グラフェンセンサ、該センサを利用した物質種分析装置および該センサを利用した物質種検知方法
【課題】複数の物質種が混在する検体溶液からでも所定の物質種を選択的にかつ高感度で検出することができるグラフェンセンサを提供する。
【解決手段】本発明に係るグラフェンセンサは、センシング部位としてグラフェン膜を利用したセンサであって、前記センサは、基板上に形成された前記グラフェン膜のチャネルと、前記チャネルの一端に接合されたソース電極と、前記チャネルの他端に接合されたドレイン電極とを含む電界効果トランジスタ構造を有し、前記グラフェン膜は、前記基板の表面に平行なグラフェン結晶からなり、前記グラフェン結晶のエッジには、被検知物質種を吸着または被検知物質種と結合する官能基が修飾されていることを特徴とする。
【解決手段】本発明に係るグラフェンセンサは、センシング部位としてグラフェン膜を利用したセンサであって、前記センサは、基板上に形成された前記グラフェン膜のチャネルと、前記チャネルの一端に接合されたソース電極と、前記チャネルの他端に接合されたドレイン電極とを含む電界効果トランジスタ構造を有し、前記グラフェン膜は、前記基板の表面に平行なグラフェン結晶からなり、前記グラフェン結晶のエッジには、被検知物質種を吸着または被検知物質種と結合する官能基が修飾されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センシング部位としてグラフェン膜を用いたセンサに関し、特に検体溶液から所定の物質種を選択的に検知するグラフェンセンサに関するものである。また、該センサを利用した物質種分析装置および該センサを利用した物質種検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNA等の生物学種を分析する従来の方法として、DNAマイクロアレイ(DNAチップ)を用いて光学的に検知する方法がある。DNAチップを用いた検知方法は、多数の遺伝子発現を一度に調べられる利点があるが、分析には複雑な手順と高度な知見とを要する欠点もある専門的な手法であった。これに対し、より簡便かつより高感度な分析手法として、ナノ材料を用いて化学種や生物学種を電気的に検知する方法が、近年、精力的に研究されている。グラフェン膜をチャネルとしたトランジスタを形成することにより、化学種や生物学種(例えば、溶液中の水素イオンやタンパク質の濃度)を電気的に検知するセンサが得られると報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
ここで、グラフェンとは、ベンゼン環を2次元平面に敷き詰めた六員環シートのことであり、閉曲面を構成していないものを言う。グラフェンを筒状に丸めて閉曲面を構成したものがカーボンナノチューブであり、グラフェンを多数枚積層したものがグラファイトである。グラフェンの各炭素原子はsp2混成軌道を形成しており、シートの上下には非局在化した電子が存在している。グラフェンは、その特異的な材料物性から「ポストSi」の新素材として有望視されている材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US 2007/0284557 A1号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yasuhide Ohno, Kenzo Maehashi, Yusuke Yamashiro, and Kazuhiro Matsumoto: “Electrolyte-Gated Graphene Field-Effect Transistors for Detecting pH and Protein Adsorption”, Nano Lett. 9, 2009, pp3318-3322.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1におけるグラフェン電界効果トランジスタは、天然黒鉛から機械的に剥離した単原子層グラフェン結晶(サイズ:約10μm)をシリコン基板の熱酸化膜上に転写してチャネルとして用い、Ti/Au膜(厚さ:5 nm/30 nm)のソース電極とドレイン電極とが形成された構造を有している。該グラフェン電界効果トランジスタは、グラフェン膜(チャネル)と検体溶液(被検知物質種として水素イオンやタンパク質が溶解した溶液)との界面で形成される電気二重層に起因するチャネルの電位変化を利用して検知するセンサである。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載のセンサは電気二重層に起因する電位変化を測定するのみであり、この検知原理のため複数の物質種が混在する検体溶液から所定の物質種を選択的に検知することが困難である。言い換えると、検体溶液に対して検知する物質種を予め選別するための前処理が必要になるという問題があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、複数の物質種が混在する検体溶液からでも所定の物質種を選択的にかつ高感度で検出することができるグラフェンセンサを提供することにある。また、そのようなグラフェンセンサを利用した物質種分析装置および物質種検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、センシング部位としてグラフェン膜を利用したセンサであって、前記センサは、基板上に形成された前記グラフェン膜のチャネルと、前記チャネルの一端に接合されたソース電極と、前記チャネルの他端に接合されたドレイン電極とを含む電界効果トランジスタ構造を有し、前記グラフェン膜は、前記基板の表面に平行なグラフェン結晶からなり、前記グラフェン結晶のエッジには、被検知物質種を吸着または被検知物質種と結合する官能基が修飾されていることを特徴とするグラフェンセンサを提供する。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、所定の物質種を選択的に検知する分析装置であって、検体サンプリング部と検知部と制御測定部と表示部とを有し、前記検知部は、本発明に係るグラフェンセンサと、前記ドレイン電極に対して電圧を印加する機構と、前記基板に対して電圧を印加する機構とを有することを特徴とする物質種分析装置を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、所定の物質種を選択的に検知する分析装置であって、検体サンプリング部と検知部と制御測定部と表示部とを有し、前記検知部は、本発明に係るグラフェンセンサと、前記ドレイン電極に対して電圧を印加する機構と、前記チャネルと接触している検体溶液に対して電圧を印加する機構とを有することを特徴とする物質種分析装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、本発明に係るグラフェンセンサを利用した物質種検知方法であって、前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルに接触させるステップと、前記被検知物質種が前記官能基に吸着または結合することに起因した前記チャネルの電位変化を検出して前記被検知物質種を検知するステップとを有することを特徴とする物質種検知方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記目的を達成するため、本発明に係るグラフェンセンサを利用した物質種検知方法であって、前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルに接触させるステップと、前記被検知物質種が前記官能基と結合して電子または正孔を前記チャネルに付与することに起因した前記チャネルの電流変化を検出して前記被検知物質種を検知するステップとを有することを特徴とする物質種検知方法を提供する。
【0014】
なお、本発明で言う「グラフェン膜」とは、10原子層以下のグラフェン膜と定義する。これは、グラフェン膜が10原子層を超えると金属的な性質を示すようになり、半導体的な電流増幅作用が希薄となるためである。5原子層以下のグラフェン膜であることがより好ましい。また、グラフェン結晶の「エッジ」とは、グラフェン結晶のc面以外の面(いわゆるa面やb面)を意味するものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の物質種が混在する検体溶液からでも所定の物質種を選択的にかつ高感度で検出することができるグラフェンセンサを提供することができる。また、そのようなグラフェンセンサを利用した物質種分析装置および物質種検知方法を提供することができる。例えば、本発明に係るグラフェンセンサを医療診断用のバイオセンサとして利用することにより、高速・高感度での疾病診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】基板上に酸化アルミニウム膜を形成する工程を示す斜視模式図である。
