グラファイトフィルムおよびグラファイトフィルムの製造方法
【課題】 熱伝導性、表面硬度、表面の接着性、外観に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。さらに、各特性に優れた、原料フィルムとして75〜225μm程度の厚みの厚いものを使用して、グラファイトフィルムを得ることができる。
【解決手段】 高分子フィルムを2000℃以上の温度で熱処理するグラファイトフィルムの製造方法であって、
「(1)周辺に金属を含むカーボン粉末が存在している状態でグラファイト化する。特に、グラファイト化を通電加熱でおこなう。
(2)グラファイト化を通電加熱でおこない、原料フィルムを保持する容器が、金属を含む。
(3)グラファイト化を通電加熱でおこない、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させる。」
ことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法、とする。
【解決手段】 高分子フィルムを2000℃以上の温度で熱処理するグラファイトフィルムの製造方法であって、
「(1)周辺に金属を含むカーボン粉末が存在している状態でグラファイト化する。特に、グラファイト化を通電加熱でおこなう。
(2)グラファイト化を通電加熱でおこない、原料フィルムを保持する容器が、金属を含む。
(3)グラファイト化を通電加熱でおこない、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させる。」
ことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法、とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムおよびグラファイトフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得る方法として、ポリオキサジアゾール、ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、またはポリアミド等の高分子フィルムをアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下や減圧下で熱処理する高分子熱分解法(特許文献1、2)が知られている。(特許文献1)の方法で得られるグラファイトは、非常に高い熱伝導性を有するため、電子機器の放熱部材として使用されている。具体的な使用例としては、<1>CPUと冷却ファンやヒートシンクの間に挟む放熱スペーサや<2>DVD光ピックアップ部分や筐体部分に貼り熱を拡散させる放熱スプレッダ等が挙げられる。
【0003】
また、電気伝導性、熱伝導性には劣るものの、軸受け、シール、るつぼ、発熱体等に用いられる黒鉛を大量かつ大容積で生産性良く製造する方法として、コークスなどの炭素原料粉とタールピッチなどの粘結材からなる混練物を焼成した後、この焼成体を通電加熱して黒鉛とする方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
しかし、従来の高分子フィルムを不活性雰囲気下や減圧下で加熱して得たグラファイト(特許文献1、2)では、熱伝導性が十分でなく、近年発熱量が急増している電子機器の放熱材料としては十分ではなかった。というのは、従来の不活性雰囲気下や減圧下での加熱法(特許文献1、2)では、加熱は、ヒーターと接触している部分からの熱伝導やヒーターからの輻射熱によっておこなわれる。しかし、このような加熱では、原料フィルムへの熱処理が不均一となるために、黒鉛化も不均一に進行し、熱伝導性が低下した。
【0005】
また、放熱性をあげるために、グラファイトの厚みを厚くして熱輸送量を増やすことも考えられるが、従来の高分子熱分解法(特許文献1、2)では、フィルムが破損しやすかった。これは、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊した。また破損しない場合であったとしても、フィルムが薄い場合に比べると内部の黒鉛化は十分進行せず、熱伝導性は非常に劣るものとなった。これは、不活性雰囲気下や減圧下による高分子熱分解法では、加熱が原料フィルムの表面から起こり、フィルムの内部と表面では不均一な黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下したためである。
【0006】
実際に発熱部品にグラファイトを取り付ける際、接着剤や粘着剤を用いて取り付ける必要があるが、(特許文献1)の方法で得られるグラファイトは表面から黒鉛がはがれやすく発泡状態であり、密着力が悪化して、取り付けることができなかったり、密着力が悪いために十分な放熱能力を発揮することが出来なくなったりした。
【0007】
また、グラファイトを電子機器に取り付ける場合、(特許文献1)の方法で得られるグラファイトは表面の硬度が低く、取り付け時や取り扱い時に表面に傷が入り、傷の入った部分から、黒鉛がはがれ、機器内部を汚染したり、十分な放熱能力を発揮することが出来なくなったりした。
【0008】
特に、原料フィルムの厚みが厚くなるほど、この表面からの黒鉛はがれが起こりやすく発泡状態であるため、表面硬度も低下した。さらに熱拡散率も悪化し、強度が弱くなり破損しやすくなった。その一方で放熱性を上げるためには、厚手のグラファイトフィルムが必要とされ、熱伝導性の改善と原料に厚みの厚い高分子フィルムを用いることは、相反する課題であった。
【0009】
また特に、原料フィルムの面配向の高くなる場合においては、表面から黒鉛剥がれが多くなる場合があり、使用環境を汚染する可能性があった。
【0010】
また、炭素原料粉と粘結材から得られる焼成体を通電加熱して黒鉛化する方法(特許文献3)が知られている。しかし、従来の方法では、原料に焼成体を用いており、焼成体の導電性が不均一であるために、焼成体に流れる電流に偏りが生じ、局所的な温度上昇を起こし、黒鉛化が不均一に起こり、亀裂が入って破損しやすかった。その結果従来の方法で得たグラファイトの熱伝導性、電気伝導性は、高分子フィルムを熱処理して得られるグラファイトフィルムに比べて非常に劣るものであった。
【0011】
また特に、複数の焼成体を得る場合には、加熱中の位置ずれにより特性悪化が起こりやすく、これを防止するために、焼成体を接着剤で接着後、通電加熱する方法が提案されているが、亀裂は入らないグラファイトは得られるものの、熱伝導性、電気伝導性に非常に劣るものであった。
【0012】
また、複数枚のフィルム状のグラファイトを得る場合に、原料フィルムを接着剤で固定する方法を適用すると、接着剤が出来上がり品の品質低下を引き起こすために好ましくなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭60−181129号公報
【特許文献2】特開平61−275116号公報
【特許文献3】特開平5−78111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上のような従来の改善必要点に鑑み、
<1>発熱部品からの熱を速やかに移動させることができる十分な熱伝導性と、
<2>グラファイトの取り付け時や取り扱い時に表面に傷が入らない程度に十分な表面硬度と、
<3>グラファイトと発熱部品との接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、はがれることのなくグラファイトが本来有する放熱特性を発揮できるほどに十分な表面の接着性と、
<4>表面からの黒鉛はがれにより電子機器内を汚染しないほどに十分な外観と、
<5>より高い放熱性を発揮できる十分な厚さと
を有するグラファイトフィルムを提供することを課題・目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明の第1は、
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、該原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在していることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0016】
(2)本発明の第2は、
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、該原料フィルムおよび/または該容器(A)の周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在していることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0017】
(3)本発明の第3は、
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、該容器(A)が金属を含む容器であることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0018】
(4)本発明の第4は、
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0019】
(5)本発明の第5は、
前記原料フィルムおよび/または前記容器(A)の周辺に、カーボン粉末が存在していることを特徴とする、(3)〜(4)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0020】
(6)本発明の第6は、
前記通電可能な容器(A)が、通電可能な容器(B)内に保持されていることを特徴とする、(2)〜(5)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0021】
(7)本発明の第7は、
前記容器(A)と前記容器(B)の間および/または前記容器(B)の周辺に、カーボン粉末が存在していることを特徴とする、(6)に記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0022】
(8)本発明の第8は、
前記カーボン粉末が、金属を含むカーボン粉末であることを特徴とする、(5)、(7)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0023】
(9)本発明の第9は、
前記カーボン粉末が、コークスであることを特徴とする、(1)、(5)〜(8)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0024】
(10)本発明の第10は、
前記容器(A)および/または容器前記(B)が、密閉できる容器であることを特徴とする(2)〜(9)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0025】
(11)本発明の第11は、
前記容器(A)および/または容器前記(B)が、黒鉛製容器であることを特徴とする、(2)〜(10)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0026】
(12)本発明の第12は、
前記高分子フィルムが、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾールのうちから選ばれた少なくとも一種類以上の高分子からなることを特徴とする、(1)〜(11)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0027】
(13)本発明の第13は、
前記高分子フィルムが、複屈折0.08以上のポリイミドフィルムであることを特徴とする、(12)に記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0028】
(14)本発明の第14は、
前記高分子フィルムが、複屈折0.12以上のポリイミドフィルムであることを特徴とする、(12)に記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0029】
(15)本発明の第15は、
前記原料フィルムが炭素化した高分子フィルムであることを特徴とする、(1)〜(14)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0030】
(16)本発明の第16は、
前記金属が、IUPAC(国際純正・応用化学連合)無機化学命名法改訂版(1989年)による族番号4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、セレン、錫、鉛、およびビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする(1)〜(15)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0031】
(17)本発明の第17は、
前記金属が、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、および水銀からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする(1)〜(15)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0032】
(18)本発明の第18は、
前記金属が、鉄、コバルトの少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする(1)〜(14)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0033】
(19)本発明の第19は、
グラファイトフィルムの表面に規則的な炭素原子の格子像が、STM(走査型トンネル顕微鏡)を用いて確認されることを特徴とするグラファイトフィルム、
である。
【0034】
(20)本発明の第20は、
(1)〜(18)のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とする、グラファイトフィルム、
である。
【0035】
(21)本発明の第21は、
(1)〜(18)のいずれかに記載の製造方法で製造されるグラファイトフィルムであって、面方向の熱拡散率が9×10−4m2/s以上、であることを特徴とする、グラファイトフィルム、
である。
【0036】
(22)本発明の第22は、
(1)〜(18)のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とする、グラファイトフィルムであって、グラファイトフィルムの表面に規則的な炭素原子の格子像が、STM(走査型トンネル顕微鏡)を用いて確認されることを特徴とするグラファイトフィルム、
である。
【発明の効果】
【0037】
従来技術では、熱伝導性、表面硬度、表面の接着性、外観に優れたグラファイトフィルムを得ることは困難な課題であり、特にこれらを兼ね備えた厚みの厚いグラファイトフィルムを得ることは非常に困難な課題であった。また、従来技術である炭素原料粉と粘結材から得られる焼成体を通電加熱して黒鉛化する方法では、焼成体の電気伝導性に偏りがあるため、通電加熱時に加熱の偏りが生じ、品質の高いグラファイトを得ることができなかった。
【0038】
一方、本発明による、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、以下の3つの方法、具体的には、
「(1)周辺に金属を含むカーボン粉末が存在している状態でグラファイト化する。特に、グラファイト化を通電加熱でおこなう。
(2)グラファイト化を通電加熱でおこない、原料フィルムを接触して保持する容器が、金属を含む。
(3)グラファイト化を通電加熱でおこない、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させる。」
ことにより、上記課題を解決することができた。
【0039】
従来の金属を含む物質と接触させない場合には、分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層の破壊や表層の部分的な黒鉛化による黒鉛脱離が生じた。特に、原料フィルムが厚くなり、高分子フィルムに面配向性が高くなると、より悪化した。
【0040】
一方、本発明の金属を含む物質をフィルムに接触させて熱処理する場合には、熱処理中に金属を含む物質が原料フィルムと相互作用し、該フィルムの表面および/または内部で不均一層が形成される。この不均一層を介して、分解ガスが抜け出すことにより、熱処理中の破損を防止したと考える。また従来は、グラフェン層が面に発達し層状に剥離するが、不均一層が、剥離を固定し、剥離を防止する推定する。またさらに、熱処理中にたまる歪を緩和することができると考える。また別の効果として、金属を含む物質と接触されることにより、表面部分のグラファイト化の進行を抑えることとなり、黒鉛化が進行しすぎることを防ぎ、フィルム全体が均一に黒鉛化することとなると推定される。また、表面部分が一部はがれかけたとしても、金属を含む物質が接触することにより、剥がれることを抑制するものと推定する。
【0041】
特に、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在する方法では、熱処理中にガスの対流が少なく、上述の金属と原料フィルムとの相互作用が十分起こり、各特性に優れたグラファイトフィルムが得る上で好ましい。また、少量の金属存在下で、十分な金属の効果が得られる点でも好ましい。また、カーボン粉末に金属が含まれており、熱処理温度が高くなるに従い、金属が拡散し、順次原料フィルムと相互作用を起こす。したがって、原料フィルムと金属が均一に相互作用を起こし、フィルム全体で均一なグラファイト化が進行する。
【0042】
本発明の熱処理方法としては、従来の雰囲気加熱や減圧下での加熱ではなく、通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する工程であるとよい。本方法を用いると、原料フィルム、金属、カーボン粉末、金属を含むカーボン粉末、容器、金属を含む容器等に通電される。原料フィルムに通電がなされると、原料フィルムに炭素化の進行による電気抵抗の低減に伴って電流が流れ、ジュール熱により原料フィルムそのもののが発熱し、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも通電可能な容器によって十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。また、金属、金属を含むカーボン粉末、金属を含むカーボン容器が存在する状態で通電がなされると、原料フィルムに加え、金属も加熱され、拡散が起こりやすくなり、原料フィルムと均一に相互作用をおこし、フィルム全体で均一なグラファイト化が進行する。さらに、金属の反応性が高まり、原料フィルムとの反応が促進されたために、各特性に優れたグラファイトフィルムが得られたと推定する。
【0043】
225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部がほぼ同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルムの破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0044】
また、特にポリイミドフィルム、中でも、本発明の作製方法および/または特定の複屈折を持つ高分子フィルムに用いることにより、従来よりも各特性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0045】
さらに、本発明では、原料フィルムを接触して保持した通電可能な容器(A)の複数個を、通電可能な容器(B)内に保持し、全体を通電することで、それぞれの用いた該容器(A)間で、品質のバラツキが少ないグラファイトフィルムを得ることができる。
【0046】
以上のような理由により、
<1>発熱部品からの熱を速やかに移動させることができる十分な熱伝導性、
<2>グラファイトの取り付け時や取り扱い時に表面に傷が入らない程度に十分な表面硬度、
<3>グラファイトと発熱部品との接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、はがれることのなくグラファイトが本来有する放熱特性を発揮できるほどに十分な表面の接着性、
<4>表面からの黒鉛はがれにより電子機器内を汚染しないほどに十分な外観
<5>より高い放熱性を発揮できる十分な厚さ
を有するグラファイトフィルムを得ることができる。
【0047】
各特性の具体的な内容は、以下のとおりである。
【0048】
1.グラファイトフィルムの、熱伝導性は、熱拡散率が9.0×10−4m2/s以上、好ましくは9.5×10−4m2/s、さらに好ましくは10.0×10−4m2/s以上である。熱拡散率が9.0×10−4m2/s以上であると、発熱部品からの熱を十分拡散できる。
【0049】
2.グラファイトフィルムの、表面硬度の具体的レベルは、JIS K 5400に基づいて測定される鉛筆硬度の値が2B以上、好ましくはB以上、さらに好ましくはHB以上である。鉛筆硬度が2B以上では、グラファイトの取り付け時や取り扱い時に傷が入らない程度に十分な表面硬度となる。
【0050】
3.グラファイトフィルムの、表面の接着性は、JIS Z 0237に基づいて測定される粘着テープ・粘着シート試験方法に基づいて測定される粘着力が3N/cm以上、好ましくは4N/cm以上、さらに好ましくは5N/cm以上である。鉛筆硬度が3N/cm以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、グラファイトが本来有する放熱特性を発揮することが出来る。
【0051】
4.グラファイトフィルムの、表面の外観は、JIS K 5400に基づいて測定されるXカットテープ法に基づいて測定される評価が6以上、好ましくは8以上である。外観が6以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、また、取り付け時の接触や装置に組み込んだ後にファンの風によって表面から黒鉛が剥がれ落ちることがなくなり、電子機器内を汚染しなくなる。
【0052】
5.グラファイトフィルムの厚みは、50μm以上、好ましくは70μm以上、さらに好ましくは90μm以上である。また用いる原料高分子フィルムの厚みは、70μm以上、好ましくは120μm以上、さらに好ましくは150μm以上である。グラファイトフィルムの厚みが50μm以上、原料フィルムの厚みが70μm以上であれば、熱輸送量が向上し、従来よりも優れた放熱性を発現することが可能となる。
【0053】
原料に面配向の高い高分子フィルムを用い、この原料を金属と接触させて、さらに、通電加熱によりグラファイト化することで、従来の技術では改善の余地のあった表面からの黒鉛剥がれという問題を改善するだけにとどまらず、熱伝導性にも優れ、表面硬度、密度、表面の密着性に優れたグラファイトを得ることが可能となる。面配向の高い高分子フィルムと、金属と接触させて熱処理することとを組み合わせることで、従来の技術では予見できない効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】容器(A)の容器(B)への保持方法。
【図2】容器(A)の容器(B)への保持方法。
【図3】容器(A)の容器(B)への保持方法。
【図4】容器(A)と容器(B)への通電方法。
【図5】容器(A)と容器(B)への通電方法。
【図6】ポリイミドフィルム及びくさび形シート。
【図7】くさび形シートの斜視図。
【図8】原料フィルムの容器(A)への保持方法。
【図9】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図。
【図10】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図(図9の容器(B)には実際には蓋を付けることを示す図)。
【図11】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図12】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は接触。
【図13】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は接触。
【図14】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、45度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図15】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図16】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図17】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図18】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、0度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図19】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図20】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図21】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図22】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、0度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図23】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図24】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(B)と容器(A)は非接触。
【図25】本発明のグラファイトフィルムの表面STM(走査型トンネル顕微鏡)像。上部が、縦5nm×横5nmの範囲でのSTM像である。下部が、STM像上の深さ方向の指標を色の濃淡で表した指標(濃い部分が0.00nm、薄い部分が0.77nm)である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明のグラファイトフィルムの第一の製造方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、該原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在していることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、である。特に、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、該原料フィルムおよび/または該容器(A)の周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在しているとよい。
【0056】
本発明のグラファイトフィルムの第二の製造方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、該容器が金属含む容器であることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、である。
【0057】
本発明のグラファイトフィルムの第三の製造方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、である。
【0058】
<グラファイトフィルム>
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムは、熱伝導性、電気伝導性が高いために、例えば、サーバー、サーバー用パソコン、デスクトップパソコン等の電子機器、ノートパソコン、電子辞書、PDA、携帯電話、ポータブル音楽プレイヤー等の携帯電子機器、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、LED、有機EL、無機EL、液晶プロジェクタ、時計等の表示機器、インクジェットプリンタ(インクヘッド)、電子写真装置(現像装置、定着装置、ヒートローラ、ヒートベルト)等の画像形成装置、半導体素子、半導体パッケージ、半導体封止ケース、半導体ダイボンディング、CPU、メモリ、パワートランジスタ、パワートランジスタケース等の半導体関連部品、リジッド配線板、フレキシブル配線板、セラミック配線板、ビルドアップ配線板、多層基板等の配線基板(以上左記の配線板とは、プリント配線板なども含む)、真空処理装置、半導体製造装置、表示機器製造装置等の製造装置、断熱材、真空断熱材、輻射断熱材等の断熱装置、DVD(光ピックアップ、レーザー発生装置、レーザー受光装置)、ハードディスクドライブ等のデータ記録機器、カメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、顕微鏡、CCD等の画像記録装置、充電装置、リチウムイオン電池、燃料電池等のバッテリー機器等の放熱材料、放熱部品、冷却部品、温度調節部品、電磁シールド部品として好適である。
【0059】
<原料フィルム>
本発明で用いることができる原料フィルムとしては、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムである。
【0060】
<高分子フィルム>
本発明に用いることができる高分子フィルムは、特に限定はされないが、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサゾール(PBBO)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフェニレンベンゾイミダゾール(PBI)、ポリフェニレンベンゾビスイミダゾール(PPBI)、ポリチアゾール(PT)が挙げられ、これらのうちから選ばれる少なくとも1種を含む耐熱芳香族性高分子フィルムであることが、最終的に得られるグラファイトの電気伝導性、熱伝導性が高くなることから好ましい。これらのフィルムは、公知の製造方法で製造すればよい。この中でもポリイミドは、原料モノマーを種々選択することによって様々な構造および特性を有するものを得ることができるために好ましい。また、ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする高分子フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため、結晶性、熱伝導性に優れたグラファイトとなりやすい。
【0061】
<炭素化した高分子フィルム>
本発明で用いられる炭素化した高分子フィルムとしては、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で予備加熱処理して得られる。この予備加熱は通常1000℃程度の温度で行い、例えば10℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で30分程度の温度保持を行うことが望ましい。
【0062】
<高分子フィルムの固定方法・保持方法>
本発明の熱処理では、容器に高分子フィルムを固定して行われてもよい。本発明のような2000℃の温度領域まで加熱されるような用途では、取り扱いの容易さや、工業的な入手の容易さ等を勘案すると、黒鉛製の容器が、特に好ましい。ここでいう黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、等方性黒鉛、押出製黒鉛、が挙げられ、電気伝導性、熱伝導性に優れ、均質性にも優れる等方性黒鉛が、繰り返し用いる場合には好ましい。容器の形状は、特に制約を受けず、単純な平板などの形状でよい。また容器は円筒状で、高分子フィルムを容器に巻きつける方法でも良い。容器の形状は、高分子フィルムを接触させることができる限りにおいて、特に制約を受けない。
【0063】
なお、黒鉛製容器内に、高分子フィルムを接触させる方法(例えば、保持する方法・固定する方法を含む)とは、例えば、高分子フィルムをグラファイト板で挟んだ上で、グラファイト板の自重以外には特には加圧しない状態で容器壁や容器底に接するように接触させる方法(保持させたり、固定させたりしてもよい)や円筒の黒鉛容器に巻きつける方法が有るが、必ずしもこれらの方法だけに制約を受けるものではない。
【0064】
<金属を含む物質を原料フィルムと接触させる方法>
本発明の第一から第三のグラファイトフィルムの製造方法における、金属を含む物質を原料フィルムと接触させる方法としては、<<1>>固体状、<<2>>液体状、<<3>>気体状の金属を含む物質と接触させることが挙げられる。
【0065】
具体的な方法としては、例えば、次のような方法(1)−(4)が好ましい。
(1)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在している方法。
(2)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを、金属を含む容器に入れる方法。
(3)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの表面に金属を含む物質を形成する方法。
(4)原料フィルム内部に金属を含む物質が存在する方法。
【0066】
以下、方法(1)−(4)について説明する。
【0067】
(1)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在している方法。
【0068】
金属を含むカーボン粉末としては、予めカーボン粉末に金属が含有しているカーボン粉末、金属を含む物質や粉末を混合・添加したカーボン粉末等が挙げられる。
【0069】
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在させる方法としては、
(a)金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムに直接接触させる方法、
(b)金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムと原料フィルムを接触して保持する容器(A)の間に存在させる方法
(c)金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムを接触して保持する容器(A)の周辺に存在させる方法
(d)金属を含むカーボン粉末を、(a)原料フィルムに直接接触させることおよび/または(b)原料フィルムと原料フィルムを接触して保持する容器の間に存在させることに加え、(c)金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムを接触して保持する容器(A)の周辺に存在させる方法
(e)原料フィルムを接触して保持する容器(A)をさらに容器(B)に保持し、金属を含むカーボン粉末を容器(B)の周辺に存在させる方法
(f)(a)〜(d)の組み合わせに、さらに金属を含むカーボン粉末を、容器(B)の周辺に存在させる方法
等が挙げられる。
【0070】
