT3の開始において実行される。
【0119】
第3のピリオドT3の開始(t=6.10)において、目的物質の回収および処理対象混合物の注入が、同時に0.5分間実行される。収集は、カラム3のカラム出口32において出口53を介して実行され、注入は、カラム1のカラム入口11において注入ポイント42から実行される。得られる純度および収率は99%を超える。
【0120】
図13に示す方法を混合物M2に対して適用する際の条件を以下に説明する。
【0121】
1つのピリオドは、2つのシーケンスS1,S2(それぞれの長さは、0.72分、3.5分)で構成される(図12および図13を参照)。ピリオドの長さは4.22分である。
【0122】
溶離剤のラインA,B,C,Dは、以下の組成および流れ速度を特徴とする:
・ ラインA:シーケンスS1において33.1〜33.6体積%エタノールを3.5mL/分の速度で供給し、シーケンスS2において33.6〜35体積%エタノールを3.5mL/分の速度で供給する。
・ ラインB:20体積%エタノールを0.28mL/分の速度で供給する。
・ ラインC:20体積%エタノールを0.3mL/分の速度で供給する。
・ ラインD:50体積%エタノールを5mL/分の速度で供給する。
【0123】
分離対象混合物を注入し、かつ、目的物質を分取するシーケンスS0(図15)はサイクル毎に(サイクル単位で)1回実行され、詳細には、ピリオドT2の開始において実行される。
【0124】
第2のピリオドT2において(詳細には、t=7.6〜t=8.1の間)、目的物質の回収および処理対象混合物の注入が、同時に0.5分間実行される。収集は、カラム3のカラム出口32において出口51を介して実行され、注入は、カラム1のカラム入口11において注入ポイント43から実行される。この場合、得られる純度および収率は99%を超える。
【0125】
上記の実施例から、本発明にかかる方法が、精製対象となる原料フィードのプロファイルが異なっていても、それぞれに対応できることは明らかである。混合物M2の場合の条件が混合物M1の場合の条件と少し異なる理由は、混合物M2の不純物のプロファイルが目的物質に近いプロファイルを有しているためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離対象混合物から目的物質が濃縮されたフラクションを分離する方法であって、
直列に接続された少なくとも2個のクロマトグラフィーカラムを備える装置を用意する工程と、
前記装置における単一のポイントから、分離対象混合物を断続的に注入する工程と、
前記装置における単一のポイントから、フラクションを断続的に分取する工程と、
異なる溶出力を有する溶離剤を各カラムに注入する工程と、
溶離剤を注入するポイントを移動させる工程と、
を含む分離法。
【請求項2】
請求項1において、分離対象混合物を注入する工程を、サイクル単位で実行する分離法。
【請求項3】
請求項1または2において、濃縮されたフラクションを分取する工程を、サイクル単位で実行する分離法。
【請求項4】
請求項3において、溶離剤の注入ポイントを移動させる工程を、ピリオド単位で実行する分離法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、溶離剤を連続的または断続的に注入する分離法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、少なくとも1種の溶離剤を断続的に注入する分離法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、各溶離剤の組成が一定である分離法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、少なくとも1種の溶離剤の組成が、他の溶離剤とは独立して可変である分離法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、少なくとも1種の溶離剤を非同期的に移動させる分離法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、少なくとも2個のカラムが、移動相の流れ方向に沿って、処理対象のフィードを注入するポイントと目的物質を分取するポイントとの間に存在する分離法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項において、系の全てのカラムが、移動相の流れ方向に沿って、処理対象のフィードを注入するポイントと目的物質を分取するポイントとの間に存在する分離法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項において、分離対象混合物が、注入ループ、注入ポンプおよび加圧容器で構成された群から選択される注入手段によって注入される分離法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項において、分離対象混合物が、増設カラムに通されてから、前記装置に注入される分離法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項において、増設カラムが、混合物の注入手段と混合物が装置に注入される単一のポイントとの間に存在するか、または前記装置における2個のカラム間に存在する分離法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の分離法の、合成分子、天然抽出物、発酵由来のタンパク質、合成もしくは半合成によるタンパク質、免疫グロブリン、モノクローナル抗体、発酵由来のペプチド、または合成もしくは半合成によるペプチドを分離するための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−517489(P2011−517489A)
【公表日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502453(P2011−502453)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【国際出願番号】PCT/IB2009/005191
【国際公開番号】WO2009/122281
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(503063515)
【氏名又は名称原語表記】NOVASEP