【図1B】酸化アルミニウム膜をパターニングする工程を示す斜視模式図である。
【図1C】酸化アルミニウム膜上にグラフェン膜を成膜する工程を示す斜視模式図である。
【図1D】グラフェン膜の両端領域に電極を形成する工程を示す斜視模式図である。
【図1E】検体溶液をチャネルと接触させるための流路またはプールを構成するバンクを形成する工程を示す斜視模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るグラフェンセンサの一例を示す斜視模式図である。
【図3A】チャネルの形状の一例を示す平面模式図である。
【図3B】チャネルの形状の他の一例を示す平面模式図である。
【図3C】チャネルの形状の更に他の一例を示す平面模式図である。
【図4】多数のグラフェン結晶小片からなるチャネルの一例を示す拡大平面模式図である。
【図5】本発明に係る物質種検知方法の一例を示す斜視模式図である。
【図6】本発明に係る物質種検知方法の他の一例を示す斜視模式図である。
【図7】本発明に係る物質種検知装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前述したように、本発明に係るグラフェンセンサは、センシング部位としてグラフェン膜を利用したセンサであって、前記センサは、基板上に形成された前記グラフェン膜のチャネルと、前記チャネルの一端に接合されたソース電極と、前記チャネルの他端に接合されたドレイン電極とを含む電界効果トランジスタ構造を有し、前記グラフェン膜は、前記基板の表面に平行なグラフェン結晶のシートからなり、前記グラフェン結晶のエッジには、被検知物質種を吸着または被検知物質種と結合する官能基が修飾されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記の発明に係るグラフェンセンサにおいて、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の距離をLとした時に、前記チャネル内における前記グラフェン結晶の前記エッジの総延長が20L以上である。
(2)前記グラフェン膜は、多数のグラフェン結晶小片が重なり合って電気的に接合した多結晶体である。
(3)前記グラフェン結晶小片の平均サイズが10 nm以上100μm以下である。
(4)前記官能基はプローブDNAであり、前記プローブDNAは、DNA二重螺旋構造を形成する片方鎖であって既知の塩基配列を有するDNA断片である。
(5)前記官能基は、所定の抗体と選択的に結合する抗原である。
(6)前記官能基は、所定の物質を選択的に分解する酵素である。
(7)前記官能基は、所定のイオンと選択的に結合する官能基、または所定のイオンと選択的に結合する媒介物質に対して選択的に結合する官能基である。
(8)前記基板と前記グラフェン膜との間には、パターニングされた酸化アルミニウム膜の絶縁層が形成されており、前記グラフェン膜は、前記酸化アルミニウム膜の表面上のみに形成されている。
(9)前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルと接触させるための流路またはプールを構成するバンクが更に形成されている。
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜改良や組み合わせを行ってもよい。なお、図面中で同義の部分には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0020】
[第1の実施形態に係るグラフェンセンサ]
本発明の第1の実施形態に係るグラフェンセンサの一例を作製手順に沿って説明する。図1A〜図1Eは、それぞれグラフェンセンサの作製における1工程を示す斜視模式図である。図1Aは、基板上に酸化アルミニウム膜を形成する工程を示す斜視模式図である。図1Aに示したように、まず、基板100として、酸化シリコン膜102(例えば、厚さ20〜300 nmの熱酸化膜)が表面に形成されたシリコン単結晶基板101(例えば、2インチ径、厚さ500〜600μm)を用意する。次に、スパッタ法やイオンビーム法、レーザ蒸発法等の気相成長の手法により基板100の表面(酸化シリコン膜102の表面)にコランダム構造の酸化アルミニウム膜103を形成する。
【0021】
ここで、酸化アルミニウム膜103の形成にあたり、その組成がAl2-xO3+x(x ≧ 0)となるように制御することが望ましく、Al2-xO3+x(x > 0)となるように制御することがより望ましい。該組成制御は、例えば、気相成長中の酸素分圧を制御することによって可能である。化学量論組成以上の酸素リッチな組成を有する酸化アルミニウム膜103を形成することにより、平均サイズの大きいグラフェン結晶グレイン(例えば、平均サイズが30 nm以上)を成長させることができ、成膜したグラフェン膜の電気抵抗を低減することができる。なお、本発明に係るグラフェンセンサにおいて、グラフェン膜と直接接触する下地層として酸化アルミニウム膜103が形成されていることが好ましいが、たとえ酸化アルミニウム膜103が形成されていなくて本発明の効果は発揮される。
【0022】
酸化アルミニウム膜103を形成する方法に特段の制限はなく、結果として組成と平均膜厚とを所望の範囲に制御できれば気相成長法以外の手法でもよい。また、酸化アルミニウム膜103を成膜する基板100としては、上述の酸化シリコン膜102が表面に形成されたシリコン単結晶基板101に限定されるものではなく、後工程での熱履歴に対する耐熱性およびグラフェンセンサとしての用途(例えば、使用環境や使用方法)を考慮して適宜選択できる。例えば、表面に絶縁膜が形成された各種の半導体基板や各種の絶縁体基板などを用いることができる。
【0023】
酸化アルミニウム膜103の算術平均表面粗さRaは1 nm以下であることが望ましい。より望ましくは0.3 nm以下である。算術平均表面粗さRaが1 nmより大きくなると、グラフェン膜が酸化アルミニウム膜103の表面に対して平行に成長しにくくなる。これは、グラフェン膜成長の核生成と算術平均表面粗さRaとの間に何かしらの相関関係があるためと考えられる。さらに、酸化アルミニウム膜103の表面最大高さRzは10 nm以下であることが望ましい。より望ましくは3 nm以下である。
【0024】
形成した酸化アルミニウム膜103の算術平均表面粗さRaが1 nmより大きい場合は、研磨(例えば、化学機械研磨)等により1 nm以下となるように加工する。酸化アルミニウム膜103を形成する前に、あらかじめシリコン単結晶基板101または酸化シリコン膜102の算術平均表面粗さRaを1 nm以下とするように加工してもよい。なお、算術平均表面粗さRaおよび表面最大高さRzはJIS B 0601に準拠するものとする。
【0025】
形成する酸化アルミニウム膜103の平均厚さとしては、10 nm以上500 nm以下が好ましい。多結晶体である酸化アルミニウム膜103の平均厚さが10 nm未満になると結晶粒同士の接点が減って面内方向の被覆率が低下する(例えば、酸化アルミニウム膜103が島状になる)ことから好ましくない(結果として表面平坦性が劣化する)。一方、500 nmより厚くなると後工程における熱歪み等に起因したクラック等が発生しやすくなり、結果として表面平坦性(例えば算術平均表面粗さRa)が劣化することから好ましくない。
【0026】
図1Bは、酸化アルミニウム膜をパターニングする工程を示す斜視模式図である。図1Bに示したように、従来の半導体プロセス技術と同様にして(例えば、フォトリソグラフィ、リフトオフ、反応性イオンエッチングなどを利用して)、基板100上に形成した酸化アルミニウム膜103を所望の回路パターンとなるように加工する。このとき、回路となる部分103’に酸化アルミニウム膜103を残し、他の部分の酸化アルミニウム膜103を除去する。また、酸化シリコン膜102は絶縁層として残しておいた方が好ましい。
【0027】
図1Cは、酸化アルミニウム膜上にグラフェン膜を成膜する工程を示す斜視模式図である。図1Cに示したように、炭素含有化合物を原料として化学気相成長法(CVD: chemical vapor deposition)によりグラフェン膜104を回路となる部分103’(酸化アルミニウム膜103)上に成膜する。これにより、回路となる部分103’(酸化アルミニウム膜103)の表面に沿って該表面と平行にグラフェン膜104が一様な膜厚で成長する。
【0028】
