説明

グラスライニング集熱構造体

【課題】熱媒体を収容する金属管の外周に設けたグラスライニング層内にナノ気泡を有するセラミック粒子を含有させ、真空部分を不要とし太陽光熱エネルギーを高効率に取り込む。
【解決手段】グラスライニング集熱構造体は、熱媒体1を収容する金属管7の外周に設けられたグラスライニング層10と、このグラスライニング層10内に含有されナノ気泡を有するセラミックス粒子11と、このグラスライニング層10の外周に設けられた選択吸収膜5と、からなる構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスライニング集熱構造体に関し、特に、熱媒体を収容する金属管の外周に設けたグラスライニング層内にナノ気泡を有するセラミックス粒子を含有させ、真空部分を不要として太陽光熱エネルギーを高効率に取り込むための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられいたこの種の管状集熱構造体としては、例えば、図8で示す特許文献1等に開示されているソーラー温水器の集熱パイプの構造、及び、図9で示す特許文献2等に開示されている真空層を有する金属管とガラス管の二重管型集熱構造体の構造を挙げることができる。
すなわち、特許文献1には具体的な管断面構造は示されていないが、例えば、図8の集熱パイプが採用されており、図8において、符号1で示されるものは、熱媒体であり、この熱媒体1を収容する第1ガラス管2の外周には真空層3を介して第2ガラス管4が設けられ、この第2ガラス管4の外周面には放射特性の向上を行うための選択吸収膜5が形成されている。
従って、外部からの太陽光6のエネルギーは、前記選択吸収膜5、第2ガラス管4、真空層3、第1ガラス管2を介して熱媒体1に吸収され、この吸収された熱は、前記真空層3によって外部への放熱が抑制されるように構成されている。
【0003】
また、特許文献2の太陽熱発電装置における真空コレクターも、断面構造は開示されていないが、実際には、図9で示される構造が一般に採用されている。
すなわち、図9において、符号1で示されるものは熱媒体であり、この熱媒体1を収容するための金属管7の外周面には黒色膜8が形成され、この黒色膜8の外周には真空層3を介してガラス管4が設けられ、このガラス管4の外周面には前記選択吸収膜5が形成されている。
従って、外部の太陽光6からのエネルギーは、選択吸収膜5、ガラス管4、真空層3、黒色膜8及び金属管7を介して熱媒体1に吸収され、この吸収された熱は、前記真空層3によって外部への放熱が抑制されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−57823号公報
【特許文献2】特開2007−132330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の集熱構造体は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、図8及び図9の従来構成においては、何れも、ガラス管とガラス管を真空層を介して断熱するか、又は、金属管とガラス管を真空層を介して断熱しており、何れにしても真空層を必要とするため、真空シールの管理(例えば、時々、真空ポンプによる真空引きを要す)が必要で、わずかなクラックが発生しても運転不能となっていた。
また、真空層を用いると、前述の耐久性に加えて、長尺パイプ(例えば、何百メートル、何キロメートル)の製作が難しく、かつ、現場において真空層を形成することは極めて困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるグラスライニング集熱構造体は、熱媒体を収容する金属管と、前記金属管の外周に設けられたグラスライニング層と、前記グラスライニング層内に含有されナノ気泡を有するセラミックス粒子と、前記グラスライニング層の外周に設けられた選択吸収膜と、からなり、外部からの太陽光により前記熱媒体を加熱する構成であり、また、前記金属管はステンレス又は鋼よりなり、前記グラスライニング層は、黒色、濃青色、濃茶色、無着色の何れかよりなり、前記セラミックス粒子の粒子は1〜20μm、前記ナノ気泡のナノ気泡径は1〜300nmであり、前記選択吸収膜は、In203、Sn02及びIn203・Sn02、ZnOの何れかよりなる構成であり、また、前記グラスライニング層の厚さは、0.1〜2.4mmである構成である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるグラスライニング集熱構造体は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、熱媒体を収容する金属管と、前記金属管の外周に設けられたグラスライニング層と、前記グラスライニング層内に含有されナノ気泡を有するセラミックス粒子と、前記グラスライニング層の外周に設けられた選択吸収膜と、からなり、
外部からの太陽光により前記熱媒体を加熱することにより、従来の真空層を用いることなく、太陽熱を集熱することができる。また、従来の真空層の代わりにセラミックス粒子を有するグラスライニング層を採用しているため、多少の破損が発生しても集熱機能を維持することができ、高熱のサバク等での現地グラスライニング施工・製造が容易となる。
