説明

グラスライニング組成物

【課題】本発明の目的は、微細気泡を有し、保温性及び断熱性に優れたグラスライニング施釉層を形成することができるグラスライニング組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明のグラスライニング組成物は、グラスライニング用フリット100質量部に対してナノメートルオーダーの気泡を有するナノ多孔質(nanoporous)セラミック粒子を1〜50質量部を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスライニング組成物に関し、更に詳細には、微細気泡を有し、保温性及び断熱性に優れたグラスライニング施釉層を形成することができるグラスライニング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からグラスライニング機器は、低炭素鋼板あるいはステンレス系鋼板を素地とし、この素地金属と密着を強固にする下ぐすり用グラスライニング組成物を0.2〜0.4mm位焼き付けた後、高耐食性能を有する上ぐすり用グラスライニング組成物を通常0.6〜2.5mm位焼き付けることにより製造されている。
【0003】
従来のグラスライニング機器に使用されている下ぐすり用グラスライニング組成物及び上ぐすり用グラスライニング組成物は、下記の組成を有するフリット(ガラス溶融物粉末)から構成されている:
(A)SiO+TiO+ZrO:46〜67質量%
ただし、
SiO:46〜67質量%
TiO:0〜18質量%
ZrO:0〜12質量%
(B)RO(RはNa、KまたはLiを表す):8〜22質量%
ただし、
NaO:8〜22質量%
O:0〜16質量%
LiO:0〜10質量%
(C)R’O(R’はCa、Ba、ZnまたはMgを表す):0.9〜7質量%
ただし、
CaO:0.9〜7質量%
BaO:0〜6質量%
ZnO:0〜6質量%
MgO:0〜5質量%
(D)B+Al:1.2〜22質量%
ただし、
:1.2〜22質量%
Al:0〜6質量%
(E)CoO+NiO+MnO:0〜5質量%
ただし、
CoO:0〜5質量%
NiO:0〜5質量%
MnO:0〜5質量%
【0004】
また、着色成分としてSb、Cr、Fe、SnOの少なくとも1種を上記フリット組成100%に対して最大Fe換算量で5質量%まで添加されたフリットもある。更に、フリットの溶融を促進するために、前記SiO、CaO、NaO成分のうち5質量%を限度にフッ化物も使用されている。フッ化物としては例えばNaSiF、CaF、NaAlFが使用されている。
【0005】
また、グラスライニング施釉層の導電性を改善するために、例えば特許文献1には、フリットを含むグラスライニング組成物であって、直径0.5〜30ミクロン、長さ1.5〜10mm、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維を前記フリット100重量部(質量部)に対して0.05〜1.5重量部(質量部)含有してなることを特徴とする導電性グラスライニング組成物(請求項1);金属繊維がステンレス系金属、貴金属系金属、及び白金と白金族金属との合金からなる群から選択される1種または2種以上である請求項1記載の導電性グラスライニング組成物(請求項2)が開示されている。
【0006】
更に、特許文献2には、フリットを含むグラスライニング組成物であって、直径0.01ミクロン以上0.5ミクロン未満、長さ0.5〜1500ミクロン、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維を前記フリット100重量部(質量部)に対して0.001〜0.05重量部(質量部)含有してなることを特徴とする導電性グラスライニング組成物(請求項1)が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、フリットを含むグラスライニング組成物であって、直径0.1〜30ミクロン、長さ0.005〜3mm、長さ/直径の形状比50以上のセラミックス繊維を前記フリット100重量部(質量部)に対して0.05〜1.5重量部(質量部)含有してなることを特徴とする導電性グラスライニング組成物(請求項1);セラミックス繊維が炭化物系繊維及び/または炭素繊維である、請求項1記載の導電性グラスライニング組成物(請求項2);更に、直径0.01〜30ミクロン、長さ0.5ミクロン〜3mm、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維をフリット100重量部(質量部)に対して0.001〜1.45重量部(質量部)含有してなる、請求項1または2記載の導電性グラスライニング組成物(請求項3)が開示されている。
【0008】