グラフェン膜104の成膜条件としては、例えば、原料ガスとしてプロピレン、キャリアガスとしてアルゴンガスを用い、平均原料濃度0.15〜3体積%の混合ガスを平均流速15〜50 cm/min(基板上の平均流速で標準状態換算)で供給し、成長温度450〜1000℃(好ましくは750〜1000℃)で0.1〜60分間(好ましくは0.1〜10分間)の成長を行う。なお、原料としてはプロピレン以外にもアセチレン、メタン、プロパン、エチレン等の他の炭素含有化合物を用いることができる。
【0029】
一例として、プロピレンの平均原料濃度を0.5体積%としたプロピレン/アルゴン混合ガスを平均流速20.5 cm/minで供給して、成長温度800℃で5分間の成長を行った。成膜したグラフェン膜に対して、走査型トンネル顕微鏡による観察と四端子法による電気伝導率の測定を行った。その結果、多数のグラフェン結晶小片(平均サイズ:約50 nm)が重なり合って電気的に接合したグラフェン膜(平均原子層数:4層、電気伝導率:1×104 S/cm以上)が得られていた。また、グラフェン膜は、酸化アルミニウム膜上のみに成長し、酸化アルミニウム膜を除去した熱酸化膜上にはグラフェン膜が成長していなかった。言い換えると、グラフェン膜は、回路となる部分である酸化アルミニウム膜上に選択成長していることが確認された。なお、成膜されるグラフェン膜における平均原子層数は、成長時間と比例関係がある(すなわち、成長時間により平均原子層数を制御可能である)ことを別途確認した。
【0030】
図1Dは、グラフェン膜の両端領域に電極を形成する工程を示す斜視模式図である。図1Dに示したように、センシング部位となるグラフェン膜104の領域(チャネル、図中のくびれた領域)を挟んで一方の端部領域にソース電極105を形成し、他方の端部領域にドレイン電極106を形成する。チャネルの幅および長さは、従来のバイオセンサと同様に、それぞれ数μm〜数百μmとするのが好ましい。
【0031】
図1Dに示した工程により、電界効果トランジスタの基本構造が完成する(ゲート電極については後述する)。電極(ソース電極105、ドレイン電極106)を形成する方法に特段の制限はなく、従来の方法(例えば、フォトリソグラフィとスパッタ法や各種蒸着法との組合せ)を用いることができる。また、金属電極の材料にも特段の制限はなく、電極として常用される金属(例えば、金、白金、チタンなど)を用いることができる。一例としては、チタン(10 nm厚さ)上に金(100 nm厚さ)を積層した積層構造などが挙げられる。
【0032】
図1Eは、検体溶液をチャネルと接触させるための流路またはプールを構成するバンクを形成する工程を示す斜視模式図である。図1Eに示したように、センシング部位となるグラフェン膜104のチャネルに被検知物質種を含む検体溶液を接触させるための流路またはプールを構成するバンク107を形成する。バンク107の形成方法に特段の制限はなく、例えば、フォトレジストを用いて形成することができる。以上のようにして、グラフェンセンサの基本構造が完成する。なお、グラフェンセンサを検体溶液に浸漬して利用する場合には、バンク107は無くてもよい。
【0033】
[第2の実施形態に係るグラフェンセンサ]
図2は、本発明の第2の実施形態に係るグラフェンセンサの一例を示す斜視模式図である。第2の実施形態に係るグラフェンセンサは、グラフェン膜104’としてシングルドメイン(単結晶状)のグラフェン結晶を用いている点、および酸化アルミニウム膜103(回路となる部分103’)を用いていない点において前述の第1の実施形態に係るグラフェンセンサと異なる。
【0034】
シングルドメインのグラフェン結晶からなるグラフェン膜の形成方法としては、例えば、グラファイト結晶から機械的に剥離したグラフェン結晶を基板100上に転写する従来の方法を利用することができる。シングルドメインのグラフェン結晶を基板100上に転写した後、電子線描画装置などを用いて所望の形状に加工することでグラフェン膜104’を成形することができる。
【0035】
[グラフェン膜への官能基修飾]
前述したように、本発明に係るグラフェンセンサは、グラフェン結晶のエッジに、特定の被検知物質種を吸着または特定の被検知物質種と結合しやすい化学物質を含んだ官能基が修飾されている。該官能基は、化学結合を形成するための化学反応により、グラフェン結晶のエッジに化学修飾される。化学反応による化学結合の形成としては、例えば、アミンとカルボン酸の脱水縮合反応のよるアミド結合の形成、有機酸とヒドロキシル基を含む化合物の縮合反応によるエステル結合の形成、遷移金属等を用いる各種カップリング反応による炭素-炭素結合の形成等の手法を用いることが可能である。また、ソース電極105とドレイン電極106との間の距離をLとした時に、チャネル内におけるグラフェン結晶のエッジの総延長が20L以上であることが好ましい。これにより、より多くの官能基を修飾させることができ、センサ感度を従来のセンサに比して1桁以上向上させることができる。
【0036】
ここで、前述の第2の実施形態のようにグラフェン膜としてシングルドメインのグラフェン結晶を用いた場合、次のようにしてグラフェン結晶のエッジの総延長を増大することが好ましい。図3Aは、チャネルの形状の一例を示す平面模式図である。図3Bは、チャネルの形状の他の一例を示す平面模式図である。図3Cは、チャネルの形状の更に他の一例を示す平面模式図である。なお、チャネルの形状は、これらの例示に限定されるものではない。
【0037】
グラフェン膜104’を成形加工する際、図3Aに示したように、グラフェン膜104’のチャネル内に穴を開けることにより、グラフェン結晶のエッジ301の総延長を増大することができ、該エッジ301に官能基302を多数修飾することができる。また、図3Bに示したように、グラフェン膜104’のチャネルがミアンダ形状になるようにスリット加工を施し、エッジ301の総延長を増大することができ、該エッジ301に官能基302を多数修飾することができる。また、図3Cに示したように、グラフェン膜104’のチャネルがストライプ形状になるようにスリット加工を施し、エッジ301の総延長を増大することができ、該エッジ301に官能基302を多数修飾することができる。
【0038】
一方、前述の第1の実施形態のようにグラフェン膜が多数のグラフェン結晶小片からなる多結晶体である場合、次のような利点がある。図4は、多数のグラフェン結晶小片からなるチャネルの一例を示す拡大平面模式図である。図4に示したように、グラフェン膜104のチャネルは、グラフェン結晶小片104”が多数重なり合った多結晶体であることに起因してグラフェン結晶のエッジ301の総延長が非常に長くなることから、該エッジ301に非常に多数の官能基302を修飾することができる。言い換えると、官能基301の密度を非常に高くできるため、高感度のグラフェンセンサを実現することが可能である。例えば、グラフェン結晶小片104”の大きさが直径50 nmの円形であるとすると、官能基密度は最大で105個/μm2となり、従来センサの10000倍程度の高感度化が可能であると考えられる。
【0039】
なお、グラフェン結晶小片104”の平均サイズは、10 nm以上100μm以下が好ましく、30 nm以上5μm以下がより好ましく、50 nm以上500 nm以下が更に好ましい。グラフェン結晶小片104”の平均サイズが10 nm未満になると、グラフェン膜104の電気抵抗が高くなり過ぎてセンサとして機能するのが困難となることから好ましくない。また、グラフェン結晶小片104”の平均サイズが100μm超になると、従来センサに対する効果(高感度化)がさほど得られなくなる。
【0040】
[官能基]
本発明に係るグラフェンセンサをバイオセンサとして利用する場合、官能基302としては、例えば、DNA二重螺旋構造を形成する片方鎖であって既知の塩基配列を有するDNA断片、所定の抗体と選択的に結合する抗原、所定の物質を選択的に分解する酵素などを好ましく用いることができる。また、本発明に係るグラフェンセンサを無機イオンセンサとして利用する場合、官能基302としては、所定のイオンと選択的に結合する官能基、または所定のイオンと選択的に結合する媒介物質に対して選択的に結合する官能基を好ましく用いることができる。
【0041】
より詳細には、例えば、ガンの発症率を高めると考えられているDNA断片の一方鎖をプローブDNAの官能基302として用いる。それに対して、患者の細胞から抽出したメッセンジャRNAを逆転写酵素で相補的DNAのターゲットDNAとして含む検体溶液として用意し該グラフェンセンサに接触させる。もしも両者の塩基配列が対になっており、ハイブリダイゼーションが起これば、該グラフェンセンサで検知することが可能である。このようにして、遺伝子診断を行うことが可能となる。
【0042】
また、心筋梗塞症状が現れる際に増加するループスアンチコアグラントや抗リン脂質抗体と特異に結合する抗原を官能基302として用いる。それに対して、患者の血液を検体溶液として用意し該グラフェンセンサに接触させる。抗原抗体反応を検知することにより、心筋梗塞の早期迅速な診断が可能となる。