方法(a)〜(b)において、方法(b)(金属を含むカーボン粉末を原料フィルムと容器(A)の間に存在させる方法)は、方法(a)(金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムに直接接触させる方法)より好ましい。方法(a)では、金属を含むカーボン粉末と原料フィルムとの接触が不均一になる場合があり、カーボン粉末のセット方法に注意を要する場合がある。一方(b)では、金属を含むカーボン粉末が容器内の閉じられた容器の中に存在するため、熱処理中に金属を含む物質が、容器内で拡散し、順次原料フィルムと接触することになると考えられる。また、金属を含む物質の種類によっては、気体となり、気体状で原料フィルムに接触することになる。また、金属を含むカーボン粉末にバラツキがあったとしても、金属が原料フィルムに均一に相互作用をし、各特性にバラツキのない品質に優れたグラファイトフィルムを得ることが可能となる。
【0071】
方法(a)〜(c)において、方法(c)(金属を含むカーボン粉末が原料フィルムを接触して保持する容器(A)の周辺に存在する方法)は、方法(a)と(b)(金属を含むカーボン粉末が、原料フィルムに接触もしくは近傍に存在する方法)より好ましい。方法(c)では、方法(a)と(b)と比べ、原料フィルムが容器に接触して保持されているため、カーボン粉末に含まれる酸素や窒素が、原料フィルムと反応することで、酸化劣化させにくくなり、原料フィルムの劣化を防止し、効果的に金属が原料フィルムに働くために好ましい。方法(d)は、方法(c)と同様の理由で、方法(c)と同じ品質のものが得られる。(c)の方法では、低温では金属と原料フィルムとの接触はないが、熱処理温度が高くなってはじめて、金属を含む物質と原料フィルムの十分な接触が起こる。その結果、原料に高分子フィルムを用いた場合には、熱処理温度が高くなる炭素化過程で金属を含む物質と相互作用しにくくなり、炭素化中に副反応を起こしにくくなると推定される。またさらに、(c)の方法では、熱処理温度が高くなり、金属を含む物質の拡散が高くなってはじめて、原料フィルムと金属を含む物質との接触が起こり、金属を含む物質の拡散の度合いが高いために、フィルムに表面全体に非常に均一に相互作用する。特に気体状態ではその相互作用の均一性がより高まる。その結果、非常に品質の高いグラファイトが得られる。方法(a)〜(e)において、方法(e)(原料フィルムを接触して保持する容器(A)をさらに容器(B)に保持し、金属を含むカーボン粉末を容器(B)の周辺に存在させる方法)は、方法(a)と(b)(金属を含むカーボン粉末が、原料フィルムに接触もしくは近傍に存在する方法)より好ましい。方法(e)では、方法(a)と(b)と比べ、原料フィルムが容器(A)に接触して保持され、さらに容器(B)に保持されているため、カーボン粉末に含まれる酸素や窒素が、原料フィルムと反応することで、酸化劣化させにくくなり、原料フィルムの劣化を防止し、効果的に金属が原料フィルムに働くために好ましい。方法(e)は、方法(c)と同様の効果があり、方法(e)では、方法(c)と同様の品質のグラファイトフィルムが得られる。また、方法(f)では、方法(e)と同様の理由で、方法(e)と同じ品質のものが得られる。
【0072】
(2)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを、金属を含む容器に入れる方法。
【0073】
金属を含む容器としては、予め容器に金属が含有している容器、金属を含む物質や粉末を入れておいた容器等が挙げられる。この方法では、熱処理中に金属を含む物質が、容器内で拡散し、順次原料フィルムと接触することになると考えられる。また、金属を含む物質の種類によっては、気体となり、気体状で原料フィルムに接触することになる。
【0074】
品質面では、方法(1)と同等のものが得られるが、方法(1)の方が、容器内に金属を均一に分散させるのが容易であり、品質にバラツキのないグラファイトフィルムを得るうえでは、方法(1)は、方法(2)よりも好ましいと考えられる。また、方法(2)において、品質に優れたグラファイトフィルムを得るためには、容器(A)が密閉できるものであると、熱処理中の容器内の金属が均一化され、好ましい。(2)の方法では、低温では接触が少ないが、熱処理温度が高くなってはじめて、金属を含む物質と原料フィルムの十分な接触が起こる。その結果、原料に高分子フィルムを用いた場合には、熱処理温度が高くなる炭素化過程で金属を含む物質と相互作用しにくくなり、炭素化中に副反応を起こしにくくなると推定される。またさらに、(2)の方法では、熱処理温度が高くなり、金属を含む物質の拡散が高くなってはじめて、原料フィルムと金属を含む物質との接触が起こり、金属を含む物質の拡散の度合いが高いために、フィルムに表面全体に非常に均一に相互作用する。特に気体状態ではその相互作用の均一性がより高まる。その結果、非常に品質の高いグラファイトが得られる。
【0075】
(3)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの表面に金属を含む物質を形成する方法。
【0076】
表面に金属を含む物質を形成する方法としては、金属を含む物質を塗布したり、蒸着したりする方法が挙げられる。この方法では、熱処理を開始する前は、原料フィルムと金属を含む物質が直接接している。熱処理中に、金属を含む物質が、直接高分子フィルムと相互作用し内部に不定形形状の模様が形成される。熱処理温度が高くなるに従い、金属を含む物質が液体状態および/または気体状態となり、さらにより活発かつ均一にフィルムと相互作用する。
【0077】
品質面では、方法(1)と(2)は、方法(3)よりも品質に優れたグラファイトフィルムが得られる。これは方法(1)と(2)が、方法(3)に比べて、原料フィルムに対して、均一に金属が接触しやすいからと考える。
【0078】
原料フィルムに、高分子フィルム、炭素化した高分子フィルムを用いた場合、原料に炭素化した高分子フィルムを用いるのが良い。高分子フィルムを用いる場合には、炭素化中に高分子フィルムと直接接するため、炭素化過程で金属を含む物質が高分子フィルムと相互作用することとなり、炭素化と同時に副反応を起こす場合が考えられる。一方炭素化した高分子フィルムを用いる場合には、原料が既に炭素化しているため、熱処理中に副反応を起こすことがなくなり、より品質の高いグラファイトが得られると推定される。
【0079】
(4)原料フィルム内部に金属を含む物質が存在する方法。
【0080】
具体的な方法としては、原料フィルムに粉末状の微粒子を添加する方法が挙げられる。但し、ポリイミドを作製する前のポリアミド酸溶液の状態に、金属を含む物質を溶かした溶液を添加する方法は好ましくない。というのは、原料フィルム全体に分子状に金属が分散すると、ポリイミドを作製する過程で、副反応が起こり、均一なポリイミドフィルムを得ることが困難となる。さらに、ポリイミドフィルムに均一に分散していると、炭素化過程の副反応がひどくなり、品質の高いグラファイトを得るのが困難となる。この方法は(1)〜(3)の方法よりも好ましくない。
【0081】
<金属を含む物質>
金属を含む物質としては、金属単体、の化合物(酸化物、窒化物、ハロゲン化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙げられるが、これに限定されるものではない)、金属塩等が挙げられる。原料フィルムに直接接触させる場合には、金属を含む物質が溶媒に溶けることよい。というのは、塗布という簡単な方法で、原料フィルムの表面に均一に金属を含む物質を接触させることが出来るからである。金属の種類としては、IUPAC(国際純正・応用化学連合)無機化学命名法改訂版(1989年)による族番号4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、セレン、錫、鉛、ビスマス、が挙げられる。中でも、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、リチウム、ベリリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウムが良く、さらに好ましくは、チタン、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケルである。好ましくは、鉄、コバルトである。これらは、熱拡散率、表面硬度、表面の接着性、外観に優れるために好ましい。また、コバルトは、量が少なくても各特性の改善効果を発現するために好ましい。
【0082】
<グラファイト化の方法>
本発明の高分子フィルムのグラファイト化は、2000℃以上の温度で熱処理し、熱処理中に金属を含む物質と接触させておこなう。
【0083】
熱処理は、高分子フィルムを炭素化させる工程と黒鉛化させる工程の二つの工程からなる。炭素化と黒鉛化は、別々に行っても良いし、連続的に行っても良い。
【0084】
炭素化は、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは窒素ガス中で予備加熱処理して炭素化を行う。この予備加熱は通常800〜1500℃の温度で行われる。また、炭化の最高温度に達した時点で30分から1時間程度、最高温度のまま温度の保持を行っても良い。例えば10℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で30分程度の温度の保持を行っても良い。昇温の段階では、出発高分子フィルムの分子配向性が失われないように、フィルムの破損が起きない程度に膜面に垂直方向に圧力を加えてもよい。
【0085】
次に、黒鉛化は、炭素化した高分子フィルムを一度取り出した後、黒鉛化用の炉に移し変えてからおこなっても良いし、炭素化から黒鉛化を連続的におこなっても良い。黒鉛化は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウムが適当である。熱処理温度としては最低でも2000℃以上が必要で、最終的には2400℃以上、より好ましくは、2600℃以上さらに好ましくは2800℃以上で熱処理することが、熱伝導性、表面硬度、密度、表面の接着性、外観に優れたグラファイトを得るためにはよい。
【0086】
熱処理温度が高いほど良質のグラファイトへの転化が可能であるが、経済性の観点からはできるだけ低温で良質のグラファイトに転化できることが好ましい。2500℃以上の超高温を得るには、通常はグラファイトヒーターに直接電流を流して、そのジュ−ル熱を利用した加熱が行なわれる。グラファイトヒーターの消耗は2700℃以上で進行し、2800℃ではその消耗速度が約10倍になり、2900℃ではさらにその約10倍になる。したがって、原材料の高分子フィルムの改善によって、良質のグラファイトへの転化が可能な温度を例えば2800℃から2700℃に下げることは大きな経済的効果を生じる。なお、一般に入手可能な工業的炉において、熱処理可能な最高温度は3000℃が限界である。高分子フィルムを一旦炭素化して取り出した後、これを黒鉛化しても、炭素化と黒鉛化を連続的におこなっても良い。
【0087】
<本発明の通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する方法>
本発明の通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを後述する「電圧を印加し直接通電可能な容器」内に、原料フィルムを接触して保持し、該通電可能な容器および原料フィルムに後述する方法で通電し、グラファイト化する工程を含むことを特徴とする。
【0088】
本発明の方法は、原料フィルムによって、大きく下記の3つに分類できる。
【0089】
後述する「電圧を印加し直接通電可能な容器」内に、
(その1)「炭素化した高分子フィルム」を接触して保持し、または、
(その2)「高分子フィルム」を予備加熱処理することで「炭素化した高分子フィルム」を得た後、その「炭素化した高分子フィルム」を接触して保持し、または、
(その3)絶縁体である「高分子フィルム」を接触して保持し、
該容器に電圧を印加し通電しながら、グラファイト化する工程を含むことを特徴とする。
【0090】
下記に、(その1)から(その3)について、具体的に説明する。
【0091】
(その1)原料に炭素化した高分子フィルムを用い、該フィルムを電圧印加による直接通電が可能な容器内に接触して保持し、該容器へ電圧印加することで通電してグラファイト化する場合、該フィルムは、発熱した容器からの直接熱伝導(1)及びフィルムの自己発熱(2)による2つの手段で加熱され、品質の優れたグラファイトフィルムとなる。詳細を説明すると以下の通りである。
【0092】
従来の通常の雰囲気及び減圧下での熱処理では、加熱は、雰囲気ガスの熱伝導及び/またはヒーターからの輻射熱によりおこなわれるため、フィルムが加熱される手段は基本的には、フィルム表面から内部への熱伝導の1つのみである。
【0093】
しかし本発明の方法では、炭素化した高分子フィルムと導電体(容器(黒鉛製容器であってもよい)及び/又はカーボン粉末)が接している部分がフィルムの一方の表面と他方の表面であるため、電圧印加により発生したジュール熱が、炭素化した高分子フィルムの一方の表面と他方の表面の両方から直ちに伝熱する。その結果、一方の表面と他方の表面の両方から、炭素化が進行する。発熱した容器からの直接熱伝導及び後述するフィルムの自己発熱による2つの手段で加熱されフィルム内部まで十分加熱され、フィルムの表層及び内部で均一に熱処理される。
【0094】
本発明では、電圧を印加し直接通電可能な容器に通電にすると、通電による発熱が生じる。
【0095】
また、出発原料に炭素化した高分子フィルムを用いた場合、容器に電圧を印加すると、該フィルムは既に炭素化しているために炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて電流が流れ、黒鉛化の進行に伴い、抵抗が低くなるために、より電流が流れ、フィルム自体が発熱する。特に、電流は表層及び内部の両方に流れるため、発熱は表層及び内部の両方で同時に進行する。その結果、均一な黒鉛化が起こる。
【0096】
さらに、電流は、炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて流れ、黒鉛化の進行に伴い、抵抗が低くなるために、フィルムに流れる電流量が増え、フィルムの発熱量が増加し、黒鉛化が進行しやすくなる。特に、部分的に発熱が大きくなったとしても、フィルムそのものが発熱しかつ黒鉛化が進行するに従い熱伝導性が高まるために、フィルム全体に熱が伝わり、フィルムは均一に加熱される。
【0097】
グラファイトになる前の炭素化した高分子フィルムは、グラファイトと比べて熱伝導性に劣る傾向が有る。そのため、従来のような通常の雰囲気及び減圧下での熱処理では加熱手段が熱伝導の1つのみであることから、内部まで熱が十分伝わりにくく、表層と内部で黒鉛化の状態に差ができやすく、表層のみ黒鉛化し、内部に黒鉛化の不十分な部分が残る傾向が有る。結果、従来の方法では、高温に熱処理した場合に、内部の不十分な部分が発泡破裂し、フィルムがボロボロになった。
【0098】
一方、本発明の方法では、電圧を印加し直接通電可能な容器そのものが電圧印加に伴い発熱しているのと同時に、炭素化・黒鉛化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて、炭素化した高分子フィルムの炭素化部分に、電流が流れ、フィルム自体が発熱する。したがって、発熱した容器からの直接熱伝導及びフィルムの自己発熱による2つの手段によって、フィルムに十分熱を供給することが可能となり、内部の熱伝導性が悪い部分にも充分熱が供給され、表層のみ黒鉛化されることなく、表層と内部が同時に黒鉛化が進行する。
【0099】
さらに、フィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。また、熱処理後のグラファイトが結晶性に非常に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトとなる。
【0100】
また金属、金属を含むカーボン粉末、金属を含むカーボン容器に通電がなされると、金属が加熱され、拡散が起こりやすくなり、原料フィルムと均一に相互作用をおこし、フィルム全体で均一なグラファイト化が進行する。さらに、金属に通電されると、金属の反応性が高まり、原料フィルムとの反応を促進すると推定される。
【0101】
(その2)また、原料フィルムとして絶縁体の高分子フィルムを用いる場合、該フィルムを、不活性ガス雰囲気下および/または減圧下で予備加熱処理して得られる、炭素化した高分子フィルムを使用できる。このようにして炭素化した高分子フィルムは、(その1)で上記記載したとおりの方法で、グラファイト化が可能である。
【0102】
(その3)また、原料フィルムとして絶縁体の高分子フィルムを用いる場合、グラファイトに至るまでの炭素化過程の最初から通電によるため、炭素化も均一に起こりやすい。また、絶縁体の高分子フィルムであっても、本発明の製造方法によれば、その絶縁体の高分子フィルムと導電体(黒鉛製容器及び/又はカーボン粉末)が接している部分がフィルムの一方の表面と他方の表面であるため、電圧印加により発生したジュール熱が、絶縁体高分子フィルムの一方の表面と他方の表面の両方から直ちに伝熱する。従って、一方の表面と他方の表面の両方から、炭素化が進行する。
【0103】
このように本発明では、絶縁体の高分子フィルムであっても、両方の表面に導電体が接しているため、電圧を印加し通電して加熱する場合、当初は、フィルムの両方の表面から炭素化が進行し、引き続き、フィルム内部の炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じてフィルム内部にも電流が流れ、また炭素化の進行に伴いフィルムに流れる電流量が増え、最終的に表面及び内部での均一な発熱が起こるため、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。またフィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。また、熱処理後のグラファイトの結晶性に非常に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトとなる。
【0104】
本発明によるグラファイトフィルムが従来製造方法によるグラファイトフィルムよりも優れた均一性を発現する理由や機構については、学術的詳細研究がさらに必要ではあるが、上記のとおり、推定できる。
【0105】
<本発明の、通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する方法における、原料フィルムを接触して保持する方法>
なお、電圧を印加し直接通電可能な容器(例えば黒鉛製容器)内に、原料フィルムを接触して保持する方法とは、例えば、原料フィルムを金属板やグラファイト板で挟んだ上で、金属板やグラファイト板の自重以外には特には加圧しない状態で容器壁や容器底に接するように保持する方法が有るが、必ずしもこれらの方法だけに制約を受けるものではない。
【0106】
<通電方法/黒鉛製容器と原料フィルムとの間および/または前記黒鉛製容器の外部周辺に、カーボン粉末が充填されている状態>について。
【0107】
本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセス、特に、通電方法について説明する。
【0108】
本発明において、電圧を印加し通電する方法としては、交流電圧および/又は直流電圧を印加し、通電することをいう。
【0109】
本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセスは、電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含むことによって行なわれる。例えば次のよう方法(1)−(4)で通電されるのが好ましい。ここでは特に、黒鉛製容器の場合について記載するが、必ずしも、黒鉛製容器にのみ制約されるものではない。
【0110】
(1)黒鉛製容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
【0111】
(2)黒鉛製容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該黒鉛製容器の外部周辺をカーボン粉末で覆い(充填し)、カーボン粉末を介して、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
【0112】
(3)黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを接触して保持し(黒鉛製容器と原料フィルムとの間に、カーボン粉末が充填されている状態で、接触して保持し)、該黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
【0113】
(4)黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを接触して保持し(黒鉛製容器と原料フィルムとの間に、カーボン粉末が充填されている状態で、接触して保持し)、さらに該黒鉛製容器をカーボン粉末で覆い(黒鉛製容器の外部周辺にカーボン粉末が充填されてい状態で)、カーボン粉末を介して、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
【0114】
直接通電可能な容器及び製造されたフィルムの電気伝導性から考えて、サンプルの大きさにもよるが、通電の結果、例えば原料フィルムには10mA以上の電流が流れ、ジュ−ル熱により容器および/またはフィルムが発熱する。特に、初期絶縁体で途中から導電体に変換する場合であっても、投入電力を制御することにより急激な温度上昇を防止することで、安定的に高品質のグラファイトフィルムを製造できる。
【0115】
従来の雰囲気加熱や減圧下での加熱では、加熱は、ヒーターと接触している部分や雰囲気ガスからの熱伝導、ヒーターからの輻射熱によって原料フィルムの表面からおこなわれ、フィルムの内部と表面で不均一に黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下した。特に、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊した。また破損しない場合であったとしても、フィルムが薄い場合に比べると内部の黒鉛化は十分進行せず、熱伝導性は非常に劣るものとなった。
【0116】
しかし、本発明にある電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程では、結果として原料フィルムに電圧を印加し通電して加熱するため、原料フィルムそのものの発熱が寄与する。従って、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。さらに、125μmや225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部が同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルム破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0117】
通電方法(2)である、黒鉛製容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該黒鉛製容器の外部周辺をカーボン粉末で覆い、カーボン粉末を介して、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法は、通電方法(1)である黒鉛製容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法よりも、熱伝導性が高く、特性にバラツキのない優れたグラファイトフィルムを得るうえでは、優れている。というのは、黒鉛製容器をカーボン粉末で覆うことにより、黒鉛製容器および/または原料フィルムに加わる通電および加熱が均一におこるためである。
【0118】
またさらに、通電方法(3)(4)にあるように、黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを接触して保持することも、黒鉛製容器および/または原料フィルムに加わる通電および加熱が均一になるために好ましい。
【0119】
また、通電方法(2)〜(4)のように。原料フィルムの周辺に、カーボン粉末が存在する方法では、熱処理中にガスの対流が少なく、金属を含むカーボン粉末、金属を含む容器、金属を原料フィルムに接触および/または周辺に存在させて黒鉛化する場合、金属と原料フィルムが密閉された状態で存在しており、金属と原料フィルムとの相互作用が十分起こり、各特性に優れたグラファイトフィルムが得る上で好ましい。また、少量の金属存在下で、十分な金属の効果が得られる点でも好ましい。
【0120】
通電の結果生じる熱から与えられ、原料フィルムに結果として与えられる熱処理温度としては最低でも2400℃以上が必要で、好ましくは2600℃以上、最終的には2700℃以上の温度で熱処理することが好ましく、2800℃以上で熱処理することがより好ましい。
【0121】
<本発明の、通電可能な容器(A)内に、原料フィルムを接触して保持し、さらに該容器(A)を通電可能な容器(B)内に保持し、全体に通電しながらグラファイト化する方法>
本発明の通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを後述する「電圧を印加し直接通電可能な容器」(A)内に接触して保持し、さらに該容器(A)を通電可能な容器(B)内に保持し、全体に通電しながらグラファイト化する工程を含んでもよい。
【0122】
<直接通電可能な容器(A)の直接通電可能な容器(B)内への保持方法>について
まず、本発明の第一のグラファイト化方法について述べる。容器(A)を容器(B)内に保持しないような場合、すなわち、容器を2つ使用せず1つの容器を使用して高分子フィルムまたは炭素化した高分子フィルムの直接通電によるグラファイトの製造方法では、原料フィルムを1つの直接通電可能な容器内に接触して保持して、該容器一つ一つの外部周辺にカーボン粉末で充填し、全体に通電してグラファイトフィルムを作製する。この場合、多数の該容器をそれぞれカーボン粉末で覆って通電し、グラファイトを作製した場合には、カーボン粉末の充填密度や該容器自身それぞれの電気抵抗の差に起因して、作製したグラファイトの品質が、原料フィルムを接触して保持した容器によって、品質に差が生じる場合があった。
【0123】
次に、本発明の第二のグラファイト化方法について述べる。本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセスは、電圧を印加し、直接通電可能な容器内(A)に、該原料フィルムを接触して保持し、さらに直接通電可能な容器(B)に該原料フィルムが保持されている容器(A)を保持する。例えば図1〜3のいずれかで示されている保持方法がある。ここでは、該容器(A)を直方体、該容器(B)を円筒として記載しているが、該容器(A)と該容器(B)の形状は、必ずしも、直方体と円筒に制約されるものではない。
【0124】
(1) 図1は、該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆い(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している状態)、直接通電可能な容器(B)内に、該容器(A)が該容器(B)と接触しないように保持されている状態である。この場合のカーボン粉末は、容器(B)と容器(A)を電気的に接触させるために用いる。
【0125】
(2) 図2は、該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺にカーボン粉末を覆い(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している状態)、直接通電可能な容器(B)内に、該容器(A)が該容器(B)と接触するように保持されている状態である。
【0126】
(3) 図3は、該原料フィルムが接触して保持されている直接可能な容器(A)を、直接通電可能な容器(B)に、該容器(A)が該容器(B)と接触するように保持されている状態である。図3では該容器(B)内への該容器(A)の保持にはカーボン粉末が使われていない。
【0127】
本発明では、原料フィルムを接触して保持した該容器(A)を該容器(B)内に保持することで、該容器(A)に加わる電圧および/または熱を均一化でき該容器(A)間で作製されたグラファイトの品質には、差が生じないという特徴がある。さらに、原料フィルムを接触して保持した該容器(A)の外部周辺のカーボン粉末の存在密度(充填する場合には充填密度)を均一にでき、多数の該容器(A)を用いた場合であっても、該容器(A)間で作製されたグラファイトの品質には、差が生じないという特徴がある。
【0128】
また、原料フィルムを接触して保持した該容器(A)を該容器(B)内に保持する方法では、熱処理中に容器内でガスの対流が少なく、金属を含むカーボン粉末、金属を含む容器、金属を原料フィルムに接触および/または周辺に存在させて黒鉛化する場合、金属と原料フィルムが密閉された状態で存在しており、金属と原料フィルムとの相互作用が十分起こり、各特性に優れたグラファイトフィルムが得る上で好ましい。また、少量の金属存在下で、十分な金属の効果が得られる点でも好ましい。
【0129】
該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)を直接通電可能な容器(B)内に保持し、電圧を印加し、通電する場合には、該容器(A)と該容器(B)が接触していないほうが好ましい。その理由は以下に示す通りである。
【0130】
該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは、充填している状態で、))直接通電可能な容器(B)内に該容器(A)を該容器(B)と接触しないように保持していれば、電圧を印加し通電する場合、該原料フィルムを接触して保持した該容器(A)への通電が、該容器(A)の外部周辺に存在する(好ましくは充填した)カーボン粉末を介して該容器(A)全面に均一に起きる。このために、該容器(A)には、部分的な電圧の偏りが生じず均一な通電発熱が発生し、該原料フィルムが品質のバラツキがない優れたグラファイトとなる。
【0131】
一方で、該容器(A)と該容器(B)が接触している状態で、電圧を印加し通電すると、該容器(A)と該容器(B)が接触している部分からのみ該容器(A)への通電が起こるために、該容器(A)には均一な通電発熱の発生が達成されず、該原料フィルムのグラファイト化の均一性が(1)の場合より不充分なものとなる。
【0132】
該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺にカーボン粉末を覆い(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填している)状態)、直接通電可能な容器(B)内に、該容器(A)が該容器(B)と接触するように保持されている状態では、該容器(A)への通電が、該容器(B)と接触している部分と、該容器(A)の外部周辺を覆っているカーボン粉末から2つの経路で通電が起きるが、該容器(B)とカーボン粉末とでは電気抵抗が異なるために、電気抵抗が低いほうから通電が起き、該容器(A)の通電発熱の均一性が(2)の場合より不充分なものとなる。
【0133】
従って、該容器(B)への該容器(A)の保持方法として、一番好ましいのは、前記(1)であり、次に(2)、次に(3)である。
【0134】
また、図1〜3のいずれかの保持状態に加えて、さらに、原料フィルムの周辺をカーボン粉末で覆っている状態(該容器(A)と原料フィルムとの間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態)、または、該容器(B)の外部周辺にカーボン粉末が覆っている状態(該容器(B)の外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態)であっても良い。
【0135】
<該原料フィルムを接触して保持した直接通電可能な容器(A)に通電する方法>
本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセス、特に、通電方法について説明する。本発明において、電圧を印加し通電する方法としては、交流電圧および/又は直流電圧を印加し、通電することをいう。
【0136】
該原料フィルムを接触して保持した直接通電可能な容器(A)/原料フィルムへの通電方法は、例えば次のような方法(1)と(2)がある。ここでは特に、黒鉛製容器の場合について記載するが、必ずしも、黒鉛製容器にのみ制約されるものではない。また、該容器(A)を直方体、該容器(B)を円筒として記載しているが、該容器(A)と該容器(B)の形状は、必ずしも、直方体と円筒に制約されるものではない。
【0137】
(1)図4に示すような該容器(A)の保持方法であり、黒鉛製容器(B)内に外部周辺をカーボン粉末で覆った黒鉛製容器(A)を黒鉛製容器(B)と接触しないように保持し(該容器(A)と該容器(B)の間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態で、保持し)、直接、黒鉛製容器(B)に電圧を印加し、黒鉛製容器(B)およびカーボン粉末を介して、黒鉛容器(A)/または原料フィルムに通電する方法。
【0138】
(2)図5に示すような保持方法であり、黒鉛製容器(B)内に黒鉛製容器(A)を黒鉛製容器(B)と接触しないように黒鉛製容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で保持し(該容器(A)と該容器(B)の間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態で、保持し)、さらには、黒鉛製容器(B)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で、(黒鉛製容器Bの外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態で、)該容器(B)の外部周辺に存在している(このましくは充填されている)カーボン粉末に電圧を印加し、該容器(B)を覆っているカーボン粉末、黒鉛製容器(B)、そして該容器Aと該容器Bの間のカーボン粉末を介して、黒鉛容器(A)/または原料フィルムに通電する方法。
【0139】
図5に示す保持方法は、図4に示す保持方法よりも、熱伝導性が高く、特性にバラツキのない優れたグラファイトフィルムを得るうえでは、優れている。というのは、黒鉛製容器(B)をカーボン粉末で覆うことにより、黒鉛製容器および/または原料フィルムに加わる通電および加熱が均一におこるためである。
【0140】
(1)〜(2)のいずれかに記載した、該容器(A)/原料フィルムへの通電方法に加えて、原料フィルムの周辺をカーボン粉末で覆っている状態(該容器(A)と原料フィルムとの間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態)、または、該容器(A)と該容器(B)が接触している状態であっても良いことは、いうまでもない。
【0141】
従来の雰囲気加熱や減圧下での加熱では、加熱は、ヒーターと接触している部分や雰囲気ガスからの熱伝導、ヒーターからの輻射熱によって原料フィルムの表面からおこなわれ、フィルムの内部と表面で不均一に黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下した。特に、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊した。また破損しない場合であったとしても、フィルムが薄い場合に比べると内部の黒鉛化は十分進行せず、熱伝導性は非常に劣るものとなった。
