説明

グラフェン構造を持つナノ構造体の吸着方法及びその吸着方法を用いた無電解メッキ方法

【課題】グラフェン構造を持つナノ構造体を効率よく、かつ、むらが殆どできないように微小物体に吸着させる。
【解決手段】微小物体の表面にグラフェン構造を持つナノ構造体を吸着させる方法において、界面活性剤にグラフェン構造を持つナノ構造体を分散させたナノ構造体分散液に、表面に親水基を有する微小物体を入れ、微小物体の表面にナノ構造体分散液を接触させることにより、ナノ構造体を微小物体の表面に吸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン構造を持つナノ構造体を微小物体に吸着させる方法及びその方法を用いた無電解メッキ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばフィルムの表面に導電性を付与する方法として、カーボンナノチューブ等のグラフェン構造を持つナノ構造体によってフィルムの表面をコーティングすることが行われている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1、2では、カーボンナノチューブが分散する液をフィルムの表面に塗布し、乾燥させることによってカーボンナノチューブの堆積層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3665969号公報
【特許文献2】特表2010−516018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2の方法を用いて大量生産を行おうとすると、カーボンナノチューブの分散液をフィルム1枚1枚に塗布していかなければならず、効率が悪い。
【0005】
また、カーボンナノチューブの堆積層にむらができないようにカーボンナノチューブの分散液を塗布するのは難しいという問題もある。
【0006】
さらに、例えば大きさが数mm以下の微小な物体(微小物体)の表面にカーボンナノチューブの堆積層を形成する場合を想定すると、特許文献1、2のカーボンナノチューブの分散液をそのような微小物体にむらなく塗布すること自体が困難である。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、グラフェン構造を持つナノ構造体を効率よく、かつ、むらが殆どできないように微小物体に吸着させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、ナノ構造体が分散した液中に、表面に親水基を有する微小物体を存在させることによってナノ構造体を微小物体の表面に吸着させるようにした。
【0009】
第1の発明は、グラフェン構造を持つナノ構造体を微小物体の表面に吸着させる方法において、界面活性剤を含む液中に上記グラフェン構造を持つナノ構造体を分散させ、上記ナノ構造体が分散した液中に、表面に親水基を有する上記微小物体を存在させることにより、上記ナノ構造体を上記微小物体の表面に選択的に吸着させることを特徴とするものである。
【0010】
すなわち、ナノ構造体は、界面活性剤の作用によって液中に分散した状態となる。この液中に微小物体を存在させると、微小物体の表面が親水基を有しているので、ナノ構造体が微小物体の表面に選択的に吸着されていく。
【0011】
したがって、従来のような塗布工程が不要になるので、例えば大量の微小物体を一度にナノ構造体分散液に接触させることで、これら微小物体に同時にナノ構造体を吸着させることが可能になり、また、親水基への吸着作用を利用しているので微小物体であってもむらが殆どできなくなる。
【0012】
尚、ナノ構造体とは、ナノメートルサイズの構造物のことであり、概ね0.1nm〜200nm程度の大きさの構造物である。
【0013】
また、グラフェン構造とは、炭素原子が結合してできており、炭素原子1つの厚みのシート状構造のことである。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、ナノ構造体が、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル又はグラフェンであることを特徴とするものである。
【0015】
第3の発明は、第1又は2の発明において、微小物体の表面の親水基は、水酸基、カルボキシル基、チオール基及びアミノ基の少なくとも1つであることを特徴とするものである。
【0016】