【0043】
また、ホルムアルデヒドを分解する酵素を官能基302として用い、該グラフェンセンサを検査雰囲気中に一定時間放置する。検査雰囲気中のホルムアルデヒドを検知することにより、シックハウス症候群の原因究明を行うことが可能となる。
【0044】
[物質種検知方法]
次に、本発明に係るグラフェンセンサを用いた物質種検知方法を説明する。図5は、本発明に係る物質種検知方法の一例を示す斜視模式図である。図5に示したように、本発明のグラフェンセンサ500の検体溶液流路または検体溶液プールに検体溶液501を満たしセンシング部位となるグラフェン膜チャネルに接触させる。次に、一定のゲート電圧Vgの下で、ドレイン電圧Vdを変化させることにより、電流-電圧特性を測定する。ここで、ゲート電極は基板100の裏面側(酸化シリコン膜102が形成された面と反対側の表面)に形成され、ゲート電圧Vgは酸化シリコン膜102を介して基板100の裏面側からグラフェン膜チャネルに印加される。この電流-電圧特性を、予め測定した参照溶液のそれと比較することにより、被検知物質種を定量的に測定することが可能となる。
【0045】
被検知物質種がイオン性である場合、グラフェン膜チャネルに吸着されることによりチャネルの電位が変化するため、電流-電圧特性において電流値が最低となる電圧値が変化する。この電圧変化量から、被検知物質種を定量することが可能である。また、被検知物質種がグラフェン膜チャネルに対して電子またはホールを付与する物質種である場合、電流-電圧特性において電流量が変化する。この電流変化量から、被検知物質種を定量することが可能である。
【0046】
図6は、本発明に係る物質種検知方法の他の一例を示す斜視模式図である。図6に示した物質種検知方法は、本発明のグラフェンセンサ500の検体溶液流路または検体溶液プールに満たされた検体溶液501と接触するようにゲート電極が形成され、ゲート電圧Vgが検体溶液501を介してグラフェン膜チャネルに印加される。この点において、図5に示した物質種検知方法と異なる。検体溶液501を介してゲート電圧Vgを印可するには、微小電極を検体溶液501に直接浸漬する方法や、検体溶液501と接する部分(例えば、バンク107)に予め微小電極を集積化しておく方法等がある。
【0047】
図5に示した物質種検知方法と同様に、被検知物質種がイオン性である場合、グラフェン膜チャネルの電流-電圧特性において電流値が最低となる電圧値が変化する。この電圧変化量から、被検知物質種を定量することが可能である。また、被検知物質種が、グラフェン膜チャネルに対して電子またはホールを付与する物質である場合、電流-電圧特性において電流量が変化する。この電流変化量から、被検知物質種を定量することが可能である。
【0048】
[物質種検知装置]
図7は、本発明に係る物質種検知装置の一例を示す模式図である。図7に示したように、本発明に係る物質種検知装置700は、サンプリング部701、本発明のグラフェンセンサ500(図示せず)を内蔵した測定部702、制御・表示部703より構成される。サンプリング部701は、検体溶液を挿入する部分である。挿入された検体溶液はグラフェンセンサ500を内蔵した測定部702に送られ、目的とする被検知物質種の検知を行う。グラフェンセンサ500の電気的制御は制御・表示部703の制御回路により行われ、測定結果が制御・表示部703のモニタに表示される。1回の測定後、グラフェンセンサ500は、純水等により自動洗浄され、次の検体溶液を測定する。このようにして連続して複数の検体溶液を測定することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
100…基板、101…シリコン単結晶基板、102…酸化シリコン膜、
103…酸化アルミニウム膜、103’… 回路となる部分、104,104’…グラフェン膜、
104”… グラフェン結晶小片、105…ソース電極、106…ドレイン電極、
107…バンク、301…エッジ、302…官能基、
500…グラフェンセンサ、501…検体溶液、
700…物質種検知装置、701…サンプリング部、702…測定部、703…制御・表示部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、センシング部位としてグラフェン膜を用いたセンサに関し、特に検体溶液から所定の物質種を選択的に検知するグラフェンセンサに関するものである。また、該センサを利用した物質種分析装置および該センサを利用した物質種検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNA等の生物学種を分析する従来の方法として、DNAマイクロアレイ(DNAチップ)を用いて光学的に検知する方法がある。DNAチップを用いた検知方法は、多数の遺伝子発現を一度に調べられる利点があるが、分析には複雑な手順と高度な知見とを要する欠点もある専門的な手法であった。これに対し、より簡便かつより高感度な分析手法として、ナノ材料を用いて化学種や生物学種を電気的に検知する方法が、近年、精力的に研究されている。グラフェン膜をチャネルとしたトランジスタを形成することにより、化学種や生物学種(例えば、溶液中の水素イオンやタンパク質の濃度)を電気的に検知するセンサが得られると報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
ここで、グラフェンとは、ベンゼン環を2次元平面に敷き詰めた六員環シートのことであり、閉曲面を構成していないものを言う。グラフェンを筒状に丸めて閉曲面を構成したものがカーボンナノチューブであり、グラフェンを多数枚積層したものがグラファイトである。グラフェンの各炭素原子はsp2混成軌道を形成しており、シートの上下には非局在化した電子が存在している。グラフェンは、その特異的な材料物性から「ポストSi」の新素材として有望視されている材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US 2007/0284557 A1号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yasuhide Ohno, Kenzo Maehashi, Yusuke Yamashiro, and Kazuhiro Matsumoto: “Electrolyte-Gated Graphene Field-Effect Transistors for Detecting pH and Protein Adsorption”, Nano Lett. 9, 2009, pp3318-3322.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1におけるグラフェン電界効果トランジスタは、天然黒鉛から機械的に剥離した単原子層グラフェン結晶(サイズ:約10μm)をシリコン基板の熱酸化膜上に転写してチャネルとして用い、Ti/Au膜(厚さ:5 nm/30 nm)のソース電極とドレイン電極とが形成された構造を有している。該グラフェン電界効果トランジスタは、グラフェン膜(チャネル)と検体溶液(被検知物質種として水素イオンやタンパク質が溶解した溶液)との界面で形成される電気二重層に起因するチャネルの電位変化を利用して検知するセンサである。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載のセンサは電気二重層に起因する電位変化を測定するのみであり、この検知原理のため複数の物質種が混在する検体溶液から所定の物質種を選択的に検知することが困難である。言い換えると、検体溶液に対して検知する物質種を予め選別するための前処理が必要になるという問題があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、複数の物質種が混在する検体溶液からでも所定の物質種を選択的にかつ高感度で検出することができるグラフェンセンサを提供することにある。また、そのようなグラフェンセンサを利用した物質種分析装置および物質種検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、センシング部位としてグラフェン膜を利用したセンサであって、前記センサは、基板上に形成された前記グラフェン膜のチャネルと、前記チャネルの一端に接合されたソース電極と、前記チャネルの他端に接合されたドレイン電極とを含む電界効果トランジスタ構造を有し、前記グラフェン膜は、前記基板の表面に平行なグラフェン結晶からなり、前記グラフェン結晶のエッジには、被検知物質種を吸着または被検知物質種と結合する官能基が修飾されていることを特徴とするグラフェンセンサを提供する。