【0142】
しかし、本発明にある電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程では、結果として原料フィルムに電圧を印加し通電して加熱するため、原料フィルムそのものの発熱が寄与する。従って、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。さらに、125μmや225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部が同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルム破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0143】
通電の結果生じる熱から与えられ、原料フィルムに結果として与えられる熱処理温度としては最低でも2400℃以上が必要で、好ましくは2600℃以上、最終的には2700℃以上の温度で熱処理することが好ましく、2800℃以上で熱処理することがより好ましい。
【0144】
なお、本発明で記載の温度は、例えば直接通電可能な容器の外壁や内部の一部などにおいて、放射温度計などを使用して計測することができる。
【0145】
なお、本明細書で使う「熱処理」という言葉は、下記のような広義の意味で用いる。従来技術の場合は、概ね、「熱処理」とは、減圧下での加熱や、ガス雰囲気での加熱を指す。一方で、本発明の特徴である通電についても、通電の結果生じる熱が原料フィルムに伝わることを「熱処理」と概括的に表現している場合が有る。従来技術との対比で説明する場合に、従来の減圧下での加熱や、ガス雰囲気での加熱、通電の結果生じる熱が原料フィルムに伝わる場合を、区別なく説明する際に、特に注釈を付けずに複数の原理が有りうる「熱処理」という表現をすることが有る。
【0146】
<通電方向と原料フィルムの法線との成す角度>について
本発明では、通電方向と該原料フィルムの位置関係は、原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの法線との、成す角度が0度より大きく180度未満であればよい。ここでいう、成す角度とは、通電における正極から負極への通電方向を直線で表した場合の、原料フィルムの面方向に対する法線との成す角度を意味する。
【0147】
原料フィルムの面方向に対する法線と、通電方向を示す直線との、成す角は、好ましくは60度以上120度以下、さらに好ましくは75度以上105度以下、最も好ましくは90度である。
【0148】
原料フィルムへの通電方向と原料フィルムの法線の成す角と90度がもっとも好ましい理由としては、成す角が90度であれば、通電方向が原料フィルムの面方向であるために、原料フィルムに均一な通電が可能であり、品質の優れたグラファイトフィルムが得られる。
【0149】
一方で、通電方向と原料フィルムの面方向に対する法線との成す角が0度で、通電方向が原料フィルムの厚み方向である場合、原料フィルムを容器(A)内に接触して保持するために用いられている板状の通電可能な黒鉛を介して、原料フィルムに通電が起きるために、成す角が90度に比べて、原料フィルムへの通電が妨げられる場合がある。このために、成す角が0度に比べて、90度のほうが原料フィルム自身の通電による加熱には有利である。
【0150】
また、成す角が0度では、通電方向が原料フィルムの厚み方向であるのに対して、成す角90度では、通電方向が原料フィルムの面方向であることから、成す角90度のほうが通電距離が長く、このために、成す角90度であるほうが通電時の原料フィルム自身の発熱にも有利である。
【0151】
<電圧を印加し直接通電可能な容器>
本発明の、電圧を印加し直接通電可能な容器とは、例えば、タングステン製、モリブデン製、黒鉛製の容器である。容器の形状は、特に制約を受けず、単純な平板などの形状でよい。また容器は円筒状で、原料フィルムを容器に巻きつける方法でも良い。容器の形状は、原料フィルムを接触して保持できる限りにおいて、特に制約を受けないが、作製の容易さ、工業的入手の容易さという観点から、例えば、直方体や立方体の形状をしており、ブロック状、蓋などが有る弁当箱状などの形状が、好ましい。
【0152】
なお、使用される容器や、本明細書中に記載の容器(A)や容器(B)は、それぞれ独立に、容器内を密閉状態で使用してもよいし、密閉状態で使用しなくてもよい。
【0153】
密閉状態にする方法としては、それぞれの容器に、密閉状態が実現できるような覆いを設ける方法が考えられる。密閉状態の場合には、加温・降温された結果膨張・収縮した気体の存在に伴って、容器内部が、常圧に比べて加圧されている状態や、常圧に比べて減圧されている状態を達成しうる。
【0154】
密閉状態にしない方法は、それぞれの容器(容器(A)、容器(B)、それぞれ独立に)に覆い(例えば蓋など)を設けるものの、容器と覆い(例えば蓋など)との間を通じて、加温・降温された結果膨張・収縮した気体が、出入り可能な状態であるような状態を実現する方法などが有る。もちろん、容器(容器(A)、容器(B))をそのまま用いて、覆いを設けない方法も、密閉状態にしない方法の一態様である。
【0155】
本発明においては、容器の内部が、密閉される方が好ましい。容器が密閉できる場合には、熱処理中、容器内にガスの対流が少なく、金属を含むカーボン粉末、金属を含む容器、金属を原料フィルムに接触および/または周辺に存在させて黒鉛化する場合、金属と原料フィルムが密閉された状態で存在しており、金属と原料フィルムとの相互作用が十分起こり、各特性に優れたグラファイトフィルムが得る上で好ましい。また、少量の金属存在下で、十分な金属の効果が得られる点でも好ましい。
【0156】
<黒鉛製容器>
本発明のような2500℃の温度領域まで通電によって加熱されるような用途では、取り扱いの容易さや、工業的な入手の容易さ等を勘案すると、使用される容器(A)や容器(B)としては、黒鉛製の容器が、特に好ましい。ここでいう黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、等方性黒鉛、押出製黒鉛、が挙げられ、電気伝導性、熱伝導性に優れ、均質性にも優れる等方性黒鉛が、電流を流しまた繰り返し用いる場合には好ましい。
【0157】
<直接通電可能な容器(B)が円筒である>について
本発明では、該容器(B)は特に形状の限定はないが、円筒であることが好ましい。これは、通電時に、円筒であるほうが、角筒であるよりも、電圧の偏りが生じにくいため、該容器(A)の全体にわたって均一な通電加熱に有利であるためである。容器(А)については特には形状の制限はないが、工業的な入手の容易さ等を勘案すると立方体、直方体などの角筒、もしくは円筒の形状で、操作上の利便性から蓋つきのものが良い。
【0158】
<原料フィルムが絶縁体>
また、製造工程の初期において原料フィルムが絶縁体であるとよい。というのは、炭化処理を通電加熱によって行われると、均一な炭化が起こり、その結果、黒鉛化中にフィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。その結果として、熱伝導性の優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0159】
<カーボン粉末>
本発明において用いられるカーボン粉末は、本発明のような2500℃の温度領域まで(通電によって)加熱される。
【0160】
ここでいうカーボン粉末とは、炭素を主に含む粉末である限りにおいて、特に限定されるものではない、広い概念である。例えば、有機物を主に含む物質や粉末や繊維を熱処理した後、粉末状に粉砕したものや、造粒したものでもよい。熱処理の温度は、200℃以上、好ましくは、500℃以上、さらに好ましくは1000℃以上や1500℃以上である。また、天然および/または人工のピッチ、コークス、カーボンブラックのような炭素を主に含む物質を用いてもよい。また、カーボン粉末は黒鉛であっても良い。ここでいう黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、グラファイトクロスを粉砕したもの、等方性黒鉛を粉砕したもの、押出製黒鉛を粉砕したもの、等が挙げられる。カーボン粉末の粉末形状、粒子径、粒子径分布などは、特に制限されるものではない。
【0161】
本発明のカーボン粉末は、下記に説明するカーボン粒子や、黒鉛粒子であってもよい。
【0162】
<黒鉛粒子>
本発明において用いられる黒鉛粒子は、本発明のような2500℃の温度領域まで(通電によって)加熱される。ここでいう黒鉛粒子の素材である黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、グラファイトクロスを粉砕したもの、等方性黒鉛を粉砕したもの、押出製黒鉛を粉砕したもの、カーボンブラック、等が挙げられる。黒鉛粒子の粒子形状、粒子径、粒子径分布などは、特に制限されるものではない。
【0163】
<カーボン粒子>
本発明において用いられるカーボン粒子は、本発明のような2500℃の温度領域まで(通電によって)加熱される。
【0164】
ここでいうカーボン粒子とは、炭素を主に含む粒子である限りにおいて、特に限定されるものではない、広い概念である。例えば、有機物を主に含む物質や粉末や繊維を熱処理した後、粒子状に粉砕したものや、造粒したものでもよい。熱処理の温度は、200℃以上、好ましくは、500℃以上、さらに好ましくは1000℃以上や1500℃以上である。また、天然および/または人工のピッチ、コークス、カーボンブラックのような炭素を主に含む物質を用いてもよい。また、カーボン粉末は黒鉛であっても良い。ここでいうとは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、グラファイトクロスを粉砕したもの、等方性黒鉛を粉砕したもの、押出製黒鉛を粉砕したもの、等が挙げられる。カーボン粒子の粉末形状、粒子径、粒子径分布などは、特に制限されるものではない。
【0165】
<ポリイミドフィルム>
ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする原料フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため、フィルムの電気伝導度が低温で均一に高くなりやすく、かつ電気伝導度そのものも高くなりやすい。その結果、電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する場合には、フィルム部分に炭素化の進行に伴って均一に電流が流れ、表面及び内部での均一な発熱が起こり、厚みが薄い場合に加え、厚い場合においても熱伝導性の高いグラファイトとなる。また、出来上がるグラファイトの結晶性が優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトとなる。
【0166】
<ポリイミドフィルムと複屈折>
本発明に用いられるポリイミドフィルムにおいて、分子の面内配向性に関連する複屈折Δnは、フィルム面内のどの方向に関しても0.08以上、好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.12以上、最も好ましくは0.14以上である。複屈折0.08以上であると、熱伝導性の高いグラファイトフィルムとなる。またさらに、黒鉛化温度が低温でも十分高い熱伝導性のグラファイトフィルムとなり、厚みが厚くても、高い熱伝導性を有するグラファイトフィルムとなる。さらに、金属と接触させて熱処理した場合には、従来技術では改善の余地があった表面硬度、密度、表面の密着性が改善される。特に、複屈折が高いフィルムでは、熱処理後にグラファイト表面から黒鉛が剥がれる場合があったが、本発明の方法を用いれば、表面剥がれのない優れた外観のグラファイトフィルムを得ることが可能となる。
【0167】
<原料フィルムと複屈折>
複屈折が高くなるほど、フィルムの炭化(炭素化)、黒鉛化が進行しやすくなる。その結果、グラファイトの結晶配向性がよくなり、熱伝導性が顕著に改善される。特に、高分子フィルムの面配向性が高いと、金属との接触によることにより、高い熱伝導性を保持しながら、表面の黒鉛剥がれを抑制できた表面硬度、密度、表面の密着性に優れたグラファイトが得られる。また、炭化が進行しやすいため、炭化中の昇温速度を速く、熱処理時間を短くしても、品質の優れたグラファイトとなる。また、黒鉛化が進行しやすいため、最高温度を下げて熱処理時間を短くしても品質の優れたグラファイトとなる。
【0168】
複屈折が高くなるほど、フィルムの炭化(炭素化)、黒鉛化が進行しやすいため、フィルムの電気伝導度が高くなりやすい。その結果、電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程では、フィルム部分に炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて均一に電流が流れ、また炭素化の進行に伴いフィルムに流れる電流量が増え、表面及び内部での均一な発熱が起こるため、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。またフィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。
【0169】
また、低温で炭化(炭素化)及び黒鉛化が進行するために、低温の熱処理中からフィルムの電気伝導度が高くなり、表面及び内部での均一な発熱が起こり、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。
【0170】
また、複屈折が高くなるほど、結晶性に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトフィルムとなる。
【0171】
また、原料の厚みが厚くなったとしても、表面と内部で均一に黒鉛化が進行するため、熱伝導性の優れたグラファイトが得られる。
【0172】
また、複屈折が高くなるほど、得られるグラファイトフィルムの熱伝導性が顕著に改善される。従って、通電の結果生じる熱から与えられ、原料フィルムに結果として与えられる最高処理温度を下げることが可能となり、消費電力の低減が可能となる。短時間の熱処理でも品質の高いグラファイトフィルムとなる。
【0173】
複屈折が高くなると黒鉛化しやすくなる理由は明らかではないが、グラファイト化のためには分子が再配列する必要があり、複屈折の高い分子配向性に優れたポリイミドフィルムでは分子の再配列が最小で済むことから、ポリイミドフィルムの中でも、より配向性に優れたポリイミドフィルムの方が、比較的低温の通電処理による熱発生に伴う最高処理温度で、厚みが厚くても、結晶性の高いグラファイトフィルムになると推測される。
【0174】
<複屈折>
ここでいう複屈折とは、フィルム面内の任意方向の屈折率と厚み方向の屈折率との差を意味し、フィルム面内の任意方向Xの複屈折Δnxは次式(数式1)で与えられる。
【0175】
【数1】
図6と図7において、複屈折の具体的な測定方法が図解されている。図6の平面図において、フィルム1から細いくさび形シート2が測定試料として切り出される。このくさび形シート2は一つの斜辺を有する細長い台形の形状を有しており、その一底角が直角である。このとき、その台形の底辺はX方向と平行な方向に切り出される。図7は、このようにして切り出された測定試料2を斜視図で示している。台形試料2の底辺に対応する切り出し断面に直角にナトリウム光4を照射し、台形試料2の斜辺に対応する切り出し断面側から偏光顕微鏡で観察すれば、干渉縞5が観察される。この干渉縞の数をnとすれば、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、次式(数式2)で表される。
【0176】
【数2】
ここで、λはナトリウムD線の波長589nmであり、dは試料2の台形の高さに相当する試料の幅3である。
【0177】
なお、前述の「フィルム面内の任意方向X」とは、例えばフィルム形成時における材料流れの方向を基準として、X方向が面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。
【0178】
<ポリイミドフィルムの熱的性質、機械的性質、物理的性質、化学的性質>
また、本発明に用いられるグラファイトの原料となるポリイミドフィルムは、100〜200℃の範囲において2.5×10−5/℃未満の平均線膨張係数を有しているとよい。線膨張係数が2.5×10−5/℃未満であれば、熱処理中の伸びが小さく、スムースに黒鉛化が進行し、脆くなく、種々の特性に優れたグラファイトを得ることができる。このようなポリイミドフィルムを原料に用いることで、グラファイトへの転化が2400℃から始まり、2700℃で十分結晶性の高いグラファイトに転化が生じ得る。なお、その線膨張係数は、2.0×10−5/℃以下であることがより好ましい。
【0179】
なお、原料フィルムの線膨張係数は、TMA(熱機械分析装置)を用いて、まず試料を10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させた後に一旦室温まで空冷し、再度10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させ、2回目の昇温時の100℃〜200℃における平均線膨張係数を測定することによって得られる。具体的には、熱機械分析装置(TMA:セイコー電子製SSC/5200H;TMA120C)を用いて、3mm幅×20mm長のサイズのフィルム試料を所定の治具にセットし、引張モードで3gの荷重をかけて窒素雰囲気下で測定が行われる。
【0180】
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、その弾性率が2.5GPa以上、好ましくは3.4GPa以上であれば、グラファイト化をより容易に行い得るということから好ましい。すなわち、弾性率が2.5GPa以上、好ましくは3.4GPa以上であれば、熱処理中のフィルムの収縮によるフィルムの破損を防止することができ、種々の特性に優れたグラファイトを得ることができる。
【0181】
なお、フィルムの弾性率は、ASTM−D−882に準拠して測定することができる。ポリイミドフィルムのより好ましい弾性率は3.0GPa以上であり、好ましくは4.0GPa以上であり、さらに好ましくは5.0GPa以上である。フィルムの弾性率が2.5GPaより小さければ、熱処理中のフィルムの収縮で破損および変形しやすくなり、得られるグラファイトの結晶性は劣り、密度および熱伝導性が劣る傾向にある。
【0182】
フィルムの吸水率は、下記のごとく測定した。フィルムを絶乾するために、100℃で30分乾燥して、25μm厚み10cm角のサンプルを作製した。この重量を測定してA1とする。25μm厚み10cm角のサンプルを蒸留水に23℃で24時間浸漬し、表面の水を拭いて除去し直ちに重量を測定した。この重量をA2とする。下記式より吸水率を求めた。
【0183】
吸水率(%)=(A2−A1)÷A1×100
<ポリイミドフィルムの作製方法>
本発明で用いられるポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶液をイミド化促進剤と混合した後、エンドレスベルトまたはステンレスドラムなどの支持体上に流延し、それを乾燥および焼成してイミド化させることにより製造され得る。
【0184】
本発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては公知の方法を用いることができ、通常は、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種が実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解させられる。そして、得られた有機溶液は酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌され、これによってポリアミド酸が製造され得る。このようなポリアミド酸溶液は、通常は5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に、適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0185】
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、例えば次のような重合方法(1)−(5)が好ましい。
【0186】
(1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
【0187】
(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマを得る。続いて、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0188】
好ましい1つの態様としては、ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに前記とは異なるジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法が有る。
【0189】
(3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、このプレポリマに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
【0190】
(4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0191】
(5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
【0192】
これらの中でも(2)、(3)に示すプレポリマを経由するシーケンシャル制御(シーケンスコントロール)(ブロックポリマー同士の組み合わせ・ブロックポリマー分子同士の繋がりの制御)をして重合する方法が好ましい。というのは、この方法を用いることで、複屈折が大きく、線膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得られやすく、このポリイミドフィルムを熱処理することにより、結晶性が高く、密度および熱伝導性が優れたグラファイトを得やすくなるからである。また、規則正しく、制御されることで、芳香環の重なりが多くなり、低温の熱処理でもグラファイト化が進行しやすくなると推定される。また複屈折を高めるために、イミド基含有量を増やすと、樹脂中の炭素比率が減り、黒鉛処理後の炭素化収率が減るが、シーケンシャル制御をして合成されるポリイミドフィルムは、樹脂中の炭素比率を落とすことなく、複屈折を高めることが出来るために好ましい。
【0193】
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0194】
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−オキシジアニリン)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−オキシジアニリン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0195】
特に、線膨張係数を小さくして弾性率を高くかつ複屈折を大きくし得るという観点から、本発明におけるポリイミドフィルムの製造では、下記式(1)で表される酸二無水物を原料に用いることが好ましい。
【0196】
【化1】
ここで、R1は、下記の式(2)〜式(14)に含まれる2価の有機基の群から選択されるいずれかであって、
【0197】
【化2】
ここで、R2、R3、R4、およびR5の各々は−CH3、−Cl、−Br、−F、または−OCH3の群から選択されるいずれかであり得る。
【0198】
上述の酸二無水物を用いることによって比較的低吸水率のポリイミドフィルムが得られ、このことはグラファイト化過程において水分による発泡を防止し得るという観点からも好ましい。
【0199】
特に、酸二無水物におけるR1として式(2)〜式(14)に示されているようなベンゼン核を含む有機基を使用すれば、得られるポリイミドフィルムの分子配向性が高くなり、線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が高く、さらには吸水率が低くなるという観点から好ましい。
【0200】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きく、吸水率を小さくするためには、本発明におけるポリイミドの合成に下記式(15)で表される酸二無水物を原料に用いればよい。
【0201】
【化3】
特に、2つ以上のエステル結合でベンゼン環が直線状に結合された構造を有する酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムは、屈曲鎖を含むけれども全体として非常に直線的なコンフォメーションをとりやすく、比較的剛直な性質を有する。その結果、この原料を用いることによってポリイミドフィルムの線膨張係数を小さくすることができ、例えば1.5×10−5/℃以下にすることができる。また、弾性率は500kgf/mm2以上に大きくすることができ、吸水率は1.5%以下に小さくすることができる。
【0202】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きくするためには、本発明におけるポリイミドは、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成されることが好ましい。
【0203】
また、本発明においてポリイミドの合成に用いられる最も適当なジアミンは4,4’−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンであり、これらの単独または2者の合計モルが全ジアミンに対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。さらに、p−フェニレンジアミンが10モル%以上、さらには20モル%以上、さらには30モル%以上、またさらには40モル%以上を含むことが好ましい。これらのジアミンの含有量がこれらのモル%範囲の下限値未満になれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。但し、ジアミンの全量をp−フェニレンジアミンにすると、発泡の少ない厚みの厚いポリイミドフィルムを得るのが難しくなるため、4,4’−オキシジアニリンを使用するのが良い。
【0204】
本発明においてポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物および/または式(15)で表されるp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)であり、これらの単独または2者の合計モルが全酸二無水物に対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。これら酸二無水物の使用量が40モル%未満であれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。
【0205】
また、ポリイミドフィルム、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂に対して、カーボンブラック、グラファイト等の添加剤を添加しても良い。
【0206】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。
【0207】
次に、ポリイミドの製造方法には、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、またはポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤やピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用いてイミド転化するケミカルキュア法のいずれを用いてもよい。中でも、イソキノリンのように沸点の高いものほど好ましい。というのは、フィルム作製中の初期段階では蒸発せず、乾燥の最後の過程まで、触媒効果が発揮されやすいため好ましい。特に、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすく、また比較的低温で迅速なグラファイト化が可能で、品質のよいグラファイトを得ることができるという観点からケミカルキュアの方が好ましい。特に、脱水剤とイミド化促進剤を併用することは、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が大きくなり得るので好ましい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するので加熱処理においてイミド化反応を短時間で完結させることができ、生産性に優れた工業的に有利な方法である。
【0208】
具体的なケミカルキュアによるフィルムの製造においては、まずポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒からなるイミド化促進剤を加えて、支持板、PET等の有機フィルム、ドラム、またはエンドレスベルト等の支持体上に流延または塗布して膜状にし、有機溶媒を蒸発させることによって自己支持性を有する膜を得る。次いで、この自己支持性膜をさらに加熱して乾燥させつつイミド化させてポリイミド膜を得る。この加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲内にあることが好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは段階的に、徐々に加熱して最高温度がその所定温度範囲内になるようにするのが好ましい。加熱時間はフィルム厚みや最高温度によって異なるが、一般的には最高温度に達してから10秒から10分の範囲が好ましい。さらに、ポリイミドフィルムの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを固定したり延伸したりする工程を含めば、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすい傾向にあるので好ましい。
【0209】
<高分子フィルムのグラファイト化>
高分子フィルムのグラファイト化機構について説明する。
【0210】
高分子フィルムのグラファイト化は、炭素化と黒鉛化の2段階を経由して起こる。まず、一般に炭素化とは、高分子フィルムを1000℃まで熱処理して、炭素分が主成分となる物質に変化させる過程のことを意味する。具体的には、高分子フィルムを分解温度で熱処理すると結合の開裂が起こり、分解成分は二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、水素等のガスとなって離脱し、1000℃まで熱処理されると、炭素が主成分の材料となる。次に黒鉛化とは、炭素質材料を2800℃以上の温度で熱処理し、芳香環が平面状に繋がったグラファイト層が多数積層した構造に変換させる過程のことを意味する。
【0211】
しかし、高分子を熱処理して得られた炭素質材料が全て黒鉛になるわけではなく、エポキシやフェノール樹脂を熱処理して作製した炭素質材料は、2800℃以上の温度で熱処理しても黒鉛になることはなくガラス状炭素のままであり、ポリイミド、ポリオキサジアゾール等の芳香環を有する高分子で芳香環が面内にある程度配向し、耐熱性が高い限られた高分子材料を熱処理して得られる炭素質材料でのみが黒鉛となる。
【0212】
<ポリイミドフィルムを含む、高分子フィルムのグラファイト化>
高分子フィルムのグラファイト化は上述の通り、炭素化と黒鉛化の2段階を経由しておこり、熱処理により炭素化した後、さらに高温で熱処理することでグラファイト構造に転化させられる。この過程では炭素−炭素結合の開裂と再結合が起きなければならない。グラファイト化をできる限り起こしやすくするためには、その開裂と再結合が最小のエネルギーで起こるようにする必要がある。出発高分子フィルム(例えば、上記に列記した高分子フィルム、特にポリイミドフィルム)の分子配向は炭素化フィルム中の炭素原子の配列に影響を与え、その分子配向はグラファイト化の際に結合の開裂と再結合化のエネルギーを少なくする効果を生じ得る。したがって、高度な分子配向が生じやすくなるように分子設計を行うことによって、グラファイト化の促進が可能になる。この分子配向の効果は、フィルム面に平行な二次元的分子配向とすることによって一層顕著になる。但し、出発原料である高分子フィルムに金属を含む物質を接触させると、熱処理中に相互作用を起こし、従来の炭素−炭素結合の開裂と再結合や炭素化中の炭素原子の配列に悪影響を与える場合もある。従って、炭化したフィルムを出発原料とすることが好ましい。
【0213】
グラファイト化反応における第二の特徴は、高分子フィルムが厚ければグラファイト化が進行しにくいということである。したがって、厚い高分子フィルムをグラファイト化する場合には、表面層ではグラファイト構造が形成されているのに内部ではまだグラファイト構造になっていないという状況が生じ得る。高分子フィルムの分子配向性はフィルム内部でのグラファイト化を促進し、結果的により低温で良質のグラファイトへの転化を可能にする。
【0214】
高分子フィルムの面配向性を高めることにより、高分子フィルムの表面層と内部とでほぼ同時にグラファイト化が進行するということは、内部から発生するガスのために表面層に形成されたグラファイト構造が破壊されるという事態を避けることにも役立ち、より厚いフィルムのグラファイト化を可能にする。本発明において使用される高分子フィルム(例えば、上記に列記した高分子フィルム、特にポリイミドフィルム)は、まさにこのような効果を生じるのに最適な分子配向を有していると考えられる。但し、金属と接触させない場合では、面配向を高くすぎると、黒鉛化が進行しすぎ、表面から黒鉛がはがれることがあり、原料フィルムの面配向と均一にきれいなグラファイトを得ることを両立させることは非常に難しいことであった。一方、原料に面配向の高い高分子フィルムを用い、この原料を金属と接触させて熱処理をおこなえば、従来の技術では改善の余地のあった表面からの黒鉛剥がれという問題を改善するだけにとどまらず、熱伝導性にも優れ、表面硬度、密度、表面の密着性に優れたグラファイトを得ることが可能となる。面配向の高い高分子フィルムと、金属と接触させて熱処理することとを組み合わせることで、従来の技術では予見できない効果が得られた。
【0215】
<従来の原料フィルムの熱処理によるグラファイト化>
従来の原料フィルムの熱処理によるグラファイト化では、熱処理により熱伝導性に優れたグラファイトを得ることは可能であるものの、表面硬度、表面の接着性、外観においてはまだ改善の余地が有る、グラファイトフィルムになる。特に原料フィルムの厚みが厚くなるほど、この傾向は顕著になると考えられる。この理由について説明する。
【0216】
従来のグラファイト化では、炭素化及び黒鉛化は、原料フィルムの内部よりも表面から優先的に起こると考えられる。その結果、表面の緻密な層が内部に残留した未炭化成分由来の分解ガスを閉じ込め、高温に加熱された時に、内部に残留したガスが表面層を破って抜け出し、表面がはがれ、外観においてまだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。さらに、黒鉛化過程のグラフェン層の再配列で、配列しきれない余分なグラフェン層が分解ガスとして発生し、表面層を破って抜け出し、表面がはがれ、外観においてまだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。またさらに、表面部分のみ黒鉛化が進行し、内部歪みを受け、表面の黒鉛層が脱落したり、全体に黒鉛化が進行しすぎた結果、面間の剥離を起こしやすくなり、黒鉛層が脱落しやすいという点で、まだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。
