説明

グラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法及びグラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法

【課題】一般的な材料を用い、簡便な装置で金属組成の精密制御が可能で、かつ耐酸化性、耐薬品性を備えたグラファイト被覆金属ナノ粒子を大量に製造することを可能とする。
【解決手段】金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなるプルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる工程と、得られた錯体の結晶と配位子を有する炭化水素化合物とを溶媒中で混合して分散液とし、分散液から溶媒を分離して金属錯体の微粒子を得る工程と、金属錯体の微粒子を還元焼成する工程と、を経てグラファイト被覆金属ナノ粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイト被覆された金属ナノ粒子の製造方法及びグラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は、触媒をはじめ、光学材料、電子材料、センサー用の磁気材料や抗菌材料など非常に幅広い分野で利用されている。
【0003】
金属ナノ粒子は、特定の金属種の組み合わせにより多様な特性を持たせることができ、光特性や磁性特性を有する金属ナノ粒子などが知られている。磁性ナノ粒子は空間を隔てて磁気力で分離、輸送、回収が可能であり、DNA精製や細胞分離といったバイオ分野、さらに、磁性体の電磁的な応答による検出、標識、誘導過熱などが可能であり、医療・バイオ分野での活躍が期待されている。また、磁性ナノ粒子分散液は、磁性流体(磁気インク)としてトナー原料や磁気記録、磁気カードとして使用され、また、次世代の磁気デバイスと期待されているスピントロニクス材料としても期待され、現在および将来におけるその材料の重要性は計り知れないものがある。
【0004】
金属ナノ粒子の製造方法には大きく分けて、金属バルクを細かく砕くブレークダウン法と金属原子から製造するビルドアップ法の二つがあるが、金属バルクを単に微細化するだけでなく、さらに、高い特性を付与するために、クロム・鉄・コバルト・ニッケル・白金やそれらの合金といった遷移金属系のナノ粒子との組み合わせが求められおり、これまでにビルドアップ法に分類される製造方法が提案されている。
【0005】
また、ビルドアップ法はナノスケールの均一粒径を有する合金微粒子を製造することができる点でブレークダウン法に比べて有利である。なかでも実用的な合金ナノ粒子製造方法として注目されているのが金属錯体を微粒子とする方法である。例えば、光学特性を有するプルシアンブルー型金属錯体の超微粒子の製造方法が非特許文献1や特許文献1に記載されている。
【0006】
これら酸化物ナノ粒子や合金ナノ粒子は、ナノ粒子を構成する金属が空気中で酸化され、その特性が徐々に劣化することが一つの問題点として指摘されている。例えば磁性を有するナノ粒子では、磁性の経時的な劣化への対応が求められている。
【0007】
磁性特性の劣化を防ぐために、金属磁性ナノ粒子を高分子で被覆すること(非特許文献2)や酸化物による被覆(非特許文献3)、アルキル鎖による被覆(非特許文献4)、グラファイト層による被覆(非特許文献5〜8)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−256954号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mami Yamada et al. J. Am. Chem. Soc., 126, (2004)9482-9483
【非特許文献2】Ref. 1. H. Srikanth, R. Hajndl, C. Chirinos, J. Sanders, A.Sampath, and T. S. Sudarshan, Appl. Phys. Lett. 79(2001)3503.
【非特許文献3】G. Wang and A. Harrison, J. Colloid Interface Sci. 217 (1999)203.
【非特許文献4】Gi. Chaubey, et at. J. Am. Chem. Soc., 129, (2007)7214-.
【非特許文献5】Z. Turgut et al. J. Appl. Phys. 83 (1998), 6468.
【非特許文献6】C. Desvaux, et al. Nature Mat. 4 (2005), 750.