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、所定の物質種を選択的に検知する分析装置であって、検体サンプリング部と検知部と制御測定部と表示部とを有し、前記検知部は、本発明に係るグラフェンセンサと、前記ドレイン電極に対して電圧を印加する機構と、前記基板に対して電圧を印加する機構とを有することを特徴とする物質種分析装置を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、所定の物質種を選択的に検知する分析装置であって、検体サンプリング部と検知部と制御測定部と表示部とを有し、前記検知部は、本発明に係るグラフェンセンサと、前記ドレイン電極に対して電圧を印加する機構と、前記チャネルと接触している検体溶液に対して電圧を印加する機構とを有することを特徴とする物質種分析装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、本発明に係るグラフェンセンサを利用した物質種検知方法であって、前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルに接触させるステップと、前記被検知物質種が前記官能基に吸着または結合することに起因した前記チャネルの電位変化を検出して前記被検知物質種を検知するステップとを有することを特徴とする物質種検知方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記目的を達成するため、本発明に係るグラフェンセンサを利用した物質種検知方法であって、前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルに接触させるステップと、前記被検知物質種が前記官能基と結合して電子または正孔を前記チャネルに付与することに起因した前記チャネルの電流変化を検出して前記被検知物質種を検知するステップとを有することを特徴とする物質種検知方法を提供する。
【0014】
なお、本発明で言う「グラフェン膜」とは、10原子層以下のグラフェン膜と定義する。これは、グラフェン膜が10原子層を超えると金属的な性質を示すようになり、半導体的な電流増幅作用が希薄となるためである。5原子層以下のグラフェン膜であることがより好ましい。また、グラフェン結晶の「エッジ」とは、グラフェン結晶のc面以外の面(いわゆるa面やb面)を意味するものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の物質種が混在する検体溶液からでも所定の物質種を選択的にかつ高感度で検出することができるグラフェンセンサを提供することができる。また、そのようなグラフェンセンサを利用した物質種分析装置および物質種検知方法を提供することができる。例えば、本発明に係るグラフェンセンサを医療診断用のバイオセンサとして利用することにより、高速・高感度での疾病診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】基板上に酸化アルミニウム膜を形成する工程を示す斜視模式図である。
【図1B】酸化アルミニウム膜をパターニングする工程を示す斜視模式図である。
【図1C】酸化アルミニウム膜上にグラフェン膜を成膜する工程を示す斜視模式図である。
【図1D】グラフェン膜の両端領域に電極を形成する工程を示す斜視模式図である。
【図1E】検体溶液をチャネルと接触させるための流路またはプールを構成するバンクを形成する工程を示す斜視模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るグラフェンセンサの一例を示す斜視模式図である。
【図3A】チャネルの形状の一例を示す平面模式図である。
【図3B】チャネルの形状の他の一例を示す平面模式図である。
【図3C】チャネルの形状の更に他の一例を示す平面模式図である。
【図4】多数のグラフェン結晶小片からなるチャネルの一例を示す拡大平面模式図である。
【図5】本発明に係る物質種検知方法の一例を示す斜視模式図である。
【図6】本発明に係る物質種検知方法の他の一例を示す斜視模式図である。
【図7】本発明に係る物質種検知装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前述したように、本発明に係るグラフェンセンサは、センシング部位としてグラフェン膜を利用したセンサであって、前記センサは、基板上に形成された前記グラフェン膜のチャネルと、前記チャネルの一端に接合されたソース電極と、前記チャネルの他端に接合されたドレイン電極とを含む電界効果トランジスタ構造を有し、前記グラフェン膜は、前記基板の表面に平行なグラフェン結晶のシートからなり、前記グラフェン結晶のエッジには、被検知物質種を吸着または被検知物質種と結合する官能基が修飾されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記の発明に係るグラフェンセンサにおいて、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の距離をLとした時に、前記チャネル内における前記グラフェン結晶の前記エッジの総延長が20L以上である。
(2)前記グラフェン膜は、多数のグラフェン結晶小片が重なり合って電気的に接合した多結晶体である。
(3)前記グラフェン結晶小片の平均サイズが10 nm以上100μm以下である。
(4)前記官能基はプローブDNAであり、前記プローブDNAは、DNA二重螺旋構造を形成する片方鎖であって既知の塩基配列を有するDNA断片である。
(5)前記官能基は、所定の抗体と選択的に結合する抗原である。
(6)前記官能基は、所定の物質を選択的に分解する酵素である。
(7)前記官能基は、所定のイオンと選択的に結合する官能基、または所定のイオンと選択的に結合する媒介物質に対して選択的に結合する官能基である。
(8)前記基板と前記グラフェン膜との間には、パターニングされた酸化アルミニウム膜の絶縁層が形成されており、前記グラフェン膜は、前記酸化アルミニウム膜の表面上のみに形成されている。
(9)前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルと接触させるための流路またはプールを構成するバンクが更に形成されている。
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜改良や組み合わせを行ってもよい。なお、図面中で同義の部分には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0020】
[第1の実施形態に係るグラフェンセンサ]
本発明の第1の実施形態に係るグラフェンセンサの一例を作製手順に沿って説明する。図1A〜図1Eは、それぞれグラフェンセンサの作製における1工程を示す斜視模式図である。図1Aは、基板上に酸化アルミニウム膜を形成する工程を示す斜視模式図である。図1Aに示したように、まず、基板100として、酸化シリコン膜102(例えば、厚さ20〜300 nmの熱酸化膜)が表面に形成されたシリコン単結晶基板101(例えば、2インチ径、厚さ500〜600μm)を用意する。次に、スパッタ法やイオンビーム法、レーザ蒸発法等の気相成長の手法により基板100の表面(酸化シリコン膜102の表面)にコランダム構造の酸化アルミニウム膜103を形成する。
【0021】
ここで、酸化アルミニウム膜103の形成にあたり、その組成がAl2-xO3+x(x ≧ 0)となるように制御することが望ましく、Al2-xO3+x(x > 0)となるように制御することがより望ましい。該組成制御は、例えば、気相成長中の酸素分圧を制御することによって可能である。化学量論組成以上の酸素リッチな組成を有する酸化アルミニウム膜103を形成することにより、平均サイズの大きいグラフェン結晶グレイン(例えば、平均サイズが30 nm以上)を成長させることができ、成膜したグラフェン膜の電気抵抗を低減することができる。なお、本発明に係るグラフェンセンサにおいて、グラフェン膜と直接接触する下地層として酸化アルミニウム膜103が形成されていることが好ましいが、たとえ酸化アルミニウム膜103が形成されていなくて本発明の効果は発揮される。
【0022】
酸化アルミニウム膜103を形成する方法に特段の制限はなく、結果として組成と平均膜厚とを所望の範囲に制御できれば気相成長法以外の手法でもよい。また、酸化アルミニウム膜103を成膜する基板100としては、上述の酸化シリコン膜102が表面に形成されたシリコン単結晶基板101に限定されるものではなく、後工程での熱履歴に対する耐熱性およびグラフェンセンサとしての用途(例えば、使用環境や使用方法)を考慮して適宜選択できる。例えば、表面に絶縁膜が形成された各種の半導体基板や各種の絶縁体基板などを用いることができる。
【0023】