【0217】
その結果、表面の破損や表面の剥がれによって、表面に脆弱層ができ、その結果として、表面硬度、表面の接着性、外観にまだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。このことから、表面硬度、表面の接着性、外観を兼ね備えた熱伝導性の高いグラファイトを得ることは依然として非常に困難な課題である。さらに、原料厚みが厚くなると、厚みの薄いものに比べて、熱処理における表面と内部の炭素化と黒鉛化の進行度により大きな差がでる傾向が有るため、各特性はまだ改善の余地が有る結果となる場合が多かった。
【0218】
<本発明の、原料フィルムに金属を含む物質を接触させるグラファイト化>
しかし、本発明の原料フィルムに金属を含む物質を接触させるグラファイト化では、熱処理中に、該フィルム内部に、該フィルム断面の主たる模様とは異なる、最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様が観察が形成され、従来困難であった表面硬度、表面の密着性、外観を兼ね備えた熱伝導性の高いグラファイトを得ることができた。
【0219】
従来の金属を含む物質と接触させない場合には、分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層の破壊や表層の部分的な黒鉛化や黒鉛化の進行しすぎによる黒鉛脱離が生じた。
【0220】
一方、本発明の金属を含む物質をフィルムに接触させて熱処理する場合には、(1)熱処理中に金属を含む物質が原料フィルムと相互作用し、熱処理中のフィルムを取り出しSEM断面観察をすると、該フィルム内部に当初の原料フィルムには観察されなかった最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様が形成され、フィルムの表面および/または内部で不均一層が形成される。不均一層が形成される理由としては、熱処理中に分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層や内部の破壊した部分に、金属を含む物質が浸透拡散し、部分的にフィルムと反応することが考えられる。また、フィルムの内部まで不均一層が形成される理由としては、熱処理が高温でおこわれるために、フィルム内部に浸透拡散し、反応がおこったと考えられる。また原料フィルムに含まれるリン酸水素カルシウム、リン酸カルシウムとったフィラーと反応することやフィラーの抜け落ちた部分に金属を含む物質が浸透拡散し、不均一層が形成されることが推定される。このような不均一層が形成されることにより、グラファイト化過程で発生する分解ガスが不均一層から抜け出すことにより、熱処理中にフィルムが破損することを防止したと考える。また従来のグラファイト過程では、グラフェン層が面に発達し、グラフェン層が層状に剥離するが、内部に不均一層が形成されることにより、剥離を部分的に固定し、剥離を防止することが可能となる。またさらに、不均一層が形成されることにより、熱処理中にたまる歪を緩和することができると考える。
(2)また別の効果として、金属を含む物質と接触されることにより、表面部分のグラファイト化の進行を抑えることなり、黒鉛化が進行しすぎることを防ぎ、フィルム全体が均一に黒鉛化することとなると推定される。表面の黒鉛化が進行しすぎることにより、表面部分が一部はがれかけたとしても、はがれ端部は反応性が高いため、金属を含む物質が接触することにより、端部と端部が金属を介してゆるい結合状態をもち、剥がれることを抑制するものと推定する。但し、このような金属によって表面の黒鉛層が保持・維持された状態では、金属が不純物となり、熱伝導性を悪化させることも考えられる。しかし、内部のガス発生が終了、表面と内部の黒鉛化の均一化がはかられる後では、熱力学的に安定な、金属を含まない黒鉛の状態となるために、端部と端部をつなぎとめていた金属がはずれ、端部の再結合が起こり、金属は炭素の結合から外れることになると推定する。さらに、2000℃以上という黒鉛化温度は、金属を含む化合物の沸点を超えるものであり、黒鉛化過程で、金属を含む物質が気化し、最終的には不純物を含まない炭素のみからなる物質となり、熱伝導性の優れたグラファイトとなると考えられる。
【0221】
また、原料フィルムと金属を含む物質とを接触させた状態(金属、金属を含むカーボン粉末、金属を含むカーボン容器が存在する)に通電がなされると、原料フィルムに加え、金属も加熱され、拡散が起こりやすくなり、原料フィルムと均一に相互作用をおこし、フィルム全体で均一なグラファイト化が進行する。さらに、金属に通電されると、金属の反応性が高まり、原料フィルムとの反応が促進されたために、各特性に優れたグラファイトフィルムが得られたと推定する。
【0222】
本発明によるグラファイトフィルムの製造方法が従来製造方法よりも優れている理由や機構、本発明によるグラファイトフィルムが従来製造方法によるグラファイトフィルムよりも優れた特性を発現する理由や機構については、学術的詳細研究がさらに必要ではあるが、上記のとおりと、推定できる。
【0223】
<得られるグラファイトフィルムの特性>
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.0×10−4m2/s以上、好ましくは9.5×10−4m2/s以上、さらに好ましくは10.0×10−4m2/s以上であると良い。7.0×10−4m2/s以上になると、熱伝導性が高いために、発熱機器から熱を逃がしやすくなり、発熱機器の温度上昇を抑えることが可能となる。一方、9.0×10−4m2/s未満になると、熱伝導性が悪いために、発熱機器から熱を逃がすことができなくなり、発熱機器の温度上昇を抑えることができなくなる。
【0224】
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの表面硬度は、JIS K 5400に基づいて測定される鉛筆硬度の値で2B以上、好ましくはB以上、さらに好ましくはHB以上である。鉛筆硬度が2B以上では、グラファイトの取り付け時や取り扱い時に傷が入らない程度に十分な表面硬度となる。
【0225】
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの、表面の接着性は、JIS Z 0237に基づいて測定される粘着テープ・粘着シート試験方法に基づいて測定される粘着力が3N/cm以上、好ましくは4N/cm以上、さらに好ましくは5N/cm以上である。鉛筆硬度が3N/cm以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、グラファイトが本来有する放熱特性を発揮することが出来る。
【0226】
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの、表面の外観の具体的レベルは、JIS K 5400に基づいて測定されるXカットテープ法に基づいて測定される評価が6以上、好ましくは8以上である。外観が6以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、また、取り付け時の接触や装置に組み込んだ後にファンの風によって表面から黒鉛が剥がれ落ちることがなくなり、電子機器内を汚染しなくなる。
【0227】
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの厚みの具体的レベルは、50μm以上、好ましくは70μm以上、さらに好ましくは90μm以上である。また用いる原料高分子フィルムの厚みは、70μm以上、好ましくは120μm以上、さらに好ましくは150μm以上である。グラファイトフィルムの厚みが50μm以上、原料フィルムの厚みが70μm以上であれば、熱輸送量が向上し、従来よりも優れた放熱性を発現することが可能となる。
【0228】
以上のように、本発明において高分子フィルムを2000℃以上の温度で熱処理するグラファイトフィルムの製造方法であって、熱処理中に金属を含む物質と接触させることを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法とすることで、従来よりも熱伝導性、表面硬度、表面の接着性、外観に優れたグラファイトフィルムを製造することが可能となる。さらに、各特性に優れた厚みの厚いグラファイトフィルムを製造することが可能となる。
【0229】
<使用形態など>
また、使用において、発熱体、ヒートシンク、ヒートパイプ、水冷冷却装置、ペルチェ素子、筐体、ヒンジとの固定、熱拡散性、放熱性、取り扱い性を改善するために、片面および/または両面に樹脂層、セラミック層、金属層、絶縁層、導電層を形成しても良い。
【0230】
以下において、本発明の種々の実施例がいくつかの比較例と共に説明される。
【実施例】
【0231】
(ポリイミドフィルムAの作製)
4,4’−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ビロメリット酸二無水物の1当量を溶解してポリアミド酸溶液(18.5wt%)を得た。
【0232】
この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布された。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥された。
【0233】
出来上がり厚みが75μmの場合におけるフィルム作製用の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥されて、自己支持性を有するゲルフィルムにされた。そのゲルフィルムはアルミ箔から引き剥がされ、フレームに接触させられ、固定・保持された。さらに、ゲルフィルムは、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で23秒段階的に加熱されて乾燥された。
【0234】
以上のようにして、厚さ75μmのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルムA:弾性率3.1GPa、吸水率2.5%、複屈折0.10、線膨張係数3.0×10−5/℃)が製造された。なお、その他厚みのフィルムを作製する場合には、厚みに比例して焼成時間が調整された。例えば厚さ125μm、225μmのフィルムの場合には、75μmの場合よりも焼成時間を5/3倍、3倍に設定した。また、厚みか厚い場合には、ポリイミドフィルムの溶媒やイミド化触媒蒸発による発泡を防ぐために低温での焼成時間を十分とる必要がある。
【0235】
実際のグラファイト化においては、上記方法と同様にして作製された(株)カネカ製・アピカルAHの厚さ75、125、225μmのポリイミドフィルムを用いた。
【0236】
(ポリイミドフィルムBの作製方法)
ポリアミド酸に4,4’−オキシジアニリンの3当量を溶解したDMF溶液にピロメリット酸二無水物の4当量を溶解して、両末端に酸無水物を有するプレポリマが合成された後、そのプレポリマを含む溶液にp−フェニレンジアミンの1当量を溶解することによって得られたポリアミド酸を用いた以外は実施例1と同様にして厚さ75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルムB:弾性率4.1GPa、吸水率2.1%、複屈折0.14、線膨張係数1.6×10−5/℃)が製造された。
【0237】
実際のグラファイト化においては、上記方法と同様にして作製された(株)カネカ製・アピカルNPIの厚さ75、125、225μmのポリイミドフィルムを用いた。
【0238】
(ポリイミドフィルムCの作製方法)
ポリアミド酸に4,4’−オキシジアニリンの1当量,p−フェニレンジアミンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ピロメリット酸二無水物の2当量を溶解して得られたポリアミド酸を用いた以外は実施例1と同様にして厚さ75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルムC:弾性率4.9GPa、吸水率3.0%.複屈折0.14.線膨張係数1.5×10−5/℃)が製造された。
【0239】
(炭素化フィルムA、B、Cの作製方法)
ポリイミドフィルムA、B、Cを黒鉛板に挟み、電気炉を用いて窒素雰囲気下で、1000℃まて昇温された後、1000℃で1時間熱処理して炭化処理(炭素化処理)が行われた。この炭素化フィルムを炭素化フィルムA’、B’、C’とする。
【0240】
(実施例1)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を黒鉛板に挟み、黒鉛容器にセットした。原料フィルム周辺に(黒鉛容器の中に)、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)をセットした。容器には、蓋がついており、密閉できる構造になっている。この容器全体を、黒鉛化炉を用いて、2100℃以下では減圧下、2100℃以上ではアルゴン雰囲気下で3000℃まで昇温された後、3000℃で1時間熱処理し、グラファイトフィルムが作製された。本実施例のように、カーボン粉末を黒鉛容器にセットして、雰囲気加熱で熱処理する場合には、容器は密閉構造であることが好ましい。というのは、密閉していることにより、熱処理中にカーボン粉末が容器からでることがなく、カーボン粉末による炉内放電を抑えることが出来るために好ましい。
【0241】
(実施例2)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)の外部周辺を、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(A)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。
【0242】
(実施例3)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺を、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆い(容器(A)と容器(B)の間に金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺を、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0243】
なお前述した図10は、容器(B)に蓋をする前の模式図である。なお、本実施例では、容器(B)と蓋にはネジが切ってあり、蓋をすることが可能である。
【0244】
なお、以下の実施例では同様に容器(B)の蓋を使用した。但し、以下の実施例では簡単のために、容器(B)の蓋を図示しないこととする。
【0245】
(実施例4〜6)
原料フィルムに、厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムA
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムBから得られた炭素化フィルムB’、厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムCから得られた炭素化フィルムC’を用いた以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムが作製された。
【0246】
(実施例7)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を、鉄を0.1wt%含む黒鉛板で上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な鉄を0.1wt%含む黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。容器(A)が角型容器で蓋の付いた密閉構造になっている。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺をカーボン粉末(コークス)で覆い(容器(A)と容器(B)の間にカーボン粉末(コークス)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0247】
(実施例8)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を、鉄を0.1wt%含む黒鉛板で上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な鉄を0.1wt%含む黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。容器(A)が角型容器で蓋の付いた密閉構造になっている。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆い(容器(A)と容器(B)の間に金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0248】
(実施例9)
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムに硝酸鉄の1wt%メタノール溶液、225μmのポリイミドフィルムに硝酸鉄の2wt%メタノール溶液を塗布した後、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺をカーボン粉末(コークス)で覆い(容器(A)と容器(B)の間にカーボン粉末(コークス)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0249】
(実施例10)
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムに硝酸鉄の1wt%メタノール溶液、225μmのポリイミドフィルムに硝酸鉄の2wt%メタノール溶液を塗布した後、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆い(容器(A)と容器(B)の間に金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0250】
(実施例11)
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムに塩化コバルトの0.5wt%エタノール溶液、225μmのポリイミドフィルムに塩化コバルトの1wt%エタノール溶液を塗布した後、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺を、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆い(容器(A)と容器(B)の間に金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0251】
(比較例1、2)
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムから得られた炭素化フィルムA’、B’を黒鉛板に挟み、黒鉛化炉を用いて2100℃以下では減圧下、2100℃以上ではアルゴン雰囲気下で3000℃まで昇温された後、3000℃で1時間熱処理して黒鉛化処理がおこなわれ、グラファイトフィルムが作製された。
【0252】
実施例1〜11、比較例1〜2で得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、鉛筆硬度(表面硬度を示す値)、密度、表面の密着性(表面の接着性を示す値)、外観が表1に示されている。原料厚みとは、炭素化する前の高分子フィルムの厚みである。
【0253】
【表1】
グラファイトフィルムの熱拡散率は、4mm×40mmのグラファイトフィルムを光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な「LaserPit」)を用いて、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定された。グラファイト化の進行状況は、フィルム面方向の熱拡散率を測定することによって判定され、熱拡散率が大きいほど、グラファイト化が顕著であることを意味している。
【0254】
グラファイトフィルムの鉛筆硬度は、JIS K 5400(1990年)(JIS K 5600(1999年))「塗料一般試験方法」の8.4.1 試験機法に準じて、評価された。評価値は2B、B、HB、Hといった鉛筆硬度で示され、この順で、表面硬度が高くなり、グラファイトの表面硬度が高いことを意味している。
【0255】
グラファイトフィルムの密度は、グラファイトフィルムの重量(g)をグラファイトフィルムの縦、横、厚みの積で算出した体積(cm3)の割り算により算出された。なお、グラファイトフィルムの厚みは、任意の10点で測定した平均値を使用した。密度が高いほど、グラファイト化が顕著であることを意味している。
【0256】
グラファイトフィルムのピール強度は、JIS Z 0237(1980年)「粘着テープ・粘着シート試験方法」に準じて、評価した。値が大さいほど、表面の接着剤や粘着剤に対する接着性が高いことを意味している。
【0257】
グラファイトフィルムの外観は、JIS K 5400(1990年)(JIS K 5600(1999年))「塗料一般試験方法」の8.5.3 Xカットテープ法に準じて、評価した。値は0〜10の範囲で示され、値が大きいほど、表面の剥がれが少なく、外観の綺麗なグラファイトであることを意味している。
【0258】
実施例1〜11で得られたグラファイトフィルムはいずれの水準も、熱拡散率9.0×10−4m2/s以上、鉛事硬度はHB以上、密度2.06g/cm3以上、ビール強度5.2N/cm以上、外観8以上で、熱伝導性、表面硬度、表面の接着性、外観に優れたものであった。原料厚みが薄くなるほど、高い傾向にあるものの、最も厚みの厚い例(225μm)でも熱拡散率は9.0×10−4m2/sを有しており、厚みが厚くなっても十分グラファイト化が進行していた。
【0259】
一方、比較例1〜2で得られたグラファイトフィルムは、熟拡散率が高い水準のものもあるものの8.0×10−4m2/s未満、鉛筆硬度は5B以下、密度1.9g/cm3未満、ビール強度1N/cm未満、外観0であったため、熱伝導性、表面硬度、表面の接着性、外観の全てにおいて優れたものは無かった。
【0260】
原料フィルムとして、ポリイミドフィルムAを炭素化したフィルムを用いた実施例1〜3、7〜11の結果を比較すると、実施例1、実施例9、実施例7、実施例2、実施例3、実施例10、実施例11、実施例8の順に各特性が改善されていた。実施例1以外が、実施例1よりも優れていた理由は、加熱方法として、通電加熱を用いていたことが挙げられる。通電加熱の場合、雰囲気加熱に比べて、ガスの対流が少なく、熱処理中に金属が拡散することなく、原料フィルムと十分相互作用でき、各特性で品質の優れたグラファイトフィルムが得られたと推定する。また、通電加熱を用いると、炭素化の度合いに応じて原料フィルム内にも通電され、該原料フィルム自身が発熱する。結果、原料フィルムそのものの発熱が寄与し、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができたと推定する。さらに、原料フィルムおよび/または金属の反応活性が高まり、原料フィルムと金属との相互作用が高まり、各特性で品質の優れたグラファイトフィルムが得られたと推定する。さらに、125μmや225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部が同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルム破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができたと考える。
【0261】
一方、比較例1で得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、ポリイミドフィルムAの厚みが厚くなるに従い低下し、最も厚みが厚い225μmのポリイミドフィルムを出発原料に用いたものでは、熱処理後フィルムが破損していた。比較例1では加熱を不活性ガス雰囲気及び減圧下で行っているため、ヒーターと接触している部分や雰囲気ガスの熱伝導、ヒーターからの輻射熱によって原料フィルムの表面からおこなわれ、フィルムの内部と表面で不均一に黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下したと考えられる。特に、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊したと考えられる。
【0262】
実施例9、実施例7、実施例2、実施例3では、この順で各特性が改善されていた。実施例3が最も優れていた理由は、実施例3では、原料フィルムが容器(A)と容器(B)で二重に保持されており、容器(A)と容器(B)の間および容器(B)の周辺に金属を含むカーボン粉末が配置されている。容器が二重になっているため、金属が容器内部で均一に拡散し、また閉じられた容器に保持されているため、金属が原料フィルムと十分相互作用を起こしたためと推定する。実施例が2番目に優れていた理由は、容器(A)の周辺に金属を含むカーボン粉末が配置されており、通電加熱により、金属が容器内部に拡散し、金属が原料フィルムと十分相互作用を起こしたためと推定する。次に、実施例7が優れていた理由は、容器(A)そのものに金属が含まれており、通電加熱により、金属が容器内部に拡散し、金属が原料フィルムと十分相互作用を起こしたためと推定する。
【0263】
「実施例10、実施例11、実施例8」が「実施例1、実施例9、実施例7、実施例2、実施例3」より優れていた理由は、実施例8では、容器が金属を含み、容器(A)(B)周辺に金属を含むカーボン粉末が存在しているため、原料フィルムとの相互作用が高まり、実施例10、11では、金属を含む物質を原料フィルムに塗布し、容器(A)(B)周辺に金属を含むカーボン粉末が存在しているため、原料フィルムとの相互作用が高まり、各特性に優れるグラファイトフィルムが得られたと推定する。
【0264】
実施例3と実施例4を比較すると、実施例2の方が各特性に優れるものであった。実施例3では原料フィルムに炭素化したフィルムを用いているのに対し、実施例4では原料フィルムにポリイミドフィルムを用いている違いが有る。この結果から、金属を含むカーボン粉末を存在させる場合、高分子フィルムよりも炭素化したフィルムを用いた方が特性に優れたグラファイトフィルムを得られることが分かる。炭素化したフィルムを用いることで、余分な金属との副反応を抑えることができたと推定する。
【0265】
実施例3、実施例5、実施例6を比較すると、実施例3、実施例6、実施例5の順で各特性が優れていた。実施例5と6が実施例3よりも優れていた理由は、実施例6と5が実施例3よりも複屈折、弾性率の高いまた線膨張係数の小さい原料を用いており、黒鉛化中の分子の再配列を容易にしたものと考える。また、実施例5が実施例6よりも優れていた理由としては、出発原料がシーケンスコントロールされて製造されているため、黒鉛化中の分子の再配列を容易にしたものと考える。また、出発原料の炭素比率が高いために、分解ガスの発生量が少なく、スムースに黒鉛化が進行したものと考える。従来の方法では、面配向に優れたポリイミドフィルムを原料に用いると、黒鉛化後に表面剥がれする場合が多いが、本発明の方法では、剥がれが生じることなくグラファイト化が進行することが確認できた。
【0266】
実施例10と実施例11を比較すると、実施例11の方が各特性に優れるものであった。実施例11では炭素化したフィルムに塩化コバルト溶液を塗布しているのに対し、実施例10では硝酸鉄溶液を塗布しているという違いが有る。この結果から、コバルトの方が、特性改善能力に優れていることが分かる。またコバルト溶液の方が鉄溶液よりも濃度が低く、このことから、コバルト化合物の方が、特性改善効果に優れることがわかる。
【0267】
実施例では、原料高分子フィルムに厚み225μmのポリイミドフィルムを用いたものであるが、厚みが厚くなっても十分特性に優れたものが得られている。また、比較例では、フィルムが破損してしまう。このことから、厚くなる場合において、特に金属の効果の差が顕著であることが分かる。
【0268】
実施例においては、グラファイト化後に、フィルムを取り出しSEM(走査型電子顕微鏡)断面観察をすると該フィルム内部に、当初の原料フィルムには観察されなかった最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様(不均一層)が形成されたためと考える。不均一層が形成される理由としては、熱処理中に分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層や内部の破壊した部分に、金属を含む物質が浸透拡散し、部分的にフィルムと反応することが考えられる。また、フィルムの内部まで不均一層が形成される理由としては、熱処理が高温でおこわれるために、フィルム内部に浸透拡散し、反応がおこったと考えられる。また原料フィルムに含まれるリン酸水素カルシウム、リン酸カルシウムとったフィラーと反応することやフィラーの抜け落ちた部分に金属を含む物質が浸透拡散し、不均一層が形成されることが推定される。このような不均一層が形成されることにより、グラファイト化過程で発生する分解ガスが不均一層から抜け出すことにより、熱処理中にフィルムが破損することを防止したと考える。また従来のグラファイト過程では、グラフェン層が面に発達し、グラフェン層が層状に剥離するが、内部に不均一層が形成されることにより、剥離を部分的に固定し、剥離を防止することが可能となる。またさらに、不均一層が形成されることにより、熱処理中にたまる歪を緩和することができると考える。
【0269】
図25は、実施例3のグラファイトフィルムを前処理することなく直接STM(走査型トンネル顕微鏡)で観察した表面STM像である。図25の上部が、縦5nm×横5nmの範囲でのSTM像である。図25の下部が、STM像上の深さ方向の指標を色の濃淡で表した指標(濃い部分が0.00nm、薄い部分が0.77nm)である。図25によると、グラファイトフィルムの表面に規則的な炭素原子像が確認されており、表面までグラファイト層が完全に形成されていることが分かる。フィルムの任意の場所で、同様な規則正しい炭素の層が形成されており、表面全体で、グラファイト層が形成され、強固な結合が形成されているために優れた熱伝導性を有するものと考える。また、炭素原子層が規則正しく形成され、強固な結合を形成されることで、表面硬度に優れたグラファイトになっていると考える。またさらに、ナノスケールで不純物のない綺麗な表面構造をしており、その結果、優れた表面の接着性が発現し、きれいな外観を呈していると考える。また、その他実施例についても同様の表面状態をSTMで確認することが出来ており、同様に優れた品質を示していた。
【符号の説明】
【0270】
1 ポリイミドフィルム
2 くさび形シート
3 くさび形シートの幅
4 ナトリウム光
5 干渉縞
11 原料フィルムを接触して保持するための、平滑な通電可能な平板
12 容器(A)
13 原料フィルムを接触して保持した容器(A)
21 円筒の容器(B)
22 角筒の容器(B)
23 蓋
31 容器(A)と容器(B)の間に充填された、カーボン粉末
32 容器(B)の外部周辺に充填された、カーボン粉末
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムおよびグラファイトフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得る方法として、ポリオキサジアゾール、ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、またはポリアミド等の高分子フィルムをアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下や減圧下で熱処理する高分子熱分解法(特許文献1、2)が知られている。(特許文献1)の方法で得られるグラファイトは、非常に高い熱伝導性を有するため、電子機器の放熱部材として使用されている。具体的な使用例としては、<1>CPUと冷却ファンやヒートシンクの間に挟む放熱スペーサや<2>DVD光ピックアップ部分や筐体部分に貼り熱を拡散させる放熱スプレッダ等が挙げられる。
【0003】
また、電気伝導性、熱伝導性には劣るものの、軸受け、シール、るつぼ、発熱体等に用いられる黒鉛を大量かつ大容積で生産性良く製造する方法として、コークスなどの炭素原料粉とタールピッチなどの粘結材からなる混練物を焼成した後、この焼成体を通電加熱して黒鉛とする方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
しかし、従来の高分子フィルムを不活性雰囲気下や減圧下で加熱して得たグラファイト(特許文献1、2)では、熱伝導性が十分でなく、近年発熱量が急増している電子機器の放熱材料としては十分ではなかった。というのは、従来の不活性雰囲気下や減圧下での加熱法(特許文献1、2)では、加熱は、ヒーターと接触している部分からの熱伝導やヒーターからの輻射熱によっておこなわれる。しかし、このような加熱では、原料フィルムへの熱処理が不均一となるために、黒鉛化も不均一に進行し、熱伝導性が低下した。
【0005】
また、放熱性をあげるために、グラファイトの厚みを厚くして熱輸送量を増やすことも考えられるが、従来の高分子熱分解法(特許文献1、2)では、フィルムが破損しやすかった。これは、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊した。また破損しない場合であったとしても、フィルムが薄い場合に比べると内部の黒鉛化は十分進行せず、熱伝導性は非常に劣るものとなった。これは、不活性雰囲気下や減圧下による高分子熱分解法では、加熱が原料フィルムの表面から起こり、フィルムの内部と表面では不均一な黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下したためである。
【0006】
実際に発熱部品にグラファイトを取り付ける際、接着剤や粘着剤を用いて取り付ける必要があるが、(特許文献1)の方法で得られるグラファイトは表面から黒鉛がはがれやすく発泡状態であり、密着力が悪化して、取り付けることができなかったり、密着力が悪いために十分な放熱能力を発揮することが出来なくなったりした。
【0007】
また、グラファイトを電子機器に取り付ける場合、(特許文献1)の方法で得られるグラファイトは表面の硬度が低く、取り付け時や取り扱い時に表面に傷が入り、傷の入った部分から、黒鉛がはがれ、機器内部を汚染したり、十分な放熱能力を発揮することが出来なくなったりした。
【0008】
特に、原料フィルムの厚みが厚くなるほど、この表面からの黒鉛はがれが起こりやすく発泡状態であるため、表面硬度も低下した。さらに熱拡散率も悪化し、強度が弱くなり破損しやすくなった。その一方で放熱性を上げるためには、厚手のグラファイトフィルムが必要とされ、熱伝導性の改善と原料に厚みの厚い高分子フィルムを用いることは、相反する課題であった。
【0009】
また特に、原料フィルムの面配向の高くなる場合においては、表面から黒鉛剥がれが多くなる場合があり、使用環境を汚染する可能性があった。
【0010】