【非特許文献7】W. S. Seo et al. Nature Mat. 5(2006), 971
【非特許文献8】所 久人ら, 日立金属技報Vol. 25(2009), 22.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、金属磁性ナノ粒子を高分子やアルキル鎖で被覆しただけでは、金属ナノ粒子の表面の被覆に欠陥が多く生じること、酸化物層による被覆では酸素が徐々に浸透することから、これらの被覆では酸化に対して十分な安定性を確保することができていない。
【0011】
非特許文献5〜8に記載されたグラファイトによる被覆は、高分子、アルキル鎖又は酸化物層による被覆に比べ、酸化に対する耐性は解決されるが、例えば非特許文献5に記載されたプラズマ放電法においては、装置が大型であること、得られる粒子径が大きいこと、収率が低いという問題が指摘されている。
【0012】
非特許文献6の手法は、合成プロセスで高圧力を必要とすること、別途合成が必要な特殊なコバルト原料を使用しており一般的な試薬でないこと、グラファイト層に欠陥であるアモルファスが多く生じることが指摘されている。
【0013】
非特許文献7のCVD(Chemical Vapor Deposition)法では、気体で炭素源を供給する大型装置を必要とし、800度の高温での反応系では材料転換率(収率)が悪く、精密な金属組成制御もなされないという問題がある。
【0014】
非特許文献8では、磁性ナノ粒子は、FeCoやFeNiという種々の金属組成で制御されているが、原料として金属酸化物固体とカーボンを物理的に粉砕・混合した粉末を用いるトップダウン法であり、微粒子化には限界がある。実際に、得られる磁性粒子も50〜100nmと磁性ナノ粒子としてはサイズが大きくかつ大きさが不均一、また反応に1000℃近くでの高温処理を必要とする。
【0015】
本発明は、簡便にかつ大量にグラファイトされた被覆金属ナノ粒子(本明細書において「グラファイト被覆金属ナノ粒子」ということもある。)を製造する方法及びグラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなるプルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる工程と、得られた錯体の結晶と配位子を有する炭化水素化合物とを溶媒中で混合して分散液とし、分散液から溶媒を分離して金属錯体の微粒子を得る工程と、金属錯体の微粒子を還元焼成する工程と、を含む、グラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法である。
【0017】
本発明はさらに、金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなる金属錯体の結晶を析出させる工程と、得られた金属錯体の結晶と配位子を有する炭化水素化合物とを溶媒中で混合して、プルシアンブルー類似型金属錯体微粒子の分散液とし、分散液から溶媒を分離して金属錯体の微粒子を得る工程と、金属錯体の微粒子を製膜化する工程と、製膜化した金属錯体の微粒子を還元焼成する工程と、を含む、グラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法によれば、簡便にかつ大量にグラファイト被覆で保護された金属ナノ粒子を得ることができ、得られたグラファイト被覆金属ナノ粒子は、サイズが小さく粒径が揃いかつ整った球形を有し、各種溶媒への分散安定性、特性の持続性がよい。
本発明によるグラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法により得られる薄膜は、グラファイト被覆金属ナノ粒子が粒径の単一性がよいため、グラファイト層への化学修飾が容易であり、高品質のデバイス素材となる。また、酸化されにくく保磁力の高い磁性ナノ粒子薄膜を、数nmの超膜膜からミクロン程度の膜厚で制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】プルシアンブルー型金属錯体結晶の構造を示す概念図である。
【図2】金属錯体結晶と配位子を有する炭化水素化合物との結合を示す概念図である。
【図3】本発明のグラファイト被覆金属ナノ粒子の模式図であり、Aはグラファイト被覆された金属ナノ粒子の模式図、Bは金属ナノ粒子の金属元素の配置の模式図である。
【図4】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCo(Fe/Co=1.0)ナノ粒子の高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を示す図である。
【図5】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCo(Fe/Co=1.5)ナノ粒子の高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を示す図である。
【図6】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCo(Fe/Co=2.0)ナノ粒子の高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を示す図である。
【図7】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCo(Fe/Co=2.5)ナノ粒子の高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を示す図である。
【図8】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCo(Fe/Co=1.0〜2.5)ナノ粒子のX線解析(XRD)を示す図である。
【図9】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCo(Fe/Co=1.0)ナノ粒子の高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を示す図である。
【図10】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCo(Fe/Co=1.0)ナノ粒子の高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を示す図である。