酸化アルミニウム膜103の算術平均表面粗さRaは1 nm以下であることが望ましい。より望ましくは0.3 nm以下である。算術平均表面粗さRaが1 nmより大きくなると、グラフェン膜が酸化アルミニウム膜103の表面に対して平行に成長しにくくなる。これは、グラフェン膜成長の核生成と算術平均表面粗さRaとの間に何かしらの相関関係があるためと考えられる。さらに、酸化アルミニウム膜103の表面最大高さRzは10 nm以下であることが望ましい。より望ましくは3 nm以下である。
【0024】
形成した酸化アルミニウム膜103の算術平均表面粗さRaが1 nmより大きい場合は、研磨(例えば、化学機械研磨)等により1 nm以下となるように加工する。酸化アルミニウム膜103を形成する前に、あらかじめシリコン単結晶基板101または酸化シリコン膜102の算術平均表面粗さRaを1 nm以下とするように加工してもよい。なお、算術平均表面粗さRaおよび表面最大高さRzはJIS B 0601に準拠するものとする。
【0025】
形成する酸化アルミニウム膜103の平均厚さとしては、10 nm以上500 nm以下が好ましい。多結晶体である酸化アルミニウム膜103の平均厚さが10 nm未満になると結晶粒同士の接点が減って面内方向の被覆率が低下する(例えば、酸化アルミニウム膜103が島状になる)ことから好ましくない(結果として表面平坦性が劣化する)。一方、500 nmより厚くなると後工程における熱歪み等に起因したクラック等が発生しやすくなり、結果として表面平坦性(例えば算術平均表面粗さRa)が劣化することから好ましくない。
【0026】
図1Bは、酸化アルミニウム膜をパターニングする工程を示す斜視模式図である。図1Bに示したように、従来の半導体プロセス技術と同様にして(例えば、フォトリソグラフィ、リフトオフ、反応性イオンエッチングなどを利用して)、基板100上に形成した酸化アルミニウム膜103を所望の回路パターンとなるように加工する。このとき、回路となる部分103’に酸化アルミニウム膜103を残し、他の部分の酸化アルミニウム膜103を除去する。また、酸化シリコン膜102は絶縁層として残しておいた方が好ましい。
【0027】
図1Cは、酸化アルミニウム膜上にグラフェン膜を成膜する工程を示す斜視模式図である。図1Cに示したように、炭素含有化合物を原料として化学気相成長法(CVD: chemical vapor deposition)によりグラフェン膜104を回路となる部分103’(酸化アルミニウム膜103)上に成膜する。これにより、回路となる部分103’(酸化アルミニウム膜103)の表面に沿って該表面と平行にグラフェン膜104が一様な膜厚で成長する。
【0028】
グラフェン膜104の成膜条件としては、例えば、原料ガスとしてプロピレン、キャリアガスとしてアルゴンガスを用い、平均原料濃度0.15〜3体積%の混合ガスを平均流速15〜50 cm/min(基板上の平均流速で標準状態換算)で供給し、成長温度450〜1000℃(好ましくは750〜1000℃)で0.1〜60分間(好ましくは0.1〜10分間)の成長を行う。なお、原料としてはプロピレン以外にもアセチレン、メタン、プロパン、エチレン等の他の炭素含有化合物を用いることができる。
【0029】
一例として、プロピレンの平均原料濃度を0.5体積%としたプロピレン/アルゴン混合ガスを平均流速20.5 cm/minで供給して、成長温度800℃で5分間の成長を行った。成膜したグラフェン膜に対して、走査型トンネル顕微鏡による観察と四端子法による電気伝導率の測定を行った。その結果、多数のグラフェン結晶小片(平均サイズ:約50 nm)が重なり合って電気的に接合したグラフェン膜(平均原子層数:4層、電気伝導率:1×104 S/cm以上)が得られていた。また、グラフェン膜は、酸化アルミニウム膜上のみに成長し、酸化アルミニウム膜を除去した熱酸化膜上にはグラフェン膜が成長していなかった。言い換えると、グラフェン膜は、回路となる部分である酸化アルミニウム膜上に選択成長していることが確認された。なお、成膜されるグラフェン膜における平均原子層数は、成長時間と比例関係がある(すなわち、成長時間により平均原子層数を制御可能である)ことを別途確認した。
【0030】
図1Dは、グラフェン膜の両端領域に電極を形成する工程を示す斜視模式図である。図1Dに示したように、センシング部位となるグラフェン膜104の領域(チャネル、図中のくびれた領域)を挟んで一方の端部領域にソース電極105を形成し、他方の端部領域にドレイン電極106を形成する。チャネルの幅および長さは、従来のバイオセンサと同様に、それぞれ数μm〜数百μmとするのが好ましい。
【0031】
図1Dに示した工程により、電界効果トランジスタの基本構造が完成する(ゲート電極については後述する)。電極(ソース電極105、ドレイン電極106)を形成する方法に特段の制限はなく、従来の方法(例えば、フォトリソグラフィとスパッタ法や各種蒸着法との組合せ)を用いることができる。また、金属電極の材料にも特段の制限はなく、電極として常用される金属(例えば、金、白金、チタンなど)を用いることができる。一例としては、チタン(10 nm厚さ)上に金(100 nm厚さ)を積層した積層構造などが挙げられる。
【0032】
図1Eは、検体溶液をチャネルと接触させるための流路またはプールを構成するバンクを形成する工程を示す斜視模式図である。図1Eに示したように、センシング部位となるグラフェン膜104のチャネルに被検知物質種を含む検体溶液を接触させるための流路またはプールを構成するバンク107を形成する。バンク107の形成方法に特段の制限はなく、例えば、フォトレジストを用いて形成することができる。以上のようにして、グラフェンセンサの基本構造が完成する。なお、グラフェンセンサを検体溶液に浸漬して利用する場合には、バンク107は無くてもよい。
【0033】
[第2の実施形態に係るグラフェンセンサ]
図2は、本発明の第2の実施形態に係るグラフェンセンサの一例を示す斜視模式図である。第2の実施形態に係るグラフェンセンサは、グラフェン膜104’としてシングルドメイン(単結晶状)のグラフェン結晶を用いている点、および酸化アルミニウム膜103(回路となる部分103’)を用いていない点において前述の第1の実施形態に係るグラフェンセンサと異なる。
【0034】
シングルドメインのグラフェン結晶からなるグラフェン膜の形成方法としては、例えば、グラファイト結晶から機械的に剥離したグラフェン結晶を基板100上に転写する従来の方法を利用することができる。シングルドメインのグラフェン結晶を基板100上に転写した後、電子線描画装置などを用いて所望の形状に加工することでグラフェン膜104’を成形することができる。
【0035】
[グラフェン膜への官能基修飾]
前述したように、本発明に係るグラフェンセンサは、グラフェン結晶のエッジに、特定の被検知物質種を吸着または特定の被検知物質種と結合しやすい化学物質を含んだ官能基が修飾されている。該官能基は、化学結合を形成するための化学反応により、グラフェン結晶のエッジに化学修飾される。化学反応による化学結合の形成としては、例えば、アミンとカルボン酸の脱水縮合反応のよるアミド結合の形成、有機酸とヒドロキシル基を含む化合物の縮合反応によるエステル結合の形成、遷移金属等を用いる各種カップリング反応による炭素-炭素結合の形成等の手法を用いることが可能である。また、ソース電極105とドレイン電極106との間の距離をLとした時に、チャネル内におけるグラフェン結晶のエッジの総延長が20L以上であることが好ましい。これにより、より多くの官能基を修飾させることができ、センサ感度を従来のセンサに比して1桁以上向上させることができる。
【0036】
ここで、前述の第2の実施形態のようにグラフェン膜としてシングルドメインのグラフェン結晶を用いた場合、次のようにしてグラフェン結晶のエッジの総延長を増大することが好ましい。図3Aは、チャネルの形状の一例を示す平面模式図である。図3Bは、チャネルの形状の他の一例を示す平面模式図である。図3Cは、チャネルの形状の更に他の一例を示す平面模式図である。なお、チャネルの形状は、これらの例示に限定されるものではない。
【0037】
グラフェン膜104’を成形加工する際、図3Aに示したように、グラフェン膜104’のチャネル内に穴を開けることにより、グラフェン結晶のエッジ301の総延長を増大することができ、該エッジ301に官能基302を多数修飾することができる。また、図3Bに示したように、グラフェン膜104’のチャネルがミアンダ形状になるようにスリット加工を施し、エッジ301の総延長を増大することができ、該エッジ301に官能基302を多数修飾することができる。また、図3Cに示したように、グラフェン膜104’のチャネルがストライプ形状になるようにスリット加工を施し、エッジ301の総延長を増大することができ、該エッジ301に官能基302を多数修飾することができる。