ここで、従来、グラスライニング機器におけるグラスライニング施釉層の厚みは、JIS R4201規格により0.6〜2.5mmと定められているが、実際のグラスライニング機器におけるグラスライニング施釉層の厚みは、焼成過程におけるピンホール発生、修正、手直し焼成等の反復により、1.3〜2.0mm程度で製品化されている。即ち、グラスライニング組成物の施釉は、1回当り0.2〜0.3mm位で、下ぐすり用グラスライニング組成物の施釉を1〜2回、上ぐすり用グラスライニング組成物の施釉を4〜6回行い、その都度、焼成炉内で溶融、焼き付けを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−81544号公報
【特許文献2】特開平11−116273号公報
【特許文献3】特開平11−189431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまでのグラスライニング機器、グラスライニング施釉層に係る研究・開発は、グラスライニング施釉層の基体となる金属基体、例えば低炭素鋼板、ステンレス系鋼板等へのグラスライニング施釉層の密着性の向上、グラスライニング施釉層の薄肉化、グラスライニング施釉層からの汚染防止や、グラスライニング施釉層の帯電防止などに向けられており、グラスライニング施釉層の保温性や断熱性の向上については検討されていないのが現状である。
【0011】
従って、本発明の目的は、微細気泡を有し、保温性及び断熱性に優れたグラスライニング施釉層を形成することができるグラスライニング組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、これまでグラスライニング施釉層の諸特性を悪化させる、特に、ピンホールや剥離の原因となるとして嫌われていた多孔質材料を使用してグラスライニング施釉層に気泡を存在させ、且つ気泡寸法をナノメートルオーダーで制御することにより、グラスライニング施釉層の諸特性を飛躍的に向上することができると共に保温性及び断熱性を有するグラスライニング施釉層を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明のグラスライニング組成物は、グラスライニング用フリット100質量部に対してナノメートルオーダーの気泡を有するナノ多孔質(nanoporous)セラミック粒子を1〜50質量部を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のグラスラスニング組成物によれは、微細気泡を有し、保温性及び断熱性に優れたグラスライニング施釉層を形成することができるグラスライニング組成物を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例に使用した4R、6R、8R、12Rの曲面を有する小R形状の鋼製テストピースの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のグラスライニング組成物は、グラスライニング用フリット(ガラス溶融物粉末)に、ナノメートルオーダーの気泡を有するナノ多孔質セラミック粒子を配合することに特徴がある。ナノメートルオーダーの気泡を有するナノ多孔質セラミック粒子を配合するによりより、微細気泡を有するグラスライニング施釉層を形成することができ、微細気泡の存在により、グラスライニング施釉層に保温性並びに断熱性を付与することができるものである。
【0017】
ここで、グラスライニング用フリットへのナノメートルオーダーの気泡を有するナノ多孔質セラミック粒子の配合割合は、フリット100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは10〜30質量部の範囲内である。ナノ多孔質セラミック粒子の配合割合が1質量部未満であると、その添加効果が発現しないために好ましくなく、また、50質量部を超えると、耐火性が高くなりすぎ、平滑性に劣るために好ましくない。なお、ナノ多孔質セラミックス粒子に存在する「気泡」とは、粒子内に封止された形態で存在する気泡と、粒子表面に存在する開放気孔を総称するものとする。
【0018】
次に、本発明のグラスライニング組成物に使用できるナノメートルオーダーの気泡を有するナノ多孔質セラミック粒子としては、例えば粒子径1〜15μm、好ましくは1〜10μm、粒子内の気泡径1〜300nm、好ましくは1〜100nm、気孔率45〜65%、好ましくは50〜60%を有するナノ多孔質シリカ粒子を例示することができる。
【0019】
このようなナノ多孔質シリカ粒子は、例えば水ガラスを油性溶媒及び界面活性剤と共に攪拌混合してコロイド状態にした後、沈澱、乾燥させて水成分を除去し、粒度調整することにより製造することができる。
【0020】
次に、本発明のグラスライニング組成物に使用可能なグラスライニング用フリット(ガラス溶融物粉末)は、下記の(A)〜(D)からなるものである:
(A)SiO+TiO+ZrO:46〜72質量%
ただし、SiO:46〜70質量%