【図11】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCo(Fe/Co=1.0)ナノ粒子の高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を示す図である。
【図12】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCoナノ粒子の磁化−外部磁場曲線を示すグラフである。
【図13】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCoナノ粒子のFe/Co比と飽和磁化の相関を示すグラフである。
【図14】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCoナノ粒子の励起波長360nmの発光スペクトルである。
【図15】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCoナノ粒子のラマンスペクトルである。
【図16】実施例1で焼成温度を変えた場合のグラファイト被覆FeCoナノ粒子のX線解析(XRD)を示す図である。
【図17】焼成温度が700℃の透過型電子顕微鏡像(TEM像、左側)及び高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像、右側)を示す図である。
【図18】焼成温度が900℃の透過型電子顕微鏡像(TEM像、左側)及び高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像、右側)を示す図である。
【図19】実施例1で得られたグラファイト被覆FeCoナノ粒子の磁気光学特性を示す図である。
【図20】実施例2で得られたグラファイト被覆FeCoナノ粒子薄膜の電子間力顕微鏡像(AFM)を示す図である。
【図21】実施例2で得られたグラファイト被覆FeCoナノ粒子のX線解析(XRD)を示す図である。
【図22】実施例3で得られたステアリルアミン保護Fe−CN−Coナノ粒子の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を示す図である。
【図23】実施例3で得られたグラファイト被覆Fe−CN−Coナノ粒子の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0021】
〔グラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法の第1の実施形態〕
この実施形態のグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法は、金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなるプルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる工程と、得られた錯体の結晶と配位子を有する炭化水素化合物とを溶媒中で混合して分散液とし、分散液から溶媒を分離して金属錯体の微粒子を得る工程と、金属錯体の微粒子を不活性条件下で加熱する工程とを含む製造方法である。
【0022】
この実施形態のグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法において、まず、金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなるプルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる。本明細書において、プルシアンブルー類似型金属錯体とは、NaCl型格子を組んだ二種類の金属原子M、金属原子Mの間が、炭素原子及び窒素原子からなるシアノ基により三次元的に架橋された構造のプルシアンブルー型金属錯体と類似する骨格を有するものを意味する。プルシアンブルー型金属錯体の結晶は、図1に示すように、基本骨格M−CN−Mを有するものである。プルシアンブルー類似型金属錯体は、シアノ基以外の官能基、例えば、ビピリジン、オキサラト、エチレンジアミン、マロネート、ピラジン、トリアゾール等を含むものを意味する。
【0023】
金属原子M、金属原子Mは金属種を変えることにより、金属ナノ粒子や金属錯体の微粒子の特性、例えば磁性や光学特性などを変えられることが知られている。金属原子Mは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金および銅から選ばれる少なくとも一つであり、金属原子Mはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウムおよびカルシウムから選ばれる少なくとも一つである。
【0024】
金属原子M、Mはそれぞれ2種以上の金属を組み合わせてもよい。二種類の金属の組み合わせとして例えば、金属ナノ粒子に光特性の変化を求める場合には、金属原子Mについては、鉄とクロム、鉄とコバルト、クロムとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄とクロムとの組み合わせがより好ましい。金属原子Mについては、鉄とニッケルとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、ニッケルとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄とニッケルとの組み合わせがより好ましい。MとMの比率は、陰イオン性金属シアノ錯体と金属陽イオンの混合比がモル比で1:1〜1:5が好ましい。
【0025】
磁性を有する金属ナノ粒子の場合には、Mを鉄、Mをコバルトとすることが好ましい。磁性を有する金属ナノ粒子を製造する場合、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液を二種類の金属イオンを含有する溶液としてもよい。この場合Mを鉄、Mの金属陽イオンを含有する溶液は、鉄、クロム、コバルト、ニッケルの組み合わせをベースにした遷移金属種との組み合わせであればよく、鉄イオンとコバルトイオンの組み合わせが好ましい。この場合も、MとMの比率は、陰イオン性金属錯体と金属陽イオンの混合比がモル比で1:1〜1:5が好ましい。