また、前記金属管はステンレス又は鋼よりなり、前記グラスライニング層は、黒色、濃青色、濃茶色、無着色の何れかよりなり、前記セラミックス粒子の粒子は1〜20μm、前記ナノ気泡のナノ気泡径は1〜300nmであり、前記選択吸収膜は、In203、Sn02及びIn203・Sn02、ZnOの何れかよりなることにより、最も集熱効果の高い構成を得ることができる。
また、前記グラスライニング層の厚さは、0.1〜2.4mmであることにより、据付け現場における組立て等を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明によるグラスライニング集熱構造体を示す断面図である。
【図2】図1の集熱構造体の各色のグラスライニング構成を示す構成図である。
【図3】図2の集熱構造体の暴露テストを示す構成図である。
【図4】図3の暴露テストのNo.1の結果のグラフである。
【図5】図3の暴露テストのNo.2の結果のグラフである。
【図6】図3の暴露テストのNo.3の結果のグラフである。
【図7】図3の暴露テストのNo.4の結果のグラフである。
【図8】従来のソーラー温水器の集熱パイプの断面図である。
【図9】従来の金属管とガラス管の二重管型集熱構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、熱媒体を収容する金属管の外周に設けたグラスライニング層内にナノ気泡を有するセラミックス粒子を含有させ、真空部分を不要として、太陽光エネルギーを高効率に取り込むようにしたグラスライニング集熱構造体を提供することを目的とする。
【実施例】
【0010】
以下、図面と共に本発明によるグラスライニング集熱構造体の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分には、同一符号を用いて説明する。
図1において、符号1で示されるものは、周知のR134a等からなる熱媒体であり、この熱媒体1は金属管7内に収容されていると共に、この金属管7の外周には、一例として、厚さ0.1mmから2.4mmの周知の構成のグラスライニング層10が形成されている。
【0011】
前記グラスライニング層10の外周には、前記グラスライニング層10の材質自体に放射性があるために、例えば、InO3,SnO2,In2O3,SnO2,ZnO等のうちの何れかからなる薄膜をコーティングしてなる選択吸収膜5が形成されている。
【0012】
前記グラスライニング層10には、熱媒体1に取り込んだ熱が放熱されるのを抑制するために、太陽光の波長0.3μm以下の1〜300nm径のナノ気泡を含有する1〜10μm径のセラミックス粒子11を5〜40部含有させていることにより、従来の真空層と同じ役割の断熱作用を有するように構成している。
【0013】
前述の実際に用いた1〜300μm径気孔のセラミックス粒子11は、水ガラスを界面活性剤でコロイド化し、沈澱剤で沈澱させた粒子を乾燥させて、水を抜き、ナノ気孔の多孔体を形成させた粒子を用いた。
従って、このセラミックス粒子11が前記グラスライニング層10内に含有されているため、グラスライニング層10がこの気孔によって多孔質ガラス粒層の状態となり、外部からの太陽光6からの熱エネルギーは熱媒体1に入るが、いったん入った熱エネルギーは気孔の作用により外に出にくくなり、集熱効果の大きい構造体を得ることができる。
【0014】
従って、前述のグラスライニング集熱構造体によれば、何百メートル、何キロメートルと云う長尺のパイプを、太陽熱発電等を行うサバク等の現地で製作することができ、従来のような真空管理が不要で安価となり、グラスライニング層10の部分的な剥離が発生しても、支障なく運転の継続ができる。
【0015】
次に、本出願人は、本発明によるグラスライニング集熱構造体のグラスライニング層10の色を種々変更し、その有効性について実験を行った。
まず、グラスライニング集熱構造体のテストピース20を、図3に示されるように300×500×深さ50mmの琺瑯皿21の中に置き、図2のように、水平な状態で太陽光を吸収させた。
尚、グラスライニング層10の種類は、ブランク、青色、無着色、黒色及び茶色とした。
【0016】
(実施例)
また、本発明におけるグラスライニング集熱構造体のグラスライニング層11は、フリット粉末100質量%に対して、外割でカルボキシメチルセルロース水溶(濃度:1質量%)液20質量%、亜硝酸ナトリウム0.3g、並びにアルコールを15質量%添加して、スリップを調整し、集熱パイプ母材22mmΦ×180m1×2.5mm厚さ(材質:STPG炭素鋼板)の外面に施釉して、860℃×20分間焼成することにより、厚さ0.4〜0.5mmのグラスライニング集熱構造体を得た。
そのパイプ内に市販のエンジンラジエータ用の不凍液を25ml入れ、棒状ガラス温度計をゴム栓を介して取付けして、集熱体試料を作成した。
この試料を埼玉県内で太陽光吸収テストとして、朝から夕方まで暴露して、温度上昇と降下を測定して実施した。
【0017】
検討結果No.1は図4と表1のように2009年11月4日の晴れ条件下で、グラスライニングなしの鉄素地のみを対比した結果を示す。
グラスライニング試料は何れも鉄素地のみよりも温度上昇を示し施工効果は認められた。
無着色試料に比べて、黒色試料が最も温度上昇が高く、次いで青色、茶色で鉄素地のみが温度上昇が最も低く、有色グラスライニングは太陽光吸収効果が著しく求められる。
【0018】
【表1】