TiO:0.1〜5質量%
ZrO:2〜15質量%
(B)RO(RはNa、K、Li、Csを示す):8〜22質量%
ただし、NaO:6〜20質量%
O:0〜16質量%
LiO:2〜20質量%
CsO:0〜16質量%
(C)R’O(R’はCa、Mg、Ba、Sr、Znを示す):1〜8質量%
ただし、CaO:1〜8質量%
MgO:0〜5質量%
BaO:0〜5質量%
SrO:0〜5質量%
ZnO:0〜5質量%
(D)B+Al:1〜18質量%
ただし、B:1〜18質量%
Al:0〜6質量%
【0021】
ここで、成分(A)の含有量が、46質量%未満であると、フリット自体の強度が低下するために好ましくなく、また、72質量%を超えると、フリットの溶融粘性が高くなり、グラスライニング組成物の溶融点が上昇するために好ましくない。
【0022】
また、成分(B)の含有量が、8質量%未満であると、フリットの溶融性が悪くなるために好ましくなく、また、22質量%を超えると、フリットの線熱膨張係数が上昇し、物性バランスが崩れるために好ましくない。
【0023】
更に、成分(C)の含有量が、1質量%未満であると、フリットの耐アルカリ性能を向上させるためには不充分であり、また、8質量%を超えると、フリットの溶融粘性が高くなり、グラスライニング組成物の溶融点が上昇するために好ましくない。
【0024】
また、成分(D)の含有量が、1質量%未満であると、フリットの溶融性を低下させる効果と、失透防止効果が減少するために好ましくなく、また、18質量%を超えると、焼成中の発泡現象が著しくなるために好ましくない。
【0025】
なお、グラスライニング用フリットは、SiO、Al及びCaOのうち5質量%までをフッ化物の形態で使用することもできる。
【0026】
更に、本発明のグラスライニング組成物に使用するグラスライニング用フリットは、MnO、NiO、CoO、Sb、Cr、Fe、RuO及びCeOからなる群から選択される1種または2種以上の着色成分を含有することができる。着色成分の配合量は、3質量%まで、好ましくは2質量%までである。ここで、着色成分の配合量が、3質量%を超えると、焼成中の発泡現象が著しくなるために好ましくない。
【0027】
また、本発明のグラスライニング組成物は、更に、直径0.1〜30ミクロン、好ましくは0.3〜2ミクロン、長さ0.005〜3mmミクロン、好ましくは0.05〜1mm、長さ/直径の形状比50以上、好ましくは100以上の金属繊維を含有することができる。本発明のグラスライニング組成物に金属繊維を併用することにより、グラスライニング施釉層の耐火性と熱伝導性を向上させることができると共に施釉層に導電性を付与することもできる。ここで、金属繊維の直径が0.1ミクロン未満では、金属繊維自体の加工が難しく、現状では使用することができない。また、該直径が30ミクロンを超えると、スリップ粘性が乏しくなるために好ましくない。また、金属繊維の長さが0.005mm未満では、その添加効果が発現しないために好ましくなく、また、該長さが3mmを超えると、グラスライニング組成物としてのスリップ粘性が乏しくなり、スプレー施工性が著しく劣り、グラスライニング施釉層を薄肉化することができないために好ましくない。更に、無機繊維の長さ/直径の形状比が50未満であると、グラスライニング施釉層の耐火性や熱伝導性を向上させることができないために好ましくない。
【0028】
なお、金属繊維の配合量は、グラスライニング用フリット100質量部に対して外割で0.01〜1.5質量部、好ましくは0.1〜0.5質量部の範囲内である。ここで、金属繊維の含有量が、0.01質量%未満であると、その含有効果が発現しないために好ましくなく、また、1.5質量%を超えると、スリップ粘性が乏しくなり、スプレー施工性が著しく劣るために好ましくない。なお、金属繊維の含有量が上記範囲内であれば、グラスライニング焼成面での発泡や、凹凸現象がなく、良好な品質のグラスライニング施釉層を得ることができる。
【0029】
金属繊維としては、例えば貴金属系金属、及び白金と白金族金属との合金を使用することができる。
【0030】
本発明のグラスライニング組成物は、上ぐすり用組成物または1回掛け用組成物として慣用の基材例えば鋼板あるいはステンレス系鋼板等へ慣用の方法により施釉することができる。例えばグラスライニング組成物には、グラスライニング用フリット100質量%に対して粘土を外割で0〜5質量%、好ましくは2〜4質量%、セルロースを外割で0.01〜0.08質量%、好ましくは0.03〜0.06質量%、塩化バリウムを外割で0.05〜0.3質量%、好ましくは0.1〜0.2質量%、及び水、アルコールのようなミル添加物を添加したスリップとして使用することができる。
【0031】
なお、本発明のグラスライニング組成物のスリップの施釉操作、焼成温度等の操作は特に限定されるものではなく、慣用、公知の操作を使用することができる。
【0032】