また、炭素原料粉と粘結材から得られる焼成体を通電加熱して黒鉛化する方法(特許文献3)が知られている。しかし、従来の方法では、原料に焼成体を用いており、焼成体の導電性が不均一であるために、焼成体に流れる電流に偏りが生じ、局所的な温度上昇を起こし、黒鉛化が不均一に起こり、亀裂が入って破損しやすかった。その結果従来の方法で得たグラファイトの熱伝導性、電気伝導性は、高分子フィルムを熱処理して得られるグラファイトフィルムに比べて非常に劣るものであった。
【0011】
また特に、複数の焼成体を得る場合には、加熱中の位置ずれにより特性悪化が起こりやすく、これを防止するために、焼成体を接着剤で接着後、通電加熱する方法が提案されているが、亀裂は入らないグラファイトは得られるものの、熱伝導性、電気伝導性に非常に劣るものであった。
【0012】
また、複数枚のフィルム状のグラファイトを得る場合に、原料フィルムを接着剤で固定する方法を適用すると、接着剤が出来上がり品の品質低下を引き起こすために好ましくなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭60−181129号公報
【特許文献2】特開平61−275116号公報
【特許文献3】特開平5−78111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上のような従来の改善必要点に鑑み、
<1>発熱部品からの熱を速やかに移動させることができる十分な熱伝導性と、
<2>グラファイトの取り付け時や取り扱い時に表面に傷が入らない程度に十分な表面硬度と、
<3>グラファイトと発熱部品との接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、はがれることのなくグラファイトが本来有する放熱特性を発揮できるほどに十分な表面の接着性と、
<4>表面からの黒鉛はがれにより電子機器内を汚染しないほどに十分な外観と、
<5>より高い放熱性を発揮できる十分な厚さと
を有するグラファイトフィルムを提供することを課題・目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明の第1は、
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、該原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在していることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0016】
(2)本発明の第2は、
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、該原料フィルムおよび/または該容器(A)の周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在していることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0017】
(3)本発明の第3は、
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、該容器(A)が金属を含む容器であることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0018】
(4)本発明の第4は、
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0019】
(5)本発明の第5は、
前記原料フィルムおよび/または前記容器(A)の周辺に、カーボン粉末が存在していることを特徴とする、(3)〜(4)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0020】
(6)本発明の第6は、
前記通電可能な容器(A)が、通電可能な容器(B)内に保持されていることを特徴とする、(2)〜(5)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0021】
(7)本発明の第7は、
前記容器(A)と前記容器(B)の間および/または前記容器(B)の周辺に、カーボン粉末が存在していることを特徴とする、(6)に記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0022】
(8)本発明の第8は、
前記カーボン粉末が、金属を含むカーボン粉末であることを特徴とする、(5)、(7)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0023】
(9)本発明の第9は、
前記カーボン粉末が、コークスであることを特徴とする、(1)、(5)〜(8)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0024】
(10)本発明の第10は、
前記容器(A)および/または容器前記(B)が、密閉できる容器であることを特徴とする(2)〜(9)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0025】
(11)本発明の第11は、
前記容器(A)および/または容器前記(B)が、黒鉛製容器であることを特徴とする、(2)〜(10)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0026】
(12)本発明の第12は、
前記高分子フィルムが、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾールのうちから選ばれた少なくとも一種類以上の高分子からなることを特徴とする、(1)〜(11)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0027】
(13)本発明の第13は、
前記高分子フィルムが、複屈折0.08以上のポリイミドフィルムであることを特徴とする、(12)に記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0028】
(14)本発明の第14は、
前記高分子フィルムが、複屈折0.12以上のポリイミドフィルムであることを特徴とする、(12)に記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0029】
(15)本発明の第15は、
前記原料フィルムが炭素化した高分子フィルムであることを特徴とする、(1)〜(14)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0030】
(16)本発明の第16は、
前記金属が、IUPAC(国際純正・応用化学連合)無機化学命名法改訂版(1989年)による族番号4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、セレン、錫、鉛、およびビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする(1)〜(15)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0031】
(17)本発明の第17は、
前記金属が、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、および水銀からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする(1)〜(15)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0032】
(18)本発明の第18は、
前記金属が、鉄、コバルトの少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする(1)〜(14)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法、
である。
【0033】
(19)本発明の第19は、
グラファイトフィルムの表面に規則的な炭素原子の格子像が、STM(走査型トンネル顕微鏡)を用いて確認されることを特徴とするグラファイトフィルム、
である。
【0034】
(20)本発明の第20は、
(1)〜(18)のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とする、グラファイトフィルム、
である。
【0035】
(21)本発明の第21は、
(1)〜(18)のいずれかに記載の製造方法で製造されるグラファイトフィルムであって、面方向の熱拡散率が9×10−4m2/s以上、であることを特徴とする、グラファイトフィルム、
である。
【0036】
(22)本発明の第22は、
(1)〜(18)のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とする、グラファイトフィルムであって、グラファイトフィルムの表面に規則的な炭素原子の格子像が、STM(走査型トンネル顕微鏡)を用いて確認されることを特徴とするグラファイトフィルム、
である。
【発明の効果】
【0037】
従来技術では、熱伝導性、表面硬度、表面の接着性、外観に優れたグラファイトフィルムを得ることは困難な課題であり、特にこれらを兼ね備えた厚みの厚いグラファイトフィルムを得ることは非常に困難な課題であった。また、従来技術である炭素原料粉と粘結材から得られる焼成体を通電加熱して黒鉛化する方法では、焼成体の電気伝導性に偏りがあるため、通電加熱時に加熱の偏りが生じ、品質の高いグラファイトを得ることができなかった。
【0038】
一方、本発明による、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、以下の3つの方法、具体的には、
「(1)周辺に金属を含むカーボン粉末が存在している状態でグラファイト化する。特に、グラファイト化を通電加熱でおこなう。
(2)グラファイト化を通電加熱でおこない、原料フィルムを接触して保持する容器が、金属を含む。
(3)グラファイト化を通電加熱でおこない、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させる。」
ことにより、上記課題を解決することができた。
【0039】
従来の金属を含む物質と接触させない場合には、分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層の破壊や表層の部分的な黒鉛化による黒鉛脱離が生じた。特に、原料フィルムが厚くなり、高分子フィルムに面配向性が高くなると、より悪化した。
【0040】
一方、本発明の金属を含む物質をフィルムに接触させて熱処理する場合には、熱処理中に金属を含む物質が原料フィルムと相互作用し、該フィルムの表面および/または内部で不均一層が形成される。この不均一層を介して、分解ガスが抜け出すことにより、熱処理中の破損を防止したと考える。また従来は、グラフェン層が面に発達し層状に剥離するが、不均一層が、剥離を固定し、剥離を防止する推定する。またさらに、熱処理中にたまる歪を緩和することができると考える。また別の効果として、金属を含む物質と接触されることにより、表面部分のグラファイト化の進行を抑えることとなり、黒鉛化が進行しすぎることを防ぎ、フィルム全体が均一に黒鉛化することとなると推定される。また、表面部分が一部はがれかけたとしても、金属を含む物質が接触することにより、剥がれることを抑制するものと推定する。
【0041】
特に、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在する方法では、熱処理中にガスの対流が少なく、上述の金属と原料フィルムとの相互作用が十分起こり、各特性に優れたグラファイトフィルムが得る上で好ましい。また、少量の金属存在下で、十分な金属の効果が得られる点でも好ましい。また、カーボン粉末に金属が含まれており、熱処理温度が高くなるに従い、金属が拡散し、順次原料フィルムと相互作用を起こす。したがって、原料フィルムと金属が均一に相互作用を起こし、フィルム全体で均一なグラファイト化が進行する。
【0042】
本発明の熱処理方法としては、従来の雰囲気加熱や減圧下での加熱ではなく、通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する工程であるとよい。本方法を用いると、原料フィルム、金属、カーボン粉末、金属を含むカーボン粉末、容器、金属を含む容器等に通電される。原料フィルムに通電がなされると、原料フィルムに炭素化の進行による電気抵抗の低減に伴って電流が流れ、ジュール熱により原料フィルムそのもののが発熱し、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも通電可能な容器によって十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。また、金属、金属を含むカーボン粉末、金属を含むカーボン容器が存在する状態で通電がなされると、原料フィルムに加え、金属も加熱され、拡散が起こりやすくなり、原料フィルムと均一に相互作用をおこし、フィルム全体で均一なグラファイト化が進行する。さらに、金属の反応性が高まり、原料フィルムとの反応が促進されたために、各特性に優れたグラファイトフィルムが得られたと推定する。
【0043】
225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部がほぼ同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルムの破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0044】
また、特にポリイミドフィルム、中でも、本発明の作製方法および/または特定の複屈折を持つ高分子フィルムに用いることにより、従来よりも各特性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0045】
さらに、本発明では、原料フィルムを接触して保持した通電可能な容器(A)の複数個を、通電可能な容器(B)内に保持し、全体を通電することで、それぞれの用いた該容器(A)間で、品質のバラツキが少ないグラファイトフィルムを得ることができる。
【0046】
以上のような理由により、
<1>発熱部品からの熱を速やかに移動させることができる十分な熱伝導性、
<2>グラファイトの取り付け時や取り扱い時に表面に傷が入らない程度に十分な表面硬度、
<3>グラファイトと発熱部品との接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、はがれることのなくグラファイトが本来有する放熱特性を発揮できるほどに十分な表面の接着性、
<4>表面からの黒鉛はがれにより電子機器内を汚染しないほどに十分な外観
<5>より高い放熱性を発揮できる十分な厚さ
を有するグラファイトフィルムを得ることができる。
【0047】
各特性の具体的な内容は、以下のとおりである。
【0048】
1.グラファイトフィルムの、熱伝導性は、熱拡散率が9.0×10−4m2/s以上、好ましくは9.5×10−4m2/s、さらに好ましくは10.0×10−4m2/s以上である。熱拡散率が9.0×10−4m2/s以上であると、発熱部品からの熱を十分拡散できる。
【0049】
2.グラファイトフィルムの、表面硬度の具体的レベルは、JIS K 5400に基づいて測定される鉛筆硬度の値が2B以上、好ましくはB以上、さらに好ましくはHB以上である。鉛筆硬度が2B以上では、グラファイトの取り付け時や取り扱い時に傷が入らない程度に十分な表面硬度となる。
【0050】
3.グラファイトフィルムの、表面の接着性は、JIS Z 0237に基づいて測定される粘着テープ・粘着シート試験方法に基づいて測定される粘着力が3N/cm以上、好ましくは4N/cm以上、さらに好ましくは5N/cm以上である。鉛筆硬度が3N/cm以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、グラファイトが本来有する放熱特性を発揮することが出来る。
【0051】
4.グラファイトフィルムの、表面の外観は、JIS K 5400に基づいて測定されるXカットテープ法に基づいて測定される評価が6以上、好ましくは8以上である。外観が6以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、また、取り付け時の接触や装置に組み込んだ後にファンの風によって表面から黒鉛が剥がれ落ちることがなくなり、電子機器内を汚染しなくなる。
【0052】
5.グラファイトフィルムの厚みは、50μm以上、好ましくは70μm以上、さらに好ましくは90μm以上である。また用いる原料高分子フィルムの厚みは、70μm以上、好ましくは120μm以上、さらに好ましくは150μm以上である。グラファイトフィルムの厚みが50μm以上、原料フィルムの厚みが70μm以上であれば、熱輸送量が向上し、従来よりも優れた放熱性を発現することが可能となる。
【0053】
原料に面配向の高い高分子フィルムを用い、この原料を金属と接触させて、さらに、通電加熱によりグラファイト化することで、従来の技術では改善の余地のあった表面からの黒鉛剥がれという問題を改善するだけにとどまらず、熱伝導性にも優れ、表面硬度、密度、表面の密着性に優れたグラファイトを得ることが可能となる。面配向の高い高分子フィルムと、金属と接触させて熱処理することとを組み合わせることで、従来の技術では予見できない効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】容器(A)の容器(B)への保持方法。
【図2】容器(A)の容器(B)への保持方法。
【図3】容器(A)の容器(B)への保持方法。
【図4】容器(A)と容器(B)への通電方法。
【図5】容器(A)と容器(B)への通電方法。
【図6】ポリイミドフィルム及びくさび形シート。
【図7】くさび形シートの斜視図。
【図8】原料フィルムの容器(A)への保持方法。
【図9】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図。
【図10】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図(図9の容器(B)には実際には蓋を付けることを示す図)。
【図11】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図12】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は接触。
【図13】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は接触。
【図14】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、45度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図15】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図16】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図17】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図18】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、0度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図19】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図20】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図21】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図22】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、0度。容器(A)と容器(B)は非接触。
【図23】容器(A)の容器(B)への保持方法の模式図
【図24】容器(A)、容器(B)の保持方法および原料フィルムの面方向と通電方向の関係。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角が、90度。容器(B)と容器(A)は非接触。
【図25】本発明のグラファイトフィルムの表面STM(走査型トンネル顕微鏡)像。上部が、縦5nm×横5nmの範囲でのSTM像である。下部が、STM像上の深さ方向の指標を色の濃淡で表した指標(濃い部分が0.00nm、薄い部分が0.77nm)である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明のグラファイトフィルムの第一の製造方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、該原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在していることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、である。特に、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、該原料フィルムおよび/または該容器(A)の周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在しているとよい。
【0056】
本発明のグラファイトフィルムの第二の製造方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、該容器が金属含む容器であることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、である。
【0057】
本発明のグラファイトフィルムの第三の製造方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法、である。
【0058】
<グラファイトフィルム>
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムは、熱伝導性、電気伝導性が高いために、例えば、サーバー、サーバー用パソコン、デスクトップパソコン等の電子機器、ノートパソコン、電子辞書、PDA、携帯電話、ポータブル音楽プレイヤー等の携帯電子機器、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、LED、有機EL、無機EL、液晶プロジェクタ、時計等の表示機器、インクジェットプリンタ(インクヘッド)、電子写真装置(現像装置、定着装置、ヒートローラ、ヒートベルト)等の画像形成装置、半導体素子、半導体パッケージ、半導体封止ケース、半導体ダイボンディング、CPU、メモリ、パワートランジスタ、パワートランジスタケース等の半導体関連部品、リジッド配線板、フレキシブル配線板、セラミック配線板、ビルドアップ配線板、多層基板等の配線基板(以上左記の配線板とは、プリント配線板なども含む)、真空処理装置、半導体製造装置、表示機器製造装置等の製造装置、断熱材、真空断熱材、輻射断熱材等の断熱装置、DVD(光ピックアップ、レーザー発生装置、レーザー受光装置)、ハードディスクドライブ等のデータ記録機器、カメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、顕微鏡、CCD等の画像記録装置、充電装置、リチウムイオン電池、燃料電池等のバッテリー機器等の放熱材料、放熱部品、冷却部品、温度調節部品、電磁シールド部品として好適である。
【0059】
<原料フィルム>
本発明で用いることができる原料フィルムとしては、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムである。
【0060】
<高分子フィルム>
本発明に用いることができる高分子フィルムは、特に限定はされないが、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサゾール(PBBO)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフェニレンベンゾイミダゾール(PBI)、ポリフェニレンベンゾビスイミダゾール(PPBI)、ポリチアゾール(PT)が挙げられ、これらのうちから選ばれる少なくとも1種を含む耐熱芳香族性高分子フィルムであることが、最終的に得られるグラファイトの電気伝導性、熱伝導性が高くなることから好ましい。これらのフィルムは、公知の製造方法で製造すればよい。この中でもポリイミドは、原料モノマーを種々選択することによって様々な構造および特性を有するものを得ることができるために好ましい。また、ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする高分子フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため、結晶性、熱伝導性に優れたグラファイトとなりやすい。
【0061】
<炭素化した高分子フィルム>
本発明で用いられる炭素化した高分子フィルムとしては、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で予備加熱処理して得られる。この予備加熱は通常1000℃程度の温度で行い、例えば10℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で30分程度の温度保持を行うことが望ましい。
【0062】
<高分子フィルムの固定方法・保持方法>
本発明の熱処理では、容器に高分子フィルムを固定して行われてもよい。本発明のような2000℃の温度領域まで加熱されるような用途では、取り扱いの容易さや、工業的な入手の容易さ等を勘案すると、黒鉛製の容器が、特に好ましい。ここでいう黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、等方性黒鉛、押出製黒鉛、が挙げられ、電気伝導性、熱伝導性に優れ、均質性にも優れる等方性黒鉛が、繰り返し用いる場合には好ましい。容器の形状は、特に制約を受けず、単純な平板などの形状でよい。また容器は円筒状で、高分子フィルムを容器に巻きつける方法でも良い。容器の形状は、高分子フィルムを接触させることができる限りにおいて、特に制約を受けない。
【0063】
なお、黒鉛製容器内に、高分子フィルムを接触させる方法(例えば、保持する方法・固定する方法を含む)とは、例えば、高分子フィルムをグラファイト板で挟んだ上で、グラファイト板の自重以外には特には加圧しない状態で容器壁や容器底に接するように接触させる方法(保持させたり、固定させたりしてもよい)や円筒の黒鉛容器に巻きつける方法が有るが、必ずしもこれらの方法だけに制約を受けるものではない。
【0064】
<金属を含む物質を原料フィルムと接触させる方法>
本発明の第一から第三のグラファイトフィルムの製造方法における、金属を含む物質を原料フィルムと接触させる方法としては、<<1>>固体状、<<2>>液体状、<<3>>気体状の金属を含む物質と接触させることが挙げられる。
【0065】
具体的な方法としては、例えば、次のような方法(1)−(4)が好ましい。
(1)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在している方法。
(2)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを、金属を含む容器に入れる方法。
(3)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの表面に金属を含む物質を形成する方法。
(4)原料フィルム内部に金属を含む物質が存在する方法。
【0066】
以下、方法(1)−(4)について説明する。
【0067】
(1)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在している方法。
【0068】
金属を含むカーボン粉末としては、予めカーボン粉末に金属が含有しているカーボン粉末、金属を含む物質や粉末を混合・添加したカーボン粉末等が挙げられる。
【0069】
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの周辺に、金属を含むカーボン粉末が存在させる方法としては、
(a)金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムに直接接触させる方法、
(b)金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムと原料フィルムを接触して保持する容器(A)の間に存在させる方法
(c)金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムを接触して保持する容器(A)の周辺に存在させる方法
(d)金属を含むカーボン粉末を、(a)原料フィルムに直接接触させることおよび/または(b)原料フィルムと原料フィルムを接触して保持する容器の間に存在させることに加え、(c)金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムを接触して保持する容器(A)の周辺に存在させる方法
(e)原料フィルムを接触して保持する容器(A)をさらに容器(B)に保持し、金属を含むカーボン粉末を容器(B)の周辺に存在させる方法
(f)(a)〜(d)の組み合わせに、さらに金属を含むカーボン粉末を、容器(B)の周辺に存在させる方法
等が挙げられる。
【0070】
方法(a)〜(b)において、方法(b)(金属を含むカーボン粉末を原料フィルムと容器(A)の間に存在させる方法)は、方法(a)(金属を含むカーボン粉末を、原料フィルムに直接接触させる方法)より好ましい。方法(a)では、金属を含むカーボン粉末と原料フィルムとの接触が不均一になる場合があり、カーボン粉末のセット方法に注意を要する場合がある。一方(b)では、金属を含むカーボン粉末が容器内の閉じられた容器の中に存在するため、熱処理中に金属を含む物質が、容器内で拡散し、順次原料フィルムと接触することになると考えられる。また、金属を含む物質の種類によっては、気体となり、気体状で原料フィルムに接触することになる。また、金属を含むカーボン粉末にバラツキがあったとしても、金属が原料フィルムに均一に相互作用をし、各特性にバラツキのない品質に優れたグラファイトフィルムを得ることが可能となる。
【0071】
方法(a)〜(c)において、方法(c)(金属を含むカーボン粉末が原料フィルムを接触して保持する容器(A)の周辺に存在する方法)は、方法(a)と(b)(金属を含むカーボン粉末が、原料フィルムに接触もしくは近傍に存在する方法)より好ましい。方法(c)では、方法(a)と(b)と比べ、原料フィルムが容器に接触して保持されているため、カーボン粉末に含まれる酸素や窒素が、原料フィルムと反応することで、酸化劣化させにくくなり、原料フィルムの劣化を防止し、効果的に金属が原料フィルムに働くために好ましい。方法(d)は、方法(c)と同様の理由で、方法(c)と同じ品質のものが得られる。(c)の方法では、低温では金属と原料フィルムとの接触はないが、熱処理温度が高くなってはじめて、金属を含む物質と原料フィルムの十分な接触が起こる。その結果、原料に高分子フィルムを用いた場合には、熱処理温度が高くなる炭素化過程で金属を含む物質と相互作用しにくくなり、炭素化中に副反応を起こしにくくなると推定される。またさらに、(c)の方法では、熱処理温度が高くなり、金属を含む物質の拡散が高くなってはじめて、原料フィルムと金属を含む物質との接触が起こり、金属を含む物質の拡散の度合いが高いために、フィルムに表面全体に非常に均一に相互作用する。特に気体状態ではその相互作用の均一性がより高まる。その結果、非常に品質の高いグラファイトが得られる。方法(a)〜(e)において、方法(e)(原料フィルムを接触して保持する容器(A)をさらに容器(B)に保持し、金属を含むカーボン粉末を容器(B)の周辺に存在させる方法)は、方法(a)と(b)(金属を含むカーボン粉末が、原料フィルムに接触もしくは近傍に存在する方法)より好ましい。方法(e)では、方法(a)と(b)と比べ、原料フィルムが容器(A)に接触して保持され、さらに容器(B)に保持されているため、カーボン粉末に含まれる酸素や窒素が、原料フィルムと反応することで、酸化劣化させにくくなり、原料フィルムの劣化を防止し、効果的に金属が原料フィルムに働くために好ましい。方法(e)は、方法(c)と同様の効果があり、方法(e)では、方法(c)と同様の品質のグラファイトフィルムが得られる。また、方法(f)では、方法(e)と同様の理由で、方法(e)と同じ品質のものが得られる。
【0072】
(2)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを、金属を含む容器に入れる方法。
【0073】
金属を含む容器としては、予め容器に金属が含有している容器、金属を含む物質や粉末を入れておいた容器等が挙げられる。この方法では、熱処理中に金属を含む物質が、容器内で拡散し、順次原料フィルムと接触することになると考えられる。また、金属を含む物質の種類によっては、気体となり、気体状で原料フィルムに接触することになる。
【0074】
品質面では、方法(1)と同等のものが得られるが、方法(1)の方が、容器内に金属を均一に分散させるのが容易であり、品質にバラツキのないグラファイトフィルムを得るうえでは、方法(1)は、方法(2)よりも好ましいと考えられる。また、方法(2)において、品質に優れたグラファイトフィルムを得るためには、容器(A)が密閉できるものであると、熱処理中の容器内の金属が均一化され、好ましい。(2)の方法では、低温では接触が少ないが、熱処理温度が高くなってはじめて、金属を含む物質と原料フィルムの十分な接触が起こる。その結果、原料に高分子フィルムを用いた場合には、熱処理温度が高くなる炭素化過程で金属を含む物質と相互作用しにくくなり、炭素化中に副反応を起こしにくくなると推定される。またさらに、(2)の方法では、熱処理温度が高くなり、金属を含む物質の拡散が高くなってはじめて、原料フィルムと金属を含む物質との接触が起こり、金属を含む物質の拡散の度合いが高いために、フィルムに表面全体に非常に均一に相互作用する。特に気体状態ではその相互作用の均一性がより高まる。その結果、非常に品質の高いグラファイトが得られる。
【0075】
(3)高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムの表面に金属を含む物質を形成する方法。
【0076】
表面に金属を含む物質を形成する方法としては、金属を含む物質を塗布したり、蒸着したりする方法が挙げられる。この方法では、熱処理を開始する前は、原料フィルムと金属を含む物質が直接接している。熱処理中に、金属を含む物質が、直接高分子フィルムと相互作用し内部に不定形形状の模様が形成される。熱処理温度が高くなるに従い、金属を含む物質が液体状態および/または気体状態となり、さらにより活発かつ均一にフィルムと相互作用する。
【0077】
品質面では、方法(1)と(2)は、方法(3)よりも品質に優れたグラファイトフィルムが得られる。これは方法(1)と(2)が、方法(3)に比べて、原料フィルムに対して、均一に金属が接触しやすいからと考える。
【0078】
原料フィルムに、高分子フィルム、炭素化した高分子フィルムを用いた場合、原料に炭素化した高分子フィルムを用いるのが良い。高分子フィルムを用いる場合には、炭素化中に高分子フィルムと直接接するため、炭素化過程で金属を含む物質が高分子フィルムと相互作用することとなり、炭素化と同時に副反応を起こす場合が考えられる。一方炭素化した高分子フィルムを用いる場合には、原料が既に炭素化しているため、熱処理中に副反応を起こすことがなくなり、より品質の高いグラファイトが得られると推定される。