第4の発明は、第1から3の発明によってナノ構造体を吸着させた微小物体に無電解メッキを施す無電解メッキ方法において、上記微小物体に吸着したナノ構造体にメッキ処理時の触媒となる金属を担持させ、その後、上記微小物体を無電解メッキ液に入れて無電解メッキを施すことを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、上記したように微小物体に吸着したナノ構造体のむらが殆どできないので、触媒も殆どむらができないようにナノ構造体に担持させることが可能になる。その結果、むらの少ない無電解メッキ膜が得られる。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、界面活性剤にグラフェン構造を持つナノ構造体を分散させた液中に、表面に親水基を有する微小物体を存在させてナノ構造体を微小物体の表面に選択的に吸着させるようにしたので、グラフェン構造を持つナノ構造体を効率よく、かつ、むらが殆どできないように微小物体に吸着させることができる。
【0019】
第2の発明によれば、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル又はグラフェンを微小物体に殆どむらなく吸着させることができる。
【0020】
第3の発明によれば、ナノ構造体が微小物体の表面に吸着しやすくなり、ナノ構造体のむらをより一層低減できる。
【0021】
第4の発明によれば、微小物体に吸着したナノ構造体に無電解メッキ処理時の触媒となる金属を担持させることができ、その微小物体を無電解メッキ液に入れるようにしたので、むらの少ない無電解メッキを施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】鹸化処理を説明する図である。
【図2】圧縮抵抗測定装置の概略構成図である。
【図3】カーボンナノチューブ分散液の量と微粒子の電気抵抗値との関係を示すグラフである。
【図4】カーボンナノチューブを吸着した微粒子の電子顕微鏡写真である。
【図5】酢化処理を説明する図である。
【図6】鹸化処置をした場合と酢化処理をした場合とでカーボンナノチューブの吸着特性の差を示すグラフである。
【図7】酢化処理をした場合にカーボンナノチューブが吸着されていない微粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
この実施形態では、初めに、微粒子(微小物体)の表面にナノ構造体としてのカーボンナノチューブを吸着させるナノ構造体の吸着方法を説明し、その後、微粒子に無電解メッキを施す無電解メッキ方法を説明する。
【0025】
<ナノ構造体の吸着方法>
ナノ構造体の吸着方法は、微粒子に前処理を施す前処理工程と、カーボンナノチューブが分散したカーボンナノチューブ分散液を製造する分散液製造工程と、前処理を施した微粒子の表面にカーボンナノチューブを吸着させる吸着工程とを備えている。
【0026】
まず、前処理工程について説明する。図1に示すように、前処理を施す前の微粒子の表面層は、ポリ酢酸ビニルで構成されている。前処理工程では、微粒子の表面層のポリ酢酸ビニルを鹸化処理する。すなわち、同図に示すように、ポリ酢酸ビニルと水酸化ナトリウム及びメタノールとを化学反応させる。これにより、微粒子の表面層のポリ酢酸ビニルがポリビニルアルコールとなり、微粒子の表面が親水基を有した状態となる。
【0027】
次に、分散液製造工程について説明する。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWNT)である。カーボンナノチューブを分散させるための分散剤は、界面活性剤を含んでおり、その界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate,SDS)である。カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブと、ドデシル硫酸ナトリウムと、イオン交換水とを混合し超音波分散して製造する。
【0028】
次に、吸着工程について説明する。微粒子を水に添加して水中に分散させ、微粒子分散液を製造しておく。微粒子分散液を製造する場合も、微粒子を添加した水を、例えば超音波振動させるのが好ましい。
【0029】
そして、カーボンナノチューブ分散液を微粒子分散液に添加する。これにより、カーボンナノチューブが微粒子分散液中に分散し、このカーボンナノチューブが分散した液中に微粒子が存在することになる。液中では、微粒子の表面にカーボンナノチューブが接触する。このとき、微粒子の表面層は親水基を有しているので、液中のカーボンナノチューブが微粒子の表面に選択的に吸着される。
【0030】