【0019】
検討結果No.2は図5と表2のように2009年11月5日の薄くもり条件下であるが、温度上昇値の数値幅は小さいが傾向は検討結果No.1と同様で有色グラスライニングは太陽光吸収効果が認められる。
【0020】
【表2】

【0021】
検討結果No.3は図6と表3のように2010年1月11日の晴れ条件下で、黒色グラスライニングの厚み変数でテストしたが、厚みは0.6,1.0,2.5mmが温度上昇が高く、0.15mmは劣ったが、いずれも鉄素地に比較すると太陽光吸収効果が認められる。
【0022】
【表3】

【0023】
検討結果No.4は図7と表4のように2010年1月18日の晴れ条件下で、黒色フリット100質量部にナノ気孔セラミックス粒子を5%、10%、40%含有して試料を作成し、太陽光吸収テストを行った結果を示す。
試料は鉄素地に直接施工する1回目は黒色フリットのみ施工し、厚さ0.3〜0.4mmに調整後、ナノ気孔セラミックス粒子含有フリットは2回目に施工し、全厚みを0.9〜1.1mmに調整した。
ナノ気孔粒子中の気泡径が1〜300nm径なので、太陽光の波長より、小さく光の吸収が良くして断熱性が優れたグラスライニング集熱体が得られた。
【0024】
【表4】

【0025】
尚、前述の実施例によれば、フリットによるグラスライニング層10にフリットとセラミックス粒子11によるセラミックス粒子層が形成されている。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によるグラスライニング集熱構造体は、太陽熱発電システムの集熱体及び住宅のソーラー温水器の集熱体に利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 熱媒体
5 選択吸収膜
6 太陽光
7 金属管
10 グラスライニング層
11 セラミックス粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体(1)を収容する金属管(7)と、前記金属管(7)の外周に設けられたグラスライニング層(10)と、前記グラスライニング層(10)内に含有されナノ気泡を有するセラミックス粒子(11)と、前記グラスライニング層(10)の外周に設けられた選択吸収膜(5)と、からなり、
外部からの太陽光(6)により前記熱媒体(1)を加熱することを特徴とするグラスライニング集熱構造体。
【請求項2】
前記金属管(7)はステンレス又は鋼よりなり、前記グラスライニング層(10)は、黒色、濃青色、濃茶色、無着色の何れかよりなり、前記セラミックス粒子(11)の粒子は1〜20μm、前記ナノ気泡のナノ気泡径は1〜300nmであり、前記選択吸収膜(5)は、In203、Sn02及びIn203・Sn02、ZnOの何れかよりなることを特徴とする請求項1記載のグラスライニング集熱構造体。
【請求項3】
前記グラスライニング層(10)の厚さは、0.1〜2.4mmであることを特徴とする請求項1又は2記載のグラスライニング集熱構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−158227(P2011−158227A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22293(P2010−22293)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000209773)池袋琺瑯工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】