本発明のグラスライニング組成物は、施工性、密着性及び耐剥離性に優れ、更に、保温性及び断熱性に優れるので、例えば太陽熱収集装置の集熱部等に使用することもできる。太陽熱収集装置の集熱部が例えばパイプ状の場合、パラボラ型集光板の焦点部分に集熱部を設置することにより、太陽熱を集熱部に高密に集めることが可能となる。集熱部に使用されるパイプは、通常4〜6mの定尺長さを有する金属パイプから構成される。これより長い長尺パイプから構成される集熱体は、パイプ間のシール部分が少なく、接続部からの漏れによる太陽熱収集装置の運定停止が少なくなるために好ましい。この長尺パイプの製造方法としては、金属パイプの溶接部、サンドブラスト施工部、グラスライニング組成物をサンドブラスト処理部に施釉する施釉部、前記施釉部を焼成する加熱部を連続的に構成したトンネル状の装置を設けることにより製造することができる。このような製造装置を太陽熱収集装置を設置する現場に設置することにより、現場で連続した太陽熱収集装置を製造することが可能となる。また、集熱部はパイプ形状以外に平板形状でもよく、更に、平板形状の施釉される面を太陽面に向かって突出した複数のエンボス形状とすることにより、太陽光の光軸と平板の面がずれても、エンボス形状のいずれかの場所が太陽光のi光軸に直角に対峙することになり、太陽熱を高密に集めることが可能となる。
【0033】
また、本発明のグラスライニング組成物から得られた施釉層を備えた構造体は、炉などからの排熱回収装置の集熱体にも使用でき、この場合の集熱体はパイプ形状あるいは平板形状のいずれでもよく、グラスライニング施釉層の微細気泡の気泡径、気孔率は、排熱を構成する赤外線などの線源に対応して適宜決定することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により、本発明のグラスライニング組成物を更に説明する。
実施例1
以下の表1に記載する配合割合にて本発明品及び比較品のグラスライニング組成物のスリップを調製した:
【0035】
【表1】

【0036】
なお、表1中、フリットの組成は以下の通りである:
SiO+TiO+ZrO:70質量%
SiO:67質量%
TiO:1質量%
ZrO:2質量%
O:17質量%
NaO:15質量%
O:0.5質量%
LiO:1.5質量%
R’O:5質量%
CaO:4.5質量%
BaO:0.5質量%
+Al:5.5質量%
:5質量%
Al:0.5質量%
CoO+NiO+MnO
CoO:1質量%
NiO:0.5質量%
MnO:1質量%

また、ナノ多孔質シリカ粒子は、粒子径1〜15μm、平均粒子径5μm、気泡径1〜300nm、気孔率55%のものである。
【0037】
厚さ9mm、60mmの低炭素鋼板に、本発明品A及びB並びに比較品のスリップを施釉し、830℃で25分間焼成することにより、熱衝撃性テスト、機械衝撃性テスト並びに切削性テスト用の試料を作製した。
また、図1に示す4R、6R、8R、12Rの曲面を有する小R形状の鋼製テストピースに、本発明品A及びB並びに比較品のストリップを施釉し、820℃で40分間焼成することにより、凸Rを変数とするグラスライニング性テスト用の試料を作製した。
【0038】
次に、下記の方法に従って熱衝撃性テスト、機械衝撃性テスト、切削性テスト及びグラスライニング性テストを行った:
熱衝撃性テストは、恒温器内で225℃に試料を加熱し、1時間保持した後、15℃の水をグラスライニング施釉層表面に掛けることによる熱衝撃温度差ΔT210℃の操作を3回反復することによって行ったものである。なお、ピンホールの有無は、20,000VのACピンホールテストの結果である。
機械衝撃性テストは40mmφ×260gの鋼球を1mの高さから自然落下させ、垂直にグラスライニング施釉層表面に衝撃を与えることによって行なったものである。
切削性テストは、三菱マテリアル社製STIの鋼バイトを用いて、旋盤で290rpmの回転数でグラスライニング施釉層表面を0.3mm切削することによって行なったものである。なお、○は変化なし、△はクラック発生、×は剥離をそれぞれ示す。
グラスライニング性テストは、試料を95℃熱水に20分間浸漬後、15℃の水中へ急冷することによる温度差Δ80℃冷熱テストによるものである。なお、○は変化なし、△はクラック発生、×は剥離をそれぞれ示す。
得られた結果を表2に記載する。
【0039】
【表2】

【0040】
本発明品A及びBから得られたグラスライニング施釉層は、熱衝撃性テスト及び機械衝撃性テストにおいて、施釉層表面にクラックが発生しただけであったのに対し、比較品のグラスライニング施釉層は剥離し、20,000VのACピンホールテストで、ピンホールが発生するに至った。
また、切削性テストにおいて、本発明品A及びBから得られたグラスライニング施釉層は、変化なく優れた切削性を有するものであったが、比較品のグラスライニング施釉層では、クラックが発生した。