【0079】
(4)原料フィルム内部に金属を含む物質が存在する方法。
【0080】
具体的な方法としては、原料フィルムに粉末状の微粒子を添加する方法が挙げられる。但し、ポリイミドを作製する前のポリアミド酸溶液の状態に、金属を含む物質を溶かした溶液を添加する方法は好ましくない。というのは、原料フィルム全体に分子状に金属が分散すると、ポリイミドを作製する過程で、副反応が起こり、均一なポリイミドフィルムを得ることが困難となる。さらに、ポリイミドフィルムに均一に分散していると、炭素化過程の副反応がひどくなり、品質の高いグラファイトを得るのが困難となる。この方法は(1)〜(3)の方法よりも好ましくない。
【0081】
<金属を含む物質>
金属を含む物質としては、金属単体、の化合物(酸化物、窒化物、ハロゲン化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙げられるが、これに限定されるものではない)、金属塩等が挙げられる。原料フィルムに直接接触させる場合には、金属を含む物質が溶媒に溶けることよい。というのは、塗布という簡単な方法で、原料フィルムの表面に均一に金属を含む物質を接触させることが出来るからである。金属の種類としては、IUPAC(国際純正・応用化学連合)無機化学命名法改訂版(1989年)による族番号4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、セレン、錫、鉛、ビスマス、が挙げられる。中でも、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、リチウム、ベリリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウムが良く、さらに好ましくは、チタン、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケルである。好ましくは、鉄、コバルトである。これらは、熱拡散率、表面硬度、表面の接着性、外観に優れるために好ましい。また、コバルトは、量が少なくても各特性の改善効果を発現するために好ましい。
【0082】
<グラファイト化の方法>
本発明の高分子フィルムのグラファイト化は、2000℃以上の温度で熱処理し、熱処理中に金属を含む物質と接触させておこなう。
【0083】
熱処理は、高分子フィルムを炭素化させる工程と黒鉛化させる工程の二つの工程からなる。炭素化と黒鉛化は、別々に行っても良いし、連続的に行っても良い。
【0084】
炭素化は、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは窒素ガス中で予備加熱処理して炭素化を行う。この予備加熱は通常800〜1500℃の温度で行われる。また、炭化の最高温度に達した時点で30分から1時間程度、最高温度のまま温度の保持を行っても良い。例えば10℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で30分程度の温度の保持を行っても良い。昇温の段階では、出発高分子フィルムの分子配向性が失われないように、フィルムの破損が起きない程度に膜面に垂直方向に圧力を加えてもよい。
【0085】
次に、黒鉛化は、炭素化した高分子フィルムを一度取り出した後、黒鉛化用の炉に移し変えてからおこなっても良いし、炭素化から黒鉛化を連続的におこなっても良い。黒鉛化は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウムが適当である。熱処理温度としては最低でも2000℃以上が必要で、最終的には2400℃以上、より好ましくは、2600℃以上さらに好ましくは2800℃以上で熱処理することが、熱伝導性、表面硬度、密度、表面の接着性、外観に優れたグラファイトを得るためにはよい。
【0086】
熱処理温度が高いほど良質のグラファイトへの転化が可能であるが、経済性の観点からはできるだけ低温で良質のグラファイトに転化できることが好ましい。2500℃以上の超高温を得るには、通常はグラファイトヒーターに直接電流を流して、そのジュ−ル熱を利用した加熱が行なわれる。グラファイトヒーターの消耗は2700℃以上で進行し、2800℃ではその消耗速度が約10倍になり、2900℃ではさらにその約10倍になる。したがって、原材料の高分子フィルムの改善によって、良質のグラファイトへの転化が可能な温度を例えば2800℃から2700℃に下げることは大きな経済的効果を生じる。なお、一般に入手可能な工業的炉において、熱処理可能な最高温度は3000℃が限界である。高分子フィルムを一旦炭素化して取り出した後、これを黒鉛化しても、炭素化と黒鉛化を連続的におこなっても良い。
【0087】
<本発明の通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する方法>
本発明の通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを後述する「電圧を印加し直接通電可能な容器」内に、原料フィルムを接触して保持し、該通電可能な容器および原料フィルムに後述する方法で通電し、グラファイト化する工程を含むことを特徴とする。
【0088】
本発明の方法は、原料フィルムによって、大きく下記の3つに分類できる。
【0089】
後述する「電圧を印加し直接通電可能な容器」内に、
(その1)「炭素化した高分子フィルム」を接触して保持し、または、
(その2)「高分子フィルム」を予備加熱処理することで「炭素化した高分子フィルム」を得た後、その「炭素化した高分子フィルム」を接触して保持し、または、
(その3)絶縁体である「高分子フィルム」を接触して保持し、
該容器に電圧を印加し通電しながら、グラファイト化する工程を含むことを特徴とする。
【0090】
下記に、(その1)から(その3)について、具体的に説明する。
【0091】
(その1)原料に炭素化した高分子フィルムを用い、該フィルムを電圧印加による直接通電が可能な容器内に接触して保持し、該容器へ電圧印加することで通電してグラファイト化する場合、該フィルムは、発熱した容器からの直接熱伝導(1)及びフィルムの自己発熱(2)による2つの手段で加熱され、品質の優れたグラファイトフィルムとなる。詳細を説明すると以下の通りである。
【0092】
従来の通常の雰囲気及び減圧下での熱処理では、加熱は、雰囲気ガスの熱伝導及び/またはヒーターからの輻射熱によりおこなわれるため、フィルムが加熱される手段は基本的には、フィルム表面から内部への熱伝導の1つのみである。
【0093】
しかし本発明の方法では、炭素化した高分子フィルムと導電体(容器(黒鉛製容器であってもよい)及び/又はカーボン粉末)が接している部分がフィルムの一方の表面と他方の表面であるため、電圧印加により発生したジュール熱が、炭素化した高分子フィルムの一方の表面と他方の表面の両方から直ちに伝熱する。その結果、一方の表面と他方の表面の両方から、炭素化が進行する。発熱した容器からの直接熱伝導及び後述するフィルムの自己発熱による2つの手段で加熱されフィルム内部まで十分加熱され、フィルムの表層及び内部で均一に熱処理される。
【0094】
本発明では、電圧を印加し直接通電可能な容器に通電にすると、通電による発熱が生じる。
【0095】
また、出発原料に炭素化した高分子フィルムを用いた場合、容器に電圧を印加すると、該フィルムは既に炭素化しているために炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて電流が流れ、黒鉛化の進行に伴い、抵抗が低くなるために、より電流が流れ、フィルム自体が発熱する。特に、電流は表層及び内部の両方に流れるため、発熱は表層及び内部の両方で同時に進行する。その結果、均一な黒鉛化が起こる。
【0096】
さらに、電流は、炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて流れ、黒鉛化の進行に伴い、抵抗が低くなるために、フィルムに流れる電流量が増え、フィルムの発熱量が増加し、黒鉛化が進行しやすくなる。特に、部分的に発熱が大きくなったとしても、フィルムそのものが発熱しかつ黒鉛化が進行するに従い熱伝導性が高まるために、フィルム全体に熱が伝わり、フィルムは均一に加熱される。
【0097】
グラファイトになる前の炭素化した高分子フィルムは、グラファイトと比べて熱伝導性に劣る傾向が有る。そのため、従来のような通常の雰囲気及び減圧下での熱処理では加熱手段が熱伝導の1つのみであることから、内部まで熱が十分伝わりにくく、表層と内部で黒鉛化の状態に差ができやすく、表層のみ黒鉛化し、内部に黒鉛化の不十分な部分が残る傾向が有る。結果、従来の方法では、高温に熱処理した場合に、内部の不十分な部分が発泡破裂し、フィルムがボロボロになった。
【0098】
一方、本発明の方法では、電圧を印加し直接通電可能な容器そのものが電圧印加に伴い発熱しているのと同時に、炭素化・黒鉛化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて、炭素化した高分子フィルムの炭素化部分に、電流が流れ、フィルム自体が発熱する。したがって、発熱した容器からの直接熱伝導及びフィルムの自己発熱による2つの手段によって、フィルムに十分熱を供給することが可能となり、内部の熱伝導性が悪い部分にも充分熱が供給され、表層のみ黒鉛化されることなく、表層と内部が同時に黒鉛化が進行する。
【0099】
さらに、フィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。また、熱処理後のグラファイトが結晶性に非常に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトとなる。
【0100】
また金属、金属を含むカーボン粉末、金属を含むカーボン容器に通電がなされると、金属が加熱され、拡散が起こりやすくなり、原料フィルムと均一に相互作用をおこし、フィルム全体で均一なグラファイト化が進行する。さらに、金属に通電されると、金属の反応性が高まり、原料フィルムとの反応を促進すると推定される。
【0101】
(その2)また、原料フィルムとして絶縁体の高分子フィルムを用いる場合、該フィルムを、不活性ガス雰囲気下および/または減圧下で予備加熱処理して得られる、炭素化した高分子フィルムを使用できる。このようにして炭素化した高分子フィルムは、(その1)で上記記載したとおりの方法で、グラファイト化が可能である。
【0102】
(その3)また、原料フィルムとして絶縁体の高分子フィルムを用いる場合、グラファイトに至るまでの炭素化過程の最初から通電によるため、炭素化も均一に起こりやすい。また、絶縁体の高分子フィルムであっても、本発明の製造方法によれば、その絶縁体の高分子フィルムと導電体(黒鉛製容器及び/又はカーボン粉末)が接している部分がフィルムの一方の表面と他方の表面であるため、電圧印加により発生したジュール熱が、絶縁体高分子フィルムの一方の表面と他方の表面の両方から直ちに伝熱する。従って、一方の表面と他方の表面の両方から、炭素化が進行する。
【0103】
このように本発明では、絶縁体の高分子フィルムであっても、両方の表面に導電体が接しているため、電圧を印加し通電して加熱する場合、当初は、フィルムの両方の表面から炭素化が進行し、引き続き、フィルム内部の炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じてフィルム内部にも電流が流れ、また炭素化の進行に伴いフィルムに流れる電流量が増え、最終的に表面及び内部での均一な発熱が起こるため、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。またフィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。また、熱処理後のグラファイトの結晶性に非常に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトとなる。
【0104】
本発明によるグラファイトフィルムが従来製造方法によるグラファイトフィルムよりも優れた均一性を発現する理由や機構については、学術的詳細研究がさらに必要ではあるが、上記のとおり、推定できる。
【0105】
<本発明の、通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する方法における、原料フィルムを接触して保持する方法>
なお、電圧を印加し直接通電可能な容器(例えば黒鉛製容器)内に、原料フィルムを接触して保持する方法とは、例えば、原料フィルムを金属板やグラファイト板で挟んだ上で、金属板やグラファイト板の自重以外には特には加圧しない状態で容器壁や容器底に接するように保持する方法が有るが、必ずしもこれらの方法だけに制約を受けるものではない。
【0106】
<通電方法/黒鉛製容器と原料フィルムとの間および/または前記黒鉛製容器の外部周辺に、カーボン粉末が充填されている状態>について。
【0107】
本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセス、特に、通電方法について説明する。
【0108】
本発明において、電圧を印加し通電する方法としては、交流電圧および/又は直流電圧を印加し、通電することをいう。
【0109】
本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセスは、電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含むことによって行なわれる。例えば次のよう方法(1)−(4)で通電されるのが好ましい。ここでは特に、黒鉛製容器の場合について記載するが、必ずしも、黒鉛製容器にのみ制約されるものではない。
【0110】
(1)黒鉛製容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
【0111】
(2)黒鉛製容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該黒鉛製容器の外部周辺をカーボン粉末で覆い(充填し)、カーボン粉末を介して、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
【0112】
(3)黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを接触して保持し(黒鉛製容器と原料フィルムとの間に、カーボン粉末が充填されている状態で、接触して保持し)、該黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
【0113】
(4)黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを接触して保持し(黒鉛製容器と原料フィルムとの間に、カーボン粉末が充填されている状態で、接触して保持し)、さらに該黒鉛製容器をカーボン粉末で覆い(黒鉛製容器の外部周辺にカーボン粉末が充填されてい状態で)、カーボン粉末を介して、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法。
【0114】
直接通電可能な容器及び製造されたフィルムの電気伝導性から考えて、サンプルの大きさにもよるが、通電の結果、例えば原料フィルムには10mA以上の電流が流れ、ジュ−ル熱により容器および/またはフィルムが発熱する。特に、初期絶縁体で途中から導電体に変換する場合であっても、投入電力を制御することにより急激な温度上昇を防止することで、安定的に高品質のグラファイトフィルムを製造できる。
【0115】
従来の雰囲気加熱や減圧下での加熱では、加熱は、ヒーターと接触している部分や雰囲気ガスからの熱伝導、ヒーターからの輻射熱によって原料フィルムの表面からおこなわれ、フィルムの内部と表面で不均一に黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下した。特に、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊した。また破損しない場合であったとしても、フィルムが薄い場合に比べると内部の黒鉛化は十分進行せず、熱伝導性は非常に劣るものとなった。
【0116】
しかし、本発明にある電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程では、結果として原料フィルムに電圧を印加し通電して加熱するため、原料フィルムそのものの発熱が寄与する。従って、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。さらに、125μmや225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部が同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルム破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0117】
通電方法(2)である、黒鉛製容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該黒鉛製容器の外部周辺をカーボン粉末で覆い、カーボン粉末を介して、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法は、通電方法(1)である黒鉛製容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法よりも、熱伝導性が高く、特性にバラツキのない優れたグラファイトフィルムを得るうえでは、優れている。というのは、黒鉛製容器をカーボン粉末で覆うことにより、黒鉛製容器および/または原料フィルムに加わる通電および加熱が均一におこるためである。
【0118】
またさらに、通電方法(3)(4)にあるように、黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを接触して保持することも、黒鉛製容器および/または原料フィルムに加わる通電および加熱が均一になるために好ましい。
【0119】
また、通電方法(2)〜(4)のように。原料フィルムの周辺に、カーボン粉末が存在する方法では、熱処理中にガスの対流が少なく、金属を含むカーボン粉末、金属を含む容器、金属を原料フィルムに接触および/または周辺に存在させて黒鉛化する場合、金属と原料フィルムが密閉された状態で存在しており、金属と原料フィルムとの相互作用が十分起こり、各特性に優れたグラファイトフィルムが得る上で好ましい。また、少量の金属存在下で、十分な金属の効果が得られる点でも好ましい。
【0120】
通電の結果生じる熱から与えられ、原料フィルムに結果として与えられる熱処理温度としては最低でも2400℃以上が必要で、好ましくは2600℃以上、最終的には2700℃以上の温度で熱処理することが好ましく、2800℃以上で熱処理することがより好ましい。
【0121】
<本発明の、通電可能な容器(A)内に、原料フィルムを接触して保持し、さらに該容器(A)を通電可能な容器(B)内に保持し、全体に通電しながらグラファイト化する方法>
本発明の通電可能な容器内に、原料フィルムを接触して保持し、該容器に通電しながらグラファイト化する方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを後述する「電圧を印加し直接通電可能な容器」(A)内に接触して保持し、さらに該容器(A)を通電可能な容器(B)内に保持し、全体に通電しながらグラファイト化する工程を含んでもよい。
【0122】
<直接通電可能な容器(A)の直接通電可能な容器(B)内への保持方法>について
まず、本発明の第一のグラファイト化方法について述べる。容器(A)を容器(B)内に保持しないような場合、すなわち、容器を2つ使用せず1つの容器を使用して高分子フィルムまたは炭素化した高分子フィルムの直接通電によるグラファイトの製造方法では、原料フィルムを1つの直接通電可能な容器内に接触して保持して、該容器一つ一つの外部周辺にカーボン粉末で充填し、全体に通電してグラファイトフィルムを作製する。この場合、多数の該容器をそれぞれカーボン粉末で覆って通電し、グラファイトを作製した場合には、カーボン粉末の充填密度や該容器自身それぞれの電気抵抗の差に起因して、作製したグラファイトの品質が、原料フィルムを接触して保持した容器によって、品質に差が生じる場合があった。
【0123】
次に、本発明の第二のグラファイト化方法について述べる。本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセスは、電圧を印加し、直接通電可能な容器内(A)に、該原料フィルムを接触して保持し、さらに直接通電可能な容器(B)に該原料フィルムが保持されている容器(A)を保持する。例えば図1〜3のいずれかで示されている保持方法がある。ここでは、該容器(A)を直方体、該容器(B)を円筒として記載しているが、該容器(A)と該容器(B)の形状は、必ずしも、直方体と円筒に制約されるものではない。
【0124】
(1) 図1は、該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆い(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している状態)、直接通電可能な容器(B)内に、該容器(A)が該容器(B)と接触しないように保持されている状態である。この場合のカーボン粉末は、容器(B)と容器(A)を電気的に接触させるために用いる。
【0125】
(2) 図2は、該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺にカーボン粉末を覆い(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している状態)、直接通電可能な容器(B)内に、該容器(A)が該容器(B)と接触するように保持されている状態である。
【0126】
(3) 図3は、該原料フィルムが接触して保持されている直接可能な容器(A)を、直接通電可能な容器(B)に、該容器(A)が該容器(B)と接触するように保持されている状態である。図3では該容器(B)内への該容器(A)の保持にはカーボン粉末が使われていない。
【0127】
本発明では、原料フィルムを接触して保持した該容器(A)を該容器(B)内に保持することで、該容器(A)に加わる電圧および/または熱を均一化でき該容器(A)間で作製されたグラファイトの品質には、差が生じないという特徴がある。さらに、原料フィルムを接触して保持した該容器(A)の外部周辺のカーボン粉末の存在密度(充填する場合には充填密度)を均一にでき、多数の該容器(A)を用いた場合であっても、該容器(A)間で作製されたグラファイトの品質には、差が生じないという特徴がある。
【0128】
また、原料フィルムを接触して保持した該容器(A)を該容器(B)内に保持する方法では、熱処理中に容器内でガスの対流が少なく、金属を含むカーボン粉末、金属を含む容器、金属を原料フィルムに接触および/または周辺に存在させて黒鉛化する場合、金属と原料フィルムが密閉された状態で存在しており、金属と原料フィルムとの相互作用が十分起こり、各特性に優れたグラファイトフィルムが得る上で好ましい。また、少量の金属存在下で、十分な金属の効果が得られる点でも好ましい。
【0129】
該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)を直接通電可能な容器(B)内に保持し、電圧を印加し、通電する場合には、該容器(A)と該容器(B)が接触していないほうが好ましい。その理由は以下に示す通りである。
【0130】
該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは、充填している状態で、))直接通電可能な容器(B)内に該容器(A)を該容器(B)と接触しないように保持していれば、電圧を印加し通電する場合、該原料フィルムを接触して保持した該容器(A)への通電が、該容器(A)の外部周辺に存在する(好ましくは充填した)カーボン粉末を介して該容器(A)全面に均一に起きる。このために、該容器(A)には、部分的な電圧の偏りが生じず均一な通電発熱が発生し、該原料フィルムが品質のバラツキがない優れたグラファイトとなる。
【0131】
一方で、該容器(A)と該容器(B)が接触している状態で、電圧を印加し通電すると、該容器(A)と該容器(B)が接触している部分からのみ該容器(A)への通電が起こるために、該容器(A)には均一な通電発熱の発生が達成されず、該原料フィルムのグラファイト化の均一性が(1)の場合より不充分なものとなる。
【0132】
該原料フィルムが接触して保持されている直接通電可能な容器(A)の外部周辺にカーボン粉末を覆い(容器(A)の外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填している)状態)、直接通電可能な容器(B)内に、該容器(A)が該容器(B)と接触するように保持されている状態では、該容器(A)への通電が、該容器(B)と接触している部分と、該容器(A)の外部周辺を覆っているカーボン粉末から2つの経路で通電が起きるが、該容器(B)とカーボン粉末とでは電気抵抗が異なるために、電気抵抗が低いほうから通電が起き、該容器(A)の通電発熱の均一性が(2)の場合より不充分なものとなる。
【0133】
従って、該容器(B)への該容器(A)の保持方法として、一番好ましいのは、前記(1)であり、次に(2)、次に(3)である。
【0134】
また、図1〜3のいずれかの保持状態に加えて、さらに、原料フィルムの周辺をカーボン粉末で覆っている状態(該容器(A)と原料フィルムとの間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態)、または、該容器(B)の外部周辺にカーボン粉末が覆っている状態(該容器(B)の外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態)であっても良い。
【0135】
<該原料フィルムを接触して保持した直接通電可能な容器(A)に通電する方法>
本発明の原料フィルムのグラファイト化プロセス、特に、通電方法について説明する。本発明において、電圧を印加し通電する方法としては、交流電圧および/又は直流電圧を印加し、通電することをいう。
【0136】
該原料フィルムを接触して保持した直接通電可能な容器(A)/原料フィルムへの通電方法は、例えば次のような方法(1)と(2)がある。ここでは特に、黒鉛製容器の場合について記載するが、必ずしも、黒鉛製容器にのみ制約されるものではない。また、該容器(A)を直方体、該容器(B)を円筒として記載しているが、該容器(A)と該容器(B)の形状は、必ずしも、直方体と円筒に制約されるものではない。
【0137】
(1)図4に示すような該容器(A)の保持方法であり、黒鉛製容器(B)内に外部周辺をカーボン粉末で覆った黒鉛製容器(A)を黒鉛製容器(B)と接触しないように保持し(該容器(A)と該容器(B)の間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態で、保持し)、直接、黒鉛製容器(B)に電圧を印加し、黒鉛製容器(B)およびカーボン粉末を介して、黒鉛容器(A)/または原料フィルムに通電する方法。
【0138】
(2)図5に示すような保持方法であり、黒鉛製容器(B)内に黒鉛製容器(A)を黒鉛製容器(B)と接触しないように黒鉛製容器(A)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で保持し(該容器(A)と該容器(B)の間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態で、保持し)、さらには、黒鉛製容器(B)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で、(黒鉛製容器Bの外部周辺にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態で、)該容器(B)の外部周辺に存在している(このましくは充填されている)カーボン粉末に電圧を印加し、該容器(B)を覆っているカーボン粉末、黒鉛製容器(B)、そして該容器Aと該容器Bの間のカーボン粉末を介して、黒鉛容器(A)/または原料フィルムに通電する方法。
【0139】
図5に示す保持方法は、図4に示す保持方法よりも、熱伝導性が高く、特性にバラツキのない優れたグラファイトフィルムを得るうえでは、優れている。というのは、黒鉛製容器(B)をカーボン粉末で覆うことにより、黒鉛製容器および/または原料フィルムに加わる通電および加熱が均一におこるためである。
【0140】
(1)〜(2)のいずれかに記載した、該容器(A)/原料フィルムへの通電方法に加えて、原料フィルムの周辺をカーボン粉末で覆っている状態(該容器(A)と原料フィルムとの間にカーボン粉末が存在している(好ましくは充填されている)状態)、または、該容器(A)と該容器(B)が接触している状態であっても良いことは、いうまでもない。
【0141】
従来の雰囲気加熱や減圧下での加熱では、加熱は、ヒーターと接触している部分や雰囲気ガスからの熱伝導、ヒーターからの輻射熱によって原料フィルムの表面からおこなわれ、フィルムの内部と表面で不均一に黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下した。特に、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊した。また破損しない場合であったとしても、フィルムが薄い場合に比べると内部の黒鉛化は十分進行せず、熱伝導性は非常に劣るものとなった。
【0142】
しかし、本発明にある電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程では、結果として原料フィルムに電圧を印加し通電して加熱するため、原料フィルムそのものの発熱が寄与する。従って、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。さらに、125μmや225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部が同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルム破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0143】
通電の結果生じる熱から与えられ、原料フィルムに結果として与えられる熱処理温度としては最低でも2400℃以上が必要で、好ましくは2600℃以上、最終的には2700℃以上の温度で熱処理することが好ましく、2800℃以上で熱処理することがより好ましい。
【0144】
なお、本発明で記載の温度は、例えば直接通電可能な容器の外壁や内部の一部などにおいて、放射温度計などを使用して計測することができる。
【0145】
なお、本明細書で使う「熱処理」という言葉は、下記のような広義の意味で用いる。従来技術の場合は、概ね、「熱処理」とは、減圧下での加熱や、ガス雰囲気での加熱を指す。一方で、本発明の特徴である通電についても、通電の結果生じる熱が原料フィルムに伝わることを「熱処理」と概括的に表現している場合が有る。従来技術との対比で説明する場合に、従来の減圧下での加熱や、ガス雰囲気での加熱、通電の結果生じる熱が原料フィルムに伝わる場合を、区別なく説明する際に、特に注釈を付けずに複数の原理が有りうる「熱処理」という表現をすることが有る。
【0146】
<通電方向と原料フィルムの法線との成す角度>について
本発明では、通電方向と該原料フィルムの位置関係は、原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの法線との、成す角度が0度より大きく180度未満であればよい。ここでいう、成す角度とは、通電における正極から負極への通電方向を直線で表した場合の、原料フィルムの面方向に対する法線との成す角度を意味する。
【0147】
原料フィルムの面方向に対する法線と、通電方向を示す直線との、成す角は、好ましくは60度以上120度以下、さらに好ましくは75度以上105度以下、最も好ましくは90度である。
【0148】
原料フィルムへの通電方向と原料フィルムの法線の成す角と90度がもっとも好ましい理由としては、成す角が90度であれば、通電方向が原料フィルムの面方向であるために、原料フィルムに均一な通電が可能であり、品質の優れたグラファイトフィルムが得られる。
【0149】
一方で、通電方向と原料フィルムの面方向に対する法線との成す角が0度で、通電方向が原料フィルムの厚み方向である場合、原料フィルムを容器(A)内に接触して保持するために用いられている板状の通電可能な黒鉛を介して、原料フィルムに通電が起きるために、成す角が90度に比べて、原料フィルムへの通電が妨げられる場合がある。このために、成す角が0度に比べて、90度のほうが原料フィルム自身の通電による加熱には有利である。
【0150】
また、成す角が0度では、通電方向が原料フィルムの厚み方向であるのに対して、成す角90度では、通電方向が原料フィルムの面方向であることから、成す角90度のほうが通電距離が長く、このために、成す角90度であるほうが通電時の原料フィルム自身の発熱にも有利である。
【0151】
<電圧を印加し直接通電可能な容器>
本発明の、電圧を印加し直接通電可能な容器とは、例えば、タングステン製、モリブデン製、黒鉛製の容器である。容器の形状は、特に制約を受けず、単純な平板などの形状でよい。また容器は円筒状で、原料フィルムを容器に巻きつける方法でも良い。容器の形状は、原料フィルムを接触して保持できる限りにおいて、特に制約を受けないが、作製の容易さ、工業的入手の容易さという観点から、例えば、直方体や立方体の形状をしており、ブロック状、蓋などが有る弁当箱状などの形状が、好ましい。
【0152】
なお、使用される容器や、本明細書中に記載の容器(A)や容器(B)は、それぞれ独立に、容器内を密閉状態で使用してもよいし、密閉状態で使用しなくてもよい。
【0153】
密閉状態にする方法としては、それぞれの容器に、密閉状態が実現できるような覆いを設ける方法が考えられる。密閉状態の場合には、加温・降温された結果膨張・収縮した気体の存在に伴って、容器内部が、常圧に比べて加圧されている状態や、常圧に比べて減圧されている状態を達成しうる。
【0154】
密閉状態にしない方法は、それぞれの容器(容器(A)、容器(B)、それぞれ独立に)に覆い(例えば蓋など)を設けるものの、容器と覆い(例えば蓋など)との間を通じて、加温・降温された結果膨張・収縮した気体が、出入り可能な状態であるような状態を実現する方法などが有る。もちろん、容器(容器(A)、容器(B))をそのまま用いて、覆いを設けない方法も、密閉状態にしない方法の一態様である。
【0155】
本発明においては、容器の内部が、密閉される方が好ましい。容器が密閉できる場合には、熱処理中、容器内にガスの対流が少なく、金属を含むカーボン粉末、金属を含む容器、金属を原料フィルムに接触および/または周辺に存在させて黒鉛化する場合、金属と原料フィルムが密閉された状態で存在しており、金属と原料フィルムとの相互作用が十分起こり、各特性に優れたグラファイトフィルムが得る上で好ましい。また、少量の金属存在下で、十分な金属の効果が得られる点でも好ましい。
【0156】
<黒鉛製容器>