【0026】
配位子を有する炭化水素化合物の配位子は、金属に配位する官能基を有するものであればよく、例えば、アミノ、ピリジン、カルボン酸、チオール、アミド等を挙げることができる。炭化水素化合物は飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素化合物又は複素環を含む芳香族炭化水素物であればよい。炭素数は特に限定されるものではない。また、炭化水素化合物の水素は、本発明の効果を妨げなければ置換基により置換されていてもよい。このような化合物して好ましいものは、オレイルアミン、ステアリルアミン、2−アミノエタノール、ドデシルアミン、ヘキシルアミン、2−オクタデシルアミノピリジンを挙げることができる。
【0027】
プルシアンブルー類似型金属錯体の結晶は、配位子を有する炭化水素化合物が溶解された溶媒中に添加して分散される。この溶媒は、配位子を有する炭化水素化合物が十分に溶解されるものを選択することが好ましい。有機溶媒を用いる場合には、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、ヘキサン、エーテル等を用いることができる。配位子を有する炭化水素化合物が水溶性の場合には水あるいはアルコールを用いてもよい。
【0028】
溶媒の量は特に限定されないが、例えば、質量比で「配位子を有する炭化水素化合物:溶媒」を1:5〜1:50とすることが好ましい。また混合するに際に攪拌することが好ましく、それによりプルシアンブルー型金属錯体の超微粒子が有機溶媒中に十分に分散した分散液が得られる。また、配位子を有する炭化水素化合物の添加量は、プルシアンブルー型金属錯体の微結晶に含まれる金属イオン(金属原子M及びMの総量)に対して、モル比で1:0.2〜1:2程度であることが好ましい。
【0029】
図2に示すように、溶媒中でプルシアンブルー類似型金属錯体の表面には、配位子Aを介して炭化水素鎖Bが結合され溶媒中に分散している。配位子を有する炭化水素化合物の量は特に限定されるものではないが、例えば、金属M1,の総量に対してモル比で5〜30%程度である。
【0030】
分散溶液から溶媒を除去することにより、炭化水素化合物で保護されたプルシアンブルー類似型金属錯体をナノサイズ微粒子として得ることができる。
【0031】
プルシアンブルー類似型金属錯体の微粒子を還元焼成する。還元焼成は、水素、アルゴンやネオン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で500〜1000℃で加熱することにより行う。還元焼成により、金属錯体は、金属錯体の金属比を反映したbcc構造を有する合金に変換される。また、還元焼成に伴い、金属錯体を被覆する炭化水素化合物を炭素源としたグラファイト皮膜構造が生成する。得られた微粒子はグラファイト層が3nm程度、粒子径は50nm程度でサイズが揃った球形の金属ナノ粒子である。図3にグラファイト被覆金属ナノ粒子の模式図を示す。bcc構造を有する合金1はグラファイト層2で覆われている。Bは合金1のbcc構造の模式図を示す。
【0032】
この実施形態の方法により、簡便にかつ大量にグラファイト被覆で保護された粒子径が小さく、サイズが揃った金属ナノ粒子を得ることができる。本実施形態の方法で製造されたグラファイト被覆金属ナノ粒子は、トルエン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒に高い分散性を示し、耐酸化性、耐薬品性が向上している。磁気性を有するナノ粒子である場合には、磁気性は数か月変化しない。
【0033】
〔グラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法の第2の実施形態〕
この実施形態は、プルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる工程において、金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属シアノ錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を析出させる点で第1の実施形態と異なる。
【0034】
基本骨格がM−CN−Mである金属錯体、すなわちプルシアンブルー型金属錯体の結晶は、配位子を有する炭化水素化合物が溶解された溶媒中に添加して分散される。金属M、Mの炭化水素化合物、溶媒、還元焼成等条件、は実施形態1と同じである。
【0035】
〔グラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法の第3の実施形態〕
この実施形態は、プルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる工程において、逆ミセル法によりプルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる点で第1の実施形態と異なる。
【0036】
プルシアンブルー類似型金属錯体の結晶の析出は、例えば、(i)金属シアノ錯体(陰イオン)を含む第一逆ミセル溶液と、金属陽イオンを含む第二逆ミセル溶液とをそれぞれ調製し、(ii)第一逆ミセル溶液と第二逆ミセル溶液とを混合しプルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる操作によって行うことができる。第3の実施形態において、金属シアノ錯体を用いる場合、その条件は実施形態2と同じであり、金属イオンの金属原子、配位子を有する炭化水素化合物、溶媒、還元焼成等の条件は第1の実施形態と同じである。
【0037】
第一逆ミセル溶液にはイオン性界面活性剤、例えば、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムや臭化エチルトリメチルアンモニウムを、第二逆ミセル溶液にはソルビタン系界面活性剤を用いることができる。
【0038】
〔グラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法の第1の実施形態〕