【0038】
一方、前述の第1の実施形態のようにグラフェン膜が多数のグラフェン結晶小片からなる多結晶体である場合、次のような利点がある。図4は、多数のグラフェン結晶小片からなるチャネルの一例を示す拡大平面模式図である。図4に示したように、グラフェン膜104のチャネルは、グラフェン結晶小片104”が多数重なり合った多結晶体であることに起因してグラフェン結晶のエッジ301の総延長が非常に長くなることから、該エッジ301に非常に多数の官能基302を修飾することができる。言い換えると、官能基301の密度を非常に高くできるため、高感度のグラフェンセンサを実現することが可能である。例えば、グラフェン結晶小片104”の大きさが直径50 nmの円形であるとすると、官能基密度は最大で105個/μm2となり、従来センサの10000倍程度の高感度化が可能であると考えられる。
【0039】
なお、グラフェン結晶小片104”の平均サイズは、10 nm以上100μm以下が好ましく、30 nm以上5μm以下がより好ましく、50 nm以上500 nm以下が更に好ましい。グラフェン結晶小片104”の平均サイズが10 nm未満になると、グラフェン膜104の電気抵抗が高くなり過ぎてセンサとして機能するのが困難となることから好ましくない。また、グラフェン結晶小片104”の平均サイズが100μm超になると、従来センサに対する効果(高感度化)がさほど得られなくなる。
【0040】
[官能基]
本発明に係るグラフェンセンサをバイオセンサとして利用する場合、官能基302としては、例えば、DNA二重螺旋構造を形成する片方鎖であって既知の塩基配列を有するDNA断片、所定の抗体と選択的に結合する抗原、所定の物質を選択的に分解する酵素などを好ましく用いることができる。また、本発明に係るグラフェンセンサを無機イオンセンサとして利用する場合、官能基302としては、所定のイオンと選択的に結合する官能基、または所定のイオンと選択的に結合する媒介物質に対して選択的に結合する官能基を好ましく用いることができる。
【0041】
より詳細には、例えば、ガンの発症率を高めると考えられているDNA断片の一方鎖をプローブDNAの官能基302として用いる。それに対して、患者の細胞から抽出したメッセンジャRNAを逆転写酵素で相補的DNAのターゲットDNAとして含む検体溶液として用意し該グラフェンセンサに接触させる。もしも両者の塩基配列が対になっており、ハイブリダイゼーションが起これば、該グラフェンセンサで検知することが可能である。このようにして、遺伝子診断を行うことが可能となる。
【0042】
また、心筋梗塞症状が現れる際に増加するループスアンチコアグラントや抗リン脂質抗体と特異に結合する抗原を官能基302として用いる。それに対して、患者の血液を検体溶液として用意し該グラフェンセンサに接触させる。抗原抗体反応を検知することにより、心筋梗塞の早期迅速な診断が可能となる。
【0043】
また、ホルムアルデヒドを分解する酵素を官能基302として用い、該グラフェンセンサを検査雰囲気中に一定時間放置する。検査雰囲気中のホルムアルデヒドを検知することにより、シックハウス症候群の原因究明を行うことが可能となる。
【0044】
[物質種検知方法]
次に、本発明に係るグラフェンセンサを用いた物質種検知方法を説明する。図5は、本発明に係る物質種検知方法の一例を示す斜視模式図である。図5に示したように、本発明のグラフェンセンサ500の検体溶液流路または検体溶液プールに検体溶液501を満たしセンシング部位となるグラフェン膜チャネルに接触させる。次に、一定のゲート電圧Vgの下で、ドレイン電圧Vdを変化させることにより、電流-電圧特性を測定する。ここで、ゲート電極は基板100の裏面側(酸化シリコン膜102が形成された面と反対側の表面)に形成され、ゲート電圧Vgは酸化シリコン膜102を介して基板100の裏面側からグラフェン膜チャネルに印加される。この電流-電圧特性を、予め測定した参照溶液のそれと比較することにより、被検知物質種を定量的に測定することが可能となる。
【0045】
被検知物質種がイオン性である場合、グラフェン膜チャネルに吸着されることによりチャネルの電位が変化するため、電流-電圧特性において電流値が最低となる電圧値が変化する。この電圧変化量から、被検知物質種を定量することが可能である。また、被検知物質種がグラフェン膜チャネルに対して電子またはホールを付与する物質種である場合、電流-電圧特性において電流量が変化する。この電流変化量から、被検知物質種を定量することが可能である。
【0046】
図6は、本発明に係る物質種検知方法の他の一例を示す斜視模式図である。図6に示した物質種検知方法は、本発明のグラフェンセンサ500の検体溶液流路または検体溶液プールに満たされた検体溶液501と接触するようにゲート電極が形成され、ゲート電圧Vgが検体溶液501を介してグラフェン膜チャネルに印加される。この点において、図5に示した物質種検知方法と異なる。検体溶液501を介してゲート電圧Vgを印可するには、微小電極を検体溶液501に直接浸漬する方法や、検体溶液501と接する部分(例えば、バンク107)に予め微小電極を集積化しておく方法等がある。
【0047】
図5に示した物質種検知方法と同様に、被検知物質種がイオン性である場合、グラフェン膜チャネルの電流-電圧特性において電流値が最低となる電圧値が変化する。この電圧変化量から、被検知物質種を定量することが可能である。また、被検知物質種が、グラフェン膜チャネルに対して電子またはホールを付与する物質である場合、電流-電圧特性において電流量が変化する。この電流変化量から、被検知物質種を定量することが可能である。
【0048】
[物質種検知装置]
図7は、本発明に係る物質種検知装置の一例を示す模式図である。図7に示したように、本発明に係る物質種検知装置700は、サンプリング部701、本発明のグラフェンセンサ500(図示せず)を内蔵した測定部702、制御・表示部703より構成される。サンプリング部701は、検体溶液を挿入する部分である。挿入された検体溶液はグラフェンセンサ500を内蔵した測定部702に送られ、目的とする被検知物質種の検知を行う。グラフェンセンサ500の電気的制御は制御・表示部703の制御回路により行われ、測定結果が制御・表示部703のモニタに表示される。1回の測定後、グラフェンセンサ500は、純水等により自動洗浄され、次の検体溶液を測定する。このようにして連続して複数の検体溶液を測定することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
100…基板、101…シリコン単結晶基板、102…酸化シリコン膜、
103…酸化アルミニウム膜、103’… 回路となる部分、104,104’…グラフェン膜、
104”… グラフェン結晶小片、105…ソース電極、106…ドレイン電極、
107…バンク、301…エッジ、302…官能基、
500…グラフェンセンサ、501…検体溶液、
700…物質種検知装置、701…サンプリング部、702…測定部、703…制御・表示部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センシング部位としてグラフェン膜を利用したセンサであって、
前記センサは、基板上に形成された前記グラフェン膜のチャネルと、前記チャネルの一端に接合されたソース電極と、前記チャネルの他端に接合されたドレイン電極とを含む電界効果トランジスタ構造を有し、
前記グラフェン膜は、前記基板の表面に平行なグラフェン結晶からなり、
前記グラフェン結晶のエッジには、被検知物質種を吸着または被検知物質種と結合する官能基が修飾されていることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のグラフェンセンサにおいて、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の距離をLとした時に、前記チャネル内における前記グラフェン結晶の前記エッジの総延長が20L以上であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のグラフェンセンサにおいて、
前記グラフェン膜は、多数のグラフェン結晶小片が重なり合って電気的に接合した多結晶体であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項4】
請求項3に記載のグラフェンセンサにおいて、
前記グラフェン結晶小片の平均サイズが10 nm以上100μm以下であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記官能基はプローブDNAであり、