本発明のような2500℃の温度領域まで通電によって加熱されるような用途では、取り扱いの容易さや、工業的な入手の容易さ等を勘案すると、使用される容器(A)や容器(B)としては、黒鉛製の容器が、特に好ましい。ここでいう黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、等方性黒鉛、押出製黒鉛、が挙げられ、電気伝導性、熱伝導性に優れ、均質性にも優れる等方性黒鉛が、電流を流しまた繰り返し用いる場合には好ましい。
【0157】
<直接通電可能な容器(B)が円筒である>について
本発明では、該容器(B)は特に形状の限定はないが、円筒であることが好ましい。これは、通電時に、円筒であるほうが、角筒であるよりも、電圧の偏りが生じにくいため、該容器(A)の全体にわたって均一な通電加熱に有利であるためである。容器(А)については特には形状の制限はないが、工業的な入手の容易さ等を勘案すると立方体、直方体などの角筒、もしくは円筒の形状で、操作上の利便性から蓋つきのものが良い。
【0158】
<原料フィルムが絶縁体>
また、製造工程の初期において原料フィルムが絶縁体であるとよい。というのは、炭化処理を通電加熱によって行われると、均一な炭化が起こり、その結果、黒鉛化中にフィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。その結果として、熱伝導性の優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0159】
<カーボン粉末>
本発明において用いられるカーボン粉末は、本発明のような2500℃の温度領域まで(通電によって)加熱される。
【0160】
ここでいうカーボン粉末とは、炭素を主に含む粉末である限りにおいて、特に限定されるものではない、広い概念である。例えば、有機物を主に含む物質や粉末や繊維を熱処理した後、粉末状に粉砕したものや、造粒したものでもよい。熱処理の温度は、200℃以上、好ましくは、500℃以上、さらに好ましくは1000℃以上や1500℃以上である。また、天然および/または人工のピッチ、コークス、カーボンブラックのような炭素を主に含む物質を用いてもよい。また、カーボン粉末は黒鉛であっても良い。ここでいう黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、グラファイトクロスを粉砕したもの、等方性黒鉛を粉砕したもの、押出製黒鉛を粉砕したもの、等が挙げられる。カーボン粉末の粉末形状、粒子径、粒子径分布などは、特に制限されるものではない。
【0161】
本発明のカーボン粉末は、下記に説明するカーボン粒子や、黒鉛粒子であってもよい。
【0162】
<黒鉛粒子>
本発明において用いられる黒鉛粒子は、本発明のような2500℃の温度領域まで(通電によって)加熱される。ここでいう黒鉛粒子の素材である黒鉛とは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、グラファイトクロスを粉砕したもの、等方性黒鉛を粉砕したもの、押出製黒鉛を粉砕したもの、カーボンブラック、等が挙げられる。黒鉛粒子の粒子形状、粒子径、粒子径分布などは、特に制限されるものではない。
【0163】
<カーボン粒子>
本発明において用いられるカーボン粒子は、本発明のような2500℃の温度領域まで(通電によって)加熱される。
【0164】
ここでいうカーボン粒子とは、炭素を主に含む粒子である限りにおいて、特に限定されるものではない、広い概念である。例えば、有機物を主に含む物質や粉末や繊維を熱処理した後、粒子状に粉砕したものや、造粒したものでもよい。熱処理の温度は、200℃以上、好ましくは、500℃以上、さらに好ましくは1000℃以上や1500℃以上である。また、天然および/または人工のピッチ、コークス、カーボンブラックのような炭素を主に含む物質を用いてもよい。また、カーボン粉末は黒鉛であっても良い。ここでいうとは、上記の温度領域まで加熱することができる限りにおいて、黒鉛を主に含むような材料までを含む広い概念であるが、例えば、グラファイトクロスを粉砕したもの、等方性黒鉛を粉砕したもの、押出製黒鉛を粉砕したもの、等が挙げられる。カーボン粒子の粉末形状、粒子径、粒子径分布などは、特に制限されるものではない。
【0165】
<ポリイミドフィルム>
ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする原料フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため、フィルムの電気伝導度が低温で均一に高くなりやすく、かつ電気伝導度そのものも高くなりやすい。その結果、電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する場合には、フィルム部分に炭素化の進行に伴って均一に電流が流れ、表面及び内部での均一な発熱が起こり、厚みが薄い場合に加え、厚い場合においても熱伝導性の高いグラファイトとなる。また、出来上がるグラファイトの結晶性が優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトとなる。
【0166】
<ポリイミドフィルムと複屈折>
本発明に用いられるポリイミドフィルムにおいて、分子の面内配向性に関連する複屈折Δnは、フィルム面内のどの方向に関しても0.08以上、好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.12以上、最も好ましくは0.14以上である。複屈折0.08以上であると、熱伝導性の高いグラファイトフィルムとなる。またさらに、黒鉛化温度が低温でも十分高い熱伝導性のグラファイトフィルムとなり、厚みが厚くても、高い熱伝導性を有するグラファイトフィルムとなる。さらに、金属と接触させて熱処理した場合には、従来技術では改善の余地があった表面硬度、密度、表面の密着性が改善される。特に、複屈折が高いフィルムでは、熱処理後にグラファイト表面から黒鉛が剥がれる場合があったが、本発明の方法を用いれば、表面剥がれのない優れた外観のグラファイトフィルムを得ることが可能となる。
【0167】
<原料フィルムと複屈折>
複屈折が高くなるほど、フィルムの炭化(炭素化)、黒鉛化が進行しやすくなる。その結果、グラファイトの結晶配向性がよくなり、熱伝導性が顕著に改善される。特に、高分子フィルムの面配向性が高いと、金属との接触によることにより、高い熱伝導性を保持しながら、表面の黒鉛剥がれを抑制できた表面硬度、密度、表面の密着性に優れたグラファイトが得られる。また、炭化が進行しやすいため、炭化中の昇温速度を速く、熱処理時間を短くしても、品質の優れたグラファイトとなる。また、黒鉛化が進行しやすいため、最高温度を下げて熱処理時間を短くしても品質の優れたグラファイトとなる。
【0168】
複屈折が高くなるほど、フィルムの炭化(炭素化)、黒鉛化が進行しやすいため、フィルムの電気伝導度が高くなりやすい。その結果、電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程では、フィルム部分に炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて均一に電流が流れ、また炭素化の進行に伴いフィルムに流れる電流量が増え、表面及び内部での均一な発熱が起こるため、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。またフィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。
【0169】
また、低温で炭化(炭素化)及び黒鉛化が進行するために、低温の熱処理中からフィルムの電気伝導度が高くなり、表面及び内部での均一な発熱が起こり、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。
【0170】
また、複屈折が高くなるほど、結晶性に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトフィルムとなる。
【0171】
また、原料の厚みが厚くなったとしても、表面と内部で均一に黒鉛化が進行するため、熱伝導性の優れたグラファイトが得られる。
【0172】
また、複屈折が高くなるほど、得られるグラファイトフィルムの熱伝導性が顕著に改善される。従って、通電の結果生じる熱から与えられ、原料フィルムに結果として与えられる最高処理温度を下げることが可能となり、消費電力の低減が可能となる。短時間の熱処理でも品質の高いグラファイトフィルムとなる。
【0173】
複屈折が高くなると黒鉛化しやすくなる理由は明らかではないが、グラファイト化のためには分子が再配列する必要があり、複屈折の高い分子配向性に優れたポリイミドフィルムでは分子の再配列が最小で済むことから、ポリイミドフィルムの中でも、より配向性に優れたポリイミドフィルムの方が、比較的低温の通電処理による熱発生に伴う最高処理温度で、厚みが厚くても、結晶性の高いグラファイトフィルムになると推測される。
【0174】
<複屈折>
ここでいう複屈折とは、フィルム面内の任意方向の屈折率と厚み方向の屈折率との差を意味し、フィルム面内の任意方向Xの複屈折Δnxは次式(数式1)で与えられる。
【0175】
【数1】
図6と図7において、複屈折の具体的な測定方法が図解されている。図6の平面図において、フィルム1から細いくさび形シート2が測定試料として切り出される。このくさび形シート2は一つの斜辺を有する細長い台形の形状を有しており、その一底角が直角である。このとき、その台形の底辺はX方向と平行な方向に切り出される。図7は、このようにして切り出された測定試料2を斜視図で示している。台形試料2の底辺に対応する切り出し断面に直角にナトリウム光4を照射し、台形試料2の斜辺に対応する切り出し断面側から偏光顕微鏡で観察すれば、干渉縞5が観察される。この干渉縞の数をnとすれば、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、次式(数式2)で表される。
【0176】
【数2】
ここで、λはナトリウムD線の波長589nmであり、dは試料2の台形の高さに相当する試料の幅3である。
【0177】
なお、前述の「フィルム面内の任意方向X」とは、例えばフィルム形成時における材料流れの方向を基準として、X方向が面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。
【0178】
<ポリイミドフィルムの熱的性質、機械的性質、物理的性質、化学的性質>
また、本発明に用いられるグラファイトの原料となるポリイミドフィルムは、100〜200℃の範囲において2.5×10−5/℃未満の平均線膨張係数を有しているとよい。線膨張係数が2.5×10−5/℃未満であれば、熱処理中の伸びが小さく、スムースに黒鉛化が進行し、脆くなく、種々の特性に優れたグラファイトを得ることができる。このようなポリイミドフィルムを原料に用いることで、グラファイトへの転化が2400℃から始まり、2700℃で十分結晶性の高いグラファイトに転化が生じ得る。なお、その線膨張係数は、2.0×10−5/℃以下であることがより好ましい。
【0179】
なお、原料フィルムの線膨張係数は、TMA(熱機械分析装置)を用いて、まず試料を10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させた後に一旦室温まで空冷し、再度10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させ、2回目の昇温時の100℃〜200℃における平均線膨張係数を測定することによって得られる。具体的には、熱機械分析装置(TMA:セイコー電子製SSC/5200H;TMA120C)を用いて、3mm幅×20mm長のサイズのフィルム試料を所定の治具にセットし、引張モードで3gの荷重をかけて窒素雰囲気下で測定が行われる。
【0180】
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、その弾性率が2.5GPa以上、好ましくは3.4GPa以上であれば、グラファイト化をより容易に行い得るということから好ましい。すなわち、弾性率が2.5GPa以上、好ましくは3.4GPa以上であれば、熱処理中のフィルムの収縮によるフィルムの破損を防止することができ、種々の特性に優れたグラファイトを得ることができる。
【0181】
なお、フィルムの弾性率は、ASTM−D−882に準拠して測定することができる。ポリイミドフィルムのより好ましい弾性率は3.0GPa以上であり、好ましくは4.0GPa以上であり、さらに好ましくは5.0GPa以上である。フィルムの弾性率が2.5GPaより小さければ、熱処理中のフィルムの収縮で破損および変形しやすくなり、得られるグラファイトの結晶性は劣り、密度および熱伝導性が劣る傾向にある。
【0182】
フィルムの吸水率は、下記のごとく測定した。フィルムを絶乾するために、100℃で30分乾燥して、25μm厚み10cm角のサンプルを作製した。この重量を測定してA1とする。25μm厚み10cm角のサンプルを蒸留水に23℃で24時間浸漬し、表面の水を拭いて除去し直ちに重量を測定した。この重量をA2とする。下記式より吸水率を求めた。
【0183】
吸水率(%)=(A2−A1)÷A1×100
<ポリイミドフィルムの作製方法>
本発明で用いられるポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶液をイミド化促進剤と混合した後、エンドレスベルトまたはステンレスドラムなどの支持体上に流延し、それを乾燥および焼成してイミド化させることにより製造され得る。
【0184】
本発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては公知の方法を用いることができ、通常は、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種が実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解させられる。そして、得られた有機溶液は酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌され、これによってポリアミド酸が製造され得る。このようなポリアミド酸溶液は、通常は5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に、適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0185】
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、例えば次のような重合方法(1)−(5)が好ましい。
【0186】
(1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
【0187】
(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマを得る。続いて、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0188】
好ましい1つの態様としては、ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに前記とは異なるジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法が有る。
【0189】
(3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、このプレポリマに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
【0190】
(4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0191】
(5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
【0192】
これらの中でも(2)、(3)に示すプレポリマを経由するシーケンシャル制御(シーケンスコントロール)(ブロックポリマー同士の組み合わせ・ブロックポリマー分子同士の繋がりの制御)をして重合する方法が好ましい。というのは、この方法を用いることで、複屈折が大きく、線膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得られやすく、このポリイミドフィルムを熱処理することにより、結晶性が高く、密度および熱伝導性が優れたグラファイトを得やすくなるからである。また、規則正しく、制御されることで、芳香環の重なりが多くなり、低温の熱処理でもグラファイト化が進行しやすくなると推定される。また複屈折を高めるために、イミド基含有量を増やすと、樹脂中の炭素比率が減り、黒鉛処理後の炭素化収率が減るが、シーケンシャル制御をして合成されるポリイミドフィルムは、樹脂中の炭素比率を落とすことなく、複屈折を高めることが出来るために好ましい。
【0193】
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0194】
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−オキシジアニリン)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−オキシジアニリン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0195】
特に、線膨張係数を小さくして弾性率を高くかつ複屈折を大きくし得るという観点から、本発明におけるポリイミドフィルムの製造では、下記式(1)で表される酸二無水物を原料に用いることが好ましい。
【0196】
【化1】
ここで、R1は、下記の式(2)〜式(14)に含まれる2価の有機基の群から選択されるいずれかであって、
【0197】
【化2】
ここで、R2、R3、R4、およびR5の各々は−CH3、−Cl、−Br、−F、または−OCH3の群から選択されるいずれかであり得る。
【0198】
上述の酸二無水物を用いることによって比較的低吸水率のポリイミドフィルムが得られ、このことはグラファイト化過程において水分による発泡を防止し得るという観点からも好ましい。
【0199】
特に、酸二無水物におけるR1として式(2)〜式(14)に示されているようなベンゼン核を含む有機基を使用すれば、得られるポリイミドフィルムの分子配向性が高くなり、線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が高く、さらには吸水率が低くなるという観点から好ましい。
【0200】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きく、吸水率を小さくするためには、本発明におけるポリイミドの合成に下記式(15)で表される酸二無水物を原料に用いればよい。
【0201】
【化3】
特に、2つ以上のエステル結合でベンゼン環が直線状に結合された構造を有する酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムは、屈曲鎖を含むけれども全体として非常に直線的なコンフォメーションをとりやすく、比較的剛直な性質を有する。その結果、この原料を用いることによってポリイミドフィルムの線膨張係数を小さくすることができ、例えば1.5×10−5/℃以下にすることができる。また、弾性率は500kgf/mm2以上に大きくすることができ、吸水率は1.5%以下に小さくすることができる。
【0202】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きくするためには、本発明におけるポリイミドは、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成されることが好ましい。
【0203】
また、本発明においてポリイミドの合成に用いられる最も適当なジアミンは4,4’−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンであり、これらの単独または2者の合計モルが全ジアミンに対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。さらに、p−フェニレンジアミンが10モル%以上、さらには20モル%以上、さらには30モル%以上、またさらには40モル%以上を含むことが好ましい。これらのジアミンの含有量がこれらのモル%範囲の下限値未満になれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。但し、ジアミンの全量をp−フェニレンジアミンにすると、発泡の少ない厚みの厚いポリイミドフィルムを得るのが難しくなるため、4,4’−オキシジアニリンを使用するのが良い。
【0204】
本発明においてポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物および/または式(15)で表されるp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)であり、これらの単独または2者の合計モルが全酸二無水物に対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。これら酸二無水物の使用量が40モル%未満であれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。
【0205】
また、ポリイミドフィルム、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂に対して、カーボンブラック、グラファイト等の添加剤を添加しても良い。
【0206】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。
【0207】
次に、ポリイミドの製造方法には、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、またはポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤やピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用いてイミド転化するケミカルキュア法のいずれを用いてもよい。中でも、イソキノリンのように沸点の高いものほど好ましい。というのは、フィルム作製中の初期段階では蒸発せず、乾燥の最後の過程まで、触媒効果が発揮されやすいため好ましい。特に、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすく、また比較的低温で迅速なグラファイト化が可能で、品質のよいグラファイトを得ることができるという観点からケミカルキュアの方が好ましい。特に、脱水剤とイミド化促進剤を併用することは、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が大きくなり得るので好ましい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するので加熱処理においてイミド化反応を短時間で完結させることができ、生産性に優れた工業的に有利な方法である。
【0208】
具体的なケミカルキュアによるフィルムの製造においては、まずポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒からなるイミド化促進剤を加えて、支持板、PET等の有機フィルム、ドラム、またはエンドレスベルト等の支持体上に流延または塗布して膜状にし、有機溶媒を蒸発させることによって自己支持性を有する膜を得る。次いで、この自己支持性膜をさらに加熱して乾燥させつつイミド化させてポリイミド膜を得る。この加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲内にあることが好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは段階的に、徐々に加熱して最高温度がその所定温度範囲内になるようにするのが好ましい。加熱時間はフィルム厚みや最高温度によって異なるが、一般的には最高温度に達してから10秒から10分の範囲が好ましい。さらに、ポリイミドフィルムの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを固定したり延伸したりする工程を含めば、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすい傾向にあるので好ましい。
【0209】
<高分子フィルムのグラファイト化>
高分子フィルムのグラファイト化機構について説明する。
【0210】
高分子フィルムのグラファイト化は、炭素化と黒鉛化の2段階を経由して起こる。まず、一般に炭素化とは、高分子フィルムを1000℃まで熱処理して、炭素分が主成分となる物質に変化させる過程のことを意味する。具体的には、高分子フィルムを分解温度で熱処理すると結合の開裂が起こり、分解成分は二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、水素等のガスとなって離脱し、1000℃まで熱処理されると、炭素が主成分の材料となる。次に黒鉛化とは、炭素質材料を2800℃以上の温度で熱処理し、芳香環が平面状に繋がったグラファイト層が多数積層した構造に変換させる過程のことを意味する。
【0211】
しかし、高分子を熱処理して得られた炭素質材料が全て黒鉛になるわけではなく、エポキシやフェノール樹脂を熱処理して作製した炭素質材料は、2800℃以上の温度で熱処理しても黒鉛になることはなくガラス状炭素のままであり、ポリイミド、ポリオキサジアゾール等の芳香環を有する高分子で芳香環が面内にある程度配向し、耐熱性が高い限られた高分子材料を熱処理して得られる炭素質材料でのみが黒鉛となる。
【0212】
<ポリイミドフィルムを含む、高分子フィルムのグラファイト化>
高分子フィルムのグラファイト化は上述の通り、炭素化と黒鉛化の2段階を経由しておこり、熱処理により炭素化した後、さらに高温で熱処理することでグラファイト構造に転化させられる。この過程では炭素−炭素結合の開裂と再結合が起きなければならない。グラファイト化をできる限り起こしやすくするためには、その開裂と再結合が最小のエネルギーで起こるようにする必要がある。出発高分子フィルム(例えば、上記に列記した高分子フィルム、特にポリイミドフィルム)の分子配向は炭素化フィルム中の炭素原子の配列に影響を与え、その分子配向はグラファイト化の際に結合の開裂と再結合化のエネルギーを少なくする効果を生じ得る。したがって、高度な分子配向が生じやすくなるように分子設計を行うことによって、グラファイト化の促進が可能になる。この分子配向の効果は、フィルム面に平行な二次元的分子配向とすることによって一層顕著になる。但し、出発原料である高分子フィルムに金属を含む物質を接触させると、熱処理中に相互作用を起こし、従来の炭素−炭素結合の開裂と再結合や炭素化中の炭素原子の配列に悪影響を与える場合もある。従って、炭化したフィルムを出発原料とすることが好ましい。
【0213】
グラファイト化反応における第二の特徴は、高分子フィルムが厚ければグラファイト化が進行しにくいということである。したがって、厚い高分子フィルムをグラファイト化する場合には、表面層ではグラファイト構造が形成されているのに内部ではまだグラファイト構造になっていないという状況が生じ得る。高分子フィルムの分子配向性はフィルム内部でのグラファイト化を促進し、結果的により低温で良質のグラファイトへの転化を可能にする。
【0214】
高分子フィルムの面配向性を高めることにより、高分子フィルムの表面層と内部とでほぼ同時にグラファイト化が進行するということは、内部から発生するガスのために表面層に形成されたグラファイト構造が破壊されるという事態を避けることにも役立ち、より厚いフィルムのグラファイト化を可能にする。本発明において使用される高分子フィルム(例えば、上記に列記した高分子フィルム、特にポリイミドフィルム)は、まさにこのような効果を生じるのに最適な分子配向を有していると考えられる。但し、金属と接触させない場合では、面配向を高くすぎると、黒鉛化が進行しすぎ、表面から黒鉛がはがれることがあり、原料フィルムの面配向と均一にきれいなグラファイトを得ることを両立させることは非常に難しいことであった。一方、原料に面配向の高い高分子フィルムを用い、この原料を金属と接触させて熱処理をおこなえば、従来の技術では改善の余地のあった表面からの黒鉛剥がれという問題を改善するだけにとどまらず、熱伝導性にも優れ、表面硬度、密度、表面の密着性に優れたグラファイトを得ることが可能となる。面配向の高い高分子フィルムと、金属と接触させて熱処理することとを組み合わせることで、従来の技術では予見できない効果が得られた。
【0215】
<従来の原料フィルムの熱処理によるグラファイト化>
従来の原料フィルムの熱処理によるグラファイト化では、熱処理により熱伝導性に優れたグラファイトを得ることは可能であるものの、表面硬度、表面の接着性、外観においてはまだ改善の余地が有る、グラファイトフィルムになる。特に原料フィルムの厚みが厚くなるほど、この傾向は顕著になると考えられる。この理由について説明する。
【0216】
従来のグラファイト化では、炭素化及び黒鉛化は、原料フィルムの内部よりも表面から優先的に起こると考えられる。その結果、表面の緻密な層が内部に残留した未炭化成分由来の分解ガスを閉じ込め、高温に加熱された時に、内部に残留したガスが表面層を破って抜け出し、表面がはがれ、外観においてまだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。さらに、黒鉛化過程のグラフェン層の再配列で、配列しきれない余分なグラフェン層が分解ガスとして発生し、表面層を破って抜け出し、表面がはがれ、外観においてまだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。またさらに、表面部分のみ黒鉛化が進行し、内部歪みを受け、表面の黒鉛層が脱落したり、全体に黒鉛化が進行しすぎた結果、面間の剥離を起こしやすくなり、黒鉛層が脱落しやすいという点で、まだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。
【0217】
その結果、表面の破損や表面の剥がれによって、表面に脆弱層ができ、その結果として、表面硬度、表面の接着性、外観にまだ改善の余地が有る結果となる場合が有った。このことから、表面硬度、表面の接着性、外観を兼ね備えた熱伝導性の高いグラファイトを得ることは依然として非常に困難な課題である。さらに、原料厚みが厚くなると、厚みの薄いものに比べて、熱処理における表面と内部の炭素化と黒鉛化の進行度により大きな差がでる傾向が有るため、各特性はまだ改善の余地が有る結果となる場合が多かった。
【0218】
<本発明の、原料フィルムに金属を含む物質を接触させるグラファイト化>
しかし、本発明の原料フィルムに金属を含む物質を接触させるグラファイト化では、熱処理中に、該フィルム内部に、該フィルム断面の主たる模様とは異なる、最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様が観察が形成され、従来困難であった表面硬度、表面の密着性、外観を兼ね備えた熱伝導性の高いグラファイトを得ることができた。
【0219】
従来の金属を含む物質と接触させない場合には、分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層の破壊や表層の部分的な黒鉛化や黒鉛化の進行しすぎによる黒鉛脱離が生じた。
【0220】
一方、本発明の金属を含む物質をフィルムに接触させて熱処理する場合には、(1)熱処理中に金属を含む物質が原料フィルムと相互作用し、熱処理中のフィルムを取り出しSEM断面観察をすると、該フィルム内部に当初の原料フィルムには観察されなかった最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様が形成され、フィルムの表面および/または内部で不均一層が形成される。不均一層が形成される理由としては、熱処理中に分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層や内部の破壊した部分に、金属を含む物質が浸透拡散し、部分的にフィルムと反応することが考えられる。また、フィルムの内部まで不均一層が形成される理由としては、熱処理が高温でおこわれるために、フィルム内部に浸透拡散し、反応がおこったと考えられる。また原料フィルムに含まれるリン酸水素カルシウム、リン酸カルシウムとったフィラーと反応することやフィラーの抜け落ちた部分に金属を含む物質が浸透拡散し、不均一層が形成されることが推定される。このような不均一層が形成されることにより、グラファイト化過程で発生する分解ガスが不均一層から抜け出すことにより、熱処理中にフィルムが破損することを防止したと考える。また従来のグラファイト過程では、グラフェン層が面に発達し、グラフェン層が層状に剥離するが、内部に不均一層が形成されることにより、剥離を部分的に固定し、剥離を防止することが可能となる。またさらに、不均一層が形成されることにより、熱処理中にたまる歪を緩和することができると考える。
(2)また別の効果として、金属を含む物質と接触されることにより、表面部分のグラファイト化の進行を抑えることなり、黒鉛化が進行しすぎることを防ぎ、フィルム全体が均一に黒鉛化することとなると推定される。表面の黒鉛化が進行しすぎることにより、表面部分が一部はがれかけたとしても、はがれ端部は反応性が高いため、金属を含む物質が接触することにより、端部と端部が金属を介してゆるい結合状態をもち、剥がれることを抑制するものと推定する。但し、このような金属によって表面の黒鉛層が保持・維持された状態では、金属が不純物となり、熱伝導性を悪化させることも考えられる。しかし、内部のガス発生が終了、表面と内部の黒鉛化の均一化がはかられる後では、熱力学的に安定な、金属を含まない黒鉛の状態となるために、端部と端部をつなぎとめていた金属がはずれ、端部の再結合が起こり、金属は炭素の結合から外れることになると推定する。さらに、2000℃以上という黒鉛化温度は、金属を含む化合物の沸点を超えるものであり、黒鉛化過程で、金属を含む物質が気化し、最終的には不純物を含まない炭素のみからなる物質となり、熱伝導性の優れたグラファイトとなると考えられる。
【0221】
また、原料フィルムと金属を含む物質とを接触させた状態(金属、金属を含むカーボン粉末、金属を含むカーボン容器が存在する)に通電がなされると、原料フィルムに加え、金属も加熱され、拡散が起こりやすくなり、原料フィルムと均一に相互作用をおこし、フィルム全体で均一なグラファイト化が進行する。さらに、金属に通電されると、金属の反応性が高まり、原料フィルムとの反応が促進されたために、各特性に優れたグラファイトフィルムが得られたと推定する。
【0222】
本発明によるグラファイトフィルムの製造方法が従来製造方法よりも優れている理由や機構、本発明によるグラファイトフィルムが従来製造方法によるグラファイトフィルムよりも優れた特性を発現する理由や機構については、学術的詳細研究がさらに必要ではあるが、上記のとおりと、推定できる。
【0223】
<得られるグラファイトフィルムの特性>
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.0×10−4m2/s以上、好ましくは9.5×10−4m2/s以上、さらに好ましくは10.0×10−4m2/s以上であると良い。7.0×10−4m2/s以上になると、熱伝導性が高いために、発熱機器から熱を逃がしやすくなり、発熱機器の温度上昇を抑えることが可能となる。一方、9.0×10−4m2/s未満になると、熱伝導性が悪いために、発熱機器から熱を逃がすことができなくなり、発熱機器の温度上昇を抑えることができなくなる。