この実施形態のグラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法は、金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなる金属錯体の結晶を析出させる工程と、金属錯体の結晶と配位子を有する炭化水素化合物とを溶媒中で混合して、プルシアンブルー類似型金属錯体微粒子の分散液とし、分散液から溶媒を分離して金属錯体の微粒子を得る工程と、金属錯体の微粒子を製膜化する工程と、製膜化した金属錯体の微粒子を還元焼成する工程と、を含む、薄膜化方法である。この実施形態においても金属錯体、金属イオンの金属原子、配位子を有する炭化水素化合物等の条件はグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法の第1の実施形態と同じである。
【0039】
製膜はスピンコート法等、公知の製膜化技術を用いて行うことができる。プルシアンブルー類似型金属錯体微粒子が粒子径の単一性がよく、形状も整っているので、製膜操作に困難性や制約が少ない。
【0040】
〔グラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法の第2の実施形態〕
この実施形態は、プルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる工程において、金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属シアノ錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を析出させる点でグラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法の第1の実施形態と異なる。この実施形態においても金属シアノ錯体、金属イオンの金属原子、配位子を有する炭化水素化合物等の条件はグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法の第2の実施形態と同じである。
【実施例1】
【0041】
0.14Mの K3[Fe(CN)6]水溶液8mLにx M Fe(NO3)2+y M Co(NO3)2混合溶液(ここでx + y=0.28)10mLをFe/Co=1.0,1.5,2.0,2.5の比率で加え、Fe−CN−Co/Feバルク結晶を合成した。
各々のバルク結晶体0.20gに0.16Mオレイルアミン(OA)トルエン溶液3mLを加えて有機層に抽出して濾過後、溶媒を留去し、オレイルアミンで保護したFe−CN−Co/Feナノ粒子を得た。
得られたナノ粒子を水素雰囲気下(H2/N2=0.1)にて10°C/minで500°Cまで昇温し、還元分解反応を行った。
生成物を透過型電子顕微鏡像(TEM)、高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM)、X線解析(XRD)、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)、紫外可視分光光度(UV-Vis)、エネルギー分散型X線分光(EDX)および超伝導量子干渉計(SQUID)で評価した。
【0042】
得られた生成物のTEM像を図4(Fe/Co=1.0)、図5(Fe/Co=1.5)、図6(Fe/Co=2.0)、図7(Fe/Co=2.5)に示す。
【0043】
図8に(Fe/Co=1.0〜2.5)ナノ粒子のX線解析(XRD)を示す。図9〜図11に拡大倍数を変えたFeCo(Fe/Co=1.0)ナノ粒子の高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を示す。中心にFeCo(110)の格子間隔2.0nmが観測された。
【0044】
TEM像によりFe/Co比に依存せず平均粒子径(dav)がほぼ10nm〜20nm程度の球形Fe−CN−Co/Feナノ粒子が確認された。XRDパターン(図8参照)は全てプルシアンブルー類似体由来のfcc構造を有し、EDXから求めた錯体粒子中の金属組成は、合成溶液の原料比にほぼ一致した。還元焼成後のXRDパターンでは、bcc構造を有するFeCo合金相が確認され、算出した格子定数とEDXによる組成分析により、錯体前駆体の金属比を反映したFeCo合金ナノ粒子へ変換されることが明らかとなった。得られたFeCoナノ粒子はTEM像からdav =11nm〜19nmの比較的サイズ単一性が高い球形粒子で、Fe/Co比の増加により粒子径は減少した。HRTEM像では、FeCoナノ粒子表面に平行なグラファイト(002)面間隔0.33nmに一致する格子縞が確認され、還元分解反応に伴いOAを炭素源としたグラファイト被覆構造が自発的に構築されることがわかった。SQUID測定からFeCoナノ粒子は室温強磁性を示し(図12参照)、Co導入により70−85emu/gの高い飽和磁化を示した(図13参照)。
【0045】
グラファイト保護FeCoナノ粒子(Fe/Co=1.0)はトルエン、DMF、DMSO等の溶媒に高い分散性を示し、分散した粒子は磁石によって集積された。溶液分散系(磁性流体)材料であり、室温強磁性を有する材料である。磁気特性は数ヶ月後も変化が無く、酸化安定性が高いことが確認された。
【0046】
また、グラファイト保護FeCoナノ粒子(Fe/Co=1.0)は蛍光体であることが判明した。図14に励起波長360nmの発光スペクトルを示す。さらに、図15に励起波長532nmのラマンスペクトルを示す。1600カイザー付近にグラファイトカーボンの二本のバンドが観察される。
【実施例2】
【0047】
実施例1のグラファイト保護FeCoナノ粒子(Fe/Co=1.0)に関し、焼成温度を500℃〜900℃の範囲で100℃毎に変えた場合のX線解析(XRD)を図16に示す。500℃以上であれば、グラファイト保護膜が形成されることが分かる。
また、図17の左側に焼成温度が700℃の透過型電子顕微鏡像(TEM像)及び右側に高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を、図18の左側に焼成温度が900℃の透過型電子顕微鏡像(TEM像)及び右側に高性能透過型電子顕微鏡像(HRTEM像)を示す。
【0048】
さらに、実施例1のグラファイト保護FeCoナノ粒子(Fe/Co=1.0)の磁気光学特性(測定波長λ=670nm)を図20に示す。
【実施例3】
【0049】