前記プローブDNAは、DNA二重螺旋構造を形成する片方鎖であって既知の塩基配列を有するDNA断片であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記官能基は、所定の抗体と選択的に結合する抗原であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記官能基は、所定の物質を選択的に分解する酵素であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記官能基は、所定のイオンと選択的に結合する官能基、または所定のイオンと選択的に結合する媒介物質に対して選択的に結合する官能基であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記基板と前記グラフェン膜との間には、パターニングされた酸化アルミニウム膜の絶縁層が形成されており、
前記グラフェン膜は、前記酸化アルミニウム膜の表面上のみに形成されていることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルと接触させるための流路またはプールを構成するバンクが更に形成されていることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項11】
所定の物質種を選択的に検知する分析装置であって、
検体サンプリング部と検知部と制御測定部と表示部とを有し、
前記検知部は、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のグラフェンセンサと、前記ドレイン電極に対して電圧を印加する機構と、前記基板に対して電圧を印加する機構とを有することを特徴とする物質種分析装置。
【請求項12】
所定の物質種を選択的に検知する分析装置であって、
検体サンプリング部と検知部と制御測定部と表示部とを有し、
前記検知部は、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のグラフェンセンサと、前記ドレイン電極に対して電圧を印加する機構と、前記チャネルと接触している検体溶液に対して電圧を印加する機構とを有することを特徴とする物質種分析装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のグラフェンセンサを利用した物質種検知方法であって、
前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルに接触させるステップと、
前記被検知物質種が前記官能基に吸着または結合することに起因した前記チャネルの電位変化を検出して前記被検知物質種を検知するステップとを有することを特徴とする物質種検知方法。
【請求項14】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のグラフェンセンサを利用した物質種検知方法であって、
前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルに接触させるステップと、
前記被検知物質種が前記官能基と結合して電子または正孔を前記チャネルに付与することに起因した前記チャネルの電流変化を検出して前記被検知物質種を検知するステップとを有することを特徴とする物質種検知方法。
【請求項1】
センシング部位としてグラフェン膜を利用したセンサであって、
前記センサは、基板上に形成された前記グラフェン膜のチャネルと、前記チャネルの一端に接合されたソース電極と、前記チャネルの他端に接合されたドレイン電極とを含む電界効果トランジスタ構造を有し、
前記グラフェン膜は、前記基板の表面に平行なグラフェン結晶からなり、
前記グラフェン結晶のエッジには、被検知物質種を吸着または被検知物質種と結合する官能基が修飾されていることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のグラフェンセンサにおいて、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の距離をLとした時に、前記チャネル内における前記グラフェン結晶の前記エッジの総延長が20L以上であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のグラフェンセンサにおいて、
前記グラフェン膜は、多数のグラフェン結晶小片が重なり合って電気的に接合した多結晶体であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項4】
請求項3に記載のグラフェンセンサにおいて、
前記グラフェン結晶小片の平均サイズが10 nm以上100μm以下であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記官能基はプローブDNAであり、
前記プローブDNAは、DNA二重螺旋構造を形成する片方鎖であって既知の塩基配列を有するDNA断片であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記官能基は、所定の抗体と選択的に結合する抗原であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記官能基は、所定の物質を選択的に分解する酵素であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記官能基は、所定のイオンと選択的に結合する官能基、または所定のイオンと選択的に結合する媒介物質に対して選択的に結合する官能基であることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記基板と前記グラフェン膜との間には、パターニングされた酸化アルミニウム膜の絶縁層が形成されており、
前記グラフェン膜は、前記酸化アルミニウム膜の表面上のみに形成されていることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のグラフェンセンサにおいて、
前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルと接触させるための流路またはプールを構成するバンクが更に形成されていることを特徴とするグラフェンセンサ。
【請求項11】
所定の物質種を選択的に検知する分析装置であって、
検体サンプリング部と検知部と制御測定部と表示部とを有し、
前記検知部は、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のグラフェンセンサと、前記ドレイン電極に対して電圧を印加する機構と、前記基板に対して電圧を印加する機構とを有することを特徴とする物質種分析装置。
【請求項12】
所定の物質種を選択的に検知する分析装置であって、
検体サンプリング部と検知部と制御測定部と表示部とを有し、
前記検知部は、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のグラフェンセンサと、前記ドレイン電極に対して電圧を印加する機構と、前記チャネルと接触している検体溶液に対して電圧を印加する機構とを有することを特徴とする物質種分析装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のグラフェンセンサを利用した物質種検知方法であって、
前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルに接触させるステップと、
前記被検知物質種が前記官能基に吸着または結合することに起因した前記チャネルの電位変化を検出して前記被検知物質種を検知するステップとを有することを特徴とする物質種検知方法。
【請求項14】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のグラフェンセンサを利用した物質種検知方法であって、
前記被検知物質種を含む検体溶液を前記チャネルに接触させるステップと、
前記被検知物質種が前記官能基と結合して電子または正孔を前記チャネルに付与することに起因した前記チャネルの電流変化を検出して前記被検知物質種を検知するステップとを有することを特徴とする物質種検知方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−247189(P2012−247189A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116414(P2011−116414)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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