【0224】
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの表面硬度は、JIS K 5400に基づいて測定される鉛筆硬度の値で2B以上、好ましくはB以上、さらに好ましくはHB以上である。鉛筆硬度が2B以上では、グラファイトの取り付け時や取り扱い時に傷が入らない程度に十分な表面硬度となる。
【0225】
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの、表面の接着性は、JIS Z 0237に基づいて測定される粘着テープ・粘着シート試験方法に基づいて測定される粘着力が3N/cm以上、好ましくは4N/cm以上、さらに好ましくは5N/cm以上である。鉛筆硬度が3N/cm以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、グラファイトが本来有する放熱特性を発揮することが出来る。
【0226】
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの、表面の外観の具体的レベルは、JIS K 5400に基づいて測定されるXカットテープ法に基づいて測定される評価が6以上、好ましくは8以上である。外観が6以上では、グラファイトと発熱部品を接着剤や粘着剤を用いて取り付けた場合に、剥がれることなく、また、取り付け時の接触や装置に組み込んだ後にファンの風によって表面から黒鉛が剥がれ落ちることがなくなり、電子機器内を汚染しなくなる。
【0227】
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの厚みの具体的レベルは、50μm以上、好ましくは70μm以上、さらに好ましくは90μm以上である。また用いる原料高分子フィルムの厚みは、70μm以上、好ましくは120μm以上、さらに好ましくは150μm以上である。グラファイトフィルムの厚みが50μm以上、原料フィルムの厚みが70μm以上であれば、熱輸送量が向上し、従来よりも優れた放熱性を発現することが可能となる。
【0228】
以上のように、本発明において高分子フィルムを2000℃以上の温度で熱処理するグラファイトフィルムの製造方法であって、熱処理中に金属を含む物質と接触させることを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法とすることで、従来よりも熱伝導性、表面硬度、表面の接着性、外観に優れたグラファイトフィルムを製造することが可能となる。さらに、各特性に優れた厚みの厚いグラファイトフィルムを製造することが可能となる。
【0229】
<使用形態など>
また、使用において、発熱体、ヒートシンク、ヒートパイプ、水冷冷却装置、ペルチェ素子、筐体、ヒンジとの固定、熱拡散性、放熱性、取り扱い性を改善するために、片面および/または両面に樹脂層、セラミック層、金属層、絶縁層、導電層を形成しても良い。
【0230】
以下において、本発明の種々の実施例がいくつかの比較例と共に説明される。
【実施例】
【0231】
(ポリイミドフィルムAの作製)
4,4’−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ビロメリット酸二無水物の1当量を溶解してポリアミド酸溶液(18.5wt%)を得た。
【0232】
この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布された。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥された。
【0233】
出来上がり厚みが75μmの場合におけるフィルム作製用の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥されて、自己支持性を有するゲルフィルムにされた。そのゲルフィルムはアルミ箔から引き剥がされ、フレームに接触させられ、固定・保持された。さらに、ゲルフィルムは、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で23秒段階的に加熱されて乾燥された。
【0234】
以上のようにして、厚さ75μmのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルムA:弾性率3.1GPa、吸水率2.5%、複屈折0.10、線膨張係数3.0×10−5/℃)が製造された。なお、その他厚みのフィルムを作製する場合には、厚みに比例して焼成時間が調整された。例えば厚さ125μm、225μmのフィルムの場合には、75μmの場合よりも焼成時間を5/3倍、3倍に設定した。また、厚みか厚い場合には、ポリイミドフィルムの溶媒やイミド化触媒蒸発による発泡を防ぐために低温での焼成時間を十分とる必要がある。
【0235】
実際のグラファイト化においては、上記方法と同様にして作製された(株)カネカ製・アピカルAHの厚さ75、125、225μmのポリイミドフィルムを用いた。
【0236】
(ポリイミドフィルムBの作製方法)
ポリアミド酸に4,4’−オキシジアニリンの3当量を溶解したDMF溶液にピロメリット酸二無水物の4当量を溶解して、両末端に酸無水物を有するプレポリマが合成された後、そのプレポリマを含む溶液にp−フェニレンジアミンの1当量を溶解することによって得られたポリアミド酸を用いた以外は実施例1と同様にして厚さ75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルムB:弾性率4.1GPa、吸水率2.1%、複屈折0.14、線膨張係数1.6×10−5/℃)が製造された。
【0237】
実際のグラファイト化においては、上記方法と同様にして作製された(株)カネカ製・アピカルNPIの厚さ75、125、225μmのポリイミドフィルムを用いた。
【0238】
(ポリイミドフィルムCの作製方法)
ポリアミド酸に4,4’−オキシジアニリンの1当量,p−フェニレンジアミンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ピロメリット酸二無水物の2当量を溶解して得られたポリアミド酸を用いた以外は実施例1と同様にして厚さ75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルムC:弾性率4.9GPa、吸水率3.0%.複屈折0.14.線膨張係数1.5×10−5/℃)が製造された。
【0239】
(炭素化フィルムA、B、Cの作製方法)
ポリイミドフィルムA、B、Cを黒鉛板に挟み、電気炉を用いて窒素雰囲気下で、1000℃まて昇温された後、1000℃で1時間熱処理して炭化処理(炭素化処理)が行われた。この炭素化フィルムを炭素化フィルムA’、B’、C’とする。
【0240】
(実施例1)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を黒鉛板に挟み、黒鉛容器にセットした。原料フィルム周辺に(黒鉛容器の中に)、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)をセットした。容器には、蓋がついており、密閉できる構造になっている。この容器全体を、黒鉛化炉を用いて、2100℃以下では減圧下、2100℃以上ではアルゴン雰囲気下で3000℃まで昇温された後、3000℃で1時間熱処理し、グラファイトフィルムが作製された。本実施例のように、カーボン粉末を黒鉛容器にセットして、雰囲気加熱で熱処理する場合には、容器は密閉構造であることが好ましい。というのは、密閉していることにより、熱処理中にカーボン粉末が容器からでることがなく、カーボン粉末による炉内放電を抑えることが出来るために好ましい。
【0241】
(実施例2)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)の外部周辺を、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(A)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。
【0242】
(実施例3)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺を、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆い(容器(A)と容器(B)の間に金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺を、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0243】
なお前述した図10は、容器(B)に蓋をする前の模式図である。なお、本実施例では、容器(B)と蓋にはネジが切ってあり、蓋をすることが可能である。
【0244】
なお、以下の実施例では同様に容器(B)の蓋を使用した。但し、以下の実施例では簡単のために、容器(B)の蓋を図示しないこととする。
【0245】
(実施例4〜6)
原料フィルムに、厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムA
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムBから得られた炭素化フィルムB’、厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムCから得られた炭素化フィルムC’を用いた以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムが作製された。
【0246】
(実施例7)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を、鉄を0.1wt%含む黒鉛板で上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な鉄を0.1wt%含む黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。容器(A)が角型容器で蓋の付いた密閉構造になっている。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺をカーボン粉末(コークス)で覆い(容器(A)と容器(B)の間にカーボン粉末(コークス)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0247】
(実施例8)
炭素化フィルムA’(75μm、125μm、225μmポリイミドフィルムAの炭化処理品)を、鉄を0.1wt%含む黒鉛板で上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な鉄を0.1wt%含む黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。容器(A)が角型容器で蓋の付いた密閉構造になっている。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆い(容器(A)と容器(B)の間に金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0248】
(実施例9)
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムに硝酸鉄の1wt%メタノール溶液、225μmのポリイミドフィルムに硝酸鉄の2wt%メタノール溶液を塗布した後、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺をカーボン粉末(コークス)で覆い(容器(A)と容器(B)の間にカーボン粉末(コークス)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0249】
(実施例10)
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムに硝酸鉄の1wt%メタノール溶液、225μmのポリイミドフィルムに硝酸鉄の2wt%メタノール溶液を塗布した後、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆い(容器(A)と容器(B)の間に金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0250】
(実施例11)
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムに塩化コバルトの0.5wt%エタノール溶液、225μmのポリイミドフィルムに塩化コバルトの1wt%エタノール溶液を塗布した後、板状の平滑なグラファイトで上下から挟んだ状態で、図8に示す直接通電可能な黒鉛容器(容器(A))内に、接触して保持した。該容器(A)は、図9に模式的に示すように原料フィルムの面方向が直接通電可能な円筒容器(B)(さらに詳細に説明すると具体的には、図10に模式的に示すような、直接通電可能な、蓋付きの円筒容器(B))の円筒の高さ方向と平行になるように保持し、該容器(A)の外部周辺を、金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆い(容器(A)と容器(B)の間に金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)を充填し)、また図11に示すように該容器(A)を該容器(B)と接触しないように、保持した。図11に示すように該容器(B)の外部周辺を金属を含むカーボン(コークス)粉末(鉄0.1wt%)で覆った状態で、電圧を該容器(B)の円筒の直径方向(原料フィルムの面方向と平行)に印加し、通電することで、3000℃まで加熱し、グラファイトフィルムが作製された。原料フィルムへの通電方向を示す直線と、原料フィルムの面方向に対する法線との、成す角度は、90度である。
【0251】
(比較例1、2)
厚み75μm、125μm、225μmのポリイミドフィルムから得られた炭素化フィルムA’、B’を黒鉛板に挟み、黒鉛化炉を用いて2100℃以下では減圧下、2100℃以上ではアルゴン雰囲気下で3000℃まで昇温された後、3000℃で1時間熱処理して黒鉛化処理がおこなわれ、グラファイトフィルムが作製された。
【0252】
実施例1〜11、比較例1〜2で得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、鉛筆硬度(表面硬度を示す値)、密度、表面の密着性(表面の接着性を示す値)、外観が表1に示されている。原料厚みとは、炭素化する前の高分子フィルムの厚みである。
【0253】
【表1】
グラファイトフィルムの熱拡散率は、4mm×40mmのグラファイトフィルムを光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な「LaserPit」)を用いて、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定された。グラファイト化の進行状況は、フィルム面方向の熱拡散率を測定することによって判定され、熱拡散率が大きいほど、グラファイト化が顕著であることを意味している。
【0254】
グラファイトフィルムの鉛筆硬度は、JIS K 5400(1990年)(JIS K 5600(1999年))「塗料一般試験方法」の8.4.1 試験機法に準じて、評価された。評価値は2B、B、HB、Hといった鉛筆硬度で示され、この順で、表面硬度が高くなり、グラファイトの表面硬度が高いことを意味している。
【0255】
グラファイトフィルムの密度は、グラファイトフィルムの重量(g)をグラファイトフィルムの縦、横、厚みの積で算出した体積(cm3)の割り算により算出された。なお、グラファイトフィルムの厚みは、任意の10点で測定した平均値を使用した。密度が高いほど、グラファイト化が顕著であることを意味している。
【0256】
グラファイトフィルムのピール強度は、JIS Z 0237(1980年)「粘着テープ・粘着シート試験方法」に準じて、評価した。値が大さいほど、表面の接着剤や粘着剤に対する接着性が高いことを意味している。
【0257】
グラファイトフィルムの外観は、JIS K 5400(1990年)(JIS K 5600(1999年))「塗料一般試験方法」の8.5.3 Xカットテープ法に準じて、評価した。値は0〜10の範囲で示され、値が大きいほど、表面の剥がれが少なく、外観の綺麗なグラファイトであることを意味している。
【0258】
実施例1〜11で得られたグラファイトフィルムはいずれの水準も、熱拡散率9.0×10−4m2/s以上、鉛事硬度はHB以上、密度2.06g/cm3以上、ビール強度5.2N/cm以上、外観8以上で、熱伝導性、表面硬度、表面の接着性、外観に優れたものであった。原料厚みが薄くなるほど、高い傾向にあるものの、最も厚みの厚い例(225μm)でも熱拡散率は9.0×10−4m2/sを有しており、厚みが厚くなっても十分グラファイト化が進行していた。
【0259】
一方、比較例1〜2で得られたグラファイトフィルムは、熟拡散率が高い水準のものもあるものの8.0×10−4m2/s未満、鉛筆硬度は5B以下、密度1.9g/cm3未満、ビール強度1N/cm未満、外観0であったため、熱伝導性、表面硬度、表面の接着性、外観の全てにおいて優れたものは無かった。
【0260】
原料フィルムとして、ポリイミドフィルムAを炭素化したフィルムを用いた実施例1〜3、7〜11の結果を比較すると、実施例1、実施例9、実施例7、実施例2、実施例3、実施例10、実施例11、実施例8の順に各特性が改善されていた。実施例1以外が、実施例1よりも優れていた理由は、加熱方法として、通電加熱を用いていたことが挙げられる。通電加熱の場合、雰囲気加熱に比べて、ガスの対流が少なく、熱処理中に金属が拡散することなく、原料フィルムと十分相互作用でき、各特性で品質の優れたグラファイトフィルムが得られたと推定する。また、通電加熱を用いると、炭素化の度合いに応じて原料フィルム内にも通電され、該原料フィルム自身が発熱する。結果、原料フィルムそのものの発熱が寄与し、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、従来よりも電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができたと推定する。さらに、原料フィルムおよび/または金属の反応活性が高まり、原料フィルムと金属との相互作用が高まり、各特性で品質の優れたグラファイトフィルムが得られたと推定する。さらに、125μmや225μm程度の、従来より厚い原料フィルムを用いた場合にも、フィルムの内部、表面、周辺から均一に加熱されるため、表面と内部が同時に黒鉛化し、表層に分解ガスの発生を妨げる黒鉛層が形成されず、内部の分解ガスが抜けやすくなり、分解ガスによるフィルム破損が起こらず、厚みの厚い電気伝導性、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができたと考える。
【0261】
一方、比較例1で得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、ポリイミドフィルムAの厚みが厚くなるに従い低下し、最も厚みが厚い225μmのポリイミドフィルムを出発原料に用いたものでは、熱処理後フィルムが破損していた。比較例1では加熱を不活性ガス雰囲気及び減圧下で行っているため、ヒーターと接触している部分や雰囲気ガスの熱伝導、ヒーターからの輻射熱によって原料フィルムの表面からおこなわれ、フィルムの内部と表面で不均一に黒鉛化が進行し、フィルム全体としての熱伝導性が低下したと考えられる。特に、原料フィルムが厚い場合には、表面から黒鉛化が進行することで、内部からの分解ガスが出にくくなり、無理な分解ガス放出により、フィルムが破壊したと考えられる。
【0262】
実施例9、実施例7、実施例2、実施例3では、この順で各特性が改善されていた。実施例3が最も優れていた理由は、実施例3では、原料フィルムが容器(A)と容器(B)で二重に保持されており、容器(A)と容器(B)の間および容器(B)の周辺に金属を含むカーボン粉末が配置されている。容器が二重になっているため、金属が容器内部で均一に拡散し、また閉じられた容器に保持されているため、金属が原料フィルムと十分相互作用を起こしたためと推定する。実施例が2番目に優れていた理由は、容器(A)の周辺に金属を含むカーボン粉末が配置されており、通電加熱により、金属が容器内部に拡散し、金属が原料フィルムと十分相互作用を起こしたためと推定する。次に、実施例7が優れていた理由は、容器(A)そのものに金属が含まれており、通電加熱により、金属が容器内部に拡散し、金属が原料フィルムと十分相互作用を起こしたためと推定する。
【0263】
「実施例10、実施例11、実施例8」が「実施例1、実施例9、実施例7、実施例2、実施例3」より優れていた理由は、実施例8では、容器が金属を含み、容器(A)(B)周辺に金属を含むカーボン粉末が存在しているため、原料フィルムとの相互作用が高まり、実施例10、11では、金属を含む物質を原料フィルムに塗布し、容器(A)(B)周辺に金属を含むカーボン粉末が存在しているため、原料フィルムとの相互作用が高まり、各特性に優れるグラファイトフィルムが得られたと推定する。
【0264】
実施例3と実施例4を比較すると、実施例2の方が各特性に優れるものであった。実施例3では原料フィルムに炭素化したフィルムを用いているのに対し、実施例4では原料フィルムにポリイミドフィルムを用いている違いが有る。この結果から、金属を含むカーボン粉末を存在させる場合、高分子フィルムよりも炭素化したフィルムを用いた方が特性に優れたグラファイトフィルムを得られることが分かる。炭素化したフィルムを用いることで、余分な金属との副反応を抑えることができたと推定する。
【0265】
実施例3、実施例5、実施例6を比較すると、実施例3、実施例6、実施例5の順で各特性が優れていた。実施例5と6が実施例3よりも優れていた理由は、実施例6と5が実施例3よりも複屈折、弾性率の高いまた線膨張係数の小さい原料を用いており、黒鉛化中の分子の再配列を容易にしたものと考える。また、実施例5が実施例6よりも優れていた理由としては、出発原料がシーケンスコントロールされて製造されているため、黒鉛化中の分子の再配列を容易にしたものと考える。また、出発原料の炭素比率が高いために、分解ガスの発生量が少なく、スムースに黒鉛化が進行したものと考える。従来の方法では、面配向に優れたポリイミドフィルムを原料に用いると、黒鉛化後に表面剥がれする場合が多いが、本発明の方法では、剥がれが生じることなくグラファイト化が進行することが確認できた。
【0266】
実施例10と実施例11を比較すると、実施例11の方が各特性に優れるものであった。実施例11では炭素化したフィルムに塩化コバルト溶液を塗布しているのに対し、実施例10では硝酸鉄溶液を塗布しているという違いが有る。この結果から、コバルトの方が、特性改善能力に優れていることが分かる。またコバルト溶液の方が鉄溶液よりも濃度が低く、このことから、コバルト化合物の方が、特性改善効果に優れることがわかる。
【0267】
実施例では、原料高分子フィルムに厚み225μmのポリイミドフィルムを用いたものであるが、厚みが厚くなっても十分特性に優れたものが得られている。また、比較例では、フィルムが破損してしまう。このことから、厚くなる場合において、特に金属の効果の差が顕著であることが分かる。
【0268】
実施例においては、グラファイト化後に、フィルムを取り出しSEM(走査型電子顕微鏡)断面観察をすると該フィルム内部に、当初の原料フィルムには観察されなかった最短径0.1〜50μmの不定形形状の模様(不均一層)が形成されたためと考える。不均一層が形成される理由としては、熱処理中に分解ガスや余分なグラフェン成分の気化による表層や内部の破壊した部分に、金属を含む物質が浸透拡散し、部分的にフィルムと反応することが考えられる。また、フィルムの内部まで不均一層が形成される理由としては、熱処理が高温でおこわれるために、フィルム内部に浸透拡散し、反応がおこったと考えられる。また原料フィルムに含まれるリン酸水素カルシウム、リン酸カルシウムとったフィラーと反応することやフィラーの抜け落ちた部分に金属を含む物質が浸透拡散し、不均一層が形成されることが推定される。このような不均一層が形成されることにより、グラファイト化過程で発生する分解ガスが不均一層から抜け出すことにより、熱処理中にフィルムが破損することを防止したと考える。また従来のグラファイト過程では、グラフェン層が面に発達し、グラフェン層が層状に剥離するが、内部に不均一層が形成されることにより、剥離を部分的に固定し、剥離を防止することが可能となる。またさらに、不均一層が形成されることにより、熱処理中にたまる歪を緩和することができると考える。
【0269】
図25は、実施例3のグラファイトフィルムを前処理することなく直接STM(走査型トンネル顕微鏡)で観察した表面STM像である。図25の上部が、縦5nm×横5nmの範囲でのSTM像である。図25の下部が、STM像上の深さ方向の指標を色の濃淡で表した指標(濃い部分が0.00nm、薄い部分が0.77nm)である。図25によると、グラファイトフィルムの表面に規則的な炭素原子像が確認されており、表面までグラファイト層が完全に形成されていることが分かる。フィルムの任意の場所で、同様な規則正しい炭素の層が形成されており、表面全体で、グラファイト層が形成され、強固な結合が形成されているために優れた熱伝導性を有するものと考える。また、炭素原子層が規則正しく形成され、強固な結合を形成されることで、表面硬度に優れたグラファイトになっていると考える。またさらに、ナノスケールで不純物のない綺麗な表面構造をしており、その結果、優れた表面の接着性が発現し、きれいな外観を呈していると考える。また、その他実施例についても同様の表面状態をSTMで確認することが出来ており、同様に優れた品質を示していた。
【符号の説明】
【0270】
1 ポリイミドフィルム
2 くさび形シート
3 くさび形シートの幅
4 ナトリウム光
5 干渉縞
11 原料フィルムを接触して保持するための、平滑な通電可能な平板
12 容器(A)
13 原料フィルムを接触して保持した容器(A)
21 円筒の容器(B)
22 角筒の容器(B)
23 蓋
31 容器(A)と容器(B)の間に充填された、カーボン粉末
32 容器(B)の外部周辺に充填された、カーボン粉末
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法。
【請求項2】
下記(a)〜(c)のうちの少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
(a)前記原料フィルムに、カーボン粉末が直接接触している。
(b)前記原料フィルムと前記原料フィルムを接触して保持する前記容器(A)の間に、カーボン粉末が存在している。
(c)前記容器(A)の外部が、カーボン粉末で覆われている。
【請求項3】
前記通電可能な容器(A)が、通電可能な容器(B)内に保持されていることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記容器(A)と前記容器(B)の間に、カーボン粉末が存在している、および/または、前記容器(B)の外部がカーボン粉末で覆われていることを特徴とする、請求項3に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記カーボン粉末が、金属を含むカーボン粉末であることを特徴とする、請求項2、4のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記カーボン粉末が、コークスであることを特徴とする、請求項2〜5のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記容器(A)および/または前記容器(B)が、密閉できる容器であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記容器(A)および/または前記容器(B)が、黒鉛製容器であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記高分子フィルムが、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾールのうちから選ばれた少なくとも一種類以上の高分子からなることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記高分子フィルムが、複屈折0.08以上のポリイミドフィルムであることを特徴とする、請求項9に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記高分子フィルムが、複屈折0.12以上のポリイミドフィルムであることを特徴とする、請求項9に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記原料フィルムが炭素化した高分子フィルムであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記金属が、IUPAC(国際純正・応用化学連合)無機化学命名法改訂版(1989年)による族番号4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、セレン、錫、鉛、およびビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記金属が、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、および水銀からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記金属が、鉄、コバルトの少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項1】
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムをグラファイト化するグラファイトフィルムの製造方法であって、通電可能な容器(A)内に、該原料フィルムを接触して保持し、該容器に電圧を印加し通電しながらグラファイト化する工程を含み、グラファイト化中に金属を含む物質を原料フィルムと接触させることを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法。
【請求項2】
下記(a)〜(c)のうちの少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
(a)前記原料フィルムに、カーボン粉末が直接接触している。
(b)前記原料フィルムと前記原料フィルムを接触して保持する前記容器(A)の間に、カーボン粉末が存在している。
(c)前記容器(A)の外部が、カーボン粉末で覆われている。
【請求項3】
前記通電可能な容器(A)が、通電可能な容器(B)内に保持されていることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記容器(A)と前記容器(B)の間に、カーボン粉末が存在している、および/または、前記容器(B)の外部がカーボン粉末で覆われていることを特徴とする、請求項3に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記カーボン粉末が、金属を含むカーボン粉末であることを特徴とする、請求項2、4のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記カーボン粉末が、コークスであることを特徴とする、請求項2〜5のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記容器(A)および/または前記容器(B)が、密閉できる容器であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記容器(A)および/または前記容器(B)が、黒鉛製容器であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記高分子フィルムが、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾールのうちから選ばれた少なくとも一種類以上の高分子からなることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記高分子フィルムが、複屈折0.08以上のポリイミドフィルムであることを特徴とする、請求項9に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記高分子フィルムが、複屈折0.12以上のポリイミドフィルムであることを特徴とする、請求項9に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記原料フィルムが炭素化した高分子フィルムであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記金属が、IUPAC(国際純正・応用化学連合)無機化学命名法改訂版(1989年)による族番号4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、セレン、錫、鉛、およびビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記金属が、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、および水銀からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記金属が、鉄、コバルトの少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図17】
【図19】
【図21】
【図23】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図18】
【図20】
【図22】
【図24】
【図25】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図17】
【図19】
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【図4】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図16】
【図18】
【図20】
【図22】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2011−148702(P2011−148702A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106369(P2011−106369)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【分割の表示】特願2005−219707(P2005−219707)の分割
【原出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【分割の表示】特願2005−219707(P2005−219707)の分割
【原出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
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