実施例1で得たオレイルアミン保護Fe−CN−Coナノ粒子トルエン分散液(Fe/Co=1.0)をガラス基板上(2×2cm2)に塗布し、基板回転させるスピンコート法により、Fe−CN−Coナノ粒子前駆体薄膜を作製した。実施例1と同じ条件にて水素雰囲気下焼成を行い、グラファイト保護FeCo磁性薄膜を得た。作製したFeCo薄膜のAFM(電子間力顕微鏡)モルフォロジー観察(250×250μm)では、表面平滑性の高い磁性粒子膜が得られていることが確認された。(図20参照)。グラファイト膜厚は10nm〜数100nmで制御可能である。なお、基板はSiでも可能であり、ガラスやSiに限定されるものではない。図21にグラファイト被覆FeCoナノ粒子薄膜のX線解析(XRD)を示す
【実施例4】
【0050】
二つの透明逆ミセル溶液を0.4Mポリ(エチレングリコ−ル)モノノニルフェニルエ−テル(NP-5:HO(CH2CH2O)nC6H4C9H19,n=5)/シクロヘキサンの2mLに、0.1M塩化コバルト(CoIICl2)水溶液または0.1Mヘキサシアノ金属塩カリウム(K3C[XIII(CN)6]、X=Feおよび/またはCr;Fe:Cr=1:0(1),3:1(2),2:2(3),1:3(4),0:1(5))水溶液の70μLに添加して合成した。3時間攪拌後、反応混合物にステアリルアミン(SA,全含有金属成分に対して5当量)を加えて1時間激しく攪拌し、試験管の底に遠心分離でスラリ−生成物を沈殿させるのに十分な量のメタノ−ル(約50mL)を加えた。粗試料は少量のヘキサン(約0.5mL)に再溶解し、再び過剰メタノ−ルに分散した。
逆ミセル法により精密サイズ合成したステアリルアミン保護Fe−CN−Coナノ粒子 (6nm)について、実施例1同様の水素下加熱分解を行うと、バルク粉砕法より粒子径の小さい3−5nm程度のグラファイト保護FeCo合金ナノ粒子が生成した。図22にステアリルアミン保護Fe−CN−Coナノ粒子の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を示す。さらに、図23にステアリルアミン保護Fe−CN−Coナノ粒子を水素下加熱分解して得られたグラファイト被覆Fe−CN−Coナノ粒子の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を示す。逆ミセル手法により得られたグラファイト被覆Fe−CN−Coナノ粒子も室温強磁性で磁石に作用することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の方法は、一般的な材料を用い、簡便な装置で金属組成の精密制御が可能で、かつ耐酸化性、耐薬品性を備えたグラファイト被覆金属ナノ粒子を大量に製造することができる。また、グラファイト被覆金属ナノ粒子は、グラファイト層への化学修飾によって更なる機能性付与(親水性・疎水性・イオン性、官能基、DNA、たんぱく質、ペプチド等)が可能であり、材料としての応用発展性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなるプルシアンブルー類似型金属錯体の結晶を析出させる工程と、
該錯体の結晶と配位子を有する炭化水素化合物とを溶媒中で混合して分散液とし、該分散液から上記溶媒を分離して金属錯体の微粒子を得る工程と、
上記金属錯体の微粒子を還元焼成する工程と、
を含む、グラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体が金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属シアノ錯体である、請求項1記載のグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属シアノ錯体を含有する溶液と前記金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とがそれぞれ、逆ミセル溶液である、請求項2記載のグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
金属原子Mが鉄、Mがコバルトである、請求項2又は3記載のグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記配位子がアミノ基である、請求項2又は3記載のグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記配位子を有する脂肪族炭化水素がオレイルアミンである、請求項2記載のグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記配位子を有する脂肪族炭化水素がステアリルアミンである、請求項3記載のグラファイト被覆金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体を含有する溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mからなる金属錯体の結晶を析出させる工程と、
上記金属錯体の結晶と配位子を有する炭化水素化合物とを溶媒中で混合して、プルシアンブルー類似型金属錯体微粒子の分散液とし、該分散液から上記溶媒を分離して金属錯体の微粒子を得る工程と、
上記金属錯体の微粒子を製膜化する工程と、
製膜化した上記金属錯体の微粒子を還元焼成する工程と、を含む、グラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法。
【請求項9】
前記金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属錯体が金属原子Mを中心金属とするシアノ錯体である、請求項8記載のグラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法。
【請求項10】
前記配位子がアミノ基である、請求項9記載のグラファイト被覆金属ナノ粒子の薄膜化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−261085(P2010−261085A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114033(P2009−114033)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】