従って、大量の微粒子をカーボンナノチューブが分散した液に存在させてそれら微粒子に同時にカーボンナノチューブを吸着させることが可能になり、大量の微粒子にカーボンナノチューブを吸着させる際の効率を高めることができる。また、カーボンナノチューブの親水基への吸着作用を利用しているので微粒子であってもカーボンナノチューブのむらが殆どできなくなる。
【0031】
尚、微粒子分散液をカーボンナノチューブ分散液に添加してもよい。
【0032】
<無電解メッキ方法>
次に、本発明にかかる無電解メッキ方法について説明する。まず、上記したナノ構造体の吸着方法を用いてカーボンナノチューブを吸着させた微粒子を用意する。
【0033】
そして、無電解メッキ処理時の触媒となるパラジウムをカーボンナノチューブに担持させる。このとき、カーボンナノチューブが微粒子の表面全体にむらの少ない状態で吸着しているので、パラジウムも微粒子の表面全体にむらの少ない状態で存在することになる。
【0034】
その後、周知の無電解銅メッキ液に上記微粒子を入れる。これにより、微粒子に無電解銅メッキが施される。
【0035】
したがって、上記したように微粒子に吸着したカーボンナノチューブのむらが殆どできないので、パラジウムも殆どむらができないように微粒子に担持させることが可能になる。その結果、むらの少ない無電解メッキを施すことができる。
【実施例】
【0036】
1.前処理
微粒子の表面層のポリ酢酸ビニルを鹸化処理し、そのポリ酢酸ビニルをポリビニルアルコールにして微粒子の表面に親水基を持たせる。使用する微粒子の直径は、約6μmである。
【0037】
2.分散液製造工程
カーボンナノチューブを0.003gとし、ドデシル硫酸ナトリウムを0.3gとした。また、イオン交換水は、カーボンナノチューブ分散液の全量が70gとなる分量とした。これらカーボンナノチューブ、ドデシル硫酸ナトリウム及びイオン交換水を十分に混合した後、超音波分散して、カーボンナノチューブが分散したカーボンナノチューブ分散液を得た。
【0038】
3.吸着工程
吸着工程では、初めに微粒子分散液を得る。すなわち、水15gに前処理後の微粒子を0.15gほど加えて超音波振動させて微粒子を水に十分に混合する。こうして微粒子が分散した微粒子分散液を得た。
【0039】
その後、攪拌中の微粒子分散液を攪拌し、攪拌中の微粒子分散液にカーボンナノチューブ分散液を添加した。カーボンナノチューブ分散液の添加量は、A:0.5g、B:2.0g、C:3.5gの3種類とした。A〜Cの場合の全てで微粒子の表面にカーボンナノチューブが吸着した。
【0040】
カーボンナノチューブが微粒子の表面に存在しているか否かは、微粒子の電気抵抗値を測定することで確認することが可能である。微粒子の電気抵抗値は、図2に示す圧縮抵抗測定装置10を用いて測定した。圧縮抵抗測定装置10は、被測定物である微粒子を挟むように配置される一対の電極11,12と抵抗測定器13とを備えている。尚、この測定装置1を用いて上記前処理のみを行った微粒子の電気抵抗値を測定すると、測定値は表示されず、「オーバーロード」となった。つまり、上記前処理のみを行った微粒子は絶縁物である。
【0041】
図3に測定結果を示す。カーボンナノチューブ分散液を0.5g添加した場合(A)の電気抵抗値は、0.85×10(Ω)であった。従って、微粒子の表面にはカーボンナノチューブが存在していることを確認できる。
【0042】
また、カーボンナノチューブ分散液を3.5g添加した場合(C)の電気抵抗値は、4.3×10(Ω)であった。従って、微粒子の表面には、Aの場合よりも多くのカーボンナノチューブが存在していることを確認できる。また、カーボンナノチューブ分散液を2.0g添加した場合(B)の電気抵抗値は、Aの場合よりも低く、Cの場合よりも高い。このBの場合もカーボンナノチューブが存在していることを確認できる。
【0043】
次に、Cの場合の微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した。顕微鏡写真を図4に示す。図4中、白い線のように見えるのがカーボンナノチューブである。このように、無数のカーボンナノチューブが微粒子の表面に存在していることを確認できる。
【0044】
次に、表面に親水基を持たない微粒子と、上記親水基を持つ微粒子とのカーボナノチューブの吸着特性の比較結果について説明する。
【0045】
表面に親水基を持たない微粒子は、図5に示すように酢化処理を行って得た。すなわち、表面層がポリビニルアルコールで構成された微粒子を用意し、ポリビニルアルコールとピリジン及び無水酢酸とを化学反応させる。これにより、微粒子の表面層のポリビニルアルコールがポリ酢酸ビニルとなり、微粒子の表面が親水基を持たない状態となる。