更に、グラスライニング性テストにおいて、本発明品A及びBから得られたグラスライニング施釉層を有する小R形状の鋼製テストピースでは、4R、6R、8R、12Rの全てで、剥離やクラックの発生がなく良好であったのに対し、比較品のグラスライニング施釉層を有する小R形状の鋼製テストピースでは、4R、6Rの凸部で剥離し、8Rでクラックを発生し、焼成残留歪の緩和に劣ることが判る。
【0041】
実施例2
以下の表3に示す本発明品C、D及びE並びに比較品のスリップを、パイプ母材(22mmφ×180mm×2.5mm厚;材質:STPG炭素鋼管)の外面に施釉して830℃で20分間焼成する工程を3回反復して厚さ1.0〜1.1mmのグラスライニング施釉層を得た。なお、フリットの組成は実施例1に使用したフリットと同様である。
【0042】
【表3】

【0043】
このパイプ試料の内部にラジエーター用不凍液を装填し、ガラス棒状温度計をゴム栓を介して挿入し、太陽熱吸収テストとして朝から夕方まで太陽光に暴露してパイプ試料内の温度変化を記録した。なお、対照として、グラスライニングを施釉していないパイプ試料並びに比較品のグラスライニング施釉層を備えたパイプ試料を使用した。得られた結果を表4に記載する。
【0044】
【表4】

【0045】
ナノ多孔質シリカ粒子の配合量が多くなると、パイプ試料内の温度上昇が高く、温度降下も少ない結果を示し、これはナノ多孔質シリカ粒子が太陽光の最少波長0.3μm以下の1〜300nmの気孔により太陽光を透過するが、一方、ナノ多孔質シリカ粒子を含有したグラスライニング施釉層は断熱作用を有するためと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のグラスライニング組成物は、施工性、密着性並びに耐剥離性等に優れたグラスライニング施釉層を形成することができるので、従来公知のグラスライニングの用途は勿論のこと、更に、保温性及び断熱性に優れることから、例えば太陽熱収集装置や排熱回収装置等の保温及び断熱部材用グラスライニングとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラスライニング用フリット100質量部に対してナノメートルオーダーの気泡を有するナノ多孔質セラミック粒子を1〜50質量部を含むことを特徴とするグラスライニング組成物。
【請求項2】
ナノメートルオーダーの気泡を有するナノ多孔質セラミック粒子は、粒子径1〜15μm、粒子内の気泡径1〜300nm、気孔率45〜65%を有するナノ多孔質シリカ粒子である、請求項1記載のグラスライニング組成物。
【請求項3】
グラスライニング用フリットは、下記の(A)〜(D)からなる組成をもつ、請求項1または2記載のグラスライニング組成物:
(A)SiO+TiO+ZrO:46〜72質量%
ただし、SiO:46〜70質量%
TiO:0.1〜5質量%
ZrO:2〜15質量%
(B)RO(RはNa、K、Li、Csを示す):8〜22質量%
ただし、NaO:6〜20質量%
O:0〜16質量%
LiO:2〜20質量%
CsO:0〜16質量%
(C)R’O(R’はCa、Mg、Ba、Sr、Znを示す):1〜8質量%
ただし、CaO:1〜8質量%
MgO:0〜5質量%
BaO:0〜5質量%
SrO:0〜5質量%
ZnO:0〜5質量%
(D)B+Al:1〜18質量%
ただし、B:1〜18質量%
Al:0〜6質量%
【請求項4】
更に、MnO、NiO、CoO、Sb、Cr、Fe、RuO及びCeOからなる群から選択される1種または2種以上の着色成分を3質量%までの量で配合する、請求項3記載のグラスライニング組成物。
【請求項5】
SiO、Al及びCaOのうち5質量%までをフッ化物の形態で使用する、請求項3記載のグラスライニング組成物。
【請求項6】
更に、直径0.1〜30μm、長さ0.005〜3mm、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維をグラスライニング用フリット100質量部に対して0.01〜1.5質量部配合してなる、請求項1ないし5のいずれか1項記載のグラスライニング組成物。
【請求項7】
金属繊維は、貴金属系金属、及び白金と白金族金属との合金からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項6記載のグラスライニング組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−162426(P2011−162426A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30382(P2010−30382)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000209773)池袋琺瑯工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】