【0046】
そして、上記のようにして微粒子分散液を製造し、この微粒子分散液を攪拌しながら、カーボンナノチューブ分散液を添加した。微粒子分散液及びカーボンナノチューブ分散液の各成分割合は、鹸化処理を行った場合と酢化処理を行った場合とで同じである。
【0047】
その後、長時間放置して微粒子を沈殿させ、上澄み液を採取し、上澄み液の紫外線吸収率を測定した(図6参照)。
【0048】
図6から明らかなように、酢化処理した場合は、鹸化処理した場合に比べて測定波長の全領域で紫外線の吸収率が高い。これは、上澄み液に存在しているカーボナノチューブの量が鹸化処理した場合よりも酢化処理した場合の方が多いためである。つまり、鹸化処理することでカーボンナノチューブの吸着性が高まり、その結果、上澄み液中に残存しているカーボンナノチューブが少なくなったことが分かる。
【0049】
このことは図4と図7との比較によっても明らかである。図7は、微粒子表面のポリビニルアルコールを酢化処理してカーボンナノチューブの吸着を試みた場合の当該微粒子の電子顕微鏡写真であり、微粒子の表面には、図4に見られるような白い線(カーボンナノチューブ)が無いのが分かる。つまり、微粒子表面のポリビニルアルコールを酢化処理すると表面の親水性が低下し、同じカーボンナノチューブの吸着処理を施してもカーボンナノチューブが吸着されないことが判る。
【0050】
尚、上記実施形態では微粒子にカーボンナノチューブを吸着させる場合について説明したが、これに限らず、本発明は、グラフェン構造を持つナノ構造体を微粒子に吸着させる場合に用いることができ、そのようなナノ構造体としては、例えば、カーボンナノコイルやグラフェンが挙げられる。カーボンナノコイルやグラフェンも、同様にして微粒子に吸着させることができる。また、カーボンナノチューブは単層に限られるものではなく、多層であってもよい。
【0051】
また、グラフェン構造を持つナノ構造体を微粒子以外にも、例えばフィルム材や板材等に吸着させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明したように、本発明は、例えば微粒子にカーボンナノチューブを吸着させる場合に適用できるとともに、微粒子に無電解メッキを施す場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0053】
10 圧縮抵抗測定装置
11,12 電極
13 抵抗測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン構造を持つナノ構造体を微小物体の表面に吸着させる方法において、
界面活性剤を含む液中に上記グラフェン構造を持つナノ構造体を分散させ、
上記ナノ構造体が分散した液中に、表面に親水基を有する上記微小物体を存在させることにより、上記ナノ構造体を上記微小物体の表面に選択的に吸着させることを特徴とするグラフェン構造を持つナノ構造体の吸着方法。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ構造体の吸着方法において、
ナノ構造体が、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル又はグラフェンであることを特徴とするグラフェン構造を持つナノ構造体の吸着方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のグラフェン構造を持つナノ構造体の吸着方法において、
微小物体の表面の親水基は、水酸基、カルボキシル基、チオール基及びアミノ基の少なくとも1つであることを特徴とするグラフェン構造を持つナノ構造体の吸着方法。
【請求項4】
請求項1から3に記載の吸着方法によってナノ構造体を吸着させた微小物体に無電解メッキを施す無電解メッキ方法において、
上記微小物体に吸着したナノ構造体に無電解メッキ処理時の触媒となる金属を担持させ、
その後、上記微小物体を無電解メッキ液に入れて無電解メッキを施すことを特徴とする無電解メッキ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−158814(P2012−158814A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19990(P2011−19990)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【Fターム(参考)】